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審決分類 審判 全部申し立て 特174条1項  C12N
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C12N
管理番号 1377782
異議申立番号 異議2020-700527  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-07-28 
確定日 2021-07-29 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6636550号発明「組み換え代謝微生物およびその使用」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6636550号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2?14〕について訂正することを認める。 特許第6636550号の請求項1?14に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6636550号の請求項1?14に係る特許についての出願は、平成25年6月4日を国際出願とする特願2015-514948号(優先権主張 平成24年6月1日 米国)の一部を特許法第44条第1項の規定に基づいて分割出願したものであり、その請求項1?14に係る発明は、令和1年12月27日にその特許権の設定登録がされ、令和2年1月29日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は概ね次のとおりである。
令和 2年 7月28日 特許異議申立人 森 收平 による
請求項1?14に係る特許に対する
特許異議の申立て
令和 2年10月29日付け 取消理由通知書
令和 3年 1月28日 特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
令和 3年 4月27日付け 訂正請求があった旨の通知書
(特許法第120条の5第5項)
なお、令和3年4月27日付け通知書に対し、特許異議申立人森 收平は意見書を提出しなかった。

第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の(1)、(2)のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項2を、
「Clostridium属細菌又はMoorella属細菌の組換え細胞であって、
一酸化炭素を含む気体基質からアセチルCoAを合成する機能を有し、
導入された核酸として、イソプレン合成酵素をコードする第一核酸を有し、当該第一核酸が前記組換え細胞内で発現し、
導入された核酸として、メバロン酸経路で作用する酵素群をコードする第二核酸をさらに有し、当該第二核酸が前記組換え細胞内で発現し、メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能をさらに有し、
前記メバロン酸経路で作用する酵素群は、チオラーゼ、HMG-CoAシンターゼ、HMG-CoAレダクターゼ、メバロン酸キナーゼ、ホスホメバロン酸キナーゼ及びジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼを含み、
一酸化炭素を含む気体基質からイソプレンを生産可能である組換え細胞。」から、
「Clostridium属細菌又はMoorella属細菌の組換え細胞であって、
一酸化炭素を含む気体基質からアセチルCoAを合成する機能を有し、
導入された核酸として、イソプレン合成酵素をコードする第一核酸を有し、当該第一核酸が前記組換え細胞内で発現し、
導入された核酸として、メバロン酸経路で作用する酵素群をコードする第二核酸をさらに有し、当該第二核酸が前記組換え細胞内で発現し、メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能をさらに有し、
前記メバロン酸経路で作用する酵素群は、チオラーゼ、HMG-CoAシンターゼ、HMG-CoAレダクターゼ、メバロン酸キナーゼ、ホスホメバロン酸キナーゼ及びジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼを含み、
前記組換え細胞はイソペンテニル二リン酸Δイソメラーゼをコードする核酸を含み、
一酸化炭素を含む気体基質からイソプレンを生産可能である組換え細胞。」
に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項7の「請求項1?8」を「請求項1?6」に訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
