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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01S
管理番号 1376756
異議申立番号 異議2021-700147  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-10 
確定日 2021-08-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第6738876号発明「補正パラメータ作成装置、補正パラメータ作成方法および補正パラメータ作成プログラム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6738876号の請求項1?4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6738876号(以下「本件特許」という。)に係る特許出願は、平成30年10月29日にしたものであり、令和2年7月22日にその特許権の設定の登録がされ、同年8月12日にその特許掲載公報が発行された。本件特許の特許請求の範囲に記載された請求項の数は4である。
これに対して、令和3年2月10日に特許異議申立人国土交通省国土地理院長(以下「申立人」という。)は、証拠として甲1号証?甲8号証(枝番を含む)を提出し、本件特許の請求項1?4について特許異議の申立てをした。

第2 本件発明
本件特許に係る発明(以下、請求項の番号に従い「本件発明1」等という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
なお、本件発明3については、その構成を分説するため、符号X、A?Gを付した。
「【請求項1】
単独測位により測定された位置を地殻変動に基づいて補正するための補正パラメータを作成する補正パラメータ作成装置であって、
前記補正パラメータを作成する基準となる日である基準日を設定するように構成された基準日設定部と、
前記補正パラメータが有効な期間であるパラメータ有効期間を設定するように構成された有効期間設定部と、
前記パラメータ有効期間内に、前記パラメータ有効期間内の任意の日である使用日を設定するように構成された使用日設定部と、
前記補正パラメータを作成する対象となる地域である対象地域内に存在する複数の基準点のそれぞれについて、前記基準日を含む一定期間内の前記基準点の座標値に基づき、前記基準日における前記基準点の位置を基準日位置として算出するように構成された基準日位置算出部と、
前記対象地域内に存在する複数の前記基準点のそれぞれについて、算出時点に得られる一定期間内の前記基準点の座標値に基づき、前記使用日における前記基準点の位置を使用日位置として算出するように構成された使用日位置算出部と、
前記対象地域内に存在する複数の前記基準点のそれぞれについて、前記基準日位置算出部により算出された前記基準日位置と、前記使用日位置算出部により算出された前記使用日位置との差を、地殻変動量として算出するように構成された変動量算出部と、
前記対象地域を格子状に区切って形成された複数のメッシュのそれぞれの格子点にあたる地点について、空間補間法を用いて、前記地点を囲む複数の前記基準点の前記地殻変動量に基づき、地殻変動推定量を算出し、算出した前記地殻変動推定量を前記補正パラメータとするように構成された推定量算出部と
を備える補正パラメータ作成装置。
【請求項2】
請求項1に記載の補正パラメータ作成装置であって、
前記使用日設定部は、前記パラメータ有効期間の中間に前記使用日を設定する補正パラメータ作成装置。
【請求項3】
X 単独測位により測定された位置を地殻変動に基づいて補正するための補正パラメータを作成する補正パラメータ作成方法であって、
A 前記補正パラメータを作成する基準となる日である基準日を設定する基準日設定手順と、
B 前記補正パラメータが有効な期間であるパラメータ有効期間を設定する有効期間設定手順と、
C 前記パラメータ有効期間内に、前記パラメータ有効期間内の任意の日である使用日を設定する使用日設定手順と、
D 前記補正パラメータを作成する対象となる地域である対象地域内に存在する複数の基準点のそれぞれについて、前記基準日を含む一定期間内の前記基準点の座標値に基づき、前記基準日における前記基準点の位置を基準日位置として算出する基準日位置算出手順と、
E 前記対象地域内に存在する複数の前記基準点のそれぞれについて、算出時点に得られる一定期間内の前記基準点の座標値に基づき、前記使用日における前記基準点の位置を使用日位置として算出する使用日位置算出手順と、
F 前記対象地域内に存在する複数の前記基準点のそれぞれについて、前記基準日位置算出手順により算出された前記基準日位置と、前記使用日位置算出手順により算出された前記使用日位置との差を、地殻変動量として算出する変動量算出手順と、
G 前記対象地域を格子状に区切って形成された複数のメッシュのそれぞれの格子点にあたる地点について、空間補間法を用いて、前記地点を囲む複数の前記基準点の前記地殻変動量に基づき、地殻変動推定量を算出し、算出した前記地殻変動推定量を前記補正パラメータとする推定量算出手順と
X を備える補正パラメータ作成方法。
【請求項4】
単独測位により測定された位置を地殻変動に基づいて補正するための補正パラメータを作成するために、コンピュータを、
前記補正パラメータを作成する基準となる日である基準日を設定するように構成された基準日設定部、
前記補正パラメータが有効な期間であるパラメータ有効期間を設定するように構成された有効期間設定部、
前記パラメータ有効期間内に、前記パラメータ有効期間内の任意の日である使用日を設定するように構成された使用日設定部、
前記補正パラメータを作成する対象となる地域である対象地域内に存在する複数の基準点のそれぞれについて、前記基準日を含む一定期間内の前記基準点の座標値に基づき、前記基準日における前記基準点の位置を基準日位置として算出するように構成された基準日位置算出部、
前記対象地域内に存在する複数の前記基準点のそれぞれについて、算出時点に得られる一定期間内の前記基準点の座標値に基づき、前記使用日における前記基準点の位置を使用日位置として算出するように構成された使用日位置算出部、
前記対象地域内に存在する複数の前記基準点のそれぞれについて、前記基準日位置算出部により算出された前記基準日位置と、前記使用日位置算出部により算出された前記使用日位置との差を、地殻変動量として算出するように構成された変動量算出部、及び、
前記対象地域を格子状に区切って形成された複数のメッシュのそれぞれの格子点にあたる地点について、空間補間法を用いて、前記地点を囲む複数の前記基準点の前記地殻変動量に基づき、地殻変動推定量を算出し、算出した前記地殻変動推定量を前記補正パラメータとするように構成された推定量算出部
として機能させるための補正パラメータ作成プログラム。」

