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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1377116
審判番号 不服2021-746  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-01-19 
確定日 2021-08-31 
事件の表示 特願2016-170175「圧電素子、圧電アクチュエーター、圧電モーター、ロボット、電子部品搬送装置およびプリンター」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 3月 8日出願公開、特開2018- 37552、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成28年(2016年)8月31日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

令和2年3月24日付け :拒絶理由通知書
令和2年5月25日 :意見書,手続補正書の提出
令和2年10月12日付け:拒絶査定
令和3年1月19日 :審判請求書,手続補正書の提出


第2 原査定の概要
原査定(令和2年10月12日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
1.本願の請求項1,4,5,9に係る発明は,本願出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用例1に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない。
2.本願の請求項1?9に係る発明は,本願出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用例1に記載された発明及び引用例2?4に記載された技術的事項に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用例1.特開2010-201830号公報
引用例2.特開2002-314163号公報
引用例3.特開2010-83120号公報
引用例4.特開2010-233337号公報


第3 本願発明
本願の請求項1?9に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」?「本願発明9」という。)は,令和3年1月19日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される発明であり,そのうちの本願発明1は以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
基板と,
前記基板上に配置されている第1電極と,
前記第1電極上に配置され,圧電体材料を含んで構成されている複数層を有し,前記複数層の厚さの合計が1.6μm以上10μm以下の範囲内にある圧電体層と,
前記圧電体層の層間に配置され,チタンを含んで構成されている中間層と,を備え,
前記圧電体層は,前記中間層よりも前記第1電極と反対側に位置し,前記圧電体材料を含んで構成されている層を複数有し,
前記中間層は,前記圧電体層の前記複数層が有する層間のうち最も前記第1電極側に位置している層間に配置されており,
前記複数層のうち最も前記第1電極側に位置している層の厚さは,前記複数層のうち前記中間層よりも前記第1電極と反対側に位置している層のうちのいずれの層の厚さよりも薄く,
前記複数層のうち最も前記第1電極側に位置している層の厚さは,前記複数層のうち前記中間層よりも前記第1電極と反対側に位置しているすべての層の厚さの合計の0.01倍以上0.7倍以下の範囲内にあることを特徴とする圧電素子。」

本願発明2?9は,本願発明1を減縮した発明である。

第4 引用例の記載と引用発明
1.引用例1について
(1)引用例1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用例1(特開2010-201830号公報)には,次の記載がある。(下線は当審により付加。以下同じ。)

「【0018】
一方,このような流路形成基板10の開口面とは反対側には,上述したように弾性膜50が形成され,この弾性膜50上には,絶縁体膜55が形成されている。さらに,この絶縁体膜55上には,第1電極60と,厚さが5μm以下,好ましくは1?5μmの圧電体層70と,第2電極80とが,積層形成されて,圧電素子300を構成している。ここで,圧電素子300は,第1電極60,圧電体層70及び第2電極80を含む部分をいう。一般的には,圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし,他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。本実施形態では,第1電極60を圧電素子300の共通電極とし,第2電極80を圧電素子300の個別電極としているが,駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。また,ここでは,圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせてアクチュエーター装置と称する。なお,上述した例では,弾性膜50,絶縁体膜55及び第1電極60が振動板として作用するが,勿論これに限定されるものではなく,例えば,弾性膜50及び絶縁体膜55を設けずに,第1電極60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また,圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0019】
本実施形態においては,第1電極60は,酸化イリジウム(IrO_(x))及び白金(Pt)を含むものであり,さらに,圧電体層70側に酸化チタン(TiO_(x))を主成分とする酸化チタン層を有している。ここで,酸化チタン層は,詳しくは後述するが,圧電体層70を形成する際に用いた種チタンが酸化されることにより形成された層であり,ルチル構造を有している。また,第1電極60が酸化イリジウムを含むことにより圧電体層70を構成する成分が第1電極60及びその下地側に拡散するのが防止され,また,白金を含むことにより第1電極60の導電性が十分に確保することができる。」

