• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01G
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01G
管理番号 1377371
審判番号 不服2020-10130  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-07-20 
確定日 2021-09-14 
事件の表示 特願2016-122000「積層セラミックコンデンサ」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月28日出願公開、特開2017-228586、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年6月20日の出願であって、令和1年11月11日付けで拒絶理由が通知され、令和2年1月20日に意見書及び手続補正書が提出され、同年4月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月20日に拒絶査定不服審判が請求され、令和3年2月10日付けで当審から拒絶理由が通知され、同年4月15日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2 原査定の概要
原査定(令和2年4月14日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
1.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項 1-3、5-9(新規性進歩性)
・引用文献等 AまたはB

・請求項 4(進歩性)
・引用文献等 A、CまたはB、C

<引用文献等一覧>
A.特開2003-173925号公報
B.特開2011-211058号公報
C.特開2014-036219号公報


第3 当審拒絶理由の概要
令和3年2月10日付けの拒絶理由通知書により通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)の概要は次のとおりである。
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。(進歩性)

・請求項1-3
・引用文献等1

・請求項4-9
・引用文献等1、2

<引用文献等一覧>
1.特開2003-173925号公報
2.特開2014-036219号公報


第4 本願発明
本願請求項1ないし11に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明11」という。)は、令和3年4月15日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
1対の外部電極と、
卑金属を含み、前記外部電極の一方に接続された第1内部電極と、
前記第1内部電極上に積層され、チタン酸バリウムを主成分とするセラミック材料と前記卑金属とを含む誘電体層と、
前記誘電体層上に積層され、前記卑金属を含み、前記外部電極の他方に接続された第2内部電極と、を備え、
前記第1内部電極と前記第2内部電極との間の前記積層の方向において、前記誘電体層の前記第1内部電極から50nm離れた位置から前記誘電体層の前記第2内部電極から50nm離れた位置までを積層方向に5つの領域に等分し、前記5つの各領域における前記卑金属のそれぞれの濃度が、前記5つの領域の前記卑金属の平均濃度の±20%以内であり、
前記誘電体層においてTiに対するMgの原子濃度比率が0以上0.002未満であり、
前記誘電体層の前記第1内部電極から50nm離れた位置から前記誘電体層の前記第2内部電極から50nm離れた位置までの範囲に、前記セラミック材料の結晶粒と、前記結晶粒の結晶粒界とが含まれることを特徴とする積層セラミックコンデンサ。
【請求項2】
前記5つの各領域における前記卑金属のそれぞれの濃度が、前記5つの領域の前記卑金属の平均濃度の±10%以内であることを特徴とする請求項1記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項3】
前記5つの各領域における前記卑金属のそれぞれの濃度が、前記5つの領域の前記卑金属の平均濃度の±5%以内であることを特徴とする請求項1記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項4】
前記誘電体層の厚さは、0.4μm以上1.0μm以下であることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項5】
前記セラミック材料は、BaTiO_(3)であり、
前記卑金属は、Niであることを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項6】
複数の誘電体層が内部電極を介して積層され、
前記複数の誘電体層のうち、80%以上が前記誘電体層であることを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項7】
前記誘電体層において、前記セラミック材料の少なくともいずれかの結晶粒における前記卑金属の濃度が、当該結晶粒に隣接する結晶粒界の前記卑金属の濃度の±20%以内に入ることを特徴とする請求項1?6のいずれか一項に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項8】
前記誘電体層における卑金属濃度は透過型電子顕微鏡で測定されたものであることを特徴とする請求項1?7のいずれか一項に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項9】
前記卑金属は、Niであり、
前記誘電体層におけるNi原子、Ba原子、およびTi原子の存在量において、BaおよびTiの存在量が90%を超えていることを特徴とする請求項1?8のいずれか一項に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項10】
前記積層方向の異なる5つの前記誘電体層のうち少なくとも4つにおいて、前記セラミック材料の少なくともいずれかの結晶粒における前記卑金属の濃度が、当該結晶粒に隣接する結晶粒界の前記卑金属の濃度の±20%以内に入ることを特徴とする請求項7に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項11】
1対の外部電極と、
卑金属を含み、前記外部電極の一方に接続された第1内部電極と、
前記第1内部電極上に積層され、チタン酸バリウムを主成分とするセラミック材料と前記卑金属とを含む誘電体層と、
前記誘電体層上に積層され、前記卑金属を含み、前記外部電極の他方に接続された第2内部電極と、を備え、
前記第1内部電極と前記第2内部電極との間の前記積層の方向において、前記誘電体層の前記第1内部電極から50nm離れた位置から前記誘電体層の前記第2内部電極から50nm離れた位置までを積層方向に5つの領域に等分し、前記5つの各領域における前記卑金属のそれぞれの濃度が、前記5つの領域の前記卑金属の平均濃度の±20%以内であり、
前記誘電体層においてTiに対するMgの原子濃度比率が0以上0.002未満であり、
前記誘電体層の前記第1内部電極から50nm離れた位置から前記誘電体層の前記第2内部電極から50nm離れた位置までの範囲に、前記セラミック材料の結晶粒と、前記結晶粒の結晶粒界とが含まれ、
前記誘電体層において、前記セラミック材料の少なくともいずれかの結晶粒における前記卑金属の濃度が、当該結晶粒に隣接する結晶粒界の前記卑金属の濃度の±20%以内に入ることを特徴とする積層セラミックコンデンサ。」


