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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01N
管理番号 1377584
審判番号 不服2021-2737  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-03-01 
確定日 2021-09-28 
事件の表示 特願2017- 74105「構造物における気泡形成の可能性を評価するためのシステム及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月21日出願公開、特開2017-223652、請求項の数(20)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年4月4日(パリ条約による優先権主張 2016年4月21日、米国、同年7月25日、米国)の出願であって、令和2年4月6日に手続補正がなされ、令和2年6月18日付けで拒絶理由が通知され、同年9月23日に手続補正がなされるとともに意見書が提出されたが、同年10月27日付けで拒絶査定(原査定)がなされたところ、これに対し、令和3年3月1日に拒絶査定不服審判請求がなされると同時に手続補正(以下「本件補正」という)がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は、次のとおりである。

本願の請求項1?20に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開平4-12249号公報
2.特開2015-225037号公報(周知技術を示す文献)
3.国際公開第2014/195078号(周知技術を示す文献)
4.特開2002-350325号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2000-258197号公報(周知技術を示す文献)
6.特開2014-163780号公報(周知技術を示す文献)
7.特開2010-237055号公報(周知技術を示す文献)
8.特開平4-138337号公報(周知技術を示す文献)
9.特開2008-26284号公報(周知技術を示す文献)
10.特開2015-59873号公報(周知技術を示す文献)
以下、それぞれ、「引用文献1」?「引用文献10」という。

第3 本願発明
本件補正は、補正前の請求項1、7?8および10?20において、その「構造物」を「積層構造物」と補正するものであって、特許法第17条の2第5項第2号に規定されている、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、また、本願明細書の段落【0002】に「材料の装飾層であって、別の層材料の表面に付けられた材料の装飾層を含みうる積層構造物などの、構造物における気泡の形成は、例えば建築業界、航空業界、自動車業界、海洋業界、列車業界、レクリエーション業界、及び印刷業界を含む多数の業界で繰り返されている問題である。」と記載されていることから、本件補正は、当初明細書の範囲以内のものであり、同法第17条の2第3項の規定を満たしている。
そうすると、本願の請求項1?20に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明20」という)は、本件補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?20に記載された事項により特定される発明であるところ、本願発明1、15および16は以下のとおりである。なお、下線部分が補正箇所である。

「【請求項1】
積層構造物における気泡形成の可能性を評価するためのシステム(100)であって、
環境試験チャンバ(104)と、
前記環境試験チャンバ(104)の中の複数の環境条件を制御するための環境コントローラ(105)と、ここで前記複数の環境条件は温度、湿度及び空気圧を含む、
試験対象の積層構造物の画像を捕捉するための検出器(120)と、
前記試験対象の積層構造物への照明を制御するための照明源(122)と、
前記環境試験チャンバ(104)の中の前記環境条件を調整するために前記環境コントローラ(105)に連結された、ユーザインターフェース(128)であって、前記試験対象の積層構造物への照明を設定し、調整するために、前記照明源(122)に連結され、かつ、捕捉された前記画像を受信し、前記捕捉された画像に基づいて前記試験対象の積層構造物における気泡形成の可能性を評価するために、前記検出器に連結される、ユーザインターフェース(128)とを備え、
前記積層構造物の気泡形成の可能性を評価するために、気泡のサイズ及び数が判定される、システム(100)。
【請求項15】
積層構造物における気泡形成の可能性を評価するためのシステムであって、
環境試験チャンバ(104)と、
前記環境試験チャンバ(104)の中の温度を制御するための温度コントローラ(106)と、
前記環境試験チャンバの中の湿度を制御するための湿度コントローラ(108)と、
前記環境試験チャンバの中の空気圧を制御するための圧力コントローラ(112)と、
試験対象の積層構造物の画像を捕捉するための検出器(120)と、
前記試験対象の積層構造物への照明を制御するための照明源(122)と、
前記環境試験チャンバの中の環境条件を設定し、調整するために、前記温度コントローラ、前記湿度コントローラ、及び、前記圧力コントローラに連結された、ユーザインターフェース(128)であって、前記試験対象の積層構造物への照明を設定し、調整するために、前記照明源にも連結されており、かつ、前記試験対象の積層構造物の捕捉された前記画像を受信し、前記捕捉された画像に基づいて前記試験対象の積層構造物における気泡形成の可能性を評価するために、前記検出器(120)にも連結されている、ユーザインターフェース(128)とを備え、
前記積層構造物の気泡形成の可能性を評価するために、気泡のサイズ及び数が判定される、システム。
【請求項16】
積層構造物における気泡形成の可能性を評価するための方法であって、
前記積層構造物を内包する環境試験チャンバの中の複数の初期環境条件を設定することと、
ここで前記複数の初期環境条件を設定することは、
前記環境試験チャンバの中の温度を設定することと、
前記環境試験チャンバの中の湿度を設定することと、
前記環境試験チャンバの中の圧力又は真空度を設定することとを含む、
所定の時間間隔で前記積層構造物の画像を捕捉することと、
気泡のサイズ及び数を含め、前記積層構造物における気泡形成を検出することと、
前記積層構造物における前記気泡形成を検出することに応じて、前記気泡形成を評価することとを含む、方法。」