第3 申立理由の概要
1 申立人が提出した証拠
申立人は、以下の文書を証拠方法として提出した。
(以下、各甲号証を文献の番号に従い「甲1文献」等という。)

甲1号証:Yoshiyuki TANAKA他 「Efficient Maintenance of the Japanese Geodetic Datum 2000 Using Crustal Deformation Models - PatchJGD & Semi-Dynamic Datum」 BULLETIN OF THE GEOGRAPHICAL SURVEY INSTITUTE March, 2007, Vol.54、49?59頁、国土交通省国土地理院 2007年3月

甲2-1号証:日本測地学会第122回講演会のプログラム 日本測地学会 2014年11月
甲2-2号証:小門研亮他 「セミ・ダイナミック測地系における地殻変動補正パラメータの精度検証」 国土交通省国土地理院 平成26年11月6日

甲3-1号証:山下達也他 「電子基準点データによる標高変動補正を考慮した水準網平均計算」 日本測地学会第124回講演会要旨集 999頁 日本測地学会 2015年10月14日
甲3-2号証:日本測地学会第124回講演会のプログラム ii頁 日本測地学会 2015年10月14日
甲3-3号証:山下達也他 「電子基準点データによる標高変動補正を考慮した水準網平均計算」 国土交通省国土地理院 2015年10月14日

甲4号証:「位置の基準(測地基準座標系)のあり方について 測位基盤検討部会報告書?準天頂衛星システムが実現する高精度測位社会を支える?」測量行政懇談会測位基盤検討部会 平成30年3月

甲5号証:檜山洋平他 「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震に伴う基準点測量成果の改定」 国土地理院時報 122集 55?78頁 平成23年12月28日

甲6号証:檜山洋平他 「セミ・ダイナミック補正の導入について」 国土地理院時報 120集 55?61頁 平成22年12月28日

甲7号証:土井弘充他 「平成15年(2003年)十勝沖地震に伴う基準点成果の改定」 国土地理院時報 108集 1?10頁 平成17年10月1日

甲8号証:「公共測量におけるセミ・ダイナミック補正マニュアル」(国土地理院技術資料A1-No342)国土交通省国土地理院 平成25年6月28日一部改正

2 理由の概要
申立人は、甲6文献を主引用文献とし甲5文献及び甲7文献を副引用文献として、本件発明1?4は、当業者が容易に発明することができたものであり、請求項1?4に係る特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1?4に係る特許を取り消すべき旨主張する。

第4 引用文献、引用発明等
1 甲6文献
(1)甲6文献の記載事項
甲6文献には以下の記載がある(下線は当審が付した。以下同様。)。
ア 「1. はじめに
プレート境界に位置する我が国においては,プレート運動に伴う地殻変動により,各種測量の基準となる基準点の相対的な位置関係が徐々に変化し,歪みが蓄積していく(図-1). 基準点の測量成果は,測地成果2000の「元期」である1997年1月1日における位置情報としているが,地殻変動の進行とともに測量成果の示す座標値と実際の位置にずれが生じることとなる.しかし,日本列島の平均的な歪み速度は0.2ppm/year程度であり(国土地理院,2003),近傍の三角点等を既知点とした局所的な測量が行われていれば,歪みの影響は小さいため,実用上の問題はなかった.
ところが,GPS測量機を利用した測量方式の導入に伴い,遠方にある電子基準点を既知点とした測量が可能となった.歪みの影響は基準点間の距離及び「元期」からの経過時間に比例するため,累積する地殻変動の影響を考慮しないと,測量成果と観測結果との間に無視できない不整合を生むこととなる.
既設基準点の測量成果を地殻変動に連動して常に改定するダイナミックな測地系を構築すれば,測量成果と観測結果との整合性を保つことは技術的には可能である.しかし,測量成果そのものが時間とともに変動するため,位置情報の基準としての安定性が失われ,社会的な混乱を招くおそれがあるばかりでなく,測量成果を頻繁に改定するために多大な費用と労力が必要と予測される.
こうした問題に対応するため,国土地理院は,測地成果2000の「元期」から生じた地殻変動による歪みの影響を測量の計算過程で補正する「セミ・ダイナミック補正」について検討を行い,平成22年1月から基本測量及び公共測量の一部に導入した.」

