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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
管理番号 1376737
異議申立番号 異議2020-700734  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-09-25 
確定日 2021-07-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6673511号発明「固体酸化物形燃料電池空気極用の粉体およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6673511号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第6673511号の請求項1?3に係る特許を維持する。 特許第6673511号の請求項4についての特許異議申立を却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6673511号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成31年3月19日の出願であって、令和2年3月9日付けでその特許権の設定登録がなされ、同年3月25日に特許掲載公報が発行された。
本件は、その後、その特許について、同年9月25日に特許異議申立人安藤宏(以下、「申立人」という。)より請求項1?4(全請求項)に対して特許異議の申立てがなされ、同年11月30日付けで取消理由(以下、「取消理由」という。)が通知され、これに対して、令和3年2月17日に特許権者より意見書が提出されるとともに訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされ、同年4月19日に本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)について、申立人から意見書が提出されたものである。

第2 訂正請求について
1 訂正の趣旨、及び、訂正の内容
本件訂正請求は、特許第6673511号の特許請求の範囲を、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?4について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。
なお、訂正箇所には、当審で下線を付した。

(1)訂正事項1
請求項1の「下記一般式:
A1_(1-x)A2_(x)BO_(3-δ)
(ただし、元素A1はLaおよびSmよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素A2はCa、SrおよびBaよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素BはMn、Fe、CoおよびNiよりなる群から選択される少なくとも一種であり、0<x<1、δは酸素欠損量である。)
で表されるペロブスカイト型単相の結晶構造を有する金属複合酸化物の粉体であって、
前記粉体を加圧成形して得られる成型体の断面を倍率500倍で観察し、エネルギー分散型X線分析法により前記元素Bの特性X線の強度を測定したとき、前記特性X線の最大強度の50%以上の強度を有し、かつ、観察視野の0.04%以上の面積割合を有する領域の個数が5以下であり、
前記成型体は、前記粉体2gおよび濃度10質量%のポリビニルアルコール水溶液0.4gを混合および乾燥して得られる造粒粉体0.5gを、10mm×5mmの矩形金型に充填し、成型圧力100MPaで60秒間加圧成型して得られる、固体酸化物形燃料電池空気極用の粉体。」を
「下記一般式:
A1_(1-x)A2_(x)BO_(3-δ)
(ただし、元素A1はLaおよびSmよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素A2はCa、SrおよびBaよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素BはMnであり、0<x<1、δは酸素欠損量である。)
で表されるペロブスカイト型単相の結晶構造を有する金属複合酸化物の粉体であって、
前記粉体の平均粒子径は、10μm以上、35μm以下であり、
前記粉体を加圧成形して得られる成型体の断面を倍率500倍で観察して180μm×240μmの観察視野を決定し、前記観察視野においてエネルギー分散型X線分析法により前記元素Bの特性X線Kαの強度を測定し、前記特性X線Kαの強度に基づいて前記観察視野の128×96画素のマッピング画像を取得したときに、前記マッピング画像において、前記特性X線Kαの最大強度の50%以上の強度を有し、かつ、前記観察視野の0.04%以上の面積割合を有する領域の個数が5以下であり、
前記成型体は、前記粉体2gおよび濃度10質量%のポリビニルアルコール水溶液0.4gを混合および乾燥して得られる造粒粉体0.5gを、10mm×5mmの矩形金型に充填し、成型圧力100MPaで60秒間加圧成型して得られる、固体酸化物形燃料電池空気極用の粉体。」と訂正する。

(2)訂正事項2
請求項2の「前記元素A1はLaを含み、
前記元素A2はSrを含み、
前記元素BはMnを含む、請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池空気極用の粉体。」を
「前記元素A1はLaを含み、
前記元素A2はSrを含む、請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池空気極用の粉体。」と訂正する。

(3)訂正事項3
請求項4を削除する。

2 当審の判断
2-1 訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び、新規事項追加の有無
(1)訂正事項1
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の「元素BはMn、Fe、CoおよびNiよりなる群から選択される少なくとも一種であ」るとの発明特定事項を、「元素BはMnであ」るとする(訂正事項1-1)とともに、本件訂正前の請求項4の発明特定事項を請求項1に繰り入れ(訂正事項1-2)、さらに、本件の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0018】?【0020】を根拠として、本件訂正前の請求項1の「粉体を加圧成形して得られる成型体の断面を倍率500倍で観察し、エネルギー分散型X線分析法により前記元素Bの特性X線の強度を測定したとき、前記特性X線の最大強度の50%以上の強度を有し、かつ、観察視野の0.04%以上の面積割合を有する領域の個数が5以下であ」るとの発明特定事項を、「粉体を加圧成形して得られる成型体の断面を倍率500倍で観察して180μm×240μmの観察視野を決定し、前記観察視野においてエネルギー分散型X線分析法により前記元素Bの特性X線Kαの強度を測定し、前記特性X線Kαの強度に基づいて前記観察視野の128×96画素のマッピング画像を取得したときに、前記マッピング画像において、前記特性X線Kαの最大強度の50%以上の強度を有し、かつ、前記観察視野の0.04%以上の面積割合を有する領域の個数が5以下であ」るとする(訂正事項1-3)ものであり、「特許請求の範囲の減縮」及び「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)に記載された範囲内の訂正である。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、請求項1の訂正である、上記(1)の訂正事項1-1において「元素BはMnであ」るとしたことに伴い、本件訂正前の請求項1を引用する請求項2の「元素BはMnを含む」との発明特定事項を削除するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された範囲内の訂正である。

(3)訂正事項3
訂正事項3は、請求項4を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された範囲内の訂正である。

2-2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項2?4は、請求項1を引用するものであり、訂正された請求項1に連動して訂正されるから、本件訂正前の請求項1?4は一群の請求項である。
そして、本件訂正請求は、上記一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。
また、本件訂正は、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めがないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?4〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。

2-3 独立特許要件について
本件訂正請求に係る請求項はいずれも特許異議の申立てがなされているので、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

3 訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、令和3年2月17日に特許権者が行った訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4〕についての訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
令和3年2月17日に特許権者が行った請求項1?4についての訂正は、上記第2で検討したとおり適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明(以下、請求項番号に応じて、それぞれ「本件発明1」?「本件発明4」という。また、これらの発明をまとめて「本件発明」という。)は、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?4に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
下記一般式:
A1_(1-x)A2_(x)BO_(3-δ)
(ただし、元素A1はLaおよびSmよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素A2はCa、SrおよびBaよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素BはMnであり、0<x<1、δは酸素欠損量である。)
で表されるペロブスカイト型単相の結晶構造を有する金属複合酸化物の粉体であって、
前記粉体の平均粒子径は、10μm以上、35μm以下であり、
前記粉体を加圧成形して得られる成型体の断面を倍率500倍で観察して180μm×240μmの観察視野を決定し、前記観察視野においてエネルギー分散型X線分析法により前記元素Bの特性X線Kαの強度を測定し、前記特性X線Kαの強度に基づいて前記観察視野の128×96画素のマッピング画像を取得したときに、前記マッピング画像において、前記特性X線Kαの最大強度の50%以上の強度を有し、かつ、前記観察視野の0.04%以上の面積割合を有する領域の個数が5以下であり、
前記成型体は、前記粉体2gおよび濃度10質量%のポリビニルアルコール水溶液0.4gを混合および乾燥して得られる造粒粉体0.5gを、10mm×5mmの矩形金型に充填し、成型圧力100MPaで60秒間加圧成型して得られる、固体酸化物形燃料電池空気極用の粉体。
【請求項2】
前記元素A1はLaを含み、
前記元素A2はSrを含む、請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池空気極用の粉体。
【請求項3】
前記粉体のBET法に基づく比表面積は、0.05m^(2)/g以上、0.3m^(2)/g以下である、請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池空気極用の粉体。
【請求項4】
(削除)」

2 取消理由の概要
2-1 特許法第36条第6項第1号について
本件特許は、その特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明が金属複合酸化物の導電率が低下する発明、すなわち、本件発明の解決しようとする課題を解決し得ない発明を含むものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである(特許異議申立書第43頁第4行?第44頁第15行、第46頁第2?20行(特許法第36条第6項第2号として申立))。

2-2 特許法第36条第6項第2号について
本件特許は、その特許請求の範囲の次の点が明確でないため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

(1)請求項1の「領域の個数」について(特許異議申立書第46頁第21行?28行)

(2)請求項1の「観察視野」の大きさと位置(第46頁最終行?第47頁第15行、同頁第24?27行)

3 上記2以外の特許異議の申立ての理由の概要
3-1 特許法第29条第1項第3号及び同条第2項について(特許異議申立書第30頁第17行?第43頁第1行)
申立人は、特許法第29条第1項第3号及び同条第2項についての異議申立理由として、次の証拠を挙げた上で、下記(1)及び(2)の異議申立理由を主張している。
(証拠方法)
甲第1号証:特開2018-37158号公報
甲第2号証:特開2013-191569号公報
甲第3号証:特開2015-41597号公報
(以下、「甲第1号証」?「甲第3号証」をそれぞれ「甲1」?「甲3」という。)

(1)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

(2)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

・請求項1について
理由(1)及び(2)
刊行物:甲1

・請求項2?4について
理由(2)
刊行物:甲1

・請求項1について
理由(1)及び(2)
刊行物:甲2

・請求項2について
理由(2)
刊行物:甲2

・請求項1?4について
理由(2)
刊行物:甲3

3-2 特許法第36条第6項第1号について
請求項3に、比表面積が特定され、請求項4に、平均粒子径が特定されているものの、請求項1に、比表面積、粒子径、粒子径分布が特定されておらず、本件特許は、請求項1?4に係る発明が本件発明の解決しようとする課題を解決し得ない発明を含むものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである(特許異議申立書第44頁第16行?第45頁最後から3行)。

3-3 特許法第36条第6項第2号について
本件特許は、その特許請求の範囲の次の点が明確でないため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

(1)請求項1の「成形体」の密度(特許異議申立書第47頁第16?23行)。

(2)請求項3の「粉体のBET法に基づく比表面積」(特許異議申立書第47頁最後から3行?第48頁第1行)。

3-4 特許法第36条第4項第1号について
本件明細書の発明の詳細な説明には、請求項1の「粉体を加圧成形して得られる成型体の断面を倍率500倍で観察して180μm×240μmの観察視野を決定し、前記観察視野においてエネルギー分散型X線分析法により前記元素Bの特性X線Kαの強度を測定し、前記特性X線Kαの強度に基づいて前記観察視野の128×96画素のマッピング画像を取得したときに、前記マッピング画像において、前記特性X線Kαの最大強度の50%以上の強度を有し、かつ、前記観察視野の0.04%以上の面積割合を有する領域の個数が5以下であ」るとの発明特定事項について、「観察視野の0.04%以上の面積割合を有する領域の個数」が0または1の製造条件が記載されていないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである(特許異議申立書第48頁第2?15行)。

