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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  B29C
管理番号 1376760
異議申立番号 異議2021-700352  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-04-20 
確定日 2021-07-30 
異議申立件数
事件の表示 特許第6771654号発明「熱可塑性樹脂フィルムの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6771654号の請求項1及び7ないし9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6771654号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)3月9日(優先権主張 平成29年3月31日)を国際出願日とする出願であって、令和2年10月1日にその特許権の設定登録(請求項の数9)がされ、同年同月21日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和3年4月20日に特許異議申立人 安藤 宏(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1及び7ないし9)がされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1及び7ないし9に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1及び7ないし9に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
ダイを加熱する前に、ダイから吐出される溶融樹脂の吐出方向における、ダイの吐出口端部と前記吐出口端部から3mm上流の位置との間の樹脂流路壁面に存在する、10μm以上の最大高さ及び100μm以上の最大幅の少なくとも一方を有する付着物の有無を検査し、前記付着物が検出された場合に検出された付着物を除去する工程と、
樹脂流路壁面に存在する前記付着物が除去された前記ダイを加熱する工程と、
加熱された前記ダイから溶融樹脂として熱可塑性樹脂をシート状に吐出する工程と、
を有する熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記ダイのリップ部の表面エネルギーが0mN/m以上60mN/m以下(ただし、0mN/mを除く)である請求項1?請求項6のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記ダイのリップ部の材質が、硬質クロムめっき、炭化タングステン、ダイヤモンドライクカーボン、及びウルトラクロムめっきから選択される材質である請求項1?請求項7のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記吐出する工程は、シート状に吐出した熱可塑性樹脂をキャスティングロールとタッチロールとの間に挟み込んでシート状に成膜する請求項1?請求項8のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。」

第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和3年4月20日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである
1 理由
本件特許の請求項1及び7ないし9に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1ないし6号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

2 証拠方法
甲第1号証:特開2014-151590号公報
甲第2号証:特開2008-73870号公報
甲第3号証:「フィルム成形・加工とハンドリングのトラブル実例と解決方法」(株式会社技術情報協会、2002年9月20日発行)目次、第76?77、111?119、320ページ
甲第4号証:特開2005-55575号公報
甲第5号証:特開2008-107131号公報
甲第6号証:特開2008-194956号公報
なお、証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。

第4 当審の判断
1 証拠の記載事項等
(1) 甲1の記載事項等
ア 甲1の記載事項
