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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09K
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09K
管理番号 1376761
異議申立番号 異議2021-700237  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-03-03 
確定日 2021-08-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第6760449号発明「ノンアスベスト摩擦材組成物、これを用いた摩擦材及び摩擦部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6760449号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6760449号の請求項1?10に係る特許についての出願は、平成23年11月7日(優先権主張 平成22年11月19日 日本国)を国際出願日とする特願2012-544187号の一部を、平成28年11月24日に新たな特許出願とした特願2016-228289号の一部を、平成30年4月11日に新たな特許出願とした特願2018-76090号の一部を、令和元年7月18日に新たな特許出願としたものであって、令和2年9月7日にその特許権の設定登録がなされ、同年同月23日にその特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許の全請求項について、令和3年3月3日に特許異議申立人である金島雅生による特許異議の申立てがなされた。

第2 本件発明

特許第6760449号の請求項1?10の特許に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明2」などといい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
銅を含まないノンアスベスト摩擦材組成物であって、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり、前記摩擦材組成物中に、平均繊維長500μm以下の鉱物繊維と共に、柱状、板状又は鱗片状であるチタン酸リチウムカリウム、及び黒鉛を含有するノンアスベスト摩擦材組成物。
【請求項2】
銅及び銅合金以外の金属繊維を含有しない、請求項1に記載のノンアスベスト摩擦材組成物。
【請求項3】
前記チタン酸リチウムカリウムの平均粒径が1?10μmである、請求項1又は2に記載のノンアスベスト摩擦材組成物。
【請求項4】
前記チタン酸リチウムカリウムの含有量が、1?30質量%である、請求項1?3のいずれか1項に記載のノンアスベスト摩擦材組成物。
【請求項5】
前記黒鉛の平均粒径が、0.1?100μmである、請求項1?4のいずれか1項に記載のノンアスベスト摩擦材組成物。
【請求項6】
前記黒鉛の含有量が、1?20質量%である、請求項1?5のいずれか1項に記載のノンアスベスト摩擦材組成物。
【請求項7】
さらに5?20質量%の結合材を含有する、請求項1?6のいずれか1項に記載のノンアスベスト摩擦材組成物。
【請求項8】
さらに1?20質量%の有機充填材を含有する、請求項1?7のいずれか1項に記載のノンアスベスト摩擦材組成物。
【請求項9】
請求項1?8のいずれかに記載のノンアスベスト摩擦材組成物を成形してなる摩擦材。
【請求項10】
請求項1?8のいずれかに記載のノンアスベスト摩擦材組成物を成形してなる摩擦材と裏金とを用いて形成される摩擦部材。」

第3 特許異議の申立ての理由及び証拠
1 取消理由の概要
特許異議申立人金島雅生(以下、「特許異議申立人」という。)が申立てた取消理由及び提出した証拠は、以下のとおりである。

<取消理由>
取消理由1
本件特許の特許請求の範囲の請求項1?10に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(甲1)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
取消理由2
本件特許の特許請求の範囲の請求項1?10に係る発明は、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(甲1)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
取消理由3
本件特許の特許請求の範囲の請求項1?10に係る発明は、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物(甲2及び甲3)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

<証拠>
甲第1号証
特開2007-277418号公報(以下、「甲1」という。)
甲第2号証
特開2009-091422号公報(以下、「甲2」という。)
甲第3号証
特開2005-036157号公報(以下、「甲3」という。)
甲第4号証
特開2006-194441号公報(以下、「甲4」という。)
甲第5号証
国際公開第2011/049575号(以下、「甲5」という。)
甲第6号証
「Lapinus Fibers B.V.製品(摩擦材料向け)」という表題のついた表などが記載されており、右上に「Lapinus」と記載されている印刷物(作成者、作成年月日不明。以下、「甲6」という。)