4 本件明細書の記載
本件明細書には、次の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1?4に記載された金属複合酸化物を用いても、高い電気伝導度と高い開気孔率とを両立する空気極を得ることは困難である。」
「【0012】
ところで、結晶構造の解析には、通常、X線回折法が用いられる。X線回折法によって、ペロブスカイト型の結晶構造を有する相(以下、ペロブスカイト相と称する場合がある。)のみで構成される金属複合酸化物であると評価される場合であっても、電子顕微鏡を
用いて微細に分析すると、金属複合酸化物には、遷移金属を含み、ペロブスカイト相以外の結晶構造を有する領域(以下、非ペロブスカイト領域と称する場合がある。)が確認できる場合がある。例えば、遷移金属元素としてマンガン(Mn)を含む原料が用いられる場合、金属複合酸化物には、ペロブスカイト相とともに、酸化マンガンによるスピネル型の結晶からなる領域が存在し得る。これは、複数の原料(金属化合物)を混合し焼成して金属複合酸化物を作製する工程で、遷移金属を含む原料の一部がペロブスカイト相の生成に寄与せずに、非ペロブスカイト領域を生成するためである。金属複合酸化物の導電率の低下は、このようなBサイトに入り得る遷移金属(元素B)を含む非ペロブスカイト領域が、金属複合酸化物粉体中にある程度の領域を占めて偏在していることに起因することが判明した。
【0013】
本実施形態に係る固体酸化物形燃料電池空気極用の粉体(以下、空気極用粉体と称す場合がある。)は、電子顕微鏡を用いた分析によっても、偏在が確認できない程度に、非ペロブスカイト領域が均一に分散されている。」
「【0015】
空気極用粉体がペロブスカイト型単相の結晶構造を有するとは、X線回折チャートにおいて、ペロブスカイトの結晶相に由来するピーク以外のピークが観測されないことを意味する。ピークが観測されないとは、典型的には、ペロブスカイトの結晶相に由来するピーク以外のピークの強度が、X線回折の検出限界以下であることをいう。
【0016】
元素Bを含む非ペロブスカイト領域の分布は、空気極用粉体を加圧成形して得られる成型体の断面に対して、電子顕微鏡を用いた元素分析を行うことにより確認できる。具体的には、以下の通りである。
【0017】
空気極用粉体2gおよびポリビニルアルコール水溶液(濃度:10質量%)0.4gを秤量して、乳鉢で混合する。続いて、箱型乾燥機にて110℃で1時間静置して水分を蒸発させ、目開き150μmの篩に通して造粒粉体を得る。得られた造粒粉体0.5gを、10mm×5mmの矩形金型に充填し、成型圧力100MPaで60秒間加圧成型して、成型体を得る。このとき、成型体の密度は、3.5g/cm^(3)以上、4.5g/cm^(3)以下であることが望ましい。成型体の密度がこの範囲であると、走査型電子顕微鏡を用いた観察視野内に十分な数の空気極用粉体を含むことができるとともに、過度な圧縮が抑制されて、粉体の形状が維持される。
【0018】
得られた成型体をクロスセクションポリッシャ(例えば、日本電子(株)製、SM-09010)にて、電圧5.0kVで20時間、Arイオンエッチング加工して、試料の断面を露出させる。露出した断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて倍率500倍で観察して、観察視野(180μm×240μmの領域)を決定する。この観察視野において、エネルギー分散型X線検出器(例えば、オックスフォード社製、INCA X-sight)を用いて、以下に示す条件で、元素Bの特性X線Kαの強度に基づいて明暗が強調されたマッピング画像を取得する。
【0019】
加速電圧:15kV
プロセスタイム:4
デッドタイム:30?40%
解像度:128×96画素
スキャン回数:10回
【0020】
取得したマッピング画像において、最大強度の50%以上の強度を有する画素Paと、50%未満の強度を有する画素Pbとを区分けして、二値化されたマッピング画像を取得する。二値化されたマッピング画像において、画素Paが辺を共有しながら5個以上連なっている領域Rを決定する。観察視野の0.04%の面積割合は、128×96画素のマッピング画像における5画素分に相当する。観察視野内において、上記の領域Rが5個以上ある場合、元素Bが偏在していると定義する。
【0021】
ペロブスカイト相の生成に寄与しない元素Bが偏在せずに微分散していることにより、導電率が向上する。よって、単位セル当たりの発電性能が向上する。さらに、高温下におけるペロブスカイト相の安定性が高まる。そのため、燃料電池セルの耐久性向上が期待できる。」
「【0026】
空気極用粉体の比表面積は特に限定されないが、空気極用粉体のBET法に基づく比表面積(BET比表面積)は、0.05m^(2)/g以上、0.3m^(2)/g以下であることが好ましい。空気極用粉体の比表面積が0.05m^(2)/g未満の場合、空気極を形成するために熱処理される際、焼結が進行し難くなって、電極としての強度が不足する場合がある。空気極用粉体のBET比表面積は、より好ましくは0.07m^(2)/g以上であり、さらに好ましくは0.09m^(2)/g以上である。また、空気極用粉体の比表面積が0.3m^(2)/gを超える場合、空気極を形成するために熱処理される際、焼結が過剰に進行する場合がある。そのため、得られる空気極の開気孔率が低くなり易く、空気の拡散性が不十分となる場合がある。空気極用粉体のBET比表面積は、より好ましくは0.25m^(2)/g以下であり、さらに好ましくは0.20m^(2)/g以下である。BET比表面積は、JIS Z 8830:2013に準じて、BET流動法により測定される。
【0027】
空気極用粉体の平均粒子径(以下、焼成物D50と称す。)は特に限定されないが、10μm以上、35μm以下であることが好ましい。焼成物D50が10μm未満の場合、空気極を形成するために熱処理される際、焼結が過剰に進行する場合がある。そのため、得られる空気極の開気孔率が低くなり易く、空気の拡散性が不十分となる場合がある。焼成物D50は、より好ましくは13μm以上であり、さらに好ましくは16μm以上である。また、焼成物D50が35μmを超える場合、焼結が進行し難くなって、電極としての強度が不足する場合がある。焼成物D50は、より好ましくは31μm以下であり、さらに好ましくは27μm以下である。」
「【0060】
(b)粒度分布および粒子径D50、D90、D10
試料を0.025重量%濃度のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液に加えて、レーザー透過率80?90%となる濃度に調整し、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル(株)製、MT-3300EXII)を用いて粒度分布を測定した。
また、分散物D50および焼成物D50の粒度分布の測定においては、試料を上記ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液に加えて濃度を上記のように調整した後、測定の前に、超音波ホモジナイザー((株)日本精機製作所製、US-600T)を用いて、出力300μA、3分間の分散処理を行った。」

