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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01R
管理番号 1377194
審判番号 不服2021-1025  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-01-26 
確定日 2021-09-07 
事件の表示 特願2017- 22393「銅端子材及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 8月16日出願公開、特開2018-129226、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件に係る出願は、平成29年2月9日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和2年 9月11日付け:拒絶理由通知書
令和2年10月26日 :意見書、手続補正書の提出
令和2年11月20日付け:拒絶査定(以下、「原査定」という。)
令和3年 1月26日 :審判請求書、手続補正書の提出


第2 原査定の概要
原査定の概要は以下のとおりである。

(進歩性)この出願の請求項1?7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2015-137421号公報
引用文献2:特開平5-1367号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:特開2007-128684号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4:特開2015-53251号公報


第3 審判請求時の補正
1.令和3年1月26日に審判請求と同時にした手続補正(以下、「本件補正」という。)について
本件補正により、特許請求の範囲の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。

「【請求項1】
銅または銅合金からなる基材上に厚さ0.1μm以上10.0μm以下の拡散防止層が形成されるとともに、該拡散防止層の一部に、平均結晶粒径が0.3μm以上とされた粒径調整部が形成され、該粒径調整部以外の領域における前記拡散防止層の平均結晶粒径は0.3μm未満とされており、前記基材のうち、前記粒径調整部に接する部分に、該粒径調整部との境界面から1μm以上50μm以下の厚さの範囲で前記拡散防止層中の金属の含有率が1.0質量%以上となる変質層が形成されていることを特徴とする銅端子材。
【請求項2】
前記拡散防止層が、ニッケル、ニッケル合金、コバルト、コバルト合金のいずれかからなる1層以上の金属層によって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の銅端子材。
【請求項3】
前記拡散防止層における前記粒径調整部の上に、金、金合金、銀、銀合金、パラジウム、パラジウム合金、白金、白金合金、ロジウム、ロジウム合金のいずれか1層以上からなる厚さ0.1μm以上5.0μm以下の貴金属層が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の銅端子材。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の銅端子材を製造する方法であって、前記基材の表面に金属被覆層を形成した後、該金属被覆層の表面の一部にレーザ光を照射することにより、前記金属被覆層を、前記レーザ光が照射された部分が前記粒径調整部とされた前記拡散防止層とするとともに、前記粒径調整部に接する部分の前記基材に前記変質層を形成することを特徴とする銅端子材の製造方法。
【請求項5】
前記レーザ光が、固体レーザ、ファイバーレーザ、半導体レーザもしくはガスレーザより得られる、波長が400nm以上11μm以下の範囲のレーザ光であることを特徴とする請求項4記載の銅端子材の製造方法。
【請求項6】
請求項3記載の銅端子材を製造する方法であって、前記基材の表面に金属被覆層を形成した後、該金属被覆層の表面の一部に前記貴金属層を形成し、該貴金属層の表面にレーザ光を照射することにより、前記金属被覆層を、前記レーザ光が照射された部分が前記粒径調整部とされた前記拡散防止層とするとともに、前記粒径調整部に接する部分の前記基材に前記変質層を形成することを特徴とする銅端子材の製造方法。
【請求項7】
前記レーザ光が、固体レーザ、ファイバーレーザ、半導体レーザもしくはガスレーザより得られる、波長が200nm以上1.1μm以下の範囲のレーザ光であることを特徴とする請求項6記載の銅端子材の製造方法。」

2.本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の特許請求の範囲の記載は、令和2年10月26日に手続補正した特許請求の範囲の記載によって特定される次のとおりである。

