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審決分類 |
審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 G04B 審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 G04B 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G04B 審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 G04B 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G04B |
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管理番号 | 1377281 |
審判番号 | 不服2020-15560 |
総通号数 | 262 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-10-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-11-11 |
確定日 | 2021-08-19 |
事件の表示 | 特願2018- 28033「装飾部材の製造方法、装飾部材及び時計」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 8月 9日出願公開、特開2018-124282〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成28年3月1日に出願された特願2016-38909号の一部を平成30年2月20日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は次のとおりである。 平成31年 2月20日 :手続補正書の提出 令和 元年12月12日付け:拒絶理由通知書 令和 2年 1月27日 :意見書、手続補正書の提出 令和 2年 8月12日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 令和 2年 8月18日 :原査定の謄本の送達 令和 2年11月11日 :審判請求書、手続補正書の提出 令和 3年 2月22日付け:前置報告書 令和 3年 3月10日 :上申書の提出 第2 補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和2年11月11日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [補正の却下の決定の理由] 1 本件補正の内容 本件補正は、特許請求の範囲及び明細書についての補正である。本件補正前(令和2年1月27日に提出された手続補正書による補正の後をいう。以下同じ。)の特許請求の範囲の請求項1の記載及び本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、それぞれ次のとおりである(下線は補正箇所を示す。)。 (1)本件補正前 「【請求項1】 凹部領域を備える転写面が形成され、当該凹部領域とそれ以外の領域とで仕上がり状態における表面粗さを変化させた金型を用いて基材を成型する工程と、 前記基材の転写面側に表面加工処理を施す工程と、 を備えることを特徴とする文字板の中心以外を中心に回転する回転体である装飾部材の製造方法。」 (2)本件補正後 「【請求項1】 所定の位置を中心にして回転する回転体として形成される装飾部材の製造方法であって、 凹部領域を備える転写面が形成され、当該凹部領域と当該凹部領域以外とで仕上がり状態における表面粗さを変化させた金型を用いて基材を成型する第1工程と、 前記基材の転写面側に表面加工処理を施す第2工程と、 を備え、 前記第1工程は、前記所定の位置の周辺領域が前記凹部領域以外となるように前記基材を成型することを特徴とする装飾部材の製造方法。」 2 本件補正の目的 本件補正は、本件補正前の請求項1に記載した事項である「装飾部材」について、「文字板の中心以外を中心に回転する」との記載を削除するとともに、「所定の位置を中心にして回転する回転体として形成される」との記載を追加することを含むものである。 ここで、「装飾部材」の回転中心は、本件補正前の請求項1の記載において、「文字板の中心以外」であることが特定されていたところ、本件補正後の請求項1の記載において、単に「所定の位置」とされており、「所定の位置」には「文字板の中心」も含まれるから、本件補正は、「装飾部材」の回転中心について、「文字板の中心以外」であるという発明特定事項を削除することを含むものである。 よって、本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえない。また、本件補正が、請求項の削除、誤記の訂正又は明瞭でない記載の釈明を目的とするものではないことは明らかである。 3 むすび したがって、本件補正は、特許法17条の2第5項の規定に違反するものであるから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。 よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明 本件補正は、前記第2で説示したとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の1(1)に記載された事項により特定されるとおりのものである。 