5 各甲号証の記載、及び、各甲号証に記載された発明
(1)甲1の記載
甲1には、次の記載がある。なお、各甲号証に記載された発明の認定に関連する箇所に、当審で下線を付した。以下、同じ。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも燃料極と固体電解質と空気極とが一体的に備えられた固体酸化物形燃料電池であって、
前記空気極は、一般式:ABO_(3)で表され、AサイトにLaおよびSrの少なくとも一方を含み、BサイトにCoを含むペロブスカイト型酸化物からなる相を主相とし、
前記空気極の断面におけるCo酸化物の面積占有率は1%以下である、固体酸化物形燃料電池。
【請求項2】
前記空気極を構成する材料の放射光を使用したXRDパターンにおいて、前記ペロブスカイト型酸化物のメインピーク強度I_(A)に対する前記Co酸化物のメインピーク強度I_(B)の比(I_(B)/I_(A))は0.1以下である、請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項3】
前記ペロブスカイト型酸化物は、一般式:La_(1-x)Sr_(x)Co_(1-y)Fe_(y)O_(3);で表され、式中、0≦x≦1,y<1を満たす、請求項1または2に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項4】
前記固体電解質と前記空気極との間に、両者の反応を抑制する反応防止層が介在されている、請求項1?3のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項5】
前記空気極を構成する材料のXRDパターンから算出される前記ペロブスカイト型酸化物の結晶子径が22nm以上である、請求項1?4のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項6】
前記空気極の気孔率は10%以上50%以下である、請求項1?5のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項7】
一般式:ABO_(3)で表され、AサイトにLaおよびSrの少なくとも一方を含み、BサイトにCoを含むペロブスカイト型酸化物を主成分とする粉末であって、
動的光散乱法に基づく平均粒子径(Dr)は0.1μm以上1μm以下であり、
BET法に基づく比表面積から算出される球相当径である理想粒子径(Di)に対する前記平均粒子径(Dr)の比(Dr/Di)が2.5以上5以下である、ペロブスカイト型酸化物粉末。
【請求項8】
前記ペロブスカイト型酸化物は、一般式:La_(1-x)Sr_(x)Co_(1-y)Fe_(y)O_(3);で表され、式中、0≦x≦1,y<1を満たす、請求項7に記載のペロブスカイト型酸化物粉末。
【請求項9】
請求項7または8に記載のペロブスカイト型酸化物粉末を含む、固体酸化物形燃料電池の電極を形成するための電極材料。」
「【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell,以下、単に「SOFC」という)は、種々のタイプの燃料電池の中でも、発電効率が高い、環境への負荷が低い、多様な燃料の使用が可能であるなどの利点を有している。SOFCの単セルは、本質的な構成として、酸素イオン伝導体からなる緻密な層状の固体電解質を基本とし、この固体電解質の一方の面に多孔質構造の空気極(カソード)が形成され、他方の面に多孔質構造の燃料極(アノード)が形成されている。この固体電解質材料としては、酸素イオン伝導性、安定性および価格のバランスの良好なイットリア安定化ジルコニア(YSZ)が広く用いられている。また、燃料極材料としては、SOFCの運転環境において電子伝導性を示す酸化ニッケル(NiO)等の遷移金属酸化物材料と酸素イオン伝導性を示すイットリア安定化ジルコニア(YSZ)の混合物が一般に用いられている。そして、空気極材料としては、ランタンコバルタイト系の酸素イオン-電子混合導電性のペロブスカイト型酸化物が一般に用いられている。」
「【0004】
このSOFCについては、例えば10万時間を超える長期の使用が見込まれるものの、発電を繰り返すうちに出力が低下するという慢性的な課題がある。この出力低下の原因の1つとして、例えば空気極の劣化が指摘されており、空気極の構成や空気極材料について研究が為されている。例えば、特許文献1には、SOFCの空気極を、LSCF((La,Sr)(Co,Fe)O_(3))からなるペロブスカイト型酸化物からなる主相と(Co,Fe)_(3)O_(4)からなる第2相とを含む構成とし、不活性部である第2相の断面面積占有率を9.5%以下にすることで、初期出力の低下と空気極の劣化を抑制できることが開示されている。また、特許文献2には、LSCFからなるペロブスカイト型酸化物の粒子を主成分とし、酸化コバルトの粒子をさらに含む空気極材料を用いてSOFCの空気極を作製することで、SOFCの運転環境におけるペロブスカイト型酸化物の分解を効果的に抑制できることが開示されている。しかしながら、SOFCの出力を長期に亘って高く維持するとの課題については、更なる改善の余地があった。
【0005】
本発明は上記の従来の問題を解決すべく創出されたものであり、その目的は、例えば、空気極の劣化が抑制されたSOFCを提供することである。また、本発明の他の目的は、このようなSOFCを作製するのに好適な電極材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を実現するべく、本発明によって、少なくとも燃料極と固体電解質と空気極とが一体的に備えられた固体酸化物形燃料電池(SOFC)が提供される。ここで上記空気極は、一般式:ABO_(3)で表され、AサイトにLaおよびSrの少なくとも一方を含み、BサイトにCoを含むペロブスカイト型酸化物からなる相を主相とする。そして上記空気極の断面におけるCo酸化物の面積占有率は1%以下であることを特徴とする。
【0007】
この様に、空気極をAサイトにLaおよびSrの少なくとも一方を含み、BサイトにCoを含むペロブスカイト型酸化物からなる相を主として構成することで、発電特性の比較的良好なSOFCを実現することができる。この種のランタンコバルタイト系またはストロンチウムコバルタイト系のペロブスカイト型酸化物は、原料粉末においても、厳密な意味での単相を得ることは難しい。そして空気極の焼成やSOFCの運転時の温度および酸素分圧の変化に伴いペロブスカイト型酸化物は分解(劣化)するため、一般にSOFCの空気極にはペロブスカイト型酸化物相のほかに、コバルト成分が偏析してなる第2相が自然発生的に存在している。
ここに開示されるSOFCは、製造直後の空気極においてCo酸化物の面積占有率が1%以下と、通常では容易に実現され得ない程度に低く抑えられている。このことにより、SOFCの運転時に温度および酸素分圧が変化しても、ペロブスカイト型酸化物がより安定化され、分解による空気極の劣化が抑制される。延いては、SOFCの発電特性を長期に亘って安定して高く維持することができる。
【0008】
なお、本出願において、「主相」とは、空気極を構成する相(典型的には結晶相)のうちの質量が最大の相を意味する。なお必ずしもこれに限定されるものではないが、通常、主相は、空気極を構成する相の75質量%以上を占め、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上、例えば98質量%以上であり得る。
【0009】
また、「面積占有率」とは、空気極の断面積に占めるCo酸化物の面積の割合(%)である。本出願において面積占有率は、エネルギー分散型X線分光器(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy:EDX)を用いて空気極の断面について測定(面分析)したコバルト(Co)の定性分析の結果から得られるCo元素マップに基づき算出した値を採用することができる。
空気極の断面は、空気極を破断して得られる任意の断面であってよく、破断面の方向は制限されない。また、破断面は、結晶相の変化を防止するために表面研磨等の処理を施さない表面であってよい。Co元素マップは、例えば、試料表面(空気極の断面)に電子プローブを走査し、Coの特性X線(例えば、CoのKa1線(6930eV),Ka2線(6915eV),Kb1線(7649eV),La1線(776eV),La2線(776eV),Lb1線(791eV)等のいずれか1以上)を検出することで得ることができる。検出器の種類は特に制限されないが、例えば、リチウムドープシリコン結晶等を用いた半導体検出器もしくはこれ以上の分解能を有する検出器を使用することが好ましい。エネルギー分解能は、おおよその目安として、100eV以上(MnのKa線、以下同様。)とすることができ、例えば125?140eVであり得る。本出願では、EDX分析装置として、日本電子(株)製,JSM-6610LAを用い、走査型電子顕微鏡(SEM)による2000?5000倍の観察領域(画像)について、CoのKa1線を検出することでCo元素マップを得た。Co元素マップにおいては、ペロブスカイト型酸化物相からなる領域と、Co酸化物からなる領域とで、Coの濃度が異なる。通常、Co元素マップにおいてCoが偏析している領域(すなわちCo濃度の高い領域)は、Co酸化物からなる領域に一致する。したがって、Co元素マップにおいてCoが偏析している領域の面積を、Co酸化物の面積と見なすことができる。
【0010】
Coが偏析している領域の面積割合の算出法は特に制限されない。例えば、画像解析機能を備えるコンピュータソフトウェア(典型的には画像処理ソフト)を利用して算出することができる。コンピュータソフトウェアを利用したコバルト偏析領域の面積の算出は、手動で行ってもよいし、画像処理におけるパラメータを設定して自動で行うようにしても良い。自動で行う場合は、例えば、まず、空気極の断面について取得したCo元素マップを、ペロブスカイト型酸化物相からなる領域とCo酸化物からなる領域とに二値画像(バイナリー画像)化し、概ね背景となるペロブスカイト型酸化物領域中に島となって現れるCo酸化物領域の面積割合を算出すればよい。各々の境界判定の閾値は、例えば、画像処理ソフトの自動閾値設定による二値化画像を用意してもよいし、処理後の画像と処理前の画像や電子顕微鏡像等を比較して手動で閾値を調整するようにしてもよい。例えば、画像解析ソフト等に採用されている粒径測定のための二値化機能等の処理機能を利用することができる。」
「【0018】
他の側面において、ここに開示される技術は、一般式:ABO_(3)で表され、AサイトにLaおよびSrの少なくとも一方を含み、BサイトにCoを含むペロブスカイト型酸化物を主成分とするペロブスカイト型酸化物粉末を提供する。このペロブスカイト型酸化物粉末は、動的光散乱法に基づく平均粒子径(Dr)が0.1μm以上1μm以下であり、BET法に基づく比表面積から算出される球相当径である理想粒子径(Di)に対する上記平均粒子径(Dr)の比(Dr/Di)が2.5以上5.7未満であることを特徴としている。」
「【図面の簡単な説明】
【0025】
・・・(略)・・・
【図3】実施例で作製した(A)例1および(B)例4のSOFCの空気極断面のコバルト(Co)元素マップである。
【図4】図3(A)のCo元素マップに基づき、Co酸化物の面積占有率を算出する様子を示した図である。」
「【0059】
[電極材料の用意]
(例1)
空気極材料として、一般式:La_(0.60)Sr_(0.40)Co_(0.20)Fe_(0.80)O_(3)(以下、単に「LSCF」と記載する。)で示されるペロブスカイト型酸化物を固相法により調製した。具体的には、出発原料として平均粒径が5μmのLa_(2)O_(3),SrCO_(3),Co_(3)O_(4)およびFe_(2)O_(3)の粉末を用い、これらを化学量論比で精密に秤量して湿式混合した後、大気雰囲気中、1100℃で焼成することで、焼成物としてのLSCFを得た。
【0060】
得られたLSCFを、φ5mmのジルコニアボールを用いたボールミルにより粒径が安定するまで一次粉砕し、次いで、φ1mm以下のビーズを用いたビーズミルにて下記の表1に示される所定の粒径(実測平均粒子径:Dr)となるまで二次粉砕することで、例1のLSCF粉末を得た。なお、一次粉砕および二次粉砕は、LSCFの平均粒子径(D_(50))および比表面積を、それらの変化の様子を確認しながら実施し、LSCFの平均粒子径(D_(50))が目的の粒径(Dr)となったところで粉砕を終了するようにした。」
「【0063】
(例4)
空気極材料として、一般式:La_(0.60)Sr_(0.40)Co_(0.20)Fe_(0.80)O_(3)(LSCF)で示されるペロブスカイト型酸化物を液相法により調製した。具体的には、出発原料としてLa(NO_(3))_(3)・6H_(2)O,Sr(NO_(3))_(2),Co(NO_(3))_(2)およびFe(NO_(3))_(3)の粉末を用い、これらを化学量論比で精密に秤量して純水に溶解させたのち、110℃で乾燥させ、大気雰囲気中、1050℃で焼成することで、焼成物としてのLSCFを得た。
【0064】
得られたLSCFは比較的脆いため、解砕したのち、φ1mm以下のビーズを用いたビーズミルにて下記の表1に示される所定の粒径(実測平均粒子径:Dr)となるまで粉砕した。これにより、例4のLSCF粉末を得た。なお、粉砕は、LSCFの平均粒子径(D_(50))および比表面積を、それらの変化の様子を確認しながら実施し、LSCFの平均粒子径(D_(50))が目的の粒径(Dr)となったところで粉砕を終了するようにした。」
「【0070】
[評価用SOFCの作製]
上記で用意した各例のLSCF粉末を空気極用材料として用い、以下の手順で、評価用のSOFCを作製した。
まず、酸化ニッケル(NiO,平均粒子径0.5μm)粉末と、8%イットリア安定化ジルコニア(8%YSZ,平均粒子径0.5μm)粉末とを、60:40の質量比で混合することで燃料極用混合粉末を用意した。そして、この燃料極用混合粉末と、造孔材(炭素成分)、バインダ(ポリビニルブチラール;PVB)、可塑剤および分散媒(キシレン)とを、順に48?58:15?5:8.5:4.5:24の質量比で混練することにより、ペースト状の燃料極支持体形成用組成物を調製した。次いで、この燃料極支持体形成用組成物を、ドクターブレード法によりキャリアシート上に塗布・乾燥することを繰り返すことで、厚みが0.5?1.0mmの燃料極支持体グリーンシートを形成した。
【0071】
次に、上記と同様の燃料極用混合粉末、バインダ(エチルセルロース;EC)および分散媒(TE)を、80:2:18の質量比で混合することで、燃料極形成用組成物を調製した。次いで、この燃料極形成用組成物を上記燃料極支持体グリーンシートの上にスクリーン印刷法により供給し、乾燥させて、厚みが約10μmの燃料極グリーンシートを形成した。
【0072】
固体電解質材料としての8%YSZ(平均粒子径0.5μm)粉末と、バインダ(EC)と、分散媒(TE)とを、65:4:31の質量比で混練することにより、ペースト状の固体電解質層形成用組成物を調製した。これを上記燃料極グリーンシートの上にスクリーン印刷法によってシート状に供給し、乾燥させることで、厚みが約10μmの固体電解質層グリーンシートを形成した。
【0073】
また、反応防止層材料としての10%ガドリニウムドープセリア粉末(10%GDC,平均粒子径0.5μm)と、バインダ(EC)と、分散媒(TE)とを、65:4:31の質量比で混練することにより、ペースト状の反応防止層用組成物を調製した。これを上記固体電解質層グリーンシートの上にスクリーン印刷法によってシート状に供給し、乾燥させることで、厚みが約5μmの反応防止層グリーンシートを形成した。
【0074】
このようにして用意した積層グリーンシートを円形に切り抜き、1350℃で共焼成することで、燃料極支持体,燃料極層,固体電解質層および反応防止層が順に一体的に積層されたSOFCのハーフセルを得た。なお、焼成後のハーフセルの形状は、直径20mmの円形であった。
【0075】
次いで、空気極材料としての例1?9のLSCF粉末と、バインダ(EC)および分散媒(TE)とを、80:3:17の質量比で混合することで、ペースト状の空気極形成用組成物を調製した。次いで、この燃料極形成用組成物を、上記で用意したSOFCのハーフセルの反応防止層上にスクリーン印刷法によって円形シート状に供給し、乾燥させることで、空気極層グリーンシートを形成した。次いで、空気極層グリーンシートをハーフセルごと1100℃で焼成して層状の空気極を形成することで、例1?9の評価用のSOFCを得た。なお、空気極の寸法は、直径10mm、厚み約30μmであった。また、評価用SOFCは各例で複数個ずつ用意した。
【0076】
[空気極断面のCo酸化物の面積占有率]
各例の評価用SOFCを積層方向で破断することで空気極の断面を露出させた。そしてこの空気極の破断面についてEDX分析を行い、コバルト:Co,Ka1線(6930eV)を検出することでCo元素分布状況を調べた。分析には、SEM/EDX分析装置として、日本電子(株)製,JSM-6610LAを用い、SEMによる2500倍の観察領域(512×384ピクセル)について、電子線の加速電圧20kV、照射電流1.0nAとし、計数率50,000?100,000cpsの条件でCoのKa1線を検出することでCo元素マップを得た。そして、得られたCo元素マップに基づき、EDX分析の観察視野全体に占めるCoの偏析部分の面積の割合を求め、Co酸化物の面積占有率(%)を算出した。
【0077】
なお、面積占有率の算出は、観察視野の全部が空気極断面によって占められたCo元素マップ画像を画像解析することで実施した。画像解析ソフトには、日本ローパー社製のImage-Pro Plusを用いた。画像解析においては、まず、用意したCo元素マップを基に、Coの偏析部分(Co酸化物)の輪郭をとる(トレースする)ことで、Co偏析部分の面積を算出した。Co偏析部分の輪郭は、コントラスト調整をしたCo元素マップについて実施した。このコントラスト調整は、画像解析ソフトの"コントラスト最適合わせ込み"コマンド等を利用することで、自動的に実施することができる。また、二値化"Segmentation(色抽出)"コマンドを利用することで、Co偏析部分を背景(LSCF領域)から高精度に分離・抽出することができる。具体的には、例えば、二値化では、コントラスト調整をしたCo元素マップのCo検出部を白とする白黒画像に変換する。ここで、Co元素の存在を示す白色が50ピクセル以上の塊となった部分をCoが偏析した部分であると判断し、かかる白色部分が50ピクセル以上となった部分をCo偏析部分とした。2値化は自動(例えば、シェーディング補正後二値化)で実施することも可能であるが、白黒の濃淡(輝度値)に関する輝度ヒストグラムを見ながら、上記のCo偏析部分が際立つように2値化の閾値条件を設定してもよい。そして、次式:占有率=Co偏析部分の総面積/観察視野全面積=Coに対応する画素で50ピクセル以上の塊となった部分の総ピクセル数/観察視野の全ピクセル数;に基づき占有率を算出した。その結果を、下記表1の「Co酸化物の占有率」の欄に示した。
なお、参考のために、図3(A)および(B)に、例1および例4の空気極の破断面のCo元素マップをそれぞれ示した。また、図4に、図3(A)の例1のCo元素マップについてCo偏析部分を抽出した結果を示した。なお、図4では、計5カ所にCo偏析部分が認められ、各偏析部分の面積を算出し、全体に占めるCo偏析部分の総面積の割合を算出した。」
「【0083】
【表1】


