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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01B 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 H01B 審判 全部申し立て 2項進歩性 H01B |
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管理番号 | 1377839 |
異議申立番号 | 異議2021-700446 |
総通号数 | 262 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-10-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-05-11 |
確定日 | 2021-09-28 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6782238号発明「絶縁導体、固定子コイル、モータアセンブリ、絶縁導体を製造する方法、中間生成物、絶縁導体を製造するための装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6782238号の請求項に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6782238号の請求項1ないし30に係る特許についての出願は、2016年(平成28年)1月19日に国際出願(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2015年1月30日、英国)され、令和2年10月21日にその特許権の設定登録がされ、令和2年11月11日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対して、令和3年5月11日に特許異議申立人 エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハ-(以下、「特許異議申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った(以下、この特許異議の申立てを行った特許異議申立書を「特許異議申立書」という。)。 第2 本件発明 特許第6782238号の請求項1ないし30に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし30に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項1ないし30に係る発明を、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明30」という。)。 「【請求項1】 ポリマー材料を含む絶縁層が設けられた長尺導体を含む絶縁導体であって、前記ポリマー材料が、前記絶縁層の実質的に全範囲にわたって少なくとも25%の結晶化度を有し、前記絶縁層の前記全範囲にわたる前記ポリマー材料の前記結晶化度が、10%未満変化し、前記ポリマー材料が、一般式 【化1】 ![]() の繰り返し単位を含み、 式中、t1及びw1が独立して、0または1を表し、v1が、0、1、または2を表し、 前記絶縁層が、2μm?300μmの範囲の厚さを有する、導体。 【請求項2】 前記結晶化度が、少なくとも30%である、請求項1に記載の導体。 【請求項3】 前記ポリマー材料の前記結晶化度が、前記絶縁層上の第1の位置で評価され、前記結晶化度が前記第1の位置で少なくとも30%であり、前記ポリマー材料の前記結晶化度が、前記絶縁層上の第2の位置で評価され、前記第2の位置における前記結晶化度が少なくとも30%であり、前記ポリマー材料の前記結晶化度が、前記絶縁層上の第3の位置で評価され、前記第3の位置における前記結晶化度が少なくとも30%であり、 前記第1の位置が、少なくとも10mの距離だけ前記第3の位置から離間し、前記第2の位置が、少なくとも9mの距離だけ前記第3の位置から離間する、請求項1または2に記載の導体。 【請求項4】 前記絶縁層が、前記長尺導体の実質的に全体に沿って延在する、請求項1?3のいずれか1項に記載の導体。 【請求項5】 前記絶縁層には、前記結晶化度が15%未満である領域がない、請求項1?4のいずれか1項に記載の導体。 【請求項6】 前記絶縁層の少なくとも90重量%、好ましくは、少なくとも99重量%が、熱可塑性ポリマー材料を含む、請求項1?5のいずれか1項に記載の導体。 【請求項7】 前記絶縁層の少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも99重量%が、前記ポリマー材料、特にポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を含む、請求項1?6のいずれか1項に記載の導体。 【請求項8】 前記ポリマー材料が、前記繰り返し単位を含み、式中、t1=1、v1=0、及びw1=0である、請求項1?7のいずれか1項に記載の導体。 【請求項9】 前記ポリマー材料が、ポリエーテルエーテルケトンである、請求項1?8のいずれか1項に記載の導体。 【請求項10】 前記絶縁層が、前記長尺導体に直接接触する、請求項1?9のいずれか1項に記載の導体。 【請求項11】 前記絶縁層が、別の材料に覆われない、請求項1?10のいずれか1項に記載の導体。 【請求項12】 前記絶縁導体が、x重量%の前記長尺導体及びy重量%の前記ポリマー材料を含み、xとyの合計が、前記絶縁導体の総重量の少なくとも90重量%、好ましくは、少なくとも99重量%である、請求項1?11のいずれか1項に記載の導体。 【請求項13】 前記長尺導体が、銅導体である、請求項1?12のいずれか1項に記載の導体。 【請求項14】 前記絶縁導体が、1000nmを超える、例えば厚さが300nmを超える厚さの酸化層を含まない、請求項1?13のいずれか1項に記載の導体。 【請求項15】 前記長尺導体が、非円形の断面、好ましくは実質的に長方形の断面を有する、請求項1?14のいずれか1項に記載の導体。 【請求項16】 前記絶縁層中の膨れの表面積が、前記絶縁層の全表面積の5%未満、好ましくは1%未満に相当する、請求項1?15のいずれか1項に記載の導体。 【請求項17】 前記絶縁導体が、4?30kVの範囲の絶縁破壊電圧を有する、請求項1?16のいずれか1項に記載の導体。 【請求項18】 請求項1?17のいずれか1項に記載の絶縁導体を組み込んだ固定子コイル。 【請求項19】 請求項1?18のいずれか1項に記載の絶縁導体を組み込んだモータアセンブリ。 【請求項20】 ポリマー材料を含む絶縁層が設けられた長尺導体を含む絶縁導体を製造する方法であって、 (i)長尺導体を選択することと、 (ii)ポリマー材料を含むテープで前記長尺導体を被覆することであって、前記ポリマー材料が、一般式 【化2】 ![]() の繰り返し単位を含み、 式中、t1及びw1が独立して、0または1を表し、v1が、0、1、または2を表す、被覆することと、 (iii)前記テープを加熱して前記ポリマー材料を溶融することと、 (iv)加熱されたテープを冷却して前記ポリマー材料を凝固させることと、を含み、前記ポリマー材料が、冷却後に少なくとも25%の結晶化度を有するように前記テープの冷却を制御し、 前記ポリマー材料が、前記絶縁層の実質的に全範囲にわたって少なくとも25%の結晶化度を有し、前記絶縁層の前記全範囲にわたる前記ポリマー材料の前記結晶化度が、10%未満変化する、方法。 【請求項21】 ステップ(ii)で言及された前記テープが、機械方向配向(Machine Direction Orientated)(MDO)テープである、請求項20に記載の方法。 【請求項22】 前記方法が、第1及び第2の加熱ステップを含み、前記第1の加熱ステップ(以下、ステップ(iii)^(*)と呼ぶ)が、ステップ(iii)の前に、前記ポリマー材料の溶融温度(Tm)よりも低い温度に前記テープを加熱することを含む、請求項20または21に記載の方法。 【請求項23】 前記方法が、ステップ(iii)^(*)の後でありステップ(iii)の前であるステップ(iii)^(**)を含み、ステップ(iii)^(**)が、テープを前記長尺導体に向かって付勢するために前記テープで被覆された前記長尺導体に圧力を加えることを含む、請求項20?22のいずれか1項に記載の方法。 【請求項24】 ステップ(iii)が、前記ポリマー材料のTmよりも高い温度に前記テープを加熱することを含む、請求項20?23のいずれか1項に記載の方法。 【請求項25】 前記方法が、ステップ(iii)の後に、テープで被覆された前記長尺導体に圧力を加えることを含むステップを含む、請求項20?24のいずれか1項に記載の方法。 【請求項26】 前記テープの加熱の間に、前記ポリマー材料といずれの他の材料との間にも共有結合が形成されない、請求項20?25のいずれか1項に記載の方法。 【請求項27】 ステップ(iii)の後、テープで被覆された前記長尺導体が、前記ポリマー材料が凝固する第1の冷却ステップで冷却され、 前記第1の冷却ステップの後、テープで被覆された前記長尺導体が、テープで被覆された前記長尺導体に冷却流体を導くことを含む第2の冷却ステップで冷却され、 前記第2の冷却ステップの後に、冷却流体除去ステップがある、請求項20?26のいずれか1項に記載の方法。 【請求項28】 第2の冷却ステップの後、前記ポリマー材料が、前記ポリマー材料のガラス転移温度(Tg)よりも高い温度にある、及び/または前記ポリマー材料のアニールが行われる、請求項20?27のいずれか1項に記載の方法。 【請求項29】 MDOテープで被覆された長尺導体を含む中間生成物であって、前記MDOテープがポリマー材料を含み、前記ポリマー材料が、一般式 【化3】 ![]() の繰り返し単位を含み、 式中、t1及びw1が独立して、0または1を表し、v1が、0、1、または2を表し、 前記ポリマー材料が、前記ポリマー材料を含む絶縁層の実質的に全範囲にわたって少なくとも25%の結晶化度を有し、前記絶縁層の前記全範囲にわたる前記ポリマー材料の前記結晶化度が、10%未満変化する、中間生成物。 【請求項30】 ポリマー材料を含む絶縁層が設けられた長尺導体を含む絶縁導体を製造するための装置であって、 (i)長尺導体を第1の位置と第2の位置との間で搬送するための搬送装置と、 (ii)ポリマー材料を含むテープを前記長尺導体の周りに巻き付けるための巻き付けユニットと、 (iii)前記第1の位置と前記第2の位置との間を通過する間に、前記長尺導体を第1の温度に加熱するための第1の誘導コイルと、 (iv)前記長尺導体を前記第1の温度より高い第2の温度に加熱するための第2の誘導コイルであって、前記第1の誘導コイルの下流にある、第2の誘導コイルと、任意に、 (v)前記第2の誘導コイルの下流にある冷却装置とを備え、 前記ポリマー材料が、一般式 【化4】 ![]() の繰り返し単位を含み、 式中、t1及びw1が独立して、0または1を表し、v1が、0、1、または2を表し、 前記ポリマー材料が、前記絶縁層の実質的に全範囲にわたって少なくとも25%の結晶化度を有し、前記絶縁層の前記全範囲にわたる前記ポリマー材料の前記結晶化度が、10%未満変化する、装置。」 第3 申立理由の概要 1 申立理由1 特許異議申立人は、特開2014-154262号公報(以下、「甲1号証」という。)及び技術常識を示す証拠として、 ![]() (以下、「甲3号証」という。)、 Jianbing Chen et al, “Structures and Mechanical Properties of PEEK/PEI/PES Plastics Alloys Blent by Extrusion Molding Used for Cable Insulating Jacketing”, 2012, Elsevier, Procedia Engineering, Volume36, Pages 96-104(以下、「甲4号証」という。)、 G. Crevecoeur and G. Groeninckx, “Binary Blends of Poly(ether ether ketone) and Poly(ether imide). Miscibility, Crystallization Behavior, and Semicrystalline Morphology”, 1991, American Chemical Society, Macromolecules, Vol.24 No.5, pp.1190-1195(以下、「甲5号証」という。)、 ![]() 以下、「甲6号証」という。)、 を提出し、請求項1ないし11、13、15、18及び19に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるから、請求項1ないし11、13、15、18及び19に係る特許は取り消されるべき旨主張する。 2 申立理由2 特許異議申立人は、主たる証拠として甲1号証及び技術常識を示す証拠として甲3号証ないし甲6号証を提出し、請求項1ないし19に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1ないし19に係る特許は取り消されるべき旨主張する。 3 申立理由3 特許異議申立人は、主たる証拠として甲1号証、従たる証拠として特表2011-530139号公報(以下、「甲2号証」という。)及び技術常識を示す証拠として甲3号証ないし甲6号証並びに、 ![]() (以下、「甲7号証」という。)、 Shriraj H. Modi et al, ”Nanocomposites of poly(ether ether ketone) with carbon nanofibers: Effects of dispersion and thermo-oxidative degradation on development of linear viscoelasticity and crystallinity”, 2010, Elsevier, Polymer 51, 5236-5244(以下、「甲8号証」という。)、 キータスパイア^((R))(当審注:「^((R))」は、Rの丸囲いである。以下同様。)