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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  F16L
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F16L
審判 一部無効 特許請求の範囲の実質的変更  F16L
審判 一部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  F16L
管理番号 1377018
審判番号 無効2020-800055  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2020-05-20 
確定日 2021-06-10 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4585432号発明「圧接継手およびこれを用いた水道配管機器の取付けユニット」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4585432号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし7〕について訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
特許第4585432号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし7に係る発明についての出願は、平成17年11月15日の出願であって、平成22年9月10日に特許権の設定登録がされたものである。
そして、その後の主な経緯は次のとおりである。
令和2年 5月20日:無効審判請求
同年 8月 7日:審判事件答弁書及び訂正請求書
同年10月 7日:審判事件弁駁書
同年11月26日付け:審理事項通知書(特許庁審判長から請求人及び被請求人双方に対して)
同年12月26日:口頭審理陳述要領書(請求人)
令和3年 1月19日付け:上申書(被請求人)
同年 2月 2日:第1回オンライン口頭審尋

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
訂正請求書において、被請求人が求めた訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである(なお、下線は訂正箇所を示す。)。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記インナースリーブを水密に内挿すると共に前記雌ネジと螺合して軸方向に進退可能とした中空のスピンドル部と、」と記載されているのを、
「前記インナースリーブを水密に内挿する差込通孔が設けられると共に前記雌ネジと螺合して軸方向に進退可能とした中空のスピンドル部と、」に訂正する。
(請求項1を引用する請求項2?7もそのように訂正する。)

(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記スピンドル部の二次側端部には凹陥部を形成すると共に、前記圧着部の外周にはOリングを装着し、当該圧着部のOリング装着部を前記凹陥部に嵌入した」と記載されているのを、
「前記スピンドル部の二次側端部には凹陥部が形成されると共に、前記圧着部の外周にはOリングが装着され、かつ、当該圧着部のOリング装着部が前記凹陥部に嵌入された嵌入状態であり、」に訂正する。
(請求項1を引用する請求項2?7もそのように訂正する。)

(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に、
「ことを特徴とする圧接継手。」と記載されているのを、
「前記圧着部の内部に設けられた通水孔は、前記差込通孔よりも小径に形成されていることを特徴とする圧接継手。」に訂正する。
(請求項1を引用する請求項2?7もそのように訂正する。)

なお、訂正前の請求項2ないし7は訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用していることから、訂正前の請求項1ないし7は一群の請求項であり、本件訂正は、一群の請求項ごとにされており、特許法第134条の2第3項の規定に適合するものである。

2 訂正の目的の適否、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものか否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の発明の特定事項である「インナースリーブを水密に内挿する」「スピンドル部」について、「インナースリーブを水密に内挿する差込通孔が設けられる」「スピンドル部」に限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
本件特許明細書の
「【0018】
一方、スピンドル部22は、図2、3にも示したように、インナースリーブ21bが水密に挿入可能な差込通孔22aを貫設した筒状体の一次側外周面に雄ネジ22bを形成してなる螺入部22cを備える」
の記載からみて、訂正事項1は、願書に添付した明細書等のすべてを総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内においてしたものである。

ウ 訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
訂正事項1は、訂正前の発明の特定事項である「インナースリーブを水密に内挿する」「スピンドル部」について、「インナースリーブを水密に内挿する差込通孔が設けられる」「スピンドル部」に限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2) 訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、「圧接継手」という物の発明において、訂正前の「前記スピンドル部の二次側端部には凹陥部を形成すると共に、前記圧着部の外周にはOリングを装着し、当該圧着部のOリング装着部を前記凹陥部に嵌入した」という物の製造方法を特定しているのか、物の構造を特定しているのかが直ちには明らかでない記載事項を、訂正後の「前記スピンドル部の二次側端部には凹陥部が形成されると共に、前記圧着部の外周にはOリングが装着され、かつ、当該圧着部のOリング装着部が前記凹陥部に嵌入された嵌入状態であり、」という物の構造を特定していることが明らかな記載事項に訂正するものである。
したがって、訂正事項2は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
本件特許明細書の
「【図1】


「【図3】


「また、圧着部23の外周面には、閉鎖輪状のパッキン溝23cが刻設されており、該パッキン溝23cにはOリング8dが装着される。而して、圧着部23は、パッキン溝23cにOリング8dを装着した状態で、当該装着部をスピンドル部22の凹陥部22eに同心状に嵌入する。この嵌入状態において、圧着部23はOリング8dによる凹陥部22eとの弾性摩擦力によって、水密性を保持しつつ、回転可能にスピンドル部22の凹陥部22eに組み付けられる。」(【0019】)、
「従来から、水道メータの取付けや交換作業を容易に行うため、ベース(基台)の一次側(上流側)にスライド機構を備えた圧接継手を、また二次側(下流側)に固定継手を対設した水道メータの取付けユニットが公知である(例えば、特許文献1を参照)。」(【0002】)
からみて、スピンドル部22の二次側(下流側。図1及び図3における右側。)端部には凹陥部22eが形成されていることが明らかであり(特に、【図3】)、圧着部23の外周にはOリング8dが装着され、かつ、当該圧着部のOリング装着部が前記凹陥部に嵌入された嵌入状態であることが明らかである(特に、【図1】)。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書等のすべてを総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内においてしたものである。

