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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B |
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管理番号 | 1377263 |
審判番号 | 不服2020-190 |
総通号数 | 262 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-10-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-01-08 |
確定日 | 2021-08-19 |
事件の表示 | 特願2018- 51990「反射防止フィルム」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 9月26日出願公開、特開2019-164255〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 事案の概要 1 手続等の経緯 (1) 特願2018-51990号(以下「本件出願」という。)は、平成30年3月20日を出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。 平成31年 3月 5日付け:拒絶理由通知書 令和 元年 5月10日付け:意見書 令和 元年 5月10日付け:手続補正書 令和 元年 9月30日付け:拒絶査定 令和 2年 1月 8日付け:審判請求書 令和 2年10月16日付け:拒絶理由通知書 令和 3年 1月19日付け:意見書 令和 3年 1月19日付け:手続補正書 令和 3年 1月22日付け:手続補足書(実験成績証明書) 2 本願発明 本件出願の請求項1?請求項7に係る発明は、令和3年1月19日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1?請求項7に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「基材と、 硬化型樹脂および低屈折率粒子を含む反射防止層と、 前記基材および前記反射防止層の間に位置し且つ硬化型樹脂を含むハードコート層とを含む積層構造を有し、 前記反射防止層側の視感反射率が2%以下であり、 反射防止フィルム試験片についてその反射防止層側を内側にして屈曲が行われる円筒形マンドレル法による第1屈曲試験において耐屈曲性を示すマンドレル直径の最小値が2mm以上3mm以下の範囲にあり、これと共に或いはこれに代えて、反射防止フィルム試験片についてその反射防止層側を外側にして屈曲が行われる円筒形マンドレル法による第2屈曲試験において耐屈曲性を示すマンドレル直径の最小値が5mm以上10mm以下の範囲にあり、 反射防止フィルム試験片についてその反射防止層側を内側にして屈曲箇所曲率半径一定の100回の連続屈曲が行われる第1連続屈曲試験において耐屈曲性を示す屈曲箇所曲率半径の最小値の2倍値が2mm以上10mm未満の範囲にあり、これと共に或いはこれに代えて、反射防止フィルム試験片についてその反射防止層側を外側にして100回の連続屈曲が行われる第2連続屈曲試験において耐屈曲性を示す屈曲箇所曲率半径の最小値の2倍値が5mm以上16mm未満の範囲にある、反射防止フィルムであって、 前記ハードコート層は硬化型樹脂として 硬化型ポリオルガノシルセスキオキサン樹脂、及び 2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物を含み、 前記第1屈曲試験及び第2屈曲試験は、JIS K5600-5-1に準拠して行われるものであり、 前記第1連続屈曲試験及び第2連続屈曲試験は、以下の方法により行われるものである、反射防止フィルム。 ・第1連続屈曲試験 前記反射防止フィルムから切り出された試験片(幅100mm×長さ150mm)について、試験速度50r/min(1分間あたり50サイクル)の条件での100サイクルの屈曲試験を行う。第1連続屈曲試験の各サイクルには、試験片の長さ方向における中央部が反射防止層側を内側にして所定の最小曲率半径で屈曲するまで試験片長さ方向における両端が接近する試験片の屈曲動と、その後に当該両端が離反して試験片が元の平坦フィルム形状に戻る試験片の復帰動とが含まれる。100サイクルを経た時点で試験片がクラックを生じずに耐屈曲性を示す屈曲時最小曲率半径を調べる。 ・第2連続屈曲試験 反射防止フィルムから切り出された試験片(幅100mm×長さ150mm)について、試験速度50r/min(1分間あたり50サイクル)の条件での100サイクルの屈曲試験を行う。第2連続屈曲試験の各サイクルには、試験片の長さ方向における中央部が反射防止層側を外側にして所定の最小曲率半径で屈曲するまで試験片長さ方向における両端が接近する試験片の屈曲動と、その後に当該両端が離反して試験片が元の平坦フィルム形状に戻る試験片の復帰動とが含まれる。100サイクルを経た時点で試験片がクラックを生じずに耐屈曲性を示す屈曲時最小曲率半径を調べる。」 (当合議体注:「・第2連続屈曲試験」の定義中の「試験速度5050r/min(1分間あたり50サイクル)」との記載は、本件出願の明細書段落【0149】等からみて「試験速度50r/min(1分間あたり50サイクル)」の誤記であることは明らかである。) 3 拒絶の理由 令和2年10月16日付け拒絶理由通知書において当合議体が通知した拒絶の理由は、概略以下のとおりである。 ●理由1(新規性) 本件出願の請求項1?4、6、8に係る発明(令和元年5月10日にした手続補正後のもの)は、本件出願の出願前に、日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 ●理由2(進歩性) 本件出願の請求項1?8に係る発明(令和元年5月10日にした手続補正後のもの)は、本件出願の出願前に、日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (引用例等一覧) 引用例1:特開2012-150226号公報 引用例2:国際公開第2017/023117号 引用例3:特開2016-75869号公報 引用例4:国際公開第2017/159253号 引用例5:国際公開第2016/203957号 引用例6:特開2015-212353号公報 引用例7:特開2017-8148号公報 引用例8:特開2015-112599号公報 引用例9:特表2018-506617号公報 引用例10:国際公開第2017/221783号 引用例11:国際公開第2018/037488号 引用例12:江上 美紀、”機能性ナノ粒子を用いたナノコンポジット薄膜とその応用”、[online]、粉砕 THE MICROMERITICS、No.56、2013、2012年12月25日、42?47頁、ホソカワミクロン株式会社、[令和2年9月29日検索]、インターネット<URL:https://www.hosokawamicron.co.jp/jp/service/micromeritics/no_56/pdf/No56_08.pdf> 引用例13:特開2010-215685号公報 引用例14:特開2006-178276号公報 (当合議体注:引用例1は、理由1(新規性)及び理由2(進歩性)についての主引用例である。引用例2?引用例3は、理由2(進歩性)についての主引用例である。また、引用例1、引用例2及び引用例4?引用例14は、副引用例であるか、あるいは、周知技術又は技術常識を示すための文献である。また、引用例5?引用例11は、理由2(進歩性)についての主引用例でもある。) ●理由3(明確性要件) 本件出願の特許請求の範囲の記載は、本件出願の請求項1?請求項8に係る発明(令和元年5月10日にした手続補正後のもの)が明確であるということができないから、本件出願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 ●理由4(サポート要件) 本件出願の特許請求の範囲の記載は、本件出願の請求項1?請求項8に係る発明(令和元年5月10日にした手続補正後のもの)が発明の詳細な説明に記載したものであるということができないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 第2 当合議体の判断 1 理由2(進歩性)(引用例3を主引用例とする場合)について (1) 引用例の記載及び引用発明 ア 引用例3の記載及び引用発明 令和2年10月16日付け拒絶理由通知書において当合議体が通知した拒絶の理由において引用された、引用例3(特開2016-75869号公報)は、本件出願の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ、そこには、以下の記載がある(当合議体注:下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。以下、同様。)。 (ア) 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 可撓性を有する透明樹脂フィルム基材の少なくとも一方の面に、無機微粒子とマトリクス樹脂とを含有する反射防止層が設けられた反射防止フィルムが、画像表示面に配置されているフレキシブル表示装置であって、 前記反射防止層における前記無機微粒子の体積比率が40体積%以上であり、 前記無機微粒子の直径が5?200nmの範囲であり、 前記反射防止層の厚さが50?200nmの範囲であり、 前記反射防止フィルムが、JIS K 5600-5-1に準拠し、半径2mmの円筒形マンドレルを用いて屈曲試験を行った場合にクラックを生じないことを特徴とするフレキシブル表示装置。 【請求項2】 前記反射防止フィルムに設けられた前記反射防止層が、JIS K 5600-5-4に準拠した鉛筆硬度試験(荷重1000g)において、H以上の硬度を有することを特徴とする請求項1に記載のフレキシブル表示装置。 ・・・略・・・ 【請求項4】 前記無機微粒子が、中空シリカ微粒子であることを特徴とする請求項1又は2に記載のフレキシブル表示装置。 【請求項5】 前記反射防止層が、前記反射防止層の厚さ方向に向けて、2層以上の前記無機微粒子が積層された部分を有することを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載のフレキシブル表示装置。 【請求項6】 前記反射防止層が、塗布法によって形成されていることを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載のフレキシブル表示装置。」 (イ) 「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、フレキシブル表示装置に関する。 【背景技術】 【0002】 近年、液晶表示装置、有機EL表示装置などの表示装置を構成する基板として主に用いられてきたガラス基板に替えて、可撓性を有する樹脂基板を用いたフレキシブル表示装置が提案されている。これらの表示装置の画像表示面には、蛍光灯などの外光の映り込みを防止して視認性を高めるために、反射防止層(低屈折率層)を設けた反射防止フィルムが配置されている。このような反射防止フィルムには、反射防止能及び透明性が優れるだけでなく、耐屈曲性も要求される。 【0003】 反射防止フィルムの作製方法としては、プラズマCVD法によりフィルム基材表面にシリカ膜からなる低屈折率層を形成する技術(例えば、特許文献1)、フィルム基材上にシリコーンオイル又はシリコーン界面活性剤を含む隣接層を形成した後、その隣接層上に低屈折率材料など含有する塗布液を塗布し、乾燥させ、硬化させて低屈折率層を形成する技術(例えば、特許文献2)などが知られている。 ・・・略・・・ 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 ・・・略・・・上記したように、従来技術による反射防止フィルムは、フレキシブル表示装置において満足のいくものではなかった。 従って、本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、低コストで生産性が高く、且つ耐屈曲性、耐擦傷性及び透明性に優れる反射防止フィルムを備えるフレキシブル表示装置を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明に係るフレキシブル表示装置は、可撓性を有する透明樹脂フィルム基材の少なくとも一方の面に、無機微粒子とマトリクス樹脂とを含有する反射防止層が設けられた反射防止フィルムが、画像表示面に配置されているフレキシブル表示装置であって、反射防止層における無機微粒子の体積比率が40体積%以上であり、無機微粒子の直径が5?200nmの範囲であり、反射防止層の厚さが50?200nmの範囲であり、反射防止フィルムが、JIS K 5600-5-1に準拠し、半径2mmの円筒形マンドレルを用いて屈曲試験を行った場合にクラックを生じないことを特徴とするものである。 【発明の効果】 【0007】 本発明によれば、低コストで生産性が高く、且つ耐屈曲性、耐擦傷性及び透明性に優れる反射防止フィルムを備えるフレキシブル表示装置を提供することができる。」 (ウ) 「【発明を実施するための形態】 【0009】 以下、本発明に係るフレキシブル表示装置の好適な実施の形態について説明する。 【0010】 実施の形態1. 図1は、本発明の実施の形態1に係るフレキシブル表示装置の画像表示面に配置された反射防止フィルムの模式断面図である。フレキシブル表示装置としては、可撓性を有する樹脂基板上に表示素子を備えた折り曲げ可能なものであれば特に限定されるものではなく、フレキシブル液晶表示装置、フレキシブル有機EL表示装置などが挙げられ、これらは公知の方法に準じて製造することができる。図1に示すように、本実施の形態における反射防止フィルムは、可撓性を有する透明樹脂フィルム基材10の一方の面に、無機微粒子11とマトリクス樹脂12とを含有する反射防止層13が設けられている。 【0011】 反射防止層13の厚さは、50nm?200nmの範囲であることが必要であり、90nm?200nmの範囲であることが好ましい。反射防止層13の厚さが50nm未満や200nmを超えると、可視光線の反射防止効果が得られなくなるからである。 【0012】 反射防止層13に占める無機微粒子11の体積比率は40体積%以上であることが必要であり、50体積%?74体積%の範囲であることが好ましい。無機微粒子11の体積比率が40体積%未満であると、無機微粒子11間にマトリクス樹脂12が過剰に存在することになり、基板を曲げたときに反射防止フィルムにクラック(亀裂)が生じやすくなり、耐屈曲性を確保することができない。 【0013】 反射防止層13に含有される無機微粒子11の直径は5nm?200nmの範囲であることが必要であり、50nm?100nmの範囲であることが好ましい。無機微粒子11の直径が50nm未満であると、反射防止層13の厚さ方向に向けて2層の無機微粒子11を積層させても反射防止層13の厚さを100nm以上にできないため好ましくなく、一方、200nmを超えると、反射防止層13の厚さを200nm以下にできないからである。 【0014】 このような反射防止層13の形成方法は、特に制限されるものではないが、無機微粒子11と、マトリクス樹脂12と、溶媒(必要に応じて)とを含む塗布液を塗布した後、硬化させる塗布法が好ましい。塗布液の塗布方法としては、スピンコート法、スリットコート法、ロールコート法、インクジェット法などが挙げられる。無機微粒子11としては、直径が上記した条件を満たすものであれば特に制限されず、シリカ微粒子、アルミナ微粒子、酸化亜鉛微粒子などから適宜選択される。これらの中でも、シリカ微粒子が好ましく、特に、低屈折率、透明性及び硬度の観点から、中空シリカ微粒子がより好ましい。また、マトリクス樹脂12としては、熱硬化樹脂や紫外線硬化樹脂から適宜選択すればよい。上記した塗布液は、市販品を用いてもよく、例えば、日揮触媒化成株式会社製のELCOM P-5062が挙げられる。 【0015】 可撓性を有する透明樹脂フィルム基材10としては、反射防止フィルムに使用されている公知のものを制限なく使用することができ、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリスチレンなどが挙げられる。可撓性を有する透明樹脂フィルム基材10の厚さは、反射防止フィルムに使用される一般的な厚さであればよく、通常、10μm?1000μmである。 【0016】 反射防止フィルムは、JIS K 5600-5-1に準拠し、半径2mmの円筒形マンドレルを用いて屈曲試験を行った後、反射防止層13表面を目視で観察した結果、クラックが生じていないことが必要である。 【0017】 反射防止フィルムに設けられた反射防止層13は、好ましくは、JIS K 5600-5-4に準拠した鉛筆硬度試験(荷重1000g)においてH以上の硬度を有する。反射防止層13の硬度は、使用するマトリクス樹脂12の種類、無機微粒子11の種類及び無機微粒子11の体積比率を調整することによって向上させることができる。また、反射防止フィルムに設けられた反射防止層13は、好ましくは、波長550nmで測定したときに1.45未満の屈折率を有する。反射防止層13の屈折率は、使用する無機微粒子11の種類及び無機微粒子11の体積比率を調製することによって変更することができる。 【0018】 このように構成された本実施の形態における反射防止フィルムは、プラズマCVD装置を新たに導入する必要がなく、バーコーター等の既存の装置を用いて製造することができるのでイニシャルコストが低く且つ生産性が高く、また、反射防止能に優れることは勿論のこと、耐屈曲性、耐擦傷性及び透明性にも優れる。特に、無機微粒子11として中空シリカ微粒子を用い、可撓性を有する透明樹脂フィルム基材10としてポリエチレンテレフタレートを用いた反射防止フィルムでは、5%?6%程度の反射率及び88%?91%程度の全光線透過率が得られ、良好な反射防止能と透明性と有している。従って、このような反射防止フィルムはフレキシブル表示装置において有用である。 【0019】 なお、図1では、好ましい形態として、反射防止層13が、その厚さ方向に向けて、2層の無機微粒子11が積層された部分を有しているが、上記した条件を満たすのであれば1層であってもよいし、3層以上であってもよい。また、可撓性を有する透明樹脂フィルム基材10と反射防止層13との間には、ハードコート層を設けてもよい。 【実施例】 【0020】 以下、実施例及び比較例により本発明の詳細を説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。 <実施例1> 市販のPETフィルム(東洋紡株式会社製コスモシャイン(登録商標)A4300、厚さ100μm)上にバーコーターを用いて中空シリカ微粒子(直径65nm)とマトリクス樹脂とを含む塗布液(日揮触媒化成株式会社製ELCOM P-5062)を塗布した。その後、ホットプレート上で80℃で2分間乾燥させ、窒素雰囲気下で紫外線を照射(400mJ/cm^(2)、波長365nm)して硬化させることにより、反射防止フィルムを得た。 更に、反射防止フィルムの耐屈曲性、耐擦傷性及び反射率を以下の方法に従って評価した。結果を表1に示す。 【0021】 <耐屈曲性評価> JIS K 5600-5-1に準拠し、円筒形マンドレル試験機(ERICHSEN社製model 266)を用いて曲率半径を測定した。サンプルの反射防止層面が円筒形マンドレルの外側又は内側になるように試料台に挟み、曲げ試験を行った。その後、反射防止層面の傷及びクラックの有無を目視で確認した。傷及びクラックが無い場合は、円筒形マンドレルの半径が小さいものに変更して試験を行った。外曲げ及び内曲げのそれぞれの曲率半径は、傷及びクラックが発生しない場合の最小円筒形マンドレル半径とした。なお、曲率半径が小さい程、耐屈曲性が優れているといえる。 【0022】 <耐擦傷性評価> JIS K 5600-5-4に準拠し、往復摩擦試験機(新東科学株式会社製TYPE30)を用いて鉛筆硬度を測定した。鉛筆をサンプル表面に対して斜め45度の角度にセットし、荷重1000g、ステージ速度300mm/分、移動距離50mmの条件でサンプル表面を往復させた。その後、サンプル表面の傷の有無を目視で確認した。同じ鉛筆硬度で3回試験を行い、3回とも傷が無い場合は、鉛筆硬度を高くして試験を行った。鉛筆硬度は、3回とも傷が無い場合の最大硬度とした。なお、鉛筆硬度が高い程、耐擦傷性が優れているといえる。 【0023】 <反射率評価> サンプルの反射率を分光測色計(コニカミノルタ株式会社製CM-2600d)を用いて測定した。上記の反射率とはコート面を上側に向けて測定した、全反射率データの3回の平均値である。 ・・・略・・・ 【0028】 【表1】 【0029】 以上の結果から明らかなように、比較例2?4で得られた反射防止フィルムは、いずれも反射率の低減効果が十分でない上に、比較例2及び3で得られたものは耐屈曲性が不十分であった。 これに対し、実施例1で得られた反射防止フィルムは、PETフィルム単体(比較例1)と同程度の耐屈曲性を有しつつ、耐擦傷性を高め、反射率を低くすることができた。 また、実施例1で得られた反射防止フィルムを用いて、フレキシブル表示装置を作製したところ、外光の映り込みを防止することができ、鮮明な画像を表示することができた。 【符号の説明】 【0030】 10 可撓性を有する透明樹脂フィルム基材、11 無機微粒子、12 マトリクス樹脂、13 反射防止層。」 (エ) 「【図1】 」 (オ) 引用発明 a 引用例3の【0020】?【0023】、【0028】【表1】及び【0029】には、「図1」に「模式断面図」が示された、引用例3でいう「本発明の実施の形態1に係る」「反射防止フィルム」の実施例として、実施例1の「反射防止フィルム」が記載されている。 また、実施例1の「反射防止フィルムの耐屈曲性、耐擦傷性及び反射率」の評価方法及びその結果は、【0021】?【0023】及び【0028】【表1】に記載のとおりである。 b 前記(ア)?(エ)及び前記aから、引用例3には、実施例1の「反射防止フィルム」の発明(以下「引用発明」という。)として、次の発明が記載されているものと認められる。 「 PETフィルム(厚さ100μm)上にバーコーターを用いて中空シリカ微粒子(直径65nm)とマトリクス樹脂とを含む塗布液(日揮触媒化成株式会社製ELCOM P-5062)を塗布し、その後、乾燥させ、紫外線を照射して硬化させることにより得られた反射防止フィルムであって、 以下の方法に従って評価した、反射防止フィルムの耐屈曲性が2mm(曲率半径)、耐擦傷性がH(鉛筆硬度)、及び、反射率が6(%)である、 反射防止フィルム。 <耐屈曲性評価> JIS K 5600-5-1に準拠し、円筒形マンドレル試験機(ERICHSEN社製model 266)を用いて曲率半径を測定した。サンプルの反射防止層面が円筒形マンドレルの外側又は内側になるように試料台に挟み、曲げ試験を行った。その後、反射防止層面の傷及びクラックの有無を目視で確認した。傷及びクラックが無い場合は、円筒形マンドレルの半径が小さいものに変更して試験を行った。外曲げ及び内曲げのそれぞれの曲率半径は、傷及びクラックが発生しない場合の最小円筒形マンドレル半径とした。なお、曲率半径が小さい程、耐屈曲性が優れているといえる。 <耐擦傷性評価> JIS K 5600-5-4に準拠し、往復摩擦試験機(新東科学株式会社製TYPE30)を用いて鉛筆硬度を測定した。鉛筆をサンプル表面に対して斜め45度の角度にセットし、荷重1000g、ステージ速度300mm/分、移動距離50mmの条件でサンプル表面を往復させた。その後、サンプル表面の傷の有無を目視で確認した。同じ鉛筆硬度で3回試験を行い、3回とも傷が無い場合は、鉛筆硬度を高くして試験を行った。鉛筆硬度は、3回とも傷が無い場合の最大硬度とした。なお、鉛筆硬度が高い程、耐擦傷性が優れているといえる。 <反射率評価> サンプルの反射率を分光測色計(コニカミノルタ株式会社製CM-2600d)を用いて測定した。上記の反射率とはコート面を上側に向けて測定した、全反射率データの3回の平均値である。」 イ 引用例6の記載 令和2年10月16日付け拒絶理由通知書において当合議体が通知した拒絶の理由において引用された、引用例6(特開2015-212353号公報)は、本件出願の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ、そこには、以下の記載がある。 (ア) 「【技術分野】 【0001】 本発明は、ポリオルガノシルセスキオキサン、並びに該ポリオルガノシルセスキオキサンを含む硬化性組成物及びその硬化物に関する。また、本発明は、上記ポリオルガノシルセスキオキサンを含むハードコート液(ハードコート剤)より形成されたハードコート層を有するハードコートフィルムに関する。 ・・・略・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 ・・・略・・・ 【0008】 従って、本発明の目的は、硬化させることによって、高い表面硬度かつ耐熱性を有し、可とう性及び加工性に優れた硬化物を形成できるポリオルガノシルセスキオキサンを提供することにある。 また、本発明の他の目的は、高い表面硬度及び耐熱性を維持しながら、可とう性を有し、ロールトゥロール方式での製造や加工が可能なハードコートフィルムを提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明者らは、エポキシ基を含むシルセスキオキサン構成単位(単位構造)を有し、特定の構造の割合(T3体とT2体の割合、エポキシ基を含むシルセスキオキサン構成単位の割合)が特定範囲に制御され、かつ数平均分子量及び分子量分散度が特定範囲に制御されたポリオルガノシルセスキオキサンによると、該ポリオルガノシルセスキオキサンを含む硬化性組成物を硬化させることによって、高い表面硬度かつ耐熱性を有し、可とう性及び加工性に優れた硬化物を形成できることを見出した。また、本発明者らは、上記ポリオルガノシルセスキオキサンを含むハードコート液より形成されたハードコート層を有するハードコートフィルムが、高い表面硬度及び耐熱性を維持しながら、可とう性を有し、ロールトゥロール方式での製造や加工が可能なハードコートフィルムであることを見出した。 ・・・略・・・ 【発明の効果】 【0030】 本発明のポリオルガノシルセスキオキサンは上記構成を有するため、該ポリオルガノシルセスキオキサンを必須成分として含む硬化性組成物を硬化させることにより、高い表面硬度かつ耐熱性を有し、可とう性及び加工性に優れた硬化物を形成できる。また、本発明のハードコートフィルムは上記構成を有するため、高い表面硬度及び耐熱性を維持しながら、可とう性を有し、ロールトゥロールでの製造や加工が可能である。このため、本発明のハードコートフィルムは、品質面とコスト面の両方において優れる。」 (イ) 「【発明を実施するための形態】 【0032】 [ポリオルガノシルセスキオキサン] ・・・略・・・ 【0034】 ・・・略・・・即ち、本発明のポリオルガノシルセスキオキサンは、分子内にエポキシ基を少なくとも有するカチオン硬化性化合物(カチオン重合性化合物)である。 【0084】 本発明のポリオルガノシルセスキオキサンは上述の構成を有するため、該ポリオルガノシルセスキオキサンを必須成分として含む硬化性組成物を硬化させることにより、高い表面硬度かつ耐熱性を有し、可とう性及び加工性に優れた硬化物を形成できる。また、接着性に優れた硬化物を形成できる。 【0085】 [硬化性組成物] 本発明の硬化性組成物は、上述の本発明のポリオルガノシルセスキオキサンを必須成分として含む硬化性組成物(硬化性樹脂組成物)である。後述のように、本発明の硬化性組成物は、さらに、硬化触媒(特に光カチオン重合開始剤)や表面調整剤あるいは表面改質剤等のその他の成分を含んでいてもよい。 ・・・略・・・ 【0104】 本発明の硬化性組成物は、さらに、本発明のポリオルガノシルセスキオキサン以外のカチオン硬化性化合物(「その他のカチオン硬化性化合物」と称する場合がある)を含んでいてもよい。・・・略・・・例えば、本発明のポリオルガノシルセスキオキサン以外のエポキシ化合物(「その他のエポキシ化合物」と称する場合がある)、オキセタン化合物、ビニルエーテル化合物等が挙げられる。なお、本発明の硬化性組成物においてその他のカチオン硬化性化合物は、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。 【0105】 上記その他のエポキシ化合物としては、分子内に1以上のエポキシ基(オキシラン環)を有する公知乃至慣用の化合物を使用することができ、特に限定されないが、例えば、脂環式エポキシ化合物(脂環式エポキシ樹脂)、芳香族エポキシ化合物(芳香族エポキシ樹脂)、脂肪族エポキシ化合物(脂肪族エポキシ樹脂)等が挙げられる。 【0106】 上記脂環式エポキシ化合物としては、分子内に1個以上の脂環と1個以上のエポキシ基とを有する公知乃至慣用の化合物が挙げられ、特に限定されないが、例えば、(1)分子内に脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基(「脂環エポキシ基」と称する)を有する化合物;(2)脂環にエポキシ基が直接単結合で結合している化合物;(3)分子内に脂環及びグリシジルエーテル基を有する化合物(グリシジルエーテル型エポキシ化合物)等が挙げられる。 【0107】 上記(1)分子内に脂環エポキシ基を有する化合物としては、下記式(i)で表される化合物が挙げられる。 【化27】 ・・・略・・・ 【0111】 上記式(i)で表される脂環式エポキシ化合物の代表的な例としては、3,4,3',4'-ジエポキシビシクロヘキサン、下記式(i-1)?(i-10)で表される化合物等が挙げられる。・・・略・・・また、上記式(i)で表される脂環式エポキシ化合物としては、その他、例えば、2,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロパン、1,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)エタン、2,3-ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)オキシラン、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル等が挙げられる。 【化28】 ・・・略・・・ 【0112】 上述の(2)脂環にエポキシ基が直接単結合で結合している化合物としては、例えば、下記式(ii)で表される化合物等が挙げられる。 【化30】 【0113】 ・・・略・・・上記式(ii)で表される化合物としては、具体的には、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物[例えば、商品名「EHPE3150」((株)ダイセル製)等]等が挙げられる。 【0114】 上述の(3)分子内に脂環及びグリシジルエーテル基を有する化合物としては、例えば、脂環式アルコール(特に、脂環式多価アルコール)のグリシジルエーテルが挙げられる。 ・・・略・・・ 【0121】 本発明の硬化性組成物におけるその他のカチオン硬化性化合物の含有量(配合量)は、特に限定されないが、本発明のポリオルガノシルセスキオキサンとその他のカチオン硬化性化合物の総量(100重量%;カチオン硬化性化合物の全量)に対して、50重量%以下(例えば、0?50重量%)が好ましく、・・・略・・・、さらに好ましくは10重量%以下である。その他のカチオン硬化性化合物の含有量を50重量%以下(特に10重量%以下)とすることにより、硬化物の耐擦傷性がより向上する傾向がある。一方、その他のカチオン硬化性化合物の含有量を10重量%以上とすることにより、硬化性組成物や硬化物に対して所望の性能(例えば、硬化性組成物に対する速硬化性や粘度調整等)を付与することができる場合がある。 ・・・略・・・ 【0154】 本発明のハードコートフィルムは、高硬度及び高耐熱性を維持しながら、可とう性を有し、ロールトゥロール方式での製造や加工が可能であるため、高い品質を有し、生産性にも優れる。・・・略・・・。本発明のハードコートフィルムは、例えば、各種製品における表面保護フィルム、各種製品の部材又は部品における表面保護フィルム等として使用することもできるし、また、各種製品やその部材又は部品の構成材として使用することもできる。上記製品としては、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどの表示装置;タッチパネルなどの入力装置:・・・略・・・;携帯電子端末(例えば、ゲーム機器、パソコン、タブレット、スマートフォン、携帯電話等)の各種電気・電子製品;各種光学機器等が挙げられる。」 (ウ) 「【実施例】 【0166】 ・・・略・・・ 【0168】 実施例1 温度計、攪拌装置、還流冷却器、及び窒素導入管を取り付けた300ミリリットルのフラスコ(反応容器)に、窒素気流下で2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(以下、「EMS」と称する)161.5ミリモル(39.79g)、フェニルトリメトキシシラン(以下、「PMS」と称する)9ミリモル(1.69g)、及びアセトン165.9gを仕込み、50℃に昇温した。このようにして得られた混合物に、5%炭酸カリウム水溶液4.70g(炭酸カリウムとして1.7ミリモル)を5分で滴下した後、水1700ミリモル(30.60g)を20分かけて滴下した。なお、滴下の間、著しい温度上昇は起こらなかった。その後、50℃のまま、重縮合反応を窒素気流下で4時間行った。 重縮合反応後の反応溶液中の生成物を分析したところ、数平均分子量は1911であり、分子量分散度は1.47であった。上記生成物の^(29)Si-NMRスペクトルから算出されるT2体とT3体の割合[T3体/T2体]は10.3であった。 その後、反応溶液を冷却し、下層液が中性になるまで水洗を行い、上層液を分取した後、1mmHg、40℃の条件で上層液から溶媒を留去し、無色透明の液状の生成物(エポキシ基含有ポリオルガノシルセスキオキサン)を得た。上記生成物のT_(d5)は370℃であった。 【0169】 実施例2?6、比較例1、2 原料(EMS及びPMS)の使用量、溶媒の種類及び使用量、反応温度、5%炭酸カリウム水溶液の使用量、水の使用量、反応時間を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、エポキシ基含有ポリオルガノシルセスキオキサンを製造した。各実施例において得られたエポキシ基含有ポリオルガノシルセスキオキサンの数平均分子量(Mn)、分子量分散度、T3体とT2体の割合[T3体/T2体]、及びT_(d5)を表1に示した。なお、表1中のT_(d5)の単位は「℃」である。 