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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01F
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01F
管理番号 1377233
審判番号 不服2020-13199  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-09-23 
確定日 2021-09-07 
事件の表示 特願2018-106182「電子部品」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年12月12日出願公開、特開2019-212709、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年6月1日の出願であって、その手続きの経緯は以下のとおりである。

令和 1年11月15日付け:拒絶理由通知
令和 2年 1月27日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 6月19日付け:拒絶査定
令和 2年 9月23日 :審判請求書の提出
令和 3年 3月30日付け:拒絶理由通知(当審)
令和 3年 6月 7日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明5」という。)は、令和3年6月7日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される、次のとおりの発明である(なお、下線部は補正箇所を示す。)。

「 【請求項1】
積層状に一体化された複数の積層基板を有し、前記積層基板の外面及び前記積層基板同士の間を各層として複数に層をなす配線パターンを用いて1次側及び2次側の各回路が形成された回路基板と、
前記回路基板に取り付けられて前記1次側の回路と前記2次側の回路との間の磁気結合をなす磁性体コアと、
前記磁性体コアの周囲に渦状に形成された前記配線パターンにより前記各回路の一部をなす1次側及び2次側の各巻線と、
前記回路基板内で前記1次側の巻線の層と前記2次側の巻線の層との間に介挿された前記積層基板同士の間の内層として配置され、前記各巻線と層方向に重なる領域内には前記配線パターンを有しない絶縁層と
を備えた電子部品。
【請求項2】
複数に層をなす配線パターンを用いて1次側及び2次側の各回路が形成された回路基板と、
前記回路基板に取り付けられて前記1次側の回路と前記2次側の回路との間の磁気結合をなす磁性体コアと、
前記磁性体コアの周囲に渦状に形成された前記配線パターンにより前記各回路の一部をなす1次側及び2次側の各巻線とを備え、
前記回路基板は、
層内で前記1次側の巻線となる前記配線パターンの両端をいずれも前記2次側の巻線と層方向に重なる領域外で他の層の前記配線パターンと接続するビアホールが形成されるとともに、層内で前記2次側の巻線となる前記配線パターンの両端をいずれも前記1次側の巻線と層方向に重なる領域外で他の層の前記配線パターンと接続するビアホールが形成されていることを特徴とする電子部品。
【請求項3】
積層状に一体化された複数の積層基板を有し、前記積層基板の外面及び前記積層基板同士の間を層として複数に層をなす配線パターンを用いて1次側及び2次側の各回路が形成された回路基板と、
前記回路基板に取り付けられて前記1次側の回路と前記2次側の回路との間の磁気結合をなす磁性体コアと、
前記磁性体コアの周囲に渦状に形成された前記配線パターンにより前記各回路の一部をなす1次側及び2次側の各巻線と、
前記回路基板内で前記1次側の巻線の層と前記2次側の巻線の層との間に介挿された前記積層基板同士の間の内層として配置され、前記各巻線と層方向に重なる領域内には前記配線パターンを有しない絶縁層とを備え、
前記回路基板は、
層内で前記1次側の巻線となる前記配線パターンの両端をいずれも前記2次側の巻線と層方向に重なる領域外で他の層の前記配線パターンと接続するビアホールが形成されるとともに、層内で前記2次側の巻線となる前記配線パターンの両端をいずれも前記1次側の巻線と層方向に重なる領域外で他の層の前記配線パターンと接続するビアホールが形成されていることを特徴とする電子部品。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の電子部品において、
前記1次側及び2次側の各巻線は、
前記回路基板内の層方向で互いの巻線領域が重なり合いつつ、互いに一方の両端位置が他方の巻線領域と層方向に重ならない位置に形成されていることを特徴とする電子部品。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の電子部品において、
前記1次側及び前記2次側の各巻線は、前記回路基板の外面以外の内層のみに前記配線パターンとして形成されていることを特徴とする電子部品。」

第3 当審の拒絶の理由について

1 当審拒絶理由の概要
当審において令和3年3月30日付けで通知した拒絶理由の概要は、次のとおりである。

理由1.(進歩性)本件出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内において、頒布された下記引用文献1に記載された発明及び下記引用文献2又は引用文献3に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
理由2.(明確性)本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備なため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

記(引用文献については引用文献一覧参照)
●理由1(進歩性)について
請求項:1
引用文献:1、2 又は 1,3

●理由2(明確性)について
請求項:1、5
請求項1に、「前記回路基板内で前記1次側の巻線の層と前記2次側の巻線の層との間に介挿して配置され、前記各巻線と層方向に重なる領域内には前記配線パターンを有しない絶縁層」と記載されている。
ここで、上記「絶縁層」に関し、本願明細書段落【0008】に「したがって、回路基板内で1次側の巻線の層と2次側の巻線の層との間には、それぞれの配線パターンを担持する積層基板(シート)が介在することによる基本的な絶縁距離に加え、「絶縁層」という別の積層基板(各巻線の領域内がブランク状のシート)がさらに介在することによる追加的・付加的な絶縁距離が確保される。」と記載されている一方、同段落【0039】に「(1)図6中(C):第2層L2と第4層L4との間に絶縁層としての第3層L3が介挿されており、第3層L3には、2次側巻線122b及び1次側巻線120bと層方向に重なる領域内にいずれの配線パターンも形成されていない。」と記載されるとともに、図5には、第2層L2、第3層L3、第4層L4が、隣接した積層基板(シート基板)の間の間隙を指し示すように記入されていることから、請求項1に記載された「絶縁層」とは、どの様なものを意味しているのか明確でなく、請求項1に係る発明が不明確である。
また、請求項1を引用する請求項5も同様である。
よって、請求項1及び請求項5に係る発明は明確でない。

