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審決分類 審判 全部申し立て 特29条の2  C11D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C11D
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C11D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C11D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C11D
管理番号 1377759
異議申立番号 異議2020-700678  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-09-09 
確定日 2021-07-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6665335号発明「洗浄剤組成物及びその洗浄方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6665335号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?9〕、〔10?11〕について訂正することを認める。 特許第6665335号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6665335号の請求項1?11の発明に係る特許についての出願は、平成29年1月20日の出願に係る特願2017-8627号の一部を、令和元年6月19日に新たな特許出願としたものであって、令和2年2月21日にその特許権の設定登録がなされ、同年3月13日にその特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許についての異議申立ての経緯は、以下のとおりである。

令和2年9月9日 特許異議申立人である嶋崎孝明(以下、「申立人1」という。)による特許異議の申立て
同年9月11日 特許異議申立人である松山徳子(以下、「申立人2」という。)による特許異議の申立て
令和3年1月5日付け 取消理由通知
同年3月15日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年同月24日付け 訂正請求があった旨の通知
同年4月27日 意見書の提出(申立人2)
同年同月28日 意見書の提出(申立人1)

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容

令和3年3月15日付けの訂正請求(以下、「本件訂正」という。)の内容は、特許請求の範囲の訂正に係る下記の訂正事項1?2、及び、明細書の訂正に係る下記の訂正事項3からなるものである。

訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「(A)成分として安息香酸塩を含む被覆剤で被覆された塩素系漂白剤、
(B)成分としてアルカリ剤、
(C)成分としてニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、グルタミン酸二酢酸、メチルグリシン二酢酸、又はそれらの塩より選ばれる少なくとも一種のキレート剤、
(E)成分としてポリアクリル酸、ポリマレイン酸、アクリル酸/マレイン酸共重合体、アクリル酸/スルホン酸共重合体、有機ホスホン酸、又はそれらの塩から選ばれる少なくとも一種を自動食器洗浄機用洗浄剤組成物全量に対し0.1質量%以上、8質量%以下、
を含み、自動食器洗浄機用洗浄剤組成物全量に対し(A)成分を0.3質量%以上含むとともに(A)成分と(C)成分の割合が質量比で(A)/(C)=0.01以上、2以下であり、前記被覆剤が安息香酸塩を50質量%以上含むことを特徴とする自動食器洗浄機用洗浄剤組成物。」
と記載されているのを、
「(A)成分として安息香酸塩を含む被覆剤で被覆された塩素系漂白剤、
(B)成分としてアルカリ剤、
(C)成分としてニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、グルタミン酸二酢酸、メチルグリシン二酢酸、又はそれらの塩より選ばれる少なくとも一種のキレート剤、
(E)成分として高分子分散剤である、重量平均分子量が3,000以上、120,000以下のアクリル酸/マレイン酸共重合体アルカリ金属塩、重量平均分子量が1,000以上、20,000以下のアクリル酸/スルホン酸共重合体のアルカリ金属塩から選ばれる少なくとも一種を自動食器洗浄機用洗浄剤組成物全量に対し1質量%以上、8質量%以下、を含み、自動食器洗浄機用洗浄剤組成物全量に対し(A)成分を0.3質量%以上含むとともに(A)成分と(C)成分の割合が質量比で(A)/(C)=0.01以上、2以下であり、前記被覆剤が安息香酸塩を50質量%以上含むことを特徴とする自動食器洗浄機用洗浄剤組成物。」
に訂正する。
また、請求項1の記載を直接または間接的に引用する請求項2?9も同様に訂正する。

訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項10を独立形式に改め、
「(A)成分として安息香酸塩を含む被覆剤で被覆された塩素系漂白剤、
(B)成分としてアルカリ剤、
(C)成分としてニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、グルタミン酸二酢酸、メチルグリシン二酢酸、又はそれらの塩より選ばれる少なくとも一種のキレート剤、
(E)成分として高分子分散剤である、重量平均分子量が3,000以上、120,000以下のアクリル酸/マレイン酸共重合体アルカリ金属塩、重量平均分子量が1,000以上、20,000以下のアクリル酸/スルホン酸共重合体のアルカリ金属塩から選ばれる少なくとも一種を自動食器洗浄機用洗浄剤組成物全量に対し1質量%以上、8質量%以下、を含み、自動食器洗浄機用洗浄剤組成物全量に対し(A)成分を0.3質量%以上含むとともに(A)成分と(C)成分の割合が質量比で(A)/(C)=0.01以上、2以下であり、前記被覆剤が安息香酸塩を50質量%以上含むことを特徴とする自動食器洗浄機用洗浄剤組成物を下端部分に排出口を有する溶出ホッパーに設置し、給水ノズルから水を供給して洗浄剤組成物を水に溶解させ、自動食器洗浄機用洗浄剤組成物濃度を0.01質量%以上、0.09質量%以下に調整した洗浄液を自動食器洗浄機の洗浄液タンク内で加熱保持する工程、洗浄液タンク内の洗浄液を洗浄機庫内に噴射して食器類を洗浄する工程、洗浄後すすぎ液ですすぐ工程、とからなることを特徴とする自動食器洗浄機による食器類の洗浄方法。」
に訂正する。
また、請求項10の記載を引用する請求項11も同様に訂正する。

訂正事項3
本件訂正前の明細書の段落【0006】に
「即ち本発明は、
(1)(A)成分として安息香酸塩を含む被覆剤で被覆された塩素系漂白剤、(B)成分としてアルカリ剤、(C)成分としてニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、グルタミン酸二酢酸、メチルグリシン二酢酸、又はそれらの塩より選ばれる少なくとも一種のキレート剤、(E)成分としてポリアクリル酸、ポリマレイン酸、アクリル酸/マレイン酸共重合体、アクリル酸/スルホン酸共重合体、有機ホスホン酸、又はそれらの塩から選ばれる少なくとも一種を自動食器洗浄機用洗浄剤組成物全量に対し0.1質量%以上、8質量%以下、を含み、自動食器洗浄機用洗浄剤組成物全量に対し(A)成分を0.3質量%以上含むとともに(A)成分と(C)成分の割合が質量比で(A)/(C)=0.01以上、2以下であり、前記被覆剤が安息香酸塩を50質量%以上含むことを特徴とする自動食器洗浄機用洗浄剤組成物、
・・・
(10)上記(1)から(9)のいずれかに記載の自動食器洗浄機用洗浄剤組成物を下端部分に排出口を有する溶出ホッパーに設置し、給水ノズルから水を供給して洗浄剤組成物を水に溶解させ、自動食器洗浄機用洗浄剤組成物濃度を0.01質量%以上、0.09質量%以下に調整した洗浄液を自動食器洗浄機の洗浄液タンク内で加熱保持する工程、洗浄液タンク内の洗浄液を洗浄機庫内に噴射して食器類を洗浄する工程、洗浄後すすぎ液ですすぐ工程、とからなることを特徴とする自動食器洗浄機による食器類の洗浄方法、」
と記載されているのを、
「即ち本発明は、
(1)(A)成分として安息香酸塩を含む被覆剤で被覆された塩素系漂白剤、(B)成分としてアルカリ剤、(C)成分としてニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、グルタミン酸二酢酸、メチルグリシン二酢酸、又はそれらの塩より選ばれる少なくとも一種のキレート剤、(E)成分として高分子分散剤である、重量平均分子量が3,000以上、120,000以下のアクリル酸/マレイン酸共重合体アルカリ金属塩、重量平均分子量が1,000以上、20,000以下のアクリル酸/スルホン酸共重合体のアルカリ金属塩から選ばれる少なくとも一種を自動食器洗浄機用洗浄剤組成物全量に対し1質量%以上、8質量%以下、を含み、自動食器洗浄機用洗浄剤組成物全量に対し(A)成分を0.3質量%以上含むとともに(A)成分と(C)成分の割合が質量比で(A)/(C)=0.01以上、2以下であり、前記被覆剤が安息香酸塩を50質量%以上含むことを特徴とする自動食器洗浄機用洗浄剤組成物、
・・・
(10)(A)成分として安息香酸塩を含む被覆剤で被覆された塩素系漂白剤、(B)成分としてアルカリ剤、(C)成分としてニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、グルタミン酸二酢酸、メチルグリシン二酢酸、又はそれらの塩より選ばれる少なくとも一種のキレート剤、(E)成分として高分子分散剤である、重量平均分子量が3,000以上、120,000以下のアクリル酸/マレイン酸共重合体アルカリ金属塩、重量平均分子量が1,000以上、20,000以下のアクリル酸/スルホン酸共重合体のアルカリ金属塩から選ばれる少なくとも一種を自動食器洗浄機用洗浄剤組成物全量に対し1質量%以上、8質量%以下、を含み、自動食器洗浄機用洗浄剤組成物全量に対し(A)成分を0.3質量%以上含むとともに(A)成分と(C)成分の割合が質量比で(A)/(C)=0.01以上、2以下であり、前記被覆剤が安息香酸塩を50質量%以上含むことを特徴とする自動食器洗浄機用洗浄剤組成物を下端部分に排出口を有する溶出ホッパーに設置し、給水ノズルから水を供給して洗浄剤組成物を水に溶解させ、自動食器洗浄機用洗浄剤組成物濃度を0.01質量%以上、0.09質量%以下に調整した洗浄液を自動食器洗浄機の洗浄液タンク内で加熱保持する工程、洗浄液タンク内の洗浄液を洗浄機庫内に噴射して食器類を洗浄する工程、洗浄後すすぎ液ですすぐ工程、とからなることを特徴とする自動食器洗浄機による食器類の洗浄方法、」
に訂正する。

2 訂正の適否
(1) 一群の請求項について
訂正事項1?2に係る訂正前の請求項1?11について、その請求項2?11はそれぞれ請求項1を直接又は間接に引用し、その請求項11は請求項10を直接に引用しているものであるところ、訂正事項2は、訂正前の請求項10の記載を独立形式での記載に訂正するものであって、訂正後の請求項10?11については、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することが求められている。したがって、訂正前の請求項1?11に対応する訂正後の請求項〔1?9〕及び〔10?11〕の各々は、特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。
また、訂正事項3による明細書の訂正に係る請求項は、本件訂正前の請求項1?11であるから、訂正事項3と関係する一群の請求項が請求の対象とされている。したがって、訂正事項3による本件訂正は、特許法第120条の5第9項で適用する第126条第4項に適合する。

(2) 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1における、
「(E)成分としてポリアクリル酸、ポリマレイン酸、アクリル酸/マレイン酸共重合体、アクリル酸/スルホン酸共重合体、有機ホスホン酸、又はそれらの塩から選ばれる少なくとも一種を自動食器洗浄機用洗浄剤組成物全量に対し0.1質量%以上、8質量%以下」について、
(E)成分の選択肢を、「ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、アクリル酸/マレイン酸共重合体、アクリル酸/スルホン酸共重合体、有機ホスホン酸、又はそれらの塩から選ばれる少なくとも一種」から「重量平均分子量が3,000以上、120,000以下のアクリル酸/マレイン酸共重合体アルカリ金属塩、重量平均分子量が1,000以上、20,000以下のアクリル酸/スルホン酸共重合体のアルカリ金属塩から選ばれる少なくとも一種」に限定するとともに、(E)成分の含有割合(数値範囲)について「0.1質量%以上、8質量%以下」から「1質量%以上、8質量%以下」に減縮することを目的とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1について、本件特許の願書に添付した明細書には、「本発明の洗浄剤組成物には、更に(E)成分として、高分子分散剤、有機ホスホン酸、又はそれらの塩から選ばれる少なくとも一種以上を配合することができる。高分子分散剤としては、カルボン酸型ポリマー、スルホン酸型ポリマーやこれらの塩が挙げられ、高分子分散剤は2種以上を組み合わせて用いることができる。カルボン酸型ポリマーとしては、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸型共重合体、マレイン酸型共重合体、メタクリル酸型共重合体、やこれらの塩等が挙げられるが、ポリアクリル酸やその塩、アクリル酸/マレイン酸共重合体やその塩がより好ましい。カルボン酸型ポリマーのうち、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸型共重合体、マレイン酸型共重合体、メタクリル酸型共重合体、やこれらの塩は、重量平均分子量が3,000以上、120,000以下が好ましく・・・スルホン酸型ポリマーとしては、アクリル酸/スルホン酸型モノマー共重合体が挙げられ、スルホン酸型ポリマーの重量平均分子量は1,000以上、20,000以下が好ましく・・・高分子分散剤として用いるカルボン酸型ポリマー、スルホン酸型ポリマーの塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩が好ましい。」(段落【0017】)、「(E)成分の洗浄剤組成物中の割合は、0.1質量%以上、10質量%以下であることが好ましいが、0.5質量%以上、7質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上、5質量%以下であることが特に好ましい。」(段落【0019】)、と記載されているので、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、特許請求の範囲の減縮のみを目的とするものであって実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定に適合する。

イ 訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項10が請求項1?9のいずれかの請求項を引用する記載であったものを、請求項1のみを引用するものに限定するとともに、独立形式請求項に改め、さらに、訂正事項1で請求項1に対して行ったものと同じ内容の訂正をするものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する、特許請求の範囲の減縮、及び同項ただし書き第4号に規定する、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
また、上記アのとおりであるから、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもない。したがって、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定に適合する。

