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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1377267
審判番号 不服2020-6879  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-05-20 
確定日 2021-08-19 
事件の表示 特願2018- 80355「非変換符号化のためのスキャン順序」拒絶査定不服審判事件〔平成30年10月 4日出願公開、特開2018-157571〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2013年(平成25年)7月24日を国際出願日とする特願2016-528275号の一部を平成30年4月19日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成30年 5月21日 :国際出願翻訳文提出
平成30年12月 4日 :手続補正
令和 1年 6月 3日付け:拒絶理由通知
令和 1年 9月 2日 :意見書提出
令和 2年 1月16日付け:拒絶査定
令和 2年 5月20日 :拒絶査定不服審判請求及び手続補正
令和 2年 6月 8日付け:前置報告

第2 令和2年5月20日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
令和2年5月20日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
令和2年5月20日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成30年12月4日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9を、本件補正による特許請求の範囲の請求項1ないし8に補正するものであり、本件補正は、補正前の請求項1を補正後の請求項1とする補正事項を含むものである(下線は補正箇所を示す。なお、補正前の請求項1、補正後の請求項1の各構成の符号は、請求項の記載を分説するために当審で付したものであり、請求項の記載を、符号を用いて、以下、構成A1?D、A1’?D’等と称する)。

(補正前の請求項1)
【請求項1】
A1 第1のブロックをスキャンするためのスキャン順序をコンピューティングデバイスにより特定することであって、
A2 前記第1のブロックが変換符号化モードに関連付けられており、関連するサイズおよび関連する予測モードを有する、ことと、
B1 非変換符号化モードに関連付けられた第2のブロックを前記コンピューティングデバイスにより特定することであって、
B2 前記第2のブロックが、前記第1のブロックと同じ画像の一部であり、前記第1のブロックと同じ関連するサイズおよび同じ関連する予測モードを有する、ことと、
C1 前記第2のブロックに関連付けられた前記予測モードと前記第2のブロックに関連付けられた前記サイズとに基づいて、前記第1のブロックをスキャンするための前記スキャン順序とは逆のスキャン順序に従って前記第2のブロックをスキャンするか否かを決定することであって、
C2 前記予測モードがイントラ予測モードであり、かつ、前記サイズが所定のサイズより小さい場合、前記第2のブロックは前記逆のスキャン順序に従ってスキャンされる、ことと、
D 前記予測モードがイントラ予測モードであり、かつ、前記サイズが前記所定のサイズより小さいと判定することに応答して、前記逆のスキャン順序に従って前記第2のブロックを前記コンピューティングデバイスによりスキャンすることと
A を備える、方法。

(補正後の請求項1)
【請求項1】
A1’ 第1のブロックをスキャンするためのデフォルトのスキャン順序をコンピューティングデバイスにより特定することであって、
A2’ 前記第1のブロックが変換符号化モードに関連付けられており、関連するサイズおよび関連する予測モードを有し、
A3’ 前記第1のブロックをスキャンするための前記デフォルトのスキャン順序は、前記第1のブロックの前記予測モード又は前記第1のブロックの前記サイズの少なくとも一つに関連付けられている、ことと、
B1’ 非変換符号化モードに関連付けられた第2のブロックを前記コンピューティングデバイスにより特定することであって、
B2’ 前記第2のブロックが、前記第1のブロックと同じ画像の一部であり、前記第1のブロックと同じ関連するサイズおよび同じ関連する予測モードを有する、ことと、
C1’ 前記第2のブロックに関連付けられた前記予測モードと前記第2のブロックに関連付けられた前記サイズとに基づいて、前記第1のブロックをスキャンするための前記デフォルトのスキャン順序とは逆のスキャン順序に従って前記第2のブロックをスキャンするか否かを決定することであって、
C2’ 前記予測モードがイントラ予測モードであり、かつ、前記サイズが所定のサイズより小さい場合、前記第2のブロックは前記逆のスキャン順序に従ってスキャンされる、ことと、
D’ 前記予測モードがイントラ予測モードであり、かつ、前記サイズが前記所定のサイズより小さいと判定することに応答して、前記逆のスキャン順序に従って前記第2のブロックを前記コンピューティングデバイスによりスキャンすることと、
A’ を備える、方法。

2 補正の適合性
(1)補正の目的について
請求項1に係る補正は、補正前の請求項1の構成A1、C1の「(前記)第1のブロックをスキャンするための(前記)スキャン順序」について、これを構成A1’、C1’の「(前記)第1のブロックをスキャンするための(前記)デフォルトのスキャン順序」と補正するとともに、「前記第1のブロックをスキャンするための前記デフォルトのスキャン順序は、前記第1のブロックの前記予測モード又は前記第1のブロックの前記サイズの少なくとも一つに関連付けられている」という構成A3’を追加する補正である。
当該補正は、補正前の「第1のブロックをスキャンするためのスキャン順序」を、「第1のブロックをスキャンするためのデフォルトのスキャン順序」として限定するとともに、該デフォルトのスキャン順序について「前記第1のブロックの前記予測モード又は前記第1のブロックの前記サイズの少なくとも一つに関連付けられている」という定義を追加することで、第1のブロックをスキャンするためのスキャン順序を第1のブロックの予測モード又は第1のブロックのサイズの少なくとも一つに関連付けられるものとして下位概念化することで限定するものであり、これらを総合すると、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正といえる。
そして、いずれの補正も本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は変わるものではなく、同一であるといえるから、請求項1に係る補正は、特許法第17条の2第5項第2号の規定に適合するものである。

(2)補正の範囲及び単一性について
本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲、及び図面(以下、明細書等という)には、以下の記載がある。(下線は、強調のため当審で付したものである。)

「【0043】
例示的スキャン順序
図4Aおよび図4Bに、ブロックをスキャンするのに利用可能な例示的スキャン順序400?410を示す。スキャン順序406?410は、スキャン順序400?404の逆のスキャン順序をそれぞれ備えることができる。いくつかの例では、スキャン順序400?404は、通常適用されるデフォルトのスキャン順序を備えることができ、スキャン順序406?410は、たとえば特定のサイズおよび/または予測モードなどの特定の特徴を含む非変換ブロックに適用され得る代替的スキャン順序を備えることができる。複数のデフォルトのスキャン順序が1つの実装で用いられる場合、ブロックのサイズ、ブロックに使用された予測モード、ブロックのタイプ(たとえば、輝度または色差)などに基づいて、デフォルトのスキャン順序をブロックに対して選択することができる。」

上記の明細書等の記載によれば、上記補正事項は、【0043】の記載に基づくものであるから、請求項1に係る補正は、本願出願時の明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第17条の2第3項の規定に適合するものである。

また、請求項1に係る補正は、上記のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であるから、本件補正前の請求項1に記載された発明と、本件補正後の請求項1に記載された発明は、発明の単一性の要件を満たすものといえ、請求項1に係る補正は、特許法第17条の2第4項の規定に適合するものである。

3 独立特許要件について
以上のように、請求項1に係る補正は、いわゆる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とする補正であるから、本件補正後の請求項1に記載された発明が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)は、上記1の補正後の請求項1、すなわち、令和2年5月20日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1、に記載の次のとおりのものである。