請求人は、弁駁書第6頁19?22行目において「エ すなわち,圧着部にOリングが装着されている状態について,論理的には,○1(当審注:原文は○の中に1。以下「○1」とする。)先に圧着部のパッキン溝にOリングを装着しておく場合と,○2(ただし、原文は○の中に2。以下「○2」とする。)先にOリングをスピンドル部の凹陥部に装着しておき後に圧着部を嵌入する場合とが考え得る」、弁駁書第9頁9?14行目において、訂正後の「前記圧着部の外周にはOリングが装着され、かつ、当該圧着部のOリング装着部が前記凹陥部に嵌入された嵌入状態であり、」について「これは,圧着部のOリング装着と,当該圧着部の凹陥部への嵌入の先後関係を問わず,単にOリングが装着された圧着部が,凹陥部に嵌入された状態になっていれば良いという表現であり,前記○1のプロセスだけでなくより広く,○2のプロセスで嵌入された構造を取り込む表現となっており,明らかに,新規事項を追加する訂正か,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものと言わざるを得ず」と主張している。
しかしながら、訂正後の「前記圧着部の外周にはOリングが装着され、かつ、当該圧着部のOリング装着部が前記凹陥部に嵌入された嵌入状態であり、」という事項は、「装着」が「付属品を本体に取りつけること(広辞苑第六版)。」を意味することを踏まえると、Oリングが圧着部の外周に取り付けられた状態(すなわち、○1の状態)を示していることが明らかである。
さらに、「圧着部」とは、水圧を受けてスピンドルに対して軸移動可能なものであるから(【0022】)、このような「圧着部」を前提にさらに検討すると、「圧着部の外周に」「Oリングが装着され」た状態とは、「先に圧着部のパッキン溝にOリングを装着しておく場合」(○1の場合)のように、圧着部がスピンドル部に対して軸移動した場合には、Oリングは圧着部と共に軸移動するものであり、Oリングと圧着部との相対的な位置関係が変化しないものといえる。
そうすると、「先にOリングをスピンドル部の凹陥部に装着しておき後に圧着部を嵌入する場合」(すなわち、○2の場合)は、Oリングがスピンドル部の凹陥部に装着されるから、圧着部がスピンドル部に対して軸移動した場合であっても、Oリングはスピンドル部に対して軸移動せず、Oリングと圧着部との相対的な位置関係が変化するものであるから、訂正事項2の「前記圧着部の外周にはOリングが装着され、かつ、当該圧着部のOリング装着部が」という事項に含まれるものではない(むしろ、○2の場合には、「スピンドル部の内周にはOリングが装着され」と特定されることになる。)。

したがって、上述のとおり、訂正事項2には「○2先にOリングをスピンドル部の凹陥部に装着しておき後に圧着部を嵌入する場合」は含まれないから、訂正事項2は、願書に添付した明細書等のすべてを総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内においてしたものである。

ウ 訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
訂正前の
「前記スピンドル部の二次側端部には凹陥部を形成すると共に、前記圧着部の外周にはOリングを装着し、当該圧着部のOリング装着部を前記凹陥部に嵌入した」という記載事項は、
「『前記スピンドル部の二次側端部には凹陥部』が『形成』されていて、『前記圧着部の外周にはOリング』が『装着』されていて、『当該圧着部のOリング装着部』が『前記凹陥部に嵌入』されている(嵌入状態である)」ということを特定していると認められる。
さらに、上記イにおける検討を踏まえると、訂正事項2は、訂正の前後で特許請求の範囲を異ならせるものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3) 訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、訂正前の発明の特定事項である「圧着部」について、「前記圧着部の内部に設けられた通水孔は、前記差込通孔よりも小径に形成されている」構成に限定するから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
本件特許明細書の
「【0022】
・・・本実施形態では、圧着部23の通水孔23aをスピンドル部22の差込通孔22aよりも小径として、圧着部23の背面側(一次側)に受圧面23dを形成しており、この受圧面23dに一次側の水圧を作用させることで、上記弾性摩擦力に抗して圧着部23を水道メータMの接続口M1側へと軸移動可能に構成している。」
の記載からみて、訂正事項3は、願書に添付した明細書等のすべてを総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内においてしたものである。

ウ 訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
訂正事項3は、訂正前の発明の特定事項である「圧着部」について、「前記圧着部の内部に設けられた通水孔は、前記差込通孔よりも小径に形成されている」構成に限定するだけであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 むすび
以上のとおり、上記訂正事項1ないし3は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項で準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するものであるから、本件訂正を認める。
したがって、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし7〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記第2のとおり、本件訂正を認めるので、本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明7」といい、これらを総称して「本件特許発明」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項によって特定される以下のとおりのものと認める。

【請求項1】
内部通孔の二次側に雌ネジを螺設すると共に通水可能な円筒状のインナースリーブを同心状に備えた継手本体と、前記インナースリーブを水密に内挿する差込通孔が設けられると共に前記雌ネジと螺合して軸方向に進退可能とした中空のスピンドル部と、該スピンドル部の二次側に取付けられ、水道配管機器の接続口と水密に圧着して接続可能な圧着部とからなる圧接継手であって、前記スピンドル部の二次側端部には凹陥部が形成されると共に、前記圧着部の外周にはOリングが装着され、かつ、当該圧着部のOリング装着部が前記凹陥部に嵌入された嵌入状態であり、前記圧着部の内部に設けられた通水孔は、前記差込通孔よりも小径に形成されていることを特徴とする圧接継手。
【請求項2】
圧着部の嵌入側端部に水圧の受圧面を形成した請求項1記載の圧接継手。
【請求項3】
請求項1または2に記載した圧接継手をベースの一次側に固定すると共に、当該ベースの二次側同軸位置に別の継手を対設し、両継手間に水道メータ等の水道配管機器を着脱可能に取付けることを特徴とした水道配管機器の取付けユニット。
【請求項4】
ベースの圧接継手近傍に当該圧接継手の圧着部と水道配管機器の芯出しを可能に水道配管機器の接続口を支持する受け台を設けた請求項3記載の水道配管機器の取付けユニット。
【請求項5】
ベースは形鋼からなる請求項3または4記載の水道配管機器の取付けユニット。
【請求項6】
形鋼として異型パイプを用い、その両端部をプレス加工して台座とした請求項5記載の水道配管機器の取付けユニット。
【請求項7】
圧接継手の一次側には止水栓を、別の継手の二次側には逆止弁を、それぞれ予め組み付けてなる請求項3から6のうち何れか一項記載の水道配管機器の取付けユニット。