ウ 訂正事項3について
訂正事項3は、訂正事項1及び2による特許請求の範囲の記載の訂正にともない、明細書の対応する記載についても同じ内容の訂正を行うことによって、特許請求の範囲の記載と明細書の記載を整合させることを目的とするものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、上記ア、イのとおりであるから、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもない。したがって、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定に適合する。

(3) 小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1、3、4号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第5、6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?9〕及び〔10?11〕について訂正することを認める。

第3 本件訂正発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められたので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?11に係る発明(以下、項番にしたがって「本件訂正発明1」などといい、まとめて、「本件訂正発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】(A)成分として安息香酸塩を含む被覆剤で被覆された塩素系漂白剤、
(B)成分としてアルカリ剤、
(C)成分としてニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、グルタミン酸二酢酸、メチルグリシン二酢酸、又はそれらの塩より選ばれる少なくとも一種のキレート剤、
(E)成分として高分子分散剤である、重量平均分子量が3,000以上、120,000以下のアクリル酸/マレイン酸共重合体アルカリ金属塩、重量平均分子量が1,000以上、20,000以下のアクリル酸/スルホン酸共重合体のアルカリ金属塩から選ばれる少なくとも一種を自動食器洗浄機用洗浄剤組成物全量に対し1質量%以上、8質量%以下、を含み、自動食器洗浄機用洗浄剤組成物全量に対し(A)成分を0.3質量%以上含むとともに(A)成分と(C)成分の割合が質量比で(A)/(C)=0.01以上、2以下であり、前記被覆剤が安息香酸塩を50質量%以上含むことを特徴とする自動食器洗浄機用洗浄剤組成物。
【請求項2】
(A)成分の塩素系漂白剤がジクロロイソシアヌル酸ナトリウムである請求項1記載の自動食器洗浄機用洗浄剤組成物。
【請求項3】
(A)成分の被覆剤が安息香酸ナトリウムもしくは安息香酸カリウムであることを特徴とする請求項1又は2記載の自動食器洗浄機用洗浄剤組成物。
【請求項4】
(A)成分の被覆剤が安息香酸塩を80質量%以上含む請求項1から3のいずれかに記載の自動食器洗浄機用洗浄剤組成物。
【請求項5】
(A)成分の塩素系漂白剤と安息香酸塩の質量比が、塩素系漂白剤/安息香酸塩=0.001以上、10以下である請求項1から4のいずれかに記載の自動食器洗浄機用洗浄剤組成物。
【請求項6】
(B)成分のアルカリ剤が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウムより選ばれる少なくとも一種である請求項1から5のいずれかに記載の自動食器洗浄機用洗浄剤組成物。
【請求項7】
さらに、(D)成分としてノニオン界面活性剤を含有する請求項1から6のいずれかに記載の自動食器洗浄機用洗浄剤組成物。
【請求項8】
(D)成分が、リバースプルロニック型ブロックポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルより選ばれる少なくとも一種である請求項7に記載の自動食器洗浄機用洗浄剤組成物。
【請求項9】
前記自動食器洗浄機用洗浄剤組成物が、溶融固形型洗浄剤組成物であることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の自動食器洗浄機用洗浄剤組成物。
【請求項10】
(A)成分として安息香酸塩を含む被覆剤で被覆された塩素系漂白剤、
(B)成分としてアルカリ剤、
(C)成分としてニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、グルタミン酸二酢酸、メチルグリシン二酢酸、又はそれらの塩より選ばれる少なくとも一種のキレート剤、
(E)成分として高分子分散剤である、重量平均分子量が3,000以上、120,000以下のアクリル酸/マレイン酸共重合体アルカリ金属塩、重量平均分子量が1,000以上、20,000以下のアクリル酸/スルホン酸共重合体のアルカリ金属塩から選ばれる少なくとも一種を自動食器洗浄機用洗浄剤組成物全量に対し1質量%以上、8質量%以下、を含み、自動食器洗浄機用洗浄剤組成物全量に対し(A)成分を0.3質量%以上含むとともに(A)成分と(C)成分の割合が質量比で(A)/(C)=0.01以上、2以下であり、前記被覆剤が安息香酸塩を50質量%以上含むことを特徴とする自動食器洗浄機用洗浄剤組成物を下端部分に排出口を有する溶出ホッパーに設置し、給水ノズルから水を供給して洗浄剤組成物を水に溶解させ、自動食器洗浄機用洗浄剤組成物濃度を0.01質量%以上、0.09質量%以下に調整した洗浄液を自動食器洗浄機の洗浄液タンク内で加熱保持する工程、洗浄液タンク内の洗浄液を洗浄機庫内に噴射して食器類を洗浄する工程、洗浄後すすぎ液ですすぐ工程、とからなることを特徴とする自動食器洗浄機による食器類の洗浄方法。
【請求項11】
前記すすぐ工程において、すすぎ液を洗浄機の平面積2500cm^(2)あたり、1L以上、3L以下噴射して食器類をすすぐ請求項10に記載の自動食器洗浄機による食器類の洗浄方法。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
当審が令和3年1月5日付けで通知した取消理由は、以下のとおりである。

<取消理由1>
本件特許の請求項1?11に係る発明は、その出願の日前に日本語でされた優先権主張を伴う国際特許出願であって、その出願後に国際公開第2017/183726号として国際公開がされたPCT/JP2017/016111(以下、「先願1」という。)の国際出願日における明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明のうち、当該優先権主張の基礎とされた特許出願(特願2016-86619号)の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が先願1に係る発明をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が先願1の出願人と同一でもないので、本件特許の請求項1?11に係る発明に係る特許は、特許法第29条の2(同法第184条の13参照)の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

第5 当審の判断
本件特許は、平成29年(2017年)1月20日の出願に係る特願2017-8627号の一部を、令和元年6月19日に新たな特許出願とした特願2019-113759号に係るものである。
また、先願1(PCT/JP2017/016111。)は、その国際出願日が2017年4月21日であるが、特願2016-86619号(出願日、2016年4月22日。申立人1が提出した甲第2号証を参照。)を優先基礎とするものであって、2017年10月26日に国際公開がなされた(国際公開第2017/183726号。申立人1が提出した甲第1号証に該当。)ものである。
したがって、先願1は、本件特許の出願の日前に日本語でされた国際特許出願であって、その出願後に国際公開がされたものである。

2 先願明細書等の記載事項

先願1の国際出願日における国際出願の明細書及び請求の範囲(以下、「先願明細書等」という。)には、以下の事項が記載されている。記載箇所については、先願明細書における記載箇所を墨なしカッコで、また、先願1の優先基礎である特願2016-86619号の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲(以下、「優先基礎明細書等」という。)における記載箇所を墨付きカッコで示した。
なお、参考までに、先願明細書等に記載されているが、優先基礎明細書等には記載されていない事項あるいは別の表記がされている事項についても、下線を付して摘記した。

「 本発明におけるコーティング層を有する固形漂白剤含有物は、従来の固形漂白剤と比べて、コーティング層を有することにより安定化されているので、より広範な化合物群(洗浄剤成分)と配合して洗浄剤組成物とし、洗浄用、殺菌用、漂白用などの用途に使用することができる。これらの化合物群としては有機物、無機物及びこれらの混合物の群から選択される1以上を用いることができる。混合物として用いる場合には、混合後に成形工程を経てもよいし、そのまま用いてもよい。成形工程を経る場合には、粉末、顆粒、錠剤、押し出し成形物、注型固化物、スラリーなどいずれの大きさや剤形を採用することができる。
また、本発明のコーティング層を有する固形漂白剤含有物には、発明の効果を損なわない範囲において、前記の有機物、無機物及びこれらの混合物の群から選択される1以上を添加剤としてコーティング層に含有してもよいし、固形漂白剤に含有してもよい。さらに、本発明のコーティング層とは別途の層として多層皮膜を形成させてもよい。
前記の有機物としては、有機酸、有機高分子、界面活性剤、リンス剤、消泡剤、金属イオン捕集剤、色素、香料、酵素などが挙げられる。」([0061]?[0063]、【0044】?【0046】)
「 有機高分子としては、カラギーナン、グアーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、アルギン酸のアルカリ金属塩、デキストリン、キサンタンガム、ペクチン、デンプンあるいはこれらの誘導体などの多糖類、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、その他のセルロース誘導体などが挙げられる。または、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、オレフィン-無水マレイン酸ナトリウム塩共重合体、アクリル酸-マレイン酸ナトリウム塩共重合体、ジアリルジメチルアンモニウム-アクリル酸ナトリウム塩共重合体、ジアリルメチルアミンとマレイン酸ナトリウム塩共重合体などの合成高分子化合物などが挙げられる。
界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、及びこれらの混合物が挙げられ、起泡性の少ない界面活性剤は好適に使用される。強い起泡性を有する界面活性剤を添加する場合には少ない起泡のみを生じるか起泡しないという効果を奏しうるという本発明の効果を損なわない範囲の少量の添加にとどめるか、または起泡を抑制する消泡剤をさらに添加するなどの措置をとることが好ましい。中でも、入手容易性、取り扱い容易性、低起泡性の観点から、1以上の非イオン性界面活性剤を用いることが好ましい。」([0066]?[0067]、【0049】?【0050】)
「非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタンラウレート、ソルビタンパルミテート、ソルビタンステアレート、ソルビタンオレエートなどのソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンオレエートなどのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールラウレート、ポリエチレングリコールステアレート、ポリエチレングリコールオレエートなどのポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン、エチレンジアミン-ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマーなどのポリオキシエチレンアルキルアミン、ラウリン酸モノエタノールアミド、ラウリン酸ジエタノールアミド、ミリスチン酸モノエタノールアミド、ミリスチン酸ジエタノールアミド、ステアリン酸モノエタノールアミド、ステアリン酸ジエタノールアミド、ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミドなどのアルキルアルカノールアミド、ステアリン酸モノグリセライド、ステアリン酸ジグリセライド、パルミチン酸モノグリセライド、パルミチン酸ジグリセライド、オレイン酸モノグリセライド、オレイン酸ジグリセライドなどのグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどが挙げられる。」([0070]、【0053】)
「(実施例2)
固形漂白剤として、500gのジクロロイソシアヌル酸ナトリウムを用いた。ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムを加工装置「スパイラフロー」(型式SFC-MINI、フロイント産業(株)製)に投入した。排気ダンパーの開度を7.5、流動エアーのダンパーの開度を6、スリットエアーのダンパーの開度を7に設定し、給気ヒーターの温度を100℃に設定した。ローターの回転数は300rpmに設定し、装置を稼動し、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムを流動状態にした。この時、排気ダンパー、流動エアー、スリットエアーの各ダンパーの開度が大きくローターの回転数が速いほどジクロロイソシアヌル酸ナトリウムが激しく動くので、流動状態の強度が強いといえる。
流動状態のジクロロイソシアヌル酸ナトリウムの温度が60℃に達した時点で36質量%安息香酸ナトリウム水溶液(コーティング液)を噴霧速度約20g/分の流速で噴霧した。コーティング液の噴霧の際には、0.1MPaの圧縮空気を20L/分の流速で供給した。ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムの温度は層内に設置された温度計により測定され、製品温度として表示される。製品温度が60℃±10℃の範囲になる様にコーティング液の供給速度を微調整した。スプレーノズルは二流体ノズル(型式ATU-MINI、フロイント産業(株)製)を用いた。コーティング液を540g噴霧した時点で加工を終了し、固形漂白剤含有物のサンプルを692g得た。装置から加工後のサンプルを抜取り、110℃の乾燥機内で1.5時間乾燥した時点で恒量に達した。固形漂白剤及びコーティング層に用いる化合物の種類や量を変更する場合は、加工条件を適宜変更することができる。
水分含有量、有効塩素含有量、収率及びコーティング層の割合は実施例1と同様に算出した(以下、同様)。その結果は表1に記載の通り、水分含有量は1.9質量%、有効塩素含有量は46.3%であることからコーティング層の割合は26質量%であった。」([0134]?[0135]、【0114】?【0115】)
「安定性試験2(長期保管試験)
(実施例46?55)
ステンレス製のビーカーに蒸留水5gと炭酸カリウム3gを入れ、炭酸カリウムを溶解した。次に前記ビーカーを湯せんにより加熱しながら水溶液を攪拌し、液温が80℃に達した時点でメタケイ酸ナトリウム・五水和物50g、ニトリロ三酢酸三ナトリウム・一水和物30g、オレフィン-無水マレイン酸ナトリウム共重合体を1g、硫酸ナトリウム10.5gを入れて攪拌を続けた。その後、スラリー状になった組成物を攪拌しながら湯せんの温度を65℃に降温し、メタケイ酸ナトリウムを0.5g入れ30分間攪拌した後冷却し、ペースト状の洗浄剤組成物を得た。次に、実施例2、3、5、6、7、13、14、20、21及び22で作製したコーティング層を有する固形漂白剤含有物とコーティングをしていないジクロロイソシアヌル酸ナトリウムをそれぞれ0.10?0.13gの範囲で正確に計量し、質量を小数点以下4桁まで記録し、上部が開放されている円柱状のポリプロピレン製のカップ(内径25mm、高さ22mm)に入れ、60℃に加熱した前記ペースト状の洗浄剤組成物を2.5?3.5gの範囲で正確に計量し質量を少数点以下3桁まで記録し、固形漂白剤含有物又はジクロロイソシアヌル酸ナトリウムの上に重ねるように加え、固形漂白剤含有物又は固形漂白剤を含有する洗浄剤組成物を作製した。前記の固形漂白剤含有物又は固形漂白剤を含有する洗浄剤組成物を入れたカップを樹脂製のバットに並べて、バット全体を厚さ0.1mmの低密度ポリエチレン製の袋に入れ、袋の開口部をヒートシールにより密閉し、温度が40℃で相対湿度(RH)が75%に維持された恒温恒湿機内で1ヶ月間保管した。1ヵ月後にカップ内の固形漂白剤含有物又は固形漂白剤を含有する洗浄剤組成物全量を約100mlの蒸留水に溶解し、安定性試験1の場合と同様に有効塩素含有量から有効塩素保持率を評価した。
コーティング前のジクロロイソシアヌル酸ナトリウムを用いた場合は1ヵ月後の有効塩素が検出されず、有効塩素保持率は0%であった。実施例2、3、5、6、7、13、14、20、21及び22で作製したコーティング層を有する固形漂白剤含有物の有効塩素保持率は表23の通りであり、長期間の保管後でも高い有効塩素保持率を有していた。なお、安定性試験2においては、基準となるコーティング前のジクロロイソシアヌル酸ナトリウムの有効塩素保持率が0%であるため、各サンプルの有効塩素保持率がコーティング前のジクロロイソシアヌル酸ナトリウムより低い有効塩素保持率となることはない。そのため、安定性試験1の場合とは評価基準が異なり、有効塩素保持率が5%未満の場合は安定性の改善効果がほとんど認められないため不合格として×、有効塩素保持率が5%以上の場合を、安定性の改善効果が認められるので合格として○、有効塩素保持率が70%以上の場合を合格の中でも特に優れるとして◎と評価した。」([0181]?[0182]、【0147】)
「固形漂白剤を含有する第1の層と、コーティング層からなる第2の層を有する固形漂白剤含有物であって、前記コーティング層が、芳香族カルボン酸のアルカリ金属塩、非環状ジカルボン酸のアルカリ金属塩、炭素数が1乃至7の非環状モノカルボン酸のアルカリ金属塩及びこれらの混合物からなる群より選択される1以上を含有する固形漂白剤含有物。」([請求項1]、【請求項1】)
「請求項1記載の固形漂白剤含有物と、1以上の非イオン性界面活性剤とを配合してなる洗浄剤組成物。」([請求項9]、【請求項9】)

