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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F
管理番号 1377063
審判番号 不服2020-17234  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-12-16 
確定日 2021-08-12 
事件の表示 特願2016-150249「コイル部品及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 2月 1日出願公開、特開2018- 19033〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年7月29日の出願であって、令和2年2月18日付けで拒絶の理由が通知され、令和2年4月20日に手続補正がなされたが、令和2年9月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、令和2年12月16日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされたものである。

第2 令和2年12月16日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年12月16日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1の記載を次のとおり補正するものと認める(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項1】
鉄、シリコン、並びに、クロム及びアルミニウムの少なくとも一方を含む合金部と、前記合金部を覆い、前記合金部の成分の酸化物からなる酸化物膜と、を有する軟磁性合金粒子で構成され、前記軟磁性合金粒子同士が前記酸化物膜において互いに結合している磁性体部と、
前記磁性体部の内部又は表面に設けられたコイル部と、
を具備し、
前記磁性体部の内部に、前記酸化物膜に覆われずに前記合金部が露出する露出部を有し、前記露出部にリン酸塩化合物が析出している前記軟磁性合金粒子を含む
コイル部品。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和2年4月20日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
鉄、シリコン、並びに、クロム及びアルミニウムの少なくとも一方を含む合金部と、前記合金部を覆う酸化物膜と、前記酸化物膜に覆われずに前記合金部が露出する露出部と、を有し、前記露出部にリン酸塩化合物が析出している軟磁性合金粒子で構成され、前記軟磁性合金粒子同士が前記酸化物膜において互いに結合している磁性体部と、
前記磁性体部の内部又は表面に設けられたコイル部と、
を具備するコイル部品。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「合金部を覆う酸化物膜」について「前記合金部の成分の酸化物からなる」と限定を付加し、また、同発明を特定するために必要な事項である「磁性体部」について「前記磁性体部の内部に、前記酸化物膜に覆われずに前記合金部が露出する露出部を有し、前記露出部にリン酸塩化合物が析出している前記軟磁性合金粒子を含む」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項、引用発明
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、引用文献1(特開2013-125887号公報)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付加した。)。
「【0001】
本発明は、コイル型電子部品に関し、特に、回路基板上への面実装が可能な小型化されたコイル型電子部品に適した、軟磁性合金を用いたコイル型電子部品に関する。」

「【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、鉄、ケイ素およびクロム、或いは、鉄、ケイ素およびアルミニウムを主成分とする軟磁性合金の粒子と結合材とを混合して成形し、その成形体を、酸素を含有する雰囲気中、特定の条件下で熱処理すると、この熱処理により、結合材が分解して熱処理後の金属粒子表面には酸化層が形成され、この酸化層により合金粒子同士が結合されることで、熱処理前の透磁率よりも熱処理後の透磁率が高くなるとともに、熱処理後の合金粒子内に結晶粒(以下、「粒子内結晶粒」ということもある。)が生成され、この粒子内結晶粒の存在により、高い透磁率μと低い磁気損失Pcvの両立ができることを見いだした。また、この酸化層は、好ましくは、二層構造となっており、該二層構造の酸化層のうち内層が、クロムの酸化物、或いはアルミニウムの酸化物を主成分とする酸化層から形成され、軟磁性合金粒子を被覆することで、軟磁性合金粒子内部の酸化進行を防ぎ特性の劣化を抑制できることも判明した。また、該二層構造の酸化層のうち外層は、鉄およびクロムの酸化物、或いは鉄およびアルミニウムの酸化物を主成分とする酸化層から形成されており、さらに、前記内層に比較して厚い酸化層であるため、絶縁性の改善を達成することができることも判明した。さらにまた、合金粒子同士に結合に関与していない表面酸化層が、その表面に凹凸を有しており、粒子比表面積が熱処理前に比して大きくなることで、絶縁性の改善効果が高まることも見いだした。
【0007】
本発明は、これらの知見に基づいて完成に至ったものであり、以下のとおりのものである。
<1>素体の内部あるいは表面にコイルを有するコイル型電子部品であって、
前記素体は、酸化層を介して互いに結合されている軟磁性合金の粒子群から構成され、各軟磁性合金の粒子の内部には、複数の結晶粒が存在していることを特徴とするコイル型電子部品。
<2>前記軟磁性合金は、鉄、クロム、およびケイ素を主成分とすることを特徴とする<1>に記載のコイル型電子部品。
<3>前記軟磁性合金は、鉄、アルミニウム、およびケイ素を主成分とすることを特徴とする<1>に記載のコイル型電子部品。
<4>前記素体は、前記酸化層を介さない、前記軟磁性合金粒子同士の結合を有していることを特徴とする<1>?<3>のいずれかに記載のコイル型電子部品。
<5>前記酸化層は二層構造であり、前記酸化層のうちの外層が、内層よりも厚いことを特徴とする<1>?<1>のいずれかに記載のコイル型電子部品。
<6>前記軟磁性合金の粒子同士を結合していない酸化層の外層の表面が凹凸面であることを特徴とする<1>?<5>のいずれかに記載のコイル型電子部品。」

