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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
管理番号 1377571
審判番号 不服2020-1222  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-01-29 
確定日 2021-09-09 
事件の表示 特願2019-43023「シリコーンゴム系硬化性組成物、およびそれを用いたウェアラブルデバイス」拒絶査定不服審判事件〔令和2年9月10日出願公開、特開2020-143259〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願(以下「本願」という。)は、平成31年3月8日を出願日とする出願(特願2019-043023号)であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

令和 1年 5月 9日付け:拒絶理由通知書
令和 1年 9月13日 :意見書、手続補正書の提出
令和 1年10月17日付け:拒絶査定
令和 2年 1月29日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 2年 8月28日 :上申書の提出
令和 2年12月28日付け:拒絶理由通知書
令和 3年 3月 5日 :意見書、手続補正書の提出


第2 本願発明について
本願の請求項1?8に係る発明は、令和3年3月5日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明は、以下のとおりである。(以下「本願発明」という。なお、本願の明細書を、以下「本願明細書」という。)

「配線または配線基板を有するウェアラブルデバイスの一部を構成する、繰り返し屈曲可能な屈曲性部材を形成するために用いる、シリコーンゴム系硬化性組成物であって、
ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)と、
オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)と、
シリカ粒子(C)と、
前記シランカップリング剤(D)と、
白金または白金化合物(E)と、
を含み、
前記ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)が、0.1モル%以下である第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)を含み、
BET法で測定された前記シリカ粒子(C)比表面積が、200m^(2)/g以上500m^(2)/g以下であり、
前記シランカップリング剤(D)が、疎水性基を有するシランカップリング剤(D1)およびビニル基を有するシランカップリング剤(D2)を含み、
(D1)と(D2)との比率(D1):(D2)が、重量比で、1:0.001?1:0.35であり、
前記シリカ粒子(C)の含有量が、前記ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)の全体100重量部に対して、50重量部以下であり、
下記の条件で測定される、当該シリコーンゴム系硬化性組成物の硬化物の引張強度が、8.3MPa以上であり、
当該シリコーンゴム系硬化性組成物の硬化物からなる試験片を用いて、JIS K 6260に準拠したデマチャ式耐屈曲試験を行い、下記の手順に基づいて測定される、屈曲回数が5万回のときの前記試験片における切り込み長さ変化率(L_(5)/L_(0))が、1.1以上5.1以下である、
シリコーンゴム系硬化性組成物(ただし、下記の特開2018-90774号公報の実施例1に記載のシリコーンゴム系硬化性組成物、および実施例4に記載のシリコーンゴム系硬化性組成物を除く)。
(手順)
当該シリコーンゴム系硬化性組成物を、170℃、10MPaで15分間プレスし、続いて、200℃で4時間加熱し、JIS K 6260に準拠して所定形状の試験片を作製する。
得られた試験片の中央において、幅方向に対して平行に、前記試験片を貫通する所定長さの切り込みを入れる。初期の切り込み長さをL_(0)とする。
続いて、切り込み付きの前記試験片を試験機のつかみ具間に設置し、下記の試験条件に基づいて、デマチャ式耐屈曲試験を行い、所定の屈曲回数後の前記試験片における切り込み長さ(mm)を測定する。
切り込み長さは、デマチャ式耐屈曲試験を3回行ったときの平均値とする。この切り込み長さの平均値をL_(5)とする。
切り込み長さ変化率を、式:L_(5)/L_(0)に基づいて算出する。
(試験条件)
・試験規格:JIS K 6260準拠
・試験機:デマチャ屈曲き裂試験機
・試験温度:23±2℃
・つかみ具間最大距離:75mm
・往復運動距離:57mm
・試験速度:300±10回/分
・試験数:n=3
(引張強度の測定条件)
当該シリコーンゴム系硬化性組成物の硬化物を用いてダンベル状3号形試験片を作製し、得られたダンベル状3号形試験片について、25℃、JIS K6251(2004)に準拠して、引張強度を測定する。
(特開2018-90774号公報の実施例1に記載のシリコーンゴム系硬化性組成物)
Mn=2,2×10^(5)、Mw=4,8×10^(5)、H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量は0.04モル%である低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1b) 90重量部、Mn=2,3×10^(5)、Mw=5,0×10^(5)H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量は0.93モル%で高ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2a) 10重量部からなるビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)の95%、シランカップリング剤(D-1):ヘキサメチルジシラザン(HMDZ) 7.5重量部、シランカップリング剤(D-2):ジビニルテトラメチルジシラザン 3.0重量部からなるシランカップリング剤(D)、および水(F) 5.25重量部の混合物を予め混練し、その後、混合物に、シリカ微粒子(粒径7nm、比表面積300m^(2)/g、日本アエロジル社製、「AEROSIL300」) 35重量部からなるシリカ粒子(C)を加えてさらに混練し、混練物(シリコーンゴムコンパウンド)を得た。
ここで、シリカ粒子(C)添加後の混練は、カップリング反応のために窒素雰囲気下、60?90℃の条件下で1時間混練する第1ステップと、副生成物(アンモニア)の除去のために減圧雰囲気下、160?180℃の条件下で2時間混練する第2ステップとを経ることで行い、その後、冷却し、残り5%のビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)を2回に分けて添加し、20分間混練した。
続いて、得られた混練物(シリコーンゴムコンパウンド)100重量部に、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B):モメンティブ社製、「TC-25D」 4.53重量部および白金または白金化合物(E):白金化合物、モメンティブ社製、「TC-25A」 0.5重量部を加えて、ロールで混練し、実施例1に記載のシリコーンゴム系硬化性組成物を得た。
(特開2018-90774号公報の実施例4に記載のシリコーンゴム系硬化性組成物)
Mn=2,2×10^(5)、Mw=4,8×10^(5)、H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量は0.04モル%である低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1b) 80重量部、Mn=2,3×10^(5)、Mw=5,0×10^(5)H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量は0.93モル%で高ビニル基含有直鎖オルガノポリシロキサン(A1-2a) 20重量部からなるビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)の95%、シランカップリング剤(D-1):ヘキサメチルジシラザン(HMDZ) 10重量部、シランカップリング剤(D-2):ジビニルテトラメチルジシラザン 0.5重量部からなるシランカップリング剤(D)、および水(F) 5.25重量部の混合物を予め混練し、その後、混合物に、シリカ微粒子(粒径7nm、比表面積300m^(2)/g、日本アエロジル社製、「AEROSIL300」) 25重量部からなるシリカ粒子(C)を加えてさらに混練し、混練物(シリコーンゴムコンパウンド)を得た。
ここで、シリカ粒子(C)添加後の混練は、カップリング反応のために窒素雰囲気下、60?90℃の条件下で1時間混練する第1ステップと、副生成物(アンモニア)の除去のために減圧雰囲気下、160?180℃の条件下で2時間混練する第2ステップとを経ることで行い、その後、冷却し、残り5%のビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)を2回に分けて添加し、20分間混練した。
続いて、得られた混練物(シリコーンゴムコンパウンド)100重量部に、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B):モメンティブ社製、「TC-25D」 2.64重量部および白金または白金化合物(E):白金化合物、モメンティブ社製、「TC-25A」 0.5重量部を加えて、ロールで混練し、実施例4に記載のシリコーンゴム系硬化性組成物を得た。」


第3 令和2年12月28日付け拒絶理由通知書における拒絶理由の概要
令和2年12月28日付け拒絶理由通知書における拒絶の理由の概要は、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないとする理由を含むものである。

1. 特開2018-90774号公報


第4 本願明細書及び引用文献に記載された事項
1 本願明細書に記載された事項
本願明細書には、以下の事項が記載されている。

(本a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンゴム系硬化性組成物、およびその構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでシリコーンゴムの耐久性において様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、耐伸長疲労性について、100%伸長操作を繰り返し行い破断するまでの伸長回数に基づいて評価できること、その伸長回数が210万回のシリコーンゴム(硬化性シリコーンゴム組成物の硬化物)が記載されている(特許文献1の実施例1)。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記特許文献1に記載の硬化性シリコーンゴム組成物の硬化物において、繰り返しの屈曲変形に対する耐久性の点で改善の余地があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
シリコーンゴムの技術分野において、伸長時の特性についての検討が一般的に行われている。
しかしながら、繰り返し屈曲時の特性については、十分な検討がなされていなかった。
【0006】
本発明者が検討したところ、デマチャ式耐屈曲試験を用いることで、シリコーンゴム系硬化性組成物の成形体について、繰り返し屈曲時における耐屈曲性を評価できることを見出した。さらに検討した結果、JIS K 6260に準拠して、デマチャ式耐屈曲試験の試験条件を適切に設定した上で、切り込み付きの試験片における切り込み長さの変化率を指標とすることで、かかる耐屈曲性を制御できることが判明した。このような知見に基づきさらに鋭意研究したところ、屈曲回数が5万回のときの試験片における切り込み長さの変化率を所定範囲内とすることで、シリコーンゴム系硬化性組成物の成形体における、繰り返しの屈曲変形に対する耐久性が改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。
・・・
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、繰り返しの屈曲変形に対する耐久性に優れた成形体を実現できるシリコーンゴム系硬化性組成物、およびその構造体が提供される。」

(本b)「【0015】
本発明者の知見によれば、デマチャ式耐屈曲試験を用いることで、シリコーンゴム系硬化性組成物の成形体について、繰り返し屈曲時における耐屈曲性を評価できることを見出した。
しかしながら、適当な指標を設定しないと、評価に時間がかかる上、評価にバラツキが生じる恐れがある。例えば、上記特許文献1の100%伸長疲労寿命のように、破断までの変形回数を指標とした場合、破断までの時間が長くなり、変形回数にバラツキが生じることがあった。また、試験片として切り込み無し品を使用し、破断状態を指標とした場合、破断状態に差が出るまで相当の屈曲回数が必要であり、差が出たとしても破断状態のバラツキが大きくなってしまうことが分かった。
【0016】
そこで、さらに検討した結果、JIS K 6260に準拠して、デマチャ式耐屈曲試験の試験条件を適切に設定した上で、切り込み付きの試験片における切り込み長さの変化率を指針とすることで、シリコーンゴム系硬化性組成物の成形体について、繰り返し屈曲時における耐屈曲性を、比較的早く、安定的に評価でき、かかる耐屈曲性を制御できることが判明した。
【0017】
このような知見に基づきさらに鋭意研究したところ、屈曲回数が5万回のときの試験片における切り込み長さの変化率を指標とすることで、繰り返し屈曲時における耐屈曲性を安定的に評価することができ、さらには、この指標を上記所定範囲内とすることで、シリコーンゴム系硬化性組成物の成形体における、繰り返しの屈曲変形に対する耐久性を向上できることが見出された。
【0018】
詳細なメカニズムは定かでないが、上記の切り込み変化率を指標として、架橋間距離や架橋密度を適切に調整することによって、低硬度、高引裂強度、高破断伸びの特性をバランス良く向上させることにより、屈曲時の負荷が小さいシリコーンゴム構造が得られると考えられる。
【0019】
上記デマチャ式耐屈曲試験において、L_(0)を、デマチャ式耐屈曲試験前の初期の切り込み長さとし、L_(1)、L_(3)、L_(5)を、それぞれ、デマチャ式耐屈曲試験後、屈曲回数が1万回、3万回、5万回のときの切り込み長さの平均値とする。
このとき、上記屈曲回数が5万回のときの試験片における切り込み長さ変化率(L_(5)/L_(0))の上限は、11.5以下、好ましくは10.7以下、より好ましくは8.0以下、さらに好ましくは6.0以下である。これにより、繰り返しの屈曲変形に対する耐久性に優れ、部材としての機械的強度を有する成形体を実現できる。なお、切り込み長さ変化率(L_(5)/L_(0))の下限は、1.0以上であればよく、1.1以上としてもよい。
・・・
【0021】
また、初期の切り込み長さL_(0)が2.03mmのとき、上記屈曲回数が5万回のときの試験片における切り込み長さL_(5)は、例えば、2.2mm?22.5mm、好ましくは2.3mm?18.0mm、より好ましくは2.5mm?15.0mmとしてもよい。
本明細書中、「?」は、特に明示しない限り、上限値と下限値を含むことを表す。
【0022】
上記シリコーンゴム系硬化性組成物において、シリカ粒子(C)の含有量が、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)の全体100重量部に対して、例えば、10重量部以上60重量部以下としてもよい。このシリカ粒子(C)の含有量の上限は、好ましくは50重量部以下、より好ましくは35重量部以下、さらに好ましくは30重量部以下である。このように、シリカ含有量を比較的低くすることで、繰り返しの屈曲変形に対する耐久性を高めることができる。シリカ粒子(C)の含有量を35重量部以下とすることにより、繰り返し屈曲耐久性を安定的に高めることができる。
【0023】
本実施形態では、たとえばシリコーンゴム系硬化性組成物中に含まれる各成分の種類や配合量、シリコーンゴム系硬化性組成物の調製方法やシリコーンゴムの製造方法等を適切に選択することにより、上記の切り込み長さ変化率、切り込み長さ、下記の破断伸び、引張強度、引裂強度、硬度を制御することが可能である。これらの中でも、たとえば、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)として、ビニル基が比較的小さく少なく、末端のみにビニル基を有するビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)を使用することにより樹脂の架橋密度や架橋構造を制御すること、また、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)の添加タイミングおよびその比率、シリカ粒子(C)の配合比率、シリカ粒子(C)の比表面積、シリカ粒子(C)のシランカップリング剤(D)で表面改質すること、水を添加すること等のシランカップリング剤(D)とシリカ粒子(C)との反応をより確実に進行させること等が、上記の切り込み長さ変化率、切り込み長さ、下記の破断伸び、引張強度、引裂強度、硬度を所望の数値範囲とするための要素として挙げられる。
・・・
【0034】
上記シリコーンゴム系硬化性組成物は、繰り返しの屈曲変性に対する耐久性に優れるため、屈曲性部材用の成形体を形成するために好適に用いることができる。屈曲性部材は、例えば、使用環境下において、繰り返し屈曲方向に応力を受ける部材を指す。この屈曲性部材は、伸縮方向に応力を受ける使用環境下で使用してもよい。
【0035】
上記屈曲性部材の一例として、例えば、ウェアラブルデバイスが挙げられる。すなわち、上記シリコーンゴム系硬化性組成は、ウェアラブルデバイス用の成形体を形成するために好適に用いることができる。
【0036】
上記ウェアラブルデバイスとしては、身体や衣服に装着可能なウェアラブルデバイスであり、例えば、心拍数、心電図、血圧、体温等の生体からの現象を検出する医療用センサー、ヘルスケアデバイス、折り曲げ可能なディスプレイ、伸縮性LEDアレイ、伸縮性太陽電池、伸縮性アンテナ、伸縮性バッテリ、アクチュエーター、ウエアラブルコンピュータ等が挙げられる。これらに用いる電極や配線、基板、伸縮・屈曲可能な可動部材、外装部材等を構成するための部材として、上記成形体を用いることが可能である。
【0037】
上記シリコーンゴム系硬化性組成物の硬化物(成形体)を備える構造体は、各種の用途に用いることができる。
・・・
【0042】
その他、本実施形態のシリコーンゴムは、ガスバリアフィルム等の包装材料;調理器具;ホース;定着ベルト;スイッチ;シート材;パッキン材;等の可撓性、伸展性または折りたたみ性を有する生活品の一部を構成することができる。」

