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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1377270
審判番号 不服2020-10094  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-07-20 
確定日 2021-08-19 
事件の表示 特願2017-235975「動き情報の適応型符号化方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 4月26日出願公開、特開2018- 67949〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010年(平成22年)10月4日を国際出願日(優先権主張外国庁受理 2009年10月14日 米国)とする特願2012-534156号の一部を分割して平成28年4月14日に出願した特願2016-81323号の一部を分割して出願したものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成29年12月15日 :国際出願翻訳文提出
平成29年12月15日 :手続補正
平成30年11月16日付け:拒絶理由通知
平成31年 3月15日 :手続補正及び意見書提出
令和 1年 8月 6日付け:拒絶理由通知(最後)
令和 2年 3月 9日 :手続補正及び意見書提出
令和 2年 3月16日付け:拒絶査定
令和 2年 7月20日 :拒絶査定不服審判請求
令和 2年 8月27日 :手続補正書(方式)

第2 本件発明
本件の請求項1に記載された発明(以下、「本件発明」という。)は、令和2年3月9日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載の次のとおりのものである。(なお、本件発明の各構成の符号は、請求項の記載を分節するために当審で付したものであり、請求項の記載を符号を用いて、以下、構成A?Dと称する。)

(本件発明)
A 動きベクトルを使用して画像内のブロックを符号化するエンコーダを含む装置であって、
B ブロックを符号化するために使用される動きベクトルの精度を選択するために適応型動きベクトル精度の方式が用いられ、
C 動きベクトルのための精度を選択するための選択判定基準は、ブロック・パーティション・サイズに基づく判定基準を含み、
(C) 前記ブロック・パーティション・サイズに基づく判定基準は、
D ブロック・パーティション・サイズに基づいて、より大きなブロック・パーティション・サイズが、より小さなブロック・パーティション・サイズよりも高い動きベクトル精度を有するように、動きベクトルの精度を選択する、
A 装置。

第3 引用文献及び引用発明
(1) 引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1である、特開2004-48552号公報には、以下の記載がある(段落のタイトルに付されている下線(「実施の形態1.」、「▲1▼符号化装置の動作概要」、「▲3▼-1 符号化装置における動き補償予測処理手順」、「▲3▼-1-1 仮想サンプル精度の決定(ステップS1)」)以外の下線は強調のために当審で付した)。