「【0011】
以下、本発明の電子部品用軟磁性合金を用いた素体の第1の実施形態について、図1ないし図5を参照して説明する。
図1は、本実施形態の電子部品用軟磁性合金を用いた素体10の外観を示す側面図である。
本実施形態の電子部品用軟磁性合金を用いた素体10は、巻線型チップインダクタのコイルを巻回するためのコアとして用いられるものである。ドラム型のコア11は、回路基板等の実装面に並行に配設されコイルを巻回するための板状の巻芯部11aと、巻芯部11aの互いに対向する端部にそれぞれ配設された一対の鍔部11b、11bを備え、外観はドラム型を呈する。コイルの端部は、鍔部11b、11bの表面に形成された外部導体膜14に電気的に接続されている。」

「【図1】



「【0012】
本発明の電子部品用軟磁性合金を用いた素体10は、鉄(Fe)、ケイ素(Si)およびクロム(Cr)、或いは鉄(Fe)、ケイ素(Si)およびアルミニウム(Al)を主成分とする軟磁性合金の粒子群から構成され、各軟磁性体粒子の表面には、酸素を含む雰囲気中で適切に熱処理することで当該粒子が酸化されて生成された金属酸化物からなる層(以下、「酸化層」という。)が形成されるとともに、熱処理後の合金粉粒子の結晶性が上がり粒子内に結晶粒が形成されていることを特徴とする。
以下、本明細書の記載は、元素名または、元素記号にて記す。
【0013】
図2は、本発明における酸化層をわかり易く説明するために、単純化した2個の軟磁性合金粒子のモデルを用いて、模式的に示すものである。なお、図中、破線4は、次の図3において、粒子内に生成した結晶粒を拡大して模式的に示した部分を示している。
【0014】
酸化層は、粒子1の表面に、当該粒子が酸化されて生成したものであって、当該合金粒子に比較してクロム或いはアルミニウムの比率が高い酸化層である。そして、該酸化層は、好ましくは、クロムの酸化物或いはアルミニウムの酸化物を主成分とする内層2と、更にその外側に、より比抵抗の高い、鉄及びクロムの酸化物或いは鉄及びアルミニウムの酸化物を主成分とする外層3とで構成された二層構造を有している。また、前記外層3は、前記内層2より厚く形成されており、軟磁性体合金粒子1の表面は、該内層2で被覆されており、軟磁性合金粒子同士1は、(A)に示すように、酸化層の外層3同士が結合しているか、或いは、(B)に示すように、酸化層を介さずに、粒子1同士が直接結合している。
さらに、軟磁性合金粒子同士の結合に関与していない酸化層の外層が凹凸表面を有しており、粒子比表面積が熱処理前に比して大きくなっていることで、絶縁性の改善効果が高まる。」