(本c)「【0044】
<<ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A))>>
本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物は、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)を含む。上記ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)は、シリコーンゴム系硬化性組成物の主成分となる重合物である。
【0045】
上記ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)は、直鎖構造を有するビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)を含むことができる。
【0046】
上記ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)は、直鎖構造を有し、かつ、ビニル基を含有しており、かかるビニル基が硬化時の架橋点となる。
【0047】
ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)のビニル基の含有量は、特に限定されないが、例えば、分子内に2個以上のビニル基を有し、かつ15モル%以下であるのが好ましく、0.01?12モル%であるのがより好ましい。これにより、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)中におけるビニル基の量が最適化され、後述する各成分とのネットワークの形成を確実に行うことができる。
【0048】
本明細書中、ビニル基含有量とは、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)を構成する全ユニットを100モル%としたときのビニル基含有シロキサンユニットのモル%である。ただし、ビニル基含有シロキサンユニット1つに対して、ビニル基1つであると考える。
【0049】
ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)の重合度は、特に限定されないが、例えば、好ましくは1000?10000程度、より好ましくは2000?5000程度の範囲内である。なお、重合度は、例えばクロロホルムを展開溶媒としたGPC(ゲル透過クロマトグラフィー)におけるポリスチレン換算の数平均重合度(又は数平均分子量)等として求めることができる。
【0050】
また、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)の重量平均分子量Mwは、たとえば、5.0×10^(4)?1.0×10^(6)以下、好ましくは1.0×10^(5)?9.0×10^(5)、より好ましくは3.0×10^(5)?8.0×10^(5)としてもよい。
【0051】
ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)のMw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)は、たとえば1.5以上4.0以下、好ましくは1.8以上3.5以下、より好ましくは2.0以上2.8以下としてもよい。なお、Mw/Mnは、分子量分布の幅を示す分散度である。
【0052】
ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)の比重は、特に限定されないが、0.9?1.1程度の範囲であるのが好ましい。
【0053】
ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)として、上記のような範囲内の重合度および比重を有するものを用いることにより、得られるシリコーンゴムの耐熱性、難燃性、化学的安定性等の向上を図ることができる。
【0054】
ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)としては、特に、下記式(1)で表される構造を有するものであるが好ましい。
・・・
【0056】
式(1)中、R^(1)は炭素数1?10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1?10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1?10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基等が挙げられ、中でも、ビニル基が好ましい。炭素数1?10のアリール基としては、例えば、フェニル基等が挙げられる。
【0057】
式(1)中、R^(2)は炭素数1?10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1?10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1?10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基が挙げられる。炭素数1?10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0058】
式(1)中、R^(3)は炭素数1?8の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1?8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1?8のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0059】
また、式(1)中のR^(1)およびR^(2)の置換基としては、例えば、メチル基、ビニル基等が挙げられ、R3の置換基としては、例えば、メチル基等が挙げられる。
【0060】
なお、式(1)中、複数のR^(1)は互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。さらに、R^(2)、およびR^(3)についても同様である。また、式(1)中、複数あるR1およびR2の少なくとも1つがアルケニル基である。
【0061】
さらに、m、nは、式(1)で表されるビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)を構成する繰り返し単位の数であり、mは0?2000の整数、nは1000?10000の整数である。mは、好ましくは0?1000であり、nは、好ましくは2000?5000である。
【0062】
また、式(1)で表されるビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)の具体的構造としては、例えば下記式(1-1)で表されるものが挙げられる。
・・・
【0064】
式(1-1)中、R^(1)およびR^(2)は、それぞれ独立して、メチル基またはビニル基であり、少なくとも一方がビニル基である。
本明細書中、式(1-1)で表わされる構造でR^(1)(末端)のみがビニル基であるビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)を(A1-1)、式(1-1)で表わされる構造でR^(1)(末端)およびR^(2)(鎖内)がビニル基であるビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)を(A1-2)と表記する。
【0065】
上記ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)としては、ビニル基含有量が分子内に2個以上のビニル基を有し、かつ15モル%以下であるものが好ましい。シリコーンゴムの原料である生ゴムとして、一般的なビニル基含有量を有するビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)を用いることで、シリコーンゴムの架橋ネットワーク中に、より効果的に架橋密度の疎密を形成することができる。その結果、より効果的にシリコーンゴムの引裂強度を高めることができる。
【0066】
上記ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)は、ビニル基含有量が分子内に2個以上のビニル基を有し、かつ0.1モル%以下である第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)を含むことが好ましい。
また上記ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)としては、ビニル基含有量が分子内に2個以上のビニル基を有し、かつ0.1モル%以下である第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)を単独で用いてもよいが、ビニル基含有量が0.1超?15モル%である第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)等を含む2種以上を組み合わせて用いてもよい。」

(本d)「【0067】
<<オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)>>
本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物は、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)を含んでもよい。
オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)は、直鎖構造を有する直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と分岐構造を有する分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)とに分類され、これらのうちのいずれか一方または双方を含むことができる。
【0068】
直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、直鎖構造を有し、かつ、Siに水素が直接結合した構造(≡Si-H)を有し、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)のビニル基の他、シリコーンゴム系硬化性組成物に配合される成分が有するビニル基とヒドロシリル化反応し、これらの成分を架橋する重合体である。
【0069】
直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)の分子量は特に限定されないが、例えば、重量平均分子量が20000以下であるのが好ましく、1000以上、10000以下であることがより好ましい。
【0070】
なお、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)の重量平均分子量は、例えばクロロホルムを展開溶媒としたGPC(ゲル透過クロマトグラフィー)におけるポリスチレン換算により測定することができる。
【0071】
また、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、通常、ビニル基を有しないものであるのが好ましい。これにより、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)の分子内において架橋反応が進行するのを的確に防止することができる。
【0072】
以上のような直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)としては、例えば、下記式(2)で表される構造を有するものが好ましく用いられる。
・・・
【0074】
式(2)中、R^(4)は炭素数1?10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、これらを組み合わせた炭化水素基、またはヒドリド基である。炭素数1?10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1?10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基等が挙げられる。炭素数1?10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0075】
また、R^(5)は炭素数1?10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、これらを組み合わせた炭化水素基、またはヒドリド基である。炭素数1?10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1?10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基等が挙げられる。炭素数1?10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0076】
なお、式(2)中、複数のR^(4)は互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。R^(5)についても同様である。ただし、複数のR^(4)およびR^(5)のうち、少なくとも2つ以上がヒドリド基である。
【0077】
また、R^(6)は炭素数1?8の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1?8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1?8のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。複数のR^(6)は互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。
【0078】
なお、式(2)中のR^(4),R^(5),R^(6)の置換基としては、例えば、メチル基、ビニル基等が挙げられ、分子内の架橋反応を防止する観点から、メチル基が好ましい。
【0079】
さらに、m、nは、式(2)で表される直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)を構成する繰り返し単位の数であり、mは2?150の整数、nは2?150の整数である。好ましくは、mは2?100の整数、nは2?100の整数である。
【0080】
なお、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0081】
分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、分岐構造を有するため、架橋密度が高い領域を形成し、シリコーンゴムの系中の架橋密度の疎密構造形成に大きく寄与する成分である。また、上記直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)同様、Siに水素が直接結合した構造(≡Si-H)を有し、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)のビニル基の他、シリコーンゴム系硬化性組成物に配合される成分のビニル基とヒドロシリル化反応し、これら成分を架橋する重合体である。
【0082】
また、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)の比重は、0.9?0.95の範囲である。
【0083】
さらに、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、通常、ビニル基を有しないものであるのが好ましい。これにより、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)の分子内において架橋反応が進行するのを的確に防止することができる。
【0084】
また、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)としては、下記平均組成式(c)で示されるものが好ましい。
【0085】
平均組成式(c)
(H_(a)(R^(7))_(3-a)SiO_(1/2))m(SiO_(4/2))n
(式(c)において、R^(7)は一価の有機基、aは1?3の範囲の整数、mはH_(a)(R^(7))_(3-a)SiO_(1/2)単位の数、nはSiO_(4/2)単位の数である)
【0086】
式(c)において、R^(7)は一価の有機基であり、好ましくは、炭素数1?10の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1?10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1?10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0087】
式(c)において、aは、ヒドリド基(Siに直接結合する水素原子)の数であり、1?3の範囲の整数、好ましくは1である。
【0088】
また、式(c)において、mはH_(a)(R^(7))_(3-a)SiO_(1/2)単位の数、nはSiO_(4/2)単位の数である。
【0089】
分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は分岐状構造を有する。直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、その構造が直鎖状か分岐状かという点で異なり、Siの数を1とした時のSiに結合するアルキル基Rの数(R/Si)が、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)では1.8?2.1、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)では0.8?1.7の範囲となる。
【0090】
なお、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、分岐構造を有しているため、例えば、窒素雰囲気下、1000℃まで昇温速度10℃/分で加熱した際の残渣量が5%以上となる。これに対して、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、直鎖状であるため、上記条件で加熱した後の残渣量はほぼゼロとなる。
【0091】
また、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)の具体例としては、下記式(3)で表される構造を有するものが挙げられる。
・・・
【0093】
式(3)中、R^(7)は炭素数1?8の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基、もしくは水素原子である。炭素数1?8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1?8のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。R^(7)の置換基としては、例えば、メチル基等が挙げられる。
【0094】
なお、式(3)中、複数のR^(7)は互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。
【0095】
また、式(3)中、「-O-Si≡」は、Siが三次元に広がる分岐構造を有することを表している。
【0096】
なお、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0097】
また、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)において、Siに直接結合する水素原子(ヒドリド基)の量は、それぞれ、特に限定されない。ただし、シリコーンゴム系硬化性組成物において、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)中のビニル基1モルに対し、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)の合計のヒドリド基量が、0.5?5モルとなる量が好ましく、1?3.5モルとなる量がより好ましい。これにより、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)および分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)と、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)との間で、架橋ネットワークを確実に形成させることができる。」

(本e)「<<シリカ粒子(C)>>
本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物は、シリカ粒子(C)を含む。
【0099】
シリカ粒子(C)としては、特に限定されないが、例えば、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ等が用いられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。シリカ粒子(C)は、シランカップリング剤(D)で表面処理されたシリカ粒子を1種または2種以上含んでもよい。
【0100】
シリカ粒子(C)は、例えば、BET法による比表面積が例えば、200m^(2)/g?500m^(2)/gであり、220m^(2)/g?400m^(2)/gであるのが好ましく、250m^(2)/g?400m^(2)/gであるのがより好ましい。
また、シリカ粒子(C)の平均一次粒径は、例えば1?100nmであるのが好ましく、5?20nm程度であるのがより好ましい。
【0101】
シリカ粒子(C)として、かかる比表面積および平均粒径の範囲内であるものを用いることにより、形成されるシリコーンゴムの硬さや機械的強度の向上、特に引張強度の向上をさせることができる。」

(本f)「【0102】
<<シランカップリング剤(D)>>
本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物は、シランカップリング剤(D)を含んでもよい。
シランカップリング剤(D)は、加水分解性基を有することができる。加水分解基が水により加水分解されて水酸基になり、この水酸基がシリカ粒子(C)表面の水酸基と脱水縮合反応することで、シリカ粒子(C)の表面改質を行うことができる。
【0103】
シランカップリング剤(D)は、疎水性基を有するシランカップリング剤を含むことができる。疎水性基を有するシランカップリング剤として、トリメチルシリル基を有するシランカップリング剤を用いることができる。これにより、シリカ粒子(C)の表面にこの疎水性基が付与されるため、シリコーンゴム系硬化性組成物中ひいてはシリコーンゴム中において、シリカ粒子(C)の凝集力が低下(シラノール基による水素結合による凝集が少なくなる)し、その結果、シリコーンゴム系硬化性組成物中のシリカ粒子の分散性が向上すると推測される。これにより、シリカ粒子とゴムマトリックスとの界面が増加し、シリカ粒子の補強効果が増大する。さらに、ゴムのマトリックス変形の際、マトリックス内でのシリカ粒子の滑り性が向上すると推測される。そして、シリカ粒子(C)の分散性の向上及び滑り性の向上によって、シリカ粒子(C)によるシリコーンゴムの機械的強度(例えば、引張強度や引裂強度など)が向上する。
【0104】
また、シランカップリング剤(D)は、ビニル基を有するシランカップリング剤を含むことができる。これにより、シリカ粒子(C)の表面にビニル基が導入される。そのため、シリコーンゴム系硬化性組成物の硬化の際、ネットワーク(架橋構造)が形成される際に、シリカ粒子(C)が有するビニル基も、架橋反応に関与するため、ネットワーク中にシリカ粒子(C)も取り込まれるようになる。これにより、形成されるシリコーンゴムの低硬度化および高モジュラス化を図ることができる。
【0105】
上記シランカップリング剤(D)としては、疎水性基を有するシランカップリング剤およびビニル基を有するシランカップリング剤を併用することができる。これにより、ゴム中におけるシリカの分散性およびゴムの架橋性のバランスを図ることができる。シランカップリング剤(D)は、これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0106】
シランカップリング剤(D)としては、例えば、下記式(4)で表わされるものが挙げられる。
【0107】
Y_(n)-Si-(X)_(4-n)・・・(4)
上記式(4)中、nは1?3の整数を表わす。Yは、疎水性基、親水性基またはビニル基を有するもののうちのいずれかの官能基を表わし、nが1の時は疎水性基であり、nが2または3の時はその少なくとも1つが疎水性基である。Xは、加水分解性基を表わす。
【0108】
疎水性基は、炭素数1?6のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基等が挙げられ、中でも、特に、メチル基が好ましい。
【0109】
また、親水性基は、例えば、水酸基、スルホン酸基、カルボキシル基またはカルボニル基等が挙げられ、中でも、特に、水酸基が好ましい。なお、親水性基は、官能基として含まれていてもよいが、シランカップリング剤(D)に疎水性を付与するという観点からは含まれていないのが好ましい。
【0110】
さらに、加水分解性基は、メトキシ基、エトキシ基のようなアルコキシ基、クロロ基またはシラザン基等が挙げられ、中でも、シリカ粒子(C)との反応性が高いことから、シラザン基が好ましい。なお、加水分解性基としてシラザン基を有するものは、その構造上の特性から、上記式(4)中の(Yn-Si-)の構造を2つ有するものとなる。
【0111】
上記式(4)で表されるシランカップリング剤(D)の具体例は、次の通りである。
・・・
【0113】
またシランカップリング剤(D)がトリメチルシリル基を有するシランカップリング剤およびビニル基含有オルガノシリル基を有するシランカップリング剤の2種を含む場合、疎水性基を有するものとしてはヘキサメチルジシラザン、ビニル基を有するものとしてはジビニルテトラメチルジシラザンを含むことが好ましい。
【0114】
トリメチルシリル基を有するシランカップリング剤(D1)およびビニル基含有オルガノシリル基を有するシランカップリング剤(D2)を併用する場合、(D1)と(D2)の比率は、特に限定されないが、例えば、重量比で(D1):(D2)が、1:0.001?1:0.35、好ましくは1:0.01?1:0.20、より好ましくは1:0.03?1:0.15である。このような数値範囲とすることにより、シリコーンゴム中の所望のシリコーンゴムの物性を得ることができる。具体的には、ゴム中におけるシリカの分散性およびゴムの架橋性のバランスを図ることができる。」

(本g)「【0115】
<<白金または白金化合物(E)>>
本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物は、白金または白金化合物(E)を含んでもよい。
白金または白金化合物(E)は、硬化の際の触媒として作用する触媒成分である。白金または白金化合物(E)の添加量は触媒量である。
【0116】
白金または白金化合物(E)としては、公知のものを使用することができ、例えば、白金黒、白金をシリカやカーボンブラック等に担持させたもの、塩化白金酸または塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸とオレフィンの錯塩、塩化白金酸とビニルシロキサンとの錯塩等が挙げられる。
【0117】
なお、白金または白金化合物(E)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0118】
また、本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物は、有機過酸化物(H)を含んでもよい。
有機過酸化物(H)は、硬化の際の触媒として作用する成分である。有機過酸化物(H)の添加量は触媒量である。有機過酸化物(H)は、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)および白金または白金化合物(E)に代えて、またはオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)および白金または白金化合物(E)と有機過酸化物(H)を併用して使用することができる。
【0119】
有機過酸化物(H)としては、例えば、・・・等が挙げられる。」

(本h)「【0120】
<<水(F)>>
また、本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物には、上記成分(A)?(E)、(H)以外に、水(F)が含まれていてもよい。
【0121】
水(F)は、シリコーンゴム系硬化性組成物に含まれる各成分を分散させる分散媒として機能するとともに、シリカ粒子(C)とシランカップリング剤(D)との反応に寄与する成分である。そのため、シリコーンゴム中において、シリカ粒子(C)とシランカップリング剤(D)とを、より確実に互いに連結したものとすることができ、全体として均一な特性を発揮することができる。」