イ 「2.セミ・ダイナミック補正とは?
2.1 セミ・ダイナミック補正の導入の背景
電子基準点が測量に利用される以前は,図-2(左)のように測量地域の近傍にある三角点を既知点とした測量が実施されてきた.例えば,元期から10年を経過して実施した1級基準点測量で,三角点を既知点とする場合,標準的な既知点間距離を4km,平均的な歪み速度を0.2ppm/yearとすれば,歪みの影響(mm)は,(歪み速度(ppm/year))×(元期からの経過時間(year))×(既知点間距離(km))より8mm程度であり,測量の誤差と見なしたとしても大きな問題にはならなかった.
しかし,図-2(右)のように電子基準点が既知点として利用されるようになると,既知点間の距離の制限が適用されないため既知点間の距離が長くなり,地殻変動による歪みの影響が既知点の間で大きくなる.電子基準点のみを既知点とした1級基準点測量の場合,電子基準点間の距離を25kmとすると,50mm程度の歪みの影響が見込まれることになる.新点Cを三角点A,Bの間に設置する場合(図-2(左))と電子基準点A,Bの間に設置する場合(図-2(右))では,電子基準点を既知点とした場合の方が,測量した結果に歪みの影響が大きく加わり,平均計算で誤差楕円が大きくなるという間題が生じる.
また,基準点測量の点検計算で行われる電子基準点間の閉合差にあてはめると,辺数(N)が2辺の場合における許容範囲は60mm+20mm×√N=88mmとなる.図-2(右)の場合,歪みの影響は50mmであり,元期から10年程度経過した現在では許容範囲に収まっているものの,歪みの影響は年々増すため,やがて,良好な観測を行っても制限を満たすことができなくなってしまう.
こうした問題に対応するため,測地成果2000の元期から観測を行った時点(以下,「今期」という.)までの間に生じた地殻変動の量(以下,「地殻変動量」という.)を,座標値等に補正することによって,元期において得られたであろう測量成果を求めるセミ・ダイナミック補正を導入することとした.」

ウ 「2.2 セミ・ダイナミック補正の方法
具体的な例として,電子基準点のみを既知点として新点を設置する場合は,次のようにセミ・ダイナミック補正を適用し,この方法を標準的な補正方法とする(図-3).
1)既知点の測量成果(元期における位置情報)を用意する.
2)既知点の測量成果の座標値を参照して地殻変動補正パラメータより元期から今期までに生じた地殻変動量を求め,既知点の測量成果にその量を加えて今期の座標値へ補正する.
3)既知点の座標値を今期の座標値に固定して網平均計算を行う.
4)網平均計算の結果から,元期から今期までに生じた地殻変動量を差し引き,元期における座標値を新点の測量成果とする.」

エ 「2.3 セミ・ダイナミック補正の対象とする測量
2.1節にまとめたように,観測値に含まれる地殻変動の影響は,既知点間の距離及び元期からの経過時間に比例して大きくなる.このため,元期からの経過時間が同じであれば,既知点間距離の長い場合はセミ・ダイナミック補正の効果が期待される一方,距離が短い場合は補正を適用してもその効果が期待できない.この現状では,費用対効果を考慮すれば,すべての測量に一律にセミ・ダイナミック補正を適用することは適切でないと判断される.
したがって,セミ・ダイナミック補正の対象とする測量は,基本的に「電子基準点(付属標を除く.)のみを既知点とした基準点測量」とする.基本測量では,高度地域基準点測量,国土調査に伴う基準点測量等,公共測量では,電子基準点のみを既知点とした1級基準点測量が対象となる.」

オ 「3. 地殻変動補正パラメータ
3.1 地殻変動補正パラメータの対象とする地殻変動
地殻変動補正パラメータ(以下,「補正パラメータ」という.)の対象とする地殻変動は,電子基準点及び高度地域基準点測量等により検出可能な地殻変動のうち,定常的なものとする.これは,主にプレート運動に伴う地殻変動を想定している.
地震や火山活動に伴う地殻変動は,プレート運動に伴う地殻変動と厳密に区別することは困難であるが,これらの活動に伴う特徴的な変動は,改測や改算による測量成果の改定によって対応することとする(例えば,(土井ほか,2005)).」

カ 「3.2 補正パラメータの提供範囲及びグリッド間隔
補正パラメータは,電子基準点及び高度地域基準点測量等によって検出された地殻変動量から各グリッドの地殻変動量を推定したものである.補正パラメータは,近傍に電子基準点がない等の理由でグリッドの地殻変動量が計算されなかった一部の離島を除き,日本国内の陸域を提供範囲とする(図-4).
補正パラメータのグリッド間隔は,田中(2008)が検討した結果に基づき約5km(緯度方向2分30秒間隔,経度方向3分45秒間隔)とした.この数値は,補正パラメータを作成する際に行った内部評価(補正パラメータにバイリニア補間を施し,補間から求めた各電子基準点等における地殻変動量と,それぞれの点で検出された地殻変動量と差をとってRMSを求めること)の結果等から検討されたものである.グリッド間隔を狭くすればするほど,ファイル容量や計算時間が増大すること,補正パラメータの管理が困難となることを考慮して約5kmのグリッド間隔が設定された.また,ファイルの大きさもインターネットを介した提供を想定したものとなっており,2009年度版補正パラメータファイルのサイズは圧縮しない場合で約760kBである.
なお,地殻変動量は年々累積して大きくなるので,この補正パラメータは年度ごと(通常,毎年4月1日)に更新する.原則として同じ年度の測量作業では,同じ補正パラメータファイルを使用する.これは,平均的な歪み速度は0.2ppm/year程度であり,1年間同じ補正パラメータを使用した場合でも測量には十分な精度を得られると考えられるためである.」