(ア)「【0002】
【従来の技術】
従来、MPEGやITU-T H.26xなどの標準映像符号化方式は、マクロブロックとよばれる、輝度信号16×16画素(+対応する色差信号8×8画素)から構成される正方ブロックにフレーム画面の分割を行い、その単位で動き補償予測によって参照フレームからの動きを推定し、推定誤差分の信号(予測残差信号)と動きベクトル情報とを符号化している。また、MPEG-2ではマクロブロックを2つのフィールド領域に分割してフィールド別に動き予測を行ったり、H.263やMPEG-4ではマクロブロックをさらに8×8画素ブロックのサイズに4分割し、各サブブロック単位で動き予測を行う技術が導入されている。特に、MPEG-4における動き予測ブロックサイズの適応化は、動きベクトルの符号量が増える一方で、より激しい・細かい動きへの追随性が向上し、適切なモード選択を行うことによって性能向上が見込めることが知られている。
【0003】
また、動き補償予測の別の技術的側面として、動きベクトルの精度がある。本来、デジタル画像データゆえ、サンプリングによって生成された離散的な画素情報(以降、整数画素と呼ぶ)しか存在しないが、整数画素の間に内挿演算によって仮想的なサンプルを作り出し、それを予測画像として用いる技術が広く利用されている。この技術には、予測の候補点が増えることによる予測精度の向上と、内挿演算に伴うフィルタ効果によって予測画像の特異点が削減され予測効率が向上するという2つの効果があることが知られている。一方で、仮想サンプルの精度が向上すると、動き量を表現する動きベクトルの精度も上げる必要があるため、その符号量も増加することに注意する必要がある。
【0004】
MPEG-1、MPEG-2ではこの仮想サンプルの精度を1/2画素精度まで許容する半画素予測が採用されている。図17に1/2画素精度のサンプルの生成の様子を示す。
同図において、A,B,C,Dは整数画素、e,f,g,h,iはA?Dから生成される半画素精度の仮想サンプルを示す。
【0005】
e = (A+B)//2
f = (C+D)//2
g = (A+C)//2
h = (B+D)//2
i = (A+B+C+D)//2
(ただし、//は丸めつき除算を示す。)
この半画素精度の仮想サンプル生成手順を、所定のブロックに対して適用する場合は、ブロックの端点から周辺1整数画素分余分なデータを要する。これはブロックの端点(整数画素)から半画素分外側の仮想サンプルを算出する必要があるためである。
【0006】
また、MPEG-4では、1/4画素精度までの仮想サンプルを用いる1/4画素精度予測が採用されている。1/4画素精度予測では、半画素サンプルを生成した後、それらを用いて1/4画素精度のサンプルを生成する。半画素サンプル生成時の過度の平滑化を抑える目的で、タップ数の多いフィルタを用いてもとの信号の周波数成分を極力保持するよう設計される。例えばMPEG-4の1/4画素精度予測では、1/4画素精度の仮想サンプル生成のために作られる半画素精度の仮想サンプルaは、その周辺8画素分を使用して、以下のように生成される。なお、下式は、水平処理の場合のみを示しており、1/4画素精度の仮想サンプル生成のために作られる半画素精度の仮想サンプルaと、下式の整数画素のX成分X_(-4)?X_(4)との関係は、図18に示す位置関係にある。
【0007】
a = (COE_(1)*X_(1)+COE_(2)*X_(2)+COE_(3)*X_(3)+COE_(4)*X_(4)+COE_(-1)*X_(-1)+COE_(-2)*X_(-2)+COE_(-3)*X_(-3)+COE_(-4)*X_(-4))//256
(ただし、COE_(k): フィルタ係数(係数総和が256)。//は丸めつき除算を示す。)この1/4画素精度の仮想サンプル生成手順を、所定のブロックに対して適用する場合は、ブロックの端点から周辺4整数画素分余分なデータを要する。これはブロックの端点(整数画素)から1/4画素分外側の仮想サンプルを算出する必要があるためである。」

(イ)「【0012】
【発明の実施の形態】
実施の形態1.
本実施の形態1では、映像の各フレーム画像をマクロブロックの単位に分割し、さらに、マクロブロック内を複数の形状のサブブロックに分割して個々に動き補償予測を可能とする動き補償予測手段を有する映像符号化・復号装置について説明する。
本実施の形態1の映像符号化・復号装置の特徴は、動き補償予測の単位となる領域(ブロック)の形状やその大きさに応じて、従来例にて述べた仮想サンプルの精度を切り替えることと、それに伴い動きベクトルの符号化・復号方法も切り替えることの2点にある。本実施の形態1における映像符号化装置および復号装置の構成を図1および図2に示す。
【0013】
図1は、本実施の形態1における映像符号化装置の構成を示している。この映像符号化装置は、図3に示すように、減算器10、符号化モード判定部12、量子化部16、逆量子化部18、逆直交変換部19、切替器52、加算器53、フレームメモリ3、動き検出部2、動き補償部7、可変長符号化器6、送信バッファ24、符号化制御部22を有している。
【0014】
次に図3に示す映像符号化装置の動作を説明する。
▲1▼符号化装置の動作概要
図1の符号化装置において、入力映像信号1は、個々の映像フレームがマクロブロックに分割された単位で入力されるものとし、まず、動き検出部2において、フレームメモリ3に格納される参照画像4を用いてマクロブロック単位に動きベクトル5が検出される。動きベクトル5に基づいて動き補償部7において予測画像8が得られ、減算器10にて予測画像8と入力信号1との差分をとることによって予測残差信号9が得られる。
【0015】
符号化モード判定部12では、予測残差信号9を符号化する動き予測モード、フレーム内を符号化するイントラモードなど、マクロブロックの符号化方法を指定する複数のモードの中から、当該マクロブロックをもっとも効率よく符号化することができるモードを選択する。この符号化モード情報13は符号化対象情報として可変長符号化部6へ出力される。ここで、符号化モード判定部12にて符号化モード情報13として動き予測モードが選択される場合は、動きベクトル5が符号化対象情報として可変長符号化部6に受け渡される。
【0016】
また、符号化モード判定部12において選択された符号化対象信号は、直交変換部15、量子化部16を経て、直交変換係数データ17として可変長符号化部6へ受け渡される一方、その直交変換係数データ17は、逆量子化部18、逆直交変換部19を経たのち、切替器52へ出力される。
【0017】
切替器52では、符号化モード情報13に従って、その符号化モード情報13が動き予測モードを示している場合には、逆量子化および逆直交変換された直交変換係数データ17と、動き補償部7からの予測画像8と加算して局所復号画像21としてフレームメモリ3へ出力するか、あるいはその符号化モード情報13がイントラモードを示している場合には、逆量子化および逆直交変換された直交変換係数データ17をそのまま局所復号画像21として出力する。局所復号画像21は以降のフレームの動き予測に用いられるため、参照画像データとしてフレームメモリ3へ格納される。
【0018】
量子化部16では、符号化制御部22において決定される量子化ステップパラメータ23によって与えられる量子化精度で直交変換係数データの量子化を行う。この量子化ステップパラメータ23を調整することで出力の符号化レートと品質のバランスとをとる。一般には、可変長符号化の後、伝送直前の送信バッファ24に蓄積される符号化データの占有量を一定時間ごとに確認し、そのバッファ残量25に応じてパラメータ調整が行われる。具体的には、例えば、バッファ残量25が少ない場合は、レートを抑え気味にする一方、バッファ残量25に余裕がある場合は、レートを高めにして品質を向上させるようにする。なお、この、符号化制御部22において決定される量子化ステップパラメータ23は、可変長符号化部6へも出力される。
【0019】
可変長符号化部6では、動きベクトル5、量子化ステップパラメータ23、符号化モード情報13、直交変換係数データ17などの符号化対象データのエントロピー符号化を行い、送信バッファ24経由で、映像圧縮データ26として伝送する。」

