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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 取り消して特許、登録 H01F
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01F
管理番号 1378386
審判番号 不服2021-1835  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-02-09 
確定日 2021-10-12 
事件の表示 特願2017- 35295「圧粉磁心」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 9月13日出願公開、特開2018-142596、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年2月27日の出願であって、令和2年5月8日付けで拒絶理由通知がされ、令和2年6月22日に手続補正がされ、令和2年7月27日付けで拒絶理由通知がされ、令和2年9月2日に手続補正がされ、令和2年11月2日付けで、令和2年9月2日の手続補正についての補正の却下の決定がされ、同日付で拒絶査定がされ、令和3年2月9日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がされ、令和3年3月16日に手続補正(方式)(請求の理由)がされたものである。

第2 令和3年2月9日になされた手続補正について
1 令和3年2月9日になされた手続補正(以下、「本件補正」という。)は、以下のとおりである(下線は補正箇所を示す。)
(1)出願当初の明細書の段落【0021】に、「本実施形態では、負荷曲線の最大荷重点から横軸(圧入深さh)に下ろした垂線と負荷曲線と横軸とで囲まれた面積(α+β)に対する面積(α)の割合(百分率)をNIT値と定義する。
NIT値=100α/(α+β)」とあったところを
「本実施形態では、負荷曲線の最大荷重点から横軸(圧入深さh)に下ろした垂線と負荷曲線と横軸とで囲まれた面積(α+β)に対する面積(β)の割合(百分率)をNIT値と定義する。
NIT値=100β/(α+β)」と補正する。

(2)出願当初明細書の段落【0022】に「NIT値が低いことは、塑性変形に要するエネルギーが少なく、変形しやすいことを示し、また弾性変形で吸収されるエネルギーが大きいことから、変形後の形状が維持されていることを示す。一方、NIT値が高いことは、塑性変形に要するエネルギーが大きく、変形し難いことを示し、また弾性変形で吸収されたエネルギーが小さいことから、変形しても形状が復元していることを意味している。」とあった記載を削除する。

(3)出願当初の明細書の段落【0042】に、「測定装置の基盤上に載置した試料の表面にダイヤモンド製の三角錐の圧子を1000000μNの加重まで押し込んだ(圧入)後、その圧子を取り除く(除荷)までの荷重(P)と変位(圧入深さh)の関係(圧入(負荷)-除荷曲線)を測定した。負荷曲線と除荷曲線と横軸で囲まれた面積(α)と、負荷曲線の最大荷重点から横軸(圧入深さh)に下ろした垂線と負荷曲線と横軸で囲まれた面積(α+β)とから、下記式に基づきNIT値を算出した。
NIT(%)=100α/(α+β)
使用した各金属磁性粉のNIT値、円相当径、形状を下表にまとめる。下表で、Exは実施例を表し、CExは比較例を表す。
表1(当審注:実質的に補正がなされていないので、記載を省略する)」とあったところを、
「測定装置の基盤上に載置した試料の表面にダイヤモンド製の三角錐の圧子を1000000μNの加重まで押し込んだ(圧入)後、その圧子を取り除く(除荷)までの荷重(P)と変位(圧入深さh)の関係(圧入(負荷)-除荷曲線)を測定した。下記式に基づきNIT値を算出した。
NIT(%)=100β/(α+β)
使用した各金属磁性粉のNIT値、円相当径、形状を下表にまとめる。下表で、Exは実施例を表し、CExは比較例を表す。
表1(当審注:実質的に補正がなされていないので、記載を省略する)」と補正する。

(4)出願当初の図1に、


」とあったところを、


」と補正するものである。

2 補正の適否の判断
上記1の補正事項をまとめると、本件補正は、出願当初の明細書の段落【0022】の記載を削除するとともに、出願当初の明細書および図面(以下、「出願当初明細書等」という。)に「NIT(%)=100α/(α+β)」とあった式を「NIT(%)=100β/(α+β)」と書き換えるものであるが、これらの補正の適否について判断する。

(1)出願当初の明細書には、次のように記載されている。なお、下線は当審で付与した。
「【0009】
本発明者らは、圧粉磁心を構成する金属磁性粉の充填率向上を目指し鋭意検討を続けたところ、磁性粉の硬度は、その変形性の指標のひとつではあるが、形状の維持性を反映するものではないことに想到した。すなわち、硬度が低く、変形が容易であっても、除圧後に元の形状に復元すると、磁性粉間の充填性は低下し、また圧粉磁心にクラックが発生することもある。」

