• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02F
管理番号 1378206
審判番号 不服2020-14226  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-10-09 
確定日 2021-09-14 
事件の表示 特願2019-518386「反射率可変ミラー」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 6月28日国際公開、WO2018/117721、令和 1年10月17日国内公表、特表2019-530016〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)12月22日(優先権主張 2016年12月23日、韓国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概要は、以下のとおりである。

令和 2年 2月13日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 5月22日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 6月16日付け:拒絶査定(原査定)
令和 2年10月 9日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 2年12月 8日 :上申書の提出
令和 3年 2月25日 :上申書の提出

第2 令和2年10月9日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
令和2年10月9日にされた手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
令和2年10月9日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は、次のとおり補正された(下線は、補正箇所を示すために請求人が付したものである。)。

[本件補正前]
「液晶および異方性染料を含むゲストホスト液晶層を有する第1液晶セル、
一方向に形成された第1反射軸を有する第1反射型偏光フィルム、
線偏光の振動方向を90度回転させる位相差モードと非位相差モードを切り替える位相差可変液晶層を有する第2液晶セル、
前記第1反射軸と平行な第2反射軸を有する第2反射型偏光フィルムおよび
吸収板を順に含む、反射率可変ミラーであって、
前記反射率可変ミラーは、電圧が印加されているか否かに応じて鏡モードと反射防止モードとを切り替え、
前記反射率可変ミラーは、前記第1液晶セル及び前記第2液晶セルの各々に電圧が印加されていない状態において前記第1液晶セルが垂直配向状態にあり前記第2液晶セルが前記位相差モードにあるときに前記鏡モードを具現し、
前記反射率可変ミラーは、前記第1液晶セル及び前記第2液晶セルの各々に電圧が印加されている状態において前記第1液晶セルが水平配向状態にあり前記第2液晶セルが前記非位相差モードにあるときに前記反射防止モードを具現する、反射率可変ミラー。」

[本件補正後]
「液晶および異方性染料を含むゲストホスト液晶層を有する第1液晶セル、
一方向に形成された第1反射軸を有する第1反射型偏光フィルム、
線偏光の振動方向を90度回転させる位相差モードと非位相差モードを切り替える位相差可変液晶層を有する第2液晶セル、
前記第1反射軸と平行な第2反射軸を有する第2反射型偏光フィルムおよび
吸収板を順に含む、反射率可変ミラーであって、
前記反射率可変ミラーは、電圧が印加されているか否かに応じて鏡モードと反射防止モードとを切り替え、
前記反射率可変ミラーは、前記第1液晶セル及び前記第2液晶セルの各々に電圧が印加されていない状態において前記第1液晶セルが垂直配向状態にあり前記第2液晶セルが前記位相差モードにあるときに前記鏡モードを具現し、
前記反射率可変ミラーは、前記第1液晶セル及び前記第2液晶セルの各々に電圧が印加されている状態において前記第1液晶セルが水平配向状態にあり前記第2液晶セルが前記非位相差モードにあるときに前記反射防止モードを具現し、
前記鏡モードは、前面光反射率が50%以上であり、前記前面光反射率が正反射光を含み、かつ前記前面光反射率が前面光入射光量を100%にした場合の数値であるモードを意味し、
前記第1反射型偏光フィルムの前記第1反射軸は、前記ゲストホスト液晶層の水平配向時に前記異方性染料の吸収軸方向と平行であり、
前記第2反射型偏光フィルムの第2反射軸は、前記位相差モードにおいて前記位相差可変液晶層の位相差モードを通過した線偏光の振動方向と平行である、反射率可変ミラー。」

2 補正の適否
本件補正は、
本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「鏡モード」について、「前面光反射率が50%以上であり、前記前面光反射率が正反射光を含み、かつ前記前面光反射率が前面光入射光量を100%にした場合の数値であるモードを意味」するとの限定を付加し、
本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「第1反射型偏光フィルム」の「第1反射軸」について、「前記ゲストホスト液晶層の水平配向時に前記異方性染料の吸収軸方向と平行であ」るとの限定を付加し、
本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「第2反射型偏光フィルム」の「第2反射軸」について、「前記位相差モードにおいて前記位相差可変液晶層の位相差モードを通過した線偏光の振動方向と平行である」との限定を付加するものであって、
本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)は、上記1の[本件補正後]に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載及び引用発明
ア 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である特表2015-511329号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は当審が付した。)

