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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01J
管理番号 1378408
審判番号 不服2021-3627  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-03-19 
確定日 2021-10-25 
事件の表示 特願2019-203282「X線デバイス」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 2月13日出願公開、特開2020- 24945、請求項の数(15)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)2月10日を国際出願日とする出願である特願2016-568131号の一部を令和元年11月8日に新たな特許出願としたものであって、令和元年11月13日に手続補正書が提出され、令和2年2月21日付けで拒絶理由通知がされ、令和2年6月2日に意見書及び手続補正書が提出され、令和2年7月2日付けで拒絶理由通知(最後)がされ、令和2年10月2日に意見書及び手続補正書が提出され、令和2年11月9日付けで令和2年10月2日に提出された手続補正書による補正の却下の決定がされ、令和2年11月9日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、令和3年3月19日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、令和3年8月25日に上申書が提出されたものである。

第2 原査定の理由の概要
原査定の理由の概要は次のとおりである。
本願の請求項1に係る発明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献8に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本願の請求項2?15に係る発明は、当業者が、以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2?8に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引 用 文 献 等 一 覧
1.米国特許第7085351号明細書
2.特表2008-535183号公報
3.特開2012-138168号公報
4.特表2007-504636号公報
5.特表2013-504365号公報
6.特開2013-034870号公報
7.特開2003-036805号公報
8.米国特許出願公開第2014/0185739号明細書

第3 本願発明
本願の請求項1?15に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明15」という。)は、令和3年3月19日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定される発明であるところ、そのうち、本願発明1は以下のとおりである。
「【請求項1】
ナノ構造のコーティングを有する導電性基体を備える複数の電子エミッタと、
前記複数の電子エミッタの各導電性基体に取り付けられている加熱素子と、
前記複数の電子エミッタから放出された電子を受け取るように構成されている電子受け取り素子と、
前記複数の電子エミッタと、前記加熱素子と、前記電子受け取り素子とを収容するように構成されている真空筐体と、を備え、
前記複数の電子エミッタが、前記加熱素子がオン状態であり且つ前記複数の電子エミッタに負のバイアスがかけられる際のショットキー放出用に構成されていて、
前記複数の電子エミッタの各々と前記電子受け取り素子との間の電圧差がX線ビームのエネルギーを決定し、
前記複数の電子エミッタが、前記電子受け取り素子上の一つの集束スポットに向けて電子を放出するように配置され、逐次的にバイアスがかけられて経時的に一定の電流での時間一様性を有する電子放出を与える、X線発生デバイス。」

なお、本願発明2?15の概要は以下のとおりである。
本願発明2?10は、本願発明1を減縮した発明である。
本願発明11?14は、本願発明1のX線発生デバイスを備える各種装置の発明である。
本願発明15は、本願発明1のX線発生デバイスを提供することを備える方法の発明である。

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(米国特許第7085351号明細書)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審が付した。以下同じ。)。なお、引用文献1は、図面番号の表記について、図面の欄では、「FIG. 15A」のように、数字の直後に付すアルファベットを大文字とする一方で、本文中では、「FIG. 15a」のように、当該アルファベットを小文字としているので、以下、当審の訳は、図面の欄の表記に倣うこととする。
ア 「The current inventions allow one to control precisely the current density and distribution of electron beam emitted from nanostructured cathode. This enables a new method of generating an X-ray beam with superior uniformity.」(第14欄第41行?44行)
(当審訳:本発明は、ナノ構造カソードから放出された電子ビームの電流密度および分布を正確に制御することを可能にする。これにより、優れた均一性を有するX線ビームを生成する新しい方法が可能になる。)