(本i)「【0122】
さらに、本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物は、上記(A)?(F)成分の他、シリコーンゴム系硬化性組成物に配合される公知の添加成分を含有していてもよい。例えば、珪藻土、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化セリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、ガラスウール、マイカ等が挙げられる。その他、分散剤、顔料、染料、帯電防止剤、酸化防止剤、難燃剤、熱伝導性向上剤等を適宜配合することができる。
【0123】
なお、シリコーンゴム系硬化性組成物において、各成分の含有割合は特に限定されないが、例えば、以下のように設定される。
【0124】
本実施形態において、シリカ粒子(C)の含有量の上限は、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)の合計量100重量部に対し、例えば、60重量部以下でもよく、好ましくは50重量部以下でもよく、さらに好ましくは35重量部以下でもよい。これにより、硬さや引張強度等の機械的強度のバランスを図ることができる。また、シリカ粒子(C)の含有量の下限は、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)の合計量100重量部に対し、特に限定されないが、例えば、10重量部以上でもよい。
【0125】
シランカップリング剤(D)は、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)100重量部に対し、例えば、シランカップリング剤(D)が5重量部以上100重量部以下の割合で含有するのが好ましく、5重量部以上40重量部以下の割合で含有するのがより好ましい。これにより、シリカ粒子(C)のシリコーンゴム系硬化性組成物中における分散性を確実に向上させることができる。
【0126】
オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)の含有量は、具体的にビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)及びシリカ粒子(C)及びシランカップリング剤(D)の合計量100重量部に対して、例えば、0.5重量部以上20重量部以下の割合で含有することが好ましく、0.8重量部以上15重量部以下の割合で含有するのがより好ましい。(B)の含有量が前記範囲内であることで、より効果的な硬化反応ができる可能性がある。
【0127】
白金または白金化合物(E)の含有量は、触媒量を意味し、適宜設定することができるが、具体的にビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)、シリカ粒子(C)、シランカップリング剤(D)の合計量100重量部に対して、本成分中の白金族金属が重量単位で0.01?1000ppmとなる量であり、好ましくは、0.1?500ppmとなる量である。白金または白金化合物(E)の含有量を上記下限以上とすることにより、得られるシリコーンゴム組成物を十分硬化させることができる。白金または白金化合物(E)の含有量を上記上限以下とすることにより、得られるシリコーンゴム組成物の硬化速度を向上させることができる。
【0128】
有機過酸化物(H)の含有量は、触媒量を意味し、適宜設定することができるが、具体的にビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)、シリカ粒子(C)、シランカップリング剤(D)の合計量100重量部に対して、例えば、0.001重量部以上、好ましくは0.005重量部以上、より好ましくは0.01重量部以上である。これにより、硬化物としての最低限の強度を担保することができる。また、有機過酸化物(H)の含有量の上限は、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)、シリカ粒子(C)、シランカップリング剤(D)の合計量100重量部に対して、例えば、10重量部以下、好ましくは5重量部以下、より好ましくは3重量部以下である。これにより、副生成物による影響を抑制できる。
【0129】
さらに、水(F)を含有する場合、その含有量は、適宜設定することができるが、具体的には、シランカップリング剤(D)100重量部に対して、例えば、10?100重量部の範囲であるのが好ましく、30?70重量部の範囲であるのがより好ましい。これにより、シランカップリング剤(D)とシリカ粒子(C)との反応をより確実に進行させることができる。」

(本j)「【0130】
<シリコーンゴムの製造方法>
次に、本実施形態のシリコーンゴムの製造方法について説明する。
本実施形態のシリコーンゴムの製造方法としては、シリコーンゴム系硬化性組成物を調製し、このシリコーンゴム系硬化性組成物を硬化させることによりシリコーンゴムを得ることができる。
以下、詳述する。
【0131】
まず、シリコーンゴム系硬化性組成物の各成分を、任意の混練装置により、均一に混合してシリコーンゴム系硬化性組成物を調製する。
【0132】
[1]たとえば、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)と、シリカ粒子(C)と、シランカップリング剤(D)とを所定量秤量し、その後、任意の混練装置により、混練することで、これら各成分(A)、(C)、(D)を含有する混練物を得る。
【0133】
なお、この混練物は、予めビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)とシランカップリング剤(D)とを混練し、その後、シリカ粒子(C)を混練(混合)して得るのが好ましい。これにより、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)中におけるシリカ粒子(C)の分散性がより向上する。
【0134】
また、この混練物を得る際には、水(F)を必要に応じて、各成分(A)、(C)、および(D)の混練物に添加するようにしてもよい。これにより、シランカップリング剤(D)とシリカ粒子(C)との反応をより確実に進行させることができる。
【0135】
さらに、各成分(A)、(C)、(D)の混練は、第1温度で加熱する第1ステップと、第2温度で加熱する第2ステップとを経るようにするのが好ましい。これにより、第1ステップにおいて、シリカ粒子(C)の表面をカップリング剤(D)で表面処理することができるとともに、第2ステップにおいて、シリカ粒子(C)とカップリング剤(D)との反応で生成した副生成物を混練物中から確実に除去することができる。その後、必要に応じて、得られた混練物に対して、成分(A)を添加し、更に混練してもよい。これにより、混練物の成分のなじみを向上させることができる。
【0136】
第1温度は、例えば、40?120℃程度であるのが好ましく、例えば、60?90℃程度であるのがより好ましい。第2温度は、例えば、130?210℃程度であるのが好ましく、例えば、160?180℃程度であるのがより好ましい。
【0137】
また、第1ステップにおける雰囲気は、窒素雰囲気下のような不活性雰囲気下であるのが好ましく、第2ステップにおける雰囲気は、減圧雰囲気下であるのが好ましい。
【0138】
さらに、第1ステップの時間は、例えば、0.3?1.5時間程度であるのが好ましく、0.5?1.2時間程度であるのがより好ましい。第2ステップの時間は、例えば、0.7?3.0時間程度であるのが好ましく、1.0?2.0時間程度であるのがより好ましい。
【0139】
第1ステップおよび第2ステップを、上記のような条件とすることで、前記効果をより顕著に得ることができる。
【0140】
[2]次に、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)と、白金または白金化合物(E)とを所定量秤量し、その後、任意の混練装置を用いて、上記工程[1]で調製した混練物に、各成分(B)、(E)を混練することで、シリコーンゴム系硬化性組成物を得る。得られたシリコーンゴム系硬化性組成物は溶剤を含むペーストであってもよい。
【0141】
なお、この各成分(B)、(E)の混練の際には、予め上記工程[1]で調製した混練物とオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)とを、上記工程[1]で調製した混練物と白金または白金化合物(E)とを混練し、その後、それぞれの混練物を混練するのが好ましい。これにより、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)とオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)との反応を進行させることなく、各成分(A)?(E)をシリコーンゴム系硬化性組成物中に確実に分散させることができる。
【0142】
各成分(B)、(E)を混練する際の温度は、ロール設定温度として、例えば、10?70℃程度であるのが好ましく、25?30℃程度であるのがより好ましい。
【0143】
さらに、混練する時間は、例えば、5分?1時間程度であるのが好ましく、10?40分程度であるのがより好ましい。
【0144】
上記工程[1]および上記工程[2]において、温度を上記範囲内とすることにより、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)とオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)との反応の進行をより的確に防止または抑制することができる。また、上記工程[1]および上記工程[2]において、混練時間を上記範囲内とすることにより、各成分(A)?(E)をシリコーンゴム系硬化性組成物中により確実に分散させることができる。
【0145】
なお、各工程[1]、[2]において使用される混練装置としては、特に限定されないが、例えば、ニーダー、2本ロール、バンバリーミキサー(連続ニーダー)、加圧ニーダー等を用いることができる。
【0146】
また、本工程[2]において、混練物中に1-エチニルシクロヘキサノールのような反応抑制剤を添加するようにしてもよい。これにより、混練物の温度が比較的高い温度に設定されたとしても、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)とオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)との反応の進行をより的確に防止または抑制することができる。
【0147】
また、本工程[2]において、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)と白金または白金化合物(E)に代えて、またはオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)と白金または白金化合物(E)と併用して、有機過酸化物(H)を添加してもよい。有機過酸化物(H)を混練する際の温度、時間等の好ましい条件、使用する装置については、前記オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)と白金または白金化合物(E)とを混練する際の条件と同様である。
【0148】
[3]次に、シリコーンゴム系硬化性組成物を硬化させることによりシリコーンゴムを形成する。
【0149】
本実施形態において、シリコーンゴム系硬化性組成物の硬化工程は、例えば、100?250℃で1?30分間加熱(1次硬化)した後、200℃で1?4時間ポストベーク(2次硬化)することによって行われる。
以上のような工程を経ることで、本実施形態のシリコーンゴムが得られる。」

(本k)「【0150】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例】
【0151】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0152】
表1に示す実施例および比較例で用いた原料成分を以下に示す。
(ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A))
・ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1a):合成スキーム1により合成したビニル基含有ジメチルポリシロキサン(式(1-1)で表わされる構造でR^(1)(末端)のみがビニル基である構造)
・ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1b):合成スキーム2により合成したビニル基含有ジメチルポリシロキサン(式(1-1)で表わされる構造でR^(1)(末端)のみがビニル基である構造)
・ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2a):合成スキーム3により合成したビニル基含有ジメチルポリシロキサン(式(1-1)で表わされる構造でR^(1)(末端)およびR^(2)(鎖内)がビニル基である構造)
・ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2b):合成スキーム4により合成したビニル基含有ジメチルポリシロキサン(式(1-1)で表わされる構造でR^(1)(末端)およびR^(2)(鎖内)がビニル基である構造)
【0153】
(オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B))
モメンティブ社製:「TC-25D」
【0154】
(シリカ粒子(C))
・シリカ粒子(C-1):シリカ微粒子(粒径7nm、比表面積300m^(2)/g)、日本アエロジル社製、「AEROSIL 300」
・シリカ粒子(C-2):シリカ微粒子(粒径16nm、比表面積110m^(2)/g)、日本アエロジル社製、「AEROSIL R972」
【0155】
(シランカップリング剤(D))
・シランカップリング剤(D-1):ヘキサメチルジシラザン(HMDZ)、Gelest社製、「HEXAMETHYLDISILAZANE(SIH6110.1)」
・シランカップリング剤(D-2):ジビニルテトラメチルジシラザン、Gelest社製、「1,3-DIVINYLTETRAMETHYLDISILAZANE(SID4612.0)」
【0156】
(白金または白金化合物(E))
モメンティブ社製:「TC-25A」」

(本l)「【0157】
(ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)の合成)
【0158】
[合成スキーム1:ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1a)の合成]
下記式(5)にしたがって、低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1a)を合成した。
すなわち、Arガス置換した、冷却管および攪拌翼を有する300mLセパラブルフラスコに、オクタメチルシクロテトラシロキサン74.7g(252mmol)、カリウムシリコネート0.1gを入れ、昇温し、120℃で30分間攪拌した。なお、この際、粘度の上昇が確認できた。
その後、155℃まで昇温し、3時間攪拌を続けた。そして、3時間後、1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン0.1g(0.6mmol)を添加し、さらに、155℃で4時間攪拌した。
さらに、4時間後、トルエン250mLで希釈した後、水で3回洗浄した。洗浄後の有機層をメタノール1.5Lで数回洗浄することで、再沈精製し、オリゴマーとポリマーを分離した。得られたポリマーを60℃で一晩減圧乾燥し、低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1a)を合成した(Mn=2.2×10^(5)、Mw=4.8×10^(5))。また、H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量は0.039モル%であった。
・・・
【0160】
[合成スキーム2:ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1b)の合成]
上記(A1-1a)の合成工程において、155℃まで昇温した後の反応時間を3.5時間に変えたこと以外は、(A1-1a)の合成工程と同様にすることで低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1b)を合成した(Mn=2.7×10^(5)、Mw=5.2×10^(5))。また、H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量は
0.031モル%であった。
【0161】
[合成スキーム3:ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2a)の合成]
上記(A1-1a)の合成工程において、オクタメチルシクロテトラシロキサン75.3g(254mmol)に加えて2,4,6,8-テトラメチル2,4,6,8-テトラビニルシクロテトラシロキサン0.12g(0.35mmol)を用いたこと以外は、(A1-1a)の合成工程と同様にすることで、下記式(6)のように、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2a)を合成した(Mn=2.5×10^(5)、Mw=5.0×10^(5))。また、H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量は0.130モル%であった。
【0162】
【化6】
【0163】
[合成スキーム4:ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2b)の合成]
上記(A1-2a)の合成工程において、オクタメチルシクロテトラシロキサンの添加量を73.2g(247mmol)、2,4,6,8-テトラメチル2,4,6,8-テトラビニルシクロテトラシロキサンの添加量を2.61g(7.6mmol)に変えたこと以外は、(A1-2a)の合成工程と同様にすることで、高ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2b)を合成した(Mn=2.5×10^(5)、Mw=5.4×10^(5))。また、H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量は2.826モル%であった。」

(本m)「【0164】
<シリコーンゴム系硬化性組成物の調製>
(試験例1?5)
下記の表1に示す割合で、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)、シランカップリング剤(D)および水(F)の混合物を予め混練し、その後、混合物にシリカ粒子(C)を加えてさらに混練し、混練物(シリコーンゴムコンパウンド)を得た。
ここで、シリカ粒子(C)添加後の混練は、カップリング反応のために窒素雰囲気下、60?90℃の条件下で1時間混練する第1ステップと、副生成物(アンモニア)の除去のために減圧雰囲気下、160?180℃の条件下で2時間混練する第2ステップとを経ることで行い、その後、冷却し、20分間混練した。
続いて、得られた混練物(シリコーンゴムコンパウンド)100重量部に、下記の表1に示す割合で、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)(TC-25D)および白金または白金化合物(E)(TC-25A)を加えて、ロールで混練し、シリコーンゴム系硬化性組成物を得た。
【0165】
【表1】


【0166】
<デマチャ式耐屈曲試験>
得られたシリコーンゴム系硬化性組成物について、下記の手順で測定されるデマチャ式耐屈曲試験を行い、屈曲回数が1万回、3万回、5万回のときの試験片における切り込み長さを測定した。評価結果を表2に示す。
【0167】
(試験片の作成)
JIS K 6260に準拠して、得られたシリコーンゴム系硬化性組成物を図1に示す金型10の成形空間30中に入れ、170℃、10MPaで15分間プレスし、続いて、200℃で4時間加熱して、溝60付きの短冊状の試験片50(幅:25mm、長さ:150mm、厚み:6.3mm)を作製した。得られた試験片50の溝60の中央において、幅方向に対して平行に、刃を用いて、長さ:2.03mmの切り込み70を入れ、切り込み付きの試験片50を得た(図2)。切り込み70は、試験片50を厚み方向に貫通するものであった。
【0168】
図1(a)は、金型10の上面図、図1(b)は、金型10のA-A矢視の側面断面図を表す。金型10は、成形空間30の底面に曲面状の凸部20を備える。
また、図2(a)は、切り込み70が形成された溝60付きの試験片50の上面図、図2(b)は、試験片50のB-B矢視の側面断面図を表す。
【0169】
(手順)
図3に示すように、試験機100(デマチャ屈曲き裂試験機)の固定つかみ具102と可動つかみ具104との間に、上記(試験片の作成)で得られた試験片50を保持させた。
具体的には、2つのつかみ具間距離を最大にし、つかみ具間の中心に試験片50の溝60の中心が位置するように、試験片50をつかみ具に取り付けた。このとき、試験片50を、余分なひずみを与えないように平面状に保持させた。
続いて、下記の試験条件に基づいて、固定つかみ具102を基準に、可動つかみ具104を上下方向に往復運動させた。可動つかみ具104が、最大距離から往復運動距離まで固定つかみ具102に近づき(試験片50が屈曲し)、その後、可動つかみ具104が最大距離まで離れる(試験片50が平面状)まで、を1往復運動(1サイクル)とし、そのサイクルの回数(回)を屈曲回数とした。
屈曲回数が1万回、3万回、5万回のときの試験片50における切り込み70の長さ(mm)を、デジタルノギス(ミツトヨ社製)を用いて測定した。
なお、切り込み70の長さは、上記デマチャ式耐屈曲試験を3回行って測定された、3つの測定値の平均値とした。結果を表2に示す。
切り込み長さ変化率を式:L_(5)/L_(0)に基づいて算出した。
L_(0)は、デマチャ式耐屈曲試験前の初期の切り込み長さとし、L_(1)、L_(3)、L_(5)は、それぞれ、デマチャ式耐屈曲試験後、屈曲回数が1万回、3万回、5万回のときの切り込み長さの平均値とした。
【0170】
(試験条件)
・試験規格:JIS K 6260(2017)準拠
・試験機:低温槽付きデマチャ屈曲き裂試験機(安田製作所製)
・試験温度:23±2℃
・つかみ具間最大距離:75mm(図3中のDmax)
・往復運動距離:57mm(図3中のDmv)
・状態調節:1回目の試験開始前、23℃10分静置した。2回目、3回目の試験開始前、同じ条件の環境中に5分間静置した。
・試験速度:300±10回/分
・試験数:n=3
【0171】
上記<デマチャ式耐屈曲試験>において、屈曲回数が1万回、3万回、5万回のときの試験片が破断した場合は25.0mmとした。
【0172】
【表2】


