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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01M
管理番号 1378145
審判番号 不服2020-17912  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-12-28 
確定日 2021-10-05 
事件の表示 特願2017-508434「高安全性・高エネルギー密度電池」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月29日国際公開、WO2016/152991、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)3月24日(優先権主張 平成27年3月24日)を国際出願日とする出願であって、平成29年9月4日付けで手続補正書が提出され、令和2年2月12日付けで拒絶理由が通知され、同年4月24日付けで意見書及び手続補正書が提出され(以下、同年4月24日付けで提出された手続補正書による補正を「手続補正1」という。)、同年9月18日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年12月28日に拒絶査定不服審判が請求されるのと同時に手続補正書が提出され(以下、同年12月28日付けで提出された手続補正書による補正を「手続補正2」という。)、令和3年3月1日付けで前置報告がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和2年9月18日付け拒絶査定)の概要は以下のとおりである。

手続補正1によって補正された特許請求の範囲の請求項1?9に係る発明は、引用文献1に記載された発明、及び引用文献2、3に記載された発明、並びに周知技術に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
引用文献1:特開2011-228052号公報
引用文献2:特開2007-305574号公報
引用文献3:特開2014-240189号公報
引用文献4:特開2008-234853号公報(周知技術を示す文献)
引用文献5:特表2010-538172号公報(同上)
引用文献6:特開2002-231209号公報(同上)

第3 本願発明
本願の請求項1?9に係る発明は、手続補正2によって補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
(各請求項に係る発明を請求項の順に「本願発明1」?「本願発明9」と記載し、それらを総称して「本願発明」と記載することがある。)

「【請求項1】
正極と、負極と、電解液と、正極および負極との間に配置されたセパレータと、を含むリチウムイオン二次電池であって、
正極が、単位面積当たりの充電容量を3mAh/cm^(2)以上有し、 負極が、金属および/または金属酸化物ならびに炭素を負極活物質として含み、
負極に含まれる炭素のリチウム受容可能な量が、正極のリチウム放出可能な量より少なく、
前記セパレータの熱収縮率が電解液の沸点において3%未満であり、前記セパレータの孔径が0.01μm以上0.5μm未満である、
リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記セパレータが微多孔膜から成る、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記セパレータが400℃において絶縁層の厚みを5μm以上保持する、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記セパレータが酸素指数25以上である、請求項1?3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記セパレータが、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂およびポリフェニレンスルフィド樹脂より選択される1種類以上の材料から成る、請求項1?4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記セパレータが、アラミド樹脂から成る、請求項5に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記アラミド樹脂の芳香環上の水素がハロゲンで一部または全部置換されている、請求項6に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
請求項1?7のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池を搭載したことを特徴とする車両。
【請求項9】
電極素子と電解液と外装体とを有するリチウムイオン二次電池の製造方法であって、
正極と、負極とを、セパレータを介して対向配置して電極素子を作製する工程と、
前記電極素子と、電解液と、を外装体の中に封入する工程と、
を含み、
正極が、単位面積当たりの充電容量を3mAh/cm^(2)以上有し、
負極が、金属および/または金属酸化物ならびに炭素を負極活物質として含み、
負極に含まれる炭素のリチウム受容可能な量が、正極のリチウム放出可能な量より少なく、
前記セパレータの熱収縮率が電解液の沸点において3%未満であり、前記セパレータの孔径が0.01μm以上0.5μm未満である、リチウムイオン二次電池の製造方法。」

第4 引用文献の記載事項、及び引用発明
1 引用文献1の記載事項、及び引用発明
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2011-228052号公報)には、以下の記載がある。なお、「・・・」は記載の省略を表す(以下同様)。

「【請求項1】
リチウムおよびマンガンを少なくとも含み層状岩塩構造をもつリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質を有する正極と、炭素系材料、珪素系材料および錫系材料のうちの少なくとも一種を含む負極活物質を有する負極と、非水電解液と、を備えるリチウムイオン二次電池であって、
前記リチウム遷移金属複合酸化物は不可逆容量を有し、
前記負極の金属リチウムに対する0Vまでの初回の充電時の単位面積当たりの実容量は、前記正極の金属リチウムに対する4.7Vまでの初回の充電時の単位面積当たりの実容量よりも小さいことを特徴とするリチウムイオン二次電池。」