キ 「3.3 2009年度版補正パラメータの作成方法
3.3.1 電子基準点の今期の座標値とパラメータの内部評価
田中ほか(2006)では,電子基準点における地殻変動量は,毎年1月1日から2週間の日々の座標値を平均した値から測量成果とアンテナ交換等に伴う人工的なオフセットを差し引いて求めることとしていた.しかし,日々の座標値は,電子基準点のメンテナンス等人為的要因に起因する地殻変動ではない座標値の跳び(オフセット)を含んでいる(岩下ほか,2009).さらに日々の座標値は,積雪や樹木等による電波障害,凍上現象やその他季節変動等の周期的な変動も含んでいるため,そのまま地殻変動量の算出に使うことは必ずしも適切ではない.
そこで,正味の地殻変動量を得るため,2009年度版補正パラメータでは2008年1月1日から2008年12月31日までのF3解を用い,この期間の人為的オフセット量を補正した上で,それぞれの電子基準点のF3解の時系列を再現する周期的変動を考慮した近似式を求め,求めた式を2009年1月1日に外挿することにより各電子基準点の今期の座標値を推定した(檜山ほか,2009).なお,平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震に伴い測量成果が改定された電子基準点及び新設された電子基準点については測量成果計算日以降のF3解を用いた.
このように推定した電子基準点の今期の座標値から元期の座標値(測量成果)を差し引いて求めた地殻変動量からパラメータを構築し,内部評価を行った.この内部評価の較差が大きい電子基準点は,補正パラメータの作成から除外した.」

(2)引用発明の認定
上記(1)において摘記した記載事項を総合すると、甲6には次の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されていると認められる。
[甲6発明]
「測地成果2000の元期(1997年1月1日)から、観測を行った時点(今期)までの間に生じた地殻変動量を座標値等に補正することによって、元期において得られたであろう測量成果を求めるセミ・ダイナミック補正のための2009年度版補正パラメータの作成方法において、(上記ア、イ、キ)
電子基準点のみを既知点として新点を設置する場合に適用されるセミ・ダイナミック補正は、
(1)既知点の測量成果(元期における位置情報)を用意する
(2)既知点の測量成果の座標値を参照して地殻変動補正パラメータより元期から今期までに生じた地殻変動量を求め、既知点の測量成果にその量を加えて今期の座標値へ補正する
(3)既知点の座標値を今期の座標値に固定して網平均計算を行う
(4)網平均計算の結果から、元期から今期までに生じた地殻変動量を差し引き、元期における座標値を新点の測量成果とする
ように行われるのが標準的な補正方法であり、(上記ウ)
補正パラメータは、電子基準点等によって検出された地殻変動量から各グリッドの地殻変動量を推定したものであり、補正パラメータは、近傍に電子基準点がない等の理由でグリッドの地殻変動量が計算されなかった一部の離島を除き、日本国内の陸域を提供範囲とし、補正パラメータのグリッド間隔は約5kmとし、(上記カ)
地殻変動量は年々累積して大きくなるので、補正パラメータは、年度ごと(通常、毎年4月1日)に更新され、原則として同じ年度の測量作業では、同じ補正パラメータファイルが使用されるものであり、(上記カ)
2009年度版補正パラメータでは、2008年1月1日から2008年12月31日までのF3解を用い、この期間の人為的オフセット量を補正した上で、それぞれの電子基準点のF3解の時系列を再現する周期的変動を考慮した近似式を求め、求めた式を2009年1月1日に外挿することにより各電子基準点の今期の座標値を推定し、(上記キ)
このように推定した電子基準点の今期の座標値から元期の座標値(測量成果)を差し引いて求めた地殻変動量から補正パラメータを作成する方法。(上記キ)」

2 甲2-2文献の記載事項
(1)甲2-2文献には以下の記載がある。
ア 「



イ 「



ウ 「




エ 「



オ 「



カ 「



キ 「



ク 「



ケ 「



コ 「



サ 「



シ 「



ス 「



セ 「



ソ 「



タ 「



(2)上記記載内容を総合すると、甲2-2文献には次の3つの技術事項(以下「甲2記載事項1」?「甲2記載事項3」という。)が記載されていると認められる。
[甲2記載事項1]
「セミ・ダイナミック補正用の地殻変動補正パラメータは、主に電子基準点の観測データを基に計算・作成され、年に1回(原則、毎年4月1日)公開されるものであり、約1260点の電子基準点の地殻変動量がクリギング法で補間されグリッド化されて算出され、5km間隔のグリッドの補正パラメータとされるところ、各電子基準点の地殻変動量は、今期座標値(1年分のデータから近似計算して得た当該電子基準点のF3解での1月1日時点の座標値)から元期座標値(当該電子基準点の測量成果における座標値)を引いたものであること。」(上記キ)

[甲2記載事項2]
「精密単独測位(PPP)の測位結果は、GNSS観測を行ったときの位置座標であるから、実際の位置にほぼ等しいものであるが、元期での位置座標(時間の経過によらずに一定の位置座標であって、地図上での位置にほぼ等しい)と比べると、定常的な地殻変動等による位置座標の差が生じるため、地殻変動量の大きな地域では、高精度なPPP測位結果が、地図上での位置と合わないことになるところ、セミ・ダイナミック補正を適用して、精密単独測位(PPP)の測位結果から地殻変動補正量を差し引くことにより、測量成果上での位置が求められると考えた場合に、現状のセミ・ダイナミック補正で精密単独測位(PPP)の測位結果を正確に補正できるのかという問題意識から、地殻変動補正パラメータの検証を行ったこと。」(上記ク、ケ及びコ)

[甲2記載事項3]
「精密単独測位(PPP)の測位結果に対するセミ・ダイナミック補正の効果を検証したところ、セミ・ダイナミック補正パラメータの精度は、水平・上下ともに約2cm(局地的な地盤変動がある場合を除く)であり、現行のパラメータ公開頻度(1年に1回)では、地震の余効変動等で30cm近くの年間変動量を補正できない場合があり、精密単独測位(PPP)の測位結果に月毎の試作パラメータによる補正をかけることで、より良い補正が出来ることが確認されたため、今後の方針として、巨大地震による余効変動等が生じると、1年に1度のパラメータ提供ではPPP測位結果の正常な補正が期待できないことから、提供頻度を上げる、速度を与えるなどの提供方法の検討を進めることが考えられること。」(上記タ)

