• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1377430
審判番号 不服2020-4487  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-03 
確定日 2021-09-14 
事件の表示 特願2016-572617「スパークル低減のための光学スタック」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月17日国際公開、WO2015/191949、平成29年 7月27日国内公表、特表2017-520789、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
特願2016-572617号(以下「本件出願」という。)は、2015年(平成27年)6月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年(平成26年)6月13日 米国)を国際出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成29年 2月17日提出:手続補正書
平成31年 1月22日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 6月14日提出:意見書
令和 元年 6月14日提出:手続補正書
令和 元年11月28日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 2年 4月 3日提出:審判請求書
令和 2年 4月 3日提出:手続補正書
令和 2年10月30日付け:拒絶理由通知書(以下「当審拒絶理由通知」という。)
令和 3年 5月 6日提出:意見書
令和 3年 5月 6日提出:手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)

第2 原査定の概要
原査定の拒絶の理由は、概略、本件出願の請求項1?6に係る発明(令和元年6月14日にした手続補正後のもの)は、本件出願の優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特開平8-122710号公報
引用文献2:特開平8-114770号公報
引用文献3:特開平6-324316号公報
(当合議体注:引用文献1は、主引用例であり、引用文献2、3は、副引用例である。)

第3 当審拒絶理由通知の概要
当審の拒絶の理由は、概略、本件出願の請求項1?4に係る発明(令和2年4月3日にした手続補正後のもの)は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特開平8-122710号公報
引用文献2:特開平8-114770号公報
引用文献3:特開平6-324316号公報
(当合議体注:引用文献2は主引用例であり、引用文献1、3は副引用例である。)

第4 本願発明
本件出願の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ、「本願発明1」?「本願発明4」という。)は、本件補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりの、次のものである。
「【請求項1】
第1の層と、
第2の層と、
第3の層とを備え、前記第2の層は、前記第1の層と前記第3の層との間に設けられる、グレア及びスパークルのうちの少なくとも一方を低減するための光学スタックを備えるディスプレイにおいて、
前記第1の層は前記第2の層とは反対側に外側主表面を有し、前記外側主表面はアンチグレア特徴部を有し、
前記ディスプレイのピクセルからの光は前記アンチグレア特徴部と相互作用してスパークルを生成することができ、
前記第1の層と前記第2の層との間の第1の境界面は、第1の方向に実質的に沿って延びる第1の格子を有し、前記第2の層と前記第3の層との間の第2の境界面は、前記第1の方向とは異なる第2の方向に実質的に沿って延びる第2の格子を含み、前記第1の層は屈折率n_(1)を有し、前記第2の層は屈折率n_(2)を有し、前記第3の層は屈折率n_(3)を有し、前記第1の格子はh_(1)の高低差を有し、前記第2の格子はh_(2)の高低差を有し、h_(1)によって乗算された|n_(1)-n_(2)|は、150nm?350nmの範囲にあり、h_(2)によって乗算された|n_(2)-n_(3)|は、150nm?350nmの範囲にあり、さらに、前記第1の格子は、2マイクロメートル?50マイクロメートルの範囲の第1のピッチを有し、前記第2の格子は、2マイクロメートル?50マイクロメートルの範囲の第2のピッチを有し、
前記ディスプレイは、複数のピクセルを備え、前記光学スタックは、第1の色を有する前記複数のピクセルの第1のピクセルが照射され前記光学スタックを通して見られるとき、第1の画像及び複数の2次画像が生成されるように、前記複数のピクセルに近接して配置され、かつ前記外側主表面のアンチグレア特徴部が前記複数のピクセルよりも外側に設けられ、前記第1のピクセルの前記2次画像のそれぞれは、前記第1のピクセルの前記1次画像からの横方向変位を有し、前記第1のピクセルは、前記第1の色を有する複数の1次近隣ピクセル、及び前記第1の色を有する複数の2次近隣ピクセルを有し、前記第1のピクセルの前記2次画像のそれぞれの前記横方向変位は、前記第1のピクセルの前記2次画像のそれぞれが、前記複数の1次近隣ピクセルに対応する1次画像と重なる、又は前記第1のピクセルの1次画像と前記複数の1次近隣ピクセルに対応する1次画像との間のスペースと重なるようになされ、前記第1のピクセルの前記複数の2次画像と前記2次近隣ピクセルに対応する1次画像との重なりは実質的に存在しない、ディスプレイ。
【請求項2】
前記光学スタックが、入射パワーP_(I)を有し532nmの波長を有する垂直入射するレーザ光によって照射されたとき、複数の回折ピークが生成され、各回折ピークは、パワー内容及び回折次数を有し、前記複数の回折ピークは、9個の回折ピークからなるセットを含んでなり、前記9個の回折ピークからなるセットの各ピークの回折次数は、前記9個の回折ピークからなるセットに含まれない各回折ピークの回折次数よりも低く、前記9個の回折ピークからなるセットにおける回折ピークの各パワー内容の合計はP_(9)であり、P_(9)は少なくとも0.7P_(I)であり、前記9個の回折ピークからなるセットにおける前記回折ピークの各パワー内容は、0.08P_(9)より大きく0.16P_(9)より小さい、請求項1に記載のディスプレイ。
【請求項3】
前記光学スタックは可撓性フィルムである、請求項1に記載のディスプレイ。
【請求項4】
前記第1のピッチは2?30ミクロンの範囲にあり、前記第2のピッチは2?30ミクロンの範囲にある、請求項1に記載のディスプレイ。」

