• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
管理番号 1377790
異議申立番号 異議2020-700122  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-02-27 
確定日 2021-07-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6590068号発明「接着フィルム及びダイシングダイボンディング一体型フィルム」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6590068号の特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。 特許第6590068号の請求項1-2,4-10に係る特許を維持する。 特許第6590068号の請求項3に係る特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6590068号の請求項1?10に係る特許についての出願は,2017年(平成29年)6月9日(優先権主張 平成28年6月10日:日本)を国際出願日とする出願であって,令和元年9月27日にその特許権の設定登録がされ,令和元年10月16日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は,以下のとおりである。

令和2年2月27日:特許異議申立人中谷浩美(以下「申立人」という。)
による請求項1?10に対する特許異議の申立て
令和2年7月15日付け:取消理由通知書
令和2年9月14日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和2年12月10日:申立人による意見書の提出
令和2年12月23日付け:訂正拒絶理由通知書
令和3年2月3日:特許権者による意見書及び手続補正書の提出

なお,令和3年2月3日に特許権者から提出された意見書及び手続補正書を,令和3年2月24日付けで当審から申立人に送付し,期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが,申立人から応答はなかった。

第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
令和3年2月3日提出の手続補正書により補正された令和2年9月14日提出の訂正請求書における訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)は,次の訂正事項1?10からなる。(下線部は訂正箇所を示す。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「熱硬化後のせん断強度が1.5MPa以上である接着フィルム。」とあるのを「熱硬化後のせん断強度が1.5MPa以上であり,
(a)ポリマが下記不等式(2)で表される条件を満たすポリマを含む接着フィルム。」と訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2,5?10も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「の合計質量をそれぞれ示す。]」とあるのを,「の合計質量をそれぞれ示す。]
ma/MA≧0.40・・・(2)
[式中,maはポリマの環状構造を形成する炭素質量,MAはポリマの全質量をそれぞれ示す。]」と訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2,5?10も同様にする。」
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「(a)ポリマがフェノキシ樹脂を含む,請求項1?3のいずれか一項に記載の接着フィルム。」とあるうち,請求項1を引用するものについて,独立形式に改め,
「(a)ポリマと,
(b)50℃において液状のエポキシ樹脂と,
(c)硬化剤及び硬化促進剤の少なくとも一方と,
(d)熱伝導率10W/(m・K)以上のフィラと,
を含む,熱硬化性を有する接着フィルムであって,
下記不等式(1)で表される条件を満たし,
熱硬化後のせん断強度が1.5MPa以上であり,
(a)ポリマがフェノキシ樹脂を含む接着フィルム。
(ma+mb+mc)/M≧0.47・・・(1)
[式中,maは(a)ポリマの環状構造を形成する炭素質量,mbは(b)エポキシ樹脂の環状構造を形成する炭素質量,mcは(c)硬化剤及び硬化促進剤の環状構造を形成する炭素質量,Mは(a)ポリマ,(b)エポキシ樹脂並びに(c)硬化剤及び硬化促進剤の合計質量をそれぞれ示す。]」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1?4のいずれか一項」とあるのを「請求項1,2及び4のいずれか一項」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1?5のいずれか一項」とあるのを「請求項1,2,4及び5のいずれか一項」に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1?6のいずれか一項」とあるのを「請求項1,2,4,5及び6のいずれか一項」に訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1?7のいずれか一項」とあるのを「請求項1,2,4,5,6及び7のいずれか一項」に訂正する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1?8のいずれか一項」とあるのを「請求項1,2,4,5,6,7及び8のいずれか一項」に訂正する。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項10に「請求項1?9のいずれか一項」とあるのを「請求項1,2,4,5,6,7,8,及び9のいずれか一項」に訂正する。
(11)一群の請求項について
訂正前の請求項1?10について,請求項2?10はそれぞれ請求項1を引用しているものであって,訂正事項1,2によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって,訂正前の請求項1?10に対応する訂正後の請求項〔1?10〕は,特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

2.訂正の目的の適否,新規事項の有無,及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1,2について
(1.1)訂正の目的の適否
訂正事項1,2は請求項1の「(a)ポリマ」が不等式(2)を満たすことを特定することによってポリマを限定するものであり,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(1.2)新規事項の有無
訂正事項1,2は,本件特許の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「特許明細書等」という。)の請求項3の記載に基づくものであるから,訂正事項1,2は特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり,新規事項を追加するものではない。
(1.3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1,2は,本件訂正前の請求項1に係る発明及び請求項2,5?10に係る発明の技術的範囲を狭めるものであり,それらのカテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当しない。

(2)訂正事項3について
(2.1)訂正の目的の適否
訂正事項3は,請求項の削除を目的とするものであるから,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2.2)新規事項の有無
訂正事項3は,請求項を削除するものであるから,特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
(2.3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3は,請求項を削除するものであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(3)訂正事項4について
(3.1)訂正の目的の適否
訂正事項3は,訂正前の請求項1?3のいずれか一項を引用する請求項であった訂正前の請求項1を独立形式の請求項へ改めるための訂正であって,特許法120条の5第2項ただし書4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものにすること」を目的とするものである。
(3.2)新規事項の有無
訂正事項3は,訂正前の請求項4を独立形式の請求項へ改める訂正であって,何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから,特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり,新規事項を追加するものではない。
(3.3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3は,本件訂正前の請求項4に係る発明を独立形式に改める訂正であって,それらのカテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当しない。

(4)訂正事項5?10について
(4.1)訂正の目的の適否
訂正事項5?10は,いずれも引用する請求項を削減して特許請求の範囲を減縮するものであるから,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(4.2)新規事項の有無
訂正事項5?10は,いずれも引用する請求項を削減して特許請求の範囲を減縮するものであるから,特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
(4.3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項5?10は,いずれも引用する請求項を削減して特許請求の範囲を減縮するものであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(5)小括
以上のとおり,本件訂正請求による訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号又は4号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,特許法120条の5第9項において準用する特許法126条5項及び6項の規定に適合する。
したがって,特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。


第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?10に係る発明(以下,それぞれ「本件発明1」?「本件発明10」という。)は,訂正特許請求の範囲の請求項1?10に記載された以下の事項により特定されるとおりのものである。
「 【請求項1】
(a)ポリマと,
(b)50℃において液状のエポキシ樹脂と,
(c)硬化剤及び硬化促進剤の少なくとも一方と,
(d)熱伝導率10W/(m・K)以上のフィラと,
を含む,熱硬化性を有する接着フィルムであって,
下記不等式(1)で表される条件を満たし,
熱硬化後のせん断強度が1.5MPa以上であり,
(a)ポリマが下記不等式(2)で表される条件を満たすポリマを含む接着フィルム。
(ma+mb+mc)/M≧0.47・・・(1)
[式中,maは(a)ポリマの環状構造を形成する炭素質量,mbは(b)エポキシ樹脂の環状構造を形成する炭素質量,mcは(c)硬化剤及び硬化促進剤の環状構造を形成する炭素質量,Mは(a)ポリマ,(b)エポキシ樹脂並びに(c)硬化剤及び硬化促進剤の合計質量をそれぞれ示す。]
ma/MA≧0.40・・・(2)
[式中,maはポリマの環状構造を形成する炭素質量,MAはポリマの全質量をそれぞれ示す。]
【請求項2】
熱硬化後のフィルム表面の算術平均粗さRaが0.25μm以下である,請求項1に記載の接着フィルム。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
(a)ポリマと,
(b)50℃において液状のエポキシ樹脂と,
(c)硬化剤及び硬化促進剤の少なくとも一方と,
(d)熱伝導率10W/(m・K)以上のフィラと,
を含む,熱硬化性を有する接着フィルムであって,
下記不等式(1)で表される条件を満たし,
熱硬化後のせん断強度が1.5MPa以上であり,
(a)ポリマがフェノキシ樹脂を含む接着フィルム。
(ma+mb+mc)/M≧0.47・・・(1)
[式中,maは(a)ポリマの環状構造を形成する炭素質量,mbは(b)エポキシ樹脂の環状構造を形成する炭素質量,mcは(c)硬化剤及び硬化促進剤の環状構造を形成する炭素質量,Mは(a)ポリマ,(b)エポキシ樹脂並びに(c)硬化剤及び硬化促進剤の合計質量をそれぞれ示す。]
【請求項5】
(d)フィラがα-アルミナ粒子である,請求項1,2及び4のいずれか一項に記載の接着フィルム。
【請求項6】
厚さが50μm以下である,請求項1,2,4及び5のいずれか一項に記載の接着フィルム。
【請求項7】
(d)フィラの含有量は,(a)ポリマ,(b)エポキシ樹脂,(c)硬化剤及び硬化促進剤,並びに(d)フィラの合計量100重量部とすると,60?95重量部である,請求項1,2,4,5及び6のいずれか一項に記載の接着フィルム。
【請求項8】
熱硬化後の熱伝導率が1.7W/(m・K)以上である,請求項1,2,4,5,6及び7のいずれか一項に記載の接着フィルム。
【請求項9】
熱硬化後の熱伝導率が2.1W/(m・K)以上である,請求項1,2,4,5,6,7及び8のいずれか一項に記載の接着フィルム。
【請求項10】
請求項1,2,4,5,6,7,8及び9のいずれか一項に記載の接着フィルムからなるダイボンディングフィルムと,
前記ダイボンディングフィルムに積層されたダイシングフィルムと,
を備える,ダイシングダイボンディング一体型フィルム。」


第4 異議申立理由の概要
1.申立理由
令和2年2月27日付け特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由の概要は,本件特許の請求項1?10に係る特許は,下記の申立理由A?Iのとおり,特許法113条2号又は4号に該当する,というものである。

・申立理由A(新規性)
本件訂正前の請求項1,5?7,10に係る発明は,甲1号証に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1,5?7,10に係る特許は,同法113条2号に該当する。

・申立理由B(新規性)
本件訂正前の請求項1,2,5?7,10に係る発明は,甲2号証に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1,2,5?7,10に係る特許は,同法113条2号に該当する。