<引用文献等一覧>
1.特開2005-102485号公報
2.特開2008-166625号公報
3.特開2004-112991号公報

2 当審拒絶理由についての判断

2-1 理由1(特許法第29条第2項)について
(1)引用文献及び引用発明について
ア 引用文献1
当審の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2005-102485号公報)には、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。

「【0002】
従来から、パーソナルコンピュータ等の電子機器に搭載されている電源装置には、スイッチング電源装置が用いられている。このスイッチング電源装置は直流安定化電源の一種であり、商用電源又は蓄電池等の電源から得た直流をトランジスタ等の半導体デバイスの高速スイッチング作用によって可聴周波数以上(数百kHz程度)のパルス電圧に変換し、そのパルス電圧のパルス幅及びパルス間隔を制御することによって、一定の電圧の直流を出力するように構成されている。このように構成されたスイッチング電源装置は、負荷の消費電力の変動に関わらず出力電圧が常に一定であると共に、比較的小型でかつ軽量であり、更に高効率を特徴としているため、特に中央演算処理装置(以下、CPU)を搭載する様々な情報機器や通信機器において、従来から好適に用いられている。
(中略)
【0006】
しかしながら、従来のスイッチング電源装置1000では、スイッチング電源装置1000を構成するためのトランスT、スイッチング素子Q1及びQ2、整流素子D1及びD2、コンデンサC1及びスイッチング制御回路U1等が、一枚のプリント基板P上に二次元状に配設される構成が採られている。そのため、上記の如く大電流の高周波スイッチング電流等を効率良く伝搬させるために必要十分な線幅の配線をプリント基板Pに形成する場合には、特にスイッチング素子Q1及びQ2、トランスT、ダイオードD1及びD2、及びコンデンサC1等が配設される領域における電子部品等の二次元的な実装密度が低下するので、その実装密度の低下に応じてプリント基板Pを大型化する必要がある。又、従来のスイッチング電源装置1000では大きさの異なる電子部品等が混在するように配設されているため、プリント基板Pの上部には使用しない空間領域が発生する。つまり、従来のスイッチング電源装置1000の構成では、低電圧大電流の直流を出力し得る高効率のスイッチング電源装置を小型化することが非常に困難であるという問題が発生する。
(中略)
【0040】
図1及び図2に示すように、本実施の形態におけるスイッチング電源装置100では、接続端子4a?4dを有する多層プリント基板2と、インダクタンス13と、出力平滑コンデンサ7と、制御回路17とが、接続端子5a?5dを有するメインプリント基板1上の所定の位置に配置され、構成されている。
【0041】
多層プリント基板2は、エポキシ樹脂やポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂とガラスクロスと配線とにより構成されている。そして、この多層プリント基板2の構成要素である図示されない配線は、多層プリント基板2に配設される複数の半導体素子等を所定の回路を形成するように電気的に接続するための複数の配線と、後述するトランス9を構成するためのトランス用一次巻線9aとトランス用二次巻線9bとで構成されている。以下、トランス9を構成するための前記トランス用一次巻線9aとトランス用二次巻線9bとについて説明する。
【0042】
図1及び図2に示すように、多層プリント基板2は、一次側インバータ領域aと、トランス巻線領域bと、二次側整流領域cとの三つの領域に区分される。そして、前記トランス用一次巻線9aとトランス用二次巻線9bとは多層プリント基板2のトランス巻線領域bの内部に形成されており、多層プリント基板2の各層に形成された渦巻き状の配線が電気絶縁部材14を介して相互に積層され、更にスルーホール11又は12によって立体的かつ電気的に接続されることによって構成されている。ここで、図3を用いて、トランス9の内部構造について更に詳細に説明する。図3(a)及び図3(b)に示すように、多層プリント基板2におけるトランス巻線領域bの所定の位置には、所定の形状の貫通孔16が形成されている。又、フェライト等の材料で構成されるトランス用コア9cが、前記貫通孔16の内部に前記トランス用コア9cの中足部9dが嵌入されるようにして、多層プリント基板2を取り囲むように配設されている。中足部9dは、ここでは矩形の短辺が円弧で構成された断面形状を有している。尚、中足部9dの断面形状は前記断面形状に限定されることはなく、例えば、円形、矩形、又は楕円形等の形状を有していても良い。一方、多層プリント基板2の前記貫通孔16の外周部には、前記の如く形成されたトランス用一次巻線9a及びトランス用二次巻線9bが配設されている。このトランス用一次巻線9a及びトランス用二次巻線9bは、貫通孔16の周囲において各々渦巻き状に配設されている。又、トランス用一次巻線9a及びトランス用二次巻線9bの各々の末端部、即ち、トランス用一次巻線9aと能動素子又は受動素子等とのここでは図示されない接続部(以下、第一接続部)と、トランス用二次巻線9bと能動素子又は受動素子等とのここでは図示されない接続部(以下、第二接続部)とは、中足部9dを介して隔離されるような配置関係となるよう位置している。そして、これらのトランス用一次巻線9a及びトランス用二次巻線9bは、トランス用コア9cの中足部9dによって磁気的に結合されている。つまり、トランス9のトランス用二次巻線9bの第二接続部には、トランス9のトランス用一次巻線9aの第一接続部に印加される電圧に応じた交流が発生することになる。以上、多層プリント基板2に構成されるトランス9は、トランス用コア9cと、トランス用一次巻線9a及びトランス用二次巻線9bと、スルーホール11及び12等とが上記のように配設され、第一接続部と第二接続部とが前記配置関係となる重要な特徴点を有して構成されている。
【0043】
一方、図1及び図2に示すように、多層プリント基板2の第一主面2a及び第二主面2bの一次側インバータ領域aには、MOSFET8a及び8b、及び入力平滑コンデンサ6a及び6bが実装されている。これらのMOSFET8a及び8b、及び入力平滑コンデンサ6a及び6bは、一次側インバータ領域aにおいて、トランス用一次巻線9aから引き出された特に図示されない接続端子の近傍に配設されている。又、多層プリント基板2の第一主面2a及び第二主面2bの二次側整流領域cには、第一のダイオード10aと第二のダイオード10bとが実装されている。これらのダイオード10a及び10bは、二次側整流領域cにおいて、トランス用二次巻線9bから引き出された特に図示されない接続端子の近傍に配設されている。そして、入力平滑コンデンサ6a及び6bと、MOSFET8a及び8bと、トランス9のトランス用一次巻線9aとが多層プリント基板2に形成された特に図示されない複数の配線によって所定の回路を構成するよう電気的に接続されることによって、インバータ回路が形成されている。又、第一のダイオード10aと、第二のダイオード10bと、トランス9のトランス用二次巻線9bとが多層プリント基板2に形成された特に図示されない複数の配線によって所定の回路を構成するよう電気的に接続されることによって、整流回路が構成されている。尚、接続端子4a及び4bは入力平滑コンデンサ6a及び6bの両端に直流を印加するための、メインプリント基板1と多層プリント基板2との接続端子である。又、接続端子4c及び4dは、後述する平滑回路に直流を印加するための、メインプリント基板1と多層プリント基板2との接続端子である。そして、多層プリント基板2にトランス9が形成され、更に上記の如く能動素子及び受動素子及び接続端子4a?4dが配設されることによって、パワーモジュール18が構成されている。」

