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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 A23L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A23L |
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管理番号 | 1377764 |
異議申立番号 | 異議2020-700200 |
総通号数 | 262 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-10-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-03-24 |
確定日 | 2021-07-26 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6581345号発明「酸性飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6581345号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。 特許第6581345号の請求項1?7に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第6581345号は、平成26年11月4日に出願がされ、令和元年9月6日に特許権の設定登録がなされ、同年9月25日にその特許公報が発行され、その後、請求項1?7に係る特許に対して、令和2年3月24日に特許異議申立人 山崎浩一郎(「崎」は原文はたつさき。以下「申立人」という。)から特許異議の申立てがなされたものである。そして、その後の経緯は以下のとおりである。 令和2年 6月26日付け:取消理由通知 同年 8月31日 :訂正の請求及び意見書の提出(特許権者) 同年 9月14日付け:特許法第120条の5第5項に基づく通知 同年10月15日 :意見書の提出(申立人) 同年11月20日付け:訂正拒絶理由通知 同年12月21日 :意見書の提出(特許権者) 令和3年 1月 8日付け:取消理由通知<決定の予告> 同年 3月15日 :訂正の請求及び意見書の提出(特許権者) 同年 3月31日付け:特許法第120条の5第5項に基づく通知 なお、令和3年3月15日提出の訂正の請求及び意見書に対する申立人からの応答はなかった。 また、この訂正の請求により、令和2年8月31日提出の訂正の請求は取り下げられたものと見なす(特許法第120条の5第7項)。 第2 訂正の可否 1 訂正の内容 令和3年3月15日付け訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。なお、訂正前の請求項1?7は一群の請求項である。 訂正事項1:特許請求の範囲の訂正前の請求項1の 「(C)カゼインペプチド 0.01?0.5質量%」を 訂正後に、「(C)カゼインペプチド 0.01?0.2質量%」に訂正する。 訂正事項2:特許請求の範囲の訂正前の請求項1の 「を含有し、」と「 成分(C)の重量平均分子量が400?650であり、」の行の間に 訂正後に、「 成分(B)が非糖質系甘味料のみであり、」を挿入する。 訂正事項3:特許請求の範囲の訂正前の請求項4の 「成分(B)が非糖質系甘味料である、請求項1?3のいずれか1項」を 訂正後に、「成分(C)の含有量が0.01?0.08質量%である、請求項1?3のいずれか1項」に訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る「(C)カゼインペプチド」の存在量の上限値を、実施例3に基づき「0.2質量%」とするものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 (2)訂正事項2は、訂正前の請求項1に係る「(B)甘味料」を、訂正前の請求項4の「成分(B)が非糖質系甘味料である」との記載に基づき、更に、非糖質系甘味料「のみ」に限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 更に、請求項1の上記訂正事項1および2に係る訂正に連動する請求項2?7の訂正も、同様の理由により、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 (3)訂正事項3は、上記のとおり、訂正前の請求項4が引用する訂正前の請求項1に対する訂正事項2の訂正に伴い、訂正前の請求項4の「成分(B)が非糖質系甘味料である」が、訂正後「成分(B)が非糖質系甘味料のみ」と訂正されるとともに、訂正前請求項1を引用することで、「(C)カゼインペプチド 0.01?0.5質量%」であった「(C)カゼインペプチド」の存在量の上限値を、訂正後に、実施例2の記載に基づき「0.08質量%」とするものであり、いずれも、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。