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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A61M
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61M
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A61M
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61M
管理番号 1378102
審判番号 無効2019-800093  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-11-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2019-11-06 
確定日 2021-08-02 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第6144264号発明「医療用注射装置においてプラズマ処理したシリコーンオイルのコーティングとしての使用」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第6144264号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-22〕について訂正することを認める。 特許第6144264号の請求項1-3、5、6、10、13-21に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 特許第6144264号の請求項4、7-9、11、12、22に係る発明についての審判請求を却下する 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6144264号(以下「本件特許」という。)に係る出願(特願2014-532386号)は、2012年(平成24年)9月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年9月27日 欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、その特許権の設定登録(請求項の数:22)は平成29年5月19日にされ、その後、請求人トライボフィルム リサーチ,インコーポレイテッドから請求項1?22に係る特許について無効審判が請求されたものであるところ、その請求以降の手続きの概要は、次のとおりである。
令和1年11月 6日 審判請求書の提出
令和2年 2月25日 審判事件答弁書、訂正請求書の提出
同年 3月11日付け 審尋
同年 4月 9日 回答書の提出(被請求人より)
同年 5月29日 審判事件弁駁書の提出
同年 7月 1日付け 審尋
同年 7月17日 回答書の提出(請求人より)
同年 7月31日 回答書の提出(被請求人より)
同年 8月24日 審判事件答弁書の提出
同年11月20日付け 補正拒否の決定
同年11月20日付け 審尋
同年12月21日 回答書の提出(被請求人より)
令和3年 1月12日 回答書の提出(請求人より)

なお、本件については、職権により書面審理によるものとした。また、令和2年2月25日付け訂正請求書による訂正を、以下「本件訂正」という。

第2 本件訂正の内容
本件訂正は、本件特許の願書に添付された特許請求の範囲を、令和2年2月25日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正しようとするものであって、その訂正の内容は、以下の訂正事項1?9 のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「医薬組成物中に放出された粒子の数を減少させる方法」、「外筒の内表面と接触している医薬組成物」、「医薬組成物を処理する」、「医薬組成物中に放出された粒子の数を減少させること」における各「医薬組成物」を、それぞれ「医薬組成物の溶液」に訂正する。
また、請求項1を引用する請求項2、3、5、6、10、13?21も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「シリコーンオイルの層を有する外筒の内面をコーティングすること」とあるのを、「外筒の内面をシリコーンオイルの層でコーティングし、シリコーンオイルが9×10^(-4)m^(2)/s?1.2×10^(-3)m^(2)/s(900?1200センチストークス)の粘度を有するポリジメチルシロキサン(PDMS)含むこと」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「コーティングの内表面に存在する粒子の数を減少させ」とあるのを、「コーティングの表面に存在する粒子の数を減少させ」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2に「光遮蔽法」とあるのを、「Hach LangeによるHIAC光遮蔽装置を用いた光遮蔽法」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項2に「医療用注射装置の中に入れられた溶液」とあるのを、「医療用注射装置の中に入れられたリン酸緩衝生理食塩水およびポリソルベート80を濾過したものの混合物」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項3に「マイクロ流イメージング法」とあるのを「Brightwell TechnologiesによるMFIマイクロ流イメージング装置を用いたマイクロ流イメージング法」に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項3に「医療用注射装置の中に入れられた溶液」とあるのを、「医療用注射装置の中に入れられたリン酸緩衝生理食塩水およびポリソルベート80を濾過したものの混合物」に訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項4、7?9、11、12、22を削除する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項15に「医薬組成物中の粒子」とあるのを、「医薬組成物の溶液中の粒子」に訂正する。


第3 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人は、本件訂正は認められない、本件特許の請求項1?22に係る発明(以下、それぞれ請求項に対応して「本件発明1」などという。)についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、無効とすべき理由を概ね次のように主張するとともに、証拠方法として甲第1号証?甲第8号証を提出している。
(1)新規性進歩性
以下のとおり、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
ア 甲第1号証記載の発明に基づく理由
本件発明1、5、6、10、11、16?19、21、22は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明2、3は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4、5号証に記載された事項に基いて、本件発明4は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて、本件発明7?9は、甲第1号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された事項に基いて、本件発明12は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3、7号証に記載された事項に基いて、本件発明13は、甲第1号証に記載された発明、甲第3、8号証に記載された事項及び周知技術に基いて、本件発明14、15は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて、本件発明20は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2、3号証に記載された事項に基いて、本件発明22は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4、5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ 甲第2号証記載の発明に基づく理由
本件発明1、5、10、11、18?20、22は、甲第2号証に記載された発明であるか、甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明2、3は、甲第2号証に記載された発明及び甲第4、5号証に記載された事項に基いて、本件発明4は、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基いて、本件発明6は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1、6、7号証に記載された事項に基いて、本件発明7は、甲第2号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された事項に基いて、本件発明8、9は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1、6号証に記載された事項に基いて、本件発明12は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3、7号証に記載された事項に基いて、本件発明13は、甲第2号証に記載された発明、甲第3、8号証に記載された事項及び周知技術に基いて、本件発明14、15は、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基いて、本件発明16、17は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1、8号証に記載された周知技術に基いて、本件発明21は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1、3号証に記載された事項に基いて、本件発明22は、甲第2号証に記載された発明及び甲第4、5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ 甲第3号証記載の発明に基づく理由
本件発明1、11、12、20、21は、甲第3号証に記載された発明であるか、甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明2、3は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4、5号証に記載された事項に基いて、本件発明4は、甲第3号証に記載された発明及び周知技術に基いて、本件発明5は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1、2号証に記載された事項に基いて、本件発明6は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1、6、7号証に記載された事項に基いて、本件発明7、8は、甲第3号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された事項に基いて、本件発明10は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1、2号証に記載された事項に基いて、本件発明13は、甲第3号証に記載された発明、甲第3、8号証に記載された事項及び周知技術に基いて、本件発明14、15は、甲第3号証に記載された発明及び周知技術に基いて、本件発明16、17は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1、8号証に記載された周知技術に基いて、本件発明18は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1、2号証に記載された周知技術に基いて、本件発明19は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1、2、8号証に記載された周知技術に基いて、本件発明22は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4、5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)実施可能要件
本件特許の発明の詳細な説明は、本件発明1?22を、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないことから、本件特許は、発明詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
よって、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

(3)サポート要件
本件発明1?22は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
よって、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

(4)明確性要件
本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件発明1?22を明確に記載したものではないことから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
よって、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

(5)本件訂正後の発明について
仮に、本件訂正が認められたとしても、訂正後の請求項1?3、5、6、10、13?21に係る発明(以下、それぞれ請求項に対応して「本件訂正発明1」などという。)についての特許は、次の無効理由1A?4により無効とすべきである。
ア 無効理由1A(甲第1号証記載の発明に基づく進歩性)
本件訂正発明1、5、6、10、16?19、21は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3、7号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件訂正発明2、3は、甲第1号証に記載された発明、甲第3、7号証に記載された事項及び甲第4、5号証に記載された事項に基いて、本件訂正発明13は、甲第1号証に記載された発明、甲第3、7号証に記載された事項、甲第3、8号証に記載された事項及び周知技術に基いて、本件訂正発明14、15は、甲第1号証に記載された発明、甲第3、7号証に記載された事項及び周知技術に基いて、本件訂正発明20は、甲第1号証に記載された発明、甲第3、7号証に記載された事項及び甲第2、3号証に記載された事項に基いて、本件訂正発明22は、甲第1号証に記載された発明、甲第3、7号証に記載された事項及び甲第4、5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

イ 無効理由1B(甲第2号証記載の発明に基づく進歩性)
本件訂正発明1、5、10、18?20は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3、7号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件訂正発明2、3は、甲第2号証に記載された発明、甲第3、7号証に記載された事項及び甲第4、5号証に記載された事項に基いて、本件訂正発明6は、甲第2号証に記載された発明、甲第3、7号証に記載された事項及び甲第1、6、7号証に記載された事項に基いて、本件訂正発明13は、甲第2号証に記載された発明、甲第3、7号証に記載された事項、甲第3、8号証に記載された事項及び周知技術に基いて、本件訂正発明14?17は、甲第2号証に記載された発明、甲第3、7号証に記載された事項及び周知技術に基いて、本件訂正発明21は、甲第2号証に記載された発明、甲3、7号証に記載された事項及び甲第1、3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

ウ 無効理由1C(甲第3号証記載の発明に基づく新規性進歩性)
本件訂正発明1、20、21は、甲第3号証に記載された発明であるか、甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件訂正発明2、3は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4、5号証に記載された事項に基いて、本件訂正発明5は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1、2号証に記載された事項に基いて、本件訂正発明6は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1、6、7号証に記載された事項に基いて、本件訂正発明10は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1、2号証に記載された事項に基いて、本件訂正発明13は、甲第3号証に記載された発明、甲第3、8号証に記載された事項及び周知技術に基いて、本件訂正発明14?19は、甲第3号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

エ 無効理由2(実施可能要件)
本件特許の発明の詳細な説明は、本件訂正発明1?3、5、6、10、13?21を、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないことから、本件特許は、発明詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
よって、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

オ 無効理由3(サポート要件)
本件訂正発明1?3、5、6、10、13?21は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
よって、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

カ 無効理由4(明確性要件)
本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件訂正発明1?3、5、6、10、13?21を明確に記載したものではないことから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
よって、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

[証拠方法]
甲第1号証:特表2002-505177号公報
甲第2号証:特開昭61-266493号公報
甲第3号証:米国特許第7553529号明細書及びその抄訳文
甲第4号証:米国薬局方788章(米国薬局方協会、2007年4月4日)及びその抄訳文
甲第5号証:「Quality-Control Analytical Methods: Particulate Matter in Injections: What is It and What are the Concerns?」(International Journal of Pharmaceutical Compounding, Vol.10, No.3,2006年5月)及びその抄訳文
甲第6号証:米国特許第5338312号明細書及びその抄訳文
甲第7号証:米国特許出願公開第2008/0071228号明細書及びその抄訳文
甲第8号証:「PFS(Pre-filled Syringe)の品質保証とバリデーション」(創包工学研究会第27回講演会、2005年12月15日)

2 被請求人の主張
被請求人は、本件訂正を認める、本件無効審判の請求は認められない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、請求人の主張する無効理由にはいずれも理由が無い旨主張するとともに、証拠方法として乙第1号証を提出している。

[証拠方法]
乙第1号証:「FICHE DE DONNEES DE SECURITE」(審決注:アクサン記号は省略した。)をタイトルとする文書(ダウ・コーニング社作成、2010年9月22日)


第4 訂正の適否についての判断
1 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1?22は、請求項2?22が、訂正請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正前において一群の請求項に該当するものである。
よって、本件訂正は、特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項1?22について請求されたものである。

2 訂正事項1、9について
(1)判断
訂正事項1、9に係る訂正は、訂正前の請求項1、9における粒子の放出先としての「医薬組成物」、外筒の内表面の接触対象としての「医薬組成物」、処理対象としての「医薬組成物」、粒子の存在箇所としての「医薬組成物」のそれぞれについて、その形態を「医薬組成物の溶液」であると明らかにしようとするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
また、「医薬組成物」が液体の形態であることは、願書に添付した明細書の「医薬組成物6に放出され、溶液中にこのように存在しているシリコン粒子A」(【0096】)、「薬液6」(【0097】)、「流体」(【0116】)等の記載により裏付けられていることから、この訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
(2)請求人の主張について
請求人は、この訂正に関し、「してみると、訂正発明では、「医薬組成物」という用語を含む「医薬組成物の溶液」という類似する用語が用いられてはいるが、元々『薬剤を含有する流体である医薬組成物』が入れられた注射装置」に関するものであったはずの訂正前発明が、それに加えて「『薬剤を含有しない(または薬剤を溶解するための)溶液』が入れられた注射装置」までもが取り込まれたものへとその発明が明らかに拡張(または変更)されていることになる。」(弁駁書第9頁(ii)欄)、「本件特許明細書は、「医薬組成物」を「治療又は診断目的で、製薬業界で製造され患者に配達される任意の流体」と定義している(段落【0116】)。しかし、被請求人が「医薬組成物の溶液」に該当するとする「リン酸緩衝生理食塩水(PBS)およびポリソルベート80の混合物」は、「治療又は診断目的で、製薬業界で製造され患者に配達される任意の流体」ではないから、「医薬組成物の溶液」が「医薬組成物」ではないことは明らかである。むしろそれは、バイオテクノロジーの研究において使用される溶液に過ぎない。・・・」(令和3年1月12日付け回答書第3頁(i)欄)などと主張するので検討する。
「医薬組成物の溶液」に関し、その用語自体の意味のみならず、明細書【0116】における「医薬組成物は、治療又は診断目的で、製薬業界で製造され患者に配達される任意の流体を意味する。」の記載をも踏まえると、医薬組成物の溶液が“医薬を含有する溶液”を意味することは明らかであり、医薬組成物の溶液が“医薬を含有しない溶液”と解する余地はない。また、このような解釈は、被請求人の主張とも整合するところである。
請求人は、上記のように「被請求人が「医薬組成物の溶液」に該当するとする「リン酸緩衝生理食塩水(PBS)およびポリソルベート80の混合物」は、・・・」との主張もするが、被請求人の令和2年7月31日付け回答書第2頁における「リン酸緩衝生理食塩水(PBS)およびポリソルベート80の混合物」は、ワクチンなどの医薬組成物で一般的に使用される混合物の溶液であり、粒子の数の評価用の溶液として妥当なものです。」との主張は、「リン酸緩衝生理食塩水(PBS)およびポリソルベート80の混合物」が「医薬組成物の溶液」に該当すると主張しているのではなく、「リン酸緩衝生理食塩水(PBS)およびポリソルベート80の混合物」は、単に粒子の数を評価する際に用いる一溶液であると述べているにすぎないのであるから、請求人の当該主張は、被請求人の主張を正解しないものである。
よって、この訂正が、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものであるとする請求人の主張は採用できない。

3 訂正事項2について
訂正事項2に係る訂正は、訂正前の「シリコーンオイルの層を有する外筒の内面をコーティングする」に関し、「シリコーンオイルの層」、「外筒の内面」、「コーティングする」の三者の関係を、「外筒の内面をシリコーンオイルの層でコーティングし」と明瞭にするとともに、「シリコーンオイル」の粘度範囲及び物質名を「9×10^(-4)m^(2)/s?1.2×10^(-3)m^(2)/s(900?1200センチストークス)の粘度を有するポリジメチルシロキサン(PDMS)含む」と技術的に限定するものであるから、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
また、この訂正は、願書に添付した明細書の【0074】、特許請求の範囲の請求項11、12等の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

4 訂正事項3について
訂正事項3に係る訂正は、訂正前の「コーティングの内表面に存在する粒子の数を減少させ」における「内表面」との記載を、同記載に先行して記載されていた請求項1冒頭の「コーティングの表面に存在する粒子の数・・・を減少させる方法」における「表面」なる記載と整合させるためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
また、この訂正は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

5 訂正事項4、5について
訂正事項4、5に係る訂正は、訂正前の請求項2における「光遮蔽法」を、「Hach LangeによるHIAC光遮蔽装置を用いた光遮蔽法」と限定するとともに、光遮蔽法により測定した場合に、医療用注射装置の中に入れられ、当該測定のために使用される「溶液」を、「医療用注射装置の中に入れられたリン酸緩衝生理食塩水およびポリソルベート80を濾過したものの混合物」と具体的に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
また、この訂正は、願書に添付した明細書の【0120】、【0130】等の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