図1




図2





図3




引用文献1の上記記載から以下のことがいえる。

(ア)段落【0040】によれば、引用文献1には、スイッチング電源装置100が記載されており、段落【0002】によれば、スイッチング電源装置は、電源から得た直流をパルス電圧に変換し、そのパルス電圧のパルス幅及びパルス間隔を制御することによって、一定の電圧の直流を出力するものである。

(イ)段落【0040】、【0041】、【0042】によれば、スイッチング電源100は、多層プリント基板2を有し、多層プリント基板2は、エポキシ樹脂やポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂とガラスクロスと配線とにより構成され、一次側インバータ領域aと、トランス巻線領域bと、二次側整流領域cとの三つの領域に区分される。
そして、多層プリント基板2の構成要素である配線は、多層プリント基板2に配設される複数の半導体素子等を所定の回路を形成するように電気的に接続するための複数の配線と、トランス9を構成するためのトランス用一次巻線9aとトランス用二次巻線9bとで構成されている。

(ウ)段落【0042】によれば、トランス用一次巻線9aとトランス用二次巻線9bとは多層プリント基板2のトランス巻線領域bの内部に形成され、多層プリント基板2の各層に形成された渦巻き状の配線が電気絶縁部材14を介して相互に積層され、更にスルーホール11又は12によって立体的かつ電気的に接続されることによって構成され、トランス巻線領域bの所定の位置には、所定の形状の貫通孔16が形成され、フェライト等の材料で構成されるトランス用コア9cが、前記貫通孔16の内部に前記トランス用コア9cの中足部9dが嵌入されるようにして、多層プリント基板2を取り囲むように配設され、トランス用一次巻線9a及びトランス用二次巻線9bは、貫通孔16の周囲において各々渦巻き状に配設され、トランス用一次巻線9a及びトランス用二次巻線9bは、トランス用コア9cの中足部9dによって磁気的に結合されている。
また、図1ないし図3によれば、スルーホール11は多層プリント基板2の一次側インバータ領域aに形成され、スルーホール12は多層プリント基板2の二次側整流領域に形成されていることが見て取れる。

(エ)段落【0043】によれば、多層プリント基板2の第一主面2a及び第二主面2bの一次側インバータ領域aには、MOSFET8a及び8b、及び入力平滑コンデンサ6a及び6bが実装され、MOSFET8a及び8b、及び入力平滑コンデンサ6a及び6bは、一次側インバータ領域aにおいて、トランス用一次巻線9aから引き出された接続端子の近傍に配設され、入力平滑コンデンサ6a及び6bと、MOSFET8a及び8bと、トランス9のトランス用一次巻線9aとが多層プリント基板2に形成された複数の配線によって所定の回路を構成するよう電気的に接続されることによって、インバータ回路が形成されている。
また、段落【0043】によれば、多層プリント基板2の第一主面2a及び第二主面2bの二次側整流領域cには、第一のダイオード10aと第二のダイオード10bとが実装され、ダイオード10a及び10bは、二次側整流領域cにおいて、トランス用二次巻線9bから引き出された接続端子の近傍に配設され、第一のダイオード10aと、第二のダイオード10bと、トランス9のトランス用二次巻線9bとが多層プリント基板2に形成された複数の配線によって所定の回路を構成するよう電気的に接続されることによって、整流回路が構成されている。