「【0028】
次いで,図4(a)に示すように,第1電極60上にチタン(Ti)からなる種チタン層61をスパッタリング法等により形成する。このように第1電極60の上に種チタン層61を設けることにより,後の工程で第1電極60上に種チタン層61を介して圧電体層70を形成する際に,圧電体層70を(100)に80%以上の強配向に制御することができ,電気機械変換素子として好適な圧電体層70を得ることができる。なお,種チタン層61は,圧電体層70が結晶化する際に,結晶化を促進させるシードとして機能し,圧電体層70の焼成時に同時に加熱されることで圧電体層70内に一部拡散する。また,圧電体層70の焼成時に種チタン層61の一部が残留して酸化されることで,最終的には酸化チタン層として,第1電極60の一部を構成している。
【0029】
次に,第1電極60上に圧電体層70を形成する。ここで,本実施形態では,金属有機物を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し,さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る,いわゆるゾル-ゲル法を用いて圧電体層70を形成している。圧電体層70の製造方法は,ゾル-ゲル法に限定されず,MOD(Metal-Organic Decomposition)法を用いてもよい。なお,スパッタ法,CVD法または印刷法を用いて圧電体層70を形成することもできるが,それらの方法で圧電体層70を形成した場合,Schottky Emission currentが圧電素子300のリーク電流の支配的因子ではなくなる場合があるため,Schottky Emission currentがリーク電流の支配的因子となるように圧電体層70の材料や製造条件等を調整することが必要になる。
【0030】
圧電体層70の具体的な形成手順としては,まず,図4(b)に示すように,第1電極60(種チタン層61)上に圧電体層の前駆体膜である圧電体前駆体膜74を成膜する。すなわち,第1電極60が形成された流路形成基板10上にPb,Ti及びZrを含むゾル(溶液)を塗布する(塗布工程)。次いで,この圧電体前駆体膜74を所定温度に加熱して一定時間乾燥させる(乾燥工程)。次に,乾燥した圧電体前駆体膜74を所定温度に加熱して一定時間保持することによって脱脂する(脱脂工程)。なお,ここで言う脱脂とは,圧電体前駆体膜74に含まれる有機成分を,例えば,NO_(2),CO_(2),H_(2)O等として離脱させることである。
【0031】
次に,図4(c)に示すように,圧電体前駆体膜74を所定温度に加熱して一定時間保持することによって結晶化させ,1層目の圧電体膜75を形成する(焼成工程)。
【0032】
次に,図5(a)に示すように,第1電極60上に1層目の圧電体膜75を形成した段階で,第1電極60及び1層目の圧電体膜75を同時にパターニングする。次いで,図5(b)に示すように,1層目の圧電体膜75上を含む流路形成基板用ウェハー110の全面に,再びチタン(Ti)からなる中間チタン層62を形成後,上述した塗布工程,乾燥工程,脱脂工程及び焼成工程からなる圧電体膜形成工程を行うことにより,図5(c)に示すように2層目の圧電体膜75が形成される。そして,図5(d)に示すように,2層目の圧電体膜75の上に,上述した塗布工程,乾燥工程,脱脂工程及び焼成工程からなる圧電体膜形成工程を繰り返し行うことにより,複数層の圧電体膜75からなる圧電体層70が形成される。」