6 訂正事項6、7について
訂正事項6、7に係る訂正は、訂正前の請求項3における「マイクロ流イメージング法」を、「Brightwell TechnologiesによるMFIマイクロ流イメージング装置を用いたマイクロ流イメージング法」と限定するとともに、マイクロ流イメージング法により測定した場合に、医療用注射装置の中に入れられ、当該測定のために使用される「溶液」を、「医療用注射装置の中に入れられたリン酸緩衝生理食塩水およびポリソルベート80を濾過したものの混合物」と具体的に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
また、この訂正は、願書に添付した明細書の【0120】、【0148】等の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

7 訂正事項8について
訂正事項8に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項4、7?9、11、12、22を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
また、この訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

8 まとめ
したがって、一群の請求項についての本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第3項並びに同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、本件特許の願書に付した特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?22〕について訂正することを認める。


第5 本件訂正発明
上記のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1?3、5、6、10、13?21に係る発明は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1?3、5、6、10、13?21に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】
コーティングの表面に存在する粒子の数又は医療用注射装置に入れられた医薬組成物の溶液中に放出された粒子の数を減少させる方法であって、該注射装置は、コーティングされた内表面、外筒に滑り嵌合する栓、外筒の内表面と接触している医薬組成物の溶液を備えており、当該方法は、該注射装置で医薬組成物の溶液を処理する前に、コーティングを調製する以下の方法を具備している。
(1)外筒の内面をシリコーンオイルの層でコーティングし、シリコーンオイルが9×10^(-4)m^(2)/s?1.2×10^(-3)m^(2)/s(900?1200センチストークス)の粘度を有するポリジメチルシロキサン(PDMS)含むことと、
(2)シリコーンオイル層をプラズマ処理に曝し、それにより、プラズマ処理していないシリコーンオイルで外筒をコーティングした注射装置と比較して、コーティングの表面に存在する粒子の数を減少させ、あるいは医療用注射装置に入れられた医薬組成物の溶液中に放出される粒子の数を減少させること。
【請求項2】
Hach LangeによるHIAC光遮蔽装置を用いた光遮蔽法により測定した場合、医療用注射装置の中に入れられたリン酸緩衝生理食塩水およびポリソルベート80を濾過したものの混合物中に放出される粒子レベルが溶液と接触する外筒表面の1mm^(2)当たり2.11個未満の粒子である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Brightwell TechnologiesによるMFIマイクロ流イメージング装置を用いたマイクロ流イメージング法により測定した場合、医療用注射装置の中に入れられたリン酸緩衝生理食塩水およびポリソルベート80を濾過したものの混合物中に放出される粒子レベルが溶液と接触する外筒表面の1mm^(2)当たり10.56個未満の粒子である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
栓はシリコーンオイルでコーティングされ、シリコーンオイルでコーティングされた栓はプラズマ処理に曝される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
プラズマ処理したシリコーンオイルコーティングは90?400nmの厚さを備える、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記外筒はガラスからなることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
予め充填された医療用注射装置は、1mLの内部容積と6.35mmの直径を有するシリンジである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
プラズマ処理したシリコーンオイルコーティングは0.1?0.4mgの重量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
医薬組成物の溶液中の粒子のレベルに関する薬局方規範に適合し医薬組成物の長期保存が可能である前記医薬組成物で前記注射装置が充填されている、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
該注射装置内の組成物は、バイオテクノロジー薬剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
該注射装置内の組成物は、タンパク質、ペプチド、ワクチン、DNA、又はRNAの一つ又は複数である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
プラズマ処理したシリコーンオイルコーティングは架橋されたシリコーンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
外筒の内表面の少なくとも90%がシリコーンオイルでコーティングされている、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
プラズマは高周波によって産生される、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
プラズマ処理は、酸素とアルゴンの混合物の下で行う酸化プラズマ(an oxidative plasma)処理を含む、請求項1に記載の方法。


第6 当審の判断(無効理由2?4について)
上記のとおり本件訂正が認められるところ、請求人の主張する無効理由は、上記第3の1(5)ア?カに記載した無効理由1A?4であって、これらのみであると認められるから、当該無効理由について以下検討するに、事案に鑑み、まず無効理由2?4について検討する。
事案に鑑み、まず、無効理由2?4について検討する。
1 無効理由2(実施可能要件)について
1-1 請求人の主張
請求人は、上記無効理由2の実施可能要件違反に関し、その具体的な理由として次のように主張する。なお、実施可能要件違反に関する他の無効理由は、令和2年7月17日提出の回答書のとおり撤回された。
「(i)本件発明1?22は、コーティングの表面に存在する粒子の数、又は医療用注射装置に入れられた医薬組成物中に放出された粒子の数を減少させる方法に関する発明であって、目的とする2つの技術的効果の内の少なくとも1つは達成されることが必要とされている。その一つが、プラズマ処理していないシリコーンオイルで外筒をコーティングした注射装置と比較して、コーティングの内表面に存在する粒子の数を減少させることである(構成(g))。
(ii)しかし、発明の詳細な説明には、コーティングの内表面に存在する粒子の数を減少させるという効果については、何ら具体的な開示がなく、「コーティングの内表面に存在する粒子の数」については、一切評価されていない。一応評価されているといえるのは、「医療用注射装置に入れられた医薬組成物中に放出される粒子の数」(ただし、後述するように、実際には、医療用注射装置に入れられた、医薬組成物ではない、リン酸緩衝生理食塩水10g/L及びTween80 2.13mg/Lの混合物(特定の溶液)中に放出される粒子の数)のみである。そして、発明の詳細な説明に記載された粒子の計測技術(光遮蔽法及びマイクロ流イメージング法)、実施例、そして計測データのいずれもが、溶液中の粒子のレベルの評価にのみ関するものである。例えば、光遮蔽法用のHIAC装置は、非経口溶液中に存在する肉眼では見えない粒子を評価するものである(段落【0127】)。マイクロ流イメージング(MFI)は、流体中に懸濁した粒子を把握するものである(【0144】)。
従って、発明の詳細な説明のどこにも、コーティングの内表面に存在する粒子の数の評価方法については何ら記載されていない。
(iii)以上の通りであるから、発明の詳細な説明は、プラズマ処理していないシリコーンオイルで外筒をコーティングした注射装置と比較して、コーティングの内表面に存在する粒子の数を減少させるという本件発明の効果についての記載を完全に欠いているため、本件発明を実施するためには、当業者に期待し得る程度を越える過度の試行錯誤(過度な条件検討や実験)を強いることは明らかである。
従って、発明の詳細な説明は、本件発明1?22を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載しているとはいえない。」(審判請求書第106?107頁「(イ)本件発明1?22について(無効理由3-2)」欄)

1-2 判断
(1)明細書の記載事項
本件特許の明細書及び図面の記載によれば次の事項が認められる。
ア)外筒の表面上に存在する粒子のレベルを測定するために、注射装置は、溶液で満たされ、前記溶液中に放出された粒子のレベルが測定される(【0119】)。
使用される溶液は、リン酸緩衝生理食塩水及びTween 80の混合物(以下「測定用溶液」という。)である(【0120】)。
イ)測定用溶液はシリンジに充填され、所定時間後にシリンジから排出された後に、当該溶液を対象として粒子が測定される(【0122】、【図2A】、【図3A】)。
ウ)シリンジの外筒内には、シリコーンオイルが噴霧され、次いで、プラズマ処理が行われている(【0174】?【0176】)。
エ)測定方法には、光遮蔽法とマイクロ流イメージング法がある(【0126】、【0127】、【0144】、【0177】)。
オ)光遮蔽法では、機器として「HIAC」装置を使用し、2?400μmのサイズの粒子が測定される(【0130】、【0132】)。マイクロ流イメージング法では、機器として「MFI DPA4200」装置を使用し、1?100μmのサイズの粒子が測定される(【0148】、【0155】)。
カ)光遮蔽法、マイクロ流イメージング法のいずれの測定によっても、プラズマ処理していないシリコーンオイルで外筒内をコーティングしたシリンジと比較して、シリンジに入れられた測定用溶液中に放出されるシリコーンオイルの粒子の数の減少が示された(【0177】?【0185】、【図4】、【図5】)。

以上によれば、明細書には、“シリコーンオイル層をプラズマ処理に曝し、それにより、プラズマ処理していないシリコーンオイルで外筒をコーティングした注射装置と比較して、医療用注射装置に入れられた測定用溶液中に放出されるシリコーンオイルの粒子の数を減少させること”が記載されてはいるものの、当該比較のための測定に関し、(i)「コーティングの表面に存在する粒子の数」自体を直接測定する点、(ii)測定用溶液ではなく、「医薬組成物の溶液」を用いて粒子の数を測定する点の2点については、明示的な記載はない。
そこで、これらの各点についてさらに検討する。

(2)「コーティングの表面に存在する粒子の数」について
明細書【0119】に「外筒の表面上に存在する粒子のレベルを測定するために、・・・溶液中に放出された粒子のレベルが測定される」との記載があり、この記載における「外筒の表面上に存在する粒子のレベルを測定する」ことと「溶液中に放出された粒子のレベルが測定される」こととの関係について検討する。
明細書【0097】の「医薬組成物6に放出され、溶液中にこのように存在しているシリコーン粒子A(例えば液滴)」、【0154】の「粒子の画像化によって、この装置の利点は、気泡とシリコーンオイル液滴との両者の差を明確にできることである。」等の記載からみて、上記「溶液中に放出された粒子のレベルが測定される」における「放出された粒子」とは、溶液中に放出されたシリコーンオイル液滴の粒子である。
ここで、シリコーンオイルは、もともと注射器外筒の内表面においてプラズマ処理されたシリコーンオイルの層として存在していたのであるから、放出されたシリコーンオイル液滴の粒子とは、シリコーンオイルの層中で一部のシリコーンオイルが粒子化し、その後、シリコーンオイルの層の表面から離脱し、溶液中に放出されたものといえる。
このような粒子放出の機序を踏まえると、シリコーンオイルの層中で生じた「コーティングの表面に存在する粒子」の数が増えれば、その後、コーティングの表面から離脱し放出される粒子の数も確率的に多くなるであろうことは当然に予測できることであるから、当業者であれば、上記の「外筒の表面上に存在する粒子のレベル」と「溶液中に放出された粒子のレベル」とに所定の相関関係があるものと普通に認識できるところである。
そうすると、明細書に、「コーティングの表面に存在する粒子の数」自体を直接測定する点の記載はないものの、「溶液中に放出された粒子のレベルが測定され」た図4及び図5の結果に基づいて、「コーティングの表面に存在する粒子の数」の増減も間接的に把握できるといえるのであるから、明細書には、プラズマ処理に伴う「コーティングの表面に存在する粒子の数」の増減を測定する事項が実質的に記載されているものといえる。

(3)「医薬組成物の溶液」を用いた測定について
本件明細書には、医薬組成物の溶液を用いてシリコーンオイル液滴の粒子の数を測定する点については、明記がない。
しかしながら、上記(2)で示したように、シリコーンオイル液滴の粒子の数がプラズマ処理の継続時間に専ら依存すること、また、測定用溶液の主成分である生理食塩水は、注射の際、医薬組成物の調製のために普通に使用される溶液であることを踏まえると、医薬組成物の溶液中に放出されるシリコーンオイル液滴につき、その放出量が増減する傾向を、測定用溶液中への放出量を示す測定結果(図4、図5)をもって推測する点に、技術的に不自然なところは見当たらない。
また、明細書【0097】の「薬液6中に存在し、医薬組成物6とシリコーン粒子Aの相互作用によって形成された、凝集又は変性した薬剤(Bと呼ぶ)」の記載及び図1の図示内容からみて、本件訂正発明1の「コーティングの表面に存在する粒子」、「医薬組成物の溶液中に放出される粒子」には、シリコーン粒子Aとの相互作用によって形成された、凝集又は変性した薬剤粒子Bも含まれるが、本件明細書には、このような薬剤粒子Bの数を測定する点についても、明記がない。
しかしながら、上記(2)で示したように、図4及び図5の測定結果によれば、プラズマ処理により、シリコーンオイルの層の表面に生じるシリコーンオイル液滴の粒子の数が減少し、シリコーンオイルの層の表面から放出されるシリコーンオイル液滴の粒子の数が減少するというのであるから、医薬組成物の溶液を用いた測定を行わずとも、シリコーン粒子Aとの相互作用によって形成される薬剤粒子Bも、シリコーン粒子A自体の減少に伴い同様に減少するものと、当業者であれば認識できるものといえる。

請求人は、この測定用溶液に関し、「さらに、「リン酸緩衝生理食塩水およびポリソルベート80を濾過したものの混合物」等の溶液中の粒子の数に関するデータは、医薬組成物(「環境に対する感受性の高い」バイオテクノロジー医薬、タンパク質、ペプチドワクチン、DNAまたはRNA等)中の粒子の数に関するデータの代用にはなりえない。なぜなら、コーティングとの相互作用および放出された粒子の数が、「医薬組成物」と「医薬組成物ではない溶液」とでは異なり得るからである。」(令和3年1月12日付け回答書第6頁「(5)」欄)と主張するので、以下に検討する。
請求人主張のとおり、コーティングとの相互作用および放出された粒子の数が、「医薬組成物」と「医薬組成物ではない溶液」とでは異なり得るとはいえるが、本件訂正発明1は、コーティングとの相互作用および放出された粒子の数につき、その絶対数を特定するものではなく、その数を「プラズマ処理していないシリコーンオイルで外筒をコーティングした注射装置と比較して」「減少させる」と特定する発明である。
医薬組成物の溶液中に放出されたシリコーンオイルの粒子の数が、測定用溶液中に放出されたシリコーンオイルの粒子の数と比べてどの程度増減するのかについては、不明であったとしても、測定用溶液中に放出されたシリコーンオイルの粒子の数が、「プラズマ処理していないシリコーンオイルで外筒をコーティングした注射装置と比較して」減少するという測定結果(図4、図5)に接した当業者であれば、医薬組成物の溶液中に放出されたシリコーンオイルの粒子の数も、シリコーンオイル層をプラズマ処理に曝した効果により、同様に減少する傾向を示すであろうと推測し得ることは、上記のとおりである。
同様に、上記シリコーン粒子Aとの相互作用によって形成される薬剤粒子Bの数につき、その数自体は不明であったとしても、医薬組成物の溶液中に放出されたシリコーン粒子Aの数が、「プラズマ処理していないシリコーンオイルで外筒をコーティングした注射装置と比較して」減少することが推定できるのであれば、シリコーン粒子Aの数の減少に伴い、シリコーン粒子Aとの相互作用によって形成される薬剤粒子Bの数も同様に、減少するであろうと認識できることも、上記のとおりである。
そうすると、「コーティングとの相互作用および放出された粒子の数が、「医薬組成物」と「医薬組成物ではない溶液」とでは異なり得る」としても、シリコーンオイル層をプラズマ処理することによる粒子数の減少という定性的な効果については、測定用溶液を用いた測定データから当業者が推測し、認識できるところであるから、請求人の上記主張は採用できない。

