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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B32B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B32B
管理番号 1377310
審判番号 不服2020-836  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-01-22 
確定日 2021-08-20 
事件の表示 特願2018-30579号「カラー薄型カバーレイフィルムおよびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年9月13日出願公開、特開2018-140628号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年2月23日(パリ条約による優先権主張 平成29年2月24日 中国)の出願であって、令和元年9月13日付けで拒絶査定がされた。これに対し、令和2年1月22日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、令和2年7月28日付けで当審により拒絶理由が通知され、令和2年11月2日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2 本願発明
本願発明は、令和2年11月2日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】
上部離型層、カラーインク層、低誘電接着剤層および下部離型層を含むカラー薄型カバーレイフィルムであって、
前記カラーインク層は、前記上部離型層に形成され、前記カラーインク層の厚さが1?10μmであり、
前記低誘電接着剤層は、前記カラーインク層に形成され、前記カラーインク層を前記上部離型層と低誘電接着剤層の間に位置させ、前記低誘電接着剤層の厚さが3?25μmであり、前記カラーインク層と前記低誘電接着剤層との合計厚さが4?35μmであり、
前記低誘電接着剤層は、焼結シリカ、テフロン(登録商標)、テフロン(登録商標)以外のフッ素系樹脂、リン系難燃剤およびポリイミド樹脂を含み、
前記焼結シリカ、前記テフロン(登録商標)、前記テフロン(登録商標)以外のフッ素系樹脂、および前記リン系難燃剤の合計含有量は、前記低誘電接着剤層の総固形分含有量の8?50重量%であり、
前記ポリイミド樹脂の含有量は、前記低誘電接着剤層の総固形分含有量の40?90重量%であり、
前記低誘電接着剤層のDk値が2.4?2.8(10GHz)であり、Df値が0.002?0.006(10GHz)であり、吸水率が0.05?0.2%であり、線間絶縁抵抗が1011Ωより大きく、表面抵抗が1012Ωより大きく、体積抵抗が1013Ω・cmより大きく、
前記下部離型層は、前記低誘電接着剤層に形成され、前記低誘電接着剤層を前記カラーインク層と離型層との間に位置させる、カラー薄型カバーレイフィルム。
【請求項2】
前記低誘電接着剤層を形成する材料は、エポキシ樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーンゴム系樹脂、ポリパラキシリレン系樹脂、ビスマレインイミド系樹脂、ポリアミドイミドおよびポリアミド樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含む、請求項1に記載のカラー薄型カバーレイフィルム。
【請求項3】
前記カラーインク層を形成する材料は、エポキシ樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーンゴム系樹脂、ポリパラキシリレン系樹脂、ビスマレインイミド系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミドおよびポリアミド樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含む、請求項1に記載のカラー薄型カバーレイフィルム。
【請求項4】
前記上部離型層と前記下部離型層を形成する材料は、それぞれ独立して、ポリプロピレン、二軸延伸ポリプロピレンおよびポリエチレンテレフタレートからなる群から選択される少なくとも1種の重合体である、請求項1に記載のカラー薄型カバーレイフィルム。
【請求項5】
前記焼結シリカの含有量は、前記低誘電接着剤層の総固形分含有量の2?15重量%であり、
前記テフロン(登録商標)の含有量は、前記低誘電接着剤層の総固形分含有量の2?10重量%であり、
前記テフロン(登録商標)以外のフッ素系樹脂の含有量は、前記低誘電接着剤層の総固形分含有量の2?10重量%であり、
前記リン系難燃剤の含有量は、前記低誘電接着剤層の総固形分含有量の2?15重量%である、請求項1に記載のカラー薄型カバーレイフィルム。
【請求項6】
前記カラーインク層は、無機顔料または有機顔料を含み、
前記無機顏料は、カドミウムレッド、カドミウムレモンイエロー、カドミウムイエローオレンジ、二酸化チタン、カーボンブラック、黒色酸化鉄または黒色錯体無機顏料であり、
前記有機顏料は、アニリンブラック、ペリレンブラック、アントラキノンブラック、ベンジジン系黄色顏料、フタロシアニンブルーまたはフタロシアニングリーンである、請求項1に記載のカラー薄型カバーレイフィルム。
【請求項7】
前記カラーインク層の厚さは3?5μmであり、前記低誘電接着剤層の厚さは3?10μmである、請求項1に記載のカラー薄型カバーレイフィルム。
【請求項8】
上部離型層の下表面にカラーインク原料を塗布して、50?180℃で前記カラーインク原料を硬化させ、カラーインク層を形成する工程、
塗布法または転写法により、低誘電接着剤層を前記カラーインク層の下表面に形成する工程、および
下部離型層を前記低誘電接着剤層の下表面に貼り覆う工程を含む、請求項1に記載のカラー薄型カバーレイフィルムの製造方法。」


