• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C07C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C07C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C07C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C07C
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C07C
管理番号 1377784
異議申立番号 異議2020-701005  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-23 
確定日 2021-07-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6716237号発明「ブタジエンの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6716237号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第6716237号の請求項1及び3に係る特許を維持する。 特許第6716237号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6716237号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成27年12月1日の出願であって、令和2年6月12日にその特許権の設定登録がされ、同年7月1日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許の全請求項について、同年12月23日に特許異議申立人 山崎 浩一郎(「崎」の原文はたつさき。以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
本件特許異議申立事件における手続の経緯は次のとおりである。

令和 2年12月23日 :異議申立書、甲第1?6号証の提出
令和 3年 3月12日付け:取消理由通知
同年 5月12日 :訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
同年 同月17日付け:特許法第120条の5第5項に基づく
通知書
同年 6月23日 :意見書、甲第7?9号証の提出(申立人)

第2 訂正の適否
1 訂正の趣旨
令和3年5月12日に提出された訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?3について訂正することを求めるものである。

2 訂正の内容
本件訂正の内容は、以下の訂正事項1?3のとおりである。(なお、下線は訂正箇所を示す。)

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「前記原料ガス中の炭素原子数5以上の炭化水素の濃度が0.2?7.0mol%」
と記載されているのを、
「前記原料ガス中の炭素原子5数以上の炭化水素の濃度が0.2?0.3mol%」
に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に
「請求項1又は2に記載の」
と記載されているのを、
「請求項1に記載の」
に訂正する。

なお、訂正前の請求項1?3について、請求項2?3は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1?3に対応する訂正後の請求項1?3に係る本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してされたものである。

3 判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「前記原料ガス中の炭素原子数5以上の炭化水素の濃度」について「0.2?7.0mol%」から「0.2?0.3mol%」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項1は、明細書【0020】の「原料ガス中の炭素原子数5以上の炭化水素の濃度は、0.1mol%以上であることが好ましく、0.2mol%以上であることがより好ましい。また、原料ガス中の炭素原子数5以上の炭化水素の濃度は、6.0mol%以下であることが好ましく、5.5mol%以下であることがより好ましい。」との記載、及び【0092】【表1】の実施例3の原料ガス組成(mol%)における「C5」が「0.3」であるとの記載に基づくものである。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内で行われるものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項2は、請求項2を削除するものであるから、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、訂正前の請求項3について、請求項2が削除されたのに伴い、引用元の請求項の数を減少させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項3は、請求項の削除に伴い引用元の請求項の数を減少させるものであるから、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
前記第2のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1及び3に係る発明(以下、「本件特許発明1」及び「本件特許発明3」といい、これらをまとめて「本件特許発明」ともいう。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
直鎖状ブテンを含有する原料ガスと分子状酸素を含有する酸素含有ガスとを反応器に供給し、触媒の存在下で酸化脱水素反応を行って、ブタジエンを含有する生成ガスを得る工程を備え、
前記触媒が、モリブデン及びビスマスを含有する複合酸化物を含み、
前記原料ガス中の炭素原子数5以上の炭化水素の濃度が0.2?0.3mol%、イソブテンの濃度が1.0mo1%以下、ブタジエンの濃度が1.0mol%以下である、ブタジエンの製造方法。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記原料ガス中の前記直鎖状ブテンの濃度が60mol%以上である、請求項1に記載の製造方法。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
当審は、本件特許発明1及び3に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由によっては、取り消すことはできないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 取消理由の概要
訂正前の請求項1?3に係る特許に対して、当審が令和3年3月12日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。

(1)理由1(新規性)
本件訂正前の請求項1?3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件訂正前の請求項1?3に係る発明の特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

(2)理由2(進歩性)
本件訂正前の請求項1?3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1?3に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。



引用文献1:特開昭60-1139号公報(甲第1号証)

2 引用文献1の記載
(1a)「1.炭素原子数4以上を有するモノオレフインを分子状酸素により気相で酸化脱水素せしめ、対応する共役ジオレフインを製造するに際し、下記の一般組成式で表わされる触媒を使用することを特徴とする共役ジオレフインの製造法。
Mo_(a)Bi_(b)Cr_(c)Ni_(d)Zr_(e)Fe_(f)X_(g)Y_(h)O_(i)
(ここでXは周期律表の第Ia族金属元素,第II族金属元素,Tl及びPから選ばれた一種以上の元素を表わし、YはAl,In,Ag,Si,Ti,Nb,Ta,Co,La,Ce,Nd及びMnから選ばれた一種以上の元素を表わし、a,b,c,d,e,f,g,h及びiはそれぞれMo,Bi,Cr,Ni,Zr,Fe,X,Y及びOの原子数であり、a=12とした場合、b=0.05?20、c=0.05?20、d=0.1?30、e=0.01?20、f=0.01?20、g=0.001?20,h=0?20の値をとり、iは他の元素の原子価を満足する酸素の原子数である。)」(1ページ右欄5行?左欄3行)

(1b)「しかしながら、その後さらに検討を進めた結果、これらの触媒を使用した場合には、上記の利点の反面、反応温度がやゝ高目になるため反応器材質がコスト高となること、長時間反応を継続すると高沸点物の副生によつて反応系がつまりやすいこと等の新たな問題点が判明した。
そこで本発明者はより低い反応温度で原料モノオレフインのいずれの異性体によつても反応性にほとんど差がなく、効率よく共役ジオレフインを得ることができ、しかも長時間使用していても高沸点物質が副生しない触媒を開発すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに到つた。」(2ページ右上欄11行?左下欄2行)