(本件補正発明)
A1’ 第1のブロックをスキャンするためのデフォルトのスキャン順序をコンピューティングデバイスにより特定することであって、
A2’ 前記第1のブロックが変換符号化モードに関連付けられており、関連するサイズおよび関連する予測モードを有し、
A3’ 前記第1のブロックをスキャンするための前記デフォルトのスキャン順序は、前記第1のブロックの前記予測モード又は前記第1のブロックの前記サイズの少なくとも一つに関連付けられている、ことと、
B1’ 非変換符号化モードに関連付けられた第2のブロックを前記コンピューティングデバイスにより特定することであって、
B2’ 前記第2のブロックが、前記第1のブロックと同じ画像の一部であり、前記第1のブロックと同じ関連するサイズおよび同じ関連する予測モードを有する、ことと、
C1’ 前記第2のブロックに関連付けられた前記予測モードと前記第2のブロックに関連付けられた前記サイズとに基づいて、前記第1のブロックをスキャンするための前記デフォルトのスキャン順序とは逆のスキャン順序に従って前記第2のブロックをスキャンするか否かを決定することであって、
C2’ 前記予測モードがイントラ予測モードであり、かつ、前記サイズが所定のサイズより小さい場合、前記第2のブロックは前記逆のスキャン順序に従ってスキャンされる、ことと、
D’ 前記予測モードがイントラ予測モードであり、かつ、前記サイズが前記所定のサイズより小さいと判定することに応答して、前記逆のスキャン順序に従って前記第2のブロックを前記コンピューティングデバイスによりスキャンすることと、
A’ を備える、方法。

(2) 引用文献
(2-1)引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1である、
Joel Sole, et al., RCE2 Test B.1: Residue rotation and significance map context, Joint Collaborative Team on Video Coding (JCT-VC) of ITU-T SG 16 WP 3 and ISO/IEC JTC 1/SC 29/WG 11 14th Meeting: Vienna, AT, 25 July ? 2 Aug. 2013,Document:JCTVC-N0044,2013年7月9日,URL,http://phenix.it-sudparis.eu/jct/doc_end_user/documents/14_Vienna/wg11/JCTVC-N0044-v1.zip,pp.1-7
には、以下の記載がある。(括弧内に当審で作成した仮訳を添付する。また、下線は強調のために当審で付した。)

(ア)「Abstract
As part of RCE2, this proposal presents the results of the rotation of the residue for non-transformed coefficients (transform skip and lossless) and the usage of a constant context for the significance map. Restricting the block size to which the residue rotation is applied is also tested.」(1頁1?4行)
(仮訳:概要
RCE2の一部として、本提案は、非変換係数(変換をスキップかつロスレス)の残差を回転した結果、及び、有意性マップのための一定コンテキストの利用法を示す。残差回転が適用されるブロックサイズを制限することもテストされる。)

(イ)「1 Introduction
A target application for HEVC Range Extensions 4:4:4 is wireless display. This is a consumer application that requires visually lossless coding without the increase in complexity of professional applications. In this application it may be necessary to code screen content, natural content and a mix of both.
In this context, the residue rotation [1] and the constant context for the significance map [2], along with their combination [3], are low complexity methods that provide coding efficiency improvement for both lossy and lossless coding of screen content without affecting the coding efficiency for natural content. 」(1頁28行?2頁3行)
(仮訳:1 はじめに
HEVCレンジ拡張4:4:4のターゲットアプリケーションは、ワイヤレスディスプレイである。これは、専門的なアプリケーションの複雑さを増すことなく、視覚的にロスレスなコーディングを必要とするコンシューマアプリケーションである。このアプリケーションでは、スクリーンコンテンツ、自然のコンテンツ、およびその両方の混合物を符号化することが必要になるかもしれない。
このような状況において、残差回転[1]と、有意係数マップの一定のコンテキスト[2]は、それらの組み合わせ[3]とともに、自然のコンテンツの符号化効率に影響を与えることなく、スクリーンコンテンツのロッシーな符号化とロスレス符号化の両方に対して符号化効率の向上を提供する低複雑度の方法である。)

(ウ)「2 Technical Description
Residue rotation [1] changes the scan order by rotating a block of residual samples by 180 degrees, which is equivalent to flipping the residue buffer. This implies changing a line of code to reverse the reading of the residue for transform skip blocks:」(2頁4?7行)
(仮訳:2 技術解説
残差回転[1]は、残差バッファを反転させることと等価である、残差サンプルのブロックを180度回転させることにより、スキャン順序を変更するものである。これは、変換スキップブロックの残差の読み取りを反転させるためにコードの一行を変更することを含む。)

(エ)「In a tested variant of the method, residue rotation is only applied to blocks smaller than a given size. Results are provided for a maximum size of 4×4 and 8×8.」(2頁15?16行)
(仮訳:テストされた本方法の変形では、残差回転は所定サイズより小さいブロックにのみ適用される。最大サイズが4×4と8×8の結果が示されている。)

(オ)「5 References
[1] D. He, J. Wang and G. Martin-Cocher, “Rotation of Residual Block for Transform Skipping”, JCTVC-J0093, Stockholm, SE, July 2012.」(5頁1?3行)
(仮訳:5 参考文献
[1](略))

(2?2)引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2であり、上記引用文献1の(2-1)(オ)に示された文献である、
D. He, J. Wang, and G. Martin-Cocher, Rotation of Residual Block for Transform Skipping,Joint Collaborative Team on Video Coding (JCT-VC) of ITU-T SG 16 WP 3 and ISO/IEC JTC 1/SC 29/WG 11 10th Meeting:Stockholm,SE,11-20 July 2012, Document:JCTVC-J0093,2012年 7月 3日,URL,http://phenix.it-sudparis.eu/jct/doc_end_user/
documents/10_Stockholm/wg11/JCTVC-J0093-v3.zip,pp.1-8
には、以下の記載がある。

(ア)「1 Introduction
A simplified design of intra transform skipping [1] was adopted into the HEVC working draft [2]. It was shown in [1] that the proposed design of intra transform skipping substantially improves the coding efficiency for Class F sequences while having little impact on the coding efficiency for sequences in Classes A-E.
In this document, a change to the adopted intra transform skipping design that involves a single line of code in HM7.0 reference software and correspondingly a single line of text in the HEVC working draft [2] is proposed. The change effectively rotates a block of residual samples 180 degrees in transform skipping (see Figure 1).」(1頁12?20行)
(仮訳:1 はじめに
イントラ変換スキッピング[1]の簡素化された構成がHEVCワーキングドラフト[2]に採用されている。[1]には、イントラ変換スキッピングの提案された構成により、クラスFのシーケンスの符号化効率が実質的に向上し、クラスA-Eのシーケンスの符号化効率にはほとんど効果がないことが示されている。
本稿では、HM7.0参照ソフトウェアの一行のコードと、これに対応するHEVCワーキングドラフト[2]の一行のテキストを含む、採用されているイントラ変換スキッピングの構成に対しての変更を提案する。当該変更は、変換スキッピングにおいて、残差サンプルのブロックを効果的に180度回転させる(図1を参照)。)