第4 請求人の主張の概要及び証拠方法
1 請求人の主張の概要
請求人は、「特許第4585432号の請求項1,2,3及び7に係る発明についての特許を無効にする。審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、その理由として、おおむね次の無効理由を主張している。
(1) 無効理由1:特許法第36条第6項2号(明確性要件)違反
本件特許の請求項1の記載は明確ではなく、その特許は特許法第36条第6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきである。(なお、審理事項通知書において「請求項1並びにこれに従属する請求項2、3及び7」としたが、「請求項1」の誤記である。)
(2) 無効理由2:特許法第29条第2項(進歩性)違反
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許に係る特許出願の出願前に頒布された甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基いて、その特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は、同法第123条第第1項第2号に該当し無効とすべきである。
本件特許の請求項7に係る発明は、本件特許に係る特許出願の出願前に頒布された甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明に基いて、その特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は、同法第123条第第1項第2号に該当し無効とすべきである。

2 証拠方法
請求人は、審判請求書とともに下記甲第1ないし6号証を証拠方法として提出し、審判事件弁駁書とともに下記甲第7号証を証拠方法として提出し、口頭審理陳述要領書とともに下記甲第8ないし10号証を証拠方法として提出した。
なお、甲第1ないし10号証の成立について、当事者間に争いはない。
甲第1号証 特開平9-125469号公報
甲第2号証 米国特許405745号公報公報
甲第3号証 株式会社日邦バルブの圧接継手製品図面
甲第4号証 特開2004-316689号公報
甲第5号証 特開平9-280919号公報
甲第6号証 特開平11-93226号公報
甲第7号証 特開2005-314982号公報
甲第8号証 株式会社光明製作所にあてた、受付通番2020040913300100100001号が付された配達証明
甲第9号証 図解機械用語辞典(第2版)p.288-289
甲第10号証 広辞苑(第5版)p.1410-1411
(以下、順に「甲1」のようにいう。)

第5 被請求人の主張の概要及び証拠方法
1 被請求人の主張の概要
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、その理由として、請求人が主張する上記無効理由1及び2はいずれも理由がない旨主張している。
2 証拠方法
被請求人は、審判事件答弁書とともに下記乙第1ないし8号証を証拠方法として提出した。
なお、乙第1ないし8号証の成立について、当事者間に争いはない。
乙第1号証 平成29年(行ケ)10083号事件判決
乙第2号証 平成28年(行ケ)10025号事件判決
乙第3号証 平成27年(行ケ)10242号事件判決
乙第4号証 平成23年(行ケ)10121号事件判決
乙第5号証 平成23年(行ケ)10398号事件判決
乙第6号証 平成23年(行ケ)10358号事件判決
乙第7号証 平成28年(行ケ)10040号事件判決
乙第8号証 平成29年(行ケ)10085号事件判決

第6 当審の判断
1 主な証拠の記載
当事者が提出した主な証拠には、それぞれ、次の記載がある。ただし、「・・・」は記載の省略を意味する。また、下線は当審で付した。
(1) 甲1及び甲1発明
「【0012】まず、本実施例に係る接続装置1の構成について、図1?図7を参照して説明する。
・・・
【0018】一方、本発明に従って、接続部2aの内面側に臨む流路切換弁22の主流出口22oの内周部(雌ネジ部)には、主管体4の外周面一側に形成したネジ部を螺合する。主管体4は管内径Dmの水路を有するとともに、その先端(他端)には管内径Dmよりも大径となる環状凹部5を有する。さらに、この環状凹部5には、主管体4の管内径Dmと同一の管内径Dsに形成した水路を有する補助管体6を軸方向へ変位可能に収容する。補助管体6はその先端に量水器Mが当接する接続端部7を有する。これにより、主管体4と補助管体6は軸方向に伸縮する伸縮機構部8を構成する。
【0019】また、主管体4及び補助管体6の相対向する内周縁部には面取部4c及び6cを設ける。この場合、面取部4c,6cは主管体4又は補助管体6のいずれか一方に設けてもよいし、当該内周縁部の一部にのみ設けてもよい。このような面取部4c,6cを設けることにより、環状凹部5の底面と補助管体6の内端面間に生ずる隙間Sに水道水Wが流入しやすくなる。さらに、補助管体6の外周面にはOリング収容溝部34を形成し、このOリング収容溝部34にシーリング用のOリング9を収容する。これにより、Oリング9は補助管体6の外周面と環状凹部5の内周面に圧接する。
【0020】他方、主管体4と補助管体6間には、環状凹部5から補助管体6の抜けを阻止する抜止機構部10を設ける。この抜止機構部10は、環状凹部5の内周面に設けた第一環状溝部5sと、補助管体6の外周面に当該第一環状溝部5sに対向させて設けた第二環状溝部6sと、第一環状溝部5sと第二環状溝部6sの双方に係合する割リング11を備える。図7は割リング11を示し、この割リング11はPOM(ポリアスタール樹脂)等の合成樹脂(弾性材)により一体形成する。また、割リング11は自然状態において第一環状溝部5sと同径又は若干小径になるように形成し、一端側における内周面にはテーパ面部35を形成する。また、第一環状溝部5sは割リング11を広げた際に全体を完全に収容できる深さに形成する。これにより、割リング11を予め第一環状溝部5sに収容しておけば、補助管体6を環状凹部5に押込んだ際に、補助管体6がテーパ面部35を押して割リング11を広げるため、割リング11を第二環状溝部6sに容易に収容できるとともに、収容後は抜止めされる。このように、補助管体6と主管体4はワンタッチで組付けることができる。この場合、補助管体6と主管体4は、組付けられた状態において軸方向へ一定の相対変位が許容されるように各部の寸法を選定する。
【0021】また、主管体4の外周面中間部には円盤部36を設け、この円盤部36と流路切換弁22の主流出口22o間における主管体4の外周面(ネジ部)は蛇腹状のカバー37により覆うとともに、円盤部36よりも接続部2b側における主管体4の外周面には凹凸部等を形成して、主管体4を回すためのグリップ部38とする。なお、図中、R…はOリングを示す。
・・・
【0024】また、量水器Mは図1及び図2に示すように、接続部2a側における補助管体6の接続端部7と接続部2b間に装着する。この場合、まず、グリップ部38を利用して主管体4を回し、この主管体4を流路切換弁22に入込む方向に変位させておく。そして、接続端部7と接続部2b間に、仮想線で示す量水器Mを配し、量水器Mの一端を接続部2bに取付けた仕切弁24の流入口24i(接続端部)に当接させる。次いで、グリップ部38により主管体4を回すことにより、主管体4を流路切換弁22から突出する方向に変位させ、接続端部7を量水器Mの他端に圧接させる。これにより、量水器Mの装着は終了する。なお、伸縮機構部8は図4に示すように最短となる。」
「【図1】