PEEK、デザイン及び加工ガイド、ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン株式会社 カタログ(http://jp.solvay.acsitefactory.com/sites/g/files/srpend326/files/2021-03/KetaSpire-PEEK-Design-and-Processing-Guide.pdf), ソルベイススペシャリティポリマーズジャパン株式会社(以下、「甲9号証」という。)、 を提出し、請求項20ないし30に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項20ないし30に係る特許は取り消されるべき旨主張する。 4 申立理由4 特許異議申立人は、発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1ないし30に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、請求項1ないし30に係る特許は、その発明の詳細な説明が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべき旨主張する。 5 申立理由5 特許異議申立人は、請求項1ないし30に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、請求項1ないし30に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべき旨主張する。 第4 甲号証の記載 1 甲1号証の記載 甲1号証には、図面とともに以下の記載がある。(下線は、当審で付した。以下同じ。) 「【技術分野】 【0001】 本発明は、耐インバータサージ絶縁ワイヤに関するものである。」 「【0008】 しかし、エナメル層を厚くするためには、製造工程において焼き付け炉を通す回数が多くなり、導体である銅表面の酸化銅からなる被膜の厚さが成長し、それに起因して導体とエナメル層との接着力が低下する。例えば、厚さ60μm以上のエナメル層を得る場合、焼き付け炉を通す回数が12回を超える。12回を超えて焼き付け炉を通すと、導体とエナメル層との接着力が極端に低下することがわかってきた。 一方、焼き付け炉を通す回数を増やさないために1回の焼き付けで塗布できる厚さを厚くする方法もあるが、この方法では、ワニスの溶媒が蒸発しきれずにエナメル層の中に気泡として残るという欠点があった。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0011】 本発明は、高温下の絶縁性能を損なうことなく絶縁層を厚膜化して、高い部分放電開始電圧と優れた耐熱老化特性を有する耐インバータサージ絶縁ワイヤを提供することを課題とする。」 「【0013】 すなわち、上記課題は以下の手段により解決される。 (1)導体の外周に、少なくとも1層のエナメル焼付層と、該エナメル焼付層の外側に少なくとも1層の押出被覆樹脂層とを有し、該エナメル焼付層と該押出被覆樹脂層との合計厚さが50μm以上、前記エナメル焼付層の厚さが60μm以下、前記押出被覆樹脂層の厚さが200μm以下であり、前記押出被覆樹脂層の25?250℃における引張弾性率の最小値が100MPa以上であり、前記エナメル焼付層と前記押出被覆樹脂層とを合わせた絶縁層の比誘電率が25℃において3.5以下であり、250℃において5.0以下であり、前記エナメル焼付層の250℃における比誘電率(ε1’)と前記押出被覆樹脂層の250℃における比誘電率(ε2’)の関係が、(ε2’/ε1’)>1 を満たす耐インバータサージ絶縁ワイヤ。 (2)前記押出被覆樹脂層が、ポリエーテルエーテルケトンの層である(1)に記載の耐インバータサージ絶縁ワイヤ。 (3)前記導体が、矩形状の断面を有している(1)又は(2)に記載の耐インバータサージ絶縁ワイヤ。」 「【発明を実施するための形態】 【0017】 本発明は、導体の外周に、少なくとも1層のエナメル焼付層と、その外側に少なくとも1層の押出被覆樹脂層を有し、下記条件(1)?(6)を満たしている。 (1)エナメル焼付層と押出被覆樹脂層の合計厚さが50μm以上 (2)エナメル焼付層の厚さが60μm以下 (3)押出被覆樹脂層の厚さが200μm以下 (4)押出被覆樹脂層の25?250℃における引張弾性率の最小値が100MPa以上 (5)エナメル焼付層と押出被覆樹脂層とを合わせた絶縁層の実効的な比誘電率が25℃において3.5以下であり、250℃において5.0以下 (6)エナメル焼付層の250℃における比誘電率(ε1’)と押出被覆樹脂層の250℃における比誘電率(ε2’)の関係が、(ε2’/ε1’)>1 このような構成を有する本発明の耐インバータサージ絶縁ワイヤは、部分放電開始電圧が高く、高温下の絶縁性能及び耐熱老化特性にも優れる。 したがって、本発明の耐インバータサージ絶縁ワイヤ(以下、単に「絶縁ワイヤ」という)は、耐熱巻線用として好適であり、後述するように、種々の用途に用いられる。 【0018】 以下に、本発明の耐インバータサージ絶縁ワイヤの実施態様について、図面を参照して説明する。 図1に示した本発明の耐インバータサージ絶縁ワイヤの一実施態様は、断面が円形の導体1と、導体1の外周面を被覆する1層のエナメル焼付層2と、エナメル焼付層2の外周面を被覆する1層の押出被覆樹脂層3とを有し、耐インバータサージ絶縁ワイヤ全体の断面も円形になっている。 図2に示した本発明の耐インバータサージ絶縁ワイヤの別の実施態様は、断面が矩形状の導体1と、導体1の外周面を被覆する1層のエナメル焼付層2と、エナメル焼付層2の外周面を被覆する1層の押出被覆樹脂層3とを有し、耐インバータサージ絶縁ワイヤ全体の断面も矩形状になっている。」 「【0022】 (導体) 本発明の絶縁ワイヤに用いる導体1としては、従来、絶縁ワイヤで用いられているものを使用することができるが、好ましくは、酸素含有量が30ppm以下の低酸素銅、さらに好ましくは20ppm以下の低酸素銅又は無酸素銅の導体である。酸素含有量が30ppm以下であれば、導体を溶接するために熱で溶融させた場合、溶接部分に含有酸素に起因するボイドの発生がなく、溶接部分の電気抵抗が悪化することを防止するとともに溶接部分の強度を保持することができる。 導体は、図1及び図2に示されるように、その横断面が円形、矩形状等の所望の形状のものを使用できるが、ステータースロットに対する占有率の点で円形以外の形状を有するものが好ましく、特に、図2に示されるように、平角形状のものが好ましい。更には、角部からの部分放電を抑制するという点において、4隅に面取り(半径r)を設けた形状であることが望ましい。」 「【0027】 このエナメル焼付層は、上述のエナメル樹脂を含む樹脂ワニスを導体上に好ましくは複数回塗布、焼付して形成することができる。樹脂ワニスを塗布する方法は、常法でよく、例えば、導体形状の相似形としたワニス塗布用ダイスを用いる方法、導体の断面形状が四角形であるならば井桁状に形成された「ユニバーサルダイス」と呼ばれるダイスを用いる方法が挙げられる。これらの樹脂ワニスを塗布した導体は常法にて焼付炉で焼き付けされる。具体的な焼付条件はその使用される炉の形状などに左右されるが、およそ5mの自然対流式の竪型炉であれば、400?500℃にて通過時間を10?90秒に設定することにより達成することができる。 【0028】 (押出被覆樹脂層) 押出被覆樹脂層は、部分放電開始電圧の高い絶縁ワイヤを得るために、エナメル層の外側に少なくとも1層設けられ、1層であっても複数層であってもよい。 押出被覆樹脂層は熱可塑性樹脂の層であり、押出被覆樹脂層を形成する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)が挙げられる。ここでポリエーテルエーテルケトンは、変性ポリエーテルエーテルケトン(modified-PEEK)を包含する意味である。変性ポリエーテルエーテルケトンは、機械特性や熱特性を向上させる目的で用いられる助剤や樹脂を添加することで、ポリエーテルエーテルケトンを変性したものである。このような変性ポリエーテルエーテルケトンとして、例えば、商品名「アバスパイア」シリーズ、具体的には、「アバスパイアAV-650」(商品名、ソルベイスペシャリティポリマーズ製)等が挙げられる。 さらに前記熱可塑性樹脂として、熱可塑性ポリイミド(PI)、芳香環を有するポリアミド(芳香族ポリアミドという)、芳香環を有するポリエステル(芳香族ポリエステルという)、ポリケトン(PK)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等が挙げられる。」 「【0031】 熱可塑性樹脂が結晶性の熱可塑性樹脂である場合には、ガラス転移温度付近の引張弾性率の急激な低下を抑制し、低温下から高温下までの優れた機械特性と高温下での優れた絶縁特性を発揮できる点で、皮膜の結晶化度を高くすることが好ましい。具体的には、皮膜の結晶化度は50%以上であるのが好ましく、70%以上であるのがさらに好ましく、80%以上であるのが特に好ましい。結晶化度の上限は、特に限定されず、例えば100%である。押出被覆樹脂層の皮膜結晶化度は、示差走査熱量分析(DSC)を用いて、測定できる。具体的には、押出被覆樹脂層の皮膜を適量採取し、例えば5℃/minの速度で昇温させ、300℃を超える領域で見られる融解に起因する熱量(融解熱量)と150℃周辺で見られる結晶化に起因する熱量(結晶化熱量)とを算出し、融解熱量に対する、融解熱量から結晶化熱量を差し引いた熱量の差分を、皮膜結晶化度とする。計算式を以下に示す。 式:皮膜結晶化度(%)=[(融解熱量-結晶化熱量)/(融解熱量)]×100」 「【0033】 押出被覆樹脂層を形成する熱可塑性樹脂は、上述の熱可塑性樹脂の中から、25℃における比誘電率ε2、250℃における比誘電率ε2’、25?250℃における引張弾性率の最小値、所望により融点等を考慮して、選択される。特に、エナメル層及び押出被覆樹脂層の厚さ及び合計厚さ、25℃及び250℃における絶縁層の比誘電率、上述の比誘電率の比、並びに、25?250℃における引張弾性率の最小値それぞれが上述の範囲内にある熱可塑性樹脂、例えば、ポリエーテルエーテルケトン及び変性ポリエーテルエーテルケトンからなる群より選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂が好ましい。すなわち、押出被覆樹脂層がポリエーテルエーテルケトンの層であるのが好ましい。押出被覆樹脂層を形成する熱可塑性樹脂としてこれら熱可塑性樹脂を採用すると、上述の厚さ、合計厚さ、並びに比誘電率、上述の比誘電率及び25?250℃における引張弾性率の最小値の比と相俟って、部分放電開始電圧がより一層向上し、低温下から高温下までの機械特性及び高温下の絶縁性能も高度に維持され、加えて耐熱老化特性もより一層向上する。このような熱可塑性樹脂として、例えば、比誘電率ε2が3.1、比誘電率ε2’が4.7のポリエーテルエーテルケトン(PEEK)(ソルベイスペシャリティポリマーズ製、商品名:キータスパイアKT-820)などが使用できる。 押出被覆樹脂層を形成する熱可塑性樹脂は1種独でもよく、2種以上を用いてもよい。なお、熱可塑性樹脂は、25?250℃における引張弾性率の最小値及び比誘電率が上述の範囲又は後述する範囲から外れない程度であれば、他の樹脂やエラストマー等をブレンドしたものでもよい。」 「【0038】 本発明の実施態様において、エナメル焼付層と押出被覆樹脂層とを合わせた絶縁層全体の比誘電率は、25℃において3.5以下である。この比誘電率が3.5以下であると、少なくとも25℃における絶縁ワイヤの部分放電開始電圧を1kVp以上に向上させることができ、インバータサージ劣化を防止できる。インバータサージ劣化をより一層防止できる点で、25℃における比誘電率は、3.2以下であるのが好ましく、下限は特に制限するものではないが、実際的には3.0以上が好ましい。 また、エナメル焼付層と押出被覆樹脂層とを合わせた絶縁層全体の比誘電率は、250℃において5.0以下である。高温では一般的に樹脂の誘電率は上昇し、かつ空気の密度減少にともなって部分放電開始電圧は必然的に低下するが、250℃における比誘電率が5.0以下であると、高温下、例えば250℃での部分放電開始電圧の低下を抑えることができる。部分放電開始電圧の低下をより一層抑えることができる点で、250℃における比誘電率は、4.8以下であるのが好ましく、下限は特に制限するものではないが、実際的には4.0以上が好ましい。」 「【0051】 得られたエナメル線を心線とし、押出機のスクリューは、30mmフルフライト、L/D=20、圧縮比3を用いた。材料はポリエーテルエーテルケトン(PEEK)(ソルベイスペシャリティポリマーズ製、商品名:キータスパイアKT-820、比誘電率ε2:3.1、融点343℃)を用い、押出温条件は表1に従って行った。押出ダイを用いてPEEKの押出被覆を行い、エナメル層の外側に厚さ26μmの押出被覆樹脂層(25?250℃における引張弾性率の最小値及び上述の測定方法による結晶化度を表2に示す。)を形成した。このようにして、合計厚さ(エナメル層と押出被覆樹脂層の厚さの合計)51μmの、PEEK押出被覆エナメル線からなる絶縁ワイヤを得た。」 「【0059】 (参考例1) エナメル層を設けることなく導体上に表3に示す厚さの押出被覆樹脂層を直接設けたこと以外は実施例1と同様にして、PEEK押出被覆線からなる絶縁ワイヤを得た。押出被覆樹脂層の、25?250℃における引張弾性率の最小値及び上述の測定方法による結晶化度を表3に示す。押出温度条件は表1に従った。 【0060】 (押出温度条件) 実施例1?7、比較例1?6及び参考例1における押出温度条件を表1に示す。 表1において、C1、C2、C3は押出機のシリンダー部分における温度制御を分けて行っている3ゾーンを材料投入側から順に示したものである。また、Hは押出機のシリンダーの後ろにあるヘッドを示す。また、Dはヘッドの先にあるダイを示す。 【0061】 【表1】 ![]() 【0062】 このようにして製造した、実施例1?7、比較例1?6及び参考例1の絶縁ワイヤについて以下の評価を行った。結果を表2及び表3に示す。」 「【0069】 【表2】 ![]() 」 「【産業上の利用可能性】 【0074】 本発明の耐インバータサージ絶縁ワイヤは、部分放電開始電圧が高く、高温下の絶縁性能及び耐熱老化特性にも優れるから、例えば、自動車をはじめ、各種電気・電子機器等、具体的には、インバータ関連機器、高速スイッチング素子、インバータモーター、変圧器等の電気機器コイルや宇宙用電気機器、航空機用電気機器、原子力用電気機器、エネルギー用電気機器、自動車用電気機器等の耐電圧性や耐熱性を必要とする分野の絶縁ワイヤとして利用可能である。