(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、車両、窓、サンバイザ、ヘルメット、携帯電話、及び様々な他のアプリケーションに使用するための様々な反射偏光子、吸収偏光子、及び偏極回転子構成を使用する電子的調光可能反射又は透過光学装置に関する。」

(イ)「【0026】
また、本明細書で企図されるのは、上述のような反射装置又はミラーであるが、加えて、装置又はミラーの非可視側に置かれたディスプレイを有する反射装置又はミラーであり、ディスプレイから放射された光の少なくとも一部が光学装置の可視面(viewing surface)まで透過されるように構成される。
【0027】
上述の装置のいずれも、最大反射率状態にあるときに装入射光の50%超を反射することができるように構成される。いくつかの例では、装置の反射率は、その最大反射率状態にあるときには60%、70%、80%、又は90%より大きい。」

(ウ)「【0076】
用語「x」及び「y」方向偏極は、任意であり、互いに直角である光の第1及び及び第2の直交又は円偏極方向を指す。「x」及び「y」方向偏極は、本発明の説明を簡単にするためにだけ、例えば「第1」及び「第2」偏極方向と呼ぶ代わりに使用され、方向のいかなる固定された値も指さない。
・・・(中略)・・・
【0078】
通常、用語「偏極」は入射光の電界の振動方向を指す。線偏極、円偏極、非偏極間の差異は、どのように偏極の一意的表現が判断されるかにある。特に、線偏極システムでは、振動は単一軸方向x又はyに発生する。円偏極では、振動は、円又は楕円を描きながら時間又は空間において回転する。未偏光では、振動方向を一意的に定義することができない。未偏光は、(i)等量の両直交偏極が存在し、(ii)偏極の方向が常にランダムであり定義することができない光とみなされる。」

(エ)「【0083】
本明細書に記載の装置では、二色性染料分子(dichroic dye molecule)がネマチック(nematic)又はキラルネマチック(chiral nematic)液晶(LC:liquid crystal)層中に溶解されるゲストホストシステムを使用することにより、切り替え可能偏光子を提供することができる。染料分子(ゲスト)はLC分子(ホスト)の有無により配向される。層に電界を印加することでLC分子を再配向し、染料分子はこの再配向に従う。このようなスタックは、1つの偏極の光を吸収し、又は透明であるかのいずれかである。この目的のために混合液晶に添加することができる好適な染料は当該技術領域で知られている。1つの偏波の他に対する優先的吸収の程度は印加電圧に依存する。
【0084】
本発明の吸収偏光子は、その偏極/吸収特性を外部電界(電圧)の印加により変えることができるという点で能動的であると考えられる。さらに、この能動偏光子は、ホメオトロピック整合セル(homeotropically aligned cell)内の正の二色性染料と合成される負の誘電体異方性ホストを含むゲストホスト液晶システム又はセルに基づく。または、正の誘電体異方性ホストは、プレーナ整合セル(planar aligned cell)内で正の二色性染料と共に使用することができる。自動車において使用されるものなどの自動調光反射装置については、ホメオトロピックベースのシステムが電圧オフ状態においてほぼ100%反射率を与えるのにより適している。液晶セルは、電圧の印加がセルを通る光の透過の変化となるように設計される。より具体的には、電圧の印加は、1つの偏波の吸収を他のものより多く、優先的に増加するだろう。優先的に吸収された偏波の軸は能動偏光子の吸収軸に一致する。
【0085】
媒体中を伝播するにつれて入射光の偏極を回転する「偏極回転子膜」又は層は、ツイストネマチック(TN:twisted nematic)ベースの装置、又は電子的制御複屈折(ECB:electronically controlled birefringenceとして広く分類された)ベースの装置において使用されるようなより波長選択性である装置などの広帯域回転子装置(broad band rotator device)である可能性がある。この膜はその性能が印加電圧に依存するという点で能動的であると考えられる。適正な性能では、偏極回転子の軸は光の偏極の軸に対して特定角度になるということが知られている。例えば、広帯域装置では、TNの軸は入射光の偏極軸に対して平行である。偏極回転子は、電界又は電圧の印加により活性化されると偏極回転を行うように設計することができる。これは、例えばホメオトロピック配向層と共に負の誘電体異方性液晶を使用することにより、又は逆もまた同様で、正の誘電体異方性液晶とプレーナ整合層(planar alignment layer)を使用することにより実現される。一般的に、電圧の印加は、液晶の配向としたってシステムの全体複屈折とを変える。この変化は前者では正、又は後者では負である可能性がある。したがって、例えば、正の誘電体異方性液晶とプレーナ整合層において、電圧の印加は、異なる偏極により観測される複屈折を低減し、したがって2つの偏極間の位相遅延を低減する。複屈折が最大印加電圧においてほぼ零近くである場合、位相遅延は観測されず、したがって偏極回転はセル内で発生しない。」