なお、本願発明2?14および本願発明17?20は、それぞれ、本願発明1および16を減縮した発明である。

第4 引用文献の記載事項
1 本願優先日前に頒布され、原査定の拒絶理由に引用された引用文献1には、以下の事項が記載されている。

(1-ア)
「(産業上の利用分野)
この発明は、促進耐候性試験方法及びその装置の改良に関し、特に、金属材、無機材、有機材、等の基板の表面に塗料を塗布してなる塗覆材の自然環境における劣化に対して相関性の良い試験結果が短時間で得られるようにした促進耐候性試験方法及びその装置に関する。」(2頁右上欄2?8行、下線は当審が付した。以下、同様)

(1-イ)
「(作用)
前記のように、金属材、無機材、有機材、等の基板の表面に塗料を塗布してなる塗覆材の表面に、主として295?450nmの波長の紫外線、すなわち、太陽から地表に到達する紫外線だけを強く照射して塗覆材の色差変化や光沢度変化を促進させ、その後、塗覆材を高温多湿の雰囲気に曝すことにより、塗覆材表面のき裂、はがれ、ふくれの状態を自然状態に近似させつつ早期に劣化させることができる。」(3頁左上欄20行?同頁右上欄9行)

(1-ウ)
「(実施例)
以下本発明の実施例について説明する。第1図は本発明に係る促進耐候性試験に用いる装置の一実施例を示す概略図であり、図中、1は水冷式メタルハライドランプで、250?500nmの紫外線波長域に大きなエネルギーを有し、水冷式フィルター2との組み合わせにより主として295?450nm紫外線、すなわち、太陽から地表に到達する紫外線だけを照射する。前記ランプ1及びフィルター2は平行光用反射板3及び補助反射板4の内部に収納されている。5は紫外線を透過する石英ガラス製のシールド板で、光源部6と試料室7を空間的に遮断するものである。8は試料室7に配置された試料台で、該試料台8には試料9が取付けられ、また、ホース23、ポンプ24、冷却器25等からなる水冷却装置あるいは電子冷却装置等の温度調整手段が設けられている。10は送風ノズルで試料台8に取付けられた試料9に所定温度の空気を循環ブロアー11で吹き付けて試料9を所定温度に保持するものである。試料温度を制御するために、試料台8に取付げられた温度測定用基準板(ブラックパネル:JISに準ずる)に固定された温度センサー12により温度を検出し、温度調整機器13により送風エアーの加熱器14及び冷却器15を自動的にコントロールする。16は試料室7を加湿するための加湿槽であり、加湿用ヒーター17が設けられている。湿度コントロールは、湿度センサー18により湿度を検知し、湿度調整器19により加湿用ヒーター17を制御することにより行われる。試料台8は、結露中の水滴の流れを良くするため15°程度傾斜して配置されており、それに伴い光源部6も傾斜して試料室7に取付けられている。設定手段20は、温度、湿度、時間設定するもので設定値に従い制御装置21は調整器13と19を制御している。設定手段20と制御装置21はパソコンのようなコンピュータ22で構成され、本発明で特定される測定条件がプログラム化されている。」(3頁右上欄10行?同頁右下欄7行)


(1-エ)
「このように構成された装置において、先ず、メタルハライドランプlを点灯して試料台8の上に載置された試料9に特定波長の紫外線を一定時間(例えば24時間)照射する。この場合、試料の温度は、温度センサー12、温度調節器13、加熱器14、及び冷却器15により一定温度(例えばブラックパネル温度で63±2℃)に維持される。さらに、試料室7の相対湿度は、湿度センサー18、湿度調整器19、及び加湿用ヒーター17により一定湿度(例えば、70±5%RH)に維持される。
次いで、メタルハライドランプ1のOFF動作により試料に対する紫外線の照射が止むと、制御プログラムに基づき試料台8の温度が水冷または電子冷却等の手段により露点以下の所定温度に下げられ、これにより試料台8に保持されている試料9の表面には結露が生じる。
さらに、ブラックパネル温度及び試料室内湿度も紫外線照射時とは別の設定値に保持される。本実施例では、ブラックパネル温度50±5℃、試料室内相対湿度90±10%RHに設定した。この高温多湿中での結露状態を一定時間(例えば24時間)継続させる。なお、必要に応じて上記のような紫外線照射工程と結露工程とを複数回繰り返してもよい。
このようにして促進耐候性試験を行うことにより、試料表面の色差、光沢の変化、及びき裂、ふくれ、はがれ等の状態において、自然劣化と相関性の高い試験結果が極めて短時間のうちに得られる。」(3頁右下欄8行?4頁左上欄17行)