【0084】
[評価]
上記で用意した例1?9のLSCF粉末は、XRDの結果(例えば図5参照)から、ペロブスカイト型の結晶構造を有するLSCFを主相とし、一見するとLSCFの単相からなり、明確な第2相はみられないことが確認された。
例1?7のLSCF粉末は、製造方法および製造条件の異なる化学両論組成のLSCFの焼成体に対して、ビーズミルによりソフトな粉砕を施したものである。また、ビーズミルの大きさ等を調整することで、粉砕の際にLSCFに加わる圧力を制御している。このようなソフトな粉砕では、LSCF粉末がある所定の粒径に近づくと、それ以上粉砕が進行しなくなる。すなわち、粉砕による平均粒子径の低下が所定の粒径に収束(飽和)する。この所定の粒径は、LSCFの製造条件や粉砕条件との組み合わせ等により異なる。そして例1?7のLSCF粉末は、この所定の粒径(実測平均粒子径(Dr)に一致)を有するものとなるよう調製されている。これに対し、例8および例9のLSCF粉末は、詳細な製造条件は不明であるものの、SOCFの空気極材料として製造および販売されているものである。
【0085】
なお、例えば、例2と例4、例5と例7、例3と例9等の比較からわかるように、平均粒子径(Dr)が同じであっても、粒子の形態が異なると、理想平均粒子径(Di;比表面積から算出される球相当径)は異なることがわかる。LSCF粉末を構成する個々の粒子の形状が滑らかな表面を有し球に近づくほど、Dr/Diは1に近づくよう小さな値となる。
【0086】
SEM-EDXの結果から、例えば図3(A)(B)に示すように、製造直後のSOFCの空気極には、同様の焼き付け条件により作製した場合であっても、(A)コバルト(Co)成分が偏析する場合(例えば例1)と、(B)Co成分が偏析しない場合(例えば例4)とがあることが確認された。このコバルトの偏析は、詳細なXRD分析の結果から、四酸化三コバルト(Co_(3)O_(4))の生成に起因するものであることがわかった(例えば図6参照)。また、表1に示すように、空気極における偏析したCo(つまりCo_(3)O_(4))の占有率は、用いたLSCF粉末により変動することもわかった。このことから、製造直後の空気極におけるコバルトの偏析は、LSCF粉末の調製条件(すなわち粉末の状態)により引き起こされ得るものであることがわかった。
なお、SEM-EDXにおいては、Coと同様に鉄(Fe)の分布状況についても調べたが、例1?9のいずれのSOFCの空気極においても、Feの偏析は確認できず、また、詳細なXRD分析においてもFe含有化合物等の生成は確認できなかった。」

(2)甲1に記載された発明
ア 上記(1)には、固体酸化物形燃料電池の空気極材料について記載されている。

イ 上記(1)の【0063】には、固体酸化物形燃料電池の空気極材料として、「一般式:La_(0.60)Sr_(0.40)Co_(0.20)Fe_(0.80)O_(3)(LSCF)」で示されるペロブスカイト型酸化物を調製したことが記載されている。

ウ 上記(1)の【0064】には、「LSCFの平均粒子径(D_(50))が目的の粒径(Dr)となったところで粉砕を終了するようにした」と記載されており、上記(1)の表1には、例4の空気極材料のDrが0.5μmであることが記載されているから、例4の空気極材料は、平均粒子径(D_(50))が0.5μmであるといえる。

エ 上記(1)の表1には、例4の空気極材料のCo酸化物占有率が0.00%であることが記載されている。

オ 上記ア?エより、甲1には、甲1の例4の空気極材料に注目すると、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「一般式:La_(0.60)Sr_(0.40)Co_(0.20)Fe_(0.80)O_(3)(LSCF)で示されるペロブスカイト型酸化物からなる固体酸化物形燃料電池の空気極材料であって、
平均粒子径(D_(50))が0.5μmであり、
Co酸化物占有率が0.00%である固体酸化物形燃料電池の空気極材料。」

(3)甲2の記載
甲2には、次の記載がある。なお、【0008】の下線は当審で付したものではなく、元々甲2に記載されているものである。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式ABO_(3)で表されるペロブスカイト構造を有する複合酸化物を含有する空気極と、
燃料極と、
前記空気極と前記燃料極との間に配置される固体電解質層と、
を備え、
前記空気極の断面において、1つの視野内の10スポットにおいてエネルギー分散型X線分光法により測定されたBサイト内の各元素の原子濃度の標準偏差値が5.03以下である
固体酸化物型燃料電池セル。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、燃料電池を用いた発電を繰り返すうちに、得られる電圧が低下することがある。本発明者らは、電圧の低下の原因の1つが空気極の劣化によるものであることを新たに見出した。
【0006】
ここに開示される技術は、このような新たな知見に基づくものであって、空気極の劣化を抑制可能な固体電解質型燃料電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述の課題を解決するために鋭意検討した結果、空気極の成分の濃度の均一性を高めることで、空気極の劣化を抑制することができるという新たな知見を得た。
【0008】
すなわち、ここに開示される固体酸化物型燃料電池セルは、空気極と、燃料極と、空気極と燃料極との間に配置される固体電解質層と、を備える。空気極は、一般式ABO_(3)で表されるペロブスカイト構造を有する複合酸化物を含有する。空気極の断面において、1つの視野内の10スポットにおいてエネルギー分散型X線分光法により測定されたBサイト内の各元素の原子濃度の標準偏差値は、5.03以下である。」
「【0011】
1.電極材料
電極材料は、ペロブスカイト構造を有する複合酸化物を含む。電極材料は、複合酸化物以外の成分を含んでいてもよい。本実施形態に係る電極材料は、後述するように、固体酸化物型燃料電池の空気極を構成する材料として好適に用いられる。
【0012】
複合酸化物の組成は、一般式ABO_(3)で表される。また、Aサイトには、La及びSrの少なくとも一方が含まれてもよい。このような複合酸化物の具体例としては、空気極材料であれば、LSCFつまり(La,Sr)(Co,Fe)O_(3)、LSFつまり(La,Sr)FeO_(3)、LSCつまり(La,Sr)CoO_(3)、LNFつまりLa(Ni,Fe)O_(3)、SSCつまり(Sm,Sr)CoO_(3)等の材料が挙げられる。これらの複合酸化物は、酸素イオン伝導性と電子伝導性を併せ持つ物質であり、混合導電材料と呼ばれる。」
「【0014】
また、電極材料は、粉体(例えば平均粒径0.1μm?5μm程度)或いは解砕物(例えば平均粒径5μm?500μm程度)であってもよいし、解砕物よりも大きな塊であってもよい。
【0015】
電極材料は、組成分布が高い均一性を有していることが好ましい。具体的には、電極材料における任意の視野内で、10スポットにおいて、EDS(エネルギー分散型X線分光法:Energy Dispersive x-ray Spectroscopy)により、Aサイトに含まれる元素のそれぞれの原子濃度を取得し、その原子濃度の標準偏差値を得たとき、Aサイトにおいて得られる標準偏差値が、10.3以下であることが好ましい。また、Bサイトに含まれる元素それぞれの原子濃度を取得し、その原子濃度の標準偏差値を得たとき、Bサイトにおいて得られる標準偏差値が5.03以下であることが好ましい。」
「【0032】
次に、ステップS106において、粉砕された電極材料を分級する。具体的には、例えば気流式分級機を用いて分級することによって、電極材料の比表面積を調整する。複合酸化物としてLSCFを製造する場合には、比表面積を3m^(2)/g?12m^(2)/gに調整する。」
「【0115】
B.評価
B-1.電極材料の組成分布の測定
No.1?No.22に係る電極材料の解砕物について、EPMAにより各元素の原子濃度分布を測定した。具体的には、日本電子株式会社の電界放射型電子プローブマイクロアナライザー(型番:JXA-8500F)を用いて測定を行った。次に、EDSにより任意の視野において、SEM像で確認できる空洞になっていない部分の10スポットで、一般式ABO_(3)のうちAサイトの各元素、一般式ABO_(3)のうちBサイトの各元素の酸化物としての原子濃度(mol%)を測定した。具体的には、ZEISS社(ドイツ)の電界放射型走査電子顕微鏡(型番:ULTRA55)を用いて測定を行った。
【0116】
具体的には、No.1?No.10の各試料について、AサイトのLa及びSrのそれぞれの濃度を10スポットで測定し、La濃度の平均値及び各スポットにおける濃度の標準偏差値、並びにSr濃度の平均値及び各スポットにおける濃度の標準偏差値を得た。また、BサイトのCo及びFeについても同様に、濃度平均値及び各スポットにおける濃度の標準偏差値を得た。さらに、No.1?No.10の各試料について、Aサイトの元素の原子濃度についての標準偏差値の最大値、及びBサイトの元素の原子濃度についての標準偏差値の最大値を得た。」
「【0140】
C-5.まとめ
以上の結果から、空気極材料及び空気極における原子の分布が比較的均一である(標準偏差が小さい)ことで、空気極の劣化が抑制されると考えられる。」