(ウ)「【0026】
▲3▼-1 符号化装置における動き補償予測処理手順
図3に、符号化装置における動き補償予測処理のフローチャートを示す。以下、ステップごとに説明する。
【0027】
▲3▼-1-1 仮想サンプル精度の決定(ステップS1)
図4に、本実施の形態1における動きベクトルの検出単位領域の構成を示す。同図において、16×16 MCとはマクロブロックそのものを動きベクトル検出単位とする。16×8 MCは縦方向に2分割した領域を、8×16 MCは横方向に2分割した領域をそれぞれ動きベクトル検出単位とする。8×8 MCはマクロブロックを4つの領域に均等分割し、それぞれを動きベクトル検出単位とする。さらに、本実施の形態1の場合、8×8 MCでは、個々の分割領域に対して、さらに縦2分割(8×4 MC)、横2分割(4×8 MC)、4分割(4×4 MC)の領域分割を可能とし、それぞれを動きベクトル検出単位とすることができるようにする。
【0028】
これは、一般に、細かい分割ではマクロブロック内部に複雑な動きが存在する場合に予測効率をあげることができる一方、多くの動きベクトル情報を伝送する必要がある。このようにマクロブロック内部で動きベクトル検出単位領域の形状を様々に適応化できるように構成すれば、局所的に最適な分割形状と動きベクトルの選択・検出を行いながら符号化を実行することができるからである。
【0029】
さて、個々の領域の動きベクトルの検出においては、従来例に示したとおり、仮想サンプルを用いた動き補償予測を用いる。ただし、従来の標準映像符号化方式などと異なり、本実施の形態1では、例えば、図4に示すように、個々の動きベクトル検出単位の領域の形状や大きさ等に関連付けて局所的に仮想サンプルの精度および動きベクトルの予測符号化方法を決定する。
・・・
【0032】
本実施の形態1では、その決定ルールとして、8×8 MCより小さい例えば8×4や、4×8、4×4サイズ等の動きベクトル検出単位領域では半画素精度の仮想サンプルを用いることとし、それ以上のサイズの動きベクトル検出単位領域では1/4画素精度の仮想サンプルを用いる。
【0033】
このルールを適用する理由として、動きベクトル検出単位領域の形状の選ばれ方が挙げられる。つまり、一般に、動きが均一でかつ動き速度の遅い領域では画面の空間解像度が保持され、テクスチャに対する視認度が向上する。こういった領域では大きな動きベクトル検出領域によりできるだけ動きベクトルを均一にし、動き領域の細分化に伴う領域間不連続を回避して信号の再現性を高めるとともに、仮想サンプルの精度を向上して予測効率を上げることが望ましい。逆に、動きが複雑であったり、動きの速度が視覚的に認知しにくい領域では画面の詳細なテクスチャが保存されず、視覚的には空間解像度が低く感じられる。こういった領域では、ある程度信号の再現性を犠牲にしても動きベクトルの本数を多くして予測効率を向上させることが望ましい。ただし、信号の空間解像度が低くなること、動きベクトルの情報量が多くなることから、仮想サンプルの精度は低く設定しても全体的な符号化効率の観点からは問題ないと考えられる。」