「【図4】



以上より、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「流路切換弁22の主流出口22oの内周部(雌ネジ部)には、主管体4の外周面一側に形成されたネジ部が螺合され、
主管体4の外周面の流路切換弁側の端部には、OリングRが装着され、
主管体4は管内径Dmの水路を有するとともに、その先端(他端)には管内径Dmよりも大径の環状凹部5を有し、
環状凹部5には、主管体4の管内径Dmと同一の管内径Dsに形成した水路を有する補助管体6が軸方向へ変位可能に収容され、
補助管体6はその先端に量水器Mが当接する接続端部7を有し、
補助管体6の外周面にはOリング収容溝部34が形成され、このOリング収容溝部34にシーリング用のOリング9が収容され、Oリング9は補助管体6の外周面と環状凹部5の内周面に圧接され、
主管体4と補助管体6間には、環状凹部5から補助管体6の抜けを阻止する抜止機構部10が設けられ、
主管体4を回すことにより、主管体4を流路切換弁22から突出する方向に変位させ、接続端部7を量水器Mの他端に圧接させる、
接続装置1。」

(2) 甲2
「(第2ページ第8?14行)
The object of my invention is to provide a pipe-coupling which shall be perfectly tight and well adapted for all the purposes for which such couplings are used, and is more particularly intended for pipes made of lead or other malleable metal, or of substances upon which a thread cannot be cut to advantage.」
(当審翻訳:本発明の目的は、あらゆる目的に完全に適合する配管用の継手を提供することである。より具体的には、鉛または他の可鍛性金属、またはねじ山を任意に切断することのできない物質で作られた配管を対象とする配管継手を提供することである。)
「(第2ページ第45?65行)
A B represent the two pipes to be coupled. C represents the enlarged ends of said pipes, and, as stated before, may be formed of the pipe itself by swaging back the metal itself when malleable, or may be cast or made separate and fastened to the pipes by riveting, or in other convenient fashion. D is the intermediate sleeve or collar, E the outer sleeve or collar, and F the inner sleeve or collar. Sleeve F is externally threaded and sleeve D internally threaded at the same pitch a b, so that they mesh with each other. Sleeve D is externally threaded and sleeve E internally threaded at the same pitch with each other, but at a different pitch from that of D and F, so that advantage is taken of the well-known power inherent in differential pulleys and differential screws in securing an unusual degree of pressure between the meeting ends of the pipes when brought together.」
(当審翻訳:AとBは結合する2つの配管を表す。Cは上記の配管の拡大端を表し、前述のように、可鍛性であれば金属自体を成形加工することによって配管自体を形成でき、また鋳造または分離して、リベットその他の適宜の方法で配管に固定することができる。Dは中間スリーブまたはカラー、Eは外側スリーブまたはカラー、Fは内側スリーブまたはカラーである。スリーブFには外側にねじ山があり、スリーブDには同じピッチabで内側にねじ山が付いているため、互いに螺合している。スリーブDは外側にもねじ山が付いており、スリーブEはそれと同じピッチで内側にねじ山が付いているが、D及びFのそれとはピッチが異なる。これにより、配管が結合したときに配管の合流端間の異常な圧力に対応する際に、差動滑車及び差動ねじに固有のよく知られた有利な力を利用できる。)