第5 当審拒絶理由についての判断
1 本願発明1について
(1)引用文献1の記載、引用発明1
当審拒絶理由で引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。

「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、積層セラミック電子部品の製造方法および積層セラミック電子部品に関するもので、特に、積層セラミック電子部品に備える積層体の焼結度合いの均一化を図るための改良に関するものである。」

「【0035】図1に示した積層体11を製造するため、まず、焼成によってセラミック層2となるべきものであって、セラミック粉末を含む複数のセラミックグリーンシートが用意される。これらセラミックグリーンシートは、内部電極3に含まれる導電性金属成分の酸化物を、セラミック粉末に対して0.05?0.20重量%含んでいる。
・・・・
【0037】まず、セラミック原料が用意される。得ようとするセラミック粉末がBaTiO_(3)系のセラミック粉末である場合には、たとえば、酸化チタン粉末および酸化バリウム粉末等が用意される。」

「【0039】次に、セラミック粉末が、溶剤、バインダおよび可塑剤等を含む有機ビヒクルと混合され、分散処理されることによって、セラミックスラリーが作製される。このセラミックスラリーを作製するための調合段階において、内部電極3に含まれる導電性金属成分の酸化物を添加することが好ましい。内部電極3に含まれる導電性金属成分がニッケルを含む場合、たとえばNiO粉末がこの調合段階において添加される。」

「【0041】すなわち、第1に、得ようとするセラミック層2の厚みに応じて、導電性金属成分の酸化物の濃度を逐次調整することが容易であるためである。たとえば、セラミック層2が厚くなると、内部電極3間のセラミック層2において、内部電極3により近い部分と内部電極3からより離れた部分との間で、内部電極3に含まれていた導電性金属成分の拡散量の差がより大きくなる。そこで、このようにセラミック層2の厚みが厚くなるほど、導電性金属成分の酸化物の添加量を増やせば、セラミック層2内での導電性金属成分の酸化物の濃度についての不均一性を抑えることができる。
【0042】第2に、仮焼によって得られたセラミック粉末の結晶格子内に導電性金属成分の酸化物が含まれない状態から焼成を開始した方が、導電性金属成分の酸化物について、内部電極3からの拡散および固溶の場合と類似する効果を期待できるためである。仮焼前のセラミック原料の調合段階で、導電性金属成分の酸化物を添加した場合には、仮焼後のセラミック粉末内に既に導電性金属成分の酸化物が含まれているため、この添加された導電性金属成分の酸化物は、内部電極3に含まれていた導電性金属成分の拡散および固溶と同じような挙動をもって、拡散および固溶し得ない。これに対して、セラミックスラリーを作製する工程において、導電性金属成分の酸化物を添加すれば、この添加された導電性金属成分の酸化物と内部電極3に予め含まれていた導電性金属成分とは、互いに同じ挙動をもって、セラミック層2内で拡散および固溶し、また、セラミック粉末の結晶粒の成長に対して互いに同じ影響を与えることができる。」