第5 引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明
1 引用文献2の記載事項
当審拒絶理由通知の拒絶の理由において、引用文献2として引用され、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開平8-114770号公報には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当合議体が付与したものであり、引用発明の認定に活用した箇所を示す。

(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 表示面上に光学的ローパスフィルタが設けられたドットマトリクス表示装置において,上記光学的ローパスフィルタの光学的機能を有する面を上記表示装置の構成部材に向けた状態で,上記光学的ローパスフィルタの屈折率と異なる屈折率をもつ接着層を介して,上記光学的ローパスフィルタを上記構成部材に固定したことを特徴とするドットマトリクス表示装置。」

(2)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【技術分野】この発明は光学的ローパスフィルタ,それを利用したドットマトリクス画像表示装置,光学的ローパスフィルタの他の利用装置,および表示装置で用いる光学部品に関する。」

(3)「【0002】
【背景技術】二次元的に配列された多数の画素によって画像を表現するドットマトリクス画像表示装置,たとえば液晶パネルにおいては,画素の周期的配列構造に起因する,いわゆるサンプリング・ノイズが発生し,画質が劣化する現象がみられる。
【0003】このサンプリング・ノイズを低減ないしは除去するために光学的ローパスフィルタとしての機能をもつ位相型回折格子をドットマトリクス画像表示装置の表示面に配置することが提案されている(たとえば特開昭63-114475号公報)。光学的ローパスフィルタは,ドットマトリクス画像表示装置における画素のピッチ(ドットピッチ)によって規定される周波数よりも低い空間周波数成分を通過させるものである。
【0004】ドットマトリクス画像表示装置の表示面や光学的ローパスフィルタに歪みがあったり,両者の間に塵埃や異物が挟まった状態で表示面と光学的ローパスフィルタが圧着されることにより両者に傾きが生じると(平行状態が正しく保たれなくなると),虹状の干渉縞が発生し,画像の再現性が低下する。
・・省略・・
【0006】一方,光学的ローパスフィルタの格子厚は0.01μmオーダの作製精度が要求されるので,その作製が困難で歩留りが悪かった。
・・省略・・
【0008】
【発明の開示】この発明はドットマトリクス画像表示装置に光学的ローパスフィルタを設けたときの干渉縞の発生を未然に防止することを目的とする。
【0009】この発明は光学的ローパスフィルタと一体化されたドットマトリクス画像表示装置を提供することを目的とする。
【0010】この発明はさらに,光学的ローパスフィルタの作製精度を等価的に向上させることを目的とする。
【0011】さらにこの発明は,より簡素な構造をもつ液晶表示装置を提供することを目的とする。
【0012】この発明は光学的ローパスフィルタを有するドットマトリクス表示装置を提供している。
【0013】このドットマトリクス表示装置は,光学的ローパスフィルタの光学的機能を有する面を表示装置の構成部材に向けた状態で,光学的ローパスフィルタの屈折率と異なる屈折率をもつ接着層を介して,光学的ローパスフィルタを構成部材に固定したものである。
【0014】表示装置の構成部材は,たとえば液晶表示装置における液晶パネルのガラス基板または偏光板である。
【0015】接着層は粘着層を含む概念である。
【0016】この発明によると,光学的ローパスフィルタと表示装置の構成部材との間には接着層が設けられているから,この中に塵埃,異物等が混入することがなく,光学的ローパスフィルタと表示装置の構成部材とを平行に保持することができ,虹状の干渉縞の発生を防止できる。
【0017】また,光学的ローパスフィルタの光学的機能面,すなわち凹凸パターン面が接着層で覆われているので,この凹凸面への塵埃の付着を防止できるとともに,組立時において凹凸面を傷つけることがない。
【0018】さらに光学的ローパスフィルタは表示装置の構成部材に接着層により一体化されているから,小型化,部品点数の削減が可能である。組立工程における調整等の作業数を減らすことができ,高い歩留りを期待できる。
【0019】接着層の屈折率は空気よりも大きいので,光学的ローパスフィルタと接着層との間の屈折率差は,光学的ローパスフィルタと空気との間の屈折率差よりも小さくなる。このため,光学的ローパスフィルタの格子厚を大きくすることができ,要求される精度が緩和される。これによって光学的ローパスフィルタの作製精度を等価的に向上させることができる。」