3 先願発明

先願明細書等の[0181]には、自動食器洗浄機用洗浄剤組成物について、ペースト状の洗浄剤組成物と実施例2で作成したコーティング層を有する固形漂白剤含有物を用いて固形漂白剤を含有する洗浄剤組成物を作成したことが記載されている。また、優先基礎明細書等の【0149】の【表15】によれば、上記ペースト状の洗浄剤組成物の配合量は3.481gであり、実施例2で作成したコーティング層を有する固形漂白剤含有物の配合量は0.1069gである。なお、ACUSOL460NDは、オレフィン-無水マレイン酸ナトリウム共重合体の商品名である。
以上によれば、先願明細書等には以下の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されていると認められる。

「蒸留水5g、炭酸カリウム3g、メタケイ酸ナトリウム・五水和物50.5g(=50+0.5)、ニトリロ三酢酸三ナトリウム・一水和物30g、オレフィン-無水マレイン酸ナトリウム共重合体1g、硫酸ナトリウム10.5gから製造したペースト状の洗浄剤組成物を3.481g、及び、500gのジクロロイソシアヌル酸ナトリウムに、36質量%安息香酸ナトリウム水溶液を540g噴霧し、その後乾燥して得た、水分含有量が1.9質量%、有効塩素含有量が46.3%、コーティング層の割合が26質量%である、コーティング層を有する固形漂白剤含有物を0.1069gからなる固形漂白剤を含有する自動食器洗浄機用洗浄剤組成物」

4 本件訂正発明1と先願発明の対比

先願発明の「500gのジクロロイソシアヌル酸ナトリウムに、36質量%安息香酸ナトリウム水溶液を540g噴霧し、その後乾燥して得た、水分含有量が1.9質量%、有効塩素含有量が46.3%、コーティング層の割合が26質量%である、コーティング層を有する固形漂白剤含有物」は、表面が安息香酸ナトリウムでコーティングされたジクロロイソシアヌル酸ナトリウムであるから、本件訂正発明1の「(A)成分として安息香酸塩を含む被覆剤で被覆された塩素系漂白剤」及び「前記被覆剤が安息香酸塩を50質量%以上含む」に相当する。
先願発明の「炭酸カリウム」及び「メタケイ酸ナトリウム・五水和物」は、本件訂正発明1の「(B)成分としてアルカリ剤」に相当する。
先願発明の「ニトリロ三酢酸三ナトリウム・一水和物」は、本件訂正発明1の「(C)成分としてニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、グルタミン酸二酢酸、メチルグリシン二酢酸、又はそれらの塩より選ばれる少なくとも一種のキレート剤」に相当する。
先願発明の「自動食器洗浄機用洗浄剤組成物」は、コーティング層を有する固形漂白剤含有物を0.1069g含有するから、その含有割合は、3.0質量%(=0.1069/(0.1069+3.481)*100)である。したがって、先願発明は、本願発明1の「自動食器洗浄機用洗浄剤組成物全量に対し(A)成分を0.3質量%以上含む」を充足する。
先願発明の「ペースト状の洗浄剤組成物」は、製造時にニトリロ三酢酸三ナトリウム・一水和物30gを用いており、ニトリロ三酢酸三ナトリウム・一水和物は、ニトリロ三酢酸三ナトリウム(Na_(3)C_(6)H_(6)O_(6)N)を93質量%含有する物質であるから、その30gにはニトリロ三酢酸三ナトリウムが28g含まれている。
したがって、先願発明の「ペースト状の洗浄剤組成物」におけるニトリロ三酢酸三ナトリウムの含有割合は、28/(5+3+50.5+30+1+10.5)*100=28質量%であり、その3.481gにはニトリロ三酢酸三ナトリウムが0.97g含まれているから、先願発明の「自動食器洗浄機用洗浄剤組成物」におけるニトリロ三酢酸三ナトリウムの含有割合は、27質量%(=0.97/(0.1069+3.481)*100)であり、コーティング層を有する固形漂白剤含有物の含有割合との比は、0.11(=3.0/27)である。
よって、先願発明は、本願発明1の「(A)成分と(C)成分の割合が質量比で(A)/(C)=0.01以上、2以下であり」を充足する。

そうすると、本件訂正発明1と先願発明の一致点、相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「(A)成分として安息香酸塩を含む被覆剤で被覆された塩素系漂白剤、
(B)成分としてアルカリ剤、
(C)成分としてニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、グルタミン酸二酢酸、メチルグリシン二酢酸、又はそれらの塩より選ばれる少なくとも一種のキレート剤、
を含み、自動食器洗浄機用洗浄剤組成物全量に対し(A)成分を0.3質量%以上含むとともに(A)成分と(C)成分の割合が質量比で(A)/(C)=0.01以上、2以下であり、前記被覆剤が安息香酸塩を50質量%以上含むことを特徴とする自動食器洗浄機用洗浄剤組成物。」

<相違点1>
本件訂正発明1は、「(E)成分として高分子分散剤である、重量平均分子量が3,000以上、120,000以下のアクリル酸/マレイン酸共重合体アルカリ金属塩、重量平均分子量が1,000以上、20,000以下のアクリル酸/スルホン酸共重合体のアルカリ金属塩から選ばれる少なくとも一種を自動食器洗浄機用洗浄剤組成物全量に対し1質量%以上、8質量%以下」含むものであることが特定されているのに対し、先願発明はそのような特定を備えていない点

5 相違点の検討

先願発明は、「オレフィン-無水マレイン酸ナトリウム共重合体」を含むものであるところ、先願明細書等には、広範な化合物群(洗浄剤成分)をコーティング層を有する固形漂白剤含有物に配合して洗浄剤組成物とすることができること、広範な化合物群(洗浄剤成分)としては有機物、無機物及びこれらの混合物の群から選択される1以上を用いることができること([0061])、有機物の例として有機高分子などが挙げられること([0063])、有機高分子の例として「ポリアクリル酸、オレフィン-無水マレイン酸ナトリウム塩共重合体、アクリル酸-マレイン酸ナトリウム塩共重合体」などが挙げられること([0066])が記載されているが、当該洗浄剤成分として、重量平均分子量が3,000以上、120,000以下のアクリル酸/マレイン酸共重合体アルカリ金属塩や重量平均分子量が1,000以上、20,000以下のアクリル酸/スルホン酸共重合体のアルカリ金属塩は記載されていない。また、先願明細書に記載されている「アクリル酸-マレイン酸ナトリウム塩共重合体」は、そもそもその重量平均分子量について何も記載がないのであるから、重量平均分子量は不明であり、重量平均分子量が3,000以上、120,000以下であるといえる技術常識などもない。
そうすると、先願発明の「オレフィン-無水マレイン酸ナトリウム共重合体」が、本件訂正発明1の「重量平均分子量が3,000以上、120,000以下のアクリル酸/マレイン酸共重合体アルカリ金属塩」に相当するものであるとはいえない。
また、先願発明の「ペースト状の洗浄剤組成物」におけるオレフィン-無水マレイン酸ナトリウム共重合体の含有割合は、1/(5+3+50.5+30+1+10.5)*100=1質量%であり、その3.481gにはオレフィン-無水マレイン酸ナトリウム共重合体が0.035g含まれているから、先願発明の「自動食器洗浄機用洗浄剤組成物」におけるオレフィン-無水マレイン酸ナトリウム共重合体の含有割合は、0.97質量%(=0.035/(0.1069+3.481)*100)である。
したがって、先願発明は、本願発明1の「(E)成分として高分子分散剤・・・を自動食器洗浄機用洗浄剤組成物全量に対し1質量%以上、8質量%以下」も充足しない。

そうすると、相違点1は実質的な相違点であり、先願発明は、本件訂正発明1と同一ではない。

6 特許異議申立人の主張について
(1) 特許異議申立人の主張の概要
申立人1は、概略下記ア?エの主張をしている。また、申立人2は、概略下記オ?クの主張をしている。

アクリル酸-マレイン酸ナトリウム塩共重合体の重量平均分子量について、3,000以上、120,000以下のものが知られている(甲第5、7、15号証)から、アクリル酸/マレイン酸共重合体アルカリ金属塩の重量平均分子量を3,000以上、120,000以下に限定することは、周知/慣用技術に過ぎず、新たな効果を奏するものでもないので、実質的な相違点ではない(令和3年4月28日提出の申立人1が提出した意見書の10頁29行?13頁12行)。

先願発明の「自動食器洗浄機用洗浄剤組成物」におけるオレフィン-無水マレイン酸ナトリウム共重合体の含有割合は、0.97質量%であり、これを有効数字1桁で表示すると1質量%である。また、本件訂正発明1において、(E)成分としてアクリル酸/マレイン酸共重合体ナトリウムを0.5、1、2、4質量%含有する実施例を対比すると効果に差がない。したがって、「1質量%以上、8質量%以下」という構成は、課題解決のための具体的手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)であって、実質的な相違点ではない(令和3年4月28日提出の申立人1が提出した意見書の13頁13行?14頁25行)。

乙第2号証の実験データは参酌するべきではない(令和3年4月28日提出の申立人1が提出した意見書の14頁26行?15頁29行)。

「重量平均分子量」の測定方法には様々なものがあるので、重量平均分子量の技術的な意味が不明確であるから、特許請求の範囲の記載は明確ではない。 また、本件訂正発明は明確ではないから実施することができない(令和3年4月28日提出の申立人1が提出した意見書の15頁30行?16頁24行)。

乙第2号証の実験成績証明書の結果は、参酌されるべきではない(令和3年4月27日提出の申立人2が提出した意見書の4頁下から4行?5頁15行)。また、仮に参酌したとしても、本件訂正発明が優れたスケール防止性と嵩張り抑制効果を示すことを裏付けるものではない(令和3年4月27日提出の申立人2が提出した意見書の5頁16行?9頁14行)。

0.97質量%を1質量%とする程度のことは、課題解決のための具体化手段における微差に過ぎない(令和3年4月27日提出の申立人2が提出した意見書の9頁15?26行)。

本件訂正発明が優れたスケール防止性と嵩張り抑制効果を示すことを裏付けられていないので、サポート要件違反である(令和3年4月27日提出の申立人2が提出した意見書の10頁6?17行)。

「重量平均分子量」の測定方法には様々なものがあるので、重量平均分子量の技術的な意味が不明確であるから、特許請求の範囲の記載は明確ではない。

(2) 検討
アの主張は、要するに、先願発明の「オレフィン-無水マレイン酸ナトリウム共重合体」は、実質的に、先願明細書に記載されている「アクリル酸-マレイン酸ナトリウム塩共重合体」と同じ機能を果たす洗浄剤成分であり、その重量平均分子量は不明であるが、アクリル酸-マレイン酸ナトリウム塩共重合体の重量平均分子量を3,000以上、120,000以下に限定することは、周知/慣用技術であって新たな効果を奏さないものであるから、相違点1のうち、先願明細書に記載されている「アクリル酸-マレイン酸ナトリウム塩共重合体」の重量平均分子量が不明である点は、実質的な相違点ではないというものであると解されるが、上記5のとおり、先願明細書に記載されている「アクリル酸-マレイン酸ナトリウム塩共重合体」は、その重量平均分子量が不明であって、3,000以上、120,000以下であるといえるものではないから、採用できない。