「【請求項1】
銅または銅合金からなる基材上に厚さ0.1μm以上10.0μm以下の拡散防止層が形成されるとともに、該拡散防止層の少なくとも一部に、平均結晶粒径が0.3μm以上とされた粒径調整部が形成され、該粒径調整部以外の領域における前記拡散防止層の平均結晶粒径は0.3μm未満とされており、前記基材のうち、前記粒径調整部に接する部分に、該粒径調整部との境界面から1μm以上50μm以下の厚さの範囲で前記拡散防止層中の金属の含有率が1.0質量%以上となる変質層が形成されていることを特徴とする銅端子材。
【請求項2】
前記拡散防止層が、ニッケル、ニッケル合金、コバルト、コバルト合金のいずれかからなる1層以上の金属層によって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の銅端子材。
【請求項3】
前記拡散防止層における前記粒径調整部の上に、金、金合金、銀、銀合金、パラジウム、パラジウム合金、白金、白金合金、ロジウム、ロジウム合金のいずれか1層以上からなる厚さ0.1μm以上5.0μm以下の貴金属層が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の銅端子材。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の銅端子材を製造する方法であって、前記基材の表面に金属被覆層を形成した後、該金属被覆層の表面の少なくとも一部にレーザ光を照射することにより、前記金属被覆層を、前記レーザ光が照射された部分が前記粒径調整部とされた前記拡散防止層とするとともに、前記粒径調整部に接する部分の前記基材に前記変質層を形成することを特徴とする銅端子材の製造方法。
【請求項5】
前記レーザ光が、固体レーザ、ファイバーレーザ、半導体レーザもしくはガスレーザより得られる、波長が400nm以上11μm以下の範囲のレーザ光であることを特徴とする請求項4記載の銅端子材の製造方法。
【請求項6】
請求項3記載の銅端子材を製造する方法であって、前記基材の表面に金属被覆層を形成した後、該金属被覆層の表面の少なくとも一部に前記貴金属層を形成し、該貴金属層の表面にレーザ光を照射することにより、前記金属被覆層を、前記レーザ光が照射された部分が前記粒径調整部とされた前記拡散防止層とするとともに、前記粒径調整部に接する部分の前記基材に前記変質層を形成することを特徴とする銅端子材の製造方法。
【請求項7】
前記レーザ光が、固体レーザ、ファイバーレーザ、半導体レーザもしくはガスレーザより得られる、波長が200nm以上1.1μm以下の範囲のレーザ光であることを特徴とする請求項6記載の銅端子材の製造方法。」

3.本件補正の適否
(1)補正事項1
本件補正前の請求項1の「該拡散防止層の少なくとも一部に、平均結晶粒径が0.3μm以上とされた粒径調整部が形成され」を「該拡散防止層の一部に、平均結晶粒径が0.3μm以上とされた粒径調整部が形成され」とする補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「粒径調整部」が形成される箇所について、上記のとおり限定するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、上記補正事項は、願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)の段落【0021】及び【図1】に記載されているから、上記補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであって、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

(2)補正事項2
本件補正前の請求項4の「該金属被覆層の表面の少なくとも一部にレーザ光を照射する」を「該金属被覆層の表面の一部にレーザ光を照射する」とする補正は、本件補正前の請求項4に記載された発明を特定するために必要な事項である「レーザ光を照射する」ことのレーザ光を照射する範囲について、上記のとおり限定するものであって、本件補正前の請求項4に記載された発明と本件補正後の請求項4に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、上記補正事項は、当初明細書の段落【0026】及び【図3】に記載されているから、上記補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであって、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

(3)補正事項3
本件補正前の請求項6の「該金属被覆層の表面の少なくとも一部に前記貴金属層を形成し」を「該金属被覆層の表面の一部に前記貴金属層を形成し」とする補正は、本件補正前の請求項6に記載された発明を特定するために必要な事項である「前記貴金属層を形成」することの貴金属層を形成する範囲について、上記のとおり限定するものであって、本件補正前の請求項6に記載された発明と本件補正後の請求項6に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、上記補正事項は、当初明細書の段落【0030】及び【図6】に記載されているから、上記補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであって、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

そして、本件補正前の請求項1?7と、本件補正後の請求項1?7に係る発明とは、特許法第17条の2第4項に規定する一群の発明に該当する。

上記のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項?第5項に規定する要件を満たすものである。

そして、補正後の請求項1?7に係る発明は、同法同条第6項で準用する同法第126条第7項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないので、以下、検討する。

4.独立特許要件について
(1)本願発明1?7について
本願の請求項1?7に係る発明(以下、「本願発明1」?「本願発明7」という。)は、令和3年1月26日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される、上記1.のとおりである。

(2)引用文献に記載された事項及び引用発明
ア 引用文献1に記載された事項及び引用発明について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は当審において付与した。以下同様。)。