(オ)「【0100】
実施例2
図3及び図4に示される別の実施形態では、調光システム用に設計された第2の構成が示される。システム50は、活性化されるとx方向に吸収軸を有する能動偏光子52、x方向に反射軸を有する隣接する第1の静的反射偏光子54、隣接する能動偏極回転子56、続いてx方向に反射軸を有する第2の静的反射偏光子58を含む。能動偏光子52と能動偏極回転子56は独立に動作され得るということに注意すべきである。
【0101】
図3及び表3に、オフ(v-0すなわち電圧オフ)状態で機能している装置を示す。x及びy偏極の両方を有する未偏極光30はx方向に配向された第1の(能動吸収偏光子)へ入射する。印加電圧の無い状態では、能動吸収偏光子52は入射偏波に対して最小限の影響を有する。したがって、両偏波は主に、次の表面まで通過することになる。次に、光は、x方向に配向された第1の静的反射偏光子54に当たる。反射偏光子54は、光のX軸偏波を主に反射し、y方向偏波を主に透過する。x方向偏光は、不変のまま能動偏光子52を通過して戻り、装置から出る。したがって、未偏極光の約50%は最初の2層内で反射される。y方向偏光は第1の反射偏光子を通過し、能動偏極回転子56に当たる。電圧が印加されていないとき、偏極回転子(PR2)56は偏極を変える。したがって、y方向偏光は今やx方向偏光に配向され、第2の静的反射偏光子58へ続く。第2の反射偏光子58はx方向に配向され、したがってx偏光を反射し戻すことになる。この光は偏極回転子56を通過し、再びY方向に変えられる。y方向光は、x方向に配向されてy方向偏光を透過する第1の静的反射器54へ続く。能動偏光子52はオフ状態にあるので、y方向偏光は当該層を通り続け装置から出る。これは、光の残りの50%もまた反射されることを意味するが、第2の反射偏光子58を横断した後である。全体として、x方向及びy方向偏光の両方は主に、電圧オフ状態で反射される。
【0102】
図4及び表4に、最大電圧(VmaxすなわちV=1)最小反射率状態で機能している装置50を示す。x及びy偏極の両方を有する未偏極光がx方向に配向された能動吸収偏光子52へ入射する。電圧印加状態で、能動吸収偏光子52は従来の偏光子と同様な方法で振る舞うことになる。これは、x方向偏波を吸収する一方でy偏波が伝播できるようにすることを意味する。したがって、光のx偏波は大部分は消滅する。y方向偏波は、第1の能動偏光子52と第1の静的反射偏光子54の両方により主に透過されるだろう。次に、y方向偏波は活性化された偏極回転子56に当たる。その能動状態の偏極回転子は偏極を回転させないので、y方向偏光は影響されること無く通過することになる。次に、このy方向偏光は、x方向に設定された第2の静的反射偏光子58に当たる。したがって、y方向偏光は通過することになる。
【0103】
反射(例えば、ミラー)アプリケーションでは、ビームブロック20は、この透過光を消滅させるために使用することができる。したがって、x方向及びy方向偏光の両方が主に吸収され、いかなる光も装置から反射されない(又は最小限の光量だけが反射される)。
・・・(中略)・・・
【0106】
【表3】