イ、カの主張は、先願発明の「自動食器洗浄機用洗浄剤組成物」における「オレフィン-無水マレイン酸ナトリウム共重合体」の含有割合は、0.97質量%であるが、0.97質量%を有効数字1桁で表示すると1質量%であるし、本件訂正発明1の「1質量%以上、8質量%以下」という構成は、課題解決のための具体的手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)であるから、相違点1のうち、「オレフィン-無水マレイン酸ナトリウム共重合体」の含有割合が0.97質量%である点は、実質的な相違点ではないというものであると解される。
しかしながら、先願1の明細書の記載からみて、先願発明において「オレフィン-無水マレイン酸ナトリウム共重合体」の含有割合を有効数字1桁で表示すべき根拠は何ら見いだせないし、本件特許の願書に添付した明細書には「(E)成分の洗浄剤組成物中の割合は、・・・1質量%以上、5質量%以下であることが特に好ましい。」(段落【0019】)と記載されているから、本件訂正発明1における上記「1質量%以上」であることは1%未満と比較して効果に優れていることが明らかであって、この相違が新たな効果を奏さない微差であるとはいえない。

なお、ウ、オの主張は、上記5における判断に影響しないので、その検討は省略し、また、エ、キ、クの主張については、後記第6でまとめて検討する。

7 本件訂正発明1についての小括

以上のとおり、本件訂正発明1は、先願明細書等に記載された発明と同一ではない。

8 本件訂正発明2?11について

本件訂正発明2?9は、本件訂正発明1を直接又は間接的に引用しさらに限定したものであり、本件訂正発明10は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含みカテゴリーを洗浄方法に変更したものに該当し、本件訂正発明11は、本件訂正発明10を引用してさらに限定したものに該当するところ、上記7のとおり、本件訂正発明1は、先願明細書等に記載された発明と同一ではない。
そうすると、さらに検討するまでもなく、本件訂正発明2?11は、先願明細書等に記載された発明と同一ではない。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人1が主張する取消理由のうち、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由は、以下のとおりである。

<申立理由1-1>
本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
<申立理由1-2>
本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

申立人2が主張する取消理由のうち、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由は、以下のとおりである。また、申し立て理由2-1は、刊行物として下記の甲2-1を、また、申し立て理由2-2は、刊行物として下記の甲2-1?甲2-3を引用するものである。

<申立理由2-1>
本件特許の特許請求の範囲の請求項1?11に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
<申立理由2-2>
本件特許の特許請求の範囲の請求項1?11に係る発明は、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
<申立理由2-3>
本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
<申立理由2-4>
本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

<刊行物>
甲2-1:特開2015-124358号公報(申立人2が提出した甲第1号証。以下、「甲2-1」という。)
甲2-2:特表2009-517330号公報(申立人2が提出した甲第2号証。以下、「甲2-2」という。)
甲2-3:特開昭60-188498号公報(申立人2が提出した甲第3号証。以下、「甲2-3」という。)

2 申立理由1-1について
申立理由1-1の概要(申立人1の特許異議申立書の24頁5行?28頁7行)は、要するに、本件訂正発明は、その課題を解決することができるものであるとは認められないので、実施可能ではないというものであるが、特許法36条4項1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載について、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定めているのであって、仮に、その発明がその課題を解決することができないものであるとしても、実施可能要件違反とは関係がない。
したがって、申立人1の主張は、採用できない。

2 申立理由1-2、及び、申立理由2-3について
(1) 申立理由の概要
申立理由1-2の概要(申立人1の特許異議申立書の24頁5行?28頁7行)は、具体的には、「特許権者が本件特許の審査の過程において令和1年8月20日に提出した意見書の主張(特に、追加処方に基づく主張)を勘案して本件発明の課題を認定し、これが正しいことを前提として、本件特許発明1は、本件特許明細書の段落【0016】に記載された各種の化合物を(D)成分として配合する場合等を包含するところ、このような場合においても本件特許発明の課題を解決できることについて、本件特許明細書には何らの記載も示唆も無い」、「本件明細書の段落【0013】の(B)成分の含有割合に関する記載、同段落【0014】の(C)成分の含有割合に関する記載、及び、同段落【0016】の(D)成分の含有割合に関する記載によれば、(B)成分、(C)成分、(D)成分の含有量に関する規定を備えていない本件特許発明は、課題が解決できない場合を包含している」、「抑泡性の評価方法や評価基準が技術常識ではないので、抑泡性に係る課題を解決することができるとは理解できないし、「○」の評価の実施例は課題を解決できない態様と解釈せざるを得ないが、△の評価を受けている実施例が本件特許発明1の範囲に含まれている」、「本件特許明細書の段落【0017】の記載によれば(E)成分が、重量平均分子量が3,000以上、120,000以下のアクリル酸/マレイン酸共重合体アルカリ金属塩、重量平均分子量が1,000以上、20,000以下のアクリル酸/スルホン酸共重合体のアルカリ金属塩から選ばれる少なくとも一種以外のものである場合は課題を解決できないことを特許権者が自認しているといえる」というものであり、要するに、本件訂正発明には実施例よりも効果が劣る態様が含まれている可能性があるので、サポート要件を満足しない、というものであると解される。

また、申立理由2-3の概要(申立人2の特許異議申立書の26頁2行?32頁8行)は、具体的には、「被覆剤中の安息香酸ナトリウムの純分が99.0%以上の塩素系漂白剤A-1を用いた実施例しかないので、被覆剤が安息香酸塩を50質量%以上含む場合に本発明の効果を発揮することが示されていないし、本件請求項1は、被覆剤中の安息香酸ナトリウムの純分が99.0%以上に特定されていない」、「(A)成分における被覆剤と塩素系漂白剤の質量割合が本件請求項1で特定されていないため、例えば被覆剤の質量割合が大きく、塩素系漂白剤がほとんど含まれない結果、充分なバイオフィルム防止性、漂白性が発揮されない場合を含んでいる」、「本件請求項1は、自動食器洗浄機用洗浄剤組成物全量に対する(A)成分の含有量が0.3質量%以上に特定されているが、実施例は(A)成分の含有量が1質量%未満のものについて実施例がないので、本件特許発明の漂白性能等の効果を発揮できることが実証されていない」、「本件請求項1は、(B)成分の含有量が特定されていないが40質量%未満であると、充分な洗浄性能が得られない可能性が高い」、「本件請求項1は、(C)成分の含有量が特定されていないが35質量%を超えると、貯蔵安定性や均一性が損なわれるおそれがある」、「キレート剤や特定の酸基含有重合体、有機ホスホン酸を酸の状態で添加した場合に本件発明の効果が本当に発揮されるのか明らかでない」などというものであり、要するに、本件訂正発明には実施例よりも効果が劣る態様が含まれている可能性があるので、サポート要件を満足しない、というものであると解される。

(2) 検討手法
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下、上記観点に沿って検討する。

(3) 本件発明が解決しようとする課題
本件発明が解決しようとする課題は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0005】の記載からみて、「被覆漂白剤を、アルカリ剤及びキレート剤とともに併用する洗浄剤において、洗浄中の泡立ちを抑えるとともに、被覆漂白剤を用いた洗浄剤において、水に溶解しないシリカやステアリン酸カルシウムなどが自動食器洗浄機中に残留することによる洗浄阻害の発生を抑制すること」であると認められる。

(4) 検討・判断
発明の詳細な説明には本件訂正発明の実施例が130例記載されており、かつ、いずれについても、洗浄性試験、バイオフィルム防止性試験、漂白性試験、金属腐食防止性試験、抑泡性試験、臭気性試験、貯蔵安定性試験、成分の均一性試験が行われていて(段落【0024】?【0057】)、これをみれば、本件訂正発明が、塩素系漂白剤、アルカリ剤及びキレート剤を含有しているにもかかわらず、洗浄剤組成物の製造時、貯蔵時及び使用時においても、有効塩素安定性が良好で、漂白性、バイオフィルム抑制性に優れ、安定した洗浄効果を発揮する。また、洗浄剤組成物を使用する際に、泡立ちや不溶解性成分がなく、一定の濃度の塩素系漂白剤が供給できるため、洗浄阻害や腐食を引き起こすことのない利点を有する(段落【0007】)ものであることを理解することができるから、本件訂正発明は、その課題を解決することができるものであると認められる。
申立人1、申立人2の主張は、要するに、本件訂正発明には実施例よりも効果が劣る態様が含まれている可能性があるので、サポート要件を満足しない可能性があると述べるにとどまるものであって、具体的に、課題を解決できない態様を指摘し、かつ、当該態様が含まれていることを立証しているわけではないので、採用できない。

したがって、本件訂正発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。

3 申立理由2-4について

申立理由2-4の概要は、要するに、重量平均分子量の測定方法には様々なものがあるので、請求項に記載されている重量平均分子量の技術的な意味が不明確であるというものであるが、例えば重さや長さについても様々な測定方法があったとしても、そのことによって技術的な意味が不明であるわけではないし、そもそも、「重量平均分子量」という技術用語は、化学大事典にも掲載されている(「平均分子量」の項を参照。)ほど一般的な技術用語であり、その技術的な意味自体は明確である。また、特許異議申立人は、異なる測定方法によれば得られた結果がどのように相違し、それが請求項の技術的意義を不明にするほどの影響を与えるかといった具体的な理由は何ら示しておらず、単に測定方法が記載されていないと主張するのみであるから、上記のとおり、一般的な技術用語の測定方法が明記されていないことのみをもって、請求項が不明確であるとすることはできない。

4 申立理由2-1、及び、申立理由2-2について
(1) 申立理由の概要
申立理由2-1、及び、申立理由2-2の概要は、要するに、本件訂正発明は、甲2-1に記載された発明であるか、甲2-1?甲2-3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるというものであり、甲2-1の比較例2の記載に基づいて引用発明を認定するものである。

(2) 判断
甲2-1には以下の事項が記載されている。
「【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭59-004480号公報
【特許文献2】特表平04-504271号公報」
「【0022】
本発明のカートリッジ洗浄剤では、上記洗浄剤組成物を構成する洗浄成分は、アルカリ金属水酸化物、炭酸塩、ケイ酸アルカリ金属塩、水溶性ポリマー及びキレート剤からなる群から選択された少なくとも一種と、界面活性剤とを含有することが望ましい。
上記洗浄成分がアルカリ金属水酸化物、炭酸塩、ケイ酸アルカリ金属塩、水溶性ポリマー及びキレート剤からなる群から選択された少なくとも一種と、界面活性剤とを含有するものであると、充分な洗浄力が得られる。」
「【0039】
本発明のカートリッジ洗浄剤を構成する洗浄剤組成物に含まれるアルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられ、炭酸塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられ、ケイ酸アルカリ金属塩としては、例えば、オルソケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウムの5水塩又は9水塩等が挙げられ、キレート剤としては、例えば、アミノカルボン酸塩(メチルグリシン二酢酸塩、グルタミン酸二酢酸塩、二トリロ三酢酸塩、エチレンジアミン四酢酸塩)、有機酸(クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸)等が挙げられる。塩としてのキレート剤は、ナトリウム塩、カリウム塩が好ましい。水溶性ポリマーとしては、たとえばアクリル酸、メタクリル酸またはマレイン酸の単独あるいはコポリマー、さらにはそれらとオレフィンとのポリマー、さらに側鎖にスルホン基を有するものといったもの等が挙げられる。それらが塩である場合は、ナトリウム塩、カリウム塩、エタノールアミン塩が特に好適に用いられる。」
「【実施例】
【0051】
以下に本発明をより具体的に説明する実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
【0052】
まず、円柱状固形体(直径10mm×高さ10mm)の活性塩素剤(主成分ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム、有効塩素濃度60%)を、下記する洗浄剤組成物の質量100質量部に対して5質量部となる量を準備した。
【0053】
水酸化ナトリウム4質量%、メタケイ酸ナトリウム5質量%、炭酸ナトリウム10質量%、オルソケイ酸ナトリウム25質量%、ニトリロ三酢酸三ナトリウム16質量%、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム15質量%、ポリアクリル酸ナトリウム5質量%、界面活性剤(ポリオキシアルチレンアルキルエーテル)5質量%、水15質量%を混合した後、80℃に加熱して維持し、攪拌することにより、水と水以外の洗浄剤組成物の原料を含むスラリー液を調製した。
【0054】
次に、上記工程で調製したスラリー液を、図1に示す形状の容器本体に充填し、上記スラリー液の温度が30℃に下がるまで常温で放置してスラリー液を固化させ、容器本体の形状に固化された固形体からなる洗浄剤組成物を調製した。その際、固化直前の洗浄剤組成物に、準備した活性塩素剤の固形体の一部を嵌め込んだ後、洗浄剤組成物を固化させた。従って、図2に示すように、活性塩素剤の固形体の一部は、固形体からなる洗浄剤組成物に嵌め込まれた状態で固定された。残りの固形体からなる活性塩素剤は、洗浄剤組成物が固化後、容器本体に収容させ、容器本体と中蓋体を組み合わせてカートリッジ洗浄剤10とした。なお、図2に示すように、容器本体を逆さの状態にすると、活性塩素剤の固形体は、中蓋体に収容される。
なお、各実施例及び各比較例において、活性塩素剤の配合量は、洗浄剤組成物の質量100質量部に対して5質量部となる量とした。」
「【0059】
(比較例2)
特許文献2に記載されているように、組成は実施例1と同様である活性塩素剤を不活性コーティング物質で被覆してカプセル化した。そして、組成は実施例1と同様である洗浄剤組成物の中に、上記カプセル化された活性塩素剤が分散されたカートリッジ洗浄剤を製造した。」