(4)「【0057】
【実施例の説明】図1は正弦波状光学的ローパスフィルタの一部を拡大して示すものであり,その断面が図2に示されている。
【0058】光学的ローパスフィルタ10は位相型回折格子の一種であり,一表面上に正弦波状の凹凸が一定周期で二次元的にかつ連続的に形成されている。正弦波状光学的ローパスフィルタ10の断面形状はどの方向においても正弦波形状を示す。一方向の正弦波周期(ピッチ)とこれと直交する方向の正弦波周期は同じでも,異なっていてもよい。光学的ローパスフィルタ10の遮断空間周波数はそのピッチΛと格子厚dとによって規定される。正弦波状光学的ローパスフィルタは優れた光学的ローパスフィルタ特性をもつといわれている。
・・省略・・
【0067】以下の説明では,光学的ローパスフィルタの代表として,正弦波状光学的ローパスフィルタが用いられかつ図示される。
【0068】図9は液晶表示装置の構造を模式的に示すものである。この図において,作図の便宜上および理解しやすさのために,液晶パネル,その他の構成要素の厚さ方向がかなり拡大されて描かれ,長さ(または幅)方向がかなり縮小されて(画素またはドットの数がきわめて少なく)描かれている。このことは,他の図にもあてはまる。
【0069】液晶パネル20は2枚のガラス基板21,22を有し,これらのガラス基板21と22との間のわずかの間隙に液晶が充填されている。2枚のガラス基板21と22の間に描かれた破線はブラックマトリクス32を表わしている(詳細については後述する)。
【0070】液晶パネル20の一方のガラス基板22の外面に光学的ローパスフィルタ10がその正弦波状凹凸面(光学的機能を有する面)をガラス基板22の方に向けて接着層11により接着されている。ガラス基板22と光学的ローパスフィルタ10とは正しく平行に配置される。
【0071】接着層11は紫外線硬化樹脂,エポキシ樹脂等の接着樹脂により構成される。
【0072】このような光学的ローパスフィルタ10が一面に接着された液晶パネル20の両面側に偏光板23と24が配置され,さらにその一面側に光源(バックライト)30が配置されることにより液晶表示装置が構成される。
・・省略・・
【0088】いずれにしても,上述した液晶パネル20のブラックマトリクスの周期構造に起因するサンプリングノイズを除去するために,このブラックマトリクスによる空間周波数よりも低い周波数成分の通過を許す光学的ローパスフィルタ10が設けられる。一般に光学的ローパスフィルタ10のピッチはブラックマトリクスのピッチよりも小さい。
・・省略・・
【0111】光学的ローパスフィルタを接着層を介して表示装置の構成部材に接着したときには(ケース1),光学的ローパスフィルタと表示装置の構成部材との間に空気層がある場合(ケース2)に比べて(いずれにおいても光学的ローパスフィルタの凹凸パターンが表示装置の構成部材に対向している),作製精度が等価的に向上することについて説明する。
【0112】一般に光学的ローパスフィルタに入射した光は光学的ローパスフィルタによって回折され,0次光,1次回折光およびさらに高次の回折光が生じる。1次回折光は8個形成されるが,格子形状が正弦波である正弦波状光学的ローパスフィルタの場合にはこれらの1次回折光の光強度は等しくなる。
【0113】そこで,0次光の光強度をP_(0),1次回折光の光強度をP_(1)とする。
【0114】1次回折光と0次光との比(これを分割比または分岐比と呼ぶ)P_(1)/P_(0)は光学的ローパスフィルタの特性を考える上で重要なファクタであり,これは一般に1またはその近傍が良いとされている。
【0115】0次光および1次回折光の強度P_(0),P_(1)はそれぞれ次式で表わされる。
【0116】
【数1】

【0117】J_(0),J_(1)はそれぞれベッセル関数である。また,φは位相差(格子の山の部分を通る光と谷の部分を通る光との位相差)である。
【0118】光学的ローパスフィルタ特性の最も良い正弦波状光学的ローパスフィルタの場合には,位相差φは次式で与えられる。
【0119】
【数2】