「【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に関するものである。」

「【0008】
本発明は、活物質の使用量を従来よりも低減させても、電池容量がほとんど低下しないリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
リチウムイオン二次電池の電池容量は、これまで、リチウムイオンの移動により生じると考えられてきた。したがって、充電により正極から移動したリチウムイオンが負極に吸蔵されたまま移動しなくなることで、不可逆容量が発生すると考えられてきた。ところが、本発明者等が正極活物質としてのLi_(2)MnO_(3)の充放電特性を調査した結果、初回の充電によりLi_(2)MnO_(3)からリチウムイオン以外の陽イオンが負極に移動していることがわかった。これは、Li_(2)MnO_(3)からなる正極活物質を含む正極とグラファイトからなる負極とでリチウムイオン二次電池を組み立てた場合に、初回の充電後の負極(炭化リチウム)のリチウム元素を発光分光分析(ICP)および酸化還元滴定により平均価数分析した結果、充電容量から算出した理論値よりもリチウム含有量が少ないことがわかったためである。つまり、初回の充電時にLi_(2)MnO_(3)を正極活物質として用いた正極から放出される実際のリチウムイオンは、見かけの充電容量よりも少ないことになる。したがって、負極の容量を従来よりも小さく設定しても、充放電によるリチウムの授受に影響がなく、従来と同等の充電容量が得られることがわかった。そして本発明者は、この成果を発展させることで、以降に述べる種々の発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明のリチウムイオン二次電池は、リチウムおよびマンガンを少なくとも含み層状岩塩構造をもつリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質を有する正極と、炭素系材料、珪素系材料および錫系材料のうちの少なくとも一種を含む負極活物質を有する負極と、非水電解液と、を備えるリチウムイオン二次電池であって、
前記リチウム遷移金属複合酸化物は不可逆容量を有し、
前記負極の金属リチウムに対する0Vまでの初回の充電時の単位面積当たりの実容量は、前記正極の金属リチウムに対する4.7Vまでの初回の充電時の単位面積当たりの実容量よりも小さいことを特徴とする。」

「【0012】
ここで「実容量」とは、所定の使用状態で電池を使用したときの実際の容量値である。つまり、正極の初回充電時の「実容量」は、リチウム遷移金属複合酸化物からのリチウムイオンの放出だけでなくプロトン等の放出も加味した値である。」

「【0022】
負極活物質は、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体やコークス等の炭素物質の粉状体などの炭素(C)を含む炭素系材料、珪素単体、酸化珪素、珪素化合物などの珪素(Si)を含む珪素系材料および錫、酸化錫、錫化合物などの錫(Sn)を含む錫系材料のうちの少なくとも一種を含むのが好ましい。これらの材料は、金属リチウムに対する電極電位が低いため、本発明のリチウムイオン二次電池の負極材料として好適である。」

「【0036】
本発明のリチウムイオン二次電池は、一般のリチウムイオン二次電池と同様に、正極と負極の間に挟装されるセパレータを備えるとよい。
【0037】
セパレータとしては、強度が充分でしかも電解液を多く保持できるものがよく、そのような観点から、5?50μmの厚さで、ポリプロピレン製、ポリエチレン製、プロピレンとエチレンとの共重合体などポリオレフィン製の微孔性フィルムや不織布などが好ましく用いられる。」

(2)前記(1)の記載によれば、引用文献1には、以下の事項が記載されている。
ア 引用文献1に記載された発明は、リチウムイオン二次電池に関するものであり(【0001】)、その目的は、活物質の使用量を従来よりも低減させても、電池容量がほとんど低下しないリチウムイオン二次電池を提供することである(【0008】)。