「【0045】このようにして複数のセラミックグリーンシートが用意された後、中間部に位置するセラミック層2となるセラミックグリーンシート上には、導電性金属成分を含む内部電極3が形成される。内部電極3は、たとえば、導電性金属成分を含む導電性ペーストをセラミックグリーンシート上に印刷することによって形成される。
【0046】次に、複数のセラミックグリーンシートが積層され、それによって生の積層体が得られる。この生の積層体を得るため、内部電極3が形成されたセラミックグリーンシートを積層したものの積層方向における両端部に、内部電極が形成されない外層用のセラミックグリーンシートを積層するようにされる。
【0047】次に、生の積層体が焼成され、それによって、焼結後の積層体11が得られる。この積層体11においては、セラミック層2となるべきセラミックグリーンシートに導電性金属成分の酸化物が予め含まれていたため、内部電極3から導電性金属成分が拡散かつ固溶しても、積層体11全体としての導電性金属成分の酸化物の濃度の不均一性が抑えられるので、幅方向における両端部6および外層部分7に焼結不十分領域が形成されることを防止することができる。
【0048】次に、積層体11の外表面上には、内部電極3の特定のものに接続されるように外部電極4(図4参照)が形成され、積層セラミックコンデンサが完成される。」

上記記載から次のことがいえる。

・段落【0035】によれば、焼成によってセラミック層2となるべきセラミックグリーンシートは、内部電極3に含まれる導電性金属成分の酸化物を、セラミック粉末に対して0.05?0.20重量%含んでおり、段落【0037】によれば、セラミック粉末はBaTiO_(3)系である。また、段落【0039】によれば、内部電極3に含まれる導電性金属成分がニッケルを含む場合、NiO粉末がセラミックスラリーを作製するための調合段階において添加される。
そうしてみると、焼成によってセラミック層2となる、BaTiO_(3)系のセラミック粉末を含むセラミックグリーンシートは、内部電極3に含まれる導電性金属成分の酸化物であるNiO粉末を、セラミック粉末に対して0.05?0.20重量%含むということができる。

・段落【0045】によれば、中間部に位置するセラミック層2となるセラミックグリーンシート上に、導電性金属成分を含む内部電極3が形成され、段落【0039】によれば、内部電極3に含まれる導電性金属成分はニッケルである。
そうしてみると、中間部に位置するセラミック層2となるセラミックグリーンシート上に、導電性金属成分であるニッケルを含む内部電極3が形成されるということができる。

・段落【0046】ないし【0047】によれば、複数のセラミックグリーンシートが積層され焼成されることで、焼結後の積層体11が得られ、段落【0048】によれば、積層体11の外表面上には、内部電極3の特定のものに接続されるように外部電極4が形成され積層セラミックコンデンサが完成される。
そうしてみると、積層セラミックコンデンサには、複数のセラミックグリーンシートが積層され焼成された積層体11の外表面上に、内部電極3の特定のものに接続されるように外部電極4が形成されるということができる。

・段落【0041】に、セラミック層2の厚みが厚くなるほど、導電性金属成分の酸化物の添加量を増やせば、セラミック層2内での導電性金属成分の酸化物の濃度についての不均一性を抑えることができることが記載されていることから、セラミック層2内での導電性金属成分の酸化物の濃度についての不均一性を抑えるように、セラミック層2の厚みに応じて導電性金属成分の酸化物の添加量を調整しているといえる。