イ 「Exemplary embodiments of the present invention allow for independent control of electron emission current and X-ray energy in field emission cold cathode X-ray tubes. Exemplary field emission cold cathode x-ray tubes are described in U.S. patent application Ser. No. 09/679,303 entitled “X-ray Generating Mechanism Using Electron Field Emission Cathode.” This patent application describes a field emission nano structure cathode material for use in an x-ray generating device. The nano structure field emission material is capable of producing, in a controlled and reliable manner, a high emitted electron current density through the application of a relatively small control electrical field. Accordingly, a substantially higher electron beam current can be achieved compared with that of thermionic emission. The nano structure field emission cathode is capable of providing precise step-function initiation and termination of the emission of electrons in a pulse varying duration simply by varying the applied voltage. Using the x-ray tubes with nano structure based field-emission cathodes of this application, it is possible to construct portable x-ray machines for use in the field. For more information regarding these structures, the interested reader should refer to International Publication No. 02/31857A1, which corresponds to the '303 application, the entire disclosure of which is herein expressly incorporated by reference. Although the following describes the use of such field emission cold cathode x-ray tubes in connection with the present invention, one skilled in the art will recognize that methods and apparatus described herein are equally applicable to other types of structures.」(第16欄第15行?43行)
(当審訳:本発明の例示的な実施形態は、電界放出冷陰極X線管における電子放出電流及びX線エネルギーの独立制御を可能にする。例示的な電界放出冷陰極X線管は、「電界放出陰極を用いたX線発生機構」と題する米国特許出願第09/679,303号に記載されている。この特許出願は、X線発生装置で使用するための電界放出ナノ構造カソード材料を記載している。ナノ構造電界放出材料は、比較的小さな制御電界の印加を通じて、制御された信頼できる方法で、高い放出電子電流密度を生成することができる。したがって、熱電子放出の電流と比較して、実質的により高い電子ビーム電流を達成することができる。ナノ構造の電界放出カソードは、印加電圧を変えるだけで、持続時間を変化するパルスにおいて電子の放出の正確なステップ関数の開始と終了を提供することができる。このアプリケーションのナノ構造ベースの電界放出カソードを備えたX線管を使用して、現場で使用するためのポータブルX線装置を構築することが可能である。これらの構造に関する詳細については、興味のある読者は、‘303出願に対応する国際公開番号02/31857A1を参照する必要があり、その開示全体は、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。以下は、本発明に関連してそのような電界放出冷陰極X線管の使用を説明するが、当業者は、本明細書に記載の方法及び装置が他の種類の構造に等しく適用可能であることを認識するであろう。)

ウ 「FIGS. 15a through 15d illustrate an X-ray tube in accordance with a first embodiment of the present invention. In accordance with the first embodiment of the present invention, the electron emission current is controlled by adjusting the distance between the anode and the cathode. FIG. 15a illustrates a cathode 1505 comprising a substrate 1502 and a field emissive material 1504. The field emission cathode 1505 can be a layer of 1-dimensional (1D) nano-objects such as nanotubes and nanowires deposited on a metal substrate 1502.(中略)Mounted on the field emissive material 1504 is a focus ring 1506 for focusing the emissions from the field emissive materials 1504 onto anode 1508. Anode 1508 is mounted on support 1510. Underneath the substrate 1502 is a piezoelectric material 1512. The piezoelectric material 1512 receives electrical energy from controller 1514. The electrical connection between controller 1514 (located outside the x-ray tube) and the piezoelectric material 1512 (inside the x-ray tube) is made through the use of a vacuum feed-through. One of ordinary skill in the art recognizes how to make and use a vacuum feed-through, and hence, a detailed description of this structure is omitted.」(第16欄第44行?67行)
(当審訳:図15Aから15Dは本発明の第1の実施形態によるX線管を示す図である。本発明の第1の実施形態によれば、アノードとカソードとの間の距離を調整することによって電子放出電流が制御される。図15Aは、基板1502と電界放出材料1504とを含むカソード1505を示す。電界放出カソード1505は、金属基板1502上に堆積されたナノチューブ及びナノワイヤのような1次元(1D)ナノオブジェクトの層とすることができる。(中略)フォーカスリング1506が電界放出材料1504に取り付けられており、これが電界放出材料1504から放出された電子をアノード1508上に収束させる。アノード1508は支持体1510に取り付けられている。基板1502の下には圧電材料1512が設けられている。圧電材料1512は、コントローラ1514からの電気的エネルギーを受け取る。コントローラ1514(X線管の外側に配置されている)と圧電材料1512(X線管の内側に配置されている)との間の電気的接続は、真空フィードスルーの使用を通して行われる。当業者は真空フィードスルーの製造方法及び使用方法を認識するので、この構成の詳細な説明は省略する。)