(3) 甲3



(4) 甲4
「【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、継手本体等にユニオンをスライド自在に挿入してなる伸縮継手の前記ユニオンに装着するスペーサリングであって、主に水道メータの交換に必要なスライド幅を予め確保するために使用されるものである。
【0002】
【従来の技術】
従来のこの種伸縮継手は、図5に示したような構造である。即ち、図5において、(イ)は例えば砲金や真鍮からなる中空状の継手本体であって一側外周に接続用雄ネジ部(ロ)を設けると共に、略中央部にレンチ締付用の鍔部(ハ)を周設したものである。また、他側は下述するユニオンが挿入可能な筒体(ニ)とすると共に、その外周に袋ナットが螺合する雄ネジ部(ホ)を設けている。(ヘ)は同様に例えば砲金や真鍮からなるユニオンであり、上記継手本体(イ)の筒体(ニ)内に挿入される先端に二重の凸部(ト)を設け、その間にOリング(チ)を環設したものである。(リ)はユニオン(ヘ)の外周に周設する伸縮パッキン、(ヌ)は該パッキンを押さえる樹脂リング(ガイドリーフ)であり、固定用袋ナット(ル)によって継手本体(イ)の先端に当接するように取り付け、ユニオン(ヘ)を所定長スライド自在に保持している。さらにユニオン(ヘ)の他側には肉厚の段部(ヲ)を設け、接続ナット(ワ)の抜けを防止している。なお、この伸縮継手を水道メータ近辺のバルブに取り付ける場合、継手本体(イ)を省略し、固定用袋ナット(ル)を直接前記バルブに接続することもある。
【0003】
そして、この伸縮継手はユニオン(ヘ)の伸縮性を利用して、設置距離の誤差や地震等による振動を吸収する用途にも使用されるのであるが、他方、法律で8年周期での交換が定められている水道メータの交換用継手としても使用されることがある。つまり、水道メータの交換時には、接続用ナット(ワ)を外し、ユニオン(ヘ)を縮める(待避させる)ことによって旧メータの撤去及び新メータの設置を行うのであるが、このため伸縮継手の接続時には予めユニオン(ヘ)にメータ交換に必要な縮みの余裕(スライド幅)を持たせなければならない。特に、伸縮継手の接続時には、漏水を防止するため、接続ナット(ワ)内に位置してユニオン(ヘ)の段部(ヲ)先端には通常厚み5mm程度のパッキンが内蔵されるから、当該パッキンの着脱も考慮したスライド幅を確保する必要がある。
・・・
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来は、ユニオン(ヘ)の径や長さなどのサイズに応じて、個別専用のスペーサ(カ)を使い分けていたため、取扱いが不便であった。
【0006】
本発明はこうした従来の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、それ一つで異なるサイズのユニオンに適用できる伸縮継手のスペーサリングを提供することである。」
「【図5】


(5) 甲5
「【0007】図1は、本発明の第1の実施の形態に係るメータユニット1の側面図である。この実施の形態におけるメータユニット1は、メータ3、該メータ3の上流側に接続された止水栓としてのボール弁5、メータ3の下流側に接続された同じくボール弁7とを備えている。ボール弁5及び7はそれぞれ上流側及び下流側の配管6、8に接続されている。これらメータ3、ボール弁5、7の基本構成は従来知られたものと同様であるので、その詳細な説明は省略する。なお、上流側のボール弁7の下流側には、カートリッジ式の逆止弁9が取り付けられているが、これの取り付け構造については後述する。また、メータ3は、着脱機構11によってボール弁5と逆止弁9との間に取り付けられているが、この着脱機構11についても後述する。」
「【図1】



(6) 甲6
「【0026】以上のように構成されるメータユニット1の組み立ては、先ず、ベース11に止水栓5、着脱装置9、逆止弁7を取り付ける。この状態で、止水栓5と着脱装置9と逆止弁7の芯は合っており、改めて芯合わせを行う必要はない。着脱装置のロックナット45を一方向に回転させ、スライドホルダ55を引っ込める。この状態で、メータ3の一次側螺子部13、二次側螺子部14を、それぞれスライドホルダ55の螺子受け部67と螺子受け部材121の螺子受け部127に載置する。ロックナット45を先と反対側に回転させ、メータ3を逆止弁7に向けて押しつける。これにより、Oリング69と98とは圧縮され、メータ3と着脱装置9、逆止弁7との接続部のシールが行われる。図示しない止めボルトを設けて、ロックナット45が緩まないようにすることが出来る。メータ3の交換を行う場合には、ロックナット45を緩めるだけで行うことが出来る」
「【図1】


(7) 甲7
「【0025】
図4は、上記のカートリッジ式減圧弁本体ユニット1を取付けたメータユニット81の全体側面図である。このメータユニット81は、ユニット化される機材に異なるものがあるとしても、その基本的構成は従来公知のものと同じである。すなわち、ベース82に止水栓83など各種機材を一体的に組込んでユニット化しておき、取付け現場でそのままセットし、その両端を上下の配管に接続すれば良いようにしてある。本実施の形態では、上流側から止水栓83、エルボ85、着脱装置86、逆止弁87が取り付けられ、着脱装置86と逆止弁87との間にはメータに変わる代用管88がが取付けられている。そして止水栓83とエルボ85との間には、カートリッジ式減圧弁ユニット1を取付ける部分すなわち、カートリッジ式減圧弁本体3を取付けるためのカートリッジ取付け管89が取付けられている。」
「【図4】