・申立理由C(進歩性)
本件訂正前の請求項1,5?10に係る発明は,甲1号証に記載された発明及び甲1号証に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,同法113条2号に該当する。

・申立理由D(進歩性)
本件訂正前の請求項1,2,5?10に係る発明は,甲2号証に記載された発明及び甲2号証に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,同法113条2号に該当する。

・申立理由E(進歩性)
本件訂正前の請求項3,4に係る発明は,甲1号証に記載された発明並びに甲1号証及び甲3号証に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,同法113条2号に該当する。

・申立理由F(進歩性)
本件訂正前の請求項3,4に係る発明は,甲2号証に記載された発明並びに甲2号証及び甲3号証に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,同法113条2号に該当する。

・申立理由G(実施可能要件)
本件特許発明2?10についての本件特許明細書の記載は,特許法36条4項1号の規定に適合するものではないから,本件特許の請求項2?10に係る特許は,同法113条4号に該当する。

・申立理由H(サポート要件)
本件訂正前の請求項1?10に係る発明は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号の規定に適合するものではないから,本件特許の請求項1?10に係る特許は,同法113条4号に該当する。

・申立理由I(明確性)
本件訂正前の請求項2?10に係る発明は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号の規定に適合するものではないから,本件特許の請求項2?10に係る特許は,同法113条4号に該当する。

2.証拠方法
上記特許異議申立書とともに提出された証拠方法は,以下のとおりである。
甲1号証:特開2015-103579号公報
甲2号証:特開2015-103580号公報
甲3号証:特開2013-91680号公報
甲4号証:M.Polat et al,”Effect of pH and hydration on the normal and lateral interaction forces between alumina surfaces” Journal of Colloid and Interface Science, ELSEVIER, 2006年,vol.304, pp.378-387
甲5号証:フィラー研究会,「フィラー活用事典」,株式会社大成社,平成6年5月31日,p.91-92
甲6号証:平櫛敬資 他,「炎溶射で得られたアルミナ球状粒子について」,窯業協会誌,公益社団法人日本セラミックス協会,1982年,90巻,1039号,p.105-110
甲7号証:“デンカ球状アルミナ”デンカ株式会社[2019年12月23日検索]<URL:https://www.denka.co.jp/product/detail_0040/>
甲8号証:特開2009-256475号公報
甲9号証:特開2018-139009号公報
甲10号証:「複合材料における界面ハンドブック」,工業資料センター,平成18年1月15日,p.96-99
甲11号証:「JIS工業用語大辞典 第3版」,一般財団法人日本規格協会,1991年11月20日,p.962-963
甲12号証:特開2011-198914号公報
甲13号証:特開2009-138048号公報
甲14号証:特開2011-228642号公報


第5 取消理由の概要
訂正前の請求項1?10に係る特許に対して,当審が令和2年7月15日付けの取消理由通知により特許権者に通知した取消理由(以下「取消理由」という。)の概要は,以下のとおりである。(当審注:上記取消理由通知の「本件特許出願前に」は「本件特許の優先日前に」の誤記と認める。)

1.(新規性)請求項1,5?7,10に係る発明は,本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1号証に記載された発明であり,また,請求項1?2,6,7,10に係る発明は,本件特許の優先権日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2号証に記載された発明であって,特許法29条1項3号に該当するから,請求項1?2,5?7,10に係る特許は,特許法29条1項の規定に違反してされたものである。

2.(進歩性)請求項1,5?10に係る発明は,本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1号証に記載された発明及び甲1号証に記載された事項に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり,請求項1,2,6?10に係る発明は,本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2号証に記載された発明及び甲2号証に記載された事項に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,請求項1,2,5?10に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである。

3.(サポート要件)本件特許は,特許請求の範囲の請求項2の記載が不備のため,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。


第6 甲号証の記載事項
(1)甲1号証の記載
取消理由通知において引用した甲1号証(特開2015-103579号公報)には,次の記載がある。(下線は当審により付加。以下同じ。)

「【0001】
本発明は,熱硬化型ダイボンドフィルム,ダイシングシート付きダイボンドフィルム,及び,半導体装置の製造方法に関する。」

「【0087】
ダイボンドフィルム3,3’は,熱硬化性樹脂,熱可塑性樹脂などの樹脂成分を含むことが好ましい。
【0088】
熱硬化性樹脂としては,フェノール樹脂,アミノ樹脂,不飽和ポリエステル樹脂,エポキシ樹脂,ポリウレタン樹脂,シリコーン樹脂,又は熱硬化性ポリイミド樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は,単独で又は2種以上を併用して用いることができる。特に,半導体チップを腐食させるイオン性不純物等の含有が少ないエポキシ樹脂が好ましい。また,エポキシ樹脂の硬化剤としてはフェノール樹脂が好ましい。
【0089】
エポキシ樹脂は,ダイボンド用途の接着剤として一般に用いられるものであれば特に限定は無く,例えばビスフェノールA型,ビスフェノールF型,ビスフェノールS型,臭素化ビスフェノールA型,水添ビスフェノールA型,ビスフェノールAF型,ビフェニル型,ナフタレン型,フルオンレン型,フェノールノボラック型,オルソクレゾールノボラック型,トリスヒドロキシフェニルメタン型,テトラフェニロールエタン型等の二官能エポキシ樹脂や多官能エポキシ樹脂,又はヒダントイン型,トリスグリシジルイソシアヌレート型若しくはグリシジルアミン型等のエポキシ樹脂が用いられる。これらは単独で,又は2種以上を併用して用いることができる。これらのエポキシ樹脂のうちノボラック型エポキシ樹脂,ビフェニル型エポキシ樹脂,トリスヒドロキシフェニルメタン型樹脂又はテトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂が特に好ましい。これらのエポキシ樹脂は,硬化剤としてのフェノール樹脂との反応性に富み,耐熱性等に優れるからである。
【0090】
また,常温で柔軟でありダイボンドフィルム3,3’に可とう性を与えるという点から,ビスフェノールAエポキシ樹脂が好ましい。高耐熱性で耐薬品性に優れ,室温で柔軟でありダイボンドフィルム3,3’に可とう性を与えるという点から,ビスフェノールF型エポキシ樹脂が好ましい。
【0091】
120℃?130℃における流動性を高められるという点から,室温で液状のエポキシ樹脂が好ましい。
【0092】
本明細書において,液状とは,25℃において粘度が5000Pa・s未満であることをいう。なお,粘度は,Thermo Scientific社製の型番HAAKE Roto VISCO1を用いて測定できる。」

「【0098】
熱可塑性樹脂としては,天然ゴム,ブチルゴム,イソプレンゴム,クロロプレンゴム,エチレン-酢酸ビニル共重合体,エチレン-アクリル酸共重合体,エチレン-アクリル酸エステル共重合体,ポリブタジエン樹脂,ポリカーボネート樹脂,熱可塑性ポリイミド樹脂,6-ナイロンや6,6-ナイロン等のポリアミド樹脂,フェノキシ樹脂,アクリル樹脂,PETやPBT等の飽和ポリエステル樹脂,ポリアミドイミド樹脂,又はフッ素樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は単独で,又は2種以上を併用して用いることができる。これらの熱可塑性樹脂のうち,イオン性不純物が少なく耐熱性が高く,半導体チップの信頼性を確保できるアクリル樹脂が特に好ましい。」

「【0104】
ダイボンドフィルム3,3’は硬化促進触媒を含むことが好ましい。これにより,エポキシ樹脂とフェノール樹脂等の硬化剤との熱硬化を促進できる。硬化促進触媒としては特に限定されないが,例えば,リン-ホウ素系硬化触媒としては,テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート(商品名;TPP-K),テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリボレート(商品名;TPP-MK),トリフェニルホスフィントリフェニルボラン(商品名;TPP-S)などが挙げられる(いずれも北興化学工業(株)製)。イミダゾール系硬化促進剤(イミダゾール系硬化促進触媒)としては,2-メチルイミダゾール(商品名;2MZ),2-ウンデシルイミダゾール(商品名;C11-Z),2-ヘプタデシルイミダゾール(商品名;C17Z),1,2-ジメチルイミダゾール(商品名;1.2DMZ),2-エチル-4-メチルイミダゾール(商品名;2E4MZ),2-フェニルイミダゾール(商品名;2PZ),2-フェニル-4-メチルイミダゾール(商品名;2P4MZ),1-ベンジル-2-メチルイミダゾール(商品名;1B2MZ),1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール(商品名;1B2PZ),1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール(商品名;2MZ-CN),1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール(商品名;C11Z-CN),1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト(商品名;2PZCNS-PW),2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン(商品名;2MZ-A),2,4-ジアミノ-6-[2’-ウンデシルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン(商品名;C11Z-A),2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン(商品名;2E4MZ-A),2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物(商品名;2MA-OK),2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール(商品名;2PHZ-PW),2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール(商品名;2P4MHZ-PW)などが挙げられる(いずれも四国化成工業(株)製)。なかでも,反応性が高く,短時間で硬化反応が進行する点から,2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾールが好ましい。」

「【0111】
ダイボンドフィルム3,3’の厚さ(積層体の場合は,総厚)は特に限定されないが,好ましくは1μm以上,より好ましくは5μm以上,さらに好ましくは10μm以上である。また,ダイボンドフィルム3,3’の厚さは,好ましくは200μm以下,より好ましくは150μm以下,さらに好ましくは100μm以下,特に好ましくは50μm以下である。」

「【0129】
熱硬化後のダイボンドフィルム3の剪断接着力は,被着体6に対して0.2MPa以上であることが好ましく,より好ましくは0.2?10MPaである。ダイボンドフィルム3の剪断接着力が少なくとも0.2MPa以上であると,ワイヤーボンディング工程の際に,当該工程における超音波振動や加熱により,ダイボンドフィルム3と半導体チップ5又は被着体6との接着面でずり変形を生じることがない。すなわち,ワイヤーボンディングの際の超音波振動により半導体チップ5が動くことがなく,これによりワイヤーボンディングの成功率が低下するのを防止する。」