「【図2】



「【0022】
・・・(途中省略)・・・
さらに、複数の粒子間には、空孔が存在する箇所もある。」

「【0026】
本発明において、酸素雰囲気下にて熱処理温度をあげると結合剤は分解し、軟磁性合金体は酸化されるとともに、粒子内部が焼結して粒子内結晶粒を生成する。
該粒子内結晶粒を形成するための成形体の熱処理条件として、大気中、昇温速度30?300℃/時間で500?900℃まで昇温し、更に、1?10時間滞留させることが望ましい。この温度範囲内及びこの昇温速度で熱処理を行うことで、粒子内部が焼結して粒子内結晶粒を生成するとともに、前記の好ましい二層構造の酸化層を形成することができる。より好ましくは、600?800℃である。大気中以外の条件、例えば、酸素分圧が大気と同程度の雰囲気中で熱処理してもよい。還元雰囲気又は非酸化雰囲気では、熱処理により金属酸化物からなる酸化層の生成が行われないため、粒子同士が焼結し体積抵抗率は著しく低下する。
雰囲気中の酸素濃度、水蒸気量については特に限定されないが、生産面から考慮すると、大気あるいは乾燥空気であることが望ましい。
熱処理温度が500℃を越えると、優れた強度と優れた体積抵抗率を得ることができる。一方、熱処理温度が、900℃を超えると、強度は増加するものの、体積抵抗率の低下が発生する。
さらに、昇温速度が300℃/時間より速すぎると、粒子内結晶粒の生成は行われず、一層の酸化層となってしまう。」

「【0040】
そこで、本発明では、上記組成を有する原料粒子と結合剤とを含む成形体を、酸化雰囲気中で、所定条件下で熱処理することで粒子の表面に金属酸化物層からなる二層構造の酸化層を生成させ、かつ該酸化層の内層で粒子の表面を被覆するとともに該酸化層の外層により少なくとも一部の隣接する粒子の表面の酸化層同士を結合させことで、高い強度を得るものである。得られた電子部品用軟磁性合金素体の体積抵抗率ρvは、10^(5)Ω・cm以上と大幅に向上し、素体の表面に形成された外部導体膜の焼付導体層上へのNi、Sn等の金属メッキ層を、メッキ延びを生じさせることなく形成することが可能となった。」

「【0052】
(実施例1)
電子部品用軟磁性合金素体を得るための原料粒子として、平均粒子径(d50%)が10μmの水アトマイズ粉で、組成比がクロム:5wt%、ケイ素:3wt%、鉄:92wt%の合金粉(エプソンアトミックス(株)社製 PF-20F)を用いた。・・・(途中省略)・・・
次に、 上記粒子とポリビニルブチラール( 積水化学社製:エスレックBL:固形分30wt%濃度溶液)を湿式転動攪拌装置にて混合し造粒物を得た。
得られた造粒粉を、複数の粒子の充填率が80体積%となるように、成形圧力を8ton/cm^(2)とし、・・・(途中省略)・・・得られた円板状の成形体、トロイダル状の成形体、ドラム型の成形体、一対の板状成形体について、大気中、100℃/時間の昇温速度で700℃に昇温し、3時間の熱処理を行った。」

「【0056】
以上の結果より、本実施例1の電子部品用軟磁性合金素体は、クロム5wt%、ケイ素3wt%、鉄92wt%を含有する複数の粒子1と、粒子1の表面に生成された、二層構造の酸化層を備え、酸化層の内層2は、クロムの酸化物を主成分とする、平均40nmの厚さを有するものであり、酸化層の外層3は、鉄とクロムの酸化物を主成分とする、平均70nmの厚さを有するものであることを確認した。
【0057】
得られた結果を表1に示した。
この結果、透磁率μが59、素体の強度(破断応力)が14kgf/mm^(2)、体積抵抗率が4.2×10^(7)Ω・cm、磁気損失Pcvが9.8×10^(6)W/m^(3)と、それぞれ良好な測定結果が得られた。
次に、上記ドラム型素体の巻芯部に絶縁被覆導線からなるコイルを巻回するとともに両端部をそれぞれ前記外部導体膜に熱圧着接合し、さらに、上記板状成形体の熱処理で得られた板状の素体を前記ドラム型の素体の鍔部の両側にそれぞれ樹脂系接着剤で接着して巻線型チップインダクタを得た。」