(ア)「【0001】
本発明は、貴金属被覆材およびその製造方法に関する。特に、電気接点用の貴金属被覆材およびその製造方法に関する。」

(イ)「【0011】
本発明の上記課題は以下の手段により解決される。
(1)導電性金属基体上の最表面に貴金属層が設けられた電気接点用貴金属被覆材であって、導電性金属基体と前記貴金属層との間に1層以上の下地層が形成されており、前記下地層の平均結晶粒径が0.3μm以上であることを特徴とする電気接点用貴金属被覆材。
(2)前記導電性金属基体が、銅または銅合金、鉄または鉄合金、あるいはアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる、(1)に記載の電気接点用貴金属被覆材。
(3)前記下地層が、ニッケル、ニッケル合金、コバルト、コバルト合金、亜鉛、亜鉛合金、銅、銅合金のうちいずれか1層以上からなる、(1)または(2)に記載の電気接点用貴金属被覆材。
(4)前記貴金属層が、金、金合金、銀、銀合金、白金、白金合金、パラジウム、パラジウム合金、ロジウム、ロジウム合金、ルテニウム、ルテニウム合金、イリジウム、イリジウム合金、オスミウム、オスミウム合金のうち、いずれか1層以上からなる、(1)?(3)のいずれか1項に記載の電気接点用貴金属被覆材。
(5)(1)?(4)のいずれか1項に記載の貴金属被覆材を製造する方法であって、電気めっき法にて導電性金属基体上に下地層を形成する際、添加剤中の化合物の硫黄、炭素、窒素、塩素の元素濃度を合計で1000ppm以下とすることを特徴とする、貴金属被覆材料の製造方法。
(6)前記下地層を形成する電気めっきの電流密度を10A/dm^(2)未満とする、(5)に貴金属被覆材料の製造方法。
(7)前記下地層を形成した後、50?150℃で0.08?3時間の熱処理を行う、或いは、加工率10%以上で圧延加工する、(5)または(6)に記載の貴金属被覆材料の製造方法。
(8)前記下地層を形成する電気めっきの電流密度を10A/dm^(2)以上とし、
前記下地層を形成した後、50?150℃で0.08?3時間の熱処理を行う、或いは、加工率10%以上で圧延加工する、(5)に記載の貴金属被覆材料の製造方法。」