訂正事項1は、請求項1に「前記組換え細胞はイソペンテニル二リン酸Δイソメラーゼをコードする核酸を含み」という発明特定事項を付加するものであり、そして、訂正前の請求項2に係る発明と訂正後の請求項2に係る発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1におけるイソペンテニル二リン酸Δイソメラーゼをコードする核酸に関して、特許明細書の段落【0053】に、「1つの実施形態では、核酸は、以下の酵素a) チオラーゼ;b) HMG-CoAシンターゼ;c) HMG-CoAレダクターゼ;d) メバロン酸キナーゼ;e) ホスホメバロン酸キナーゼ;f) ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ;g) イソペンテニル-二リン酸Δ-イソメラーゼ(idi);およびh) イソプレンシンターゼ;または機能的に等価なそれらの変異体をコードする。」、段落【0081】に、「さらなる別の実施形態は、イソペンチル二リン酸Δイソメラーゼをコードする核酸を含む、単離され遺伝的に改変されている酸化炭素栄養性酢酸産生細菌を提供する。」と記載されているから、訂正事項1は新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2
訂正事項2は、請求項7が引用する請求項を「請求項1?8」から「請求項1?6」に訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものに該当する。そして、訂正事項2は、願書に最初に添付した外国語書面に記載した範囲内の訂正であると認められ、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1ないし2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔2-14〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?14に係る発明(以下「本件発明1」などという。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?14に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
【請求項1】
Clostridium属細菌又はMoorella属細菌の組換え細胞であって、
非メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を有し、
導入された核酸として、イソプレン合成酵素をコードする第一核酸を有し、当該第一核酸が前記組換え細胞内で発現し、
導入された核酸として、メバロン酸経路で作用する酵素群をコードする第二核酸をさらに有し、当該第二核酸が前記組換え細胞内で発現し、メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能をさらに有し、
前記メバロン酸経路で作用する酵素群は、チオラーゼ、HMG-CoAシンターゼ、HMG-CoAレダクターゼ、メバロン酸キナーゼ、ホスホメバロン酸キナーゼ及びジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼを含み、
一酸化炭素を含む気体基質からイソプレンを生産可能である組換え細胞。
【請求項2】
Clostridium属細菌又はMoorella属細菌の組換え細胞であって、
一酸化炭素を含む気体基質からアセチルCoAを合成する機能を有し、
導入された核酸として、イソプレン合成酵素をコードする第一核酸を有し、当該第一核酸が前記組換え細胞内で発現し、
導入された核酸として、メバロン酸経路で作用する酵素群をコードする第二核酸をさらに有し、当該第二核酸が前記組換え細胞内で発現し、メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能をさらに有し、
前記メバロン酸経路で作用する酵素群は、チオラーゼ、HMG-CoAシンターゼ、HMG-CoAレダクターゼ、メバロン酸キナーゼ、ホスホメバロン酸キナーゼ及びジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼを含み、
前記組換え細胞はイソペンテニル二リン酸Δイソメラーゼをコードする核酸を含み、
一酸化炭素を含む気体基質からイソプレンを生産可能である組換え細胞。
【請求項3】
前記組換え細胞であって前記第二核酸を有さないものと比較して、2倍以上のイソプレンを生産可能である請求項1又は2に記載の組換え細胞。
【請求項4】
前記メバロン酸経路は、酵母のメバロン酸経路である請求項1?3のいずれかに記載の組換え細胞。
【請求項5】
前記イソプレン合成酵素は、ポプラ(Populus tremuloides)由来のものである請求項1?4のいずれかに記載の組換え細胞。
【請求項6】
前記イソプレン合成酵素をコードする核酸は、下記(a)又は(b)の核酸である請求項1?5のいずれかに記載の組換え細胞。
(a)配列番号21の配列を有する核酸
(b)配列番号21の核酸配列と90%以上の核酸配列同一性を有する、配列番号21の配列を有する核酸の機能的に等価な変異体
【請求項7】
前記第一核酸及び/又は前記第二核酸は、コドンが最適化されたものである請求項1?6のいずれかに記載の組換え細胞。
【請求項8】
前記第一核酸及び/又は前記第二核酸は、組換え細胞のゲノムに組み込まれている請求項1?7のいずれかに記載の組換え細胞。
【請求項9】
前記第一核酸及び/又は前記第二核酸は、プラスミドに組み込まれている請求項1?7のいずれかに記載の組換え細胞。
【請求項10】
請求項1?9のいずれかに記載の組換え細胞を、一酸化炭素を含む気体基質を炭素源として用いて培養し、当該組換え細胞にイソプレンを生産させるイソプレンの生産方法。