「【0136】
実施例で使用した成分について説明する。
エポキシ樹脂1:三菱化学(株)製のJER827(ビスフェノールA型エポキシ樹脂,Mw:370,25℃で液状,軟化点:25℃未満)
エポキシ樹脂2:新日鉄住金化学社製のYDF-2001(ビスフェノールF型エポキシ樹脂,軟化点:50?60℃)
フェノール樹脂:明和化成社製のMEH-7851-SS(ビフェニルアラルキル骨格を有するフェノール樹脂,水酸基当量:203g/eq.,軟化点:67℃)
アクリルゴム:ナガセケムテックス(株)製のテイサンレジンSG-70L(アクリル共重合体,Mw:90万,ガラス転移温度:-13℃)
触媒:四国化成工業社製の2PHZ-PW(2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール)
フィラー1:電気化学工業(株)製のDAW-05(球状アルミナフィラー,平均粒径:5μm,比表面積:0.4m2/g,熱伝導率:36W/m・K,真球度:0.91)
フィラー2:(株)アドマテックス製のAO802(球状アルミナフィラー,平均粒径:0.6μm,熱伝導率:36W/m・K,真球度:0.95)
シランカップリング剤:信越化学工業社製のKBM-503(3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)
【0137】
フィラーの表面処理方法について説明する。
フィラー1?2を,シランカップリング剤で表面処理し,表面処理フィラー1?2を得た 。表面処理は乾式法で行い,下記式で表される量のシランカップリング剤で処理した。」

「【0139】
[実施例及び比較例]
ダイボンドフィルムの作製
表1に記載の配合比に従い,エポキシ樹脂,フェノール樹脂,アクリルゴム,触媒及び表面処理フィラーをメチルエチルケトン(MEK)に溶解,分散させ塗工に適した粘度の接着剤組成物溶液を得た。その後,接着剤組成物溶液をシリコーン離型処理した厚さが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる離型処理フィルム(剥離ライナー)上に塗布した後,130℃で2分間乾燥させて,ダイボンドフィルム(厚さ25μm)を得た。
【0140】
[評価]
得られたダイボンドフィルムを用いて以下の評価を行った。結果を表1に示す。」

「【0145】
【表1】



(2)甲2号証の記載
取消理由通知において引用した甲2号証(特開2015-103580号公報)には,次の記載がある。

「【0001】
本発明は,熱硬化型ダイボンドフィルム,ダイシングシート付きダイボンドフィルム,熱硬化型ダイボンドフィルムの製造方法,及び,半導体装置の製造方法に関する。」

「【0057】
ダイボンドフィルム3,3’は,一方の面の表面粗さRaが200nm以下である。具体的に,ダイボンドフィルム3,3’は,ダイシングシート11と積層しない形態とする場合,少なくとも一方の面の表面粗さRaが200nm以下である。この場合,表面粗さRaが200nm以下の面を貼り合わせ面として,ダイシングシート上に貼り合わせると,このダイシングシートから剥離する際の剥離力を安定させることができる。また,ダイボンドフィルム3,3’は,ダイシングシート11と積層する形態とする場合,ダイシングシートとの貼り合わせ面の表面粗さRaが200nm以下である。この場合,ダイボンドフィルム3,3’とダイシングシート11とが,表面粗さRaが200nm以下の面を貼り合わせ面にして積層されているため,ダイボンドフィルム3,3’をダイシングシート11から剥離する際の剥離力を安定させることができる。前記表面粗さRaは,好ましくは,150nm以下である。また,前記表面粗さRaは,小さいほど好ましいが,例えば10nm以上とすることができる。」

「【0078】
ダイボンドフィルム3,3’は,熱可塑性樹脂,熱硬化性樹脂などの樹脂成分を含むことが好ましい。
【0079】
前記熱硬化性樹脂としては,フェノール樹脂,アミノ樹脂,不飽和ポリエステル樹脂,エポキシ樹脂,ポリウレタン樹脂,シリコーン樹脂,又は熱硬化性ポリイミド樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は,単独で又は2種以上を併用して用いることができる。特に,半導体チップを腐食させるイオン性不純物等の含有が少ないエポキシ樹脂が好ましい。また,エポキシ樹脂の硬化剤としてはフェノール樹脂が好ましい。
【0080】
前記エポキシ樹脂は,接着剤組成物として一般に用いられるものであれば特に限定は無く,例えばビスフェノールA型,ビスフェノールF型,ビスフェノールS型,臭素化ビスフェノールA型,水添ビスフェノールA型,ビスフェノールAF型,ビフェニル型,ナフタレン型,フルオンレン型,フェノールノボラック型,オルソクレゾールノボラック型,トリスヒドロキシフェニルメタン型,テトラフェニロールエタン型等の二官能エポキシ樹脂や多官能エポキシ樹脂,又はヒダントイン型,トリスグリシジルイソシアヌレート型若しくはグリシジルアミン型等のエポキシ樹脂が用いられる。これらは単独で,又は2種以上を併用して用いることができる。これらのエポキシ樹脂のうちノボラック型エポキシ樹脂,ビフェニル型エポキシ樹脂,トリスヒドロキシフェニルメタン型樹脂又はテトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂が特に好ましい。これらのエポキシ樹脂は,硬化剤としてのフェノール樹脂との反応性に富み,耐熱性等に優れるからである。また,前記エポキシ樹脂は,常温で固形のものと,常温で固形のものとの2種類を併用して用いることができる。常温で固形のエポキシ樹脂に対して,常温で液状のエポキシ樹脂を加えることにより,フィルムを形成した際の脆弱性を改善することができ,作業性を向上させることができる。なかでも,熱硬化型ダイボンドフィルムの80℃での溶融粘度を低下できる観点から,前記エポキシ樹脂のなかでも,軟化点が80℃以下のものが好ましい。なお,エポキシ樹脂の軟化点は,JIS K 7234-1986に規定される環球法で測定できる。
【0081】
更に,前記フェノール樹脂は,前記エポキシ樹脂の硬化剤として作用するものであり,例えば,フェノールノボラック樹脂,フェノールアラルキル樹脂,クレゾールノボラック樹脂,tert-ブチルフェノールノボラック樹脂,ノニルフェノールノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂,レゾール型フェノール樹脂,ポリパラオキシスチレン等のポリオキシスチレン等が挙げられる。これらは単独で,又は2種以上を併用して用いることができる。これらのフェノール樹脂のうちフェノールノボラック樹脂,フェノールアラルキル樹脂が特に好ましい。半導体装置の接続信頼性を向上させることができるからである。なかでも,熱硬化型ダイボンドフィルムの80℃での溶融粘度を低下できる観点から,前記フェノール樹脂のなかでも,軟化点が80℃以下のものが好ましい。なお,フェノール樹脂の軟化点は,JIS
K 6910-2007に規定される環球法で測定できる。
【0082】
前記エポキシ樹脂とフェノール樹脂との配合割合は,例えば,前記エポキシ樹脂成分中のエポキシ基1当量当たりフェノール樹脂中の水酸基が0.5?2.0当量になるように配合することが好適である。より好適なのは,0.8?1.2当量である。即ち,両者の配合割合が前記範囲を外れると,十分な硬化反応が進まず,エポキシ樹脂硬化物の特性が劣化し易くなるからである。
【0083】
前記熱可塑性樹脂としては,天然ゴム,ブチルゴム,イソプレンゴム,クロロプレンゴム,エチレン-酢酸ビニル共重合体,エチレン-アクリル酸共重合体,エチレン-アクリル酸エステル共重合体,ポリブタジエン樹脂,ポリカーボネート樹脂,熱可塑性ポリイミド樹脂,6-ナイロンや6,6-ナイロン等のポリアミド樹脂,フェノキシ樹脂,アクリル樹脂,PETやPBT等の飽和ポリエステル樹脂,ポリアミドイミド樹脂,又はフッ素樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は単独で,又は2種以上を併用して用いることができる。これらの熱可塑性樹脂のうち,イオン性不純物が少なく耐熱性が高く,半導体チップの信頼性を確保できるアクリル樹脂が特に好ましい。
【0084】
前記アクリル樹脂としては,特に限定されるものではなく,炭素数30以下,特に炭素数4?18の直鎖若しくは分岐のアルキル基を有するアクリル酸又はメタクリル酸のエステルの1種又は2種以上を成分とする重合体(アクリル共重合体)等が挙げられる。前記アルキル基としては,例えばメチル基,エチル基,プロピル基,イソプロピル基,n-ブチル基,t-ブチル基,イソブチル基,アミル基,イソアミル基,ヘキシル基,へプチル基,シクロヘキシル基,2-エチルヘキシル基,オクチル基,イソオクチル基,ノニル基,イソノニル基,デシル基,イソデシル基,ウンデシル基,ラウリル基,トリデシル基,テトラデシル基,ステアリル基,オクタデシル基,又はドデシル基等が挙げられる。」

「【0095】
ダイボンドフィルム3,3’の厚さ(積層体の場合は,総厚)は特に限定されないが,チップ切断面の欠け防止や接着層による固定保持の両立性の観点から,1?200μmが好ましく,より好ましくは3?100μm,さらに好ましくは5?80μmである。」

「【0114】
熱硬化後のダイボンドフィルム3の剪断接着力は,被着体6に対して0.2MPa以上であることが好ましく,より好ましくは0.2?10MPaである。ダイボンドフィルム3の剪断接着力が少なくとも0.2MPa以上であると,ワイヤーボンディング工程の際に,当該工程における超音波振動や加熱により,ダイボンドフィルム3と半導体チップ5又は被着体6との接着面でずり変形を生じることがない。すなわち,ワイヤーボンディングの際の超音波振動により半導体チップが動くことがなく,これによりワイヤーボンディングの成功率が低下するのを防止する。」