(1c)「本発明において反応原料として用いられるモノオレフインは従来から酸化脱水素反応によつて共役ジオレフインを合成するための原料として用いられている炭素原子数4以上のものであればいずれでもよく、その具体的な例としてブテン-1、ブテン-2、ペンテン-1、ペンテン-2、2-メチルブテン-1、2-メチルブテン-2、3-メチルブテン-1、2,3-ジメチルブテン-1、2,3-ジメチルブテン-2などが挙げられる。これらのモノオレフインは必ずしも単離した形で使用する必要はなく、必要に応じて任意の混合物の形で用いることができる。例えば1,3-ブタジエンを得ようとする場合には高純度のブテン-1またはブテン-2を原料とすることもできるが、ナフサ分解で副生するC_(4)留分から1,3-ブタジエン及びイソブチレンを分離して得られるブテン-1及びブテン-2を主成分とする留分(以下、BBRRと称する)や正ブタンの脱水素または酸化脱水素反応により生成するブテン留分を使用することもでき、その場合であつても高純度の単一原料を用いる場合と同等の収率を得ることができる。」(2ページ右下欄5行?3ページ左上欄6行)

(1d)「本発明におけるモノオレフインと分子状酸素との反応は、前記したごとき新規触媒を使用すること以外、常法に従つて行われる。例えば分子状酸素の供給源は必ずしも高純度の酸素である必要はなく、むしろ工業的には空気が実用的である。」(4ページ左上欄5?9行)

(1e)「実施例1
・・・得られた触媒の酸素および担体を除く元素の組成(以下同じ)は、
Mo_(12)Bi_(1)Cr_(3)Ni_(8)Zr_(1)Fe_(0.1)K_(0.2)
で示される〔触媒No.(1)〕。
こうして得られた触媒100mlを内径2.5cm、長さ60cmのステンレス製反応管に充てんし、金属浴で310℃に加熱し、表1の成分組成を有する正ブテン類をそれぞれ使用してこれらに含まれる正ブテンの流量が毎時18l(ガス状、NTP基準)、空気の流量が毎時132l(NTP基準)となる様にして触媒層を通過させた。反応開始5時間後に得られた結果を表2に示す(以下同じ)。
表2の結果から、本発明の触媒を使用するとブテン-1及びブテン-2の反応性にほとんど差が見られず、いずれも高収率で1,3-ブタジエンを与えることがわかる。また工業的に安価で大量に入手されるBBRRを原料とする場合であつても高純度のブテンを使用する場合と同等の収率を示すことはきわめて特異な現象といえる。さらに副生高沸点物の生成も少なく、この高沸点物の捕集期間中、いずれの原料を用いた場合も配管の閉塞によるトラブルは一切認められなかつた。

」(4ページ右下欄5行?5ページ左下欄表2)

(1f)「実施例2
カリウムの他に種々のX元素を使用し、かつ触媒組成比をいろいろ変えた他は実施例1に準じて表3に示す触媒〔No.(2)?No.(19)〕を調製した。
X元素の触媒原料としてリンについては85%リン酸を使用し、その他の元素については硝酸塩を使用した。こうして調製した各々の触媒について、実施例1と同様の方法で表1に示してあるBBRR-1を用いて反応を行い、得られた結果を表3に示した。

・・・
実施例3
Y成分を加えること以外は実施例1と同様の方法によつてMo_(12)Bi_(1)Cr_(3)Ni_(8)Zr_(1)Fe_(0.1)K_(0.2)Y_(h)なる組成の触媒を調製した。・・・
こうして調製した各々の触媒について実施例1と同様の方法でBBRR-1を用いて反応を行つた。得られた結果を表5に示す。

実施例4
実施例1で得られた触媒100mlを内径2.5cm、長さ60cmのステンレス製反応管に充てんし、金属浴で320℃に加熱し、BBRR-1を使用してBBRR-1:空気:水蒸気=15:53:32(モル比)の供給ガスを接触時間2秒(NTP基準)で通過させたところ、BBRR-1に含まれる正ブテンの反応率は93.8%、1,3-ブタジエン収率85.7%、1,3-ブタジエン選択率91.4%であつた。また、実施例1と同様の方法で捕集した副生高沸点物は0.65gであつた。
実施例5
実施例4において供給ガスの水蒸気のかわりに反応生成ガスから炭化水素を除去した廃ガスを使用した他は、実施例4と同様の方法で反応を行つた。この場合、廃ガス中には窒素の他に未反応の酸素や副生成物である一酸化炭素や二酸化炭素が含まれていたが、正ブテンの反応率は94.0%、1,3-ブタジエン収率は85.1%、1,3-ブタジエン選択率は90.5%であつた。また実施例1と同様の方法で捕集した副生高沸点物は1.32gであつた。
実施例6
実施例1における実験番号(1-5)と同様にして反応を開始し、100時間経過したのちも反応を継続して触媒の寿命を試験した。その結果、2000時間経過後におけるBBRR-1中の正ブテンの反応率は92.2%、1,3-ブタジエン収率は85.1%、1,3-ブタジエン選択率は92.3%であり、反応開始した当初の活性と実質的に同一であつた。また副生高沸点物は0.85gであり、反応開始当初より減少していた。この間、供給したBBRR-1の成分や組成は原料交換のつどかなり変動したが、反応は常に安定して推移し、反応成績は実質的に一定であつた。」(5ページ左下欄1行?8ページ左下欄15行)

3 引用文献1に記載された発明
引用文献1は、炭素原子数4以上を有するモノオレフィンを、特定の触媒を使用して、分子状酸素により気相で酸化脱水素せしめ、対応する共役ジオレフィンを製造する方法に関する技術的事項を開示するものである(上記(1a))。
そして、炭素原子数4以上を有するモノオレフィンは、ナフサ分解で副生するC_(4)留分から1,3-ブタジエン及びイソブチレンを分離して得られるブテン-1及びブテン-2を主成分とするBBRRと称する留分を使用できルとの記載(上記(1c))、分子状酸素は空気でよいとの記載(上記(1d))及び具体例を示した実施例1の実験番号1-5の記載からみて(上記(1e))、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1-5」という。)が記載されていると認める。