(2) 引用発明の認定

上記(1)(ア)?(ウ)によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されているものと認められる。引用発明の各構成は、符号(a)?(c1)を用いて、以下、構成(a)?(c1)と称する。

(引用発明)
(a1)符号化モード判定部12、量子化部16、逆量子化部18、逆直交変換部19、切替器52、加算器53、フレームメモリ3、動き検出部2、動き補償部7、可変長符号化器6を有し、(【0013】)
(a2)入力映像信号1は、個々の映像フレームがマクロブロックに分割された単位で入力され、動き検出部2において、フレームメモリ3に格納される参照画像4を用いてマクロブロック単位に動きベクトル5が検出され、動きベクトル5に基づいて動き補償部7において予測画像8が得られ、予測画像8と入力信号1との差分をとることによって予測残差信号9が得られ、(【0014】)
(a3)符号化モード判定部12では、予測残差信号9を符号化する動き予測モードなど、マクロブロックの符号化方法を指定する複数のモードの中から、当該マクロブロックをもっとも効率よく符号化することができるモードを選択し、この符号化モード情報13は符号化対象情報として可変長符号化部6へ出力され、符号化モード情報13として動き予測モードが選択される場合は、動きベクトル5が符号化対象情報として可変長符号化部6に受け渡され、(【0015】)
(a4)符号化モード判定部12において選択された符号化対象信号は、直交変換部15、量子化部16を経て、直交変換係数データ17として可変長符号化部6へ受け渡される一方、その直交変換係数データ17は、逆量子化部18、逆直交変換部19を経たのち、切替器52へ出力され、(【0016】)
(a5)切替器52では、符号化モード情報13が動き予測モードを示している場合には、逆量子化および逆直交変換された直交変換係数データ17と、動き補償部7からの予測画像8と加算して局所復号画像21としてフレームメモリ3へ出力し、(【0017】)
(a6)局所復号画像21は以降のフレームの動き予測に用いられるため、参照画像データとしてフレームメモリ3へ格納されるものであり、(【0017】)
(a7)可変長符号化部6では、動きベクトル5、符号化モード情報13などの符号化対象データのエントロピー符号化を行う、【0019】
(a)映像符号化装置において、(【0013】)
(b) 16×16 MCとはマクロブロックそのものを動きベクトル検出単位とし、16×8 MCは縦方向に2分割した領域を、8×16 MCは横方向に2分割した領域をそれぞれ動きベクトル検出単位とし、8×8 MCはマクロブロックを4つの領域に均等分割し、それぞれを動きベクトル検出単位とし、8×8 MCでは、個々の分割領域に対して、さらに縦2分割(8×4 MC)、横2分割(4×8 MC)、4分割(4×4 MC)の領域分割を可能とし、それぞれを動きベクトル検出単位とするものであり、(【0027】)
個々の領域の動きベクトルの検出においては、(【0029】)
動き補償予測として、動きベクトルの精度は、整数画素の間に内挿演算によって仮想的なサンプルを作り出し、それを予測画像として用いる技術であり(【0003】)、
仮想サンプルの精度を1/2画素精度まで許容する半画素予測と、1/4画素精度までの仮想サンプルを用いる1/4画素精度予測があり、(【0004】、【0006】)
当該仮想サンプルを用いた動き補償予測を用いるものであり、個々の動きベクトル検出単位の領域の形状や大きさ等に関連付けて局所的に仮想サンプルの精度を決定するものであり、(【0029】)
(c) その決定ルールとして、(【0032】)
(c1) 8×8 MCより小さい例えば8×4や、4×8、4×4サイズ等の動きベクトル検出単位領域では半画素精度の仮想サンプルを用いることとし、それ以上のサイズの動きベクトル検出単位領域では1/4画素精度の仮想サンプルを用いるものである、(【0032】)
(a) 映像符号化装置。