第4 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由の一つは、この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 記 引用文献1:特表2012-532328号公報 引用文献2:実願昭63-40439号(実開平1-144888号)のマイクロフィルム 第5 引用文献に記載された発明等 1 引用文献1 (1)引用文献1に記載された事項 引用文献1には、以下の記載がある。下線は当審が付した。 「【0010】 図1および2は時計用の一般的な文字板11を示している。上で説明されたように、本発明による方法1は文字板の製造のみに限定されず、レリーフを用いて装飾される任意のタイプのプラスチック部品に適用される。しかし、時計の文字板は、本発明による方法1の用途のよい例である。 【0011】 図1および2に見られるように、文字板11は、通常、複数の階層を有する本体12である。図2に示される実施例では、本体12が時計の二次ディスプレイを形成することができる円形凹部19を特に有することが分かる。また、本体12の上面が規則的に離間された時シンボル13の形態の時円を有することにも留意されたい。同様に、二次ディスプレイが、上記の円形状の周りに第2の一連の時シンボル15を有する。最後に、上面が、上記の頂表面と凹部19との間の肩部を隠すための装飾物17を有する。 【0012】 上で説明したように、この文字板11を作るためには、これらの時シンボル13、15および装飾物17が、連続的に接着されることにより、さらにはレリーフが非常に目立つ場合には可能性としてマスキングおよび/またはバフ加工されることにより、付加される必要がある。有利には、本発明によると、製造方法1は、非常に目立つすなわち高さが40μmを超えるレリーフを有するプラスチック部品21に特に適した新しいタイプの製造を可能にする。 【0013】 図8に示されるように、製造方法1は、プラスチック部品21になる部分(以下の実施例では文字板21)の主要本体22を製造するための第1のステップ3を含む。好適には、ステップ3は、上記プラスチック材料を金型(図示せず)内に注入することによって達成される。実際には、このタイプの製造により、文字板21のレリーフ部分に正確なブランクを作ることが可能となる。 【0014】 図3に示される実施例は、見込まれる時シンボル23、25および装飾物27をそれぞれ形成することを意図される隆起箇所24、26および28を明確に示している。二次ディスプレイを形成することを意図される中空部分29も見られる。したがって、単一のステップ3では、文字板21の種々の部分を位置決めすることが非常に正確に達成される。本発明によると、本体22を作るためのプラスチック材料は、例えば、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)のようなスチレン系、ポリ(メチルメタクリラート)(PMMA)のようなアクリル樹脂およびPMMA/ABSのような混合物、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)のようなポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート(PC)、ABS/PC混合物、エチレン酢ビコポリマ(EVA)、ポリイミド、または、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素化樹脂、などの熱可塑性樹脂である。 【0015】 方法1の第2のステップ5では、本体22の表面が、その表面状態を局所的に変化させるために構造化される。本発明によると、ステップ5は、使用されるプラスチック材料の付着特性に従って2つの実施形態を有する。本発明によると、装飾層は、プラスチック本体22に直接に付加される。 【0016】 したがって、プラスチック材料が、堆積される装飾層に対して非常に低いレベルの付着性を有するような第1の実施形態では、図4に示されるように、ステップ5は装飾される部分すなわち隆起部分24、26および28上において本体22の表面の付着性を局所的に増加させるように意図される。 【0017】 第1の実施形態では、「ノットウェッタブル(not wetables)」と呼ばれる付着性が非常に低い材料は、限定しないが、例えば、ポリオレフィン(PE?70%、PP?60%など)、飽和ポリエステル(PET、PBTなど)、ポリアミド(PAなど)、フッ素重合体(PTFE>50%など)、または、ポリオキシメチレン(POM?80%など)である。 【0018】 図9から11に見られるこの第1の実施形態では、付着性を増加させるための構造化には、文字板のみに限定されない装飾される部品11の厚さ内に中空部34を作ることによって形成されるボス33が含まれる。例えば、中空部34の高さh_(1)は低く、すなわち、高さh_(1)は2μmから10μmの間に含まれ、好適には約5μmであり、また、中空部34の幅c_(1)は5μmから20μmの間に含まれ、好適には約10μmであり、また、ボス33の幅b_(1)は5μmから20μmの間に含まれ、好適には約10μmである。 【0019】 好適には、中空部34およびボス33のそれぞれの幅c_(1)、b_(1)は実質的に等しい。