特にHV(ハイブリッドカー)やEV(電気自動車)の駆動モーター用の巻線として好適である。 本発明の耐インバータサージ絶縁ワイヤは、モーターやトランス等に用いられて高性能の電気・電子機器を提供できる。」 【図2】 ![]() そうすると、甲1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明1」という。)が記載されていると認められる。 「断面が矩形状の導体1と、 導体1の外周面を被覆する1層のエナメル焼付層2と、 エナメル焼付層2の外周面を被覆する少なくとも1層の押出被覆樹脂層3とを有し、 エナメル焼付2層と押出被覆樹脂層3とを合わせて絶縁層を形成し、 モーターやトランス等に用いられる耐インバータサージ絶縁ワイヤであって、 導体1は、低酸素銅又は無酸素銅であり、 押出被覆樹脂層3は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)であり、 式:皮膜結晶化度(%)=[(融解熱量-結晶化熱量)/(融解熱量)]×100 で表される押出被覆樹脂層3の被膜結晶化度は50?100%であり、 エナメル焼付層2と押出被覆樹脂層3の合計の厚さが50μm以上、 エナメル焼付層2の厚さが60μm以下、 押出被覆樹脂層3の厚さが200μm以下、 である、 耐インバータサージ絶縁ワイヤ。」 また、甲1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明2」という。)が記載されていると認められる。 「導体上にエナメル樹脂を含む樹脂ワニスを複数回塗布、焼付けしてエナメル焼付層を形成する工程と、 エナメル層の外側に、押出温度条件を、押出機のシリンダー部における温度制御を分けて行っている3ゾーンを材料投入側から順に示したものであるC1、C2、C3をそれぞれ300℃、380℃、380℃とし、押出機の後ろにあるヘッドの温度を390℃、ヘッドの先にあるダイの温度を400℃として、押出被覆樹脂層を形成する工程と、 を含み、 押出被覆樹脂層3は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)であり、 式:皮膜結晶化度(%)=[(融解熱量-結晶化熱量)/(融解熱量)]×100 で表される押出被覆樹脂層3の被膜結晶化度は50?100%である、 耐インバータサージ絶縁ワイヤの製造方法。」 加えて、甲1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明3」という。)が記載されていると認められる。 「エナメル線を心線とし、材料としてポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を用い、 押出温度条件を、押出機のシリンダー部における温度制御を分けて行っている3ゾーンを材料投入側から順に示したものであるC1、C2、C3をそれぞれ300℃、380℃、380℃とし、押出機の後ろにあるヘッドの温度を390℃、ヘッドの先にあるダイの温度を400℃とし、 押出ダイを用いてPEEKの押出被覆を行い、エナメル層の外側に 式:皮膜結晶化度(%)=[(融解熱量-結晶化熱量)/(融解熱量)]×100 で表される被膜結晶化度が50?100%である押出被覆樹脂層を形成し、 PEEK押出被覆エナメル線からなる絶縁ワイヤを得る、 押出機。」 2 甲2号証の記載 甲2号証には、図面とともに以下の記載がある。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 コアおよびポリマーシースを有して成るワイヤまたはケーブルであって、該シースが、5?150μmの厚さを有し、かつポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、または少なくとも30重量%のPEEKおよび別のポリマーを含有するPEEKのポリマーブレンドもしくはポリマーアロイの巻き付けフィルムを含む、ワイヤまたはケーブル。 【請求項2】 巻き付けPEEKフィルムは、10?100μmの厚さを有する、請求項1に記載のワイヤまたはケーブル。 【請求項3】 巻き付けPEEKフィルムは、少なくとも50重量%のPEEKを含有するブレンドまたはアロイでできている、請求項1または請求項2に記載のワイヤまたはケーブル。 【請求項4】 巻き付けPEEKフィルムは、少なくとも80重量%のPEEKを含有するブレンドまたはアロイでできている、請求項3に記載のワイヤまたはケーブル。」 「【請求項20】 コアは、導電性の金属コアである、請求項1?請求項18のいずれか1つに記載のワイヤまたはケーブル。 【請求項21】 コアは、銅、アルミニウム、銀またはスチールである、請求項20に記載のワイヤまたはケーブル。」 「【技術分野】 【0001】 本発明は、掘削または採鉱、商業用または軍事用の航空宇宙用途および海上用途、ならびに自動車、鉄道および大量輸送機関などにおける、要求の多いまたは厳しい条件で使用するための、高性能で、耐高温性および好ましくは耐火性のワイヤならびにケーブルに関する。そのようなケーブルは、厳しい温度だけでなく、腐食性の物質もしくは雰囲気または火に暴露される可能性がある。高性能ワイヤは、電導体または光ファイバのような機能性コア、ならびに1つもしくはそれより多くの絶縁および/または保護コーティングを一般的に含む。多くの場合において、ワイヤは小さな直径を要求されるため、これらのコーティングは、可撓性を有し、かつ分厚すぎない必要がある。 【背景技術】 【0002】 ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびポリエーテルエーテルケトン(PEEK)のような、ワイヤおよびケーブルのシースに使用するための多様な種類のポリマーが既知である。PTFEは、非常に丈夫であるだけでなく、化学的に無害であり、高い軟化点、低い摩擦係数および良好な電気絶縁特性も有するという利点を有する。」 「【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明によれば、高性能で耐高温性のワイヤは、コアおよびシースを有して成り、そのシースは、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)から作られた、あるいは少なくとも30重量%、好ましくは少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも80重量%のPEEKを含有する別のポリマーとのPEEKのブレンドもしくはアロイから作られた、巻き付けフィルムを含む。巻き付けフィルムは、他のポリマー成分を含んでよく、他のポリマー層、特に防炎層(flameproofing)または耐火層(fire-resistant)と組み合わされてよい。」 「【0012】 追加の外側層は、更なる強度、可撓性および/または耐燃性(flame resistance)を提供してよい。例えば、この外側層は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、PEEK、ポリオレフィン、ポリアミド、シロキサンポリエーテルイミド(SILTONE)、ウルテムのような熱可塑性ポリエーテルイミド、ポリエステル、シリコーン、ポリウレタン、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、またはこれらいずれかの共重合体もしくはブレンドもしくはアロイを含んで成ってよい。この外側層を焼結させてよい。」 「【0014】 上記のコーティングを、多数の種々の種類のコアに適用してよく、そのコアは、とりわけ導電性を有するワイヤまたはケーブルであって、例えば銅(ニッケルもしくはスズで被覆したもの、または銀メッキしたものであってよい)、アルミニウム(一般的には銅クラッドアルミニウム)、銀またはスチールである。他の目的のために、炭素繊維のような非金属コア、またはポリマーもしくはセラミックのコアを用いてもよい。ケーブルは、単芯またはマルチコアであってよく、あるいはツイストペアのワイヤ、マルチストランドコアまたはブレイドを含んでよい。これらのいずれのコアも、銅、ニッケル、スズまたは銀で被覆してよい。」 「【発明を実施するための形態】 【0017】 まず図1を参照して、例えば、被覆していないまたはニッケル、銀もしくはスズで被覆した、銅、アルミニウム(銅クラッドであってよい)、スチールのものであってよい、あるいは炭素繊維、ポリマー繊維またはセラミック繊維のような非金属ケーブルであってよい、マルチストランドケーブル10は、巻き付けるおよび押出成形することによってそれに適用された3層シースを有する。例えば、内部にマイカプレートレットが分散しているシリコーンの第1テープ12は、らせん状に巻き付けられて、第1巻き付けコーティング14を形成する。次に、例えばポリエーテルエーテルケトンの第2テープ15は、らせん状に巻き付けられて、第2コーティング16を形成する。最後に、例えば押出成形によって、もう1つのポリマーの外側層を適用する。 【0018】 図2は、例えば図1と関連させて説明するように、3層シースを適用したケーブルの断面図を示す。ケーブル20を直接取り囲む最内層24は、マイカ含有シースであり、耐燃性を付与する。これは、例えば、ガラス繊維および/またはポリエチレン層で強化されうるマイカ含有シリコーンテープであってよい。この層を、単層または同じもしくは異なる厚さのマルチ層で適用してよい。 【0019】 第2層26は、10?100μmの厚さを有するポリエーテルエーテルケトン(PEEK)巻き付けテープを含んでよい。PEEKは、単独で用いられてよく、あるいは好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも80%のPEEKを含有する他のポリマーとのブレンドもしくはアロイであってよい。 【0020】 外側層28は、本発明に基づく随意的なものであるが、用いる場合、押出成形されてまたは巻き付けられてよい。外側層28は、カプセル層を提供して、ケーブルへの追加の保護層を形成する。この層のために、先に列挙したポリマー、ポリマーブレンドまたはポリマーアロイのいずれかを用いてよい。航空宇宙マーケットで必要とされるような並はずれた耐薬品性を提供するために、PTFEを例えば焼結させてよい。それ自体で丈夫な外側層を提供するために、PEEK層それ自体を焼結させてよい。 【0021】 この実施形態における、マイカ含有ポリマーおよびPEEKの相乗的な組み合わせは、潜在的に軽量かつ外径が小さい、耐高温性かつ耐火性のワイヤを提供することができる。マイカは、絶縁性および1000℃までの耐火性を提供することができ、PEEKと組み合わせて、非常に良好な動力学的カットスルー抵抗を含む機械的特性、高温であっても燃えない特性、および非常に少ない煙の排出を提供する。PEEK層を焼結または融着させて、それ自体で外側層を提供してもよい。 【0022】 次に、図3の実施形態を参照して、ケーブルまたはワイヤのコア30は、図2のそれと類似してよいが、シースの第1層32は、PEEKフィルムまたはテープ上のマイカの単層または二重層から形成された、組み合わせられた巻き付け層である。マイカ構成要素は、例えば、ポリエチレン層を有するまたは有しないマイカ/シリコーンテープを含んで成ってよい。この実施形態は、随意的な外側層34を含んでもよく、その含有量の範囲は、図2の実施形態のものと同じであってよい。この場合も同様に、この外側層を焼結させてよい。」 そうすると、甲2号証には、以下の事項(以下、「甲2記載事項」という。)が記載されていると認められる。 「高性能で耐高温性のワイヤを製造する方法であって、 被覆していないまたはニッケル、銀もしくはスズで被覆した銅からなる導電性を有するワイヤコア30に、 ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)フィルムから形成された巻き付け層32を形成し、 巻き付けられたPEEKからなる層を焼結又は融着させて外側層34を形成する、 ことにより、ワイヤを製造すること。」 3 甲3号証の記載 甲3号証には、以下の記載がある。 ![]() (第16頁)(日本語訳:Jones et a1.[17]は、ポリエーテルエーテルケトンの機械的性質を研究した。PEEKの最大限達成できる結晶化度は48%であるのに対し、射出成形においては、通常(目的に合わせたアニーリングを適用しないで)、30%未満の値が現れる。) 4 甲4号証の記載 甲4号証には、以下の記載がある。 ![]() (第97頁ないし第98頁)(日本語訳:結晶化度(Xc)は、PEEKの機械的性質への有利な因子であり、かつ式(1)として計算することができた。 ここで、ΔHcは、DSC溶融曲線のピークおよびベースラインにより囲まれた面積から得ることができ、かつΔHmは、結晶化度が100%である場合の融解エンタルピーであり、これは130J/gである[5,6]。) ![]() (第100頁) 5 甲5号証の記載 甲5号証には、以下の記載がある。 「Normalized PEEK crystallinity data estimated from the DSC scans of samples isothermally crystallized at 300 and 320 °C are given in Table I. The crystallinity of the blends that were isothermally crystallized at lower temperatures could not be determined, because the recrystallization exotherm makes a reliable integration of the melting peak impossible. For the calculation of the crystallinity, a heat of fusion of 100% crystalline PEEK of 130 J・g^(-1 20) was used.」(第1192頁右欄ないし第1193頁右欄) (日本語訳:300および320°Cで等温結晶化させた試料のDSC走査から評価した正規化PEEK結晶化度データは表Iに示されている。より低い温度で等温結晶化させたブレンドの結晶化度は決定することができなかった。