(4)甲2に記載された発明
ア 上記(3)には、固体酸化物型燃料電池の空気極を構成する材料について記載されている。

イ 上記(3)の【0011】には、電極材料は、ペロブスカイト構造を有する複合酸化物を含むことが記載され、上記(3)の【0012】には、複合酸化物の組成は、一般式ABO_(3)で表され、Aサイトには、La及びSrの少なくとも一方が含まれてもよく、空気極材料であれば、LSCFつまり(La,Sr)(Co,Fe)O_(3)、LSFつまり(La,Sr)FeO_(3)、LSCつまり(La,Sr)CoO_(3)、LNFつまりLa(Ni,Fe)O_(3)、SSCつまり(Sm,Sr)CoO_(3)等の材料が挙げられることが記載されている。

ウ 上記(3)の【0015】には、電極材料は、組成分布が高い均一性を有していることが好ましく、具体的には、電極材料における任意の視野内で、10スポットにおいて、EDSにより、原子濃度を取得したとき、Aサイトにおいて得られる標準偏差値が、10.3以下であることが好ましく、Bサイトにおいて得られる標準偏差値が5.03以下であることが好ましいことが記載されている。

エ 上記(3)の【0014】には、「電極材料は、粉体(例えば平均粒径0.1μm?5μm程度)」であってもよいことが記載されている。

オ 上記ア?エより、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「電極材料は、ペロブスカイト構造を有する複合酸化物を含み、
複合酸化物の組成は、一般式ABO_(3)で表され、Aサイトには、La及びSrの少なくとも一方が含まれてもよく、(La,Sr)(Co,Fe)O_(3)、(La,Sr)FeO_(3)、(La,Sr)CoO_(3)、La(Ni,Fe)O_(3)、(Sm,Sr)CoO_(3)等の材料が挙げられ、
電極材料は、組成分布が高い均一性を有していることが好ましく、
電極材料は、粉体(例えば平均粒径0.1μm?5μm程度)であってもよく、
電極材料における任意の視野内で、10スポットにおいて、EDSにより、原子濃度を取得したとき、Aサイトにおいて得られる標準偏差値が、10.3以下であることが好ましく、Bサイトにおいて得られる標準偏差値が5.03以下であることが好ましい、固体酸化物型燃料電池の空気極を構成する材料。」

(5)甲3の記載
甲3には、次の記載がある。
「【0003】
固体酸化物型燃料電池における、空気極を構成する空気極材料には、(1)酸素イオン導電性が高いこと、(2)電子伝導性が高いこと、(3)電解質と熱膨張が同等あるいは近似していること、(4)化学的な安定性が高く、他の構成材料との両立性が高いこと、(5)焼結体が多孔質であり、一定の強度を有すること等の特性が基本的に要求される。
【0004】
特許文献1では、空気極を構成する空気極材料として、組成式(L_(1-x)AE_(x))_(1-y)(Fe_(z)M_(1-z))O_(3+δ)で表され、Lは、Sc、Y及び希土類元素からなる群より選ばれた一種又は二種以上の元素であり、AEは、Ca及びSrの群からなる一種又は二種の元素であり、Mは、Mg、Sc、Ti、V、Cr、Co及びNiからなる群より選ばれた一種又は二種以上の元素であり、0<x<0.5、0<y≦0.04、0≦z<1であるランタンフェライト系ペロブスカイト酸化物を主成分とするセラミックス粉体が提案されている。特許文献1の実施例2には、クエン酸塩法で作製された(La_(0.6)Sr_(0.4))_(1-z)(Co_(0.2)Fe_(0.8))O_(3+δ)(y=0.02、0.04)が記載されている。これらの(La_(0.6)Sr_(0.4))_(1-z)(Co_(0.2)Fe_(0.8))O_(3+δ)は本願の比較例1と同様の方法で作製されたサンプルであり、構成元素の均質性が劣るものである。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、固体酸化物型燃料電池用空気極材料として好適な、均一組成を有する新規な固体酸化物型燃料電池用複合酸化物粉末を提供すること、及びかかる均一組成の固体酸化物型燃料電池用複合酸化物粉末を得るための製造方法を提供することである。」
「【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1におけるLSM微粒子のSEM写真(倍率3000倍)である。
・・・(略)・・・
【図4】図1に対するMnのEDXマッピング図である。」
「【0060】
〔実施例1〕
(1)(原料粉末及び有機酸の準備)
(La_(0.8)Sr_(0.2))_(0.98)MnO_(3+δ)を形成するように各原料の秤量を行った。
すなわち、表1に示すように、La源として酸化ランタン(La_(2)O_(3))565.18g、Sr源として炭酸ストロンチウム(SrCO_(3))127.95g、及びMn源として炭酸マンガン(MnCO_(3))544.68g(原子比で、La:Sr:Mnが0.784:0.196:1.00とする。)を秤量した。上記のように秤量した原料金属化合物中のLaイオンのモル数とSrイオンのモル数とMnイオンのモル数の合計は8.72モルであった。
・・・(略)・・・
【0066】
(4)(成分分析)
(i)XRD分析
少量の(La_(0.8)Sr_(0.2))_(0.98)MnO_(3+δ)の最終粉末を分取し、その結晶相を同定するためCuKαをX線源とする粉末X線回折測定を行った。X線回折測定にはリガク社製のRINT2200Vを用いた。
その結果、単相の菱面体晶(113相)を有するペロブスカイト構造であることが確認された。
【0067】
(ii)SEM及びEDX分析
また、当該粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)及びこれに付随したエネルギー分散X線分光装置(EDX)により分析した。使用したSEMは日立社製のFE-SEM S-4300であり、EDX検出器は、堀場製作所製のEDX EMAX6853-H、分解能:137eVである。また、測定条件は、加速電圧20kV、エミッション電流20μA、倍率3000倍、WD15mm、プロセスタイム4、計数400万カウント以上とした。
【0068】
図1は、当該粉末のSEM写真(倍率×3000)である。図2?4は、それぞれLa、Sr、MnのEDXマッピング図である。これらの図からLa、Sr、Mnのマッピング図から各成分の偏析は後述するクエン酸一水和物のみを使用して製造した比較例1と比べて少ないことが確認された。図1に示されるような粉末のSEM画像上において、一辺が8μmの格子状に分割した12個の格子点をポイント分析箇所として、各格子点におけるランタンのLα線とマンガンのKα線のピーク面積を測定した。そのピーク面積から、各測定点におけるランタンの含有量(w_(a))とマンガンの含有量(w_(b))が式(1)の関係を満足するようにランタンの含有量とマンガンの含有量を算出し、12点の平均をとったところランタン及びマンガンの平均含有量はそれぞれ68.1wt%、31.9wt%であった。変動係数を計算するとランタンの変動係数(α)は2.0%であり、マンガンの変動係数(β)は4.3%であった。
w_(a)+w_(b)=100(wt%) (1)
【0069】
(iii)粒度分布測定
少量の(La_(0.8)Sr_(0.2))_(0.98)MnO_(3+δ)を以下のようにイオン交換水に分散させて試料を調製した。分散剤として和光純薬社製の二リン酸ナトリウム十水和物を使用した濃度0.24重量%の水溶液を用い、約0.001gの(La_(0.8)Sr_(0.2))_(0.98)MnO_(3+δ)と分散液とから全体が10mlとなるように分散液を調製し、3分間超音波を照射したものを試料とした。その試料から(La_(0.8)Sr_(0.2))_(0.98)MnO_(3+δ)の粒度分布をHORIBA社製のレーザー回折/散乱式粒度分布装置LA-920を用いて測定した。測定の直前に180秒間出力30Wの超音波処理を施した。その結果、体積平均粒径D_(50)は15.1μmであった。」

(6)甲3に記載された発明
ア 上記(5)には、固体酸化物型燃料電池用空気極材料について、記載されている。

イ 上記(5)の実施例1(【0060】)には、(La_(0.8)Sr_(0.2))_(0.98)MnO_(3+δ)の粉末を形成することが記載されており、上記(5)の【0010】には、「固体酸化物型燃料電池用空気極材料として好適な、均一組成を有する新規な固体酸化物型燃料電池用複合酸化物粉末を提供する」と記載されているから、実施例1の(La_(0.8)Sr_(0.2))_(0.98)MnO_(3+δ)の粉末は、固体酸化物型燃料電池用空気極材料であるといえる。

ウ 上記(5)の【0066】には、実施例1の(La_(0.8)Sr_(0.2))_(0.98)MnO_(3+δ)の粉末が、単相のペロブスカイト構造であることが記載されている。

エ 上記(5)の【0069】には、実施例1の(La_(0.8)Sr_(0.2))_(0.98)MnO_(3+δ)の粉末の体積平均粒径D_(50)が15.1μmであることが記載されている。

オ 上記(5)の【0068】には、実施例1の(La_(0.8)Sr_(0.2))_(0.98)MnO_(3+δ)の粉末について、SEM画像上において、一辺が8μmの格子状に分割した12個の格子点をポイント分析箇所として、各格子点におけるランタンのLα線とマンガンのKα線のピーク面積を測定し、そのピーク面積から、各測定点におけるランタンの含有量(w_(a))とマンガンの含有量(w_(b))が式(1)の関係を満足するようにランタンの含有量とマンガンの含有量を算出し、12点の平均をとったところマンガンの平均含有量は31.9wt%であり、変動係数を計算するとマンガンの変動係数(β)は4.3%であったことが記載されている。 w_(a)+w_(b)=100(wt%) (1)

カ 上記ア?オより、甲3には、甲3の実施例1の粉末に注目すると、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「(La_(0.8)Sr_(0.2))_(0.98)MnO_(3+δ)の粉末である固体酸化物型燃料電池用空気極材料であって、
単相のペロブスカイト構造であり、
体積平均粒径D_(50)が15.1μmであり、
SEM画像上において、一辺が8μmの格子状に分割した12個の格子点をポイント分析箇所として、各格子点におけるランタンのLα線とマンガンのKα線のピーク面積を測定し、そのピーク面積から、各測定点におけるランタンの含有量(w_(a))とマンガンの含有量(w_(b))が式(1)の関係を満足するようにランタンの含有量とマンガンの含有量を算出し、12点の平均をとったところマンガンの平均含有量は31.9wt%であり、変動係数を計算するとマンガンの変動係数(β)は4.3%である、固体酸化物型燃料電池用空気極材料。
w_(a)+w_(b)=100(wt%) (1)」

6 当審の判断
6-1 特許法第36条第6項第1号について(上記2の2-1及び上記3の3-2)
(1)上記2の2-1について
ア 本件発明の解決しようとする課題は、本件明細書記載によれば、「高い電気伝導度と高い開気孔率とを両立する空気極を得ること」(【0006】)である。

イ 上記アの「高い電気伝導度」となる機序について、本件明細書【0012】、【0013】に関連する記載があり、その記載からすると、電子顕微鏡を用いた微細な分析によれば、金属複合酸化物の導電率の低下は、Bサイトに入り得る遷移金属(元素B)を含む非ペロブスカイト領域が、金属複合酸化物粉体中にある程度の領域を占めて偏在していることに起因することが判明したので、本件発明の固体酸化物形燃料電池空気極用の粉体は、電子顕微鏡を用いた分析によっても、偏在が確認できない程度に、非ペロブスカイト領域が均一に分散されているとしたものである。

ウ そして、上記イの「偏在が確認できない程度に、非ペロブスカイト領域が均一に分散されている」状態について、本件明細書【0016】?【0021】に関連する記載があり、この記載によれば、試料の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、その観察視野について、エネルギー分散型X線検出器を用いて、元素Bの特性X線Kαの強度をマッピング画像とし、最大強度の50%以上の強度を有する画素Paと、50%未満の強度を有する画素Pbとを区分けして、二値化されたマッピング画像を取得し、その二値化されたマッピング画像において、画素Paが辺を共有しながら5個以上連なっている領域(すなわち、観察視野の0.04%の面積以上の領域)が5個以上ある場合、元素Bが偏在していると定義するとのことである。