したがって、この局所的な構造化により、有利には、ステップ7で被覆されることになる表面の選択的な付着性が増大する。」 「【0023】 本体22の表面状態を選択的に構造化するためのステップ5は破壊的な形でもまたは非破壊的な形でも想定され得る。実際には、非破壊的な代替形態によると、表面状態は、ステップ3で使用される金型の内部表面を「凹凸が逆になるように」適合させることにより、本体22自体と同時に「作られ」得る。この場合、ステップ3および5が同時に実施されることは明白である。」 「【0025】 ステップ5のこれらの2つの実施形態のうちの1つが実施された後、方法1は、図6に示されるように、本体22全体の上に装飾層31を堆積させるためのステップ7で継続される。好適には、ステップ7は物理蒸着(PVD(physical vapour deposition))によって実施される。しかし、電鋳、化学蒸着(CVD(chemical vapour deposition))、原子層堆積((ALDatomic layer deposition))、あるいはさらには、UVプリンティングまたはラッカリングなどの、別のタイプの堆積も想定され得る。 【0026】 有利には、本発明によると、最後のステップ9は、部品21の本体22に付着されていない堆積層31の部分を除去することのみで構成される。実際には、ステップ5の実施形態のうちの1つにおける構造化により、ステップ9後には、装飾層31のみが残るすなわち時シンボル23、25および装飾物27の上に付着する。ステップ9は、例えば、研磨、圧縮空気噴射、または、湿式洗浄によって達成され得る。」 「【図1】 ![]() 」 「【図3】 ![]() 」 「【図4】 ![]() 」 「【図6】 ![]() 」 「【図7】 ![]() 」 「【図8】 ![]() 」 「【図11】 ![]() 」 (2)引用発明の認定 引用文献1の前記(1)の記載事項をまとめると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 <引用発明> 「プラスチック材料を金型内に注入することによって文字板21の本体22を製造するステップ3と(【0013】)、 本体22の表面の状態を局所的に変化させるために構造化するステップ5と(【0015】)、 本体22全体の上に装飾層31を堆積させるステップ7と(【0025】)、 本体22に付着されていない堆積層31を除去するステップ9と(【0026】)、 を含む文字板21の製造方法1であって(【0013】、【図8】)、 前記本体22は、時シンボル23、25及び装飾物27をそれぞれ形成することを意図される隆起箇所24、26及び28を有し(【0014】、【図3】)、 前記ステップ5は、隆起部分24、26及び28上において本体22の表面の付着性を局所的に増加させるものであり(【0016】)、 付着性を増加させるための構造化は、部品11の厚さ内に中空部34を作ることによってボス33を形成することであり(【0018】)、 ステップ3で使用される金型の内部表面を凹凸が逆になるように適合させることにより、ステップ5において選択的に構造化される本体22の表面状態は、本体22自体と同時に作られ、ステップ3及びステップ5が同時に実施される(【0023】)、 文字板21の製造方法1。」 2 周知技術 (1)引用文献2に記載された事項 引用文献2には、以下の記載がある。下線は当審が付した。 (明細書4頁6?7行) 「第1図は本考案の実施例を示す腕時計の平面図である。」 (明細書4頁14?18行) 「3は曜板1、月板2の外周部に近接した所に中心軸を有する月令板である。5は送り車であり、筒車より動力が伝達されて1日1回転する。ツメ5aは月令板3の車と、日車4を1日1ピッチ送る。」 (第1図) 「 ![]() 」 第1図から、月令板3は腕時計の文字板の中心以外を中心に回転することが見てとれる。 (2)引用文献3に記載された事項 当審が引用文献3として新たに引用する特開2012-198030号公報には、以下の記載がある。下線は当審が付した。 「【0016】 図1は、本実施形態の月齢表示機構1を備えた時計100の外観を示す正面図であり、図2は、図1の月齢表示機構1の構成を説明する分解斜視図である。 [全体の概略構成] 本実施形態に係る時計100は、図1に示すように、ケース2と、ケース2の内部に設けられた、時刻を示す時刻目盛り3が付された目盛り板4と、時針、分針および秒針などの指針5(時針6、分針7、秒針8)と、指針5を駆動させるムーブメント9(図示を省略)と、月齢を表示する月齢表示機構1と、を有している。 【0017】 目盛り板4には、図2に示すように、開口10が形成されている。この開口10は、目盛り板4の板面の略中央部に形成された円形の開口10aと、12時方向に形成され、開口10aより小さな半径の略半円形の開口10bと、6時方向に形成され、開口10aより小さな半径の略半円形の開口10cと、により構成されている。 【0018】 そして、円形の開口10aの一部および略半円形の開口10cから、この目盛り板4の背面側に設けられた月齢表示機構1を目視することができる。 [月齢表示機構の構成] 月齢表示機構1は、図2に示すように、目盛り板4の背面側に、上側文字板11(第1の板状体)、月齢円板12(第2の板状体)および下側文字板13(第3の板状体)がこの順で重なって構成されている。 (上側文字板) 上側文字板11は、その板面上であって6時方向に月齢表示部14が設けられている。 