引用発明1-5:
「触媒の酸素及び担体を除く元素の組成がMo_(12)Bi_(1)Cr_(3)Ni_(8)Zr_(1)Fe_(0.1)K_(0.2)で示される触媒を使用し、
原料炭化水素として、エタン 0.16mol%、プロパン 0.05mol%、プロピレン 0.02mol%、アレン 0.02mol%、シクロプロパン 0.03mol%、イソブタン 12.38mol%、正ブタン 12.95mol%、ブテン-1 39.45mol%、イソブテン 0.44mol%、トランス-ブテン-2 19.71mol%、シス-ブテン-2 12.32mol%、1,3-ブタジエン 0.10mol%、C_(5)以上の炭化水素 2.07mol%、その他の炭化水素 0.30mol%からなる成分組成を有するBBRR-1で示される正ブテン類を、
これらに含まれる正ブテンの流量が毎時18l(ガス状、NTP基準)、空気の流量が毎時132l(NTP基準)となる様にして触媒層を通過させて気相で酸化脱水素せしめ、
1,3-ブタジエンを製造する方法。」

4 当審の判断
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と引用発明1-5とを対比する。

(ア)引用発明1-5の「原料炭化水素」としての「BBRR-1で示される正ブテン類」は、「ブテン-1」、「トランス-ブテン-2」及び「シス-ブテン-2」を含むから、本件特許発明1の「直鎖状ブテンを含有する原料ガス」に相当する。

(イ)本件特許発明1の「分子状酸素を含有する酸素含有ガス」は、本件特許明細書【0028】に「酸素含有ガスは、例えば、空気であってよい。」と記載されているから、引用発明1-5の「空気」は、本件特許発明1の「分子状酸素を含有する酸素含有ガス」に相当する。

(ウ)引用発明1-5の「これらに含まれる正ブテンの流量が毎時18l(ガス状、NTP基準)、空気の流量が毎時132l(NTP基準)となる様にして触媒層を通過させて気相で酸化脱水素せしめ、1,3-ブタジエンを製造する方法」は、本件特許発明1の「反応器に供給し、触媒の存在下で酸化脱水素反応を行って、ブタジエンを含有する生成ガスを得る工程を備え」る「ブタジエンの製造方法」に相当する。

(エ)引用発明1-5の「触媒の酸素及び担体を除く元素の組成がMo_(12)Bi_(1)Cr_(3)Ni_(8)Zr_(1)Fe_(0.1)K_(0.2)で示される触媒」は、本件特許発明1の「前記触媒が、モリブデン及びビスマスを含有する複合酸化物を含み」に相当する。

(オ)引用発明1-5の「原料炭化水素」としての「BBRR-1で示される正ブテン類」は、「C_(5)以上の炭化水素 2.07mol%」、「イソブテン 0.44モル%」、「1,3-ブタジエン 0.10モル%」を含むから、本件特許発明1の「前記原料ガス中の炭素原子数5以上の炭化水素の濃度が0.2?0.3mol%、イソブテンの濃度が1.0mol%以下、ブタジエンの濃度が1.0mol%以下である」ことと、「前記原料ガス中」の「イソブテンの濃度が1.0mol%以下、ブタジエンの濃度が1.0mol%以下」である点で一致し、「前記原料ガス」が「炭素原子数5以上の炭化水素」を含む点で共通する。

(カ)本件特許明細書【0026】に「原料ガスとしては、例えば、ナフサ分解で副生するC4留分から、ブタジエン及びイソブテンを分離して得られる、直鎖状ブテン及びブタン類を含む留分を用いてよい。」と記載されているから、引用発明1-5の「原料炭化水素」としての「BBRR-1で示される正ブテン類」が直鎖状ブテン、炭素原子数5以上の炭化水素、イソブテン、ブタジエン以外の成分を含むことは、本件特許発明1に包含され相違点とはならない。

(キ)以上のことから、両発明は、次の一致点及び相違点を有する。

一致点:
「直鎖状ブテンを含有する原料ガスと分子状酸素を含有する酸素含有ガスとを反応器に供給し、触媒の存在下で酸化脱水素反応を行って、ブタジエンを含有する生成ガスを得る工程を備え、
前記触媒が、モリブデン及びビスマスを含有する複合酸化物を含み、
前記原料ガス中のイソブテンの濃度が1.0mol%以下、ブタジエンの濃度が1.0mol%以下であり、
前記原料ガスが炭素原子数5以上の炭化水素を含む、ブタジエンの製造方法。」である点。

相違点:
本件特許発明1は、「前記原料ガス中の炭素原子数5以上の炭化水素の濃度が0.2?0.3mol%」であるのに対し、
引用発明1-5は、「原料炭化水素」としての「BBRR-1で示される正ブテン類」に「C_(5)以上の炭化水素 2.07mol%」を含む点。

イ 判断
(ア)理由1(新規性)について
上記ア(キ)のとおり、引用発明1-5は、本件特許発明1と相違している。
したがって、本件特許発明1は、引用文献1に記載された発明ではない。

(イ)理由2(進歩性)について
上記相違点について検討する。
引用文献1には、原料ガスである炭素原子数4以上を有するモノオレフィンについて、任意の混合物であってよいことを例示した記載(上記(1c))や、実施例1の実験番号1-5で用いた「BBRR-1」と異なる組成であるが、C_(5)以上の炭化水素を3.62mol%含む実験番号1-6で用いた「BBRR-2」が具体的に示されているだけである(上記(1e))。
したがって、引用発明1-5について、「原料炭化水素」としての「BBRR-1で示される正ブテン類」に含まれる「C_(5)以上の炭化水素」の濃度を「2.07mol%」から「0.2?0.3mol%」とする動機付けはなく、相違点に係る構成は、当業者が容易になし得たものとはいえない。
そして、本件特許発明1は、相違点に係る構成を採用することにより、引用文献1からは予測することもできない、本件特許明細書記載の効果を奏するものである。

ウ 小括
よって、本件特許発明1は、引用文献1に記載された発明ではなく、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