【0170】 【表1】 ・・・略・・・ 【0172】 実施例7 実施例1で得られたエポキシ基含有ポリオルガノシルセスキオキサン(S-1)100重量部、メチルイソブチルケトン(関東化学(株)製)20重量部、及び硬化触媒1([ジフェニル[4-(フェニルチオ)フェニル]スルホニウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート])1重量部の混合溶液を作製し、これをハードコート液(硬化性組成物)として使用した。 上記で得られたハードコート液を、PETフィルム(商品名「KEB03 W」、帝人デュポンフィルム(株)製)上に、硬化後のハードコート層の厚さが5μmとなるようにワイヤーバーを使用して流延塗布した後、70℃のオーブン内で10分間放置(プレベイク)し、次いで紫外線を照射した(照射条件(照射量):312mJ/cm^(2)、照射強度:80W/cm^(2))。最後に80℃で2時間熱処理(エージング)することによって、上記ハードコート液の塗工膜を硬化させ、ハードコート層を有するハードコートフィルムを作製した。 【0173】 実施例8?17、19、比較例3、4 ハードコート液(硬化性組成物)の組成及びハードコート層の厚みを表2に示すように変更したこと以外は実施例7と同様にして、ハードコート液を作製した。該ハードコート液を使用し、ハードコート層の厚みを表2に示すように変更したこと以外は実施例7と同様にして、ハードコートフィルムを作製した。なお、表2に記載の硬化性組成物の原料の配合量の単位は、重量部である。 ・・・略・・・ 【0175】 上記で得たハードコートフィルムについて、以下の方法により各種評価を行った。結果を表2に示す。 【0176】 (1)ヘイズ及び全光線透過率 上記で得たハードコートフィルムのヘイズ及び全光線透過率を、ヘイズメータ(日本電色工業(株)製、NDH-300A)を使用して測定した。 【0177】 (2)表面硬度(鉛筆硬度) 上記で得たハードコートフィルムにおけるハードコート層表面の鉛筆硬度を、JIS K5600-5-4に準じて評価した。 ・・・略・・・ 【0179】 (4)耐擦傷性 上記で得たハードコートフィルムにおけるハードコート層表面に対し、#0000スチールウールを荷重1000g/cm^(2)にて100往復させ、ハードコート層表面に付いた傷の有無及びその本数を確認し、以下の基準で耐擦傷性を評価した。 ◎(耐擦傷性が極めて良好):傷の本数が0本 ○(耐擦傷性が良好):傷の本数が1?10本 ×(耐擦傷性が不良):傷の本数が10本を超える 【0180】 (5)耐屈曲性(円筒形マンドレル法);マンドレル試験による 上記で得たハードコートフィルムの耐屈曲性を、円筒形マンドレルを使用してJIS K5600-5-1に準じて評価した。 【0181】 【表2】 ・・・略・・・ 【0191】 表2及び表3に示すように、本発明のハードコートフィルムは、本発明のハードコート層を有しない基材と比較して極めて高い表面硬度を有しており、また、基材と同等の光学特性(透明性)を維持していた。さらに、本発明のハードコートフィルムにおける基材として、多様な基材を適用できることが確認された。」 ウ 引用例5の記載 令和2年10月16日付け拒絶理由通知書において当合議体が通知した拒絶の理由において引用された、引用例5(国際公開第2016/203957号)は、本件出願の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ、そこには、以下の記載がある。 (ア) 「技術分野 [0001] 本発明は、硬化性組成物及び該硬化性組成物を硬化させて得られる硬化物で形成されたハードコート層を有する成形体に関する。 ・・・略・・・ 背景技術 [0002] ・・・略・・・ 発明が解決しようとする課題 [0005] ・・・略・・・ [0007] 従って、本発明の目的は、硬化させることによって、高い表面硬度を有し、可とう性及び加工性に優れた硬化物を形成できる硬化性組成物を提供することにある。 また、本発明の他の目的は、高い表面硬度を維持しながら、可とう性を有し、ロールトゥロール方式での製造や加工が可能なハードコート層を有する成形体を提供することにある。 ・・・略・・・ 課題を解決するための手段 [0009] 本発明者は、シルセスキオキサン構成単位(単位構造)を有し、エポキシ基を有する構成単位の割合が特定範囲に制御され、かつ数平均分子量が特定範囲に制御されたポリオルガノシルセスキオキサンと、該ポリオルガノシルセスキオキサン以外のエポキシ化合物と、レベリング剤とを含む硬化性組成物を硬化させることによって、高い表面硬度を有し、可とう性及び加工性に優れた硬化物を形成できることを見出した。 [0010] また、本発明者は、特定のカチオン硬化性シリコーン樹脂にレベリング剤及び特定の官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル系樹脂を組み合わせた硬化性組成物を硬化させることによって、高屈曲性を保持しつつ表面硬度を向上できることを見出した。 [0011] また、本発明者は、上記硬化性組成物より形成されたハードコート層を有する成形体が、高い表面硬度を維持しながら、可とう性を有し、ロールトゥロール方式での製造や加工が可能な成形体であることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。 ・・・略・・・ [0023] すなわち、本発明は以下に関する。 [1]カチオン硬化性シリコーン樹脂、前記カチオン硬化性シリコーン樹脂以外のエポキシ化合物、及びレベリング剤を含有し、前記カチオン硬化性シリコーン樹脂が、シルセスキオキサン単位を含み、前記カチオン硬化性シリコーン樹脂におけるシロキサン構成単位の全量に対するエポキシ基を有する構成単位の割合が50モル%以上であり、数平均分子量が1000?3000であるシリコーン樹脂であることを特徴とする硬化性組成物。 [2]前記エポキシ化合物が、脂環式エポキシ化合物である[1]に記載の硬化性組成物。」 (イ) 「発明を実施するための形態 [0025] 本発明の硬化性組成物は、カチオン硬化性シリコーン樹脂、カチオン硬化性シリコーン樹脂以外のエポキシ化合物(以下、単に「エポキシ化合物」と称する場合がある)、及びレベリング剤を含む硬化性組成物である。 ・・・略・・・ [0089] (エポキシ化合物) 本発明の実施態様1では、本発明のカチオン硬化性シリコーン樹脂以外のエポキシ化合物を含む。本発明の硬化性組成物は、本発明のカチオン硬化性シリコーン樹脂に加えて、エポキシ化合物を含む場合、高い表面硬度を有し、可とう性及び加工性に優れた硬化物を形成できる。 [0090] 上記エポキシ化合物としては、分子内に1以上のエポキシ基(オキシラン環)を有する公知乃至慣用の化合物を使用することができ、特に限定されないが、例えば、脂環式エポキシ化合物(脂環式エポキシ樹脂)、芳香族エポキシ化合物(芳香族エポキシ樹脂)、脂肪族エポキシ化合物(脂肪族エポキシ樹脂)等が挙げられる。中でも、脂環式エポキシ化合物が好ましい。 [0091] 上記脂環式エポキシ化合物としては、分子内に1個以上の脂環と1個以上のエポキシ基とを有する公知乃至慣用の化合物が挙げられ、特に限定されないが、例えば、(1)分子内に脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基(「脂環エポキシ基」と称する)を有する化合物;(2)脂環にエポキシ基が直接単結合で結合している化合物;(3)分子内に脂環及びグリシジルエーテル基を有する化合物(グリシジルエーテル型エポキシ化合物)等が挙げられる。 [0092] 上記(1)分子内に脂環エポキシ基を有する化合物としては、公知乃至慣用のものの中から任意に選択して使用することができる。中でも、上記脂環エポキシ基としては、シクロヘキセンオキシド基が好ましく、特に、下記式(i)で表される化合物が好ましい。 [化15] ・・・略・・・ [0096] 上記式(i)で表される脂環式エポキシ化合物の代表的な例としては、3,4,3',4'-ジエポキシビシクロヘキサン、下記式(i-1)?(i-10)で表される化合物等が挙げられる。・・・略・・・また、上記式(i)で表される脂環式エポキシ化合物としては、その他、例えば、2,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロパン、1,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)エタン、2,3-ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)オキシラン、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル等が挙げられる。 [化16] ・・・略・・・ [0097] 上述の(2)脂環にエポキシ基が直接単結合で結合している化合物としては、例えば、下記式(ii)で表される化合物等が挙げられる。 [化18] ・・・略・・・ [0098]・・・略・・・上記式(ii)で表される化合物としては、具体的には、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物[例えば、商品名「EHPE3150」((株)ダイセル製)等]等が挙げられる。 [0099] 上述の(3)分子内に脂環及びグリシジルエーテル基を有する化合物としては、例えば、脂環式アルコール(特に、脂環式多価アルコール)のグリシジルエーテルが挙げられる。 ・・・略・・・ [0102] 上記エポキシ化合物の含有量(配合量)は、特に限定されないが、本発明のカチオン硬化性シリコーン樹脂の全量100重量部に対して、0.5?100重量部が好ましく、より好ましくは1?80重量部、さらに好ましくは5?50重量部である。上記エポキシ化合物の含有量を0.5重量部以上とすることにより、硬化物の表面硬度がより高くなり、可とう性及び加工性により優れる傾向がある。一方、上記エポキシ化合物の含有量を100重量部以下とすることにより、硬化物の耐擦傷性がより向上する傾向がある。 ・・・略・・・ [0114](レベリング剤) 本発明の硬化性組成物は、レベリング剤を必須成分として含む。本発明の硬化性組成物は、レベリング剤を含むことにより、本発明の硬化性組成物の表面張力を低下させることができ、また、硬化物の表面硬度が向上する。特に、レベリング剤を本発明のカチオン硬化性シリコーン樹脂と組み合わせて用いることにより、硬化物の表面を平滑化し、透明性、光沢等の外観、滑り性を向上することができる。さらに、特定のレベリング剤を用いることにより、硬化物の表面硬度、耐擦傷性がより向上し、配合割合を制御することによりさらに向上させることができる。 ・・・略・・・ [0132] 上記フッ素系レベリング剤としては、市販のフッ素系レベリング剤を使用できる。市販のフッ素系レベリング剤としては、例えば、商品名「オプツール DSX」、・・・略・・・;商品名「サーフロン S-242」、・・・略・・・「メガファックR-94」・・・等が挙げられる。 [0205] 本発明の成形体は、各種製品やその部材又は部品の構成材として使用することができる。上記製品としては、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどの表示装置;タッチパネルなどの入力装置:・・・略・・・;携帯電子端末(例えば、ゲーム機器、パソコン、タブレット、スマートフォン、携帯電話等)の各種電気・電子製品;各種光学機器等が挙げられる。」 (ウ) 「実施例 [0208] ・・・略・・・ [0209]実施例1 (カチオン硬化性シリコーン樹脂の調製) 温度計、攪拌装置、還流冷却器、及び窒素導入管を取り付けた300ミリリットルのフラスコ(反応容器)に、窒素気流下で2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(以下、「EMS」と称する)161.5ミリモル(39.79g)、フェニルトリメトキシシラン(以下、「PMS」と称する)9ミリモル(1.69g)、及びアセトン165.9gを仕込み、50℃に昇温した。