【0120】ここでdは格子の厚さ(格子厚),n_(1)は光学的ローパスフィルタを形成する材料の屈折率である。n_(2)は接着層を形成する材料の屈折率(光学的ローパスフィルタを接着層により表示装置の構成部材に接着した場合;ケース1),または空気の屈折率(n_(2)=1)(光学的ローパスフィルタの凹凸面が空気に接している場合;ケース2)である。λは入射光の波長である。
【0121】式3は,光学的ローパスフィルタの屈折率n_(1)と接着層の屈折率n_(2) とが異なるべきであることを示している。
【0122】上記ケース1として次の2種類の接着樹脂1,2を使用する(いずれも紫外線硬化樹脂)。
【0123】
接着樹脂1: 大日本インキ化学工業株式会社製
DEFENSA HNA-101
n_(2)=1.37
接着樹脂2: 三洋化成工業株式会社製 UV-040
n_(2)=1.57
【0124】これらの式1?3を用いて算出された格子厚dは次の通りである(入射光の波長λ=587.6nm,n_(1)=1.491)。
【0125】ケース1(接着樹脂1)
分割比が0.9,1.0および1.1の場合に格子厚dはそれぞれ2.00μm,2.06μmおよび2.11μmである。
【0126】ケース1(接着樹脂2)
分割比が0.9,1.0および1.1に対して格子厚dはそれぞれ3.06μm,3.15μmおよび3.23μmである。
【0127】ケース2(接着樹脂なし,空気の場合;n_(2)=1)
分割比が0.9,1.0および1.1に対して格子厚dはそれぞれ0.49μm,0.51μmおよび0.52μmである。
【0128】以上により,接着層を用いた場合には格子厚の作製精度がかなり緩和されることが分る。このことは,次に述べる実施例,すなわち接着層の代わりに粘着層を用いた例においても全く同様にあてはまる。
・・省略・・
【0138】図25において,光学的ローパスフィルタ10は接着層11または粘着層12により液晶パネル20のガラス基板22に固定されている。光学的ローパスフィルタ10の凹凸パターンが形成されていない平坦面に接着層11Aまたは粘着層12Aを介して偏光板24が固定されている。このようにして,偏光板24,光学的ローパスフィルタ10および液晶パネル20が一体化される。
【0139】好ましくは,接着層11または粘着層12の屈折率とガラス基板22の屈折率とを等しくまたは近い値とするとよい。これにより,これらの界面(接着層11または粘着層12とガラス基板22との間の界面)で生じるフレネル反射を少なくすることができる。たとえば,ガラス基板(コーニング7059)22の屈折率が1.52であるとすると,接着層11としてエポキシ樹脂(屈折率1.46?1.54)を用いればよい。
【0140】同じように,光学的ローパスフィルタ10の屈折率と接着層11Aまたは粘着層12Aの屈折率を等しくまたは近い値にすることにより,これらの界面(光学的ローパスフィルタ10と接着層11Aまたは粘着層12Aとの間の界面)で生じるフレネル反射を少なくすることができる。たとえば,光学的ローパスフィルタ10がPMMA(屈折率1.491)で形成されているときには,接着層11Aとしてエポキシ樹脂(屈折率1.46?1.54)を,粘着層12Aとして上記の日東電工株式会社製両面粘着テープNO.532(屈折率1.487)をそれぞれ用いることができる。
・・省略・・
【0170】図33および図34は,反射防止膜15に代えて,光学的ローパスフィルタ10の外面にアンチグレア処理(またはノングレア処理)16を施した例を示している。図33および図34は図29および図30にそれぞれ対応している。図9や図20に示す構成において,偏光板24の外面にアンチグレア処理を施してもよいのはいうまでもない。
【0171】アンチグレア処理は,基板表面にエッチングまたはサンドブラスト加工を施すことによって粗面化する処理である。平坦な基板,表示面等の表面(表示装置の表面)に外乱光が斜めに入射し,それが正反射すると表示画像が見えにくくなる(たとえば天井灯,蛍光灯の光が表示画面に入射した場合,蛍光灯の像が表示画面に映るので表示画面が見えにくい)。表示画面表面にアンチグレア処理が施されていると,その面に入射する外乱光は散乱するので,外乱光による像が映ることがなくなる。
【0172】基板,表示面等の表面に過渡のアンチグレア処理を施すと,表示画像を表わす光もまた過渡に散乱するので適度のアンチグレア処理が必要である。図33において,次式を満たす角度θ以下の散乱が生じるようなアンチグレア処理が好ましい。
【0173】
【数8】

【0174】ここでθは散乱角,Pは液晶パネルにおける画素配列周期,Lは液晶パネルの開口からアンチグレア処理された面まての光学距離である。」

(5)「【図面の簡単な説明】
【図1】正弦波状光学的ローパスフィルタの斜視図である。
・・省略・・
【図25】光学的ローパスフィルタを備えた液晶表示装置を示す断面図である。
・・省略・・
【図33】アンチグレア処理が施された液晶表示装置を示す断面図である。
【図34】アンチグレア処理が施された液晶表示装置を示す断面図である。


(6)「【図1】



(7)「【図25】



(8)「【図33】



(9)「【図34】



2 引用発明
(1)引用文献2の図34には、アンチグレア処理が施された液晶表示装置が示されている。そして、図34の説明として【0170】に、図34は図30に対応する旨記載があるが、偏光板や接着層の層構成からみて、図34に示される液晶表示装置は、図30に対応するのではなく図25に対応し、図25における「偏光板24」の外面にアンチグレア処理が施されたものであると認められる。
(2)引用文献2の【0067】には「以下の説明では,光学的ローパスフィルタの代表として,正弦波状光学的ローパスフィルタが用いられ」との記載があり、「正弦波状光学的ローパスフィルタ」として引用文献2の【0058】には「光学的ローパスフィルタ10は位相型回折格子の一種であり,一表面上に正弦波状の凹凸が一定周期で二次元的にかつ連続的に形成されている。」と記載されている。
(3)引用文献2の【請求項1】や【0013】の記載からみて、図34における「接着層11または粘着層12」の屈折率は「光学的ローパスフィルタ10」の屈折率と異なるものであると認められる。
(4)以上より、引用文献2には、図34から把握される液晶表示装置として、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「光学的ローパスフィルタ10は位相型回折格子の一種であり、一表面上に正弦波状の凹凸が一定周期で二次元的にかつ連続的に形成されており、
光学的ローパスフィルタ10は、接着層11または粘着層12により液晶パネル20のガラス基板22に固定され、光学的ローパスフィルタ10の凹凸パターンが形成されていない平坦面に接着層11Aまたは粘着層12Aを介して偏光板24が固定されており、液晶パネル20の偏光板24と反対面側に偏光板23が配置され、さらにその一面側に光源(バックライト)30が配置されており、
偏光板24の外面には、次式を満たす角度θ以下の散乱が生じるようなアンチグレア処理が施されており、