2 証拠に記載されている事項
(1) 甲1に記載されている事項
甲1には以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
繊維基材と充填材を結合剤によって結着させた摩擦材であって、
非ウィスカー状のチタン酸化合物塩と、生体溶解性の無機繊維を有しており、
前記非ウィスカー状のチタン酸化合物塩は、非ウィスカー状のチタン酸アルカリ金属塩と、非ウィスカー状のチタン酸アルカリ金属・アルカリ土類金属塩の少なくとも一つを含んでおり、
前記無機繊維は、生体溶解性であるとともに、平均繊維径が2?7μm、アスペクト比が3以上であることを特徴とする摩擦材。」
「【背景技術】
【0002】
従来、様々な摩擦材が知られており、例えば、非ウィスカー状のチタン酸カリウムを有している摩擦材が知られている(特許文献1など)。この摩擦材は、チタン酸カリウムによって耐摩耗性や対面攻撃性等に優れており、非ウィスカー状のチタン酸カリウムが選択されているために、作業環境衛生上にも良好な摩擦材になっている。」
「【0011】
本発明にかかる摩擦材は、繊維基材と充填材(摩擦調整剤)と結合剤を主体に有している。
充填材(摩擦調整剤)は、摩擦係数の調整、異音調整、錆防止などのために含まれるものであって、本形態では、非ウィスカー状のチタン酸化合物塩と、生体溶解性の無機繊維が含まれている。
【0012】
チタン酸化合物塩は、非ウィスカー状チタン酸アルカリ金属塩と非ウィスカー状チタン酸アルカリ金属・アルカリ土類金属塩の少なくとも一つ、すなわちいずれか一つまたは両方を含んでいる。
チタン酸化合物塩の添加量は、摩擦材全体の6?38重量%であることが好ましく、10重量%以上、20重量%以上、30重量%以下、24重量%以下であることがより好ましい。
【0013】
非ウィスカー状とは、ウィスカーを含んでいないことを意味しており、板状、フレーク状(薄片状、魚鱗状)、粉状などであることを意味する。したがってチタン酸化合物塩は、環境衛生上好ましくない長さ5μm以上、直径3μm以下、アスペクト比(長さ/直径)3を超えるウィスカー状(針状結晶、ひげ結晶)のものを含んでいない。
【0014】
チタン酸アルカリ金属塩は、例えば、チタン酸カリウム,チタン酸リチウム,チタン酸リチウム・カリウム等であって、カリウムやリチウムに代えて他のアルカリ金属(ナトリウム等)を有するものであっても良い。
チタン酸カリウムとしては、6チタン酸カリウム,8チタン酸カリウム、例えば、板状の6チタン酸カリウム(K_(2)Ti_(6)O_(13)),フレーク状の8チタン酸カリウム(K_(1.88?2.13)Ti_(8)O_(16.94?17.07))などを利用することができる。
チタン酸リチウム・カリウムとしては、フレーク状のチタン酸リチウム・カリウム(K_(0.5?0.7)Li_(0.27)Ti_(1.6)O_(3.85?3.95))などを利用することができる。
【0015】
チタン酸アルカリ金属・アルカリ土類金属塩は、例えば、チタン酸マグネシウム・カリウムなどであって、カリウムに代えて他のアルカリ金属(リチウム等)、マグネシウムに代えて他のアルカリ土類金属(ベリリウム,カルシウム等)を有するものであっても良い。
チタン酸化合物塩の平均粒径は、0.1?100μmが好ましく、アスペクト比が3以下であることが好ましい。またチタン酸化合物塩は、シランカップリング剤によって表面処理したものを用いても良い。
【0016】
生体溶解性の無機繊維は、気孔率を増加させるために加えられるものであって、生体溶解性のセラミックスファイバー、生体溶解性の人造鉱物繊維などを使用することができる。
生体溶解性のセラミックスファイバーとしては、シリカ・カルシア系繊維、シリカ・カルシア・マグネシア系繊維などを使用することができる。生体溶解性の人造鉱物繊維としては、高炉スラグや玄武岩やその他の天然鉱物などを主原料とするロックウールなどを使用することができる。
【0017】
生体溶解性の無機繊維は、平均繊維径が2?7μmであり、好ましくは平均繊維径が6μm以下、5μm以下である。アスペクト比は、3以上であり、平均繊維長さは、50μm以上、1500μm以下であり、好ましくは100μm以上、1000μm以下である。
したがって生体溶解性の無機繊維は、細くて長いために混合の際に毛玉になりやすく、毛玉の状態で摩擦材に分散される。そして毛玉は、無機繊維によって形成されるために、有機繊維に比べて圧縮成形時に潰れにくく、気孔を維持することができる。そのため摩擦材は、生体溶解性の無機繊維によって形成された毛玉によって気孔率が高くなっている。
【0018】
生体溶解性の無機繊維としては、例えば、ウィスカー状の生体溶解性のセラミックスファイバーを利用することができる。ウィスカー状の生体溶解性のセラミックスファイバーは、平均繊維長さが5μm以上であり、直径が3μm以下であり、アスペクト比が3以上である。
【0019】
他の充填材としては、その他の無機充填材,有機充填材,潤滑剤、金属粉が適宜含まれる。 その他の無機充填材としては、硫酸バリウム,水酸化カルシウム,酸化ジルコニウム,珪酸ジルコニウム,炭酸カルシウム,アルミナ,シリカ,マグネシア,雲母(マイカ),カオリン,タルク、硫化物などが含まれる。有機充填材としては、ゴム,カシューダストなどが含まれる。潤滑剤としては、黒鉛(グラファイト),三硫化アンチモン,二硫化モリブデン,二硫化亜鉛などが含まれる。
【0020】
繊維基材としては、金属繊維、有機繊維を適宜選択して含まれる。金属繊維としては、銅繊維,鉄繊維などを使用することができる。有機繊維としては、アラミド繊維(芳香族ポリアミド繊維)、耐炎性アクリル繊維などを使用することができる。これら繊維基材は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合せて使用することもできる。
繊維基材の添加量は、摩擦材全体の5?30重量%であることが好ましく、10重量%以上、20重量%以下であることがより好ましい。」
「【実施例】
【0023】
以下に、本発明に係る実施例1?18と比較例1,2を具体的な数字を用いて説明する。
実施例1?18に係る摩擦材と比較例1,2に係る摩擦材は、図1,2に示す原料成分と配合量を有する原料混合物から得た。」
「【図1】