・段落【0042】に、セラミックスラリーを作製する工程において、導電性金属成分の酸化物を添加すれば、この添加された導電性金属成分の酸化物と内部電極3に予め含まれていた導電性金属成分とは、互いに同じ挙動をもって、セラミック層2内で拡散および固溶し、また、セラミック粉末の結晶粒の成長に対して互いに同じ影響を与えることができると記載されていることから、セラミック層2にはセラミック粉末の結晶粒が存在しているといえる。

以上によれば、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「焼成によってセラミック層2となる、BaTiO_(3)系のセラミック粉末を含むセラミックグリーンシートは、内部電極3に含まれる導電性金属成分の酸化物であるNiO粉末を、セラミック粉末に対して0.05?0.20重量%含み、
中間部に位置するセラミック層2となるセラミックグリーンシート上に、導電性金属成分であるニッケルを含む内部電極3が形成され、
複数のセラミックグリーンシートが積層され焼成された積層体11の外表面上に、内部電極3の特定のものに接続されるように外部電極4が形成され、
セラミック層2内での導電性金属成分の酸化物の濃度についての不均一性を抑えるように、セラミック層2の厚みに応じて導電性金属成分の酸化物の添加量を調整し、
セラミック層2にはセラミック粉末の結晶粒が存在する、
積層セラミックコンデンサ。」

(2)引用文献2に記載された技術事項
当審拒絶理由に引用された引用文献2(特開2014-036219号公報)の段落【0036】ないし【0041】の記載からみて、当該引用文献2には、「積層セラミックキャパシタにおいて誘電体層の平均厚さを0.65μm以下にする」との技術事項が記載されていると認められる。

(3)対比
本願発明1と引用発明1を対比する。

ア.引用発明1の「外部電極4」は、本願発明1の「外部電極」に相当する。また、積層セラミックコンデンサが1対の外部電極を備えることは技術常識であるから、引用発明1の「外部電極4」は、本願発明1の「1対の外部電極」に相当する。

イ.引用発明1の「ニッケルを含む内部電極3」は、本願発明1の「卑金属を含」む「第1内部電極」、及び「卑金属を含」む「第2内部電極」に相当する。また、引用発明1の「セラミック層2」は、本願発明1の「誘電体層」に相当し、引用発明1の「焼成によってセラミック層2となる、BaTiO_(3)系のセラミック粉末を含むセラミックグリーンシート」は「内部電極3に含まれる導電性金属成分の酸化物であるNiO粉末を、BaTiO_(3)系のセラミック粉末に対して0.05?0.20重量%含」む。そして、引用発明1の「BaTiO_(3)系のセラミック粉末」はBaTiO_(3)(チタン酸バリウム)を主成分とするセラミック材料といえるから、引用発明1の「セラミック層2」は、本願発明1の「チタン酸バリウムを主成分とするセラミック材料と前記卑金属とを含む」「誘電体層」に相当する。
そして、引用発明1の「セラミック層2となるセラミックグリーンシート上に、導電性金属成分であるニッケルを含む内部電極3が形成され、複数のセラミックグリーンシートが積層され焼成され」「内部電極3の特定のものに接続されるように外部電極4が形成され」ることは、積層されたセラミック層2の上面側及び下面側に内部電極3が設けられると共に、内部電極3と外部電極4が接続されているといえる。また、積層セラミックコンデンサにおいて、1つの誘電体層の一方側に備えられた内部電極を一方の外部電極に接続し、他方側に備えられた内部電極を他方の外部電極に接続することは技術常識である。
以上のことを踏まえて、引用発明1において、1つのセラミック層2に着目すると、該セラミック層2の下面側に設けられた内部電極3は、本願発明1の「卑金属を含み、前記外部電極の一方に接続された第1内部電極」に相当し、該セラミック層2は、本願発明1の「第1内部電極上に積層され、チタン酸バリウムを主成分とするセラミック材料と前記卑金属とを含む誘電体層」に相当し、該セラミック層2の上面側に設けられた内部電極3は、本願発明1の「誘電体層上に積層され、前記卑金属を含み、前記外部電極の他方に接続された第2内部電極」に相当する。