(1-オ)
「(7)評価方法及び測定器(当審注:○数字は、数字を○で囲んだもの。以下同様。)
○1色差……CIE1976L*,a*,b*空間
表色系による色差ΔE*を測定する。
機器:SMカラーコンピューター
型式:SM-4
メーカー:スガ試験機
○2光沢……JIS5400-6.7規格に定められた60゜グロス保持率を測定する。
機器:GLOSS METER
型式:GM-26D
メーカー:村上色彩研究所
○3はがれ……JIS5400-6.15規格に定められた簡易ゴバン目密着試験による。
○4き裂 ……ASTM D661-44規格に定められた目視検査による。
○5ふくれ……ASTM D714-56規格に定められた目視評価による。」(6頁左上欄下から6行?同頁右上欄11行)

第5 引用発明
1 引用発明1
(1)上記記載事項(1-ア)の「金属材、無機材、有機材、等の基板の表面に塗料を塗布してなる塗覆材の自然環境における劣化に対して相関性の良い試験結果が短時間で得られるようにした促進耐候性試験方法及びその装置に関する。」、同(1-イ)の「塗覆材を高温多湿の雰囲気に曝すことにより、塗覆材表面のき裂、はがれ、ふくれの状態を自然状態に近似させつつ早期に劣化させることができる。」および同(1-オ)の「○5ふくれ……ASTM D714-56規格に定められた目視評価による。」からみて、引用文献1には「金属材、無機材、有機材、等の基板の表面に塗料を塗布してなる塗覆材における高温多湿の雰囲気に曝すことによるふくれ形成を評価するための促進耐候性試験装置」が記載されているといえる。

(2)上記記載事項(1-ウ)の「第1図は本発明に係る促進耐候性試験に用いる装置の一実施例を示す概略図であり、図中、1は水冷式メタルハライドランプで、250?500nmの紫外線波長域に大きなエネルギーを有し、水冷式フィルター2との組み合わせにより主として295?450nm紫外線、すなわち、太陽から地表に到達する紫外線だけを照射する。・・・・・8は試料室7に配置された試料台で、該試料台8には試料9が取付けられ、また、ホース23、ポンプ24、冷却器25等からなる水冷却装置あるいは電子冷却装置等の温度調整手段が設けられている。」および同(1-エ)の「このように構成された装置において、先ず、メタルハライドランプlを点灯して試料台8の上に載置された試料9に特定波長の紫外線を一定時間(例えば24時間)照射する。」からみて、引用文献1には「試料室と、試料に紫外線だけを一定時間照射する水冷式メタルハライドランプと、試料の温度調整手段」が記載されているといえる。

(3)上記記載事項(1-ウ)の「16は試料室7を加湿するための加湿槽であり、加湿用ヒーター17が設けられている。湿度コントロールは、湿度センサー18により湿度を検知し、湿度調整器19により加湿用ヒーター17を制御することにより行われる。」からみて、引用文献1には「試料室の中の湿度条件を制御するための湿度調整器」が記載されているといえる。

(4)上記記載事項(1-ウ)の「設定手段20は、温度、湿度、時間設定するもので設定値に従い制御装置21は調整器13と19を制御している。設定手段20と制御装置21はパソコンのようなコンピュータ22で構成され、本発明で特定される測定条件がプログラム化されている。」および図1からみて、引用文献1には「温度、湿度、時間設定する設定手段と温度調整器および湿度調整器を制御する制御装置で構成されるパソコンのようなコンピュータ」が記載されているといえる。

(5)上記記載事項(1-イ)の「塗覆材を高温多湿の雰囲気に曝すことにより、塗覆材表面のき裂、はがれ、ふくれの状態を自然状態に近似させつつ早期に劣化させることができる。」、同(1-オ)の「○5ふくれ……ASTM D714-56規格に定められた目視評価による」および図1からみて、引用文献1には「塗覆材のふくれ形成を、ASTM D714-56規格に定められた目視評価する」ことが記載されているといえる。

(6)上記(1)?(5)を総合すると、引用文献1には、次の発明が記載されていると認められる。
「金属材、無機材、有機材、等の基板の表面に塗料を塗布してなる塗覆材における高温多湿の雰囲気に曝すことによるふくれ形成を評価するための促進耐候性試験装置であって、
試料室と、
試料に紫外線だけを一定時間照射する水冷式メタルハライドランプと、
試料の温度調整手段と、
前記試料室の中の湿度条件を制御するための湿度調整器と、
温度、湿度、時間設定する設定手段とおよび温度調整器ならびに湿度調整器を制御する制御装置で構成されるパソコンのようなコンピュータと
を備え、
前記塗覆材のふくれ形成を、ASTM D714-56規格に定められた目視評価する促進耐候性試験装置。」(以下「引用発明1」という。)