また、それらの訂正は、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 更に、請求項4の上記訂正事項3に係る訂正に連動する請求項5?7の訂正も、同様の理由により、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない 3 むすび 以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項ないし第6項の各規定に適合するので、本件訂正を認める。 第3 本件訂正後の請求項1?7に係る発明 本件訂正により訂正された訂正後の請求項1?7に係る発明(以下、「本件訂正発明1」?「本件訂正発明7」、まとめて「本件訂正発明」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?7に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 次の成分(A)、(B)及び(C); (A)酸味料 (B)甘味料 ショ糖甘味換算濃度で0.1?4質量%、及び (C)カゼインペプチド 0.01?0.2質量% を含有し、 成分(B)が非糖質系甘味料のみであり、 成分(C)の重量平均分子量が400?650であり、 酸度が0.003?1質量%である酸性飲料。 【請求項2】 酸度に対する成分(B)のショ糖甘味換算濃度との比率[ショ糖甘味換算濃度/酸度]が1?500である、請求項1項記載の酸性飲料。 【請求項3】 酸度に対する成分(C)の濃度の比率[成分(C)濃度/酸度]が0.01?50である、請求項1又は2記載の酸性飲料。 【請求項4】 成分(C)の含有量が0.01?0.08質量%である、請求項1?3のいずれか1項に記載の酸性飲料。 【請求項5】 成分(B)がアセスルファムカリウム、スクラロース、ソーマチン及びアスパルテームから選択される1種又は2種以上である、請求項1?4のいずれか1項に記載の酸性飲料。 【請求項6】 成分(A)がクエン酸、グルコン酸、リンゴ酸、酒石酸、リン酸及びそれらの塩から選択される1種又は2種以上である、請求項1?5のいずれか1項に記載の酸性飲料。 【請求項7】 更に、成分(D)として炭酸ガスを含有する、請求項1?6のいずれか1項に記載の酸性飲料。」 第4 取消理由の概要 請求項1?7に係る特許に対して、当審が令和2年6月26日付け取消理由通知、並びに、令和3年1月8日付け取消理由通知<決定の予告>で特許権者に通知した取消理由の要旨は、共に以下のとおりである。 [理由1]請求項1?7に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された下記刊行物1?3に記載された発明に基いて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1?7に係る発明に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものである。 記 刊行物1:特表2009-533032号公報(甲第1号証) 刊行物2:特開平3-67572号公報(甲第2号証) 刊行物3:岩間保憲,「食品を酸っぱくする添加物-食品に酸っぱさ(酸 味)を付与する添加物である酸味料について-」,月刊フード ケミカル,株式会社 食品化学新聞社,平成25年10月1日 発行,Vol.29,No.10,p.23-30(参考資料1) 第5 取消理由に対する当審の判断 1 刊行物1?3の記載事項 (1)刊行物1には以下の記載がある。 (1a)「【請求項1】 液体媒質中に溶かされた少なくとも1種類のタンパク質加水分解物と、 ロイクロースとイソマルツロースからなる群から選択される少なくとも1種類のサッカロース異性体を含有することを特徴とする炭水化物含有機能性ドリンク剤。 【請求項2】 前記タンパク加水分解物がカゼイン加水分解物であることを特徴とする請求項1に記載の炭水化物含有機能性ドリンク剤。 