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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B23K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B23K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B23K
審判 全部申し立て 2項進歩性  B23K
管理番号 1376742
異議申立番号 異議2020-700591  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-08-13 
確定日 2021-07-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6645317号発明「接合用粉末及びこの粉末の製造方法並びにこの粉末を用いた接合用ペーストの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6645317号の特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔2-5〕について訂正することを認める。 特許第6645317号の請求項1?5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6645317号(以下「本件特許」という。)の請求項1?5に係る特許についての出願は,平成28年3月30日に出願され,令和2年1月14日にその特許権の設定登録がされ,同年2月14日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後,令和2年8月13日に,本件特許の請求項1?5に係る特許に対して,特許異議申立人である山下桂(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ,当審は,同年11月30日付けで取消理由を通知し,特許権者は,令和3年1月13日に意見書及び訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)を提出した。
なお,令和3年2月1日付けで当審から申立人に対し,訂正の請求があった旨の通知をするとともに,相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが,申立人から意見書は提出されなかった。


第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の請求は,本件特許の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項2?5について訂正することを求めるものであって,その内容は以下のとおりである。なお,下線は訂正箇所を表す。

(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2に「平均粒径が0.95μm以上28.58μm以下であり中心核となるCu_(3)Sn粉末を水に分散させて第1分散液を得る工程と,」とあるのを,「平均粒径が0.95μm以上28.58μm以下であり中心核となるCu_(3)Sn金属間化合物粉末を水に分散させて第1分散液を得る工程と,」に訂正する。
請求項2の記載を直接又は間接的に引用する請求項4及び5も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3に「平均粒径が0.95μm以上28.58μm以下であり中心核となるCu_(3)Sn粉末を水に分散させて第1分散液を得る工程と,」とあるのを,「平均粒径が0.95μm以上28.58μm以下であり中心核となるCu_(3)Sn金属間化合物粉末を水に分散させて第1分散液を得る工程と,」に訂正する。
請求項3の記載を直接又は間接的に引用する請求項4及び5も同様に訂正する。

(3)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2?5について,請求項4及び5は,請求項2又3を直接又は間接的に引用するものであり,上記訂正事項1並びに2によって訂正される請求項2,4及び5並びに請求項3,4及び5に連動して訂正されるものが組み合わされて,訂正前の請求項2?5は,一群の請求項である。
したがって,本件訂正は,その一群の請求項ごとに請求がされたものである。

2 訂正の適否に関する当審の判断
(1)訂正の目的の適否,特許請求の範囲の拡張・変更の存否,新規事項の有無
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的の適否,特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1による訂正は,本件訂正前の請求項2に記載された「Cu_(3)Sn粉末」について,「Cu_(3)Sn組成の金属粉末」あるいは「Cu_(3)Sn金属間化合物粉末」のいずれを意味するのか不明であったものを,「Cu_(3)Sn金属間化合物粉末」であることを明らかにするものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。
また,訂正事項1による訂正は,「Cu_(3)Sn粉末」が「Cu_(3)Sn金属間化合物粉末」であることを特定するものであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,または変更するものには該当しない。

(イ)新規事項の有無
本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0028】には,接合用粉末が一層被覆粉末である場合に,「中心核11が銅と錫との金属間化合物であるCu_(3)Snからな」ると記載されているから,訂正事項1は,本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。

イ 訂正事項2について
(ア)訂正の目的の適否,特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2による訂正は,本件訂正前の請求項3に記載された「Cu_(3)Sn粉末」について,「Cu_(3)Sn組成の金属粉末」あるいは「Cu_(3)Sn金属間化合物粉末」のいずれを意味するのか不明であったものを,「Cu_(3)Sn金属間化合物粉末」であることを明らかにするものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。
また,訂正事項2による訂正は,「Cu_(3)Sn粉末」が「Cu_(3)Sn金属間化合物粉末」であることを特定するものであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,または変更するものには該当しない。

(イ)新規事項の有無
本件明細書の【0046】には,接合用粉末が二層被覆粉末である場合に,「中心核31が銅と錫との金属間化合物であるCu_(3)Snからな」ると記載されているから,訂正事項2は,本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。

(2)独立特許要件について
本件訂正は,特許法120条の5第2項ただし書3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であるから,特許法120条の5第9項で読み替えて準用する特許法126条7項は適用されない。

3 訂正の適否についての結論
以上のとおり,本件訂正は,特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
したがって,特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔2?5〕について訂正することを認める。


第3 本件発明
本件訂正は,上記第2で検討したとおり適法なものであるから,本件特許の特許請求の範囲の請求項1?5に係る発明(以下,それぞれ「本件発明1」?「本件発明5」といい,総称して「本件発明」ということがある。)は,本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりの次のものである。

「【請求項1】
中心核と前記中心核を被覆する被覆層とにより構成される接合用粉末において,
前記中心核が銅と錫との金属間化合物であるCu_(3)Snからなり,前記被覆層が,錫からなる一層により構成されるか,或いは銅と錫との金属間化合物であるCu_(6)Sn_(5)からなる内層及び錫からなる外層の二層により構成され,前記接合用粉末の平均粒径が1μm以上30μm以下であり,前記接合用粉末の全体量100質量%に対して前記銅の含有割合が52質量%以上60質量%以下であることを特徴とする接合用粉末。
【請求項2】
平均粒径が0.95μm以上28.58μm以下であり中心核となるCu_(3)Sn金属間化合物粉末を水に分散させて第1分散液を得る工程と,
錫の金属塩と還元剤を前記第1分散液に添加混合して前記錫の金属塩が溶解して生成される錫イオンが前記還元剤で還元されることにより析出した錫が前記中心核を被覆してこの錫を被覆層とする一層被覆粉末を得る工程と,
前記一層被覆粉末が分散した第2分散液を固液分離し,前記固液分離した固形分の一層被覆粉末を乾燥する工程と
を含む接合用粉末の製造方法であって,
前記接合用粉末は,平均粒径が1μm以上30μm以下であり,前記接合用粉末の全体量100質量%に対して銅の含有割合が52質量%以上60質量%以下であることを特徴とする接合用粉末の製造方法。
【請求項3】
平均粒径が0.95μm以上28.58μm以下であり中心核となるCu_(3)Sn金属間化合物粉末を水に分散させて第1分散液を得る工程と,
錫の金属塩と還元剤を前記第1分散液に添加混合して前記錫の金属塩が溶解して生成される錫イオンが前記還元剤で還元されることにより析出した錫が前記中心核を被覆してこの錫を被覆層の外層とする一層被覆粉末を得る工程と,
前記一層被覆粉末が分散した第2分散液を固液分離して固形分を得る工程と,
前記固液分離した固形分に高沸点溶媒を添加混合して不活性ガス雰囲気中で熱処理することにより前記外層の内部が反応して銅と錫との金属間化合物であるCu_(6)Sn_(5)からなる内層を前記中心核と前記外層との間に形成して二層被覆粉末を得る工程と,
前記二層被覆粉末を固液分離し,前記固液分離した固形分の二層被覆粉末を乾燥する工程と
を含む接合用粉末の製造方法であって,
前記接合用粉末は,平均粒径が1μm以上30μm以下であり,前記接合用粉末の全体量100質量%に対して銅の含有割合が52質量%以上60質量%以下であることを特徴とする接合用粉末の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の接合用粉末或いは請求項2又は3記載の方法で製造された接合用粉末と接合用フラックスを混合して接合用ペーストを製造する方法。
【請求項5】
請求項4記載の方法で製造された接合用ペーストを用いて電子部品を実装する方法。」