そうすると、甲2-1の比較例2には、「特許文献2に記載されているように、組成は実施例1と同様である活性塩素剤を不活性コーティング物質で被覆してカプセル化したものを、組成は実施例1と同様である洗浄剤組成物の中に分散したカートリッジ洗浄剤」が記載されており、ここで、「特許文献2」は、「特表平04-504271号公報」であり、「組成は実施例1と同様である活性塩素剤」は、「主成分ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム、有効塩素濃度60%」であり、「組成は実施例1と同様である洗浄剤組成物」は、「水酸化ナトリウム4質量%、メタケイ酸ナトリウム5質量%、炭酸ナトリウム10質量%、オルソケイ酸ナトリウム25質量%、ニトリロ三酢酸三ナトリウム16質量%、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム15質量%、ポリアクリル酸ナトリウム5質量%、界面活性剤(ポリオキシアルチレンアルキルエーテル)5質量%、水15質量%を混合した後、80℃に加熱して維持し、攪拌することにより調製したスラリー液を固化させたもの」であり、「活性塩素剤の配合量は、洗浄剤組成物の質量100質量部に対して5質量部となる量」であるから、甲2-1には、以下の発明(以下、「甲2-1発明」という。)が記載されていると認められる。

「特表平04-504271号公報に記載されているように、主成分ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム、有効塩素濃度60%である活性塩素剤を不活性コーティング物質で被覆してカプセル化したものを、
水酸化ナトリウム4質量%、メタケイ酸ナトリウム5質量%、炭酸ナトリウム10質量%、オルソケイ酸ナトリウム25質量%、ニトリロ三酢酸三ナトリウム16質量%、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム15質量%、ポリアクリル酸ナトリウム5質量%、界面活性剤(ポリオキシアルチレンアルキルエーテル)5質量%、水15質量%を混合した後、80℃に加熱して維持し、攪拌することにより調製したスラリー液を固化させたものの中に分散したカートリッジ洗浄剤であって、
活性塩素剤の配合量は、洗浄剤組成物の質量100質量部に対して5質量部となる量である、
カートリッジ洗浄剤。」

本件訂正発明1と甲2-1発明を対比すると、
甲2-1発明の「特表平04-504271号公報に記載されているように、主成分ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム、有効塩素濃度60%である活性塩素剤を不活性コーティング物質で被覆してカプセル化したもの」は、表面が不活性コーティング物質で被覆された主成分ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム、有効塩素濃度60%である活性塩素剤であるから、本件訂正発明1の「(A)成分として被覆剤で被覆された塩素系漂白剤」に相当する。 甲2-1発明の「水酸化ナトリウム」、「メタケイ酸ナトリウム」、「炭酸ナトリウム」及び「オルソケイ酸ナトリウム」は、本件訂正発明1の「(B)成分としてアルカリ剤」に相当する。
甲2-1発明の「ニトリロ三酢酸三ナトリウム」及び「エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム」は、本件訂正発明1の「(C)成分としてニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、グルタミン酸二酢酸、メチルグリシン二酢酸、又はそれらの塩より選ばれる少なくとも一種のキレート剤」に相当する。
甲2-1発明は、「活性塩素剤の配合量は、洗浄剤組成物の質量100質量部に対して5質量部となる量」と特定されているから、甲2-1発明の「活性塩素剤を不活性コーティング物質で被覆してカプセル化したもの」の含有割合は、洗浄剤組成物の質量100質量部に対して少なくとも5質量部(5質量%)である。したがって、甲2-1発明は、本願発明1の「自動食器洗浄機用洗浄剤組成物全量に対し(A)成分を0.3質量%以上含む」を充足する。
甲2-1発明の「カートリッジ洗浄剤」は、「活性塩素剤を不活性コーティング物質で被覆してカプセル化したもの」を「スラリー液を固化させたものの中に分散した」ものであり、「活性塩素剤の配合量は、洗浄剤組成物の質量100質量部に対して5質量部となる量」(5質量%)である。
また、甲2-1発明は、「不活性コーティング物質」の量に関する特定がないので、活性塩素剤と等量あるいはそれ以下であるとすれば、その量は、洗浄剤組成物の質量100質量部に対して最大で5質量部となる量であり、「活性塩素剤を不活性コーティング物質で被覆してカプセル化したもの」の量は、洗浄剤組成物の質量100質量部に対して5?10質量部(5?10質量%)であり、「スラリー液を固化させたもの」の量は、洗浄剤組成物の質量100質量部に対して90?95質量部(90?95質量%)である。
また、「スラリー液を固化させたもの」は、スラリー液を固化させる際に概ね水が全て蒸発すると解されるから、その質量100質量部に対するニトリロ三酢酸三ナトリウムとエチレンジアミン四酢酸四ナトリウムの合計の量の割合は、概ね36質量%(=(16+15)/(100-15)*100)であり、洗浄剤組成物の質量100質量部に対する含有割合は33?35質量部(33?35質量%(=36/(90?95)*100))である。
したがって、活性塩素剤を不活性コーティング物質で被覆してカプセル化したものの含有割合と、ニトリロ三酢酸三ナトリウムとエチレンジアミン四酢酸四ナトリウムの合計の含有割合の比は、概ね0.14?0.30(=(5?10)/(33?35))である。
したがって、甲2-1発明は、本願発明1の「(A)成分と(C)成分の割合が質量比で(A)/(C)=0.01以上、2以下であり」を充足する。

そうすると、本件訂正発明1と甲2-1発明の一致点、相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「(A)成分として被覆剤で被覆された塩素系漂白剤、
(B)成分としてアルカリ剤、
(C)成分としてニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、グルタミン酸二酢酸、メチルグリシン二酢酸、又はそれらの塩より選ばれる少なくとも一種のキレート剤、を含み、自動食器洗浄機用洗浄剤組成物全量に対し(A)成分を0.3質量%以上含むとともに(A)成分と(C)成分の割合が質量比で(A)/(C)=0.01以上、2以下であり、前記被覆剤が安息香酸塩を50質量%以上含むことを特徴とする自動食器洗浄機用洗浄剤組成物。」

<相違点2>
本件訂正発明1は、「(E)成分として高分子分散剤である、重量平均分子量が3,000以上、120,000以下のアクリル酸/マレイン酸共重合体アルカリ金属塩、重量平均分子量が1,000以上、20,000以下のアクリル酸/スルホン酸共重合体のアルカリ金属塩から選ばれる少なくとも一種を自動食器洗浄機用洗浄剤組成物全量に対し1質量%以上、8質量%以下」含むものであることが特定されているのに対し、甲2-1発明はそのような特定を備えていない点

<相違点3>
「被覆剤」について、本件訂正発明1は、「安息香酸塩を50質量%以上含む」と特定されているのに対し、甲2-1発明は「不活性コーティング物質」に特定されている点

相違点2について検討する。
甲2-1発明は、「ポリアクリル酸ナトリウム」を含むものであり、ポリアクリル酸ナトリウムについて、甲2-1には、「本発明のカートリッジ洗浄剤では、上記洗浄剤組成物を構成する洗浄成分は・・水溶性ポリマー・・からなる群から選択された少なくとも一種と、界面活性剤とを含有することが望ましい。」(段落【0022】)、「水溶性ポリマーとしては、たとえばアクリル酸、メタクリル酸またはマレイン酸の単独あるいはコポリマー、さらにはそれらとオレフィンとのポリマー、さらに側鎖にスルホン基を有するものといったもの等が挙げられる。それらが塩である場合は、ナトリウム塩、カリウム塩、エタノールアミン塩が特に好適に用いられる。」(段落【0039】)と記載されている。
これらの記載に接した当業者は、甲2-1発明の「ポリアクリル酸ナトリウム」が水溶性ポリマーとして添加されていることや、アクリル酸等の単独あるいはコポリマーが同列のものとして列記されていることを理解する。
しかし、そもそも、甲2-1発明は、甲2-1に記載された比較例2に基づくものであり、比較例よりも優れている実施例等が記載されているにも拘わらずわざわざ比較例2に着目しこれに改良などを加えようとする理由がないものである。また、もしも着目する動機付け自体はあったとしても、甲2-1発明を特定するための複数の事項の中から特に水溶性ポリマーとして添加されている「ポリアクリル酸ナトリウム」に着目する動機付けとなる記載や示唆もない。
加えて甲2-1には、「高分子分散剤である、重量平均分子量が3,000以上、120,000以下のアクリル酸/マレイン酸共重合体アルカリ金属塩、重量平均分子量が1,000以上、20,000以下のアクリル酸/スルホン酸共重合体のアルカリ金属塩から選ばれる少なくとも一種」が記載されていないから、もしも水溶性ポリマーとして添加されている「ポリアクリル酸ナトリウム」に着目する動機付けがあったとしても、「高分子分散剤である、重量平均分子量が3,000以上、120,000以下のアクリル酸/マレイン酸共重合体アルカリ金属塩、重量平均分子量が1,000以上、20,000以下のアクリル酸/スルホン酸共重合体のアルカリ金属塩から選ばれる少なくとも一種」に置き換えることを容易に着想し得たとはいえない。
また、本件訂正発明1は、相違点2、3に係る構成を備えるものであって、塩素系漂白剤、アルカリ剤及びキレート剤を含有しているにもかかわらず、洗浄剤組成物の製造時、貯蔵時及び使用時においても、有効塩素安定性が良好で、漂白性、バイオフィルム抑制性に優れ、安定した洗浄効果を発揮する。さらに、洗浄剤組成物を使用する際に、泡立ちや不溶解性成分がなく、一定の濃度の塩素系漂白剤が供給できるため、洗浄阻害や腐食を引き起こすことのない利点を有するという効果を奏する(本件特許の明細書の段落【0007】)ものである。