【図2】




(2) 甲2に記載されている事項
甲2には以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
結合材と無機物とを含む摩擦材組成物において、前記無機物としての生体溶解性無機繊維を全組成物中に1.5?7.5質量%含有し、かつ前記無機物は、モース硬度が6.0を超える無機物の総量がモース硬度4.0?6.0の無機物の総量に対して3.0?5.5倍で含有される摩擦材組成物。」
「【背景技術】
【0002】
自動車等には、その制動のためにディスクブレーキパッドやブレーキライニング等の摩擦材が使用されている。前記摩擦材は、制動のために相手材、例えばディスクローターやブレーキドラム等と摩擦することにより制動の役割を果たしており、そのため、高い摩擦係数と、その摩擦係数の安定性が求められている。
【0003】
前記摩擦材は、繊維基質、結合材、充填材等を配合した組成物を成形加工することにより製造される。特に、前記繊維基質は、摩擦材の骨格を形成するものであり、摩擦材の制動に関わる特性を付与する成分である。
【0004】
従来、摩擦材において繊維基質にアスベスト材(石綿)が用いられてきたが、人体へ悪影響を及ぼす物質として認知されて以来、各国法規制等により、これに替わるものが製造されている。
【0005】
アスベスト材に替わる繊維基質として無機繊維、金属繊維、有機繊維等の複数の繊維を配合した摩擦材が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
・・・
【0007】
ところで、アスベスト材の人体への有害性は、その繊維径が小さいこと、及び体内で溶解せずに滞留することにより生じるものである。代替品としての、繊維径が小さくアスペクト比の大きい無機繊維や、体内で溶解しない繊維に関しても、アスベスト材と同様に体内への悪影響が懸念されている。そのような観点から、摩擦材に使用されるセラミック繊維として、生体溶解性セラミック繊維を使用した摩擦材が提案されている(例えば、特許文献2参照)。」
「【0016】
(3)上記(1)又は(2)に記載の摩擦材組成物を加熱加圧成形してなる摩擦材。
【0017】
(4)上記(1)又は(2)に記載の摩擦材組成物を加熱加圧成形してなる摩擦材と裏金とを一体化してなる摩擦部材。」
「【0020】
例えば、自動車等を長期間駐車したり、降雨時での走行後駐車したりするとディスクブレーキのローター(相手材)に錆が発生する。ローター表面上への錆の発生は、均一なものではなく、ローター表面上に不均一に発生する。特に、長期間駐車した際には、摩擦材に覆われているローター表面上にはほとんど錆が発生せず、ローター上に錆の厚い部分と錆の薄い部分とが存在することになる。従って、ローター表面上で錆の厚い部分と錆の薄い部分とでは、厚さの差による段差と、各部分と摩擦材との摩擦係数の差からトルク振動が起こるため、ブレーキジャダー発生の原因となると考えられる。」
「【0028】
本発明の摩擦材組成物は、無機物として生体溶解性無機繊維を含む。本発明における生体溶解性無機繊維は、人体内に取り込まれた場合でも短時間で分解され体外に排出される特徴を有する無機繊維であり、化学組成がアルカリ酸化物、アルカリ土類酸化物総量(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウムの酸化物の総量)が18質量%以上でかつ、呼吸による短期バイオ永続性試験で、20μm以下の繊維の質量半減期が10日以内又は気管内注入時の短期バイオ永続性試験で、20μm以上の繊維の質量半減期が40日以内、又は腹膜内試験で過度の発癌性の証拠が無いか又は長期呼吸試験で関連の病原性や腫瘍発生が無いことを満たす無機繊維を意味する(EU指令97/69/ECのNota Q(発癌性適用除外))。
【0029】
このような生体溶解性無機繊維として、具体的にはSiO_(2)-CaO-MgO系繊維やSiO_(2)-CaO-MgO-Al_(2)O_(3)系繊維等の生体溶解性セラミック繊維や生体溶解性ロックウール等が挙げられる。本発明においては、耐熱性や補強効果の点でアルミナを含むSiO_(2)-CaO-MgO-Al_(2)O_(3)系繊維が好ましい。また、これらの生体溶解性無機繊維は、無機繊維の原料を一般に使用される溶融紡糸法等により繊維化して製造される。
【0030】
SiO_(2)-CaO-MgO系繊維やSiO_(2)-CaO-MgO-Al_(2)O_(3)系繊維等の生体溶解性セラミック繊維、生体溶解性ロックウールとして、市販のロックウール RB220-Roxul1000(ラピナス社製)、ファインフレックス-E バルクファイバーT(ニチアス社製)等が使用可能である。」
「【0036】
また、本発明の摩擦材組成物を摩擦材に適応する際には、充填材を含むことが好ましい。充填材としては、無機充填材を使用することができる。無機充填材も、本発明における無機物の一つである。
【0037】
本発明における無機物としての前記無機充填材は、例えば三硫化アンチモン(モース硬度2、以下無機充填材名称後の括弧内にモース硬度を示す)、硫化錫(6?7)、二硫化モリブデン(1?1.5)、黄鉄鉱(6?6.5)、硫化ビスマス(2)、硫化亜鉛(3.5?4)、窒化ホウ素(9)、酸化マグネシウム(5.5)、水酸化カルシウム(2?3)、チタン酸カリウム(3.5?4)、酸化カルシウム(2?3)、炭酸ナトリウム(2.5?3)、炭酸カルシウム(3)、炭酸マグネシウム(3.5?5)、硫酸バリウム(3?4)、コークス(6)、黒鉛(1?2)、マイカ(2.5?3)、四酸化三鉄(6)、バーミキュライト(1?2)、硫酸カルシウム(2?3)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)(8?8.5)、ジルコンサンド(6.5?7.5)、γ-アルミナ(5?6)、α-アルミナ(8?9)、板状チタン酸カリウム(3.5?4)、珪藻土(5?6)、タルク(0?1)、クレー(1?2)、ムライト(7?8)、ゼオライト(4?6)等が挙げられ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。」
「【0041】
本発明における摩擦材組成物に含まれる上述した無機物以外に、金属を含んでも構わない。金属としては、金属繊維、金属充填材が挙げられ、材質は、例えば、銅、真鍮、青銅、鉄、錫、アルミニウム等が挙げられ、その形態として、繊維状、粉末状等が挙げられる。相手材攻撃性や鳴き性能の点で銅、真鍮又は青銅の繊維を用いることが好ましい。また、鉄は、質量が重く、錆易いこと、鳴き特性が悪化すること、相手材を損傷し磨耗させやすい等の性質があることから実用性を考慮すると、本発明に使用される場合は18質量%未満であることが好ましい。ここで本発明における金属とは、金属元素単体あるいは金属元素のみからなる化合物(合金)を意味し、本発明における上述の無機物とは異なるものである。従って、上述の無機物の配合量には金属は含まないこととする。なお、本発明において用いられる上記金属は、モース硬度が4.0未満のものが好ましい。」
「【0050】
(実施例1?5及び比較例1?7)
表1に示した組成の摩擦材組成物を配合し、実施例1?5の摩擦材組成物をそれぞれ得た。また、表2に示した組成の摩擦材組成物を配合し、比較例1?7の摩擦材組成物をそれぞれ得た。」
「【表1】