「【表1】



(イ)上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 段落【0007】より、「素体の内部あるいは表面にコイルを有するコイル型電子部品であって、前記素体は、酸化層を介して互いに結合されている軟磁性合金の粒子群から構成され」ることを読み取ることができる。

b 段落【0012】より、「素体10は、鉄(Fe)、ケイ素(Si)およびクロム(Cr)、或いは鉄(Fe)、ケイ素(Si)およびアルミニウム(Al)を主成分とする軟磁性合金の粒子群から構成され、各軟磁性体粒子の表面には、当該粒子が酸化されて生成された金属酸化物からなる層(以下、「酸化層」という。)が形成され」ることを読み取ることができる。

c 段落【0014】より、「酸化層は、粒子の表面に、当該粒子が酸化されて生成したものであって、当該合金粒子に比較してクロム或いはアルミニウムの比率が高い酸化層であ」り、「そして、該酸化層は、」「クロムの酸化物或いはアルミニウムの酸化物を主成分とする内層と、更にその外側に、より比抵抗の高い、鉄及びクロムの酸化物或いは鉄及びアルミニウムの酸化物を主成分とする外層とで構成された二層構造を有し」、「軟磁性合金粒子同士は、」「酸化層の外層同士が結合している」ことを読み取ることができる。

d 段落【0022】より、「複数の粒子間には、空孔が存在する箇所もある」ことを読み取ることができる。

(ウ)上記(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「素体の内部あるいは表面にコイルを有するコイル型電子部品であって、前記素体は、酸化層を介して互いに結合されている軟磁性合金の粒子群から構成され、
素体は、鉄(Fe)、ケイ素(Si)およびクロム(Cr)、或いは鉄(Fe)、ケイ素(Si)およびアルミニウム(Al)を主成分とする軟磁性合金の粒子群から構成され、各軟磁性体粒子の表面には、当該粒子が酸化されて生成された金属酸化物からなる層(以下、「酸化層」という。)が形成され、
酸化層は、粒子の表面に、当該粒子が酸化されて生成したものであって、当該合金粒子に比較してクロム或いはアルミニウムの比率が高い酸化層であり、そして、該酸化層は、クロムの酸化物或いはアルミニウムの酸化物を主成分とする内層と、更にその外側に、より比抵抗の高い、鉄及びクロムの酸化物或いは鉄及びアルミニウムの酸化物を主成分とする外層とで構成された二層構造を有し、軟磁性合金粒子同士は、酸化層の外層同士が結合し、
複数の粒子間には、空孔が存在する箇所もある、
コイル型電子部品。」

イ 引用文献3
(ア)同じく原査定に引用され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献3(特開2016-076559号公報)には、次の記載がある(下線は、当審で付加した。)。
「【0001】
本発明は、磁性部材、導電性部材および接続端部を備えるインダクタンス素子および当該インダクタンス素子を実装した電子機器に関する。」

「【0006】
上記の特許文献に開示されるような強磁性金属粉末を含む成形体を有する磁性部材を備え、導電性の接続端部をその表面に複数備えるインダクタンス素子は、これらの接続端部間で短絡が生じないように、磁性部材の表面が適切な絶縁性を有していることが求められる。」

「【0012】
以上の新たな知見に基づき提供される本発明の一態様は、Feを含有する強磁性金属粉末を含む成形体および成形体の表面部上に形成された絶縁層を備える磁性部材と、磁性部材の内部に位置する部分を有する導電性部材と、導電性部材に対して電気的に接続された状態で磁性部材の表面上に形成された導電性の接続端部とを備え、絶縁層はリン酸塩処理により形成されたリン酸塩層を備えるインダクタンス素子である。」

「【0014】
リン酸塩処理は、特に強磁性金属粉末がFeを主成分とする場合には、Feと良く反応してリン酸塩層を形成するため、強磁性金属粉末はFeを主成分とするものであることが望ましい。」

「【0025】
(1)磁性部材
(1-1)成形体
成形体は、Feを含有する強磁性金属粉末を含む。Feを含有する限り、強磁性金属粉末の種類は限定されない。前述のように、強磁性金属粉末として、Fe基非晶質合金粉末、Fe-Ni系合金粉末、Fe-Si系合金粉末、純鉄粉末(高純度鉄粉)等の軟磁性合金粉末が例示される。特に後述するリン酸塩処理によりリン酸塩層を形成する場合には、強磁性金属粉末に含有されるFeが反応してリン酸塩層の形成が行われる。この反応を効率的に進行させる観点から、強磁性金属粉末はFeを主成分とするものであることが望ましい。強磁性金属粉末は導電性が高いため、成形体の最表面が強磁性金属粉末の面からなる場合には、成形体の表面の絶縁性を確保することは困難である。このため、粉末の段階で何らかの手段で酸化物層等からなる絶縁層を軟磁性合金粉末の表面に形成していても良い。なお、リン酸塩とは主にFe、P、O、M(=Fe、Zn、Mn、Ca等)を含む化合物である。」