甲1には、「Tダイ装置およびTダイ装置と共に用いられるヘラ部材」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向に延びるリップ開口が形成されたリップ面を有するTダイ本体であって、溶融樹脂が供給されるマニホールドと、前記マニホールドから前記リップ面まで延びて前記リップ開口を形成するスリットと、が形成されたTダイ本体と、
少なくとも前記スリットを通過している前記溶融樹脂を前記幅方向から案内するディッケルと、
前記ディッケルを取外し可能に支持し、前記幅方向に沿って移動可能な可動部材と、
前記ディッケルが前記可動部材から取外されている際に、前記可動部材に取付け可能なヘラ部材と、
を備え、
前記ヘラ部材は、前記可動部材に支持された状態において、前記スリット内に配置される第1スイープ部と、前記スリット外に配置されて前記リップ面に対面するようになる第2スイープ部と、を有し、
前記ヘラ部材が前記可動部材に支持された状態において、前記可動部材を前記幅方向に沿って移動させることにより、前記第1スイープ部が、前記Tダイ本体の前記スリットを画成する壁面に付着した異物を取除くことができ、且つ、前記第2スイープ部が、前記Tダイ本体の前記リップ面に付着した異物を取除くことができるようになっている、Tダイ装置。」
「【背景技術】
【0002】
フィルムを押し出し成形する押出成形装置は、添加剤を含む溶融樹脂を押し出す押出機と、押出機から押し出された溶融状態の溶融樹脂が供給され、当該溶融樹脂をシート状に成形して排出するTダイ本体と、を備えている。このうち、Tダイ本体は、溶融樹脂を排出する幅方向に延びるリップ開口が形成されたリップ面を有している。また、Tダイ本体には、押出機から押し出された溶融樹脂が供給されるマニホールドと、マニホールドからリップ面まで延びてリップ開口を形成するスリットとが、形成されている。押出機から溶融状態で押出された溶融樹脂は、Tダイ本体のマニホールドに供給され、幅方向に広がる。その後、溶融樹脂は、スリットを通過してリップ開口から押し出され、シート状に成形される。
【0003】
この押出成形装置を稼働させていくと、Tダイ本体のリップ面やTダイ本体のスリットを画成する壁面に、メヤニやコゲ等とも呼ばれる樹脂や添加剤が変質してなる異物が堆積していく。リップ面やスリットの壁面に異物が堆積していくと、製造したシートの寸法精度を低下させたり、スジ不良と呼ばれる不良品、もしくは堆積物が流出することによる製品の異物不良が発生する。従って、付着した異物は、定期的に取除かれる。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述したように、メヤニやコゲ等とも呼ばれる異物は、Tダイ本体510のリップ面511だけでなく、Tダイ本体510のスリット514を画成する壁面514aにも付着する。しかしながら、特許文献1に記載の清掃装置では、Tダイ本体510のリップ面511に付着した異物を取除くことができるが、Tダイ本体510のスリット514を画成する壁面514aに付着した異物を取除くことができない。
【0010】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、Tダイ本体のリップ面およびTダイ本体のスリットを画成する壁面の両方に付着した異物を簡易な作業で十分に取除くことができるヘラ部材およびTダイ装置を提供することを目的とする。」
「【0019】
図1aおよび図1bに示すように、Tダイ装置1は、幅方向wdに延びるリップ開口12が形成されたリップ面11を有するTダイ本体10を備えている。不図示の押出機からTダイ本体10に供給される溶融樹脂2が、シート状(フィルム状)に形成されてリップ開口12から排出されるようになっている。
【0020】
なお、本明細書中において、「幅方向wd」とは、特に指示がない場合、リップ開口12が延びる長手方向を指し、以下の記載では、「第1方向wd」と呼ぶこととする。従って、「第1方向wd」とは、図1aにおける紙面の左と右とを結ぶ方向に相当する。また、第1方向wdおよびリップ開口12から溶融樹脂2が排出される方向の両方に直交する方向を、「第2方向td」と呼ぶこととする。従って、「第2方向td」とは、図1bにおける紙面の左と右とを結ぶ方向に相当する。また、「第2方向td」は、Tダイ本体10の「厚み方向」に一致する。更に、本実施の形態において、リップ開口12から溶融樹脂2が排出される方向は、鉛直方向に一致する。」
「【0032】