(4)まとめ
以上のとおり、図4、図5の測定結果は、測定用溶液中に放出されたシリコーンオイル液滴の粒子の数の減少を示すものであるが、この結果から、医薬組成物の溶液を備えた本件訂正発明1においても、シリコーンオイル層をプラズマ処理に曝すと、それにより、プラズマ処理していないシリコーンオイルで外筒をコーティングした注射装置と比較して、コーティングの表面に存在する粒子の数が減少し、あるいは医療用注射装置に入れられた医薬組成物の溶液中に放出される粒子の数が減少するという作用が期待できることは、当業者であれば、明細書及び図面の記載並びに技術常識に基づいて普通に理解できるところである。
また、本件訂正発明1における「(1)外筒の内面をシリコーンオイルの層でコーティング」する事項、「(2)シリコーンオイル層をプラズマ処理に曝」す事項についても、明細書【0172】?【0176】には、その具体的手順がそれぞれ記載されている。
そうすると、明細書の記載及び技術常識に基づいて本件訂正発明1の方法を使用するに当たり、当業者に期待し得る程度を越える過度の試行錯誤が要求されるとまではいえず、明細書の発明の詳細な説明は、本件訂正発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。
同様に、明細書の発明の詳細な説明は、本件訂正発明2、3、5、6、10、13?21を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。
よって、本件訂正発明1?3、5、6、10、13?21についての特許は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してなされたものではなく、無効理由2によっては無効とすることはできない。

2 無効理由3(サポート要件)について
2-1 請求人の主張
請求人は、上記無効理由3のサポート要件違反に関し、その具体的な理由として次のように主張する。なお、サポート要件違反に関する他の無効理由は、令和2年7月17日提出の回答書のとおり撤回された。
「(i)本件発明1?22は、コーティングの表面に存在する子の数又は医療用注射装置に入れられた医薬組成物中に放出された子を減少させる方法に関する発明であって、目的とする2つの技術的効果の内の1つは達成されることが必要とされている。その一つが、プラズマ処理していないシリコーンオイルで外筒をコーティングした注射装置と比較して、コーティングの内表面に存在する粒子の数を減少させることである(構成(g))。
しかし、本件発明1?22、以下の理由により、発明の詳細な説明に記載さた発明の範囲を超えている。
(ii)本件特許明細書の発明の詳細な説明には、医薬組成物が外筒の内表面に接触している際の、被膜の内表面上の粒子の数を減少させる効果については、何ら具本的に記載されておらず、その評価についても当然行われていない。粒子レベルの評価が行われたといえるのは、医薬組成物ではない、リン酸緩衝生理食塩水およびポリソルベート80(Tween80)を濾過したものの混合物である「溶液」中に放出された粒子の数についてのみである。そして、発明の詳細な説明中に記載された粒子の計測技術(光遮蔽法及びマイクロ流イメージング法)、実施例、そして計測データのいずれもが、当該溶液中の粒子の評価についてのものである。
発明の詳細な説明の記載によれば、光遮蔽法用のHIAC装置は、非経口溶液に存在する肉眼では見えない粒子を評価するものであり(段落【0127】)、マイクロ流イメージング(MFI)は、流体中に懸濁した粒子を把握するものである(段落【0144】)から、これらいずれの装置を用いても「被膜の内表面上の粒子の数」を評価することはできない。加えて、発明の詳細な説明のどこにも、被膜の内表面に存在する粒子の数の評価方法については記載も示唆もされていない。以上の通り、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、プラズマ処理していないシリコーンオイルで外筒をコーティングした注射装置と比較して、コーティングの内表面に存在する粒子の数を減少させるという効果(構成(g))について、何ら記載されていないため、発明の詳細な説明に記載された発明の範囲を明らかに超えるものである。そして、被膜の内表面に存在する粒子の数の評価方法が、本件特出願当時の技術常識であったとも言えない。
(iii)従って、本件発明は、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる発明の範囲を超えるものである。
よって、本件発明1?22に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たさない特許出願に対してなされたものである。」(審判請求書第111頁「(ウ)本件発明1?22について(無効理由4-2)」欄)

2-2 判断
明細書における「薬剤中の粒子のレベルに関して薬局方の基準を満たすために、長期間、内部に格納された感受性薬剤との良好な適合性を示し、その上、外筒内の栓が良好に滑るとともに潤滑層が期間に亘り保全性を保つ、医療用注射装置を提供することが必要である。」(【0045】)、「本発明の目的は、コーティングの表面上に存在する粒子の数を制限し、医療用注射装置に入れられた医薬組成物に放出される粒子の数を制限するために、外筒と外筒の中で滑り嵌合する栓から成る医療用注射装置においてコーティングとしてプラズマ処理したシリコーンオイルを用いることである。」(【0046】)等の記載から、本件訂正発明1の課題の一つは、「コーティングの表面上に存在する粒子の数を制限し、医療用注射装置に入れられた医薬組成物に放出される粒子の数を制限する」ことといえる。
ここで、本件訂正発明1において、シリコーンオイル層をプラズマ処理に曝すと、それにより、プラズマ処理していないシリコーンオイルで外筒をコーティングした注射装置と比較して、コーティングの表面に存在する粒子の数が減少し、あるいは医療用注射装置に入れられた医薬組成物の溶液中に放出される粒子の数が減少するという作用が期待できる点について、当業者であれば、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて理解できることは、上記「1-2 判断」において示したとおりである。
そうすると、本件訂正発明1は、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づき、当業者が「コーティングの表面上に存在する粒子の数を制限し、医療用注射装置に入れられた医薬組成物に放出される粒子の数を制限する」という上記の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、発明の詳細な説明に記載した発明である。
同様に、本件訂正発明2、3、5、6、10、13?21も、当業者が当該課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、発明の詳細な説明に記載した発明である。
よって、本件訂正発明1?3、5、6、10、13?21についての特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してなされたものではなく、無効理由3によっては無効とすることはできない。

3 無効理由4(明確性要件)について
3-1 請求人の主張
請求人は、上記無効理由4の明確性要件違反に関し、その具体的な理由として次の無効理由4A?4Cを主張している。なお、明確性要件違反に関する他の無効理由は、令和2年7月17日提出の回答書のとおり撤回された。
(1)無効理由4A
「訂正発明1には、「医薬組成物の溶液」との記載がある。・・・
しかし、この「医薬組成物の溶液」という用語は、本件特許明細書中の明確な定義を欠き、例えば「薬剤を含む流体である(あるいは薬剤が溶解された溶液状態の)医薬組成物」であるとも「医薬組成物が溶解された溶液」であるとも、または、被請求人の主張も考慮すれば、「医薬組成物(薬剤)を溶解するための(薬剤を含まない)溶液」であるとも解釈できる多義的で極めて不明確な用語である。
従って、係る不明確な用語を発明特定事項として含む訂正発明1、及びこれに従属する訂正発明2、3、5、6、10、13?21は、その特許を受けようとする発明が不明確である。」(審判事件弁駁書第37?38頁「3)無効理由5-7について」欄)
(2)無効理由4B
「本件特許の請求項2には、「光遮蔽法により測定した場合・・・粒子である」との記載があるが、当該粒子が如何なるサイズの粒子であるのかについて何ら特定されていない。
・・・
従って、係る粒子のサイズの特定を欠く本件発明2は、特許を受けようとする発明が不明確である。」(審判請求書第113頁「(イ)本件発明2について(無効理由5-2)」欄)
(3)無効理由4C
「本件特許の請求項3には、「マイクロ流イメージング法により測定した場合・・・粒子である」との記載があるが、当該粒子が如何なるサイズの粒子であるのかについて何ら特定されていない。
・・・
従って、係る粒子のサイズの特定を欠く本件発明3は、特許を受けようとする発明が不明確である。」(審判請求書第113?114頁「(ウ)本件発明3について(無効理由5-3)」欄)

3-2 判断
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、明細書等の記載や技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否か(当業者において、明細書等の記載を参酌してその範囲を理解できるか否か)という観点から判断されるべきであるので、同観点から以下に検討する。
(1)無効理由4Aについて
本件訂正発明1の「医薬組成物の溶液」について、その用語の意味を技術常識を踏まえつつ解釈すれば、“医薬を含有する溶液”と解するのが自然であり、かつ、このような解釈は、明細書【0116】における「医薬組成物は、治療又は診断目的で、製薬業界で製造され患者に配達される任意の流体を意味する。」との記載とも整合するところである。
してみると、「医薬組成物の溶液」を請求人のいう「医薬組成物(薬剤)を溶解するための(薬剤を含まない)溶液」と解する余地はなく、本件訂正発明1が不明確であるとはいえない。
また、同様に、「医薬組成物の溶液」に関し、本件訂正発明2、3、5、6、10、13?21が不明確であるとはいえない。

(2)無効理由4B、4Cについて
本件訂正発明2では「Hach LangeによるHIAC光遮蔽装置を用いた光遮蔽法により測定した」と、また、本件訂正発明3では、「Brightwell TechnologiesによるMFIマイクロ流イメージング装置を用いたマイクロ流イメージング法により測定した」と、それぞれ測定方法及び測定装置が特定されているところ、明細書【0123】に「検出および定量すべき粒子のサイズに応じて、さまざまな方法及び機器が使用される。」とあるように、測定すべき粒子サイズに応じて、対応する測定方法及び測定装置が選択されるのであるから、本件訂正発明2、3では、それぞれの測定方法及び測定装置に対応して、測定される粒子のサイズも当然に所定範囲に限定されているものといえる。
そして、明細書には、光遮蔽法では、「測定される粒子サイズの範囲は、2?400μmの間に含まれる」(【0132】)、マイクロ流イメージング法では、「測定した粒子サイズ範囲は、典型的には1?100μmである。」(【0155】)との記載があり、このような記載を参酌すれば、請求項2、3に測定される粒子サイズの具体的な特定がなかったとしても、当業者であればその範囲を理解できるところであるから、本件訂正発明2及び本件訂正発明3が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとまではいえない。

(3)まとめ
以上のとおり、本件訂正発明1?3、5、6、10、13?21は、特許請求の範囲の記載だけではなく、明細書等の記載や技術的常識を基礎として、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である、とはいえない。
よって、本件訂正発明1?3、5、6、10、13?21についての特許は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない特許出願に対してなされたものではなく、無効理由4によっては無効とすることはできない。


第7 当審の判断(無効理由1A?1Cについて)
1 甲各号証の記載
(1)甲第1号証
本件特許の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証(以下「甲1」という。)には、図面とともに次の記載がある。
甲1a:「【0001】
本発明は少なくとも第一の部材と第二の部材とを含んで成る医薬タンパク質調製品を含むための医療製品であって、この2つの部材間の摩擦を低め、且つタンパク質の吸着を抑制するための被膜で被覆された少なくとも一の表層を有する製品に関連する。
【0002】
記載の被膜は液体タンパク質溶液、例えばインスリン製剤の保管及び投与のための容器を被覆するために極めて有用である。
【0003】
背景
タンパク質製剤は通常5mlまでの比較的小さな容器から投与され、そして多くの容器は多重投与のために設計されており、各々の投与は往々にして0.1ml又はそれより少ない程度の量である。
【0004】
ストッパーの付いたかかる容器は、別の部材、例えば容器の壁と接触しているストッパーの如き一の部材の滑らかな滑り運動を、信頼性のある用量を高精度をもって供するため、必要とする。往々にして、部材の表層はある時間接触していた後に運動に対する初期抵抗を展開することが示され、そして運動は所定の適用力(以降、静摩擦力と呼ぶ)がかけられるまで始まらない。この現象は2枚の表層の突発的に迅速な相対運動の原因となる。往々にして、この運動は止まり、そして更なる抵抗が構築される。この種の運動は一般に「滑り-付着」(slip-stick)現象として知られ、そして部材間の接着力の程度により生ずる。被覆された部材により「滑り-付着」現象が生ずるとき、最も往々にしてそれは被膜がずれ、二部材が互いと接触したままとなることに基づく。この「滑り-付着」はそれが不規則且つ不正確な投与量に招くという問題の原因となる。この現象はタンパク質溶液、例えばインスリン製剤の極めて少量の液滴を要する分注装置において極めて問題となる。静摩擦力をかけてから表層が滑り始めるときにもし「滑り-付着」現象が生じないなら、それらの表層はいわゆる動摩擦力の適用により滑らかな速度で滑る。」

甲1b:「【0008】
タンパク質製剤を分注するときに考慮せねばならない点は生物学的材料の総合的な性能に重要な役割を果たすタンパク質溶液と容器材料との間の表面にて生ずる現象である。特に、薬剤が包装材料と保管の間長期間接触していると(これは容器を成形してから直ちにタンパク質製剤をその容器に充填するときに認められる状況である)、この薬剤の安定性及び寿命に影響が及ぼされる。このことの主たる理由はタンパク質が容器の表層に吸着し、そこで不活性化又は変性しうることにある。このようにして、不活性化且つアクセス不能となったタンパク質の層が容器の表層に構築されてしまう。これはタンパク質活性の損失につながり、そして不溶性タンパク質の濃度の低下により不正確な投与量の危険性を高めてしまう。
【0009】
特にインスリンに関し、吸着されたインスリンは脱離することがあり、そして一部の分子は他の失活分子と会合し、そして凝集物を形成しうる。凝集物、例えばフィブリル又はゲル様粒子は変性後の水溶性又は凝集の程度の低さの結果として形成される。インスリンの凝集は自己触媒過程と考えられ、そしてインスリン製剤の総合的な不安定化につながる。このような凝集物が十分に大きくなると、それらは目で見えはじめるようになりうる。容器の表層でのインスリンの吸着を阻止することにより、インスリン分子がそのコンホメーションを変える傾向がなくなる。その結果は薬剤安定性の有意義な改善である。更に、タンパク質の凝集物の存在は患者における許容できない免疫反応へと結びつきうる。」

甲1c:「【0024】
本発明に係る被膜は親水性であるか、又は少なくとも内容物に晒されている被膜の表層部分が親水性となっている。理論に拘束されるわけではないが、このタンパク質分子上の疎水性ドメインがタンパク質の吸着を司り、それ故この被膜の所定の親水性表層は吸着の傾向を抑制する。
【0025】
従って、本発明は被膜により被覆された医療製品に関連し、その被膜はタンパク質吸着、特にインスリン吸着が有意に低下、又は実質的に失われる程度に親水性となっている。本発明の被膜に関し、水接触角による測定に従う親水性は90°未満である。」

甲1d:「【0036】
この被膜は好ましくはケイ素含有被膜、例えばポリ(ジアルキルシロキサン)油又はコポリマーである。好適な態様において、このポリ(ジアルキルシロキサン)はポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)、ポリ(ジプロピルシロキサン)又はポリ(ジヘキシルシロキサン)から選ばれる。
【0037】
油の粘度は部材に適用されるとき、特に滑り-付着現象の排除のために重要である。粘度が高くなるほど、滑り-付着現象の危険性は小さくなる。本発明の一の態様において、この被膜は線形又は枝分れした親水性化ポリ(ジアルキル)シロキサン油を含んで成る。この油の粘度は部材に適用したとき、好ましくは200,000センチストーク超、例えば500,000センチストーク超である。」

甲1e:「【0040】
本発明のより好適な態様において、この被膜は親水性化ポリ(ジアルキルシロキサン)ブロック及びグラフトコポリマーを含んで成る。
【0041】
このポリマーはポリ(ジアルキルシロキサン)、例えばPDMSのポリマーセグメントを含んで成る任意のブロック及びグラフトコポリマーであってよい。このポリマーセグメントは、所望のコポリマーを形成するためにポリスチレン、ポリオレフィン、ポリアミド又はポリウレタンのポリマーセグメントと組合せてよい。このコポリマーは任意の有用な方法、例えば連続アニオン性重合又は異なるグラフティング手順により調製できうる。
【0042】
本発明に係る被膜の親水性は任意の適当な方法により得られうる。本発明の好適な態様において、この被膜は部材に施してから酸化処理、例えばプラズマ処理又はコロナ処理にかける。」