上記(ア)ないし(エ)によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「電源から得た直流をパルス電圧に変換し、そのパルス電圧のパルス幅及びパルス間隔を制御することによって、一定の電圧の直流を出力するスイッチング電源装置100において、
エポキシ樹脂やポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂とガラスクロスと配線とにより構成され、一次側インバータ領域aと、トランス巻線領域bと、二次側整流領域cとの三つの領域に区分される多層プリント基板2を有し、多層プリント基板2の構成要素である配線は、多層プリント基板2に配設される複数の半導体素子等を所定の回路を形成するように電気的に接続するための複数の配線と、トランス9を構成するためのトランス用一次巻線9aとトランス用二次巻線9bとで構成され、
トランス用一次巻線9aとトランス用二次巻線9bとは多層プリント基板2のトランス巻線領域bの内部に形成され、多層プリント基板2の各層に形成された渦巻き状の配線が電気絶縁部材14を介して相互に積層され、更にスルーホール11又は12によって立体的かつ電気的に接続されることによって構成され、
トランス巻線領域bの所定の位置には、所定の形状の貫通孔16が形成され、フェライト等の材料で構成されるトランス用コア9cが、前記貫通孔16の内部に前記トランス用コア9cの中足部9dが嵌入されるようにして、多層プリント基板2を取り囲むように配設され、トランス用一次巻線9a及びトランス用二次巻線9bは、貫通孔16の周囲において各々渦巻き状に配設され、
トランス用一次巻線9a及びトランス用二次巻線9bは、トランス用コア9cの中足部9dによって磁気的に結合され、
スルーホール11は多層プリント基板2の一次側インバータ領域aに形成され、スルーホール12は多層プリント基板2の二次側整流領域に形成され、
多層プリント基板2の第一主面2a及び第二主面2bの一次側インバータ領域aには、MOSFET8a及び8b、及び入力平滑コンデンサ6a及び6bが実装され、MOSFET8a及び8b、及び入力平滑コンデンサ6a及び6bは、一次側インバータ領域aにおいて、トランス用一次巻線9aから引き出された接続端子の近傍に配設され、入力平滑コンデンサ6a及び6bと、MOSFET8a及び8bと、トランス9のトランス用一次巻線9aとが多層プリント基板2に形成された複数の配線によって所定の回路を構成するよう電気的に接続されることによって、インバータ回路が形成され、
多層プリント基板2の第一主面2a及び第二主面2bの二次側整流領域cには、第一のダイオード10aと第二のダイオード10bとが実装され、ダイオード10a及び10bは、二次側整流領域cにおいて、トランス用二次巻線9bから引き出された接続端子の近傍に配設され、第一のダイオード10aと、第二のダイオード10bと、トランス9のトランス用二次巻線9bとが多層プリント基板2に形成された複数の配線によって所定の回路を構成するよう電気的に接続されることによって、整流回路が構成される、
スイッチング電源装置100。」

イ 引用文献2について
当審の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2008-166625号公報)には、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)

「【0001】
本発明は、スイッチング電源装置等に用いられるトランスの低背化に関する。
(中略)
【0027】
<第2実施形態>
図5は、本実施形態に係る基板トランスの基板組立体35を示す。本実施形態は、上記第1の実施形態と同等の基板トランスにおいて必要絶縁面距離を確保するための構成に関する。1次側コイル13を形成した第1基板10の2層(第1層と第2層)と、2次側コイル23を形成した第2基板20の2層(第3層と第4層)との間の絶縁板30の層厚を、所定厚み(t)以上確保している。
【0028】
この所定厚み(t)は、IEC等の安全規格で要求される1次-2次間絶縁距離要求で空間距離・沿面距離を問われない規定の固体絶縁物の厚み以上を確保している。こうすることで、1次-2次間のコイル配線間の空間距離・沿面距離を確保する必要がなく、簡単に絶縁型の基板トランスを実現することができ、絶縁要求への対応が容易となる。」

図5




引用文献2の上記記載から以下のことがいえる。
(ア)段落【0001】によれば、引用文献2には、スイッチング電源装置等に用いられるトランスが記載されている。

(イ)段落【0027】、【0028】によれば、1次側コイル13を形成した第1基板10の2層(第1層と第2層)と、2次側コイル23を形成した第2基板20の2層(第3層と第4層)との間の絶縁板30の層厚を、IEC等の安全規格で要求される1次-2次間絶縁距離要求で空間距離・沿面距離を問われない規定の固体絶縁物の厚み以上確保することが記載されている。

(ウ)段落【0027】の「1次側コイル13を形成した第1基板10」、「2次側コイル23を形成した第2基板20」との記載、及び、図5によれば、「絶縁板30」は、配線を有しないことが見て取れる。

上記(ア)ないし(ウ)によれば、引用文献2には、次の技術事項(以下、「引用文献2に記載された技術事項」という。)が記載されている。

「スイッチング電源装置等に用いられるトランスにおいて、1次側コイル13を形成した第1基板10の2層(第1層と第2層)と、2次側コイル23を形成した第2基板20の2層(第3層と第4層)との間の絶縁板30の層厚を、IEC等の安全規格で要求される1次-2次間絶縁距離要求で空間距離・沿面距離を問われない規定の固体絶縁物の厚み以上確保し、絶縁板30は配線を有しないこと。」

ウ 引用文献3について
当審の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開2004-112991号公報)には、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)