引用例1の図5として,以下の図面が示されている。


(2)摘記の整理
上記(1)の摘記によれば,引用例1には次の事項が記載されているものと理解できる。

ア 流路形成基板10上に圧電素子300が形成されていること。(段落0018)
イ 圧電素子300が,第1電極60,圧電体層70及び第2電極80を含むこと。(段落0018)
ウ 流路形成基板10の開口面とは反対側に弾性膜50が形成され,弾性膜50上には絶縁体膜55が形成され,絶縁体膜55上には,第1電極60と,厚さが1?5μmの圧電体層70と,第2電極80とが積層形成されていること。すなわち,流路形成基板10上に第1電極が配置され,第1電極上に厚さが1?5μmの圧電体層70が配置されていること。(段落0018)
エ 第1電極の上に1層目の圧電体膜75が形成され,その上に2層目の圧電体膜75が形成され,その上に圧電体膜形成工程が繰り返し行われて,複数層の圧電体膜からなる圧電体層70が形成されること。(段落0031?0032,図5)
オ 種チタン層61は,圧電体層70の焼成時に同時に加熱されることで圧電体層70内に一部拡散すること。(段落0028)
カ チタン(Ti)からなる中間チタン層62を形成後,上述した塗布工程,乾燥工程,脱脂工程及び焼成工程からなる圧電体膜形成工程を行うことにより,図5(c)に示すように2層目の圧電体膜75が形成されること。(段落0032)
キ 種チタン層61に関する上記オの記載事項及び図5(c)から,2層目の圧電体膜75の圧電体膜形成工程における焼成時に中間チタン層62も圧電体層内に拡散し,層の形では残らないものと理解できる。

(3)引用発明1
上記(2)ア?キによれば,引用例1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「流路形成基板10と,
流路形成基板10上に配置された第1電極60と,
第1電極60の上に積層形成された,厚さが1?5μmの圧電体層70と,
圧電体層70の上に積層形成された第2電極80と,
を備え,
圧電体層70は,第1電極の上に1層目の圧電体膜75を形成し,その上に2層目の圧電体膜75を形成し,その上に圧電体膜形成工程を繰り返し行うことにより複数層の圧電体膜を形成した構成である,
流路形成基板10上に形成された圧電素子300。」

2.引用例2?4について
(1)引用例2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用例2(特開2002-314163号公報)には,次の記載がある。

「【0032】これらの図に示すように,圧電体素子は,絶縁膜31上にZrO2膜32,下部電極33,圧電体膜43および上部電極44を順次積層して構成されている。」

「【0049】圧電体成膜第1工程(S3)
次に,下部電極33上に圧電体膜を成膜する。この第1工程では,圧電体膜43の所望の厚さ以下,好ましくは所望の厚さの半分以下の厚さに圧電体膜43aを成膜する。例えば全体の膜厚1.5μmの圧電体膜43を7層で構成する場合,この第1工程では少なくとも1層からなる0.2μmの圧電体膜43aを成膜する。」

「【0055】次に,スパッタ法等により,圧電体膜43a及びZrO_(2)膜32上にTi層(核)を成膜する。ここで成膜するTi層は,1nm以上4nm以下の膜厚とすることが好ましい。Ti層の膜厚が1nm未満であると種層としての作用が少なく,4nmを超えるとPZT結晶の成長がTi層を境に分断されてしまい,結晶が不連続となったり層間剥離が生じたりする可能性がある。より好ましくはTi層を2nm程度の厚みとする。
【0056】圧電体成膜第2工程(S5)
次に,圧電体膜43a上に更に圧電体膜を成膜する第2工程を実行する。この第2工程では,圧電体膜の所望の厚さに至るまで,上記第1工程と同様の方法により圧電体前駆体膜の焼成の工程を例えば6回繰り返し,合計1.5μmの圧電体膜43を成膜する。」

「【0061】図7は,本実施形態により,パターニング工程(S4)後に形成するTi層の膜厚を2nmとした場合の圧電体素子の断面のSEM写真であり,図8はその模写図である。図9は,比較例として,パターニング工程後に形成するTi層の膜厚を5nmとした場合の圧電体素子の断面のSEM写真であり,図10はその模写図である。これらの写真に示されるように,Ti層の膜厚を2nmとしたときはPZTの結晶構造が連続的であった。これに対し,Ti層の膜厚を5nmとしたときは,圧電体成膜第1工程で成膜されたPZT層と圧電体成膜第2工程で成膜されたPZT層との間に,不連続部分すなわち結晶の連続性が他のPZT層間の連続性より低い部分が生じてしまった。」

引用例2の図8として,以下の図面が示されている。


(2)引用例3の記載
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用例3(特開2010-83120号公報)には,次の記載がある。