第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要
1 特許異議の申立ての理由の概要
申立人は,異議申立理由として以下(5)の証拠方法に基づき,以下(1)?(4)を概要とする理由を主張し,本件特許の請求項1?5に係る特許は取り消されるべき旨を申立てた。

(1)異議申立理由1(明確性)
本件特許の請求項1に係る発明及び本件訂正前の請求項4及び5に係る発明は,請求項1における「金属間化合物であるCu_(3)Snからなり」の記載の意義が多義的で,中心核がCu_(6)Sn_(5)等のCu_(3)Sn以外の相を含むものを包含するのか否かが不明であるから,同発明に係る特許は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法113条4号に該当し,取り消されるべきものである。

(2)異議申立理由2(サポート要件)
下記ア及びイの申立理由2-1及び2-2により,本件特許の請求項1に係る発明及び本件訂正前の請求項2?5に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから,同発明に係る特許は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法113条4号に該当し,取り消されるべきものである。

ア 申立理由2-1
本件明細書の記載をふまえれば,中心核がCu_(3)SnとCu_(6)Sn_(5)の2相で構成された接合用粉末は本件発明の課題を解決できず,Cu_(3)Snを単相とすることによりはじめて当該課題を解決できると把握できるが,本件特許の請求項1では,中心核について「Cu_(3)Snからなる」としか特定されておらず,その結晶構造がCu_(3)Sn単相により構成されていることや,他の結晶相を含まないことについては何も特定されていないから,同請求項1及び請求項1を直接又は間接的に引用する本件訂正前の請求項4及び5に係る発明は,本件明細書の記載から把握される接合用粉末の発明よりも広い範囲を含むものであって,本件発明が解決しようとする課題を解決できない態様を含み,この結果,同請求項1及び請求項1を直接又は間接的に引用する本件訂正前の請求項4及び5に係る発明において,発明の詳細な説明に記載された,発明の課題を解決するための手段が反映されていないため,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えたものとなっている。

イ 申立理由2-2
本件訂正前の請求項2及び3における「中心核となるCu_(3)Sn粉末」は,本件明細書の記載を参酌すれば,様々な原料の混合物であって,その構成元素の組成がモル比でCu:Sn=3:1である混合粉末を意味するものと把握できるが,本件明細書の記載を考慮すると,同請求項2及び3によって得られる接合用粉末は,本件明細書の記載から把握される接合用粉末よりも広い範囲を含むものであって,発明が解決しようとする課題を解決できない態様を含む結果,同請求項2及び3において,発明の詳細な説明に記載された,発明の課題を解決するための手段が反映されていないため,同請求項2及び3並びに同請求項2又は3を直接又は間接的に引用する本件訂正前の請求項4及び5に係る発明は,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えたものとなっている。

(3)異議申立理由3(実施可能要件)
本件明細書は,本件特許の請求項1に係る発明のうちCu_(3)Sn相のみからなる中心核を備える態様について「作れるように」記載されていないし,本件明細書は,本件訂正前の請求項2及び3に係る発明のうちCu_(3)Sn相からなる中心核を備える態様について「その方法により物を作ることができるようにj 記載されていない。
よって,本件特許の発明の詳細な説明の記載は,当業者が同請求項1及び本件訂正前の請求項2?5に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから,同発明に係る特許は,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法113条4号に該当し,取り消されるべきものである。

(4)申立理由4(新規性)
ア 申立理由4-1
本件特許の請求項1及び本件訂正前の請求項2?5に係る発明は,甲第1号証に記載された発明であるから,同発明に係る特許は特許法29条1項3号の規定に違反してされたものであり,同法113条2号に該当し,取り消されるべきものである。

イ 申立理由4-2
本件特許の請求項1及び本件訂正前の請求項4,5に係る発明は,甲第2号証に記載された発明であるから,同発明に係る特許は特許法29条1項3号の規定に違反してされたものであり,同法113条2号に該当し,取り消されるべきものである。

(5)申立理由5(進歩性)
ア 申立理由5-1
本件特許の請求項1及び本件訂正前の請求項2?5に係る発明は,甲第1号証に記載された発明に基いて,あるいは甲第1号証に記載された発明に甲第2号証に記載された発明を適用することにより,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,同発明に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法113条2号に該当し,取り消されるべきものである。

イ 申立理由5-2
本件特許の請求項1及び本件訂正前の請求項2,4及び5に係る発明は,甲第2号証に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同発明に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法113条2号に該当し,取り消されるべきものである。

(6)証拠方法
甲第1号証:国際公開第2014/168027号
甲第2号証:特開2014-193473号公報
甲第3号証:国際公開第2014/007064号
甲第4号証:特開2014-41980号公報
甲第5号証:特開2012-36436号公報
甲第6号証:特開2009-105327号公報
甲第7号証:知的財産高等裁判所平成20年(行ケ)10107号判決

以下,「甲第1号証」?「甲第7号証」を,それぞれ「甲1」?「甲7」という。

2 当審から通知した取消理由
当審は,上記1の特許異議の申立ての理由を検討した結果,いずれの理由も採用しなかったが,職権により明確性要件違反について,令和2年11月30日付けで取消理由を通知した。

第5 当審の判断
当審は,特許権者が提出した令和3年1月13日付けの意見書及び訂正請求書を踏まえて検討した結果,以下のとおり,取消理由は解消するとともに,特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由及びその他の理由によっても,本件特許の請求項1?5に係る特許を取り消すことはできないと判断した。