エ 「In accordance with the first embodiment of the present invention, a voltage Va is established between cathode 1505 and anode 1508. For a given voltage V and a distance D between the anode and the cathode, the applied electric field, i.e., the X-ray energy, is E=V/D. In electron field emission the electron emission current I is related to the applied electric field E through the Fowler-Nordheim equation as follows:

where J is the emitted electron current, p is the work function of the field emission materials, E is the applied electric field, and a and b are Fowler-Nordheim parameters which are dependent upon the particular setup geometry and nanostructures of the emissive materials.」(第17欄第1行?14行)
(当審訳:本発明の第1の実施形態によれば、カソード1505とアノード1508との間に電圧Vaが確立される。所与の電圧V及びカソードとアノードとの間の距離Dより、適用される電界、すなわちX線エネルギーはE=V/Dとなる。電子電界放出では、電子放出電流Iは、次のようにFowler-Nordheim式に従い印加電界Eに依存して定まる。

式中Jは電子放出電流であり、Pは電界放出材料の仕事関数であり、Eは印加電界であり、AおよびBは発光材料の特定の設定形状およびナノ構造に依存するFowler-Nordheimパラメータである。)

オ 「Accordingly, it can be seen that the electric field E is proportional to the voltage applied between the cathode and anode (Va), and inversely proportional to the distance (D) between them.」(第17欄第18行?21行)
(当審訳:したがって、電界Eは、カソードとアノード(Va)との間に印加される電圧に比例し、それらの間の距離(D)に反比例することが分かる。)

カ 「In accordance with the first embodiment of the present invention, the relative position between the anode and the cathode are selected to correspond to a distance which will produce the most frequently used electron beam current in the most commonly used x-ray emission energy for a particular application setting of the x-ray tube. The voltage Va is selected to produce the desired X-ray radiation, and the location of the cathode is adjusted to achieve the desired electron beam current. Accordingly, the total emission current increases when the distance (D) between the anode and the cathode is reduced, and decreases when the distance (D) between the anode and the cathode increases. In accordance with exemplary embodiments of the present invention controller 1514 is constructed such that the operator of the x-ray device can set the desired electron beam current, and the device will automatically adjust the cathode-anode distance.」(第17欄第22行?37行)
(当審訳:本発明の第1の実施形態によれば、アノードとカソードとの間の相対位置は、最も一般的に使用されるX線放出エネルギーで最もよく使用される電子ビーム電流を特定する距離に対応するように選択される。電圧Vaは所望のX線放射を生成するように選択され、カソードの位置は所望の電子ビーム電流を達成するように調整される。したがって、アノードとカソードとの間の距離(D)が小さくなると総放出電流が増大し、アノードとカソードとの間の距離(D)が増加すると減少する。本発明の例示的な実施形態によれば、コントローラ1514は、X線装置のオペレータが所望の電子ビーム電流を設定することができ、装置は自動的にカソード-アノード距離を調整するように構成される。)

キ 「FIGS. 16a and 16b illustrate a second embodiment of the present invention. In accordance with the second embodiment of the present invention, the temperature of the cathode is controlled to adjust the electron emission current. Specifically, the higher the temperature of the cathode 1505, the higher electron emission current. Accordingly, controller 1514 is connected via a vacuum electrical feed-through to electric heater 1516. By controlling heater 1516, the electron emission current from cathode 1505 can be controlled independently of the voltage Va. The heater 1516 can be made of metal filaments in a ceramic housing or other similar structures. Similar to the first embodiment of the present invention, controller 1514 is designed such that an operator need only enter the desired electron emission current and the controller will adjust the heater 1516 accordingly.」(第18欄第3行?18行)
(当審訳:図16A及び16Bは本発明の第2の実施形態を示す図である。本発明の第2の実施形態によれば、カソードの温度は電子放出電流を調整するように制御される。具体的には、カソード1515の温度が高いほど、高い電子放出電流が高くなる。したがって、コントローラ1514は、真空電気フィードスルーを介して電気ヒータ1516に接続されている。ヒータ1516を制御することによって、カソード1515からの電子放出電流を電圧Vaとは独立して制御することができる。ヒータ1516は、セラミックハウジングまたは他の同様の構造内の金属フィラメントで作ることができる。本発明の第1の実施形態と同様に、コントローラ1514は、操作者が所望の電子放出電流を入力するだけで、それに応じてヒータ1516を調整する必要があるように設計されている。)