このようにして得られた混合物に、5%炭酸カリウム水溶液4.70g(炭酸カリウムとして1.7ミリモル)を5分で滴下した後、水1700ミリモル(30.60g)を20分かけて滴下した。なお、滴下の間、著しい温度上昇は起こらなかった。その後、50℃のまま、重縮合反応を窒素気流下で4時間行った。 重縮合反応後の反応溶液中の生成物を分析したところ、数平均分子量は1911であり、分子量分散度は1.47であった。上記生成物の^(29)Si-NMRスペクトルから算出されるT2体とT3体のモル比[T3体/T2体]は10.3であった。 その後、反応溶液を冷却し、下層液が中性になるまで水洗を行い、上層液を分取した後、1mmHg、40℃の条件で上層液から溶媒を留去し、無色透明の液状の生成物(エポキシ基を有するシルセスキオキサン単位を含むカチオン硬化性シリコーン樹脂)を得た。上記生成物のT_(d5)は370℃であった。 [0210](ハードコートフィルムの作製) 得られたカチオン硬化性シリコーン樹脂(以下、「硬化性樹脂A」と称する)4.5重量部、エポキシ化合物0.5重量部、MEK1.3重量部、光カチオン重合開始剤0.1重量部、レベリング剤0.05重量部の混合溶液を作製し、これをハードコート液(硬化性組成物)として使用した。 得られたハードコート液を、ワイヤーバー#30を用いてPETフィルムの表面に塗布した後、70℃オーブンで1分間放置(プレベイク)し、次いで、高圧水銀ランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、400mJ/cm^(2)の照射量で紫外線を5秒間照射した。その後、15℃で1時間熱処理(エージング処理)することによってハードコート液の塗工膜を硬化させ、ハードコート層を有するハードコートフィルムを作製した。 [0211]実施例2?4、比較例1 ハードコート液(硬化性組成物)の組成及びハードコート層の厚みを表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、ハードコート液を作製した。該ハードコート液を使用し、ハードコート層の厚みを表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、ハードコートフィルムを作製した。なお、表1に記載の硬化性組成物の原料の配合量の単位は、重量部である。 ・・・略・・・ [0216] 上記で得たハードコートフィルムについて、以下の方法により各種評価を行った。結果を表1及び2に示す。 [0217](1)耐屈曲性(円筒形マンドレル法);マンドレル試験による 上記で得たハードコートフィルムの耐屈曲性を、円筒形マンドレルを使用してJIS K5600-5-1に準じて評価した。結果を、表1及び2の「マンドレル試験(mm)」の欄に示した。 [0218](2)表面硬度(鉛筆硬度) 上記で得たハードコートフィルムにおけるハードコート層表面の鉛筆硬度を、JIS K5600-5-4に準じて評価した。評価を3回行い、最も硬いものを評価結果とした。結果を表1及び2の「鉛筆硬度」の欄に示した。 [0219][表1] ・・・略・・・ [0221] 表1及に2に示す略号は、以下の通りである。 (エポキシ化合物) セロキサイド2021P:商品名「セロキサイド2021P」[3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(3,4-エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート]、(株)ダイセル製 エポキシ化合物A:ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル EHPE3150:商品名「EHPE3150」(2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物)、(株)ダイセル製 エポキシ化合物B:2,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)プロパン (溶剤) MEK:メチルエチルケトン ・・・略・・・ (光カチオン重合開始剤) ・・・略・・・ (レベリング剤) サーフロン S-243:商品名「サーフロン S-243」、フッ素化合物のエチレンオキサイド付加物、AGCセイミケミカル(株)製 [0222] 表1に示すように、本発明のハードコートフィルム(実施例1?7)は、いずれも、エポキシ化合物を含有しない硬化性組成物により形成されたハードコート層が積層されたハードコートフィルム(比較例1、2)に対して、高い表面硬度を有しており、また、可とう性にも優れており、加工性にも優れる。 ・・・略・・・ 産業上の利用可能性 [0224] 本発明の硬化性組成物は、硬化させたときに高い屈曲性や表面硬度を有し、耐熱性や加工性にも優れるため、特にハードコート層形成用硬化性組成物として利用することができる。また、本発明の成形体は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどの表示装置、タッチパネルなどの入力装置等の各種製品やその部材又は部品の構成材として使用することができる。」 (2) 対比 本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。 ア 基材 (ア) 引用発明は、「PETフィルム(厚さ100μm)上にバーコーターを用いて中空シリカ微粒子(直径65nm)とマトリクス樹脂とを含む塗布液」「を塗布し」、「乾燥させ、紫外線を照射して硬化させることにより得られた」ものである。 (イ) 上記(ア)より、引用発明は、「厚さ100μm」の「PETフィルム」上に、「中空シリカ微粒子(直径65nm)とマトリクス樹脂とを含む塗布液」の「硬化」物の層が形成されたものであると理解できる。 そうすると、引用発明の「PETフィルム」は、本願発明の「基材」に相当する。 イ 硬化型樹脂及び低屈折率粒子及び反射防止層 (ア) 上記ア(ア)より、「中空シリカ微粒子(直径65nm)とマトリクス樹脂とを含む塗布液」の「硬化」物の層は、「中空シリカ微粒子(直径65nm)」と「紫外線を照射」「して硬化」する「マトリクス樹脂」を含むものである。 引用発明の「紫外線を照射」「して硬化」する「マトリクス樹脂」は、本願発明の「硬化型樹脂」に相当する。 (イ) 引用発明の「中空シリカ微粒子(直径65nm)」は、その文言が意味するとおり、その内部が「中空」の「シリカ微粒子」である。そうすると、引用発明の「中空シリカ微粒子」は、その「中空」の体積割合に応じて、「シリカ」(SiO_(2))の屈折率(可視光域で1.46程度)より、低い屈折率を有するものとなる。引用発明の「中空シリカ微粒子(直径65nm)」は、本件出願の明細書の【0006】の記載からみて、本願発明でいう「低屈折率粒子」に相当する。 (ウ) 引用発明は、「反射防止フィルム」である。 そうすると、上記ア(イ)の引用発明の構造及び上記(ア)、(イ)から、引用発明の「中空シリカ微粒子(直径65nm)とマトリクス樹脂とを含む塗布液」の「硬化」物の層は、「反射防止フィルム」としての「反射防止」機能を有すると理解できる(当合議体注:図1及び【0030】の「符号の説明」からも確認できる。引用発明の「<耐屈曲性評価>」における「反射防止層(面)」との記載とも整合する。)。 してみると、引用発明の「中空シリカ微粒子(直径65nm)とマトリクス樹脂とを含む塗布液」の「硬化」物の層は、本願発明の、「硬化型樹脂および低屈折率粒子を含む」とされる、「反射防止層」に相当する。 ウ 積層構造及び反射防止フィルム (ア) 上記ア(イ)より、引用発明は、「PETフィルム」と、「中空シリカ微粒子(直径65nm)とマトリクス樹脂とを含む塗布液」の「硬化」物の層とが積み重なったものからなると理解できる。 してみると、引用発明は、「PETフィルム」と、「中空シリカ微粒子(直径65nm)とマトリクス樹脂とを含む塗布液」の「硬化」物の層とからなる積層構造を有するということができる。 (イ) 上記アとイと上記(ア)より、引用発明の「反射防止フィルム」は、本願発明の「反射防止フィルム」に相当する。また、引用発明の「反射防止フィルム」と、本願発明の「反射防止フィルム」は、「基材と」、「反射防止層と」「を含む積層構造を有」する点で共通する。 (3) 一致点及び相違点 ア 一致点 本願発明と引用発明は、次の構成で一致する。 「基材と、 硬化型樹脂および低屈折率粒子を含む反射防止層とを含む積層構造を有する、 反射防止フィルム。」 イ 相違点 本願発明と引用発明は、次の点で相違する。 (相違点1) 本願発明は、「反射防止層側の視感反射率が2%以下であ」るのに対して、引用発明は、「<反射率評価>」「に従って評価した」「反射率が6(%)である」点。 (相違点2) 「積層構造」が、本願発明は、「前記基材および前記反射防止層の間に位置し且つ硬化型樹脂を含むハードコート層」「を含」み、「前記ハードコート層は硬化型樹脂として」、「硬化型ポリオルガノシルセスキオキサン樹脂」「及び」「2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物を含」むのに対して、引用発明は、「ハードコート層」を有していない点。 (相違点3) 本願発明は、「反射防止フィルム試験片についてその反射防止層側を内側にして屈曲が行われる円筒形マンドレル法による第1屈曲試験において耐屈曲性を示すマンドレル直径の最小値が2mm以上3mm以下の範囲にあり、これと共に或いはこれに代えて、反射防止フィルム試験片についてその反射防止層側を外側にして屈曲が行われる円筒形マンドレル法による第2屈曲試験において耐屈曲性を示すマンドレル直径の最小値が5mm以上10mm以下の範囲にあり」、 「反射防止フィルム試験片についてその反射防止層側を内側にして屈曲箇所曲率半径一定の100回の連続屈曲が行われる第1連続屈曲試験において耐屈曲性を示す屈曲箇所曲率半径の最小値の2倍値が2mm以上10mm未満の範囲にあり、これと共に或いはこれに代えて、反射防止フィルム試験片についてその反射防止層側を外側にして100回の連続屈曲が行われる第2連続屈曲試験において耐屈曲性を示す屈曲箇所曲率半径の最小値の2倍値が5mm以上16mm未満の範囲にある」のに対して、引用発明は、そのようなものであるかどうか不明な点(当合議体注:ここで、[A]「前記第1屈曲試験及び第2屈曲試験は、JIS K5600-5-1に準拠して行われるものであ」る。また、「前記第1連続屈曲試験及び第2連続屈曲試験は、以下の方法により行われるものである」。 [B1]・第1連続屈曲試験 前記反射防止フィルムから切り出された試験片(幅100mm×長さ150mm)について、試験速度50r/min(1分間あたり50サイクル)の条件での100サイクルの屈曲試験を行う。第1連続屈曲試験の各サイクルには、試験片の長さ方向における中央部が反射防止層側を内側にして所定の最小曲率半径で屈曲するまで試験片長さ方向における両端が接近する試験片の屈曲動と、その後に当該両端が離反して試験片が元の平坦フィルム形状に戻る試験片の復帰動とが含まれる。100サイクルを経た時点で試験片がクラックを生じずに耐屈曲性を示す屈曲時最小曲率半径を調べる。 [B2]・第2連続屈曲試験 反射防止フィルムから切り出された試験片(幅100mm×長さ150mm)について、試験速度50r/min(1分間あたり50サイクル)の条件での100サイクルの屈曲試験を行う。第2連続屈曲試験の各サイクルには、試験片の長さ方向における中央部が反射防止層側を外側にして所定の最小曲率半径で屈曲するまで試験片長さ方向における両端が接近する試験片の屈曲動と、その後に当該両端が離反して試験片が元の平坦フィルム形状に戻る試験片の復帰動とが含まれる。