「【実施例】
【0120】
以下に,この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。ただし,この実施例に記載されている材料や配合量等は,特に限定的な記載がない限りは,この発明の要旨をそれらのみに限定する趣旨のものではない。なお,「部」とあるのは,「重量部」を意味する。
【0121】
(実施例1)
<熱硬化型ダイボンドフィルムの作製>
下記(a)?(e)をMEK(メチルエチルケトン)に溶解させ,粘度が室温で150mPa・sになるように濃度を調整し,接着剤組成物溶液を得た。
(a)エポキシ樹脂(三菱化学(株)製,製品名:JER827(ビスフェノールA型エポキシ樹脂),室温で液状(軟化点は25℃以下))
8.6部
(b)フェノール樹脂(ビフェニルアラルキル骨格を有するフェノール樹脂,明和化成社製,製品名:MEH-7851SS,軟化点67℃,水酸基当量203g/eq.)
10.6部
(c)アクリル共重合体(ナガセケムテックス(株)製,製品名:テイサンレジンSG-70L)
1部
(d)硬化促進触媒(四国化成製,製品名:2PHZ-PW,2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール)
0.2部
(e)球状アルミナフィラーA:電気化学工業(株)製のDAW-03(球状アルミナフィラー,平均粒径:3μm,比表面積:0.4m2/g,熱伝導率:36W/m・K)
80部
【0122】
なお,球状アルミナフィラーAは,予め表面処理を行なった。表面処理は乾式法で行い,下記式で表される量(シランカップリング剤処理量)のシランカップリング剤で処理した。シランカップリング剤は信越化学のKBM503を用いた。
(シランカップリング剤処理量)=(アルミナフィラーの重量(g)×アルミナフィラーの比表面積(m^(2)/g))/シランカップリング剤の最小被覆面積(m^(2)/g)
シランカップリング剤の最小被覆面積(m^(2)/g)=6.02×10^(23)×13×10^(-20)/シランカップリング剤の分子量
【0123】
この接着剤組成物溶液を,シリコーン離型処理した厚さが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる離型処理フィルム(第1のセパレータ)上に塗布して塗布膜を形成した後,乾燥温度130℃,乾燥時間2分間で乾燥させた。その後,シリコーン離型処理した厚さが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる離型処理フィルム(第2セパレータ)を重ね,温度65℃,且つ,圧力0.4Paの条件下,速度10m/分で前記塗工膜を前記第1セパレータと前記第2セパレータとで挟んで保持した。これにより,厚さ30μmのダイボンドフィルムAを作製した。」

「【0140】
【表1】




(3)甲3号証の記載
甲3号証(特開2013-91680号公報)には,次の記載がある。
「【0019】
[(A)エポキシ樹脂と反応性の官能基をポリマー骨格に有するポリマー]
本発明の接着剤組成物にエポキシ樹脂と反応性の官能基をポリマー骨格に有するポリマーが必要となる理由は以下のとおりである。ダイアタッチ時に接着フィルムと基板との間のボイドが少ない状態にするためには,接着フィルムの130?170℃の少なくとも1点におけるせん断粘度が1×10^(3)?1×10^(5)Pa・sの範囲であることが必要であることが実験的に解明されている。前記のせん断粘度を所定の範囲に維持するためには,モノマーに比較して高粘度となるポリマー成分が接着フィルムを構成する組成物に含有されていることが必要である。(A)成分は1種単独で用いることも2種以上を併用することもできる。また組成物中に含まれるエポキシ樹脂との間で強固なマトリックスを作製するために,エポキシ樹脂と反応性の官能基が必要である。」
「【0058】
(A)成分のポリマーとしては,ポリイミド樹脂以外にフェノキシ樹脂があげられる。このようなフェノキシ樹脂としては,例えばエピクロルヒドリンとビスフェノールAもしくはF等から誘導されるビスフェノール型エポキシ樹脂が挙げられる。このようなフェノキシ樹脂としては商品名でPKHC,PKHH,PKHJ(いずれも巴化学社製),ビスフェノールA・ビスフェノールF混合タイプの商品名エピコート4250,エピコート4275,エピコート1255HX30,臭素化エポキシを用いたエピコート5580BPX40(いずれも日本化薬社製),ビスフェノールAタイプの商品名でYP-50,YP-50S,YP-55,YP-70(いずれも東都化成社製),JER E1256,E4250,E4275,YX6954BH30,YL7290BH30(いずれもジャパンエポキシレジン社製)などがあげられる。」

「【0118】
【表1】



(4)甲4号証の記載
取消理由通知において引用した甲4号証(Journal of Colloid and Interface Science, ELSEVIER,2006年,vol.304, pp.378-387 )の第379頁左欄第11行目には,次の記載がある。(日本語訳は当審による。)
“An α-alumina powder (AO-802 from Admatechs Co.,Japan)”
(日本語訳:α-アルミナ粉末(AO-802,アドマテックス社製,日本))

(5)甲5号証の記載
甲5号証(フィラー研究会,「フィラー活用事典」,株式会社大成社,平成6年5月31日,p.91-92)には次の記載がある。
「2.2 アルミナ^(1)2)3))
アルミナの結晶系としては,α,κ,θ,δ,χ,η,γ,ρ,βが知られているが,フィラーとして使用されるのはαアルミナである(一部γアルミナも使用される)。」(91頁右欄8行?92頁左欄3行)

(6)甲6号証の記載
甲6号証(平櫛敬資 他,「炎溶射で得られたアルミナ球状粒子について」,窯業協会誌,公益社団法人日本セラミックス協会,1982年,90巻,1039号,p.105-110)には次の記載がある。
「また,結晶相はα-及びδ-Al2O3で構成され,粒径が小さくなるほどδ-Al2O3の量が増大する.このδ-Al2O3は,1300℃×3h加熱することにより完全にα-Al2O3となる.」(要約6?7行)
「3.2節で述べたように,球状粒子の粒径が小さくなるに従って微晶質球状粒子の割合が高まること,更にはδ-アルミナ量が増大することから表面近傍の微細な結晶はδ-アルミナと推定される.このδ-アルミナは1300℃×3h加熱することによって,すべてα-アルミナとなるが表面の形態は繊維状のままであった.」(109頁右欄6?11行)

(7)甲7号証の記載
甲7号証(“デンカ球状アルミナ”デンカ株式会社[2019年12月23日検索]<URL:https://www.denka.co.jp/product/detail_0040/>)には次の記載がある。
「当社独自の高温溶融技術により開発した高球形度の球状アルミナです。」(概要欄1行)




(8)甲8号証の記載
取消理由通知において引用した甲8号証(特開2009-256475号公報)には,次の記載がある。
「【0048】
〔硬化剤e〕下記の構造式(e)で表されるフェノール樹脂〔明和化成社製,MEH-7851-SS(水酸基当量203,軟化点67℃)〕
【化9】




(9)甲9号証の記載
甲9号証(特開2018-139009号公報)には次の記載がある。
「【0046】
前記光学部材の入射面S1,好ましくは入射面S1及び出射面S2は,前記写像鮮明度を低下させない程度の平滑性を有することが好ましい。具体的には,入射面S1及び出射面S2の算術平均粗さRaとしては,特に制限はなく,目的に応じて適宜選択することができるが,0.08μm以下が好ましく,0.06μm以下がより好ましく,0.04μm以下が特に好ましい。なお,上記算術平均粗さRaは,入射面の表面粗さを測定し,2次元断面曲線から粗さ曲線を取得し,粗さパラメータとして算出したものである。なお,測定条件はJIS B0601:2001に準拠している。以下に測定装置及び測定条件を示す。
測定装置:全自動微細形状測定機(サーフコーダーET4000A,株式会社小坂研究所製)
λc=0.8mm,評価長さ4mm,カットオフ×5倍
データサンプリング間隔0.5μm」

(10)甲10号証の記載
甲10号証(「複合材料における界面ハンドブック」,工業資料センター,平成18年1月15日,p.96-99)には次の記載がある。
「ここで,τj0は接着層の繊維方向のせん断強さ,すなわち繊維とマトリックス間のせん断接着強さ,σf0は繊維の引張り強さ,lcはσf0が生じるとき,それに対応する有効接着長さで限界長さ(critical length)という.」(98頁左欄第5段落)

(11)甲11号証の記載
甲11号証(「JIS工業用語大辞典 第3版」,一般財団法人日本規格協会,1991年11月20日,p.962-963)には次の記載がある。
「接着力 *せっちゃくりょく ⇒接着強さ [K 6800]
接着力 *せっちゃくりょく ⇒接着強さ [K 6900]」
(963頁9?10行)

(12)甲12号証の記載
甲12号証(特開2011-198914号公報)には次の記載がある。
「【0068】
チップをダイボンドする配線基板として,銅箔張り積層板(三菱ガス化学社製,BTレジンCCL-HL832HS)の銅箔に回路パターンが形成され,パターン上にソルダーレジスト(太陽インキ社製,PSR-4000 AUS303)を有している2層両面基板(日立超LSIシステムズ社製,LNTEG0001,サイズ 157mm×70mm×0.22t,最大凹凸15μm)を用いた。5mm×5mmのサイズでダイシングされたシリコンチップを接着剤層ごとピックアップし,接着シートの接着剤層を介して100℃かつ300gf/chip,1秒間の条件にてボンディングし,その後,125℃で60分間加熱し,さらに175℃で120分間加熱し接着剤層を硬化させ,試験片を得た。この硬化直後の試験片を,以下「試験片(ア)」と記す。」
「【0070】
得られた試験片(ア)および(イ)のそれぞれを,ボンドテスター(Dage社製,ボンドテスターSeries4000)の250℃に設定された測定ステージ上に30秒間放置し,次いでシリコンウェハテストピースより10μmの高さの位置よりスピード200μm/sで接着面に対し水平方向(せん断方向)に応力をかけ,試験片チップと基板との接着状態が破壊するときの力(せん断接着力)(N)を測定した。また,1水準(各実施例および比較例)の測定値として,6サンプルの測定値の平均値を採用した。」