【0107】
【表4】



(カ)図3は次のものである。

(キ)図4は次のものである。

(ク)【0076】及び【0078】(上記(ウ))によれば、【0101】及び【0102】(上記(オ))に記載された「x方向偏光」及び「y方向偏光」は、線偏光であり、光の振動方向が互いに直交する。

(ケ)【0100】、【0103】(上記(オ))及び図3によれば、「システム50」は、「活性化されるとx方向に吸収軸を有する能動偏光子52」、「x方向に反射軸を有する」「第1の静的反射偏光子54」、「能動偏極回転子56」、「x方向に反射軸を有する第2の静的反射偏光子58」及び「ビームブロック20」を順に含む。

(コ)【0083】(上記(エ))によれば、【0100】及び図3に記載の「能動偏光子52」として、「二色性染料分子(dichroic dye molecule)がネマチック(nematic)」「液晶(LC:liquid crystal)層中に溶解されるゲストホストシステム」が「使用」できる。

(サ)【0085】(上記(エ))によれば、【0100】及び図3に記載の「能動偏極回転子56」として、「ツイストネマチック(TN:twisted nematic)ベースの装置」が「使用」できる。

(シ)【0101】及び【表3】(上記(オ))によれば、「能動偏極回転子56」は「電圧が印加されていないとき」、「x方向偏光」を「90°回転」して「y方向偏光」とし、「y方向偏光」を「90°回転」して「x方向偏光」とするものである。

(ス)上記記載及び図面から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。(括弧書きは、参考までに、記載の根拠を示したものである。)

「システム50は、活性化されるとx方向に吸収軸を有する能動偏光子52、x方向に反射軸を有する第1の静的反射偏光子54、能動偏極回転子56、x方向に反射軸を有する第2の静的反射偏光子58及びビームブロック20を順に含み、(上記(ケ))
能動偏光子52として、二色性染料分子がネマチック液晶層中に溶解されるゲストホストシステムが使用でき、(上記(コ))
能動偏極回転子56として、ツイストネマチックベースの装置が使用でき、(上記(サ))
x方向偏光及びy方向偏光は、線偏光であり、光の振動方向が互いに直交し、(上記(ク))
システム50が電圧オフ状態のとき、(【0101】)
x及びy偏極の両方を有する未偏極光30はx方向に配向された能動吸収偏光子へ入射し、印加電圧の無い状態では、能動吸収偏光子52は入射偏波に対して最小限の影響を有し、両偏波は主に、次の表面まで通過し、次に、光は、x方向に配向された第1の静的反射偏光子54に当たり、反射偏光子54は、光のX軸偏波を主に反射し、y方向偏波を主に透過し、x方向偏光は、不変のまま能動偏光子52を通過して戻り、装置から出て、y方向偏光は第1の反射偏光子を通過し、能動偏極回転子56に当たり、電圧が印加されていないとき、偏極回転子56は偏極を変え、(【0101】)
y方向偏光は90°回転してx方向偏光に配向され、(【0101】、上記(シ))
第2の静的反射偏光子58へ続き、第2の反射偏光子58はx方向に配向され、したがってx偏光を反射し戻し、この光は偏極回転子56を通過し、再びY方向に変えられ、y方向光は、x方向に配向されてy方向偏光を透過する第1の静的反射器54へ続き、能動偏光子52はオフ状態にあるので、y方向偏光は当該層を通り続け装置から出て、全体として、x方向及びy方向偏光の両方は主に、電圧オフ状態で反射され、(【0101】)
システム50が最大電圧最小反射率状態のとき、(【0102】)
x及びy偏極の両方を有する未偏極光がx方向に配向された能動吸収偏光子52へ入射し、電圧印加状態で、能動吸収偏光子52は、x方向偏波を吸収する一方でy偏波が伝播できるようにして、光のx偏波は大部分は消滅し、y方向偏波は、第1の能動偏光子52と第1の静的反射偏光子54の両方により主に透過され、次に、y方向偏波は活性化された偏極回転子56に当たり、その能動状態の偏極回転子は偏極を回転させないので、y方向偏光は影響されること無く通過し、次に、このy方向偏光は、x方向に設定された第2の静的反射偏光子58に当り、y方向偏光は通過し、(【0102】)
ビームブロック20は、この透過光を消滅させ、したがって、x方向及びy方向偏光の両方が主に吸収され、いかなる光も装置から反射されない、(【0102】)
システム50」