(イ)「Since residual data from intra prediction with transform skipped typically have nonzero values concentrated at position near bottom-right corner, as they are farthest from the samples used prediction, such rotation will align data for subsequent quantization and entropy coding, consistent with the data output from transform.」(2頁1?4行)
(仮訳:変換スキップを伴うイントラ予測から得られた残差データは、典型的には予測に用いられたサンプルから最も離れている右下隅に近い位置にゼロでない値が集中するため、このような回転は後続する量子化とエントロピー符号化のデータを整列させ、変換からの出力データと一致させる。)

(ウ)「5 References
[1] C. Lan, J. Xu, G. J. Sullivan, and F. Wu, “Intra transform skipping,” JCTVC-I0408.
[2] B. Boss, W.-J. Han, G. J. Sullivan, J.-R. Ohm, T. and Wiegand, “High Efficiency Video Coding (HEVC) text specification draft 7”, JCTVC-I1003.」(7頁1?4行)
(5.参考文献
[1](略)JCTVC-I0408.
[2](略)、“高効率ビデオ符号化(HEVC)文書仕様ドラフト7”,JCTVC-I1003)

(2-3)文献3
さらに、当審において追加する、本願出願遡及日前に公開された、
Jicheng An, et al., Residue scan for intra transform skip mode, Joint Collaborative Team on Video Coding (JCT-VC) of ITU-T SG 16 WP 3 and ISO/IEC JTC 1/SC 29/WG 11 10th Meeting: Stockholm,SE,11?20 July 2012,Document:JCTVC-J0053,2012年7月10日,URL,http://phenix.it-sudparis.eu/jct/doc_end_user/documents/10_Stockholm/wg11/JCTVC-J0053-v2.zip
(以下、文献3という)には以下の記載がある。

(ア)「1.Introduction
In the current HEVC (text specification draft 7) [1], an intra transform skip mode proposed in JCTVC-I0408 [2] has been adopted to improve the coding efficiency, especially for the class F sequences. For a 4x4 intra transform unit (TU), the transform skip mode can be enabled. For the transform skipping TUs, a simple scaling process is used instead of the transform.
For a 4x4 intra TU, no matter whether the transform skipping is used or not, the scan order and coding method of quantized residual are exactly the same. There are three kinds of quantized residue scan orders for 4x4 TUs according to intra prediction modes: diagonal scan, horizontal scan, and vertical scan as depicted in Figure 1. Table 1 shows the mapping between intra prediction modes and scan orders.」(1頁9?17行)
(仮訳:1 はじめに
現在のHEVC(文書仕様ドラフト7)[1]では、JCTVC-I0408[2]によって提案されたイントラ変換スキップモードが、符号化効率の向上、特にクラスFシーケンス、のために採用された。4x4イントラ変換ユニット(TU)では、変換スキップモードが利用可能である。変換スキップされるTUでは、簡素なスケーリング処理が変換に替わって用いられる。
4x4イントラTUでは、変換スキップが用いられるかどうかにかかわらず、スキャン順序と残差量子化の符号化方法は全く同一である。イントラ予測モードに従う4x4TUの量子化された残差のスキャン順序は3通りある:対角線スキャン、水平スキャン、垂直スキャンであり、図1に示されるとおりである。表1はイントラ予測モードとスキャン順序のマッピングを示す。)

(イ)


」(2頁)

)
(3)引用発明、引用文献記載事項の認定
(3-1)引用発明
(ア) 上記(2-1)(ア)?(エ)によれば、引用文献1には、
「HEVCレンジ拡張4:4:4の状況において、残差回転は符号化効率の向上を提供する方法であって、
非変換係数(変換をスキップ)の残差を回転することであり、
残差回転は、残差サンプルのブロックを180度回転させることにより、スキャン順序を変更するものであり、
残差回転は所定サイズより小さいブロックにのみ適用される」
ことが記載されている(以下、「記載A」という)といえる。

(イ)引用文献1は、Joint Collaborative Team on Video Codingすなわちビデオ符号化の共同作業チームより公表されたものであり、動画像圧縮に関する国際標準規格HEVCのレンジ拡張4:4:4に関するものであって、HEVCのレンジ拡張4:4:4のビデオ符号化における技術的前提を踏まえたものといえる。
そして、記載A、及び上記HEVCのビデオ符号化における変換の技術的前提から、次のことが導かれる。
(イ-1)非変換係数とは、変換をスキップする係数であるから、非変換係数とは別に、元々は変換をスキップせずに行う変換係数が存在すること、すなわち、非変換係数(変換をスキップ)の残差とは別に、変換係数(変換をスキップせずに行う)の残差が存在すること。
(イ-2)変換係数の残差は、非変換係数の残差とは異なり、残差サンプルのブロックを回転せずにスキャン順序を変更しないままスキャンすること。
(イ-3)非変換係数の残差の回転は、所定サイズより小さいブロックにのみ適用されることから、非変換係数の残差はブロックをなすものであって、いくつかのブロックサイズを有するものであること。
(イ-4)変換係数の残差もブロックをなすものであって、いくつかのブロックサイズを有すること。
(イ-5)非変換係数の残差のスキャン順序が変更されたあと、非変換係数(変換をスキップ)の回転された残差を変更されたスキャン順序に従ってスキャンすること。

(ウ)上記(ア)(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されているものと認められる。引用発明の各構成は、符号(a)?(d)を用いて、以下、構成(a)?(d)と称する。

(引用発明)
(a)HEVCのレンジ拡張4:4:4の状況において、残差回転は符号化効率の向上を提供する方法であって、
(a1)変換をスキップせずに変換する変換係数の残差であって、前記変換係数の残差はスキャン順序を変更することなくそのままスキャンすること、
(a2)前記変換係数の残差はブロックをなすものであり、いくつかのブロックサイズを有すること、
(b) 非変換係数(変換をスキップ)の残差はブロックをなすものであり、いくつかのブロックサイズを有すること、
(c1)非変換係数(変換をスキップ)の残差を回転することであり、残差回転は、残差サンプルのブロックを180度回転させることにより、スキャン順序を変更すること、
(c2)残差回転は所定サイズより小さいブロックにのみ適用されること、
(d)非変換係数(変換をスキップ)の回転された残差を変更されたスキャン順序に従ってスキャンすること、
(a)を提供する方法。

(3-2)引用文献2記載の事項
上記(2-1)(オ)によれば、上記引用発明は、[1]D. He, J. Wang and G. Martin-Cocher,”Rotation of Residual Block for Transform Skipping”, JCTVC-J0093, Stockholm, SE, July 2012、すなわち引用文献2、に記載の事項を前提とするものであるので、引用文献2に記載される技術的事項を認定する。
上記(2-2)(ア)?(ウ)によれば、引用文献2には、
「イントラ変換スキッピング[1]の簡素化された構成がHEVCワーキングドラフト[2]に採用されており、
イントラ変換スキッピングの構成に対しての変更は、変換スキッピングにおいて、残差サンプルのブロックを180度回転させることであって、変換スキップを伴うイントラ予測から得られた残差データを回転すること
([1]はJCTVC-I0408であり、[2]はHEVC文書仕様ドラフト7である)」
について記載されている(以下、引用文献2記載の事項という)。