(13)甲13号証の記載
甲13号証(特開2009-138048号公報)には次の記載がある。
「【0050】
(2)接着性試験
450μmのシリコンウエハーを2mm×2mmのチップにダイシングし,次いでこのダイシングされたウエハーの裏面に,作成した接着フイルムを100℃で熱圧着し,接着フィルム部分も同様にチップ形状に切り出し,接着フイルムが付いたシリコンチップを取りだした。次いで,10mm×10mmの,レジストAUS303((株)ユニテクノ社製)が塗布硬化されたBT基板及びシリコン基板上に,このチップを接着フイルムが付着した面が接触するように載せ,170℃,0.1MPaの条件で2秒熱圧着し,固定した。得られた試験体を175℃で4時間加熱して接着剤層を硬化させて試験片(接着試験片)を作製した。ボンドテスター(DAGE社製,4000PXY)により,260℃での基板との間のせん断接着力を測定した。」

(14)甲14号証の記載
甲14号証(特開2011-228642号公報)には次の記載がある。
「【0061】
<せん断接着力の測定>
70℃に加熱したホットプレート上に100μm厚のシリコンウエハを置き,シリコンウエハの研削面に,剥離ライナーを支持体として,離型フィルムを剥がした状態の接着フィルムをローラーによって貼り合わせた。その後剥離ライナーを剥がし,接着フィルムの上に粘着フィルム(株式会社古河電気工業社製:UC-344EP-85)を貼り,DAD340(株式会社ディスコ社製)にてシリコンウエハを5mm角にダイシングして,チップを形成した。その後,土台ウエハのミラー面に150℃/3s/100gfにて5mm角の接着フィルム付のチップをボンディングした。土台ウエハとしては,650μm厚のシリコンウエハをDAD340(株式会社ディスコ社製)にて10mm角にダイシングしたものを使用した。その後,175℃で4時間加熱硬化させたものをサンプルとして10個ずつ用意し,万能ボンドテスターシリーズ4000(株式会社アークテック社製)を用い,265℃にてせん断接着力を測定し平均値を得た。得られたせん断接着力の平均値を表2及び表3の「せん断接着力」の項目に示した。尚,単位はMPaである。」


第7 当審の判断
1.取消理由通知に記載した取消理由について
1.1 取消理由1(29条1項3号)について
(1)本件発明1について
(1.1)引用発明1
上記第6の2.(1)の摘記から,特に,実施例1について注目すると,甲1号証には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「25℃で液状であるビスフェノールA型エポキシ樹脂JER827を4.4重量部と,
硬化剤であるフェノール樹脂MEH-7851-SSを6.7重量部と,
アクリル共重合体であるアクリルゴムSG-70Lを1.0重量部と,
硬化促進触媒である2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾールを0.1重量部と,
シランカップリング剤で表面処理された,熱伝導率36W/m・Kの球状アルミナフィラーDAW-05及びAO802とを含み,
熱硬化後の剪断接着力が0.2?10MPaであり,
厚さが25μmである,
熱硬化型ダイボンドフィルム。」

(1.2)対比
本件発明1と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「アクリル共重合体であるアクリルゴムSG-70L」は本件発明1の「ポリマ」に相当する。
イ 引用発明1の「25℃で液状である」と,本件発明1の「50℃において液状」は,いずれも常温で液状である点で一致するから,引用発明1の「25℃で液状であるビスフェノールA型エポキシ樹脂JER827」は,本件発明1における「50℃において液状のエポキシ樹脂」に相当する。
ウ 引用発明1における「硬化剤であるフェノール樹脂MEH-7851-SS」及び「硬化促進触媒である2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール」は,本件発明1における「硬化剤」及び「硬化促進剤」に相当する。
エ 引用発明1における「シランカップリング剤で表面処理された,熱伝導率36W/m・Kの球状アルミナフィラーDAW-05及びAO802」は,本件発明1における「熱伝導率10W/(m・K)以上のフィラ」に相当する。
オ 引用発明1の「熱硬化型ダイボンドフィルム」は,本件発明1における「熱硬化性を有する接着フィルム」に相当する。
カ 引用発明1において「熱硬化後の剪断接着力が0.2?10MPaであ」ることから,「熱硬化後のせん断強度が1.5MPa以上であ」る本件発明1と引用発明1とは,当該「せん断強度」が「1.5?10MPa」である点で一致する。
キ 技術常識から,ビスフェノールA型エポキシ樹脂の構造は


であり,2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾールの構造は,


であること,フェノール樹脂MEH-7851-SSが上記甲8号証の段落0048に記載された構造であることから,引用発明1における(ma+mb+mc)/Mは,次の表のとおり0.592であると理解できる。



そうすると,本件発明1と引用発明1は,ともに「下記不等式(1)」すなわち「(ma+mb+mc)/M≧0.47」を満たす点で一致する。

上記ア?キによれば,本件発明1と引用発明1の一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「(a)ポリマと,
(b)50℃において液状のエポキシ樹脂と,
(c)硬化剤及び硬化促進剤の少なくとも一方と,
(d)熱伝導率10W/(m・K)以上のフィラと,
を含む,熱硬化性を有する接着フィルムであって,
下記不等式(1)で表される条件を満たし,
熱硬化後のせん断強度が1.5MPa以上である,接着フィルム。
(ma+mb+mc)/M≧0.47・・・(1)
[式中,maは(a)ポリマの環状構造を形成する炭素質量,mbは(b)エポキシ樹脂の環状構造を形成する炭素質量,mcは(c)硬化剤及び硬化促進剤の環状構造を形成する炭素質量,Mは(a)ポリマ,(b)エポキシ樹脂並びに(c)硬化剤及び硬化促進剤の合計質量をそれぞれ示す。]」

<相違点1>
本件発明1は
「(a)ポリマが下記不等式(2)で表される条件を満たすポリマを含む
ma/MA≧0.40・・・(2)
[式中,maはポリマの環状構造を形成する炭素質量,MAはポリマの全質量をそれぞれ示す。]」
のに対し,引用発明1は上記不等式(2)で表される条件を満たすポリマを含んでいない点。

(1.3)引用発明2
上記第6の2.(2)の摘記から,特に,実施例1の記載に注目すると,甲2号証には次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「室温で液状であるビスフェノールA型エポキシ樹脂JER827を8.6重量部と,
硬化剤であるフェノール樹脂MEH-7851-SSを10.6重量部と,
アクリル共重合体であるテイサンレジンSG-70Lを1重量部と,
硬化促進触媒である2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾールを0.2重量部と,
シランカップリング剤で表面処理された,熱伝導率36W/m・Kの球状アルミナフィラーDAW-03とを含み,
熱硬化後の剪断接着力が0.2?10MPaであり,
熱硬化前の表面粗さRaが200nm以下であり,
厚さが5?80μmであり,
フィラーの充填量が80重量%である,
熱硬化型ダイボンドフィルム。」

(1.4)対比
本件発明1と引用発明2とを対比する。
ア 引用発明2における「アクリル共重合体であるテイサンレジンSG-70L」は本件発明1の「ポリマ」に相当する。
イ 引用発明2における「室温で液状であるビスフェノールA型エポキシ樹脂JER827」は,本件発明1における「50℃において液状のエポキシ樹脂」に相当する。
ウ 引用発明2における「硬化剤であるフェノール樹脂MEH-7851-SS」及び「硬化促進触媒である2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール」は,本件発明1における「硬化剤」及び「硬化促進剤」に相当する。
エ 引用発明2における「シランカップリング剤で表面処理された,熱伝導率36W/m・Kの球状アルミナフィラーDAW-03」は,本件発明1における「熱伝導率10W/(m・K)以上のフィラ」に相当する。
オ 引用発明2における「熱硬化型ダイボンドフィルム」は,本件発明1における「熱硬化性を有する接着フィルム」に相当する。
カ 引用発明2において「熱硬化後の剪断接着力が0.2?10MPaであ」ることから,「熱硬化後のせん断強度が1.5MPa以上であ」る本件発明1と引用発明2とは,当該「せん断強度」が「1.5?10MPa」である点で一致する。
キ 「ビスフェノールA型エポキシ樹脂」,「フェノール樹脂MEH-7851-SS」及び「2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール」の構造は上記(1.1)キに記載したとおりであるから,引用発明2における(ma+mb+mc)/Mは,次の表のとおり0.595であると理解できる。



そうすると,本件発明1と引用発明2は,ともに「下記不等式(1)」すなわち「(ma+mb+mc)/M≧0.47」を満たす点で一致する。

上記ア?キによれば,本件発明1と引用発明2の一致点及び相違点は,以下のとおりである。
<一致点>
「(a)ポリマと,
(b)50℃において液状のエポキシ樹脂と,
(c)硬化剤及び硬化促進剤の少なくとも一方と,
(d)熱伝導率10W/(m・K)以上のフィラと,
を含む,熱硬化性を有する接着フィルムであって,
下記不等式(1)で表される条件を満たし,
熱硬化後のせん断強度が1.5MPa以上である,接着フィルム。
(ma+mb+mc)/M≧0.47・・・(1)
[式中,maは(a)ポリマの環状構造を形成する炭素質量,mbは(b)エポキシ樹脂の環状構造を形成する炭素質量,mcは(c)硬化剤及び硬化促進剤の環状構造を形成する炭素質量,Mは(a)ポリマ,(b)エポキシ樹脂並びに(c)硬化剤及び硬化促進剤の合計質量をそれぞれ示す。]」

<相違点1’>
本件発明1は
「(a)ポリマが下記不等式(2)で表される条件を満たすポリマを含む
ma/MA≧0.40・・・(2)
[式中,maはポリマの環状構造を形成する炭素質量,MAはポリマの全質量をそれぞれ示す。]」
のに対し,引用発明2は上記不等式(2)で表される条件を満たすポリマを含んでいない点。

(1.3)小括
以上のとおり,本件発明1と引用発明1は上記相違点1について相違するから,本件発明1は引用発明1と同一ではない。また,本件発明1と引用発明2は上記相違点1’において相違するから,本件発明1は引用発明2と同一ではない。
したがって,本件発明1は甲1号証又は甲2号証に記載された発明ではない。