なぜなら再結晶の発熱が、溶融ピークの信頼できる積分を不可能にするからである。結晶化度の計算には、130J・g^(-1)の100%結晶性PEEKの融解熱^(20)を使用した。) ![]() (第1192右欄)(日本語訳:表1 300および320℃で等温結晶化させたPEEK/PEIブレンドにおけるPEEKの正規化融解熱(ΔH/W1)および結晶化度XC、DSC加熱操作から評価した) 6 甲6号証の記載 甲6号証には、以下の記載がある。 ![]() (日本語訳:さらに、Victrexは、それらの多面性およびそれらの高い性能と共に、耐熱性、少ない重量、長寿命および電気絶縁に関する高まる要件を満たす“Aptiv”フィルムを提供する。フレキシブルで薄いフィルムは、ダウンホールにおける多数の用途において、例えばケーブル外装でまたは発動機におけるケーブル巻付の絶縁のため(英語“slotliner applications”)、精密な電子機器を腐食性環境から保護するために使用される。長期の運転期間にわたる特別な熱的、化学的および電気的な抵抗力を要求するダウンホールモーターにおいて、Victrex PEEKは、丈夫な電気絶縁層として直接ワイヤ上にも押し出される。) 7 甲7号証の記載 甲7号証には、以下の記載がある。 ![]() (第75頁ないし第76頁)(日本語訳:後結晶化は、アニーリングにより意図的に生じさせることができる。 図1.53は、射出成形部材の結晶化度が、金型壁温度の上昇およびその後の異なるアニーリング条件で、どのように増加するかを図示する。 1.2.3.3 熱履歴および機械的履歴 熱履歴および機械的履歴についての情報は、DSC測定の第1回目の加熱の曲線プロファイルに示される。2回目の加熱曲線は、与えられた動的条件(1回目の加熱の最終温度、冷却速度、2回目の加熱の加熱速度)下での比較実験における材料特性を決定するのに利用される。) ![]() (第78頁)(日本語訳:33.2J/gの融解エンタルピーを、結晶化エンタルピー△Hc=23.9J/gと比較すると、その結晶子の大部分が加熱の際にはじめて生じていることが明らかになる。その差9.3J/gは、加工直後に存在する結晶子の割合に相当し、これから、△H_(m)^(0)140J/gの文献値を用いて、約6.6%の結晶化度が計算される。) 8 甲8号証の記載 甲8号証には、以下の記載がある。 ![]() 9 甲9号証の記載 甲9号証には、以下の記載がある。 「機能と価値の面でより多くの選択肢を提供するソルベイ製品 キータスパイア^((R)) ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)は、現在入手可能な半結晶性の熱可塑性樹脂のうち、最高クラスの機能を持つ製品の一つと見なされています。PEEK は比類なき特性を兼ね備えているので、キータスパイア^((R)) PEEK は非常に過酷な最終使用環境の一部で効果的な金属代替材料として使用できます。 キータスパイア^((R)) PEEK の製造には、ハイドロキノンと4,4’-ジフルオロベンゼフェノンの求核置換反応を使用します。繰り返し単位の構造を図1.1 に示します。 図1.1 PEEK の化学構造 ![]() PEEK 分子の構造により、高付加価値特性の組合せが得られます。アリール基は弾性率、熱安定性、および難燃性を提供します。エーテル結合は強靭性および延性を提供します。ケトン結合は長期耐熱酸化性を提供します。 キータスパイア^((R)) PEEK の主要特性 ・ 傑出した耐薬品性(有機化合物、酸、およびアルカリ) ・ 250℃以上の温度で高い機械強度 ・ 優れた耐摩耗性 ・ クラス最高の耐疲労性 ・ 沸騰水および過熱蒸気に対する優れた耐加水分解性 ・ 低吸水率による寸法安定性 ・ 高温および高周波数でのより優れた絶縁性と低損失 ・ 加工が容易 ・ 高純度」(第5頁右欄) ![]() (第7頁) ![]() (第10頁) ![]() (第13頁) ![]() (第39頁左欄) 「ガラス転移温度(Tg) ほとんどのポリマーにはガラス状態とゴム状態の二つの状態が存在します。ガラス状態では、分子の移動は原子の振動と、主鎖および側鎖に添ったいくつかの原子の運動に制限されています。ゴム状態では、セグメントの運動として屈曲とコイル状態からの巻き戻しが可能で、これらの運動により弾性的になり、さらにはポリマーの流動性に関わる分子全体の並進運動も現れます。材料がガラス状態からゴム状態に変化する温度はガラス転移温度(Tg)と定義されています。この温度でいくつかの基本的な変化が生じるため、この温度は重要です。この変化には、ポリマーの自由体積、屈折率、エンタルピー、比熱の変化などが含まれます。 示差走査熱量測定(DSC)を使用するASTM D3418 に従って、ガラス転移温度を測定しました。試験は、試験片の加熱(加熱速度は制御)、および基準材料と試験片材料との、それぞれのエネルギー変化に起因する熱入力の差の連続的なモニタリングで構成されています。 試験片に予備熱サイクルを与え、冷却し、もう一度試験しました。2回目の加熱で、Tg を、熱容量が変化するポイントの中点の温度として取得しました。 融点(Tm) 結晶の融点(Tm)とは、ポリマーが結晶または半結晶状態から完全な非晶性状態に転移する温度です。この温度も ASTM D3418に従って、通常はガラス転移温度を取得する手順の最後に測定します。この温度も2回目の加熱から測定します。 表5.3 に、選択したキータスパイア^((R)) ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)のグレードにおける荷重たわみ温度、ガラス転移温度、融点を示します。」(第39頁左欄ないし右欄) 「成形収縮率 成形部品の寸法は通常、その金型のキャビティの寸法よりも小さくなります。これは、溶融ポリマーと固体ポリマーの密度の差、および熱膨張による寸法の差によるものです。金型と成形部品の寸法の差は、一般に成形収縮率と呼ばれます。成形収縮率を測定するために、公称寸法が3.2 x 127 x 12.7 mm のエンドゲート試験片を成形し、測定しました。この寸法を室温における金型の寸法と比較しました。得られた成形収縮率の値を表10.2 に示します。 実際の部品の収縮率は、形状と流動パターンによって異なります。非強化グレードは等方性に近い収縮(すべての方向で等しい収縮)を示しますが、繊維強化グレードは、繊維の向きにより異方性収縮を示します。繊維は、流れの方向に揃う傾向があり、その結果、その方向の収縮が小さくなります。」(第92頁左欄) ![]() (第92頁右欄) 「適切なキャビティ寸法を決定するには、希望の部品の寸法に成形収縮率を適用します。実際の部品では、通常は流れ方向と直角方向が組み合わされているため、実際の収縮率は二つの間の値になります。最初の鋼材寸法を「鋼材の安全率」の分余裕を残してカットすることを推奨します。つまり、キャビティ寸法を予測される最終寸法よりもわずかに小さくカットし、コアを予測よりもわずかに大きくカットします。この金型をサンプルとして使用し、成形した部品を測定して、最終的な金型の調整を行うことができます。」(第92頁右欄) ![]() (第92頁右欄) 「ワイヤー/ケーブルの押出成形 キータスパイア^((R)) ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂は、標準の押出成形装置と半結晶性材料に適した加工条件を使用して、ワイヤーやケーブルに容易に押出成形できます。キータスパイアR KT-851 は、ワイヤーコーティングの押出成形専用に設計されました。このグレードは、優れた溶融強度を持つ一方、非常に薄い0.025 mm のコーティングに加工できます。 装置 押出機 キータスパイア^((R)) PEEK 樹脂は、450℃の温度で稼働できるように設計、製作された従来の押出成形装置で加工することができます。二軸押出機を使用すると寸法公差を向上させることができますが、通常は単軸押出機が使用されます。 適する単軸押出機の代表的な長さと直径の比(L/D)は24?30:1で、スクリューの圧縮比は2.5?3.0:1 です。スクリューは通常、1 / 3 供給部、1 / 3 圧縮部、1 / 3 計量部の3 つの部分で構成されます。供給部のフライトの深さは6 mm 以上でなければなりません。 背圧の生成に役立つスクリーンパック付きのブレーカープレートを使用する必要があります。ブレーカープレートの穴は、流れが滑らかになるように面取りされていなければなりません。スクリーンパックは、通常は不純物または汚染物質を除去するために使用します。適切なスクリーンは100?200 メッシュで、ブレーカープレート側に20 メッシュのサポートスクリーンを備えたものです。材料に過剰な圧力やせん断が生じるほどスクリーンを細かくしてはなりません。 アダプターとダイは、S7 またはH13 鋼材などの適切な材料で構成し、適切に硬化処理しなければなりま せん。アダプターとダイは、デッドスポットを避けるために流線形にしなければなりません。 ダイおよびクロスヘッドの設計 ワイヤーコーティングには圧力(図10.30)またはスリーブ(図10.31)押出成形ダイを使用できます。 圧力押出成形は、基材の外部に形状が含まれるコーティングに、または複数のワイヤーをコーティングして絶縁体によって分離しなければならない場合に適しています。圧力押出成形では、ダイの開口部が希望の製品形状と同じでなければなりません。」(第105頁左欄) 「キータスパイア^((R)) PEEK の熱可塑性を活用して、溶着し、接合する表面を熱軟化させ、圧着して冷却することで、部品を接合できます。」(第111頁左欄) 「結晶化度およびアニーリング キータスパイア^((R)) ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)は半結晶性樹脂と見なされています。つまり、図11.9 に示すように、平衡状態で高配向の高結晶性領域で整列しているポリマー鎖と、ランダムな非晶性配置をとるポリマー鎖があります。キータスパイア^((R)) PEEK には、分子量の異なる高流動性、中流動性、および低流動性グレードが用意されています。結晶化度の最大値と結晶化速度は、30?50% の結晶範囲で分子量に反比例して変化します。 PEEK の望ましい特性の多くは、その半結晶性によるものです。最適な結晶化度に達していないキータスパイア^((R)) PEEK の成形品は、熱曝露によって機械特性、耐薬品性、および寸法安定性が低下することがあります。 結晶構造の形成 ポリマーを加工する場合、ポリマーは溶融状態を経て金型に入れられるか、押出成形ダイに通されます。その後、冷却されて固体の製品または形状になります。溶融状態では、整然とした結晶構造は基本的にありません。ポリマーが冷却されると結晶構造が形成され始めます。ポリマー鎖が整列して結晶構造になるには、ポリマー鎖が可動性を持つことが必要で、可動性はポリマーの温度に直接関連しています。 図11.10 に、冷却速度が遅いときに結晶化度が最大になることを示します。射出成形部品の場合、冷却速度を制御する主要な要素は金型温度と断面の厚みです。結晶化度を最大にするには、ポリマーをゆっくりと冷却することが重要です。金型温度の推奨範囲は177?200℃です。ポリマーの冷却速度が速すぎると、ポリマーの一部が非晶性段階で固化することがあります。成形部品の断面の厚みにばらつきがある場合は、最も薄い断面は厚い断面よりも相対結晶化度が低くなります。製造した製品で最適な結晶化度を達成するには、「標準成形条件」を参照してください。」(第114頁左欄ないし右欄) ![]() (第115頁右欄) 「結晶化度の測定 製造した成形品の結晶化度の範囲を推定するには、いくつかの分析方法があります。これらの方法には、密度測定、示差走査熱量測定(DSC)、X 線回折(XRD)、赤外分光法、核磁気共鳴(NMR)などがあります。測定値は使用した方法によって異なるため、結晶化度を報告するときには使用した方法を示す必要があります。 一般に使用されるDSC 法はASTM E793 です。この試験では、ポリマーサンプルを機器に入れ、加熱しながら熱流を継続的に監視し記録します。DSC からの出力は熱流vs. 温度のプロットです。温度を制御した一定の速度で上げます。温度が上昇すると、ポリマー鎖が可動性を持つようになり、他の結晶可能領域でも整列します。この状態になると熱が発生し、機器によって発熱ピークが記録されます。ピークの面積を計算するように機器をキャリブレーションします。この面積はJ/g 単位で表します。温度が上昇し続けると、サンプル内のすべての結晶の吸熱溶融により第2 のピークが現れます。機器はこのピークの面積も計算し、J/g で表します。 図11.11 に代表的なDSC プロットを示します。発熱ピークと吸熱ピークを使用して、相対的な結晶化度を計算します。175℃の発熱ピークは、サンプル内の結晶の形成によるものです。325℃の吸熱ピークは、すべての結晶の溶融によるものです。吸熱ピークが発熱ピークよりも大きい理由は、吸熱ピークに、当初の製造時とDSC 試験時の両方で形成されたすべての結晶を溶融するエネルギーの合計が含まれるからです。 相対結晶化度を求めるには、溶融による吸熱から結晶化による発熱を差し引き、溶融による吸熱で除算します。 ![]() サンプルがすべて結晶化した場合、175℃にピークは現れません。一般に、最大結晶化度の90% でほとんどの用途に適します。肉厚にばらつきがある部品では、結晶化度試験用のサンプルを最も薄い部分から取ることを推奨します。最も薄い部分は最も速く冷却し、そのために結晶化度が低くなる可能性があります。 部品を目視確認することもできます。主観的ですが、このような確認でおよその結晶化度をすばやく知ることもできます。一般に、結晶の境界面での光の散乱は不透明な(灰色または黄褐色)外観を与えます。特にエッジ、コーナー、薄い部材の茶色の外観は、結晶化度が最適な状態にないことを示します。通常は、非常に薄い部材の透明性は、部品が非晶性であることも示します。 キータスパイア^((R)) PEEK を銅線の上に押出成形すると、外観がピンク色に見えることがあります。これは実際にはポリマーの色ではなく、透明な樹脂を通じて見える銅線の色です。薄肉押出成形チューブは透明な外観を示すことがあります。これらの視覚的な指標が現れた場合は、該当する加工ガイドで推奨するパラメーターの調整方法を確認してください。 結晶化度が特性に与える影響 最大の結晶化度を得るには加工工程が重要であることを示すために、簡単な実験を行いました。