100サイクルを経た時点で試験片がクラックを生じずに耐屈曲性を示す屈曲時最小曲率半径を調べる。 なお、相違点3における下線、及び、項目[A]、[B1]及び[B2]は、合議体が便宜上付与したものである。 以下、相違点3の[A]「JIS K5600-5-1に準拠して行われる」試験であって、相違点3の最初の下線の「反射防止フィルム試験片についてその反射防止層側を内側にして屈曲が行われる円筒形マンドレル法による第1屈曲試験」、及び、相違点3の2番目の下線の「反射防止フィルム試験片についてその反射防止層側を外側にして屈曲が行われる円筒形マンドレル法による第2屈曲試験」を、それぞれ「第1屈曲(内側)試験」及び「第2屈曲(外側)試験」ということとする。また、相違点3の[B1]「第1連続屈曲試験」の定義により行われる試験であって、相違点3の3番目の下線の「反射防止フィルム試験片についてその反射防止層側を内側にして屈曲箇所曲率半径一定の100回の連続屈曲が行われる第1連続屈曲試験」を、「第1連続屈曲(内側)試験」といい、相違点3の[B2]「第2連続屈曲試験」の定義により行われる試験であって、相違点3の4番目の下線の「反射防止フィルム試験片についてその反射防止層側を外側にして100回の連続屈曲が行われる第2連続屈曲試験」を、「第2連続屈曲(外側)試験」ということとする。)。 (4) 判断 ア 相違点2及び相違点3について 事案に鑑み、相違点2及び相違点3をまとめて先に検討する。 (ア) 引用発明の「耐屈曲性評価」の定義からみて、引用発明は、「JIS K 5600-5-1に準拠し、円筒形マンドレル試験機(ERICHSEN社製model 266)を用い」、引用発明の「反射防止フィルム」の「硬化」物の層側の面(「反射防止層面」)「が円筒形マンドレルの外側又は内側になるように試料台に挟み、曲げ試験を行」い、「反射防止層面の傷及びクラックの有無を目視で確認し」、「傷及びクラックが無い場合は、円筒形マンドレルの半径が小さいものに変更して試験を行」い、「外曲げ及び内曲げのそれぞれの曲率半径は、傷及びクラックが発生しない場合の最小円筒形マンドレル半径とした」「耐屈曲性評価」による「反射防止フィルムの耐屈曲性が2mm(曲率半径)」である。 (イ) 引用発明において、上記(ア)の「耐屈曲性評価」による「反射防止フィルムの耐屈曲性が2mm(曲率半径)」であるとは、引用発明の「反射防止フィルム」の反射防止層面が円筒形マンドレルの「外側」及び「内側」になるように「2通り」(「外曲げ」及び「内曲げ」の「2通り」)の方法で試料台に挟み、曲げ試験を行って、「外曲げ」及び「内曲げ」の「2通り」の曲げ試験においてクラックが発生しなかった最小の円筒型マンドレルの曲率半径を意味すると理解できる。 なぜなら、引用発明の「反射防止フィルム」は、「塗布液」の「硬化」物の層(反射防止層)が、「可撓性を有する樹脂基板上に表示素子を備えた折り曲げ可能な」「フレキシブル表示装置」(【0001】)の最表面に配置されるように配置されるものであるところ、引用例3には、フレキシブル表示装置あるいは反射防止フィルムの曲げの方向・曲げの態様については記載されていない。そうすると、引用発明においては、「塗布液」の「硬化」物の層(反射防止層)を内側とする曲げ(内曲げ)及び外側とする曲げ(外曲げ)の両方が想定され、耐屈曲性評価も内曲げ及び外曲げの両方で曲げ試験を行い、クラックが発生しなかった最小の円筒型マンドレルの曲率半径を評価すると理解するのが一番自然であるからである。そして、このような理解は、引用例3の【0016】の「反射防止フィルムは、JIS K 5600-5-1に準拠し、半径2mmの円筒形マンドレルを用いて屈曲試験を行った後、反射防止層13表面を目視で観察した結果、クラックが生じていないことが必要である。」との記載、【0028】【表1】下の「ただし、表1における曲率半径とは、上記<耐屈曲性評価>に記載された方法で、傷及びクラックが発生しない場合の最小円筒形マンドレル半径とした。」との記載とも矛盾しない。 そして、JIS K 5600-5-1(塗料一般試験方法- 第5部:塗膜の機械的性質- 第1節:耐屈曲性(円筒形マンドレル法))の耐屈曲性の試験においては、2mm、3mm、4mm、5mm、6mm、8mm、10mm、12mm、16mm、20mm、25mm及び32mmの12種類の直径のマンドレルを使用し、素地上の塗膜(面)をマンドレルに対して外側に配置し、順次小さな直径のマンドレルに変更して屈曲試験を行い、塗膜の割れ及び素地からの塗膜剥がれが初めて起こったマンドレルの直径を記録する(マンドレルの直径を最小(2mm)にしても塗膜の割れやはがれの起こらなかった試験においてはその旨を記録する。)ものであるところ、「外曲げ」とした時の塗膜にかかる応力、歪みが「内曲げ」とした時よりも大きいため、「内曲げ」よりも「外曲げ」において先に塗膜にクラックや剥がれが発生する(より大径のマンドレルでクラックや剥がれが発生する)ことは、当業者であれば容易に理解できることである。 そうしてみると、引用発明は、JIS K 5600-5-1に準拠した「外曲げ」及び「内曲げ」の2通りの曲げ試験において、傷やクラックが発生しなかった最小のマンドレルの曲率半径が2mm(マンドレル直径が4mm)とのことであるから、「内曲げ」のみで行った場合の曲げ試験においては、傷やクラックが発生しなかった最小のマンドレルの曲率半径は、これよりも小さい、曲率半径1mm(マンドレル直径2mm)?曲率半径1.5mm(同直径3mm)の範囲となる蓋然性が高い。 (当合議体注:仮に、引用発明の耐屈曲性評価が「外曲げ」のみで行った評価結果であるとしても、「外曲げ」による耐屈曲性が曲率半径2mm(マンドレル直径4mm)とのことから、「内曲げ」で行う耐屈曲性評価に従って評価した引用発明の耐屈曲性は、やはり曲率半径1mm(同直径2mm)?曲率半径1.5mm(同直径3mm)の範囲である蓋然性が高い。あるいは、引用発明の耐屈曲性評価が「内曲げ」のみで行った評価結果であるとしても、「内曲げ」による耐屈曲性が曲率半径2mm(同直径4mm)とのことから、「外曲げ」で行う耐屈曲性評価に従って評価した引用発明の耐屈曲性は、これより大径の、曲率半径2.5(同直径5mm)?曲率半径5mm(同直径10mm)の範囲である蓋然性が高い。)。 (ウ) 一方、引用例3の【0019】には、引用発明の「反射防止フィルム」について、「可撓性を有する透明樹脂フィルム基材10と反射防止層13との間には、ハードコート層を設けてもよい。」との記載がある。 (エ) 引用例3の上記(ウ)の記載に接した当業者は、有機ELディスプレイなどの表示装置に用いられる可とう性に優れるハードコート層に関連する引用例6(特開2015-212353号公報)や引用例5(国際公開第2016/203957号)を参考にすることができる。 引用例6の記載(【0009】、【0154】、【0168】?【0170】【表1】、【0172】?【0173】、【0177】、【0179】?【0181】【表2】等)に接した当業者は、引用例6の実施例7あるいは実施例10のハードコートフィルムにおける、硬化型のエポキシ基含有ポリオルガノシルセスキオキサン樹脂を含むハードコート層であって、耐屈曲性(円筒形マンドレル法);マンドレル試験による、JIS K5600-5-1に準じて評価したハードコートフィルムの耐屈曲性の評価結果が「マンドレル試験(φ)」「2mm」であり、高い表面硬度を維持しながら、可とう性を有するハードコート層が、上記の引用例3の【0019】に記載・示唆される、透明樹脂フィルム基材と反射防止層との間に設けられるハードコート層として好適なものと理解できる。 (当合議体注:引用例6においては、「ハードコートフィルムの耐屈曲性」について、「JIS K5600-5-1に準じて評価した」との記載はあるものの、耐屈曲性の評価結果として記載される「マンドレル試験(φ)」が、クラックが生じなかった最小のマンドレル直径(φ)として定義されるものであるのか、それとも、クラックが初めて生じたマンドレル直径(φ)として定義されるものであるのかについての説明はない。また、「ハードコートフィルムの耐屈曲性」の評価を、「外曲げ」で行ったのか、「内曲げ」で行ったのかも、あるいは「外曲げ」及び「内曲げ」の両方で行ったのかも不明である。 しかしながら、引用例8(特開2015-112599号公報)の【0086】、【0087】【表1】、引用例9(特表2018-506617号公報)の【0131】、【0133】【表4】、引用例10(国際公開第2017/221783号)の[0005]、[0064]?[0066]、[0108][表1]、引用例11(国際公開第2018/037488号)の[0069]?[0070]、[0105]、[0111][表2]、引用例1の【0036】、【0108】などの記載から、ディスプレイに係るハードコートフィルム(ハードコート層)の耐屈曲性の試験においては、クラックが生じないマンドレル直径を耐屈曲性の評価(結果)値とするのが普通のことであると理解できる。そうすると、引用例6の実施例7あるいは実施例10の「ハードコートフィルム」にクラックが生じないマンドレル直径(φ)が、規格における最小の2mmであるとのことから、(「ハードコートフィルムの耐屈曲性」の評価が、「外曲げ」、「内曲げ」あるいは「外曲げ」及び「内曲げ」のいずれの方法で行ったのかに関係なく、)引用例6の実施例7あるいは実施例10のハードコート層は、上記の引用例3の【0019】に記載・示唆される「透明樹脂フィルム基材10と反射防止層13との間に」「設けられる」「ハードコート層」として好適なものと当業者は理解できる。引用例6の耐屈曲性の評価結果がクラックが初めて発生するマンドレル直径を意味すると仮定しても(この場合、クラックが生じない最小のマンドレル直径(φ)は3mmということになる。)、同様である。) また、引用例6及び引用例5に接した当業者は、[a]硬化型のエポキシ基含有ポリオルガノシルセスキオキサン樹脂(引用例6【0009】)を含むハードコート層形成用硬化性組成物において、硬化型のエポキシ基含有ポリオルガノシルセスキオキサン樹脂以外に、エポキシ化合物(引用例6【0105】?【0114】)、オキセタン化合物、ビニルエーテル化合物等を含有させることで、硬化性組成物や硬化物に対して所望の性能を付与することができること(引用例6【0009】、【0104】及び【0121】)、[b]エポキシ化合物をエポキシ基含有ポリオルガノシルセスキオキサン樹脂の全量100重量部に対して、0.5重量部以上含有させることにより、硬化物の可とう性をより優れたものとできること、また、100重量部以下とすることにより、硬化物の耐擦傷性をより向上できること(引用例5[0009]、[0089]及び[0102])、エポキシ化合物として、脂環式エポキシ化合物が好ましいこと(引用例5[0089]及び[0090])を理解できる。 さらに、引用例5の実施例1?4の記載([0209]?[0211])及び[0217]?[0219][表1]、[0222]のマンドレル試験結果(mm)から、当業者は、[c]可とう性をより優れたものとするために、硬化型のエポキシ基含有ポリオルガノシルセスキオキサン樹脂を含むハードコート層に含有させる脂環式エポキシ化合物として、[3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(3,4-エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート](「セロキサイド2021P」)(引用例5[0096][化16](i-1))、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル(引用例5[0096])、2,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)プロパン(引用例5[0096])よりも、(2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物(「EHPE3150」)(引用例5[0098])が、可とう性の向上がより期待できる点で好ましいと理解する(当合議体注:[0219][表1]の実施例1?4のハードコート層の厚み及びマンドレル試験結果(mm)からみて、実施例1?4のうち、ハードコート層が硬化型のエポキシ基含有ポリオルガノシルセスキオキサン樹脂及び「EHPE3150」を含有する、実施例2が最も優れた可とう性を示すことが分かる。)