「【0032】
本発明の実施例3のスイッチング電源装置について図5を用いて説明する。本実施例のスイッチング電源装置の全体の回路構成は、図6(a)で示した従来例の回路構成と同じである。本実施例のスイッチング電源装置は、トランス3の巻線部に特徴を有し、回路構成及び回路動作については、従来例のスイッチング電源装置と同一であるので、その説明は省略する。
(中略)
【0034】
本実施例のトランスは、絶縁基板上に導体パターンを施したプリント基板コイル37を多層に積層した積層体30をトランスの巻線としている。プリント基板コイル37は、4層以上の層を有するプリント基板であって、1つのプリント基板が複数層のコイルを有していても良い。多層プリント基板コイル37は、各コイルパターン間に必要な厚みの絶縁層を挟んで積層され、各コイルパターンの端末(内端32及び外端33)を上下の他のプリント基板コイル37に接続されてコイルを構成する。例えば両面プリント基板であるプリント基板コイル37の裏面に設けられた導体パターンにより、内端32と、プリント基板コイル37の周辺に設けられたスルーホール38?44のいずれか1つとを接続し、そのスルーホール及び外端33に端子34を接続して上下のプリント基板コイル37を相互に接続する。例えば第1の1次コイル3a1、第1の2次コイル3b1、第2の2次コイル3c1、第2の1次コイル3a2、第3の1次コイル3a3、第3の2次コイル3b2、第4の2次コイル3c2、第4の1次コイル3a4毎に異なる導体パターンを設け、異なるスルーホールを接続端子として使用することにより、トランスの各巻線を形成する。」

図5




引用文献3の上記記載から以下のことがいえる。
(ア)段落【0032】によれば、引用文献3には、スイッチング電源装置に用いられるトランスが記載されている。

(イ)段落【0034】によれば、トランスは、絶縁基板上に導体パターンを施したプリント基板コイル37を多層に積層した積層体30をトランスの巻線とし、多層プリント基板コイル37は、各コイルパターン間に必要な厚みの絶縁層を挟んで積層され、各コイルパターンの端末(内端32及び外端33)を上下の他のプリント基板コイル37に接続されてコイルを構成し、第1の1次コイル3a1、第1の2次コイル3b1、第2の2次コイル3c1、第2の1次コイル3a2、第3の1次コイル3a3、第3の2次コイル3b2、第4の2次コイル3c2、第4の1次コイル3a4毎に異なる導体パターンを設け、異なるスルーホールを接続端子として使用することにより、トランスの各巻線を形成することが記載されている。

上記(ア)ないし(イ)によれば、引用文献3には、次の技術事項(以下、「引用文献3に記載された技術事項」という。)が記載されている。(なお、「プリント基板コイル37」と「多層プリントコイル基板37」は「プリント基板コイル37」に統一した。)

「スイッチング電源装置に用いられるトランスにおいて、トランスは、絶縁基板上に導体パターンを施したプリント基板コイル37を多層に積層した積層体30をトランスの巻線とし、多層プリント基板コイル37は、各コイルパターン間に必要な厚みの絶縁層を挟んで積層され、各コイルパターンの端末(内端32及び外端33)を上下の他のプリント基板コイル37に接続されてコイルを構成し、第1の1次コイル3a1、第1の2次コイル3b1、第2の2次コイル3c1、第2の1次コイル3a2、第3の1次コイル3a3、第3の2次コイル3b2、第4の2次コイル3c2、第4の1次コイル3a4毎に異なる導体パターンを設け、異なるスルーホールを接続端子として使用することにより、トランスの各巻線を形成すること。」

(2)対比・判断
ア 対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明において、「多層プリント基板2」は「エポキシ樹脂やポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂とガラスクロスと配線とにより構成され」、「トランス用一次巻線9aとトランス用二次巻線9bは、多層プリント基板2の各層に形成された渦巻き状の配線が電気絶縁部材14を介して相互に積層され」るところ、エポキシ樹脂やポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂とガラスクロスからなる基材を積層し一体化させ多層基板を形成することは技術常識であるから、引用発明の「電気絶縁部材14」も積層状に一体化されているといえ、本願発明1の「積層基板」に相当する。
また、引用発明において、「多層プリント基板2の第一主面2a及び第二主面2bの一次側インバータ領域aには、MOSFET8a及び8b、及び入力平滑コンデンサ6a及び6bが実装され、MOSFET8a及び8b、及び入力平滑コンデンサ6a及び6bは、一次側インバータ領域aにおいて、トランス用一次巻線9aから引き出された接続端子の近傍に配設され」、「多層プリント基板2の第一主面2a及び第二主面2bの二次側整流領域cには、第一のダイオード10aと第二のダイオード10bとが実装され、ダイオード10a及び10bは、二次側整流領域cにおいて、トランス用二次巻線9bから引き出された接続端子の近傍に配設され」るところ、「インバータ回路」は「入力平滑コンデンサ6a及び6bと、MOSFET8a及び8bと、トランス9のトランス用一次巻線9aとが多層プリント基板2に形成された複数の配線によって所定の回路を構成するよう電気的に接続されることによって」形成され、「整流回路」は「第一のダイオード10aと、第二のダイオード10bと、トランス9のトランス用二次巻線9bとが多層プリント基板2に形成された複数の配線によって所定の回路を構成するよう電気的に接続されることによって」構成されるのであるから、「多層プリント基板2の第一主面2a及び第二主面2bの一次側インバータ領域a」に「入力平滑コンデンサ6a及び6bと、MOSFET8a及び8b」と「トランス用一次巻線9a」とを電気的に接続するための「配線」、及び「多層プリント基板2の第一主面2a及び第二主面2bの二次側整流領域c」に「第一のダイオード10aと、第二のダイオード10b」と「トランス用二次巻線9b」とを電気的に接続するための「配線」が、それぞれ形成されていることは当然のことである。そして、「多層プリント基板2の第一主面2a及び第二主面2bの一次側インバータ領域a」及び「多層プリント基板2の第一主面2a及び第二主面2bの二次側整流領域c」は、「多層プリント基板2」を構成する「電気絶縁部材14」の外面であるといえる。
さらに、引用発明の「トランス用一次巻線9aとトランス用二次巻線9b」は、「多層プリント基板2の各層に形成された渦巻き状の配線が電気絶縁部材14を介して相互に積層され、更にスルーホール11又は12によって立体的かつ電気的に接続されることによって構成される」から、複数の「電気絶縁部材14」間の各「層」に形成された「渦巻き状の配線」であるといえる。
してみると、「インバータ回路」及び「整流回路」は、「電気絶縁部材14」の外面に形成された「配線」及び複数の「電気絶縁部材14」間の各「層」に形成された「渦巻き状の配線」を用いて「多層プリント基板2」に形成されるといえ、また、「インバータ回路」及び「整流回路」は、スイッチング電源装置100における1次側回路及び2次側回路といえる。
よって、積層状に一体化されている「電気絶縁部材14」を有し、「電気絶縁部材14」の外面に形成された「配線」及び複数の「電気絶縁部材14」間の各「層」に形成された「渦巻き状の配線」を用いて1次側回路及び2次側回路が形成された「多層プリント基板2」は、本願発明1の「積層状に一体化された複数の積層基板を有し、前記積層基板の外面及び前記積層基板同士の間を各層として複数に層をなす配線パターンを用いて1次側及び2次側の各回路が形成された回路基板」に相当する。