甲1f:「【0047】
被膜の厚みは特定の被膜に依存し、そして好ましくは0.005?10μm、より好ましくは0.01?1μmである。最適な厚みは部材の寸法及び形状に依存し、そしてそれは当業者により容易に決定できる。被膜が薄すぎると、被膜は使用中に破れ、2つの部材間の摩擦が高まる。被膜の厚みが所定のプラトー値に達すると、摩擦力はその厚みが更に上昇してもほぼ一定となる。任意の被膜組成物に関し、この被膜は価格を抑えるために可能な限り薄くするのが好ましい。この薄膜は好ましくは0.005?0.4μm、例えば0.015?0.25μm、より好ましくは約0.2μmとする。
・・・
【0049】
この第一部材は好ましくは容器、例えばガラス、セラミック、金属、及び好ましくはプラスチックから選ばれる材料から成るカートリッジである。・・・」

甲1g:「【0052】
本発明に係る医療製品は好ましくは図1A及び図1Bに示す容器1及びストッパー4である。それはシリンダー壁2と、そのシリンダー壁2の内面上の被膜3を含んで成る。
【0053】
図1において、ストッパー4はゴムの先端5が注射シリンダー1の中に挿入されて示す。ストッパーの直径Dは十分な液密滑り結合が得られるよう注射シリンダーの内径よりも若干大きい。
【0054】
この医療製品は好ましくは液体タンパク質製剤の漏れを回避するため、特にストッパーと容器壁との間での漏れがないように構築する。これは特に製剤の保管及び投与(注射)のための容器が遭遇する問題であり、なぜならこの容器は製剤で満たされ、そして使用するまで長期間保管されるからである。従って、容器の壁に対するストッパーの圧力を漏れに耐えるために調整する。
【0055】
この被膜は任意の組合せの部材の双方に、又は上記の表層の一方のみに適用してよい。また、本発明に係る被膜を一の表層に適用し、そして他の表層は未処理、即ち、親水性化していない線形又は枝分れしたシリコーン油で被覆してよい。好ましくは、少なくともタンパク質と接触している最大の表面積を有する部材を本発明に従って被覆する。
【0056】
好ましくは、この被膜はタンパク質溶液の不安定化の危険性を低めるため、タンパク質溶液と接触する実質的に全ての表層に適用する。・・・」

続いて、上記の各記載について検討する。
ア)「医療製品は好ましくは図1A及び図1Bに示す容器1及びストッパー4である。それはシリンダー壁2と、そのシリンダー壁2の内面上の被膜3を含んで成る。」(【0052】)、「図1において、ストッパー4はゴムの先端5が注射シリンダー1の中に挿入されて示す。ストッパーの直径Dは十分な液密滑り結合が得られるよう注射シリンダーの内径よりも若干大きい。」(【0053】)の各記載から、医療製品は、注射シリンダー1のシリンダー壁2の内面、注射シリンダー1に滑り結合するストッパー4を備えているものといえる。
また、【0055】の「本発明に係る被膜を一の表層に適用し、・・・好ましくは、少なくともタンパク質と接触している最大の表面積を有する部材を本発明に従って被覆する。」の記載を併せみると、上記「内面」は、皮膜3により被覆された内面といえる。
イ)「この医療製品は好ましくは液体タンパク質製剤の漏れを回避するため、特にストッパーと容器壁との間での漏れがないように構築する。・・・この容器は製剤で満たされ、そして使用するまで長期間保管されるからである。」(【0054】)の記載によれば、医療製品の容器は、液体タンパク質製剤で満たされるのであるから、医療製品は、液体タンパク質製剤も備えているといえ、加えて、【0056】の「この被膜はタンパク質溶液の不安定化の危険性を低めるため、タンパク質溶液と接触する実質的に全ての表層に適用する。」の記載も併せみると、液体タンパク質製剤は、注射シリンダー1のシリンダー壁2の内面と接触しているものといえる。
ウ)上記ア)、イ)より、甲1には、医療装置が記載されており、該医療装置は、皮膜3により被覆された内面、注射シリンダー1に滑り結合するストッパー4、注射シリンダー1のシリンダー壁2の内面、注射シリンダー1のシリンダー壁2の内面と接触している液体タンパク質製剤を備えるものである。
エ)上記ア)のとおり、注射シリンダー1のシリンダー壁2の内面は皮膜3により被覆されているところ、【0042】の「本発明に係る被膜の親水性は任意の適当な方法により得られうる。本発明の好適な態様において、この被膜は部材に施してから酸化処理、例えばプラズマ処理又はコロナ処理にかける。」の記載によれば、皮膜3はいくつかの工程を経て形成されるところ、その皮膜3を形成する工程とは、(1)注射シリンダー1のシリンダー壁2の内面を皮膜3で被覆することと、(2)皮膜3をプラズマ処理すること、であるといえる。
また、上記イ)のとおり、医療製品の注射シリンダー1は、液体タンパク質製剤で満たされるところ、皮膜3を形成する上記の工程が、医療製品の注射シリンダー1に液体タンパク質製剤を満たす前に行われることは技術的に明らかである。
オ)「この被膜は好ましくはケイ素含有被膜、例えばポリ(ジアルキルシロキサン)油又はコポリマーである。好適な態様において、このポリ(ジアルキルシロキサン)はポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)、ポリ(ジプロピルシロキサン)又はポリ(ジヘキシルシロキサン)から選ばれる。」(【0036】)、「この油の粘度は部材に適用したとき、好ましくは200,000センチストーク超、例えば500,000センチストーク超である。」(【0037】)の各記載から、上記エ)の「(1)」の皮膜3は、ポリ(ジアルキルシロキサン)油の皮膜3であって、該油が、200,000センチストーク超の粘度を有するポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)を含むものといえる。
カ)【0001】の「タンパク質の吸着を抑制するための被膜で被覆された少なくとも一の表層を有する製品」、【0024】の「本発明に係る被膜は親水性であるか、又は少なくとも内容物に晒されている被膜の表層部分が親水性となっている。理論に拘束されるわけではないが、このタンパク質分子上の疎水性ドメインがタンパク質の吸着を司り、それ故この被膜の所定の親水性表層は吸着の傾向を抑制する。」、【0042】の「本発明に係る被膜の親水性は任意の適当な方法により得られうる。本発明の好適な態様において、この被膜は部材に施してから酸化処理、例えばプラズマ処理又はコロナ処理にかける。」の記載を併せみれば、プラズマ処理は、皮膜3の親水性を得るために行われ、その結果、タンパク質の吸着が抑制されることが分かる。
そうすると、上記ウ)の「(2)」の皮膜3をプラズマ処理することとは、より具体的には、皮膜3をプラズマ処理し、それにより、プラズマ処理していない被膜3で注射シリンダー1のシリンダー壁2を被覆した医療装置と比較して、皮膜3の表層へのタンパク質の吸着を抑制することといえる。
キ)上記ア)の「医療装置」は、上記エ)の「皮膜3を形成する工程」を経て、上記カ)に示したように「プラズマ処理していない被膜3で注射シリンダー1のシリンダー壁2を被覆した医療装置と比較して、皮膜3の表層へのタンパク質の吸着を抑制する」のであるから、甲1には、上記エ)の「皮膜3を形成する工程」を具備した方法として、医療装置の皮膜3の表層へのタンパク質の吸着を抑制する方法が実質的に開示されているものといえる。

以上によれば、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「医療装置の皮膜3の表層へのタンパク質の吸着を抑制する方法であって、該医療装置は、皮膜3により被覆された内面、注射シリンダー1に滑り結合するストッパー4、注射シリンダー1のシリンダー壁2の内面と接触している液体タンパク質製剤を備えており、当該方法は、医療製品の注射シリンダー1に液体タンパク質製剤を満たす前に、皮膜3を形成する以下の工程を具備している。
(1)注射シリンダー1のシリンダー壁2の内面をポリ(ジアルキルシロキサン)油の皮膜3で被覆し、ポリ(ジアルキルシロキサン)油は、200,000センチストーク超の粘度を有するポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)を含むことと、
(2)皮膜3をプラズマ処理し、それにより、プラズマ処理していない被膜3で注射シリンダー1のシリンダー壁2を被覆した医療装置と比較して、皮膜3の表層へのタンパク質の吸着を抑制すること。」

(2)甲第2号証
本件特許の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証(以下「甲2」という。)には、図面とともに次の記載がある。
甲2a:特許請求の範囲第1、2、7、10、11項
「(1)シリコーン油を表面へ塗布し、この表面とその上のシリコーン油とをイオン化プラズマで処理することから成る、別の面と滑動的に接合させる面の静止摩擦力および運動摩擦力を減らす方法。
(2)上記面の成分がガラス、金属、セラミツク、プラスチツク、天然ゴム、および合成ゴムから成る面成分の群から選ばれる、特許請求の範囲第1項に記載の方法。
・・・
(7)上記のプラズマが高周波放電を使用して発生される、特許請求の範囲第1項に記載の方法。
・・・
(10)注射器筒の壁へポリジメチルシロキサン潤滑剤を塗布し、潤滑剤を壁面上にもつ上記注射器筒をイオン化プラズマにさらすことから成る、注射器筒の内側における滑動性表面の静止摩擦力および運動摩擦力を減らす方法。
(11)さらに、上記潤滑剤を注射器ストツパーへ塗布し、この潤滑剤塗布ストツパーを上記のイオン化プラズマにさらすことから成る、特許請求の範囲第10項に記載の方法。」

甲2b:第3頁左上欄第6行?右上欄第2行
「(従来技術)
ブレイクアウト克服への従来の試みは面と面の界面への潤滑剤の塗布であつた。使用する普通の潤滑剤は鉱油、ピーナツツ油、植物油などのような炭化水素油である。そのような製品は医薬を小出しするのに普通に用いられるベヒクルのような各種の流体中に可溶であるという欠点をもつている。その上、これらの潤滑剤は空気酸化にさらされ、粘度変化と好ましからぬ変色をもたらす。その上、それらは面対面の界面からの移行が特におこり易い。そのような潤滑剤移行は一般的にはパーキング時間とともにブレイクアウト力が増加することに起因すると考えられる。
シリコーン油もまた潤滑剤として普通に用いられる。シリコーン油は溶剤性が小さく、酸化を受けないが、移行と粘着は実際におこり、そして、高ブレイクアウト力が問題である。」

甲2c:第3頁左下欄第17行?右下欄第16行
「本発明の方法によると、ブレイクアウトに達するのに要する力が大いに低減され、それによって静止接触状態から滑動接触状態への面の移動を急激な力の変化を伴うことなくおこすことができる。さらに、ブレイクアウトが完了し面が滑動接触状態になると、面はきわめて小さい持続力の適用によつて滑かに滑動する。従つて、実質的により少ない潤滑剤ですみ、潤滑剤の移行を無くすることができる。・・・このように、本発明の方法に従つて処理した注射器は、患者へ医薬を投与量の大巾なバラツキの危険を伴うことなしに投与するのに使用でき、それによつて投与量の正確な制御と大いに増大した患者の安全性とが実現される。」

甲2d:第4頁左上欄第20行?左下欄第4行
「潤滑剤は、2つの面が接触状態にあるときに潤滑剤がそれらの面の界面に位置するように、それらの面の少くとも一つへ塗布される。適当である潤滑剤は植物油、ピーナツツ油、鉱油などのような炭化水素油、あるいは好ましくは、シリコーンのような合成油である。・・・最も好ましい種類の潤滑剤は一般式I:

のポリジアルキルシロキサンであり、・・・式Iの構造の好ましい潤滑剤は約10-100,000、好ましくは約50-1000センチストークスの粘度をもつ。
潤滑剤皮膜の滑動面への塗布は任意の適当な方法、例えば、浸漬、刷毛塗り、スプレーなどによつて達成してよい。・・・」

甲2e:第5頁左上欄第19行?右上欄第12行
「まだ確証されたわけではないが、プラズマ処理はシリコーン油中で架橋結合を誘起し、それによって潤滑剤が高分子量の三次元的ポリマー網目構造体へ転化されるものと信じられる。さらに、きわめて反応性の化学種、おそらく遊離基、がシリコーンポリマー網目構造体の中及び該ポリマーの塗布されている表面に形成され、それらが一緒に反応して潤滑剤と表面との間で或る程度の化学的結合を生ずると信じられる。結合のほかに、プラズマ処理は潤滑剤分子の一部分、おそらく非架橋端、をプラズマ処理によって表面上に発生した孔中へ入るよう誘導し、それによって潤滑剤皮膜の安定性と移行に対する抵抗性が増強されると仮定される。」

続いて、上記の各記載について検討する。
ア)摘記事項甲2cに「注射器は、患者へ医薬を投与量の大巾なバラツキの危険を伴うことなしに投与するのに使用でき」の記載が、摘記事項甲2aに「注射器筒の壁へポリジメチルシロキサン潤滑剤を塗布し、潤滑剤を壁面上にもつ上記注射筒」、「注射器ストツパー」の各記載があり、注射器が注射器筒と注射器ストツパーを備えること、注射器ストツパーが注射器筒に滑り嵌合すること、医薬が注射器筒の壁面と接触していることは、いずれも技術常識であることを考慮すれば、当該注射器は、潤滑剤が塗布された注射器筒の壁面、注射器筒に滑り嵌合する注射器ストツパー、注射器筒の壁面と接触している医薬を備えているものといえる。
イ)上記ア)のとおり、注射器筒の壁面は潤滑剤が塗布されるところ、摘記事項甲2dの「潤滑剤皮膜の滑動面への塗布は任意の適当な方法、例えば、浸漬、刷毛塗り、スプレーなどによつて達成してよい。」の記載によれば、潤滑剤の塗布により、注射器筒の壁面には、潤滑剤が膜状となった潤滑剤皮膜が形成されるものといえる。
そこで、摘記事項甲2aの「注射器筒の壁へポリジメチルシロキサン潤滑剤を塗布し、潤滑剤を壁面上にもつ上記注射器筒をイオン化プラズマにさらすことから成る」の記載を併せみると、上記の潤滑剤皮膜はいくつかの工程を経て形成されるところ、その潤滑性皮膜を形成する工程とは、(1)注射器筒の壁面を潤滑剤で塗布することと、(2)塗布された潤滑剤をイオン化プラズマにさらすこと、であるといえる。
また、上記ア)のとおり、注射器は、医薬を備えるところ、潤滑性皮膜を形成する上記の工程が、注射器に医薬を充填する前に行われることも技術的に明らかである。
ウ)摘記事項甲2aの「ポリジメチルシロキサン潤滑剤」、摘記事項甲2dの「潤滑剤は、・・・シリコーンのような合成油である。・・・式Iの構造の好ましい潤滑剤は約10-100,000、好ましくは約50-1000センチストークスの粘度をもつ。」の各記載から、上記イ)の「(1)」の潤滑剤は、シリコーン油の潤滑剤であって、該油が、約10-100,000センチストークスの粘度を有するポリジメチルシロキサンを含むものといえる。
エ)摘記事項甲2aの「・・・注射器筒の内側における滑動性表面の静止摩擦力および運動摩擦力を減らす方法。」、摘記事項甲2cの「本発明の方法によると、ブレイクアウトに達するのに要する力が大いに低減され、・・・さらに、ブレイクアウトが完了し面が滑動接触状態になると、面はきわめて小さい持続力の適用によって滑かに滑動する。従つて、実質的により少ない潤滑剤ですみ、潤滑剤の移行を無くすることができる。」の各記載から、甲2には、上記イ)の「潤滑性皮膜を形成する工程」を具備した方法として、注射器の潤滑剤の移行を無くす方法も実質的に開示されているものといえる。
加えて、摘記事項甲2eの「プラズマ処理は潤滑剤分子の一部分、おそらく非架橋端、をプラズマ処理によって表面上に発生した孔中へ入るよう誘導し、それによって潤滑剤皮膜の安定性と移行に対する抵抗性が増強されると仮定される。」の記載も併せみれば、上記イ)の「(2)」の塗布された潤滑剤をイオン化プラズマにさらすこととは、より具体的には、塗布された潤滑剤をイオン化プラズマにさらし、それにより、潤滑剤の移行をなくすことといえる。