3 甲5文献
(1)甲5文献には以下の記載がある。
ア 「



イ 「



ウ 「



(2)上記記載内容を総合すると、甲5文献には次の技術事項(以下「甲5記載事項」という。)が記載されていると認められる。
[甲5記載事項]
「電子基準点の仮成果を新たに算出するために、TSUKUB32及びGEONETの観測結果に基づいて以下の(1)?(3)の手順により算出が行われ、
(1)VLBIに基づく余効変動を加味した座標値の計算
(2)GEONETに基づく座標値の計算
(3)TSUKUB32及びGEONETの計算結果の結合
特に(2)においては、全国の電子基準点について、5月23?25日のR3解を平均し,5月24日UT12時の地心直交座標値の算出が行われたこと。」
(上記イ、ウの3.2.3の記載を参照。)

4 甲7文献
(1)甲7文献には以下の記載がある。
ア 「



イ 「



(2)上記記載内容を総合すると、甲7文献には次の技術事項(以下「甲7記載事項」という。)が記載されていると認められる。
[甲7記載事項]
「広域に地殻変動が生じた場合のより効率的な基準点成果を改定する手法として開発された座標補正ソフトウェアPatchJGDは、電子基準点及び高度地域基準点の変動量から、改測作業を実施しなかった三角点の変動量を補間計算して、地震後の測量成果を算出するものであり、
PatchJGDの座標補正プログラムは、座標補正パラメータファイルを読み込み、利用者から入力された任意の座標値に応じて必要なパラメータを使用してバイリニア補間(格子点4点の変動量による補間法)を行い、変動後の座標値に近似的に補正するものであり、
座標補正パラメータファイルには、適用できる地震名や対象エリア等を説明した注釈文と地域毎の座標補正パラメータが記載されており、
座標補正パラメータは、地域メッシュコードにより設定された格子点(点間隔は、緯度方向30秒、経度方向45秒)における座標補正量であり、電子基準点・高度地域基準点の変動量(緯度差と経度差、単位は秒)を元に、クリギング法(格子点以外の点の既知の値から、格子点の末知の値を推定するアルゴリズムの一つ)によりグリッド化処理を行い、格子点における緯度方向の補正量dBと経度方向の補正量dLが計算されたものであること。」
(4.1?4.3の記載を参照。)

第5 当審の判断
1 本件発明3について
ア 対比
本件発明3と甲6発明を対比する。
(ア)甲6発明の「セミ・ダイナミック補正のための2009年度版補正パラメータ」と、本件発明3の「単独測位により測定された位置を地殻変動に基づいて補正するための補正パラメータ」は、「補正パラメータ」という点で一致する。
また、本件発明3と甲6発明は、「補正パラメータ作成方法」である点で一致する。

(イ)甲6発明の「測地成果2000の元期(1997年1月1日)」は、本件発明3の「前記補正パラメータを作成する基準となる日である基準日」に相当する。
したがって、本件発明3と甲6発明は、「前記補正パラメータを作成する基準となる日である基準日を設定する基準日設定手順」を備える点で一致する。

(ウ)甲6発明の「補正パラメータ」は、「年度ごと(通常、毎年4月1日)に更新され、原則として同じ年度の測量作業では、同じ補正パラメータファイルが使用されるもの」であり、4月1日から翌年の3月31日までの期間において有効であるといえるから、この4月1日から翌年の3月31日までの期間は、本件発明3の「前記補正パラメータが有効な期間であるパラメータ有効期間」に相当する。
したがって、本件発明3と甲6発明は、「前記補正パラメータが有効な期間であるパラメータ有効期間を設定する有効期間設定手順」を備えている点で一致する。

(エ)甲2記載事項1に開示されているように、「セミ・ダイナミック補正用の地殻変動補正パラメータは、主に電子基準点の観測データを基に計算・作成され、年に1回(原則、毎年4月1日)公開されるものであり、約1260点の電子基準点の地殻変動量がクリギング法で補間されグリッド化されて算出され、5km間隔のグリッドの補正パラメータとされる」ものである。
この点を踏まえると、甲6発明の「セミ・ダイナミック補正」のための「電子基準点」は、本件発明3の「前記補正パラメータを作成する対象となる地域である対象地域内に存在する複数の基準点」に相当する。

(オ)甲6発明では、「2008年1月1日から2008年12月31日までのF3解を用い、この期間の人為的オフセット量を補正した上で、それぞれの電子基準点のF3解の時系列を再現する周期的変動を考慮した近似式を求め、求めた式を2009年1月1日に外挿することにより各電子基準点の今期の座標値を推定」している。
ここで、甲2記載事項1に開示されているように、「セミ・ダイナミック補正用の地殻変動補正パラメータ」の作成に用いられる「電子基準点の地殻変動量」は、「今期座標値(1年分のデータから近似計算して得た当該電子基準点のF3解での1月1日時点の座標値)から元期座標値(当該電子基準点の測量成果における座標値)を引いたものである」ところ、甲6発明の「2009年1月1日」は、「今期座標値」を確定する日にあたることから、本件発明3の「使用日」に相当する。
したがって、本件発明3と甲6発明は、「使用日を設定する使用日設定手順」を備えている点で一致する。