(3)対比
本件補正発明と引用発明を対比する。

ア 本件補正発明の「液晶および異方性染料を含むゲストホスト液晶層を有する第1液晶セル、」との特定事項について
引用発明の「能動偏光子52」には「二色性染料分子がネマチック液晶層中に溶解されるゲストホストシステムが使用でき」るところ、引用発明の「ネマチック液晶」は本件補正発明の「液晶」に相当し、引用発明の「二色性染料分子」は本件補正発明の「異方性染料」に相当し、引用発明の「二色性染料分子」が「溶解され」た「ネマチック液晶層」は本件補正発明の「ゲストホスト液晶層」に相当するから、引用発明の「能動偏光子52」は、本件補正発明の「第1液晶セル」に相当する。
したがって、引用発明は、本件補正発明の上記特定事項を備える。

イ 本件補正発明の「一方向に形成された第1反射軸を有する第1反射型偏光フィルム、」との特定事項について
引用発明は「x方向に反射軸を有する第1の静的反射偏光子54」を備えるところ、引用発明の「反射軸」及び「第1の静的反射偏光子54」は、それぞれ、本件補正発明の「第1反射軸」及び「第1反射型偏光フィルム」に相当する。
したがって、引用発明は、本件補正発明の上記特定事項を備える。

ウ 本件補正発明の「線偏光の振動方向を90度回転させる位相差モードと非位相差モードを切り替える位相差可変液晶層を有する第2液晶セル、」との特定事項について
引用発明の「能動偏極回転子56」は「ツイストネマチックベースの装置が使用でき」るところ、上記「ツイストネマチックベースの装置」が液晶セルを備えることは明らかである。
また、引用発明の「能動偏極回転子56」は、「電圧が印加されていないとき」「線偏光であ」る「y方向偏光」を「90°回転してx方向偏光に配向」(偏光)し、「活性化された」「能動状態」では「偏極を回転させ」ないものである。そうすると、引用発明の「能動偏極回転子56」は、「印加電圧」に基づいて「線偏光」の振動方向を「90°回転」させるモードと「線偏光」の振動方向を変化させないモードとを切り替え可能であるといえ、前者のモードは本件補正発明の「位相差モード」に相当し、後者のモードは本件補正発明の「非位相差モード」に相当する。
よって、引用発明の「能動偏極回転子56」は、本件補正発明の「第2液晶セル」に相当する。
したがって、引用発明は、本件補正発明の上記特定事項を備える。

エ 本件補正発明の「前記第1反射軸と平行な第2反射軸を有する第2反射型偏光フィルムおよび吸収板」との特定事項について
引用発明は「x方向に反射軸を有する第2の静的反射偏光子58」を備えるところ、引用発明の「x方向」の「反射軸」及び「第2の静的反射偏光子58」は、それぞれ、本件補正発明の「第2反射軸」及び「第2反射型偏光フィルム」に相当する。
また、引用発明の「ビームブロック20」は「x方向及びy方向偏光の両方」を「吸収」するから、本件補正発明の「吸収板」に相当する。
したがって、引用発明は、本件補正発明の上記特定事項を備える。

オ 本件補正発明の「を順に含む、反射率可変ミラーであって、」との特定事項について
引用発明は「能動偏光子52」、「第1の静的反射偏光子54」、「能動偏極回転子56」、「第2の静的反射偏光子58」及び「ビームブロック20」を「順に含」む。
また、引用発明の「システム50」は、「電圧オフ状態のとき」「x方向及びy方向偏光の両方」を「反射」し、「最大電圧最小反射率状態のとき」「x方向及びy方向偏光の両方」を「吸収」するから、反射率が可変であるミラーを構成しているといえる。
よって、引用発明の「システム50」は、本件補正発明の「反射率可変ミラー」に相当する。
したがって、引用発明は、本件補正発明の上記特定事項を備える。