したがって、相違点3やその余の証拠について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲2-1に記載された発明であるとはいえないし、甲2-1?甲2-3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
また、本件訂正発明2?9は、本件訂正発明1を直接又は間接的に引用しさらに限定したものであり、本件訂正発明10は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含みカテゴリーを洗浄方法に変更したものに該当し、本件訂正発明11は、本件訂正発明10を引用してさらに限定したものに該当するところ、上記のとおり、本件訂正発明1は、甲2-1に記載された発明であるとはいえないし、甲2-1?甲2-3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないものである。
そうすると、さらに検討するまでもなく、本件訂正発明2?11も、甲2-1に記載された発明であるとはいえないし、甲2-1?甲2-3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立人(申立人1及び申立人2)が申立てた取消理由のいずれによっても、本件請求項1?11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】
洗浄剤組成物及びその洗浄方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆された塩素系漂白剤、アルカリ剤及びキレート剤を含有する洗浄剤組成物及びその洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ホテルやレストラン等において食器を洗浄するために自動食器洗浄機が広く用いられるようになっている。自動食器洗浄機用の洗浄剤としては液体、粉末又は固形の洗浄剤組成物が使用されている。自動食器洗浄機用の洗浄剤の主な成分としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム等のアルカリ剤、トリポリリン酸塩、エチレンジアミン四酢酸塩等のキレート剤が使用されている。さらに、食器類に強固に付着したコーヒーや茶渋等の変色した汚れに対しては、塩素系漂白剤を配合したものが用いられる。一方で、塩素系漂白剤はアルカリ剤やキレート剤を含む洗浄剤に直接配合すると、貯蔵時に漂白剤が分解し、使用時に十分な性能が発揮されない。これを解決するため、塩素系漂白剤を被覆して安定化させることが行われている。
【0003】
従来、塩素系漂白剤を被覆する方法としては、アニオン界面活性剤や脂肪酸塩等によって被覆したものが知られている(特許文献1)。また、ワックス類で被覆した後に、シリカやステアリン酸カルシウムなどで被覆したものが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-158008号公報
【特許文献2】特開2009-7566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の被覆漂白剤を、アルカリ剤及びキレート剤とともに併用した洗浄剤は、洗浄中に泡立ってしまうため、自動食器洗浄機用洗浄剤やCIP用洗浄剤には適さないものであった。特許文献2記載の被覆漂白剤を用いた洗浄剤は、水に溶解しないシリカやステアリン酸カルシウムなどが自動食器洗浄機中に残留し、洗浄阻害が発生するため好ましいものではなかった。
そこで、本発明は上記従来の課題に鑑みなされたもので、従来の課題を解決した被覆された塩素系漂白剤を含有する洗浄剤組成物及びその洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち本発明は、
(1)(A)成分として安息香酸塩を含む被覆剤で被覆された塩素系漂白剤、(B)成分としてアルカリ剤、(C)成分としてニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、グルタミン酸二酢酸、メチルグリシン二酢酸、又はそれらの塩より選ばれる少なくとも一種のキレート剤、(E)成分として高分子分散剤である、重量平均分子量が3,000以上、120,000以下のアクリル酸/マレイン酸共重合体のアルカリ金属塩、重量平均分子量が1,000以上、20,000以下のアクリル酸/スルホン酸共重合体のアルカリ金属塩から選ばれる少なくとも一種を自動食器洗浄機用洗浄剤組成物全量に対し1質量%以上、8質量%以下、を含み、自動食器洗浄機用洗浄剤組成物全量に対し(A)成分を0.3質量%以上含むとともに(A)成分と(C)成分の割合が質量比で(A)/(C)=0.01以上、2以下であり、前記被覆剤が安息香酸塩を50質量%以上含むことを特徴とする自動食器洗浄機用洗浄剤組成物、
(2)(A)成分の塩素系漂白剤がジクロロイソシアヌル酸ナトリウムである上記(1)記載の自動食器洗浄機用洗浄剤組成物、
(3)(A)成分の被覆剤が安息香酸ナトリウムもしくは安息香酸カリウムであることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の自動食器洗浄機用洗浄剤組成物、
(4)(A)成分の被覆剤が安息香酸塩を80質量%以上含む上記(1)から(3)のいずれかに記載の自動食器洗浄機用洗浄剤組成物、
(5)(A)成分の塩素系漂白剤と安息香酸塩の質量比が、塩素系漂白剤/安息香酸塩=0.001以上、10以下である上記(1)から(4)のいずれかに記載の自動食器洗浄機用洗浄剤組成物、
(6)(B)成分のアルカリ剤が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウムより選ばれる少なくとも一種である上記(1)から(5)のいずれかに記載の自動食器洗浄機用洗浄剤組成物、
(7)さらに、(D)成分としてノニオン界面活性剤を含有する上記(1)から(6)のいずれかに記載の自動食器洗浄機用洗浄剤組成物、
(8)(D)成分が、リバースプルロニック型ブロックポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルより選ばれる少なくとも一種である上記(7)に記載の自動食器洗浄機用洗浄剤組成物、
(9)前記自動食器洗浄機用洗浄剤組成物が、溶融固形型洗浄剤組成物であることを特徴とする上記(1)から(8)のいずれかに記載の自動食器洗浄機用洗浄剤組成物、
(10)(A)成分として安息香酸塩を含む被覆剤で被覆された塩素系漂白剤、(B)成分としてアルカリ剤、(C)成分としてニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、グルタミン酸二酢酸、メチルグリシン二酢酸、又はそれらの塩より選ばれる少なくとも一種のキレート剤、(E)成分として高分子分散剤である、重量平均分子量が3,000以上、120,000以下のアクリル酸/マレイン酸共重合体のアルカリ金属塩、重量平均分子量が1,000以上、20,000以下のアクリル酸/スルホン酸共重合体のアルカリ金属塩から選ばれる少なくとも一種を自動食器洗浄機用洗浄剤組成物全量に対し1質量%以上、8質量%以下、を含み、自動食器洗浄機用洗浄剤組成物全量に対し(A)成分を0.3質量%以上含むとともに(A)成分と(C)成分の割合が質量比で(A)/(C)=0.01以上、2以下であり、前記被覆剤が安息香酸塩を50質量%以上含む自動食器洗浄機用洗浄剤組成物を下端部分に排出口を有する溶出ホッパーに設置し、給水ノズルから水を供給して洗浄剤組成物を水に溶解させ、自動食器洗浄機用洗浄剤組成物濃度を0.01質量%以上、0.09質量%以下に調整した洗浄液を自動食器洗浄機の洗浄液タンク内で加熱保持する工程、洗浄液タンク内の洗浄液を洗浄機庫内に噴射して食器類を洗浄する工程、洗浄後すすぎ液ですすぐ工程、とからなることを特徴とする自動食器洗浄機による食器類の洗浄方法、
(11)前記すすぐ工程において、すすぎ液を洗浄機の平面積2500cm^(2)あたり、1L以上、3L以下噴射して食器類をすすぐ上記(10)に記載の自動食器洗浄機による食器類の洗浄方法、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の洗浄剤組成物は、塩素系漂白剤、アルカリ剤及びキレート剤を含有しているにもかかわらず、洗浄剤組成物の製造時、貯蔵時及び使用時においても、有効塩素安定性が良好で、漂白性、バイオフィルム抑制性に優れ、安定した洗浄効果を発揮する。また、洗浄剤組成物を使用する際に、泡立ちや不溶解性成分がなく、一定の濃度の塩素系漂白剤が供給できるため、洗浄阻害や腐食を引き起こすことのない利点を有する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の洗浄剤組成物において、塩素系漂白剤をアルカリ剤及びキレート剤と併用した際の分解を抑止するため、(A)成分としては安息香酸塩を含む被覆剤で被覆された塩素系漂白剤を用いる。被覆剤は、安息香酸塩を含んでいれば良いが、安息香酸塩を50質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましく、特に95質量%以上含むことが好ましい。安息香酸塩としては、例えば、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸カルシウム、安息香酸マグネシウムなどが挙げられるが、洗浄時の溶解性の点で安息香酸ナトリウムが好ましい。
【0009】
塩素系漂白剤を被覆する方法としては、特に限定するものではないが、例えば乾燥した塩素系漂白剤に対して、安息香酸塩を水、エタノール、メタノール、エーテル等の溶媒に溶解あるいは懸濁させた液を噴霧し、乾燥させ被覆する方法、また乾燥した塩素系漂白剤に安息香酸塩微粉末を混ぜ水等の結合剤を噴霧し被覆する方法等が挙げられる。
【0010】
(A)成分における塩素系漂白剤としては、クロラミンB(N-クロロベンゼンスルホンアミドナトリウム)、ジクロラミンB(N,N’-ジクロロベンゼンスルホンアミド)、クロラミンT(N-クロロ-P-トルエンスルホンアミドナトリウム)、ジクロラミンT(N,N’-ジクロロ-P-トルエンスルホンアミド)等のクロロアミン化合物。トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸、又はそれらの塩等の塩素化イソシアヌル酸類、次亜塩素酸カルシウム等の次亜塩素酸塩、塩化リン酸三ナトリウム、二酸化塩素等が挙げられる。これらの中でも、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウムが好ましく、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムが特に好ましい。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせても良い。
【0011】
本発明において、(A)成分の安息香酸塩を含む被覆剤で被覆された塩素系漂白剤の洗浄剤組成物中の配合量は、良好な洗浄性、バイオフィルム防止性、漂白性を得るために0.01質量%以上、10質量%以下が好ましく、より好ましくは0.1質量%以上、5質量%以下、特に好ましくは0.3質量%以上、3質量%以下である。この範囲において、良好な漂白性が得られる。
【0012】
また、被覆量は、塩素系漂白剤と安息香酸塩の質量比が、塩素系漂白剤/安息香酸塩=0.001以上、1,000以下が好ましく、より好ましくは0.01以上、100以下、更に好ましくは0.1以上、10以下である。塩素系漂白剤と安息香酸塩の質量比が、0.001未満では十分な安定化効果が期待できない虞があり、10を超えてもそれ以上の効果は期待できない。
【0013】
(B)成分のアルカリ剤としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属珪酸塩等が挙げられる。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。アルカリ金属炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸水素カリウム等が挙げられる。アルカリ金属珪酸塩としては珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、具体的には、オルト珪酸ナトリウム、メタ珪酸ナトリウム、1号珪酸ナトリウム、2号珪酸ナトリウム、3号珪酸ナトリウム、4号珪酸ナトリウム、1号珪酸カリウム、2号珪酸カリウムが挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせても良い。これらアルカリ剤のうち、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウムの少なくとも一種が好ましい。(B)成分の洗浄剤組成物中の割合は、0.1質量%以上、90質量%以下であることが好ましいが、1質量%以上、70質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上、50質量%以下であることが特に好ましい。0.1質量%未満では洗浄性が低下する虞があり、90質量%を超えてもそれ以上の効果は期待できない。
【0014】
(C)キレート剤としては、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、グルタミン酸二酢酸、メチルグリシン二酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、トリポリリン酸、又はそれらの塩等が挙げられる。これらキレート剤の中でも、洗浄効果が良好なことからニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、グルタミン酸二酢酸、メチルグリシン二酢酸、又はそれらの塩が好ましく、特にニトリロ三酢酸又はその塩、及びエチレンジアミン四酢酸又はその塩が好ましい。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせても良い。(C)成分の洗浄剤組成物中の割合は、1質量%以上、45質量%以下であることが好ましいが、10質量%以上、40質量%以下であることがより好ましく、20質量%以上、35質量%以下であることが特に好ましい。1質量%未満では洗浄性が低下する虞があり、45質量%を超えてもそれ以上の効果は期待できない。
【0015】
本発明の洗浄剤組成物は、上記(A)成分と(C)成分を、質量比(A)/(C)が、0.002以上、20以下となるように含有するが、0.004以上、10以下であることが好ましく、0.01以上、5以下がより好ましく、0.04以上、1以下が特に好ましい。(A)/(C)が0.002未満の場合には、洗浄性、バイオフィルム防止性、漂白性、が低下する虞があり、20を超える場合には臭気性や金属腐食防止性が悪くなる虞がある。
【0016】