ウ.本願発明1が、「前記第1内部電極と前記第2内部電極との間の前記積層の方向において、前記誘電体層の前記第1内部電極から50nm離れた位置から前記誘電体層の前記第2内部電極から50nm離れた位置までを積層方向に5つの領域に等分し、前記5つの各領域における前記卑金属のそれぞれの濃度が、前記5つの領域の前記卑金属の平均濃度の±20%以内である」のに対し、引用発明1はセラミック層2内での導電性金属成分の酸化物の濃度についての不均一性を抑えるためのものであるものの、5つの各領域における卑金属のそれぞれの濃度について特定されていない点で相違する。

エ.本願発明1が、「前記誘電体層においてTiに対するMgの原子濃度比率が0以上0.002未満であ」るのに対し、引用発明1は、誘電体層にMgが含まれることについて特定されていない点で相違する。

オ.引用発明1の「セラミック粉末の結晶粒」は、本願発明1の「セラミック材料の結晶粒」に相当する。また、「セラミック粉末の結晶粒が存在」することから、結晶粒と共に結晶粒に隣接する結晶粒界も存在することは明らかである。してみると、引用発明1の「セラミック層2」に「セラミック粉末の結晶粒が存在する」ことは、本願発明1の「前記誘電体層の前記第1内部電極から50nm離れた位置から前記誘電体層の前記第2内部電極から50nm離れた位置までの範囲に、前記セラミック材料の結晶粒と、前記結晶粒の結晶粒界とが含まれる」ことに相当する。

そうすると、本願発明1と引用発明1とは、以下の点で一致ないし相違する。

(一致点)
「 1対の外部電極と、
卑金属を含み、前記外部電極の一方に接続された第1内部電極と、
前記第1内部電極上に積層され、チタン酸バリウムを主成分とするセラミック材料と前記卑金属とを含む誘電体層と、
前記誘電体層上に積層され、前記卑金属を含み、前記外部電極の他方に接続された第2内部電極と、を備え、
前記誘電体層の前記第1内部電極から50nm離れた位置から前記誘電体層の前記第2内部電極から50nm離れた位置までの範囲に、前記セラミック材料の結晶粒と、前記結晶粒の結晶粒界とが含まれることを特徴とする積層セラミックコンデンサ。」

(相違点1)
本願発明1が、「前記第1内部電極と前記第2内部電極との間の前記積層の方向において、前記誘電体層の前記第1内部電極から50nm離れた位置から前記誘電体層の前記第2内部電極から50nm離れた位置までを積層方向に5つの領域に等分し、前記5つの各領域における前記卑金属のそれぞれの濃度が、前記5つの領域の前記卑金属の平均濃度の±20%以内である」のに対し、引用発明1はセラミック層2内での導電性金属成分の酸化物の濃度についての不均一性を抑えるためのものであるものの、積層方向に5つの領域に等分し5つの各領域における卑金属のそれぞれの濃度について特定されていない点。

(相違点2)
本願発明1が、「前記誘電体層においてTiに対するMgの原子濃度比率が0以上0.002未満であ」るのに対し、引用発明1は、誘電体層にMgが含まれることについて特定されていない点。