【0173】
得られた切り込み長さの結果を踏まえ、試験例1,2,3を実施例1,2,3とし、試験例4,5を比較例1,2とした。
【0174】
得られた各実施例・各比較例のシリコーンゴム系硬化性組成物について、以下の評価項目に基づいて評価を行った。」

(本n)「【0175】
<シリコーンゴムの作製>
得られたシリコーンゴム系硬化性組成物を、170℃、10MPaで15分間プレスし、厚さ1mmのシート状に成形すると共に、1次硬化した。続いて、200℃で4時間加熱し、2次硬化した。
以上により、シート状シリコーンゴム(シリコーンゴム系硬化性組成物の硬化物)を得た。
【0176】
硬度については、2つのサンプルを用いて、各サンプルでn=5で測定を行い、計10個の測定の平均値を測定値とした。引張応力、破断伸びについては、3つのサンプルで行い、3つの平均値を測定値とした。引裂強度については、5つのサンプルで行い、5つの平均値を測定値とした。
それぞれの平均値を表2に示す。
【0177】
(硬度)
得られた厚さ1mmのシート状シリコーンゴムを6枚積層し、6mmの試験片を作製した。得られた試験片に対して、25℃において、JIS K6253(1997)に準拠してタイプAデュロメータ硬さを測定した。
【0178】
(引裂強度)
得られた厚さ1mmのシート状シリコーンゴムを用いて、JIS K6252(2001)に準拠して、クレセント形試験片を作製し、25℃で、得られたクレセント形試験片の引裂強度を測定した。単位は、N/mmである。
【0179】
(引張強度)
得られた厚さ1mmのシート状シリコーンゴムを用いて、JIS K6251(2004)に準拠して、ダンベル状3号形試験片を作製し、25℃で、得られたダンベル状3号形試験片の引張強度を測定した。単位はMPaである。
【0180】
(破断伸び)
得られた厚さ1mmのシート状シリコーンゴムを用いて、JIS K6251(2004)に準拠して、ダンベル状3号形試験片を作製し、25℃で、得られたダンベル状3号形試験片の破断伸びを測定した。破断伸びは、[チャック間移動距離(mm)]÷[初期チャック間距離(60mm)]×100で計算した。単位は%である。
【0181】
(耐久性の評価)
各実施例および各比較例で得られたシリコーンゴム系硬化性組成を用いて、170℃で5分、200℃で4時間の条件で硬化し、厚み:1mm×内径:2mmを有する筒状部材(チューブ)を作成した。得られた筒状部材にスチール針金(TRUSCO製 スチール針金 小巻タイプ 線径1.6mm×15m)を挿入した耐久性試験サンプルを準備して、耐久試験を行った。具体的には、耐久性試験サンプルの90°曲げ試験を100回繰り返して実施し、耐久性を判断した。試験後に外観異常がなかった筒状部材を○、試験後に亀裂や破損があるものを×とした。
【0182】
実施例1?3のシリコーンゴム系硬化性組成物は、比較例1、2と比べて、その硬化物が繰り返し屈曲変形に対する耐久性に優れることが分かった。このような実施例1?3のシリコーンゴム系硬化性組成物の成形体は、屈曲性部材、好ましくはウェアラブルデバイス、より好ましくはウェアラブルデバイスの基板に好適に用いることができる。」

2 引用文献に記載された事項
本願の出願前である平成30年6月14日に頒布された刊行物である特開2018-90774号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(引1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS K6251(2004)に準拠して測定される室温25℃での、
50%伸張時における引張応力M50が、0.05MPa以上1.5MPa以下であり、
100%伸張時における引張応力M100が、0.1MPa以上2.0MPa以下であり、
600%伸張時における引張応力M600が、1.5MPa以上7.0MPa以下であり、
JIS K6251(2004)に準拠して測定される破断エネルギーが、1J以上5J以下である、樹脂製可動部材。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂製可動部材であって、
JIS K6251(2004)に準拠して測定される引張強度が、5.0MPa以上15MPa以下である、樹脂製可動部材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の樹脂製可動部材であって、
JIS K6252(2001)に準拠して測定される引裂強度が、25N/mm以上である、樹脂製可動部材。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の樹脂製可動部材であって、
JIS K6253(1997)に準拠して規定されるデュロメータ硬さAが、50以下である、樹脂製可動部材。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の樹脂製可動部材であって、
無機充填材を含む、樹脂製可動部材。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の樹脂製可動部材を備える、構造体。」

(引1b)「【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製可動部材および構造体に関する。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討したところ、上記文献1に記載の医療用チューブを構成するポリブタジエンは、小さな変形から大きな変形までの応力が小さく、屈曲や伸張などの変形が容易となる変形容易性、および繰り返しの変形に耐えられる耐久性の点において、改善の余地を有していることが判明した。また、医療用チューブ以外の医療器具・機器、産業用ロボット、電子機器等の可動部に適用した場合にも、このような変形容易性および耐久性において改善の余地があった。
・・・
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、変形容易性および耐久性に優れる樹脂製可動部材および構造体が提供される。
【発明を実施するための形態】
・・・
【0012】
本実施形態によれば、変形容易性および耐久性に優れる樹脂製可動部材および、かかる樹脂製可動部材を備える構造体を実現できる。
・・・
【0015】
本実施形態の樹脂製可動部材は、電子機器用途の一例として、例えば、人間の身体等に着用可能なウェアラブルデバイスに用いられる、伸縮性を有する配線あるいは配線基板;光ファイバー、フラットケーブル、配線構造体、ケーブルガイド等のケーブル;タッチパネル、力覚センサー、MEMS、座席センサー等のセンサー;等の一部を構成することができる。」

(引1c)「【0031】
以下、本実施形態の樹脂製可動部材の一例として、上記シリコーンゴムとして、シリコーンゴム系硬化性組成物を用いた場合について説明する。樹脂製可動部材は、シリコーンゴム系硬化性組成物の硬化物で構成されていてもよい。
【0032】
本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物は、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)を含むことができる。ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)は、本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物の主成分となる重合物である。
【0033】
上記ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)は、直鎖構造を有するビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)を含むことができる。
【0034】
上記ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)は、直鎖構造を有し、かつ、ビニル基を含有しており、かかるビニル基が硬化時の架橋点となる。
【0035】
ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)のビニル基の含有量は、特に限定されないが、例えば、分子内に2個以上のビニル基を有し、かつ15モル%以下であるのが好ましく、0.01?12モル%であるのがより好ましい。これにより、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)中におけるビニル基の量が最適化され、後述する各成分とのネットワークの形成を確実に行うことができる。本実施形態において、「?」は、その両端の数値を含むことを意味する。
【0036】
なお、本明細書中において、ビニル基含有量とは、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)を構成する全ユニットを100モル%としたときのビニル基含有シロキサンユニットのモル%である。ただし、ビニル基含有シロキサンユニット1つに対して、ビニル基1つであると考える。
【0037】
また、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)の重合度は、特に限定されないが、例えば、好ましくは1000?10000程度、より好ましくは2000?5000程度の範囲内である。なお、重合度は、例えばクロロホルムを展開溶媒としたGPC(ゲル透過クロマトグラフィー)におけるポリスチレン換算の数平均重合度(又は数平均分子量)等として求めることができる。
【0038】
さらに、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)の比重は、特に限定されないが、0.9?1.1程度の範囲であるのが好ましい。
【0039】
ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)として、上記のような範囲内の重合度および比重を有するものを用いることにより、得られるシリコーンゴムの耐熱性、難燃性、化学的安定性等の向上を図ることができる。
【0040】
ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)としては、特に、下記式(1)で表される構造を有するものであるが好ましい。
・・・
【0042】
式(1)中、R^(1)は炭素数1?10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1?10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1?10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基等が挙げられ、中でも、ビニル基が好ましい。炭素数1?10のアリール基としては、例えば、フェニル基等が挙げられる。
【0043】
また、R^(2)は炭素数1?10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1?10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1?10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基が挙げられる。炭素数1?10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0044】
また、R^(3)は炭素数1?8の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1?8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1?8のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0045】
さらに、式(1)中のR^(1)およびR^(2)の置換基としては、例えば、メチル基、ビニル基等が挙げられ、R^(3)の置換基としては、例えば、メチル基等が挙げられる。
【0046】
なお、式(1)中、複数のR^(1)は互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。さらに、R^(2)、およびR^(3)についても同様である。
【0047】
さらに、m、nは、式(1)で表されるビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)を構成する繰り返し単位の数であり、mは0?2000の整数、nは1000?10000の整数である。mは、好ましくは0?1000であり、nは、好ましくは2000?5000である。
【0048】
また、式(1)で表されるビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)の具体的構造としては、例えば下記式(1-1)で表されるものが挙げられる。
・・・
【0050】
式(1-1)中、R^(1)およびR^(2)は、それぞれ独立して、メチル基またはビニル基であり、少なくとも一方がビニル基である。
【0051】
さらに、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)としては、ビニル基含有量が分子内に2個以上のビニル基を有し、かつ0.4モル%以下である第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)と、ビニル基含有量が0.5?15モル%である第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)とを含有するものであるのが好ましい。シリコーンゴムの原料である生ゴムとして、一般的なビニル基含有量を有する第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)と、ビニル基含有量が高い第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)とを組み合わせることで、ビニル基を偏在化させることができ、シリコーンゴムの架橋ネットワーク中に、より効果的に架橋密度の疎密を形成することができる。その結果、より効果的にシリコーンゴムの引裂強度を高めることができる。
【0052】
具体的には、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)として、例えば、上記式(1-1)において、R^(1)がビニル基である単位および/またはR^(2)がビニル基である単位を、分子内に2個以上有し、かつ0.4モル%以下を含む第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)と、R^(1)がビニル基である単位および/またはR^(2)がビニル基である単位を、0.5?15モル%含む第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)とを用いるのが好ましい。
【0053】
また、第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)は、ビニル基含有量が0.01?0.2モル%であるのが好ましい。また、第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)は、ビニル基含有量が、0.8?12モル%であるのが好ましい。
【0054】
さらに、第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)と第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)とを組み合わせて配合する場合、(A1-1)と(A1-2)の比率は特に限定されないが、例えば、重量比で(A1-1):(A1-2)が50:50?95:5であるのが好ましく、80:20?90:10であるのがより好ましい。
【0055】
なお、第1および第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)および(A1-2)は、それぞれ1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
また、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)は、分岐構造を有するビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサン(A2)を含んでもよい。」

(引1d)「【0057】
<<オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)>>
本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物は、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)を含むことができる。
オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)は、直鎖構造を有する直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と分岐構造を有する分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)とに分類され、これらのうちのいずれか一方または双方を含むことができる。
【0058】
直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、直鎖構造を有し、かつ、Siに水素が直接結合した構造(≡Si-H)を有し、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)のビニル基の他、シリコーンゴム系硬化性組成物に配合される成分が有するビニル基とヒドロシリル化反応し、これらの成分を架橋する重合体である。
【0059】
直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)の分子量は特に限定されないが、例えば、重量平均分子量が20000以下であるのが好ましく、1000以上、10000以下であることがより好ましい。
【0060】
なお、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)の重量平均分子量は、例えばクロロホルムを展開溶媒としたGPC(ゲル透過クロマトグラフィー)におけるポリスチレン換算により測定することができる。
【0061】
また、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、通常、ビニル基を有しないものであるのが好ましい。これにより、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)の分子内において架橋反応が進行するのを的確に防止することができる。
【0062】
以上のような直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)としては、例えば、下記式(2)で表される構造を有するものが好ましく用いられる。
・・・
【0064】
式(2)中、R^(4)は炭素数1?10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、これらを組み合わせた炭化水素基、またはヒドリド基である。炭素数1?10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1?10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基等が挙げられる。炭素数1?10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0065】
また、R^(5)は炭素数1?10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、これらを組み合わせた炭化水素基、またはヒドリド基である。炭素数1?10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1?10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基等が挙げられる。炭素数1?10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0066】
なお、式(2)中、複数のR^(4)は互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。R^(5)についても同様である。ただし、複数のR^(4)およびR^(5)のうち、少なくとも2つ以上がヒドリド基である。
【0067】
また、R^(6)は炭素数1?8の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1?8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1?8のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。複数のR^(6)は互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。
【0068】
なお、式(2)中のR^(4),R^(5),R^(6)の置換基としては、例えば、メチル基、ビニル基等が挙げられ、分子内の架橋反応を防止する観点から、メチル基が好ましい。
【0069】
さらに、m、nは、式(2)で表される直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)を構成する繰り返し単位の数であり、mは2?150整数、nは2?150の整数である。好ましくは、mは2?100の整数、nは2?100の整数である。
【0070】
なお、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、分岐構造を有するため、架橋密度が高い領域を形成し、シリコーンゴムの系中の架橋密度の疎密構造形成に大きく寄与する成分である。また、上記直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)同様、Siに水素が直接結合した構造(≡Si-H)を有し、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)のビニル基の他、シリコーンゴム系硬化性組成物に配合される成分のビニル基とヒドロシリル化反応し、これら成分を架橋する重合体である。
【0072】
また、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)の比重は、0.9?0.95の範囲である。
【0073】
さらに、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、通常、ビニル基を有しないものであるのが好ましい。これにより、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)の分子内において架橋反応が進行するのを的確に防止することができる。【0074】 また、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)としては、下記平均組成式(c)で示されるものが好ましい。
【0075】
平均組成式(c) (H_(a)(R^(7))_(3-a)SiO_(1/2))m(SiO_(4/2))n(式(c)において、R7は一価の有機基、aは1?3の範囲の整数、mはH_(a)(R^(7))_(3-a)SiO_(1/2)単位の数、nはSiO_(4/2)単位の数である)
【0076】
式(c)において、R^(7)は一価の有機基であり、好ましくは、炭素数1?10の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1?10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1?10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0077】
式(c)において、aは、ヒドリド基(Siに直接結合する水素原子)の数であり、1?3の範囲の整数、好ましくは1である。
【0078】
また、式(c)において、mはH_(a)(R^(7))_(3-a)SiO_(1/2)単位の数、nはSiO_(4/2)単位の数である。
【0079】
分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は分岐状構造を有する。直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、その構造が直鎖状か分岐状かという点で異なり、Siの数を1とした時のSiに結合するアルキル基Rの数(R/Si)が、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)では1.8?2.1、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)では0.8?1.7の範囲となる。
【0080】
なお、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、分岐構造を有しているため、例えば、窒素雰囲気下、1000℃まで昇温速度10℃/分で加熱した際の残渣量が5%以上となる。これに対して、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、直鎖状であるため、上記条件で加熱した後の残渣量はほぼゼロとなる。
【0081】
また、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)の具体例としては、下記式(3)で表される構造を有するものが挙げられる。
・・・
【0083】
式(3)中、R^(7)は炭素数1?8の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基、もしくは水素原子である。炭素数1?8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1?8のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。R^(7)の置換基としては、例えば、メチル基等が挙げられる。
【0084】
なお、式(3)中、複数のR^(7)は互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。
【0085】
また、式(3)中、「-O-Si≡」は、Siが三次元に広がる分岐構造を有することを表している。
【0086】
なお、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0087】
また、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)において、Siに直接結合する水素原子(ヒドリド基)の量は、それぞれ、特に限定されない。ただし、シリコーンゴム系硬化性組成物において、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)中のビニル基1モルに対し、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)の合計のヒドリド基量が、0.5?5モルとなる量が好ましく、1?3.5モルとなる量がより好ましい。これにより、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)および分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)と、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)との間で、架橋ネットワークを確実に形成させることができる。」

(引1e)「【0088】
<<シリカ粒子(C)>>
本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物は、シリカ粒子(C)を含むことができる。
【0089】
シリカ粒子(C)としては、特に限定されないが、例えば、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ等が用いられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0090】
シリカ粒子(C)は、例えば、BET法による比表面積が例えば50?400m^(2)/gであるのが好ましく、100?400m^(2)/gであるのがより好ましい。また、その平均一次粒径が例えば1?100nmであるのが好ましく、5?20nm程度であるのがより好ましい。
【0091】
シリカ粒子(C)として、かかる比表面積および平均粒径の範囲内であるものを用いることにより、形成されるシリコーンゴムの硬さや機械的強度の向上、特に引張強度の向上をさせることができる。」