(2)ア 上記(1)を踏まえ、引用文献1に記載された第2の実施形態のうち図16Aに係るものについて以下検討する。
当該第2の実施形態は、電界放出冷陰極X線管における電子放出電流及びX線エネルギーの独立制御を可能にする構成(以下「独立制御可能構成」という。)とされる(上記(1)イの「以下は、本発明に関連してそのような電界放出冷陰極X線管の使用を説明する」を参照。)一方、その形態に対応する図16Aに係る構成についての説明は、上記(1)キの内容にとどまっており、詳細になされているものではない。しかしながら、独立制御可能構成には、第2の実施形態に加えて第1の実施形態も含まれているところ、当該第1の実施形態に対応する図15Aに係る構成についての説明は、上記(1)ウ?カのとおり、相当程度なされている。そして、引用文献1においては、第1の実施形態に係る当該説明の直後に、第2の実施形態に係る上記説明がなされている箇所が配されており、しかも、図16A(第2の実施形態)と図15A(第1の実施形態)とは、(i)電気ヒータ1516を用いているか圧電材料1515を用いているか、(ii)コントローラに付された図面番号が「1514’」か「1514」か、(iii)「1506」の図面番号が付されていないか付されているかのみで異なっており、その余で一致している。このように、第2の実施形態と第1の実施形態との間には共通性及び関連性が強く存在することから、当業者は、第2の実施形態(図16A)を理解するに当たり、上記(1)キの記載に加え、当該記載によっては説明されていない部分を、第1の実施形態(図15A)を参酌して理解するということができ、これを妨げる記載は引用文献1には存在しないと認められる。

イ そこで、第2の実施形態(図16A)を検討するに先立ち、第1の実施形態(図15A)について検討すると、上記(1)によれば、第1の実施形態(図15A)は、以下のとおりであると認められる。なお、認定の根拠となった記載箇所を参考までに括弧内に付してある(以下同じ。)。
「ナノ構造カソードから放出された電子ビームの電流密度および分布を正確に制御することを可能にし、これにより、優れた均一性を有するX線ビームを生成する、(上記(1)ア)
X線管であって、(同ウ)
アノードとカソードとの間の距離を調整することによって電子放出電流が制御されるものであり、(同ウ)
カソード1505は、基板1502と電界放出材料1504とを含み、(同ウ)
電界放出カソード1505は、金属基板1502上に堆積されたナノチューブ及びナノワイヤのような1次元(1D)ナノオブジェクトの層とすることができ、(同ウ)
フォーカスリング1506が電界放出材料1504に取り付けられており、これが電界放出材料1504から放出された電子をアノード1508上に収束させるものであって、(同ウ)
アノード1508は支持体1510に取り付けられており、(同ウ)
基板1502の下には圧電材料1512が設けられており、圧電材料1512は、コントローラ1514からの電気的エネルギーを受け取るものであり、(同ウ)
コントローラ1514(X線管の外側に配置されている)と圧電材料1512(X線管の内側に配置されている)との間の電気的接続は、真空フィードスルーの使用を通して行われるものであって、(同ウ)
カソード1505とアノード1508との間に電圧Vaが確立されており、電圧Vaは所望のX線放射を生成するように選択されており、(同エ)
カソードの位置は所望の電子ビーム電流を達成するように調整され、(同カ)
したがって、アノードとカソードとの間の距離(D)が小さくなると総放出電流が増大し、アノードとカソードとの間の距離(D)が増加すると減少する、(同カ)
X線管。(同ウ)」