1 取消理由通知に記載した取消理由について
ア 令和2年11月30日付け取消理由通知に記載した取消理由(明確性)は,本件訂正前の請求項2及び3に記載された「Cu_(3)Sn粉末」が,「Cu_(3)Sn組成の金属粉末」あるいは「Cu_(3)Sn金属間化合物粉末」のいずれを意味するのか不明であるから,本件訂正前の請求項2及び3に係る発明並びに当該請求項を直接又は間接的に引用する本件訂正前の請求項4及び5に係る発明は明確でないというものであった。

イ これに対して,本件訂正により,上記第2のとおり,本件訂正前の請求項2及び3に記載された「Cu_(3)Sn粉末」が,「Cu_(3)Sn金属間化合物粉末」であると明らかにされたから,上記取消理由(明確性)は解消した。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由について
(1)異議申立理由1(明確性)
ア 異議申立理由1(明確性)についての申立人の主張の概略は,上記第4の1(1)のとおりであるとともに,その根拠として以下(ア)及び(イ)が主張されている。

(ア)本件明細書において,「Cu_(3)Sn」という用語は,金属相の種類ではなく構成元素の平均組成を表すものとしても用いられている(【0033】,【0050】)ことを踏まえると,請求項1の「金属間化合物であるCu_(3)Sn」という用語が,平均組成がCu_(3)Snである金属間化合物を特定しているのか,Cu_(3)Sn単相からなる金属間化合物を特定しているのかを明確に把握することができない。

(イ)「Cu_(3)Snからなり」という用語が,Cu_(3)Sn相のみからなるものをいうのか,Cu_(6)Sn_(5)相などの他の相を含むものを包含するのかを明確に把握することができない。「からなり」という記載は,本件の如く対象が合金材料である場合,直前に列挙した要素以外の他の成分の存在を許容しないという解釈もあれば,他の成分を含んでもよいという解釈も考えられる。

イ 上記アの主張について検討すると,上記ア(ア)について,本件発明が属する技術分野において,「金属間化合物であるCu_(3)Sn」という記載は,CuとSnが結合して化合物となったものを意味するのであって,構成元素の平均組成を表すものを意味するのでないことは,明らかなことであるといえる。

ウ また,本件明細書の【0033】には「Cu_(3)Sn粉末は,アトマイズ法により製造し,この粉末を真空雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下で50?100℃の温度で粉末全体がCu_(3)Sn相になるまで加熱」と記載され,同【0050】には「アトマイズ法により製造したCu_(3)Sn組成の金属粉末20kgを,真空加熱炉に入れて80℃で6時間加熱処理してCu_(3)Sn金属間化合物粉末とした。」と記載されているところ,「Cu_(3)Sn粉末」又は「Cu_(3)Sn組成の金属粉末」は,加熱処理により「Cu_(3)Sn相」又は「Cu_(3)Sn金属間化合物粉末」となる原料を意味するものとして区別されており,本件明細書において,「Cu_(3)Sn」という用語が金属相の種類ではなく構成元素の平均組成を表すものとしても用いられているということはできない。

エ さらに,上記ア(イ)について,含有する金属が一部異なると,特質が全く異なるものとなる合金における分野に係る本件発明においては,「中心核が銅と錫との金属間化合物であるCu_(3)Snからなり」との記載が,中心核に「Cu_(3)Sn」のみを含むものを意味することは明らかであり,本件明細書を参酌しても,【0021】において「中心核を融点が676℃であるCu_(3)Snにより構成し,第1被覆層を銅により構成することにより,中心核を融点が415℃であるCu_(6)Sn_(5)のような銅と錫との金属間化合物により構成し,被覆層を錫のみで構成した特許文献3の接合用粉末と比較して,接合後の耐熱性が高く接合強度も高くなる。」と記載されているように,融点を変化させることになる他の成分を中心核が含むものではないことが理解できる。

オ よって,申立人の上記アの主張を採用することはできず,本件発明1,4及び5が明確でないとはいえない。

(2)異議申立理由2(サポート要件)
ア 申立理由2-1
(ア)異議申立理由2(サポート要件)における申立理由2-1についての申立人の主張の概略は,上記第4の1(2)アのとおりである。

(イ)上記第4の1(2)アにおける申立人の主張は,本件発明1では,中心核について「Cu_(3)Snからなる」としか特定されておらず,その結晶構造がCu_(3)Sn単相により構成されていることや,他の結晶相を含まないことについては何も特定されていないことを前提とするものであるが,上記(1)のとおり,本件発明1の特定事項である「中心核が銅と錫との金属間化合物であるCu_(3)Snからなり」は,中心核に「Cu_(3)Sn」のみを含むものを意味することは明らかであるから,申立人の主張は,上記前提を誤ったものである。

(ウ)したがって,申立人による申立理由2-1の主張を採用することはできない。

イ 申立理由2-2
(ア)異議申立理由2(サポート要件)における申立理由2-2についての申立人の主張の概略は,上記第4の1(2)イのとおりである。

(イ)上記第4の1(2)イにおける申立人の主張は,本件訂正前の請求項2及び3における「中心核となるCu_(3)Sn粉末」の記載は,様々な原料の混合物であって,その構成元素の組成がモル比でCu:Sn=3:1である混合粉末を意味するものと把握できることを前提とするものであるが,本件訂正により,「中心核となるCu_(3)Sn粉末」は,「中心核となるCu_(3)Sn金属間化合物粉末」とされ,「Cu_(3)Sn粉末」が金属間化合物であると明らかになったことから,申立人の主張は,上記前提を誤ったものとなった。

(ウ)したがって,申立人による申立理由2-2の主張を採用することはできない。

ウ よって,本件発明が発明の詳細な説明に記載したものでないということはできない。

(3)異議申立理由3(実施可能要件)
ア 異議申立理由3(実施可能要件)についての申立人の主張の概略は,上記第4の1(3)のとおりであるとともに,本件明細書の実施例には,中心核の粉末全体がCu_(3)Sn相で構成されたものを得たことについて,これを確認した実験事実は何ら記載されていないと主張している。

イ 上記主張について検討すると,本件明細書の【0033】には「Cu_(3)Sn粉末は,アトマイズ法により製造し,この粉末を真空雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下で50?100℃の温度で粉末全体がCu_(3)Sn相になるまで加熱」と記載され,同【0050】には「アトマイズ法により製造したCu_(3)Sn組成の金属粉末20kgを,真空加熱炉に入れて80℃で6時間加熱処理してCu_(3)Sn金属間化合物粉末とした。」と記載されているように,Cu_(3)Sn粉末を所定の温度及び時間の条件で加熱処理することによりCu_(3)Sn金属間化合物粉末が得られることが本件明細書に記載されている。