2 無効理由1(明確性)について
(1) 特許法36条6項2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は、仮に、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者の利益が不当に害されることがあり得るので、そのような不都合な結果を防止することにある。そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2) 本件特許発明1について
上記第2のとおり、本件訂正を認めたので、訂正後の請求項1の「前記スピンドル部の二次側端部には凹陥部が形成されると共に、前記圧着部の外周にはOリングが装着され、かつ、当該圧着部のOリング装着部が前記凹陥部に嵌入された嵌入状態であり、」とは、「前記スピンドル部の二次側端部」に、「凹陥部が形成される」と共に、前「記圧着部の外周にはOリングが装着され」ていて、かつ、「当該圧着部のOリング装着部が前記凹陥部に嵌入された嵌入状態であ」ること、すなわち、嵌入後の状態を表していることが文言どおり明確に理解できる。
したがって、上記請求項1の記載は、嵌入後の状態を表すものであるので、製造方法を発明特定事項とするプロダクト・バイ・プロセス・クレームであるとはいえない。
よって、請求項1の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
なお、請求人は、訂正後の請求項1に係る発明については、明確でないとの主張をしていないが、上記したように文言上明確である。また、請求人は、訂正前の請求項1に係る発明は、典型的なプロダクト・バイ・プロセス・クレームである旨主張するが(口頭審理陳述要領書第6頁)、上記第2において検討したとおり、本件訂正は認められるので、訂正前の請求項1に係る発明が、プロダクト・バイ・プロセス・クレームであるかどうかといった明確性要件について判断はしていない。

(3) むすび
したがって、本件特許発明1に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものでなく、請求人が主張する無効理由1によって無効とすることはできない。

3 無効理由2(進歩性)について
(1) 本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
(ア) 甲1発明の「流路切換弁22」及び「主流出口22o」は、本件特許発明1の「継手本体」及び「内部通孔」にそれぞれ相当する。また、「流路切換弁22」が「主流出口22oの内周部(雌ネジ部)」を有する点は、本件特許発明1の「継手本体」が「内部通孔の二次側に雌ネジを螺設する」点に相当する。

(イ) 甲1発明は、「主流出口22oの内周部(雌ネジ部)」に「主管体4の外周面一側に形成されたネジ部が螺合され」るものなので、甲1発明の「主管体4」は、本件特許発明1の「スピンドル部」に相当する。また、「内周部(雌ネジ部)には、主管体4の外周面一側に形成されたネジ部が螺合され、」「主管体4を回すことにより、主管体4を流路切換弁22から突出する方向に変位させ」る点は、本件特許発明1の「前記雌ネジと螺合して軸方向に進退可能とした」点に相当する。さらに、「主管体4は管内径Dmの水路を有する」点は、本件特許発明1のスピンドル部が「中空」である点に相当するとともに、「前記インナースリーブを水密に内挿する差込通孔が設けられる」点と、「通孔が設けられる」点に限って一致する。

(ウ) 甲1発明の「補助管体6」及び「量水器M」は、「補助管体6はその先端に量水器Mが当接する接続端部7を有し」ていて、「接続端部7を量水器Mの他端に圧接させる」ものなので、本件特許発明1の「圧着部」及び「水道配管機器」にそれぞれ相当する。甲1発明の「主管体4は」「その先端(他端)には」「環状凹部5を有し、」「環状凹部5には、補助管体6が軸方向へ変位可能に収容され」る点は、本件特許発明1の圧着部が「該スピンドル部の二次側に取付けられ」る点に相当する。また、甲1発明の「補助管体6はその先端に量水器Mが当接する接続端部7を有し、」「接続端部7を量水器Mの他端に圧接させる」点は、本件特許発明1の圧着部が「水道配管機器の接続口と水密に圧着して接続可能」である点に相当する。

(エ) 甲1発明の「接続装置1」は、「主管体4を回すことにより、主管体4を流路切換弁22から突出する方向に変位させ、接続端部7を量水器Mの他端に圧接させる」ことによって、流路切替弁22と量水器Mとの“継手”として機能するから、本件特許発明1の「圧接継手」に相当する。

(オ) 甲1発明の「主管体4は」「その先端(他端)には管内径Dmよりも大径の環状凹部5を有」する点は、本件特許発明1の「前記スピンドル部の二次側端部には凹陥部が形成される」に相当する。

(カ) 甲1発明の「補助管体6の外周面にはOリング収容溝部34が形成され、このOリング収容溝部34にシーリング用のOリング9が収容され、Oリング9は補助管体6の外周面と環状凹部5の内周面に圧接され」る点は、本件特許発明1の「前記圧着部の外周にはOリングが装着され、かつ、当該圧着部のOリング装着部が前記凹陥部に嵌入された嵌入状態であ」る点に相当する。

(キ) したがって、本件特許発明1と甲1発明とは、
「内部通孔の二次側に雌ネジを螺設する継手本体と、
通孔が設けられると共に前記雌ネジと螺合して軸方向に進退可能とした中空のスピンドル部と、
該スピンドル部の二次側に取付けられ、水道配管機器の接続口と水密に圧着して接続可能な圧着部とからなる圧接継手であって、
前記スピンドル部の二次側端部には凹陥部が形成されると共に、
前記圧着部の外周にはOリングが装着され、かつ、当該圧着部のOリング装着部が前記凹陥部に嵌入された嵌入状態である、
圧接継手。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
本件特許発明1は、継手本体が「通水可能な円筒状のインナースリーブを同心状に備え」、スピンドル部の通孔が「前記インナースリーブを水密に内挿する差込通孔」であるのに対し、甲1発明は、そのような構成を備えない点。
[相違点2]
圧着部(甲1発明においては、補助管体6)と、スピンドル部(甲1発明においては、主管体4)との関係について、本件特許発明1は、「前記圧着部の内部に設けられた通水孔は、前記差込通孔よりも小径に形成されている」のに対して、甲1発明は、「主管体4の管内径Dmと同一の管内径Dsに形成した水路を有する補助管体6」である点。