。 (オ) 以上勘案すると、引用例3の【0019】の記載・示唆に基づいて、透明樹脂フィルム基材と反射防止層との間に設けられるハードコート層として、引用例6の実施例7あるいは実施例10として記載された、可とう性に優れる硬化型のエポキシ基含有ポリオルガノシルセスキオキサン樹脂を含む5μm厚のハードコート層を採用すること、より優れた可とう性とするため、ハードコート層が硬化型のエポキシ基含有ポリオルガノシルセスキオキサン樹脂及びEHPE3150を含有した構成とすることは、引用例5及び引用例6に接した当業者が容易推考する範囲内のことである。 そうすると、引用発明において、PETフィルム及び反射防止層(塗布液の硬化物の層)との間に、硬化型樹脂として、硬化型ポリオルガノシルセスキオキサン樹脂、及び、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物(EHPE3150)を含む硬化型樹脂を含む、5μm厚のハードコート層を備えた積層構造を有する構成とし、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。 そして、引用発明のPETフィルム及びハードコート層それぞれの厚み及び引用例6に記載のハードコート層の耐屈曲性(可とう性)からみて、上記設計変更を施してなる引用発明において、前記(イ)で述べた反射防止フィルムの耐屈曲性の変化は小さいと考えられる。そうすると、上記設計変更を施してなる引用発明の、JIS K 5600-5-1に準拠して「内曲げ」で行う耐屈曲性評価に従って評価した耐屈曲性は、マンドレル直径2mm?3mmの範囲となる蓋然性が高いといえるから、相違点3に係る本願発明の構成のうち、「第1屈曲(内側)試験」において耐屈曲性を示すマンドレル直径の最小値が2mm以上3mm以下の範囲にある、との要件を満足するということができる(当合議体注:仮に、引用発明の耐屈曲性評価が「外曲げ」のみで行った評価結果であるとしても、前記(イ)「当合議体注」において示したように、上記設計変更を施してなる引用発明の、JIS K 5600-5-1に準拠して「内曲げ」で行う耐屈曲性評価は、マンドレル直径2mm?3mmの範囲となる蓋然性が高いといえるから、相違点3に係る本願発明の構成のうち、「第1屈曲(内側)試験」において耐屈曲性を示すマンドレル直径の最小値が2mm以上3mm以下の範囲にある、との要件を満足するといえる。あるいは、引用発明の耐屈曲性評価が「内曲げ」のみで行った評価結果であるとしても、上記設計変更を施してなる引用発明の、JIS K 5600-5-1に準拠して「外曲げ」で行う耐屈曲性評価は、マンドレル直径5mm?10mmの範囲となる蓋然性が高いといえるから、相違点3に係る本願発明の構成のうち、「第2屈曲(外側)試験」において耐屈曲性を示すマンドレル直径の最小値が5mm以上10mm以下の範囲にある、との要件を満足するといえる。)。 さらに、上記設計変更を施してなる引用発明は、引用発明及びハードコート層の耐屈曲性能からみて、相違点3に係る構成のうち、「第1連続屈曲(内側)試験」において耐屈曲性を示す屈曲箇所曲率半径の最小値の2倍値が2mm以上10mm未満の範囲にある、あるいは、「第2連続屈曲(外側)試験」において耐屈曲性を示す屈曲箇所曲率半径の最小値の2倍値が5mm以上16mm未満の範囲にある、との要件を満足する蓋然性が高い(当合議体注:本願発明の「第1連続屈曲(内側)試験」及び「第2連続屈曲(外側)試験」の試験速度やサイクル数等の試験内容からみて、「第1連続屈曲(内側)試験」及び「第2連続屈曲(外側)試験」における耐屈曲性を示す屈曲箇所曲率半径の最小値の2倍値は、「内曲げ」で行う耐屈曲性評価(「第1屈曲(内側)試験」)及び「外曲げ」で行う耐屈曲性評価(「第2屈曲(外側)試験」)の結果と、同じ値、あるいは若干大きな値になると考えられ、大きく異なる値となることは考えにくい。)。 さらに進んで、仮に、引用例3の【0019】の記載・示唆に基づき、引用発明に上記の設計変更を施した結果、「反射防止フィルムの耐屈曲性」が低下(あるいは変化)することがあるとしても、当業者であれば、「反射防止フィルムの耐屈曲性が2mm(曲率半径)」となるよう考慮する。例えば、当業者は、PETフィルムをより薄いものとできる(引用例3【0015】)。あるいは、当業者は、「塗布液」中の「中空シリカ微粒子」の含有量を調整し、耐屈曲性を調整できる(同【0012】)。そして、以上のような設計変更を施してなる引用発明は、相違点3に係る本願発明の構成を満足する蓋然性が高い。 あるいは、引用例3に接した当業者であれば、耐屈曲性に優れた反射防止フィルムとして、相違点3に係る各試験における数値範囲となるよう適宜設計することができる。 イ 相違点1について 反射防止フィルムにおいては、視感反射率は低いことが望ましい。 そうすると、引用発明において、塗布液の中空シリカ微粒子の含有量を調整したり(塗布液に「中空シリカ微粒子(直径65nm)」あるいは「マトリクス樹脂」を追加する。)、微粒子の材料・粒径あるいはバインダー樹脂の材料を変更したりして、反射防止層の屈折率あるいは厚みを調整し、引用発明の反射防止層(塗布液の硬化物の層)側の視感反射率を2%以下とすることは、当業者の設計上のことである(当合議体注:引用例1(【0053】?【0060】、【0110】【表1】)や引用例12(45頁左欄1行から46頁左欄9行、45頁図6,7、44頁左欄3?4行)、引用例13(特許請求の範囲(請求項1?7)、【0025】、【0050】、【0073】【表1】、【0075】)、引用例14(【0040】、【0058】【表1】(実施例1?3))等に記載されているように、(中空シリカ等の)低屈折率粒子を含む反射防止層(低屈折率層)により、2%以下の低反射率、低視感反射率を達成できることは技術常識である。また、引用例3の【0011】?【0017】の記載によれば、反射防止層の厚み、中空シリカ微粒子の含有量(体積%)、微粒子の直径・材料、マトリクス樹脂の種類、反射防止層の屈折率などを変更することができる。)。 前記アで述べた上記相違点2及び相違点3に係る設計変更を含めて検討しても同様である。すなわち、下層となるハードコート層の屈折率に応じた、反射防止層の屈折率、厚み及び反射率の最適化は、引用発明(反射防止フィルム)において当業者が当然に考慮する技術的事項である。 (5) 本願発明の効果について ア 本件出願の明細書には、発明の効果に関する明記がない。 ただし、本件出願の明細書の【0010】の「本発明の反射防止フィルムは、高い反射防止性とともに高い耐屈曲性を実現するのに適する。」との記載が、発明の効果に関連すると理解できる。 イ しかしながら、「高い反射防止性とともに高い耐屈曲性を実現する」とのことは、「低コストで生産性が高く、且つ耐屈曲性、耐擦傷性及び透明性に優れる反射防止フィルムを備えるフレキシブル表示装置を提供すること」(引用例3の【0005】)を課題とする引用発明に上記相違点1?3に係る設計変更を施したものにおいて、当業者が期待する効果(あるいは、引用発明が奏する効果の延長上の効果)にすぎない。あるいは、引用発明に前記相違点1?3に係る設計変更を施したものが奏する効果である。 (6) 令和3年1月19日付け意見書及び令和3年1月18日付け手続補足書(実験成績証明書)(以下、それぞれを単に「意見書」及び「実験成績証明書」という。)における、理由2(進歩性)についての請求人の主張について ア 請求人は、実験成績証明書を提出するとともに、意見書の「3.本願発明について」において、「EHPE3150をエポキシ基含有ポリシルセスキオキサンと共に含むハードコート層を有するハードコートフィルムは、ハードコート層がエポキシ基含有ポリシルセスキオキサン以外のエポキシ化合物を含まないハードコートフィルム、本願規定に含まれないエポキシ基含有ポリシルセスキオキサン以外のエポキシ化合物を含むハードコート層を有するハードコートフィルムよりも優れた耐屈曲性能を示すことが証明されました。このような優れた耐屈曲性能を基本性能として有するハードコートフィルムは、ハードコート層に反射防止層を被覆した反射防止フィルムにも反映されると言えます。」と主張する。 また、請求人は、意見書の「4.本願発明が特許されるべき理由」「4-3.拒絶理由(3)について」において、引用例6に関し、「本拒絶理由通知で摘示された引用例6の実施例7、10やその他実施例のハードコートフィルムのハードコート層には、エポキシ基含有ポリシルセスキオキサン以外のエポキシ化合物としてEHPE3150を含むものはありません。」、「引用例6の段落0104?0116には、本願特定のエポキシ基含有ポリシルセスキオキサン以外のエポキシ化合物であるEHPE3150を包含するエポキシ化合物を含んでいてもよい旨の記載がありますが、添加の目的は、記載されておらず、耐屈曲性の向上についての示唆はありません。つまり、引用例6には、エポキシ化合物を添加して耐屈曲性を向上させるという思想がなく、エポキシ化合物としてEHPE3150を選択する動機付けがありません。また、エポキシ化合物としてEHPE3150の選択により耐屈曲性能がさらに向上することは記載も示唆もされていません。従いまして、本願発明の反射防止フィルムの優れた耐屈曲性能は、引用例3に引用例6を適用しても予想できない格別顕著性があると言えます。」、「本願発明は、引用例3、5?9から予測できない格別顕著性な効果を奏しますので、進歩性を有するものと思料します。従いまして、拒絶理由(3)は解消されたものと思料します。」と主張する。 イ 請求人は、実験成績証明書において、(反射防止層が形成されていない点を除き、本願の実施例3に相当する)参考実施例1と、(EHPE3150を含まず、エポキシ基含有ポリシルセスキオキサン樹脂からなる硬化性樹脂組成物を用いた)参考比較例1及び参考比較例2、あるいは(セロキサイド2021P及びエポキシ基含有ポリシルセスキオキサン樹脂からなる硬化性樹脂組成物を用いた)参考比較例3及び参考比較例4とを比較し(表2)、「本願特定のエポキシ基含有ポリシルセスキオキサン以外のエポキシ化合物であるEHPE3150をエポキシ基含有ポリシルセスキオキサンと共に含むハードコート層を有する参考実施例1のハードコートフィルムは、ハードコート層がEHPE3150を含まない参考比較例1、2のハードコートフィルム、本願規定に含まれないエポキシ化合物であるセロキサイド2021Pを含むハードコート層を有する参考比較例3、4のハードコートフィルムよりも優れた耐屈曲性能を示した。」ことを根拠に、上記アのとおり主張する。しかしながら、参考実施例、参考比較例1?参考比較例4、参考実施例と参考比較例1?4の第1、第2屈曲試験結果、及び、参考実施例のハードコートフィルムが参考比較例1?4ハードコートフィルムよりも優れた耐屈曲性能を示すことは、本件出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面の記載から自明なことではない。したがって、本願発明の進歩性の判断に際し、これらを参酌することはできない。 ウ また、本願発明の「ハードコート層」の硬化型樹脂は、「エポキシ基含有ポリシルセスキオキサン樹脂」以外の「硬化型ポリオルガノシルセスキオキサン樹脂」を含むものであってよいものである。