【請求項3】 前記カゼイン加水分解物が、最大平均鎖長4アミノ酸相当の短鎖ペプチドからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の炭水化物含有機能性ドリンク剤。 【請求項4】 前記液体媒質が水であることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の炭水化物含有機能性ドリンク剤。 【請求項5】 前記ドリンク剤が0.1?20重量%(対ドリンク剤総重量)のタンパク質加水分解物を含むことを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の炭水化物含有機能性ドリンク剤。 【請求項6】 前記ドリンク剤が0.1?20重量%(対ドリンク剤総重量)のイソマルツロースを含んでいることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載の炭水化物含有機能性ドリンク剤。 【請求項7】 前記ドリンク剤が0.1?20重量%(対ドリンク剤総重量)のロイクロースを含んでいることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載の炭水化物含有機能性ドリンク剤。 【請求項8】 前記ドリンク剤が0.3?10重量%(対ドリンク剤総重量)のタンパク質加水分解物を含んでいることを特徴とする請求項1乃至7いずれかに記載の炭水化物含有機能性ドリンク剤。 【請求項9】 前記ドリンク剤が0.3?10重量%(対ドリンク剤総重量)のイソマルツロースを含んでいることを特徴とする請求項1乃至8いずれかに記載の炭水化物含有機能性ドリンク剤。 【請求項10】 前記ドリンク剤が0.3?10重量%(対ドリンク剤総重量)のロイクロースを含んでいることを特徴とする請求項1乃至9いずれかに記載の炭水化物含有機能性ドリンク剤。 【請求項11】 前記ドリンク剤が、インスタントドリンク、清涼ドリンク、コーラ含有ドリンク、整腸溶液、スポーツドリンク、等張飲料、エネルギードリンク又はソフトドリンクであることを特徴とする請求項1乃至10いずれかに記載の炭水化物含有機能性ドリンク剤。 【請求項12】 前記ドリンク剤が、食品と相容する酸、食品と相容する塩、強力甘味料、ミネラル成分、微量元素、フルーツエキス、抗酸化剤、安定剤、味覚物質、芳香剤又は香料、ビタミン、モルトエキス、甘味剤及び/又はカフェインを含んでいることを特徴とする請求項1乃至11いずれかに記載の炭水化物含有機能性ドリンク剤。 【請求項13】 前記ドリンク剤に含まれる前記食品相容性の酸の割合が0.1?10重量%(対ドリンク剤総重量)であることを特徴とする請求項1乃至12いずれかに記載の炭水化物含有機能性ドリンク剤。 【請求項14】 前記ドリンク剤に含まれる前記強力甘味料の割合が0.1?1重量%(対ドリンク剤総重量)であることを特徴とする請求項1乃至13いずれかに記載の炭水化物含有機能性ドリンク剤。」(当審注:下線は当審が付与した。以下同様。) (1b)「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 それ故、消費者の体力回復機能及び肉体的耐久力の増進機能に優れた従来にない機能性ドリンク剤であるとともに比較的低コストで製造可能であり、特に、消費者に快適性を感じさせる味質をもたらす従来にないドリンク剤に対する一定の需要が存在する。加えて、ドリンク剤は、視覚的にも魅力的なものである必要がある。即ち、できる限り透明であり、貯蔵の際に安定性を維持する必要がある。」 (1c)「【0008】 本発明は、驚くべきことに、タンパク質を含有する機能性飲料を提供する。タンパク質加水分解物の存在に起因して、有利にも筋力の増強、再生或いは回復及び/又は筋肉損傷の回避を図ることが可能となる。この独創的な飲料が有するこの有利な同化作用により、特に年輩者、婦人、肥満者、スポーツマン及びその他、特別なダイエットを必要とする人にとって、本発明の飲料が特に適切なものということができる。加えて、使用したタンパク質加水分解物中の特定のアミノ酸配列又はオリゴペプチド配列の存在に起因するものと考えられるが、驚くべきことに、免疫刺激作用が生ずる。 イソマルツロース、つまり、6-O-α-D-グルコピラノシル-フルクトース(Palatinose(登録商標)としても知られている)は、サッカロースの約半分の甘味力を持つ甘味剤である。イソマルツロースは、酸化的代謝を維持するためのスポーツマン用の特殊な食品にも使用される。