【請求項11】
請求項1?9のいずれかに記載の組換え細胞に、一酸化炭素を含む気体基質を接触させ、当該組換え細胞に前記気体基質からイソプレンを生産させるイソプレンの生産方法。
【請求項12】
気体基質が、さらに水素及び/又は二酸化炭素を含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
気体基質が、鉄金属製品製造、非鉄製品製造、石油精製、石炭ガス化、電力生産、カーボンブラック製造、アンモニア製造、メタノール製造、コークス製造およびそれらの組み合わせからなる群から選択される工業プロセス由来のものである、請求項10?12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
気体が合成ガスである、請求項10?12のいずれかに記載の方法。

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1.取消理由の概要
訂正前の請求項2?14に係る特許に対して、当審が特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)(サポート要件)本件発明2?14は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反して特許されたものである。
(2)(新規事項)本件発明3は特許法第17条の2第3項の規定に違反して特許されたものである。

2.サポート要件について
本件発明2の解決しようとする課題は、「酸化炭素栄養性の酢酸産生菌を改変して、COを含む基質の発酵によりイソプレンを産生する」手段の提供であると認められる。
本件特許明細書の実施例1には、ポプラのイソプレンシンターゼ(EC 4.2.3.27)(本件に添付された(以下同様)図1の「11」に相当する。以下酵素を「11」等と図1で付された番号でいうこともある。また、「イソプレン合成酵素」ともいう。)遺伝子をCOからイソプレンを産生するように酸化炭素栄養性酢酸産生菌C.autoethanogenumに導入し、その発現を確認したことが記載され、実施例2には、イソペンテニル-二リン酸Δ-イソメラーゼ(図1の「12」に相当する。)発現プラスミドを構築し、「12」の遺伝子及び「11」の遺伝子を含むプラスミドをC.autoethanogenumへ形質転換し、両遺伝子の発現を確認したことが記載されている。
実施例4には、メバロン産経路にかかる酵素を導入したプラスミドとして、チオラーゼ(図1の「14」に相当する。)、HMG-CoAシンターゼ(図1の「15」に相当する。)、HMG-CoAレダクターゼ(図1の「16」に相当する。)、メバロン酸キナーゼ(図1の「17」に相当する。)、ホスホメバロン酸キナーゼ(図1の「18」に相当する。)、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ(図1の「19」に相当する。)、「12」および「11」を含むイソプレン発現プラスミドを作製したことが記載されている。
実施例5には、上流のメバロン酸経路を持たないファルネセン発現プラスミドとして、ゲラニルトランストランスフェラーゼ(図1の「8」に相当する。)及びαファルネセンシンターゼ(図1の「13」に相当する。)と、「17」?「19」及び「12」の遺伝子を含むプラスミドを構築し、C.autoethanogenumへ形質転換して「17」?「19」、「12」、「8」及び「13」の発現を確認したこと、及び当該形質転換体を、唯一の炭素およびエネルギー供給源としてReal Mill Gas(44% CO、32% N2、22% CO2、2%H)を用いて培地中で増殖させ、上記形質転換物をメバロン酸を追加した培地で培養してメバロン酸からファルネセンが産生されたことを検出したことが記載されている。
また、テルペン産生の経路について、段落【0268】には、「前駆体DMAPP(ジメチルアリル二リン酸)およびIPP(イソペンテニル二リン酸)の利用可能性および均衡は、テルペン類の産生に重要である。DXS経路はIPPおよびDMAPPを等しく合成するのに対し、メバロン酸経路ではIPPのみが産生される。イソプレンの産生では、イソプレンシンターゼとともに存在する前駆体DMAPPのみを必要とし」と記載されている。
さらに、図1には、テルペンまたはその前駆体の産生の経路図が記載されており、図1から、アセチルCoAからメバロン産経路で作用する酵素群である「14」?「19」によってIPPが産生され、IPPが「12」によってDMAPP変換され、DMAPPから「11」によってイソプレンが合成されることが示されている。
訂正前の本件発明2を検討すると、一酸化炭素を含む気体基質からアセチルCoAを合成する機能を有し、図1の「11」、「14」?「19」の遺伝子を有する細胞であることが特定されているところ、訂正によって細胞が「12」の酵素の遺伝子を有することが追加されたから、訂正後の本件発明2の細胞は、イソプレンを産生するための代謝系を構成する複数の酵素をコードする複数の核酸が導入された細胞であると認められる。
そして、微生物による化合物産生の分野において、基質が当該微生物内に存在し、代謝系を構成する複数の酵素をコードする複数の核酸もベクターに組み込まれる等して当該微生物内に存在する場合、一般的には、当該酵素が発現して活性を発揮し、所望の生成物が産生されることが、本願出願時の技術常識である。