「【0012】
本発明では、NIT値の異なる少なくとも2種の金属磁性粉を併用する。第1金属磁性粉は、低NIT値を有し、変形しやすく、また変形後の形状を維持する性質を有する。一方の第2金属磁性粉は高NIT値を有し、比較的硬質であり、変形性は低い。このため、圧粉成形時に第2金属磁性粉の間の空隙に第1金属磁性粉が充填され、またその状態を維持する。この結果、金属磁性粉の充填率が向上し、また保型性に優れた圧粉磁心が得られる。」
「【0018】
(金属磁性粉)
本実施形態における金属磁性粉は、NIT値が10%以上30%以下の第1金属磁性粉と、NIT値が30%を超え90%以下の第2金属磁性粉とを含む。NIT値は、Nano-IndenTation(ナノインデンテーション)法により評価される特性値であり、塑性変形性と形状保持性とを反映するパラメータ値である。」

「【0020】
圧入(負荷)曲線は材料の弾塑性的な変形挙動を反映し、除荷曲線は弾性的な回復挙動により得られる。そして、負荷曲線と除荷曲線と横軸で囲まれた面積(α)が、塑性変形に消費したエネルギーEpである。また負荷曲線の最大荷重点から横軸(圧入深さh)に下ろした垂線と除荷曲線とで囲まれた面積(β)が、弾性変形で吸収されたエネルギーEeである。」

「【0034】
第1金属磁性粉は、変形しやすく、また変形後の形状を維持する性質を有する。一方の第2金属磁性粉は比較的硬質であり、変形性は低い。このため、圧粉成形時に第2金属磁性粉の間の空隙に第1金属磁性粉が充填され、またその状態を維持する。この結果、金属磁性粉の充填率が向上し、また保型性に優れた圧粉磁心が得られる。そして、第1金属磁性粉がバインダーとしての機能を果たすため、樹脂系バインダーの使用量を削減でき、究極的には樹脂系のバインダーを用いることなく圧粉磁心を得ることもできる。というものである。」

ア 以上より、次の技術事項を読み取ることができる
「NIT値は、」「塑性変形性と形状保持性とを反映するパラメータ値である」(【0018】)が、「変形後の形状を維持する性質を有する」「第1金属磁性粉」は、「低NIT値を有」する(【0012】、【0034】)。

イ ここで、出願当初の明細書の段落【0020】で定義された「面積(α)」(負荷曲線と除荷曲線と横軸で囲まれた面積)と「面積(β)」(負荷曲線の最大荷重点から横軸(圧入深さh)に下ろした垂線と除荷曲線とで囲まれた面積)との技術的意味を検討する。
(ア)「材料」の「変形後の形状を維持する性質」が顕著であればあるほど、その「除荷曲線」は、「圧入深さh」(変形後の形状)を維持したまま「負荷曲線の最大荷重点」から下降することになるから、「負荷曲線の最大荷重点から横軸(圧入深さh)に下ろした垂線」に近づいていくことになる。よって、「面積(β)」は、「材料」の「変形後の形状を維持する性質」が顕著であればあるほど、少ない面積となることが理解できる。

(イ)上記(ア)のとおり、「面積(β)」は、「材料」の「変形後の形状を維持する性質」が顕著であればあるほど、少ない面積となるのであるから、「変形後の形状を維持する性質を有する」「第1金属磁性粉」の「面積(β)」も小さいはずである。

(ウ)一方で、「面積(β)」の小さな「第1金属磁性粉」は、出願当初明細書等において「低NIT値を有」するとされていたのであるから、結局、「第1金属磁性粉」が「低NIT値を有」することと「面積(β)」が小さいこととは、同義であって、「NIT値」と「面積(β)」とは比例の関係にあることがわかる。

(エ)これに対し、出願当初明細書等には、首尾一貫して「NIT(%)=100α/(α+β)」と記載されていたが、かかる式では、「NIT値」は「面積(β)」と「比例の関係」ではなく「逆比例の関係」になってしまうことは容易に理解できることである。

(オ)よって、出願当初明細書等に「NIT(%)=100α/(α+β)」とあった記載は誤りである。

(カ)そこで、さらに進んで、本来あるべき「NIT値」の式について検討すると、出願当初の明細書の段落【0021】には「本実施形態では、負荷曲線の最大荷重点から横軸(圧入深さh)に下ろした垂線と負荷曲線と横軸とで囲まれた面積(α+β)に対する面積(α)の割合(百分率)をNIT値と定義する。」と記載されていたのであるから、「割合(百分率)」で定義される正しい「NIT値」は、「100β/(α+β)」であると考えるのが自然である。