(イ)引用発明の「トランス用コア9c」は、「フェライト等の材料で構成され」、「トランス巻線領域bの所定の位置」に形成された「所定の形状の貫通孔16」の「内部に前記トランス用コア9cの中足部9dが嵌入されるようにして、多層プリント基板2を取り囲むように配設され」るから、「多層プリント基板2」に取り付けられているといえる。
そして、引用発明において、「トランス用一次巻線9a及びトランス用二次巻線9b」は「トランス用コア9cの中足部9d」によって「磁気的に結合され」るのであり、「トランス用一次巻線9a」及び「トランス用二次巻線9b」は、それぞれスイッチング電源装置100における「インバータ回路」及び「整流回路」の一部であるから、引用発明の「トランス用コア9c」は、「インバータ回路」及び「整流回路」を「磁気的に結合」しているといえる。
よって、引用発明の「トランス用コア9c」は、本願発明1の「回路基板に取り付けられて前記1次側の回路と前記2次側の回路との間の磁気結合をなす磁性体コア」に相当する。

(ウ)引用発明の「トランス用一次巻線9a及びトランス用二次巻線9b」は、「多層プリント基板2の各層に形成された渦巻き状の配線」が「立体的かつ電気的に接続されることによって構成」され、「トランス用コア9cの中足部9dが嵌入」される「貫通孔16の周囲において各々渦巻き状に配設」されるから、引用発明の「トランス用一次巻線9a及びトランス用二次巻線9b」も、「トランス用コア9cの中足部9d」の「周囲において」形成された「渦巻き状の配線」から構成されているといえる。
そして、引用発明の「トランス用一次巻線9a」及び「トランス用二次巻線9b」は、それぞれスイッチング電源装置100における「インバータ回路」及び「整流回路」の一部をなすといえる。
よって、引用発明の「トランス用一次巻線9a」及び「トランス用二次巻線9b」は、本願発明1の「前記磁性体コアの周囲に渦状に形成された前記配線パターンにより前記各回路の一部をなす1次側及び2次側の各巻線」に相当する。

(エ)本願発明1は、「回路基板内で前記1次側の巻線の層と前記2次側の巻線の層との間に介挿された前記積層基板同士の間の内層として配置され、前記各巻線と層方向に重なる領域内には前記配線パターンを有しない絶縁層」を備えているのに対し、引用発明はその旨特定されていない点で相違する。

(オ)引用発明の「スイッチング電源装置100」は、「電源から得た直流をパルス電圧に変換し、そのパルス電圧のパルス幅及びパルス間隔を制御することによって、一定の電圧の直流を出力する」から、直流-直流変換器といえる。
そして、本願発明1の「電子部品」に関し、本願明細書段落【0014】に「この実施形態では、電子部品100の例としてモジュール型のDC-DCコンバータを挙げているが、本発明はこれに限定されない。以下、電子部品100の構成について説明する。」と記載されているから、本願発明1の「電子部品」は、DC-DCコンバータを含み、引用発明の「スイッチング電源装置100」も含む。

イ 一致点・相違点
上記(ア)ないし(オ)によれば、本願発明1と引用発明との一致点、相違点は、次のとおりである。

(一致点)
「積層状に一体化された複数の積層基板を有し、前記積層基板の外面及び前記積層基板同士の間を各層として複数に層をなす配線パターンを用いて1次側及び2次側の各回路が形成された回路基板と、
前記回路基板に取り付けられて前記1次側の回路と前記2次側の回路との間の磁気結合をなす磁性体コアと、
前記磁性体コアの周囲に渦状に形成された前記配線パターンにより前記各回路の一部をなす1次側及び2次側の各巻線と、
を備えた電子部品。」