(ここでθは散乱角、Pは液晶パネルにおける画素配列周期、Lは液晶パネルの開口からアンチグレア処理された面までの光学距離である。)
接着層11または粘着層12の屈折率は光学的ローパスフィルタ10の屈折率と異なるものであり、
接着層11または粘着層12の屈折率とガラス基板22の屈折率は等しくまたは近い値であり、
光学的ローパスフィルタ10の屈折率と接着層11Aまたは粘着層12Aの屈折率を等しくまたは近い値とした、
液晶表示装置。」

3 引用文献1の記載事項
当審拒絶理由通知の拒絶の理由において、引用文献1として引用され、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開平8-122710号公報には、以下の事項が記載されている。
(1)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【技術分野】この発明は光学的ローパスフィルタを備えた画像表示装置および光学的ローパスフィルタに関する。」

(2)「【0002】
【背景技術】液晶パネル(液晶表示装置),CRT表示装置,プラズマディスプレイ装置等,多くの画像表示装置は,二次元的に周期的に配列された多数の画素によって画像を表現する(ドットマトリクス画像表示装置)。このような画像表示装置においては,画素の周期的配列構造に起因する,いわゆるサンプリングノイズが発生し,画質が劣化する(画像がざらついて見える)現象がみられる。
【0003】このサンプリングノイズを低減ないしは除去するために,光学的ローパスフィルタ(位相回折格子,水晶板等)を画像表示装置の表示面に配置することが提案されている(たとえば,特開昭63-114475号公報)。光学的ローパスフィルタは画像表示装置における画素のピッチによって規定される周波数よりも低い空間周波数成分を通過させるものである。
【0004】画像表示装置の画素の周期配列によって標本化周波数が定まり,この標本化周波数は周波数平面内で分布する。ノイズ成分は各標本化周波数を中心に分布する。標本化周波数が低いほどそれを中心に分布するノイズ成分は大きく,画質に及ぼす悪影響も大きい。
【0005】したがって,最も低い標本化周波数のまわりに分布するノイズ成分のみならず,その次に低い標本化周波数を中心として分布するノイズ成分も除去することが好ましい。
【0006】
【発明の開示】この発明は,最も大きいノイズ成分およびその次に大きいノイズ成分を除去ないしは低減させる光学的ローパスフィルタの構造およびその光学的ローパスフィルタを用いた画像表示装置を提供することを目的とする。」

(3)「【0025】
【実施例の説明】
(1) 前提的事項
光学的ローパスフィルタは,光を分割(分岐)させる機能をもつ位相回折格子や水晶板によって実現される。光学的ローパスフィルタは画像表示装置の表示面上(前方)に配置され,光の分割機能により,各画素の虚像を画素間に形成し,画像のざらつきを除去ないし低減する。
・・省略・・
【0032】図6および図7は二次元の位相回折格子の例を示している。図6は正弦波状位相回折格子といわれるもので,表面の凹凸が二次元の広がりをもって正弦波状に変化している。
・・省略・・
【0052】図13に示す画素配列をもつ液晶パネルの前面に二次元光学的ローパスフィルタを配置したときに生じる虚像が図14に示されている。破線で示す8個の像が,太い実線で示す画像の虚像である。これは,図8に示したように,光学的ローパスフィルタによって画像を表わす光が分割されることにより生じる現象である。光学的ローパスフィルタの光の分割の機能によって,画素の虚像が画素間に形成され,ざらつきが低減または除去されることが分る。
・・省略・・
【0250】図6,図7に示すように基板の一方の面に二次元状の回折格子を形成するのがよい。しかしながら片面に二次元状回折格子を形成するのが困難な場合には,図52に示すように,基板の両面に互いに直交する方向の一次元回折格子を作製してもよい。基板の両面に回折格子を形成するのが困難な場合には,一方の面に一次元回折格子が形成された2枚の基板を,図53に示すように回折格子が直交するように,または図54に示すように直角以外の斜めの角度で交わるように重ねて配置することもできる。」

(4)「【図6】



(5)「【図52】



(6)「【図53】



第6 当合議体の判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 光学スタック
引用発明において「光学的ローパスフィルタ10は接着層11または粘着層12により液晶パネル20のガラス基板22に固定され、光学的ローパスフィルタ10の凹凸パターンが形成されていない平坦面に接着層11Aまたは粘着層12Aを介して偏光板24が固定されて」いる構成からみて、「光学的ローパスフィルタ10」は「接着層11Aまたは粘着層12A」と「接着層11または粘着層12」との間に設けられている。
そうしてみると、引用発明の「接着層11Aまたは粘着層12A」、「光学的ローパスフィルタ10」、「接着層11または粘着層12」はそれぞれ、本願発明1の「第1の層」、「第2の層」、「第3の層」に相当する。また、引用発明の「偏光板24」、「接着層11Aまたは粘着層12A」、「光学的ローパスフィルタ10」及び「接着層11または粘着層12」を備えて構成されるものは、光学的な機能を有し、層が積み重なったもの(スタック)であるといえるから、本願発明1の「光学スタック」に相当し、「第1の層と、第2の層と、第3の層とを備え、前記第2の層は、前記第1の層と前記第3の層との間に設けられる」という要件を満たしている。また、「偏光板24の外面」は、本願発明1の「外側主表面」に相当する。