なお、引用文献1には、実施例2の実験番号2-1?2-18、実施例3の実験番号3-1?3-15及び実施例4?6にも、1,3-ブタジエンの製造方法が記載されているが、いずれも原料炭化水素としてBBRR-1を用いたものである(上記(1f))。
したがって、本件特許発明1は、上記の実施例から認定される発明に対して検討しても、上記ア及びイで引用発明1-5について検討したのと同様の理由により、引用文献1に記載された発明ではなく、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(2)本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明1を引用して、「前記含量ガス中の前記直鎖状ブテンの濃度が60mol%以上である」ことを更に特定するものである。
そうすると、本件特許発明1のすべての発明特定事項を含む本件特許発明3についても、上記(1)で検討したのと同様の理由により、引用文献1に記載された発明ではなく、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1及び3に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由によって、取り消されるべきものではない。

第5 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由について
当審は、本件特許発明1及び3に係る特許は、申立人が申し立てた理由によっても、取り消すことはできないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 申立て理由の概要
訂正前の請求項1?3に係る特許に対して、申立人が主張した特許異議申立理由のうち、取消理由通知において採用しなかった理由の要旨は、次のとおりである。

(1)理由1(進歩性)
本件訂正前の請求項1?3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1?3に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。



甲第1号証:特開昭60-1139号公報
甲第2号証:国際公開第2010/137595号
甲第3号証:特開2011-6381号公報
甲第4号証:特開2012-106942号公報
甲第5号証:特開2012-77076号公報
甲第6号証:特開2012-67046号公報

(2)理由2(実施可能要件)
本件訂正前の請求項1?3に係る発明は、明細書の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。



本件特許明細書は、特定の実施例の場合に発明の効果が生じることが示されているのみであり、原料ガスの組成の調整方法の記載されていない。さらに、実施例には、原料ガス中のイソブテンの濃度が記載されておらず、これらの濃度が1.0mol%以下の要件を充たしているか不明であり、この点からも、イソブテンの濃度を1.0mol%以下とする方法が十分に開示されているとはいえない。

(3)理由3(サポート要件)
本件訂正前の請求項1?3に係る発明は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



本件特許明細書は、特定の実施例の場合に発明の効果が生じることが示されているのみであり、本件訂正前の請求項1?3に係る発明の全範囲において発明の効果が生じるか不明である。ブタン類とブテン類、ブテン類でも1-ブテンと2-ブテンとでは、ブタジエンを得るまでの反応の過程や反応で生じる副生物が異なるから、反応の副生物を十分に溶解させるのに必要な炭素原子数5以上の炭化水素の濃度の下限値や、不純物として反応を阻害しないために必要な炭素原子数5以上の炭化水素、イソブテン、及びブタジエンのそれぞれの濃度の上限値が変わることは、当業者であれば本件特許の出願時の技術常識から理解することができる。
したがって、本件特許明細書には、本件訂正前の請求項1?3に係る発明の全範囲において、反応器の閉塞を抑制し、安定的に長時間にわたって運転を継続できる工業的に有利なブタジエンの製造方法を提供する、という発明の効果が生じるか不明であり、本件訂正前の請求項1?3に係る発明の全範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

(4)理由4(明確性要件)
本件訂正前の請求項1?3に係る発明は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



本件特許明細書の実施例には、原料ガス中のイソブテンの濃度が記載されていないため、実施例であるか否か不明であり、ひいては、本件訂正前の請求項1?3に係る発明の外縁が不明確であるといえる。

2 甲号証の記載
(1)甲第1号証
甲第1号証は、前記第4の引用文献1と同じ文献であるから、その記載事項は、前記第4の2のとおりである。

(2)甲第2号証
(2a)「[請求項1]
炭素原子数4以上のモノオレフィンを含む原料ガスと分子状酸素含有ガスとを混合して反応器に供給する工程と、触媒の存在下、前記炭素原子数4以上のモノオレフィンの酸化脱水素反応により生成した対応する共役ジエンを含む生成ガスを得る工程とを有する共役ジエンの製造方法であって、前記反応器に供給されるガス中の可燃性ガスの濃度が爆発上限界以上であり、かつ、前記生成ガス中の酸素濃度が2.5容量%以上8.0容量%以下であることを特徴とする共役ジエンの製造方法。
・・・
[請求項3]
前記触媒が、少なくともモリブデン、ビスマス及びコバルトを含有する複合酸化物触媒であることを特徴とする請求項1又は2に記載の共役ジエンの製造方法。」

(2b)「[0011]
・・・一方、ガス中の酸素濃度が高すぎると、高沸点副生物が多く生じ、それらが生成ガス中に含有され、後段の冷却工程で、その高沸点副生物を含有する生成ガスを冷却すると、生成ガス中の高沸点副生物に起因する固形物が冷却工程内に析出していき、結果として、冷却工程で閉塞が起こり、運転継続に支障をきたす、という問題が判明した。
[0012]
本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであって、n-ブテン等のモノオレフィンの接触酸化脱水素反応によりブタジエン等の共役ジエンを製造する方法において、継続的に触媒を使用する際に、触媒上へのコ-キングを抑制し、高沸点副生物の生成量を低減し、より安全に高い収率で安定的にブタジエン等の共役ジエンの製造を行うことができる方法を提供することを目的とする。」

