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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01B
管理番号 1377485
審判番号 不服2021-3387  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-03-15 
確定日 2021-09-14 
事件の表示 特願2019-561471「テキスタイル用伸縮性配線テープ,及びウェアラブルデバイス,及び配線付きテキスタイルの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 7月 4日国際公開,WO2019/130477,請求項の数(10)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 理 由
第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,2017年(平成29年)12月27日を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

令和 1年 9月18日 :国内書面の提出
令和 2年 5月11日付け:拒絶理由通知
令和 2年 7月20日 :意見書,手続補正書の提出
令和 2年12月 9日付け:拒絶査定
令和 3年 3月15日 :審判請求書,手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和 2年12月 9日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

理由1 本願請求項1-5,7-11に係る発明は,以下の引用文献1-2に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1 国際公開第2016/133065号
引用文献2 国際公開第2009/157070号

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は,特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正は,補正前の請求項1の「テキスタイル用伸縮性配線テープ」,補正前の請求項9の「伸縮性導電配線テープ」,補正前の請求項10の「伸縮性配線テープ」について,「伸縮性導電配線」を「複数本」備えるとともに,「少なくとも1本の伸縮性非導電性線材」を備えると限定し,その配置について「前記伸縮性導電配線と前記伸縮性非導電性線材を交互に配置した」と限定を加える補正を含むものであるから,特許請求の範囲の限縮を目的とするものである。
また,審判請求時の補正は,本願の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲及び図面に記載された事項であり,新規事項を追加するものではないといえ,当該補正によっても,補正前の請求項に記載された発明とその補正後の請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であることは明らかである。
そして,「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように,補正後の請求項1-10に係る発明は,独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願請求項1-10に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明10」という。)は,令和 3年 3月15日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-10に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1は,以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
複数本の伸縮性導電配線と,
少なくとも1本の伸縮性非導電性線材と,
第1の面,及び前記第1の面とは反対側の第2の面を有し,前記第1の面において前記伸縮性導電配線の両側から接着層を介して貼合されたテープ状の絶縁性伸縮フィルムと
を備え,
前記伸縮性導電配線と前記伸縮性非導電性線材を交互に配置した
ことを特徴とするテキスタイル用伸縮性配線テープ。」

なお,本願発明2-7は,本願発明1を限縮した発明,本願発明8は本願発明1の「テキスタイル用伸縮性配線テープ」と同様の構成を有する「伸縮性導電配線テープ」を備えたウェアラブルデバイスに関する発明,本願発明9は本願発明1の「テキスタイル用伸縮性配線テープ」と同様の構成を有する「伸縮性配線テープ」を用いた「配線付きテキスタイルの製造方法」に対応した発明,本願発明10は本願発明9を限縮した発明である。

第5 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
(1) 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている。(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。以下同様である。)

「[0002] こうした高伸縮性配線は,例えば,柔軟性が要求されるRFID機器用のアンテナや配線,スポーツ科学における運動解析センサ用配線,衣服型心拍・心電図モニタ,ロボット可動部の配線,コンピュータに指令を送るための手指センサ用配線,さらには,ロボットを遠隔操作するために,手指,肘関節,膝関節に装着される屈曲センサ用配線など,近年様々な分野において需要が高まっている。」

「[0015] 図1は,本発明の実施例の基本構成を説明する図である。
2枚のエラストマーシート1a,1bは,破断のおそれが発生する限界伸長率が600%(自然長の7倍)程度のウレタンエラストマー等からなり,一方の面に粘着層あるいは接着層(以下,単に「粘着層」という。)が形成されている。
エラストマーシート1a,1bの粘着層を互いに対向させた状態で,長手方向両端の幅方向上面を把持装置で把持し,限界伸長率以下の,例えば,400%程度の初期伸長率まで伸長させる。

[0016] エラストマーシート1a,1bの対向面間に,本実施例では,ナイロン繊維の表面に銀を被覆した銀被覆繊維からなる導線2a,2bを,軽く撚り合わせ,エラストマーシート1a,1bの長手方向に沿って,幅方向の中央部内に収まる程度の最小限の張力を与えた状態で配置する。
このように伸長させた状態(初期伸長状態)で,上側エラストマーシート1aを支持台に載せ,下側エラストマーシート1bの上面を,プレス機等を用いて互いに圧着すると,導線2a,2bの両端部は,粘着層で固定される。これにより,図1右側の断面図に示すように,長手方向に沿って,導線2a,2bが介在することなく,双方の粘着層が直接圧着することにより封止される封止部3aと,導線2a,2bの外周端がエラストマーシート1a,1bの粘着層に一部接触した,導線伸縮部3bが形成される。

[0017] なお,この例では,封止部3aは,導線2a,2bの端部両側にも形成され,導線伸縮部3bの長手方向,幅方向全域にわたり連続して形成される。
このように,封止部3aでは,エラストマーシート1a,1bの幅方向,長さ方向の端部で,双方の粘着層どうしを直接圧着させ,両者を強固に一体化するが,中央部の導線伸縮部3bでは,導線2a,2bが,その外周端を粘着層に接触させながら,螺旋状に伸縮できるよう,ウレタン系の粘着剤等,硬化後も高い柔軟性を維持する粘着層を選択する。