ところで、このTダイ装置1を稼働させていくと、Tダイ本体10のリップ面11やTダイ本体10のスリット14を画成する壁面14aに、メヤニやコゲ等とも呼ばれる樹脂や添加剤が変質してなる異物が堆積していく。堆積した異物は、リップ面11またはスリット14を画成する壁面14aから突出して、リップ開口12からフィルム状に排出される溶融樹脂2に、スジ状の痕等を付けてしまい、溶融樹脂2から作製されたフィルムの表面品位を低下させる要因となる。そこで、これらに堆積した異物を取除くべく、Tダイ装置1は、ディッケル21が可動部材30から取外されている際に、可動部材30に取付け可能なヘラ部材60を備えている。以下、ヘラ部材60について図2(a)、(b)および図3(a)、(b)を参照して、詳述していく。このうち、図2は、図1に示すTダイ装置1に取付けられるヘラ部材60を示す概略図であり、(a)に、正面図を示し、(b)に、側面図を示す。図3は、図1に示すTダイ装置1に、ヘラ部材60を取付けた状態を示す概略図であり、(a)に、部分拡大縦断面図を示し、(b)に、側面図を示す。
【0033】
図3(b)によく示されているように、ヘラ部材60は、可動部材30に支持された状態において、スリット14内に配置される第1スイープ部61と、スリット14外に配置されてリップ面11に対面するようになる第2スイープ部62と、を有している。
【0034】
先ず、第1スイープ部61について説明する。図2(a)、(b)および図3(a)、(b)に示すように、第1スイープ部61は、スリット14を画成する壁面14aに沿って形成された直方体状の部分で構成されている。第1方向wdにおける外側に配置された第1スイープ部61の面61aに、第1方向wdに延びる挿入孔63が形成されている。そして、当該挿入孔63に、棒状の可動部材30の一端が挿入され得る。更に、第1スイープ部61に、第1方向wdに直交する第2方向tdから挿入孔63に連通するように延びる雌ネジ孔64が形成されている。そして、当該雌ネジ孔64に、止めねじ22が螺合され得る。当該止めねじ22の先端が棒状の可動部材30を押圧することによって、ヘラ部材60が可動部材30に対して固定される。なお、止めねじ22の頭部がスリット14を画成する壁面14aに干渉しないように、雌ネジ孔64の周りに、止めねじ22の頭部を収容する逃げ溝65が形成されている。
【0035】
前述したように、第1スイープ部61は、可動部材30に支持された状態において、スリット14内に配置される。従って、図3(b)に示すように、第1スイープ部61の第2方向tdに沿った長さは、スリット14の第2方向tdに沿った長さよりも短くなっている。そして、可動部材30に支持された状態において、第1スイープ部61は、スリット14を画成する壁面14aに近接して対面している。」
「【0040】
次に、以上のような構成からなる本実施の形態の作用について、図を参照しながら説明する。
【0041】
先ず、Tダイ本体10の供給路15にパージ樹脂を供給して、スリット14を画成する壁面14aに付着した異物と共にパージ樹脂をリップ開口12から排出する。所定の量のパージ樹脂を供給した後、供給路15に生産用の溶融樹脂2を供給していく。
【0042】
この状態から、ディッケル21を支持した可動部材30を、第1方向wdに沿って外方に移動させた後、止めねじ22を緩めて、ディッケル21を可動部材30から取外す。そして、ディッケル21の代わりに、ヘラ部材60を可動部材30に取付ける。具体的には、ヘラ部材60に形成された第1方向wdに延びる挿入孔63に、可動部材30の一端を挿入する。そして、第2方向tdから当該挿入孔63に連通する雌ネジ孔64に、止めねじ22を螺合する。図3(b)に示すように、止めねじ22の先端が棒状の可動部材30を押圧することによって、ヘラ部材60が可動部材30に対して固定される。
【0043】
次に、駆動手段40を駆動させて、ヘラ部材60を支持する可動部材30を第1方向wdに沿って移動させ始める。これにより、図3(b)に示すように、第1スイープ部61がスリット14内に進入し、スリット14を画成する壁面14aに近接して対面すると共に、第2スイープ部62がスリット14の外からリップ面11に近接して対面する。そして、ヘラ部材60がスリット14内に入った後に、再び、溶融樹脂2を押し出してリップ開口12から排出させる。溶融樹脂2を排出することにより、スリット14を画成する壁面14aやリップ面11に付着した異物を柔らかくして取除き易くすることができる。
【0044】
更に可動部材30を第1方向wdに沿って移動させると、第1スイープ部61が、スリット14を画成する壁面14aに対面しながら当該スリット14内を進んでいき、第2スイープ部62がスリット14の外からリップ面11に対面しながら、当該リップ面11に沿って移動していく。前述したように、リップ面11またはスリット14を画成する壁面14aに堆積した異物は、これらの面11、14から突出している。従って、第1スイープ部61が、スリット14を画成する壁面14aに対面しながら当該スリット14内を進んでいくことにより、スリット14を画成する壁面14aに付着した異物を取除くことができる。同時に、第2スイープ部62が、スリット14の外からリップ面11に対面しながら、当該リップ面11に沿って移動することにより、リップ面11に付着した異物を取除くことができる。」