さらに、上記のとおり、実施例4には「14」?「19」、「12」及び「11」を含むイソプレン発現プラスミドを作製したことが記載されていること、実施例5には「17」?「19」、「12」、「8」及び「13」含むプラスミドを導入されたC.autoethanogenumが、メバロン酸を追加した培地での培養でファルネセンを産生したことが具体的に示されていること、及び「14」?「16」、「12」又は「11」の各酵素がC.autoethanogenumに共存した場合、生育し得ない又はこれらの酵素が活性を発揮し得ないとの特段の事情も認められないことを踏まえると、C.autoethanogenumにイソプレンの合成にかかる「14」?「19」,「12」及び「11」の遺伝子を有する細胞において、各酵素が活性を発揮し、イソプレンが産生されると認められる。このことは、実施例4,5において、代謝系を構成する複数の酵素をコードする複数の核酸を導入した微生物がファルネセンを産生したことに裏付けられる。
よって、明細書及び図面の記載事項に加え、出願時の技術常識を考慮すると、訂正後の本件発明2の細胞が一酸化炭素を含む気体基質からイソプレンを産生することを、合理的に理解できる。
すなわち、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、本件発明2で特定される細胞により本件発明2の課題が解決できることが、具体的に示されていることから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものである。
また、本件発明3?14も同様である。
したがって、本件発明2?14が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満足しないとはいえない。

3.新規事項の追加について
令和1年9月24日付け手続補正書で補正した特許請求の範囲の請求項3における「2倍以上のイソプレンを生産可能である」なる記載について、出願当初明細書等には、段落【0072】には、COを含む基質の発酵により微生物が1つ以上のテルペン類またはその前駆体(以下「テルペン類等」という。)の産生を増大できるよう、1つ以上の核酸を導入することが記載されるが、核酸導入によるテルペン類等の産生を増大の程度が2倍以上であることは記載されていない。
しかしながら、本件に係る発明は、多くのイソプレンを得ることが目的であることが自明であるところ、「2倍以上のイソプレンを生産可能である」との発明特定事項の追加は、明細書の段落【0072】に開示された上記記載事項からイソプレン産生増大の程度が低いものを除外するための一つの目安として設けられた事項に過ぎず、上記補正は新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、上記補正は、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入したものと解されないから、当該補正は、明細書、特許請求の範囲の記載又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものと認められる。

第5 取消理由で採用しなかった特許異議申立人が主張する取消理由について
1.特許異議申立人の取消理由
取消理由で採用しなかった特許異議申立人が主張する取消理由は概ね次のとおりである。
(1)(実施可能要件)本件発明2?14は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反して特許されたものである。
(2)(サポート要件,実施可能要件)本件発明1,3?14は、特許法第36条第6項第1号及び同条第4項第1号の規定に違反して特許されたものである。

2.本件発明2?14の実施可能要件違反について
上記第4の「2.サポート要件について」に記載したとおり、明細書及び図面の記載事項に加え、出願時の技術常識を考慮すると、「Clostridium属細菌又はMoorella属細菌の組換え細胞であって、一酸化炭素を含む気体基質からアセチルCoAを合成する機能を有」するものであること、及び「イソペンテニル二リン酸Δイソメラーゼをコードする核酸を含」むことが特定され、導入された核酸としては、「イソプレン合成酵素をコードする第一核酸」と「メバロン酸経路で作用する酵素群をコードする第二核酸」が特定され、さらにメバロン酸経路で作用する酵素群として、「チオラーゼ、HMG-CoAシンターゼ、HMG-CoAレダクターゼ、メバロン酸キナーゼ、ホスホメバロン酸キナーゼ及びジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ」を含むことが特定された細胞は、一酸化炭素を含む気体基質からイソプレンを生産可能であるといえる。
よって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が請求項2に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
請求項2を引用する請求項3?14も同様である。
したがって、本件発明2?14が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満足しないとはいえない。

3.本件発明1,3?14の実施可能要件又はサポート要件違反について