(3-3)文献3記載の事項
さらに、上記(2-3)によれば、文献3は引用文献2と同じJoint Collaborative Team on Video Codingにおける2012年7月の第10回ストックホルム会議における寄書として公表されたものであって、以下の(i)?(iv)の事項が記載されているものと認められる(以下、文献3の「記載事項(i)?(iv)」等という。)。

(i)現在のHEVC(文書仕様ドラフト7)では、JCTVC-I0408によって提案されたイントラ変換スキップモードが、採用されていること、
(ii)4x4イントラ変換ユニット(TU)では、変換スキップモードが利用可能であり、4x4イントラTUでは、変換スキップが用いられるかどうかにかかわらず、スキャン順序と残差量子化の符号化方法は全く同一であること、
(iii)イントラ予測モードに従う4x4TUの量子化された残差のスキャン順序は3通りあり、それらは対角線スキャン、水平スキャン、垂直スキャンであること、
(iv)イントラ予測モードとスキャン順序のマッピングは、イントラ予測モードが0、1、2-5、15-21、31-35のとき、スキャン順序は対角線スキャンであり、イントラ予測モードが6-14のとき、スキャン順序は垂直スキャンであり、イントラ予測モードが22-30のとき、スキャン順序は水平スキャンであること。

(4)本件補正発明と引用発明との対比及び判断
(4-1) 次に、本件補正発明と引用発明とを対比する。
ア 構成A’,A1’、A2’、A3’について
引用発明の構成(a1)(a2)の「変換係数の残差」は、「変換をスキップせずに変換する」ものであり、「スキャン順序を変更することなくそのままスキャンすること」及び「ブロックをなすものであ」り「いくつかのブロックサイズを有する」ものといえる。
ここで、スキャン順序に従ってスキャンするにあたり、スキャン順序は(予め固定的に一意に決まっている場合を含め)何らかの条件で特定されるものといえる。

そうすると、引用発明の構成(a1)における上記「ブロックをなすものであ」る「変換係数の残差」は、本件補正発明の構成A2’の「変換符号化モードに関連付けられている」「第1のブロック」に相当する。
また、引用発明の構成(a1)における上記「ブロックをなすものであ」る「変換係数の残差」を「スキャン順序を変更することなくそのままスキャンする」ことと、本件補正発明の構成A’、A1’,A2’とは、「第1のブロックをスキャンするための」「スキャン順序を」「特定することであって」、「第1のブロックが」「関連するサイズ」「を有する」「方法」である点において共通するといえる。

一方、引用発明の構成(a1)(a2)は、「デフォルトのスキャン順序をコンピューティングデバイスにより特定する」こと、「第1のブロックが」「関連する予測モードを有」することが特定されていない点で、本件補正発明の構成A1’、A2’とは相違する。
さらに、引用発明は、本件補正発明の構成A3’の「前記第1のブロックをスキャンするための前記デフォルトのスキャン順序は、前記第1のブロックの前記予測モード又は前記第1のブロックの前記サイズの少なくとも一つに関連付けられている、こと」を具備しない点で、本件補正発明とは相違する。

イ 構成B1’、B2’について
引用発明の構成(b)の「非変換係数(変換をスキップ)の残差」であって「ブロックをなすもの」は、本件補正発明の構成B1’のうち「非変換符号化モードに関連付けられた第2のブロック」に対応する。
ここで、引用発明の構成(b)の上記ブロックは非変換係数のブロックであることを何らかの手段で特定されるものであり、本件補正発明の構成B1’の「特定すること」に相当する構成を具備するものといえる。

また、引用発明の構成(a2)の「変換係数の残差」であって「ブロックをなすもの」における「いくつかのブロックサイズ」と、構成(b)の「非変換係数(変換をスキップ)の残差はブロックをなすもの」における「いくつかのブロックサイズ」について検討すると、変換係数の残差のブロックと非変換係数の残差のブロックのブロックサイズが異なるという条件はHEVCのレンジ拡張4:4:4において存在しないことから、両者のブロックサイズには同じブロックサイズを有するものが含まれるといえる。
そして、引用発明の構成(b)のうち、構成(a2)と同じブロックサイズを有する場合が、本件補正発明の構成B2’のうちの「第1のブロックと同じ関連するサイズ」「を有する」ものに対応する。
そうすると、引用発明の構成(b)は、本件補正発明の構成B1’、B2’と「非変換符号化モードに関連付けられた第2のブロックを」「特定することであって、」「前記第2のブロックが、」「前記第1のブロックと同じ関連するサイズ」「を有する」点において共通するといえる。

一方、本件補正発明の構成B2’は「第2のブロックが」「第1のブロックと同じ画像の一部であり、前記第1のブロックと」「同じ関連する予測モード」を有するのに対して、
引用発明の構成(b)の「ブロックをなす」「非変換係数(変換をスキップ)の残差」は、「ブロックをなすものであ」る「変換係数の残差」と同じ画像の一部であること、及び同じ関連する予測モードを有すること、は特定されていない点で相違する。
また、非変換符号化モードに関連付けられた第2のブロックを特定することについて、本件補正発明の構成B1’は、上記特定を「コンピューティングデバイスが」行うのに対して、
引用発明では、上記特定を行うための具体的手段は特定されていない点で相違する。

ウ 構成C1’,C2’について
上記イと同様に、引用発明の構成(c1)の「非変換係数(変換をスキップ)の残差」の「残差サンプルのブロック」は、本件補正発明の構成C1’,C2’の「前記第2のブロック」に相当する。
さらに、引用発明の構成(c1)の「残差回転は、残差サンプルのブロックを180度回転することにより、スキャン順序を変更すること」、および構成(c2)の「残差回転は所定サイズより小さいブロックにのみ適用されること」と、本件補正発明の構成C1’,C2’とは、「前記第2のブロックに関連付けられた前記サイズに基づいて、」所定のブロックの所定の「スキャン順序とは逆のスキャン順序に従って」「第2のブロックをスキャンするか否かを決定することであって、」「前記サイズが所定のサイズより小さい場合、前記第2のブロックは前記逆のスキャン順序に従ってスキャンされる、こと」という点で共通する。

一方、本件補正発明は、所定のブロックの所定のスキャン順序が「第1のブロックをスキャンするためのデフォルトのスキャン順序」であり、逆のスキャン順序に従ってスキャンするための条件として、さらに第2のブロックの「予測モードがイントラ予測モードであ」ることを含むのに対して、
引用発明は、所定のブロックの所定のスキャン順序が、「非変換(変換をスキップ)の残差」の「残差サンプルのブロック」の本来の(逆にしないままの)スキャン順序であり、逆のスキャン順序に従ってスキャンするための条件として、予測モードに関する条件は特定されていない点で相違する。

エ 構成D’について
第2のブロックをスキャンすることについて、引用発明の構成(d)は、本件補正発明の構成D’と、「前記サイズが前記所定のサイズより小さいと判定することに応答して、前記逆のスキャン順序に従って前記第2のブロックを」「スキャンする」点で共通する。
一方、本件補正発明は、上記ウと同様に、逆のスキャン順序に従って第2のブロックをスキャンする場合の条件として、第2のブロックの「予測モードがイントラ予測モードであ」ることを含み、加えて「コンピューティングデバイスによりスキャンする」のに対して、
引用発明は、上記ウと同様に、逆のスキャン順序に従ってスキャンするための条件として、予測モードに関する条件は特定されておらず、加えてスキャンを行う具体的な手段について特定するものでもない点で相違する。