(2)本件発明4について
本件発明4と引用発明1とを,上記(1.2)における本件発明1と引用発明1との対比を参酌して対比すると,一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「(a)ポリマと,
(b)50℃において液状のエポキシ樹脂と,
(c)硬化剤及び硬化促進剤の少なくとも一方と,
(d)熱伝導率10W/(m・K)以上のフィラと,
を含む,熱硬化性を有する接着フィルムであって,
下記不等式(1)で表される条件を満たし,
熱硬化後のせん断強度が1.5MPa以上である,接着フィルム。
(ma+mb+mc)/M≧0.47・・・(1)
[式中,maは(a)ポリマの環状構造を形成する炭素質量,mbは(b)エポキシ樹脂の環状構造を形成する炭素質量,mcは(c)硬化剤及び硬化促進剤の環状構造を形成する炭素質量,Mは(a)ポリマ,(b)エポキシ樹脂並びに(c)硬化剤及び硬化促進剤の合計質量をそれぞれ示す。]」

<相違点2>
本件発明4は「(a)ポリマがフェノキシ樹脂を含む」のに対し,引用発明1はフェノキシ樹脂を含んでいない点。

また,本件発明4と引用発明2とを,上記(1.4)における本件発明1と引用発明2との対比を参酌して対比すると,一致点及び相違点は,上記本件発明4と引用発明1の<一致点>及び<相違点2>と同一である。

そうすると,本件発明4と引用発明1又は引用発明2は,上記相違点2について相違するから,本件発明4と引用発明1又は引用発明4は同一ではない。
したがって,本件発明4は甲1号証又は甲2号証に記載された発明ではない。

(3)本件発明2,5?7,10について
本件発明2,5?7,10は,いずれも本件発明1の全ての構成を有する発明であり,また,本件発明5?7,10は,いずれも本件発明4の全ての構成を有する発明であるから,本件発明1及び本件発明4と同様に,甲1号証又は甲2号証に記載された発明ではない。

(4)取消理由1についてのまとめ
以上のとおり,本件発明1,2,4?7,10は甲1号証又は甲2号証に記載された発明ではないから,特許法29条1項3号に該当する発明ではない。

1.2 取消理由2(29条2項)について
(1)本件発明1について
(1.1)引用発明1からの容易想到性
取消理由通知で引用した上記甲1?甲3,8号証には,上記相違点1に係る構成,すなわちポリマが「ma/MA≧0.40」を満たすとの構成について記載も示唆もされていない。そして,本件特許明細書の段落0014,0015の記載によれば,本件発明1は,当該構成により不等式(1)の左辺の値を大きくすることで,フィラの配合量を過剰に多くしなくても硬化後の熱伝導率が十分に高い接着フィルムを得ることができるという,甲1?3,8号証から予測し得ない優れた効果を奏するものである。
したがって,本件発明1は引用発明1及び甲1?3,8号証に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得たものではない。

(1.2)引用発明2からの容易想到性
上記相違点1’は上記相違点1と同一であり,上述のとおり文献1?4には上記相違点1に係る構成について記載も示唆もされていない。
したがって,本件発明1は引用発明2及び甲1?3,8号証に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得たものではない。

(2)本件発明2,5?10について
本件発明5?10は,いずれも本件発明1の全ての構成を有する発明であり,また,本件発明5?10は,いずれも本件発明4の全ての構成を有する発明であるから,本件発明1及び本件発明4と同様に,引用発明1及び甲1?3,8号証に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得たものではない。
また,本件発明2,6?10は,いずれも本件発明1の全ての構成を有する発明であり,また,本件発明6?10は,いずれも本件発明4の全ての構成を有する発明であるから,本件発明1及び本件発明4と同様に,引用発明2及び甲1?3,8号証に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得たものではない。

(3)申立人の主張について
令和2年12月10日付け意見書の3(1)(a),(b)において申立人は,本件発明1及び本件発明4は,甲1号証に記載された発明と甲1号証及び下記甲3号証に記載された事項から容易に発明をすることができたものであるか,あるいは,甲2号証に記載された発明と甲2号証及び下記甲3号証に記載された事項から容易に発明をすることができたものであり,その理由は次のア?ウのとおりであると主張している。
ア 甲1号証の段落0005には「また,ペースト状の接着剤は接着させて硬化させるプロセス中でボイドを発生し易い。そのため,半導体チップと基板との間に発生したボイドが放熱の妨げになり,設計通りの熱伝導性(放熱性)を発現できないなどの不良の原因となる。」と記載され,甲2号証の段落0005にも同様の記載があることから,甲1号証及び甲2号証には,ボイドについての課題が記載されているといえる。一方,甲3号証の段落0019の記載から,甲3号証には,甲1号証及び甲2号証に記載された課題と共通するボイドについての課題が記載されているとともに,ボイドを少なくすべく,接着フィルムのせん断粘度を調整するために,接着フィルムにエポキシ樹脂と反応性の官能基をポリマー骨格に有するポリマーを含有させることが記載されている。また,甲1号証及び甲2号証が属する技術分野と,甲3号証が属する技術分野は共通する。
イ 甲1号証の段落0098及び甲2号証の段落0083には,熱可塑性樹脂として,アクリル樹脂とともに,フェノキシ樹脂が挙げられている。また,甲3号証の段落0058には,上記エポキシ樹脂と反応性の官能基をポリマー骨格に有するポリマーとして各種のフェノキシ樹脂が記載され,甲3号証の実施例6及び7では,フェノキシ樹脂としてjER1256を用いた場合に十分なせん断応力が得られることが示されている。すなわち,甲3号証には,フェノキシ樹脂を用いた場合に,十分なせん断接着力が得られて,接着フィルムと基板との間のボイドを少なくでき,延いては,半導体チップと基板との間のボイドを少なくできることが記載されているといえる。
ウ 上記ア,イから,半導体チップと基板との間に発生したボイドが問題となるという課題に着目した場合に,甲1号証又は甲2号証に記載された発明に甲3号証に記載されたフェノキシ樹脂としてのjER1256を採用することには十分な動機付けがある。

上記ア?ウについて検討する。
初めに上記アについて検討すると,甲1号証の段落0005の「ボイドを発生しやすい」との記載や甲2号証の段落0005の「ボイドを発生しやすい」との記載は,いずれも「ペースト状の接着剤」についての記載であり,本件発明1や引用発明1,2のような「フィルム」についての記載ではないから,上記アの点は動機付けの根拠とはならない。
また,上記イ,ウについては上述の(2)のとおり,たとえ甲1?3号証にフェノキシ樹脂に変更可能であることが示唆されていたとしても,変更した際の具体的な組成や配合量について甲1?3号証には記載も示唆もされていないから,甲1号証又は甲2号証に記載された発明に甲3号証に記載された技術的事項を適用することで,本件発明1に想到することが容易であるとはいえない。
したがって,上記申立人の主張は採用できない。

(5)取消理由2についてのまとめ
以上のとおり,本件発明1,2,5?10は,引用発明1及び甲1?3,8号証に記載された技術的事項,又は,引用発明2及び甲1?3,8号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。

1.3 取消理由3(36条6項1号)について
取消理由3は,本件特許の特許請求の範囲の請求項2には,「熱硬化後のフィルム表面の算術平均粗さRaが0.25μm以下である」と特定されているところ,本件特許明細書に具体的に記載されているのはRaが0.1μmの場合のみであり,それ以外のRaの数値において本件発明の課題を解決し得ることが示されていないから,上記請求項2の記載は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないというものである。
しかしながら,本件発明2は本件発明1を減縮した発明であるから,本件発明1と同様に,「接着性及び放熱性の両方を十分に高水準に達成できる接着フィルム」を提供する(本件特許明細書段落0006)との本件発明の課題を解決し得るものといえる。加えて,本件発明2は,本件発明1の「硬化後のせん断強度が1.5MPa以上である」との発明特定事項を具備することで上述の「接着性」を「十分に高水準に達成」した上で,「熱硬化後のフィルム表面の算術平均粗さRaが0.25μm以下である」との発明特定事項を備えることで「十分に高い接着力を確保できる」(本件特許明細書段落0018)ことが,実施例とともに具体的に示されているから,本件発明2においても上記本件発明の課題を解決し得ることは明らかである。
したがって,本件特許の特許請求の範囲の請求項2の記載は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしているといえる。
令和2年12月10日付け意見書の3(2)(b)において申立人は,本件発明2は「熱硬化後のせん断強度が1.5MPa以上である」ことと,「熱硬化後のフィルム表面の算術平均粗さRaが0.25μm以下である」こととの組み合わせにより,十分な「接着性」を達成しているものであり,後者に言及せずに前者のみに言及することによりサポート要件が充足されるとした特許権者の主張は失当である旨主張している。
しかしながら,上述のとおり,本件発明2は本件発明1と同様の構成を備えることで本件発明の課題を解決し得るものであるから,組み合わせにより「十分に高い接着性」を確保しているものの,組み合わせによって初めて課題が解決されたものとはいえない。したがって,申立人の上記主張は採用できない。

1.4 小括
以上のとおりであるから,取消理由1?3によっては本件発明1,2,4?10に係る特許を取り消すことはできない。

2.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
上記申立理由A?Iのうち,申立理由A?Dは,以下の(3)を除き,取消理由通知に記載した取消理由1?2と同旨であるから,申立理由A?Dについての当審の判断は上記1.1?1.3に示したとおりである。
そして,他の申立理由についての当審の判断は以下のとおりである。

(1)申立理由E(進歩性)の本件発明4について
ア 上記1.1(2)で検討したとおり,上記本件発明4と引用発明1の一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「(a)ポリマと,
(b)50℃において液状のエポキシ樹脂と,
(c)硬化剤及び硬化促進剤の少なくとも一方と,
(d)熱伝導率10W/(m・K)以上のフィラと,
を含む,熱硬化性を有する接着フィルムであって,
下記不等式(1)で表される条件を満たし,
熱硬化後のせん断強度が1.5MPa以上である,接着フィルム。
(ma+mb+mc)/M≧0.47・・・(1)
[式中,maは(a)ポリマの環状構造を形成する炭素質量,mbは(b)エポキシ樹脂の環状構造を形成する炭素質量,mcは(c)硬化剤及び硬化促進剤の環状構造を形成する炭素質量,Mは(a)ポリマ,(b)エポキシ樹脂並びに(c)硬化剤及び硬化促進剤の合計質量をそれぞれ示す。]」