(2c)「[0019]
・・・例えばブタジエンを得ようとする場合には高純度のn-ブテン(1-ブテン及び/又は2-ブテン)を原料ガスとすることもできるが、前述のナフサ分解で副生するC4留分(BB)からブタジエン及びi-ブテン(イソブテン)を分離して得られるn-ブテン(1-ブテン及び/又は2-ブテン)を主成分とする留分(BBSS)やn-ブタンの脱水素又は酸化脱水素反応により生成するブテン留分を使用することもできる。・・・
[0020]
また、本発明の原料ガス中には、本発明の効果を阻害しない範囲で、任意の不純物を含んでいても良い。n-ブテン(1-ブテン及び2-ブテン)からブタジエンを製造する場合、含んでいても良い不純物として、具体的には、イソブテンなどの分岐型モノオレフィン;プロパン、n-ブタン、i-ブタン、ペンタンなどの飽和炭化水素;プロピレン、ペンテンなどのオレフィン;1,2-ブタジエンなどのジエン;メチルアセチレン、ビニルアセチレン、エチルアセチレンなどのアセチレン類等が挙げられる。この不純物の量は、通常40%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、特に好ましくは1%以下である。この量が多すぎると、主原料である1-ブテンや2-ブテンの濃度が下がって反応が遅くなったり、目的生成物であるブタジエンの収率が低下する傾向にある。」

(2d)「[0123]
[実施例1](1,3-ブタジエンの製造)
・・・
[0126]
・・・ナフサ分解で副生するC_(4)留分からのブタジエンの抽出分離プロセスから排出されたBBSSと、空気と窒素と水蒸気を・・・反応器1に供給した。・・・反応器内で酸化脱水素反応を行い、ブタジエンを含有する生成ガスを反応器1出口から出た。・・・
・・・
[0128]
なお、前記BBSSの組成は、下記の通りである。
・プロパン : 0.035mol%
・シクロプロパン : 0.057mol%
・プロピレン : 0.109mol%
・イソブタン : 4.784mol%
・n-ブタン :16.903mol%
・トランス-2-ブテン :16.903mol%
・1-ブテン :43.487mol%
・イソブテン : 2.264mol%
・2,2-ジメチルプロパン:0.197mol%
・シス-2-ブテン :12.950mol%
・イソペンタン : 0.044mol%
・n-ペンタン : 0.002mol%
・1,2-ブタジエン : 0.686mol%
・1,3-ブタジエン : 1.075mol%
・メチルアセチレン : 0.017mol%
・3-メチル-1-ブテン :0.057mol%
・2-ペンテン : 0.001mol%
・ビニルアセチレン : 0.006mol%
・エチルアセチレン : 0.282mol%」

(3)甲第3号証
(3a)「【請求項1】
炭素原子数4以上のモノオレフィンを含む原料ガスと、分子状酸素含有ガスとを混合して得られる混合ガスを反応器に供給し、触媒の存在下、酸化脱水素反応により生成された共役ジエンを含む生成ガスを得、該生成ガスを吸収溶媒と接触させて溶媒吸収液を得た後、該溶媒吸収液を脱気し、次いで、蒸留分離により、前記溶媒吸収液から前記共役ジエンを分離回収する共役ジエンの製造方法において、前記吸収溶媒中に1?3000wtppmの重合禁止剤が含有され、かつ、前記溶媒吸収液を加熱することにより、この溶媒吸収液中の過酸化物濃度を100wtppm以下とすることを特徴とする共役ジエンの製造方法。
【請求項2】
前記触媒が、モリブデン、ビスマス、及びコバルトを少なくとも含有する複合酸化物触媒であることを特徴とする請求項1に記載の共役ジエンの製造方法。」

(3b)「【0025】
[原料ガス]
・・・例えば、1,3-ブタジエン(BD)を得ようとする場合には、高純度の1-ブテン又は2-ブテンを原料とすることもできるが、前述のナフサ分解で副生するC_(4)留分(BB)からブタジエン及びiーブテンを分離して得られるn-ブテン(1-ブテン及び2-ブテン)を主成分とし、他にイソブテン等を含む炭素原子数4のモノオレフィンからなる留分(BBSS)や、n-ブタンの脱水素又は酸化脱水素反応により生成するブテン留分を使用することもできる。・・・
・・・
【0029】
また、原料ガス中には、本発明の効果を阻害しない範囲で、任意の不純物を含んでいても良い。含んでいても良い不純物としては、具体的には、イソブテン等の分岐型モノオレフィン;プロパン、n-ブタン、i-ブタン、ペンタンなどの飽和炭化水素;プロピレン、ペンテンなどのオレフィン;1,2-ブタジエンなどのジエン;メチルアセチレン、ビニルアセチレン、エチルアセチレン等のアセチレン類等が挙げられる。また、反応の目的物である1,3-ブタジエンが含まれていても良い。これらの不純物の量は、通常、原料ガス全量に対し、40体積%以下、好ましくは20体積%以下、より好ましくは10体積%以下、特に好ましくは1体積%以下である。この量が多すぎると、主原料である1-ブテンや2-ブテンの濃度が下がって反応が遅くなったり、副生物が増える傾向にある。」

(3c)「【0101】
[実施例1](1,3-ブタジエンの製造)
・・・
・・・ナフサ分解で副生するC4留分からのブタジエンの抽出分離プロセスから排出されたBBSSと、空気と窒素と水蒸気を・・・反応器1に供給した。・・・
・・・
【0103】
なお、前記BBSSの組成は、下記の通りである。
・プロパン : 0.035mol%
・シクロプロパン : 0.057mol%
・プロピレン : 0.109mol%
・イソブタン : 4.784mol%
・n-ブタン :16.903mol%
・トランス-2-ブテン:16.903mol%
・1-ブテン :43.487mol%
・イソブテン : 2.264mol%
・2,2-ジメチルプロパン:0.197mol%
・シス-2-ブテン :12.950mol%
・イソペンタン : 0.044mol%
・n-ペンタン : 0.002mol%
・1,2-ブタジエン: 0.686mol%
・1,3-ブタジエン: 1.075mol%
・メチルアセチレン : 0.017mol%
・3-メチル-1-ブテン:0.057mol%
・2-ペンテン : 0.001mol%
・ビニルアセチレン : 0.006mol%
・エチルアセチレン : 0.282mol%」