(カ)甲6発明の「電子基準点」の「元期の座標値(測量成果)」は、「測地成果2000の元期(1997年1月1日)」における電子基準点の座標値であるから、本件発明3の「前記補正パラメータを作成する対象となる地域である対象地域内に存在する複数の基準点のそれぞれについて、前記基準日における前記基準点の位置」に相当する。
したがって、本件発明3と甲6発明は「前記補正パラメータを作成する対象となる地域である対象地域内に存在する複数の基準点のそれぞれについて、前記基準日における前記基準点の位置を基準日位置とする手順」を備えている点で一致する。

(キ)甲6発明の「2008年1月1日から2008年12月31日までの」「電子基準点のF3解」は、本件発明3の「一定期間内の前記基準点の座標値」に相当し、甲6発明の「それぞれの電子基準点のF3解の時系列を再現する周期的変動を考慮した近似式を求め、求めた式を2009年1月1日に外挿することにより各電子基準点の今期の座標値を推定」することは、本件発明3の「前記対象地域内に存在する複数の前記基準点のそれぞれについて、算出時点に得られる一定期間内の前記基準点の座標値に基づき前記使用日における前記基準点の位置を使用日位置として算出する」ことに相当する。
したがって、本件発明3と甲6発明は、「前記対象地域内に存在する複数の前記基準点のそれぞれについて、算出時点に得られる一定期間内の前記基準点の座標値に基づき、前記使用日における前記基準点の位置を使用日位置として算出する使用日位置算出手順」を備えている点で一致する。

(ク)甲6発明の「電子基準点の今期の座標値から元期の座標値(測量成果)を差し引いて」「地殻変動量」を「求め」ることは、本件発明3の「前記基準日位置と、前記使用日位置算出手順により算出された前記使用日位置との差を、地殻変動量として算出する」ことに相当する。
したがって、本件発明3と甲6発明は、「前記対象地域内に存在する複数の前記基準点のそれぞれについて、前記基準日位置と、前記使用日位置算出手順により算出された前記使用日位置との差を、地殻変動量として算出する変動量算出手順」を備える点で一致する。

以上(ア)?(ク)の対比内容をまとめると、本件発明3と甲6発明は、以下の一致点において一致し、以下の相違点1?4において相違する。
[一致点]
「補正パラメータを作成する補正パラメータ作成方法であって、
前記補正パラメータを作成する基準となる日である基準日を設定する基準日設定手順と、
前記補正パラメータが有効な期間であるパラメータ有効期間を設定する有効期間設定手順と、
使用日を設定する使用日設定手順と、
前記補正パラメータを作成する対象となる地域である対象地域内に存在する複数の基準点のそれぞれについて、前記基準日における前記基準点の位置を基準日位置とする手順と、
前記対象地域内に存在する複数の前記基準点のそれぞれについて、算出時点に得られる一定期間内の前記基準点の座標値に基づき、前記使用日における前記基準点の位置を使用日位置として算出する使用日位置算出手順と、
前記対象地域内に存在する複数の前記基準点のそれぞれについて、前記基準日位置と、前記使用日位置算出手順により算出された前記使用日位置との差を、地殻変動量として算出する変動量算出手順と、
を備える補正パラメータ作成方法。」

[相違点1]
本件発明3の「補正パラメータ」は、「単独測位により測定された位置を地殻変動に基づいて補正するため」(構成X)のものであるのに対して、甲6発明の「補正パラメータ」は、「測地成果2000の元期(1997年1月1日)から、観測を行った時点(今期)までの間に生じた地殻変動量を座標値等に補正することによって、元期において得られたであろう測量成果を求めるセミ・ダイナミック補正のため」のものである点。

[相違点2]
「使用日」が、本件発明3では、「前記パラメータ有効期間内に」「設定」された、「前記パラメータ有効期間内の任意の日である」(構成C)のに対して、甲6発明では、補正パラメータの有効期間外の「2009年1月1日」である点。

[相違点3]
「基準日位置」について、本件発明3では、「基準日位置算出手順」(構成D)により、「前記基準日を含む一定期間内の前記基準点の座標値に基づき、前記基準日における前記基準点の位置を基準日位置として算出」されたものであるのに対して、甲6発明では、そのような算出手順により基準日位置(測地成果2000の元期(1997年1月1日)における電子基準点の座標値)を算出したものであるのか明らかではない点。

[相違点4]
本件発明3は、「前記対象地域を格子状に区切って形成された複数のメッシュのそれぞれの格子点にあたる地点について、空間補間法を用いて、前記地点を囲む複数の前記基準点の前記地殻変動量に基づき、地殻変動推定量を算出し、算出した前記地殻変動推定量を前記補正パラメータとする推定量算出手順」(構成G)を備えるのに対して、甲6発明は、そのような手順を備えていない点。