イ ディスプレイ
引用発明における「液晶表示装置」は、その名称のとおり表示装置としての機能を有することから、本願発明1における「ディスプレイ」に相当する。

ウ アンチグレア特徴部
引用発明における「アンチグレア処理」された「偏光板24の外面」は、その名称及び引用文献2の【0171】に記載のように「その面に入射する外乱光は散乱するので,外乱光による像が映ることがなくなる」作用を有することは明らかであるから、本願発明1における「アンチグレア特徴部」に相当する。

(2)一致点及び相違点
以上より、本願発明1と引用発明とは、
「 第1の層と、
第2の層と、
第3の層とを備え、前記第2の層は、前記第1の層と前記第3の層との間に設けられる、光学スタックを備えるディスプレイにおいて、
外側主表面はアンチグレア特徴部を有している、
ディスプレイ。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本願発明1における「光学スタック」は「グレア及びスパークルのうちの少なくとも一方を低減するための」ものであるのに対して、引用発明の「偏光板24」、「接着層11Aまたは粘着層12A」、「光学的ローパスフィルタ10」及び「接着層11または粘着層12」を備えて構成されるものについて「グレア及びスパークルのうちの少なくとも一方を低減するための」ものであるか明らかでない点。

(相違点2)
「アンチグレア特徴部」を有する「外側主表面」を、本願発明1では、「第1の層」が「第2の層とは反対側に」有するのに対して、引用発明では、「接着層11Aまたは粘着層12A」(本願発明1の「第1の層」に相当)を介して固定された「偏光板24」がその外面に有する点。

(相違点3)
本願発明1では「前記ディスプレイのピクセルからの光は前記アンチグレア特徴部と相互作用してスパークルを生成することができ」るのに対して、引用発明において、スパークルが生成されるか否か明らかでない点。

(相違点4)
本願発明1が、「前記第1の層と前記第2の層との間の第1の境界面は、第1の方向に実質的に沿って延びる第1の格子を有し、前記第2の層と前記第3の層との間の第2の境界面は、前記第1の方向とは異なる第2の方向に実質的に沿って延びる第2の格子を含み、」との構成を有するのに対し、引用発明では、「接着層11Aまたは粘着層12A」と「光学的ローパスフィルタ10」との間の境界面は「凹凸パターンが形成されていない平坦面」であり、「光学的ローパスフィルタ10」と「接着層11または粘着層12」との間の境界面は「正弦波状の凹凸が一定周期で二次元的にかつ連続的に形成され」たもの(この点は、図34及び「光学的ローパスフィルタ10」の「接着層11Aまたは粘着層12A」との境界面が「平坦面」であることから明らかである。)である点。

(相違点5)
本願発明1が「前記第1の層は屈折率n_(1)を有し、前記第2の層は屈折率n_(2)を有し、前記第3の層は屈折率n_(3)を有し、前記第1の格子はh_(1)の高低差を有し、前記第2の格子はh_(2)の高低差を有し、h_(1)によって乗算された|n_(1)-n_(2)|は、150nm?350nmの範囲にあり、h_(2)によって乗算された|n_(2)-n_(3)|は、150nm?350nmの範囲にあり、」との構成を有するのに対し、引用発明の「接着層11Aまたは粘着層12A」、「光学的ローパスフィルタ」、「接着層11または粘着層12」のそれぞれの屈折率と格子厚がそのような関係を有するのか、明らかでない点。

(相違点6)
本願発明1が「前記第1の格子は、2マイクロメートル?50マイクロメートルの範囲の第1のピッチを有し、前記第2の格子は、2マイクロメートル?50マイクロメートルの範囲の第2のピッチを有し、」との構成を有するのに対し、引用発明は、格子ピッチの具体的な数値範囲が明らかでない点。

(相違点7)
本願発明1が「前記ディスプレイは、複数のピクセルを備え、前記光学スタックは、第1の色を有する前記複数のピクセルの第1のピクセルが照射され前記光学スタックを通して見られるとき、第1の画像及び複数の2次画像が生成されるように、前記複数のピクセルに近接して配置され、かつ前記外側主表面のアンチグレア特徴部が前記複数のピクセルよりも外側に設けられ、前記第1のピクセルの前記2次画像のそれぞれは、前記第1のピクセルの前記1次画像からの横方向変位を有し、前記第1のピクセルは、前記第1の色を有する複数の1次近隣ピクセル、及び前記第1の色を有する複数の2次近隣ピクセルを有し、前記第1のピクセルの前記2次画像のそれぞれの前記横方向変位は、前記第1のピクセルの前記2次画像のそれぞれが、前記複数の1次近隣ピクセルに対応する1次画像と重なる、又は前記第1のピクセルの1次画像と前記複数の1次近隣ピクセルに対応する1次画像との間のスペースと重なるようになされ、前記第1のピクセルの前記複数の2次画像と前記2次近隣ピクセルに対応する1次画像との重なりは実質的に存在しない」との構成を有するのに対し、引用発明は、そのような特定を有しない点。