2 引用発明2
(1)上記記載事項(1-ア)の「金属材、無機材、有機材、等の基板の表面に塗料を塗布してなる塗覆材の自然環境における劣化に対して相関性の良い試験結果が短時間で得られるようにした促進耐候性試験方法及びその装置に関する」、同(1-イ)の「塗覆材を高温多湿の雰囲気に曝すことにより、塗覆材表面のき裂、はがれ、ふくれの状態を自然状態に近似させつつ早期に劣化させることができる。」および同(1-オ)の「○5ふくれ……ASTM D714-56規格に定められた目視評価による。」からみて、引用文献1には「金属材、無機材、有機材、等の基板の表面に塗料を塗布してなる塗覆材における高温多湿の雰囲気に曝すことによるふくれ形成を評価する促進耐候性試験方法」が記載されているといえる。

(2)上記記載事項(1-ウ)の「第1図は本発明に係る促進耐候性試験に用いる装置の一実施例を示す概略図であり、図中、1は水冷式メタルハライドランプで、250?500nmの紫外線波長域に大きなエネルギーを有し、水冷式フィルター2との組み合わせにより主として295?450nm紫外線、すなわち、太陽から地表に到達する紫外線だけを照射する。」および「8は試料室7に配置された試料台で、該試料台8には試料9が取付けられ、また、ホース23、ポンプ24、冷却器25等からなる水冷却装置あるいは電子冷却装置等の温度調整手段が設けられている。」からみて、引用文献1には「水冷式メタルハライドランプにより試料室に配置された試料台に取付けられた試料に紫外線だけを照射するとともに、水冷却装置あるいは電子冷却装置等により試料の温度を調整する」ことが記載されているといえる。

(3)上記記載事項(1-エ)の「さらに、試料室7の相対湿度は、湿度センサー18、湿度調整器19、及び加湿用ヒーター17により一定湿度(例えば、70±5%RH)に維持される。」からみて、引用文献1には「試料室の中の相対湿度を一定に維持する」ことが記載されているといえる。

(4)上記記載事項(1-オ)の「○5ふくれ……ASTM D714-56規格に定められた目視評価による」からみて、引用文献1には「ASTM D714-56規格に定められた目視評価により、被覆材におけるふくれ形成を評価する」ことが記載されているといえる。

(5)上記(1)?(4)を総合すると、引用文献1には、次の発明が記載されていると認められる。

「金属材、無機材、有機材、等の基板の表面に塗料を塗布してなる塗覆材における高温多湿の雰囲気に曝すことによるふくれ形成を評価する促進耐候性試験方法であって、
水冷式メタルハライドランプにより試料室に配置された試料台に取付けられた試料に紫外線だけを照射するとともに、水冷却装置あるいは電子冷却装置等により試料の温度を調整することと、
試料室の中の相対湿度を一定に維持することと、
ASTM D714-56規格に定められた目視評価により、ふくれ形成を評価することと
を含む、方法。」(以下「引用発明2」という。)

第6 当審の判断
1 本願発明1について
(1)引用発明1との対比
ア 例えば、本願優先日前に頒布された刊行物である特許第2814127号公報に「本発明は、ポリアセタール樹脂表面に、合成樹脂塗膜層が強く密着したポリアセタール樹脂積層構造体に関するものである」(2頁3欄33?35行)あるいは同刊行物である特許第4382297号公報に「少なくともフェノール樹脂、水酸化アルミニウムとカオリンクレイからなる無機フィラー、及び無機繊維を含有するパネル成形体の表面に、防火塗材からなる層と、該層上に積層された、耐候性塗料から形成される塗膜よりなる積層構造を有し」(請求項1)、あるいは、同刊行物である特許第446847号公報に「【0044】上記プラスチック基材の形状や製法としては特に限定されないが、汎用性の高いものは、平板状や曲板状、波板状等の板状又はフィルム状のものである。・・・・・上記樹脂組成物を基材に塗布する方法としては、例えば、浸漬、吹き付け、刷毛塗り、カーテンフローコート、グラビアコート、ロールコート、スピンコート、バーコート、静電塗装等の通常使用される塗工方法がいずれも採用可能である。・・・・・【0046】本発明の積層体としては、基材と紫外線遮蔽層(基材と紫外線遮蔽層との間に上述した他の層があっても構わない)との積層構造であっても、紫外線遮蔽層が耐熱性、耐湿熱性、強度、耐候性等の種々の特性に優れるものであるため、このまま種々の用途に活用することができる。」と記載されていることからみて、「基板」と「塗布層」とからなる引用発明1の「塗覆材」は、「積層構造物」の一種であるといえる。
また、同様に本願優先日前に頒布された刊行物である「吉田豊彦“技術解説 塗膜におけるふくれの発生と成長(その一)”Vague(日塗検ニュース)、No.116、7?10頁、2005、日塗検」に「2.ガスの包含によるふくれ 塗料製造の過程でトラップされた空気の泡や、気体または揮発性物質が塗膜形成の過程で発生したりしてふくれになることがある。このような場合は塗膜-素地界面に泡が偏在するわけでなく、塗膜全体に観察されるから、他の機構によって発生したふくれとは区別できる。塗膜下の金属の電気分解によるガスの発生によっても起きる。」(8頁左欄1?8行)と記載されていることからみて、引用発明1における「ふくれ形成」は、本願発明1の「気泡形成」の一種であるといえる。
そうすると、技術常識からみて引用発明1の「ふくれ形成を評価する」には「ふくれ形成の可能性を評価する」ことも含まれているといえるから、引用発明1の「金属材、無機材、有機材、等の基板の表面に塗料を塗布してなる塗覆材における高温多湿の雰囲気に曝すことによるふくれ形成を評価するための促進耐候性試験装置」は、本願発明1の「積層構造物における気泡形成の可能性を評価するためのシステム(100)」に相当するといえる。