(4-2) 一致点および相違点の認定
以上のア?エの対比に基づき、本件補正発明と上記引用発明とを比較すると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

(一致点)
A1’’ 第1のブロックをスキャンするためのスキャン順序を特定することであって、
A2’’ 前記第1のブロックが変換符号化モードに関連付けられており、関連するサイズを有し、
B1’’ 非変換符号化モードに関連付けられた第2のブロックを特定することであって、
B2’’ 前記第2のブロックが、前記第1のブロックと同じ関連するサイズを有する、ことと、
C1’’ 前記第2のブロックに関連付けられた前記サイズに基づいて、所定のスキャン順序とは逆のスキャン順序に従って前記第2のブロックをスキャンするか否かを決定することであって、
C2’’ 前記サイズが所定のサイズより小さい場合、前記第2のブロックは前記逆のスキャン順序に従ってスキャンされる、ことと、
D’’ 前記サイズが前記所定のサイズより小さいと判定することに応答して、前記逆のスキャン順序に従って前記第2のブロックをスキャンすることと、
A’ を備える、方法。

(相違点1)
構成A1’の第1のブロックをスキャンするためのスキャン順序を特定することについて、
本件補正発明はデフォルトのスキャン順序を特定するのに対して、
引用発明はスキャン順序がデフォルトのスキャン順序であることを特定するものではない点。

(相違点2)
構成A2’の第1のブロックについて、
本件補正発明は、第1のブロックが関連する予測モードを有するのに対して、
引用発明は、変換係数のブロックが関連する予測モードを有するかどうか不明な点。

(相違点3)
構成A3’の第1のブロックをスキャンするためのスキャン順序について、
本件補正発明は、第1のブロックをスキャンするためのデフォルトのスキャン順序は、前記第1のブロックの前記予測モード又は前記第1のブロックの前記サイズの少なくとも一つに関連付けられているのに対して、
引用発明は、変換係数のスキャンするためのスキャン順序はデフォルトのスキャン順序であると特定するものではなく、スキャン順序と予測モードまたはサイズとの関連付けについて特定するものでもない点。

(相違点4)
構成B2’の第2のブロックについて、このような第2のブロックが存在する場所および有する予測モードに関して、
本件補正発明は、第2のブロックが第1のブロックと同じ画像の一部であり、第1のブロックと同じ関連する予測モードを有するのに対して、
引用発明は、非変換係数の残差のブロックが変換係数の残差のブロックと同じ画像の一部であることを特定するものでも、このような変換係数の残差のブロックと同じ関連する予測モードを有することを特定するものでもない点。

(相違点5)
構成C1’の前記第2のブロックをスキャンするか否かを決定すること、構成D’の前記第2のブロックをスキャンすることが決定された場合、スキャンすること、および構成C2’についての、スキャン順序を決定するための条件に関して、
本件補正発明は、予測モードがイントラ予測モードであり、かつサイズが所定のサイズより小さい場合、第2のブロックは第1のブロックをスキャンするためのデフォルトのスキャン順序とは逆のスキャン順序に従ってスキャンされると決定されてスキャンをするのに対して、
引用発明は、サイズが所定サイズより小さい場合、非変換係数の残差ブロックの元来のスキャン順序とは逆のスキャン順序に従って非変換係数の残差ブロックをスキャンすることが特定されているにすぎず、スキャン順序の決定にあたって予測モードがイントラ予測モードであることを要件とすることや、所定のスキャン順序が第1のブロックをスキャンするためのデフォルトのスキャン順序であることは特定されていない点。

(相違点6)
構成A1’,構成B1’、構成D’の第1のブロックのスキャン順序を特定するための手段や、非変換符号化モードに関連付けられた第2のブロックを特定するための手段や、逆のスキャン順序に従って第2のブロックをスキャンするための手段について、
本件補正発明はコンピューティングデバイスにより行うのに対して、
引用発明は、これらの処理を行う手段を具体的に特定するものではない点。

(4-3) 相違点に対する判断
事案に鑑み、相違点2から先に判断し、その後に相違点1と3、相違点4?6について判断する。

(ア) 相違点2について
(3-2)のとおり、引用発明は、上記[1]の参考文献、すなわち引用文献2に記載の事項を前提としていることから、引用発明における「変換をスキップ」するとは、引用文献2記載事項の「イントラ変換スキッピング」を行うことであり、引用発明においてはイントラ予測を行った結果として「変換係数の残差」が得られるといえる。
ここで、イントラ予測において予測モードが決定されることは、イントラ予測を行うビデオ符号化における技術的前提にすぎず、引用発明における「ブロックをなすものであ」る「変換係数の残差」は、イントラ予測において決定された予測モードと関連付けられるといえ、相違点2は実質的なものではない。

(イ) 相違点1と3について
(3-2)のとおり、引用発明は、上記[1]の参考文献、すなわち引用文献2に記載の事項を前提としており、かつ引用文献2には、HEVC(文書仕様ドラフト7)では、JCTVC-I0408におけるイントラ変換スキッピングが採用された旨の記載がある。
また、(3-3)のとおり、引用文献2と同じく、文献3の記載事項(i)にもHEVC(文書仕様ドラフト7)ではJCTVC-I0408におけるイントラ変換スキップモードが採用されたことが示されている。
ところで、文献3には、さらに、イントラ変換スキップモードの技術として、
記載事項(ii)4x4イントラ変換ユニット(TU)では、変換スキップモードが利用可能であり、4x4イントラTUでは、変換スキップが用いられるかどうかにかかわらず、スキャン順序と残差量子化の符号化方法は全く同一であること、
記載事項(iii)イントラ予測モードに従う4x4TUの量子化された残差のスキャン順序は3通りあり、それらは対角線スキャン、水平スキャン、垂直スキャンであること、
記載事項(iv)イントラ予測モードとスキャン順序のマッピングは、イントラ予測モードが0、1、2-5、15-21、31-35のとき、スキャン順序は対角線スキャンであり、イントラ予測モードが6-14のとき、スキャン順序は垂直スキャンであり、イントラ予測モードが22-30のとき、スキャン順序は水平スキャンであること、
が示されている。
また、文献3の上記記載事項(ii)?(iv)から、引用文献2におけるイントラ変換スキッピング(すなわち、文献3におけるイントラ変換スキップモード)の技術に関して、4x4のブロックのサイズのイントラ予測モードにおいて、変換スキップが用いられるかどうかにかかわらず、イントラ予測モードの値が決まればスキャン順序が決まること、すなわち、デフォルトのスキャン順序がイントラ予測モードの値とブロックのサイズに関連付けられているものといえる。