イ 相違点1についての判断
(ア) 相違点1に係る本件特許発明1の構成について
相違点1に係る本件特許発明1の構成(継手本体が『通水可能な円筒状のインナースリーブを同心状に備え』、スピンドル部に『前記インナースリーブを水密に内挿する差込通孔が設けられる』)は、甲2?甲6のいずれにも記載されておらず、周知技術とはいえない。
甲2に記載された発明において、「F the inner sleeve or collar」(Fは内側スリーブまたはカラーである。)は、その内側を水等の流体が流れるものではないことがFig2から明らかであるから、本件特許発明1における「通水可能な」「インナースリーブ」には相当しない。
甲3に記載された発明において、請求人がインナースリーブに相当すると主張する部材(一般に、エルボ管といわれる形状の管。甲第7号証に記載された「エルボ85」)は、継手を構成する一部材ではなく、継手によって接続される対象であるから、「インナースリーブを」「備えた継手本体と、」「からなる圧接継手であって」という本件特許発明1における「インナースリーブ」には相当しない。
甲4に記載された発明には、本件特許発明1における「スピンドル部」に相当するものがない。そうすると、ユニオン(ヘ)は、スピンドル部に内挿されるものではない。他方、本件特許発明1は、スピンドル部に「前記インナースリーブを水密に内挿する差込通孔が設けられる」ものであるから、インナースリーブは、スピンドル部に内挿されるものである。したがって、甲第4号証に記載された発明におけるユニオン(ヘ)は、本件特許発明1における「インナースリーブ」には相当しない。
甲5?6には、本件特許発明1における「インナースリーブ」に相当するものは記載されていない。

請求人は、「水道等の配管用継手において、管の構造をインナースリーブ構造とすることは、たとえば以下の文献に開示されており、当業者が一般に用いている技術常識か周知技術である」と主張し(審判請求書第23頁6?8行目)、甲2?4を提出している。
しかしながら、甲2?4に示される「管の構造をインナースリーブ構造とする」という周知技術は、「部材の管状部分の内側に筒状部材を配置する構造」という程度のものである。

(イ) 甲1発明に周知技術を適用する動機付けについて
仮に、「管の構造をインナースリーブ構造とする」ことが周知技術であるとしても、以下に示すように、甲1発明に当該周知技術を適用する動機付けがない。
甲1発明は、接続装置として完成された構成であり、インナースリーブを更に設ける必要性がないから、当業者には、甲1発明に上記周知技術を適用する動機付けがない。
また、本件特許発明1は、スピンドル部に「前記インナースリーブを水密に内挿する差込通孔が設けられる」ことによって、その機能や配置からみて、スピンドル部とインナースリーブとが水密になり、継手本体とスピンドル部とが螺合する部分に水が流れないようにするものと解される。他方、甲1発明は、主管体4の外周面の流路切換弁側の端部に装着されたOリングRにより、流路切替弁22(継手本体)と主管体4(スピンドル部)とが螺合する部分に水が流れないようにするものと解される。
そうすると、既に流路切替弁22(継手本体)と主管体4(スピンドル部)とが螺合する部分に水が流れないようになっている甲1発明において、仮に、上記周知技術を適用するとしても、主管体4(スピンドル部)とインナースリーブとを水密にする動機付けがない。

(ウ) 請求人の主張について
請求人は、口頭審理陳述要領書の第10頁19行目以下の3(1)ア「相違点1について」において、「訂正前の本件特許発明1ないし3と甲1発明の相違点は,わずかに継手本体がインナースリーブを備えた構造になっているかという点(相違点1)のみで,その余の構成は全く同一であり,」と説明している。
しかしながら、訂正前の本件特許発明1と甲1発明との相違点は、「わずかに継手本体がインナースリーブを備えた構造になっているかという点(相違点1)のみ」ではなく「前記インナースリーブを水密に内挿する」という点も相違点である。そして、本件訂正は認められるところ、「前記インナースリーブを水密に内挿する」という相違点は、訂正後の本件特許発明と甲1発明との相違点にも含まれている。そうすると、請求人の主張は、相違点に誤りがあり採用できない。

また、請求人は、審判請求書の審判請求書第23頁6?8行目において、「水道等の配管用継手において、管の構造をインナースリーブ構造とすることは、たとえば以下の文献に開示されており、当業者が一般に用いている技術常識か周知技術である」と主張し、口頭審理陳述要領書の第19頁1行目?第20頁7行目において、甲1発明に周知技術を適用することの動機付けに関して「継手本体とスピンドル部をインナースリーブ構造とすることには,両部材の接続部の具体的形状や接続方法が異なるという以上に特段の技術的意味はなく,設計事項に過ぎない。」として、縷々主張している。しかしながら、当該主張も、訂正の前後において特許請求の範囲に記載されている「前記インナースリーブを水密に内挿する」という事項を踏まえずになされたものであり、採用できない。また、「Oリングによって水密性が維持されているとしても,さらにインナースリーブ構造を適用することの支障となるものではない」という点は、インナースリーブ構造を甲1発明に設けることの“阻害要因がない”というだけにすぎず、“動機付けがある”ということではない。
仮に、「水道等の配管用継手において、管の構造をインナースリーブ構造とすること」が周知技術であるとしても、上記(イ)に記載したとおり、甲1発明に当該周知技術を適用する動機付けはなく、また、主管体4(スピンドル部)とインナースリーブとを水密にする動機付けはない。

(エ) まとめ
したがって、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項は、甲1発明、及び甲第2号証ないし甲第4号証に記載された周知技術に基いて当業者が容易に想到することができたものであるとはいえない。