(3) 甲3に記載されている事項
甲3には以下の事項が記載されている。
「【0003】
耐フェード性、耐鳴き性共に優れた摩擦材を提供することを目的として、特許文献1には、耐熱性と適度の硬さを有するチタン酸カリウムウィスカーを配合したブレーキ摩擦材が開示されている。
しかしながら、上記ウィスカーは直径が0.5?1μm、長さが10?20μmの高アスペクト比の針状単結晶からなるものであり、作業環境衛生上、使用することは好ましくない。」
「【0016】
摩擦材は、補強繊維、摩擦調整材及び結合材などから構成されるが、本発明では、補強繊維として石綿繊維(アスベスト)は勿論のこと、作業環境衛生上好ましくないウィスカー状チタン酸カリウムを使用することはせずに、その代わりに前記ウィスカー状チタン酸カリウムと同一の又は類似の材質を持つ非ウィスカー状チタン酸アルカリ金属塩又は非ウィスカー状アルカリ金属・アルカリ土類金属塩を使用するものである。
【0017】
チタン酸アルカリ金属塩としては、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム及びチタン酸リチウムカリウムが例示される。そして、チタン酸カリウムの化学的組成として八チタン酸カリウム(K_(2)O・8TiO_(2))、六チタン酸カリウム(K_(2)O・6TiO_(2))、四チタン酸カリウム(K_(2)O・4TiO_(2))等が挙げられるが、前二者が好ましく、八チタン酸カリウムが特に好ましい。
また、チタン酸アルカリ金属・アルカリ土類金属塩としては、チタン酸マグネシウムカリウムが例示される。以後、チタン酸アルカリ金属塩及びアルカリ金属・土類金属塩を統合的にチタン酸塩と略称する。」
「【0020】
気孔率増加のために非ウィスカー状チタン酸塩と併用する無機多孔質充填材としては、ゼオライト、けいそう土、活性炭、バーミキュライトが例示される。配合量は上記非ウィスカー状チタン酸塩との体積比で5?30%であることが好ましい。少なすぎると気孔率の増加が小さくなり、一方多すぎてもフェード特性や高速効力の向上割合が小さく非効率的になる。粒度は0.1?500μmであることが好ましい。粒度が0.1μm未満では成形性が悪化し、一方500μmよりも大きいと分散性が悪化する。」

3 取消理由1、2について
(1) 甲1に記載されている発明
甲1の請求項1に記載の「摩擦材」は、対応する原料混合物から得られたもの(段落【0023】)であり、摩擦材に含まれている成分の種類と含有割合が、対応する原料混合物を構成する成分の種類と配合割合と一致するとすれば、甲1には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「繊維基材と充填材を結合剤によって結着させた摩擦材を得るための組成物であって、
非ウィスカー状のチタン酸化合物塩と、生体溶解性の無機繊維を有しており、
前記非ウィスカー状のチタン酸化合物塩は、非ウィスカー状のチタン酸アルカリ金属塩と、非ウィスカー状のチタン酸アルカリ金属・アルカリ土類金属塩の少なくとも一つを含んでおり、
前記無機繊維は、生体溶解性であるとともに、平均繊維径が2?7μm、アスペクト比が3以上である摩擦材組成物。」

(2) 本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
甲1発明の非ウィスカー状の「チタン酸化合物塩」は、「非ウィスカー状チタン酸アルカリ金属塩と非ウィスカー状のチタン酸アルカリ金属・アルカリ土類金属塩の少なくとも一つ・・・を含」(【0012】)むものである。また、当該「非ウィスカー状チタン酸アルカリ金属塩」の「非ウィスカー状」について、甲1には、「非ウィスカー状とは、ウィスカーを含んでいないことを意味しており、板状、フレーク状(薄片状、魚鱗状)、粉状などであることを意味する・・長さ5μm以上、直径3μm以下、アスペクト比(長さ/直径)3を超えるウィスカー状(針状結晶、ひげ結晶)のものを含んでいない」(段落【0013】)と説明されており、また、「チタン酸アルカリ金属塩」について、「チタン酸アルカリ金属塩は、例えば、チタン酸カリウム,チタン酸リチウム,チタン酸リチウム・カリウム等であって」(段落【0014】)と説明されている。
そうすると、甲1発明の「非ウィスカー状のチタン酸化合物塩」は、その選択肢として、本件発明1の「柱状、板状又は鱗片状であるチタン酸リチウムカリウム」に該当する「チタン酸化合物塩」を含むものである。

甲1発明の「生体溶解性の無機繊維」及び「前記無機繊維は、生体溶解性であるとともに、平均繊維径が2?7μm、アスペクト比が3以上である」について、甲1には、「生体溶解性の無機繊維は、気孔率を増加させるために加えられるものであって、生体溶解性のセラミックスファイバー、生体溶解性の人造鉱物繊維などを使用することができる。・・生体溶解性の人造鉱物繊維としては、高炉スラグや玄武岩やその他の天然鉱物などを主原料とするロックウールなどを使用することができる。」(段落【0016】)及び「生体溶解性の無機繊維は、平均繊維径が2?7μmであり、好ましくは平均繊維径が6μm以下、5μm以下である。アスペクト比は、3以上であり、平均繊維長さは、50μm以上、1500μm以下であり、好ましくは100μm以上、1000μm以下である。」(段落【0017】)と説明されている。
そうすると、甲1発明の「生体溶解性の無機繊維」及び「前記無機繊維は、生体溶解性であるとともに、平均繊維径が2?7μm、アスペクト比が3以上である」は、その選択肢として、本件発明1の「平均繊維長500μm以下の鉱物繊維」に該当する「鉱物繊維」を含むものである。
したがって、本件発明1と甲1発明の一致点、相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「摩擦材組成物であって、前記摩擦材組成物中に、鉱物繊維と共に、チタン酸化合物塩を含有する摩擦材組成物。」