(引1f)「<<シランカップリング剤(D)>>
本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物は、シランカップリング剤(D)を含むことができる。
シランカップリング剤(D)は、加水分解性基を有することができる。加水分解基が水により加水分解されて水酸基になり、この水酸基がシリカ粒子(C)表面の水酸基と脱水縮合反応することで、シリカ粒子(C)の表面改質を行うことができる。
【0093】
また、このシランカップリング剤(D)は、疎水性基を有するシランカップリング剤を含むことができる。これにより、シリカ粒子(C)の表面にこの疎水性基が付与されるため、シリコーンゴム系硬化性組成物中ひいてはシリコーンゴム中において、シリカ粒子(C)の凝集力が低下(シラノール基による水素結合による凝集が少なくなる)し、その結果、シリコーンゴム系硬化性組成物中のシリカ粒子の分散性が向上すると推測される。これにより、シリカ粒子とゴムマトリックスとの界面が増加し、シリカ粒子の補強効果が増大する。さらに、ゴムのマトリックス変形の際、マトリックス内でのシリカ粒子の滑り性が向上すると推測される。そして、シリカ粒子(C)の分散性の向上及び滑り性の向上によって、シリカ粒子(C)によるシリコーンゴムの機械的強度(例えば、引張強度や引裂強度など)が向上する。
【0094】
さらに、シランカップリング剤(D)は、ビニル基を有するシランカップリング剤を含むことができる。これにより、シリカ粒子(C)の表面にビニル基が導入される。そのため、シリコーンゴム系硬化性組成物の硬化の際、すなわち、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)が有するビニル基と、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)が有するヒドリド基とがヒドロシリル化反応して、これらによるネットワーク(架橋構造)が形成される際に、シリカ粒子(C)が有するビニル基も、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)が有するヒドリド基とのヒドロシリル化反応に関与するため、ネットワーク中にシリカ粒子(C)も取り込まれるようになる。これにより、形成されるシリコーンゴムの低硬度化および高モジュラス化を図ることができる。
【0095】
シランカップリング剤(D)としては、疎水性基を有するシランカップリング剤およびビニル基を有するシランカップリング剤を併用することができる。
【0096】
シランカップリング剤(D)としては、例えば、下記式(4)で表わされるものが挙げられる。
【0097】
Y_(n)-Si-(X)_(4-n)・・・(4)
上記式(4)中、nは1?3の整数を表わす。Yは、疎水性基、親水性基またはビニル基を有するもののうちのいずれかの官能基を表わし、nが1の時は疎水性基であり、nが2または3の時はその少なくとも1つが疎水性基である。Xは、加水分解性基を表わす。
【0098】
疎水性基は、炭素数1?6のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基等が挙げられ、中でも、特に、メチル基が好ましい。
【0099】
また、親水性基は、例えば、水酸基、スルホン酸基、カルボキシル基またはカルボニル基等が挙げられ、中でも、特に、水酸基が好ましい。なお、親水性基は、官能基として含まれていてもよいが、シランカップリング剤(D)に疎水性を付与するという観点からは含まれていないのが好ましい。
【0100】
さらに、加水分解性基は、メトキシ基、エトキシ基のようなアルコキシ基、クロロ基またはシラザン基等が挙げられ、中でも、シリカ粒子(C)との反応性が高いことから、シラザン基が好ましい。なお、加水分解性基としてシラザン基を有するものは、その構造上の特性から、上記式(4)中の(Yn-Si-)の構造を2つ有するものとなる。
【0101】
上記式(4)で表されるシランカップリング剤(D)の具体例は、例えば、官能基として疎水性基を有するものとして、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシランのようなアルコキシシラン;メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシランのようなクロロシラン;ヘキサメチルジシラザンが挙げられ、官能基としてビニル基を有するものとして、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシランのようなアルコキシシラン;ビニルトリクロロシラン、ビニルメチルジクロロシランのようなクロロシラン;ジビニルテトラメチルジシラザンが挙げられるが、中でも、上記記載を考慮すると、特に、疎水性基を有するものとしてはヘキサメチルジシラザン、ビニル基を有するものとしてはジビニルテトラメチルジシラザンであるのが好ましい。」

(引1g)「【0102】
<<白金または白金化合物(E)>>
本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物は、白金または白金化合物(E)を含むことができる。
白金または白金化合物(E)は、硬化の際の触媒として作用する触媒成分である。白金または白金化合物(E)の添加量は触媒量である。
【0103】
白金または白金化合物(E)としては、公知のものを使用することができ、例えば、白金黒、白金をシリカやカーボンブラック等に担持させたもの、塩化白金酸または塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸とオレフィンの錯塩、塩化白金酸とビニルシロキサンとの錯塩等が挙げられる。
【0104】
なお、白金または白金化合物(E)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。」

(引1h)「【0105】
<<水(F)>>
また、本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物には、上記成分(A)?(E)以外に、水(F)が含まれていてもよい。
【0106】
水(F)は、シリコーンゴム系硬化性組成物に含まれる各成分を分散させる分散媒として機能するとともに、シリカ粒子(C)とシランカップリング剤(D)との反応に寄与する成分である。そのため、シリコーンゴム中において、シリカ粒子(C)とシランカップリング剤(D)とを、より確実に互いに連結したものとすることができ、全体として均一な特性を発揮することができる。」

(引1i)「【0107】
さらに、本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物は、上記(A)?(F)成分の他、シリコーンゴム系硬化性組成物に配合される公知の添加成分を含有していてもよい。例えば、珪藻土、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化セリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、ガラスウール、マイカ等が挙げられる。その他、分散剤、顔料、染料、帯電防止剤、酸化防止剤、難燃剤、熱伝導性向上剤等を適宜配合することができる。
【0108】
なお、シリコーンゴム系硬化性組成物において、各成分の含有割合は特に限定されないが、例えば、以下のように設定される。
【0109】
本実施形態において、シリカ粒子(C)の含有量の上限値は、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)の合計量100重量部に対し、例えば、60重量部以下でもよく、好ましくは50重量部以下でもよく、さらに好ましくは35重量部以下でもよい。これにより、引裂強度、引張永久ひずみのバランスを図ることができる。また、シリカ粒子(C)の含有量の下限値は、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)の合計量100重量部に対し、特に限定されないが、例えば、20重量部以上でもよい。
【0110】
シランカップリング剤(D)は、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)100重量部に対し、例えば、シランカップリング剤(D)が5重量部以上100重量部以下の割合で含有するのが好ましく、5重量部以上40重量部以下の割合で含有するのがより好ましい。
これにより、シリカ粒子(C)のシリコーンゴム系硬化性組成物中における分散性を確実に向上させることができる。
【0111】
オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)の含有量は、具体的にビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)及びシリカ粒子(C)及びシランカップリング剤(D)の合計量100重量部に対して、例えば、0.5重量部以上20重量部以下の割合で含有することが好ましく、0.8重量部以上15重量部以下の割合で含有するのがより好ましい。(B)の含有量が前記範囲内であることで、より効果的な硬化反応ができる可能性がある。
【0112】
白金または白金化合物(E)の含有量は、触媒量を意味し、適宜設定することができるが、具体的にビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)、シリカ粒子(C)、シランカップリング剤(D)の合計量に対して、本成分中の白金族金属が重量単位で0.01?1000ppmとなる量であり、好ましくは、0.1?500ppmとなる量である。白金または白金化合物(E)の含有量を上記下限値以上とすることにより、得られるシリコーンゴム組成物を十分硬化させることができる。白金または白金化合物(E)の含有量を上記上限値以下とすることにより、得られるシリコーンゴム組成物の硬化速度を向上させることができる。
【0113】
さらに、水(F)を含有する場合、その含有量は、適宜設定することができるが、具体的には、シランカップリング剤(D)100重量部に対して、例えば、10?100重量部の範囲であるのが好ましく、30?70重量部の範囲であるのがより好ましい。これにより、シランカップリング剤(D)とシリカ粒子(C)との反応をより確実に進行させることができる。」

(引1j)「【0114】
<シリコーンゴムの製造方法>
次に、本実施形態のシリコーンゴムの製造方法について説明する。
本実施形態のシリコーンゴムの製造方法としては、シリコーンゴム系硬化性組成物を調製し、このシリコーンゴム系硬化性組成物を硬化させることによりシリコーンゴムを得ることができる。
以下、詳述する。
【0115】
まず、シリコーンゴム系硬化性組成物の各成分を、任意の混練装置により、均一に混合してシリコーンゴム系硬化性組成物を調製する。
【0116】
[1]たとえば、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)と、シリカ粒子(C)と、シランカップリング剤(D)とを所定量秤量し、その後、任意の混練装置により、混練することで、これら各成分(A)、(C)、(D)を含有する混練物を得る。
【0117】
なお、この混練物は、予めビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)とシランカップリング剤(D)とを混練し、その後、シリカ粒子(C)を混練(混合)して得るのが好ましい。これにより、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)中におけるシリカ粒子(C)の分散性がより向上する。
【0118】
また、この混練物を得る際には、水(F)を必要に応じて、各成分(A)、(C)、および(D)の混練物に添加するようにしてもよい。これにより、シランカップリング剤(D)とシリカ粒子(C)との反応をより確実に進行させることができる。
【0119】
さらに、各成分(A)、(C)、(D)の混練は、第1温度で加熱する第1ステップと、第2温度で加熱する第2ステップとを経るようにするのが好ましい。これにより、第1ステップにおいて、シリカ粒子(C)の表面をカップリング剤(D)で表面処理することができるとともに、第2ステップにおいて、シリカ粒子(C)とカップリング剤(D)との反応で生成した副生成物を混練物中から確実に除去することができる。その後、必要に応じて、得られた混練物に対して、成分(A)を添加し、更に混練してもよい。これにより、混練物の成分のなじみを向上させることができる。
【0120】
第1温度は、例えば、40?120℃程度であるのが好ましく、例えば、60?90℃程度であるのがより好ましい。第2温度は、例えば、130?210℃程度であるのが好ましく、例えば、160?180℃程度であるのがより好ましい。
【0121】
また、第1ステップにおける雰囲気は、窒素雰囲気下のような不活性雰囲気下であるのが好ましく、第2ステップにおける雰囲気は、減圧雰囲気下であるのが好ましい。
【0122】
さらに、第1ステップの時間は、例えば、0.3?1.5時間程度であるのが好ましく、0.5?1.2時間程度であるのがより好ましい。第2ステップの時間は、例えば、0.7?3.0時間程度であるのが好ましく、1.0?2.0時間程度であるのがより好ましい。
【0123】
第1ステップおよび第2ステップを、上記のような条件とすることで、前記効果をより顕著に得ることができる。
【0124】
[2]次に、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)と、白金または白金化合物(E)とを所定量秤量し、その後、任意の混練装置を用いて、上記工程[1]で調製した混練物に、各成分(B)、(E)を混練することで、シリコーンゴム系硬化性組成物を得る。得られたシリコーンゴム系硬化性組成物は溶剤を含むペーストであってもよい。
【0125】
なお、この各成分(B)、(E)の混練の際には、予め上記工程[1]で調製した混練物とオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)とを、上記工程[1]で調製した混練物と白金または白金化合物(E)とを混練し、その後、それぞれの混練物を混練するのが好ましい。これにより、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)とオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)との反応を進行させることなく、各成分(A)?(E)をシリコーンゴム系硬化性組成物中に確実に分散させることができる。
【0126】
各成分(B)、(E)を混練する際の温度は、ロール設定温度として、例えば、10?70℃程度であるのが好ましく、25?30℃程度であるのがより好ましい。
【0127】
さらに、混練する時間は、例えば、5分?1時間程度であるのが好ましく、10?40分程度であるのがより好ましい。
【0128】
上記工程[1]および上記工程[2]において、温度を上記範囲内とすることにより、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)とオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)との反応の進行をより的確に防止または抑制することができる。また、上記工程[1]および上記工程[2]において、混練時間を上記範囲内とすることにより、各成分(A)?(E)をシリコーンゴム系硬化性組成物中により確実に分散させることができる。
【0129】
なお、各工程[1]、[2]において使用される混練装置としては、特に限定されないが、例えば、ニーダー、2本ロール、バンバリーミキサー(連続ニーダー)、加圧ニーダー等を用いることができる。
【0130】
また、本工程[2]において、混練物中に1-エチニルシクロヘキサノールのような反応抑制剤を添加するようにしてもよい。これにより、混練物の温度が比較的高い温度に設定されたとしても、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)とオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)との反応の進行をより的確に防止または抑制することができる。
【0131】
[3]次に、シリコーンゴム系硬化性組成物を硬化させることによりシリコーンゴムを形成する。
【0132】
本実施形態において、シリコーンゴム系硬化性樹脂組成物の硬化工程は、例えば、100?250℃で1?30分間加熱(1次硬化)した後、200℃で1?4時間ポストベーク(2次硬化)することによって行われる。
以上のような工程を経ることで、本実施形態のシリコーンゴムが得られる。
【0133】
本発明者が検討した結果以下の知見を得た。シリコーンゴム中のフィラー量を低減させると、硬度を小さくしたり、引張応力を低減することができるが、一方で、引裂強度が低下し、シリコーンゴムの耐久性が低下することが判明した。
【0134】
そこで、鋭意検討した結果、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)などの樹脂組成物を適切に選択することにより、架橋密度や架橋構造の偏在を制御でき、幅広いひずみ領域における低応力や低硬度を実現しつつ、シリコーンゴムの引裂強度を高められることを見出した。また、シリコーンゴムの引張強度も高めることができることが分かった。詳細なメカニズムは定かでないが、高ビニル基含有オルガノポリシロキサンと低ビニル基含有オルガノポリシロキサンの併用により、架橋構造の偏在を制御できるため、硬度を小さくしつつも、シリコーンゴムの引裂強度を高められると考えられる。このように、他の物性を維持しつつも、引裂強度を高めることにより、シリコーンゴムの破断エネルギーを高めることができる。
【0135】
また、本実施形態において、例えば、フィラー量を低減することにより、初期のひずみにおける引張応力を低減しつつも、樹脂の架橋密度や架橋構造の偏在を制御することにより、後期のひずみにおける引張応力を低減することができる。
【0136】
本実施形態では、たとえばシリコーンゴム系硬化性組成物中に含まれる各成分の種類や配合量、シリコーンゴム系硬化性組成物の調製方法やシリコーンゴムの製造方法等を適切に選択することにより、上記引張応力、破断エネルギー、引張強度、引裂強度、硬度を制御することが可能である。これらの中でも、たとえば、低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)と高ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)とを併用すること、末端にビニル基を有するビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)を使用することにより樹脂の架橋密度や架橋構造の偏在を制御すること、また、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)の添加タイミング、シリカ粒子(C)の配合比率、シリカ粒子(C)のシランカップリング剤(D)で表面改質をすること、水を添加すること等のシランカップリング剤(D)とシリカ粒子(C)との反応をより確実に進行させること等が、上記引張応力、破断エネルギー、引張強度、引裂強度、硬度を所望の数値範囲とするための要素として挙げられる。」

(引1k)「【0137】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0138】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0139】
表1に示す実施例および比較例で用いた原料成分を以下に示す。
(ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A))
低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1a):合成スキーム1により合成した鎖内ビニル基含有ジメチルポリシロキサン(式(1-1)で表わされる構造でR^(2)(鎖内)のみがビニル基である構造)
低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1b):合成スキーム2により合成した末端ビニル基含有ジメチルポリシロキサン(式(1-1)で表わされる構造でR^(1)(末端)のみがビニル基である構造)
高ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2a):合成スキーム3により合成したビニル基含有ジメチルポリシロキサン(式(1-1)で表わされる構造でR^(1)およびR^(2)がビニル基である構造)
【0140】
(オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B))
オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B):モメンティブ社製、「TC-25D」
(シリカ粒子(C))
シリカ粒子(C):シリカ微粒子(粒径7nm、比表面積300m^(2)/g)、日本アエロジル社製、「AEROSIL300」
(シランカップリング剤(D))
シランカップリング剤(D-1):ヘキサメチルジシラザン(HMDZ)、Gelst社製、「HEXAMETHYLDISILAZANE(SIH6110.1)」
シランカップリング剤(D-2):ジビニルテトラメチルジシラザン、Gelst社製、「1,3-DIVINYLTETRAMETHYLDISILAZANE(SID4612.0)」
(白金または白金化合物(E))
白金または白金化合物(E):白金化合物、モメンティブ社製、「TC-25A」」