そうすると、引用発明の前提である、引用文献2記載のイントラ変換スキッピングは、文献3記載のイントラ変換スキップモードにおける記載事項(i)?(iv)を具備することを前提するものである。
そして、この前提に基づくと、引用発明における、「変換をスキップせずに変換する変換係数の残差」の「ブロック」に対して、4x4のブロックのサイズのイントラ予測モードが用いられる場合があり、この場合、イントラ予測モードの値が決まればスキャン順序が決まるといえる。
すなわち、引用発明において、デフォルトのスキャン順序がイントラ予測モードの値とブロックのサイズに関連付けられていることになる。
ここで、引用発明において、デフォルトのスキャン順序がイントラ予測モードの値に関連付けられているのであれば、必然的にイントラ予測モードによって予測されることになるから、デフォルトのスキャン順序はイントラ予測モードに関連付けられることは自明である。
これは本件補正発明の構成A1’における「第1のブロックをスキャンするためのデフォルトのスキャン順序」を踏まえた構成A3’の「第1のブロックをスキャンするための前記デフォルトのスキャン順序は、前記第1のブロックの前記予測モード又は前記第1のブロックの前記サイズの少なくとも一つに関連付けられている」ということ、すなわち相違点1と相違点3の事項に他ならない。

したがって、引用発明において、「変換をスキップせずに変換する変換係数の残差」の「ブロック」に対して、4x4のブロックのサイズのイントラ予測モードが用いられる場合は、本件補正発明の構成A1’における「第1のブロックをスキャンするためのデフォルトのスキャン順序」、およびこれを踏まえた構成A3’を前提とするものといえ、相違点1と3は実質的なものではない。
または、引用発明において、デフォルトのスキャン順序が予測モードとブロックの大きさに関連付けられるようにすることで相違点1と3の構成とすることは、当業者にとって格別の困難性を要するものではない。

(ウ) 相違点4について

イントラ予測を行うビデオ符号化の技術的前提ないし技術常識を踏まえると、同じイントラ予測モードの値とサイズを有するブロックが同じ画面中に複数存在できないという制約は存在せず、通常同じイントラ予測モードの値とサイズを有するブロックは同じ画面(フレーム)中に多数存在しうる。
そうすると、引用発明において、変換を(スキップせずに)行う、変換係数の残差のブロックであって、非変換係数の残差のブロックと同じイントラ予測モードの値及び同じサイズを有するものは、非変換係数の残差のブロックと同じ画面(フレーム)中に多数存在しうる。そして、このような変換係数の残差のブロックのうちの1つが引用発明の構成(a1)(a2)の条件を満たすものにあたる。
すなわち、非変換係数の残差のブロックであって、変換係数の残差のブロックと同じ画像の一部であり、変換係数の残差のブロックと同じ関連するモード(イントラ予測モード)及び同じ関連するサイズを有するものが存在するといえる。
そして、これは相違点4の事項に他ならないことから、相違点4は実質的なものではない。

(エ) 相違点5について
上記(イ)において示したとおり、引用発明においてもイントラ予測においてイントラ予測モードの値が決定されればスキャン順序が決まることから、非変換係数のブロックが逆のスキャン順序に従ってスキャンされることを決定するにあたって、予測モードがイントラ予測モードであることは自明の要件にすぎない。

また、上記(イ)において示したが、引用発明の前提である、引用文献2記載のイントラ変換スキッピングは、文献3記載のイントラ変換スキップモードにおける記載事項(i)?(iv)を具備することを前提するものであり、4x4のブロックのサイズのイントラ予測モードにおいて、変換スキップが用いられるかどうかにかかわらず、イントラ予測モードの値が決定されれば、スキャン順序が決まることから、デフォルトのスキャン順序が予測モード(イントラ予測モードの値)とブロックのサイズに関連付けられているものといえる。
ここで、変換スキップが用いられない場合(すなわち、変換を行う場合)が、引用発明の構成(c1)において、残差サンプルのブロックのスキャン順序を変更する前のスキャン順序でスキャンする場合にあたる。
そして、これは変換スキップが用いられない場合のデフォルトのスキャン順序、すなわち、本件補正発明における第1のブロックをスキャンするためのデフォルトのスキャン順序に他ならない。

したがって、引用発明においては、イントラ予測モードであることを前提として変換係数の残差(変換スキップが用いられない場合の残差サンプル)をスキャンするものであり、所定のスキャン順序が第1のブロックをスキャンするためのデフォルトのスキャン順序であるといえ、相違点5も実質的なものではない。
または、引用発明において、スキャン順序の決定にあたってイントラ予測モードであることを要件とすることや、変換係数の残差をスキャンするためのデフォルトのスキャン順序の逆の順序に従って非変換係数の残差をスキャンする構成とすることで、相違点5の構成とすることは、当業者にとって格別の困難性を要するものではない。

(オ) 相違点6について
HEVCレンジ拡張4:4:4に関する引用発明に接した当業者であれば、引用発明の実現における処理をコンピューティングデバイスにより実現することで相違点6の構成とすることは、当業者にとって何ら困難性を要するものではない。

(5) 審判請求人の主張について
審判請求人は令和2年5月20日付け審判請求書の「4.進歩性」において、以下のような主張をしているので、これらについて検討する。
「請求項1に関わる発明は、「(中略)」を要旨としています。
(中略)
しかし、引用文献1,2には、請求項1に記載の「第1のブロック」に相当するブロック(即ち、第2のブロックと同じ画像の一部のブロックであって、且つ、第2のブロックと同じ関連するサイズおよび同じ関連する予測モードを有するブロック)についての記載がなく、“a block of residual samples”のデフォルトのスキャン順序と、“a block of residual samples”と同じ画像の一部のブロックであって、且つ、“a block of residual samples”と同じ関連するサイズおよび同じ関連する予測モードを有するブロックのデフォルトのスキャン順序との関係が明らかではありません。
引用文献1に記載の“residue rotation changes the scan order by rotating a block of residual samples by 180 degrees”は、“a block of residual samples”のデフォルトのスキャン順序とは逆のスキャン順序に従って“a block of residual samples”をスキャンすることを示唆しているに過ぎません。
引用文献1に記載の“residue rotation changes the scan order by rotating a block of residual samples by 180 degrees”は、“a block of residual samples”と同じ画像の一部のブロックであって、且つ、“a block of residual samples”と同じ関連するサイズおよび同じ関連する予測モードを有するブロックのデフォルトのスキャン順序とは逆のスキャン順序に従って“a block of residual samples”をスキャンすることを示唆するものではありません。
請求項1に記載の「第1のブロック」に相当するブロックを、引用文献1,2の記載から、仮に、読み取ることができたとしても、各ブロックのデフォルトのスキャン順序は、必ずしも同一である必要はないことに鑑みれば、「第1のブロックをスキャンするためのデフォルトのスキャン順序とは逆のスキャン順序に従って第2のブロックをスキャンする」という着想は、引用文献1,2の記載からは得られないものと思料致します。」

そこで、上記主張について検討する。
まず、上記(4-3)(ア)のとおり、引用文献2記載の事項や文献3記載の事項から、ブロックのデフォルトのスキャン順序はブロックが有するサイズ及びブロックのイントラ予測モードという予測モードに関連付けられていることがいえる。
また、上記(4-3)(ウ)のとおり、通常同じサイズ及び同じ予測モードのブロックが同じ画面(フレーム)内に多数存在することから、引用発明における非変換係数の残差のブロックと同じ予測モード及び同じサイズを有する残差のブロックも同じ画面中に多数存在しうるといえる。
さらに、上記(4-3)(エ)のとおり、引用発明の前提である、引用文献2記載事項や文献3記載事項から、同じサイズであり同じイントラ予測モード(すなわち関連モード)を有する、変換係数の残差のブロックと非変換係数の残差のブロックのデフォルトのスキャン順序(すなわち、回転前のスキャン順序)は同じであるといえる。
そうすると、引用発明における残差ブロックと同じ画面に存在するブロックであって、同じ関連するサイズおよび同じ関連する予測モードを有するブロックの、デフォルトのスキャン順序とは逆のスキャン順序に従って、残差ブロックをスキャンする構成をとることは、引用文献2記載の事項や文献3記載の事項を踏まえた引用発明から格別の困難なく想到し得たものである。