ウ また,Cu_(3)Sn粉末全体がCu_(3)Sn相で構成されたことを確認したことが明細書に示されていないとしても,上記加熱処理条件では粉末全体がCu_(3)Sn相とはならないという技術常識は認められないし,そのことを具体的な根拠をもって申立人が主張しているものでもない。

エ よって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。

(4)申立理由4-1(新規性)及び申立理由5?1(進歩性)
ア 甲1に記載された発明
(ア)甲1の請求項1の記載において,金属間化合物粉末に着目すると,同請求項1には「ソルダペーストを構成する金属粉末成分とフラックス成分のうち,該金属粉末成分がCuおよびSnからなる金属間化合物粉末であって,表面に金属バリア層が被覆されている金属間化合物粉末。」が記載されているといえる。

(イ)また,甲1には,ソルダペーストは基板接合に用いられること([0001]),金属間化合物がCu_(3)Snを含むこと([0043]),金属バリア層がSnであるか([0053]),あるいはSnを含む2層以上の層であること([0059]),金属間化合物粉末の平均粒径が0.1?30μmであること([0047]),金属間化合物粉末中のSnとCuとの質量比は,7:3?2:8であること([0043])がそれぞれ記載されている。

(ウ)してみると,上記(ア)及び(イ)から,甲1には以下の発明(以下「甲1A発明」という。)が記載されているものと認められる。

<甲1A発明>
基板接合に用いられるソルダペーストを構成する金属粉末成分とフラックス成分のうち,該金属粉末成分がCuおよびSnからなる金属間化合物粉末であり,表面に金属バリア層が被覆されている金属間化合物粉末であって,
前記金属間化合物がCu_(3)Snを含み,
前記金属バリア層がSnであるか,あるいはSnを含む2層以上の層であり,
前記金属間化合物粉末の平均粒径が0.1?30μmであり,
前記金属間化合物粉末中のSnとCuとの質量比は,7:3?2:8である金属間化合物粉末。

(エ)また,甲1には,物の発明である甲1A発明に係る金属間化合物粉末の製造方法であって,金属バリア層の形成を「溶融めっき法や電解めっき法,無電解めっき法など」で行うもの([0061])として,以下の発明(以下「甲1B発明」という。)が記載されているものと認められる

<甲1B発明>
基板接合に用いられるソルダペーストを構成する金属粉末成分とフラックス成分のうち,該金属粉末成分がCuおよびSnからなる金属間化合物粉末であり,表面に溶融めっき法や電解めっき法,無電解めっき法などで金属バリア層が被覆されている金属間化合物粉末の製造方法であって,
前記金属間化合物がCu_(3)Snを含み, 前記金属バリア層がSnであるか,あるいはSnを含む2層以上の層であり,
前記金属間化合物粉末の平均粒径が0.1?30μmであり,
前記金属間化合物粉末中のSnとCuとの質量比は,7:3?2:8である金属間化合物粉末の製造方法。

(オ)さらに,甲1A発明及び甲1B発明並びに甲1の請求項1の記載におけるソルダペーストに着目すると,甲1には,ソルダペーストの製造方法に関して以下の発明(以下「甲1C発明」という。)が記載されているものと認められる。

<甲1C発明>
甲1A発明の金属間化合物粉末成分或いは甲1B発明で得られた金属間化合物粉末成分とから構成されるソルダペーストの製造方法。

(カ)そして,甲1には,ソルダペーストを用いて形成されたはんだ継手(請求項10)と,はんだ継手を電子部品の製造時に用いることを想定した記載([0084])があることから,甲1には,以下の発明(以下「甲1D発明」という。)が記載されているものと認められる。

<甲1D発明>
甲1C発明で製造されたソルダペーストを用いて電子部品を実装する方法。

イ 本件発明1について
(ア)甲1A発明との対比
a 本件発明1と甲1A発明とを対比すると,甲1A発明の「金属間化合物粉末」及び「金属バリア層」は,それぞれ本件発明1の「接合用粉末」及び「被覆層」に相当する。

b また,甲1A発明の金属間化合物粉末において,表面に被覆された金属バリア層を除いたものが,本件発明1の「中心核」に相当し,いずれも銅と錫との金属間化合物からなるものである点で共通する。

c さらに,甲1A発明における「金属間化合物粉末中のSnとCuとの質量比は,7:3?2:8である」ことは,本件発明1と同様に,金属間化合物粉末の全体量に対するCuの含有割合として表せば,30?80質量%であることを意味するものである。

d してみると,両者は,以下の一致点及び相違点を有している。

<一致点>
「中心核と前記中心核を被覆する被覆層とにより構成される接合用粉末において,
前記中心核が銅と錫との金属間化合物からなり,前記被覆層が,錫からなる一層により構成されるか,或いは錫を含む二層により構成される接合用粉末。」である点。

<相違点1A-1>
中心核となる銅と錫との金属間化合物について,本件発明1は,「Cu_(3)Snからな」るものであるのに対し,甲1A発明は,「Cu_(3)Snを含」むものである点。

<相違点1A-2>
接合用粉末の平均粒径について,本件発明1は,「1μm以上30μm以下」であるのに対し,甲1A発明は,「0.1?30μm」である点。

<相違点1A-3>
接合用粉末の全体量100質量%に対する銅の含有割合について,本件発明1は,「52質量%以上60質量%以下」であるのに対し,甲1A発明は,「30?80質量%」である点。

(イ)相違点についての判断
a 実質的な相違点であるか否かについて
(a)相違点1A-1について検討すると,本件発明1における「Cu_(3)Snからなり」は,上記(1)のとおり,他の成分を含まないことを意味するといえるから,相違点1A-1は実質的な相違点である。

(b)したがって,他の相違点について検討するまでもなく,本件発明1と甲1A発明とは実質的に相違するものである。

b 容易想到性について
(a)相違点1A-1について検討すると,甲1A発明の金属間化合物は,Cu_(3)Snを含むものであって,甲1の[0043]において,Cu_(3)Sn以外には,Cu_(6)Sn_(5)が例示されているところ,これらの金属間化合物の中から,Cu_(3)Snのみとする動機付けは,甲1のみならず,甲2?6においても認められない。

(b)そして,本件発明1は,相違点1A-1に係る特定事項を備えることにより,「接合後の耐熱性が高く接合強度も高くなる」(【0021】)という顕著な効果奏するものである。