イ 前記アの目的を達成するため、引用文献1に記載された発明に係るリチウムイオン二次電池は、リチウムおよびマンガンを少なくとも含み層状岩塩構造をもつリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質を有する正極と、炭素系材料、珪素系材料および錫系材料のうちの少なくとも一種を含む負極活物質を有する負極と、非水電解液と、を備えるリチウムイオン二次電池であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物は不可逆容量を有し、前記負極の金属リチウムに対する0Vまでの初回の充電時の単位面積当たりの実容量は、前記正極の金属リチウムに対する4.7Vまでの初回の充電時の単位面積当たりの実容量よりも小さいことを特徴とする(【0010】)。

ウ また、引用文献1に記載された発明に係るリチウムイオン二次電池は、一般のリチウムイオン二次電池と同様に、正極と負極の間に挟装されるセパレータを備えるとよく(【0036】)、セパレータとしては、ポリプロピレン製、ポリエチレン製、プロピレンとエチレンとの共重合体などポリオレフィン製の微孔性フィルムや不織布などが好ましく用いられる(【0037】)。

(3)以上の記載事項を総合勘案すると、引用文献1には、以下の「引用発明1」が記載されているものと認められる。

(引用発明1)
リチウムおよびマンガンを少なくとも含み層状岩塩構造をもつリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質を有する正極と、炭素系材料、珪素系材料および錫系材料のうちの少なくとも一種を含む負極活物質を有する負極と、非水電解液と、を備えるリチウムイオン二次電池であって、
前記リチウム遷移金属複合酸化物は不可逆容量を有し、
前記負極の金属リチウムに対する0Vまでの初回の充電時の単位面積当たりの実容量は、前記正極の金属リチウムに対する4.7Vまでの初回の充電時の単位面積当たりの実容量よりも小さく、
正極と負極の間に挟装され、ポリプロピレン製、ポリエチレン製、プロピレンとエチレンとの共重合体などポリオレフィン製の微孔性フィルムや不織布などが好ましく用いられる、セパレータをさらに備える、リチウムイオン二次電池。

2 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2007-305574号公報)には、以下の記載がある。
「【0063】
本発明のセパレータは、少なくとも一方向の200℃熱処理後における熱収縮率が0?2%であることが好ましい。2%を超える場合、電池を高温で使用する場合や長時間使用して蓄熱した場合、セパレータの収縮によって短絡が起こることがある。下限は0%である。耐熱性がより高くなり、安全性も向上することから、200℃熱処理後における熱収縮率が0?1.5%であることがより好ましく、0?1.0%であることが更に好ましい。
【0064】
熱収縮率の測定は以下のように行う。セパレータを、幅1cm、長さ22cmの短冊状に、長辺が測定方向になるように切り取る。長辺の両端から1cmの部分に印をつけ、200℃の熱風オーブン中で30分間、実質的に張力を掛けない状態で熱処理を行った後、印の間隔を測定し、下記の式で計算する。
【0065】
熱収縮率(%)=((熱処理前の間隔-熱処理し冷却後の間隔)/熱処理前の間隔)×100本発明のセパレータは、吸湿率が1?3%であることが好ましい。吸湿率が1%未満では、イオン伝導性が低下することがあり、吸湿率が3%を超えると、セパレータに含まれる水と電解質が反応し、電解質が劣化することがある。」

3 引用文献3の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開2014-240189号公報)には、以下の記載がある。
「【0051】
本発明の芳香族ポリアミド/芳香族ポリイミド複合多孔質膜は、200℃における長手方向(MD)および幅方向(TD)の熱収縮率のいずれもが-0.5?2.0%であることが好ましく、-0.5?1.0%であることがより好ましい。熱収縮率が2.0%を超える場合、電池の異常発熱時にセパレータの収縮により、電池端部において短絡が起こることがある。熱収縮率を上記範囲内とするため、本発明で用いる芳香族ポリアミドおよび芳香族ポリイミドを前述のものとし、複合膜全体を芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミド、および後述する無機あるいは有機粒子のみで構成することが好ましい。」