イ 甲1発明
甲1に記載された事項を、特に上記下線部に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
「押出機からTダイ本体に供給される溶融樹脂が、リップ開口からシート状に排出される樹脂フィルムの製造方法において、
Tダイ本体が、
幅方向に延びるリップ開口が形成されたリップ面と、溶融樹脂が供給されるマニホールドと、前記マニホールドから前記リップ面まで延びて前記リップ開口を形成するスリットと、少なくとも前記スリットを通過する前記溶融樹脂を前記幅方向から案内するディッケルと、前記ディッケルを取外し可能に支持し、前記幅方向に沿って移動可能な可動部材と、前記ディッケルが前記可動部材から取外されている際に、前記可動部材に取付け可能なヘラ部材と、を備え、
前記ヘラ部材は、前記可動部材に支持された状態において、前記スリット内に配置される第1スイープ部と、前記スリット外に配置されて前記リップ面に対面するようになる第2スイープ部と、を有し、
前記ヘラ部材が前記可動部材に支持された状態において、前記可動部材を前記幅方向に沿って移動させることにより、前記第1スイープ部が、前記Tダイ本体の前記スリットを画成する壁面に付着した異物を取除き、且つ、前記第2スイープ部が、前記Tダイ本体の前記リップ面に付着した異物を取除く、異物の除去工程を有する、
樹脂フィルムの製造方法。」

(2) 甲2の記載事項
甲2には、「光学用フィルム成形装置、光学用フィルム製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料の光学用フィルム用の樹脂を加熱して溶融し、溶融した前記樹脂をTダイより押出し、冷却引取り機で冷却し、巻き取り機で巻き取ることにより光学用フィルムを製造する光学用フィルム成形装置において、前記光学用フィルム成形装置は前記Tダイのリップ面にレーザー光を照射するレーザー光照射ユニットを有していることを特徴とする光学用フィルム成形装置。
【請求項2】
前記レーザー光照射ユニットがTダイと非接触の状態で配設されており、且つ、リップの幅手方向に移動可能であることを特徴とする請求項1に記載の光学用フィルム成形装置。
【請求項3】
前記レーザー光照射ユニットが、排気管を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学用フィルム成形装置。
【請求項4】
前記レーザー光照射ユニットが、酸素ガス供給管を備えていることを特徴とする請求項1?3の何れか1項に記載の光学用フィルム成形装置。
【請求項5】
前記レーザー光照射ユニットが、異物を検出する異物検出装置を備えていることを特徴とする請求項1?4の何れか1項に記載の光学用フィルム成形装置。
【請求項6】
前記レーザー光照射ユニットが、Tダイから溶融樹脂を押出し製膜している間、リップ面の幅方向に移動し、リップ面に付着した異物を除去することを特徴とする請求項1?5の何れか1項に記載の光学用フィルム成形装置。
【請求項7】
原料の光学用フィルム用の樹脂を加熱して溶融した液体をTダイより押出す押出し機と、冷却引取り機と、巻き取り機とを有する光学用フィルム成形装置により、光学用フィルムを製造する光学用フィルム製造方法において、前記光学用フィルム成形装置が請求項1?6の何れか1項に記載の光学用フィルム成形装置であることを特徴とする光学用フィルム製造方法。」
「【0012】
本発明は上記状況に鑑みなされたものであり、その目的は、稼動状態を保ったままで、Tダイのリップ面に付着した異物をフィルムの性能に悪影響を与えることなく除去する光学用フィルム成形装置及び光学用フィルム成形方法を提供することである。」
「【0027】
冷却引取り部4は、Tダイ301で膜状に押出された樹脂を冷却ロール401に押付ける押付けロール402と、冷却ロール401により冷却固化された未延伸フィルム6を搬送する複数の搬送ロール403とを有している。」
「【0034】
レーザー照射ユニット302は、本体302aと、本体302aに取り付けられ、ボールネジ302bと螺合している移動部材302cと、ボールネジ302bを回転させるモータ302dと、ボールネジ302bの回転速度の制御、リップ面に対して照射するレーザー光の制御、異物検出装置からの情報を解析するメモリとCPUとを有する制御部303とを有している。
【0035】