(c)したがって,他の相違点について検討するまでもなく,本件発明1は,甲1A発明及び甲2?6に記載された事項に基いて,当業者が容易に想到し得るものでない。

(d)相違点1A-1に関して,申立人は特許異議申立書の66頁4?12行において,「甲第1号証の[0044]には,「本発明に係るソルダペーストでは,金属間化合物として,Cu_(3)Snを含有することが好ましい。ソルダペースト中にCu_(3)Snが存在していると,リフローによるはんだ継手形成時にはんだ中のSnと,金属間化合物粉末中のCu_(3)Snが反応し,Cu_(3)Snの一部がCu_(6)Sn_(5)に変化して,この新たに形成されたCu_(6)Sn_(5)が,予め添加されていた金属間化合物粉末の間および接続端子と金属間化合物粉末との問でCu_(6)Sn_(5)の網目構造を形成するためである。」と記載されている。したがって,甲1A発明において,好適な網目構造を形成する目的を追求して,中心核がCu_(3)Sn単相からなるものとすることは,当業者が容易に想到し得たことといえる。」旨主張している。

(e)しかしながら,上記甲1の[0044]の記載は,リフロー前の金属間化合物がCu_(3)Snのみであることが好ましいとしているものではなく,Cu_(3)Snを含有することが好ましいとするものであり,上記のとおり,甲1の[0043]において挙げられている,Cu_(3)Sn以外のCu_(6)Sn_(5)の含有を否定するものではないから,申立人の上記主張を採用することはできない。

(ウ)本件発明1についての小括
よって,本件発明1は,甲1に記載された発明でないし,甲1に記載された発明及び甲2?6に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明することができたものでもない。

ウ 本件発明2について
(ア)甲1B発明との対比
a 本件発明2と甲1B発明とを対比すると,甲1B発明の「金属間化合物粉末」及び「金属バリア層」は,それぞれ本件発明2の「接合用粉末」及び「被覆層」に相当する。

b また,甲1B発明の金属間化合物粉末において,表面に被覆された金属バリア層を除いたものが,本件発明2の「中心核」に相当し,いずれも銅と錫との金属間化合物からなるものである点で共通する。

c さらに,甲1B発明における「金属間化合物粉末中のSnとCuとの質量比は,7:3?2:8である」ことは,本件発明2と同様に,金属間化合物粉末の全体量に対するCuの含有割合として表せば,30?80質量%であることを意味するものである。

d してみると,両者は,以下の一致点及び相違点を有している。

<一致点>
「中心核である銅と錫との金属間化合物からなる金属間化合物粉末に錫を被覆してこの錫を被覆層とする被覆粉末を得る接合用粉末の製造方法。」である点。

<相違点1B-1>
中心核の平均粒径について,本件発明2は,「0.95μm以上28.58μm以下」であるのに対し,甲1B発明は,平均粒径が不明な点。

<相違点1B-2>
中心核となる銅と錫との金属間化合物について,本件発明2は,「Cu_(3)Sn」であるのに対し,甲1B発明は,「Cu_(3)Snを含」むものである点。

<相違点1B-3>
金属間化合物粉末への錫の被覆について,本件発明2は,「金属間化合物粉末を水に分散させて第1分散液を得る工程と,錫の金属塩と還元剤を前記第1分散液に添加混合して前記錫の金属塩が溶解して生成される錫イオンが前記還元剤で還元されることにより析出した錫が前記中心核を被覆してこの錫を被覆層とする一層被覆粉末を得る工程と,前記一層被覆粉末が分散した第2分散液を固液分離し,前記固液分離した固形分の一層被覆粉末を乾燥する工程」によるものであるのに対し,甲1B発明は,金属間化合物粉末の「表面に溶融めっき法や電解めっき法,無電解めっき法などで金属バリア層」を被覆するものである点。

<相違点1B-4>
接合用粉末の平均粒径について,本件発明2は,「1μm以上30μm以下」であるのに対し,甲1B発明は,「0.1?30μm」である点。

<相違点1B-5>
接合用粉末の全体量100質量%に対する銅の含有割合について,本件発明2は,「52質量%以上60質量%以下」であるのに対し,甲1A発明は,「30?80質量%」である点。

(イ)相違点についての判断
事案に鑑み,相違点1B-2について検討する。

a 実質的な相違点であるか否かについて
(a)本件発明2における「Cu_(3)Sn金属間化合物粉末」は,Cu_(6)Sn_(5)等の他の銅と錫との金属間化合物を含まないことを意味するといえるから,相違点1B-2は実質的な相違点である。

(b)したがって,他の相違点について検討するまでもなく,本件発明2と甲1B発明とは実質的に相違するものである。

b 容易想到性について
(a)甲1B発明における銅と錫との金属間化合物は,Cu_(3)Snを含むものであって,甲1の[0043]において,Cu_(3)Sn以外には,Cu_(6)Sn_(5)が例示されているところ,これらの金属間化合物の中から,Cu_(3)Snのみとする動機付けは,甲1のみならず,甲2?6においても認められない。

(b)そして,本件発明2は,相違点2B-2に係る特定事項を備えることにより,「接合後の耐熱性が高く接合強度も高くなる」(【0021】)という顕著な効果を奏するものである。

(c)したがって,他の相違点について検討するまでもなく,本件発明2は,甲1B発明及び甲2?6に記載された事項に基いて,当業者が容易に想到し得るものでない。

(ウ)本件発明2についての小括
よって,本件発明2は,甲1に記載された発明でないし,甲1に記載された発明及び甲2?6に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明することができたものでもない。

エ 本件発明3について
(ア)甲1B発明との対比
a 本件発明3と甲1B発明とを対比すると,甲1B発明の「金属間化合物粉末」及び「Snを含む2層以上の層であ」る「金属バリア層」は,それぞれ本件発明3の「接合用粉末」及び「錫」と他の層との「二層被覆」に相当する。

b また,甲1B発明の金属間化合物粉末において,表面に被覆された金属バリア層を除いたものが,本件発明3の「中心核」に相当し,いずれも銅と錫との金属間化合物からなるものである点で共通する。

c さらに,甲1B発明における「金属間化合物粉末中のSnとCuとの質量比は,7:3?2:8である」ことは,本件発明3と同様に,金属間化合物粉末の全体量に対するCuの含有割合として表せば,30?80質量%であることを意味するものである。

d してみると,両者は,以下の一致点及び相違点を有している。

<一致点>
「中心核である銅と錫との金属間化合物からなる金属間化合物粉末に錫と他の層との二層被覆粉末を得る接合用粉末の製造方法。」である点。

<相違点1B-6>
中心核の平均粒径について,本件発明3は,「0.95μm以上28.58μm以下」であるのに対し,甲1B発明は,平均粒径が不明な点。

<相違点1B-7>
中心核となる銅と錫との金属間化合物について,本件発明3は,「Cu_(3)Sn」であるのに対し,甲1B発明は,「Cu_(3)Snを含」むものである点。