【0019】 この月齢表示部14は、円形の窓部15が設けられている。この窓部15は、有色透明であっても無色透明であってもよく、この上側文字板11の背面側に配置された月齢円板12が透けて見えるような透明部材(例えば透明プラスチックなど)で形成されている。 【0020】 また、この窓部15には、月齢を表す複数の数字(指標)が、窓部15の中心と同心の円周上に配置されている。なお、月齢を表す指標であれば、数字に限らず、文字や記号であってもよい。 【0021】 具体的には、12時方向から時計回りに、数字「0」、「5」、「10」、「15」、「20」、「25」が、角度30度の間隔をあけて順に配置されている。また、6時方向に、単一の月の絵柄Aが表示されている。 【0022】 さらに、月の絵柄Aから時計回りに角度約30度の間隔で数字「5」、「10」、「15」、「20」、「25」が順に配置されている。 (月齢円板) 月齢円板12は、上側文字板11と互いに重ね合わされて、窓部15の中心を通る中心軸C1を回転中心として、上側文字板11と相対的に回転するように設けられている。 【0023】 すなわち、月齢円板12が、ムーブメント9により、24時間経過毎に角度約6度の等角速度で時計回りに回転するように駆動されている。 【0024】 また、月齢円板12は、例えば透明プラスチック(透明部材)により成形された板上面に、上側文字板11との相対的な回転に応じた重なり度合いの変化によって、月の絵柄Aの輪郭形状(月相)を変化させる影部16と、上側文字板11の板上面に配置された複数の数字のうち月の絵柄Aの輪郭形状に対応した月齢の指標を示す指示部17と、が形成されている。 【0025】 この影部16は、月齢円板12の板上面に、例えば灰色や黒色などの層を蒸着させることにより形成された第1の影部16aと第2の影部16bとにより構成されている。これら第1の影部16aおよび第2の影部16bはいずれも略円形であって、月の絵柄Aよりも大きい径を有している。」 「【図1】 ![]() 」 「【図2】 ![]() 」 図1?2から、月齢円板12は、時計100の文字板である目盛り板4の中心以外の中心軸C1を中心に回転することが見てとれる。 (3)技術常識及び周知技術の認定 ア 技術常識 引用文献2及び3に記載されているように、次の事項は技術常識である。 <技術常識> 「時計には月齢円板を備えるものがあり、当該月齢円板は文字板の中心以外を中心に回転すること。」 イ 周知技術 引用文献3に記載されているように、次の技術は周知技術である。 <周知技術> 「時計の月齢円板をプラスチック成形及び着色層の蒸着により製造すること。」 第6 対比、一致点及び相違点の認定 1 対比 本願発明と引用発明を対比する。 (1)引用発明の「文字板21」は、「時シンボル23、25及び装飾物27」が形成されるものであるから、本願発明の「装飾部材」に相当する。 よって、本願発明と引用発明は、「装飾部材の製造方法」である点で共通する。 (2)引用発明の「金型」及び「本体22」は、それぞれ、本願発明の「金型」及び「基材」に相当する。また、引用発明における「プラスチック材料を金型内に注入することによって文字板21の本体22を製造するステップ3」は、本願発明における「金型を用いて基材を成型する工程」に相当する。 (3)引用発明の「本体22」は「隆起箇所24、26及び28」を有するものであるから、「本体22」を製造するための「金型」に「隆起箇所24、26及び28」に対応する凹部が設けられていることは自明である。 そうすると、引用発明の「金型」のうち、前記凹部は本願発明の「凹部領域」に相当し、前記凹部が設けられた面は、「本体22」に対して「隆起箇所24、26及び28」を転写する面であるから、本願発明の「転写面」に相当する。 (4)引用発明における「本体22の表面の状態を局所的に変化させるために構造化するステップ5」は、「隆起部分24、26及び28上において本体22の表面の付着性を局所的に増加させるもの」であって、「付着性を増加させるための構造化は、部品11の厚さ内に中空部34を作ることによってボス33を形成すること」である。 さらに、引用発明は、「ステップ3で使用される金型の内部表面を凹凸が逆になるように適合させることにより、ステップ5において選択的に構造化される本体22の表面状態は、本体22自体と同時に作られる」ものである。 そうすると、引用発明における「ステップ5」は、「本体22」の「隆起部分24、26及び28」上に「中空部34」及び「ボス33」を形成するために、「金型」の凹部に「凹凸」を設けるものであり、「凹凸」を設けた箇所と設けない箇所で表面粗さが異なることは自明である。 よって、引用発明における「ステップ5」は、本願発明における「凹部領域とそれ以外の領域とで仕上がり状態における表面粗さを変化させた金型」を準備する工程に相当する。 (5)引用発明は、「ステップ3及びステップ5が同時に実施される」ものであるから、前記(2)?(4)を総合すると、引用発明における「ステップ3」及び「ステップ5」は、本願発明における「凹部領域を備える転写面が形成され、当該凹部領域とそれ以外の領域とで仕上がり状態における表面粗さを変化させた金型を用いて基材を成型する工程」に相当する。 (6)引用発明の「本体22全体の上」は、本願発明の「基材の転写面側」に相当する。また、引用発明において「装飾層31を堆積させる」ことは、本願発明において「表面加工処理を施す」ことに相当する。 そうすると、引用発明における「本体22全体の上に装飾層31を堆積させるステップ7」は、本願発明における「前記基材の転写面側に表面加工処理を施す工程」に相当する。 