イ 引用発明1の「試料室」は、その機能・構成からみて、本願発明1の「環境試験チャンバ」に相当することは明らかである。
そして、引用発明1の「試料室の中の湿度条件」が本願発明1の「温度、湿度及び空気圧を含む複数の環境条件」の一部であるから、引用発明1の「前記試料室の中の湿度条件を制御するための湿度調整器」と、本願発明1の「前記環境試験チャンバ(104)の中の複数の環境条件を制御するための環境コントローラ(105)と、ここで前記複数の環境条件は温度、湿度及び空気圧を含む」とは、「前記環境試験チャンバの中の環境条件を制御するための環境コントローラと、ここで前記環境条件は湿度である」点でのみ一致するといえる。

ウ 本願明細書の段落【0027】に「一又は複数の照明源122は、全可視色での発光を可能にする、調整可能な波長特性を含む。気泡形成の画像の捕捉における最良の可視性を得るために、照明源122の光学波長は、試験対象の基板の色又は構造物102の表面の色によって決まる。」と記載されているように、本願発明1の「前記試験対象の積層構造物への照明を制御するための照明源(122)」の技術的意義が「気泡形成の画像の捕捉における最良の可視性を得る」ことであるのに対し、引用発明1の「試料に紫外線だけを一定時間照射する水冷式メタルハライドランプ」の技術的意義は、「太陽光を代替し、試料のふくれ形成等を促進する」ものであって、全く相違するといえる。しかしながら、引用発明1における「一定時間照射する」が一種の制御であるといえ、また、本願発明1の「照明源(122)」においては、その「照明光」の特性等あるいは「試験対象の積層構造物の画像を捕捉するための検出器」との関係が何ら特定されていないから、物の発明の構成要素としては、両者は「試験対象の積層構造物への照明を制御するための照明源」である点で一致するといえる。

エ 本願明細書の段落【0031】の「一例により、ユーザインターフェース128は、一又は複数の検出器120によって捕捉された画像に基づいて、試験対象の一又は複数の構造物102の評価を実施するための、コンピュータシステム又は他の電子デバイスを含む。システム100は、このコンピュータシステム上で実行されるアルゴリズム130又はモジュールを更に含む。」および図1および2における「ユーザインターフェース(コンピュータシステムなど)」の記載を考慮すると、本願発明1の「ユーザインターフェース」は、一般的な意味(例えば、「利用者が対象を操作するために接する部分」)での入力デバイスではなく、「入力デバイス」を備えた「コンピュータシステム」であると解するのが自然である。
そうすると、前述したように「環境条件」である「湿度」に注目すると、引用発明1の「試料室」および「湿度調整器」が各々本願発明1の「環境試験チャンバ」および「環境コントローラ(105)」に相当するといえるから、引用発明1の「温度、湿度、時間設定する設定手段と温度調整器および湿度調整器を制御する制御装置で構成されるパソコンのようなコンピュータ」と、本願発明1の「前記環境試験チャンバ(104)の中の前記環境条件を調整するために前記環境コントローラ(105)に連結された、ユーザインターフェース(128)であって、前記試験対象の積層構造物への照明を設定し、調整するために、前記照明源(122)に連結され、かつ、捕捉された前記画像を受信し、前記捕捉された画像に基づいて前記試験対象の積層構造物における気泡形成の可能性を評価するために、前記検出器に連結される、ユーザインターフェース(128)」とは、「前記環境試験チャンバの中の前記環境条件を調整するために前記環境コントローラに連結された、ユーザインターフェース」の点でのみ一致するといえる。

オ 上記ア?エを総合すると、本願発明1と引用発明1とは、
(一致点)
「積層構造物における気泡形成の可能性を評価するためのシステムであって、
環境試験チャンバと、
前記環境試験チャンバの中の環境条件を制御するための環境コントローラと、ここで前記環境条件は湿度である、
前記試験対象の積層構造物への照明を制御するための照明源と、
前記環境試験チャンバの中の前記環境条件を調整するために前記環境コントローラに連結された、ユーザインターフェースとを備える、システム。」
の点で一致し、以下の各点で相違するものと認められる。

(相違点1-1)
「環境コントローラ」が、本願発明1では「複数の環境条件を制御」し「前記複数の環境条件は温度、湿度及び空気圧を含む」であるのに対し、引用発明1では、「環境条件」が「湿度」のみであって、「温度及び空気圧」を含まない点。