(ウ)「【0014】
(電気接点用貴金属被覆材)
<導電性金属基体>
本発明に用いる導電性基体成分としては、銅または銅合金、鉄または鉄合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金等が好ましく、中でも導電率の良い銅または銅合金が好ましい。例えば銅合金の一例として、CDA(Copper Development Association)掲載合金である「C14410(Cu-0.15Sn、古河電気工業(株)製、商品名:EFTEC-3)」、「C19400(Cu-Fe系合金材料、Cu-2.3Fe-0.03P-0.15Zn)」、および「C18045(Cu-0.3Cr-0.25Sn-0.5Zn、古河電気工業(株)製、商品名:EFTEC-64T)」等を用いることができる。(なお、前記銅合金の各元素の前の数字の単位は銅合金中の質量%を示す。)。これら基体はそれぞれ導電率や強度が異なるため、適宜要求特性により選定されて使用されるが、導電性や放熱性を向上させるという観点からは、導電率が5%IACS以上の銅合金の条材とすることが好ましい。なお、銅または銅合金を金属基体として取り扱う時での本発明の「基体成分」とは、合金の場合は、基金属である銅のことを示すものとする(以下他の合金の場合も同様である)。また、鉄もしくは鉄合金としては、例えば、42アロイ(Fe-42質量%Ni)やステンレスなどが用いられる。このときの基体成分とは、鉄を示すものとする。基体の厚さには特に制限はないが、通常、0.05?2.00mmであり、好ましくは、0.1?1.0mmである。
【0015】
<下地層>
本発明における下地層を構成する金属は、所定の厚さで基体成分の拡散を防止でき、耐熱性を付与するものであれば特に制限はない。しかし、安価で被覆の容易なニッケル、ニッケル合金、コバルト、コバルト合金、亜鉛、亜鉛合金、銅、銅合金のうちいずれかからなることが好ましい。これらの金属からなる下地層は、密着性向上および基体成分の拡散防止に効果的である。下地層は1層以上形成されていればよく、例えば銅層形成後にニッケル層を形成したり、さらにニッケル層形成後にコバルト層を形成したりするなど、2層以上で形成されていても良い。ただし、生産性やコストを考慮すると、3層以内とするのが望ましい。なお、銅を下地層として採用する際は、銅下地層と貴金属からなる最表層の間に、別の層を形成することが好ましい。これは、基体が銅または銅合金の際の銅成分の拡散防止を目的としているため、銅が貴金属層と直接接することは避ける必要があるためである。
【0016】
本発明における下地層の金属の平均結晶粒径は0.3μm以上とする。この結晶粒径は、電気接点用貴金属被覆材の平面に対して垂直な断面を観察することで測定する。耐熱性の効果は、下地層の平均結晶粒径が0.3μm以上であれば効果的であるが、さらに0.5μm以上がより好ましく、0.8μm以上が最も好ましい。上限についての制限はなく、平面に渡って結晶粒界の見られない、ほぼ単結晶状態が最も理想形態となる。このような平均結晶粒径を有する下地層が設けられた貴金属被覆材では、導電性金属基体の成分の拡散を抑制することができ、貴金属層の劣化防止に寄与する。
【0017】
さらに本発明において、下地層の厚さは特に限定しないが、例えば下地層が厚さ0.001?5.000μmで形成されていることで、密着性及び耐熱性をより効果的に改善できる。下地層は、厚みが厚くなると曲げ加工性が悪化する傾向にあるので、1層以上の下地層の合計厚さが、最大でも5.000μmまで、好ましくは3.000μm以下、さらに好ましくは1.000μm以下で形成することが好ましい。本発明品は従来品(下地層の平均結晶粒径が0.3μmより小径である場合)に比べ、下地層の結晶一つ一つの弾性域が広がるので、曲げ加工性は良好になる。よって、従来品と同じ被覆厚である場合は曲げ加工性が優れる。厚さの下限値は、耐熱性改善効果を考慮し、0.001μm以上とする。従来の下地層厚は0.200?2.000μm程度が必要であったが、本発明では、下地層の平均結晶粒径の粗大化があるため、下地層中の結晶粒界が従来より少なく、基材成分の貴金属層への拡散が低減することができる。よって、下地層の厚さを一層薄くできる。下地層の厚さは、好ましくは0.010?1.000μmである。この厚さであっても、基体成分の拡散が従来品と同等以上に防止できる。この下地層は、スパッタ法や蒸着法、湿式めっき法などで常法により形成することもできるが、平均結晶粒径や厚さの制御の容易性や生産性を考慮すれば、特に湿式めっき法を利用するのが好ましく、さらに電気めっき法であることがより好ましい。」

(エ)「【0022】
(貴金属被覆材の製造方法)
<下地層の粒径制御1>
本発明者らは、下地層の平均結晶粒径は、添加剤中の硫黄・炭素・窒素・塩素成分のうちいずれか1種類以上を含有する化合物の濃度によって左右されやすいということを見出した。添加剤が含有されためっき液では析出が微細になるため、これらの成分を極力排除(添加剤中の化合物の硫黄・炭素・窒素・塩素の元素濃度として1000ppm以下)することが重要である。よって、添加剤中の化合物の硫黄・炭素・窒素・塩素の元素濃度が合計で1000ppm以下であるめっき液を使用することで、下地層の形成時点で下地層の平均結晶粒径を0.3μm以上とすることに成功した。このように、硫黄・炭素・窒素・塩素の元素濃度を1000ppm以下にすることで、下地層の平均結晶粒径を0.3μm以上に制御でき、熱処理無しでも拡散防止能力に優れた下地を得ることができる。」

(オ)「【0027】
<下地層の粒径制御2>
本発明によれば、下地層形成直後や下地層および貴金属層形成後に減面加工を行うことで、下地層に再結晶駆動力を導入して再結晶化しやすくすることができる。この場合の減面加工は、冷間圧延加工やプレス加工等の塑性加工で行うことが好ましい。(ここで、冷間圧延加工とプレス加工を併せて圧延加工等と略記する。)この場合、圧延加工等の塑性加工時の加工率(または減面率)が、10%以上、好ましくは30%以上、さらに好ましくは35%以上であることが好ましい。加工率が高いほど下地層に塑性加工が施されるため、塑性変形による欠陥エネルギーが蓄えられるので、これを解放することにより再結晶化が促進される。なお、再結晶は常温でも進行することがあるため、プレス加工後に必ずしも熱処理を必要とするものではない。ただし、加工率が高すぎると下地層に大きな亀裂が進展し、基体と最表層が接してしまい、逆に拡散が進行しやすくなる。なお、圧延加工等の加工率は、80%を超えると加工時の割れやクラックが生じやすくなることや、エネルギー負荷(圧延やプレスに必要な電力など)も増加するため、80%以下、好ましくは70%以下、さらに好ましくは60%以下であることが好ましい。」