[0018] また,本実施例では,抵抗値を低減するため,2本の導線2a,2bを用い,それぞれ,1本当たり17?20μm銀被覆繊維を撚り合わせて,太さ0.3mm程度に相当する番手のものを選択した。
しかし,伸縮性配線に求められる抵抗特性,伸長率,伸縮反復数などに応じて,様々な番手のものを使用したり,使用する本数を1本のみとしたり,3本以上を使用するなど,様々な組み合わせを選択することができる。

[0019] なお,エラストマーシート1a,1bの長手方向両端側に,導線2a,2bに電気的に接触するテープ状の電気的接続部を幅方向に沿って貼着するような場合には,導線2a,2bの端部両側に封止部3aを形成せず,導線2a,2bがエラストマーシート1a,1bの長手方向両端まで延びていてもよい。

[0020] 次に,この状態でエラストマーシート1a,1bの両端で幅方向に把持する把持装置を互いに近接させ,エラストマーシート1a,1bを自然長に復帰させる。
エラストマーシート1a,1bの収縮に伴い,導線伸縮部3bの内部では,導線2a,2bの外周端と粘着層との接触部で滑りが発生し,導線2a,2bが外方に撓みながら,螺旋状に巻回し,撚り数を増やしてく。

[0021] この過程を実際に撮影したものが図2であり,エラストマーシート1a,1bの貼着が終了した初期状態00001として,一秒ごとに撮影し,00015が,エラストマーシート1a,1bを張力を開放して自然長に戻した15秒後の状態を示している。
この結果から分かるように,把持装置を近接させるにつれ,エラストマーシート1a,1b間の導線2a,2bが螺旋状に巻回し,その撚り数を増加させ,徐々に導線2a,2bの外径が増大した後,さらに撚り数が急速に増加していくことが分かる。
なお,図2では,導線2a,2bが螺旋状に巻回し,撚り数が増加していく状態を確認するため,伸長率400%から自然長まで,15秒をかけて徐々に戻しているが,張力を瞬時に開放しても,同様の現象が発生することは,実験で確認されている。」

「[0030] 次に,本発明による高伸縮性配線の末端接続について説明する。
図5は,回路基材と,高伸縮性配線の末端とを電気的に接続するための末端接続構造を示している。
この図では,エラストマーシート1a,1bの間に,先の例と同様の伸縮性導線を3組(21?23)を平行に配列し,長さ方向末端で,印刷により導電パターンを形成した,フレキシブル基板あるいはリジッド基板等の回路基材4の3端子4a?4cとそれぞれ電気的に接続する例を示している。」

「[0034] そして,図7に示すように,それらの交点付近に,各エラストマーシート間の導線と電子素子の電極間をビア形成後,直接印刷した導線で電気的に接続する。
その際,超音波,スポットレーザを用いて,介在するエラストマーシートを除去して,各エラストマーシート間の導線と電子素子の電極間を,溶融圧着,カーボンペースト導線で電気的に接続し,電気的接続部を含め,封止剤で全体を固定するようにしてもよい。」









(2)ここで,引用文献1に記載されている事項を検討する。

ア 段落0002の記載から,引用文献1の「高伸縮性配線」は,柔軟性が要求される「衣服型心拍・心電図モニタ」に用いられる配線である。

イ 段落0015-0017,0020-0021及び図1の記載から,引用文献1の「高伸縮性配線」は,一方の面に粘着層が形成されている「2枚のエラストマーシート」の対向面間に,「導線」が配置され,双方の粘着層が直接圧着され一体化されたものである。
また,段落0015には,「エラストマーシート」は「限界伸長率が600%(自然長の7倍)程度のウレタンエラストマー等からな」ることが記載されている。
ここで,図1を参酌すると,「エラストマーシート」は,長手方向の長さが短手方向の長さより長いから,一種の「テープ状」のものであることは明らかである。

ウ 段落0030及び図5の記載から,引用文献1には,複数組の「導線」を有する「高伸縮性配線」も記載されていると認められる。
また,図1,5を参酌すると,「高伸縮性配線」は,長手方向の長さが短手方向の長さより長いから,一種の「テープ状」のものであることは明らかである。

(3) 以上から,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 衣服型心拍・心電図モニタに用いられる高伸縮性配線であって,
一方の面に粘着層が形成されている2枚のテープ状のエラストマーシートの対向面間に,導線が配置され,
エラストマーシートは,限界伸長率が600%程度のウレタンエラストマー等からなり,
双方の粘着層が直接圧着され一体化され,
複数の導線を有する,
テープ状の高伸縮性配線。」

2 引用文献2について
(1) 原査定の拒絶の理由において引用された引用文献2には,図面とともに次の事項が記載されている。

「請求の範囲
[1] 10%以上の伸縮性を有し,250MHzにおける伝送ロスが弛緩状態において10dB/m以下である伸縮性伝送ケーブルであって,10%以上の伸縮性を有する弾性円筒体および該弾性円筒体の周囲に同一方向に捲回された少なくとも2本の導体線を含む導体部からなることを特徴とする伸縮性信号伝送ケーブル。
[2] 導体部が,導体線の外側に導体線と逆方向に捲回されている絶縁性糸状体を含むことを特徴とする請求項1に記載の伸縮性信号伝送ケーブル。」