ウ 上記ア及びイを踏まえ、第2の実施形態(図16A)について改めて検討する。
(ア)当該第2の実施形態は、上記アで説示したとおり、上記(1)キで説明されているところ、そこでは、次の各点、すなわち、カソードの温度は電子放出電流を調整するように制御される点、コントローラ1514’は、真空電気フィードスルーを介して電気ヒータ1516に接続されている点、ヒータ1516を制御することによって、カソード1515からの電子放出電流を電圧Vaとは独立して制御することができる点、が記載されているにとどまる。しかるに、これらの各点は、独立制御可能構成において、電子放出電流及びX線エネルギーの独立制御を可能にするための部分をもっぱら説明したものであるといえる。
他方、第1の実施形態においては、上記イで認定した構成によれば、当該独立制御を可能にするための部分が、「電子放出電流」の「制御」が「アノードとカソードとの間の距離を調整することによって」なされていることに関する部分であるということができ、具体的には、次の各点、すなわち、「基板1502の下に」「取り付けられて」いるものが「圧電材料1512」である点、「コントローラ1514からの電気的エネルギーを受け取るもの」が「圧電材料1512」である点、「X線管の内側に配置されている」とともに「真空フィードスルーの使用を通して行われる」「コントローラ(1514(X線管の外側に配置されている))」「との間」に「電気的接続」がなされるものが「圧電材料1512」である点、「カソードの位置は所望の電子ビーム電流を達成するように調整され」る点、「アノードとカソードとの間の距離(D)が小さくなると総放出電流が増大し、アノードとカソードとの間の距離(D)が増加すると減少する」点、であるといえる。そして、上記イで認定した構成のうち、それら以外の部分が、第2の実施形態について、上記(1)キの記載によっては説明されていない部分である。
そうすると、第2の実施形態(図16A)に係る構成は、上記(1)キで説明された構成と、上記イで認定した構成におけるそれら以外の部分とからなると理解されることになる。この点、図16Aには、図15A(上記イで認定した構成に係る図面である。)にある図面番号「1505」が付されていないが、当該図面番号は「カソード」(「電界放出カソード」)を指し示すものである(上記(1)ウ)ところ、「カソード1505」は、「基板1502と電界放出材料1504とを含」むとされており、図16Aにも図面番号「1502」及び「1504」が付されているから、第2の実施形態(図16A)についても、図15Aにおいて「カソード1505」に関して説明された内容が妥当するといえる。

(イ)以上によれば、引用文献1には、第2の実施形態(図16A)に係る構成として次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「ナノ構造カソードから放出された電子ビームの電流密度および分布を正確に制御することを可能にし、これにより、優れた均一性を有するX線ビームを生成する、(上記(1)ア)
X線管であって、(同ウ)
カソードの温度は電子放出電流を調整するように制御されるものであり、(同キ)
カソードは、基板1502と電界放出材料1504とを含み、(同ウ)
電界放出カソードは、金属基板1502上に堆積されたナノチューブ及びナノワイヤのような1次元(1D)ナノオブジェクトの層とすることができ、(同ウ)
フォーカスリング1506が電界放出材料1504に取り付けられており、これが電界放出材料1504から放出された電子をアノード1508上に収束させるものであって、(同ウ)
アノード1508は支持体1510に取り付けられており、(同ウ)
基板1502の下にはヒータ1516が設けられており、(同キ)
コントローラ1514は、真空電気フィードスルーを介して電気ヒータ1516に接続されており、(同キ)
カソードとアノード1508との間に電圧Vaが確立されており、電圧Vaは所望のX線放射を生成するように選択されており、(同エ)
ヒータ1516を制御することによって、カソード1515からの電子放出電流を電圧Vaとは独立して制御することができる、(同キ)
X線管。(同ウ)」