以上によれば、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
「注射器の潤滑剤の移行を無くす方法であって、該注射器は、潤滑剤が塗布された注射器筒の壁面、注射器筒に滑り嵌合する注射器ストツパー、注射器筒の壁面と接触している医薬を備えており、当該方法は、該注射器に医薬を充填する前に、潤滑剤皮膜を形成する以下の工程を具備している。
(1)注射器筒の壁面をシリコーン油の潤滑剤で塗布し、シリコーン油が約10-100,000センチストークスの粘度を有するポリジメチルシロキサンを含むことと、
(2)塗布された潤滑剤をイオン化プラズマにさらし、それにより、潤滑剤の移行をなくすこと。」

(3)甲第3号証
本件特許の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第3号証(以下「甲3」という。)には、図面とともに次の記載がある。なお、括弧内に付記した邦訳は、甲3添付の抄訳を主に援用しつつ、当審で作成した。
甲3a:第1欄第59行?第2欄第9行(空行も行数にカウントする。)
「In order to minimize the friction between two surfaces, a lubricant can be applied which reduces the force required to initiate and maintain sliding movement. However, when two lubricated surfaces remain in contact for prolonged periods of time, the lubricant has a tendency to migrate out from the area of contact due to the squeezing force between the two surfaces. This effect tends to increase as the squeezing force increases. As more of the lubricant migrates from between the two surfaces, the force required to initiate movement between the surfaces can revert to that of the non-lubricated surfaces, and stiction can occur.・・・」
(2つの表面間の摩擦を最小化するために、両表面が滑り出す際に必要な力を減少させ、滑り出した後の滑り性を維持する様に潤滑剤が塗布される。しかしながら、長期間に渡り潤滑剤が塗布された2つの表面が接触していると、2つの表面間での押し潰される力により潤滑剤が接触表面から移動する。この現象は、2つの表面間での押し潰される力が増大するほど発生しやすくなる。潤滑剤が2つの表面間から移動することにより、両表面が滑り出す際に必要な力が潤滑剤を塗布してない場合の2つの表面間における力に戻ってしまい、両表面間の固着が生じる。・・・)

甲3b:第3欄第63?64行
「Parking. Syringes used in medical applications are often pre-filled prior to use and stored. ・・・」
(パーキング:注射器は、医療現場において、しばしば使用前に薬剤が充填され、保存される。・・・)

甲3c:第5欄第51?55行
「A method according to the present invention for reducing the migration of lubricant from between surfaces in contact with one another comprises applying a lubricant to one or more of the surfaces, then treating the lubricant-coated surface by exposing it to an energy source. ・・・」
(互いに接触する表面間の潤滑剤の移動を低減させるための本発明の方法は、潤滑剤を1または2以上の表面に塗布した後、潤滑剤で被覆された表面をエネルギー源照射により処理することからなる。・・・)

甲3d:第6欄第33?56行
「In still another embodiment of the invention, the polysiloxane-based compound is a silicone oil with a dimethlypolysiloxane chemical formulation of the following general chemical structure:

・・・ Generally, the usable viscosity range of silicone oils is about 5-100,000 centistokes.」
(本発明の他の実施態様において、ポリシロキサン系化合物は、以下の一般化学構造で示されるジメチルポリシロキサン化学組成を有するシリコーンオイルである:
・・・通常、シリコーンオイルの使用可能な粘度範囲は、約5?100,000センチストークスである。)

甲3e:第7欄第44?57行
「In one embodiment of the invention, the energy source is an ionizing gas plasma. The gas may be a noble gas including, for example, helium, neon, argon, and krypton. Alternatively, the gas may be an oxidiative gas including, for example, air, oxygen, carbon dioxide, carbon monoxide, and water vapor. In yet another alternative, the gas may be a non-oxidative gas including, for example, nitrogen and hydrogen. Mixtures of any of these gases may also be used.
The exact parameters under which the ionizing gas plasma are generated are not critical to the methods of the invention. These parameters are selected based on factors including, for example, the gas in which the plasma is to be generated, the electrode geometry, radio frequency of the power source, and the dimensions of the surface to be treated.・・・」
(本発明の一態様において、エネルギー源はイオン化ガスプラズマである。ガスとしては、例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴンおよびクリプトン等の希ガスが挙げられる。さらに、ガスとしては、例えば、空気、酸素、二酸化炭素、一酸化炭素および水蒸気等の酸化ガスが挙げられる。さらに別の態様において、ガスとしては、例えば、窒素および水素等の非酸化ガスが挙げられる。これらのガスの2種以上の混合物を使用してもよい。
イオン化ガスプラズマを発生させるための厳密なパラメーターは、本発明の方法にとって決定的に重要な意味を持つものではない。これらのパラメーターは、例えば、プラズマを発生させるためのガス、電極の形状、電源の高周波数、および処理される表面の面積等を含む諸要素に基づいて選択される。)

甲3f:第11欄第31?34行
「・・・The data strongly indicate that the lubricant was immobilized by the plasma treatment and did not migrate out from the plunger-barrel interface, even after extended parking times.・・・」
(・・・この結果より、プラズマ処理を行うことによって潤滑剤は固定され、パーキング時間が長くなった後においても、注射筒とプランジャとの界面における潤滑剤の移動が防止されることは明白である。・・・)

甲3g:第11欄第44?62行
「EXAMPLE 6
Commercially available syringe barrels pre-lubricated with silicone oil were exposed to an argon ionizing plasma at about atmospheric pressure as described in Example 1. The argon gas flow rate was 5 cfm and the exposure times were 20 and 40 seconds. These syringe barrels were tested identically as described in the previous examples at an infusion rate of 3 cc/min. The resulting data are shown in FIG. 7. These data clearly show that stick-slip chatter is inherent in some commercially available syringes pre-lubricated with silicone oil and that ionizing plasma treatment at about atmospheric pressure dramatically reduced break-out forces and eliminated stick-slip chatter. The syringe barrel that was pre-lubricated but not plasma treated required a force of about 4.5 pounds to achieve break-out and exhibited repeated chatter. The syringe barrels that were pre-lubricated and plasma treated required a force of about 1.5 to 2 pounds to achieve break-out and exhibited no discernible chatter.」
(実施例6
潤滑剤としてシリコーンオイルを予め塗布してある市販の注射筒を、実施例1と同様の操作で、ほぼ大気圧下でアルゴンイオン化プラズマに照射した。アルゴンガスの流量は5cfmで、照射時間は20および40秒とした。これらの注射について、3cc/分のインヒュージョン速度で前述の実施例に記載されたものと同じ試験を行った。試験結果を図7に示す。測定データより明らかな通り、シリコーンオイルを塗布しただけの市販の注射筒のいくつかは、静止一滑りチャターを本質的に有するが、ほぼ大気圧下でのイオン化プラズマ処理は、プレイクアウトカを劇的に低減させ、静止ー滑りチャターを取り除いた。潤滑剤処理されただけでプラズマ処理を行っていない注射では、ブレイクアウトに約4.5ポンドの負荷力を必要とし、チャターを繰り返した。潤滑剤処理およびプラズマ処理を行った往射では、ブレイクアウトに必要な負荷カは約1.5?2ポンドであり、チャターは認められなかった。)

甲3h:第14欄第8?9行
「Glass syringes (size 1 cc), which are typically used in pre-filled syringes, were tested in this example. ・・・」
(プレフィルドシリンジにおいて典型的に使用されるガラス製注射器(容量1cc)を本実施例において試験した。)

甲3i:第14欄第38行?第15欄第2行
「We claim:
1. An article having reduced break-out force and reduced sliding frictional force comprising one or more surfaces and a lubricant applied to at least one of the surfaces, the lubricant including a polysiloxane-based compound, the lubricant-coated surface subsequently exposed to an energy source at about atmospheric pressure, wherein the energy source is an ionizing gas plasma at about atmospheric pressure.
・・・
7. The article of claim 1, wherein the article is a syringe barrel, the syringe barrel including an inner surface coated with the polysiloxane-based compound and exposed to the ionizing gas plasma at about atmospheric pressure after being coated with the polysiloxane-based compound.」
(特許請求の範囲
1.ブレイクアウト力および滑り摩擦力が低滅されている物品であって、当該物品は1つ以上の表面と、少なくとも1つの当該表面に塗布された潤滑剤とを含み、当該潤滑剤がポリシロキサン系化合物を含有し、次いで当該潤滑剤で被覆された表面が、ほぼ大気圧下でエネルギー源に照射されており、ここで当該エネルギー源は、ほぼ大気圧下でのイオン化ガスプラズマであることを特徴とする物品。
・・・
7.物品が注射筒であって、当該注射筒が、ポリシロキサン系化合物により被覆されており、そしてポリシロキサン系化合物による被覆後に、ほぼ大気圧下でのイオン化ガスプラズマに照射されている内表面を有するものである、請求項1に記載の物品。)

続いて、上記の各記載について検討する。
ア)摘記事項甲3bに「注射器は、医療現場において、しばしば使用前に薬剤が充填され、保存される。」の記載、摘記事項甲3iに「物品は1つ以上の表面と、少なくとも1つの当該表面に塗布された潤滑剤とを含み、当該潤滑剤がポリシロキサン系化合物を含有し、次いで当該潤滑剤で被覆された表面が、ほぼ大気圧下でエネルギー源に照射され」、「物品が注射筒であって、当該注射筒が、・・・内表面を有する」の記載、摘記事項甲3fに「注射筒とプランジャとの界面における潤滑剤」の各記載があり、注射器が注射筒とプランジャを備えること、プランジャが注射筒に滑り嵌合すること、薬剤が注射筒の内表面と接触していることは、いずれも技術常識であることを考慮すれば、当該注射器は、潤滑剤で被覆された注射筒の内表面、注射筒に滑り嵌合するプランジャ、注射筒の内表面と接触している薬剤を備えているものといえる。
イ)上記ア)の検討を踏まえると、摘記事項甲3cの「互いに接触する表面間の潤滑剤の移動を低減させるための本発明の方法」における「互いに接触する表面」には、注射筒とプランジャが「互いに接触する表面」を含むことから、甲3には、注射器の互いに接触する表面間の潤滑剤の移動を低減させる方法が記載されているといえる。
ウ)摘記事項甲3cの「本発明の方法は、潤滑剤を1または2以上の表面に塗布した後、潤滑剤で被覆された表面をエネルギー源照射により処理することからなる。」、摘記事項甲3iの「物品が注射筒であって、当該注射筒が、ポリシロキサン系化合物により被覆されており、そしてポリシロキサン系化合物による被覆後に、ほぼ大気圧下でのイオン化ガスプラズマに照射されている内表面を有する」の各記載を併せみると、上記のイ)の注射器の互いに接触する表面間の潤滑剤の移動を低減させる方法は、潤滑剤による被覆を形成するための工程として、(1)注射筒の内表面を潤滑剤で塗布すること、(2)塗布された潤滑剤をイオン化ガスプラズマで照射すること、を具備するものといえる。
また、上記ア)のとおり、注射器は、薬剤を備えるところ、潤滑剤による被覆を形成するための上記工程が、注射器に薬剤を充填する前に行われることも技術的に明らかである。
エ)摘記事項甲3cの「ポリシロキサン系化合物は、以下の一般化学構造で示されるジメチルポリシロキサン化学組成を有するシリコーンオイルである:・・・通常、シリコーンオイルの使用可能な粘度範囲は、約5?100,000センチストークスである。」、摘記事項甲3iの「潤滑剤がポリシロキサン系化合物を含有し」の記載から、上記ウ)の「(1)」の潤滑剤は、シリコーンオイルの潤滑剤であって、該オイルが、約5?100,000センチストークスの粘度を有するジメチルポリシロキサンを含むことが分かる。
オ)摘記事項甲3fの「プラズマ処理を行うことによって潤滑剤は固定され、パーキング時間が長くなった後においても、注射筒とプランジャとの界面における潤滑剤の移動が防止されることは明白である。」、摘記事項甲3gの「ほぼ大気圧下でのイオン化プラズマ処理は、プレイクアウト力を劇的に低減させ、静止ー滑りチャターを取り除いた。」の各記載によれば、上記イ)の「注射器の互いに接触する表面間の潤滑剤の移動を低減させる方法」における上記ウ)の「(2)」の塗布された潤滑剤をプラズマにさらすこととは、より具体的には、塗布された潤滑剤をイオン化ガスプラズマで照射し、それにより、注射器の互いに接触する表面間の潤滑剤の移動を低減させることといえる。

以上によれば、甲3には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている。
「注射器の互いに接触する表面間の潤滑剤の移動を低減させる方法であって、該注射器は、潤滑剤で被覆された注射筒の内表面、注射筒に滑り嵌合するプランジャ、注射筒の内表面と接触している薬剤を備えており、当該方法は、該注射器に薬剤を充填する前に、潤滑剤による被覆を形成する以下の工程を具備している。
(1)注射筒の内表面をシリコーンオイルの潤滑剤で塗布し、シリコーンオイルが、約5?100,000センチストークスの粘度を有するジメチルポリシロキサンを含むことと、
(2)塗布された潤滑剤をイオン化ガスプラズマで照射し、それにより、注射器の互いに接触する表面間の潤滑剤の移動を低減させること。」

(4)甲第4号証
本件特許の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第4号証(以下「甲4」という。)には、図面とともに次の記載がある。なお、括弧内に付記した邦訳は、甲4添付の抄訳文を主に援用した。
甲4a:第3頁第2?3行
「Particulate matter in injections and parenteral infusions consists of mobile undissolved particles, other than gas bubbles, unintentionally present in the solutions.」
(注射剤および輸液中の粒子状物質とは、これら溶液中に意図することなく混入した、気泡ではない容易に動く不溶性微粒子である。)

甲4b:第3頁第4?13行
「For the determination of particulate matter, two procedures, Method 1 (Light Obscuration Particle Count Test) and Method 2 (Microscopic Particle Count Test), are specified hereinafter. When examining injections and parenteral infusions for sub-visible particles Method 1 is preferably applied. However, it may be necessary to test some preparations by the light obscuration particle count test followed by the microscopic particle count test to reach a conclusion on conformance to the requirements.
Not all parenteral preparations can be examined for sub-visible particles by one or both of these methods. When Method 1 is not applicable, e.g. in case of preparations having reduced clarity or increased viscosity, the test should be carried out according to Method 2. Emulsions, colloids, and liposomal preparations are examples.」
(不溶性微粒子を測定する方法には、第1法(光遮蔽粒子計数法)および第2法(顕微鏡粒子計数法)の2種類があり、以下に詳述する。注射剤および輸液中の肉眼では見えない粒子を試験する場合には、第1法での試験を優先する。しかし、ある種の製剤は、基準に適合していると結論付けるために、まず光遮蔽粒子計数法で試験し、次いで頭微鏡粒子計数法で試験することが必要な場合がある。
すべての非経口製剤中の肉眼で見えない粒子を、一方の方法又は両法で試験できるとは限らない。例えば、透明性が低いか、または粘性の高い製剤にあっては、第1法で試験できない場合には、第2法で試験するべきである。例えば、乳剤、コロイド、リポソーム製剤がそのような製剤として挙げられる。)