(2)以上のとおり、本願の出願当初明細書等に「NIT値=100α/(α+β)」とあった記載は誤記であって、正しくは「100β/(α+β)」であることは当業者に明らかなことである。

(3)また、出願当初の明細書の段落【0022】は、上記(1)(ウ)と同様に、「NIT値が低い」と「変形後の形状が維持され」、「NIT値が高い」と「変形しても」(当審注:除荷後には)「形状が復元」することが記載されていたのであるから、出願当初明細書の段落【0022】が削除されたからといって、これにより新たな技術的事項が導入されることにもならない。
よって、本件補正は、出願当初明細書等のすべての記載を総合して得られる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を追加するものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反しない。

第3 本願発明
本願の請求項1ないし6に記載された発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明6」という。)は、令和2年6月22日の手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される、次のとおりのものであると認められる。
「【請求項1】
NIT値が10%以上30%以下の第1金属磁性粉と、NIT値が30%を超え90%以下の第2金属磁性粉とを含み、
圧粉磁心の全質量に対する樹脂成分の含有量が1質量%以下である圧粉磁心。
【請求項2】
第1金属磁性粉と第2金属磁性粉との合計100質量部当り、第1金属磁性粉を30?50質量
【請求項3】
第1金属磁性粉のNIT値と第2金属磁性粉のNIT値との差が60%以下である請求項1または2に記載の圧粉磁心。
【請求項4】
第1金属磁性粉のNIT値と第2金属磁性粉のNIT値との差が50%以下である請求項3に記載の圧粉磁心。
【請求項5】
第1金属磁性粉および第2金属磁性粉がともにFe系軟磁性粉である請求項1?4のいずれかに記載の圧粉磁心。
【請求項6】
第1金属磁性粉および第2金属磁性粉のいずれか一方または両方が絶縁被膜を有する請求項1?5のいずれかに記載の圧粉磁心。」

第4 原査定(拒絶)の理由の概要
原査定(令和2年11月2日付け拒絶査定)における拒絶の理由の概要は次のとおりである。
「理由1(新規事項)
令和2年6月22日付け手続補正書でした補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

・請求項 1-6
出願人は、明細書([0021]、[0022]、[0042])に関して補正しているが、当初明細書等には「NIT(%)=100β/(α+β)」等であることについての直接的な記載はなく、かつ、これが当初明細書等の記載から自明な事項とも認められない。
よって、この補正は新規事項の追加に該当する。
なお、当該補正により、請求項1-6に記載された事項は、当初明細書等に記載した事項の範囲内にないことが明らかであるから、請求項1-6に係る発明については新規性進歩性等の特許要件についての審査を行っていない。」

令和3年2月9日になされた手続補正は、適法であって、新規事項の追加に当たらず、上記拒絶査定を維持できないことは上記「第2」で述べたとおりである。
そこで、請求項1ないし6に係る発明について、新規性進歩性等の特許要件についての判断を行うと、以下のとおりである。

第5 引用発明、引用文献等
1 引用文献1について
(1)引用文献1に記載された事項について
原審における令和2年5月8日付けの拒絶理由で引用された、国際公開第2013/073180号(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。)。
ア 「[0001] 本発明は、インダクタ、チョークコイル、トランス等に用いられる複合磁性材料とそれを用いた磁性素子およびその製造方法に関する。」

イ 「[0032] 鉄基金属磁性粉末のビッカース硬度としては、第一の金属磁性粉末1のビッカース硬度は300Hv以上700Hv以下であり、第二の金属磁性粉末2のビッカース硬度は100Hv以上180Hv以下であることが望ましい。このようなビッカース硬度とすることにより、金属磁性粉末の充填率を高くすることができる。すなわち、平均粒子径が大きい第一の金属磁性粉末1はより硬く、平均粒子径が小さい第二の金属磁性粉末2はよりやわらかいほうが金属磁性粉末の充填率を高くすることができるものである。
[0033] 鉄基金属磁性粉末の平均粒子径としては、第一の金属磁性粉末1の平均粒子径は5μm以上30μm以下、第二の金属磁性粉末2の平均粒子径は1μm以上15以下μmであり、前記第二の金属磁性粉末2の平均粒子径は、前記第一の金属磁性粉末1の1/2以下であることが望ましい。このような平均粒子径とすることにより、加圧成形した圧粉磁心において高い充填率を確保することができる。」