カ 本件補正発明の「前記反射率可変ミラーは、電圧が印加されているか否かに応じて鏡モードと反射防止モードとを切り替え、」との特定事項について
上記オによれば、引用発明の「システム50」は、「電圧オフ状態のとき」「x方向及びy方向偏光の両方」を「反射」するモードと「最大電圧最小反射率状態のとき」「x方向及びy方向偏光の両方」を「吸収」するモードとを切り替え可能であるといえ、前者のモードは本件補正発明の「鏡モード」に相当し、後者のモードは本件補正発明の「反射防止モード」に相当する。
したがって、引用発明は、本件補正発明の上記特定事項を備える。

キ 本件補正発明の「前記反射率可変ミラーは、前記第1液晶セル及び前記第2液晶セルの各々に電圧が印加されていない状態において前記第1液晶セルが垂直配向状態にあり前記第2液晶セルが前記位相差モードにあるときに前記鏡モードを具現し、」との特定事項について
引用発明の「システム50」は「電圧オフ状態のとき」「x方向及びy方向偏光の両方」を「反射」するモードとなる(上記カ)ところ、このモードにおいて、「能動偏光子52」は「印加電圧の無い状態」であり、「能動偏極回転子56」は「電圧が印加されていない」状態であり「線偏光」の振動方向を「90°回転」させるモードとなる(上記ウ)。
したがって、引用発明は、本件補正発明の上記特定事項のうち、「前記反射率可変ミラーは、前記第1液晶セル及び前記第2液晶セルの各々に電圧が印加されていない状態において」「前記第2液晶セルが前記位相差モードにあるときに前記鏡モードを具現し、」との特定事項を備える。

ク 本件補正発明の「前記反射率可変ミラーは、前記第1液晶セル及び前記第2液晶セルの各々に電圧が印加されている状態において前記第1液晶セルが水平配向状態にあり前記第2液晶セルが前記非位相差モードにあるときに前記反射防止モードを具現し、」との特定事項について
引用発明の「システム50」は「最大電圧最小反射率状態のとき」「x方向及びy方向偏光の両方」を「吸収」するモードとなる(上記カ)ところ、このモードにおいて、「能動偏光子52」は「電圧印加状態」であり、「能動偏極回転子56」は「活性化された」「能動状態」であり「線偏光」の振動方向を変化させないモードとなる(上記ウ)。
したがって、引用発明は、本件補正発明の上記特定事項のうち、「前記反射率可変ミラーは、前記第1液晶セル及び前記第2液晶セルの各々に電圧が印加されている状態において」「前記第2液晶セルが前記非位相差モードにあるときに前記反射防止モードを具現し、」との特定事項を備える。

ケ 本件補正発明の「前記鏡モードは、前面光反射率が50%以上であり、前記前面光反射率が正反射光を含み、かつ前記前面光反射率が前面光入射光量を100%にした場合の数値であるモードを意味し、」との特定事項について
引用発明は、本件補正発明の上記特定事項を備えない。

コ 本件補正発明の「前記第1反射型偏光フィルムの前記第1反射軸は、前記ゲストホスト液晶層の水平配向時に前記異方性染料の吸収軸方向と平行であり、」との特定事項について
引用発明は、本件補正発明の上記特定事項を備えない。

サ 本件補正発明の「前記第2反射型偏光フィルムの第2反射軸は、前記位相差モードにおいて前記位相差可変液晶層の位相差モードを通過した線偏光の振動方向と平行である、」との特定事項について
引用発明の「第2の静的反射偏光子58」は「x方向に反射軸を有する」ところ、引用発明の「能動偏極回転子56」は、「電圧が印加されていないとき」、「線偏光であ」る「y方向偏光」を「90°回転してx方向偏光に配向」(偏光)するものである(上記ウ)。
したがって、引用発明は、本件補正発明の上記特定事項を備える。

シ 本件補正発明の「反射率可変ミラー。」との特定事項について
上記オで説示したように、引用発明は、本件補正発明の上記特定事項を備える。

ス 以上ア?シにより、本件補正発明と引用発明は、下記の点で一致している。

[一致点]
「液晶および異方性染料を含むゲストホスト液晶層を有する第1液晶セル、
一方向に形成された第1反射軸を有する第1反射型偏光フィルム、
線偏光の振動方向を90度回転させる位相差モードと非位相差モードを切り替える位相差可変液晶層を有する第2液晶セル、
前記第1反射軸と平行な第2反射軸を有する第2反射型偏光フィルムおよび
吸収板を順に含む、反射率可変ミラーであって、
前記反射率可変ミラーは、電圧が印加されているか否かに応じて鏡モードと反射防止モードとを切り替え、
前記反射率可変ミラーは、前記第1液晶セル及び前記第2液晶セルの各々に電圧が印加されていない状態において前記第2液晶セルが前記位相差モードにあるときに前記鏡モードを具現し、
前記反射率可変ミラーは、前記第1液晶セル及び前記第2液晶セルの各々に電圧が印加されている状態において前記第2液晶セルが前記非位相差モードにあるときに前記反射防止モードを具現し、
前記第2反射型偏光フィルムの第2反射軸は、前記位相差モードにおいて前記位相差可変液晶層の位相差モードを通過した線偏光の振動方向と平行である、反射率可変ミラー。」

他方、本件補正発明と引用発明は、次の点で相違する。

[相違点1]
第1液晶セルにつき、本件補正発明は、電圧が印加されていない状態において「垂直配向状態にあり」、電圧が印可されている状態において「水平配向状態にあ」るのに対し、引用発明では、電圧が印加されていない状態と電圧が印加されている状態においてどのような配向状態にあるか不明である点

[相違点2]
本件補正発明においては、鏡モードは、「前面光反射率が50%以上であり、前記前面光反射率が正反射光を含み、かつ前記前面光反射率が前面光入射光量を100%にした場合の数値であるモードを意味」するのに対し、引用発明においては、そのような特定がなされていない点

[相違点3]
本件補正発明においては、第1反射型偏光フィルムの第1反射軸が、「ゲストホスト液晶層の水平配向時に前記異方性染料の吸収軸方向と平行であ」るのに対し、引用発明においては、そのような特定がなされていない点

(4)判断
ア 相違点1ないし3について
(ア)相違点1及び相違点3を以下まとめて判断する。
引用文献1の【0084】には「この能動偏光子は、ホメオトロピック整合セル(homeotropically aligned cell)内の正の二色性染料と合成される負の誘電体異方性ホストを含むゲストホスト液晶システム又はセルに基づく。または、正の誘電体異方性ホストは、プレーナ整合セル(planar aligned cell)内で正の二色性染料と共に使用することができる。」と記載されているところ、上記「能動偏光子」は引用発明の「能動偏光子52」を指し、上記「ホメオトロピック整合セル(homeotropically aligned cell)」は電圧が印加されていない状態で垂直配向状態となる液晶セルを指し(佐藤進 著、「液晶の世界」、産業図書株式会社、平成6年4月15日、p.64-66、143)、上記「正の二色性染料」は長軸方向に偏光した光の吸収率が大きい二色性染料分子を指し、上記「負の誘電体異方性ホスト」は負の誘電率異方性を有する液晶を指すから、引用発明の「能動偏光子52」の「ネマチック液晶」及び「二色性染料分子」は、電圧が印加されていない状態で垂直配向状態であり、電圧が印加されている状態で水平配向状態であるといえる。
以上によれば、引用発明は上記相違点1に係る本件補正発明の構成を備えるから、上記相違点1は実質的な相違点とはいえない。
また、引用発明においては、「能動偏光子52」の「二色性染料分子」は、電圧が印加されている状態で、「ネマチック液晶」に追随して水平配向状態となって「x方向偏波を吸収する」のであるから、「二色性染料分子」の吸収軸は「x方向」であるといえ、「x方向に反射軸を有する第1の静的反射偏光子54」の「反射軸」とは平行となる。よって、引用発明は上記相違点3に係る本件補正発明の構成を備えるから、上記相違点3もまた実質的な相違点とはいえない。

(イ)相違点2について
引用文献1の【0027】の「装置の反射率は、その最大反射率状態にあるときには60%、70%、80%、又は90%より大きい。」との記載、【0084】の「ホメオトロピックベースのシステムが電圧オフ状態においてほぼ100%反射率を与えるのにより適している。」との記載を考慮すれば、引用発明の「システム50」は、「x方向及びy方向偏光の両方」を「反射」するモードにおいて、相違点2に係る本件補正発明の構成を備えている蓋然性が高い。仮にそこまでいえないとしても、引用発明の「システム50」が本件補正発明でいう「鏡モード」を具現する際、「システム50」の反射率を高めることは当然の要請であるから、引用発明において、相違点2に係る本件補正発明の構成とすることに困難は認められない。