「【0016】
一方,このような流路形成基板10の開口面とは反対側には,上述したように弾性膜50が形成され,この弾性膜50上には,絶縁体膜55が形成されている。さらに,この絶縁体膜55上には,第1電極60と,圧電体層70と,第2電極80とが,積層形成されて,圧電素子300を構成している。ここで,圧電素子300は,第1電極60,圧電体層70及び第2電極80を含む部分をいう。・・・(以下略)・・・」

「【0027】
次いで,図8(a)に示すように,第1電極60上にチタン(Ti)からなる例えば4nm程度の種チタン層61をスパッタリング法等により形成する。このように第1電極60の上に種チタン層61を設けることにより,後の工程で第1電極60上に種チタン層61を介して圧電体層70を形成する際に,圧電体層70の優先配向方位を(100)や(111)に制御することができ,電気機械変換素子として好適な圧電体層70を得ることができる。なお,種チタン層61は,圧電体層70が結晶化する際に,結晶化を促進させるシードとして機能し,圧電体層70の焼成後には圧電体層70内に拡散するものである。
【0028】
次に,圧電体層70を形成する。ここで,本実施形態では,金属有機物を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し,さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る,いわゆるゾル-ゲル法を用いて圧電体層70を形成している。なお,圧電体層70の製造方法は,ゾル-ゲル法に限定されず,MOD(Metal-Organic Decomposition)法を用いてもよい。
【0029】
圧電体層70の具体的な形成手順としては,まず,図8(b)に示すように,第1電極60(種チタン層61)上に圧電体層の前駆体膜である圧電体前駆体膜74を成膜する。すなわち,第1電極60が形成された流路形成基板10上にTi及びZrを含むゾル(溶液)を塗布する(塗布工程)。次いで,この圧電体前駆体膜74を所定温度に加熱して一定時間乾燥させる(乾燥工程)。例えば,圧電体前駆体膜74を150?170℃で5?10分間保持することで乾燥することができる。次に,乾燥した圧電体前駆体膜74を所定温度に加熱して一定時間保持することによって脱脂する(脱脂工程)。例えば,圧電体前駆体膜74を300?400℃程度の温度に加熱して約5?10分間保持することで脱脂できる。なお,ここで言う脱脂とは,圧電体前駆体膜74に含まれる有機成分を,例えば,NO_(2),CO_(2),H_(2)O等として離脱させることである。また,脱脂工程では,昇温レートを15℃/sec以上とすることができる。
【0030】
次に,図8(c)に示すように,圧電体前駆体膜74を所定温度に加熱して一定時間保持することによって結晶化させ,1層目の圧電体膜75を形成する(焼成工程)。例えば,圧電体前駆体膜74を650?800℃で5?30分間加熱して圧電体膜75を形成することができる。また,焼成工程では,昇温レートを15℃/sec以下とすることができる。
【0031】
次に,図9(a)に示すように,第1電極60上に1層目の圧電体膜75を形成した段階で,第1電極60及び1層目の圧電体膜75を同時にパターニングする。
【0032】
次いで,図9(b)に示すように,1層目の圧電体膜75上を含む流路形成基板用ウェハ110の全面に,再びチタン(Ti)からなる中間チタン層62を形成後,上述した塗布工程,乾燥工程,脱脂工程及び焼成工程からなる圧電体膜形成工程を行うことにより,図9(c)に示すように2層目の圧電体膜75が形成される。そして,図9(d)に示すように,2層目の圧電体膜75の上に,上述した塗布工程,乾燥工程,脱脂工程及び焼成工程からなる圧電体膜形成工程を繰り返し行うことにより,複数層の圧電体膜75からなる圧電体層70が形成される。」

「【0035】
(実施例1)
上述した方法で,流路形成基板10上に圧電素子300を作製した。なお,圧電体層70を形成する工程において,焼成温度は680℃とした。また,同じゾルを用いて12層の圧電体前駆体膜を形成したが,1層目の圧電体前駆体膜を形成した後焼成し,2?4層目の圧電体前駆体膜を積層した後焼成し,その後5?12層目の圧電体前駆体膜を積層した後焼成した。 得られた圧電素子300の圧電体層70について,EELS法で厚さ方向に結晶構造を測定し,測定結果について横軸を第1電極60からの距離とし縦軸をTi/(Ti+Zr)%とした結果を図11に示す。なお,図中,破線で仕切られ1Lと記載された領域は,圧電体膜75の1層目を,2?4Lと記載された領域は2?4層目を,5L?と記載された領域は5層目以降を示す。また,圧電素子を駆動して変位量を測定した。」