甲4c:第5頁第15?16行
「・・・count the number of particles equal to or greater than 10 μm and 25 μm.・・・」
(・・・10μm以上および25μmの微粒子の数を計測する。・・・)

甲4d:第5頁第25行?第6頁第10行
「If the average number of particles exceeds the limits, test the preparation by the Microscopic Particle Count Test.
Test 1.A - Solutions for parenteral infusion or solutions for injection supplied in containers with a nominal content of more than 100 mL.
The preparation complies with the test if the average number of particles present in the units tested does not exceed 25 per mL equal to or greater than 10 μm and does not exceed 3 per mL equal to or greater than 25 μm.
Test 1.B - Solutions for parenteral infusion or solutions for injection supplied in containers with a nominal content of less than 100 mL.
The preparation complies with the test if the average number of particles present in the units tested does not exceed 6000 per container equal to or greater than 10 μm and does not exceed 600 per container equal to or greater than 25 μm.」
(平均粒子数が規格値を超えたときは,顕微鏡粒子計数法により製剤を試験する。
試験1.A:表示量が100mLを超える容器に充填された輸液または注射液の場合
試験ユニットに存在する平均粒子数が、1mL当たり10μm以上のものが25個以下であり、かつmL当たり25μm以上のものが3個以下である場合に、製剤は試験に適合する。
試験1.B:表示量が100mL未満の容器に充填された輸液または注射液の場合
試験ユニットに存在する平均粒子数が、容器当たり10μm以上のものが6000個以下であり、かつ容器当たり25μm以上のものが600個以下である場合に、製剤は試験に適合する。)

甲4e:第8頁第21?22行
「count the number of particles that are equal to or greater than 10 μm and the number of particles that are equal to or greater than 25 μm.・・・」
(10μm以上の微粒子の数および25μmの微粒子の数を計測する。・・・)

甲4f:第9頁第16?25行
「Test 2.A - Solutions for parenteral infusion or solutions for injection supplied in containers with a nominal content of more than 100 mL.
The preparation complies with the test if the average number of particles present in the units tested does not exceed 12 per mL equal to or greater than 10 μm and does not exceed 2 per mL equal to or greater than 25 μm.
Test 2.B - Solutions for parenteral infusion or solutions for injection supplied in containers with a nominal content of less than 100 mL
The preparation complies with the test if the average number of particles present in the units tested does not exceed 3000 per container equal to or greater than 10 μm and does not exceed 300 per container equal to or greater than 25 μm. 」
(試験2.A:表示量が100mLを超える容器に充填された輸液または注射液の場合試験ユニットに存在する平均粒子数が、1mL当たり10μm以上のものが12個以下であり、かつ1mL当たり25μm以上のものが2個以下である楊合に、製剤は試験に適合する。
試験2.B:表示量が100mL未満の容器に充填された輸液または注射液の場合
試験ユニットに存在する平均粒子数が、容器当たり10μm以上のものが3000個以下であり、かつ容器当たり250μm以上のものが300個以下である場合に、製剤は試験に適合する。)

(5)甲第5号証
本件特許の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第5号証(以下「甲5」という。)には、図面とともに次の記載がある。なお、括弧内に付記した邦訳は、甲5添付の抄訳文を主に援用した。
甲5a:第202頁右欄第16?19行
「Particulate matter in injections can be harmful when introduced into the bloodstream. The contamination of parenteral fluids and drugs by particulate matter has been recognized as a potential health hazard.・・・」
(注射剤中の不溶性微粒子は、血流中に入った際に有害なものとなり得る。非経口溶液および薬剤の不溶性微粒子による汚染は、健康被害をもたらす可能性のあるものと認識されてきた。・・・)

甲5b:第202頁右欄最下行?第203頁左欄第2行
「・・・Compounding pharmacists are not the only ones facing this issue - even drug manufacturers have struggled with particular matter contamination problems.・・・」
(・・・調剤薬剤師のみが、この課題に直面しているのではない-製薬企業も、不溶性微粒子による汚染問題に取り組んできている。・・・)

甲5c:第203頁左欄第10?11行
「The size of particulate matter is an important factor when consideering the potential risk to patients.・・・」
(不溶性微粒子の大きさが、患者にリスクを及ぼす可能性を考える際に重要な要素である。・・・)

甲5d:第203頁左欄第24?28行
「The United States Pharmacopeia(USP) has established fixed parameters for particulate matter in preparations intended for intravenous use. Particulate matter testing is an official test of the USP and is performed to ensure that unintended and nontherapeutic particulates in solution dosage forms do not exceed established limits.・・・」
(米国薬局方(USP)は、静脈内での使用を目的とする製剤中の不溶性微粒子に対する確定的な規格を設けている。不溶性微粒子試験は、USPが公定した試験であり、溶液製剤中の意図されたものでなく、治療のためのものでもない微粒子が、設定された値を超えないことを確保するために実施される。・・・)

甲5e:第203頁右欄下から第7?下から第5行
「・・・The USP has established guidelines to limit the amount of particulate matter introduced into these preparations and thus into the patient.」
(・・・USPは、これらの製剤中に含まれており、その結果として、患者に取り込まれることとなる不溶性微粒子の量を制限するためのガイドラインを策定している。)

(6)甲第6号証
本件特許の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第6号証(以下「甲6」という。)には、図面とともに次の記載がある。なお、括弧内に付記した邦訳は、甲6添付の抄訳を主に援用しつつ、当審で作成した。
甲6a:第4欄第18?19行
「The thickness of the basement lubricant may be about 0.05 to 2.0, preferably about 0.1 to microns.」
(基盤潤滑剤の厚さは、約0.05?2.0、好ましくは、約0.1?ミクロンである。)

(7)甲第7号証
本件特許の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第7号証(以下「甲7」という。)には、図面とともに次の記載がある。なお、括弧内に付記した邦訳は、甲7添付の抄訳を主に援用しつつ、当審で作成した。
甲7a:「[0003] This invention relates to medical components having surfaces in sliding engagement, such as syringe assemblies, coated with a composition comprising organopolysiloxane(s), methods to reduce static and kinetic friction between slidable surfaces, and articles of low friction prepared thereby.」
(本発明は、有機ポリシロキサンを含有する組成物で被覆された、滑り係合する表面を有する医療器具、例えば、注射器;滑面間の静摩擦力および動摩擦力を低減する方法;およびそれにより低い摩擦力を有する物品、に関する。)

甲7b:「[0088] The coated chamber and/or coated sealing member is subjected to oxidative treatment, for example, plasma treatment. ・・・」
(被覆された容器および/または被覆された密封部材は、例えば、ブラズマ処理のような酸化処理に付される。・・・)

甲7c:「[0092] In some embodiments, a surface lubricant layer about 0.3 to 10, preferably about 0.8 to 4.0 microns thick may be applied over the crosslinked organopolysiloxane coating described above. The surface lubricant can be conventional silicone oil (organopolysiloxane) of viscosity about 100 to 1,000,000; 100 to 60,000; or preferably about 1,000 to 12,500 cst.・・・」
(ある実施形態では、表面潤滑剤層の厚みは、約0.3?10ミクロンであり、好ましくは、 約0.8?4.0ミクロンの厚さが、上記した架橋化有機ポリシロキサン被膜に適用される。表面潤滑剤は、粘度が100?1,000,000、100?60,000、あるいは好ましくは1,000?12,500cstの慣用のシリコーンオイル(有機ポリシロキサン)であり得る。・・・)

甲7d:「We claim:
1. A chamber for a medical article, the chamber having an inner surface adapted to sealingly engage an outer surface of a sealing member for a medical article, wherein the inner surface of the chamber has a coating thereon prepared from a composition comprising an organopolysiloxane, the coating being adhered to the inner surface by crosslinking induced by (1) oxidative treatment; and (2) (a) irradiation with an isotope, electron beam or ultraviolet radiation or (b) heat treatment.」
(特許請求の範囲
1.医療器具のための容器であって、容器が医療器具のための密封部材の外表面に密着して係合せしめられている内表面を有しており、当該容器の内表面は有機ポリシロキサンからなる組成物により被覆されており、当該被膜は、(1)酸化処理;および(2)(a)アイソトープ、電子線、または紫外線の照射、または(b)熱処理による架橋化により、当該内表面に接着していることを特徴とする、容器。)

以上によれば、甲7には、次の技術事項(以下「甲7事項」という。)が記載されている。
「医療器具のための容器であって、容器が医療器具のための密封部材の外表面に密着して係合せしめられている内表面を有しており、当該容器の内表面は有機ポリシロキサンからなる組成物により被覆されており、当該被膜は、酸化処理よる架橋化により、当該内表面に接着しており、
前記医療器具は、注射器であり、
前記酸化処理は、プラズマ処理であり、
前記有機ポリシロキサンは、粘度が100?60,000cstの慣用のシリコーンオイルである、容器。」

(8)甲第8号証
本件特許の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第8号証(以下「甲8」という。)には、次の記載がある
甲8a:第3頁
「プレフィルドシリンジ:約200品目以上(2004年9月)」

2 無効理由1Aについて
2-1 本件訂正発明1について
(1)対比
本件訂正発明1(前者)と甲1発明(後者)とを対比する。
ア)後者における「医療装置」は、用語の意味、機能等からみて、前者の「医療用注射装置」に相当し、以下同様に、「皮膜3により被覆された内面」は「コーティングされた内表面」に、「注射シリンダー1」は「外筒」に、「滑り結合するストッパー4」は「滑り嵌合する栓」に、「注射シリンダー1のシリンダー壁2の内面」は「外筒の内表面」又は「外筒の内面」に、「液体タンパク質製剤」は「医薬組成物の溶液」に、「医療製品の注射シリンダー1に液体タンパク質製剤を満たす」は「注射装置で医薬組成物の溶液を処理する」に、「皮膜3を形成する」は「コーティングを調製する」に、「以下の工程」は「以下の方法」に、それぞれ相当する。
イ)後者の「ポリ(ジアルキルシロキサン)油」は、前者の「シリコーンオイル」に相当することから、後者の「ポリ(ジアルキルシロキサン)油の皮膜3で被覆」は、前者の「シリコーンオイルの層でコーティング」に相当する。
また、後者の「ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)」は、前者の「ポリジメチルシロキサン(PDMS)」に相当することから、後者の「200,000センチストーク超の粘度を有するポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)」は、“所定の粘度を有するポリジメチルシロキサン(PDMS)”である点で、前者の「9×10^(-4)m^(2)/s?1.2×10^(-3)m^(2)/s(900?1200センチストークス)の粘度を有するポリジメチルシロキサン(PDMS)」と共通する。
ウ)後者の「皮膜3をプラズマ処理し」、「プラズマ処理していない被膜3で注射シリンダー1のシリンダー壁2を被覆した医療装置」は、それぞれ、前者の「シリコーンオイル層をプラズマ処理に曝し」、「プラズマ処理していないシリコーンオイルで外筒をコーティングした注射装置」に相当する。
エ)後者の「吸着」に関し、甲1【0008】の「このことの主たる理由はタンパク質が容器の表層に吸着し、そこで不活性化又は変性しうることにある。このようにして、不活性化且つアクセス不能となったタンパク質の層が容器の表層に構築されてしまう。」の記載によれば、タンパク質が容器に吸着されると不活性化又は変性したタンパク質の層が構築されるところ、この不活性化又は変性したタンパク質の層は、不活性化又は変性したタンパク質分子の集合体として、粒子といい得るものであるから、後者において、「医療装置の皮膜3の表層へのタンパク質の吸着を抑制する」ことにより、吸着されて表層に存在する、不活性化又は変性したタンパク質粒子自体が減少するものといえる。
加えて、甲1【0009】の「特にインスリンに関し、吸着されたインスリンは脱離することがあり、そして一部の分子は他の失活分子と会合し、そして凝集物を形成しうる。」の記載によれば、タンパク質の吸着が抑制されると、一旦吸着した後に脱離して溶液中へと放出されるタンパク質も減少することは明らかである。
そうすると、後者の「皮膜3の表層へのタンパク質の吸着を抑制すること」は、前者の「コーティングの表面に存在する粒子の数を減少させ、あるいは医療用注射装置に入れられた医薬組成物の溶液中に放出される粒子の数を減少させること」に相当する。
同様に、後者の「医療装置の皮膜3の表層へのタンパク質の吸着を抑制する方法」は、前者の「コーティングの表面に存在する粒子の数又は医療用注射装置に入れられた医薬組成物の溶液中に放出された粒子の数を減少させる方法」に相当する。

以上によれば、本件訂正発明1と甲1発明の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
コーティングの表面に存在する粒子の数又は医療用注射装置に入れられた医薬組成物の溶液中に放出された粒子の数を減少させる方法であって、該注射装置は、コーティングされた内表面、外筒に滑り嵌合する栓、外筒の内表面と接触している医薬組成物の溶液を備えており、当該方法は、該注射装置で医薬組成物の溶液を処理する前に、コーティングを調製する以下の方法を具備している。
(1)外筒の内面をシリコーンオイルの層でコーティングし、シリコーンオイルが所定の粘度を有するポリジメチルシロキサン(PDMS)含むことと、
(2)シリコーンオイル層をプラズマ処理に曝し、それにより、プラズマ処理していないシリコーンオイルで外筒をコーティングした注射装置と比較して、コーティングの表面に存在する粒子の数を減少させ、あるいは医療用注射装置に入れられた医薬組成物の溶液中に放出される粒子の数を減少させること。

<相違点1>
ポリジメチルシロキサン(PDMS)の有する粘度に関し、本件訂正発明1では、「9×10^(-4)m^(2)/s?1.2×10^(-3)m^(2)/s(900?1200センチストークス)の粘度」であるのに対し、甲1発明では、200,000センチストーク超の粘度である点。