なぜなら、イソマルツロースの分解が遅いためである。イソマルツロースの分解は、小腸領域でのみ生ずるものである。イソマルツロースは、人間の小腸壁に存在するグルコシダーゼにより、時間的遅れを以って分解され、分解の結果生ずるグルコース及びフルクトースが吸収される。その結果として、迅速に消化される炭水化物と比較すると、血中のグルコースレベルの増加は緩やかなものとなる。したがって、迅速な消化性を有する高グリセミック物質とは対照的に、イソマルツロースは物質代謝に殆どインスリンを必要としない。 そのため、炭水化物を含有する独創的な飲料中のイソマルツロースの使用により、本発明の飲料は、有利な低グリセミック飲料となる。この低グリセミック飲料は、消費者への優れたアミノ酸供給が可能であるという利点と低グリセミック飲料であるという利点を兼ね備えている。 ポリオールとは対照的に、イソマルツロースは緩下剤効果を有さない点において有利である。驚くべきことに、イソマルツロースは、タンパク質加水分解物の味質を隠す作用を有する。タンパク質加水分解物の味質は、特に長時間保存された飲料などの場合、多くの消費者にとって敬遠されるものである。 ロイクロースは、イソマルツロースと同様、サッカロースに比べて低グリセミックのサッカロース異性体である。フルクトース/グルコース含有ドリンクと比較して、本発明に係る炭水化物含有機能性ドリンク剤は、同甘味力とした場合、メイラード反応生成物の形成性向に関しては低レベルである。 最後に、この独創的なドリンク剤は、タンパク質加水分解物が完全に溶解しているので、仕上がりが透明で、酸の存在下で安定であるという長所を有する。」 (1d)「【0009】 本発明の特に好ましい実施形態の1つにおいて、タンパク質加水分解物はカゼイン加水分解物である。特に好ましい実施形態は、プロテアーゼの作用により、ミルクのカゼインタンパク質から調製されたものである。好ましい実施形態の1つにおいて、カゼイン加水分解物は、平均鎖長が最大で4アミノ酸相当の短鎖ペプチド、特にジペプチド及びトリペプチドからなる。本発明に係る好ましいカゼイン加水分解物は水溶性である。好ましい実施形態において、カゼイン加水分解物は、20の必須アミノ酸全てを含む。本発明の特に好ましいカゼイン加水分解物のアミノ酸組成は次の通りである。 【0010】 ![]() ^(*1)) アスパラギンとアスパラギン酸の総量に対する値である。 ^(*2)) グルタミンとグルタミン酸の総量に対する値である。」 (1e)「【0018】 本発明に関連して、「タンパク質加水分解物含有ドリンク剤の味質を覆い隠す」とは、例えば、タンパク加水分解物含有組成物と統計指標上重要な比較甘味料とを含む比較調製物において、例えば、熟練検査員が不快に、又は、苦く感じるタンパク質加水分解物含有組成物の味質が、比較調製物ではなく本発明のドリンク剤中にタンパク質加水分解物含有組成物が存在し、これがイソマルツロース及び/又はロイクロースと一緒に存在する場合には、極めて顕著に減退し、好ましくはそれにも増して、もはや全く感じられなくなる効果を意味する。 本発明によれば、イソマルツロース及び/又はロイクロースが用いられ、これらが、本発明に係る飲料中で使用されるタンパク質加水分解物を含有する組成物の苦味のある味質を覆い隠すということは好適である。即ち、識別又は知覚できない程度までに苦味のある味質を消し去り、或いは、大幅に減退させるために、イソマルツロース及び/又はロイクロースが使用される。」 (2)刊行物2には以下の記載がある。 (2a)「α-L-アスパルチル-L-フェニルアラニンメチルエステルを含むことを特徴とする水溶性カゼインカルシウム組成物。」(特許請求の範囲) (2b)「(産業上の利用分野) 本発明は、α-L-アスパルチル-L-フェニルアラニンメチルエステル(以下、アスパルテームと略す。)を含む水溶性カゼインカルシウム組成物に関するものである。該組成物は水に対する可溶性が優れており、カゼインの分解及びカルシウム由来の苦みがマスキングされておりまたアスパルテームの甘味も爽やかであるので、食品添加物としての利用範囲が広くなる。 (従来の技術) カゼインは安価でかつ栄養価が高いので、食品としての利用価値が高い。しかし、その溶解性を向上させたり、その消化をよくするためにカゼインを加水分解すると苦みが生じるという問題がある。その苦みを取り除くために従来は活性炭処理などを行い、苦味成分を取り除いたりしているがそれらの処理だけでは不十分であった。そのために、カゼイン加水分解物の味の改善方法を見出だすことが期待されている。 