第4 本件発明と引用発明との対比及び判断
(1) 次に、本件発明と引用発明とを対比する。
ア 構成Aについて
引用発明の構成(a)の映像符号化装置は、
構成(a2)にあるように、フレームメモリ3に格納される参照画像4を用いてマクロブロック単位に動きベクトル5が検出され、動きベクトル5に基づいて予測画像8が得られ、予測画像8と入力信号1との差分をとることによって予測残差信号9が得られ、
構成(a3)にあるように、符号化モード判定部12では、予測残差信号9を符号化する動き予測モードなどの複数のモードの中から、当該マクロブロックをもっとも効率よく符号化することができるモードを選択し、この符号化モード情報13は符号化対象情報として可変長符号化部6へ出力され、
構成(a4)では、符号化モード判定部12において選択された符号化対象信号は、直交変換部15、量子化部16を経て、直交変換係数データ17として可変長符号化部6へ受け渡される一方、その直交変換係数データ17は、逆量子化部18、逆直交変換部19を経たのち、切替器52へ出力され、
構成(a5)(a6)では、切替器52では、符号化モード情報13が動き予測モードを示している場合には、逆量子化および逆直交変換された直交変換係数データ17と、動き補償部7からの予測画像8と加算して局所復号画像21としてフレームメモリ3へ出力するものであって、該局所復号画像21は以降のフレームの動き予測に用いられるため、参照画像データとしてフレームメモリ3へ格納されるものである。
そうすると、引用発明の構成(a)の映像符号化装置における、構成(a2)?(a6)の処理においては、フレームメモリ3に格納された参照画像4を用いてマクロブロック単位に検出された動きベクトル5に基づき予測画像8を得て、予測画像8と入力信号1との差分をとって得られた予測残差信号9を、直交変換及び量子化と逆量子化および逆直交変換された直交変換係数データ17として得た後、予測画像8と加算して以降のフレームの動き予測に用いる参照画像データとしてフレームメモリ3へ格納する局所復号画像として用いるものといえる。
すなわち、引用発明の構成(a)の映像符号化装置においては、マクロブロック単位に検出された動きベクトル5を用いて得られた予測画像8を元にして、最終的に以降のフレームの動き予測が行われることで符号化処理を行うといえ、本件発明の構成Aの「動きベクトルを使用して画像内のブロックを符号化するエンコーダを含む装置」であるといえる。

イ 構成Bについて
引用発明の構成(b)において、「動きベクトルの精度」は「整数画素の間に内挿演算によって仮想的なサンプルを作り出し、それを予測画像として用いる技術である、仮想サンプルを用いた動き補償予測を用いるものであ」る。
次に、引用発明の構成(b)において、「個々の動きベクトル検出単位の領域の形状や大きさ等に関連付けられて局所的に仮想サンプルの精度を決定するものであ」るから、仮想サンプルの精度は個々の動きベクトル検出単位の領域の形状や大きさに関連付けられて、適応的に決定されるといえる。

ここで、予測画像として用いられる仮想サンプルは整数画素の間に内挿演算によって作り出されることから、整数画素とは異なる単位の画素精度を有するものといえる。
そうすると、引用発明において、入力される画像は整数画素であることから、当該仮想サンプルを予測画像として用いる動き補償において、検出される動きベクトルは整数画素とは異なる単位の画素精度を有するものであって、かつその精度は適応的に決定されるものといえる。

以上のことから、引用発明の構成(b)により検出される動きベクトルの精度は、個々の動きベクトル検出単位の領域の形状や大きさに関連付けられて、適応的に決定されるものであって、本件発明の構成Bの「ブロックを符号化するために使用される動きベクトルの精度を選択するために適応型動きベクトル精度の方式が用いられ」ることに相当するといえる。

ウ 構成Cについて
上記イのとおり、引用発明の構成(b)により検出される動きベクトルの精度は、個々の動きベクトル検出単位の領域の形状や大きさに関連付けられて、適応的に決定されることから、引用発明の構成(c)における「その決定ルール」とは、動きベクトルの精度を決定するためのルールであって、個々の動きベクトル検出単位の領域の大きさに関連付けられるルールを含むものである。
これは、本件発明の構成Cの「動きベクトルのための精度を選択するための選択判定基準」であって、「ブロック・パーティション・サイズに基づく判定基準を含」むものに相当するといえる。