<相違点1B-8>
金属間化合物粉末への錫と他の層との二層被覆粉末の被覆について,本件発明3は,「金属間化合物粉末を水に分散させて第1分散液を得る工程と,錫の金属塩と還元剤を前記第1分散液に添加混合して前記錫の金属塩が溶解して生成される錫イオンが前記還元剤で還元されることにより析出した錫が前記中心核を被覆してこの錫を被覆層の外層とする一層被覆粉末を得る工程と,前記一層被覆粉末が分散した第2分散液を固液分離して固形分を得る工程と,前記固液分離した固形分に高沸点溶媒を添加混合して不活性ガス雰囲気中で熱処理することにより前記外層の内部が反応して銅と錫との金属間化合物であるCu_(6)Sn_(5)からなる内層を前記中心核と前記外層との間に形成」するものであるのに対し,甲1B発明は,金属間化合物粉末の表面に「Snを含む2層以上の層」を「溶融めっき法や電解めっき法,無電解めっき法などで」被覆するものである点。

<相違点1B-9>
接合用粉末の平均粒径について,本件発明3は,「1μm以上30μm以下」であるのに対し,甲1B発明は,「0.1?30μm」である点。

<相違点1B-10>
接合用粉末の全体量100質量%に対する銅の含有割合について,本件発明3は,「52質量%以上60質量%以下」であるのに対し,甲1B発明は,「30?80質量%」である点。

(イ)相違点についての判断
事案に鑑み,相違点1B-7について検討する。

a 実質的な相違点であるか否かについて
(a)本件発明3における「Cu_(3)Sn金属間化合物粉末」は,Cu_(6)Sn_(5)等の他の銅と錫との金属間化合物を含まないことを意味するといえるから,相違点1B-7は実質的な相違点である。

(b)したがって,他の相違点について検討するまでもなく,本件発明3と甲1B発明とは実質的に相違するものである。

b 容易想到性について
(a)甲1B発明における銅と錫との金属間化合物は,Cu_(3)Snを含むものであって,甲1の[0043]において,Cu_(3)Sn以外には,Cu_(6)Sn_(5)が例示されているところ,これらの金属間化合物の中から,Cu_(3)Snのみとする動機付けは,甲1のみならず,甲2?6においても認められない。

(b)そして,本件発明3は,相違点1B-7に係る特定事項を備えることにより,「接合後の耐熱性が高く接合強度も高くなる」(【0021】)という顕著な効果奏するものである。

(c)したがって,他の相違点について検討するまでもなく,本件発明3は,甲1B発明及び甲2?6に記載された事項に基いて,当業者が容易に想到し得るものでない。

(ウ)本件発明3についての小括
よって,本件発明3は,甲1に記載された発明でないし,甲1に記載された発明及び甲2?6に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明することができたものでもない。

オ 本件発明4について
本件発明4と甲1C発明とを対比すると,本件発明4は,本件発明1,2又は3の特定事項を引用するものであるところ,両者は,少なくとも,上記相違点1A1?5,相違点1B1?5又は相違点1B6?10において相違し,その相違点についての判断は,上記イ(イ),ウ(イ)又はエ(イ)のとおりであるから,本件発明4は,甲1に記載された発明でないし,甲1に記載された発明及び甲2?6に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明することができたものでもない。

カ 本件発明5について
本件発明5と甲1D発明とを対比すると,本件発明5は,本件発明4の特定事項を引用するものであることから,上記オのとおりであって,本件発明5は,甲1に記載された発明でないし,甲1に記載された発明及び甲2?6に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明することができたものでもない。

キ 申立理由4-1(新規性)及び申立理由5?1(進歩性)についての小括
よって,本件発明1?5は,甲1に記載された発明でないし,甲1に記載された発明及び甲2?6に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明することができたものでもない。

(5)申立理由4-2(新規性)及び申立理由5?2(進歩性)
ア 甲2に記載された発明
(ア)甲2の【0043】,【0044】及び表1に記載の比較例2に着目し,請求項1の記載を踏まえれば,甲2には,以下の発明(以下「甲2A発明」という。)が記載されているものと認められる。

<甲2A発明>
中心核と前記中心核を被覆する被覆層で構成され,前記中心核が銅及び銅と錫との金属間化合物であるCu_(3)Sn,Cu_(6)Sn_(5)からなり,前記被覆層が錫からなるハンダ粉末において,
前記ハンダ粉末の平均粒径が3.2μmであり,
前記ハンダ粉末の全体量100質量%に対し,銅の含有割合が60質量%であるハンダ粉末。

(イ)また,甲2の上記比較例2の製造方法である【0043】の記載に着目すると,甲2には,以下の発明(以下「甲2B発明」という。)が記載されているものと認められる。

<甲2B発明>
水50mLに塩化銅(II)を2.52×10^(-3)mol,塩化錫(II)を2.56×10^(-2)mol加え,スターラを用いて回転速度300rpmにて5分間攪拌し,溶解液を調製し,この溶解液を塩酸にてpHを0.5に調整した後,分散剤としてポリビニルアルコール500(平均分子量が500のポリビニルアルコール)を0.5g加え,更に回転速度300rpmにて10分間攪拌し,次いで,この溶解液にpHを0.5に調整した1.58mol/Lの2価クロムイオン水溶液50mLを,添加速度50mL/secにて加え,回転速度500rpmにて10分間攪拌して各金属イオンを還元し,液中に金属粉末が分散する分散液を得て,この分散液を60分間静置して生成した金属粉末を沈降させた後,上澄み液を捨て,ここに水100mLを加えて回転速度300rpmにて10分間攪拌する操作を4回繰返し,洗浄を行い,その後,エチレングリコール100mLを加えて分散させ,回転速度300rpmにて攪拌しながら120℃で30分加熱を行い,加熱後,再び分散液を60分間静置して加熱した金属粉末を沈降させた後,上澄み液を捨て,ここに水100mLを加えて回転速度300rpmにて10分間攪拌する操作を4回繰返し,洗浄を行い,最後にこれを真空乾燥機にて乾燥することにより,
中心核と前記中心核を被覆する被覆層で構成され,前記中心核が銅及び銅と錫との金属間化合物であるCu_(3)Sn,Cu_(6)Sn_(5)からなり,前記被覆層が錫からなるハンダ粉末の製造方法であって,
前記ハンダ粉末の平均粒径が3.2μmであり,
前記ハンダ粉末の全体量100質量%に対し,銅の含有割合が60質量%である
ハンダ粉末の製造方法。