エ また、請求項1に係る発明は、「粉体を加圧成形して得られる成型体の断面を倍率500倍で観察し、エネルギー分散型X線分析法により前記元素Bの特性X線の強度を測定したとき、前記特性X線の最大強度の50%以上の強度を有し、かつ、観察視野の0.04%以上の面積割合を有する領域の個数が5以下であ」るとの発明特定事項(以下、「特定事項1」という。)を有している。

オ ここで、特定事項1は、「観察視野の0.04%以上の面積割合を有する領域」について、領域の大きさの上限、及び、観察視野における元素Bの占有率が特定されていない。

カ 例えば、上記ウのマッピング画像において、観察視野の10%を占める領域が3個存在するような場合や、観察視野の20%を占める領域が2個存在するような場合は、明らかに元素Bが偏在しているといえ、上記イからすると、金属複合酸化物の導電率が低下するとも考えられる。

キ また、「観察視野の0.04%以上の面積割合を有する領域」が4個以下ではあるものの、観察視野の0.04%未満の領域が非常に多く、例えば、観察視野において、元素Bの占有率が50%あるような場合は、金属複合酸化物の導電率が低下するとも考えられる。

ク しかしながら、本件発明1は、「ペロブスカイト型単相の結晶構造を有する金属複合酸化物の粉体」であるから、本件明細書【0015】によれば、「X線回折チャートにおいて、ペロブスカイトの結晶相に由来するピーク以外のピークが観測されない」ものである。

ケ そして、本件明細書【0012】によれば、「Bサイトに入り得る遷移金属(元素B)を含む」領域は、「非ペロブスカイト領域」である。

コ 上記クからすると、本件発明1は、「X線回折チャートにおいて、ペロブスカイトの結晶相に由来するピーク以外のピークが観測されない」ものであり、上記ケからすると、「Bサイトに入り得る遷移金属(元素B)を含む」領域は、「非ペロブスカイト領域」であるから、本件発明1は、Bサイトに入り得る遷移金属(元素B)を含む領域のピークが観察されないものといえる。

サ そうすると、金属複合酸化物の導電率が低下するような、観察視野の10%を占める領域が3個存在するような場合、及び、観察視野の20%を占める領域が2個存在するような場合(上記カ参照。)や、観察視野の0.04%未満の領域が非常に多く、例えば、観察視野において、元素Bの占有率が50%あるような場合(上記キ参照。)は、本件発明1には含まれないと解される。

シ したがって、本件発明1は、上記アの課題を解決し得ない発明を含むものではなく、上記アの課題を解決し得るものであるから、発明の詳細な説明に記載されたものである。

ス また、本件発明1を引用する本件発明2、3も同様に、発明の詳細な説明に記載されたものである。

(2)上記3の3-2について
ア 本件発明の解決しようとする課題は、上記(1)のアのとおりである。

イ 上記(1)のアの「高い電気伝導度」となる機序について、本件明細書【0012】、【0013】に関連する記載があり、その記載からすると、電子顕微鏡を用いた微細な分析によれば、金属複合酸化物の導電率の低下は、Bサイトに入り得る遷移金属(元素B)を含む非ペロブスカイト領域が、金属複合酸化物粉体中にある程度の領域を占めて偏在していることに起因することが判明したので、本件発明の固体酸化物形燃料電池空気極用の粉体は、電子顕微鏡を用いた分析によっても、偏在が確認できない程度に、非ペロブスカイト領域が均一に分散されているとしたものである。

ウ また、特許権者は、令和1年12月27日に提出された、本件発明の審査過程における意見書において、次のとおり述べており、また、本件明細書に接した当業者であれば、過度の負担なく次の事項を推測できる。
「本願において、元素Bが微分散しているということは、元素Bの酸化物等によって形成される、ペロブスカイト相ではない領域が微分散しているということです(段落番号[0012]および[0013])。そのため、元素Bが微分散した粉体を用いて形成される空気極において、導電率が高まることは容易にご理解いただけるものと思います。
さらに、元素Bが微分散しているということは、焼成工程において原料粉体(明細書等における「乾燥粉体」)内部での金属化合物間の固相反応が十分に進行したことを示しています。固相反応が十分に進行したということは、焼成工程において与えられた熱エネルギーは効率的に固相反応に使用され、その他の反応、すなわち、焼成工程に供される原料粉体(乾燥粉体)同士の焼結が抑制されたということです。乾燥粉体同士の焼結が抑制されると、得られる焼成粉体の粒度のばらつきが小さくなります。
つまり、本願において、粉体における元素Bの偏在性を評価することは、粉体の粒度の分布状態を知ることであるということができます。この点については、[表1]および[0107]-[0114]等もご参照ください。すなわち、元素Bが微分散している粉体の粒度のばらつきは、元素Bが偏在している粉体と比較して小さくなります。よって、この粉体を成型し焼成して得られる空気極において、開気孔率は高くなります。」

エ そして、本件発明1は、特定事項1を有するものである。

オ また、特定事項1は、元素Bが偏在せず微分散していることを規定した事項である。

カ したがって、本件発明1は、比表面積、粒子径、粒子径分布が特定されていなくても、上記(1)のアの課題を解決し得るものであるといえるから、発明の詳細な説明に記載されたものである。

キ また、本件発明1を引用する本件発明2、3も同様に、発明の詳細な説明に記載されたものである。

6-2 特許法第36条第6項第2号について(上記2の2-2及び上記3の3-3)
(1)上記2の2-2について
(1)-1 請求項1の「領域の個数」について
ア 本件発明1は、「下記一般式:
A1_(1-x)A2_(x)BO_(3-δ)
(ただし、元素A1はLaおよびSmよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素A2はCa、SrおよびBaよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素BはMnであり、0<x<1、δは酸素欠損量である。)
で表されるペロブスカイト型単相の結晶構造を有する金属複合酸化物の粉体であ」る事項、及び、特定事項1を含むものである。

イ そして、本取消理由は、本件訂正前では、「元素BはMn、Fe、CoおよびNiよりなる群から選択される少なくとも一種であ」ったため、「元素B」が複数種選択された場合に、特定事項1の「領域の個数」がどのような意味であるかが不明瞭であるというものである。

ウ しかしながら、本件訂正により、本件発明1は、「元素BはMnであ」ると、「元素B」が複数種選択された場合がなくなったので、本取消理由は解消された。

エ よって、本件発明1及びそれを引用する本件発明2、3は、明確である。

(1)-2 請求項1の「観察視野」の大きさと位置について
ア 本件発明1は、「粉体の平均粒子径は、10μm以上、35μm以下であ」る事項、及び、特定事項1を含むものである。

イ そして、本取消理由は、特定事項1において、「観察視野」の大きさや視野が不明であるから、特定事項1が不明瞭であるというものである。

ウ しかしながら、本件訂正により、「粉体の平均粒子径」が、「10μm以上で35μm以下」と特定され、また、「観察視野」が「180μm×240μm」であることを特定された。

エ そして、特定事項1の観察対象である「成型体」は、「成型圧力100MPaで60秒間加圧成型して得られる」(請求項1)ものであるから、粒子が存在しない空間がある程度少ないと考えられるところ、粉体の粒子径を35μmとした場合、180μm×240μmの領域に単純に行列状に並べても、観察視野には5×6=30個以上の粒子が含まれることになり、平均粒子径35μmの粉体である場合、35μmよりも大きい粒子と35μmよりも小さい粒子とが混在し、小さい粒子が大きい粒子の隙間に入るため、より多くの粒子が観察視野に含まれることになる。

オ そうすると、粉体の平均粒子径を10μm以上で35μm以下とし、観察視野の大きさを180μm×240μmとすることによって、観察視野の位置による測定結果のばらつきを充分に小さくすることができると考えられる。

カ また、上記エのとおり、特定事項1の観察対象である「成型体」は、「成型圧力100MPaで60秒間加圧成型して得られる」(請求項1)ものであるから、粒子が存在しない空間がある程度少ないと考えられるから、決定される位置が成型体の断面のどの位置であっても適切な判定が可能であると考えられる。

キ したがって、本件発明1は、「観察視野」の大きさや位置により、請求項1に係る発明に含まれたり、含まれなかったりすることがないから、第三者が不利益を受けることもない。

ク よって、本件発明1及びそれを引用する本件発明2、3は明確である。

(2)上記3の3-3について
(2)-1 請求項1の「成形体」の密度について
ア 本申立理由は、本件発明1の「成型体」中における粉体の密度によって「エネルギー分散型X線分析法により前記元素Bの特性X線Kαの強度を測定し」(請求項1)たときの特性X線の強度が変化すると考えられるから、本件発明1は明確でないというものである。

イ しかしながら、本件発明1の「成型体」は、「粉体2gおよび濃度10質量%のポリビニルアルコール水溶液0.4gを混合および乾燥して得られる造粒粉体0.5gを、10mm×5mmの矩形金型に充填し、成型圧力100MPaで60秒間加圧成型して得られる」ものであって、「成型圧力100MPaで60秒間加圧成型」することにより、同じ粉体の密度の「成型体」が製造できると考えられる。

ウ したがって、「エネルギー分散型X線分析法により前記元素Bの特性X線Kαの強度を測定し」たときの特性X線の強度が変化することもなく、同じ測定結果が得られると考えられる。

エ よって、本件発明1及びそれを引用する本件発明2、3は明確である。

(2)-2 請求項3の「粉体のBET法に基づく比表面積」について
ア 本申立理由は、「BET法に基づく比表面積」が、BET法の測定方法によって異なるから、本件発明3は明確でないというものである。

イ しかしながら、本件明細書【0026】には、「BET比表面積は、JIS Z 8830:2013に準じて、BET流動法により測定される」と記載されており、この測定方法によれば、同じ測定結果が得られると考えられる。

ウ よって、本件発明3は明確である。

6-3 特許法第36条第4項第1号について(上記3の3-4)
ア 本申立理由は、本件発明1の特定事項1について、「特性X線Kαの最大強度の50%以上の強度を有し、かつ、前記観察視野の0.04%以上の面積割合を有する領域の個数が5以下であ」るところ、本件明細書の実施例1、2では、当該個数がそれぞれ2個、3個であり、0個または1個とする条件が記載されていないから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が本件発明を実施することができる程度に記載されていないというものである。

イ しかしながら、本件明細書の実施例1、2では、「観察視野の0.04%以上の面積割合を有する領域」の個数がそれぞれ2個、3個であることが記載されており、これらの実施例によれば、当業者は、特定事項1を実施することができたものといえる。

ウ したがって、本件明細書に、「観察視野の0.04%以上の面積割合を有する領域」の個数が0個または1個とする条件が記載されていなくとも、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。

エ また、同様に、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1を引用する本件発明2、3についても、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。