(相違点1-2)
「ユーザインターフェース」について、本願発明1では「試験対象の積層構造物の画像を捕捉するための検出器(120)」を備えるとともに、「前記試験対象の積層構造物への照明を設定し、調整するために、前記照明源(122)に連結され、かつ、捕捉された前記画像を受信し、前記捕捉された画像に基づいて前記試験対象の積層構造物における気泡形成の可能性を評価するために、前記検出器に連結される」であるのに対し、引用発明1では、「検出器」に相当するものを備えておらず、また、「試料に紫外線だけを一定時間照射する水冷式メタルハライドランプ」を備えているものの、該「水冷式メタルハライドランプ」が「パソコンのようなコンピュータ」に連結されているかどうか不明である点。

(相違点1-3)
「評価」について、本願発明1では「前記積層構造物の気泡形成の可能性を評価するために、気泡のサイズ及び数が判定される」のに対し、引用発明1では、「前記塗覆材のふくれ形成を、ASTM D714-56規格に定められた目視評価する」点。

(2)相違点1-1の検討
本願優先日前に頒布され、原査定の拒絶理由において周知例として引用された引用文献5の「【0016】これによって、制御回路4は、環境パラメータに応じて環境試験槽5の環境条件を制御する。すなわち、試験パターン曲線が温度特性であれば、例えば、図2の温度試験パターンに基づく温度制御を、制御回路4が環境試験槽5に対して行う。同様にして、パターン読み取り装置2に入力した試験パターン曲線の湿度特性/振動特性/衝撃特性/気圧特性に基づいて、制御回路4は環境試験槽5に対して、湿度制御/振動制御/衝撃制御/気圧制御を行う。」との記載からみて、「環境試験装置において、制御回路によって環境試験槽に対して、温度制御/湿度制御/振動制御/衝撃制御/気圧制御を行う」ことは、本願優先日前周知の事項であり、該「制御回路」および「温度、湿度、気圧」は、本願発明1の「環境コントローラ」および「温度、湿度及び空気圧を含む複数の環境条件」に相当するといえる。
しかしながら、引用文献5には「新規開発品の環境試験を行う場合は、試験時の供試品の状況に応じて、試験パターンを随時変更していく必要ある」(【0004】)と記載されているのみであって、「塗覆材」あるいは類似のものを試験対象物とすることは記載・示唆されておらず、また、どの様な場合に「気圧」を制御するのか、その技術的意義も記載されていないといえる。そうすると、上述するように「環境試験装置において、環境試験槽に対して気圧制御を行う」ことが本願優先日前周知の事項であるとしても、引用発明1において該周知の事項を付加する動機付けは、引用文献1および5に記載・示唆されておらず、引用発明1に内在しているともいえない。また、同様に、原査定の拒絶理由において周知例として引用された引用文献6には「【0003】この高度加速寿命試験装置では、温度と湿度で制御された大気圧以上の試験環境を試験室内に形成することが多い。」と記載されているものの、その試験対象物は「電気部品、電子部品やこれらの部品で組み立てられた製品」(【0002】)であって、引用発明1の「塗覆材」とは全く異なり、同様に上記周知の事項を付加する動機付けが記載・示唆されていないといえる。なお、他の周知例である引用文献2?4および7?10には「気圧の制御」に関連する記載はない。
さらに、引用発明1において「試料の温度調整手段」を備えることと、本願発明1において「環境条件」として「環境試験チャンバの中の温度」を含むことは、対象物の温度を調整する機能の点では類似するものの、技術的手法として異なることは、明らかである。そして、前述したように「環境試験装置において、制御回路によって環境試験槽に対して、温度制御/湿度制御/振動制御/衝撃制御/気圧制御を行う」ことが本願優先日前周知の事項であるとしても、該周知の事項を適応して、引用発明1において「試料の温度を調整する」ことを「環境条件として環境試験チャンバの中の温度を含む」に変更する、あるいは、前者に後者を付加することの動機付けは、引用文献1、5および6に記載・示唆されておらず、また、引用発明1において内在しているともいえない。また、エネルギー効率の観点から見ると、「試料の温度を調整する」方が「試料室の中の温度を設定する」よりも優れているのが一般的であるから、引用発明1において前者を後者に変更するのには、阻害要因が存在する恐れがある。
してみると、上記周知の事項を考慮しても、引用発明1において、相違点1-1における本願発明1の構成とすることは、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)効果について
本願発明1は、本願明細書の段落【0020】に記載された「一例により、積層構造物すなわち試験サンプルにおける気泡形成の可能性を評価するための、可搬式の試験装置又はシステム、及び方法が提供される。システム及び方法は、積層構造物すなわち試験サンプルの表面に気泡形成を誘発するために、多種多様な環境条件をシミュレーションするよう構成される。分析又は評価のために、気泡形成の誘発についてデータが収集される。収集されるデータは、多種多様な環境条件下での積層構造物すなわち試験サンプルの画像を捕捉することを含む。多種多様な環境条件下での気泡形成を検出するために、捕捉された画像が評価される。検出された気泡形成は、構造物の通常の又は現実的な応用又は使用のもとでの試験対象の積層構造物の気泡形成の可能性を判定するために、評価される。」という、当業者といえども、引用文献1の記載および周知の事項から予測し得ない格別顕著な効果を奏するといえる。