(ウ)さらに,甲2には,「フラックスと,・・・比較例1・・・で得られたハンダ粉末とを,フラックスを88質量%,ハンダ粉末を12質量%の割合で混合してハンダ用ペーストをそれぞれ調製」(【0049】,なお,「・・・」は記載の省略を表すものであって,以下同様である。)することが記載されているから,甲2には,以下の発明(以下「甲2C発明」という。)が記載されているものと認められる。

<甲2C発明>
フラックスと,甲2A発明のハンダ粉末成分或いは甲2B発明で得られたハンダ粉末を混合してハンダ用ペーストを調製する方法。

(エ)そして,甲2には,「調整したペーストを・・・コバール(Fe-Ni-Co系合金)基板の所定位置に転写し・・・転写されたペースト上に・・・LEDチップを搭載し・・・リフローし,LEDチップとコバール基板とを接合させる」(【0050】)ことが記載されているから,甲2には,以下の発明(以下「甲2D発明」という。)が記載されているものと認められる。

<甲2D発明>
甲2C発明で調整されたペーストをコバール(Fe-Ni-Co系合金)基板の所定位置に転写し,転写されたペースト上にLEDチップを搭載してリフローし,LEDチップとコバール基板とを接合させる方法。

イ 本件発明1について
(ア)甲2A発明との対比
a 本件発明1と甲2A発明とを対比すると,甲2A発明の「ハンダ粉末」は,本件発明1の「接合用粉末」に相当する。

b また,中心核について,甲2A発明の「銅及び銅と錫との金属間化合物であるCu_(3)Sn,Cu_(6)Sn_(5)からな」ることと,本件発明1の「銅と錫との金属間化合物であるCu_(3)Snからな」ることとは,中心核が「銅と錫との金属間化合物」を含むものである点で共通する。

c してみると,本件発明1と甲2A発明とは,以下の一致点及び相違点を有している。

<一致点>
「中心核と前記中心核を被覆する被覆層とにより構成される接合用粉末において,
前記中心核が銅と錫との金属間化合物を含み,前記被覆層が,錫からなる一層により構成され,前記接合用粉末の平均粒径が1?30μmであり,前記接合用粉末の全体量100質量%に対して前記銅の含有割合が52質量%以上60質量%以下である接合用粉末。」である点。

<相違点2A>
中心核について,本件発明1は,「銅と錫との金属間化合物であるCu_(3)Snからな」るのに対し,甲2A発明は,「銅及び銅と錫との金属間化合物であるCu_(3)Sn,Cu_(6)Sn_(5)からな」るものである点。

(イ)相違点についての判断
a 実質的な相違点であるか否かについて
(a)相違点2Aについて検討すると,本件発明1における「Cu_(3)Snからなり」は,上記(1)のとおり,他の成分を含まないことを意味するといえるから,相違点2Aは実質的な相違点である。

(b)したがって,他の相違点について検討するまでもなく,本件発明1と甲2A発明とは実質的に相違するものである。

b 容易想到性について
(a)相違点2Aについて検討すると,甲2A発明の中心核は,銅及び銅と錫との金属間化合物であるCu_(3)Sn,Cu_(6)Sn_(5)からなものであるところ,これらの中から,中心核をCu_(3)Snのみからなるものとする動機付けは,甲2のみならず,甲1及び3?6においても認められない。

(b)そして,本件発明1は,相違点2Aに係る特定事項を備えることにより,「接合後の耐熱性が高く接合強度も高くなる」(【0021】)という顕著な効果奏するものである。

(c)したがって,本件発明1は,甲2A発明並びに甲1及び3?6に記載された事項に基いて,当業者が容易に想到し得るものでない。

(ウ)本件発明1についての小括
よって,本件発明1は,甲2に記載された発明でないし,甲2に記載された発明並びに甲1及び3?6に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明することができたものでもない。

ウ 本件発明2について
(ア)甲2B発明との対比
a 本件発明2と甲2B発明とを対比すると,甲2B発明の「ハンダ粉末」は,本件発明1の「接合用粉末」に相当する。

b また,甲2B発明の「中心核が銅及び銅と錫との金属間化合物であるCu_(3)Sn,Cu_(6)Sn_(5)からな」ることと,本件発明2の「中心核となるCu_(3)Sn金属間化合物」とは,「銅と錫との金属間化合物を含む中心核」である点で共通する。

c してみると,本件発明2と甲2B発明とは,以下の一致点及び相違点を有している。

<一致点>
銅と錫との金属間化合物を含む中心核と前記中心核を被覆する錫の被覆層とにより構成される接合用粉末の製造方法であって,
前記接合用粉末は,平均粒径が1μm以上30μm以下であり,前記接合用粉末の全体量100質量%に対して前記銅の含有割合が52質量%以上60質量%以下である接合用粉末の製造方法。

<相違点2B-1>
中心核の平均粒径について,本件発明2は,「0.95μm以上28.58μm以下」であるのに対し,甲2B発明は,平均粒径が不明な点。

<相違点2B-2>
中心核について,本件発明2は,「Cu_(3)Sn金属間化合物」であるのに対し,甲2B発明は,「銅及び銅と錫との金属間化合物であるCu_(3)Sn,Cu_(6)Sn_(5)からな」るものである点。