一方、カルシウムは骨の形成に必要な元素でありそれを摂取することは大変重要であり、それを塩化カルシウムなどの塩の形としてではなく、蛋白質などに結合させた形で摂取する方が体に吸収されやすいと考えられている。しかし、カルシウムを添加すると一般に苦味が生じ食品添加物として利用しづらくなる。そのため、その味を改善する方法を見出だすことが期待されている。 また、アスパルテームは単独では水に対する溶解速度が遅く、特に酸性領域においては極めて遅いが、水に易溶性の物質、例えばグルコースなど糖,アミノ酸,塩類などと混合することによりその溶解速度が向上することが知られている。 (発明が解決しようとする課題) 本発明の目的は、飲料・食品添加物として優れた水溶性カルシウムカゼイン組成物を提供することにある。 (課題を解決するための手段) 本発明者らは、上記現状に鑑み鋭意研究した結果、カゼインカルシウムにアスパルテームを添加することにより、カゼインカルシウムの苦みが緩和され、一方でアスパルテームの溶解性も向上することを見出だし本発明を完成するに至った。」(第1頁左欄第9行?第2頁左上欄第13行) (2c)「(発明の効果) 本発明により得られる水溶性カゼインカルシウム組成物は、水溶性カゼインカルシウム自体がもっている苦みが緩和されているので飲料、食品などに利用しやすくなる。また、アスパルテームを水溶性カゼインカルシウムと混合することにより、その甘味がまろやかになり、溶解速度が向上し、更には溶解性も向上すると考えられる。」(第2頁左下欄第6?13行) (2d)「(実施例) 以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが本発明はこれに限定されるものではない。 実施例1 酸カゼイン1kgを10lの水中で懸濁させながら、150gの水酸化ナトリウムを加え、70℃で24時間加熱攪拌した後、液温を室温まで下げて塩酸を加えてpHを4.5に低下させた。次いで、カゼイン分解物の沈殿を濾別し、得られた沈殿を水中に分散させ、水酸化カルシウムを添加して液性をpH7に調整し、カゼインカルシウム溶液を得た。更に、該溶液を濾過した後、スプレードライすることによりカゼインカルシウムの粉末500gを得た。得られた水溶性カゼインカルシウム100gおよびアスパルテーム10gを、水900mlに、溶解させた。上記溶液をスプレードライして水溶性カゼインカルシウム組成物を得た。100mlのイオン交換水及び、100mlの0.2%クエン酸水溶液のそれぞれ得られたカゼインカルシウム組成物3gを溶解させた後、その上清の蛋白質濃度をビュレット試薬を用いて測定したところイオン交換水では、23mg/ml、0.2%クエン酸水溶液では、22mg/mlであった。また、味については苦みはかなり緩和されておリアスパルテーム由来の甘味もかなりまろやかであった。」(第2頁左下欄第14行?右下欄第18行) (3)刊行物3には以下の記載がある。 (3a)「 ![]() (1)(当審注:刊行物3中の記載は丸に数字、この摘記において以下同様)酸味の強さと味の特徴について 表4に酸味料の酸味の強さと味の特徴について,クエン酸(1水和物)の酸味度を100として相対的な数値で示した。クエン酸と同量のリン酸を添加すると倍の酸味を感じることになる。 逆にグルコン酸は,クエン酸の3分の1程度の酸味しか感じない。」(第25頁下部、第26頁左欄第1?8行) 2 刊行物1に記載された発明 摘示(1a)の特に請求項1?3,5,8,9,12,13の記載からみて、刊行物1には請求項13に係る発明として、「食品と相溶する酸 0.1?10重量%、イソマルツロース 0.3?10重量%、及び最大平均鎖長4アミノ酸相当の短鎖ペプチドからなるカゼイン加水分解物 0.1?20重量%を含有する炭水化物含有機能性ドリンク剤。」の発明が記載されている(以下、「引用発明1」という。)。 3 取消理由1について (1)本件訂正発明1について ア 対比 本件訂正発明1と引用発明1とを対比する。 引用発明1の「食品と相溶する酸」は本件訂正発明1の「(A)酸味料」に相当し、引用発明1の「イソマルツロース」は本件訂正発明1の「(B)甘味料」に相当し、引用発明1の「最大平均鎖長4アミノ酸相当の短鎖ペプチドからなるカゼイン加水分解物」は、本件訂正発明1の「(C)カゼインペプチド」に相当する。 また、引用発明1の「炭水化物含有機能性ドリンク剤」は「食品と相溶する酸」を含有するものであるから、本件訂正発明1の「酸性飲料」に相当する。 