エ 構成Dについて
引用発明の構成(b)を踏まえた構成(c1)では「8×8 MCより小さい例えば8×4や、4×8、4×4サイズ等の動きベクトル検出単位領域では半画素精度の仮想サンプルを用いることとし、それ以上のサイズの動きベクトル検出単位領域では1/4画素精度の仮想サンプルを用いるものである」ことから、引用発明の構成(c1)は、マクロブロックを4つの領域に均等分割した8×8 MC以上の動きベクトル検出単位領域では、1/4画素精度の仮想サンプルを用いる1/4画素精度予測と、8×8 MCより小さいサイズの動きベクトル検出単位領域では、それより低い精度である1/2画素精度の仮想サンプルを用いる半画素予測を、それぞれ用いて、動きベクトル検出を行うものであるといえる。
ここで、動きベクトルの検出を行うにあたって、1/4画素精度予測を用いる場合は、1/4画素精度の動きベクトルが、半画素精度予測を用いる場合は、1/2画素精度の動きベクトルが、それぞれ検出されるといえる。

そうすると、引用発明の構成(b)を踏まえた構成(c1)は、8×8 MC以上のサイズの動きベクトル検出単位領域では1/4画素精度の動きベクトルが、8×8 MCより小さい動きベクトル検出単位領域では1/2画素精度の動きベクトルが、それぞれ検出されるものということができ、本件発明の構成Dの「ブロック・パーティション・サイズに基づいて、より大きなブロック・パーティション・サイズが、より小さなブロック・パーティション・サイズよりも高い動きベクトル精度を有するように、動きベクトルの精度を選択する」ことに相当するといえる。

(2) 一致点・相違点の認定及び判断
以上の(1)ア?エの対比に基づき、本件発明と上記引用発明とを比較すると、両者は、
A 動きベクトルを使用して画像内のブロックを符号化するエンコーダを含む装置であって、
B ブロックを符号化するために使用される動きベクトルの精度を選択するために適応型動きベクトル精度の方式が用いられ、
C 動きベクトルのための精度を選択するための選択判定基準は、ブロック・パーティション・サイズに基づく判定基準を含み、
(C) 前記ブロック・パーティション・サイズに基づく判定基準は、
D ブロック・パーティション・サイズに基づいて、より大きなブロック・パーティション・サイズが、より小さなブロック・パーティション・サイズよりも高い動きベクトル精度を有するように、動きベクトルの精度を選択する、
A 装置。
という点で一致し、相違点はない。
すなわち、本件発明は引用文献1に記載された発明である。

(3) 審判請求人の主張について
審判請求人は令和2年8月27日付け審判請求書にかかる手続補正書の「3.本願発明が特許されるべき理由」において、以下のような主張をしているので、これらについて検討する。

「 審査官は、請求項1に関わる発明は、引用文献1乃至3のうちの何れか1つに基づいて新規性又は進歩性を欠くものと認定しております。
斯かる認定に対し、本出願人は、以下に述べる理由により、拒絶理由のご再考をお願い申し上げる次第です。
大きなブロック・パーティションは、小さなブロック・パーティションよりも、多くの画素を備えており、且つ、動き補償の誤差は、各画素からの誤差が原因であることが知られています。これらのことを踏まえると、各画素からの誤差が均一であると仮定した場合に、ブロック・パーティションが多くの画素を含む程、大きな補償誤差を有するものと考えられます。
このような技術的知見に鑑み、請求項1に関わる発明は、より大きなブロック・パーティション・サイズが、より小さなブロック・パーティション・サイズよりも、高い動きベクトル精度を有するように、動きベクトルの精度を選択することにより、動きベクトル精度の適応化を実現しています。
一方、引用文献1には、動き補償予測の単位となる領域の形状に応じて、予測画像の構成要素となる仮想画素の精度を切り換えて予測画像の候補を生成し、複数の予測画像候補のうち予測効率が大きい予測画像を与える動きベクトルを生成し、生成された動きベクトルに基づき、動き補償予測の単位となる領域の形状に応じて予測画像の構成要素となる仮想画素の精度を切り換えて予測画像を生成する動画像符号化方法が記載されています。
(中略)
しかし、引用文献1乃至3の何れも、「ブロック・パーティションが多くの画素を含む程、大きな補償誤差を有する」という課題を認識しておらず、また、そのような課題を解決する手段として、「より大きなブロック・パーティション・サイズが、より小さなブロック・パーティション・サイズよりも、高い動きベクトル精度を有するように、動きベクトルの精度を選択することにより、動きベクトル精度の適応化を実現する」ことを示唆するものではありません。
従って、請求項1に関わる発明は、引用文献1乃至3のうちの何れか1つに記載の発明と同一ではなく、また、同発明から容易に想到し得るものでもないものと思料致します」