6-4 特許法第29条第1項第3号及び同条第2項について(上記3の3-1)
(1)甲1を主たる引用例とした場合
(1)-1 本件発明1と甲1発明との対比
ア 甲1発明の「一般式:La_(0.60)Sr_(0.40)Co_(0.20)Fe_(0.80)O_(3)(LSCF)で示されるペロブスカイト型酸化物」と、本件発明1の「下記一般式:A1_(1-x)A2_(x)BO_(3-δ)(ただし、元素A1はLaおよびSmよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素A2はCa、SrおよびBaよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素BはMnであり、0<x<1、δは酸素欠損量である。)で表されるペロブスカイト型単相の結晶構造を有する金属複合酸化物」とは、「La_(0.60)Sr_(0.40)BO_(a)(ただし、元素BはMn、Co及びFeよりなる群から選択される少なくとも一種である。aは3、または、3-δである。δは酸素欠損量である。)で表されるペロブスカイト型結晶構造を有する金属複合酸化物」で共通する。

イ 甲1発明の「固体酸化物形燃料電池の空気極材料」は、「平均粒子径(D_(50))が0.5μmであ」るから、本件発明1の「固体酸化物形燃料電池空気極用の粉体」に相当する。

ウ 上記ア、イより、本件発明1と甲1発明とは、
「La_(0.60)Sr_(0.40)BO_(3)(ただし、元素BはMn、Co及びFeよりなる群から選択される少なくとも一種である。aは3、または、3-δである。δは酸素欠損量である。)で表されるペロブスカイト型結晶構造を有する金属複合酸化物の粉体であって、
固体酸化物形燃料電池空気極用の粉体。」で一致し、次の相違点で相違する。

(相違点1-1)
本件発明1は、「元素BはMnであり、」「粉体を加圧成形して得られる成型体の断面を倍率500倍で観察して180μm×240μmの観察視野を決定し、前記観察視野においてエネルギー分散型X線分析法により前記元素Bの特性X線Kαの強度を測定し、前記特性X線Kαの強度に基づいて前記観察視野の128×96画素のマッピング画像を取得したときに、前記マッピング画像において、前記特性X線Kαの最大強度の50%以上の強度を有し、かつ、前記観察視野の0.04%以上の面積割合を有する領域の個数が5以下であり、前記成型体は、前記粉体2gおよび濃度10質量%のポリビニルアルコール水溶液0.4gを混合および乾燥して得られる造粒粉体0.5gを、10mm×5mmの矩形金型に充填し、成型圧力100MPaで60秒間加圧成型して得られる」のに対し、甲1発明は、元素BがCo及びFeであり、Co酸化物占有率が0.00%である点。

(相違点1-2)
「ペロブスカイト型結晶構造」が、本件発明1は、「単相」であるのに対し、甲1発明は、単相であるか否かが不明である点。

(相違点1-3)
一般式の酸素分子の数が、本件発明1は、「3-δ」であって、「δは酸素欠損量である」のに対し、甲1発明は、「3」である点。

(相違点1-4)
本件発明1では、「粉体の平均粒子径は、10μm以上、35μm以下であ」るのに対し、甲1発明では、「平均粒子径(D_(50))が0.5μmであ」る点。

(1)-2 相違点についての検討
ア まず、相違点1-1について検討する。

イ 甲1には、元素BをMnとすることが記載されていないし、甲1発明は、「製造直後の空気極においてCo酸化物の面積占有率が1%以下と」「低く抑え」ることにより、「SOFCの運転時に温度および酸素分圧が変化しても、ペロブスカイト型酸化物がより安定化され、分解による空気極の劣化が抑制される」(甲1の【0007】)ものであり、B元素としてMnを用いることが何ら考慮されていないから、相違点1-1は、実質的な相違点であるし、甲1発明において、B元素であるCo及びFeを、Mnとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

ウ また、甲1発明の「Co酸化物占有率」は、甲1の【0075】、【0076】に記載されているとおり、空気極材料を混合してペースト状とし、スクリーン印刷法、乾燥、焼成を行うことにより形成した空気極の断面を観察することにより、算出したものである。

エ これに対し、本件発明1の「特性X線Kαの最大強度の50%以上の強度を有し、かつ、前記観察視野の0.04%以上の面積割合を有する領域の個数」は、「成型圧力100MPaで60秒間加圧成型して得られる」「成型体」の断面を観察することにより、算出したものである。

オ すなわち、甲1発明は、加圧していない空気極を観察しているのに対し、本件発明1は、「加圧成型して得られる」「成形体」の断面を観察するものであるから、両者を単純に比較できない。

カ そうすると、甲1発明において、「粉体を加圧成形して得られる成型体の断面を倍率500倍で観察して180μm×240μmの観察視野を決定し、前記観察視野においてエネルギー分散型X線分析法により前記元素Bの特性X線Kαの強度を測定し、前記特性X線Kαの強度に基づいて前記観察視野の128×96画素のマッピング画像を取得したときに、前記マッピング画像において、前記特性X線Kαの最大強度の50%以上の強度を有し、かつ、前記観察視野の0.04%以上の面積割合を有する領域の個数が5以下であり、前記成型体は、前記粉体2gおよび濃度10質量%のポリビニルアルコール水溶液0.4gを混合および乾燥して得られる造粒粉体0.5gを、10mm×5mmの矩形金型に充填し、成型圧力100MPaで60秒間加圧成型して得られる」とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

キ また、上記イでも述べたとおり、甲1発明は、「製造直後の空気極においてCo酸化物の面積占有率が1%以下と」「低く抑え」ることにより、「SOFCの運転時に温度および酸素分圧が変化しても、ペロブスカイト型酸化物がより安定化され、分解による空気極の劣化が抑制される」(甲1の【0007】)ものであるのに対し、本件発明1は、「ペロブスカイト相の生成に寄与しない元素Bが偏在せずに微分散していることにより、導電率が向上する」(【0021】)とともに「高い開気孔率」を「両立」(【0006】)するものであるから、上記カの際に、本件発明1の効果を推測することも、当業者が容易になし得たこととはいえない。

ク したがって、甲1発明において、上記相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

ケ よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

コ また、本件発明2、3は、いずれも本件発明1を引用するものであって、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであり、本件発明1に対し、少なくとも上記相違点1-1で相違するから、上記ア?クで検討した理由と同様の理由で、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)甲2を主たる引用例とした場合
(2)-1 本件発明1と甲2発明との対比
ア 甲2発明の「一般式ABO_(3)で表され、Aサイトには、La及びSrの少なくとも一方が含まれてもよく、(La,Sr)(Co,Fe)O_(3)、(La,Sr)FeO_(3)、(La,Sr)CoO_(3)、La(Ni,Fe)O_(3)、(Sm,Sr)CoO_(3)等の材料」と、本件発明1の「下記一般式:A1_(1-x)A2_(x)BO_(3-δ)(ただし、元素A1はLaおよびSmよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素A2はCa、SrおよびBaよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素BはMnであり、0<x<1、δは酸素欠損量である。)」とは、「下記一般式:A1_(1-x)A2_(x)BO_(3-δ)(ただし、元素A1はLaおよびSmよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素A2はCa、SrおよびBaよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素BはMn、Co、Fe、Niよりなる群から選択される少なくとも一種である。aは3、または、3-δである。δは酸素欠損量である。)」で共通する。

イ 甲2発明の「電極材料は、ペロブスカイト構造を有する複合酸化物を含み、」「電極材料は、粉体(例えば平均粒径0.1μm?5μm程度)であってもよ」い事項と、本件発明1の「ペロブスカイト型単相の結晶構造を有する金属複合酸化物の粉体であ」る事項とは、「ペロブスカイト型結晶構造を有する金属複合酸化物の粉体であ」る事項で共通する。

ウ 甲2発明は、「電極材料は、粉体(例えば平均粒径0.1μm?5μm程度)であってもよ」いから、甲2発明の「固体酸化物型燃料電池の空気極を構成する材料」は、本件発明1の「固体酸化物形燃料電池空気極用の粉体」に相当する。

エ 上記ア?ウより、本件発明1と甲2発明とは、
「下記一般式:
A1_(1-x)A2_(x)BO_(3-δ)
(ただし、元素A1はLaおよびSmよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素A2はCa、SrおよびBaよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素BはMn、Co、Fe、Niよりなる群から選択される少なくとも一種である。aは3、または、3-δである。δは酸素欠損量である。)
で表されるペロブスカイト型結晶構造を有する金属複合酸化物の粉体であって、
固体酸化物形燃料電池空気極用の粉体。」で一致し、次の相違点で相違する。

(相違点2-1)
本件発明1は、「元素BはMnであり、」「粉体を加圧成形して得られる成型体の断面を倍率500倍で観察して180μm×240μmの観察視野を決定し、前記観察視野においてエネルギー分散型X線分析法により前記元素Bの特性X線Kαの強度を測定し、前記特性X線Kαの強度に基づいて前記観察視野の128×96画素のマッピング画像を取得したときに、前記マッピング画像において、前記特性X線Kαの最大強度の50%以上の強度を有し、かつ、前記観察視野の0.04%以上の面積割合を有する領域の個数が5以下であり、前記成型体は、前記粉体2gおよび濃度10質量%のポリビニルアルコール水溶液0.4gを混合および乾燥して得られる造粒粉体0.5gを、10mm×5mmの矩形金型に充填し、成型圧力100MPaで60秒間加圧成型して得られる」のに対し、甲2発明は、元素BがCo、Fe、Niよりなる群から選択される少なくとも一種であり、電極材料における任意の視野内で、10スポットにおいて、EDSにより、原子濃度を取得したとき、Bサイトにおいて得られる標準偏差値が5.03以下であることが好ましいものである点。

(相違点2-2)
「ペロブスカイト型結晶構造」が、本件発明1は、「単相」であるのに対し、甲2発明は、単相であるか否かが不明である点。

(相違点2-3)
一般式の酸素分子の数が、本件発明1は、「3-δ」であって、「δは酸素欠損量である」のに対し、甲2発明は、「3」である点。

(相違点2-4)
本件発明1では、「粉体の平均粒子径は、10μm以上、35μm以下であ」るのに対し、甲2発明では、例えば平均粒径0.1μm?5μm程度である点。

(2)-2 相違点についての検討
ア 上記相違点2-1について検討する。

イ 本件発明1は、「ペロブスカイト相の生成に寄与しない元素Bが偏在せずに微分散していることにより、導電率が向上する」(【0021】)ものであるのに対し、甲2発明は、「空気極の成分の濃度の均一性を高めることで、空気極の劣化を抑制する」(【0007】)ものであり、その目的が異なる。

ウ また、上記イの空気極の成分について、本件発明1は、「元素BはMnであ」るのに対し、甲2発明は、「複合酸化物の組成は、一般式ABO_(3)で表され、Aサイトには、La及びSrの少なくとも一方が含まれてもよく、(La,Sr)(Co,Fe)O_(3)、(La,Sr)FeO_(3)、(La,Sr)CoO_(3)、La(Ni,Fe)O_(3)、(Sm,Sr)CoO_(3)等の材料」であって、BサイトがMnであることが何ら記載されていない。

エ そうすると、上記相違点2-1は、実質的な相違点であるし、甲2発明において、元素BをMnとする動機もない。

オ また、甲2の【0115】、【0116】によれば、甲2発明の「Bサイトにおいて得られる標準偏差値」は、「電極材料の解砕物」の測定を行っている。

カ これに対し、本件発明1の「特性X線Kαの最大強度の50%以上の強度を有し、かつ、前記観察視野の0.04%以上の面積割合を有する領域の個数」は、「成型圧力100MPaで60秒間加圧成型して得られる」「成型体」の断面を観察することにより、算出したものである。