「【0029】
成形体は空孔を有していてもよい。この空孔の形成過程は限定されない。成形後のスプリングバックによって形成されたものであってもよいし、後述するように、成形により得られた成形製造物に対してアニール処理が行われたことにより形成されたものであってもよい。成形体が空孔を有している場合には、成形体内の強磁性粉末間の絶縁が良好になって磁性部材1の磁気特性が向上する傾向を有する。ただし、成形体内の空孔の存在密度が過度に高いと、成形体内の強磁性粉末間の結着の程度が低下して磁性部材1の機械的強度が低下するおそれが高まる。したがって、成形体が空孔を有している場合には、成形体の空隙率(成形体において固体物質が存在しない部分として定義される空隙部の体積の、成形体全体の体積に対する百分率)は、3%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましい。
【0030】
(1-2)絶縁層
絶縁層は、磁性部材1の表面が絶縁性を有するように、成形体の表面および必要に応じて表面近傍の部分(本明細書において、これらを「表面部」と総称する。)上に形成される。本発明の一実施形態に係る磁性部材1は、その絶縁層が、リン酸塩処理により形成されたリン酸塩層を備える。
【0031】
リン酸塩処理に用いられる金属イオンの種類は限定されない。鉄、マンガン、亜鉛、カルシウムなどが例示される。リン酸塩処理は、その素過程として、被処理部材の表面に位置する金属性材料、特にFeの溶解を含む。そして、この金属性材料の溶解反応の対反応として位置付けられる水素イオンから水素分子が形成される反応により、金属性材料が溶解した部分の近傍に位置する処理液のpHが上昇する。処理液におけるpHが高まった領域では、処理液に含有される金属イオン(金属材料が溶解して生じたイオンも含む。)とリン酸とが反応して難溶性のリン酸塩が生じる。この難溶性のリン酸塩が、被処理部材上に析出することにより、リン酸塩層が形成される。」

「【0069】
リン酸塩皮膜の析出のためのリン酸鉄処理液を用意した。一定の液温が維持されたリン酸処理液内に、上記の成形体を数十秒間?数分間浸漬させた。浸漬後の成形体を水洗・乾燥して、成形体とその表面部にリン酸塩層からなる絶縁層とを備える磁性部材を得た。」

(イ)上記記載から、引用文献3には、次の技術が記載されていると認められる。
「Feを含有する強磁性金属粉末を含む成形体および成形体の表面部上に形成された絶縁層を備える磁性部材と、磁性部材の内部に位置する部分を有する導電性部材とを備えるインダクタンス素子(段落【0012】)であって、
リン酸処理液内に、上記の成形体を浸漬させ、浸漬後の成形体を水洗・乾燥して、成形体とその表面部にリン酸塩層からなる絶縁層とを備える磁性部材を得(段落【0069】)、
成形体は、Feを含有する強磁性金属粉末を含み、強磁性金属粉末としてFe-Si系合金粉末が例示され、リン酸塩処理によりリン酸塩層を形成する場合には、強磁性金属粉末に含有されるFeが反応してリン酸塩層の形成が行われ、強磁性金属粉末は、粉末の段階で酸化物層等からなる絶縁層を軟磁性合金粉末の表面に形成していても良く(段落【0025】)、
成形体は空孔を有していてもよい(段落【0029】)」技術。

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明における「鉄(Fe)、ケイ素(Si)およびクロム(Cr)、或いは鉄(Fe)、ケイ素(Si)およびアルミニウム(Al)を主成分とする軟磁性合金の粒子」は、本件補正発明における「鉄、シリコン、並びに、クロム及びアルミニウムの少なくとも一方を含む合金部」に相当する構成を含むものである。