そこで、上記主張について検討する。
引用文献1には、上記第3(2)に示した引用発明が記載されている。
さらに、引用文献1には、「ブロック・パーティションが多くの画素を含む程、大きな補償誤差を有する」という直接的な記載はないものの、段落【0033】に、「このルールを適用する理由として、動きベクトル検出単位領域の形状の選ばれ方が挙げられる。つまり、一般に、動きが均一でかつ動き速度の遅い領域では画面の空間解像度が保持され、テクスチャに対する視認度が向上する。こういった領域では大きな動きベクトル検出領域によりできるだけ動きベクトルを均一にし、動き領域の細分化に伴う領域間不連続を回避して信号の再現性を高めるとともに、仮想サンプルの精度を向上して予測効率を上げることが望ましい。逆に、動きが複雑であったり、動きの速度が視覚的に認知しにくい領域では画面の詳細なテクスチャが保存されず、視覚的には空間解像度が低く感じられる。こういった領域では、ある程度信号の再現性を犠牲にしても動きベクトルの本数を多くして予測効率を向上させることが望ましい。ただし、信号の空間解像度が低くなること、動きベクトルの情報量が多くなることから、仮想サンプルの精度は低く設定しても全体的な符号化効率の観点からは問題ないと考えられる。」という記載がある。

この記載から、引用文献1には、動きが均一でかつ動き速度の遅い領域では、大きな動きベクトル検出領域をとることによりできるだけ動きベクトルを均一にし、仮想サンプルの精度を向上して予測効率を上げること、すなわち、動きベクトル検出領域が大きい場合には仮想サンプルの精度すなわち参照画素の精度を向上することで、動きベクトルの精度も向上させることが望まれる場合があることが示されているといえ、この場合、動き補償誤差は小さくなるといえる。
したがって、審判請求人が主張する上記課題は引用文献1においても認識されているといえる。

また、この記載から、引用文献1には、逆に、動きが複雑であったり、動きの速度が視覚的に認知しにくい領域では、ある程度信号の再現性を犠牲にしても動きベクトルの本数を多くして予測効率を向上させること、すなわち、動きベクトル検出領域を小さくして動きベクトルの本数を多くした方がよく、仮想サンプルの精度を低く設定することで、動きベクトルの精度が低く設定されても全体的な符号化効率の観点からは問題ない場合があることが示されているといえる。

以上を総合すると、引用発明においても、審判請求人が主張する上記課題の認識の元に、課題解決手段である本件発明の構成Dに相当する、構成(b)を踏まえた構成(c1)を具備するものといえる。

さらに、上記(1)、(2)において対比及び判断したとおり、本件発明は引用文献1に記載された発明であって、両者に差異はない。
そうすると、本件発明と同じ事項を有する引用発明においても、「より大きなブロック・パーティション・サイズが、より小さなブロック・パーティション・サイズよりも、高い動きベクトル精度を有するように、動きベクトルの精度を選択する」ことから、本件発明同様に「動きベクトル精度の適応化を実現する」ものといえる。

したがって、審判請求人の主張は採用できない。

第5 むすび
以上のとおり、本件発明は、引用文献1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。
したがって、本願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2021-03-25 
結審通知日 2021-03-26 
審決日 2021-04-06 
出願番号 特願2017-235975(P2017-235975)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H04N)
P 1 8・ 121- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 坂東 大五郎牛丸 太希山▲崎▼ 雄介  
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 五十嵐 努
川崎 優
発明の名称 動き情報の適応型符号化方法及び装置  
代理人 大貫 敏史  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 内藤 和彦  
代理人 阿部 豊隆  
代理人 江口 昭彦  

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