本発明の洗浄剤組成物は、洗浄効果向上のために更に(D)成分としてノニオン界面活性剤を含有することができる。(D)ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル(エチレンオキシドとプロピレンオキシドはランダム、ブロックの何れでもよい)等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリマー(エチレンオキシドとプロピレンオキシドはランダム、ブロック、リバースの何れでもよい)等のプルロニック型界面活性剤、ポリエチレングリコールプロピレンオキシド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキシド付加物、グリセリン脂肪酸エステル又はそのエチレンオキシド付加物、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アルキルポリグルコシド、脂肪酸モノエタノールアミド又はそのエチレンオキシド付加物、脂肪酸-N-メチルモノエタノールアミド又はそのエチレンオキシド付加物、脂肪酸ジエタノールアミド又はそのエチレンオキサイド付加物、ショ糖脂肪酸エステル、アルキル(ポリ)グリセリンエーテル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸メチルエステルエトキシレート、ポリオキシエチレンアセチレニックグリコールエーテル(アセチレングリコールに酸化エチレンオキシドを付加した化合物)、N-長鎖アルキルジメチルアミンオキシド等が挙げられる。この中でも、洗浄性、抑泡性、成分の均一性に優れることからリバースプルロニック型ブロックポリマーが好ましい。具体的には、アデカプルロニック25R-1やアデカプルロニック25R-2が好ましい。(D)成分の洗浄剤組成物中の割合は、0.1質量%以上、10質量%以下であることが好ましいが、0.3質量%以上、7質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上、5質量%以下であることが特に好ましい。0.1質量%未満では洗浄効果の向上が期待できない虞があり、10質量%を超えると貯蔵安定性が低下する虞がある。
【0017】
本発明の洗浄剤組成物には、更に(E)成分として、高分子分散剤、有機ホスホン酸、又はそれらの塩から選ばれる少なくとも一種以上を配合することができる。高分子分散剤としては、カルボン酸型ポリマー、スルホン酸型ポリマーやこれらの塩が挙げられ、高分子分散剤は2種以上を組み合わせて用いることができる。カルボン酸型ポリマーとしては、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸型共重合体、マレイン酸型共重合体、メタクリル酸型共重合体、やこれらの塩等が挙げられるが、ポリアクリル酸やその塩、アクリル酸/マレイン酸共重合体やその塩がより好ましい。カルボン酸型ポリマーのうち、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸型共重合体、マレイン酸型共重合体、メタクリル酸型共重合体、やこれらの塩は、重量平均分子量が3,000以上、120,000以下が好ましく、特に好ましくは10,000以上、90,000以下である。これらのカルボン酸型ポリマーは、重量平均分子量が3,000未満では再汚染防止性の点で好ましくなく、120,000を超えると貯蔵安定性の点で好ましくない。カルボン酸型ポリマーのなかでもポリマレイン酸やその塩の重量平均分子量については、300以上、2,000以下が好ましく、400以上、1,500以下であることが特に好ましい。スルホン酸型ポリマーとしては、アクリル酸/スルホン酸型モノマー共重合体が挙げられ、スルホン酸型ポリマーの重量平均分子量は1,000以上、20,000以下が好ましく、特に好ましくは2,000以上、15,000以下である。スルホン酸型ポリマーの重量平均分子量が1,000未満であると、スケール防止性の点で好ましくなく、20,000を超えてもスケール防止性の点で好ましくない。高分子分散剤とし
て用いるカルボン酸型ポリマー、スルホン酸型ポリマーの塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩が好ましい。(E)成分として用いる高分子分散剤としては、洗浄剤の嵩張りを抑制する点、スケール防止性の点でアクリル酸/スルホン酸共重合体、アクリル酸/マレイン酸共重合体、あるいはこれらの塩が好ましく、アクリル酸/スルホン酸共重合体あるいはその塩が特に好ましい。
【0018】
(E)成分の有機ホスホン酸又はその塩としては、分子内に少なくとも1つ以上のホスホン酸基を含む化合物であり、具体的には、メチルジホスホン酸、エチリデンジホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、1-ヒドロキシプロピリデン-1,1-ジホスホン酸、1-ヒドロキシブチリデン-1,1-ジホスホン酸、エチルアミノビス(メチレンホスホン酸)、ドデシルアミノビス(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンビス(メチレンホスホン酸)、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、1,2-プロピレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ヘキサメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、シクロヘキサンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、グリコールエーテルジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、トリエチレンテトラミンヘキサ(メチレンホスホン酸)、トリ(2-アミノエチル)アミンヘキサ(メチレンホスホン酸)、テトラエチレンペンタミンヘプタ(メチレンホスホン酸)、ペンタエチレンヘキサミンオクタ(メチレンホスホン酸)、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、アミノトリメチレンホスホン酸等が挙げられ、これらの中でも、スケール洗浄性の点から、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)が好ましい。有機ホスホン酸として用いる塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩が好ましい。
【0019】
(E)成分の洗浄剤組成物中の割合は、0.1質量%以上、10質量%以下であることが好ましいが、0.5質量%以上、7質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上、5質量%以下であることが特に好ましい。0.1質量%未満ではスケール防止性が期待できない虞があり、10質量%を超えると貯蔵安定性の低下や溶融固形型洗浄剤組成物の製造時に増粘し均一なスラリーを形成できない虞がある。
【0020】
本発明の洗浄剤組成物は、更に必要に応じて任意成分として(D)成分以外の界面活性剤、シリコーン系消泡剤、防食剤、粘度調整剤、防腐剤、pH調整剤、香料、色素等の成分を含有していても良い。
【0021】
本発明の洗浄剤組成物は、固体状態の形態の製品(固形ブロック洗浄剤)としてもよいし、粉体の形態の製品としてもよいが、溶融混合した洗浄剤組成物を容器内に充填して固形化した溶融固形型洗浄剤組成物であることが好ましい。溶融混合した洗浄剤組成物の製造は、(A)成分から(C)成分に、更に必要に応じて(D)成分、(E)成分、及び更にその他の任意成分を加熱下に溶融混合したスラリーを冷却固形化して得られるが、通常、溶融混合物をプラスチック等の容器に充填し、容器内で冷却固形化して製品化される。また、別の方法としては、(B)成分から(E)成分及びその他の任意成分を加熱下に溶融混合し、容器に充填後スラリー中に(A)成分を添加すること(添加後に攪拌してもよい)や、容器に予め(A)成分を入れておき、その容器にスラリーを直接充填しても良い(添加後に攪拌してもよい)。
【0022】
本発明の洗浄剤組成物を用いて自動食器洗浄機で食器類の洗浄を行う方法としては、洗浄剤組成物を自動食器洗浄機の洗浄液タンク内で水に溶解させ洗浄剤組成物濃度を0.01質量%以上、0.30質量%以下に調整した洗浄液を洗浄液タンク内で加熱保持する工程、洗浄液タンク内の洗浄液を洗浄機庫内に噴射して食器類を洗浄する工程、洗浄後にすすぎ液ですすぐ工程とを連続して行う方法が挙げられる。洗浄剤組成物濃度を0.01質量%以上、0.30質量%以下となるように水に溶解させるには、水溶液の電気伝導度を測定する。洗浄剤組成物の水溶液の電気伝導度は、溶解した洗浄剤組成物の濃度に比例するため、洗浄剤組成物を溶解した洗浄液タンクの水溶液の電気伝導度を測定することで洗浄剤の濃度が制御可能となる。通常、洗浄液タンクの水溶液の電気伝導度は機械的に測定され、電気伝導度が低い場合には、自動的に洗浄剤組成物が洗浄タンクに供給される。その際の供給方法としては、洗浄剤組成物を充填した溶出ホッパーを用いて、ホッパー内の洗浄剤組成物の必要量を水で溶解し、供給管を通って食器洗浄機に送る方法が挙げられる。洗浄剤組成物を所定濃度に希釈調製した洗浄液は、洗浄液タンク内で通常、40℃以上、70℃以下で保持される。洗浄液は洗浄機庫内の食器類に対し、30秒以上、120秒以下噴射される。すすぎ液としては通常、水道水が用いられるがリンス剤を用いても用いなくても良い。すすぎ液は、洗浄機の食器設置平面積2500cm^(2)当たり1L以上、3L以下が好ましい。またすすぎ液の温度は40℃以上、95℃以下が好ましく、より好ましくは60℃以上、90℃以下である。洗浄剤組成物の希釈水やすすぎ液の水道水としては、例えば、東京都荒川区の水道水(pH=7.6、総アルカリ度(炭酸カルシウム換算として)40.5mg/L、ドイツ硬度2.7°DH(そのうち、カルシウム硬度2.0°DH、マグネシウム硬度0.7°DH)、塩化物イオン21.9mg/L、ナトリウム及びその化合物15mg/L、硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素1.2mg/L、フッ素及びその化合物0.1mg/L、ホウ素及びその化合物0.04mg/L、総トリハロメタン0.016mg/L、残留塩素0.4mg/L、有機物(全有機炭素量)0.7mg/L)が挙げられる。
【0023】
本発明の洗浄剤組成物の電気伝導度の範囲としては、例えば、イオン交換水1Lに洗浄剤組成物を2.0g溶解させた際の60℃での電気伝導度が2.2mS/cm以上、20.2mS/cm以下であり、イオン交換水1Lに洗浄剤組成物を0.9g溶解させた際の60℃での電気伝導度が1.0mS/cm以上、9.3mS/cm以下であり、イオン交換水1Lに洗浄剤組成物を0.1g溶解させた際の60℃での電気伝導度が0.01mS/cm以上、1.4mS/cm以下である。
【0024】
以下に本発明を実施例、比較例を挙げてより具体的に説明する。なお、以下の実施例等において「%」は特に記載がない限り質量%を表し、表中における実施例および比較例の配合の数値は純分の質量%を表す。実施例、比較例において使用した化合物を以下に記す。
【0025】
(A)安息香酸塩を含む被覆剤で被覆された塩素系漂白剤
A-1:コーティングジクロロイソシアヌル酸ナトリウム1(被覆剤は株式会社ウエノフードテクノ製の安息香酸ナトリウム:製品名 安息香酸ナトリウムウエノ、純分99.0%以上)
A-2:コーティングジクロロイソシアヌル酸ナトリウム2(被覆剤は和光純薬工業株式会社製の安息香酸カリウム:製品名 安息香酸カリウム、純分99.0%以上)
A-3:コーティング次亜塩素酸カルシウム(被覆剤は株式会社ウエノフードテクノ製の安息香酸ナトリウム:製品名 安息香酸ナトリウムウエノ、純分99.0%以上)
A-4:コーティングトリクロロイソシアヌル酸ナトリウム(被覆剤は株式会社ウエノフードテクノ製の安息香酸ナトリウム:製品名 安息香酸ナトリウムウエノ、純分99.0%以上)
A-5:コーティングジクロロイソシアヌル酸ナトリウム3(被覆剤は株式会社ウエノフードテクノ製の安息香酸ナトリウム:製品名 安息香酸ナトリウムウエノ、純分99.0%以上と、日本化学工業株式会社製の硫酸ナトリウム:製品名 中性無水芒硝 純分99.0%、を質量比1:1で混合したもの)
(A)成分は、顆粒状の塩素系漂白剤10部に、被覆剤2部を溶解したメタノール液で噴霧し、熱風で乾燥させることによって調製した。
【0026】
(A′)(A)成分の比較成分
A′-1:ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム
【0027】
(B)アルカリ剤
B-1:水酸化ナトリウム、商品名:粒状苛性ソーダ、旭硝子社製
B-2:水酸化カリウム、商品名:フレーク苛性カリ、東亞合成社製
B-3:炭酸ナトリウム、商品名:ソーダ灰デンス、トクヤマ社製
B-4:炭酸カリウム、商品名:炭酸カリウム、旭硝子社製
B-5:ネオ?オルソ80粒、化学名:オルソ珪酸ナトリウム(SiO_(2)/Na_(2)O=0.5)、SiO_(2)として28%、有効成分含有量 2Na_(2)O・SiO_(2)として77%以上、広栄化学工業社製
B-6:メタ珪酸ソーダ5水塩、化学名:メタ珪酸ナトリウム5水塩(SiO_(2)/Na_(2)O=1)、SiO_(2)として28.3%、有効成分含有量 99%以上、広栄化学工業社製
B-7:珪酸ソーダ3号、化学名:珪酸ナトリウム(SiO_(2)/Na_(2)O=3.2)、SiO_(2)として29%、有効成分含有量38.5%、広栄化学工業社製
【0028】
(C)キレート剤
C-1:ニトリロ三酢酸三ナトリウム塩、商品名:Trilon A92R、BASF社製
C-2:エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩、商品名:ディゾルビンNA、アクゾノーベル社製
C-3:グルタミン酸二酢酸四ナトリウム塩、商品名:ディゾルビンGL-47-S、アクゾノーベル社製
C-4:メチルグリシン二酢酸三ナトリウム塩、商品名:Trilon M Powder、BASF社製
C-5:トリポリリン酸ナトリウム、商品名:トリポリリン酸ソーダ、下関三井化学社製
【0029】
(D)ノニオン界面活性剤
D-1:リバースプルロニック型ブロックポリマー1(ポリオキシエチレン鎖の両端にポリオキシプロピレン鎖が結合したブロックポリマー);オキシエチレン鎖の含有率が20%、アデカプルロニック25R-2、ADEKA社製
D-2:リバースプルロニック型ブロックポリマー2(ポリオキシエチレン鎖の両端にポリオキシプロピレン鎖が結合したブロックポリマー);オキシエチレン鎖の含有率が10%、アデカプルロニック25R-1、ADEKA社製
D-3:ポリオキシアルキレンアルキルエーテル;エチレンオキシドの平均付加モル数が8、プロピレンオキシドの平均付加モル数が3、アルキル基の炭素数が12
【0030】
(E)高分子分散剤
E-1:アクリル酸/スルホン酸型モノマー共重合体ナトリウム1(重量平均分子量が5,000)
E-2:アクリル酸/スルホン酸系モノマー共重合体ナトリウム2(重量平均分子量が11,000)
E-3:アクリル酸/マレイン酸共重合体ナトリウム(重量平均分子量が70,000)
E-4:ポリマレイン酸ナトリウム(重量平均分子量が500)
E-5:ポリアクリル酸ナトリウム(重量平均分子量が4,000)
【0031】
(E)有機ホスホン酸
E-6:2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸[Belclene650(登録商標)、(BWA社製)]
E-7:ビス(ポリ-2-カルボキシエチル)ホスフィン酸[Belsperse164(登録商標)、(BWA社製)]
E-8:ホスフィノカルボン酸共重合物[Belclene400(登録商標)、(BWA社製)]
E-9:1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸[製品名:ディクエスト2010(登録商標)、イタルマッチケミカルズ社製]
【0032】
(F)防食剤
F-1:1,2,3-ベンゾトリアゾール、製品名:VERZONE Crystal #120、大和化成社製
【0033】
(G)消泡剤
G-1:シリコーン1、商品名:DOW CORNING TORAY APW-4248 POWDEREDANTIFOAM、東レ・ダウコーニング社製
G-2:シリコーン2、商品名:DOW CORNING TORAY FSアンチフォーム1266、東レ・ダウコーニング社製
【0034】
(H)その他
H-1:イオン交換水
【0035】
実施例1?130、比較例1?6
表1?表14に示す配合の洗浄剤組成物を調製し、洗浄性、バイオフィルム防止性、漂白性、仕上がり性、腐食防止性、抑泡性、臭気性、貯蔵安定性を下記条件で行った。結果を表1?表14に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
【表4】