<相違点1>
「摩擦材組成物」に含まれてはいけない成分について、本件発明1は、「銅を含まない」、「ノンアスベスト」及び「銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり」と特定されているのに対し、甲1発明は、そのような特定をいずれも備えていない点
<相違点2>
「摩擦材組成物」に含まれている成分について、本件発明1は、「黒鉛を含有する」と特定されているのに対し、甲1発明は、そのような特定を備えていない点
<相違点3>
「鉱物繊維」の形状について、本件発明1は、「平均繊維長500μm以下」と特定されているのに対し、甲1発明は、「平均繊維径が2?7μm、アスペクト比が3以上」と特定されているが、その「平均繊維長」に関する特定を備えず、かつ、その平均繊維長さが「好ましくは100μm以上、1000μm以下」と説明されていることから、平均繊維長さが500μmより長くてもよい点
<相違点4>
「鉱物繊維」の材質について、本件発明1は、「鉱物繊維」に特定されているのに対し、甲1発明は、そのような特定を備えず、かつ、「生体溶解性」の「無機繊維」であれば、「セラミックスファイバー」などの鉱物繊維以外の繊維であってもよい点
<相違点5>
「チタン酸化合物塩」の形状について、本件発明1は、「柱状、板状又は鱗片状である」と特定されているのに対し、甲1発明は、「非ウィスカー状」と特定されていて、「粉状」などの「柱状、板状又は鱗片状」に該当しない形状であってもよい点
<相違点6>
「チタン酸化合物塩」の材質について、本件発明1は、「チタン酸リチウムカリウム」と特定されているのに対し、甲1発明は、「チタン酸アルカリ金属塩と、チタン酸アルカリ金属・アルカリ土類金属塩の少なくとも一つを含んでおり」と特定されているため、必ずしも、チタン酸アルカリ金属塩を含まず、かつ、仮にチタン酸アルカリ金属塩を含むとしても当該チタン酸アルカリ金属塩がチタン酸カリウムなどであってチタン酸リチウムカリウムではなくてもよい点

イ 検討
(ア) 相違点1について
甲1には、甲1発明の「摩擦材組成物」を構成する成分について、段落【0020】に「繊維基材としては、金属繊維、有機繊維を適宜選択して含まれる。金属繊維としては、銅繊維,鉄繊維などを使用することができる。有機繊維としては、アラミド繊維(芳香族ポリアミド繊維)、耐炎性アクリル繊維などを使用することができる。これら繊維基材は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合せて使用することもできる。繊維基材の添加量は、摩擦材全体の5?30重量%であることが好ましく、10重量%以上、20重量%以下であることがより好ましい。」、及び、段落【0019】に「他の充填材として、その他の無機充填材,有機充填材,潤滑剤、金属粉が適宜含まれる。」と記載されている(下線は、当審による。)。また、実施例はいずれも銅繊維を12重量%含むものである。
これらの記載に接した当業者は、甲1発明の「繊維基材」について、金属繊維、具体的には、銅繊維,鉄繊維などを使用することができるとされていることや、甲1発明の「充填材」について、金属粉を含むことができるとされていることを理解する。
また、甲1発明の「繊維基材」の選択肢のうちいずれが好ましいものであるのかに関する一般的な説明等はないものの、実施例で採用されている選択肢が銅繊維を12重量%及びアラミド繊維を4重量%含むもののみであることから、甲1発明の「繊維基材」の選択肢として甲1に例示されているもののうち、銅繊維とアラミド繊維を組合わせて用いる態様が好ましい選択肢であることや、甲1発明の「充填材」について、その選択肢として甲1に例示されていない材料はともかく、「金属粉」が具体的に例示されているのであるから、「金属粉」が含まれないようにすべき成分に該当することはないことも理解する。
そうすると、甲1発明の「摩擦材組成物」について、「銅を含まない」あるいは「銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり」を満足するものとした場合には、甲1発明の「繊維基材」の好ましい選択肢である銅繊維とアラミド繊維の組合わせをとりえなくなるから、そのような限定を行うことには阻害要因があるといえる。
また、甲1には、上記に拘わらず、甲1発明の「摩擦材組成物」を、「銅を含まない」、「ノンアスベスト」及び「銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり」を全て同時に満足するものとすることを積極的に当業者に動機づけるような記載は一切ない。
そうすると、甲1発明において、相違点1に係る構成を備えるものとすることが当業者にとって容易想到の事項であったとはいえない。
なお、異議申立人は、そもそも甲1発明を認定することなく、単に甲1の記載を本件発明を対比し、甲1には銅を必須成分とする旨の記載がないなどと主張しているが、上述のとおり、相違点1に係る限定を行うことには阻害要因があり、かつ、これを積極的に当業者に動機づけるような記載も一切ないから、主張は、採用できない。