ウ 「[0036] 次に、上述した複合磁性材料10の製造方法に関して説明する。
[0037] まず、鉄基金属磁性粉末として第一の金属磁性粉末1と、第二の金属磁性粉末2と、未硬化状態の熱硬化性樹脂3と無機絶縁材を含む材料を混合、分散して混合体を得る。この混合体を、65℃以上150℃以下に加熱する工程を行うことで、溶剤を蒸発させ、成形性の良い複合磁性材料10を得ることができる。」

エ 「[0042] <第一の実験>
第一の実験では、本実施の形態の複合磁性材料を用いた。試料No1?試料No18の第一の実験結果を図6に示す(以下、図6に示す表を表1と記す)。
表1(省略)
[0043] 第一の実験では、第一の金属磁性粉末1として、平均粒子径が10μmのFe-Si-Cr系金属磁性粉末と、第二の金属磁性粉末2として平均粒子径が1μm、5μm、10μmの鉄系金属磁性粉末を用意した。熱硬化性樹脂3は、この鉄基金属磁性粉末100g対してシリコーン樹脂3gを混合して混合体を作製した。なお、第一の金属磁性粉末1としては、大気中の常温において酸化皮膜4が形成されたものと、大気中の高温において意図的に酸化皮膜4を形成したものを用いた。ここで、第一の実験で用いた第一の金属磁性粉末1のビッカース硬度は300Hv、第二の金属磁性粉末2のビッカース硬度は100Hvである。このようにして得られた混合体を使用して、室温下にて4ton/cm^(2)の成形圧力にて加圧成形し、成形体を作製した。その後150℃で2時間の熱硬化処理を行い、試験片を作製した。なお、絶縁抵抗率および耐電圧の測定は、試験片の寸法を10mm×10mm×0.5mmとし、この0.5mm間に電圧をかけて評価を行った。」
(なお、上記記載中、「100g対して」とある記載は「100gに対して」の誤記と認める。)

オ 「[0050] <第二の実験>
第二の実験では、第一の実験と同様に本実施の形態の複合磁性材料を用いた。試料No19?試料No28の第二の実験結果を図7に示す(以下、図7に示す表を表2と記す)。
表2(省略)
[0051] 第二の実験では、第一の金属磁性粉末1として、平均粒子径が5μmのFe-Si-Cr系金属磁性粉末と、第二の金属磁性粉末2として、平均粒子径が1μm、2.5μmおよび5μmの鉄系金属磁性粉末を用意し、この金属磁性粉末100gに対して、熱硬化性樹脂3としてシリコーン樹脂3gを混合して混合体を作製した。」

カ 「[0056] <第三の実験>
第三の実験では、第一の実験と同様に本実施の形態の複合磁性材料を用いた。試料No29?試料No38の第三の実験結果を図8に示す(以下、図8に示す表を表3と記す)。
第三の実験では、第一の金属磁性粉末1として、平均粒子径が30μmのFe-Si-Cr系金属磁性粉末と第二の金属磁性粉末2として、平均粒子径が1μm、15μmもしくは30μmの鉄基金属磁性粉末を用意し、この金属磁性粉末100g対して、熱硬化性樹脂3としてシリコーン樹脂3gを混合して混合体を作製した。」(なお、上記記載中、「100g対して」とある記載は「100gに対して」の誤記と認める。)

キ 「[0063] <第四の実験>
第四の実験では、第一の実験と同様に本実施の形態の複合磁性材料を用いた。試料No39?試料No48の第四の実験結果を図9に示す(以下、図9に示す表を表4と記す)。
表4(省略)
第四の実験では、第一の金属磁性粉末1として、平均粒子径が10μmのFe-Si-Cr系金属磁性粉末と、第二の金属磁性粉末2として、平均粒子径が1μm、5μm、10μmのFe-Ni系金属磁性粉末を用意し、この金属磁性粉末100g対して、熱硬化性樹脂3としてシリコーン樹脂6gを混合して混合体を作製した。」

(2)引用文献1に記載された技術事項について
よって、引用文献1には、次の技術事項が記載されているものと認められる。
ア 上記(1)イ、ウには、「圧粉磁心」のための「複合磁性材料」が記載されている。