(3)判断
事案に鑑みて、上記相違点2について先に検討する。
引用発明において「接着層11Aまたは粘着層12A」は、「光学的ローパスフィルタ10」と「偏光板24」とを固定する層であるから、本願発明1の「第1の層」に相当するとした「接着層11Aまたは粘着層12A」がアンチグレア特徴部を有する外側主表面を有するように構成すること、すなわち「偏光板24」を除外することには、阻害要因があるといえる。また、引用文献2(及び引用文献1)に記載された、光学的ローパスフィルタと境界面を形成している層を備えた例を見てみても、やはり、他部材(偏光板等)との間に挟まれた層(接着層や粘着層)が示されているにとどまる。このように、引用文献2には、一方の面が光学的ローパスフィルタと境界面を形成しつつ、その反対側の面がアンチグレア特徴部を有する外側主表面となる単一の層を光学スタックに備えることについて記載も示唆もなく、また、当業者が容易に想到できたものともいえない。
以上のことは、引用発明における「光学的ローパスフィルタ10」として、引用文献1の図52、【0250】に記載されたもの(「基板の両面に互いに直交する方向の一次元回折格子を作製」したもの)を適用する場合でも同様である。すなわち、当該記載事項を引用発明に採用するときに、その光学的ローパスフィルタの凹凸面に、他部材を固定する目的をもって接着層や粘着層を適用することは示唆され、もしくは当業者が容易に想到できることであるとしても、一方の面が当該光学的ローパスフィルタとの間で所定の条件を満たす境界面を形成し、その反対側の面がアンチグレア特徴部を有する外側主表面となる単一の層を光学スタックに備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
なお、当審拒絶理由通知の拒絶の理由において、引用文献3として引用した特開平6-324316号公報にも、一方の面が光学的ローパスフィルタとの間で所定の条件を満たす境界面を形成し、その反対側の面がアンチグレア特徴部を有する外側主表面となる単一の層に関する記載はない。
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用文献2に記載の発明及び引用文献1、3に記載された事項に基づいて、容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2?4について
本願発明2?4は、本願発明1の構成を全て具備するものであるから、本願発明2?4も、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用文献2に記載の発明び引用文献1、3の記載事項に基づいて、容易に発明できたものであるとはいえない。

3 引用文献2の図33に示される液晶表示装置を引用発明とした場合
引用文献2の図33に示される液晶表示装置を引用発明(以下、「引用発明2」という。)とした場合(「光学的ローパスフィルタ10」の外面にアンチグレア処理が施されたもの)について検討する。この場合、引用発明2の「光学的ローパスフィルタ10」は、一方の面が所定の条件を満たす境界面を形成し、その反対側の面がアンチグレア特徴部を有する外側主表面となる単一の層ということができる(これは、本願発明1の「第1の層」が有する特徴である)。
本願発明1と引用発明2とは、少なくとも、本願発明1の「第2の層」に関する特定事項の一つである「前記第1の層と前記第2の層との間の第1の境界面は、第1の方向に実質的に沿って延びる第1の格子を有し、前記第2の層と前記第3の層との間の第2の境界面は、前記第1の方向とは異なる第2の方向に実質的に沿って延びる第2の格子を含み」の要件を満たす(第2の)層を、引用発明2は備えていない点で相違する。
これに対し、引用文献1の図52、【0250】には「基板の両面に互いに直交する方向の一次元回折格子を作製」した光学的ローパスフィルタの態様が記載されている。しかしながら、引用発明2の光学的ローパスフィルタ10に代えて、当該光学的ローパスフィルタの態様を採用しても、「前記第1の層と前記第2の層との間の第1の境界面は、第1の方向に実質的に沿って延びる第1の格子を有し、前記第2の層と前記第3の層との間の第2の境界面は、前記第1の方向とは異なる第2の方向に実質的に沿って延びる第2の格子を含み」の要件を満たす(第2の)層を、引用発明2が備えるには至らないことは明らかである。なお、引用発明2(図33)の粘着層12は「第1の層と第3の層との間に設けられる層」ではあるが、光学的ローパスフィルタではないのであるから、その構成として光学的ローパスフィルタの態様を採用することについて、引用文献1の記載や示唆に基づいて、当業者が容易に想到することができたとすることはできない。
この点は、引用文献1の図53、図54に記載された光学的ローパスフィルタの態様に基づいても同様である。例えば、引用発明2の「光学的ローパスフィルタ10」として、引用文献1の図53あるいは図54に示される構成を採用したとしても、引用文献1の図53、図54に示される構成は、2枚の基板の一次元回折格子が形成される面が対向していないため、本願発明1の「前記第1の層と前記第2の層との間の第1の境界面は、第1の方向に実質的に沿って延びる第1の格子を有し、前記第2の層と前記第3の層との間の第2の境界面は、前記第1の方向とは異なる第2の方向に実質的に沿って延びる第2の格子を含み」との要件を満たすものとはならない。さらに、引用文献2の【請求項1】や【0013】には「光学的ローパスフィルタの光学的機能を有する面を表示装置の構成部材に向けた状態で・・光学的ローパスフィルタを構成部材に固定したものである」との記載があるから、引用発明2に引用文献1の図53あるいは図54に示される構成を採用する際に、2枚の基板の一次元回折格子が形成される面を対向させるように変更する動機付けがあるとは認められない。
なお、以上の検討は、引用文献3の記載事項を考慮しても変わるものではない。
以上より、引用文献2の図33に示される液晶表示装置を引用発明とした場合でも、本願発明1は、当業者であっても、引用文献2に記載の発明及び引用文献1、3に記載の事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。また、本願発明2?4についても同様である。