(イ) 相違点2について
甲1には、甲1発明の「充填材」について、「本発明にかかる摩擦材は、繊維基材と充填材(摩擦調整剤)と結合剤を主体に有している。充填材(摩擦調整剤)は、摩擦係数の調整、異音調整、錆防止などのために含まれるものであって、本形態では、非ウィスカー状のチタン酸化合物塩と、生体溶解性の無機繊維が含まれている。」(段落【0011】)、及び、「他の充填材としては、その他の無機充填材,有機充填材,潤滑剤、金属粉が適宜含まれる。その他の無機充填材としては、硫酸バリウム・・などが含まれる。潤滑剤としては、黒鉛(グラファイト),三硫化アンチモン,二硫化モリブデン,二硫化亜鉛などが含まれる。」(段落【0019】)と記載されている。
これらの記載に接した当業者は、甲1発明の「充填材」について「非ウィスカー状のチタン酸化合物塩と、生体溶解性の無機繊維」が必須であるのに対し、「他の充填材」として例示されている「その他の無機充填材,有機充填材,潤滑剤、金属粉」は、いずれも適宜添加するもの、すなわち敢えて添加しなくてもよい成分であると理解する。加えて、「その他の無機充填材,有機充填材,潤滑剤、金属粉」の中から特に「潤滑剤」に着目し、かつ、「潤滑剤」として複数例示されているものの中から特に「黒鉛」に着目し、これを必須の成分として添加することを動機づけるような記載や示唆は一切ない。
そうすると、甲1発明において、相違点2に係る構成を備えるものとすることが当業者にとって容易想到の事項であったとはいえない。

(ウ) 相違点3、4について
甲1には、甲1発明の「無機繊維」について、段落【0017】に「生体溶解性の無機繊維は、平均繊維径が2?7μmであり、好ましくは平均繊維径が6μm以下、5μm以下である。アスペクト比は、3以上であり、平均繊維長さは、50μm以上、1500μm以下であり、好ましくは100μm以上、1000μm以下である。したがって生体溶解性の無機繊維は、細くて長いために混合の際に毛玉になりやすく、毛玉の状態で摩擦材に分散される。そして毛玉は、無機繊維によって形成されるために、有機繊維に比べて圧縮成形時に潰れにくく、気孔を維持することができる。そのため摩擦材は、生体溶解性の無機繊維によって形成された毛玉によって気孔率が高くなっている。」と記載されている。また、平均繊維長が100μm、300μm、500μm、1000μm、及び、1500μmの無機繊維を含む実施例が記載されている。
これらの記載に接した当業者は、甲1発明の「無機繊維」について、無機繊維によって形成された毛玉によって気孔率を高めるための成分であると理解するし、毛玉を形成するためにはある程度の長さが必要である(長い方が好ましい)ことも明らかである。また、その材質については、有機繊維に比べて圧縮成形時に潰れにくく、気孔を維持することができることから無機繊維に特定されていることも理解する。また、甲1には、より長い方が好ましいにも拘わらず敢えて平均繊維長さが500μmより長いものを除外したり、セラミックスファイバーなどの鉱物繊維以外の繊維を除外することを動機づけるような記載は一切ない。
そうすると、甲1発明において、相違点3及び4に係る構成を備えるものとすることが当業者にとって容易想到の事項であったとはいえない。

(エ) 相違点5、6について
甲1には、甲1発明の「チタン酸化合物塩」について、段落【0002】に「この摩擦材は、チタン酸カリウムによって耐摩耗性や対面攻撃性等に優れており、非ウィスカー状のチタン酸カリウムが選択されているために、作業環境衛生上にも良好な摩擦材になっている。」と記載されている。
これらの記載に接した当業者は、甲1発明の「チタン酸化合物塩」の形状について、作業環境衛生上の理由で好ましい「非ウィスカー状」に特定されていることを理解する。また、甲1発明の「チタン酸化合物塩」の材質については、耐摩耗性や対面攻撃性等に優れているので、「チタン酸アルカリ金属塩とチタン酸アルカリ金属・アルカリ土類金属塩の少なくとも一つを含」んでおりと特定されていることを理解する。また、甲1には、甲1発明の「チタン酸化合物塩」の形状について、非ウィスカー状に該当するにも拘わらず敢えて「粉状」などの場合を除外することを動機づけるような記載は一切ないし、また、甲1発明の「チタン酸化合物塩」の材質について、チタン酸アルカリ金属塩と、チタン酸アルカリ金属・アルカリ土類金属塩の少なくとも一つに該当するにも拘わらず敢えて「チタン酸リチウムカリウム」以外のものを全て除外して「チタン酸リチウムカリウム」のみに特定することを動機づけるような記載もない。
そうすると、甲1発明において、相違点5及び6に係る構成を備えるものとすることが当業者にとって容易想到の事項であったとはいえない。

ウ 効果について
本件発明1は、相違点1?6に係る構成を全て備えることにより、「制動時に生成する摩耗粉中の銅が少ないことから環境汚染が少なく、かつ優れた摩擦係数、耐クラック性及び耐摩耗性を発現することができるような特性を有する、自動車用ディスクブレーキパッドやブレーキライニングなどの摩擦材及び摩擦部材を提供できる。」(本件特許の明細書の段落【0010】)という効果を奏するものである。

エ 異議申立人の主張について
異議申立人の主張は、要するに、本件発明1を特定するための事項を1A?1Fに分説したうえで(異議申立書7頁7行?8頁18行)、それぞれを甲1の記載と個別に対比すると、甲1には1A?1Fに対応する事項1a?1fが記載されている(同8頁19行?11頁10行)、などというものであり、1a?1fを全て備える発明が記載されているといえることを前提とするものであると解されるが、そもそも、1a?1fの定義が記載されていないので、その具体的な内容が不明である。また、単に1a?1fが甲1に記載されていると主張するにとどまるものであって、1a?1fの全てを備える発明が記載されているといえる理由を全く説明していない。そして、甲1には、1a?1f(が仮に記載されているとして)以外にも多数の事項が記載されているから、単に1a?1fが記載されているというだけでは、1a?1fを全て備える発明が記載されているとはいえないことは明らかである。
そうすると、さらに検討するまでもなく、異議申立人の主張は、採用できない。
また、甲1発明は、相違点1?6において本件発明1と相違すること、及び、甲1発明において相違点1?6に係る構成を備えるものとすることが当業者にとって容易想到の事項であったとはいえないことは上述のとおりである。