したがって、審判請求人の主張は採用できない。

(6)小括
以上(1)?(5)を総合すると、本件補正発明は、引用発明および引用文献2記載の事項、文献3記載の事項に基づいて、当業者ならば容易になしえたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができない

4 補正の却下の決定についてのむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和2年5月20日にされた手続補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成30年12月4日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1において「補正前の請求項1」として記載したとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
本願発明に係る原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった上記引用文献1に記載された発明及び上記引用文献2に記載された技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3 引用文献、引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1、引用文献2の記載事項及び
引用発明は、上記第2[理由]3(2)、(3)に記載したとおりである。

4 本願発明と引用発明との対比及び判断
(1) 対比
本願発明は、上記第2[理由]2(1)において検討した本件補正発明の構成A3’の「デフォルトのスキャン順序」に関する限定事項を削除し、構成A1’及び構成C1’の「(前記)第1のブロックをスキャンするための(前記)デフォルトのスキャン順序」から、「デフォルトの」という記載を削除したものである。
ところで、上記第2[理由]3の(4)の本件補正発明と引用発明との対比のうち、(4-2)の一致点および相違点の認定において示したとおり、上記削除された記載は、本件補正発明と引用発明との相違点1のうちデフォルトのスキャン順序に関する事項と相違点3に関する事項である。
そこで、本件補正発明から上記相違点1におけるデフォルトのスキャン順序に関する事項,相違点3に関する事項を除いた本願発明と引用発明とを改めて対比する。

ア 構成A,A1、A2について
引用発明の構成(a1)(a2)の「変換係数の残差」は、「変換をスキップせずに変換する」ものであり、「スキャン順序を変更することなくそのままスキャンすること」及び「ブロックをなすものであ」り「いくつかのブロックサイズを有する」ものといえる。
ここで、スキャン順序に従ってスキャンするにあたり、スキャン順序は何らかの条件で特定されるものといえる。

そうすると、引用発明の構成(a1)における上記「ブロックをなすものであ」る「変換係数の残差」は、本願発明の構成A2の「変換符号化モードに関連付けられている」「第1のブロック」に相当する。
また、引用発明の構成(a1)における上記「ブロックをなすものであ」る「変換係数の残差」を「スキャン順序を変更することなくそのままスキャンする」ことと、本願発明の構成A、A1,A2とは、「第1のブロックをスキャンするための」「スキャン順序を」「特定することであって」、「第1のブロックが」「関連するサイズ」「を有する」「方法」である点において共通するといえる。

一方、引用発明の構成(a1)(a2)は、「スキャン順序をコンピューティングデバイスにより特定する」こと、「関連する予測モードを有する」ことが特定されていない点で、本願発明の構成A1、A2とは相違する。

イ 構成B1、B2について
引用発明の構成(b)の「非変換係数(変換をスキップ)の残差」であって「ブロックをなすもの」は、本件発明の構成B1のうち「非変換符号化モードに関連付けられた第2のブロック」に対応する。
ここで、引用発明の構成(b)の上記ブロックは非変換係数のブロックであることを何らかの手段で特定されるものであり、本願発明の構成B1の「特定すること」に相当する構成を具備するものといえる。

また、引用発明の構成(a2)の「変換係数の残差」であって「ブロックをなすもの」における「いくつかのブロックサイズ」と、構成(b)の「非変換係数(変換をスキップ)の残差はブロックをなすもの」における「いくつかのブロックサイズ」について検討すると、変換係数の残差のブロックと非変換係数の残差のブロックのブロックサイズが異なるという条件はHEVCのレンジ拡張4:4:4において存在しないことから、両者のブロックサイズには同じブロックサイズを有するものが含まれるといえる。
そして、引用発明の構成(b)のうち、構成(a2)と同じブロックサイズを有する場合が、本願発明の構成B2のうちの「第1のブロックと同じ関連するサイズ」「を有する」ものに対応する。
そうすると、引用発明の構成(b)は、本願発明の構成B1、B2と「非変換符号化モードに関連付けられた第2のブロックを」「特定することであって、」「前記第2のブロックが、」「前記第1のブロックと同じ関連するサイズ」「を有する」点において共通するといえる。

一方、本願発明の構成B2は「第2のブロックが」「第1のブロックと同じ画像の一部であり、前記第1のブロックと」「同じ関連する予測モード」を有するのに対して、
引用発明の構成(b)の「ブロックをなす」「非変換係数(変換をスキップ)の残差」は、「ブロックをなすものであ」る「変換係数の残差」と同じ画像の一部であること、及び同じ関連する予測モードを有すること、は特定されていない点で相違する。
また、非変換符号化モードに関連付けられた第2のブロックを特定することについて、本願発明の構成B1は、上記特定を「コンピューティングデバイスが」行うのに対して、
引用発明では、上記特定を行うための具体的手段は特定されていない点で相違する。

ウ 構成C1,C2について
上記アと同様に、引用発明の構成(a1)の「ブロックをなすものであ」る「変換係数の残差」は、本願発明の構成C1,C2の「前記第1のブロック」に相当する。
また、上記イと同様に、引用発明の構成(c1)の「非変換係数(変換をスキップ)の残差」の「残差サンプルのブロック」は、本願発明の構成C1,C2の「前記第2のブロック」に相当する。
さらに、引用発明の構成(c1)の「残差回転は、残差サンプルのブロックを180度回転することにより、スキャン順序を変更すること」、および構成(c2)の「残差回転は所定サイズより小さいブロックにのみ適用されること」と、本願発明の構成C1,C2とは、「前記第2のブロックに関連付けられた前記サイズに基づいて、」「第1のブロックをスキャンするためのスキャン順序とは逆のスキャン順序に従って」「第2のブロックをスキャンするか否かを決定することであって、」「前記サイズが所定のサイズより小さい場合、前記第2のブロックは前記逆のスキャン順序に従ってスキャンされる、こと」という点で共通する。

一方、本願発明は、逆のスキャン順序に従ってスキャンするための条件として、さらに第2のブロックの「予測モードがイントラ予測モードであ」ることを含むのに対して、
引用発明は、逆のスキャン順序に従ってスキャンするための条件として、予測モードに関する条件は特定されていない点で相違する。

エ 構成Dについて
第2のブロックをスキャンすることについて、引用発明の構成(d)は、本願発明の構成Dと、「前記サイズが前記所定のサイズより小さいと判定することに応答して、前記逆のスキャン順序に従って前記第2のブロックを」「スキャンする」点で共通する。
一方、本願発明は、上記ウと同様に、逆のスキャン順序に従って第2のブロックをスキャンする場合の条件として、第2のブロックの「予測モードがイントラ予測モードであ」ることを含み、加えて「コンピューティングデバイスによりスキャンする」のに対して、
引用発明は、上記ウと同様に、逆のスキャン順序に従ってスキャンするための条件として、予測モードに関する条件は特定されておらず、加えてスキャンを行う具体的な手段について特定するものでもない点で相違する。