キータスパイア^((R)) KT-820 NTをASTM D638 タイプ1 の寸法(ただし厚み1.6 mm)の引張試験片に成形しました。金型温度を、推奨温度よりかなり低い温度から、推奨温度までの範囲で変化させました。相対結晶化度をDSC によって、引張特性をASTM D638 に従って測定しました。さらに、本書の「耐環境性および耐薬品性」のセクションに示した応力下での耐薬品性の手法を使用して、サンプルを調べました。活性が高いことがわかっているため、薬品としてメチルエチルケトン(MEK)を選択しました。」(第115頁左欄ないし右欄) ![]() (第115頁右欄) 第5 当審の判断 1 申立理由1ないし3(特許法第29条第1項第3号及び同条第2項)について (1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明1とを対比する。 (ア)甲1発明1の「押出被覆樹脂層」は「ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)」であるから、ポリマー材料から成る絶縁層ということができる。 そして、甲1発明1は「導体1の外周面を被覆する1層のエナメル焼付層2」と、「エナメル焼付層2の外周面を被覆する少なくとも1層の押出被覆樹脂層3」とを有し、「エナメル焼付層」と「押出被覆樹脂層3」とを合わせて「絶縁層」を形成しているのであるから、甲1発明1の「絶縁層」は、本件発明1の「ポリマー材料を含む絶縁層」に相当する。 また、甲1発明1の「導体1」は、「耐インバータサージ絶縁ワイヤ」を構成するものであり、長尺なものであると認められるから、甲1発明1の「導体1」は、本件発明1の「長尺導体」に相当する。 そうすると、甲1発明1の「耐インバータサージ絶縁ワイヤ」は、本件発明1の「長尺導体を含む絶縁導体」に相当する。 (イ)甲1発明1の「エナメル焼き付き層2」の厚さは60μm以下であり、また、「押出被覆樹脂層3」の厚さは200μm以下であるから、「エナメル焼付2層と押出被覆樹脂層3とを合わせ」た「絶縁層」の厚さは260μm以下である。また、「エナメル焼付層2と押出被覆樹脂層3の合計の厚さが50μm以上」であるから、甲1発明1の「絶縁層」の厚さは、50μm以上、260μm以下となる。 そして、このことは、本件発明1の「前記絶縁層が、2μm?300μmの範囲の厚さを有する」ことに相当する。 (ウ)そうすると、本件発明1と甲1発明1は、以下の点で一致し、又相違する。 [一致点] 「ポリマー材料を含む絶縁層が設けられた長尺導体を含む絶縁導体であって、 前記絶縁層が、2μm?300μmの範囲の厚さを有する、導体。」 [相違点1] 本件発明1は「前記ポリマー材料が、前記絶縁層の実質的に全範囲にわたって少なくとも25%の結晶化度を有し」ているのに対して、甲1発明1は、「ポリマー材料」に対応する「ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)」の結晶化度は特定されていない点。 [相違点2] 本件発明1は「前記絶縁層の前記全範囲にわたる前記ポリマー材料の前記結晶化度が、10%未満変化し」ているのに対して、甲1発明1は、「ポリマー材料」に対応する「ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)」の結晶化度の変化について特定されていない点。 [相違点3] 本件発明1は「ポリマー材料が、一般式 【化1】 ![]() の繰り返し単位を含み、式中、t1及びw1が独立して、0または1を表し、v1が、0、1、または2を表し」ているのに対して、甲1発明1の「ポリマー材料」に対応するものは、「ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)」である点。 イ 判断 上記各相違点について検討する。 (ア)相違点1について 甲3号証に記載されているように「PEEKの最大限達成できる結晶化度は48%である。」から、甲1発明1の、「式:皮膜結晶化度(%)=[(融解熱量-結晶化熱量)/(融解熱量)]×100」で表される皮膜結晶化度100%は、PEEKの結晶化度48%に対応するといえる。 そうすると、甲1発明1の「押出被覆樹脂3」であるPEEKの皮膜結晶化度が「50?100%」であることは、「押出被覆樹脂3」の結晶化度が「少なくとも25%」であることを含むものであると認められる。 してみると、甲1発明1の「押出被覆樹脂3」の結晶化度を、全範囲にわたって少なくとも25%とすることは、当業者が容易になし得るものである。 (イ)相違点2について 甲2号証ないし甲9号証には、甲1発明1の「押出被覆樹脂3」であるPEEKに対応する樹脂の、「全範囲にわたる」「結晶化度が、10%未満変化」することは記載されておらず、またこの結晶化度の変化が本件特許の優先権主張日前に周知の事項であったともいえない。 そうすると、甲1発明1の「押出被覆樹脂3」であるPEEKの全範囲にわたる結晶化度を、10%未満の変化とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。 (ウ)相違点3について 甲1発明1の「ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)」は、本件発明1の「一般式」のt1=1、v1=0、w1=0の場合であるから、相違点3は実質的な相違点とはいえない。 (エ)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、相違点2に関して、甲1号証には、押出被覆樹脂層の全範囲にわたって樹脂材料の結晶化度が、10%未満の変化とすることは明示的に記載されていないが、押出被覆樹脂層は、実施例にも記載されているように一定の均一な押出条件で製造されていることから、結晶化度の変動は小さく、10%未満であることも自明である(特許異議申立書第33頁20行ないし24行)旨主張する。 しかしながら、甲1号証には、「押出被覆樹脂3」の全範囲にわたる結晶化度を10%未満の変化とすることは記載されておらず、また、甲1発明1の「押出被覆樹脂3」が、一定の均一な押出条件で製造されているとしても、そのことにより「押出被覆樹脂3」の全範囲にわたる結晶化度が、10%未満の変化となることが、自明の事項であるとはいえない。 加えて、甲2号証ないし甲9号証には、甲1発明1の「押出被覆樹脂3」に対応する構成について、全範囲にわたる結晶化度が、10%未満の変化とすることや、「押出被覆樹脂3」に対応する構成を一定の均一な押出条件で製造することにより、全範囲にわたる結晶化度が、10%未満の変化とすることは記載されていない。 そして、相違点2に係る、全範囲にわたる結晶化度が、10%未満の変化とすることが、本件特許の優先権主張日前に周知の事項であっいたともいえない。 そうすると、甲1発明1において、「押出被覆樹脂3」の全範囲にわたる結晶化度を10%未満の変化とすることが自明であるという、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。 ウ 本件発明1についてのまとめ 上記イで検討したように、本件発明1は、相違点2に係る発明特定事項を含むから、甲1発明1であるとはいえず、また、甲1発明1に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。 (2)本件発明2ないし19について 本件発明2ないし17は、本件発明1をさらに限定した発明であり、また、本件発明18は、本件発明1ないし17のいずれかの導体を組み込んだ固定子コイルの発明であり、さらに、本件発明19は、本件発明1ないし18のいずれかの導体を組み込んだモータアセンブリの発明である。 そうすると、本件発明2ないし19は、上記(1)イの(イ)及び(エ)で検討した、相違点2に係る「前記絶縁層の前記全範囲にわたる前記ポリマー材料の前記結晶化度が、10%未満変化」するという発明特定事項を含むものであるから、本件発明2ないし11、13、15、18及び19は、甲1発明1であるとはいえず、また、本件発明2ないし19は、甲1発明1に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。 (3)本件発明20について ア 対比 本件発明20と甲1発明2とを対比する。 (ア)甲1発明2は、「導体」に、「エナメル焼付層を形成する工程」及び「押出被覆樹脂層を形成する工程」を行うことにより、「耐インバータサージ絶縁ワイヤ」を製造する方法であるから、「導体」は、「耐インバータサージ絶縁ワイヤ」を構成するものであると認められる。そして、この「導体」は「耐インバータサージ絶縁ワイヤ」を構成するものであるから、長尺なものである。そうすると、甲1発明2の「導体」は、本件発明20の「長尺導体」に相当する。 そして、甲1発明2において「導体上にエナメル樹脂を含む樹脂ワニスを複数回塗布、焼付けしてエナメル焼付層を形成する工程」を行う際には、「導体」を選択する必要があることは、自明の事項であるから、この「導体」を選択することは、本件発明20の「(i)長尺導体を選択すること」に相当する。 (イ)甲1発明2の「押出被覆樹脂層3」は「ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)」であるから、ポリマー材料からなる絶縁層ということができる。 そして、甲1発明2は、「導体上」に「エナメル焼き付け層」を形成し、その外側に「押出被覆樹脂層3」を形成するものであるから、「導体上」の「エナメル焼き付け層」及び「押出被覆樹脂層3」は、本件発明20の「ポリマー材料を含む絶縁層」に相当する。 してみると、甲1発明2の「耐インバータサージ絶縁ワイヤの製造方法」は、本件発明20の「ポリマー材料を含む絶縁層が設けられた長尺導体を含む絶縁導体を製造する方法」に対応する。 (ウ)そうすると、本件発明20と甲1発明2は、以下の点で一致し、又相違する。 [一致点] 「ポリマー材料を含む絶縁層が設けられた長尺導体を含む絶縁導体を製造する方法であって、 (i)長尺導体を選択する 方法。」 [相違点4] 本件発明20は「(ii)ポリマー材料を含むテープで前記長尺導体を被覆することであって、前記ポリマー材料が、一般式 【化2】 ![]() の繰り返し単位を含み、 式中、t1及びw1が独立して、0または1を表し、v1が、0、1、または2を表す、被覆することと、 (iii)前記テープを加熱して前記ポリマー材料を溶融することと、 (iv)加熱されたテープを冷却して前記ポリマー材料を凝固させることと、を含み、前記ポリマー材料が、冷却後に少なくとも25%の結晶化度を有するように前記テープの冷却を制御し、 前記ポリマー材料が、前記絶縁層の実質的に全範囲にわたって少なくとも25%の結晶化度を有し、前記絶縁層の前記全範囲にわたる前記ポリマー材料の前記結晶化度が、10%未満変化する」のに対して、甲1発明2は対応する工程を備えていない点。 イ 判断 (ア)上記相違点4について検討すると、甲2号証ないし甲9号証には、上記相違点4に係る方法は記載されておらず、またこの方法が本件特許の優先権主張日前に周知の事項であったともいえない。 したがって、本件発明20は、甲1発明2に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。 (イ)異議申立人の主張について 特許異議申立人は、本件発明20について a 甲1号証には、前記ポリマー材料が、前記絶縁層の実質的に全範囲にわたって少なくとも25%の結晶化度を有し、前記絶縁層の前記全範囲にわたる前記ポリマー材料の前記結晶化度が、10%未満の変化とすることが記載されている(特許異議申立書第39頁9行ないし11行)旨主張し、 b 甲1号証には、ポリマー材料を含むテープで前記長尺導体を被覆することは記載されていないが、甲2号証には、同等の金属をコアとするワイヤまたはケーブルにおいて、良好な電気絶縁特性を有するPEEKフィルムを巻き付けることが記載されている(特許異議申立書第39頁12行ないし15行)旨主張し、 c 甲1号証及び甲2号証には、テープを加熱してポリマー材料を溶融することや、加熱されたテープを冷却して前記ポリマー材料を凝固させることと、を含み、前記ポリマー材料が、冷却後に少なくとも25%の結晶化度を有するように前記テープの冷却を制御することは記載されていないものの、PEEKが熱可撓性樹脂であること、テープ上のPEEKを巻き付けた後に、テープの密着性等を改善するために加熱し、その後に冷却することは、技術の具体的適用に伴う設計変更や設計的事項の採用で有り、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない(特許異議申立書第39頁16行ないし20行)旨主張し、 d 冷却によって結晶化度を制御することは、甲7号証、甲8号証に記載されているように本件特許の出願時に周知の事項である(特許異議申立書第39頁21行ないし23行)旨主張し、 e したがって、本件発明20は、甲1号証及び甲2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書第39頁24行ないし25行)旨主張している。 しかしながら、上記(1)イ(エ)で検討したように、甲1号証には、「押出被覆樹脂3」の全範囲にわたる結晶化度を10%未満の変化とすることは記載されておらず、また、甲1発明2の「押出被覆樹脂3」が、一定の均一な押出条件で製造されているとしても、そのことにより「押出被覆樹脂3」の全範囲にわたる結晶化度が、10%未満の変化となることが、自明の事項であるとはいえない。 また、甲2号証には、甲2号証記載事項にあるように、「高性能で耐高温性のワイヤを製造する方法であって、被覆していないまたはニッケル、銀もしくはスズで被覆した銅からなる導電性を有するワイヤコア30に、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)フィルムから形成された巻き付け層32を形成し、巻き付けられたPEEKからなる層を焼結又は融着させて外側層34を形成する、ことにより、ワイヤを製造すること。」が記載されているものの、甲2号証のPEEK層の全範囲にわたる結晶化度が少なくとも25%有することや、全範囲にわたる結晶化度が10%未満の変化とすることは記載されていないのであるから、冷却によって結晶化度を制御することが周知の技術であったとしても、甲1発明2において、冷却により、焼結又は融着させて外側層とした、巻き付けられたPEEKからなる層の全範囲にわたる結晶化度が少なくとも25%有し、また全範囲にわたる結晶化度が10%未満の変化とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。 