(4)相違点に対する判断
相違点1について検討する。
引用発明1において「セラミック層2の厚みに応じて導電性金属成分の酸化物の添加量を調整」することは、セラミック層2が厚くなると、内部電極3間のセラミック層2において、内部電極3により近い部分と内部電極3からより離れた部分との間で、内部電極3に含まれていた導電性金属成分の拡散量の差がより大きくなるため、セラミック層2の厚みが厚くなるほど、導電性金属成分の酸化物の添加量を増やすことにより、セラミック層2内での導電性金属成分の酸化物の濃度についての不均一性を抑えるものであるから(段落【0041】)、当該記載に鑑みれば可能な限り酸化物の濃度の不均一性を抑えるように添加量を調整することは、当業者が容易になし得たことである。
しかしながら、不均一性を抑えるための一手法として複数の領域における平均濃度を一定の範囲内とすればよいことが技術常識から容易に想起される事項にすぎないとしても、第1、第2内部電極から50nm離れた領域を濃度の判定に用いること、及び、卑金属の拡散方向に鑑み、積層方向に5つの領域に等分することまで当業者が容易になし得た事項とはいえない。そして、当該事項は引用文献2をみても記載も示唆もされていない。
したがって、本願発明1の「前記第1内部電極と前記第2内部電極との間の前記積層の方向において、前記誘電体層の前記第1内部電極から50nm離れた位置から前記誘電体層の前記第2内部電極から50nm離れた位置までを積層方向に5つの領域に等分し、前記5つの各領域における前記卑金属のそれぞれの濃度が、前記5つの領域の前記卑金属の平均濃度の±20%以内」との構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項とはいえない。

(5)結論
したがって、相違点2について判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明1、引用文献2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

2 本願発明2ないし11について
本願発明2ないし10は、いずれも請求項1を直接的または間接的に引用しており、上記相違点1に係る構成を含むから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても引用発明1、引用文献2に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
また、本願発明11は、上記相違点1とした構成と同一の構成を有するものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても引用発明1、引用文献2に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。


第6 原査定についての判断
1 引用文献Aを主引例とする拒絶理由について
原査定における引用文献A、引用文献Cは、それぞれ当審拒絶理由における引用文献1、引用文献2であるから、上記「第5」で検討したように、本願発明1ないし11は、引用文献Aに記載された発明と少なくとも上記相違点1とした点で相違し、引用文献Aに記載された発明と同一ではない。そして、上記「第5」の検討のように相違点1に係る構成は引用文献Aに記載された発明と引用文献Cに記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

2 引用文献Bを主引例とする拒絶理由について
(1)引用文献Bの記載、引用発明B
引用文献Bには図面とともに以下の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品の製造方法および電子部品の評価方法に係り、さらに詳しくは電子部品の再酸化状態を評価する方法、およびこの評価方法を利用する電子部品の製造方法に関する。」

「【0025】
図1に示すように、本実施形態において、積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と内部電極層3とが交互に積層された構成のコンデンサ素子本体10を有する。このコンデンサ素子本体10の両側端部には、コンデンサ素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。内部電極層3は、各側端面がコンデンサ素子本体10の対向する2端部の表面に交互に露出するように積層してある。
・・・・
【0027】
誘電体層2の材質は、ペロブスカイト型結晶構造を有する酸化物を含む焼結体で構成されていれば特に限定されない。本実施形態では、該焼結体は、たとえばチタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウムまたはこれらの混合物など、ペロブスカイト型結晶構造を有する酸化物を主成分として含む。・・・・
【0028】
内部電極層3を構成する導電材としては、特に制限されないが、本実施形態では、後述するように、素子本体10は還元雰囲気での焼成により形成されるため、卑金属であるニッケルまたはニッケル合金、銅または銅合金で構成することができる。また、内部電極層3の厚みは、特に限定されず、用途等に応じて決定すればよい。
・・・・
【0042】
焼成後、セラミック焼結体から構成される誘電体層と卑金属から構成される内部電極層とを有する素子本体10が得られる。この素子本体では、異材質である誘電体層と内部電極層とが同時焼成されて形成されているため、素子本体には内部応力が生じる。」

「【0087】
実施例1
まず、主成分の原料としてチタン酸バリウムと、副成分の原料として酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化マンガンおよび酸化シリコンを準備した。
・・・・
【0108】
実施例2
主成分の原料としてチタン酸バリウム、副成分の原料として、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化マンガン、酸化イットリウムおよび酸化バナジウムを用い、焼成時の酸素分圧を10-7Paとした以外は、実施例1と同様にして、素子本体を作製した。」