<相違点2>
本件発明4は「(a)ポリマがフェノキシ樹脂を含む」のに対し,引用発明1はフェノキシ樹脂を含んでいない点。

イ 上記相違点2について検討する。
甲1号証の段落0087には,「ダイボンドフィルム3,3’は,熱硬化性樹脂,熱可塑性樹脂などの樹脂成分を含むことが好ましい。」と記載され,段落0098には,「熱可塑性樹脂としては・・・フェノキシ樹脂,アクリル樹脂・・・等が挙げられる。」との記載があり,引用発明1の「アクリル共重合体であるアクリルゴムSG-70L」を同じ熱可塑性樹脂である「フェノキシ樹脂」に変更することが示唆されているとも理解できる。
しかしながら,甲1号証には,「アクリル共重合体であるアクリルゴムSG-70L」と「フェノキシ樹脂」のフィルムにおける配合量が全く同じであり,かつ,好適な熱硬化樹脂や硬化剤の種類や配合量まで全く同じであるとは記載されていない。そして,一般に化学の分野においては,材料を構成する成分の組合せや配合の比率により材料の性質が変わると考えるのが自然であるから,たとえ上記の示唆に従い引用発明1の「アクリル共重合体であるアクリルゴムSG-70L」を「フェノキシ樹脂」に変更したとしても,その配合量を「1.0重量部」とし,同時に,「25℃で液状であるビスフェノールA型エポキシ樹脂JER827を4.4重量部」とし,「硬化剤であるフェノール樹脂MEH-7851-SSを6.7重量部」とし,「硬化促進触媒である2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾールを0.1重量部」とすることは,甲1号証には示唆されておらず,上記の示唆に従い「アクリル共重合体であるアクリルゴムSG-70L」を「フェノキシ樹脂」に変更したとしても,相違点1に係る本件発明1の不等式(1)を満たす接着フィルムが得られるとはいえない。
また,甲2,3,8号証にも,引用発明1において他の成分の種類や配合比を変えずに,「アクリル共重合体であるアクリルゴムSG-70L」を「フェノキシ樹脂」に変更し,かつその配合量は変更前と同じとすることは,記載も示唆もされていない。
したがって,引用発明1において,上記の示唆に従い「アクリル共重合体であるアクリルゴムSG-70L」を「フェノキシ樹脂」に変更することにより,相違点1に係る本件発明1の不等式(1)を満たす接着フィルムとすることは,当業者にとって容易であるとはいえない。
よって,本件発明4は引用発明1及び甲1?3,8号証に記載された事項から当業者が容易に想到し得たものではない。

(2)申立理由F(進歩性)の本件発明4について
上記1.1(2)で検討したとおり,本件発明4と引用発明2との一致点及び相違点は,上記(1)アに記載した本件発明4と引用発明1の<一致点>及び<相違点2>と同一である。
上記相違点2について検討する。
甲2号証の段落0078にも,「ダイボンドフィルム3,3’は,熱硬化性樹脂,熱可塑性樹脂などの樹脂成分を含むことが好ましい。」との記載があり,段落0083には,「熱可塑性樹脂としては・・・フェノキシ樹脂,アクリル樹脂・・・等が挙げられる。」との記載があるから,引用発明2における「アクリル共重合体であるテイサンレジンSG-70L」を「フェノキシ樹脂」に変更することは示唆されているといえる。
しかしながら,上記(1)イで述べたのと同様に,上記示唆に従い引用発明2の「アクリル共重合体であるテイサンレジンSG-70L」を「フェノキシ樹脂」に変更した場合の具体的な配合量をはじめ,他の成分の選択や配合量については,甲2号証には示唆されておらず,甲1,3,8号証にもそのようなことは記載も示唆もされていないから,上記の示唆に従い変更することにより,相違点2に係る本件発明4の不等式(1)を満たす接着フィルムとすることは,当業者にとって容易であるとはいえない。
したがって,本件発明4は引用発明2及び甲1?3,8号証に記載された事項から当業者が容易に想到し得たものではない。

(3)申立理由B,D(新規性,進歩性)の本件発明5について
本件発明5は,「フィラα-アルミナ粒子」であることが特定されている。一方,引用発明2は「シランカップリング剤で表面処理された,熱伝導率36W/m・Kの球状アルミナフィラーDAW-03」を含むものであるところ,「DAW-03」が「α-アルミナ粒子」であることは,甲2号証には記載されていない。
一方,甲5号証には,「フィラーとして使用されるのはαアルミナである」(92頁右欄1?2行)と記載され,甲6号証には,「δ-アルミナは1300℃×3h加熱することによって,すべてα-アルミナとなる」(109頁右欄9?10行)と記載され,甲7号証には,DAW-03が「高温溶融技術により開発した高球形状の球状アルミナ」(概要欄1行)であることが記載されているが,これらの記載も,「DAW-03」が「α-アルミナ粒子」であることを直接的に示すものではない。また,甲7号証において「高温溶融技術」の具体的内容は明らかではなく,甲6号証のいう「1300℃×3h」に相当する熱処理が行われたか否かは不明である。そうすると,甲5?7号証の記載を総合しても,「DAW-03」が「α-アルミナ粒子」であると認めることはできない。
したがって,本件発明5は引用発明2と同一ではなく,かつ,引用発明2及び甲2,5?7号証に記載された事項から当業者が容易に想到し得たものではない。

(4)申立理由G(実施可能要件)について
本件発明2は,「熱硬化後のフィルム表面の算術平均粗さRaが0.25μm以下である,請求項1に記載の接着フィルム。」と特定されているところ,当該「熱硬化後のフィルム表面の算術平均粗さRa」(以下,単に「Ra」ともいう。)について,本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落0018には,「熱硬化後の接着フィルムの算術平均粗さRa(以下,単に「表面粗さRa」という。)は,好ましくは0.25μm以下であり,より好ましくは0.20μm以下であり,更に好ましくは0.16μm以下である。硬化後の接着フィルムの表面粗さRaが0.25μm以下であれば,十分に高い接着力を確保できる。」と記載されており,段落0082には,「微細形状測定機サーフコーダET200(株式会社小坂研究所製)を用いて2.5mmの範囲で接着フィルムの表面粗さ(Ra)を求めた。」というRaの具体的な測定方法が記載されており,当業者であれば,上記測定方法によってRaを測定することができるから,本件発明2を実施することは可能であるといえる。

(5)申立理由H(サポート要件)について
ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明(以下,単に「発明の詳細な説明」ともいう。)の段落0006の記載によれば,本件発明が解決しようとする課題は,「接着性及び放熱性の両方を十分に高水準に達成できる接着フィルム及びこれをダイボンディングフィルムとして備えたダイシングダイボンディング一体型フィルムを提供すること」である。

イ 発明の詳細な説明には,以下の記載がある。
「【0012】
以下,本開示の実施形態について詳しく説明する。本実施形態に係る接着フィルムは,熱硬化性を有するものであり,(a)ポリマと,(b)50℃において液状のエポキシ樹脂と,(c)硬化剤及び硬化促進剤の少なくとも一方とからなる樹脂成分と,この樹脂成分中に分散した(d)フィラ(熱伝導率10W/(m・K)以上)とを含む。この接着フィルムは,上記樹脂成分中の環状構造(特に芳香環)の量を増加させることによって硬化後の接着フィルムの熱伝導率が高くすることができるという新たな知見に基づいてなされたものである。すなわち,本実施形態に係る接着フィルムは,高い熱伝導率を有するフィラの配合量を調整するという従来の手法に代えて,あるいは,この従来の手法とともに,樹脂成分中の環状構造の量を調整するという新たな手法によって,硬化後の接着フィルムの熱伝導率の向上を図ったものである。
【0013】
本実施形態に係る接着フィルムは,下記不等式(1)で表される条件を満たし且つ熱硬化後のせん断強度が1.5MPa以上である。
(ma+mb+mc)/M≧0.43・・・(1)
[式中,maは(a)ポリマの環状構造を形成する炭素質量,mbは(b)エポキシ樹脂の環状構造を形成する炭素質量,mcは(c)硬化剤及び硬化促進剤の環状構造を形成する炭素質量,Mは(a)ポリマ,(b)エポキシ樹脂,並びに(c)硬化剤及び硬化促進剤の合計質量をそれぞれ示す。]
・・・
【0015】
不等式(1)で表される条件を満たす樹脂成分を使用することで,(d)フィラの配合量を過剰に多くしなくても,硬化後の熱伝導率が十分に高い接着フィルムを得ることができる。・・・
【0017】
熱硬化後の接着フィルムのせん断強度は,1.5MPa以上であり,好ましくは1.6MPa以上であり,より好ましくは1.7MPa以上である。硬化後の接着フィルムのせん断強度が1.5MPa以上であれば,十分に高い接着力を確保できる。硬化後の接着フィルムのせん断強度の上限値は例えば10.0MPaである。
・・・
【0021】
上記不等式(1)の左辺の値((ma+mb+mc)/M)を大きくする観点から,(a)ポリマは下記不等式(2)で表される条件を満たすポリマを含むことが好ましく,下記不等式(2A)を満たすことがより好ましく,下記不等式(2B)を満たすことが更に好ましい。
ma/MA≧0.40・・・(2)
ma/MA≧0.45・・・(2A)
ma/MA≧0.50・・・(2B)
[式中,maはポリマの環状構造を形成する炭素質量,MAはポリマの全質量をそれぞれ示す。]
換言すれば,(a)ポリマは,一種又は二種以上のポリマからなることが好ましく,その少なくとも一種はリングパラメータが好ましくは0.40以上であり,より好ましくは0.45以上であり,更に好ましくは0.50以上である。」