(カ)「【0032】
<下地層の粒径制御3>
本発明によれば、下地層の平均結晶粒径の粗大化を促進するために、下地層のめっき後に熱処理を行っても良い。バッチ型あるいは走間型などの手法によって熱処理(調質又は低温焼鈍ともいう)を施すことで、調質するとともに、下地層を再結晶化させることができる。ただし、基体の拡散を進めない程度の熱処理に留める必要がある。このような熱処理の条件は、上記の下地層の平均結晶粒径を0.3μm以上とするように定められる。熱処理の温度は、好ましくは50?150℃、より好ましくは50?100℃である。熱処理の時間は、好ましくは0.08?3時間、より好ましくは0.25?1時間である。この熱処理の温度が高すぎたり時間が長すぎたりすると熱履歴が過剰となり、基体の拡散が進行して接触抵抗を増大させてしまう。上記の熱処理の条件により、目的の下地層の再結晶化を促進することができる。
【0033】
以上述べてきたように、下地層の粒径制御1?3の製造方法によれば、めっき後の下地層の平均結晶粒径を0.3μm以上に制御できる。その結果、被覆厚が薄くても、また下地層に高価な貴金属を使用しなくても、耐熱性に優れた下地層を形成でき、長期に渡って接続信頼性の高い貴金属被覆材料を提供できるものである。」

(キ)「【0037】
(貴金属被覆材の用途)
本発明にて得られた貴金属被覆材料は、特に耐熱性に優れるので、結果的に各製造工程での熱履歴経過後の表層汚染が少なく、かつ長期信頼性に優れる。このため、コネクタ、摺動接点、タクトスイッチ、シートスイッチ、摺動接点などの電気的接続を必要とする電気接点に適用することで、長期信頼性に優れた電気接点材料として活用することができる。また、表層の基体成分の拡散が抑制されるため、例えばIC用リードフレームやQFN用リードフレームなどの半導体装置向けリードフレームや、LED、フォトカプラ・フォトインタラプタ用リードフレームなど、ワイヤボンディング性や半田濡れ性、さらには輝度劣化防止が望まれる光半導体装置用リードフレームにも好適に使用することができる。」

(ク)「【0047】
表1の結果より以下のことが明らかである。
比較例1では下地層の平均結晶粒径が0.3μm未満であるので、高温下での接触抵抗が時間の経過によって大きく上昇し、最表層中への基体成分の拡散量が著しく多い。従来例1においても下地層の平均結晶粒径が0.3μmに達せず、接触抵抗が高温下、時間の経過によって大きく上昇し、最表層中への基体成分の拡散量が多い。従来例2において従来例1と同様、接触抵抗が高温下、時間の経過によって大きく上昇した。また最表層中への基体成分の拡散量が著しく多く、加えて、曲げ加工性試験において割れが生じ実用性がない。」

摘記事項(ア)?(キ)から、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「銅または銅合金からなる導電性金属基体に厚さ0.001?5.000μmの下地層が形成され、下地層の金属の平均結晶粒径は0.3μm以上とする、貴金属被覆材料からなる電気接点。」

(3)対比・判断
ア 本願発明1について
(ア)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「銅または銅合金からなる導電性金属基体」は、本願発明1の「銅または銅合金からなる基材」に相当する。
4.(2)アの摘記事項(ウ)に示すとおり、引用文献1の段落【0015】に「これらの金属からなる下地層は、密着性向上および基体成分の拡散防止に効果的である。」と記載されているから、引用発明の「下地層」は、本願発明1の「拡散防止層」に相当する。
引用発明の「下地層の金属の平均結晶粒径は0.3μm以上とする」ことは、「拡散防止層の平均結晶粒径が0.3μm以上とされ」ているという限りにおいて、本願発明1の「該拡散防止層の一部に、平均結晶粒径が0.3μm以上とされた粒径調整部が形成され」ていることに一致する。
引用発明の「貴金属被覆材料からなる電気接点」は、「銅または銅合金からなる導電性金属基体」を有しているから、本願発明1の「銅端子材」に相当する。
以上のことから、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