イ 上記(1)ウには、「複合磁性材料」が、「鉄基金属磁性粉末として第一の金属磁性粉末1と、第二の金属磁性粉末2と、未硬化状態の熱硬化性樹脂3」を「含」むことが記載されている。

ウ 上記(1)イには、「鉄基金属磁性粉末のビッカース硬度としては、第一の金属磁性粉末1のビッカース硬度は300Hv以上700Hv以下であり、第二の金属磁性粉末2のビッカース硬度は100Hv以上180Hv以下であ」り、「第一の金属磁性粉末1はより硬く、」「第二の金属磁性粉末2はよりやわらかいほうが金属磁性粉末の充填率を高くすることができる」ことが記載されている。

(3)引用文献1に記載された発明について
よって、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものとも認められる。
「圧粉磁心のための複合磁性材料であって、
複合磁性材料は、鉄基金属磁性粉末として第一の金属磁性粉末1と、第二の金属磁性粉末2と、未硬化状態の熱硬化性樹脂3を含み、
鉄基金属磁性粉末のビッカース硬度としては、第一の金属磁性粉末1のビッカース硬度は300Hv以上700Hv以下であり、第二の金属磁性粉末2のビッカース硬度は100Hv以上180Hv以下であり、第一の金属磁性粉末1はより硬く、第二の金属磁性粉末2はよりやわらかいほうが金属磁性粉末の充填率を高くすることができる、
複合磁性材料。」

2 引用文献2について
(1)引用文献2に記載された事項について
原審における令和2年5月8日付けの拒絶理由で引用された、特開2004-363466号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。)。
ア 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、バワーインダクタ等に用いられる複合磁性材料と、この複合磁性材料を使用して構成するインダクタの製造方法に関するものである。」

イ 「【0007】【課題を解決するための手段】本発明は、硬質な非晶質合金磁性粉に、延性のある金属磁性粉であるFe-Ni系合金磁性粉を混合して混合磁性粉とし、この混合磁性粉のそれぞれの粒子を熱硬化性樹脂で被覆した複合磁性材料の構成を特徴とする。さらに本発明は、この複合磁性材料粉末中に空芯コイルを埋設して加圧成形した後、不活性ガス雰囲気中において非晶質合金磁性粉の結晶化温度を超えない温度で熱処理を行うインダクタの製造方法を特徴とする。」

ウ 「【0008】
【発明の実施の形態】
次に本発明の複合磁性材料の好ましい実施形態を説明する。非晶質合金磁性粉と、延性金属であるFe-Ni系合金磁性粉とを、それぞれ30?60wt%、70?40wt%の割合で混合して混合磁性粉とする。非晶質合金磁性粉は、絶縁性の高いFe-Si-B-Crを主成分としたものが好ましい。この混合磁性粉の粒子の表面を、粒子間の絶縁とバインダ剤の両方の役目を担う熱硬化性の有機樹脂で被覆して複合磁性粉を生成する。有機樹脂としてはエポキシ樹脂等を用い、その量は混合磁性粉の1.5?3.0wt%とする。
【0009】
この複合磁性粉材料で形成した圧粉磁心は、非晶質合金磁性粉又はFe-Ni系合金磁性粉の一方のみを使用した圧粉磁心よりも高い実効透磁率が得られる。・・・(以下、省略)・・・」

エ 「【0016】同様な試料を用いて、配合比を変えたときの成形体の強度変化を測定した結果を図4に示す。この図から、延性のFe-Ni合金磁性粉の多い方が成形体の強度が増すことが分かる。強度が向上する理由は、延性のFe-Ni合金磁性粉が硬質の非晶質合金磁性粉の粒子間に詰まるだけでなく、母体を包んで塑性変形を生じ、粒子間の結合力を増大させているものと考えられる。」

オ 「【0018】
【実施例】
まず、本発明の複合磁性材料の一実施例について説明する。平均粒径が10μmの6.5wt%のSi、2.5wt%のCr、2.5wt%のB、0.7wt%のC、残部Feからなる非晶質合金磁性粉と、50wt%のFe、50wt%のNiからなる合金磁性粉とを、重量比で各50%の割合で混合して混合磁性粉を得た。次に、この混合磁性粉100重量部に対して熱硬化性のエポキシ樹脂からなる2.0wt%のバインダを添加して攪拌すると、粒子の表面がバインダで被われた複合磁性粉となる。さらに、メッシュを通して粒径の大きなものを除去してから、潤滑剤としてステアリン酸Liと硫酸Baをそれぞれ0.2wt%、0.5wt%を加えて、最終的な複合磁性粉を得た。」