302eはTダイ301と離れTダイ301の幅方向(X方向とする)に平行に配設されたガイド部材を示す。ガイド部材302e及びモータ302dは押出し部3(図1を参照)のフレーム(不図示)に固定されている。本体302aはガイド部材302eに移動可能に配設されており、ボールネジ302bの回転に伴いガイド部材に沿ってTダイ301の幅方向(X方向とする)への移動(図中の矢印方向)が可能となっている。本体302aにはリップ面301f(図3を参照)に付着した異物にレーザー光を照射するためのレーザー光発振装置302a1(図3を参照)と、リップ面301f(図3を参照)に付着した異物を検出する異物検出装置302a2(図3を参照)とを有している。レーザー光発振装置302a1(図3を参照)は異物検出装置302a2(図3を参照)からの異物付着の位置に関する情報により、異物付着の位置に移動し、レーザー光の照射が行われる様に制御部により制御可能となっている。本体302aの移動が本体から離れて配設されたガイド部材302eに沿って移動することで、移動に伴う振動をTダイ301に伝播することを防止している。これにより、Tダイ301のリップ口301e(図3を参照)より薄膜状に押出される溶融した樹脂への振動に伴う影響をなくし、膜厚一定な安定した光学用フィルムの製造を可能としている。」
「【0037】
次に図2(b)に示すブロック図によりレーザー光照射ユニットを構成している各部材の関係を説明する。異物検出装置302a2(図3を参照)からの異物の付着位置と異物の大きさとに関する情報が制御部303のCPUに入力される。入力された情報はメモリで演算処理され、異物の大きさと付着位置が決定される。異物の大きさに対して、予めメモリに入力されている異物の大きさとレーザー照射条件から、レーザー光密度(J/cm^(2))が決まりレーザー光照射ユニット302のレーザー光発振装置302a1を起動させる。合わせて、モータ302dの回転を制御しレーザー光照射ユニットを異物付着位置に移動させた後、異物に必要とするレーザー光密度(J/cm^(2))を照射するためレーザー光照射ユニットの移動速度を制御する。付着した異物にレーザー光が照射される様にミラーの角度を変える。異物に必要とするレーザー光密度(J/cm^(2))を照射し、異物を除去したた後、レーザー光発振装置302a1の稼動を停止する。
【0038】
本発明の特徴は、図1、図2に示す様に、溶融した樹脂をTダイのリップ口より押出し、製膜している間、異物検出装置により常時異物付着を監視し、リップ面に異物の付着が検出された時点でリップ面に付着する異物にTダイと非接触の状態で配設されたレーザー光照射ユニットが(当審注:「が」不要。)によりレーザー光を照射し、いわば化学的に分解・揮発させて除去することである。」
「【0044】
302a5はミラー302gに映されたリップ面301fに付着した異物を異物検出装置302a2で監視するための監視用窓である。ミラー302gはリップ面301fに付着した異物7(図4を参照)を的確に映し出すため、角度調整手段(不図示)により角度を変えることも可能となっている。ミラー302gに映されたリップ面301fに付着した異物を監視用窓302a5を介して異物検出装置302a2で監視可能となっている。異物検出装置302a2としては厚さ5μm?500μm、幅0.1mm?10mmの付着物を検出することが出来れば特に限定はなく、例えばレンズ、撮像素子等を備えたもの(CCDカメラ)であってもよいし、ユニットにはミラーのみが具備され、別にあるレンズ、撮像素子に映像を反射してもよい。又、レーザー変位計等を利用し、リップ面の高低差から異物の位置を特定する方式であってもよい。」
「【0053】
異物検出装置302a2はレーザー光照射ユニット302の移動に合わせ常時稼動させることが好ましい。レーザー光は、異物検出装置302a2により異物が検出され、レーザー光照射ユニット302が異物付着位置に移動した時点で、照射することが好ましい。以下に、Tダイのリップ口から溶融樹脂を押出し光学用フィルムを製造する時のリップ面に付着する異物を除去するまでの具体的なステップを示す。
【0054】
ステップ1では、調整用ボルトによるリップ口の長さの調整が終了した時点で、レーザー光照射ユニットの移動が開始される。(この移動は「検出モード」状態である。検出モードでの好ましい移動速度は5mm/sec?500mm/secである)。同時に異物検出装置の稼動も開始される。この時、ミラーはリツプ面を映す様にミラーの角度が調整される。尚、レーザー光照射ユニットはリップ口からの樹脂の押出しが続けられている間、Tダイの幅方向に往復移動が続けられる。
【0055】
ステップ2では、異物検出装置の異物検出情報に従って制御部で解析処理され得られた異物の付着位置、異物の大きさの情報に従って、レーザー光照射ユニットは異物の付着位置に移動する。
【0056】
ステップ3では、異物の付着位置に合わせレーザー光が照射される様にミラーの角度が決定される。
【0057】
ステップ4では、異物の大きさに従って必要とするレーザー光密度(J/cm^(2))が決まり、異物を除去するためにレーザー光照射ユニットの移動速度が制御され(この移動は「照射モード」状態である。照射モードでの好まし移動速度は1?300mm/min、より好ましくは10?100mm/minである)、必要とするレーザー光密度(J/cm^(2))のレーザー光を異物に照射する。このとき、酸素ガス供給管から必要量の酸素ガスが供給されるのと同時に排気管を介して排気が開始される。