4 引用文献4の記載事項
原査定での拒絶の理由に周知技術を示す文献として引用された引用文献4(特開2008-234853号公報)には、以下の記載がある。
「【0009】
本発明の非水系二次電池用セパレータの実施の形態は、シャットダウン機能を有する微多孔膜の両面に耐熱性高分子からなる多孔質層が形成され、片面の多孔質層が平均孔径0.01?0.05μm、もう片面の多孔質層が平均孔径0.2?1μmである膜構造を有している。シャットダウン機能を有する微多孔膜の両面に耐熱性高分子からなる多孔質層がない場合、充放電時の極板の膨張収縮により、微多孔膜が圧縮され、微多孔膜中に保持された電解液が枯渇し、サイクル特性が低下してしまう。そのため、シャットダウン機能を有する微多孔膜より厚み方向の機械的強度がある多孔質層が必要である。耐熱性高分子からなる多孔質層の平均孔径が0.01μmより小さい場合、イオン透過性が得られず、平均孔径が1μm以上の場合、耐熱性高分子からなる多孔質層の製膜性が悪く、剥離し易いため良くない。このような非水系二次電池用セパレータを非水系二次電池に使った場合において、本発明の非水系二次電池の実施の形態は、正極板、負極板、およびシャットダウン機能を有する微多孔膜を有する非水系二次電池において、微多孔膜は、両面に耐熱性高分子からなる多孔質層が形成され、微多孔膜の片面には耐熱性高分子からなる多孔質層の平均孔径が0.01?0.05μmであり、かつもう一方の面には前記耐熱性高分子からなる多孔質層の平均孔径が0.2?1μmである。
【0010】
耐熱性高分子からなる多孔質層の平均孔径を0.05μm以下にすることにより、リチウム析出によるデンドライトおよび金属不純物の溶解析出によるブリッジの形成に起因する内部短絡防止に効果があり、非水系二次電池の信頼性が向上する。」

5 引用文献5の記載事項
原査定の拒絶の理由に周知技術を示す文献として引用された引用文献5(特表2010-538172号公報)には、以下の記載がある。
「【0022】
・・・プライは、充填された領域内の粒子が第2の細孔を形成し、粒子の平均直径が第2の細孔の大部分の平均細孔径より大きいことを特徴とする。
【0023】
平均細孔径の度数分布は、第2の細孔の50%超が粒子の平均直径より小さい平均細孔径を有するように本発明によって設定される。本発明者らは、安価な繊維不織ウェブ布の細孔構造が粒子の適した配列及び粒子の選択によって改良されうることを認識した。具体的に、本発明のプライの多孔率は、その安定性を低下させることなくポリオレフィン膜に比べて強化可能であることが認識された。平均直径が、充填された領域の第2の細孔の大部分の平均細孔径より大きい多数の粒子の配列により、高い多孔率を可能にし、したがって繊維不織ウェブ布による電解液の強化された膨潤を生じさせることができる。同時に、形成された細孔構造は、有害な金属デンドライトがその中に形成するのを実質的に不可能にする。本発明は、気泡状ではないが迷路状であり細長い細孔を備える細孔構造を生じる粒子の配列を提供する。このような細孔構造において、樹枝状成長がプライの一方の側から他方の側に至るまでその広がりを形成するのは実質的に不可能である。これは、バッテリーまたはキャパシタの短絡を防ぐのに有効である。従って、本発明のプライは、高出力及びエネルギー密度を有するバッテリー及びキャパシタのセパレータとして非常に有用である。」
「【0032】
粒子は有機ポリマー、特に、ポリプロピレン、ポリビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、ペルフルオロエチレン-プロピレン(FEP)、ポリスチレン、スチレン-ブタジエンコポリマー、ポリアクリレート、またはニトリル-ブタジエンポリマー、及びそれらのポリマーのコポリマーから製造されうる。粒子のために有機ポリマーを使用することにより、粒子の問題のない融点に遮断効果を得させる。脆化させずに大きさに合わせて切断するのが容易であるプライを製造することがさらに可能である。プライの脆化は通常、プライ中に比較的高い比率の無機粒子があるときに生じる。異なった粒子またはコア-シェル粒子の混合物を用いることがこの背景に対して考えうる。これを用いて、温度の上昇によって工程を追ってまたは段階を追って細孔を隠すことができる。」
「【0034】
繊維不織ウェブ布の繊維は、有機ポリマー、特に、ポリブチルテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート、ポリスルホン、ポリイミド、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリオキシメチレン、ポリアミド、またはポリビニルピロリドンから製造されうる。前述のポリマーを含有する二成分繊維を用いることも考えうる。これらの有機ポリマーを使用することにより、熱収縮が最小なプライを製造することを可能にする。さらに、これらの材料は、バッテリー及びキャパシタに使用された電解質及びガスに対して実質的に電気化学的に安定している。」
「【0039】
プライは、3μm以下の細孔径を有することができる。この細孔径の選択は、短絡を避けるときに特に有利である。細孔径はより好ましくは、1μm以下でありうる。このようなプライは、金属デンドライト成長による、電極粒子からの破壊屑による、及び加圧時の電極間の直接接触による短絡を避けるときに特に有利である。」