(2)判断
甲1における「医療製品であって、この2つの部材間の摩擦を低め、且つタンパク質の吸着を抑制するための被膜で被覆された少なくとも一の表層を有する製品」(【0001】)、「ストッパーの付いたかかる容器は、別の部材、例えば容器の壁と接触しているストッパーの如き一の部材の滑らかな滑り運動を、信頼性のある用量を高精度をもって供するため、必要とする。・・・この「滑り-付着」はそれが不規則且つ不正確な投与量に招くという問題の原因となる。」(【0004】)と記載されるように、甲1発明は、部材の滑らかな滑り運動の実現を目的の一つとするものである。
そして、甲1【0037】の「油の粘度は部材に適用されるとき、特に滑り-付着現象の排除のために重要である。粘度が高くなるほど、滑り-付着現象の危険性は小さくなる。本発明の一の態様において、この被膜は線形又は枝分れした親水性化ポリ(ジアルキル)シロキサン油を含んで成る。この油の粘度は部材に適用したとき、好ましくは200,000センチストーク超、例えば500,000センチストーク超である。」の記載から、甲1発明が、ポリジメチルシロキサンの粘度を「200,000センチストーク超」とした理由は、「滑り-付着現象の排除のため」と理解できる。
そうすると、甲1発明において、ポリジメチルシロキサンとして低粘度のものを採用すると、所期の目的が達成できなくなるのであるから、上記【0037】の記載に接した当業者にとって、甲1発明における「200,000センチストーク超」なる粘度の数値を、その百分の一にも満たない「900?1200センチストークス」へと変更すべき動機付けはない。
他方、甲3には、上記甲3発明として示したように、「約5?100,000センチストークスの粘度を有するジメチルポリシロキサン」なる技術事項が記載され、また、甲7には、上記甲7事項として示したように、「有機ポリシロキサンは、粘度が100?60,000cstの慣用のシリコーンオイルである」事項が記載されてはいるが、いずれもその数値範囲は、「900?1200センチストークス」を一部に含む広大な範囲が漠然と記載されているにすぎず、ポリジメチルシロキサンの粘度を「900?1200センチストークス」とした上で、滑り-付着現象を排除する点についての具体的な記載は何ら見当たらない。
そうすると、甲3及び甲7に接した当業者といえども、甲1発明において、ポリジメチルシロキサンの有する粘度を相違点1における本件訂正発明に係る事項とすることを容易に想到できたものとはいえない。
そして、本件訂正発明1は、「長期間、内部に格納された感受性薬剤との良好な適合性を示し、その上、外筒内の栓が良好に滑るとともに潤滑層が期間に亘り保全性を保つ」(明細書【0045】)という格別の効果を奏するものである。

(3)小括
したがって、本件訂正発明1は、甲1発明及び甲3、7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

2-2 本件訂正発明2、3について
本件訂正発明2、3は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する発明である。
請求人は、本件訂正発明2、3は、甲1発明、甲3、7に記載された事項及び甲4、5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができた旨主張するので検討するに、甲4、甲5には、本件訂正発明2、3において付加された事項に関連して、それぞれ微粒子の測定に関する事項が記載されている(摘記事項甲4a?甲4f、摘記事項甲5a?甲5d参照)が、上記相違点1における前者に係る事項については、記載も示唆もない。
そうすると、上記「2-1」において本件正発明1について示した理由と同様の理由により、本件訂正発明2、3は、甲1発明、甲3、7に記載された事項及び甲4、5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

2-3 本件訂正発明5、6、10、16?19、21について
本件訂正発明5、6、10、16?19、21は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する発明である。
請求人は、本件訂正発明5、6、10、16?19、21において付加された事項も甲1に記載されているので、本件訂正発明5、6、10、16?19、21は、甲1発明、甲3、7に記載された事項及び甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張するが、本件訂正発明5、6、10、16?19、21において付加された事項が甲1に記載されていたとしても、甲1には、上記相違点1における前者に係る事項についての記載はない。
そうすると、上記「2-1」において本件正発明1について示した理由と同様の理由により、本件訂正発明5、6、10、16?19、21は、甲1発明、甲3、7号証に記載された事項及び甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

2-4 本件訂正発明13について
本件訂正発明13は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する発明である。
請求人は、本件訂正発明13は、甲1発明、甲3、7に記載された事項、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができた旨主張するので検討するに、甲3、8には、本件訂正発明13において付加された事項に関連して、それぞれプレフィルドシリンジに関する事項が記載されている(摘記事項甲3h、摘記事項甲8a参照)が、上記相違点1における前者に係る事項については、記載も示唆もなく、また、当該事項が従来より周知の技術であったともいえない。
そうすると、上記「2-1」において本件正発明1について示した理由と同様の理由により、本件訂正発明13は、甲1発明、甲3、7に記載された事項、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

2-5 本件訂正発明14、15について
本件訂正発明14、15は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する発明である。
請求人は、本件訂正発明14、15は、甲1発明、甲3、7に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができた旨主張するが、本件訂正発明14、15において付加された事項が周知技術であったとしても、上記相違点1における前者に係る事項についてまでもが、従来より周知の技術であったとはいえない。
そうすると、上記「2-1」において本件正発明1について示した理由と同様の理由により、本件訂正発明14、15は、甲1発明、甲3又は甲7に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

2-6 本件訂正発明20について
本件訂正発明20は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する発明である。
請求人は、本件訂正発明20は、甲1発明、甲3、7に記載された事項及び甲2、3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができた旨主張するので検討するに、甲2、甲3には、本件訂正発明20において付加された事項に関連して、それぞれ高周波によるプラズマに関する事項が記載されている(摘記事項甲2a、摘記事項甲3e参照)が、上記相違点1における前者に係る事項については、記載も示唆もない。
そうすると、上記「2-1」において本件正発明1について示した理由と同様の理由により、本件訂正発明20は、甲1発明、甲3、7に記載された事項及び甲2、3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

3 無効理由1Bについて
3-1 本件訂正発明1について
(1)対比
本件訂正発明1(前者)と甲2発明(後者)とを対比する。
ア)後者における「注射器」は、用語の意味、機能等からみて、前者の「医療用注射装置」に相当し、以下同様に、「潤滑剤が塗布された注射器筒の壁面」は「コーティングされた内表面」に、「注射器筒」は「外筒」に、「滑り嵌合する注射器ストツパー」は「滑り嵌合する栓」に、「注射器筒の壁面」は「外筒の内表面」又は「外筒の内面」に、「医薬」は「医薬組成物の溶液」に、「注射器に医薬を充填する」は「注射装置で医薬組成物の溶液を処理する」に、「潤滑剤皮膜を形成する」は「コーティングを調製する」に、「以下の工程」は「以下の方法」に、それぞれ相当する。
イ)後者の「シリコーン油」は、前者の「シリコーンオイル」に相当することから、後者の「シリコーン油の潤滑剤で塗布」は、前者の「シリコーンオイルの層でコーティング」に相当する。
また、後者の「ポリジメチルシロキサン」は、前者の「ポリジメチルシロキサン(PDMS)」に相当することから、後者の「約10-100,000センチストークスの粘度を有するポリジメチルシロキサン」は、“所定の粘度を有するポリジメチルシロキサン(PDMS)”である点で、前者の「9×10^(-4)m^(2)/s?1.2×10^(-3)m^(2)/s(900?1200センチストークス)の粘度を有するポリジメチルシロキサン(PDMS)」と共通する。
ウ)後者の「イオン化プラズマ」は、前者の「プラズマ処理」に相当することから、後者の「塗布された潤滑剤をイオン化プラズマにさらし」は、前者の「シリコーンオイル層をプラズマ処理に曝し」に相当する。
エ)後者の「注射器の潤滑剤の移行を無くす方法」は、“方法”である点で、前者の「コーティングの表面に存在する粒子の数又は医療用注射装置に入れられた医薬組成物の溶液中に放出された粒子の数を減少させる方法」と共通する。

以上によれば、本件訂正発明1と甲2発明の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
方法であって、注射装置は、コーティングされた内表面、外筒に滑り嵌合する栓、外筒の内表面と接触している医薬組成物の溶液を備えており、当該方法は、該注射装置で医薬組成物の溶液を処理する前に、コーティングを調製する以下の方法を具備している。
(1)外筒の内面をシリコーンオイルの層でコーティングし、シリコーンオイルが所定の粘度を有するポリジメチルシロキサン(PDMS)含むことと、
(2)シリコーンオイル層をプラズマ処理に曝すこと。

<相違点2>
本件訂正発明1は、「シリコーンオイル層をプラズマ処理に曝し、それにより、プラズマ処理していないシリコーンオイルで外筒をコーティングした注射装置と比較して、コーティングの表面に存在する粒子の数を減少させ、あるいは医療用注射装置に入れられた医薬組成物の溶液中に放出される粒子の数を減少させること」を具備する、「コーティングの表面に存在する粒子の数又は医療用注射装置に入れられた医薬組成物の溶液中に放出された粒子の数を減少させる方法」であるのに対し、甲2発明は、シリコーンオイル層をプラズマ処理に曝し、それにより潤滑剤の移行を無くすことを具備するものであって、「コーティングの表面に存在する粒子の数を減少させ、あるいは医療用注射装置に入れられた医薬組成物の溶液中に放出される粒子の数を減少させること」を具備するのか否か不明であり、そのため、注射装置の潤滑剤の移行を無くす方法であって、「コーティングの表面に存在する粒子の数又は医療用注射装置に入れられた医薬組成物の溶液中に放出された粒子の数を減少させる方法」か否か不明な点。

<相違点3>
ポリジメチルシロキサンの有する粘度に関し、本件訂正発明1では、「9×10^(-4)m^(2)/s?1.2×10^(-3)m^(2)/s(900?1200センチストークス)の粘度」であるのに対し、甲2発明では、約10-100,000センチストークスの粘度である点。

(2)判断
相違点2について検討するに、先ず、甲2発明における「潤滑剤の移行」について検討する。
甲2には、「(従来技術) ブレイクアウト克服への従来の試みは面と面の界面への潤滑剤の塗布であった。使用する普通の潤滑剤は鉱油、ピーナッツ油、植物油ほどのような炭化水素油である。・・・その上、それらは面対面の界面からの移行が特におこり易い。そのような潤滑剤移行は一般的にはパーキング時間とともにブレイクアウト力が増加することに起因すると考えられる。」(摘記事項甲2b)、「潤滑剤は、2つの面が接触状態にあるときに潤滑剤がそれらの面の界面に位置するように、それらの面の少くとも一つへ塗布される。」(摘記事項甲2d)等の記載ある。
ここで、摘記事項甲2bの「面と面」、摘記事項甲2dの「2つの面」が、甲2発明における「注射器筒の壁面」と「注射器筒に滑り嵌合する注射器ストッパー」の表面を指すことは明らかであるから、上記「それらは面対面の界面からの移行が特におこり易い。そのような潤滑剤移行は一般的にはパーキング時間とともにブレイクアウト力が増加することに起因する」の記載に着目すると、甲2発明の「潤滑剤の移行」とは、注射器筒の壁面と注射器ストッパーとの間の界面にあった潤滑剤が、その界面から押し出され界面外へと移動することと解釈できる。
甲2発明は、プラズマ処理により、このような潤滑剤の界面外への移動が無くなる結果、注射器ストッパーが滑らかに動くというものであるが、甲2には、シリコーン油の潤滑剤が界面外へと移動することの有無と、「コーティングの表面に存在する粒子の数又は医療用注射装置に入れられた医薬組成物の溶液中に放出された粒子の数」の増減との関係についての記載はなく、また、この関係が本件特許の優先権主張の日前における技術常識であったともいえない。
また、甲2には、コーティングの表面に存在する粒子の数又は医療用注射装置に入れられた医薬組成物の溶液中に放出された粒子の数を減少させるという技術課題についても記載が見当たらない。
そうすると、甲2発明において、シリコーンオイル層をプラズマ処理に曝すに当たり、そのプラズマ処理を、「プラズマ処理していないシリコーンオイルで外筒をコーティングした注射装置と比較して、コーティングの表面に存在する粒子の数を減少させ、あるいは医療用注射装置に入れられた医薬組成物の溶液中に放出される粒子の数を減少させること」を達成するようなプラズマ処理へと変更することの動機付けはなく、当業者がこの変更を容易に想到できたとはいえない。同様に、甲2発明の「方法」を「コーティングの表面に存在する粒子の数又は医療用注射装置に入れられた医薬組成物の溶液中に放出された粒子の数を減少させる方法」に変更することが、当業者にとって容易に想到できたものともいえない。
また、甲3には上記甲3発明として示したように、「約5?100,000センチストークスの粘度を有するジメチルポリシロキサン」なる技術事項が記載され、また、甲7には、上記甲7事項として示したように、「有機ポリシロキサンは、粘度が100?60,000cstの慣用のシリコーンオイルである」事項が記載されているが、甲3、甲7には、「プラズマ処理していないシリコーンオイルで外筒をコーティングした注射装置と比較して、コーティングの表面に存在する粒子の数を減少させ、あるいは医療用注射装置に入れられた医薬組成物の溶液中に放出される粒子の数を減少させること」の記載はない。
よって、甲3及び甲7の記載を考慮したとしても、甲2発明において、当業者が上記相違点2における前者の特定事項とすることを容易に想到できたとはいえない。
そして、本件訂正発明1は、「長期間、内部に格納された感受性薬剤との良好な適合性を示し、その上、外筒内の栓が良好に滑るとともに潤滑層が期間に亘り保全性を保つ」(明細書【0045】)という格別の効果を奏するものである。

(3)小括
したがって、相違点3について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲2発明及び甲3、7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

3-2 本件訂正発明5、10、18?20について
本件訂正発明5、10、18?20は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する発明である。
請求人は、本件訂正発明5、10、18?20において付加された事項も甲2に記載されているので、本件訂正発明5、10、18?20は、甲2発明、甲3、7に記載された事項及び甲2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張するが、本件訂正発明5、10、18?20において付加された事項が甲2に記載されていたとしても、甲2には、上記相違点2における前者に係る事項についての記載はない。
そうすると、上記「3-1」において本件訂正発明1について示した理由と同様の理由により、本件訂正発明5、10、18?20は、甲2発明、甲3、7に記載された事項及び甲2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

3-3 本件訂正発明2、3について
本件訂正発明2、3は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する発明である。
請求人は、本件訂正発明2、3は、甲2発明、甲3、7に記載された事項及び甲4、5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができた旨主張するので検討するに、甲4、甲5には、本件訂正発明2、3において付加された事項に関連して、それぞれ微粒子の測定に関する事項が記載されている(摘記事項甲4a?甲4f、摘記事項甲5a?甲5d参照)が、上記相違点2における前者に係る事項については、記載も示唆もない。
そうすると、上記「3-1」において本件正発明1について示した理由と同様の理由により、本件訂正発明2、3は、甲2発明、甲3、7に記載された事項及び甲4、5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

3-4 本件訂正発明6について
本件訂正発明6は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する発明である。
請求人は、本件訂正発明6は、甲2発明、甲3、7に記載された事項及び甲1、6、7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができた旨主張するので検討するに、甲1、甲6、甲7には、本件訂正発明6において付加された事項に関連して、それぞれコーティングの厚さに関する事項が記載されている(摘記事項甲1f、摘記事項甲6a、摘記事項甲7c参照)が、上記相違点2における前者に係る事項については、記載も示唆もない。
そうすると、上記「3-1」において本件正発明1について示した理由と同様の理由により、本件訂正発明6は、甲2発明、甲3、7に記載された事項及び甲1、6、7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

3-5 本件訂正発明13について
本件訂正発明13は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する発明である。
請求人は、本件訂正発明13は、甲2発明、甲3、7に記載された事項、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができた旨主張するので検討するに、甲3、8には、本件訂正発明13において付加された事項に関連して、それぞれプレフィルドシリンジに関する事項が記載されている(摘記事項甲3h、摘記事項甲8a参照)が、上記相違点2における前者に係る事項については、記載も示唆もなく、また、当該事項が従来より周知の技術であったともいえない。
そうすると、上記「3-1」において本件正発明1について示した理由と同様の理由により、本件訂正発明13は、甲2発明、甲3、7に記載された事項、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

3-6 本件訂正発明14?17について
本件訂正発明14?17は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する発明である。
請求人は、本件訂正発明14?17は、甲2発明、甲3、7に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができた旨主張するが、本件訂正発明14?17において付加された事項が周知技術であったとしても、上記相違点2における前者に係る事項についてまでもが、従来より周知の技術であったとはいえない。
そうすると、上記「3-1」において本件正発明1について示した理由と同様の理由により、本件訂正発明14?17は、甲2発明、甲3、7に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