そして、引用発明1の「重量%」は本件訂正発明1の「質量%」と地球上ではほぼ一致する単位であることは科学常識であるから、両者は「(A)酸味料、(B)甘味料、(C)カゼインペプチドを含有する酸性飲料。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1:本件訂正発明1は、甘味料を「非糖質系甘味料のみ」に限定して「ショ糖甘味換算濃度で0.1?4質量%」含有するのに対し、引用発明1は、対ドリンク剤総重量にしてイソマルツロースを「0.3?10重量%」含有する点 相違点2:本件訂正発明1は、カゼインペプチドが「重量平均分子量が400?650であ」るものと特定されているのに対し、引用発明1は、「最大平均鎖長4アミノ酸相当の短鎖ペプチドからなるカゼイン加水分解物」であると特定されている点 相違点3:本件訂正発明1は、カゼインペプチドを「0.01?0.2質量%」含有するのに対し、引用発明1は、最大平均鎖長4アミノ酸相当の短鎖ペプチドからなるカゼイン加水分解物を「0.1?20重量%」含有する点 相違点4:本件訂正発明1は、「酸度が0.003?1質量%である酸性」飲料であるのに対し、引用発明1は、食品と相溶する酸を対ドリンク剤総重量にして「0.1?10重量%」含有する点 イ 判断 相違点1について検討する。 パラチノース(登録商標)としても知られている「イソマルツロース」は、糖質系甘味料である(なお、本件明細書【0012】には、 「糖質系甘味料としては、糖類及び糖アルコールから選択される1種又は2種以上を挙げることができる。 … 糖アルコールとしては、…還元パラチノース、…から選択される1種又は2種以上を挙げることができる。」と記載されており、本件訂正発明において「還元パラチノース」が糖質系甘味料として認識されているのであれば、その非還元体である「パラチノース」すなわち「イソマルツロース」も糖質系甘味料と認識されるものといえる。)。 そして、引用発明1における「イソマルツロース」を非糖質系甘味料に置換することについては、いずれの刊行物の記載ないし示唆、あるいは技術常識からも、当業者が容易に想到することができない。 このため、その余の相違点があるとしても、本件訂正発明1は刊行物1に記載された発明及び刊行物2?3に記載された技術的事項から当業者が容易になしえたものとはいえない。 (2)本件訂正発明2?7について 本件訂正発明2?7は、本件訂正発明1を更に技術的に限定するものである。したがって、本件訂正発明1が刊行物1に記載された発明及び刊行物2?3に記載された技術的事項から当業者が容易になしえたものとはいえないことに鑑みると、本件訂正発明2?7も刊行物1に記載された発明及び刊行物2?3に記載された技術的事項から当業者が容易になしえたものとはいえない。 4 まとめ よって、当審が令和2年6月26日付け取消理由通知、並びに、令和3年1月8日付け取消理由通知<決定の予告>で示した取消理由は、本件訂正によって解消しており、理由がない。 第6 異議申立ての理由について 1 申立人の異議申立ての理由について 申立人の異議申立ての理由は、概要以下のとおりである。 <証拠方法> 特許異議申立書に添付されたもの 甲第1号証:特表2009-533032号公報 甲第2号証:特開平3-67572号公報 甲第3号証:特開2013-17402号公報 甲第4号証:特開2008-113603号公報 参考資料1:岩間保憲,「食品を酸っぱくする添加物-食品に酸っぱさ (酸味)を付与する添加物である酸味料について-」,月刊 フードケミカル,株式会社 食品化学新聞社,平成25年 10月1日発行,Vol.29,No.10,p.23-30 (以下、甲第1?4号証を「甲1」?「甲4」という。) 令和2年10月15日提出の意見書に添付されたもの 参考資料2:池田岳郎外3名,「ビター系嗜好飲料に対する食感性モデリ ングの検討」,日本味と匂学会誌,2003年12月, 10巻,3号,769?772頁 参考資料3:北岸孝之外5名,「乳タンパク質分解物がヨーグルトの発酵 時間と菌体外多糖の産生および物性に及ぼす影響」,日本食品 科学工学会誌,2013年11月,60巻,11号,635? 643頁 <特許異議申立書における異議申立ての理由> (1)異議申立ての理由1 本件特許発明1?3は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものであり、取り消されるべきものである。 (2)異議申立ての理由2 本件特許発明1?7は、甲1に記載された発明及び甲2?4の記載事項に基いて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、取り消されるべきものである。 <令和2年10月15日提出の意見書での主張> また、申立人は、令和2年10月15日提出の意見書において、令和2年8月31日提出の訂正の請求により訂正された特許請求の範囲に対し、該訂正後の成分(B)を前提とした記載要件(サポート要件)の非充足性及び進歩性欠如について主張する。 以上の異議申立ての理由並びに意見書での主張について、以下検討する。 2 検討 (1)異議申立ての理由1および2について 本件訂正発明1?7と甲1に記載された発明とは、上記第5 3(1)アに示した四つの相違点が存在する。 そして、同(1)イ及び(2)で検討したことと同様、少なくとも相違点1において、本件訂正発明1?7と甲1に記載された発明とは実質的に相違しており、また、甲1に記載された発明、及び、甲2並びに参考資料1、更には甲3?4並びに参考資料2?3を加えても、「イソマルツロース」を非糖質系甘味料に置換することについては、いずれの証拠および参考資料に記載ないし示唆されておらず、これらに記載された技術的事項から当業者が容易になしえたものとはいえない。 よって、申立人が主張する異議申立ての理由1および2には、理由がない。 (2)申立人の意見書での主張について 令和3年3月15日提出の訂正の請求により、令和2年8月31日提出の訂正の請求は取り下げられたものと見なされる。 よって、当該意見書での上記訂正を前提とした記載要件(サポート要件)の非充足性及び進歩性欠如に関する主張の対象となる訂正が行われていないのであるから、主張の根拠がなく、採用することはできない。 3 まとめ 以上のことから、申立人が主張する異議申立ての理由にはいずれも理由がなく、これらの申立の理由によっては本件訂正発明に係る特許を取り消すことはできない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、異議申立ての理由及び当審からの取消理由によっては、請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。また、他に当該特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 次の成分(A)、(B)及び(C); (A)酸味料 (B)甘味料 ショ糖甘味換算濃度で0.1?4質量%、及び (C)カゼインペプチド 0.01?0.2質量% を含有し、 成分(B)が非糖質系甘味料のみであり、 成分(C)の重量平均分子量が400?650であり、 酸度が0.003?1質量%である酸性飲料。 【請求項2】 酸度に対する成分(B)のショ糖甘味換算濃度との比率[ショ糖甘味換算濃度/酸度]が1?500である、請求項1項記載の酸性飲料。 【請求項3】 酸度に対する成分(C)の濃度の比率[成分(C)濃度/酸度]が0.01?50である、請求項1又は2記載の酸性飲料。 【請求項4】 成分(C)の含有量が0.01?0.08質量%である、請求項1?3のいずれか1項に記載の酸性飲料。 【請求項5】 成分(B)がアセスルファムカリウム、スクラロース、ソーマチン及びアスパルテームから選択される1種又は2種以上である、請求項1?4のいずれか1項に記載の酸性飲料。 【請求項6】 成分(A)がクエン酸、グルコン酸、リンゴ酸酒石酸、リン酸及びそれらの塩から選択される1種又は2種以上である、請求項1?5のいずれか1項に記載の酸性飲料。 【請求項7】 更に、成分(D)として炭酸ガスを含有する、請求項1?6のいずれか1項に記載の酸性飲料。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2021-07-09 |
出願番号 | 特願2014-224295(P2014-224295) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(A23L)
P 1 651・ 121- YAA (A23L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 藤澤 雅樹 |
特許庁審判長 |
瀬良 聡機 |
特許庁審判官 |
関 美祝 大熊 幸治 |
登録日 | 2019-09-06 |
登録番号 | 特許第6581345号(P6581345) |
権利者 | 花王株式会社 |
発明の名称 | 酸性飲料 |
代理人 | 特許業務法人アルガ特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人アルガ特許事務所 |