(引1l)「【0141】
(ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)の合成)
[合成スキーム1:低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1a)の合成]
下記式(6)にしたがって、低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1a)を合成した。
すなわち、Arガス置換した、冷却管および攪拌翼を有する300mLセパラブルフラスコに、オクタメチルシクロテトラシロキサン74.7g(252mmol)、2,4,6,8-テトラメチル2,4,6,8-テトラビニルシクロテトラシロキサン0.086g(0.25mmol)およびカリウムシリコネート0.1gを入れ、昇温し、120℃で30分間攪拌した。なお、この際、粘度の上昇が確認できた。
その後、155℃まで昇温し、3時間攪拌を続けた。そして、3時間後、ヘキサメチルジシロキサン0.1g(0.6mmol)を添加し、さらに、155℃で4時間攪拌した。
さらに、4時間後、トルエン250mLで希釈した後、水で3回洗浄した。洗浄後の有機層をメタノール1.5Lで数回洗浄することで、再沈精製し、オリゴマーとポリマーを分離した。得られたポリマーを60℃で一晩減圧乾燥し、低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1a)を得た(Mn=2,5×10^(5)、Mw=5,0×10^(5))。また、H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量は0.18モル%であった。
・・・
【0143】
[合成スキーム2:低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1b)の合成]
上記(A1-1a)の合成工程において、2,4,6,8-テトラメチル2,4,6,8-テトラビニルシクロテトラシロキサンを用いず、ヘキサメチルジシロキサンの代わりに1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン0.1g(0.6mmol)を用いたこと以外は、(A1-1a)の合成工程と同様にして、下記式(7)にしたがって、低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1b)を得た。(Mn=2,2×10^(5)、Mw=4,8×10^(5))。また、H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量は0.04モル%であった。
・・・
【0145】
[合成スキーム3:高ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2a)の合成]
上記(A1-1a)の合成工程において、2,4,6,8-テトラメチル2,4,6,8-テトラビニルシクロテトラシロキサンを、0.86g(2.5mmol)を用い、ヘキサメチルジシロキサンの代わりに1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン0.1g(0.6mmol)を用いたこと以外は、(A1-1a)の合成工程と同様にすることで、下記式にしたがって、高ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2a)を合成した。(Mn=2,3×10^(5)、Mw=5,0×10^(5))。また、H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量は0.93モル%であった。
・・・」

(引1m)「【0146】
(シリコーンゴム系硬化性組成物の調製)
実施例および比較例において、次のようにしてシリコーンゴム系硬化性組成物を調整した。まず、表1に示す割合で、95%のビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)およびシランカップリング剤(D)および水(F)の混合物を予め混練し、その後、混合物にシリカ粒子(C)を加えてさらに混練し、混練物(シリコーンゴムコンパウンド)を得た。
ここで、シリカ粒子(C)添加後の混練は、カップリング反応のために窒素雰囲気下、60?90℃の条件下で1時間混練する第1ステップと、副生成物(アンモニア)の除去のために減圧雰囲気下、160?180℃の条件下で2時間混練する第2ステップとを経ることで行い、その後、冷却し、残り5%のビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)を2回に分けて添加し、20分間混練した。
続いて、得られた混練物(シリコーンゴムコンパウンド)に、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)および白金または白金化合物(E)を加えて、ロールで混練し、シリコーンゴム系硬化性組成物を得た。
【0147】
以下、得られた各実施例および各比較例のシリコーンゴム系硬化性組成物について、次のような評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0148】
【表1】



(引1n)「【0149】
(シリコーンゴムの作製)
得られたシリコーンゴム系硬化性組成物を、150℃、10MPaで20分間プレスし、厚さ1mmのシート状に成形すると共に、1次硬化した。続いて、200℃で4時間加熱し、2次硬化した。以上により、シート状シリコーンゴム(シリコーンゴム系硬化性組成物の硬化物)を得た。得られたシート状シリコーンゴムに対して、下記の評価を行った。評価結果を表1に示す。引張応力、破断エネルギー、引張強度については、3つのサンプルで行い、3つの平均値を測定値とした。また、引裂強度については、5つのサンプルで行い、5つの平均値を測定値とした。さらに、硬度については、2つのサンプルを用いて、各サンプルでn=5で測定を行い10測定の平均値を測定値とした。それぞれに対して、その平均値を表1に示す。
【0150】
(引張応力)
得られた厚さ1mmのシート状シリコーンゴムを用いて、JIS K6251(2004)に準拠して、ダンベル状3号形試験片を作製し、得られたダンベル状3号形試験片の、室温25℃での、50%伸張時における引張応力M_(50)、100%伸張時における引張応力M_(100)、および600%伸張時における引張応力M_(600)を測定した。単位はMPaである。
【0151】
(破断エネルギー)
得られた厚さ1mmのシート状シリコーンゴムを用いて、JIS K6251(2004)に準拠して、ダンベル状3号形試験片を作製し、得られたダンベル状3号形試験片の破断エネルギーを測定した。単位はJである。
【0152】
(引張強度)
得られた厚さ1mmのシート状シリコーンゴムを用いて、JIS K6251(2004)に準拠して、ダンベル状3号形試験片を作製し、得られた試験片の引張強度を測定した。単位は、MPaである。
【0153】
(引裂強度)
得られた厚さ1mmのシート状シリコーンゴムを用いて、JIS K6252(2001)に準拠して、クレセント形試験片を作製し、得られたクレセント形試験片の引裂強度を測定した。単位は、N/mmである。
【0154】
(硬度:デュロメータ硬さA)
得られた厚さ1mmのシート状シリコーンゴムを6枚積層し、6mmの試験片を作製した。得られた試験片に対して、JIS K6253(1997)に準拠してタイプAデュロメータ硬さを測定した。
【0155】
(ウエアラブル基板)
各実施例および各比較例で得られたシリコーンゴム系硬化性組成を用いて、170℃で5分、200℃で4時間の条件で硬化し、厚み:0.5mm×長さ:50mm×幅:20mmを有する板状部材(ウエアラブル基板)を作成した。得られた板状部材を指に張り付けて屈曲・伸び試験および耐久試験を行った。具体的には、板状部材を指に張り付けた状態で、指を曲げる試験を実施し、曲げ開始から曲げ終わりまでの指の曲げやすさや曲げ角度によって、板状部材の変形容易性を判断した。指を曲げる試験中、指を曲げる時に負荷を感じない板状部材を◎、指を曲げる時にわずかに負荷を感じる板状部材を○、指を曲げる時に負荷を感じる板状部材を×とした。また、上記指を曲げる試験を繰り返し50回行い、破損の有無によって、板上部材の耐久性を判断した。試験後に外観異常がなかった板状部材を○、試験後に亀裂や破損があるものを×とした。
【0156】
(筒状部材)
各実施例および各比較例で得られたシリコーンゴム系硬化性組成を用いて、170℃で5分、200℃で4時間の条件で硬化し、厚み:0.5mm×内径:20mmを有する筒状部材(チューブ)を作成した。得られた筒状部材を指にはめて屈曲・伸び試験および耐久試験を行った。具体的には、筒状部材をはめた状態で、指を曲げる試験を実施し、曲げ開始から曲げ終わりまでの指の曲げやすさや曲げ角度によって、筒状部材の変形容易性を判断した。指を曲げる試験中、指を曲げる時に負荷を感じない筒状部材を◎、指を曲げる時にわずかに負荷を感じる筒状部材を○、指を曲げる時に負荷を感じる筒状部材を×とした。また、上記指を曲げる試験を繰り返し50回行い、破損の有無によって、筒状部材の耐久性を判断した。試験後に外観異常がなかった筒状部材を○、試験後に亀裂や破損があるものを×とした。
【0157】
以上より、実施例1?15のシリコーンゴム系硬化性組成物で得られた樹脂製可動部材は、比較例3と比較して、変形(ひずみ)開始時における初期ひずみに対する初期変形容易性に優れていることが分かった。また、実施例1?15の樹脂製可動部材は、繰り返し使用時における耐久性に優れることが分かった。また、実施例1?15のシリコーンゴム系硬化性組成物で得られた樹脂製可動部材は、比較例1?3と比べて、ひずみが大きい場合でも変形が容易となるため、変形容易性に優れることが分かった。したがって、各実施例の樹脂製可動部材は、各種の器具や機器の可動部を構成する可動部材として適することが分かった。」


第5 当審の判断
1 引用文献1に記載された発明
引用文献1の上記(引1m)の段落【0146】には、
「表1に示す割合で、95%のビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)およびシランカップリング剤(D)および水(F)の混合物を予め混練し、その後、混合物にシリカ粒子(C)を加えてさらに混練し、混練物(シリコーンゴムコンパウンド)を得た。
ここで、シリカ粒子(C)添加後の混練は、カップリング反応のために窒素雰囲気下、60?90℃の条件下で1時間混練する第1ステップと、副生成物(アンモニア)の除去のために減圧雰囲気下、160?180℃の条件下で2時間混練する第2ステップとを経ることで行い、その後、冷却し、残り5%のビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)を2回に分けて添加し、20分間混練した。
続いて、得られた混練物(シリコーンゴムコンパウンド)に、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)および白金または白金化合物(E)を加えて、ロールで混練して得た、シリコーンゴム系硬化性組成物」が記載されており、(引1m)の【表1】の配合割合及び(引1k)の各「原料成分」、(引1l)の「低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1b)」の「H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量は0.04モル%であった」ことを参酌して、実施例4に着目すると、

「H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量が0.04モル%である低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1b) 80重量部
高ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2a) 20重量部
からなるビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)および
シランカップリング剤(D-1):ヘキサメチルジシラザン(HMDZ) 10重量部
シランカップリング剤(D-2):ジビニルテトラメチルジシラザン 0.5重量部
からなるシランカップリング剤(D)および
水 5.25重量部
の割合で、95%のビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)及びシランカップリング剤(D)及び水(F)の混合物を予め混練し、その後、混合物に
シリカ微粒子(粒径7nm、比表面積300m^(2)/g) 25重量部
を加えてさらに混練し、混練物(シリコーンゴムコンパウンド)を得て、
ここで、シリカ粒子(C)添加後の混練は、カップリング反応のために窒素雰囲気下、60?90℃の条件下で1時間混練する第1ステップと、副生成物(アンモニア)の除去のために減圧雰囲気下、160?180℃の条件下で2時間混練する第2ステップとを経ることで行い、その後、冷却し、残り5%のビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)を2回に分けて添加し、20分間混練し、続いて、得られた混練物(シリコーンゴムコンパウンド)に、混練物100重量部に対して、
オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B) 2.64重量部
白金または白金化合物(E) 0.5重量部
を加えて、ロールで混練して得た、シリコーンゴム系硬化性組成物」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

2 本願発明と引用発明との対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。

本願発明の「前記ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)が、0.1モル%以下である第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)」について、その「0.1モル%以下」の値は、本願明細書の(本c)の段落【0066】の「ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)は、ビニル基含有量が分子内に2個以上のビニル基を有し、かつ0.1モル%以下である第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)を含むことが好ましい」との記載からみて、「ビニル基含有量」を意図しているものといえる。また、本願明細書の(本l)の段落【0157】、【0160】、【0163】からみて、「ビニル基含有量」は「H-NMRスペクトル測定により算出」されるものであるといえる。
そうすると、引用発明における「H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量が0.04モル%である低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1b)」は、本願発明の「0.1モル%以下である第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)」に相当するといえる。

また、引用発明における「H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量が0.04モル%である低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1b)80重量部、高ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2a)20重量部からなるビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)」は、本願発明1における「ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)」であって「 前記ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)が、0.1モル%以下である第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)を含」むものに相当する。

引用発明における「オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)」は、引用文献1の(引1k)の段落【0140】及び本願明細書の(本1k)の段落【0153】の記載からみて、本願発明における「オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)」に相当するといえる。

引用発明における「シリカ微粒子(粒径7nm、比表面積300m^(2)/g)」は、引用文献1の(引1k)の段落【0140】及び本願明細書の(本k)の段落【0154】の記載からみて、本願発明1における「シリカ粒子(C)」であって「BET法で測定された前記シリカ粒子(C)比表面積が、200m^(2)/g以上500m^(2)/g以下」のものに相当する。
また、引用発明の「シリカ微粒子(粒径7nm、比表面積300m^(2)/g)」は、「H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量が0.04モル%である低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1b)80重量部、高ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2a)20重量部からなるビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)」100重量部に対して、25重量部含有しているから、本願発明と同様に、「ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)の全体100重量部に対して、50重量部以下」の範囲内で含有しているといえる。

引用発明における「シランカップリング剤(D-1):ヘキサメチルジシラザン(HMDZ)」は、引用文献1の(引1f)の段落【0101】、(引1k)の段落【0140】及び本願明細書の(本f)の段落【0111】、【0113】、(本k)の段落【0155】の記載からみて、本願発明の「疎水性基を有するシランカップリング剤(D1)」に相当する。
引用発明における「シランカップリング剤(D-2):ジビニルテトラメチルジシラザン」は、引用文献1の(引1f)の段落【0101】、(引1k)の段落【0140】及び本願明細書の(本f)の段落【0112】、【0113】、(本k)の段落【0155】の記載からみて、本願発明の「ビニル基を有するシランカップリング剤(D2)」に相当する。
また、引用発明の「シランカップリング剤(D-1):ヘキサメチルジシラザン(HMDZ) 10重量部、シランカップリング剤(D-2):ジビニルテトラメチルジシラザン 0.5重量部 からなるシランカップリング剤(D)」は、本願発明の「シランカップリング剤(D)」に相当する。
さらに、引用発明の「シランカップリング剤(D)」は「シランカップリング剤(D-1):ヘキサメチルジシラザン(HMDZ) 10重量部、シランカップリング剤(D-2):ジビニルテトラメチルジシラザン 0.5重量部」であり、重量比にすると1:0.05となるから、本願発明の「(D1)と(D2)との比率(D1):(D2)が、重量比で、1:0.001?1:0.35」の範囲内といえる。

引用発明における「白金または白金化合物(E)」は、引用文献1の(引1k)の段落【0140】及び本願明細書の(本k)の段落【0156】の記載からみて、本願発明の「白金または白金化合物(E)」に相当する。

引用発明の「シリコーンゴム系硬化性組成物」は、(引1n)の段落【0149】、【0152】及び(引1m)の【表1】の結果からみて、「(引張強度の測定条件)当該シリコーンゴム系硬化性組成物の硬化物を用いてダンベル状3号形試験片を作製し、得られたダンベル状3号形試験片について、25℃、JIS K6251(2004)に準拠して、引張強度を測定」した「シリコーンゴム系硬化性組成物の硬化物の引張強度」が「10.4MPa」であるから、本願発明の「下記の条件で測定される、当該シリコーンゴム系硬化性組成物の硬化物の引張強度が、8.3MPa以上・・・(引張強度の測定条件)当該シリコーンゴム系硬化性組成物の硬化物を用いてダンベル状3号形試験片を作製し、得られたダンベル状3号形試験片について、25℃、JIS K6251(2004)に準拠して、引張強度を測定する」のものであるといえる。

引用発明の「シリコーンゴム系硬化性組成物」は、本願発明の「(ただし、下記の特開2018-90774号公報の実施例1に記載のシリコーンゴム系硬化性組成物)」、「(特開2018-90774号公報の実施例1に記載のシリコーンゴム系硬化性組成物)
Mn=2,2×10^(5)、Mw=4,8×10^(5)、H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量は0.04モル%である低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1b) 90重量部、Mn=2,3×10^(5)、Mw=5,0×10^(5)H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量は0.93モル%で高ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2a) 10重量部からなるビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)の95%、シランカップリング剤(D-1):ヘキサメチルジシラザン(HMDZ) 7.5重量部、シランカップリング剤(D-2):ジビニルテトラメチルジシラザン 3.0重量部からなるシランカップリング剤(D)、および水(F) 5.25重量部の混合物を予め混練し、その後、混合物に、シリカ微粒子(粒径7nm、比表面積300m^(2)/g、日本アエロジル社製、「AEROSIL300」) 35重量部からなるシリカ粒子(C)を加えてさらに混練し、混練物(シリコーンゴムコンパウンド)を得た。
ここで、シリカ粒子(C)添加後の混練は、カップリング反応のために窒素雰囲気下、60?90℃の条件下で1時間混練する第1ステップと、副生成物(アンモニア)の除去のために減圧雰囲気下、160?180℃の条件下で2時間混練する第2ステップとを経ることで行い、その後、冷却し、残り5%のビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)を2回に分けて添加し、20分間混練した。
続いて、得られた混練物(シリコーンゴムコンパウンド)100重量部に、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B):モメンティブ社製、「TC-25D」 4.53重量部および白金または白金化合物(E):白金化合物、モメンティブ社製、「TC-25A」 0.5重量部を加えて、ロールで混練し、実施例1に記載のシリコーンゴム系硬化性組成物を得た」に相当するものではない。