そうすると、参考実施例1の(エポキシ基含有ポリシルセスキオキサン樹脂からなる)ハードコートフィルムについて、参考比較例1?4ハードコートフィルムよりも優れた耐屈曲性能を示すことが証明されたからといって、本願発明についてまで一般化・拡張できるわけではない。そうすると、「本願発明の反射防止フィルムの優れた耐屈曲性能は、引用例3に引用例6を適用しても予想できない格別顕著性がある」とのことは、本願発明の構成に基づかない主張である。 エ さらに、前記(4)ア(ウ)?(エ)で述べたとおりであるから、可とう性に注目する当業者が、ハードコート層の硬化型のエポキシ基含有ポリオルガノシルセスキオキサン樹脂に含有する脂環式エポキシ化合物として、EHPE3150を選択することには動機付けがあるといえる。また、EHPE3150を含ませることにより耐屈曲性を向上できるとのことを参酌するとしても、引用例5の記載事項に基づき、当業者が予測できる(期待する)ことであって、格別顕著なものということはできない。 オ 以上のとおりであるから、意見書及び実験成績証明書における請求人の主張を採用することはできない。 (7) 上記(1)?(4)においては、引用例3の実施例1に基づき、引用発明を認定し、対比・判断を行ったが、これに替えて、引用例3の【0005】?【0007】、【0010】?【0019】の「実施の形態1」の一般記載及び図1から理解される「反射防止フィルム」、あるいは、「可撓性を有する透明樹脂フィルム基材10と反射防止層13との間に」「ハードコート層を設け」(【0019】)た「反射防止フィルム」に基づいて、引用発明を認定し、対比・判断を行っても同様である。 (8) 小括 本願発明は、引用例3に記載された発明及び引用例5、引用例6に記載に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 2 理由4(サポート要件)について (1) 本件出願の明細書の【0005】の記載からみて、本願発明の発明が解決しようとする課題は、「高い反射防止性とともに高い耐屈曲性を実現するのに適した反射防止フィルムを提供すること」にあると認められる。 (2) 請求項1の「ハードコート層」についての記載によれば、本願発明の「ハードコート層」は、硬化型樹脂として、「硬化型ポリオルガノシルセスキオキサン樹脂」及び「2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物」を含むものであればよく、「硬化型ポリオルガノシルセスキオキサン樹脂」として、「硬化型エポキシ基含有ポリオルガノシルセスキオキサン樹脂」に限られるわけではなく、例えば、(メタ)アクリロイル基、アルキル基、フェニル基、ハロゲン化炭化水素基、アミノ基、ビニル基、メルカプト基、イソシアネート基、シリル基などを含有する硬化型ポリオルガノシルセスキオキサン樹脂を含むものであってよい。 (3) これに対して、本件出願の明細書の【0128】?【0155】【表1】には、[a]「エポキシ基含有ポリシルセスキオキサン」と「脂環式エポキシ化合物」である「EHPE3150」を所定量含むハードコート層形成用の硬化性樹脂組成物を調製し、透明基材である50μmのPENフィルム上に、塗布して塗膜を形成した後、当該塗膜を乾燥させ、紫外線硬化処理・加熱処理を行い、PENフィルム上にウエットコーティング法によって厚さ10μmのハードコート層(ハードコート層HC_(1))を形成し、表面修飾ナノダイヤモンド粒子ND_(1)を含有するTHF溶液と、中空シリカと硬化型樹脂成分を所定量含む防止塗料と、フッ素含有硬化性化合物溶液とを、所定量混合して、表面修飾ナノダイヤモンドND_(1)の分散する第1の反射防止層形成用組成物を調製し、ハードコート層HC_(1)付きPENフィルムのハードコート層HC_(1)上に、反射防止層形成用組成物を塗布して塗膜を形成した後、当該塗膜を乾燥させ、紫外線硬化処理を行って、ハードコート層HC_(1)上に厚さ100nmの反射防止層(反射防止層AR_(1))を形成して、PENフィルムとハードコート層HC_(1)と反射防止層AR_(1)との積層構造を有する反射防止フィルムとした実施例1、[b]実施例1においてハードコート層HC_(1)の厚みを30μmとした実施例2、[c]実施例1においてハードコート層HC_(1)の厚みを40μmとした実施例3、[d]中空シリカと硬化型樹脂成分を所定量含む防止塗料と、低屈折率粒子である中空シリカ粒子の分散液を所定量含む混合液と、表面修飾ナノダイヤモンドND_(1)含有THF溶液と、フッ素含有硬化性化合物溶液とを、所定量混合して第2の反射防止層形成用組成物を調製し、ハードコート層HC_(1)上に反射防止層AR_(2)を形成し、PENフィルムとハードコート層HC_(1)(厚さ10μm)と反射防止層AR2(厚さ100nm)との積層構造を有する反射防止フィルムとした実施例4、[e]実施例4においてハードコート層HC_(2)の厚みを30μmとした実施例5、[f]実施例4においてハードコート層HC_(2)の厚みを40μmとした実施例6が開示されている。 また、本件出願の明細書の【0155】【表1】及び【0154】には、実施例1?実施例6の「視感反射率」が0.3?1.1%であり、実施例1?実施例6の「第1屈曲(内側)試験」における耐屈曲性を示すマンドレル直径の最小値が2mm、「第2屈曲(外側)試験」における耐屈曲性を示すマンドレル直径の最小位置が5mm、実施例1?実施例6の「第1連続屈曲(内側)試験」における耐屈曲性を示す屈曲箇所曲率半径の最小値の2倍値が2mm、「第2連続屈曲(外側)試験」における耐屈曲性を示す屈曲箇所曲率半径の最小値の2倍値が5mmであること、及び、実施例1?実施例6の反射防止フィルムは、いずれも1.1%以下の視感反射率を示すとともに、第1及び第2屈曲試験並びに第1及び第2連続屈曲試験において比較例1?3の反射防止フィルムよりも「高い耐屈曲性」を示すとの評価結果、が示されている。 (4) ここで、上記(3)の実施例1?実施例6、及び、実施例1?実施例6の「第1屈曲(内側)試験」、「第2屈曲(外側)試験」、「第1連続屈曲(内側)試験」及び「第2連続屈曲(外側)試験」の評価結果からは、基材と、硬化型樹脂として、「エポキシ基含有ポリオルガノシルセスキオキサン樹脂」以外の「ポリオルガノシルセスキオキサン樹脂」と「EHPE3150」を含むハードコート層と、硬化型樹脂及び低屈折率粒子を含む反射防止層とからなる積層構造を有し、「第1屈曲(内側)試験」における耐屈曲性を示すマンドレル直径の最小値が2mm以上3mm以下、「第2屈曲(外側)試験」における耐屈曲性を示すマンドレル直径の最小位置が5mm以上10mm以下、「第1連続屈曲(内側)試験」における耐屈曲性を示す屈曲箇所曲率半径の最小値の2倍値が2mm以上10mm未満、「第2連続屈曲(外側)試験」における耐屈曲性を示す屈曲箇所曲率半径の最小値の2倍値が5mm以上16mm未満となる「高い屈曲性」を示す反射防止フィルムを導き出すことはできない(当合議体注:「エポキシ基含有ポリオルガノシルセスキオキサン樹脂」と「EHPE3150」を含む硬化物としてのハードコート層と、「エポキシ基」を含有しない「ポリオルガノシルセスキオキサン樹脂」、例えば、(メタ)アクリロイル基、アルキル基、フェニル基、ハロゲン化炭化水素基、アミノ基、ビニル基、メルカプト基、イソシアネート基、シリル基などを含有するポリオルガノシルセスキオキサン樹脂と「EHPE3150」を含む硬化物としてのハードコート層とでは、材料の物性の違いを考慮すると、その可とう性(耐屈曲性)、表面硬度や、傷及びクラックの生じ易さは大きく異なると考えるのが自然である。)。 また、反射防止フィルムのハードコート層を、硬化性樹脂として、「硬化型ポリオルガノシルセスキオキサン樹脂」及び「2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物」を含むものとしさえすれば、「第1屈曲(内側)試験」における耐屈曲性を示すマンドレル直径の最小値が2mm以上3mm以下、「第2屈曲(外側)試験」における耐屈曲性を示すマンドレル直径の最小位置が5mm以上10mm以下、「第1連続屈曲(内側)試験」における耐屈曲性を示す屈曲箇所曲率半径の最小値の2倍値が2mm以上10mm未満、「第2連続屈曲(外側)試験」における耐屈曲性を示す屈曲箇所曲率半径の最小値の2倍値が5mm以上16mm未満となる「高い耐屈曲性」を示すものとできるとの技術常識もない。 (5) そうしてみると、たとえ技術常識を参酌したとしても、発明の詳細な説明の記載から、当業者が、「高い反射防止性とともに高い耐屈曲性を実現する」との発明の課題を解決できると認識できるのは、実施例1?6に開示された組成・構造の反射防止層及びハードコート層を備え、「第1屈曲(内側)試験」における耐屈曲性を示すマンドレル直径の最小値が2mm、「第2屈曲(外側)試験」における耐屈曲性を示すマンドレル直径の最小位置が5mm、「第1連続屈曲(内側)試験」における耐屈曲性を示す屈曲箇所曲率半径の最小値の2倍値が2mm、「第2連続屈曲(外側)試験」における耐屈曲性を示す屈曲箇所曲率半径の最小値の2倍値が5mmである、実施例1?6の反射防止フィルムから理解される範囲に限られるというべきであって、上記(2)に示した態様のものまでもが、発明の課題を解決できると当業者が認識することはできない。 (6) 意見書における、理由4(サポート要件)についての請求人の主張について ア 請求人は、意見書において、理由4(サポート要件)について、「上記補正・・・略・・・により、本願発明の反射防止フィルムにおいて、ハードコート層が、硬化型ポリオルガノシルセスキオキサン樹脂と、エポキシ基含有ポリシルセスキオキサン以外のエポキシ化合物としてEHPE3150を含む範囲に限定されました。」、「当該範囲であれば、本願の実施例、及び本書に添付の実験成績証明書で、本願発明の耐屈曲性能を示すことが予測できる範囲に限定されたものと思料します。」と主張する。 イ しかしながら、前記(1)?(5)で述べたとおりであるから、意見書における請求人の主張を採用することはできない。 (7) 以上のとおりであるから、本願発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではなく、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし発明の課題が解決できると認識できる範囲のものでもない。 よって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるということができないから、本件出願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 第3 むすび 本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。また、本件出願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 したがって、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2021-06-10 |
結審通知日 | 2021-06-15 |
審決日 | 2021-06-29 |
出願番号 | 特願2018-51990(P2018-51990) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(G02B)
P 1 8・ 121- WZ (G02B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 清水 督史、後藤 大思 |
特許庁審判長 |
樋口 信宏 |
特許庁審判官 |
河原 正 早川 貴之 |
発明の名称 | 反射防止フィルム |
代理人 | 特許業務法人後藤特許事務所 |