(4)甲第4号証
(4a)「【請求項1】
炭素原子数4以上のモノオレフィンを含む原料ガスと分子状酸素含有ガスを反応器に供給し、触媒の存在下、酸化脱水素反応を行うことにより生成される対応する共役ジエンを含む生成ガスを得た後、該生成ガスを有機溶媒と接触させ、該共役ジエンを含む溶液を得るにあたり、該有機溶媒がシクロオレフィン化合物を含有することを特徴とする共役ジエンの製造方法。
・・・
【請求項7】
前記触媒が、下記一般式(1)で表される複合酸化物触媒であることを特徴とする請求項1?6のいずれか1項に記載の共役ジエンの製造方法。
Mo_(a)Bi_(b)Co_(c)Ni_(d)Fe_(e)X_(f)Y_(g)Z_(h)Si_(i)O_(j) (1)
(・・・)」

(4b)「【0012】
・・・例えばブタジエンを得ようとする場合には高純度のn-ブテン(1-ブテン及び/又は2-ブテン)を原料ガスとすることもできるが、前述のナフサ分解で副生するC_(4)留分(BB)からブタジエン及びi-ブテン(イソブテン)を分離して得られるn-ブテン(1-ブテン及び/又は2-ブテン)を主成分とする留分(BBSS)やn-ブタンの脱水素又は酸化脱水素反応により生成するブテン留分を使用することもできる。・・・
【0013】
また、本発明の原料ガス中には、本発明の効果を阻害しない範囲で、任意の不純物を含んでいても良い。n-ブテン(1-ブテン及び2-ブテン)からブタジエンを製造する場合、含んでいても良い不純物として、具体的には、イソブテンなどの分岐型モノオレフィン;プロパン、n-ブタン、i-ブタン、ペンタンなどの飽和炭化水素;プロピレン、ペンテンなどのオレフィン;1,2-ブタジエンなどのジエン;メチルアセチレン、ビニルアセチレン、エチルアセチレンなどのアセチレン類等が挙げられる。この不純物の量は、通常40体積%以下、好ましくは20体積%以下、より好ましくは10体積%以下、特に好ましくは1体積%以下である。この量が多すぎると、主原料である1-ブテンや2-ブテンの濃度が下がって反応が遅くなったり、目的生成物であるブタジエンの収率が低下する傾向にある。」

(4c)「【0077】
[実施例1]
図1に示すプロセスフローに従って、連続的に1,3-ブタジエンの製造を行った。・・・
【0078】
空気、窒素及び水蒸気をそれぞれ下記の流量で供給し、原料ガスとして表-1に示す組成のBBSSを下記の流量で供給し、・・・酸化脱水素反応を行った。
・・・
【0085】
【表1】



(5)甲第5号証
(5a)「【請求項1】
炭素原子数4以上のモノオレフィンを含む原料ガスと分子状酸素含有ガスを反応器に供給し、触媒の存在下、酸化脱水素反応を行うことにより生成される対応する共役ジエンを含む生成ガスを得た後、該生成ガスを有機溶媒と接触させ、該共役ジエンを含む溶液を得、更に該共役ジエンを含む溶液を蒸留して共役ジエンを得る共役ジエンの製造方法において、蒸留に供する該共役ジエンを含む溶液中の金属成分の濃度が2.5wt%未満であることを特徴とする共役ジエンの製造方法。
・・・
【請求項8】
前記触媒が、下記一般式(1)で表される複合酸化物触媒であることを特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載の共役ジエンの製造方法。
Mo_(a)Bi_(b)Co_(c)Ni_(d)Fe_(e)X_(f)Y_(g)Z_(h)Si_(i)O_(j) (1)
(・・・)」

(5b)「【0015】
・・・例えばブタジエンを得ようとする場合には高純度のn-ブテン(1-ブテン及び/又は2-ブテン)を原料ガスとすることもできるが、前述のナフサ分解で副生するC_(4)留分(BB)からブタジエン及びi-ブテン(イソブテン)を分離して得られるn-ブテン(1-ブテン及び/又は2-ブテン)を主成分とする留分(BBSS)やn-ブタンの脱水素又は酸化脱水素反応により生成するブテン留分を使用することもできる。・・・
【0016】
また、本発明の原料ガス中には、本発明の効果を阻害しない範囲で、任意の不純物を含んでいても良い。n-ブテン(1-ブテン及び2-ブテン)からブタジエンを製造する場合、含んでいても良い不純物として、具体的には、イソブテンなどの分岐型モノオレフィン;プロパン、n-ブタン、i-ブタン、ペンタンなどの飽和炭化水素;プロピレン、ペンテンなどのオレフィン;1,2-ブタジエンなどのジエン;メチルアセチレン、ビニルアセチレン、エチルアセチレンなどのアセチレン類等が挙げられる。この不純物の量は、通常40体積%以下、好ましくは20体積%以下、より好ましくは10体積%以下、特に好ましくは1体積%以下である。この量が多すぎると、主原料である1-ブテンや2-ブテンの濃度が下がって反応が遅くなったり、目的生成物であるブタジエンの収率が低下する傾向にある。」

(5c)「【0082】
<実施例1>
図1に示すプロセスフローに従って、連続的にブタジエンの製造を行った。・・・
【0083】
空気、窒素及び水蒸気をそれぞれ下記の流量で供給し、原料ガスとして表-1に示す組成のBBSSを下記の流量で供給し、・・・酸化脱水素反応を行った。・・・
・・・
【0090】
【表1】



(6)甲第6号証
(6a)「【請求項1】
酸化物を担体に担持した触媒と、酸素とが内部に存在する流動層反応器内で、前記触媒にn-ブテンを接触させてブタジエンを製造する方法であって、供給する原料がi-ブテンを含み、且つ、n-ブテンに対するi-ブテンの比率が10重量%以下である原料を用い、n-ブテンの転化率を75?99%の範囲とするブタジエンの製造方法。
【請求項2】
前記酸化物が下記実験式で表される、請求項1に記載のブタジエンの製造方法。
Mo_(12)Bi_(p)Fe_(q)A_(a)B_(b)C_(c)D_(d)E_(e)O_(x)
(・・・)」