イ 判断
(ア)相違点1について
甲2記載事項2には、「セミ・ダイナミック補正を適用して、精密単独測位(PPP)の測位結果から地殻変動補正量を差し引くことにより、測量成果上での位置が求められる」ようにするために、「現状のセミ・ダイナミック補正でPPP測位結果を正確に補正できるのかという問題意識から、地殻変動補正パラメータの検証」を行うことが開示されているから、セミ・ダイナミック補正のための補正パラメータを、精密単独測位(PPP)による測定位置を補正するために用いるという発想自体は、本件特許の出願時において知られたものであるということができる。
しかしながら、甲2記載事項3において開示されているように、「精密単独測位(PPP)の測位結果に対するセミ・ダイナミック補正の効果を検証したところ」、「現行のパラメータ公開頻度(1年に1回)では、地震の余効変動等で30cm近くの年間変動量を補正できない場合があり、精密単独測位(PPP)の測位結果に月毎の試作パラメータによる補正をかけることで、より良い補正が出来ることが確認されたため、今後の方針として、巨大地震による余効変動等が生じると、1年に1度のパラメータ提供ではPPP測位結果の正常な補正が期待できない」とされているから、甲6発明において、セミ・ダイナミック補正のための補正パラメータを、そのままの形式・態様で単独測位のための補正パラメータとすることの動機付けが乏しく、甲2記載事項2を甲6発明に適用しても、上記相違点1に係る本件発明3の構成とすることが当業者にとって容易に想到し得たことであるとまではいえない。

(イ)相違点2について
甲6発明において「作成」される「補正パラメータ」は、「2009年度版補正パラメータ」であり、「補正パラメータは、年度ごと(通常、毎年4月1日)に更新され、原則として同じ年度の測量作業では、同じ補正パラメータファイルが使用されるもの」であるから、この「2009年度版補正パラメータ」の有効期間は、2009年4月1日から2010年3月31日までということになる。
他方、甲6発明の「各電子基準点の今期の座標値」は、「2009年1月1日」の外挿推定値を用いているところ、「2009年1月1日」(本件発明3の「使用日」に相当する。)は、上記「2009年度版補正パラメータ」の有効期間である2009年4月1日から2010年3月31日までの範囲内にはないことは明らかであるから、パラメータ有効期間内に設定されたものではない。
そして、各電子基準点の今期の座標値(「使用日」)を、補正パラメータの有効期間内にある任意の日に設定することは、甲1?8文献のいずれにも記載されておらず、その示唆もない。
この点に関し、本件特許の明細書の段落【0008】には、【発明が解決しようとする課題】として、「しかし、SDパラメータの更新頻度は1年である。そして、地殻変動が活発な場所では年間約10cmも移動するため、高精度測位の精度よりも、1年間での地殻変動量の方が大きくなってしまう。また、SDパラメータは毎年1月1日の位置情報を利用しているため、地殻変動補正の効果が時間経過とともに単調に減少する。また、作成時点の基準点の位置から計算したパラメータは提供時には既に劣化し、使用時に最適に補正されない。また、基準点座標を連続観測していると、なかには地殻変動に依らないノイズ(システム雑音や観測雑音)を含む座標値が発生するので、それがパラメータに影響することがある。」と記載され、また、段落【0072】には、「このように補正パラメータ作成装置1は、有効期間内の使用日の地殻変動量に基づいて、補正パラメータを作成する。このため、補正パラメータ作成装置1は、補正パラメータによる地殻変動補正の効果が、有効期間内で最大となるようにすることができる。すなわち、補正パラメータ作成装置1は、有効期間の始期から有効期間中間日までは、地殻変動補正の効果が単調に増加し、有効期間中間日から有効期間の終期までは、地殻変動補正の効果が単調に減少するようにすることが期待できる。これにより、補正パラメータ作成装置1は、有効期間全体として地殻変動補正の効果を向上させることができる。」と記載されているから、本件発明3において、「使用日」を「パラメータ有効期間内の任意の日」に「設定する」ことは、本件発明3の課題を解決するために必要とされる手法の一部であって、当業者が適宜なし得た設計事項にすぎないと評価することはできない。
したがって、上記相違点2に係る本件発明3の構成とすることは、当業者にとって容易に想到し得たことであるとはいえない。

(ウ)小括
上記(ア)及び(イ)の検討内容を踏まえると、上記相違点3及び4について検討するまでもなく、本件発明3は、甲6発明並びに甲2記載事項2、甲5記載事項及び甲7記載事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

2 本件発明1、2及び4について
本件発明1は「補正パラメータ作成装置」の発明であり、本件発明4は「補正パラメータ作成プログラム」の発明であるところ、いずれも本件発明3と同様の構成を備えたものであるから、前記1に示した理由と同様の理由により、本件発明1及び4は、甲6発明並びに甲2記載事項2、甲5記載事項及び甲7記載事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。
本件発明2は、本件発明1に「前記使用日設定部は、前記パラメータ有効期間の中間に前記使用日を設定する補正パラメータ作成装置。」という技術的事項を追加したものであるから、本件発明1についての理由と同様に、甲6発明並びに甲2記載事項2、甲5記載事項及び甲7記載事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

3 申立人の主張
(1)相違点1及び2についての主張
相違点1及び2について、申立人は、以下のア?ウの主張をしている。
ア 特許異議申立書17?18頁
「本件発明1?本件発明4の構成要件の中にある「補正パラメータを作成する基準となる日である基準日を設定する」、「(補正パラメータが有効な期間である)パラメータ有効期間内に、前記パラメータ有効期間内の任意の日である使用日を設定する」等については、特許異議申立人(国土地理院)が技術開発し、平成21年度(2009年度)から正式に公共測量等で採用しているセミ・ダイナミック補正技術の単純な応用であり、本件特許の出願前に特許異議申立人(国土地理院)が公開していた情報に基づいて、当業者が、簡単・容易に発明できたものであるから特許要件の進歩性が認められるものではない。また、パラメータ使用日を任意の日に設定することにより補正残差が小さくなることについても、平成26年(2014年)に特許異議申立人(国土地理院)の研究成果として、日本測地学会第122回講演会(甲第2号証-2)で発表されている知見であり、本件特許出願時において、当該知見に基づいて簡単・容易に発明できた事項も特許要件の進歩性が認められるものではない。」