(2)引用文献2に記載された事項について
よって、引用文献2には、次の技術事項が記載されているものと認められる。
ア (1)イには、「硬質な非晶質合金磁性粉に、延性のある金属磁性粉であるFe-Ni系合金磁性粉を混合して混合磁性粉と」することが記載されている。

イ (1)ウには、「この混合磁性粉の粒子の表面を、粒子間の絶縁とバインダ剤の両方の役目を担う熱硬化性の有機樹脂で被覆して複合磁性粉を生成」し「有機樹脂としてはエポキシ樹脂等を用い、その量は混合磁性粉の1.5?3.0wt%とする」ことが記載されている。

ウ (1)ウには、「複合磁性粉材料」は「圧粉磁心」を「形成」するものであることが記載されている。

エ (1)エには、「延性のFe-Ni合金磁性粉が硬質の非晶質合金磁性粉の粒子間に詰まるだけでなく、母体を包んで塑性変形を生じ、粒子間の結合力を増大させ」ることが記載されている。

(3)引用文献2に記載された技術について
よって、引用文献2には、次の技術(以下、「引用文献2に記載された技術」という。)が記載されているものと認められる。

「硬質な非晶質合金磁性粉に、延性のある金属磁性粉であるFe-Ni系合金磁性粉を混合して混合磁性粉とし、この混合磁性粉の粒子の表面を、粒子間の絶縁とバインダ剤の両方の役目を担う熱硬化性の有機樹脂で被覆して複合磁性粉を生成し、有機樹脂としてはエポキシ樹脂等を用い、その量は混合磁性粉の1.5?3.0wt%とし、
複合磁性粉材料は圧粉磁心を形成するものであり、
延性のFe-Ni合金磁性粉が硬質の非晶質合金磁性粉の粒子間に詰まるだけでなく、母体を包んで塑性変形を生じ、粒子間の結合力を増大させる、
複合磁性粉材料。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
ア 引用発明1における「圧粉磁心」が、本願発明1における「圧粉磁心」に相当する。

イ 本願明細書の段落【0012】には「圧粉成形時に第2金属磁性粉の間の空隙に第1金属磁性粉が充填され、またその状態を維持する。この結果、金属磁性粉の充填率が向上し、また保型性に優れた圧粉磁心が得られる。」と記載されている。そして、引用発明1における「第二の金属磁性粉末2」は、「よりやわらかいもの」であって、「充填率を高める」効果を奏するもであるから、引用発明1における「第二の金属磁性粉末2」が本願発明1における「第1金属磁性粉」に相当する。
しかしながら、第1金属磁性粉のNIT値について、本願発明1は「10%以上30%以下」であるのに対し、引用発明1はその旨の特定がない点で相違する。

ウ 本願明細書の段落【0012】には「一方の第2金属磁性粉は高NIT値を有し、比較的硬質であり」と記載されている。そして、引用発明1における「第一の金属磁性粉末1」は「より硬」いものであるので、本願発明1における「第2金属磁性粉」に相当する。
しかしながら、第2金属磁性粉のNIT値について、本願発明1は「30%を超え90%以下」であるのに対し、引用発明1はその旨の特定がない点で相違する。

エ 引用発明1における「熱硬化性樹脂3」が、本願発明1における「樹脂成分」に相当するから、引用発明1と本願発明1とは「樹脂成分を含有する」点で一致する。
しかしながら、本願発明1では「圧粉磁心の全質量に対する樹脂成分の含有量が1質量%以下」であるのに対し、引用発明1では「圧粉磁心」の全質量に対する含有量の特定がない点で相違する。

上記アないしエより、本願発明1と引用発明1との一致点、相違点は次のとおりである。
(一致点)
第1金属磁性粉と、第2金属磁性粉とを含み、
樹脂成分を含有する、圧粉磁心。

(相違点1)
第1金属磁性粉のNIT値について、本願発明1は「10%以上30%以下」であるのに対し、引用発明1はその旨の特定がない点。

(相違点2)
第2金属磁性粉のNIT値について、本願発明1は「30%を超え90%以下」であるのに対し、引用発明1はその旨の特定がない点。

(相違点3)
本願発明1では「圧粉磁心の全質量に対する樹脂成分の含有量が1質量%以下」であるのに対し、引用発明1では「圧粉磁心」の全質量に対する含有量の特定がない点。