以上の対比に基づき、本願発明と引用発明とを比較すると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

(一致点)
A1’’ 第1のブロックをスキャンするためのスキャン順序を特定することであって、
A2’’ 前記第1のブロックが変換符号化モードに関連付けられており、関連するサイズを有し、
B1’’ 非変換符号化モードに関連付けられた第2のブロックを特定することであって、
B2’’ 前記第2のブロックが、前記第1のブロックと同じ関連するサイズを有する、ことと、
C1’’’ 前記第2のブロックに関連付けられた前記サイズに基づいて、前記第1のブロックをスキャンするための前記スキャン順序とは逆のスキャン順序に従って前記第2のブロックをスキャンするか否かを決定することであって、
C2’’ 前記サイズが所定のサイズより小さい場合、前記第2のブロックは前記逆のスキャン順序に従ってスキャンされる、ことと、
D’’ 前記サイズが前記所定のサイズより小さいと判定することに応答して、前記逆のスキャン順序に従って前記第2のブロックをスキャンすることと、
A を備える、方法。

(相違点2’)
構成A2の第1のブロックについて、
本願発明は、第1のブロックが関連する予測モードを有するのに対して、
引用発明は、変換係数のブロックが関連する予測モードを有するかどうか不明な点。

(相違点4’)
構成B2の第2のブロックについて、このような第2のブロックが存在する場所および有する予測モードに関して、
本願発明は、第2のブロックが第1のブロックと同じ画像の一部であり、第1のブロックと同じ関連する予測モードを有するのに対して、
引用発明は、非変換係数の残差のブロックが変換係数の残差のブロックと同じ画像の一部であることを特定するものでも、このような変換係数の残差のブロックと同じ関連する予測モードを有することを特定するものでもない点。

(相違点5’)
構成C1の、前記第1のブロックをスキャンするためのスキャン順序とは逆の順序に従って前記第2のブロックをスキャンするか否かを決定すること、構成Dの、前記第2のブロックをスキャンすることが決定された場合、スキャンすること、および構成C2についての、スキャン順序を決定するための条件に関して、
本件発明は、第2のブロックがイントラ予測モードであることを要件とするのに対して、
引用発明は、非変換係数の残差のブロックがイントラ予測モードであることを要件とすることは特定されていない点。

(相違点6’)
構成A1,構成B1、構成Dの第1のブロックのスキャン順序を特定するための手段や、非変換符号化モードに関連付けられた第2のブロックを特定するための手段や、逆のスキャン順序に従って第2のブロックをスキャンするための手段について、
本願発明はコンピューティングデバイスにより行うのに対して、
引用発明は、これらの処理を行う手段を具体的に特定するものではない点。

(2) 判断
(ア) 相違点2’について
上記第2の「3 独立特許要件について」の(4)本件補正発明と引用発明との対比及び判断における、(4-3)の「(ア)相違点2について」のとおり、引用発明は、上記[1]の参考文献、すなわち引用文献2に記載の事項を前提としていることから、引用発明における「変換をスキップ」するとは、引用文献2記載事項の「イントラ変換スキッピング」を行うことであり、引用発明においてはイントラ予測を行った結果として「変換係数の残差」が得られるといえる。
ここで、イントラ予測においてイントラ予測モードの値が決定されることは、イントラ予測を行うビデオ符号化における技術的前提にすぎず、引用発明における「ブロックをなすものであ」る「変換係数の残差」は、イントラ予測において決定されたイントラ予測モードの値と関連付けられるといえ、相違点2と同様に、相違点2’も実質的なものではない。

(イ)相違点4’について
上記第2の「3 独立特許要件について」の(4)本件補正発明と引用発明との対比及び判断における、(4-3)の「(ウ)相違点4について」のとおり、
イントラ予測を行うビデオ符号化の技術的前提ないし技術常識を踏まえると、同じイントラ予測モードの値とサイズを有するブロックが同じ画面中に複数存在できないという制約は存在せず、通常同じイントラ予測モードの値とサイズを有するブロックは同じ画面(フレーム)中に多数存在しうる。
そうすると、引用発明において、変換を(スキップせずに)行う、変換係数の残差のブロックであって、非変換係数の残差のブロックと同じイントラ予測モードの値及び同じサイズを有するものは、非変換係数の残差のブロックと同じ画面(フレーム)中に多数存在しうる。そして、このような変換係数の残差のブロックのうちの1つが引用発明の構成(a1)(a2)の条件を満たすものにあたる。
すなわち、非変換係数の残差のブロックであって、変換係数の残差のブロックと同じ画像の一部であり、変換係数の残差のブロックと同じ関連するモード(イントラ予測モード)及び同じ関連するサイズを有するものが存在するといえる。
そして、これは相違点4の事項であり、相違点4’の事項でもあって、相違点4同様に相違点4’は実質的なものではない。

(ウ)相違点5’について
上記(ア)において示したとおり、引用発明においてはイントラ予測を行った結果として変換係数の残差を得ることから、変換係数の残差に関連付けられる予測モードとはイントラ予測によって決定されたイントラ予測モードの値である。
また、上記(イ)において示したとおり、非変換係数の残差のブロックであって、変換係数の残差のブロックと同じ画像の一部であり、変換係数の残差のブロックと同じ関連するモード(イントラ予測モードの値)及び同じ関連するサイズを有するものが存在するといえる。

そうすると、引用発明においては、イントラ予測モードであることを前提として変換係数の残差(変換スキップが用いられない場合の残差サンプル)をスキャンするものであるといえ、相違点5’は実質的なものではない。
または、引用発明において、スキャン順序の決定にあたってイントラ予測モードであることを要件とすることや、変換係数の残差をスキャンするためのスキャン順序の逆の順序に従って非変換係数の残差をスキャンする構成とすることで、相違点5の構成とすることは、当業者にとって格別の困難性を要するものではない。

(エ) 相違点6’について
HEVCレンジ拡張4:4:4に関する引用発明に接した当業者であれば、引用発明の実現における処理をコンピューティングデバイスにより実現することで相違点6’の構成とすることは、当業者にとって何ら困難性を要するものではない。

そして、上記第2[理由]3の(4-3)の相違点に対する判断のとおり、引用文献2記載の事項を前提とする引用発明において、上記相違点2’,4’?6’の構成を有するものとすることは当業者が格別の困難性を要することなくなしえたものであるが、これは本願発明に他ならない。
すなわち、本願発明は、引用発明、及び引用文献2記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献2記載の事項に基づいて、当業者が容易になしえたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2021-03-24 
結審通知日 2021-03-25 
審決日 2021-04-06 
出願番号 特願2018-80355(P2018-80355)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 冨田 高史  
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 川崎 優
五十嵐 努
発明の名称 非変換符号化のためのスキャン順序  
代理人 阿部 豊隆  
代理人 大貫 敏史  
代理人 内藤 和彦  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 江口 昭彦  

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