イ 特許異議申立書20頁
「後述する甲6のp.58(3.3.1節)に記載されているように、セミ・ダイナミック補正に用いる補正パラメータの作成にあたっては、電子基準点の今期と元期の座標差を求めることになる。そこで、「任意の時間における時間変動場をモデル化する」ためには、当然ながら任意の今期(使用日)を設定しなければならない。すなわち、甲1の上記記載(当審注:p.55 4.2節の記載)は、手順C「前記パラメータ有効期間内に、前記パラメータ有効期間内の任意の日である使用日を設定する」ことの先行的基本アイディアとなっている。」

ウ 特許異議申立書25頁
「上述した甲6のp.58(3.3.1節)に記載されているように、セミ・ダイナミック補正に用いる補正パラメータの作成にあたっては、電子基準点の今期と元期の座標差を求めることになる。そこで、「任意の時間における時間変動場をモデル化する」ためには、当然ながら任意の今期(使用日)を設定しなければならない。すなわち、甲6の上述したp.59(3.3.1節)の記載は、手順C「前記パラメータ有効期間内に、前記パラメータ有効期間内の任意の日である使用日を設定する」ことの先行的基本アイディアとなっている。」

しかしながら、甲2記載事項3には、「精密単独測位(PPP)の測位結果に対するセミ・ダイナミック補正の効果を検証したところ」、「現行のパラメータ公開頻度(1年に1回)では、地震の余効変動等で30cm近くの年間変動量を補正できない場合があり、精密単独測位(PPP)の測位結果に月毎の試作パラメータによる補正をかけることで、より良い補正が出来ることが確認されたため、今後の方針として、巨大地震による余効変動等が生じると、1年に1度のパラメータ提供ではPPP測位結果の正常な補正が期待できない」と開示されているから、セミ・ダイナミック補正技術を単独測位の場合に単純に応用することにより、相違点1、2に係る本件発明3の構成とすることが当業者にとって容易に想到し得たことであるとまではいえない。
また、パラメータ使用日を任意の日に設定することにより補正残差が小さくなることが、甲2-2文献に開示されているとは認められない。
さらに、甲1文献や甲6文献に、本件発明3の構成C(「前記パラメータ有効期間内に、前記パラメータ有効期間内の任意の日である使用日を設定する」こと)は記載も示唆もされていない。
したがって、申立人の上記主張ア?ウを採用することはできない。

(2)相違点3及び4についての主張
相違点3及び4について、申立人は以下の主張をしている。
特許異議申立書32?33頁
「(4)-D-エ 甲第5号証に記載されている発明
(4)-C欄で指摘した甲5のp.59?63 3節の記載にあるように、甲第5号証に記載されている発明は、「単独測位により測定された位置を地殻変動に基づいて補正するための補正パラメータを作成する補正パラメータ作成方法(方法X)」に関するものであり、甲5のp.59?63、特に、p.60(3.2.3節)の記載によれば、甲5には、「単独測位により測定された位置を地殻変動に基づいて補正するための補正パラメータを作成する補正パラメータ作成方法(方法X)」において、「複数の基準点のそれぞれについて、前記基準日を含む一定期間内の前記基準点の座標値に基づき、前記基準日における前記基準点の位置を基準日位置として算出する」工程、すなわち、手順Dを採用することが記載されている。
(4)-D-オ 甲第7号証に記載されている発明
(4)-C欄で指摘した甲7のp.4(4.3節)の記載にあるように、甲第7号証に記載されている発明は、「単独測位により測定された位置を地殻変動に基づいて補正するための補正パラメータを作成する補正パラメータ作成方法(方法X)」に関するものであり、甲7のp.4(4.3節)の記載によれば、甲7には、「単独測位により測定された位置を地殻変動に基づいて補正するための補正パラメータを作成する補正パラメータ作成方法(方法X)」において、「前記対象地域を格子状に区切って形成された複数のメッシュのそれぞれの格子点にあたる地点について、空間補間法を用いて、前記地点を囲砂複数の前記基準点の前記地殻変動量に基づき、地殻変動推定量を算出し、算出した前記地殻変動推定量を前記補正パラメータとする推定量算出工程」、すなわち手順Gを採用することが記載されている。」

しかしながら、本件発明3と甲6発明の相違点には、相違点3及び4の他に、申立人が示していない相違点1及び相違点2が存在し、上記相違点1及び2に係る本件発明3の構成とすることについては、当業者にとって容易に想到し得たことではない旨前記1に説示したとおりであるから、相違点3及び4についての上記主張の採否に関わらず、本件発明1?4は、甲6発明並びに甲2記載事項2、甲5記載事項及び甲7記載事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではないことに変わりはない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、申立人の主張する理由及び提出した証拠により、請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-07-19 
出願番号 特願2018-202894(P2018-202894)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G01S)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田中 純  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 濱野 隆
岸 智史
登録日 2020-07-22 
登録番号 特許第6738876号(P6738876)
権利者 アイサンテクノロジー株式会社
発明の名称 補正パラメータ作成装置、補正パラメータ作成方法および補正パラメータ作成プログラム  
代理人 工藤 貴宏  
代理人 三井 直人  
代理人 涌井 謙一  
代理人 山本 典弘  
代理人 名古屋国際特許業務法人  
代理人 鈴木 一永  

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