(2)判断
新規性について
相違点1ないし相違点3は実質的な相違点であるから、引用発明1は本願発明1と同一の発明ではない。

進歩性について
次に、上記相違点について検討する。
(ア)相違点1及び相違点2について
事案に鑑み、相違点1及び相違点2について併せて検討する。
本願明細書の段落【0009】に「本発明者らは、圧粉磁心を構成する金属磁性粉の充填率向上を目指し鋭意検討を続けたところ、磁性粉の硬度は、その変形性の指標のひとつではあるが、形状の維持性を反映するものではないことに想到した。すなわち、硬度が低く、変形が容易であっても、除圧後に元の形状に復元すると、磁性粉間の充填性は低下し、また圧粉磁心にクラックが発生することもある。」と記載されているとおり、金属磁性粉における「硬度」は「形状の維持性」を「反映」するものではないから、「硬度」の大小と「NIT値」の大小との間に一般的な関係性を認めることはできない。
また、引用文献1の第一ないし第三の実験(前記「第4」「1」「(1)」エないしカ参照。)に用いられた「Fe-Si-Cr系金属磁性粉末」と「鉄系(鉄基)金属磁性粉末」、第四の実験(前記「第4」「1」「(1)」キ参照。)に用いられた「Fe-Si-Cr系金属磁性粉末」と「Fe-Ni系金属磁性粉末」について、それぞれの「NIT値」を特定することもできない。
よって、相違点1及び相違点2は、当業者が容易になし得たこととはいえない。

(イ)相違点3について
引用文献1に記載された第一ないし第三の実験では「金属磁性粉末100gに対して」、「熱硬化性樹脂」である「シリコーン樹脂3gを混合し」、第四の実験でも「金属磁性粉末100gに対して」「熱硬化性樹脂」である「シリコーン樹脂6gを混合して」いることから、引用文献1には「圧粉磁心の全質量に対する樹脂成分の含有量」を特に「1質量%以下」とすることは記載も示唆もされていない。
次に、当業者が引用文献2に記載された技術を引用発明1に適用することによって、上記相違点を容易になし得たといえるか否かについて検討すると、引用文献2に記載された技術では「有機樹脂」「の量は混合磁性粉の1.5?3.0wt%」とされているから、引用文献2に記載された技術を引用発明1にそのまま適用しても、「有機樹脂」「の量」を「混合磁性粉」の「1質量%以下」とすることにはならない。
さらに、本願発明1では、本願明細書の段落【0013】に「本発明によれば第1金属磁性粉がバインダーとしての機能を果たすため、樹脂系バインダーの使用量を削減でき、究極的には樹脂系のバインダーを用いることなく圧粉磁心を得ることもできる。」と記載されているとおり、上記相違点1、2に係る構成を組み合わせることによってはじめて、「圧粉磁心の全質量に対する樹脂成分の含有量が1質量%以下」とすることが可能となったものであるから、そのような前提を欠く引用文献2に記載された技術において、引用文献2に記載された技術における「有機樹脂」の量を「混合磁性粉」の「1wt%」以下とすることが可能であったとすることもできない。

(ウ)よって、本願発明1は、当業者であっても、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

2 本願発明2ないし6について
本願発明2ないし6は、本願発明1に係る構成を有し、さらに技術的な限定を付したものであるから、上記相違点1ないし3に係る構成(相違点4ないし6に係る構成に同じ)を有するものである。
よって、本願発明5、6(原審における令和2年5月8日付けの拒絶理由で新規性を有しないとされた請求項6ないし7に係る発明に対応する。)は、本願発明1について述べたのと同じ理由により、引用文献1に記載された発明ではない。
また、本願発明2ないし6(原審における令和2年5月8日付けの拒絶理由で進歩性を有しないとされた請求項2、4ないし7に係る発明に対応する。)は、本願発明1について述べたのと同じ理由により、当業者であっても、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

第7 まとめ
以上のとおり、原査定の理由(新規事項の追加)によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-09-21 
出願番号 特願2017-35295(P2017-35295)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01F)
P 1 8・ 55- WY (H01F)
P 1 8・ 113- WY (H01F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 秋山 直人  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 清水 稔
永井 啓司
発明の名称 圧粉磁心  
代理人 前田・鈴木国際特許業務法人  
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