(5)まとめ
したがって、本願発明1は、その余の相違点について検討するまでもなく、引用発明1および周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本願発明15について
(1)引用発明1との対比
本願発明15は、独立請求項であるものの、実質的に、本願発明1において、その「複数の環境条件を制御するための環境コントローラ(105)」を、「前記環境試験チャンバ(104)の中の温度を制御するための温度コントローラ(106)と、前記環境試験チャンバの中の湿度を制御するための湿度コントローラ(108)と、前記環境試験チャンバの中の空気圧を制御するための圧力コントローラ(112)」と特定・限定したものに相当するといえる。
そして、本願発明15と引用発明1とを対比すると、
(一致点)
「積層構造物における気泡形成の可能性を評価するためのシステムであって、
環境試験チャンバと、
前記環境試験チャンバの中の湿度を制御するための湿度コントローラと、
前記試験対象の積層構造物への照明を制御するための照明源と、
前記環境試験チャンバの中の湿度を調整するために前記湿度コントローラに連結された、ユーザインターフェースとを備える、システム。」
の点で一致し、以下の各点で相違するものと認められる。

(相違点2-1)
本願発明15では、「前記環境試験チャンバ(104)の中の温度を制御するための温度コントローラ(106)」と「前記環境試験チャンバの中の空気圧を制御するための圧力コントローラ(112)」を備えるのに対し、引用発明1では、「試料の温度調整手段」と「湿度調整器」を備えるものの、これらは「試料室の中の温度を制御する」ものではなく、本願発明15の「温度コントローラ」と「圧力コントローラ」に相当するものを備えていない点。

(相違点2-2)
「ユーザインターフェース」について、本願発明15では「試験対象の積層構造物の画像を捕捉するための検出器(120)」を備えるとともに、「前記環境試験チャンバの中の環境条件を設定し、調整するために、前記温度コントローラ、及び、前記圧力コントローラに連結され」、かつ、「前記試験対象の積層構造物への照明を設定し、調整するために、前記照明源にも連結されており、かつ、前記試験対象の積層構造物の捕捉された前記画像を受信し、前記捕捉された画像に基づいて前記試験対象の積層構造物における気泡形成の可能性を評価するために、前記検出器(120)にも連結されている」であるのに対し、引用発明1では、「検出器」、「温度コントローラ」および「圧力コントローラ」に相当するものを備えておらず、また、「試料に紫外線だけを一定時間照射する水冷式メタルハライドランプ」を備えているものの、該「水冷式メタルハライドランプ」が「パソコンのようなコンピュータ」に連結されているかどうか不明である点。

(相違点2-3)
「評価」について、本願発明15では「前記積層構造物の気泡形成の可能性を評価するために、気泡のサイズ及び数が判定される」のに対し、引用発明1では、「前記塗覆材のふくれ形成を、ASTM D714-56規格に定められた目視評価する」点。

(2)相違点2-1の検討
本願発明15の「温度コントローラ」と「圧力コントローラ」に相当するものを備えていないということは、「環境条件」が「温度及び空気圧」を含まないことを意味しているから、相違点2-1についても、前記「1 本願発明1について (2)相違点1-1について」にて判断したと同様なことがいえる。
してみると、上記周知の事項を考慮しても、引用発明1において、相違点2-1における本願発明15の構成とすることは、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)効果について
そして、本願発明15も、本願発明1と同様に、当業者といえども、引用文献1の記載および周知の事項から予測し得ない格別顕著な効果を奏するといえる。

(4)まとめ
したがって、本願発明15は、その余の相違点について検討するまでもなく、引用発明1および周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 本願発明16について
(1)本願発明16と引用発明2との対比
ア 上記「1 本願発明1について (1)引用発明1との対比 ア」において検討したと同様に、引用発明2の「金属材、無機材、有機材、等の基板の表面に塗料を塗布してなる塗覆材における高温多湿の雰囲気に曝すことによるふくれ形成を評価する促進耐候性試験方法」は、本願発明16の「積層構造物における気泡形成の可能性を評価するための方法」に相当するといえる。