【0058】
ステップ5では、異物の除去が完遂されたことを、異物検出装置により再確認し、除去が不完全であればステップ2に戻る。
【0059】
ステップ6では、異物が除去された後、レーザー光の照射は停止され、異物検出のためレーザー光照射ユニットは通常の設定された速度でTダイの幅方向に沿って往復移動を行う。異物が検出された時点でステップ2からの操作が繰り返し行われる。尚、レーザー光照射ユニットによる異物の除去はリップ口から溶融された樹脂が押出されている間は常に続けて行われている。」
「【0110】
(異物検出装置)
500万画素CCDカメラを使用し、およそ10mm^(2)の範囲を1視野に観察し、画像解析処理によって異物を検出し、位置と大きさとを特定した。(酸素ガス供給量) 酸素ガスとして純酸素を使用し、0.1ml/secを供給した。(排気量)酸素ガスの供給量に対して、排気量を120%とした。酸素ガス供給管及び排気管の先端は、リップ口側から5mmのリップ面とし、酸素ガス供給管及び排気管の先端の間隔は5mmとした。」




2 対比・判断
(1)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「樹脂」は、溶融されるものであるから、本件特許発明1の「熱可塑性樹脂」に相当する。また、甲1発明の「リップ面」、「スリットを画成する壁面」、「異物」は、それぞれ本件特許発明1の「ダイの吐出口端部」、「樹脂流路壁面」、「付着物」に相当する。
そうすると、両者は以下の点で一致、相違する。
<一致点>
ダイから吐出される溶融樹脂の吐出方向における、ダイの吐出口端部と前記吐出口端部との間の樹脂流路壁面に存在する、付着物を除去する工程と、
ダイから溶融樹脂として熱可塑性樹脂をシート状に吐出する工程と、
を有する熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
<相違点1>
付着物を除去する工程について、本件特許発明1は「ダイを加熱する前に、ダイから吐出される溶融樹脂の吐出方向における、ダイの吐出口端部と前記吐出口端部から3mm上流の位置との間の樹脂流路壁面に存在する、10μm以上の最大高さ及び100μm以上の最大幅の少なくとも一方を有する付着物の有無を検査し、前記付着物が検出された場合に検出された付着物を除去する」と特定されているのに対し、甲1発明はそのような特定がされていない点。
<相違点2>
本件特許発明1は、「樹脂流路壁面に存在する付着物が除去されたダイを加熱する工程」を有すると共に、熱可塑性樹脂をシート状に吐出する工程において、ダイが「加熱され」ていると特定されているに対して、甲1発明は、そのような特定がされていない点。

そこで、上記相違点について検討する。
<相違点1>について
甲1の背景技術に関する記載から(段落【0003】)、甲1発明において、その異物の除去工程における異物(付着物)の除去は定期的に行われるものであると当業者は理解する。そうすると、甲1発明の異物の除去工程において、敢えて、異物の有無を検査しようとする必然性はないし、また、そのようにする動機付けは見当たらない。
また、上記1(2)での摘記から、甲2には、「原料の光学用フィルム用の樹脂を加熱して溶融した液体をTダイより押出す押出し機と、冷却引取り機と、巻き取り機と、異物検出装置と、レーザー光照射ユニットとを有する光学用フィルム成形装置により光学用フィルムを製造する光学用フィルム製造方法において、異物検出装置により、前記Tダイのリップ面に付着する厚さ5μm?500μm、幅0.1mm?10mmの付着物を常時監視し、前記付着物が検出された時点で前記付着物にレーザー光照射ユニットによりレーザー光を照射する光学用フィルム製造方法。」のとおりの技術(以下、「甲2記載の技術的事項」という。)が記載されているといえ、このような技術は、稼動状態を保ったまま、Tダイのリップ面に付着した異物をフィルムの性能に悪影響を与えることなく除去することを目的とするものである(甲2の段落【0012】)。
すなわち、甲2に記載されている付着物の除去は、製品としての熱可塑性樹脂フィルムを製造する最中に行うものであるのに対し、甲1発明における異物の除去工程は、熱可塑性樹脂フィルムを製造する前段階として行うものである。
そうすると、甲1発明と甲2記載の技術的事項とは、付着物を除去する工程の時期が異なるものであるから、甲1発明に甲2記載の技術的事項を適用する動機付けはないし、稼働状態を保つ目的を有する甲2には、むしろ阻害要因があるといえる。
また、他の証拠にも、上記相違点1に係る技術的事項は開示されていないし、そのような技術的事項とする動機付けもない。