第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。

ア 引用発明の「導線」は,本願発明1の「伸縮性導電配線」と,「導電配線」である点で一致することは明らかである。

イ 引用発明の「エラストマーシート」は,「一方の面に粘着層が形成されて」おり,「対向面間に,導線が配置され」,「双方の粘着層が直接圧着され一体化され」ているものであるから,本願発明1の「絶縁性伸縮フィルム」と,「第1の面,及び前記第1の面とは反対側の第2の面を有し,前記第1の面において前記」「導電配線の両側から接着層を介して貼合された」「フィルム」である点で一致する。
また,引用発明の「エラストマーシート」は,「限界伸長率が600%(自然長の7倍)程度のウレタンエラストマー等からな」り,「テープ状」の「絶縁性」「フィルム」であるから,「テープ状の絶縁性伸縮フィルム」であることは明らかである。
すると,引用発明の「エラストマーシート」は,本願発明1の「絶縁性伸縮フィルム」と,「第1の面,及び前記第1の面とは反対側の第2の面を有し,前記第1の面において前記」「導電配線の両側から接着層を介して貼合されたテープ状の絶縁性伸縮フィルム」である点で一致する。

ウ 引用発明の「高伸縮性配線」は,「テープ状」であり,「衣服型心拍・心電図モニタに用いられる」,すなわち,衣服に用いられるものであるから,本願発明1と「テキスタイル用伸縮性配線テープ」である点で一致する。
また,引用発明の「高伸縮性配線」は,「複数の導線」を有するから,本願発明1の「テキスタイル用伸縮性配線テープ」と,「複数本の」「導電配線」を備える点で一致する。

エ したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)
「 複数本の導電配線と,
第1の面,及び前記第1の面とは反対側の第2の面を有し,前記第1の面において前記導電配線の両側から接着層を介して貼合されたテープ状の絶縁性伸縮フィルムと
を備えた
テキスタイル用伸縮性配線テープ。」

(相違点)
(相違点1)導電配線に関して,本願発明1は,「伸縮性導電配線」と特定されているのに対し,引用発明は,そのように特定されていない点。

(相違点2)本願発明1は,「少なくとも1本の伸縮性非導電性線材」を備え,「前記伸縮性導電配線と前記伸縮性非導電性線材を交互に配置」されているのに対し,引用発明は,そのように特定されていない点。

(2)相違点についての判断
ア 相違点2について
事案に鑑み,上記相違点2について最初に検討する。
引用文献2には,「伸縮性信号伝送ケーブル」として,「10%以上の伸縮性を有する弾性円筒体および該弾性円筒体の周囲に同一方向に捲回された少なくとも2本の導体線を含む導体部からなる」との技術的事項が記載されているものの,「伸縮性信号伝送ケーブル」に「伸縮性非導電性線材」を備えることは記載されておらず,引用発明に引用文献2を適用したとしても,「少なくとも1本の伸縮性非導電性線材」を備えると共に,「前記伸縮性導電配線と前記伸縮性非導電性線材を交互に配置」する動機付けはない。
すると,テキスタイル用伸縮性配線テープにおいて,「少なくとも1本の伸縮性非導電性線材」を備えると共に,「前記伸縮性導電配線と前記伸縮性非導電性線材を交互に配置」する点は,引用文献2にも記載されておらず,また,本願出願前において周知技術であるともいえない。
してみると,当業者であっても,引用発明及び引用文献2に基づいて,本願発明1の相違点2に係る構成とすることは,容易に発明できたものであるとはいえない。

イ したがって,他の相違点について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても引用発明及び引用文献2に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2-10について
本願発明2-7は,本願発明1を限縮した発明,本願発明8は本願発明1の「テキスタイル用伸縮性配線テープ」と同様の構成を有する「伸縮性導電配線テープ」を有するウェアラブルデバイスに関する発明,本願発明9は本願発明1の「テキスタイル用伸縮性配線テープ」と同様の構成を有する「伸縮性配線テープ」を有した「配線付きテキスタイルの製造方法」に対応した発明,本願発明10は本願発明9を限縮した発明であり,本願発明1と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献2に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

第7 原査定について
本願発明1-10は,上記「第6 対比・判断」の「1 本願発明1について」の「(1)対比」における相違点2に係る構成を有するものとなっており,拒絶査定において引用された引用文献1及び引用文献2に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。
したがって,原査定の理由1を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。


 
審決日 2021-08-25 
出願番号 特願2019-561471(P2019-561471)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 和田 財太  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 ▲吉▼澤 雅博
小田 浩
発明の名称 テキスタイル用伸縮性配線テープ、及びウェアラブルデバイス、及び配線付きテキスタイルの製造方法  
代理人 特許業務法人平木国際特許事務所  

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