以上によれば,発明の詳細な説明には,以下の接着フィルムは,硬化後の熱伝導率が十分に高く,かつ,十分に高い接着力を確保できることが記載されているといえる。
「(a)ポリマと,(b)50℃において液状のエポキシ樹脂と,(c)硬化剤及び硬化促進剤の少なくとも一方とからなる樹脂成分と,この樹脂成分中に分散した(d)フィラ(熱伝導率10W/(m・K)以上)とを含む熱硬化性を有する接着フィルムであって,
下記不等式(1)で表される条件を満たし且つ熱硬化後のせん断強度が1.5MPa以上であり,
(a)ポリマが下記不等式(2)で表される条件を満たすポリマを含む接着フィルム。
(ma+mb+mc)/M≧0.43・・・(1)
[式中,maは(a)ポリマの環状構造を形成する炭素質量,mbは(b)エポキシ樹脂の環状構造を形成する炭素質量,mcは(c)硬化剤及び硬化促進剤の環状構造を形成する炭素質量,Mは(a)ポリマ,(b)エポキシ樹脂,並びに(c)硬化剤及び硬化促進剤の合計質量をそれぞれ示す。]
ma/MA≧0.40・・・(2)
[式中,maはポリマの環状構造を形成する炭素質量,MAはポリマの全質量をそれぞれ示す。]」

ウ 上記イで示した,発明の詳細な説明に記載された接着フィルムと,本件発明1とは,同様の構成を有するものであるから,本件発明1は,発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。
そして,発明の詳細な説明の段落0071?0085に記載されている実施例によれば,本件発明1で特定されている事項を満たしている実施例1?4は,熱伝導率が2.1?2.6W/(m・K),接着力が1.5?1.6MPaであるのに対し,本件発明1で特定されている事項を満たしていない比較例1?4は,熱伝導率が1.4?1.8W/(m・K),接着力が1.0?2.5MPaであるから,本件発明1が,硬化後の熱伝導率が十分に高く,かつ,十分に高い接着力を確保できることは,実施例で裏付けられているといえる。
ここで,効果後の熱伝導率が十分に高くできることは,放熱性が十分に高水準に達成できること同義であり,また,十分に高い接着力を確保できることは,接着性を十分に高水準に達成できることと同義である。
したがって,本件発明1は,接着性及び放熱性の両方を十分に高水準に達成できるという上記課題を解決し得るものである。

エ 以上によれば,本件発明1は,発明の詳細な説明の記載により当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものである。
また,本件発明2,4?10は,いずれも本件発明1の構成を有するものであるから,本件発明1と同様に,発明の詳細な説明の記載により当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものである。

オ なお,本件発明2に特定されている「熱硬化後のフィルム表面の算術平均粗さRaが0.25μm以下である」ことについては,発明の詳細な説明の段落0018には,「熱硬化後の接着フィルムの算術平均粗さRa(以下,単に「表面粗さRa」という。)は,好ましくは0.25μm以下であり,より好ましくは0.20μm以下であり,更に好ましくは0.16μm以下である。硬化後の接着フィルムの表面粗さRaが0.25μm以下であれば,十分に高い接着力を確保できる。硬化後の接着フィルムの表面粗さRaの下限値は例えば0.03μmである。」と記載されていることからすると,本件発明2に特定されている事項は,十分に高い接着力を確保するための好ましい態様であるといえるから,上記課題を解決するために必要不可欠な事項であるとはいえない。

(6)申立理由I(明確性)について
本件発明2は,「熱硬化後のフィルム表面の算術平均粗さRaが0.25μm以下である」と特定されているところ,本件特許明細書の段落0082には,「微細形状測定機サーフコーダET200(株式会社小坂研究所製)を用いて2.5mmの範囲で接着フィルムの表面粗さ(Ra)を求めた。」と記載されている。
そして,算術平均粗さRaの測定は,下記に示すJIS B0633:2001の7.2.1に記載の方法により行うことが当業者の技術常識であるから,本件発明2における「算術平均粗さRaが0.25μm以下である」との発明特定事項も,当該方法により一義的に定まるものと理解できる。
よって,本件発明2の上記記載は明確である。

JIS B0633:2001の7.2.1には次の記載がある。
「7.2.1 非周期的な粗さ曲線のための評価手順 非周期的な粗さ曲線をもつ表面では,次のステップからなる評価手順によらなければならない。
a) 未知の粗さパラメータであるRa,Rz,Rz1max又はRSmは,例えば,視覚検査,比較用表面粗さ標準片,測定断面曲線(JIS B 0651参照)の記録波形など,適切と思われる手段を用いて推定する。
b) ステップa)によって推定されたRa,Rz,Rz1max又はRSmを用いて,表1,表2又は表3から基準長さを推定する。
c) 表面粗さ測定機によって,ステップb)で推定した基準長さを用いて,Ra,Rz,Rz1max又はRSmの測定値を求める。
d) Ra,Rz,Rz1max又はRSmの測定値と,推定された基準長さに該当する表1,表2又は表3のRa,Rz,Rz1max又はRSmの範囲とを比較する。もし測定値が推定された基準長さに該当するパラメータの範囲外であれば,測定値に合わせて測定機の基準長さを長い方又は短い方に変更する。次に,変更した基準長さによって測定値を求め,再度表1,表2又は表3の値と比較する。この時点で,表1,表2又は表3で推奨する測定値と基準長さとの組合せが満足されていなければならない。
e) ステップd)において,短い方の基準長さが試されていなければ,短い方の基準長さによるRa,Rz,Rz1max又はRSmの測定値を求める。得られたRa,Rz,Rz1max又はRSmの測定値と基準長さとの組合せが表1,表2又は表3の組合せになっているかどうかを確かめる。
f) ステップd)における最終設定が表1,表2又は表3に一致していれば,用いた基準長さ及びRa,Rz,Rz1max又はRSmの測定値は正しいとする。もしステップe)においても,表1,表2又は表3に推奨されている組合せになった場合には,短い方の基準長さ及びRa,Rz,Rz1max又はRSmの測定値が正しいとする。
g) ここまでのステップで推定された基準長さを用いて,要求されているパラメータの測定値を求める。







第8 結言
したがって,本件請求項1?2,4?10に係る特許は,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,取り消すことはできない。また,他に本件請求項1?2,4?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして,本件請求項3は訂正により削除されたため,同請求項に係る特許に対する特許異議の申立てについては,対象となる請求項が存在しないものとなったため,特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリマと、
(b)50℃において液状のエポキシ樹脂と、
(c)硬化剤及び硬化促進剤の少なくとも一方と、
(d)熱伝導率10W/(m・K)以上のフィラと、
を含む、熱硬化性を有する接着フィルムであって、
下記不等式(1)で表される条件を満たし、
熱硬化後のせん断強度が1.5MPa以上であり、
(a)ポリマが下記不等式(2)で表される条件を満たすポリマを含む接着フィルム。
(ma+mb+mc)/M≧0.47・・・(1)
[式中、maは(a)ポリマの環状構造を形成する炭素質量、mbは(b)エポキシ樹脂の環状構造を形成する炭素質量、mcは(c)硬化剤及び硬化促進剤の環状構造を形成する炭素質量、Mは(a)ポリマ、(b)エポキシ樹脂並びに(c)硬化剤及び硬化促進剤の合計質量をそれぞれ示す。]
ma/MA≧0.40・・・(2)
[式中、maはポリマの環状構造を形成する炭素質量、MAはポリマの全質量をそれぞれ示す。]
【請求項2】
熱硬化後のフィルム表面の算術平均粗さRaが0.25μm以下である、請求項1に記載の接着フィルム。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
(a)ポリマと、
(b)50℃において液状のエポキシ樹脂と、
(c)硬化剤及び硬化促進剤の少なくとも一方と、
(d)熱伝導率10W/(m・K)以上のフィラと、
を含む、熱硬化性を有する接着フィルムであって、
下記不等式(1)で表される条件を満たし、
熱硬化後のせん断強度が1.5MPa以上であり、
(a)ポリマがフェノキシ樹脂を含む接着フィルム。
(ma+mb+mc)/M≧0.47・・・(1)
[式中、maは(a)ポリマの環状構造を形成する炭素質量、mbは(b)エポキシ樹脂の環状構造を形成する炭素質量、mcは(c)硬化剤及び硬化促進剤の環状構造を形成する炭素質量、Mは(a)ポリマ、(b)エポキシ樹脂並びに(c)硬化剤及び硬化促進剤の合計質量をそれぞれ示す。]
【請求項5】
(d)フィラがα-アルミナ粒子である、請求項1,2及び4のいずれか一項に記載の接着フィルム。
【請求項6】
厚さが50μm以下である、請求項1,2,4及び5のいずれか一項に記載の接着フィルム。
【請求項7】
(d)フィラの含有量は、(a)ポリマ、(b)エポキシ樹脂、(c)硬化剤及び硬化促進剤、並びに(d)フィラの合計量100質量部とすると、60?95質量部である、請求項1,2,4,5及び6のいずれか一項に記載の接着フィルム。
【請求項8】
熱硬化後の熱伝導率が1.7W/(m・K)以上である、請求項1,2,4,5,6及び7のいずれか一項に記載の接着フィルム。
【請求項9】
熱硬化後の熱伝導率が2.1W/(m・K)以上である、請求項1,2,4,5,6及び7のいずれか一項に記載の接着フィルム。
【請求項10】
請求項1,2,4,5,6,7,8及び9のいずれか一項に記載の接着フィルムからなるダイボンディングフィルムと、
前記ダイボンディングフィルムに積層されたダイシングフィルムと、
を備える、ダイシングダイボンディング一体型フィルム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-07-07 
出願番号 特願2018-521788(P2018-521788)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (H01L)
P 1 651・ 537- YAA (H01L)
P 1 651・ 113- YAA (H01L)
P 1 651・ 121- YAA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山口 大志  
特許庁審判長 河本 充雄
特許庁審判官 渡部 博樹
小川 将之
登録日 2019-09-27 
登録番号 特許第6590068号(P6590068)
権利者 日立化成株式会社
発明の名称 接着フィルム及びダイシングダイボンディング一体型フィルム  
代理人 吉住 和之  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 清水 義憲  
代理人 吉住 和之  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 平野 裕之  
代理人 鈴木 洋平  
代理人 鈴木 洋平  
代理人 平野 裕之  
代理人 清水 義憲  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