また、引用発明の「シリコーンゴム系硬化性組成物」は、「・・・の割合で、95%のビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)及びシランカップリング剤(D)及び水(F)の混合物を予め混練し、その後、混合物に シリカ微粒子・・・を加えてさらに混練し、混練物(シリコーンゴムコンパウンド)を得て、ここで、シリカ粒子(C)添加後の混練は、カップリング反応のために窒素雰囲気下、60?90℃の条件下で1時間混練する第1ステップと、副生成物(アンモニア)の除去のために減圧雰囲気下、160?180℃の条件下で2時間混練する第2ステップとを経ることで行い、その後、冷却し、残り5%のビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)を2回に分けて添加し、20分間混練し、続いて、得られた混練物(シリコーンゴムコンパウンド)に、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)・・・、白金または白金化合物(E)・・・を加えて、ロールで混練して得た」ものであり、引用文献1の(引1j)に記載された方法に従うものであるが、本願明細書の(本j)に記載された方法にも従うものである。

したがって、本願発明と引用発明とは、
「シリコーンゴム系硬化性組成物であって、
ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)と、
オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)と、
シリカ粒子(C)と、
シランカップリング剤(D)と、
白金または白金化合物(E)と、
を含み、
前記ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)が、0.1モル%以下である第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)を含み、
BET法で測定された前記シリカ粒子(C)比表面積が、200m^(2)/g以上500m^(2)/g以下であり、
前記シランカップリング剤(D)が、疎水性基を有するシランカップリング剤(D1)およびビニル基を有するシランカップリング剤(D2)を含み、
(D1)と(D2)との比率(D1):(D2)が、重量比で、1:0.001?1:0.35であり、
前記シリカ粒子(C)の含有量が、前記ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)の全体100重量部に対して、50重量部以下であり、
下記の条件で測定される、当該シリコーンゴム系硬化性組成物の硬化物の引張強度が、8.3MPa以上である
シリコーンゴム系硬化性組成物(ただし、下記の特開2018-90774号公報の実施例1に記載のシリコーンゴム系硬化性組成物を除く)。
(引張強度の測定条件)
当該シリコーンゴム系硬化性組成物の硬化物を用いてダンベル状3号形試験片を作製し、得られたダンベル状3号形試験片について、25℃、JIS K6251(2004)に準拠して、引張強度を測定する。
(特開2018-90774号公報の実施例1に記載のシリコーンゴム系硬化性組成物)
Mn=2,2×10^(5)、Mw=4,8×10^(5)、H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量は0.04モル%である低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1b) 90重量部、Mn=2,3×10^(5)、Mw=5,0×10^(5)H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量は0.93モル%で高ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2a) 10重量部からなるビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)の95%、シランカップリング剤(D-1):ヘキサメチルジシラザン(HMDZ) 7.5重量部、シランカップリング剤(D-2):ジビニルテトラメチルジシラザン 3.0重量部からなるシランカップリング剤(D)、および水(F) 5.25重量部の混合物を予め混練し、その後、混合物に、シリカ微粒子(粒径7nm、比表面積300m^(2)/g、日本アエロジル社製、「AEROSIL300」) 35重量部からなるシリカ粒子(C)を加えてさらに混練し、混練物(シリコーンゴムコンパウンド)を得た。
ここで、シリカ粒子(C)添加後の混練は、カップリング反応のために窒素雰囲気下、60?90℃の条件下で1時間混練する第1ステップと、副生成物(アンモニア)の除去のために減圧雰囲気下、160?180℃の条件下で2時間混練する第2ステップとを経ることで行い、その後、冷却し、残り5%のビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)を2回に分けて添加し、20分間混練した。
続いて、得られた混練物(シリコーンゴムコンパウンド)100重量部に、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B):モメンティブ社製、「TC-25D」 4.53重量部および白金または白金化合物(E):白金化合物、モメンティブ社製、「TC-25A」 0.5重量部を加えて、ロールで混練し、実施例1に記載のシリコーンゴム系硬化性組成物を得た。」
という点で一致するが、以下の点で相違する。

相違点1:「シリコーンゴム系硬化性組成物」について、本願発明1では、「配線または配線基板を有するウェアラブルデバイスの一部を構成する、繰り返し屈曲可能な屈曲性部材を形成するために用いる」ものであるのに対し、引用発明ではそのような特定がない点。

相違点2:「シリコーンゴム系硬化性組成物」について、本願発明では、「特開2018-90774号公報の実施例4に記載のシリコーンゴム系硬化性組成物」を除くものとしているのに対して、引用発明では、実施例4に記載のシリコーンゴム系硬化性組成物に着目して認定されたものである点。

相違点3:「シリコーンゴム系硬化性組成物」の「硬化物」について、本願発明では、その「試験片を用いて、JIS K 6260に準拠したデマチャ式耐屈曲試験を行い、下記の手順に基づいて測定される、屈曲回数が5万回のときの前記試験片における切り込み長さ変化率(L_(5)/L_(0))が、1.1以上5.1以下である、シリコーンゴム系硬化性組成物。
(手順)
当該シリコーンゴム系硬化性組成物を、170℃、10MPaで15分間プレスし、続いて、200℃で4時間加熱し、JIS K 6260に準拠して所定形状の試験片を作製する。
得られた試験片の中央において、幅方向に対して平行に、前記試験片を貫通する所定長さの切り込みを入れる。初期の切り込み長さをL_(0)とする。
続いて、切り込み付きの前記試験片を試験機のつかみ具間に設置し、下記の試験条件に基づいて、デマチャ式耐屈曲試験を行い、所定の屈曲回数後の前記試験片における切り込み長さ(mm)を測定する。
切り込み長さは、デマチャ式耐屈曲試験を3回行ったときの平均値とする。この切り込み長さの平均値をL_(5)とする。
切り込み長さ変化率を、式:L_(5)/L_(0)に基づいて算出する。
(試験条件)
・試験規格:JIS K 6260準拠
・試験機:デマチャ屈曲き裂試験機
・試験温度:23±2℃
・つかみ具間最大距離:75mm
・往復運動距離:57mm
・試験速度:300±10回/分
・試験数:n=3」
であるのに対し、引用発明では、そのような特定がない点。

(2)判断
上記相違点1?3についてそれぞれ検討する。

(ア)相違点1について
引用文献1の(引1b)の段落【0015】及び(引1c)の段落【0031】には、引用発明の「シリコーンゴム系硬化性組成物」を用いて作成した「樹脂製可動部材」について、「電子機器用途の一例として、例えば、人間の身体等に着用可能なウェアラブルデバイスに用いられる、伸縮性を有する配線あるいは配線基板;・・・等の一部を構成することができる」ことが記載されており、「人間の身体等に着用可能なウェアラブルデバイス」は通常「繰り返し屈曲可能な屈曲性部材」を用いるものである。
そうすると、引用文献1において、引用発明の「シリコーンゴム系硬化性組成物」は、「配線または配線基板を有するウェアラブルデバイスの一部を構成する、繰り返し屈曲可能な屈曲性部材を形成するために用いる」ことを意図しているといえるから、相違点1は実質的な相違点とはいえない。

(イ)相違点2について
引用文献1の(引1c)の段落【0053】には「第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)は、ビニル基含有量が0.01?0.2モル%であるのが好ましい。また、第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)は、ビニル基含有量が、0.8?12モル%であるのが好ましい」ことが記載され、段落【0054】には「第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)と第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)とを組み合わせて配合する場合、(A1-1)と(A1-2)の比率は特に限定されないが、例えば、重量比で(A1-1):(A1-2)が・・・、80:20?90:10であるのがより好ましい」と記載されており、引用文献1の(引1m)の実施例には、実施例1?2として「H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量が0.04モル%である低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1b)」を「90重量部」、「高ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2a)」を「10重量部」とした例が、実施例3?17として「H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量が0.04モル%である低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1b)」を「80重量部」、「高ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2a)」を「20重量部」とした例がそれぞれ記載されている。
そうすると、引用発明の「シリコーンゴム系硬化性組成物」は、「H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量が0.04モル%である低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1b)」を「80重量部」、「高ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2a)」を「20重量部」含むものであるところ、上記「第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)と第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)とを組み合わせて配合する場合、(A1-1)と(A1-2)の比率は特に限定されないが、例えば、重量比で・・・・、80:20?90:10であるのがより好ましい」の記載に基づいて「第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)」と「第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)」の配合量の重量比の「80:20」から「第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)」をより増やして「90:10」の範囲で最適な割合を再調整して変更すること、例えば、
(a)その割合を少し変更して「H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量が0.04モル%である低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1b)」を「81重量部」、「高ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2a)」を「19重量部」に変更したり、
(b)実施例1?2の例も参考に、「H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量が0.04モル%である低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1b)」を「90重量部」、「高ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2a)」を「10重量部」とするなどして、実施例4に記載の処方とは異なる配合量のシリコーンゴム系硬化性組成物に至ることは当業者が適宜なし得た事項であるといえる。

(ウ)相違点3について
相違点3について、以下に、引用発明、及び、上記「(イ)相違点2について」において変更例として挙げた(a)及び(b)の「シリコーンゴム系硬化性組成物」について、「L_(5)/L_(0)」が「1.1以上5.1以下」の範囲内のものになるかについて、以下に検討する。

a 引用発明の各成分と本願明細書に記載された各成分の態様との比較・検討
引用発明、及び、上記「(イ)相違点2について」において変更例として挙げた(a)及び(b)の「シリコーンゴム系硬化性組成物」と本願明細書の実施例との比較を行う前提として、まず、引用発明、及び、上記(a)及び(b)の変更例の「シリコーンゴム系硬化性組成物」の各成分について、本願明細書中の実施例と同じもの又は類似のものか、本願明細書中の一般的記載の使用可能なもの又は好ましいとされる態様のものかを確認する。

(a-1)「直鎖状オルガノポリシロキサン」について
(a-1-1)「低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン」について
引用発明の「低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1b)」は、(引1l)の段落【0143】からみて、「Mn=2,2×10^(5)、Mw=4,8×10^(5)」であり「ビニル基含有量は0.04モル%」であるから、本願明細書の(本c)の段落【0050】?【0051】において望ましいとされる重量平均分子量及び分散度を有するものであり、段落【0066】において望ましいとされる「ビニル基含有量が分子内に2個以上のビニル基を有し、かつ0.1モル%以下である第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)」であるといえる。
また、引用発明の「低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1b)」及び本願明細書の実施例の「ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1b)」とは、(引1l)の段落【0141】及び【0143】の記載及び本願明細書の(本l)の段落【0158】及び【0160】の記載からみて、「155℃まで昇温した後の反応時間」は異なるものの、ほぼ同じ製造方法で製造されているといえる。

同様に、上記「(イ)相違点2について」において引用発明の変更例として挙げた(a)及び(b)の「低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1b)」も、本願明細書において望ましいとされる重量平均分子量及び分散度を有し、望ましいとされる「ビニル基含有量が分子内に2個以上のビニル基を有し、かつ0.1モル%以下である第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)」であり、本願明細書の実施例の「ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1b)」とほぼ同じ製造方法で製造されたものであるといえる。

(a-1-2)「高ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン」について
引用発明の「高ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2a)」について、(引1l)の段落【0145】からみて「Mn=2,3×10^(5)、Mw=5,0×10^(5)」であり「ビニル基含有量は0.93モル%」であるから、本願明細書の(本c)の段落【0050】?【0051】において望ましいとされる重量平均分子量及び分散度を有するものであり、段落【0066】に記載する「ビニル基含有量が0.1超?15モル%である第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)等を含む2種以上を組み合わせて用いてもよい」とされる「ビニル基含有量が0.1超?15モル%である第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)」に相当するものである。
また、引用発明の「高ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2a)」は、(引1l)の段落【0141】及び【0145】の記載及び本願明細書の(本l)の段落【0158】及び【0161】?【0163】の記載からみて、本願明細書の実施例の「ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2a)」及び「ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2b)」と類似の方法で製造されたものであるといえる。

また、上記「(イ)相違点2について」において変更例として挙げた(a)及び(b)の変更例の「高ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2a)」も、本願明細書の段落【0066】に記載する第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)」に相当するものであり、本願明細書の実施例の「ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2a)」及び「ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2b)」と類似の方法で製造されたものであるといえる。

(a-1-3)「直鎖状オルガノポリシロキサン」についてのまとめ
以上のとおり、引用発明、及び、上記(a)及び、(b)の変更例の「低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン」及び「高ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン」からなる「直鎖状オルガノポリシロキサン」は、本願明細書において使用可能とされているものであり、本願明細書の実施例で用いられた「ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン」と同様もしくは類似の方法で製造されたものであるといえる。

(a-2)「オルガノハイドロジェンポリシロキサン」について
引用発明の「オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)」は、(引1k)の段落【0140】の記載からみて、「モメンティブ社製、「TC-25D」であり、本願明細書の(本d)の段落【0153】に記載されるように、本願明細書の実施例で用いたものと同じである。

(a-3)「シリカ微粒子」について
引用発明の「シリカ微粒子(粒径7nm、比表面積300m^(2)/g)」は、本願明細書の(本k)の段落【0154】に記載されるように、本願明細書の実施例で用いた「シリカ粒子(C-1)」と同じものであり、本願明細書の(本e)の段落【0098】?【0101】において「好ましい」とされる「比表面積」及び「平均一次粒径」を有するものである。

(a-4)「シランカップリング剤」について
引用発明の「シランカップリング剤(D-1):ヘキサメチルジシラザン(HMDZ)10重量部、シランカップリング剤(D-2):ジビニルテトラメチルジシラザン0.5重量部からなるシランカップリング剤(D)」は、(引1k)の段落【0140】及び本願明細書の(本k)の段落【0155】の記載からみて、本願明細書の実施例で用いた「シランカップリング剤」と同じものであり、本願明細書の(本f)の段落【0111】及び【0113】において好ましいとされるものである。また、その配合比も本願明細書の(本f)の段落【0114】において「より好ましい」とされる範囲内のものである。

(a-5)「白金または白金化合物」について
引用発明の「白金または白金化合物(E)」は、(引1k)の段落【0140】及び本願明細書の段落【0156】の記載からみて、本願明細書の実施例で用いた「白金または白金化合物」と同じものである。

(a-6)各成分の配合量について
また、引用発明の「各シリカ微粒子」、「シランカップリング剤(D)」、「オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)」、「白金または白金化合物(E)」、「水」の各成分の配合量は、本願明細書の段落【0124】?【0127】、【0129】に記載される「好ましい」とされる態様の範囲内である。

(a-7)まとめ
したがって、引用発明の「シリコーンゴム系硬化性組成物」、及び、上記(a)及び(b)の変更例の各成分は、本願明細書の実施例で用いられている各成分と同一又は類似のものであり、本願明細書において使用可能又は好ましいとされる態様であるといえる。

b 本願明細書の実施例に記載された各成文とL_(5)/L_(0)との関係について
引用発明、及び、上記「(イ)相違点2について」において変更例として挙げた(a)及び(b)の「シリコーンゴム系硬化性組成物」が、「1.1以上5.1以下」の「L_(5)/L_(0)」を有することを検討するための前提として、本願明細書の(本m)の段落【0165】の【表1】の配合割合及び(本l)の段落【0172】の【表2】の評価結果から、主として、本願発明の「シリコーンゴム系硬化性組成物」の各成分の種類及び含量が、「L_(5)/L_(0)」の値へ与える影響について確認する。

(b-1)本願明細書の実施例1(試験例1)と実施例2(試験例2)との対比
本願明細書の実施例1(試験例1)と実施例2(試験例2)とは、「ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)」は同じ種類及び配合のものを用いているが、「シリカ粒子(C)」の含量、及び、「シランカップリング剤(D)」の種類及び配合量、「オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)」の含量の点でのみ異なる。
本願明細書の実施例1(試験例1)と実施例2(試験例2)を対比すると、以下の違いがある。

・実施例1(試験例1)の「L_(5)/L_(0)」は「3.1」であり、実施例2(試験例2)の「L_(5)/L_(0)」は「5.1」であり、その差は「2.0」と大きい。