上記の記載から以下のことがいえる。

・段落【0025】によれば、積層セラミックコンデンサ1のコンデンサ素子本体10は、誘電体層2と内部電極層3とが交互に積層され、両側端部に、コンデンサ素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成されているといえる。

・段落【0027】【0028】【0042】によれば、積層セラミックコンデンサ1の素子本体10はチタン酸バリウムを主成分とするセラミック焼結体から構成される誘電体層と、卑金属であるニッケルから構成される内部電極層とを有するということができる。

・段落【0087】【0108】によれば、副成分の材料として酸化マグネシウムが用いられる。

以上によれば、引用文献Bには以下の発明(以下、「引用発明B」という。)が記載されていると認められる。

「 積層セラミックコンデンサ1のコンデンサ素子本体10は、誘電体層2と内部電極層3とが交互に積層され、両側端部に、コンデンサ素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成され、
コンデンサ素子本体10はチタン酸バリウムを主成分とし副成分を酸化マグネシウムとするセラミック焼結体から構成される誘電体層と、卑金属であるニッケルから構成される内部電極層とを有する、
積層セラミックコンデンサ1。」

(2)引用文献Cに記載された技術事項
引用文献Cは当審拒絶理由の引用文献2であるから、引用文献Cに記載された技術事項は上記「第5」「1」「(2)」のとおりである。

(3)本願発明1との対比・判断
本願発明1と引用発明Bを対比する。

・引用発明Bの「一対の外部電極4」は本願発明1の「1対の外部電極」に相当する。

・引用発明Bにおいて、コンデンサ素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3のうちの一方は、一対の外部電極4の一方に接続されているといえ、また内部電極層は卑金属から構成されるから、本願発明1の「卑金属を含み、前記外部電極の一方に接続された第1内部電極」に相当する。
また、引用発明Bにおいて、コンデンサ素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3のうちの他方は、一対の外部電極4の他方に接続されているといえ、また内部電極層は卑金属から構成され、誘電体層2と積層されるから、本願発明1の「前記誘電体層上に積層され、前記卑金属を含み、前記外部電極の他方に接続された第2内部電極」に相当する。

・引用発明Bにおいて、「誘電体層2」はチタン酸バリウムを主成分とし副成分を酸化マグネシウムとする積層セラミック焼結体から構成され、内部電極層3と交互に積層されており、マグネシウムは卑金属であるから、本願発明1における「前記第1内部電極上に積層され、チタン酸バリウムを主成分とするセラミック材料と」「卑金属とを含む誘電体層」に対応する。ただし、本願発明1では「誘電体層」と「内部電極」が同一の「卑金属」を含むのに対し、引用発明Bでは「誘電体層2」に「卑金属」としてマグネシウムを含んでいるが、「内部電極層3」はニッケルを含んでおり、含まれる「卑金属」が異なる点で相違する。

・本願発明1は、「前記第1内部電極と前記第2内部電極との間の前記積層の方向において、前記誘電体層の前記第1内部電極から50nm離れた位置から前記誘電体層の前記第2内部電極から50nm離れた位置までを積層方向に5つの領域に等分し、前記5つの各領域における前記卑金属のそれぞれの濃度が、前記5つの領域の前記卑金属の平均濃度の±20%以内」であるのに対し、引用発明Bではその旨特定されていない点で相違する。

・引用発明Bは、誘電体層に副成分として酸化マグネシウムを含んでおり、マグネシウム(Mg)を含む点で本願発明1と共通する。
ただし、本願発明1は、「誘電体層においてTiに対するMgの原子濃度比率が0以上0.002未満」であるのに対して、引用文献Bではマグネシウムの原子濃度比率が特定されていない点で相違する。

・本願発明1では、「前記誘電体層の前記第1内部電極から50nm離れた位置から前記誘電体層の前記第2内部電極から50nm離れた位置までの範囲に、前記セラミック材料の結晶粒と、前記結晶粒の結晶粒界とが含まれる」のに対して、引用発明Bはその旨特定されていない点で相違する。