【0040】
【表5】

【0041】
【表6】

【0042】
【表7】

【0043】
【表8】

【0044】
【表9】

【0045】
【表10】

【0046】
【表11】

【0047】
【表12】

【0048】
【表13】

【0049】
【表14】

【0050】
※1 洗浄性試験
<洗浄条件>
洗浄機:ホシザキ社製、電気製自動食器洗浄機JWE-680AJ
洗浄温度:66℃
洗浄時間:40秒
すすぎ温度:82℃
すすぎ時間:6秒
すすぎ1回当たりの水量:2L
インターバル:5秒
洗浄液:洗浄剤組成物の0.07質量%希釈液
洗浄剤組成物希釈用及びすすぎ用の使用水:炭酸カルシウム換算で、ドイツ硬度3°DHの硬水
<被洗浄物>
直径20cmのガラス皿にマヨネーズ(キューピー社製)2gを均一に塗布し、室温で乾燥させた汚染皿を被洗浄物とした。
<試験方法>
被洗浄物を洗浄機内にセットし洗浄、すすぎ、インターバルを1サイクルとして繰り返し洗浄した。50サイクル目の皿を室温で乾燥後、暗室において蛍光灯を照射、反射させて汚れやスケールの残存状況(ウォータースポット、フィルム)を目視判定により以下の基準で評価した。ここで、ウォータースポットとは、水に含まれるミネラル分が蒸発し、乾燥後のガラス表面にしみ状に付着する現象である。フィルムとは、固形物(タンパク質、脂質及びデンプン等)を含有する洗浄水が蒸発し、ガラス表面上に形成される現象である。
◎:ウォータースポットやフィルムがみられない。
○:ウォータースポットやフィルムがほぼみられない。
△:ウォータースポットやフィルムがややみられる。
×:ウォータースポットやフィルムがみられる。
とし、△、○、◎を実用性のあるものとして判定した。
【0051】
※2 バイオフィルム防止性試験
<試験方法>
各洗浄剤組成物5gを滅菌済みのミューラーヒントン培地〔日本ベクトン・ディッキンソン株式会社製〕を用いて全量を100gにして、各洗浄剤組成物の5質量%コンク溶液を調製した。本コンク溶液を更に滅菌済みミューラーヒントン培地を用いて洗浄剤組成物の濃度として0.07質量%となるように希釈調製し、それぞれ24穴マイクロプレート〔旭テクノグラス株式会社製〕に2mL量りとった。
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa NBRC13275)、クレブシェラ菌(Klebsiella pneumoniae ATCC13883)をそれぞれLB培地〔日本ベクトン・ディッキンソン株式会社製〕を用いて、37℃で18時間前培養して増殖した菌液を、ピペットマンを用いて当該マイクロプレート内の試験溶液に100μL接種した。これを37℃で48時間培養後に培養液を廃棄し、滅菌精製水2mLで各ウェル内を5回洗浄した。マイクロプレート壁に付着したバイオフィルムを0.1質量%クリスタルバイオレット液で染色し、滅菌水でリンス後、バイオフィルムの形成状態を目視によって観察した。
◎:バイオフィルムがプレート壁面の20%未満を覆う状態。
○:バイオフィルムがプレート壁面の20%以上、40%未満を覆う状態。
△:バイオフィルムがプレート壁面の40%以上、60%未満を覆う状態。
×:バイオフィルムがプレート壁面の60%以上、100%以下を覆う状態。
とし、△、○、◎を実用性のあるものとして判定した。
【0052】
※3 漂白性試験
<洗浄条件>
使用洗浄機:HOBART製自動食器洗浄機(機種AM-14型)
洗浄温度:66℃
洗浄時間:40秒
すすぎ温度:82℃
すすぎ時間:9秒
洗浄液:洗浄剤組成物の0.07質量%希釈液
洗浄剤組成物希釈用及びすすぎ用の使用水:炭酸カルシウム換算で、ドイツ硬度3°DHの硬水
すすぎ1回当たりの水量:2L
<被洗浄物の調整>
白色磁器皿(直径12cm)を80℃の紅茶に5分間浸漬した後、100℃で30分間加温し、褐色化させた汚染皿を漂白性試験用被洗浄物とした。
<試験方法>
上記の方法で調整した汚染皿10枚を食器洗浄機の洗浄ラックに設置し、上記洗浄条件にて洗浄、すすぎ後、室温にて乾燥させた。茶渋の残存状況を目視判定により以下の基準で評価した。
◎:茶渋が除去されている。
○:茶渋がほとんど除去されている。
△:茶渋は除去されているが、茶渋の残存が認められる。
×:茶渋が除去されていない。
とし、△、○、◎を実用性のあるものとして判定した。
【0053】
※4 金属腐食防止性試験
<試験方法>
テストピース[ステンレス(SUS430)、ねずみ鋳鉄(FC200)]は、予め中性洗剤で洗浄しアセトン処理して乾燥させたもの使用する。炭酸カルシウム換算で、75mg/L[ドイツ硬度4.2°DH]の硬水で各洗浄剤組成物を0.07質量%に希釈し、60mLを70mL容量の蓋付ガラス瓶に入れ、その中にテストピースを浸漬し、70℃の恒温器内で5日間保存した。保存後のテストピースを取り出し、イオン交換水にてすすぎ乾燥させて、テストピース表面の状態を目視により外観観察し、下記基準で腐食性を判定した。
<金属腐食防止性評価基準>
◎:腐食がない。
○:ほとんど腐食がない。
△:やや腐食がみられるが、使用上問題ないレベル。
×:ひどく腐食した。
とし、△、○、◎を実用性のあるものとして判定した。
【0054】
※5 抑泡性試験
<洗浄機及び洗浄剤濃度>
洗浄機:業務用食器洗浄機SANYO DW-DR62洗浄濃度:洗浄機タンク内水量50リットルに対して試験洗浄剤組成物を50g添加した。
<試験方法>
清浄なガラス製のコップに卵黄3gを均一に塗布して室温で2時間乾燥した後、上記の業務用食器洗浄機を使用して、汚れを付着させたコップ3つを40℃で5分間連続運転させ、その間のスプレーアームの回転数を測定した。洗浄機にはスプレーアームが取り付けてあり、スプレー噴射圧によってスプレーアームが回転するが、洗浄液中に泡が発生するとスプレー噴射圧が低下して回転数が少なくなり、物理的洗浄力が阻害される。運転初期の回転数と運転終了間際の回転数を比較し、下記の基準で評価した。
<評価基準>
○:回転数がほぼ変わらない。
△:回転数の低下がやや認められる。
×:ポンプが泡をかんで運転困難になる。
とし、△、○を実用性のあるものとして判定した。
【0055】
※6 臭気性試験
<洗浄条件>
洗浄機:ホシザキ社製、電気製自動食器洗浄機JWE-680AJ
洗浄温度:66℃
洗浄時間:40秒
すすぎ温度:82℃
すすぎ時間:6秒
すすぎ1回当たりの水量:2L
洗浄液:洗浄剤組成物の0.1質量%希釈液
洗浄剤組成物希釈用及びすすぎ用の使用水:炭酸カルシウム換算で、ドイツ硬度3°DHの硬水
<被洗浄物>
直径20cmのガラス皿にマヨネーズ(キューピー社製)2gを均一に塗布し、室温で乾燥させた汚染皿を被洗浄物とした。
<試験方法>
被洗浄物を洗浄機内にセットし洗浄及びすすぎをおこない、洗浄機のドアを開けて、洗浄機内の雰囲気中の臭気を5人のパネラーにて5段階の評価(5:臭わない、4:ほとんど臭わない、3:わずかに臭う、2:臭う、1:臭いが強い)をおこない、全パネラーの評価の平均点より、以下の基準で評価した。
<評価基準>
○:平均点が3.5以上、5以下。
△:平均点が2.5以上、3.5未満。
×:平均点が1以上、2.5未満。
とし、△、○を実用性のあるものとして判定した。
【0056】
※7 貯蔵安定性試験(潮解)
<試験方法>
洗浄剤組成物を加熱溶融した溶融スラリーを、1L容積のポリエチレン瓶に入れ、24時間25℃にて放置し固化させた後、恒温恒湿器(HIFLEX FX214C、楠本化成株式会社製)により温度40℃、湿度70%の雰囲気下に置き、その状態で1カ月保管した。そして、その外観を目視により観察し、下記の評価基準で評価した。
<評価基準>
○:1カ月後、表面の潮解は認められなかった。
△:1カ月後、表面の潮解はほとんど認められなかった。
×:1カ月後、表面の潮解が顕著に認められた。
とし、△、○を実用性のあるものとして判定した。
【0057】
※8 成分の均一性試験(偏在)
<試験方法>
洗浄剤組成物を加熱溶融して溶融スラリーを1kg作成し、溶融スラリーの一部(10g程度)を採取して、キレート力を測定した。その後スラリーの全量を65℃にて充填し1L容積のポリエチレン瓶に入れ、24時間25℃にて放置し固化させた後、洗浄剤組成物の容器上部、容器底部の固化物を30g以上採取し、キレート力を測定した。溶融スラリーのキレート力の測定値を理論値として、以下の評価基準にて評価した。
<キレート力の測定法>
100mLビーカーに洗浄剤組成物を正確に秤量し、蒸留水で約100mLに希釈する。1mol/L NaOHを2mL、1/100mol/L塩化カルシウム2水和物溶液を10mL加える。NN指示薬(1-(2-ヒドロキシ-4-スルホ-1-ナフチルアゾ)-2-ヒドロキシ-3-ナフトエ酸)を約0.1g加えよく撹拌する。1/100mol/L EDTA溶液で滴定し、赤紫から青に変色した点を終点とする。下記式(1)によりキレート力を算出する。洗浄剤を加えないブランクを滴定した時の滴定量と、洗浄剤を加えた時の滴定量より、次式によりキレート力を算出する。
(数1)
キレート力(CaCO_(3)mg/g)=[(a)-(b)]×100.09/(s)・・・(1)
(a): 洗浄剤組成物を加えないときの滴定量(ブランク滴定量)(mL)
(b): 洗浄剤組成物を加えたときの滴定量(mL)
(s): 洗浄剤組成物採取量(g)
<評価基準> キレート力の測定値を理論値と比較して
○:容器上部、容器底部のキレート力のズレが5%未満。
△:容器上部、容器底部のキレート力のズレが5%以上、15%未満。
×:容器上部、容器底部のキレート力のズレが15%以上、100%以下。
とし、△、○を実用性のあるものとして判定した。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分として安息香酸塩を含む被覆剤で被覆された塩素系漂白剤、
(B)成分としてアルカリ剤、
(C)成分としてニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、グルタミン酸二酢酸、メチルグリシン二酢酸、又はそれらの塩より選ばれる少なくとも一種のキレート剤、
(E)成分として高分子分散剤である、重量平均分子量が3,000以上、120,000以下のアクリル酸/マレイン酸共重合体のアルカリ金属塩、重量平均分子量が1,000以上、20,000以下のアクリル酸/スルホン酸共重合体のアルカリ金属塩から選ばれる少なくとも一種を自動食器洗浄機用洗浄剤組成物全量に対し1質量%以上、8質量%以下、を含み、自動食器洗浄機用洗浄剤組成物全量に対し(A)成分を0.3質量%以上含むとともに(A)成分と(C)成分の割合が質量比で(A)/(C)=0.01以上、2以下であり、前記被覆剤が安息香酸塩を50質量%以上含むことを特徴とする自動食器洗浄機用洗浄剤組成物。
【請求項2】
(A)成分の塩素系漂白剤がジクロロイソシアヌル酸ナトリウムである請求項1記載の自動食器洗浄機用洗浄剤組成物。
【請求項3】
(A)成分の被覆剤が安息香酸ナトリウムもしくは安息香酸カリウムであることを特徴とする請求項1又は2記載の自動食器洗浄機用洗浄剤組成物。
【請求項4】
(A)成分の被覆剤が安息香酸塩を80質量%以上含む請求項1から3のいずれかに記載の自動食器洗浄機用洗浄剤組成物。
【請求項5】
(A)成分の塩素系漂白剤と安息香酸塩の質量比が、塩素系漂白剤/安息香酸塩=0.001以上、10以下である請求項1から4のいずれかに記載の自動食器洗浄機用洗浄剤組成物。
【請求項6】
(B)成分のアルカリ剤が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウムより選ばれる少なくとも一種である請求項1から5のいずれかに記載の自動食器洗浄機用洗浄剤組成物。
【請求項7】
さらに、(D)成分としてノニオン界面活性剤を含有する請求項1から6のいずれかに記載の自動食器洗浄機用洗浄剤組成物。
【請求項8】
(D)成分が、リバースプルロニック型ブロックポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルより選ばれる少なくとも一種である請求項7に記載の自動食器洗浄機用洗浄剤組成物。
【請求項9】
前記自動食器洗浄機用洗浄剤組成物が、溶融固形型洗浄剤組成物であることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の自動食器洗浄機用洗浄剤組成物。
【請求項10】
(A)成分として安息香酸塩を含む被覆剤で被覆された塩素系漂白剤、
(B)成分としてアルカリ剤、
(C)成分としてニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、グルタミン酸二酢酸、メチルグリシン二酢酸、又はそれらの塩より選ばれる少なくとも一種のキレート剤、
(E)成分として高分子分散剤である、重量平均分子量が3,000以上、120,000以下のアクリル酸/マレイン酸共重合体のアルカリ金属塩、重量平均分子量が1,000以上、20,000以下のアクリル酸/スルホン酸共重合体のアルカリ金属塩から選ばれる少なくとも一種を自動食器洗浄機用洗浄剤組成物全量に対し1質量%以上、8質量%以下、を含み、自動食器洗浄機用洗浄剤組成物全量に対し(A)成分を0.3質量%以上含むとともに(A)成分と(C)成分の割合が質量比で(A)/(C)=0.01以上、2以下であり、前記被覆剤が安息香酸塩を50質量%以上含む自動食器洗浄機用洗浄剤組成物を下端部分に排出口を有する溶出ホッパーに設置し、給水ノズルから水を供給して洗浄剤組成物を水に溶解させ、自動食器洗浄機用洗浄剤組成物濃度を0.01質量%以上、0.09質量%以下に調整した洗浄液を自動食器洗浄機の洗浄液タンク内で加熱保持する工程、洗浄液タンク内の洗浄液を洗浄機庫内に噴射して食器類を洗浄する工程、洗浄後すすぎ液ですすぐ工程、とからなることを特徴とする自動食器洗浄機による食器類の洗浄方法。
【請求項11】
前記すすぐ工程において、すすぎ液を洗浄機の平面積2500cm^(2)あたり、1L以上、3L以下噴射して食器類をすすぐ請求項10に記載の自動食器洗浄機による食器類の洗浄方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-06-29 
出願番号 特願2019-113759(P2019-113759)
審決分類 P 1 651・ 16- YAA (C11D)
P 1 651・ 121- YAA (C11D)
P 1 651・ 113- YAA (C11D)
P 1 651・ 537- YAA (C11D)
P 1 651・ 536- YAA (C11D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 林 建二  
特許庁審判長 天野 斉
特許庁審判官 木村 敏康
蔵野 雅昭
登録日 2020-02-21 
登録番号 特許第6665335号(P6665335)
権利者 ADEKAクリーンエイド株式会社 株式会社ADEKA
発明の名称 洗浄剤組成物及びその洗浄方法  
代理人 細井 勇  
代理人 栗田 由貴子  
代理人 細井 勇  
代理人 細井 勇  
代理人 栗田 由貴子  
代理人 栗田 由貴子  

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