<相違点2B-3>
本件発明2は,「中心核となるCu_(3)Sn金属間化合物粉末を水に分散させて第1分散液を得る工程と,錫の金属塩と還元剤を前記第1分散液に添加混合して前記錫の金属塩が溶解して生成される錫イオンが前記還元剤で還元されることにより析出した錫が前記中心核を被覆してこの錫を被覆層とする一層被覆粉末を得る工程と,前記一層被覆粉末が分散した第2分散液を固液分離し,前記固液分離した固形分の一層被覆粉末を乾燥する工程とを含む」ものであるのに対し,甲2B発明は,「水50mLに塩化銅(II)を2.52×10^(-3)mol,塩化錫(II)を2.56×10^(-2)mol加え,スターラを用いて回転速度300rpmにて5分間攪拌し,溶解液を調製し,この溶解液を塩酸にてpHを0.5に調整した後,分散剤としてポリビニルアルコール500(平均分子量が500のポリビニルアルコール)を0.5g加え,更に回転速度300rpmにて10分間攪拌し,次いで,この溶解液にpHを0.5に調整した1.58mol/Lの2価クロムイオン水溶液50mLを,添加速度50mL/secにて加え,回転速度500rpmにて10分間攪拌して各金属イオンを還元し,液中に金属粉末が分散する分散液を得て,この分散液を60分間静置して生成した金属粉末を沈降させた後,上澄み液を捨て,ここに水100mLを加えて回転速度300rpmにて10分間攪拌する操作を4回繰返し,洗浄を行い,その後,エチレングリコール100mLを加えて分散させ,回転速度300rpmにて攪拌しながら120℃で30分加熱を行い,加熱後,再び分散液を60分間静置して加熱した金属粉末を沈降させた後,上澄み液を捨て,ここに水100mLを加えて回転速度300rpmにて10分間攪拌する操作を4回繰返し,洗浄を行い,最後にこれを真空乾燥機にて乾燥する」ものである点。

(イ)相違点についての判断
a 事案に鑑み,相違点2B-2について検討すると,甲2B発明の中心核は,銅及び銅と錫との金属間化合物であるCu_(3)Sn,Cu_(6)Sn_(5)からなものであるところ,これらの中から,中心核をCu_(3)Snのみからなるものとする動機付けは,甲2のみならず,甲1及び3?6においても認められない。

b そして,本件発明2は,相違点2B-2に係る特定事項を備えることにより,「接合後の耐熱性が高く接合強度の高くなる」(【0021】)という顕著な効果奏するものである。

c したがって,他の相違点について検討するまでもなく,本件発明2は,甲2B発明並びに甲1及び3?6に記載された事項に基いて,当業者が容易に想到し得るものでない。

(ウ)本件発明2についての小括
よって,本件発明2は,甲2に記載された発明並びに甲1及び3?6に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明することができたものでもない。

エ 本件発明4について
本件発明4と甲2C発明とを対比すると,本件発明4は,本件発明1又は2の特定事項を引用するものであるところ,両者は,少なくとも,上記相違点2A又は相違点2B1?3において相違し,その相違点についての判断は,上記イ(イ)又はウ(イ)のとおりであるから,本件発明4は,甲2に記載された発明でないし,甲2に記載された発明並びに甲1及び3?6に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明することができたものでもない。

オ 本件発明5について
本件発明5と甲2D発明とを対比すると,本件発明5は,本件発明4の特定事項を引用するものであることから,上記エのとおりであって,本件発明5は,甲2に記載された発明でないし,甲2に記載された発明並びに甲1及び3?6に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明することができたものでもない。

キ 申立理由4-2(新規性)及び申立理由5?2(進歩性)についての小括
よって,本件発明1,4及び5は,甲1に記載された発明でないし,本件発明1,2,4及び5は,甲2に記載された発明並びに甲1及び3?6に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明することができたものでもない。


第5 むすび
以上のとおり,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心核と前記中心核を被覆する被覆層とにより構成される接合用粉末において、
前記中心核が銅と錫との金属間化合物であるCu_(3)Snからなり、前記被覆層が、錫からなる一層により構成されるか、或いは銅と錫との金属間化合物であるCu_(6)Sn_(5)からなる内層及び錫からなる外層の二層により構成され、前記接合用粉末の平均粒径が1μm以上30μm以下であり、前記接合用粉末の全体量100質量%に対して前記銅の含有割合が52質量%以上60質量%以下であることを特徴とする接合用粉末。
【請求項2】
平均粒径が0.95μm以上28.58μm以下であり中心核となるCu_(3)Sn金属間化合物粉末を水に分散させて第1分散液を得る工程と、
錫の金属塩と還元剤を前記第1分散液に添加混合して前記錫の金属塩が溶解して生成される錫イオンが前記還元剤で還元されることにより析出した錫が前記中心核を被覆してこの錫を被覆層とする一層被覆粉末を得る工程と、
前記一層被覆粉末が分散した第2分散液を固液分離し、前記固液分離した固形分の一層被覆粉末を乾燥する工程と
を含む接合用粉末の製造方法であって、
前記接合用粉末は、平均粒径が1μm以上30μm以下であり、前記接合用粉末の全体量100質量%に対して銅の含有割合が52質量%以上60質量%以下であることを特徴とする接合用粉末の製造方法。
【請求項3】
平均粒径が0.95μm以上28.58μm以下であり中心核となるCu_(3)Sn金属間化合物粉末を水に分散させて第1分散液を得る工程と、
錫の金属塩と還元剤を前記第1分散液に添加混合して前記錫の金属塩が溶解して生成される錫イオンが前記還元剤で還元されることにより析出した錫が前記中心核を被覆してこの錫を被覆層の外層とする一層被覆粉末を得る工程と、
前記一層被覆粉末が分散した第2分散液を固液分離して固形分を得る工程と、
前記固液分離した固形分に高沸点溶媒を添加混合して不活性ガス雰囲気中で熱処理することにより前記外層の内部が反応して銅と錫との金属間化合物であるCu_(6)Sn_(5)からなる内層を前記中心核と前記外層との間に形成して二層被覆粉末を得る工程と、
前記二層被覆粉末を固液分離し、前記固液分離した固形分の二層被覆粉末を乾燥する工程と
を含む接合用粉末の製造方法であって、
前記接合用粉末は、平均粒径が1μm以上30μm以下であり、前記接合用粉末の全体量100質量%に対して銅の含有割合が52質量%以上60質量%以下であることを特徴とする接合用粉末の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の接合用粉末或いは請求項2又は3記載の方法で製造された接合用粉末と接合用フラックスを混合して接合用ペーストを製造する方法。
【請求項5】
請求項4記載の方法で製造された接合用ペーストを用いて電子部品を実装する方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-06-30 
出願番号 特願2016-67249(P2016-67249)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B23K)
P 1 651・ 113- YAA (B23K)
P 1 651・ 537- YAA (B23K)
P 1 651・ 536- YAA (B23K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 橋本 憲一郎  
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 増山 慎也
亀ヶ谷 明久
登録日 2020-01-14 
登録番号 特許第6645317号(P6645317)
権利者 三菱マテリアル株式会社
発明の名称 接合用粉末及びこの粉末の製造方法並びにこの粉末を用いた接合用ペーストの製造方法  
代理人 村澤 彰  
代理人 須田 正義  
代理人 村澤 彰  
代理人 須田 正義  
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