(相違点1)
本願発明1は、「前記回路基板内で前記1次側の巻線の層と前記2次側の巻線の層との間に介挿された前記積層基板同士の間の内層として配置され、前記各巻線と層方向に重なる領域内には前記配線パターンを有しない絶縁層」を備えているのに対し、引用発明はその旨特定されていない点。

相違点の判断
上記相違点1を言い換えると、本願発明1は、引用発明と比較して、1次側の巻線の層と2次側の巻線の層との間に、2つの「積層基板」を介挿し、「積層基板同士の間の内層」として「絶縁層」を配置している点で相違するものである。
上記の点を踏まえて、以下、検討する。
(ア)引用文献1の段落【0006】を参照すると、引用発明は、従来のスイッチング電源装置1000では、低電圧大電流の直流を出力し得る高効率のスイッチング電源装置を小型化することが非常に困難であるという問題が発生するという課題を解決するためになされたものである。
ここで、引用発明の「トランス用一次巻線9aとトランス用二次巻線9b」は「多層プリント基板2の各層に形成された渦巻き状の配線が電気絶縁部材14を介して相互に積層され」るものであり、上記相違点1のごとく「トランス用一次巻線9a」と「トランス用二次巻線9b」との間に、2つの「電気絶縁部材14」を介挿し、「電気絶縁部材14同士間の内層」として「絶縁層」を配置することにより多層プリント基板2の厚さが厚くなることは明らかである。
してみると、小型化という課題からすれば、引用発明において「トランス用一次巻線9a」と「トランス用二次巻線9b」との間に、2つの「電気絶縁部材14」を介挿し、「電気絶縁部材14同士間の内層」として「絶縁層」を配置するような構成を採用することには阻害要因があるといえ、引用発明においてそのような構成を採用することは、当業者に動機付けられないことである。
さらに、引用文献1には、トランスの一次巻線と二次巻線間の耐圧性能を向上するという課題は記載されておらず、また、「トランス用一次巻線9a」と「トランス用二次巻線9b」との間に、2つの「電気絶縁部材14」を介挿し、「電気絶縁部材14同士間の内層」として「絶縁層」を配置することを示唆する記載も見当たらないことから、引用発明に基づいて上記相違点1に係る構成を導き出すことはできない。

(イ)引用文献2には、1次側コイル13の層と2次側コイル23層との間に絶縁板30を配置することが記載され、また、引用文献3には、絶縁基板上に導体パターンを施したプリント基板コイルが、コイルパターン間に必要な厚みの絶縁層を挟んで積層されることが記載されているにすぎず、両文献には、1次側の巻線の層と2次側の巻線の層との間に2つの「積層基板」を介挿し、「積層基板同士の間の内層」として「絶縁層」を配置することは記載も示唆もされていない。
よって、引用文献2及び引用文献3に記載された技術を考慮しても、引用発明において、1次側の巻線の層と2次側の巻線の層との間に2つの「積層基板」を介挿し、「積層基板同士の間の内層」として「絶縁層」を配置することは当業者が容易に想到し得ないことである。

(ウ)以上から、相違点1に係る構成は、引用発明、引用文献2に記載された技術及び引用文献3に記載された技術に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。

(3)まとめ
したがって、本願発明1は、当業者であっても、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術事項及び引用文献3に記載された技術事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2-2 理由2(特許法第36条第6項第2号)について
理由2の指摘(上記「1」を参照)に対して、令和3年6月7日の手続補正により、請求項1に係る発明において、「回路基板」が「積層状に一体化された複数の積層基板を有」し、「層」に関して「積層基板の外面及び前記積層基板同士の間を各層として」と規定され、さらに、1次側の巻線の層と2次側の巻線の層との間に「積層基板同士」が介挿され、「絶縁層」が「積層基板同士の間の内層」として配置される補正がなされたことにより、請求項1における「絶縁層」の意味するところが明確となった。
したがって、当審拒絶理由で指摘した不備な点は解消され、本願は、特許法第36条第6項第2項の規定する要件を満たすものと認められる。

3 当審拒絶理由についてのむすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術事項及び引用文献3に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件出願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものと認められる。

第4 原査定について

1 原査定の理由の概要
原査定(令和2年6月19日付け拒絶査定)の拒絶の理由の概要は次のとおりである。

理由1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
●理由1(特許法第29条第1項第3号)、理由2(特許法第29条第2項)について
・請求項 1-5
・引用文献等 A

<引用文献等一覧>
引用文献A:特開2005-102485号公報(当審拒絶理由において引用した引用文献1)

2 原査定についての判断

2-1 理由1(特許法第29条第1項第3号)について
(1)引用文献及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献A(特開2005-102485号公報)に記載された事項及び引用発明は、上記「第3 2 2-1 (1)」に記載したとおりである。

(2)対比
(2-1)本願発明1、本願発明3ないし5について
令和3年6月7日付け手続補正書の補正により、本願発明1は、1次側の巻線の層と2次側の巻線の層との間に「積層基板同士」が介挿され、絶縁層が「積層基板同士の間の内層と」して配置されるという発明特定事項が追加され、本願発明1と引用発明とが該発明特定事項を含む相違点1で相違することは、上記「第3 2 2-1 (2) イ」で述べたとおりであるから、本願発明1と引用発明とは同一であるとはいえない。
また、上記発明特定事項を含む本願発明3及び請求項3を引用する請求項4、5に係る本願発明4、本願発明5と引用発明とは同一であるとはいえない。