第3 令和2年7月28日付け拒絶理由
令和2年7月28日付けで当審により通知した拒絶理由は以下の理由を含むものである。

2.(明確性要件)本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号(令和2年7月28日付け拒絶理由の「特許法第36条第6項第1号」は、「特許法第36条第6項第2号」の明らかな誤記であり、令和3年2月10日に電話で請求人代理人に説明済み。)に規定する要件を満たしていない。
3.(実施可能要件)本件出願は、明細書の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。


2.(明確性要件)について
(1)請求項1中の「吸水率」、「線間絶縁抵抗」、「表面抵抗」及び「体積抵抗」は、それぞれ、その計測手段が明確でない。
(2)請求項2中の「フッ素系樹脂」及び「ポリイミド樹脂」は、請求項1の「テトラフルオロエチレン系樹脂、テトラフルオロエチレン系樹脂以外のフッ素系樹脂」及び「ポリイミド樹脂」とどのような関係であるのか明確でない。

よって、請求項1及び2に係る発明、請求項1を引用する請求項2?8に係る発明は、明確でない。

3.(実施可能要件)について
発明の詳細な説明には、請求項1に係る低誘電接着剤層の「吸水率が0.05?0.2%であり、線間絶縁抵抗が1011Ωより大きく、表面抵抗が1012Ωより大きく、体積抵抗が1013Ω・cmより大き」い「カラー薄型カバーレイフィルム」について、具体的に記載されていない。
さらに、発明の詳細な説明の【0033】?【0038】に具体的に記載された実施例1?4は、「焼結シリカ」、「テフロン(登録商標)」、「フッ素樹脂」、「リン系難燃剤」及び「ポリイミド系樹脂」が具体的に記載されていない。
そして、平成31年4月26日の意見書の参考資料の「2.フッ素系樹脂特性一覧表」にテフロン(登録商標)である「PTFE」、「PFA」、「FEP」の「誘電率」や「誘電性率」が異なることが記載されているように、それぞれの成分が異なれば、吸水率や電気的特性が異なることが技術常識であるから、発明の詳細な説明には、本願発明を実施する具体的な成分が記載されていない。
そうすると、「焼結シリカ」、「テフロン(登録商標)」、「フッ素樹脂」、「リン系難燃剤」及び「ポリイミド系樹脂」は、それぞれ、様々な電気的特性を有するものが存在し、それらを組み合わせた際の吸水率や電気的特性も様々であるから、本願発明の「低誘電接着剤層のDk値が2.4?2.8(10GHz)であり、Df値が0.002?0.006(10GHz)であり、吸水率が0.05?0.2%であり、線間絶縁抵抗が1011Ωより大きく、表面抵抗が1012Ωより大きく、体積抵抗が1013Ω・cmより大きく」した低誘電接着剤層は、発明の詳細な説明に実施できる程度に記載されているとはいえない。

ゆえに、「吸水率」、「線間絶縁抵抗」、「表面抵抗」及び「体積抵抗」は、低誘電接着剤層の成分、製造方法や形態によって変わるところ、発明の詳細には、具体例も記載されていないから、当業者が請求項1?8に係る発明を実施できる程度に記載されているとはいえない。


第4 当審の判断
1.(明確性要件)について
事案に鑑みて、まず明確性要件について検討する。
(1)「吸水率」について
請求項1中の「吸水率」の測定方法について、本願明細書には何ら記載されていない。
また、JISK7209:2000”プラスチック-吸水率の求め方”を参照しても、「6.2 A法」、「5.3 B法」及び「5.4 C法」の3つの測定方法が記載されており、本願の「吸水率」がどの測定方法により測定されるものであるかは、不明である。
そうすると、低誘電接着剤層の吸水率は、その測定方法により、異なることが技術常識であるから、本願発明の「吸水率」が、どのように測定されたものであるのか明確でなく、「吸水率が0.05?0.2%であ」ることが明確でない。