ウ 相違点2についての判断
(ア) 甲1発明を相違点2に係る構成とする動機付けについて
甲1発明は、「【0005】第一に、伸縮機構部における内部の水路径が不均一になるため、水流が不安定になるとともに、水流に対する抵抗も大きくなる。」という課題を解決するために、補助管体6を「主管体4の管内径Dmと同一の管内径Dsに形成した水路を有する」という構成にするものである。したがって、甲1発明において、補助管体6の管内径Dsを主管体の管内径Dmよりも小径にすると、甲1発明の課題を解決することができなくなる。
そうすると、甲1発明において、補助管体6の管内径Dsを主管体の管内径Dmよりも小径にすることには阻害要因があり、当業者が容易に想到し得るものではない。

(イ) 請求人の主張について
請求人は、口頭審理陳述要領書の第12頁3?8行目において、「実際には,インナースリーブや圧着部の通水孔の径は,圧着される水道メータ側の通水孔の規格に合わせて適宜設計されているに過ぎず,本件特許発明のように,スピンドル部にインナースリーブを内挿する構造をとる以上,必然的に圧着部の通水孔の径はスピンドル部の差込通孔の内径よりも小さくなって,わずかに受圧面が形成されるのは当然であり,このようなものは当業者が適宜なし得る設計事項でしかない。」と主張している。
ここで、相違点1についての判断において示したとおり、甲2ないし4には本件特許発明のインナースリーブ構造が開示されているとは認められず、本件特許発明のインナースリーブ構造が周知技術であるとはいえない。また、甲1発明にインナースリーブ構造を水密に適用することが当業者にとって容易であるとも認められない。そうすると、請求人の主張は「スピンドル部にインナースリーブを内挿する構造をとる以上」という前提部分に当業者であっても容易に想到できない事項が既に含まれているから、採用できない。

(ウ) まとめ
したがって、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項は、甲1発明、及び甲第2号証ないし甲第4号証に記載された周知技術に基いて当業者が容易に想到することができたものであるとはいえない。

エ 小活
以上の検討のとおりであるから、本件特許発明1は、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基いてに基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2) 本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、直接又は間接的に請求項1を引用する発明であり、本件特許発明1の特定事項を全て有するものである。
そして、上記(1)のとおり、本件特許発明1は、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明2及び3についても同様に、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3) 本件特許発明7について
本件特許発明7は、間接的に請求項1を引用する発明であり、本件特許発明1の特定事項を全て有するものである。
本件特許発明1は、継手本体が「通水可能な円筒状のインナースリーブを同心状に備え」、スピンドル部の通孔が「前記インナースリーブを水密に内挿する差込通孔」であるという点において、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、甲5?6には、本件特許発明1における「インナースリーブ」に相当するものは記載されていない。
そうすると、本件特許発明1は、甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明7についても同様に、甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4) むすび
したがって、本件特許発明1,2,3及び7についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでなく、請求人が主張する無効理由2によって無効とすることはできない。

第7 結語
以上のとおり、請求人が主張する無効理由1及び2は何れも理由がなく、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明1,2,3及び7についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とすべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部通孔の二次側に雌ネジを螺設すると共に通水可能な円筒状のインナースリーブを同心状に備えた継手本体と、前記インナースリーブを水密に内挿する差込通孔が設けられると共に前記雌ネジと螺合して軸方向に進退可能とした中空のスピンドル部と、該スピンドル部の二次側に取付けられ、水道配管機器の接続口と水密に圧着して接続可能な圧着部とからなる圧接継手であって、前記スピンドル部の二次側端部には凹陥部が形成されると共に、前記圧着部の外周にはOリングが装着され、かつ、当該圧着部のOリング装着部が前記凹陥部に嵌入された嵌入状態であり、前記圧着部の内部に設けられた通水孔は、前記差込通孔よりも小径に形成されていることを特徴とする圧接継手。
【請求項2】
圧着部の嵌入側端部に水圧の受圧面を形成した請求項1記載の圧接継手。
【請求項3】
請求項1または2に記載した圧接継手をベースの一次側に固定すると共に、当該ベースの二次側同軸位置に別の継手を対設し、両継手間に水道メータ等の水道配管機器を着脱可能に取付けることを特徴とした水道配管機器の取付けユニット。
【請求項4】
ベースの圧接継手近傍に当該圧接継手の圧着部と水道配管機器の芯出しを可能に水道配管機器の接続口を支持する受け台を設けた請求項3記載の水道配管機器の取付けユニット。
【請求項5】
ベースは形鋼からなる請求項3または4記載の水道配管機器の取付けユニット。
【請求項6】
形鋼として異型パイプを用い、その両端部をプレス加工して台座とした請求項5記載の水道配管機器の取付けユニット。
【請求項7】
圧接継手の一次側には止水栓を、別の継手の二次側には逆止弁を、それぞれ予め組み付けてなる請求項3から6のうち何れか一項記載の水道配管機器の取付けユニット。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2021-03-26 
結審通知日 2021-03-31 
審決日 2021-04-28 
出願番号 特願2005-330487(P2005-330487)
審決分類 P 1 123・ 841- YAA (F16L)
P 1 123・ 537- YAA (F16L)
P 1 123・ 121- YAA (F16L)
P 1 123・ 855- YAA (F16L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中田 誠二郎  
特許庁審判長 平城 俊雅
特許庁審判官 山崎 勝司
山田 裕介
登録日 2010-09-10 
登録番号 特許第4585432号(P4585432)
発明の名称 圧接継手およびこれを用いた水道配管機器の取付けユニット  
代理人 特許業務法人藤本パートナーズ  
代理人 特許業務法人藤本パートナーズ  
代理人 大住 洋  
代理人 千葉 あすか  
代理人 小松 陽一郎  

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