6 引用文献6の記載事項
原査定の拒絶の理由に周知技術を示す文献として引用された引用文献6(特開2002-231209号公報)には、以下の記載がある。
「【0007】・・・薄いセパレータを使用した電池が大電流で過充電された時の安全性確保は、セパレータのシャットダウンにより電池の内部抵抗を高くし、過充電電流を遮断する従来の方法のみでは困難である。即ち、セパレータが薄い場合には、従来の方法でシャットダウンすることはできても、これに続いて発生するメルトダウンにより極めて大きな穴が発生し易い。これにより、大きな内部短絡電流が電池内に流れて電池温度をさらに高める結果となり、過充電時の電池の安全性確保が困難となる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、特に薄いセパレータを使用した非水電解液二次電池の安全性に関する上記の問題点を解決し、過充電時の電池温度の過度な上昇が抑制された高容量の非水電解液二次電池を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明の第1の非水電解液二次電池は、正極、負極、リチウム塩を含む非水電解液、および高分子微多孔膜からなるセパレータを備え、前記高分子微多孔膜が、大気中で100?170℃の温度範囲で15?20分間の加熱処理を施された後に、50?700秒/100mlの透気抵抗度を有することを特徴とするものである。」
「【0025】また、この孔径分布において、平均孔径(D_(50))が0.1μmより大きいセパレータを用いた電池の場合には、過充電時の内部短絡電流が多くなり、逆にD_(50)が0.01μm未満の場合には、内部短絡電流が少ないため、過充電状態がさらに進行し、いずれの場合も危険な状況にまで電池温度が上昇する。上記のD_(50)が0.01から0.1μmである場合には、電池の過充電時に適度の内部短絡電流が発生し、電池の過度な温度上昇を効果的に抑制できる。ここでいうD_(50)は、前記孔径分布図の小さい孔径側から大きい孔径側にかけての面積を積算し、その積算面積が全面積の50%になる時の孔径である。
【0026】本発明の非水電解液二次電池におけるセパレータ材料としては、大きなイオン透過度と適度な機械的強度を備えた電子絶縁性の高分子微多孔性膜を用いることが好ましい。具体的には、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂の単独、またはこれらを積層したものや複合化したものなど、耐有機溶剤性と有機溶媒との親和性に優れた高分子の微多孔性膜、さらには耐熱性の観点からアラミド樹脂などからなる微多孔性フィルムや不織布を用いることが好ましい。」
「【0043】《実施例1》本実施例では、物性の異なる各種のポリエチレン(PE)の微多孔膜を作製し、これを所定寸法に裁断して各種のセパレータを作製した。」
「【0057】《実施例3》本実施例では、実施例1と同様にして、13種類のセパレータとこれらを用いた電池を作製し、評価した。」
「【0060】・・・種類10?13のセパレータを用いた電池では、いずれも、過充電時の電池表面の最高到達温度が約150℃という比較的低い温度に抑制されており、これらはいずれも、長さ方向に30kg/cm^(2)または60kg/cm^(2)の引っ張り荷重を与えた状態で100℃または120℃で加熱した後、または、幅方向に固定して120℃または140℃で15分間加熱した後のD_(50)が0.01?0.1μmという物性を有するセパレータを用いた電池であることがわかる。また同時に、この物性を有するならば5?20μmという薄いセパレータを用いても安全性が高い電池が得られることが分かる。一方、種類7?9のセパレータを用いた電池では、いずれも、電池表面の最高到達温度が200℃以上と異常に高く、これらはいずれも、加熱処理後のD_(50)が0.01μm未満、または、0.1μmを越えるセパレータを用いた電池である。」