イ 引用発明2の「試料室の中の相対湿度」が、本願発明16の「温度、湿度及び空気圧を含む複数の環境条件」の一部であり、上記記載事項(1-エ)の「試料室7の相対湿度は、湿度センサー18、湿度調整器19、及び加湿用ヒーター17により一定湿度(例えば、70±5%RH)に維持される。・・・・・さらに、ブラックパネル温度及び試料室内湿度も紫外線照射時とは別の設定値に保持される。本実施例では、ブラックパネル温度50±5℃、試料室内相対湿度90±10%RHに設定した。」からみて、該「一定湿度(例えば、70±5%RH)」は、本願発明16の「複数の初期環境条件」の一部であるいえ、引用発明2の「試料室の中の相対湿度を一定に維持する」は、「初期環境条件を設定する」ことも意味しているといえる。
そうすると、引用発明2の「試料室の中の相対湿度を一定に維持する」と、本願発明16の「前記積層構造物を内包する環境試験チャンバの中の複数の初期環境条件を設定することと、ここで前記複数の初期環境条件を設定することは、前記環境試験チャンバの中の温度を設定することと、前記環境試験チャンバの中の湿度を設定することと、前記環境試験チャンバの中の圧力又は真空度を設定することとを含む」とは、「前記積層構造物を内包する環境試験チャンバの中の初期環境条件を設定することと、ここで前記初期環境条件を設定することは、前記環境試験チャンバの中の湿度を設定することである」の点で一致するといえる。

ウ 技術常識を考慮すると、引用発明2の「ASTM D714-56規格に定められた目視」は、「試料の表面のふくれ」を目視により検出器を介することく直接検知することを意味しているといえる。
そうすると、引用発明2の「ASTM D714-56規格に定められた目視評価により、ふくれ形成を評価する」と、本願発明16の「気泡のサイズ及び数を含め、前記積層構造物における気泡形成を検出することと、前記積層構造物における前記気泡形成を検出することに応じて、前記気泡形成を評価することとを含む」とは、「前記積層構造物における気泡形成を検出することと、前記積層構造物における前記気泡形成を検出することに応じて、前記気泡形成を評価することとを含む」の点にて一致するといえる。

エ 上記ア?ウを総合すると、本願発明16と引用発明2とは、
(一致点)
「積層構造物における気泡形成の可能性を評価するための方法であって、
前記積層構造物を内包する環境試験チャンバの中の初期環境条件を設定することと、
ここで前記初期環境条件を設定することは、前記環境試験チャンバの中の湿度を設定することである、
前記積層構造物における気泡形成を検出することと、
前記積層構造物における前記気泡形成を検出することに応じて、前記気泡形成を評価することとを含む、方法。」
の点で一致し、以下の各点で相違するものと認められる。

(相違点3-1)
本願発明16では「初期環境条件が温度、湿度および圧力又は真空度」であるのに対し、引用発明2では、「試料室の中の温度」ではなく「試料の温度を調整」しており、「初期環境条件」が「湿度」のみである点。

(相違点3-2)
本願発明16では「所定の時間間隔で前記積層構造物の画像を捕捉すること」を含むのに対し、引用発明2では、「試料の表面を目視」しているものの、「画像を捕捉」しているのかどうか不明である点。

(相違点3-3)
「気泡形成を検出する」が、本願発明16では「気泡のサイズ及び数を含め、前記積層構造物における気泡形成を検出する」のに対し、引用発明2では、「ASTM D714-56規格に定められた目視評価」である点。

(2)相違点3-1の検討
引用発明2の「試料の温度を調整する」ことと、本願発明16の「前記環境試験チャンバの中の温度を設定する」ことは、対象物の温度を調整する機能の点では類似するものの、技術的手法としては異なることは、明らかである。そして、上記「1 本願発明1について (2)相違点1-1の検討」にて述べたように、「環境試験装置において、制御回路によって環境試験槽に対して、温度制御/湿度制御/振動制御/衝撃制御/気圧制御を行う」ことは、本願優先日前周知の事項であるとしても、該周知の事項を適応して、引用発明2において、「試料の温度を調整する」を「試料室の中の温度を設定する」に変更する、あるいは、前者に後者を付加することの動機付けは、引用文献1、5および6に記載・示唆されておらず、また、引用発明2において内在しているともいえない。さらに、エネルギー効率の観点から見ると、「試料の温度を調整する」方が「試料室の中の温度を設定する」ことよりも優れているのが一般的であるから、引用発明2において前者を後者に変更するのには、阻害要因が存在する恐れがある。
また、上記「1 本願発明1について (2)相違点1-1の検討」にて述べたように、該周知の事項を適応して、引用発明2において、「初期環境条件」に「圧力又は真空度」を付加する動機付けも、引用文献1、5および6に記載・示唆されておらず、引用発明2に内在しているともいえない。
してみると、引用発明2において、相違点3-1における本願発明16の構成とすることは、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)効果について
そして、本願発明16は、本願明細書の段落【0020】に記載された、当業者といえども、引用文献1の記載および周知の事項から予測し得ない格別顕著な効果を奏すると認められる。

(4)まとめ
したがって、本願発明16は、その余の相違点について検討するまでもなく、引用発明2および周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4 本願発明2?14および本願発明17?20について
本願発明2?14および本願発明17?20は、本願発明1あるいは本願発明16を技術的に限定的に減縮した発明であるから、本願発明1および本願発明16と同じ理由により、引用発明1および周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1?20は、引用発明1および周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-09-06 
出願番号 特願2017-74105(P2017-74105)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 外川 敬之  
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
伊藤 幸仙
発明の名称 構造物における気泡形成の可能性を評価するためのシステム及び方法  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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