オ 小括
本件発明1は、甲1に記載された発明ではない。
また、本件発明1は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3) 本件発明2?10について
本件発明2?10は、本件発明1を引用しさらに限定したものに該当するか、本件発明1を摩擦材あるいは摩擦部材の形式で記載したものに該当するから、本件発明2?10も、本件発明1と同様の理由により、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(4) 取消理由1、2についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明に係る特許は、取消理由1、2によって取り消すべきものとすることはできない。

4 取消理由3について
(1) 甲2に記載されている発明
甲2の請求項1の記載に基づき、甲2には以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。

「結合材と無機物とを含む摩擦材組成物において、前記無機物としての生体溶解性無機繊維を全組成物中に1.5?7.5質量%含有し、かつ前記無機物は、モース硬度が6.0を超える無機物の総量がモース硬度4.0?6.0の無機物の総量に対して3.0?5.5倍で含有される摩擦材組成物。」

(2) 本件発明1について
ア 本件発明1と甲2発明との対比
甲2発明の「生体溶解性無機繊維」について、甲2には、「このような生体溶解性無機繊維として、具体的にはSiO_(2)-CaO-MgO系繊維やSiO_(2)-CaO-MgO-Al_(2)O_(3)系繊維等の生体溶解性セラミック繊維や生体溶解性ロックウール等が挙げられる。本発明においては、耐熱性や補強効果の点でアルミナを含むSiO_(2)-CaO-MgO-Al_(2)O_(3)系繊維が好ましい。」(段落【0029】)と説明されている。
そうすると、甲2発明の「生体溶解性無機繊維」は、その選択肢として、「生体溶解性ロックウール」を含むから、本件発明1の「平均繊維長500μm以下の鉱物繊維」に該当する「鉱物繊維」を含むものである。
したがって、本件発明1と甲2発明の一致点、相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「摩擦材組成物であって、前記摩擦材組成物中に、鉱物繊維を含有する摩擦材組成物。」

<相違点7>
「摩擦材組成物」に含まれてはいけない成分について、本件発明1は、「銅を含まない」、「ノンアスベスト」及び「銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり」と特定されているのに対し、甲2発明は、そのような特定をいずれも備えていない点
<相違点8>
「摩擦材組成物」に含まれている成分について、本件発明1は、「柱状、板状又は鱗片状であるチタン酸リチウムカリウム、及び黒鉛を含有する」と特定されているのに対し、甲2発明は、そのような特定を備えていない点
<相違点9>
「鉱物繊維」について、本件発明1は、「平均繊維長500μm以下の鉱物繊維」に特定されているのに対し、甲2発明の「生体溶解性無機繊維」は、そのような特定を備えず、平均繊維長が500μmよりも長いものや、セラミックなどの無機材料からなる繊維を含むものである点

イ 検討
(ア) 相違点7について
甲2には、甲2発明の「摩擦材組成物」について、段落【0041】に「上述した無機物以外に、金属を含んでも構わない。金属としては、金属繊維、金属充填材が挙げられ、材質は、例えば、銅、真鍮、青銅、鉄、錫、アルミニウム等が挙げられ、その形態として、繊維状、粉末状等が挙げられる。相手材攻撃性や鳴き性能の点で銅、真鍮又は青銅の繊維を用いることが好ましい。また、鉄は、質量が重く、錆易いこと、鳴き特性が悪化すること、相手材を損傷し磨耗させやすい等の性質があることから実用性を考慮すると、本発明に使用される場合は18質量%未満であることが好ましい。ここで本発明における金属とは、金属元素単体あるいは金属元素のみからなる化合物(合金)を意味し、本発明における上述の無機物とは異なるものである。従って、上述の無機物の配合量には金属は含まないこととする。なお、本発明において用いられる上記金属は、モース硬度が4.0未満のものが好ましい。」と記載されているとともに、実施例(【表1】)はいずれも銅繊維を13.0重量%及び銅粉を2.0重量%含むもののみである。
これらの記載に接した当業者は、甲2発明の「無機物」について、金属繊維、金属充填材を用いうること、その材質は、例えば、銅、真鍮、青銅、鉄、錫、アルミニウム等が挙げられ、その形態として、繊維状、粉末状等が挙げられること、銅、真鍮又は青銅の繊維を用いることが好ましいこと、鉄も18質量%未満であれば好ましいとされていることを理解する。また、実施例として銅繊維を13.0重量%及び銅粉を2.0重量%含むものが記載されていることから、甲2発明の「無機物」の選択肢として甲2に例示されているもののうち、銅繊維と銅粉を組合わせて用いる態様が好ましいことや、甲2発明の「無機物」について、その選択肢として甲2に例示されていない材料はともかく、金属繊維や金属充填材が具体的に例示されているのであるから、これらが含まれないようにすべき成分に該当することはないことも理解する。
そうすると、甲2発明の「摩擦材組成物」について、「銅を含まない」あるいは「銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり」を満足するものとした場合には、甲2発明の「無機物」の好ましい選択肢である銅繊維と銅粉の組合わせをとりえなくなるから、そのような限定を行うことには阻害要因があるといえる。
また、上記に拘わらず、甲2発明の「摩擦材組成物」を、「銅を含まない」、「ノンアスベスト」及び「銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり」を全て同時に満足するものとすることを積極的に当業者に動機づけるような記載や示唆は、甲2及び甲3には、一切ない。
そうすると、甲2発明において、相違点7に係る構成を備えるものとすることが当業者にとって容易想到の事項であったとはいえない。