7 前置報告で引用された特開2006-351488号公報の記載事項
前置報告で引用された特開2006-351488号公報(以下、「前置引用文献2」という。)には、以下の記載がある。
「【0010】
本発明の第1あるいは第2の電池によれば、負極の容量が、軽金属の吸蔵および放出による容量成分と、軽金属の析出および溶解による容量成分とを含み、かつその和で表されるようにしたので、高い容量を得ることができる。更に、第1の電池では、完全充電状態における正極のリチウム金属に対する電位を、負極の容量が軽金属の吸蔵および放出による容量成分により表される電池の正極電位と同一とし、炭素材料の充電容量に対する正極の充電容量の割合を115%以下とするようにしたので、また、第2の電池では、完全充電状態における正極のリチウム金属に対する電位を、負極の容量が軽金属の吸蔵および放出による容量成分により表される電池の正極電位よりも0.05V低くし、炭素材料の充電容量に対する正極の充電容量の割合を110%以下とするようにしたので、充放電を繰り返したのちであっても、高い放電容量を得ることができる。」
「【0025】
・・・なお、炭素材料の充電容量能力は、例えば、リチウム金属を対極として、この炭素材料を負極活物質とした負極について0Vまで定電流・定電圧法で充電した時の電気量から求められる。また、正極21の充電容量は、例えば、リチウム金属を対極として、負極の容量がリチウムの吸蔵および放出による容量成分により表される二次電池よりも0.05V低い正極電位まで定電流・定電圧法で充電した時の電気量から求められる。例えば、完全充電状態における開回路電圧が4.2Vに設計されている場合には、4.2Vまで定電流・定電圧法で充電した時の電気量から求められる。」