そうすると、本件発明20に係る、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。 エ 本件発明20についてのまとめ 上記イで検討したように、本件発明20は、相違点4に係る発明特定事項を含むから、甲1発明2及び甲2号証に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。 (4)本件発明21ないし28について 本件発明21ないし28は、本件発明20をさらに限定した発明である。 そうすると、本件発明21ないし28は、上記(3)イで検討した、相違点4に係る発明特定事項を含むものであるから、本件発明21ないし28は、甲1発明2及び甲2号証に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。 (5)本件発明29について ア 対比 本件発明29と甲1発明1とを対比する。 (ア)甲1発明1の「耐インバータサージ絶縁ワイヤ」は、「モーターやトランス等に用いられる耐インバータサージ絶縁ワイヤ」であるから、「モーターやトランス等に用いられる」中間生成物(部品)ということができる。 また、甲1発明1の「導体1」は、「耐インバータサージ絶縁ワイヤ」を構成するものであり、長尺なものであると認められるから、甲1発明1の「導体1」は、本件発明29の「長尺導体」に相当する。 さらに、甲1発明1の「押出被覆樹脂層」は「ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)」であるから、ポリマー材料から成る絶縁層ということができる。 そして、甲1発明1の「耐インバータサージ絶縁ワイヤ」は、「導体1の外周面を被覆する1層のエナメル焼付層2」と、「エナメル焼付層2の外周面を被覆する少なくとも1層の押出被覆樹脂層3」とを有しているから、甲1発明1の「耐インバータサージ絶縁ワイヤ」は、ポリマー材料で被覆された長尺導体を含む中間生成物ということができる。 一方、本件発明29の「MDテープ」は、「ポリマ材料を含む絶縁層」である。 そうすると、甲1発明1の「耐インバータサージ絶縁ワイヤ」と、本件発明29の「MDOテープで被覆された長尺導体を含む中間生成物」は、「ポリマー材料を含む絶縁層で被覆された長尺導体を含む中間生成物」である点で共通する。 (イ)そうすると、本件発明29と甲1発明1は、以下の点で一致し、又相違する。 [一致点] 「ポリマー材料を含む絶縁層で被覆された長尺導体を含む中間生成物。」 [相違点5] 「ポリマー材料を含む絶縁層」について、本件発明29は、「MDOテープ」であるのに対して、甲1発明1は、「押出被覆樹脂層3」であって、「MDOテープ」でない点。 [相違点6] 本件発明29は「ポリマー材料が、一般式 【化3】 ![]() の繰り返し単位を含み、式中、t1及びw1が独立して、0または1を表し、v1が、0、1、または2を表し」ているのに対して、甲1発明1の「ポリマー材料」に対応するものは、「ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)」である点。 [相違点7] 本件発明29は「前記ポリマー材料が、前記絶縁層の実質的に全範囲にわたって少なくとも25%の結晶化度を有し」ているのに対して、甲1発明1は、「ポリマー材料」に対応する「ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)」の結晶化度は特定されていない点。 [相違点8] 本件発明29は「前記絶縁層の前記全範囲にわたる前記ポリマー材料の前記結晶化度が、10%未満変化し」ているのに対して、甲1発明1は、「ポリマー材料」に対応する「ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)」の結晶化度の変化について特定されていない点。 イ 判断 上記各相違点について検討する。 (ア)相違点5について 甲2号証ないし甲9号証には、「長尺導体」を「MDOテープ」で被覆することは記載されていない。 また、甲1発明1の「導体1」は、「押出被覆樹脂層3」で被覆されているから、この押出被覆樹脂に換えて、「MDOテープで被覆」することに動機付けはない。 そうすると、甲1発明1の「押出被覆樹脂層3」を「MDテープ」にかえることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。 (イ)相違点6について 甲1発明1の「ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)」は、本件発明29の「一般式」のt1=1、v1=0、w1=0の場合であるから、相違点6は実質的な相違点とはいえない。 (ウ)相違点7について 甲3号証に記載されているように「PEEKの最大限達成できる結晶化度は48%である。」から、甲1発明1の、「式:皮膜結晶化度(%)=[(融解熱量-結晶化熱量)/(融解熱量)]×100」で表される皮膜結晶化度100%は、PEEKの結晶化度48%に対応するといえる。 そうすると、甲1発明1の「押出被覆樹脂3」であるPEEKの皮膜結晶化度が「50?100%」であることは、「押出被覆樹脂3」の結晶化度が「少なくとも25%」であることを含むものであると認められる。 してみると、甲1発明1の「押出被覆樹脂3」の結晶化度を、全範囲にわたって少なくとも25%とすることは、当業者が容易になし得るものである。 (エ)相違点8について 甲2号証ないし甲9号証には、甲1発明1の「押出被覆樹脂3」であるPEEKに対応する樹脂の、「全範囲にわたる」「結晶化度が、10%未満変化」することは記載されておらず、またこの結晶化度の変化が本件特許の優先権主張日前に周知の事項であったともいえない。 そうすると、甲1発明1の「押出被覆樹脂3」であるPEEKの全範囲にわたる結晶化度を、10%未満の変化とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。 (オ)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、相違点5に関して、PEEKから構成されるテープとして、機械方向配向(MOD)テープを採用することは、公知の材料の中から最適材料の選択であり、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎない(特許異議申立書第39頁27行ないし第40頁2行)旨主張する。 しかしながら、上記(ア)で検討したように、甲2号証ないし甲9号証には、「長尺導体」を「MDOテープ」で被覆することは記載されておらず、また、甲1発明1の「押出樹脂層3」に換えて、「MDOテープ」からなる層とすることに動機付けはない。 したがって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。 ウ 本件発明29についてのまとめ 上記イで検討したように、本件発明29は、相違点5及び8に係る発明特定事項を含むから、甲1発明1及び甲2号証に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。 (6)本件発明30について ア 対比 本件発明30と甲1発明3とを対比する。 (ア)甲1発明3の「ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)」は、本件発明30の「ポリマー材料」に相当する。 そして、「ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)」を「材料」とする「PEEKの押出被覆樹脂」は絶縁性を有しているから、甲1発明3の「PEEK押出被覆エナメル線からなる絶縁ワイヤ」は、本件発明30の「ポリマー材料を含む絶縁層が設けられた長尺導体を含む絶縁導体」に相当する。 (イ)そうすると、甲1発明3の「PEEK押出被覆エナメル線からなる絶縁ワイヤを得る、押出機」は、本件発明30の「ポリマー材料を含む絶縁層が設けられた長尺導体を含む絶縁導体を製造するための装置」に相当する。 (ウ)してみると、本件発明30と甲1発明3は、以下の点で一致し、又相違する。 [一致点] 「ポリマー材料を含む絶縁層が設けられた長尺導体を含む絶縁導体を製造するための装置。」 [相違点9] 本件発明30は「(i)長尺導体を第1の位置と第2の位置との間で搬送するための搬送装置と、(ii)ポリマー材料を含むテープを前記長尺導体の周りに巻き付けるための巻き付けユニットと、(iii)前記第1の位置と前記第2の位置との間を通過する間に、前記長尺導体を第1の温度に加熱するための第1の誘導コイルと、(iv)前記長尺導体を前記第1の温度より高い第2の温度に加熱するための第2の誘導コイルであって、前記第1の誘導コイルの下流にある、第2の誘導コイルと、任意に、(v)前記第2の誘導コイルの下流にある冷却装置とを備え」ているのに対して、甲1発明3は対応する構成を備えていない点。 [相違点10] 本件発明30は「前記ポリマー材料が、一般式 【化4】 ![]() の繰り返し単位を含み、 式中、t1及びw1が独立して、0または1を表し、v1が、0、1、または2を表し」 ているのに対して、甲1発明3の「ポリマー材料」に対応するものは、「ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)」である点。 [相違点11] 本件発明30は「前記ポリマー材料が、前記絶縁層の実質的に全範囲にわたって少なくとも25%の結晶化度を有し」ているのに対して、甲1発明3は、「ポリマー材料」に対応する「ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)」の結晶化度は特定されていない点。 [相違点12] 本件発明30は「前記絶縁層の前記全範囲にわたる前記ポリマー材料の前記結晶化度が、10%未満変化」しているのに対して、甲1発明3は、「ポリマー材料」に対応する「ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)」の結晶化度の変化について特定されていない点。 イ 判断 上記各相違点について検討する。 (ア)相違点9について 甲2号証ないし甲9号証には、相違点9に係る各構成は記載されていない。 また、「ポリマー材料を含む絶縁層が設けられた長尺導体を含む絶縁導体を製造するための装置」において、相違点9に係る構成を備えることが本件特許の優先権主張日前に周知の事項であったともいえない。 そうすると、甲1発明3の「押出機」において、相違点9に係る構成を備えるようにすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。 (イ)相違点10について 甲1発明3の「ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)」は、本件発明30の「一般式」のt1=1、v1=0、w1=0の場合であるから、相違点10は実質的な相違点とはいえない。 (ウ)相違点11について 甲3号証に記載されているように「PEEKの最大限達成できる結晶化度は48%である」から、甲1発明3の、「式:皮膜結晶化度(%)=[(融解熱量-結晶化熱量)/(融解熱量)]×100」で表される皮膜結晶化度100%は、PEEKの結晶化度48%に対応するといえる。 そうすると、甲1発明3の「押出被覆樹脂」であるPEEKの皮膜結晶化度が「50?100%」であることは、「押出被覆樹脂」の結晶化度が「少なくとも25%」であることを含むものであると認められる。 してみると、甲1発明3の「押出被覆樹脂」の結晶化度を、全範囲にわたって少なくとも25%とすることは、当業者が容易になし得るものである。 (エ)相違点12について 甲2号証ないし甲9号証には、甲1発明3の「押出被覆樹脂」であるPEEKに対応する樹脂の、「全範囲にわたる」「結晶化度が、10%未満変化」することは記載されておらず、またこの結晶化度の変化が本件特許の優先権主張日前に周知の事項であったともいえない。 そうすると、甲1発明3の「押出被覆樹脂3」であるPEEKの全範囲にわたる結晶化度を、10%未満の変化とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。 (オ)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、相違点9に係る各構成について、本件発明1ないし29は、甲1号証に記載された発明であるか、甲1号証、甲2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、そのような発明を実施するための上記の構成を備えた装置とすることは、本件発明を実施するための技術の具体的適用に伴う設計変更や設計的事項の採択であり、いずれも当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない(特許異議申立書第41頁2行ないし7行)旨主張する。 しかしながら、上記(1)ないし(5)で検討したように、本件発明1ないし29は、甲1号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲1号証、甲2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。 また、特許異議申立人は、甲1号証に記載されたPEEKは、甲9号証に記載されているように、その機能や特性は、当業者に周知の事項で有り、当業者であれば、甲2号証に記載されているように導体にテープ状のPEEKを巻き付けた成形体を製造し、その後、熱処理及び冷却することができる装置を想到することは容易である(特許異議申立書第41頁8行ないし14行)旨主張する。 しかしながら、たとえPEEKの機能や特性が周知の事項であったとしても、上記(エ)で検討したように、甲1発明3の「押出被覆樹脂」であるPEEKの全範囲にわたる結晶化度を、10%未満の変化とすることは、甲1号証ないし甲9号証には記載されておらず、また、導体にテープ状のPEEKを巻き付けた成形体を製造し、その後、熱処理及び冷却することができる装置についても、甲1号証ないし甲9号証には記載されていないのであるから、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。 