そうすると、本願発明1と引用発明Bとは、以下の一致点、相違点3ないし相違点6を有する。

(一致点)
「1対の外部電極と、
卑金属を含み、前記外部電極の一方に接続された第1内部電極と、
前記第1内部電極上に積層され、チタン酸バリウムを主成分とするセラミック材料と卑金属とを含む誘電体層と、
前記誘電体層上に積層され、卑金属を含み、前記外部電極の他方に接続された第2内部電極と、を備え、
前記誘電体層にMgを含む
積層セラミックコンデンサ。」

(相違点3)
本願発明1では「誘電体層」と「内部電極」が同一の「卑金属」を含むのに対し、引用発明Bでは「誘電体層2」と「内部電極層3」とが同一の卑金属を含むとは特定されていない点。

(相違点4)
本願発明1は、「前記第1内部電極と前記第2内部電極との間の前記積層の方向において、前記誘電体層の前記第1内部電極から50nm離れた位置から前記誘電体層の前記第2内部電極から50nm離れた位置までを積層方向に5つの領域に等分し、前記5つの各領域における前記卑金属のそれぞれの濃度が、前記5つの領域の前記卑金属の平均濃度の±20%以内」であるのに対して、引用発明Bはその旨特定されていない点。

(相違点5)
本願発明1は、「誘電体層においてTiに対するMgの原子濃度比率が0以上0.002未満」であるのに対して、引用発明Bではマグネシウムの原子濃度比率が特定されていない点。

(相違点6)
本願発明1では、「前記誘電体層の前記第1内部電極から50nm離れた位置から前記誘電体層の前記第2内部電極から50nm離れた位置までの範囲に、前記セラミック材料の結晶粒と、前記結晶粒の結晶粒界とが含まれる」のに対して、引用発明Bはその旨特定されていない点。

(判断)
本願発明1は、引用文献Bに記載された発明と上記相違点3ないし6で相違するから、引用文献Bに記載された発明と同一ではない。
次に、事案に鑑み、相違点3、4について検討する。
引用発明Bは、相違点3のように、誘電体層2が内部電極層3と同一の卑金属を含むことが特定されたものではない。そして、仮に誘電体層2が内部電極層3と同一の卑金属を含んでいたとしても、引用発明Bにおいて当該卑金属の濃度を均一とするために、相違点4とした構成である「前記第1内部電極と前記第2内部電極との間の前記積層の方向において、前記誘電体層の前記第1内部電極から50nm離れた位置から前記誘電体層の前記第2内部電極から50nm離れた位置までを積層方向に5つの領域に等分し、前記5つの各領域における前記卑金属のそれぞれの濃度が、前記5つの領域の前記卑金属の平均濃度の±20%以内」と構成する必然性も動機も存在しない。そして、引用文献Cをみても相違点4に係る構成は記載も示唆もされていない。
そうしてみると、当業者であっても引用発明B、引用文献Cに記載の技術事項から相違点3、4の構成を容易に想到することはできない。
したがって、本願発明1は他の相違点について検討するまでもなく原査定における引用発明B、引用文献Cに記載の技術事項から容易に発明できたものということはできない。

(3)本願発明2ないし11について
本願発明2ないし10は、いずれも請求項1を直接的または間接的に引用しており、上記相違点3、4に係る構成を含むから、本願発明1と同じ理由により、引用発明Bと同一ではなく、また、当業者であっても引用発明B、引用文献Cに記載の技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
また、本願発明11は、上記相違点3、4とした構成と同一の構成を有するものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用発明Bと同一ではなく、また、当業者であっても引用発明B、引用文献Cに記載の技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。


第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-08-25 
出願番号 特願2016-122000(P2016-122000)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (H01G)
P 1 8・ 121- WY (H01G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田中 晃洋  
特許庁審判長 山田 正文
特許庁審判官 須原 宏光
山本 章裕
発明の名称 積層セラミックコンデンサ  
代理人 片山 修平  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