引用例3の図11として,以下の図面が示されている。


(4)引用例4の記載
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用例4(特開2010-233337号公報)には,次の記載がある。
「【0018】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1) 図1は,本発明の実施形態1に係る圧電モーターの分解斜視図であり,図2は,圧電モーターの平面図であり,図3は,図2のA-A′断面図である。
【0019】
図示するように,本実施形態の圧電モーター1を構成する圧電アクチュエーター10は,振動部材20と,振動部材20の両面にそれぞれ接着された圧電素子30とを具備する。」

「【0093】
また,本発明は,広く圧電モーター全般を対象としたものであり,上述した液体噴射装置や時計以外の小型デバイスに利用することが可能である。圧電モーターを利用できる小型デバイスとしては,医療用ポンプ,カメラ,産業用や義手などのロボット等が挙げられる。」


第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)本願発明1と引用発明1の対比
本願発明1と上記第4の1.(3)で認定した引用発明1を対比する。

ア 引用発明1における「流路形成基板10」及び「第1電極60」は,本願発明1における「基板」及び「第1電極」に相当する。
イ 引用発明1における「流路形成基板10上に形成された圧電素子300」は,本願発明1における「圧電素子」に相当する。
ウ 引用発明1における「圧電体層70」は,「第1電極60の上に積層形成された,厚さが1?5μm」の層であり,「第1電極の上に1層目の圧電体膜75を形成し,その上に2層目の圧電体膜75を形成し,その上に圧電体膜形成工程を繰り返し行うことにより複数層の圧電体膜を形成した構成」であるから,「圧電体膜」を「複数層」を有し,それらの厚さの合計が1.6μm以上10μm以下の範囲内にあるものを含んでいると理解できる。そうすると,本願発明1における「圧電体層」と引用発明1における「圧電体層70」は,ともに「前記第1電極上に配置され,圧電体材料を含んで構成されている複数層を有し,前記複数層の厚さの合計が1.6μm以上10μm以下の範囲内にある圧電体層」である点で一致する。

上記ア?ウによれば,本願発明1と引用発明1の一致点及び相違点は,以下のとおりとなる。

<一致点>
「基板と
前記基板上に配置されている第1電極と,
前記第1電極上に配置され,圧電体材料を含んで構成されている複数層を有し,前記複数層の厚さの合計が1.6μm以上10μm以下の範囲内にある圧電体層と,
を備える圧電素子。」

<相違点1>
本願発明1は,「前記圧電体層の層間に配置され,チタンを含んで構成されている中間層」を備えるのに対し,引用発明1には,当該「中間層」を備えることが特定されていない点。

<相違点2>
本願発明1では,
「前記圧電体層は,前記中間層よりも前記第1電極と反対側に位置し,前記圧電体材料を含んで構成されている層を複数有し,」「前記中間層は,前記圧電体層の前記複数層が有する層間のうち最も前記第1電極側に位置している層間に配置されて」いるのに対し,引用発明1では,「中間層」を備えることが特定されていないため,「前記中間層よりも前記第1電極と反対側に位置」する層との事項,及び,「中間層」の配置について特定されていない点。

<相違点3>
本願発明1では,「前記複数層のうち最も前記第1電極側に位置している層の厚さは,前記複数層のうち前記中間層よりも前記第1電極と反対側に位置している層のうちのいずれの層の厚さよりも薄く」と特定されているのに対し,引用発明1では,「圧電体層70」を構成する「1層目の圧電体膜75」と他の「複数層」との厚さの関係が特定されていない点。