本件発明1の解決しようとする課題は、「酸化炭素栄養性の酢酸産生菌を改変して、COを含む基質の発酵によりイソプレンを産生する」手段の提供であると認められる。
本件特許明細書には、上記第4の「2.サポート要件について」に記載した事項に加え、DXS経路と同義である非メバロン酸経路について、段落【0012】には、微生物が、DXS経路中の1つ以上の外来性酵素を発現しかつ/またはDXS経路中の1つ以上の内在性酵素を過剰発現するよう適合されること、段落【0116】には、「DXS経路」は、ピルビン酸及びD-グリセルアルデヒド-3-リン酸(以下「G3P」ともいう。)からDMAPPまたはIPPへの酵素的経路であることが記載され、実施例3には、「12」及び「11」を発現する実施例2に記載のプラスミド内に、ピルビン酸およびG3Pのデオキシキシルロース5-リン酸への変換を触媒する、デオキシキシルロース 5-リン酸シンターゼ(以下「DXS」ともいう。図1の「1」に相当する。)をクローン化し、「1」が過剰発現するプラスミドを構築したこと、及びC.autoethanogenumへ形質転換しその発現を確認したところ、DXSのmRNAが野生型の3倍超増加していたことが記載されている。
そして、図1から、非メバロン産経路によって、ピルビン酸及びG3Pから、イソペンテニルにリン酸(IPP)のみならずDMAPPが産生され、イソプレンがDMAPPから「11」によって産生されると認められる。
ここで、本件発明1に係る発明は、細胞としては、「Clostridium属細菌又はMoorella属細菌の組換え細胞であって、」「非メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を有」するものであること、導入された核酸としては、「イソプレン合成酵素をコードする第一核酸」と「メバロン酸経路で作用する酵素群をコードする第二核酸」が特定され、さらにメバロン酸経路で作用する酵素群として、「14」?「19」をコードする核酸を含むことが特定されているが、図1に示されるように、非メバロン酸経路によってイソペンテニル二リン酸のみならずDMAPPも合成されるから、本件発明1の非メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を有する細胞は、DMAPP合成能を有する細胞であると認められる。
上記の第4の「2.サポート要件について」に記載したとおり、生物による化合物産生の分野において、基質が当該微生物内に存在し、代謝系を構成する複数の酵素をコードする複数の核酸もベクターに組み込まれる等して当該微生物内に存在する場合、一般的には、当該酵素が発現して活性を発揮し、所望の生成物が産生されることが、本願出願時の技術常識であり、非メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を有する細胞において、「11」、「14」?「19」をコードする核酸が導入された細胞では、非メバロン酸経路によりDMAPPが合成されない、又はイソプレン合成酵素がその活性を発揮しないとの特段の事情も認められないところ、非メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を有し、イソプレン合成酵素が導入された細胞は、イソプレンを産生すると認められる。
また、宿主については、上記のとおり、実施例3において、「12」、「11」及び「1」を含むプラスミドをC.autoethanogenumへ形質転換し、その発現を確認したところ、DXSのmRNAが野生型の3倍超増加していたことが記載されていることを考慮すると、Clostridiu属細菌において、非メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能、及びイソプレン合成酵素の酵素活性が発揮されることによって、イソプレンが合成されると認められる。
よって、明細書及び図面の記載事項に加え、出願時の技術常識を考慮すると、本件発明1の細胞は、一酸化炭素を含む気体基質からイソプレンを生産可能であるといえる。
すなわち、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、本件発明1で特定される細胞により本件発明1の課題が解決できることが、具体的に示されているから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものである。
また、同様の理由により、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
また、本件発明3?14も同様である。
したがって、本件発明1,3?14が特許法第36条第6項第1号及び同条第4項第1号に規定する要件を満足しないとはいえない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件請求項1?14に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、特許法第114条第4項の規定により、本件請求項1?14に係る発明について結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Clostridium属細菌又はMoorella属細菌の組換え細胞であって、
非メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能を有し、
導入された核酸として、イソプレン合成酵素をコードする第一核酸を有し、当該第一核酸が前記組換え細胞内で発現し、
導入された核酸として、メバロン酸経路で作用する酵素群をコードする第二核酸をさらに有し、当該第二核酸が前記組換え細胞内で発現し、メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能をさらに有し、
前記メバロン酸経路で作用する酵素群は、チオラーゼ、HMG-CoAシンターゼ、HMG-CoAレダクターゼ、メバロン酸キナーゼ、ホスホメバロン酸キナーゼ及びジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼを含み、
一酸化炭素を含む気体基質からイソプレンを生産可能である組換え細胞。
【請求項2】
Clostridium属細菌又はMoorella属細菌の組換え細胞であって、
一酸化炭素を含む気体基質からアセチルCoAを合成する機能を有し、
導入された核酸として、イソプレン合成酵素をコードする第一核酸を有し、当該第一核酸が前記組換え細胞内で発現し、
導入された核酸として、メバロン酸経路で作用する酵素群をコードする第二核酸をさらに有し、当該第二核酸が前記組換え細胞内で発現し、メバロン酸経路によるイソペンテニル二リン酸合成能をさらに有し、
前記メバロン酸経路で作用する酵素群は、チオラーゼ、HMG-CoAシンターゼ、HMG-CoAレダクターゼ、メバロン酸キナーゼ、ホスホメバロン酸キナーゼ及びジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼを含み、
前記組換え細胞はイソペンテニル二リン酸Δイソメラーゼをコードする核酸を含み、
一酸化炭素を含む気体基質からイソプレンを生産可能である組換え細胞。
【請求項3】
前記組換え細胞であって前記第二核酸を有さないものと比較して、2倍以上のイソプレンを生産可能である請求項1又は2に記載の組換え細胞。
【請求項4】
前記メバロン酸経路は、酵母のメバロン酸経路である請求項1?3のいずれかに記載の組換え細胞。
【請求項5】
前記イソプレン合成酵素は、ポプラ(Populus tremuloides)由来のものである請求項1?4のいずれかに記載の組換え細胞。
【請求項6】
前記イソプレン合成酵素をコードする核酸は、下記(a)又は(b)の核酸である請求項1?5のいずれかに記載の組換え細胞。
(a)配列番号21の配列を有する核酸
(b)配列番号21の核酸配列と90%以上の核酸配列同一性を有する、配列番号21の配列を有する核酸の機能的に等価な変異体
【請求項7】
前記第一核酸及び/又は前記第二核酸は、コドンが最適化されたものである請求項1?6のいずれかに記載の組換え細胞。
【請求項8】
前記第一核酸及び/又は前記第二核酸は、組換え細胞のゲノムに組み込まれている請求項1?7のいずれかに記載の組換え細胞。
【請求項9】
前記第一核酸及び/又は前記第二核酸は、プラスミドに組み込まれている請求項1?7のいずれかに記載の組換え細胞。
【請求項10】
請求項1?9のいずれかに記載の組換え細胞を、一酸化炭素を含む気体基質を炭素源として用いて培養し、当該組換え細胞にイソプレンを生産させるイソプレンの生産方法。
【請求項11】
請求項1?9のいずれかに記載の組換え細胞に、一酸化炭素を含む気体基質を接触させ、当該組換え細胞に前記気体基質からイソプレンを生産させるイソプレンの生産方法。
【請求項12】
気体基質が、さらに水素及び/又は二酸化炭素を含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
気体基質が、鉄金属製品製造、非鉄製品製造、石油精製、石炭ガス化、電力生産、カーボンブラック製造、アンモニア製造、メタノール製造、コークス製造およびそれらの組み合わせからなる群から選択される工業プロセス由来のものである、請求項10?12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
気体が合成ガスである、請求項10?12のいずれかに記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-07-14 
出願番号 特願2018-20464(P2018-20464)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C12N)
P 1 651・ 55- YAA (C12N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 飯室 里美  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 森井 隆信
平林 由利子
登録日 2019-12-27 
登録番号 特許第6636550号(P6636550)
権利者 ランザテク・ニュージーランド・リミテッド
発明の名称 組み換え代謝微生物およびその使用  
代理人 大森 規雄  
代理人 大森 規雄  
代理人 鈴木 康仁  
代理人 小林 浩  
代理人 鈴木 康仁  
代理人 植田 渉  
代理人 植田 渉  
代理人 小林 浩  
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