キ すなわち、甲2発明は、電極材料の解砕物を観察しているのに対し、本件発明1は、2「加圧成型して得られる」「成形体」の断面を観察するものであるから、両者を単純に比較できない。

ク また、甲2発明の「Bサイトにおいて得られる標準偏差値」と本件発明1の「特性X線Kαの最大強度の50%以上の強度を有し、かつ、前記観察視野の0.04%以上の面積割合を有する領域の個数」とに、どのような相関関係があるのかも不明である。

ケ そうすると、甲2発明において、「特性X線Kαの最大強度の50%以上の強度を有し、かつ、前記観察視野の0.04%以上の面積割合を有する領域の個数が5以下」とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

コ また、上記イでも述べたとおり、甲2発明は、「空気極の成分の濃度の均一性を高めることで、空気極の劣化を抑制する」(【0007】)ものであるのに対し、本件発明1は、「ペロブスカイト相の生成に寄与しない元素Bが偏在せずに微分散していることにより、導電率が向上する」(【0021】)とともに「高い開気孔率」を「両立」(【0006】)するものであるから、上記ケの際に、本件発明1の効果を想到することも、当業者が容易になし得たこととはいえない。

サ したがって、甲2発明において、上記相違点2-1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

シ よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明ではないし、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

ス また、本件発明2、3は、いずれも本件発明1を引用するものであって、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであり、本件発明1に対し、少なくとも上記相違点2-1で相違するから、上記ア?サで検討した理由と同様の理由で、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)甲3を主たる引用例とした場合
(3)-1 本件発明1と甲3発明との対比
ア 甲3発明の「(La_(0.8)Sr_(0.2))_(0.98)MnO_(3+δ)」と本件発明1の「下記一般式:A1_(1-x)A2_(x)BO_(3-δ)(ただし、元素A1はLaおよびSmよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素A2はCa、SrおよびBaよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素BはMnであり、0<x<1、δは酸素欠損量である。)」とは、「(La_(0.8)Sr_(0.2))_(0.98)MnO_(3+δ)」で共通する。

イ 甲3発明の「粉末である固体酸化物型燃料電池用空気極材料であって、単相のペロブスカイト構造であ」る「固体酸化物型燃料電池用空気極材料」は、本件発明1の「ペロブスカイト型単相の結晶構造を有する金属複合酸化物の粉体であ」る「固体酸化物形燃料電池空気極用の粉体」に相当する。

ウ 本件発明1の「粉体の平均粒子径」は、本件明細書【0027】、【0060】によれば、所謂D50を採用しているから、甲3発明の「体積平均粒径D_(50)が15.1μmであ」る事項は、本件発明1の「粉体の平均粒子径は、10μm以上、35μm以下であ」る事項に含まれる。

エ 上記ア?ウより、本件発明1と甲3発明とは、
「(La_(0.8)Sr_(0.2))_(0.98)MnO_(3+δ)で表されるペロブスカイト型単相の結晶構造を有する金属複合酸化物の粉体であって、
前記粉体の平均粒子径は、15.1μmである、固体酸化物形燃料電池空気極用の粉体。」で一致し、次の点で相違する。

(相違点3-1)
本件発明1は、「粉体を加圧成形して得られる成型体の断面を倍率500倍で観察して180μm×240μmの観察視野を決定し、前記観察視野においてエネルギー分散型X線分析法により前記元素Bの特性X線Kαの強度を測定し、前記特性X線Kαの強度に基づいて前記観察視野の128×96画素のマッピング画像を取得したときに、前記マッピング画像において、前記特性X線Kαの最大強度の50%以上の強度を有し、かつ、前記観察視野の0.04%以上の面積割合を有する領域の個数が5以下であり、前記成型体は、前記粉体2gおよび濃度10質量%のポリビニルアルコール水溶液0.4gを混合および乾燥して得られる造粒粉体0.5gを、10mm×5mmの矩形金型に充填し、成型圧力100MPaで60秒間加圧成型して得られる」のに対し、甲3発明は、「SEM画像上において、一辺が8μmの格子状に分割した12個の格子点をポイント分析箇所として、各格子点におけるランタンのLα線とマンガンのKα線のピーク面積を測定し、そのピーク面積から、各測定点におけるランタンの含有量(w_(a))とマンガンの含有量(w_(b))が式(1)の関係を満足するようにランタンの含有量とマンガンの含有量を算出し、12点の平均をとったところマンガンの平均含有量は31.9wt%であり、変動係数を計算するとマンガンの変動係数(β)は4.3%である」点。
「w_(a)+w_(b)=100(wt%) (1)」

(3)-2 相違点についての検討
ア 上記相違点3-1について、検討する。

イ 甲3発明は、「均一組成を有する新規な固体酸化物型燃料電池用複合酸化物粉末を提供すること」(【0010】)を課題とするものであるところ、甲3発明との関連性が定かではないものの、甲3には、「空気極を構成する空気極材料」に要求される特性として、「(2)電子伝導性が高いこと」が挙げられている。

ウ そうすると、甲3発明において、マンガンを均一組成とする動機があるといえる。

エ ここで、甲3の【0066】?【0068】の記載によれば、甲3発明の「マンガンの変動係数(β)」は、粉末状の空気極材料を観察するものである。

オ これに対し、本件発明1の「観察視野の0.04%以上の面積割合を有する領域の個数」は、「成型圧力100MPaで60秒間加圧成型して得られる」「成型体」の断面を観察することにより、算出したものである。

カ すなわち、甲3発明は、加圧していない粉末を観察しているのに対し、本件発明1は、「加圧成型して得られる」「成形体」の断面を観察するものであるから、両者の数値を単純に比較できない。

キ また、甲3発明の「マンガンの変動係数(β)」と、本件発明1の「特性X線Kαの最大強度の50%以上の強度を有し、かつ、前記観察視野の0.04%以上の面積割合を有する領域の個数」との関連性も不明であるから、両者の数値がどの程度異なるかも不明であるし、本件発明1の「微分散」(【0021】)と甲3発明の「均一組成」(甲3の【0010】)とが、どの程度異なるかも不明である。

ク そうすると、上記ウのとおり、甲3発明において、マンガンを均一組成とする動機があったとしても、上記カ、キの理由から、甲3発明において、「特性X線Kαの最大強度の50%以上の強度を有し、かつ、前記観察視野の0.04%以上の面積割合を有する領域の個数」を「5以下」とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

ケ また、上記イのとおり、甲3発明は、「均一組成を有する新規な固体酸化物型燃料電池用複合酸化物粉末を提供すること」(【0010】)を課題とするものであるのに対し、本件発明1は、「ペロブスカイト相の生成に寄与しない元素Bが偏在せずに微分散していることにより、導電率が向上する」(【0021】)とともに「高い開気孔率」を「両立」(【0006】)するものであるから、上記クの際に、本件発明1の「高い開気孔率」という効果を想到することも、当業者が容易になし得たこととはいえない。

コ したがって、甲3発明において、上記相違点3-1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

サ よって、本件発明1は、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

シ また、本件発明2、3は、いずれも本件発明1を引用するものであって、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであり、本件発明1に対し、少なくとも上記相違点3-1で相違するから、上記ア?コで検討した理由と同様の理由で、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

7 申立人の主張について
(1)平均粒子径について
令和3年4月19日付けの意見書(第5頁第8行?第6頁第9行)において、申立人は、本件発明1の「粉体の平均粒子径は、10μm以上、35μm以下であ」る「粉体」は、おおよそ60μmの粒子を20%も含むから、測定視野の位置によるばらつきを小さくすることはできない旨主張している。
しかしながら、本件発明1の「粉体」が、おおよそ60μmの粒子を20%も含むとしても、それ以外に細かい粒子を多く含み、この細かい粒子がおおよそ60μmの粒子の隙間に存在することとなると考えられるから、測定視野の位置によるばらつきが大きいとまではいえない。
よって、申立人の主張には、理由がない。

(2)新たな主張について
令和3年4月19日付けの意見書において、申立人が主張する「平均粒子径は、10μm以上、35μm以下」(第4頁第13?19行)に関する主張は、「粉体の平均粒子径は、10μm以上、35μm以下であ」る事項は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項4に記載された事項であるにもかかわらず、特許異議申立書において、申し立てられた理由ではないから、採用しない。
また、令和3年4月19日付けの意見書において、申立人が主張する「訂正発明1の解釈について」(第6頁第10行?第7頁第1行)に関する主張は、訂正前も指摘可能であったにもかかわらず、特許異議申立書において、申し立てられた理由ではないから、採用しない。
さらに、令和3年4月19日付けの意見書において、申立人が主張する「成形体の密度について」(第7頁第3?15行)に関する主張は、特許異議申立書において、明確性違反として申し立てられた理由であって、サポート要件違反として申し立てられたものではないから、採用しない。
また、令和3年4月19日付けの意見書において、申立人が主張する「焼成粉体の粒度分布について」(第7頁第16?27行)に関する主張は、特許異議申立書において、申し立てられた理由ではないから、採用しない。

8 むすび
以上のとおり、本件の請求項1?3に係る特許は、令和2年11月30日付けで通知された取消理由に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできず、また、他に本件の請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件の請求項4は、本件訂正により削除されたから、本件の請求項4に係る特許に対して、申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式:
A1_(1-x)A2_(x)BO_(3-δ)
(ただし、元素A1はLaおよびSmよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素A2はCa、SrおよびBaよりなる群から選択される少なくとも一種であり、元素BはMnであり、0<x<1、δは酸素欠損量である。)
で表されるペロブスカイト型単相の結晶構造を有する金属複合酸化物の粉体であって、
前記粉体の平均粒子径は、10μm以上で35μm以下であり、
前記粉体を加圧成形して得られる成型体の断面を倍率500倍で観察して180μm×240μmの観察視野を決定し、前記観察視野においてエネルギー分散型X線分析法により前記元素Bの特性X線Kαの強度を測定し、前記特性X線Kαの強度に基づいて前記観察視野の128×96画素のマッピング画像を取得したときに、前記マッピング画像において、前記特性X線Kαの最大強度の50%以上の強度を有し、かつ、前記観察視野の0.04%以上の面積割合を有する領域の個数が5以下であり、
前記成型体は、前記粉体2gおよび濃度10質量%のポリビニルアルコール水溶液0.4gを混合および乾燥して得られる造粒粉体0.5gを、10mm×5mmの矩形金型に充填し、成型圧力100MPaで60秒間加圧成型して得られる、固体酸化物形燃料電池空気極用の粉体。
【請求項2】
前記元素A1はLaを含み、
前記元素A2はSrを含む、請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池空気極用の粉体。
【請求項3】
前記粉体のBET法に基づく比表面積は、0.05m^(2)/g以上、0.3m^(2)/g以下である、請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池空気極用の粉体。
【請求項4】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-06-21 
出願番号 特願2019-51329(P2019-51329)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01M)
P 1 651・ 537- YAA (H01M)
P 1 651・ 113- YAA (H01M)
P 1 651・ 536- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 太田 一平  
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 土屋 知久
市川 篤
登録日 2020-03-09 
登録番号 特許第6673511号(P6673511)
権利者 堺化学工業株式会社
発明の名称 固体酸化物形燃料電池空気極用の粉体およびその製造方法  
代理人 特許業務法人河崎・橋本特許事務所  
代理人 特許業務法人河崎・橋本特許事務所  

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