4 引用文献1を主引例とした場合
引用文献1の図52に示される基板の両面に互いに直交する方向の一次元回折格子による「光学的ローパスフィルタ」を備えた画像表示装置を、引用発明(以下、「引用発明1-1」という。)とした場合を検討する。この場合の「光学的ローパスフィルタ」は、特に本願発明1の「第2の層」が有する「第1の境界面は、第1の方向に実質的に沿って延びる第1の格子を有し」、「第2の境界面は、前記第1の方向とは異なる第2の方向に実質的に沿って延びる第2の格子を含み」の要件を満たしている。
本願発明1と引用発明1-1とは、少なくとも、本願発明1の「第1の層」に関する特定である「第2の層との間の第1の境界面は、第1の方向に実質的に沿って延びる第1の格子を有し」、「第2の層とは反対側に外側主表面を有し、前記外側主表面はアンチグレア特徴部を有し」の要件を満たす層が、引用発明1-1にはない点で相違する。
光学的ローパスフィルタがアンチグレア特徴部とともに用いられること、あるいは、光学的ローパスフィルタとアンチグレア特徴部を有した外側主表面を有する層とを組み合わせて用いることについては、引用文献2に開示されている(【0170】?【0174】)。
しかしながら、引用発明1-1の光学的ローパスフィルタを「第2の層」とする場合は、その両面に「第1の層」と「第3の層」を備えることになるが、その場合の「第1の層」として、一方の面が当該光学的ローパスフィルタとの間で所定の条件を満たす境界面を形成し、その反対側の面がアンチグレア特徴部を有する外側主表面となる単一の層を備えるようにすることについては、引用文献2(また引用文献3)に記載も示唆もなく、当業者が容易に想到し得たことともいえない。

さらに、引用文献1の図53に示される、一方の面に一次元回折格子が形成された2枚の基板を回折格子が直交するように配置した「光学的ローパスフィルタ」を備えた画像表示装置を引用発明(以下、「引用発明1-2」という。)とした場合を検討する。この場合には、引用発明1-2において外側主表面を構成する一方の基板に対して、引用文献2の図33に示される「光学的ローパスフィルタ10」の外面にアンチグレア処理を施す構成を採用したとすれば、当該基板は、一方の面が所定の条件を満たす境界面を形成し、その反対側の面がアンチグレア特徴部を有する外側主表面となっている単一の層ということができる。
しかしながら、そうであるとしても、本願発明1とは、少なくとも、本願発明1の「第2の層」が有する「前記第1の層と前記第2の層との間の第1の境界面は、第1の方向に実質的に沿って延びる第1の格子を有し、前記第2の層と前記第3の層との間の第2の境界面は、前記第1の方向とは異なる第2の方向に実質的に沿って延びる第2の格子を含み」の要件を満たす(第2の)層が、引用発明1-2にはない点で相違している。
そして、先に「3 引用文献2の図33に示される液晶表示装置を引用発明とした場合」において説示したとおり、2枚の基板の一次元回折格子が形成される面を対向させるようにする動機付けがあるとは認められないから、引用発明1-2において「前記第1の層と前記第2の層との間の第1の境界面は、第1の方向に実質的に沿って延びる第1の格子を有し、前記第2の層と前記第3の層との間の第2の境界面は、前記第1の方向とは異なる第2の方向に実質的に沿って延びる第2の格子を含み」との要件を満たす(第2の)層を備えるように構成することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
なお、以上の検討は、引用文献3の記載事項を考慮しても変わるものではない。
以上より、引用文献1を主引例とした場合でも、本願発明1は、当業者であっても、引用文献1に記載の発明及び引用文献2、3に記載の事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。また、本願発明2?4についても同様である。

第7 原査定についての判断
上記「第6」の「4 引用文献1を主引例とした場合」で述べたように、本願発明1?4は、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1に記載された発明及び引用文献2、3に記載の事項に基づいて容易に発明をすることができたということができない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本件出願を拒絶することはできない。
また、他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-08-26 
出願番号 特願2016-572617(P2016-572617)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 藤岡 善行  
特許庁審判長 榎本 吉孝
特許庁審判官 関根 洋之
早川 貴之
発明の名称 スパークル低減のための光学スタック  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  
代理人 恩田 博宣  
代理人 本田 淳  
代理人 本田 淳  
代理人 恩田 誠  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