8 前置報告で引用された特開2002-237330号公報の記載事項
前置報告で引用された特開2002-237330号公報(以下、「前置引用文献3」という。)には、以下の記載がある。
「【請求項1】 リチウム複合酸化物を正極活物質とする正極、負極、非水系の電解質およびセパレータを有し、電池内に炭素数8以上の炭化水素鎖を有する化合物を含み、かつ前記セパレータが微孔性樹脂フィルムからなり、その厚みが20μm以下で透気度が200秒以下で平均孔径が0.1μm以上であることを特徴とする非水二次電池。」
「【0005】本発明は、上記のような従来の非水二次電池における問題点を解決し、高容量で、かつ過充電時の安全性が高い非水二次電池が提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、リチウム複合酸化物を正極活物質とする正極、負極、非水系の電解質およびセパレータを有する非水二次電池において、電池内に炭素数8以上の炭化水素鎖を有する化合物を含有させ、かつ前記セパレータとして厚みが20μm以下で透気度が200秒以下で平均孔径が0.1μm以上の微孔性樹脂フィルムを用いることによって、上記課題を解決したものである。
【0007】すなわち、電池内に炭素数8以上の炭化水素鎖を有する化合物を含有させると、該炭素数8以上の炭化水素鎖を有する化合物は、セパレータの孔の壁面あるいはその近傍の電解液(液状電解質、電解質としては、一般に電解液と呼ばれている液状電解質が多用されるので、以下、多くの場合、「電解液」で代表させて説明する)中に存在することによって孔の壁面に沿って電解液が濡れやすくなり、過充電の進行に伴って析出するリチウムが細い析出になって正極に達し、軽微な短絡を均一に起こしやすい。また、セパレータとして厚みが20μm以下で透気度が200秒以下で平均孔径が0.1μm以上の微孔樹脂フィルムを用いていると、前記のような析出したリチウムの細い析出を助長し、軽微な短絡をより均一に起こしやすくさせ、それらによって過充電される電流が電池をソフトに短絡させるのに消費されはじめ、実質的な過充電電流が小さくなり、電池の発熱も徐々にバランスが取れて温度上昇しなくなって、電池の膨れや電極の変形を防止することができ、高容量で、かつ過充電時の安全性が高い非水二次電池が得られるようになる。」
「【0015】・・・孔径が0.1μm以上のセパレータを用いると過充電時にセパレータの孔の壁面に沿ってリチウムの析出が起こりやすく、析出したリチウムが正極に達するまでに細い析出になり、軽微な短絡を均一に起こしやすい。・・・それによって過充電される電流が電池をソフトに短絡させるのに消費されはじめ、実質的な過充電電流が小さくなり、電池の発熱も徐々にバランスが取れて温度上昇しなくなってくる。この現象をできるだけ早く効果的に起こさせることが重要であり、そのためのセパレータ物性を検討した結果、セパレータとしては薄い方が好ましく、20μm以下であることを要する。これは薄い方が早く軽微な短絡が起こるからである。このセパレータの厚みは薄い方が適しているが、あまり薄くなるとそれに伴って強度が低下するので、5μm以上が好ましく、9μm以上がより好ましい。15μm以上がさらに好ましい。また、セパレータの平均孔径は、0.1μm以上であることを要するが、0.2μm以上が好ましく、0.3μm以上がより好ましく、0.7μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましく、0.4μm以下がさらに好ましい。これは、セパレータの孔があまり小さくなりすぎると上記現象が起こりにくくなり、大きすぎると電池製造時に短絡を起こす傾向があるからである。」
「【0045】セパレータとしては、・・・平均孔径0.3μm、・・・105℃、8時間での幅方向の熱収縮率が5%の微孔性ポリエチレンフィルムを用い、前記帯状正極をこの微孔性ポリエチレンフィルムからなるセパレータを介して上記帯状負極に重ね、渦巻状に巻回した後、扁平状になるように加圧して扁平状の巻回構造の電極体とした。」

第5 当審の判断
1 本願発明1について
(1)本願発明1と引用発明1の一致点・相違点
ア 本願発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「正極と負極の間に挟装され」と、本願発明1の「正極および負極との間に配置され」は同じ意味であるから、引用発明1の「正極と負極の間に挟装され」る「セパレータ」は、本願発明1の「正極および負極との間に配置されたセパレータ」に相当する。

イ 本願明細書には、以下の記載がある。
「【0029】・・・本明細書において正極のリチウム放出可能な量、負極に含まれる炭素のリチウム受容可能な量は、それぞれの理論容量を意味する。」
「【0034】・・・単位面積当たり充電容量とは、活物質の理論容量から計算される。即ち、単位面積当たりの正極の充電容量は、(正極に用いられる正極活物質の理論容量)/(正極の面積)によって計算される。」

ウ そうすると、本願発明1の「正極が、単位面積当たりの充電容量を3mAh/cm^(2)以上有し」は、(正極に用いられる正極活物質の理論容量)/(正極の面積)によって計算される単位面積当たりの正極の充電容量を3mAh/cm^(2)以上有することを意味していると解釈される。

エ また、本願発明1の「負極に含まれる炭素のリチウム受容可能な量が、正極のリチウム放出可能な量より少なく」は、負極に含まれる炭素の理論容量が、正極の理論容量より少ないことを意味していると解釈される。

オ 以上によれば、本願発明1と引用発明1の一致点及び相違点は、以下のとおりである。

(一致点)
正極と、負極と、電解液と、正極および負極との間に配置されたセパレータと、を含むリチウムイオン二次電池。

(相違点1)
本願発明1では、「正極が、単位面積当たりの充電容量を3mAh/cm^(2)以上有」するのに対して、引用発明1では、正極の単位面積当たりの充電容量、すなわち、(正極に用いられる正極活物質の理論容量)/(正極の面積)によって計算される単位面積当たりの正極の充電容量について何ら規定されていない点。