(イ) 相違点8について
甲2には、甲2発明の「無機物」について、「本発明の摩擦材組成物を摩擦材に適応する際には、充填材を含むことが好ましい。充填材としては、無機充填材を使用することができる。無機充填材も、本発明における無機物の一つである。本発明における無機物としての前記無機充填材は、例えば三硫化アンチモン(モース硬度2、以下無機充填材名称後の括弧内にモース硬度を示す)・・チタン酸カリウム(3.5?4)・・黒鉛(1?2)・・等が挙げられ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。」(段落【0036】、【0037】)と記載されている。
これらの記載に接した当業者は、甲2発明の「摩擦材組成物」についてチタン酸カリウムや黒鉛などの様々な無機物を含有しうることは理解するものの、多数例示されているものの中から特に「黒鉛」に着目し、これを必須の成分として添加することを動機づけるような記載や示唆は一切ない。また、柱状、板状又は鱗片状であるチタン酸リチウムカリウムについては例示すらされていないから、仮に甲3に基づき、チタン酸リチウムカリウムが周知であるといえるとしても、その他にも周知の無機物が多数存在することは明らかであり、甲2に多数例示されているものに加え周知の膨大な数の無機物の中から特に柱状、板状又は鱗片状であるチタン酸リチウムカリウムに着目し、これを必須の成分として含有するものとする動機づけがないことは明らかである。
そうすると、甲2発明において、相違点8に係る構成を備えるものとすることが当業者にとって容易想到の事項であったとはいえない。

(ウ) 相違点9について
甲2には、甲2発明の「生体溶解性無機繊維」について、段落【0028】に「本発明の摩擦材組成物は、無機物として生体溶解性無機繊維を含む。本発明における生体溶解性無機繊維は、人体内に取り込まれた場合でも短時間で分解され体外に排出される特徴を有する無機繊維であり、化学組成がアルカリ酸化物、アルカリ土類酸化物総量(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウムの酸化物の総量)が18質量%以上でかつ、呼吸による短期バイオ永続性試験で、20μm以下の繊維の質量半減期が10日以内又は気管内注入時の短期バイオ永続性試験で、20μm以上の繊維の質量半減期が40日以内、又は腹膜内試験で過度の発癌性の証拠が無いか又は長期呼吸試験で関連の病原性や腫瘍発生が無いことを満たす無機繊維を意味する(EU指令97/69/ECのNota Q(発癌性適用除外))。」と記載されている。
これらの記載に接した当業者は、甲2発明の「生体溶解性無機繊維」について、要するに、人体内に取り込まれた場合でも短時間で分解され体外に排出されるものに特定されているのであって、その長さや材質を問わないものであることを理解する。また、甲2には、敢えて平均繊維長さが500μmより長いものを除外したり、セラミックスファイバーなどの鉱物繊維以外の繊維を除外することを動機づけるような記載は一切ない。
そうすると、甲2発明において、相違点9に係る構成を備えるものとすることが当業者にとって容易想到の事項であったとはいえない。

ウ 効果について
本件発明1は、相違点7?9に係る構成を全て備えることにより、「制動時に生成する摩耗粉中の銅が少ないことから環境汚染が少なく、かつ優れた摩擦係数、耐クラック性及び耐摩耗性を発現することができるような特性を有する、自動車用ディスクブレーキパッドやブレーキライニングなどの摩擦材及び摩擦部材を提供できる。」(本件特許の明細書の段落【0010】)という効果を奏するものである。

エ 異議申立人の主張について
異議申立人の主張は、要するに、本件発明1を特定するための事項を1A?1Fに分説したうえで(異議申立書7頁7行?8頁18行)、それぞれを甲2の記載と個別に対比すると、甲2には1A?1Fに対応する事項1a?1fが記載されている(同22頁4行?25頁6行)、などというものであり、1a?1fを全て備える発明が記載されているといえることを前提とするものであると解されるが、そもそも、1a?1fの定義が記載されていないので、その具体的な内容が不明である。また、単に1a?1fが甲2に記載されていると主張するにとどまるものであって、1a?1fの全てを備える発明が記載されているといえる理由を全く説明していない。そして、甲2には、1a?1f(が仮に記載されているとして)以外にも多数の事項が記載されているから、単に1a?1fが記載されているというだけでは、1a?1fを全て備える発明が記載されているとはいえないことは明らかである。
そうすると、さらに検討するまでもなく、異議申立人の主張は、採用できない。
また、甲2発明は、相違点7?9において本件発明1と相違すること、及び、甲2発明において相違点7?9に係る構成を備えるものとすることが当業者にとって容易想到の事項であったとはいえないことは上述のとおりである。

オ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲2及び甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3) 本件発明2?10について
本件発明2?10は、本件発明1を引用しさらに限定したものに該当するか、本件発明1を摩擦材あるいは摩擦部材の形式で記載したものに該当するから、本件発明2?10も、本件発明1と同様の理由により、甲2及び甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4) 取消理由3についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明に係る特許は、取消理由3によって取り消すべきものとすることはできない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
異議決定日 2021-07-28 
出願番号 特願2019-132943(P2019-132943)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C09K)
P 1 651・ 121- Y (C09K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 柴田 啓二  
特許庁審判長 亀ヶ谷 明久
特許庁審判官 木村 敏康
蔵野 雅昭
登録日 2020-09-07 
登録番号 特許第6760449号(P6760449)
権利者 日立化成株式会社
発明の名称 ノンアスベスト摩擦材組成物、これを用いた摩擦材及び摩擦部材  
代理人 大谷 保  
代理人 平澤 賢一  
代理人 澤山 要介  
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