ウ 本件発明30についてのまとめ 上記イで検討したように、本件発明30は、相違点9及び12に係る発明特定事項を含むから、甲1発明3及び甲2号証に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。 2 申立理由4(特許法第36条第4項第1号)について (1)特許異議申立人は、本件発明1の「前記ポリマー材料が、前記絶縁層の実質的に全範囲にわたって少なくとも25%の結晶化度を有し、前記絶縁層の前記全範囲にわたる前記ポリマー材料の前記結晶化度が、10%未満変化」することについて、発明の詳細な説明には、最終的に得られた絶縁層の全範囲にわたって結晶化の評価を行い結晶化度を算出したことが記載されていないことを根拠として、本件特許明細書の発明の詳細な説明に本件発明1について明確に説明されているとはいえない(特許異議申立書第41頁17行ないし第43頁11行)旨主張する。 (2)しかしながら、本件発明1の「前記ポリマー材料が、前記絶縁層の実質的に全範囲にわたって少なくとも25%の結晶化度を有し、前記絶縁層の前記全範囲にわたる前記ポリマー材料の前記結晶化度が、10%未満変化」することについて、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0108】ないし【0112】に「被覆された導体におけるPEEK層の結晶化度の評価」方法について明確に記載され、加えて、段落【0010】ないし【0020】に上記結晶化度の評価方法を使ったポリマー材料の評価について記載されており、また、結晶化度が全範囲にわたって少なくとも25%の結晶化度を有し、結晶化度が絶縁層の全範囲に渡って10%未満の変化とすることが記載されている。 そして、これらの評価により、「前記ポリマー材料が、前記絶縁層の実質的に全範囲にわたって少なくとも25%の結晶化度を有し、前記絶縁層の前記全範囲にわたる前記ポリマー材料の前記結晶化度が、10%未満変化」する、「ポリマー材料を含む絶縁層が設けられた絶縁導体」の製造方法について、段落【0076】ないし【0098】に記載されているから、発明の詳細な説明は、本件発明1について明確に説明されているといえる。 (3)加えて、特許異議申立人は、冷却の制御による結晶化度の調整に関して、アセンブルをPEEK溶融温度(Tm)のすぐ下に上昇させるのに十分なエネルギーを生成する第1誘導コイルに通過させた後、PEEK層の溶融温度(Tm)を上回る約380℃に銅導体を急速に加熱する第2の誘導コイル28に通過させ、次いでPEEK層を徐々に冷却してPEEK層の結晶化度を最適化するように配置された冷却装置にアセンブリを通過させることが記載されているのみであるとし、PEEK層の結晶化度を最適化するように配置された特定の冷却装置にアセンブリを通過させることが必須あるにも関わらず、そのような冷却装置や冷却条件について発明の詳細な説明には何ら詳細が開示されていないとした上で、たとえ当業者であっても、「絶縁層の実質的に全範囲にわたって少なくとも25%の結晶化度を有し、前記絶縁層の前記全範囲にわたる前記ポリマー材料の前記結晶化度が、10%未満変化」する絶縁導体を製造することはできない(特許異議申立書第43頁12行ないし第44頁25行)旨主張する。 (4)しかしながら、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0093】ないし【0095】及び【図4】には、「領域50」、「領域54」、「領域56」を備えた「冷却装置32」が記載され、各領域での冷却条件について記載されているから、当業者であれば、「絶縁層の実質的に全範囲にわたって少なくとも25%の結晶化度を有し、前記絶縁層の前記全範囲にわたる前記ポリマー材料の前記結晶化度が、10%未満変化」する絶縁導体を製造することはできるといえる。 (5)さらに、特許異議申立人は、発明の詳細な説明には、結晶化度の評価もしくは測定方法は記載されている一方で、本件発明1による結晶化度を有する絶縁層を製造する手段が具体的に記載されていないのであるから、ポリマー材料を含む絶縁層が設けられた長尺導体を含む絶縁導体が、「絶縁層の実質的に全範囲にわたって少なくとも25%の結晶化度を有し、前記絶縁層の前記全範囲にわたる前記ポリマー材料の前記結晶化度が、10%未満変化」するものであるか否かを判断するためには、絶縁導体のおける絶縁層の実質的に全範囲にわたって試料を採取して結晶化度というパラメータを評価する必要があるため、当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要がある場合に該当し、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に違反している(特許異議申立書第44頁26行ないし第45頁23行)旨主張する。 (6)しかしながら、上記(2)及び(4)で検討したように、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0076】ないし【0098】には、「絶縁層の実質的に全範囲にわたって少なくとも25%の結晶化度を有し、前記絶縁層の前記全範囲にわたる前記ポリマー材料の前記結晶化度が、10%未満変化」する「ポリマー材料を含む絶縁層が設けられた絶縁導体」の製造装置及び製造方法について、具体的に記載されているから、当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要があるとはいえない。 (7)特許異議申立人は、上記(1)のとおり発明の詳細な説明に本件発明1について明確に記載されておらず、また、本件発明20に係る「ポリマー材料が、冷却後に少なくとも25%の結晶化度を有するように前記テープの冷却を制御」するとの発明特定事項について、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、単に抽象的又は機能的に記載してあるだけで、その具体的な詳細は、不明瞭である旨主張し、本件発明20を直接的又は間接的に引用する同一カテゴリーの発明である本件発明21ないし28、ならびに本件発明よる製造方法を実施するための装置である本件発明30についても同様の理由から、実施可能要件を満たしていない(特許異議申立書第46頁2行ないし第47頁15行)旨主張する。 (8)しかしながら、上記(2)で検討したように、発明の詳細な説明は、本件発明1について明確に説明されており、上記(5)で検討したように、本件発明20に係る「ポリマー材料が、冷却後に少なくとも25%の結晶化度を有するように前記テープの冷却を制御」するとの発明特定事項は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0093】ないし【0095】及び【図4】に具体的に記載されているから、発明の詳細な説明は、本件発明20について明確に説明されているといえる。 (9)以上のとおりであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、請求項1ないし30に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。 3 申立理由5(特許法第36条第6項第1号)について (1)特許異議申立人は、本件特許の請求項1ないし30に記載された発明は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるから、本件特許の発明の詳細な説明に開示された内容は、本件発明1ないし30の範囲まで拡張ないし一般化できるものとはいえない(特許異議申立書第47頁16行ないし第50頁2行)旨主張する。 (2)特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであると解される(知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)第10042号同年11月11日特別部判決)。 (3)発明の詳細な説明の記載 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 「【0007】 銅導体を絶縁するために他のポリマーを使用することが提案されている。例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)のようなポリアリールエーテルケトンの使用が提案されている。出願人は、銅導体にPEEKテープを適用するために、図1に記載の装置を使用しようと試みた。しかしながら、絶縁導体の絶縁破壊電圧に悪影響を及ぼす導体上のPEEKの著しい膨れ(薄膜内の空気のポケットを表す)が導体上に存在すること、及びさらに、銅の酸化を最小限に抑えながら許容可能な結晶化度を有するPEEK層を製造することは不可能であることが判明した。PEEK層を横切って結晶化度が実質的に一定でない場合、PEEK層が応力を受けて、PEEK絶縁導体がスプールの周りに被覆された場合にPEEK層の割れを招くことがあることを出願人は認識している。さらに、銅導体の酸化レベルが高すぎると、PEEK層の接着性が製造者にとって許容できないほど低くなり、絶縁銅導体がASTM D1676業界標準試験に合格しなくなることが判明した。上記の問題は、銅導体が非円形、例えば、長方形の断面を有する場合に特に深刻である。」 「【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明の第1の態様によれば、ポリマー材料を含む絶縁層を備えた長尺導体を含む絶縁導体が提供され、前記ポリマー材料が、少なくとも25%の結晶化度を有し、前記ポリマー材料は、 【化1】 ![]() 一般式の繰り返し単位を含み、 式中、t1及びw1が独立して、0または1を表し、v1が、0、1、または2を表す。 【0010】 特に明記しない限り、前記長尺導体上の前記絶縁層の前記ポリマー材料の結晶性の評価は、以下の実施例4に記載されているように行うことができる。 【0011】 前記結晶化度は、好ましくは少なくとも28%、より好ましくは少なくとも30%である。 【0012】 前記ポリマー材料の結晶化度は、前記絶縁層上の第1の位置で前述のように評価することができる。したがって、結晶化度は、前記第1の位置で少なくとも25%(好ましくは少なくとも28%、より好ましくは少なくとも30%)が適切である。前記ポリマー材料の結晶化度は、前記絶縁層上の第2の位置で前述のように評価することができる。前記第2の位置における結晶化度は、適切には少なくとも25%(好ましくは少なくとも28%、より好ましくは少なくとも30%)である。前記第1の位置は、少なくとも1mの距離だけ前記第2の位置から離間していてもよい。 【0013】 前記ポリマー材料の結晶化度は、前記絶縁層上の第3の位置で前述のように評価することができる。前記第3の位置における結晶化度は、適切には少なくとも25%(好ましくは少なくとも28%、より好ましくは少なくとも30%)である。前記第1の位置は、少なくとも10mの距離だけ前記第3の位置から離間していてもよい。前記第2の位置は、少なくとも9mの距離だけ前記第3の位置から離間していてもよい。前記ポリマー材料の結晶化度は、前記絶縁層上の第4の位置で前述のように評価することができる。前記第4の位置における結晶化度は、適切には少なくとも25%(好ましくは少なくとも28%、より好ましくは少なくとも30%)である。 【0014】 前記第4の位置は、少なくとも20mの距離だけ第1の位置から離間していてもよい。場合によっては、前記距離は少なくとも50m、例えば50m?200mの範囲であってもよい。 【0015】 前記第1の位置は、絶縁導体の第1の端部にあってもよい。前記第4の位置は、絶縁導体の第2の対向側の端部にあってもよい。前記第2の位置は、絶縁導体の前記端部の中間であってもよい。前記第3の位置は、前記第2の位置と第4の位置の中間であってもよい。 【0016】 適切には、前記絶縁層は、長尺導体の全体に沿って延びる。前記絶縁層は、適切には、前記絶縁導体の前記第1の端部から前記第2の端部まで延びている。前記絶縁層は、好ましくは、前記第1の端部と第2の端部との間に連続した途切れない層を画定する。疑義を避けるために、絶縁導体の第1及び第2の端部(すなわち、対応する端面)に、長尺導体が露出していること、すなわち絶縁層が長尺導体の端部を覆っていないことが分かる。したがって、好ましくは、前記第1及び第2の端部(例えば、対応する端面)を除いて、前記絶縁層は前記長尺導体を完全に包囲する。 【0017】 前記ポリマー材料の結晶化度は、前記絶縁層の実質的に全範囲にわたって少なくとも25%(好ましくは少なくとも28%、より好ましくは少なくとも30%)が適切である。前記ポリマー材料の結晶性は、好ましくは、前記絶縁層の範囲にわたって実質的に一定である。適切には、前記絶縁層の範囲にわたる前記ポリマー材料の結晶化度は、10%未満だけ変化する。例えば、絶縁層のポリマー材料の最小結晶化度と最大結晶化度との間の差は、10%未満である。」 「【発明を実施するための形態】 【0076】 下記の材料は、以降、以下のように称され、機械方向配向(Machine-Direction Orientated)(MDO)ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)ポリマーテープは、Imperial Chemical Industries Plc.のB.P.Griffin及びI.D.Luscombeによりに開示されているResearch Disclosureデータベース番号216001の実施例3に概説された手順に従って一軸配向されたPEEKテープを指す。典型的には、MDOテープは、ASTM D882に従って測定された以下の特性を有し、引張強さ-338MPa、破壊応力-256MPa、降伏応力-84MPaである。 【0077】 図2を参照すると、長方形断面の銅導体20は、巻き付けユニット22から引き出された機械方向配向(MDO)ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)ポリマーテープ(図示せず)で被覆されている。テープで被覆された導体のアセンブリ23aは、PEEKポリマーの温度を340℃(すなわち、PEEKの溶融温度(Tm)のすぐ下)に上昇させるのに十分なエネルギーを生成する第1誘導コイル24を通過する。温度は、PEEK層に焦点を当てた適切に配置されたパイロメータを使用して監視することができる。