(2)「線間絶縁抵抗」について
請求項1中の「線間絶縁抵抗」」の測定方法について、本願明細書には何ら記載されていない。
低誘電接着剤層の「線間絶縁抵抗」とは、その文言から、導線と導線との間の絶縁抵抗であると理解されるが、低誘電接着剤層にどのような導線を作成した上で、どのような条件で測定した抵抗値であるのかは、不明である。
また、「線間絶縁抵抗」の一般的な測定方法の存在は認められない。
そうすると、低誘電接着剤層の線間絶縁抵抗は、その測定方法により、異なることが技術常識であるから、本願発明の「線間絶縁抵抗」が、どのように測定されたものであるのか明確でなく、「線間絶縁抵抗が1011Ωより大き」いことが明確でない。

(3)小括
上記のとおりであるから、特許請求の範囲の記載は明確でない。

2.(実施可能要件)について
(1)本願明細書記載事項
本願明細書には、以下の記載がある。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント回路基板に用いられるカバーレイフィルムに関し、特に、フレキシブルプリント回路基板(Flexible printed circuit、以下、FPCとも称す)に用いられるカラー薄型カバーレイフィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、電子システムは、軽く薄く短く小さい、高耐熱性、多機能性、高密度化、高信頼性および低コストの方向へ発展しつつあり、その機能には、強力で高速な信号伝送が要求されている。高周波数分野において、効率的にエネルギー利用率を高めるために、無線基礎設備は十分に低い挿入損失、より低い誘電率および誘電損失を提供する必要がある。5G時代およびUSB3.1などの応用要求に応じて、無線周波(Radio frequency)製品はより広い帯域幅を提供し、3G、4Gに対する後方互換性をも維持する必要がある。現在、よく見られている市販のカバーレイフィルムの材料としては、黒色ポリイミドフィルムがあり、その薄型化のデザインにおけるボトルネックは、厚さが5μm以下の黒色ポリイミドフィルムの作製が極めて困難であり、加工操作性も悪いことである。また、エポキシ樹脂系の接着剤を使用すると、イオン純度が悪く、電気性が不良、コストが高いなどの問題が生じる。これらの問題により、現在の超微細配線化された回路と高周波数・高速な伝送への発展に対して、カバーレイフィルムが対応することが難しくなる。また、もう一つのインク型カラー高周波数カバーレイフィルムは、5?7.5μmの黄色の超薄型ポリイミドフィルムにカラーインクを塗布したものであるが、その製造方法もコストが高く厚さが大きいという問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の事情に鑑みて、現在の微細配線化された回路のデザインを満足し、またその高耐熱性、多機能性、高密度化、高信頼性、かつ低コストへの発展方向を満足し、さらに機能に必要とされる強力で高速な信号伝送の要求を満足することができるカバーレイフィルムについて、業界での研究開発および改良が必要である。」
イ 「【発明の効果】
【0015】
本発明のカラー薄型カバーレイフィルムおよびその製造方法によれば、少なくとも下記のメリットが得られる。