(6b)「【0012】
[1] ブタジエンの製造方法
(1) 原料
原料は、炭素数4のモノオレフィンであるn-ブテンであり、具体的には、1-ブテン、2-ブテンが該当する。・・・この原料は、i-ブテンを含み、このi-ブテンはn-ブテンに対して10重量%以下、好ましくは0.1?6重量%、更に好ましくは0.5?3重量%である。また、この原料はn-ブタン、i-ブタン、炭素数が3以下の炭化水素、炭素数が5以上の炭化水素を含んでいても良く、n-ブテンの濃度は40重量%以上、好ましくは50重量%以上、更に好ましくは60重量%以上の原料を用いることが好ましい。この原料は、例えば、ナフサ熱分解で副生するC4留分からブタジエンを抽出した残留成分や重油留分の流動接触分解(FCC)で副生するC4留分・・・からi-ブテンを・・・分離することで得ることができる。」

3 甲第1号証に記載された発明
上記第4の3で認定した引用発明1-5のとおりである。
なお以下では、甲1発明という。

4 当審の判断
(1)理由1(進歩性)について
ア 本件特許発明1について
(ア)本件特許発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、上記第4の(1)ア(キ)で検討したとおりである。相違点について再掲する。

相違点:
本件特許発明1は、「前記原料ガス中の炭素原子数5以上の炭化水素の濃度が0.2?0.3mol%」であるのに対し、
甲1発明は、「原料炭化水素」としての「BBRR-1で示される正ブテン類」に「C_(5)以上の炭化水素 2.07mol%」を含む点。

(イ)上記相違点について検討する。
甲第2?6号証は、いずれも、直鎖状ブテンを含有する原料ガスと分子状酸素含有ガスとを、少なくともモリブデン及びビスマスを含有する複合酸化物触媒の存在下で酸化脱水素反応を行って、ブタジエンを含有する生成ガスを得るブタジエンの製造方法(上記(2a)、(2d)、(3a)、(3c)、(4a)、(4c)、(5a)、(5c)及び(6a))である点で、甲1発明と技術分野が共通する。
そして、甲第2?5号証には、原料ガスとしてナフサ分解で副生するC4留分からブタジエン及びイソブテンを分離して得られるn-ブテンを主成分とする留分を使用でき、不純物として、イソブテン、ペンタン、ペンテン、1,2-ブタジエンなどを含んでもよいことが記載されている(上記(2c)、(3b)、(4b)及び(5b))。
また、甲第6号証には、原料ガスとしてナフサ熱分解で副生するC4留分からイソブテンを分離して得られるものを使用でき、イソブテンや炭素数が5以上の炭化水素を含んでもよいことが記載されている(上記(6b))。
しかしながら、甲第2?6号証のこれらの記載をみても、甲1発明について、「原料炭化水素」としての「BBRR-1で示される正ブテン類」に含まれる「C_(5)以上の炭化水素」の濃度を「2.07mol%」から「0.2?0.3mol%」とする動機付けはなく、相違点に係る構成は、当業者が容易になし得たものとはいえない。
そして、本件特許発明1は、相違点に係る構成を採用することにより、甲第1号証からは予測することもできない、本件特許明細書記載の効果を奏するものである。

(ウ)申立人の主張について
申立人は、甲第1号証及び甲第2号証は、高沸点物の副生による課題を認識している点で共通し(上記(1b)、(2b))、甲第2?5号証には、イソブテンや1,2-ブタジエンなどの不純物の量は、1%以下であることが好ましく、この量が多すぎると、主原料の濃度が下がって反応が遅くなったり目的生成物の収率が低下する傾向にあることが記載され(上記(2c)、(3b)、(4b)及び(5b))、甲第2?5号証の実施例で使用された原料ガスは、炭素数5以上の炭化水素の量に着目すれば、2,2-ジメチルプロパンを0.197mol%、イソペンタンを0.044mol%、n-ペンタンを0.002mol%、3-メチル-1-ブテンを0.057mol%、2-ペンテンを0.001mol%含んでいるから、炭素数5以上の炭化水素の濃度は0.301mol%であることを指摘し(上記(2d)、(3c)、(4c)及び(5c))、甲1発明について、イソブテン及びブタジエンの含有量をゼロに近い状態にまで減少させること、炭素数5以上の炭化水素は原料ガスに含まれ得る成分であり、その濃度を最適化することは当業者が適宜なし得る設計事項であると主張する。
しかしながら、仮に、甲1発明において、甲第2?5号証の実施例で使用された原料ガスを採用することは当業者が容易になし得ることであるとしても、炭素数5以上の炭化水素の濃度は0.301mol%であって、「0.2?0.3mol%」の範囲内ではないし、甲第2?5号証の実施例で使用された原料ガスのイソブテン及びブタジエンの濃度は2.264mol%及び1.761mol%であっていずれも「1.0mol%以下」ではない。
そして、甲第1?6号証のいずれを検討しても、イソブテン及びブタジエンの濃度を1.0mol%以下としつつ、炭素数5以上の炭化水素の濃度は0.2?0.3mol%とすることを動機付けるところはない。
よって、申立人の主張は採用できない。

イ 本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明1を引用して、「前記含量ガス中の前記直鎖状ブテンの濃度が60mol%以上である」ことを更に特定するものである。
そうすると、本件特許発明1のすべての発明特定事項を含む本件特許発明3についても、上記アで検討したのと同様の理由により、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?6号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、申立人の申し立てた理由1(進歩性)は理由がない。