<相違点4>
本願発明1では,「前記複数層のうち最も前記第1電極側に位置している層の厚さは,前記複数層のうち前記中間層よりも前記第1電極と反対側に位置しているすべての層の厚さの合計の0.01倍以上0.7倍以下の範囲内にある」のに対し,引用発明1では,「1層目の圧電体膜75」の厚さが特定されておらず,また,「中間層」が特定されていないため,「前記複数層のうち前記中間層よりも前記第1電極と反対側に位置しているすべての層の厚さの合計」が特定されない点。

(2)相違点についての判断
はじめに相違点1について検討する。
ア 引用例1の段落0032には,1層目の圧電体膜75の上に中間チタン層62を形成し,その上に圧電体膜形成工程を行うことにより2層目の圧電体膜75を形成することが記載されているが,上記第4の2.(2)キで検討したように,2層目の圧電体膜75の形成工程における焼成時に中間チタン層62は拡散するものと理解できる。すなわち,中間チタン層62は完成物(圧電素子300)において層としての形をとどめていないものであり,本願発明1における「中間層」には相当しないといえる。よって,相違点1は実質的な相違点であり,形式的な相違点ではない。
イ 引用例2には,第1工程で少なくとも1層からなる0.2μmの圧電体膜43aを成膜し(段落0049),その上にTi層(核)を成膜した後,第1工程と同様の方法により圧電体前駆体膜の焼成の工程を例えば6回繰り返し,合計1.5μmの圧電体膜43を成膜することが記載されている(段落0055,0056)。しかしながら,当該成膜工程により形成された圧電体素子の断面SEM写真の模写図(図8)には,Ti層(核)は示されていない。
ウ 引用例3には,引用例1と同様に,1層目の圧電体膜75の上に中間チタン層62を形成後,2層目の圧電体膜75を形成することが記載されているが(段落0032),中間チタン層62が完成した圧電素子300に残存することは特定されていない。むしろ,引用例3の段落0027には「種チタン層61は,圧電体層70が結晶化する際に,結晶化を促進させるシード層として機能し,圧電体層の焼成後には圧電体層内70に拡散するものである。」と記載されていることから,引用例3の中間チタン層62も,2層目の圧電体膜75の焼成後に圧電体層70内に拡散し,層としての形をとどめていないものと理解できる。
エ そうすると,引用例2及び3には,圧電素子において「圧電体層の層間に配置され,チタンを含んで構成されている中間層」を備えることについては,記載も示唆もされていないといえる。また,引用例4には,圧電素子をアクチュエーターとして備えるモーターや,当該モーターを小型デバイスに応用できることが記載されているものの,中間層を備える圧電素子については記載も示唆もされていない。
オ そして,本願発明1は,上記「中間層」を備えることにより,第1電極の電極成分が圧電体層内に拡散するのを低減することができ,圧電体層を構成する圧電体材料の配向率を高めることができるとの格別の効果を奏するものである(本願明細書段落0007)。
カ したがって,引用例2?4に記載された技術的事項から上記相違点1に係る構成を想到することは,当業者が容易になし得たこととはいえない。

(3)小括
よって,上記相違点2?4について検討するまでもなく,本願発明1は,引用発明1と同一ではなく,また,引用発明1及び引用例2?4に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものとはいえない。

2.本願発明2?9について
本願発明2?9は本願発明1と同じ技術的事項を備える発明であるから,本願発明1と同じ理由により,本願発明4,5,9は引用発明1と同一ではなく,また,本願発明2?9は,引用発明1及び引用例2?4に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものとはいえない。


第6 原査定について
審判請求時の補正により補正された本願発明1は,上記第5の1.(1)に記載した相違点1?4に係る構成を有するものであるから,拒絶査定において引用された引用例1に記載された発明(引用発明1)と同一ではない。また,上記第5の1.(2)のとおり,本願発明1は,引用発明1及び引用例2?4に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものとはいえない。
したがって,原査定を維持することはできない。


第7 結言
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-08-16 
出願番号 特願2016-170175(P2016-170175)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 113- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 宮本 博司  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 小川 将之
▲吉▼澤 雅博
発明の名称 圧電素子、圧電アクチュエーター、圧電モーター、ロボット、電子部品搬送装置およびプリンター  
代理人 増田 達哉  
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