その一、本発明は、低誘電接着剤層を採用しており、当該低誘電接着剤層はDk値が2.4?2.8であり、Df値が0.002?0.006であり、Dk/Df値が低いので、伝送過程における信号損失を減らし、信号伝送品質をより高めることができ、FPCの高周波数・高速化、熱放散・熱伝導の快速化、および生産コストの最小化への要求を完全に満足することができる。
その二、本発明の低誘電接着剤層の配合処方は、焼結シリカ、テフロン、フッ素系樹脂、リン系難燃剤およびポリイミド樹脂を含有するので、より低い吸水率(0.05?0.2%)を有し、吸水後の性能が安定して、良好な電気性能を有し、信号伝送の挿入損失を減らすことができる。
その三、本発明の低誘電接着剤層は、極めて低い、かつ高温高湿環境下で安定したDk/Df値を有するので、本発明は、低温(190℃より低い)での硬化に適し、プロセス加工性が強く、また、製造設備に対する要求が低いため、生産コストを下げることができる。
その四、本発明のカラー薄型カバーレイフィルムは、より低い反発力を有し、下流の高密度実装プロセスに適する。
その五、本発明のカラーインク層と低誘電接着剤層との合計厚さは、最も低い場合は4?7μmに達することができ、現在のFPCの微細配線化された回路のデザインの要求を満足する。」
ウ 「【0020】
前記カラーインク層200と前記低誘電接着剤層300との合計厚さは4?35μmであり、その中、前記カラーインク層200の厚さは1?10μmであり、前記低誘電接着剤層300の厚さは3?25μmである。
【0021】
また、前記低誘電接着剤層300は、Dk値が2.4?2.8(10GHz)であり、Df値が0.002?0.006(10GHz)であり、吸水率が0.05?0.2%であり、線間絶縁抵抗が1011Ωより大きく、表面抵抗が1012Ωより大きく、体積抵抗が1013Ω・cmより大きいものであり得る。
【0022】
前記低誘電接着剤層300を形成する材料は、フッ素系樹脂、エポキシ樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーンゴム系樹脂、ポリパラキシリレン系樹脂、ビスマレインイミド系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミドおよびポリアミド樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含み得る。
【0023】
前記低誘電接着剤層300は、焼結シリカ、テフロン、フッ素系樹脂、リン系難燃剤およびポリイミド樹脂を含み、前記焼結シリカ、前記テフロン、前記フッ素系樹脂および前記リン系難燃剤の合計含有量は、前記低誘電接着剤層の総固形分含有量の8?50重量%であり、前記ポリイミド樹脂の含有量は、前記低誘電接着剤層の総固形分含有量の40?90重量%であり得る。」
エ 「【0026】
前記焼結シリカの含有量は、前記低誘電接着剤層の総固形分含有量の2?15重量%であり、前記テフロンの含有量は、前記低誘電接着剤層の総固形分含有量の2?10重量%であり、前記フッ素系樹脂の含有量は、前記低誘電接着剤層の総固形分含有量の2?10重量%であり、前記リン系難燃剤の含有量は、前記低誘電接着剤層の総固形分含有量の2?15重量%であり得る。」
オ 「【実施例】
【0033】
下記の表1には、本発明の実施例1?実施例4の低誘電接着剤層における焼結シリカ、テフロン、フッ素系樹脂、リン系難燃剤およびポリイミド系樹脂の具体的な重量百分率が記載されている。
【0034】
【表1】