(イ)引用発明における「各軟磁性体粒子の表面」に「形成され」た、「当該粒子が酸化されて生成された金属酸化物からなる層(以下、「酸化層」という。)」は、「粒子の表面に、当該粒子が酸化されて生成したものであって」、「クロムの酸化物或いはアルミニウムの酸化物を主成分とする内層と、更にその外側に、より比抵抗の高い、鉄及びクロムの酸化物或いは鉄及びアルミニウムの酸化物を主成分とする外層とで構成され」ているから、本件補正発明における「前記合金部を覆い、前記合金部の成分の酸化物からなる酸化物膜」に相当する。

(ウ)引用発明における、「表面」に「酸化層」が「形成され」た「軟磁性合金の粒子」が、本件補正発明における「軟磁性合金粒子」に相当する。

(エ)引用発明における「軟磁性合金粒子同士」が「酸化層の外層同士が結合し」ていることは、本件補正発明における「前記軟磁性合金粒子同士が前記酸化物膜において互いに結合している」ことに相当する。
よって、引用発明における「軟磁性合金粒子同士」が「酸化層の外層」で「結合し」ている「素体」は、本件補正発明における「前記軟磁性合金粒子同士が前記酸化物膜において互いに結合している磁性体部」に相当する。

(オ)引用発明における「素体の内部あるいは表面」の「コイル」が、本件補正発明における「前記磁性体部の内部又は表面に設けられたコイル部」に相当する。

(カ)本件補正発明では「前記磁性体部の内部に、前記酸化物膜に覆われずに前記合金部が露出する露出部を有し、前記露出部にリン酸塩化合物が析出している前記軟磁性合金粒子を含む」のに対し、引用発明では、その旨の特定は示されていない点で相違する。

(キ)引用発明における「コイル型電子部品」が、本件補正発明における「コイル部品」に相当する。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「鉄、シリコン、並びに、クロム及びアルミニウムの少なくとも一方を含む合金部と、前記合金部を覆い、前記合金部の成分の酸化物からなる酸化物膜と、を有する軟磁性合金粒子で構成され、前記軟磁性合金粒子同士が前記酸化物膜において互いに結合している磁性体部と、
前記磁性体部の内部又は表面に設けられたコイル部と、
を具備する、
コイル部品。」

【相違点1】
本件補正発明では「磁性体部の内部に、前記酸化物膜に覆われずに前記合金部が露出する露出部を有し、前記露出部にリン酸塩化合物が析出している前記軟磁性合金粒子を含む」のに対し、引用発明では、その旨の特定は示されていない点。

(4)判断
以下、相違点1について検討する。
ア 引用文献3に記載された技術を再掲すれば、次のとおりである。
「Feを含有する強磁性金属粉末を含む成形体および成形体の表面部上に形成された絶縁層を備える磁性部材と、磁性部材の内部に位置する部分を有する導電性部材とを備えるインダクタンス素子であって、
リン酸処理液内に、上記の成形体を浸漬させ、浸漬後の成形体を水洗・乾燥して、成形体とその表面部にリン酸塩層からなる絶縁層とを備える磁性部材を得、
成形体は、Feを含有する強磁性金属粉末を含み、強磁性金属粉末としてFe-Si系合金粉末が例示され、リン酸塩処理によりリン酸塩層を形成する場合には、強磁性金属粉末に含有されるFeが反応してリン酸塩層の形成が行われ、強磁性金属粉末は、粉末の段階で酸化物層等からなる絶縁層を軟磁性合金粉末の表面に形成していても良く、
成形体は空孔を有していてもよい」技術。

イ すると、引用発明と引用文献3に記載された技術とは、「Fe-Si系の磁性合金粉末を含む素体(成形体)を備え、酸化層を該磁性合金粉末の表面に形成し、素体(成形体)は空孔を有している、コイル部品」の点で共通する。そして一般に、コイル部品に用いられる「軟磁性合金の粒子群から構成され」た素体(成形体)において、その表面だけでも絶縁性を高めることが望ましいことは、いうまでもないことである。
なお、引用文献1の段落【0040】に「得られた電子部品用軟磁性合金素体の体積抵抗率ρvは、10^(5)Ω・cm以上と大幅に向上し、素体の表面に形成された外部導体膜の焼付導体層上へのNi、Sn等の金属メッキ層を、メッキ延びを生じさせることなく形成することが可能となった。」と記載されているとしても、該記載は、なお一層の絶縁性の向上が望ましいことを否定する理由とならない。
よって、引用発明に引用文献3に記載された技術の「リン酸塩処理」を適用することは、当業者に動機付けられていたといえる。