「シリコーンゴム系硬化性組成物」の違いとして、
・実施例1(試験例1)の「シリカ粒子(C)」の含量は「25重量部」であるのに対して、実施例2(試験例2)の「シリカ粒子(C)」の含量は「50重量部」である。
・実施例1(試験例1)の「シランカップリング剤(D)」は「シランカップリング剤(D-1):ヘキサメチルジシラザン(HMDZ)」を「10重量部」、「シランカップリング剤(D-2):ジビニルテトラメチルジシラザン」を「0.5重量部」配合しているのに対して、実施例2(試験例2)の「シランカップリング剤(D)」は「シランカップリング剤(D-1):ヘキサメチルジシラザン(HMDZ)」を「9.5重量部」、「シランカップリング剤(D-2):ジビニルテトラメチルジシラザン」を「1.0重量部」配合している。
・実施例1(試験例1)の「オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)」は「混合物100重量部に対する重量部」が「1.25重量部」であるのに対し、実施例2(試験例2)のオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)」は「1.5重量部」である。

(b-2)本願明細書の実施例2(試験例2)及び実施例3(試験例3)との比較
本願明細書の実施例2(試験例2)と実施例3(試験例3)とは、「シリカ粒子(C)」の含量、及び、「シランカップリング剤(D)」の種類及び配合量は同じであるが、「ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)」の種類及び配合量及び「オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)」の含量の点で異なる。
本願明細書の実施例2(試験例2)と実施例3(試験例)とを対比すると、以下の違いがある。

・実施例2(試験例2)の「L_(5)/L_(0)」は「5.1」であり、実施例3(試験例3)の「L_(5)/L_(0)」は「5.4」であり、その差は「0.3」と比較的小さい。

「シリコーンゴム系硬化性組成物」の違いとして、
・実施例2(試験例2)の「ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A)」は「A1-1a」((本l)の段落【0158】からみて、「ビニル基含有量」が「0.039モル%」である)を100重量%含むのに対し、実施例3(試験例3)の「ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A)」は「A1-1b」((本l)の段落【0160】からみて「ビニル基含有量」が「0.130モル%」である)90重量%と、「A1-2b」((本l)の段落【0163】からみて「ビニル基含有量」が「2.826モル%」である)を10重量%を含むものである。
・実施例2(試験例2)の「オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)」は「混合物100重量部に対する重量部」が「1.5重量部」であるのに対し、実施例3(試験例3)のオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)」は「4.5重量部」と差が大きいものとなっている。

(b-3)まとめ
上記(b-1)及び(b-2)の比較・検討から、以下のことがいえる。

(b-3a)「シリカ粒子(C)」の含量を「50重量部」から「25重量部」とすると、「L_(5)/L_(0)」の値は、大きく低下する傾向にある。
(b-3b)「シランカップリング剤(D)」は「シランカップリング剤(D-1):ヘキサメチルジシラザン(HMDZ)」及び「シランカップリング剤(D-2):ジビニルテトラメチルジシラザン」の含量をそれぞれ「9.5重量部」及び「1.0重量部」から「10重量部」及び「0.5重量部」とすると、「L_(5)/L_(0)」の値は、大きく低下する傾向にある。
(b-3c)「低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン」の含量が大きければ、「高ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン」を含んでいても、「L_(5)/L_(0)」に大きな影響を与えない。また、「ビニル基含有量」が小さいほど「L_(5)/L_(0)」の値を小さくするが、大きな影響は与えない。
(b-3d)「オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)」の含量は小さいほど「L_(5)/L_(0)」の値が低下するが、大きな影響を与えるものではない。

なお、令和3年3月5日付け意見書において、請求人は、「これらの直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)のビニル基含有量、シリカ粒子(C)の含有量、および比率(D1):(D2)は、上述のとおり、本願明細書の段落0032や0113に示されたシリコーンゴム特性の制御因子になります」(第5頁第8?10行)と述べているが、上記の検討結果である(b-3a)及び(b-3b)と概ね一致している。

(c)引用発明、及び、上記(イ)相違点2について」において変更例として挙げた(a)及び(b)の「シリコーンゴム系硬化性組成物」の「L_(5)/L_(0)」の値の検討
上記(a)及び(b)での検討を踏まえて、引用発明の「シリコーンゴム系硬化性組成物」、及び、上記(a)及び(b)の変更例の「L_(5)/L_(0)」の値について検討する。


(c-1)引用発明の「シリコーンゴム系硬化性組成物」の「L_(5)/L_(0)」の値について
引用発明のシリコーンゴム系硬化性組成物」の「L_(5)/L_(0)」の値について、本願明細書の実施例3(試験例3)と比較して検討する。

(c-1-1)「シリカ粒子(C)の含有量」及び「シランカップリング剤(D)」について
引用発明の「シリコーンゴム系硬化性組成物」の「シリカ粒子(C)」の含量は、「25重量部」であり、本願明細書の実施例1(試験例1)と同じ種類のものを同じ配合量で使用している。一方、本願明細書の実施例3(試験例3)の「シリカ粒子(C)」の含量は「50重量部」と、引用発明の「シリコーンゴム系硬化性組成物」の「シリカ粒子(C)」の含量と比べると大きいものである。そうすると、上記(b-3a)の評価からみて、引用発明の「シリコーンゴム系硬化性組成物」の「L_(5)/L_(0)」の値は、本願明細書の実施例3(試験例3)の「L_(5)/L_(0)」の値の「5.4」を大きく下回るものといえる。

また、引用発明の「シリコーンゴム系硬化性組成物」の「シランカップリング剤(D)」は、「シランカップリング剤(D-1):ヘキサメチルジシラザン(HMDZ)」と「シランカップリング剤(D-2):ジビニルテトラメチルジシラザン」の重量比は、「10:0.5」であり、本願明細書の実施例1(試験例1)と同じ種類のものを同じ配合量で使用している。一方、本願明細書の実施例3(試験例3)の「シランカップリング剤(D)」は、「シランカップリング剤(D-1):ヘキサメチルジシラザン(HMDZ)」と「シランカップリング剤(D-2):ジビニルテトラメチルジシラザン」をの重量比は、「9.5:1.0」である。そうすると、上記(b-3b)の評価からみて、引用発明の「シリコーンゴム系硬化性組成物」の「L_(5)/L_(0)」の値は、本願明細書の実施例3(試験例3)の「L_(5)/L_(0)」の値の「5.4」を大きく下回るものといえる。

そして、上述のとおり、引用発明の「シリコーンゴム系硬化性組成物」の「シリカ粒子(C)」及び「シランカップリング剤(D)」の含量は、本願明細書の実施例1(試験例1)と同じ種類のものを同じ配合量で使用していることからすると、引用発明の「シリコーンゴム系硬化性組成物」の「L_(5)/L_(0)」の値は、「5.4」を大きく下回るとともに、本願明細書の実施例1(試験例1)が有する「3.1」に近くなることが推認できる。

(c-1-2)「ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A)」の「ビニル基含有量」について
引用発明の「シリコーンゴム系硬化性組成物」は、「H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量が0.04モル%である低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1b)」を「80重量部」、「高ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2a)」((引1l)の段落【0145】からみて「ビニル基含有量」は「0.93モル%」である)を「20重量%」含むものであるから、「ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A)」全体として、「0.218モル%」(=0.04×80/100+0.93×20/100)の「ビニル基含有量」を有するといえる。

一方、本願明細書の実施例3(試験例3)の「シリコーンゴム系硬化性組成物」は、「ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1b)」90重量%((本l)の段落【0161】からみて「ビニル基含有量」が「0.130モル%」である)と、「ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2b)」10重量部((本l)の段落【0163】からみて「ビニル基含有量」が「2.826モル%」である)を含むものであるから、「ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A)」全体として「0.403モル%」(=0.13×90/100+2.826×10/100)の「ビニル基含有量」を有するといえる。

また、本願明細書の実施例1(試験例1)の「シリコーンゴム系硬化性組成物」は、「ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1a)」100重量%((本l)の段落【0161】からみて「ビニル基含有量」が「0.039モル%」である)と、「ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A)」全体としても「0.039モル%」の「ビニル基含有量」を有するといえる。

そうすると、引用発明の「シリコーンゴム系硬化性組成物」の「ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン」の「ビニル基含有量」は「0.218モル%」であり、本願明細書の実施例1(試験例1)の「ビニル基含有量」が「0.039モル%」と比べると大きなものとなっているが、本願明細書の実施例3(試験例3)の「ビニル基含有量」の「0.403モル%」と比べると、半分程度に収まるから、引用発明の「シリコーンゴム系硬化性組成物」の「L_(5)/L_(0)」の値は、本願明細書の実施例3(試験例3)が有する「5.4」よりも、相当程度低いことが推認できる。

(c-1-3)「オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)」の含量について
引用発明の「シリコーンゴム系硬化性組成物」の「オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)」の含量は、「混合物100重量部に対する重量部」が「2.64重量部」である。一方、本願明細書の実施例3(試験例3)は、「混練物100重量部に対する重量部」が「4.5重量部」である。そうすると、上記(b-3d)の評価からみて、引用発明の「シリコーンゴム系硬化性組成物」の「L_(5)/L_(0)」の値は、本願明細書の実施例3(試験例3)の「L_(5)/L_(0)」の値の「5.4」を下回るものといえる。

(c-1-4)引用発明の「シリコーンゴム系硬化性組成物」の「L_(5)/L_(0)」の値についてのまとめ
以上を踏まえると、引用発明の「シリコーンゴム系硬化性組成物」の各成分及び含量は、本願明細書の実施例3(試験例3)の「シリコーンゴム系硬化性組成物」の各成分及び含量と比べて、いずれも「L_(5)/L_(0)」の値を低下させるものとなっている。
そして、引用発明の「シリコーンゴム系硬化性組成物」は、「L_(5)/L_(0)」の値に大きく影響する、「シリカ粒子(C)」の含量と「シランカップリング剤(D)」の重量比が、「L_(5)/L_(0)」の値が「3.1」である本願明細書の実施例1(試験例1)と一致するから、引用発明の「シリコーンゴム系硬化性組成物」の「L_(5)/L_(0)」の値は「3.1」に近くなると推認でき、さらに、引用発明の「シリコーンゴム系硬化性組成物」の「ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A)」の「ビニル基含有量」は、「L_(5)/L_(0)」の値が「5.4」である本願明細書の実施例3(試験例3)の半分であるとともに、「オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)」の含量も小さいから、「L_(5)/L_(0)」の値は「5.4」よりも低くなり、結果として、引用発明の「シリコーンゴム系硬化性組成物」の「L_(5)/L_(0)」は、「3.1」以上とはなるものの、「5.4」は大きく下回り、例えば、5.1以下になるといえる。

(c-2)上記(a)及び(b)の変更例の「シリコーンゴム系硬化性組成物」の「L_(5)/L_(0)」の値について
上記(a)及び(b)の変更例の「シリコーンゴム系硬化性組成物」は、引用発明の「シリコーンゴム系硬化性組成物」よりも、「低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン」の含量が大きく、「ビニル基含有量」が小さいものであるから、上記(b-3c)の評価からみて、引用発明の「シリコーンゴム系硬化性組成物」よりも「L_(5)/L_(0)」の値が小さくなり、したがって、「5.1」よりも小さくなっているといえる。

d 相違点3についてのまとめ
以上を踏まえると、上記「(イ)相違点2について」において変更例として挙げた(a)及び(b)の「シリコーンゴム系硬化性組成物」も、「L_(5)/L_(0)」の値「5.1」よりも小さくなるといえるから、相違点3において、本願発明の「シリコーンゴム系硬化性組成物」と、上記「(イ)相違点2について」において変更例として挙げた(a)及び(b)の「シリコーンゴム系硬化性組成物」との間に、相違点はない。

(エ)まとめ
以上のとおり、本願発明1は、引用発明、すなわち引用文献1に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

3 請求人の主張
ア 令和3年3月5日付け意見書において、請求人は、本願発明の新規性に関して、以下の主張をしている。
「補正後の請求項1のシリコーンゴム系硬化性組成物は、上記の補正によって、引用文献1である特開2018-90774号公報の実施例1に記載のシリコーンゴム系硬化性組成物、および実施例4に記載のシリコーンゴム系硬化性組成物、すなわち、本件の拒絶理由通知書に記載の引用発明1Aおよび引用発明1Bのすべての引用発明を含まないものとなりました」と主張している。
この主張について検討すると、令和3年3月5日付け手続補正書による補正による「除く」クレームとしたことにより、新規性の理由は解消されたといえる。しかしながら、上記「2 判断」「(イ)相違点2について」において、検討したとおり、引用発明において、「第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)」と「第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)」の配合量の重量比の「80:20」から「第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)」をより増やして「90:10」の範囲で最適な割合を再調整して、例えば、上記(a)及び(b)の変更例にするなどして、実施例4に記載の処方とは異なる配合量のシリコーンゴム系硬化性組成物に至ることは当業者が適宜になし得た事項であるといえる。

イ また、令和3年3月5日付け意見書において、請求人は、本願発明の進歩性に関して、以下の主張をしている。

「・・・本発明者の知見によれば「デマチャ式耐屈曲試験を用いることで、シリコーンゴム系硬化性組成物の成形体について、繰り返し屈曲時における耐屈曲性を評価できることを見出し」ました(段落0015)。・・・このように金属製で細線の針金を用いて、シリコーンゴム系硬化性組成物の成形体の耐屈曲性を評価する針金屈曲性試験は、引用文献1に開示されていない新たな試験方法になります。そして、針金屈曲性試験によって、針金を配線に見立てることで、シリコーンゴム系硬化性組成物の成形体を、配線または配線基板を有するウェアラブルデバイス中の屈曲性部材に適用できるかについての知見が得られます。実際、実施例1、2のシリコーンゴム系硬化性組成物の成形体は、針金屈曲性試験において90°曲げ試験を100回繰り返し後も外観異常が見られなかった結果を示し(表2)、その結果から、配線または配線基板を有するウェアラブルデバイス中の屈曲性部材に適用できることが分かりました(段落0182等)。
したがって、細線で金属製の配線に接するか、あるいは配線に沿って形成された成形体を、繰り返し屈曲させた場合でも、実施例のシリコーンゴム系硬化性組成物を用いた成形体であれば、亀裂や破損の発生が抑制されるため、配線または配線基板を有するウェアラブルデバイス中の屈曲性部材に好適に用いられることが理解できます。引用文献1では、樹脂製可動部材の用途の一例について、たしかに「ウェアラブルデバイスに用いられる、伸縮性を有する配線あるいは配線基板」という文言が記載されているとしても、具体的な「伸縮性を有する配線あるいは配線基板」に関する耐屈曲性の評価が十分であるとは言えません。・・・本願の耐屈曲性の評価条件には、引用文献1のものより、負荷や屈曲回数の点で厳しい条件が採用されていることが理解できます。したがって、本願発明のシリコーンゴム系硬化性組成物は、上記の補正による構成を備えることによって、本願の針金屈曲性試験後に亀裂や破損が抑制される「配線または配線基板を有するウェアラブルデバイスの一部を構成する、繰り返し屈曲可能な屈曲性部材」を実現できるという、引用文献1には記載されていない新たな効果を奏するものです。このような本願発明は、引用文献1や出願当時の技術常識を踏まえたとしても、当業者が容易に想到することはできません」と主張している。

しかしながら、本願発明は、「繰り返し屈曲時における耐屈曲性を評価」する方法についての発明ではなく、「シリコーンゴム系硬化性組成物」という物の発明であるのに対し、請求人の主張は、「繰り返し屈曲時における耐屈曲性」の評価やその評価に基づく効果の主張に限られており、本願発明と引用発明の「シリコーンゴム系硬化性組成物」の構成成分や配合量の違い等については何ら説明をしていない。
そして、上記のとおり、本願発明は、上記2(2)(イ)及び(ウ)で検討したとおり、引用発明を若干変更しただけの態様も包含するものであり、引用発明の「シリコーンゴム系硬化性組成物」、及びこれを若干変更した「シリコーンゴム系硬化性組成物」は、本願発明の発明特定事項である「シリコーンゴム系硬化性組成物の硬化物からなる試験片を用いて、JIS K 6260に準拠したデマチャ式耐屈曲試験を行い、下記の手順に基づいて測定される、屈曲回数が5万回のときの前記試験片における切り込み長さ変化率(L_(5)/L_(0))が、1.1以上5.1以下」になるといえるから、当該主張を採用することはできない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余のことについて検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-06-30 
結審通知日 2021-07-06 
審決日 2021-07-21 
出願番号 特願2019-43023(P2019-43023)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 尾立 信広  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 福井 悟
杉江 渉
発明の名称 シリコーンゴム系硬化性組成物、およびそれを用いたウェアラブルデバイス  
代理人 速水 進治  

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