【一致点】
「銅または銅合金からなる基材上に拡散防止層が形成されるとともに、該拡散防止層の平均結晶粒径が0.3μm以上とされている銅端子材。」

【相違点1】
本願発明1では、「拡散防止層」が「厚さ0.1μm以上10.0μm以下」であるのに対し、引用発明では、「下地層」が「厚さ0.001?5.000μm」である点。

【相違点2】
本願発明1では、「該拡散防止層の一部に、平均結晶粒径が0.3μm以上とされた粒径調整部が形成され、該粒径調整部以外の領域における前記拡散防止層の平均結晶粒径は0.3μm未満とされて」いるのに対し、引用発明では、「下地層の金属の平均結晶粒径は0.3μm以上とする」点。

【相違点3】
本願発明1では、「前記基材のうち、前記粒径調整部に接する部分に、該粒径調整部との境界面から1μm以上50μm以下の厚さの範囲で前記拡散防止層中の金属の含有率が1.0質量%以上となる変質層が形成されている」のに対し、引用発明では、かかる構成が特定されていない。

(イ)判断
事案に鑑み、上記相違点2について検討する。
4.(2)アの摘記事項(エ)?(カ)のとおり、引用文献1には、引用発明の下地層の金属の平均結晶粒径を0.3μm以上に制御する粒径制御1?3の製造方法が記載されているが、あえて下地層の特定の範囲の結晶粒径を制御する旨の記載も示唆も無いことを鑑みれば、上記粒径制御1?3の製造方法は、下地層全体に対して略均一に施されるものと認められる。
また、4.(2)アの摘記事項(ク)のとおり、引用文献1には、下地層の金属の平均結晶粒径が0.3μm未満であると、高温下での接触抵抗が時間の経過によって大きく上昇し、最表層中への基体成分の拡散量が著しく多く、曲げ加工性試験において割れが生じ実用性がないことが記載されている。
してみると、引用発明において、粒径制御1?3の製造方法で平均結晶粒径が制御された下地層は、全域にわたって0.3μm以上の平均結晶粒径を有しているものといえる。
そして、引用文献1には、下地層の一部の平均結晶粒径を0.3μm以上とし、その他の部分を0.3μm未満とすることを示唆する記載はない。

してみると、引用発明において、下地層の一部の平均結晶粒径を0.3μm以上とし、それ以外の領域における下地層の平均結晶粒径を0.3μm未満とすることの動機付けはないし、下地層の平均結晶粒径を0.3μm未満とすることに阻害要因も存在するというべきである。

よって、引用発明において、上記相違点2に係る本願発明1の構成とすることは、当業者といえども容易に想到し得たことではない。

したがって、相違点1及び3について論じるまでもなく、本願発明1は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本願発明2?7について
本願発明2?7は、本願発明1を限定するものであって、本願発明1の「該拡散防止層の一部に、平均結晶粒径が0.3μm以上とされた粒径調整部が形成され、該粒径調整部以外の領域における前記拡散防止層の平均結晶粒径は0.3μm未満とされて」いる点と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

5.小括
以上のとおりであるから、本願発明1?7は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明ではなく、その他の拒絶理由も発見できないから、特許出願の際独立して特許を受けることができる発明であるので、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に適合する。


第4 原査定について
本件補正により、本願発明1?7は、「該拡散防止層の一部に、平均結晶粒径が0.3μm以上とされた粒径調整部が形成され、該粒径調整部以外の領域における前記拡散防止層の平均結晶粒径は0.3μm未満とされて」いるという発明特定事項を備えるものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1に記載された発明に基いて、容易に発明をすることができたものとはいえない。

したがって、原査定の理由を維持することはできない。


第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-08-18 
出願番号 特願2017-22393(P2017-22393)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山下 寿信  
特許庁審判長 間中 耕治
特許庁審判官 中村 大輔
尾崎 和寛
発明の名称 銅端子材及びその製造方法  
代理人 青山 正和  
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