(2)理由2(実施可能要件)について
本件特許明細書【0026】には、原料ガスの組成の調整方法について、「原料ガスは、単離された直鎖状ブテンに炭素原子数5以上の炭化水素を添加したものであってよい。」ことや「原料ガスとしては、例えば、ナフサ分解で副生するC4留分から、ブタジエン及びイソブテンを分離して得られる、直鎖状ブテン及びブタン類を含む留分を用いてよい。」ことが記載されており、本件特許発明1及び3の実施例として、実施例3が具体的に示されている。
また、甲第1号証には、ブタジエン及びイソブテンの濃度が1.0mol%以下であるBRRR-1が具体的に開示されており(上記(1e))、甲第6号証には、イソブテンの公知の分離方法が説明されている(上記(6b))。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明1及び3について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
よって、申立人の申し立てた理由2(実施可能要件)は理由がない。

(3)理由3(サポート要件)について
本件特許発明1及び3の課題は、本件特許明細書の記載、特に【0008】の記載からみて、「直鎖状ブテンの酸化脱水素反応によりブタジエンを製造する方法であって、反応器の閉塞を抑制し、安定的に長時間にわたって運転を継続できる工業的に有利なブタジエンの製造方法を提供すること」にあると認める。
そして、【0009】の「本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、原料ガス中の炭素原子数5以上の炭化水素の濃度を所定の範囲とすることで、反応器の安定運転を阻害する固形閉塞物の生成量を低減でき、安定的に長時間にわたって運転を継続でき、且つ、高い収率で安定的にブタジエンの製造を行うことができることを見出した。」との記載、【0018】の「従来のブタジエンの製造方法では、反応器の後段において、副生物(又は、副生物によって生じる重合物等)が沈着し、反応器の閉塞を引き起こすことがある。これに対して、本実施形態に係る製造方法では、原料ガス中に炭素原子数5以上の炭化水素が所定量含まれている。このため、本実施形態では、反応器の後段で生成ガスが冷却された際に、炭素原子数5以上の炭化水素が凝縮して液体となり、副生物を溶解又は押し流すことによって、反応器の閉塞が抑制されると考えられる。」及び【0019】の「原料ガス中の炭素原子数5以上の炭化水素の濃度は、高いほど副生物をよく溶解し、反応器の閉塞を抑制する効果が大きくなると考えられる。その一方で、濃度が高すぎると、原料ガス中の不活性成分の増加によって、原料ガスの加熱に必要なエネルギー量が増加して、エネルギー効率が低下するおそれがある。また、炭素原子数5以上の炭化水素の濃度が高すぎると、直鎖状ブテンの濃度が低くなり、直鎖状ブテンと触媒との接触時間が短くなって反応効率が低下するおそれがある。このため、炭素原子数5以上の炭化水素の濃度は、特定の範囲とすることが望ましい。」との記載と、炭素原子数5以上の炭化水素の濃度が0.3mol%である実施例3の記載から、原料ガス中の炭素原子数5以上の炭化水素の濃度が0.2?0.3mol%であることで、課題を解決できることを当業者が認識できるといえる。
また、イソブテン及びブタジエンの濃度についても、本件特許明細書【0024】?【0025】に、低いことが好ましいことが記載され、甲第2?5号証にも、これらの量が多すぎると、主原料の濃度が下がって反応が遅くなったり、目的生成物の収率が低下する傾向にあることが記載されており、申立人も主張するように、不純物の量が少ないことが好ましいことは、出願時における当業者の技術常識である。
したがって、本件特許発明1及び3は、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものである。
よって、申立人の申し立てた理由3(サポート要件)は理由がない。

(4)理由4(明確性要件)について
本件特許発明1及び3の記載は、それ自体明確であって、不明確なところはない。
そして、本件特許明細書の実施例に、原料ガス中のイソブテンの濃度が記載されていないことは、請求項の記載が明確であるかどうかと関係ない。
よって、申立人の申し立てた理由4(明確性要件)は理由がない。

(5)令和3年6月23日提出の意見書の主張について
申立人は、以下の甲第7号証?甲第9号証を提出し、本件特許発明1及び3は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1、3、7号証に記載された技術的事項及び甲第8?9号証に示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであると主張する。

甲第7号証:特開昭60-115532号公報
甲第8号証:特開2015-61859号公報
甲第9号証:特開2011-132218号公報

しかしながら、甲第2号証を主たる引用発明とする進歩性欠如の申立理由は、特許異議申立書には記載されていなかったものである。
そして、この申立理由は、訂正請求に付随して生じた事項とはいえず、新たな内容を含むものである。
よって、上記意見書における申立人の主張は、新たな取消理由として採用しない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠方法によっては、請求項1及び3に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1及び3に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件訂正により請求項2に係る発明の特許は削除されたため、申立人の請求項2に係る発明の特許についての特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
したがって、請求項2に係る発明の特許についての特許異議の申立ては不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直鎖状ブテンを含有する原料ガスと分子状酸素を含有する酸素含有ガスとを反応器に供給し、触媒の存在下で酸化脱水素反応を行って、ブタジエンを含有する生成ガスを得る工程を備え、
前記触媒が、モリブデン及びビスマスを含有する複合酸化物を含み、
前記原料ガス中の炭素原子数5以上の炭化水素の濃度が0.2?0.3mol%、イソブテンの濃度が1.0mol%以下、ブタジエンの濃度が1.0mol%以下である、ブタジエンの製造方法。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記原料ガス中の前記直鎖状ブテンの濃度が60mol%以上である、請求項1に記載の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-07-16 
出願番号 特願2015-234994(P2015-234994)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C07C)
P 1 651・ 113- YAA (C07C)
P 1 651・ 851- YAA (C07C)
P 1 651・ 121- YAA (C07C)
P 1 651・ 536- YAA (C07C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 阿久津 江梨子  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 関 美祝
齊藤 真由美
登録日 2020-06-12 
登録番号 特許第6716237号(P6716237)
権利者 ENEOS株式会社
発明の名称 ブタジエンの製造方法  
代理人 黒木 義樹  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 清水 義憲  
代理人 清水 義憲  
代理人 平野 裕之  
代理人 黒木 義樹  
代理人 平野 裕之  
代理人 長谷川 芳樹  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