(2-2)本願発明2について
上記「第3 2 2-1 (2) ア」の「(ア)」ないし「(ウ)」及び「(オ)」で検討した点も踏まえ、本願発明2と引用発明とを対比する。

(カ)引用発明において、「トランス用一次巻線9aとトランス用二次巻線9bとは多層プリント基板2のトランス巻線領域bの内部に形成され、多層プリント基板2の各層に形成された渦巻き状の配線が電気絶縁部材14を介して相互に積層され、更にスルーホール11又は12によって立体的かつ電気的に接続されることによって構成され」、さらに「スルーホール11は多層プリント基板2の一次側インバータ領域aに形成され、スルーホール12は多層プリント基板2の二次側整流領域に形成され」る。
してみると、「スルーホール11」が「トランス用一次巻線9a」を構成する「多層プリント基板2の各層に形成された渦巻き状の配線」を「電気的に接続」し、「スルーホール12」が「トランス用二次巻線9b」を構成する「多層プリント基板2の各層に形成された渦巻き状の配線」を「電気的に接続」することは明らかである。
よって、引用発明において「トランス用一次巻線9a」を構成する「多層プリント基板2の各層に形成された渦巻き状の配線」を「電気的に接続」する「スルーホール11」が形成され、「トランス用二次巻線9b」を構成する「多層プリント基板2の各層に形成された渦巻き状の配線」を「電気的に接続」する「スルーホール12」が形成されることと、本願発明2とは、「層内で前記1次側の巻線となる前記配線パターンを他の層の前記配線パターンと接続するビアホールが形成されるとともに、層内で前記2次側の巻線となる前記配線パターンを他の層の前記配線パターンと接続するビアホールが形成されている」点で共通する。
ただし、ビアホールに関し、本願発明2は、1次側の巻線となる配線パターン「の両端をいずれも前記2次側の巻線と層方向に重なる領域外で」他の層の配線パターンと接続するビアホールが形成され、2次側の巻線となる配線パターン「の両端をいずれも前記1次側の巻線と層方向に重なる領域外で」他の層の配線パターンと接続するビアホールが形成されるのに対し、引用発明はその旨特定されていない点で異なる。

上記「第3 2 2-1 (2) ア」の「(ア)」ないし「(ウ)」及び「(オ)」で検討した点、及び、上記(カ)によれば、本願発明2と引用発明との一致点、相違点は、次のとおりである。

(一致点)
「複数に層をなす配線パターンを用いて1次側及び2次側の各回路が形成された回路基板と、
前記回路基板に取り付けられて前記1次側の回路と前記2次側の回路との間の磁気結合をなす磁性体コアと、
前記磁性体コアの周囲に渦状に形成された前記配線パターンにより前記各回路の一部をなす1次側及び2次側の各巻線とを備え、
前記回路基板は、
層内で前記1次側の巻線となる前記配線パターンを他の層の前記配線パターンと接続するビアホールが形成されるとともに、層内で前記2次側の巻線となる前記配線パターンを他の層の前記配線パターンと接続するビアホールが形成されている電子部品。」

(相違点2)
ビアホールに関し、本願発明2は、1次側の巻線となる配線パターン「の両端をいずれも前記2次側の巻線と層方向に重なる領域外で」他の層の前記配線パターンと接続するビアホールが形成され、2次側の巻線となる配線パターン「の両端をいずれも前記1次側の巻線と層方向に重なる領域外で」他の層の前記配線パターンと接続するビアホールが形成されるのに対し、引用発明はその旨特定されていない点。

よって、本願発明2と引用発明とは、上記相違点2で相違するから本願発明2と引用発明とは同一であるとはいえない。

(3)まとめ
したがって、本願発明1ないし本願発明5と引用発明とは同一であるといえない。

2-2 理由2(特許法第29条第2項)について
(1)引用文献及び引用発明
上記「2-1 (1)」で述べたとおりである。

(2)対比・判断
(2-1)本願発明1、本願発明3ないし本願発明5について
本願発明1、本願発明3ないし本願発明5は、上記相違点1に係る構成を含むから、上記「第3 2 2-1」で述べたように、本願発明1、本願発明3ないし本願発明5は、当業者であっても拒絶査定で引用された引用文献Aに記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2-2)本願発明2について
上記相違点2について判断する。
1次側の巻線となる配線パターン「の両端をいずれも前記2次側の巻線と層方向に重なる領域外で」他の層の配線パターンと接続するビアホールを形成し、2次側の巻線となる配線パターン「の両端をいずれも前記1次側の巻線と層方向に重なる領域外で」他の層の配線パターンと接続するビアホールを形成することは、引用文献2にも引用文献3にも記載されておらず、また、周知技術であるとも認められない。
してみると、相違点2に係る構成は、引用発明に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。
したがって、本願発明2は、当業者であっても引用文献Aに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(3)まとめ
以上から、本願発明1ないし本願発明5は、当業者であっても拒絶査定で引用された引用文献Aに記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 原査定についてのむすび
以上のとおり、本願の請求項1ないし請求項5に係る発明は、引用文献Aに記載された発明と同一ではなく、また、引用文献Aに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-08-18 
出願番号 特願2018-106182(P2018-106182)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01F)
P 1 8・ 113- WY (H01F)
P 1 8・ 537- WY (H01F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐久 聖子久保田 昌晴森岡 俊行  
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 畑中 博幸
須原 宏光
発明の名称 電子部品  
代理人 山崎 崇裕  

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