よって、本件特許発明1は、相違点2を検討するまでもなく、甲1発明及び甲2記載の技術的事項、さらには甲3ないし甲6に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件特許発明7ないし9について
本件特許発明7は、本件特許発明1に対して、さらに「前記ダイのリップ部の表面エネルギーが0mN/m以上60mN/m以下(ただし、0mN/mを除く)」という技術的事項を追加したものであり、本件特許発明8は、本件特許発明1に対して、さらに「前記ダイのリップ部の材質が、硬質クロムめっき、炭化タングステン、ダイヤモンドライクカーボン、及びウルトラクロムめっきから選択される材質である」という技術的事項を追加したものである。また、本件特許発明9は、本件特許発明1に対して、さらに「前記吐出する工程は、シート状に吐出した熱可塑性樹脂をキャスティングロールとタッチロールとの間に挟み込んでシート状に成膜する」という技術的事項を追加したものである。
そうすると、本件特許発明7?9と甲1発明とを対比したとき、少なくとも上記相違点1の点で両者は相違するのであるから、上記(1)に示した理由と同様の理由により、本件特許発明7ないし本件特許発明9は、甲1発明及び甲2記載の技術的事項、さらには甲3ないし甲6に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、特許異議申立書において、要旨以下のとおり主張することで,本件特許発明1の進歩性欠如を主張している。
「甲1発明と同じ『光学用フィルム製造方法』の発明が記載されている甲第2号証の【請求項5】には、『Tダイのリップ面にレーザー光を照射するレーザー光照射ユニット』が、『異物を検出する異物検出装置』を備えている、光学用フィルム成形装置が記載されている。また、甲第2号証の【0034】ないし【0038】には、異物検出装置からの情報によりレーザー光照射ユニットが制御されること、甲第2号証の【0038】には、レーザー光照射ユニットにより異物を除去されること、甲第2号証の【0044】ないし【0059】には、『光学用フィルム製造方法』において異物検出ステップおよび異物除去ステップが行われること、【0110】には異物検出装置の具体例が記載されている。
このように、付着物を除去する際に、付着物を除去すべき領域に存在する付着物の有無を『検査』することは、当業者であれば通常なし得る事項である。
そして、付着物の検査・除去やダイの加熱のタイミングや順序は、当業者が適宜設計し得る事項の範囲である。」
しかしながら、上記2で検討したように、甲1発明と甲2記載の技術的事項とは、付着物を除去する工程の時期が異なるものであるから、甲1発明に甲2記載の技術的事項を適用する動機付けは存在しない。
よって、特許異議申立人の主張を採用することができない。

4 申立理由のまとめ
以上のとおり、本件特許発明1及び本件特許発明7ないし本件特許発明9は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術的事項、さらに甲第3号証ないし甲第6号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1及び本件特許発明7ないし本件特許発明9についての特許は、特許法第29条第2項に違反してされたものではなく、特許異議申立人が主張する進歩性に係る申立理由は、理由がない。

第5 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1及び7ないし9に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件特許の請求項1及び7ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-07-21 
出願番号 特願2019-509168(P2019-509168)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (B29C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 関口 貴夫  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 大畑 通隆
細井 龍史
登録日 2020-10-01 
登録番号 特許第6771654号(P6771654)
権利者 富士フイルム株式会社
発明の名称 熱可塑性樹脂フィルムの製造方法  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  
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