ウ 次に、引用発明のように「軟磁性合金の粒子」に「二層構造」の「酸化層」を形成することができる熱処理条件は、引用文献1の段落【0026】及び【0052】にそれぞれ記載されているとおり「大気中、昇温速度30?300℃/時間で500?900℃まで昇温し、更に、1?10時間滞留させることが望ましい。・・・より好ましくは、600?800℃である。」、及び「(実施例1)・・・得られた円板状の成形体、トロイダル状の成形体、ドラム型の成形体、一対の板状成形体について、大気中、100℃/時間の昇温速度で700℃に昇温し、3時間の熱処理を行った。」である。
これに対し、本願明細書の段落【0057】、【0058】、【0061】には、それぞれ「2.6 ステップS06:焼成工程 ステップS06では、ステップS05で得られた未焼成の本体部11を、大気などの酸化性雰囲気中で焼成する。・・・焼成工程には、以下に説明する脱脂プロセス及び酸化物膜形成プロセスが含まれる。」、「脱脂プロセスは、例えば、約300℃で約1時間保持する条件で実施可能である。」、「酸化物膜形成工程は、例えば、約700℃で約2時間保持する条件で実施可能である。」と記載されていることから、本願明細書に記載された熱処理条件は、引用文献1に記載された熱処理の条件と格別相違しない。
よって、引用文献1記載の上記条件で熱処理された引用発明の「素体」は、本件補正発明と同じく、その内部に、「酸化層」に覆われずに「軟磁性合金」が露出する「露出部」を有する「軟磁性合金粒子」を含んでいると考えるのが自然である。

エ また、引用発明では「複数の粒子間には、空孔が存在する箇所もある」のであるから、引用発明の「素体」がひとたび溶液に浸漬されれば、その溶液は、粒子間の空孔が存在する箇所を通って、「素体」の内部に行き渡るものと考えられる。

オ したがって、上記(イ)の動機に従って引用発明に引用文献3に記載された技術の「リン酸塩処理」を適用し、「素体」を「リン酸処理液内に」「浸漬させ、浸漬後」「水洗・乾燥」すれば、上記(エ)で述べたとおり「リン酸処理液」は、粒子間の空孔が存在する箇所を通って「素体」の内部に行き渡り、上記(ウ)で述べたとおり、素体の内部に含まれていると考えられる「軟磁性合金粒子」の「露出部」において「粉末に含有されるFeが反応してリン酸塩層の形成が行われ」、その結果、上記相違点1に係る本件補正発明と同じく、「素体」の内部に、「酸化層」に覆われずに「軟磁性合金の粒子」が露出する「露出部」を有し、「前記露出部にリン酸塩化合物が析出している」「軟磁性合金の粒子」を含むようになることは、当業者が容易に予測し得たことである。

(5)まとめ
したがって、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献3に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和2年12月16日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし16に係る発明は、令和2年4月20日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由の概要
請求項1に係る発明についての原査定の拒絶の理由は、次のとおりのものである。
「この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった次の引用文献1-4に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

<引用文献等一覧>
1.特開2013-125887号公報
2.特開2003-332116号公報
3.特開2016-076559号公報
4.特開昭63-115309号公報」

なお、拒絶査定の備考欄に記載された「引用例2」は「引用例3」の誤記である。また、引用文献4は、請求項16に係る発明に対し、「リン酸マンガン」が周知であることを示す文献である。

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1、引用文献3及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「合金部を覆う酸化物膜」及び「磁性体部」についてのそれぞれの限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)ないし(5)に記載したとおり、引用文献2及び引用文献4を参酌するまでもなく、引用文献1に記載された発明及び引用文献3に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用文献1に記載された発明及び引用文献3に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-06-04 
結審通知日 2021-06-08 
審決日 2021-06-22 
出願番号 特願2016-150249(P2016-150249)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 健一  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 畑中 博幸
清水 稔
発明の名称 コイル部品及びその製造方法  
代理人 関根 正好  
代理人 大森 純一  
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