3-7 本件訂正発明21について
本件訂正発明21は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する発明である。
請求人は、本件訂正発明21は、甲2発明、甲3、7に記載された事項及び甲1、3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができた旨主張するので検討するに、甲1、甲3には、本件訂正発明21において付加された事項に関連して、それぞれ酸化プラズマに関する事項が記載されている(摘記事項甲1e、摘記事項甲3e参照)が、上記相違点2における前者に係る事項については、記載も示唆もない。
そうすると、上記「3-1」において本件正発明1について示した理由と同様の理由により、本件訂正発明21は、甲2発明、甲3、7に記載された事項及び甲1、3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

4 無効理由1Cついて
4-1 本件訂正発明1について
(1)対比
本件訂正発明1(前者)と甲3発明(後者)とを対比する。
ア)後者における「注射器」は、用語の意味、機能等からみて、前者の「医療用注射装置」に相当し、以下同様に、「潤滑剤で被覆された注射筒の内表面」は「コーティングされた内表面」に、「注射筒」は「外筒」に、「滑り嵌合するプランジャ」は「滑り嵌合する栓」に、「注射器筒の内表面」は「外筒の内表面」又は「外筒の内面」に、「薬剤」は「医薬組成物の溶液」に、「注射器に薬剤を充填する」は「注射装置で医薬組成物の溶液を処理する」に、「潤滑剤による皮膜を形成する」は「コーティングを調製する」に、「以下の工程」は「以下の方法」に、それぞれ相当する。
イ)後者の「シリコーンオイル」は、前者の「シリコーンオイル」に相当することから、後者の「シリコーンオイルの潤滑剤で塗布」は、前者の「シリコーンオイルの層でコーティング」に相当する。
また、後者の「ジメチルポリシロキサン」は、前者の「ポリジメチルシロキサン(PDMS)」に相当することから、後者の「約5?100,000センチストークスの粘度を有するジメチルポリシロキサン」は、“所定の粘度を有するポリジメチルシロキサン(PDMS)”である点で、前者の「9×10^(-4)m^(2)/s?1.2×10^(-3)m^(2)/s(900?1200センチストークス)の粘度を有するポリジメチルシロキサン(PDMS)」と共通する。
ウ)後者の「イオン化ガスプラズマ」は、前者の「プラズマ処理」に相当することから、後者の「塗布された潤滑剤をイオン化プラズマで照射し」は、前者の「シリコーンオイル層をプラズマ処理に曝し」に相当する。
エ)後者の「注射器の互いに接触する表面間の潤滑剤の移動を低減させる方法」は、“方法”である点で、前者の「コーティングの表面に存在する粒子の数又は医療用注射装置に入れられた医薬組成物の溶液中に放出された粒子の数を減少させる方法」と共通する。

以上によれば、本件訂正発明1と甲3発明の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
方法であって、注射装置は、コーティングされた内表面、外筒に滑り嵌合する栓、外筒の内表面と接触している医薬組成物の溶液を備えており、当該方法は、該注射装置で医薬組成物の溶液を処理する前に、コーティングを調製する以下の方法を具備している。
(1)外筒の内面をシリコーンオイルの層でコーティングし、シリコーンオイルが所定の粘度を有するポリジメチルシロキサン(PDMS)含むことと、
(2)シリコーンオイル層をプラズマ処理に曝すこと。

<相違点4>
本件訂正発明1は、「シリコーンオイル層をプラズマ処理に曝し、それにより、プラズマ処理していないシリコーンオイルで外筒をコーティングした注射装置と比較して、コーティングの表面に存在する粒子の数を減少させ、あるいは医療用注射装置に入れられた医薬組成物の溶液中に放出される粒子の数を減少させること」を具備する、「コーティングの表面に存在する粒子の数又は医療用注射装置に入れられた医薬組成物の溶液中に放出された粒子の数を減少させる方法」であるのに対し、甲3発明は、シリコーンオイル層をプラズマ処理に曝し、それにより、注射装置の互いに接触する表面間の潤滑剤の移動を低減させることを具備するものであって、「コーティングの表面に存在する粒子の数を減少させ、あるいは医療用注射装置に入れられた医薬組成物の溶液中に放出される粒子の数を減少させること」を具備するのか否か不明であり、そのため、注射装置の互いに接触する表面間の潤滑剤の移動を低減させる方法であって、「コーティングの表面に存在する粒子の数又は医療用注射装置に入れられた医薬組成物の溶液中に放出された粒子の数を減少させる方法」か否か不明な点。

<相違点5>
ポリジメチルシロキサン(PDMS)の有する粘度に関し、本件訂正発明1では、「9×10^(-4)m^(2)/s?1.2×10^(-3)m^(2)/s(900?1200センチストークス)の粘度」であるのに対し、甲3発明では、約5?100,000センチストークスの粘度である点。

(2)判断
相違点4について検討する。
甲3における「長期間に渡り潤滑剤が塗布された2つの表面が接触していると、2つの表面間での押し潰される力により潤滑剤が接触表面から移動する。この現象は、2つの表面間での押し潰される力が増大するほど発生しやすくなる。」(摘記事項甲3a)、「プラズマ処理を行うことによって潤滑剤は固定され、パーキング時間が長くなった後においても、注射筒とプランジャとの界面における潤滑剤の移動が防止される」(摘記事項甲3f)等の記載によれば、甲3発明の「注射器の互いに接触する表面間の潤滑剤の移動」とは、注射筒の壁面とプランジャとの間の界面にあった潤滑剤が、その界面から押し出されて界面外へと移動することと解釈できる。
甲3発明は、プラズマ処理により、このような潤滑剤の界面外への移動を低減させる結果、注射器ストッパーが滑らかに動くというものであるが、甲3には、シリコーンオイル潤滑剤が界面外へと移動することの有無と、「コーティングの表面に存在する粒子の数又は医療用注射装置に入れられた医薬組成物の溶液中に放出された粒子の数」の増減との関係についての記載はなく、また、この関係が本件特許の優先権主張の日前における技術常識であったともいえない。
また、甲3には、コーティングの表面に存在する粒子の数又は医療用注射装置に入れられた医薬組成物の溶液中に放出された粒子の数を減少させるという技術課題についても記載が見当たらない。
そうすると、甲3発明において、シリコーンオイル層をプラズマ処理に曝すに当たり、そのプラズマ処理を、「プラズマ処理していないシリコーンオイルで外筒をコーティングした注射装置と比較して、コーティングの表面に存在する粒子の数を減少させ、あるいは医療用注射装置に入れられた医薬組成物の溶液中に放出される粒子の数を減少させること」を達成するようなプラズマ処理へと変更することの動機付けはなく、当業者がこの変更を容易に想到できたとはいえない。同様に、甲3発明の「方法」を「コーティングの表面に存在する粒子の数又は医療用注射装置に入れられた医薬組成物の溶液中に放出された粒子の数を減少させる方法」に変更することが、当業者にとって容易に想到できたものともいえない。
そして、本件訂正発明1は、「長期間、内部に格納された感受性薬剤との良好な適合性を示し、その上、外筒内の栓が良好に滑るとともに潤滑層が期間に亘り保全性を保つ」(明細書【0045】)という格別の効果を奏するものである。

(3)小括
したがって、相違点5について検討するまでもなく、本件訂正発明1は甲3発明ではなく、また、本件訂正発明1は甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。

4-2 本件訂正発明2、3について
本件訂正発明2、3は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する発明である。
請求人は、本件訂正発明2、3は、甲3発明及び甲4、5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができた旨主張するので検討するに、甲4、甲5には、本件訂正発明2、3において付加された事項に関連して、それぞれ微粒子の測定に関する事項が記載されている(摘記事項甲4a?甲4f、摘記事項甲5a?甲5d参照)が、上記相違点4における前者に係る事項については、記載も示唆もない。
そうすると、上記「4-1」において本件正発明1について示した理由と同様の理由により、本件訂正発明2、3は、甲3発明及び甲4、5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

4-3 本件訂正発明5について
本件訂正発明5は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する発明である。
請求人は、本件訂正発明5は、甲3発明及び甲1、2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができた旨主張するので検討するに、甲1、甲2には、本件訂正発明5において付加された事項に関連して、それぞれ注射装置の栓に関する事項が記載されている(摘記事項甲1g、摘記事項甲2a参照)が、上記相違点4における前者に係る事項については、記載も示唆もない。
そうすると、上記「4-1」において本件正発明1について示した理由と同様の理由により、本件訂正発明5は、甲3発明及び甲1、2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

4-4 本件訂正発明6について
本件訂正発明6は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する発明である。
請求人は、本件訂正発明6は、甲3発明及び甲1、6、7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができた旨主張するので検討するに、甲1、甲6、甲7には、本件訂正発明6において付加された事項に関連して、それぞれコーティングの厚さに関する事項が記載されている(摘記事項甲1f、摘記事項甲6a、摘記事項甲7c参照)が、上記相違点4における前者に係る事項については、記載も示唆もない。
そうすると、上記「4-1」において本件正発明1について示した理由と同様の理由により、本件訂正発明6は、甲3発明及び甲1、6、7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

4-5 本件訂正発明10について
本件訂正発明10は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する発明である。
請求人は、本件訂正発明10は、甲3発明及び甲1、2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができた旨主張するので検討するに、甲1、甲2には、本件訂正発明10において付加された事項に関連して、それぞれガラスの外筒に関する事項が記載されている(摘記事項甲1f、摘記事項甲2a参照)が、上記相違点4における前者に係る事項については、記載も示唆もない。
そうすると、上記「4-1」において本件正発明1について示した理由と同様の理由により、本件訂正発明10は、甲3発明及び甲1、2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

4-6 本件訂正発明13について
本件訂正発明13は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する発明である。
請求人は、本件訂正発明13は、甲3発明、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができた旨主張するので検討するに、甲3、8には、本件訂正発明13において付加された事項に関連して、それぞれプレフィルドシリンジに関する事項が記載されている(摘記事項甲3h、摘記事項甲8a参照)が、上記相違点4における前者に係る事項については、記載も示唆もなく、また、当該事項が従来より周知の技術であったともいえない。
そうすると、上記「4-1」において本件正発明1について示した理由と同様の理由により、本件訂正発明13は、甲3発明、甲3、8に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

4-7 本件訂正発明14?19について
本件訂正発明14?19は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する発明である。
請求人は、本件訂正発明14?19は、甲3発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができた旨主張するが、本件訂正発明14?19において付加された事項が周知技術であったとしても、上記相違点4における前者に係る事項についてまでもが、従来より周知の技術であったとはいえない。
そうすると、上記「4-1」において本件正発明1について示した理由と同様の理由により、本件訂正発明14?19は、甲3発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

4-8 本件訂正発明20、21について
本件訂正発明20、21は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する発明である。
請求人は、本件訂正発明20、21において付加された事項も甲3に記載されているので、本件訂正発明20、21は、甲第3号証に記載された発明であるか、甲3発明及び甲3に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張するが、本件訂正発明20、21において付加された事項が甲3に記載されていたとしても、甲3には、上記相違点4における前者に係る事項についてまでの記載はない。
そうすると、上記「4-1」において本件正発明1について示した理由と同様の理由により、本件訂正発明20、21は、甲第3号証に記載された発明ではなく、また、甲3発明及び甲3に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。

5 まとめ
したがって、無効理由1A?1Cによっては、本件訂正発明1?3、5、6、10、13?21についての特許を無効とすることはできない。


第8 結び
以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第3項並びに同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?22〕について訂正することを認める。
そして、本件訂正発明1?3、5、6、10、13?21についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものではなく、また、同法第36条第4項第1号、第6項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものでもなく、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件訂正発明1?3、5、6、10、13?21についての特許を無効とすることはできない。
また、本件特許の請求項4、7?9、11、12、22に係る発明は、本件訂正により削除されたので、それらの発明についての審判請求は、不適法な請求であり、その補正をすることができないものであるから特許法第135条の規定により却下する。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティングの表面に存在する粒子の数又は医療用注射装置に入れられた医薬組成物の溶液中に放出された粒子の数を減少させる方法であって、該注射装置は、コーティングされた内表面、外筒に滑り嵌合する栓、外筒の内表面と接触している医薬組成物の溶液を備えており、当該方法は、該注射装置で医薬組成物の溶液を処理する前に、コーティングを調製する以下の方法を具備している。
(1)外筒の内面をシリコーンオイルの層でコーティングし、シリコーンオイルが9×10^(-4)m^(2)/s?1.2×10^(-3)m^(2)/s(900?1200センチストークス)の粘度を有するポリジメチルシロキサン(PDMS)含むことと、
(2)シリコーンオイル層をプラズマ処理に曝し、それにより、プラズマ処理していないシリコーンオイルで外筒をコーティングした注射装置と比較して、コーティングの表面に存在する粒子の数を減少させ、あるいは医療用注射装置に入れられた医薬組成物の溶液中に放出される粒子の数を減少させること。
【請求項2】
Hach LangeによるHIAC光遮蔽装置を用いた光遮蔽法により測定した場合、医療用注射装置の中に入れられたリン酸緩衝生理食塩水およびポリソルベート80を濾過したものの混合物中に放出される粒子レベルが溶液と接触する外筒表面の1mm^(2)当たり2.11個未満の粒子である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Brightwell TechnologiesによるMFIマイクロ流イメージング装置を用いたマイクロ流イメージング法により測定した場合、医療用注射装置の中に入れられたリン酸緩衝生理食塩水およびポリソルベート80を濾過したものの混合物中に放出される粒子レベルが溶液と接触する外筒表面の1mm^(2)当たり10.56個未満の粒子である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
栓はシリコーンオイルでコーティングされ、シリコーンオイルでコーティングされた栓はプラズマ処理に曝される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
プラズマ処理したシリコーンオイルコーティングは90?400nmの厚さを備える、請求項1に記載の方法。
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】(削除)
【請求項10】
前記外筒はガラスからなることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】(削除)
【請求項12】(削除)
【請求項13】
予め充填された医療用注射装置は、1mLの内部容積と6.35mmの直径を有するシリンジである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
プラズマ処理したシリコーンオイルコーティングは0.1?0.4mgの重量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
医薬組成物の溶液中の粒子のレベルに関する薬局方規範に適合し医薬組成物の長期保存が可能である前記医薬組成物で前記注射装置が充填されている、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
該注射装置内の組成物は、バイオテクノロジー薬剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
該注射装置内の組成物は、タンパク質、ペプチド、ワクチン、DNA、又はRNAの一つ又は複数である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
プラズマ処理したシリコーンオイルコーティングは架橋されたシリコーンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
外筒の内表面の少なくとも90%がシリコーンオイルでコーティングされている、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
プラズマは高周波によって産生される、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
プラズマ処理は、酸素とアルゴンの混合物の下で行う酸化プラズマ(an oxidative plasma)処理を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2021-03-01 
結審通知日 2021-03-05 
審決日 2021-03-22 
出願番号 特願2014-532386(P2014-532386)
審決分類 P 1 113・ 121- YAA (A61M)
P 1 113・ 537- YAA (A61M)
P 1 113・ 536- YAA (A61M)
P 1 113・ 113- YAA (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 洋昭  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 莊司 英史
関谷 一夫
登録日 2017-05-19 
登録番号 特許第6144264号(P6144264)
発明の名称 医療用注射装置においてプラズマ処理したシリコーンオイルのコーティングとしての使用  
代理人 鎌田 光宜  
代理人 特許業務法人谷・阿部特許事務所  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  
代理人 高島 一  
代理人 田伏 英治  
代理人 當麻 博文  
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