(相違点2)
本願発明1では、「負極が、金属および/または金属酸化物ならびに炭素を負極活物質として含」むのに対して、引用発明1では、「負極が、炭素系材料、珪素系材料および錫系材料のうちの少なくとも一種を含む負極活物質を有する」点。

(相違点3)
本願発明1では、「負極に含まれる炭素のリチウム受容可能な量が、正極のリチウム放出可能な量より少な」いのに対して、引用発明1では、「前記負極の金属リチウムに対する0Vまでの初回の充電時の単位面積当たりの実容量は、前記正極の金属リチウムに対する4.7Vまでの初回の充電時の単位面積当たりの実容量よりも小さ」いとされるのみで、「負極に含まれる炭素のリチウム受容可能な量」と「正極のリチウム放出可能な量」、すなわち、負極に含まれる炭素の理論容量と正極の理論容量の大小関係について何ら規定されていない点。

(相違点4)本願発明1では、「前記セパレータの熱収縮率が電解液の沸点において3%未満であり、前記セパレータの孔径が0.01μm以上0.5μm未満である」のに対して、引用発明1では、「セパレータとしては、ポリプロピレン製、ポリエチレン製、プロピレンとエチレンとの共重合体などポリオレフィン製の微孔性フィルムや不織布などが好ましく用いられる」点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、まず相違点4について検討する。
ア 引用文献1には、「前記セパレータの熱収縮率が電解液の沸点において3%未満であり、前記セパレータの孔径が0.01μm以上0.5μm未満である」ことについては、記載も示唆もされておらず、熱収縮率が電解液の沸点において3%未満となるようにセパレータの材質を変更し、かつ、孔径を0.01μm以上0.5μm未満とする設計変更を行うことの動機付けとなる記載も存在しない。

イ そして、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2?6の記載事項(前記「第4の2?6」)を考慮しても、熱収縮率が電解液の沸点において3%未満となるようにセパレータの材質を変更し、かつ、孔径を0.01μm以上0.5μm未満とする設計変更を行うことの動機付けを見いだすことはできない。

ウ さらに、前置引用文献2、3の記載事項を参照しても(前記「第4の7、8」)、前置引用文献3に、セパレータとして、平均孔径0.3μmで、105℃、8時間での幅方向の熱収縮率が5%の微孔性ポリエチレンフィルムを用いることが記載されているのみで、引用発明1のセパレータに対し熱収縮率が電解液の沸点において3%未満となるようにセパレータの材質を変更し、かつ、孔径を0.01μm以上0.5μm未満とする設計変更を行うことの動機付けとなる記載は存在しない。

エ したがって、上記相違点4に係る本願発明1の特定事項は、引用文献1?6及び前置引用文献2、3に記載の技術手段から当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。

オ 以上のとおりであるから、相違点1?3について検討するまでもなく、本願発明1は、引用文献1に記載された発明、引用文献2?6及び前置引用文献2、3に記載の技術手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2?9について
(1)本願発明2?8も、引用により本願発明1の発明特定事項を全て備えているから、本願発明1と同様の理由により、引用文献1に記載された発明、引用文献2?6及び前置引用文献2、3に記載の技術手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本願発明9は、リチウムイオン二次電池の製造方法に係る発明であるが、製造対象のリチウムイオン二次電池が本願発明1の発明特定事項を全て備えているから、本願発明1と同様の理由により、引用文献1に記載された発明、引用文献2?6及び前置引用文献2、3に記載の技術手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本願については、原査定の拒絶理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。


 
審決日 2021-09-13 
出願番号 特願2017-508434(P2017-508434)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鈴木 雅雄  
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 粟野 正明
市川 篤
発明の名称 高安全性・高エネルギー密度電池  
代理人 伊藤 克博  

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