加熱の結果、MDOテープは銅導体の周りで収縮し(すなわち、MDOテープを製造するために延伸プロセスに供される前の状態に向かってテープ固着する)、さらにテープは、粘着性になり、銅導体20に固着する。 【0078】 第1の誘導コイル24を出た後、導体及び収縮テープを含むアセンブリ23bは、アセンブリ23bと接触するように、そして、トラップされた空気、膨張した膨れを除去し及びまたは表面仕上げを改善するためにその対向する側に圧力を印加するために配置された第1の対のシリコーンローラ26の間を通過する。ローラ26の下流で、アセンブリ23cは、PEEK層の溶融温度(Tm)を上回る約380℃に銅導体を急速に加熱する第2の誘導コイル28を通過する。その結果、PEEK層が溶融して下地の銅導体に固着し、導体のまわりに連続した滑らかなPEEK層を生成する。 【0079】 第2の誘導コイル28を出た後、アセンブリ23dは、ローラ26のように、アセンブリ23dと接触するように、そして、トラップされた空気、膨張した膨れを除去し及びまたは表面仕上げを改善するためにその対向する側に圧力を印加する第2の対のシリコーンローラ30の間を通過する。 【0080】 ローラ30の下流で、アセンブリ23eの銅導体を急速に冷却して銅の酸化を制限する一方、PEEK層を徐々に冷却してPEEK層の結晶度を最適化するように配置された冷却装置32をアセンブリ23eが通過する。 【0081】 冷却装置32を出た後、高結晶性の薄いPEEK層で絶縁された比較的非酸化性の銅を含むアセンブリ23fは、電気装置で使用する前にスプールの周りに巻き付けることができる。 【0082】 本発明の好ましい実施形態の特徴は、以下でより詳細に説明される。 【0083】 銅導体は、ETP裸銅線を含んでもよく、長尺、長方形の断面線の形態であってもよい。断面は、3?20mmの幅及び1.6?3.5mmの厚さを有することができる。好ましい断面は約8×2mmである。 【0084】 長方形断面線を使用する代わりに、他の形状の導体を本明細書で説明するように処理することができる。例えば、円形(例えば、0.5?10mmの直径を有する)または楕円形の断面線、ストランド線またはセグメント化された線を使用することができる。しかし、好ましくは、線は長方形の断面を有する。 【0085】 銅を使用する代わりに、アルミニウムの導体を上記のように処理してもよい。特に、本明細書に記載のプロセスは、本明細書に銅について記載したような酸化を受けやすい任意の金属に適用することができる。 【0086】 上記のように、PEEKポリマーテープはMDOテープである。これは、一般にResearch Disclosureデータベース番号21600に記載されているように製造することができ、3?50mmの範囲の幅及び1?250μmの範囲の厚さを有することができる。本明細書に記載した実施例は、幅12mm及び厚さ18μmのテープを用いて製造した。 【0087】 巻き付けユニットは、適切な専用ユニットである。銅導体上に8m/分以上でテープを巻き付けるために、約1500rpm以上で動作可能である。テープは、業界標準重複配置を用いて巻き付けられてもよい。例えば、図3に示す一実施形態では、銅導体40を二重に被覆することができ、一方のラップ41は3つの層42a、42b及び42cを含み、他方のラップ43は層44a、44b及び44cを含む。したがって、この実施形態では、銅導体は、6層の厚さのPEEKテープで覆われている。 【0088】 第1の誘導コイル24は、コイル24を出る際に、被覆された導体の表面が約340℃の温度を有するように、銅導体を加熱するように配置される(PEEKは導電性ではないため、PEEKは加熱しない)。 【0089】 上述したように、第1の誘導コイルを使用する1つの目的は、PEEKテープの温度をその融解温度直下まで上昇させることである。その結果、テープはMDOテープを製造するために引き伸ばされる前に元の状態に向かって戻るよう収縮する。このプロセスでは、収縮は、テープの適切なオーバーラップ配置の初期選択によって補償される。また、銅の外面の酸化を最小限に抑えるために、銅導体が第1の誘導コイル内の高温に供される時間を最小化することも重要である。 【0090】 記載されているシリコーンローラ26、30は、それらが処理中に供される比較的高い温度で適切な特性を保持するようにする必要がある。第1のシリコーンローラ対26は、それらの間を通過するアセンブリ23bの幅よりも大きい幅を有し、その結果、ローラは、それらの間を通過するときにアセンブリ23cの上面及び底面と完全に重なる。ローラ26は、アセンブリ23bが通過するとき自由に回転可能であるが、それ自体は駆動されない。 【0091】 第2の誘導コイル28はまた、銅導体を加熱するように配置されるが、第1の誘導コイルと比較してより高い温度に加熱されるように構成される。 【0092】 このプロセスにおいて、アセンブリ23cは、第2の誘導コイルの範囲内にあってもよく、及び/または第2の誘導コイルによって適切な最短時間にわたって加熱されてもよい。上述したように、第2誘導コイルの使用目的は、銅導体を380℃に急速に加熱してPEEK層を溶融させて銅に付着させることである。PEEK層が過度に高い温度及び/または高温に長時間供されると、PEEK層が不利に膨らむ場合がある。シリコーンローラ30の第2の対は、一般に、第1のローラ対26について説明した通りである。 【0093】 冷却装置32は図4により詳細に示されている。参照番号50で表される第1の領域では、アセンブリ23eは周囲温度に供され、アセンブリが位置52に達するまでに、PEEK層はその溶融温度よりも低い(すなわち、約343℃未満)温度を有し、すなわち、PEEK層が凝固している。これにより、アセンブリ23eが下流側の水冷にさらされたときに膨らみ現象が防止される。しかし、温度はPEEKの結晶化温度(Tc)すなわち278℃より高い。番号54で示された領域内の位置52の下流で、一連の水噴霧器がアセンブリ23eの周りに沿って配置される。噴霧器は、アセンブリ23eにおいて一定の20℃に維持された温度で水を噴霧して急速に冷却し、銅導体から熱を効果的に除去することによって銅導体の酸化を制限するように配置される。 【0094】 領域54の下流には、アセンブリ23eの周りに沿って位置する一連のエアナイフを含む領域56がある。エアナイフは、残留水の存在が最終生成物23f上のPEEKの無定形パッチの不利な生成を招くことがあることが判明したので、アセンブリの表面から水を完全に除去するように配置されている。 【0095】 領域56内の水を除去した後、導体23fは冷却装置32を出る。しかしながら、冷却装置32は、出口位置58において、銅導体内の残熱が、PEEK層が冷却装置32を出た後にアニールするのに十分に高くなるように配置されている。したがって、適切には、位置58において、導体23fは、冷却装置32の下流で、導体23fに追加の加熱を供することなく、PEEK層が160℃を超える温度に達するのに十分な熱を含む。 【0096】 冷却装置32の下流で、導体23fは周囲空気中で適切に冷却され、直ちに巻かれる。例えば、導体23fは、位置58から2?10mの距離内に位置するスプールに連続的に巻かれることができる。 【0097】 例えば、8m/分を超えるような引き取り速度及び/またはスプール上の巻き付け速度は、比較的高くてもよい。 【0098】 好都合なことに、図2及び図4を参照して説明した装置を使用して、非常に高品質のPEEK絶縁銅線を高速で製造することができる。」 「【0108】 実施例4-被覆された導体におけるPEEK層の結晶化度の評価 適用後、絶縁導体からPEEK層のサンプルを得るために、DSCによる測定のために、0.5cm^(2)×0.5cm^(2)と約100μmの厚さのテープの領域を、鋭利なナイフを用いて導体を屈曲させながらナイフを用いて銅導体から層を持ち上げることによって絶縁テープ層から切り取った。 【0109】 切断した2枚のテープ(約10mg)をDSCパンに一緒に入れ、以下のようにDSCでスキャンした。 ステップ1:サンプルを20℃/分で30℃から400℃に加熱することによって予備熱サイクルを実行し、記録する。 ステップ2:5分間保持する。 ステップ3:20℃/分で30℃まで冷却し、5分間保持する。 ステップ4:Tg、Tn、Tm、ΔHn及びΔHmを記録しながら、20℃/分で30℃から400℃まで再加熱する。 【0110】 Tcは冷却サイクル(ステップ3)で測定され、結晶化発熱が最小に達する温度である。 【0111】 ステップ4のスキャンから得られたDSCトレースから、Tgの開始は、転移前のベースラインに沿って描かれた線と、転移中に得られた最大の勾配に沿って描かれた線との交点として得られた。Tnは、低温結晶化発熱の主ピークが最大に達する温度であった。Tmは融解吸熱の主ピークが最大に達した温度であった。 【0112】 溶融の融解熱(ΔHm)は、融解吸熱が比較的直線的なベースラインから逸脱する2つの点を接続することによって得られた。時間の関数として吸熱下の積分面積は、融解遷移のエンタルピー(mJ)をもたらし、質量正規化融解熱は、エンタルピーを試料の質量(J/g)で割ることによって計算される。結晶化のレベル(X(%))は、試料の融解熱を、ポリエーテルエーテルケトンの場合130J/gである全結晶性ポリマーの融解熱で割ることによって決定される。」 (4)判断 ア 本件発明1ないし30の課題について 本件特許明細書の段落【0007】の記載から、本件発明1ないし30が解決しようとする課題は、 銅導体を絶縁するために、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)のようなポリアリールエーテルケトンを使用する際、 (ア)絶縁導体の絶縁破壊電圧に悪影響を及ぼす導体上のPEEKの著しい膨れ(薄膜内の空気のポケットを表す)が導体上に存在すること。 (イ)PEEK層を横切って結晶化度が実質的に一定でない場合、PEEK層が応力を受けて、PEEK絶縁導体がスプールの周りに被覆された場合にPEEK層の割れを招くことがあること。 (ウ)銅導体の酸化レベルが高すぎると、PEEK層の接着性が製造者にとって許容できないほど低くなり、絶縁銅導体がASTM D1676業界標準試験に合格しなくなること。 のいずれかであると認められる。 そして、本件特許の請求項1、20、30の「前記ポリマー材料が、前記絶縁層の実質的に全範囲にわたって少なくとも25%の結晶化度を有し、前記絶縁層の前記全範囲にわたる前記ポリマー材料の前記結晶化度が、10%未満変化」するとの記載、及び請求項29の「前記ポリマー材料が、前記ポリマー材料を含む絶縁層の実質的に全範囲にわたって少なくとも25%の結晶化度を有し、前記絶縁層の前記全範囲にわたる前記ポリマー材料の前記結晶化度が、10%未満変化する」との記載から、本件発明1ないし30が解決しようとする課題は、上記課題の内の「(イ)PEEK層を横切って結晶化度が実質的に一定でない場合、PEEK層が応力を受けて、PEEK絶縁導体がスプールの周りに被覆された場合にPEEK層の割れを招くことがあること」であると認められる。 イ 課題を解決手段について そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、PEEK絶縁導体について、段落【0077】ないし【0097】記載の製造方法を用いてPEEK絶縁導体を製造し、段落【0108】ないし【0112】記載の結晶化度の評価方法を用いて、段落【0010】ないし【0015】記載の評価を行ったところ、段落【0017】に記載されているように、ポリマー材料(PEEK)の結晶化度は、絶縁層の実質的に全範囲にわたって少なくとも25%が適切であり、10%未満変化することが記載されていると認識できるものと認められる。 そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「前記ポリマー材料が、前記絶縁層の実質的に全範囲にわたって少なくとも25%の結晶化度を有し、前記絶縁層の前記全範囲にわたる前記ポリマー材料の前記結晶化度が、10%未満変化」する、もしくは、「前記ポリマー材料が、前記ポリマー材料を含む絶縁層の実質的に全範囲にわたって少なくとも25%の結晶化度を有し、前記絶縁層の前記全範囲にわたる前記ポリマー材料の前記結晶化度が、10%未満変化する」との発明特定事項を含む、本件発明1ないし30について、上記ア(イ)の課題を解決していることが、当業者が理解することができる程度に記載されているといえる。 また、本件発明1ないし30の記載が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであることも、明らかである。 よって、請求項1ないし30に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。 第6 むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし30に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1ないし30に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-09-15 |
出願番号 | 特願2017-534832(P2017-534832) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
Y
(H01B)
P 1 651・ 113- Y (H01B) P 1 651・ 537- Y (H01B) P 1 651・ 121- Y (H01B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 中嶋 久雄、北嶋 賢二 |
特許庁審判長 |
河本 充雄 |
特許庁審判官 |
小田 浩 ▲吉▼澤 雅博 |
登録日 | 2020-10-21 |
登録番号 | 特許第6782238号(P6782238) |
権利者 | ビクトレックス マニュファクチャリング リミテッド |
発明の名称 | 絶縁導体、固定子コイル、モータアセンブリ、絶縁導体を製造する方法、中間生成物、絶縁導体を製造するための装置 |
代理人 | 恩田 博宣 |
代理人 | バーナード 正子 |
代理人 | 本田 淳 |
代理人 | 中村 美樹 |
代理人 | 恩田 誠 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |