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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16F 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16F |
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管理番号 | 1378255 |
審判番号 | 不服2020-17552 |
総通号数 | 263 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-11-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-12-23 |
確定日 | 2021-09-16 |
事件の表示 | 特願2019- 82557「コイルスプリングの製造方法およびコイルスプリング」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 7月25日出願公開、特開2019-124363〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件に係る出願は、平成27年3月31日に出願した特願2015-72496号の一部を平成31年4月24日に新たに出願したものであって、その手続の経緯は、以下のとおりである。 令和2年 2月25日付け:拒絶理由通知書 令和2年 5月 7日 :意見書、手続補正書の提出 令和2年 9月18日付け:拒絶査定(以下、「原査定」という。) 令和2年12月23日 :審判請求書、手続補正書の提出 第2 令和2年12月23日にした手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和2年12月23日にした手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について(補正の内容) (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1?4の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。) 「【請求項1】 硬度が高い箇所と、前記箇所よりも硬度が低い軟化箇所とを有し、前記硬度が高い箇所は、折損時に他部品で受けられる構造とされ、 前記硬度が高い箇所の線材は巻線ピッチが広くバネ定数が大きく、前記硬度が低い軟化箇所の線材は巻線ピッチが狭くバネ定数が小さく形成され、荷重が小さい場合には、前記硬度が高い箇所の線材と前記硬度が低い軟化箇所の線材とはそれぞれ密着せず、荷重が大きい場合には、前記硬度が高い箇所の線材は密着しないとともに前記硬度が低い軟化箇所の線材は密着するコイルスプリングの製造方法であって、 成形前の線材を加熱する工程と、 加熱された前記線材をらせん状に成形する工程と、 らせん状に成形された前記線材を焼入れおよび焼戻しする工程と、 一対の電極を、焼入れ焼戻しされた前記線材における前記軟化箇所とする箇所の両面にあてがって通電加熱する工程とを 含むことを特徴とするコイルスプリングの製造方法。 【請求項2】 硬度が高い箇所と、前記箇所よりも硬度が低い軟化箇所とを有し、前記硬度が高い箇所は、折損時に他部品で受けられる構造とされているコイルスプリングの製造方法であって、 成形前の線材を加熱する工程と、 加熱された前記線材をらせん状に成形する工程と、 らせん状に成形された前記線材を前記軟化箇所を除いて焼入れする工程と、 前記軟化箇所を除いて焼入れされた前記線材を、前記軟化箇所を除いて焼戻しする工程とを 含むことを特徴とするコイルスプリングの製造方法。 【請求項3】 硬度が高い箇所と、前記箇所よりも硬度が低い軟化箇所とを有し、前記硬度が高い箇所は、折損時に他部品で受けられる構造とされているコイルスプリングの製造方法であって、 成形前の線材をらせん状に成形する工程と、 らせん状に成形された前記線材に歪取りを行う工程と、 一対の電極を、歪取りされた前記線材における前記軟化箇所とする箇所の両面にあてがって通電加熱する工程とを 含むことを特徴とするコイルスプリングの製造方法。 【請求項4】 硬度が高い箇所と、前記箇所よりも硬度が低い箇所とを有し、前記硬度が高い箇所は、折損時に他部品で受けられる構造とされ、 前記硬度が高い箇所の線材は巻線ピッチが広くバネ定数が大きく、前記硬度が低い箇所の線材は巻線ピッチが狭くバネ定数が小さく形成され、荷重が小さい場合には、前記硬度が高い箇所の線材と前記硬度が低い箇所の線材とはそれぞれ密着せず、荷重が大きい場合には、前記硬度が高い箇所の線材は密着しないとともに前記硬度が低い箇所の線材は密着する ことを特徴とするコイルスプリング。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の特許請求の範囲は、令和2年5月7日にした手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された次のとおりである。 「【請求項1】 硬度が高い箇所と、前記箇所よりも硬度が低い軟化箇所とを有し、前記硬度が高い箇所は、折損時に他部品で受けられる構造とされているコイルスプリングの製造方法であって、 成形前の線材を加熱する工程と、 加熱された前記線材をらせん状に成形する工程と、 らせん状に成形された前記線材を焼入れおよび焼戻しする工程と、 一対の電極を、焼入れ焼戻しされた前記線材における前記軟化箇所とする箇所の両面にあてがって通電加熱する工程とを 含むことを特徴とするコイルスプリングの製造方法。 【請求項2】 硬度が高い箇所と、前記箇所よりも硬度が低い軟化箇所とを有し、前記硬度が高い箇所は、折損時に他部品で受けられる構造とされているコイルスプリングの製造方法であって、 成形前の線材を加熱する工程と、 加熱された前記線材をらせん状に成形する工程と、 らせん状に成形された前記線材を前記軟化箇所を除いて焼入れする工程と、 前記軟化箇所を除いて焼入れされた前記線材を、前記軟化箇所を除いて焼戻しする工程とを 含むことを特徴とするコイルスプリングの製造方法。 【請求項3】 硬度が高い箇所と、前記箇所よりも硬度が低い軟化箇所とを有し、前記硬度が高い箇所は、折損時に他部品で受けられる構造とされているコイルスプリングの製造方法であって、 成形前の線材をらせん状に成形する工程と、 らせん状に成形された前記線材に歪取りを行う工程と、 一対の電極を、歪取りされた前記線材における前記軟化箇所とする箇所の両面にあてがって通電加熱する工程とを 含むことを特徴とするコイルスプリングの製造方法。 【請求項4】 硬度が高い箇所と、前記箇所よりも硬度が低い箇所とを有し、前記硬度が高い箇所は、折損時に他部品で受けられる構造とされている ことを特徴とするコイルスプリング。」 2 補正の適否 2-1 本件補正の目的及び新規事項の追加について (1)請求項1について 本件補正前の請求項1の「コイルスプリング」に対して「前記硬度が高い箇所の線材は巻線ピッチが広くバネ定数が大きく、前記硬度が低い軟化箇所の線材は巻線ピッチが狭くバネ定数が小さく形成され、荷重が小さい場合には、前記硬度が高い箇所の線材と前記硬度が低い軟化箇所の線材とはそれぞれ密着せず、荷重が大きい場合には、前記硬度が高い箇所の線材は密着しないとともに前記硬度が低い軟化箇所の線材は密着する」という構成を追加する補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「コイルスプリング」について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、上記補正事項は、願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)の段落【0025】、【0031】、【0032】に記載されているから、上記補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであって、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。 (2)請求項4について 本件補正前の請求項4の「コイルスプリング」に対して「前記硬度が高い箇所の線材は巻線ピッチが広くバネ定数が大きく、前記硬度が低い箇所の線材は巻線ピッチが狭くバネ定数が小さく形成され、荷重が小さい場合には、前記硬度が高い箇所の線材と前記硬度が低い箇所の線材とはそれぞれ密着せず、荷重が大きい場合には、前記硬度が高い箇所の線材は密着しないとともに前記硬度が低い箇所の線材は密着する」という構成を追加する補正は、補正前の請求項4に記載された発明を特定するために必要な事項である「コイルスプリング」について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項4に記載された発明と補正後の請求項4に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、上記補正事項は、当初明細書の段落【0025】、【0031】、【0032】に記載されているから、上記補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであって、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。 上記のとおり、本件補正は、請求項1について特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 2-2 独立特許要件について (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記1(1)において請求項1として記載したとおりのものである。 (2)引用文献の記載事項 ア 引用文献1 (ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開平9-264360号公報(平成9年10月7日出願公開。以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は当審において付与した。以下同様。)。 a「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、コイルスプリング及びその製造方法、特に、ダンパー機構のトーションスプリングとして用いられるコイルスプリング及びその製造方法に関する。」 b「【0003】 【発明が解決しようとする課題】前述のようにトーションスプリングとして使用されるコイルスプリングは、近年は高強度かつ高硬度のものが提供されている。特に、新材料を用いて浸炭窒化処理を行ったコイルスプリングは硬度が高い。コイルスプリングは、硬度が高くなると、フランジや1対の入力側プレートの窓孔に当接する両端部分の一部が欠けて破損しやすい。そのため、実際の使用にはスプリングシートをコイルスプリングの両端に配置しなければならない。 【0004】本発明の目的は、コイルスプリングの端部の破損を防止することにある。」 c「【0010】コイルスプリング8において、図2から明らかなように、中心側の巻き線8aのピッチP_(1) は、両端側の巻き線8b(破線で囲んだ2巻)のピッチP_(2) より長い。また、このコイルスプリング8では、中心側の巻き線8aの硬度は両端側の巻き線8bの硬度より高い。次に、コイルスプリング8の製造方法について説明する。初めに、延伸された鋼線を高温で加熱してコイリング機で螺旋状に成形する。次に、鋼線を油槽に入れて急冷する。続いて、焼きもどしを行う。さらに、鋼線に浸炭窒化処理を行い全体の硬度を高くする。次に、高周波加熱装置を用いて鋼線の両端側の巻き線8bを部分的に高周波焼きもどしする。最後に、ばねの表面にショットピーニングを行い、圧縮の残量応力を発生させる。 【0011】コイルスプリング8の両端側の巻き線8bは、高周波焼きもどしにより中心側の巻き線8aに比べて硬度が低い。そのため、両端側の巻き線8bはねばり強さが増す。その結果、コイルスプリング8の両端部は、全体が高硬度であっても、フランジ7やプレート2,3の窓部に当接しても一部が欠けたりする等の破損が生じにくい。以上の理由で、スプリングシートを用いる必要がない。 【0012】さらに、コイルスプリング8の両端側の巻き線8bのピッチを短くすることにより、両端側の巻き線8bに大きな応力が生じない構造になっている。すなわち、コイルスプリング8のたわみ量が大きくなると、図3の特性のA点で両端側の巻き線8b同士が密着する。さらにたわみ量が大きくなると、中心側の巻き線8aのたわみが進む。このように、たわみ量が大きくなっても両端側の巻き線8bでは応力は増加しない。この結果、両端側の巻き線8bの硬度が中心側の巻き線8aに比べて低いのにもかかわらず、両端側の巻き線8bが破損することはない。」 d「【図2】 」 e「【図3】 」 (イ)上記摘記事項a?eから、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「中心側の巻き線8aと、中心側の巻き線8aに比べて硬度が低い両端側の巻き線8bとを有し、 中心側の巻き線8aのピッチP_(1) は、両端側の巻き線8bのピッチP_(2) より長く、コイルスプリング8のたわみ量が大きくなると、両端側の巻き線8b同士が密着し、さらにたわみ量が大きくなると、中心側の巻き線8aのたわみが進む、コイルスプリング8の製造方法において、 延伸された鋼線を高温で加熱してコイリング機で螺旋状に成形し、次に、鋼線を油槽に入れて急冷し、続いて、焼きもどしを行い、次に、高周波加熱装置を用いて鋼線の両端側の巻き線8bを部分的に高周波焼きもどしする コイルスプリング8の製造方法。」 イ 引用文献2 同じく原査定に引用され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2010-91058号公報(平成22年4月22日出願公開。以下、「引用文献2」という。)には、次の記載がある。 (ア)「【0001】 本発明は、コイルスプリング及びそれを利用したマットレスに関し、さらに詳しくは、両端側付近のピッチ間隔と中央部のピッチ間隔とが異なる不等ピッチのコイルスプリング及びそれを利用したマットレスに関する。」 (イ)「【0019】 また、中央部1bには熱処理が施された熱処理部1dを有している。鋼材に熱処理を行うことでその部分を硬くして強度を付加する。これにより長期間の使用によるコイルスプリング1のへたりを大幅に抑制することができる。例えば、ハイカーボンワイヤ(炭素鋼)の場合、250?300℃の熱を加えることで適宜の硬さを付与することができる。熱処理としては、例えば、加熱後に急冷して硬化させる「焼き入れ処理」や「低温焼鈍」、または電気炉による「テンパー処理」などがあるが、本発明においてはコイルの所定の2カ所にそれぞれプラス電極とマイナス電極を取り付け、所定の時間通電することによって熱処理を行うことが便宜である。尚、加熱条件を適宜変えることで熱処理部1dの硬軟を変更することもできる。」 ウ 引用文献3 同じく原査定に引用され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2013/099821号(2013年(平成25年)7月4日国際公開。以下、「引用文献3」という。)には、次の記載がある。 (ア)「[0001]本明細書に開示の技術は、ばねの製造技術に関する。詳しくは、ばね材(即ち、ばね鋼材等のばねの材料となる金属材料)を熱処理するための技術に関する。」 (イ)「[0025]次に、熱処理に用いられる通電加熱装置10について説明する。図1,2に示すように、通電加熱装置10は、ばね鋼材22の上端22aをクランプするクランプ機構(24a,26a)と、ばね鋼材22の下端22bをクランプするクランプ機構(24b,26b)と、電源装置50を備えている。 [0026]クランプ機構(24a,26a)は、クランプ部材24a,26aを備えている。図2に示すように、クランプ部材24a,26aには、電極25a,23aがそれぞれ取付けられている。電極25a,23aには、ばね鋼材22の形状に倣った接触面が形成されている。電極25a,23aは電源装置50に接続されている。」 (ウ)「[0053]また、上述した各実施例は、ばね鋼材を冷間又は温間でばね形状に成形することで生じた加工歪みを除去する熱処理(焼鈍処理)に関する例であったが、本明細書に開示の技術はこのような例に限られない。例えば、ばね材を熱間でばね形状に成形し、焼入れ後に行われる熱処理工程(焼戻し処理)に、本明細書に開示の処理方法を適用することもできる。」 (3)本件補正発明と引用発明との対比 ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「中心側の巻き線8aに比べて硬度が低い両端側の巻き線8b」は、「中心側の巻き線8a」が、「両端側の巻き線8b」に比べて「硬度が高い」ことを意味するから、引用発明の「中心側の巻き線8a」、「中心側の巻き線8aに比べて硬度が低い両端側の巻き線8b」は、本件補正発明の「硬度が高い箇所」、「前記箇所よりも硬度が低い軟化箇所」に相当する。 引用発明の「中心側の巻き線8aのピッチP_(1) は、両端側の巻き線8bのピッチP_(2) より長く」なっていることは、「中心側の巻き線8aのピッチP_(1)」が広く、「両端側の巻き線8bのピッチP_(2)」が狭くなっていることを意味するから、「硬度が高い箇所の線材は巻線ピッチが広く、前記硬度が低い軟化箇所の線材は巻線ピッチが狭く形成され」ている限りにおいて、本件補正発明の「硬度が高い箇所の線材は巻線ピッチが広くバネ定数が大きく、前記硬度が低い軟化箇所の線材は巻線ピッチが狭くバネ定数が小さく形成され」ていることに一致する。 引用発明の「コイルスプリング8のたわみ量が大きくなると、両端側の巻き線8b同士が密着し、さらにたわみ量が大きくなると、中心側の巻き線8aのたわみが進む」ことは、コイルスプリング8のたわみ量が、図3の特性のA点より小さい場合、中心側の巻き線8a同士及び両端側の巻き線8b同士がともに密着せず、コイルスプリング8のたわみ量が、図3の特性のA点より大きい場合、両端側の巻き線8b同士のみが密着し、中心側の巻き線8a同士は密着せずたわみが進むことを意味する。また、引用発明において、コイルスプリング8の荷重が大きくなると、たわみ量が大きくなることは、引用文献1の図3より明らかなことである。したがって、引用発明の「コイルスプリング8のたわみ量が大きくなると、両端側の巻き線8b同士が密着し、さらにたわみ量が大きくなると、中心側の巻き線8aのたわみが進む」ことは、本件補正発明の「荷重が小さい場合には、前記硬度が高い箇所の線材と前記硬度が低い軟化箇所の線材とはそれぞれ密着せず、荷重が大きい場合には、前記硬度が高い箇所の線材は密着しないとともに前記硬度が低い軟化箇所の線材は密着する」ことに相当する。 引用発明の「コイルスプリング8」は、本件補正発明の「コイルスプリング」に相当する。 引用発明の「延伸された鋼線」は、本件補正発明の「成形前の線材」に相当し、引用発明の「延伸された鋼線を高温で加熱して」いることは、本件補正発明の「成形前の線材を加熱する工程」に相当する。 引用発明の「鋼線を高温で加熱してコイリング機で螺旋状に成形し」ていることは、本件補正発明の「加熱された前記線材をらせん状に成形する工程」に相当する。 加熱した金属材料を急冷する熱処理が焼入れであることが技術常識であるから、引用発明の「コイリング機で螺旋状に成形し、次に、鋼線を油槽に入れて急冷し」ていることは、本件補正発明の「らせん状に成形された前記線材を焼入れ」することに相当する。また、引用発明の「焼きもどし」は、本件補正発明の「焼戻し」に相当する。したがって、引用発明の「コイリング機で螺旋状に成形し、次に、鋼線を油槽に入れて急冷し、続いて、焼きもどしを行」うことは、本件補正発明の「らせん状に成形された前記線材を焼入れおよび焼戻しする工程」に相当する。 引用発明の「両端側の巻き線8b」は、本件補正発明の「軟化箇所」に相当するから、引用発明の「鋼線を油槽に入れて急冷し、続いて、焼きもどしを行い、次に、高周波加熱装置を用いて鋼線の両端側の巻き線8bを部分的に高周波焼きもどしする」ことは、「焼入れ焼戻しされた前記線材における前記軟化箇所とする箇所を加熱する工程」という限りにおいて、本件補正発明の「一対の電極を、焼入れ焼戻しされた前記線材における前記軟化箇所とする箇所の両面にあてがって通電加熱する工程」と一致する。 イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 【一致点】 「硬度が高い箇所と、前記箇所よりも硬度が低い軟化箇所とを有し、 前記硬度が高い箇所の線材は巻線ピッチが広く、前記硬度が低い軟化箇所の線材は巻線ピッチが狭く、荷重が小さい場合には、前記硬度が高い箇所の線材と前記硬度が低い軟化箇所の線材とはそれぞれ密着せず、荷重が大きい場合には、前記硬度が高い箇所の線材は密着しないとともに前記硬度が低い軟化箇所の線材は密着するコイルスプリングの製造方法であって、 成形前の線材を加熱する工程と、 加熱された前記線材をらせん状に成形する工程と、 らせん状に成形された前記線材を焼入れおよび焼戻しする工程と、 焼入れ焼戻しされた前記線材における前記軟化箇所とする箇所を加熱する工程とを 含むコイルスプリングの製造方法。」 【相違点1】 本件補正発明では、「コイルスプリング」の「前記硬度が高い箇所は、折損時に他部品で受けられる構造とされ」ているのに対し、引用発明では、かかる特定がされていない点。 【相違点2】 本件補正発明では、「前記硬度が高い箇所の線材」は「バネ定数が大きく」、「前記硬度が低い軟化箇所の線材」は「バネ定数が小さく」形成されているのに対し、引用発明では、かかる特定がされていない点。 【相違点3】 「焼入れ焼戻しされた前記線材における前記軟化箇所とする箇所を加熱する工程」に関し、本件補正発明では、「一対の電極を、焼入れ焼戻しされた前記線材における前記軟化箇所とする箇所の両面にあてがって通電加熱する」のに対し、引用発明では、「鋼線を油槽に入れて急冷し、続いて、焼きもどしを行い、次に、高周波加熱装置を用いて鋼線の両端側の巻き線8bを部分的に高周波焼きもどしする」点。 (4)判断 以下、相違点について検討する。 ア 相違点1について 相違点1に係る構成である「コイルスプリング」の「前記硬度が高い箇所は、折損時に他部品で受けられる構造とされ」ていることは、明細書の段落【0048】の記載を参照すると、「折損した部位が他部品で受けられる構造(キャッチャ構造)とする」ことと解されるが、当該発明特定事項は、「コイルスプリング」とは別の「他部品」について、「前記硬度が高い箇所」が「折損時」に「受けられる」という機能を有することを特定するものであるといえる。 一方、本件補正発明は、「コイルスプリングの製造方法」であるところ、相違点1に係る構成は、「他部品」の機能であって、「コイルスプリング」そのものの構造、機能等を何ら特定するものではないし、「製造方法」を特定するものでもないことは、明らかである。 してみれば、上記相違点1は、「コイルスプリングの製造方法」として実質的に相違点ではない。 イ 相違点2について 引用文献1の【図3】には、引用発明のコイルスプリング8の「たわみ」と「荷重」との関係についての特性が示されている。 また、引用発明のコイルスプリング8の上記特性は、本件出願の【図4】に示された、本件補正発明のコイルスプリングの「たわみ」と「荷重」との関係と同等なことは明らかである。 そして、コイルスプリングにおいて、「たわみ」と「荷重」との関係は、バネ定数で定まることが技術常識である。 してみれば、引用発明のコイルスプリング8は、本件補正発明のコイルスプリングと同様に「前記硬度が高い箇所の線材」は「バネ定数が大きく」、「前記硬度が低い軟化箇所の線材」は「バネ定数が小さく」なっているといえるから、上記相違点2は、実質的な相違点ではない。 ウ 相違点3について コイルスプリングを熱処理するために、一対の電極を線材の対象箇所にあてがって通電加熱することは、上記(2)イ、ウに摘記した引用文献2及び3に例示されるように、従来周知の技術である。 そして、引用発明の「高周波加熱装置を用いて」加熱することと、周知技術の「一対の電極を線材の対象箇所にあてがって通電加熱する」こととは、コイルスプリングを熱処理する際の加熱手段として共通の機能を有するものであるから、引用発明の「高周波加熱装置を用いて」加熱することに代えて、上記周知技術を採用する動機付けがあったというべきである。 また、通電加熱において、「一対の電極」を加熱の対象範囲の「両端部」にあてがうことは、技術常識であり、「一対の電極」を線材のどの部分にあてがうかは、加熱の対象範囲によって定まるものであるから、引用発明に対し、上記周知技術を採用する際、「一対の電極」を線材における軟化箇所とする箇所の「両端部」にあてがうようにすることは、「軟化箇所とする箇所」の範囲に応じて当業者が適宜選択し得たことといえる。そして、明細書の段落【0036】及び【図6】を参酌すると、本件補正発明において、軟化箇所とする箇所の「両面」とは、一対の電極によって通電加熱される箇所の「両端部」と解されるから、引用発明において、「一対の電極」を線材における軟化箇所とする箇所の「両端部」にあてがうことは、軟化箇所とする箇所の「両面」にあてがうことといえる。 してみれば、引用発明に対し、「焼入れ焼戻しされた前記線材における前記軟化箇所とする箇所を加熱する工程」の加熱手段として、上記周知技術を採用し、上記相違点3に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。 オ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明並びに引用文献2及び3に例示される周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 カ 審判請求人の主張について 審判請求人は、令和2年12月23日提出の審判請求書において、 「(4-2-4).しかし、引用文献1?3には、本願請求項1、4の各構成は明示的には記載されていません。 なお、引用文献2は、ピッチは異なる圧縮バネが記載されているものの、同じ重さの人(各個人の体重は異なりますが)が載るものです。 (4-2-5).以上のことから、本請求項1、4に係る発明の特徴の記載がない引用文献1?3の明細書等から、当業者といえども本願請求項1、4の発明の構成を容易に想到することは困難です。 従いまして、本願請求項1、4に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に係りなく、特許要件を十分に備えていると思料されます。」 と主張している。 しかしながら、上記(3)及び(4)ア?ウで検討したとおり、引用発明に対し、引用文献2及び3に例示される周知技術を採用し、本件補正発明とすることが、当業者が容易に想到し得たものであるから、引用文献1?3に、本件補正発明の各構成が明示的には記載されていないことのみをもって、本件補正発明が進歩性を有するということはできない。 よって、審判請求人の主張は採用できない。 キ したがって、本件補正発明は、引用発明並びに引用文献2及び3に例示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 本件補正についてのむすび よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和2年5月7日にした手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2の[理由]1(2)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1?4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献1:特開平9-264360号公報 引用文献2:特開2010-91058号公報 引用文献3:国際公開第2013/099821号 3 引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし3及びその記載事項は、前記第2の[理由]2-2(2)に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、前記第2の[理由]2-2で検討した本件補正発明から、コイルスプリングについて、「前記硬度が高い箇所の線材は巻線ピッチが広くバネ定数が大きく、前記硬度が低い軟化箇所の線材は巻線ピッチが狭くバネ定数が小さく形成され、荷重が小さい場合には、前記硬度が高い箇所の線材と前記硬度が低い軟化箇所の線材とはそれぞれ密着せず、荷重が大きい場合には、前記硬度が高い箇所の線材は密着しないとともに前記硬度が低い軟化箇所の線材は密着す」ることを削除したものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2-2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明並びに引用文献2及び3に例示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明並びに引用文献2及び3に例示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2021-07-07 |
結審通知日 | 2021-07-13 |
審決日 | 2021-07-28 |
出願番号 | 特願2019-82557(P2019-82557) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F16F)
P 1 8・ 575- Z (F16F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 保田 亨介 |
特許庁審判長 |
間中 耕治 |
特許庁審判官 |
田村 嘉章 中村 大輔 |
発明の名称 | コイルスプリングの製造方法およびコイルスプリング |
代理人 | 特許業務法人磯野国際特許商標事務所 |