【0035】
下記の表2には、実施例1?実施例4の低誘電接着剤層、カラーインク層の具体的な重ね構造が記載され、また、基本性能について、既存のFPC板と比較した結果を表2に記載する。
【0036】
【表2】

【0037】
表2の記載から、本発明のカラー薄型カバーレイフィルムは、高い熱伝導係数、低い熱伝導効率、低い耐絶縁破壊電圧および低いDk/Df値を有することがわかる。
【0038】
上記の実施例は、本発明の原理およびその効果を説明するためのものであるが、本発明を限定するためのものではない。当業者は、本発明の精神および範囲から逸脱していない限り、上記の実施例を修正することができる。本発明の権利範囲は、添付の特許請求の範囲に記載されるとおりである。」

(2)本願発明について
本願明細書の【0001】?【0003】及び【0015】の記載を参照すると、本願発明は、以下のとおり理解される。
現在、電子システムは、軽く薄く短く小さい、高耐熱性、多機能性、高密度化、高信頼性および低コストの方向へ発展しつつあり、その機能には、強力で高速な信号伝送が要求されている。高周波数分野において、効率的にエネルギー利用率を高めるために、無線基礎設備は十分に低い挿入損失、より低い誘電率および誘電損失を提供する必要がある。5G時代およびUSB3.1などの応用要求に応じて、無線周波(Radio frequency)製品はより広い帯域幅を提供し、3G、4Gに対する後方互換性をも維持する必要がある。
そこで、本願発明は、プリント回路基板に用いられるカバーレイフィルムに関し、特に、フレキシブルプリント回路基板(Flexible printed circuit、以下、FPCとも称す)に用いられるカラー薄型カバーレイフィルムおよびその製造方法に関するものであって、上記の事情に鑑みて、現在の微細配線化された回路のデザインを満足し、またその高耐熱性、多機能性、高密度化、高信頼性、かつ低コストへの発展方向を満足し、さらに機能に必要とされる強力で高速な信号伝送の要求を満足することができるカバーレイフィルムを提供することを課題とする。
そして、本願発明は、
ア 低誘電接着剤層はDk値が2.4?2.8であり、Df値が0.002?0.006であり、Dk/Df値が低いので、伝送過程における信号損失を減らし、信号伝送品質をより高めることができ、FPCの高周波数・高速化、熱放散・熱伝導の快速化、および生産コストの最小化への要求を完全に満足し、
イ 焼結シリカ、テフロン(登録商標)、フッ素系樹脂、リン系難燃剤およびポリイミド樹脂を含有するので、より低い吸水率(0.05?0.2%)を有し、吸水後の性能が安定して、良好な電気性能を有し、信号伝送の挿入損失を減らし、
ウ カラーインク層と低誘電接着剤層との合計厚さは、最も低い場合は4?7μmに達することができ、現在のFPCの微細配線化された回路のデザインの要求を満足する
ことで上記課題を解決するものであるから、本願発明は、特定の厚さのカラーインク層と低誘電接着剤層とすること、及び特定の低誘電接着剤層を採用することに技術的意義をを有するものである。

(3)実施例について
そこで、本願明細書の発明の詳細な説明に、当業者が本願発明を実施できる程度に記載されているかについて、以下検討する。
本願明細書に記載された実施例1?4(【0033】?【0038】)は、吸水率、線間絶縁抵抗、表面抵抗及び体積抵抗が記載されておらず、本願発明の実施例であるとは理解できない。
また、仮に、実施例1?4が本願発明の実施例であるとしても、「焼結シリカ」、「テフロン」、「フッ素樹脂」、「リン系難燃剤」及び「ポリイミド系樹脂」が具体的に記載されていない。そして、平成31年4月26日の意見書の参考資料の「2.フッ素系樹脂特性一覧表」にテフロンである「PTFE」、「PFA」、「FEP」の「誘電率」や「誘電性率」が異なることが記載されているように、「焼結シリカ」、「テフロン」、「フッ素樹脂」、「リン系難燃剤」及び「ポリイミド系樹脂」は、それぞれの成分が異なれば、吸水率や電気的特性が異なることが技術常識であるから、発明の詳細な説明には、具体的な成分が記載されておらず、当業者であっても、当該記載からは本願発明を実施できるとはいえない。

(4)本願明細書の記載について
また、本願明細書の【0020】にはカラーインク層と低誘電接着剤層について、【0021】?【0023】及び【0026】には低誘電接着剤層の成分について記載されているが、当該記載を参照しても、「焼結シリカ」、「テフロン」、「フッ素樹脂」、「リン系難燃剤」及び「ポリイミド系樹脂」は、それぞれ、様々な電気的特性を有するものが存在し、それらを組み合わせた際の吸水率や電気的特性も様々であるから、本願明細書には、本願発明の「低誘電接着剤層のDk値が2.4?2.8(10GHz)であり、Df値が0.002?0.006(10GHz)であり、吸水率が0.05?0.2%であり、線間絶縁抵抗が1011Ωより大きく、表面抵抗が1012Ωより大きく、体積抵抗が1013Ω・cmより大きく」した低誘電接着剤層を備えたカラー薄型カバーレイフィルムを、当業者が実施できる程度に記載されているとはいえない。

(5)小括
以上のとおりであるから、本件出願の明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施できる程度に記載されているとはいえない。


第5 まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号の規定を満たしておらず、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2021-03-15 
結審通知日 2021-03-16 
審決日 2021-03-30 
出願番号 特願2018-30579(P2018-30579)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (B32B)
P 1 8・ 536- WZ (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩田 行剛  
特許庁審判長 石井 孝明
特許庁審判官 村山 達也
佐々木 正章
発明の名称 カラー薄型カバーレイフィルムおよびその製造方法  
代理人 原 裕子  
代理人 三好 秀和  
代理人 伊藤 正和  
代理人 山中 裕子  

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