2 一致点及び相違点 前記1の対比の結果をまとめると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。 (1)一致点 「凹部領域を備える転写面が形成され、当該凹部領域とそれ以外の領域とで仕上がり状態における表面粗さを変化させた金型を用いて基材を成型する工程と、 前記基材の転写面側に表面加工処理を施す工程と、 を備える装飾部材の製造方法。」 (2)相違点 本願発明は、「文字板の中心以外を中心に回転する回転体である装飾部材の製造方法」であるのに対して、引用発明は、「文字板21の製造方法」である点。 第7 判断 1 相違点について 引用文献1の【0010】には、「本発明による方法1は文字板の製造のみに限定されず、レリーフを用いて装飾される任意のタイプのプラスチック部品に適用される。」と記載されており、文字板以外のプラスチック部品を引用発明の製造方法で製造することが示唆されている。 ここで、「時計には月齢円板を備えるものがあり、当該月齢円板は文字板の中心以外を中心に回転すること」は技術常識であるから(前記第5の2(3)ア参照)、引用発明の製造方法により「文字板の中心以外を中心に回転する月齢円板」を製造することは、当業者が容易に想到し得たことである。 さらに、「時計の月齢円板をプラスチック成形及び着色層の蒸着により製造すること」は周知技術であるから(前記第5の2(3)イ参照)、引用発明の製造方法により「文字板の中心以外を中心に回転する月齢円板」を製造するにあたって、各「ステップ」を特段変更する必要がないことは明らかである。 そうすると、文字板の製造方法である引用発明を、「文字板の中心以外を中心に回転する月齢円板」の製造方法とすることは、引用文献1における示唆に従って、当業者が容易に想到し得たことである。 よって、前記相違点に係る本願発明の構成は、引用発明と技術常識及び周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。 2 作用効果について 本願発明の奏する作用効果として、引用発明と技術常識及び周知技術から予測されるものを超える格別顕著なものは、認めることができない。 3 請求人の主張について (1)審判請求書について 令和2年11月11日に提出した審判請求書における請求人の主張は、前記第2で却下された本件補正後の特許請求の範囲の記載を前提とするものであるから、採用することができない。 (2)意見書について 令和2年1月27日に提出した意見書における請求人の主張は、「引用文献1には、装飾層が部分的に被覆される時計の装飾部品及びその製造方法の記載はありますが、本願発明のように、文字板の中心以外を中心に回転する回転体である装飾部材の製造方法及び装飾部材に関する記載はありません。」というものである。 しかしながら、前記1で説示したとおり、文字板の製造方法である引用発明を、「文字板の中心以外を中心に回転する月齢円板」の製造方法とすることは、引用文献1における示唆に従って、当業者が容易に想到し得たことであるから、請求人の主張は採用することができない。 4 上申書について 令和3年3月10日に提出した上申書における請求人の主張は、請求項1の記載を、 「文字板の中心以外の所定の位置を中心にして回転する回転体である装飾部材の製造方法であって、 凹部領域を備える転写面が形成され、当該凹部領域と当該凹部領域以外とで仕上がり状態における表面粗さを変化させた金型を用いて基材を成型する第1工程と、 前記基材の転写面側に表面加工処理を施す第2工程と、 を備え、 前記第1工程は、前記所定の位置の周辺領域が前記金型の前記凹部領域以外と対応する領域となり、且つ前記金型の前記凹部領域以外に対応する前記基材の領域が、前記金型の前記凹部領域に対応する前記基材の領域よりも小さいサイズの複数の凸が形成されるように前記基材を成型することを特徴とする装飾部材の製造方法。」 という記載に補正することで(下線は補正箇所を示す。)、補正後の請求項1に係る発明は進歩性を有するものとなる、というものである。 しかしながら、引用発明は、本体22における隆起部分24、26及び28上において、表面の付着性を局所的に増加させるための中空部34及びボス33を形成したものであるところ、前記中空部34及びボス33を形成した領域の表面上の複数の凸のサイズよりも、前記中空部34及びボス33を形成しない領域の表面上の複数の凸のサイズが相対的に小さくなることは明らかである。 したがって、本願発明が前記請求人の主張のとおり補正されたとしても、当業者が容易に想到し得たものであるとの結論に変わりはない。 第8 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2021-06-21 |
結審通知日 | 2021-06-22 |
審決日 | 2021-07-05 |
出願番号 | 特願2018-28033(P2018-28033) |
審決分類 |
P
1
8・
574-
Z
(G04B)
P 1 8・ 571- Z (G04B) P 1 8・ 121- Z (G04B) P 1 8・ 572- Z (G04B) P 1 8・ 573- Z (G04B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 榮永 雅夫 |
特許庁審判長 |
居島 一仁 |
特許庁審判官 |
岸 智史 濱本 禎広 |
発明の名称 | 装飾部材の製造方法、装飾部材及び時計 |