イ 以上によれば、本件補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ 本件補正発明の効果について
本件補正発明の効果は、引用発明から予測し得る程度のものであって格別なものということはできない。

エ 請求人の主張について
(ア)請求人は令和2年10月9日に提出された審判請求書の「(d)本願発明と引用発明との対比」「(イ)引用文献1について」において、引用文献1には第1液晶セル(GHLCセル)が垂直配向状態である場合に反射率可変ミラーが鏡モードを具現するという特徴が記載も示唆もされていない旨主張(以下「主張1」という。)する。
しかしながら、上記ア(ア)において説示したとおり、引用発明の「能動偏光子52」は、電圧が印加されていない状態で垂直配向状態となるものである。そして上記電圧が印加されていない状態において、引用発明の「システム50」は、本件補正発明でいう「鏡モード」を具現するものである(上記(3)キ)。
よって、請求人の上記主張1は採用できない。

(イ)請求人は令和2年10月9日に提出された審判請求書の「(d)本願発明と引用発明との対比」「(ニ)周知技術について」において、特開2016-118601号公報(以下「文献2」という。)及び特開2010-202799号公報(以下「文献3」という。)はいずれも本件補正発明及び引用文献1に記載の発明とは技術分野も課題も全く異なることから、文献2、3に記載された周知技術は本件補正発明及び引用文献1に記載の発明の技術分野で周知であったとはいえず、本件補正発明は、引用文献1、文献2及び3に記載の発明に基づいて容易に想到しえない旨主張(以下「主張2」という。)する。
しかしながら、上記ア及びイにおいて説示したとおり、本件補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、文献2及び文献3は周知な知見を示すに過ぎず、引用文献1、文献2及び3に基づいて容易に発明をすることができると説示したわけではない。
よって、請求人の上記主張2は採用できない。

(ウ)なお、請求人は令和3年2月25日に提出された上申書において補正案を提示しているため、上記補正案について以下検討する。
上記補正案の請求項1に係る発明は、本件補正発明において「前記第1液晶セルは、前記ゲストホスト液晶層の両側に対向配置された第1配向膜および第2配向膜であって、前記液晶および前記異方性染料を垂直配向膜の平面に対して垂直に配列する垂直配向膜である第1配向膜および第2配向膜をさらに含む」点を特定するものであるところ、引用発明において、「能動偏光子52」の「ネマチック液晶」及び「二色性染料分子」を、電圧が印加されていない状態で垂直配向状態とするには、「液晶層」の両側に垂直配向膜が必要であることは明らかである。
よって、上記補正案の請求項1に係る発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができるものである。

(5)小括
したがって、本件補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和2年10月9日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和2年5月22日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1の[本件補正前]に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、
本願発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である引用文献1に記載された発明に基づいて、本願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない
というものである。

3 進歩性について
(1)引用文献の記載及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献の記載及び引用発明は、上記第2[理由]2(2)に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記第2[理由]2で検討した本件補正発明から、
「鏡モード」について、「前面光反射率が50%以上であり、前記前面光反射率が正反射光を含み、かつ前記前面光反射率が前面光入射光量を100%にした場合の数値であるモードを意味」するとの限定を削除し、
「第1反射型偏光フィルム」の「第1反射軸」について、「前記ゲストホスト液晶層の水平配向時に前記異方性染料の吸収軸方向と平行であ」るとの限定を削除し、
「第2反射型偏光フィルム」の「第2反射軸」について、「前記位相差モードにおいて前記位相差可変液晶層の位相差モードを通過した線偏光の振動方向と平行である」との限定を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2021-03-31 
結審通知日 2021-04-05 
審決日 2021-04-23 
出願番号 特願2019-518386(P2019-518386)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横井 亜矢子  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 佐藤 洋允
吉野 三寛
発明の名称 反射率可変ミラー  
代理人 実広 信哉  
代理人 渡部 崇  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