2 引用文献8について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献8(米国特許出願公開第2014/0185739号明細書)には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「The present invention provides a CT device, which comprises the cathode control multi-cathode distributed X-ray apparatus mentioned above.」([0025])
(当審訳:本発明は、上述のカソード制御マルチカソード分散型X線装置を含むCTデバイスを提供する。)、
「The cathode control multi-cathode distributed X-ray apparatus of the present invention comprises a plurality of independent cathodes, a plurality of focal current limiters, an anode, a vacuum box, a pluggable high voltage connector, a plurality of pluggable cathode power supply connectors, and a power supply and control system, wherein the cathodes, focal current limiters and anode are mounted in the vacuum box, the high voltage connector and cathode power supply connectors are mounted on the wall of the vacuum box, forming an integral sealing structure together with the vacuum box. Under the heating action of the cathode filament, the cathodes generate electrons. In general, the focal current limiters have a negative voltage of hundred volts relative to the cathodes, limiting the electrons inside the cathodes. The control system, by preset control logic, enables the respective cathodes to give a negative high voltage pulse of kilovolts to each cathode in turn. The electrons in the cathodes that have received the negative high voltage pulse fly quickly to the focal current limiters, being focused into a small spot beam stream, passing through the current limiting aperture, entering the high voltage electric field acceleration region between the focal current limiters and the anode, receiving an electric field acceleration of dozens to hundreds of kilovolts, acquiring energy, and bombarding the anode in the end, thus generating X-ray. Because a plurality of independent cathode are arranged as an array, the generation position of electron beam stream and the X-ray generated by bombarding the anode are also arranged as an array accordingly.」([0026])
(当審訳:本発明のカソード制御マルチカソード分散型X線装置は、複数の独立する陰極、複数のフォーカル電流制限器、陽極、真空ボックス、挿脱可能な高電圧接続装置、複数の挿脱可能な陰極電源接続装置、電源と制御システムを備え、そのうち、陰極、フォーカル電流制限器及び陽極は真空ボックス内に取り付けられ、高電圧接続装置及び陰極電源接続装置は真空ボックスの壁に取り付けられ、真空ボックスと共に全体密封構造を形成する。陰極は、陰極フィラメントの加熱作用により電子を生じる。通常、フォーカル電流制限器が陰極に対して百ボルト級の負電圧を有し、電子を陰極内に制限する。制御システムは、所定の制御ロジックに従って、各陰極電源を順次各陰極に千ボルト級の負高電圧パルスを印加させる。負高電圧パルスを受けた負陰極の内部の電子がフォーカル電流制限器へ高速で飛び、小スポットビーム流に集束されて、限流孔を通過し、フォーカル電流制限器と陽極との間の高電圧加速電界エリアに入り、数十から数百千ボルトの電界加速を受け、エネルギーを得て、最終的に陽極に衝撃し、X線を発生する。複数の独立陰極がアレイに配列されているため、電子ビーム流の発生位置及び陽極に衝撃して発生したX線もそれに対応してアレイに配列されている。)、
「In the cathode control multi-cathode distributed X-ray apparatus provided by the present invention, X-ray that changes focal positions periodically according to a certain order is generated in a light source device.(後略)」(0027)
(当審訳:本発明のカソード制御マルチカソード分散型X線装置において、一つの光源設備において、焦点位置がある順で周期的に変更するX線を発生する。(後略))

イ 「FIG. 1 is a schematic diagram of the cathode control multi-cathode distributed X-ray apparatus of the present invention. As shown in FIG. 1, the cathode control multi cathode distributed X-ray apparatus of the present invention has a plurality of cathodes 1 (at least two, hereinafter referred to also as cathodes 11, 12, 13, 14, 15...), a plurality of focal current limiters 2 corresponding to the plurality of cathodes 1 (hereinafter referred to also as focal current limiters 21, 22. 23, 24, 25...), an anode 3, a vacuum box 4, a pluggable high voltage connector 5, a plurality of pluggable cathode power supply connectors 6 and a power supply and control system 7.」([0050])
(当審訳:図1は本発明のカソード制御マルチカソード分散型X線装置の概略図である。図1に示すように、本発明のカソード制御マルチカソード分散型X線装置は、複数の陰極1(少なくとも二つで、後述するように具体的には陰極11、12、13、14、15とも言う。)、複数の陰極1に対応する複数のフォーカル電流制限器2(後述するように具体的にはフォーカル電流制限器21、22、23、24、25とも言う。)、アノード3、真空ボックス4、挿脱可能な高電圧接続装置5、複数の挿脱可能な陰極電源接続装置、及び電源・制御システム7を有する。)

ウ 「Power supply and control system 7 provides the required power supply and operation control to the various components of the cathode control multi-cathode distributed X-ray apparatus. Power supply and control system 7 comprises: a plurality of cathode power supplies PS1, PS2, PS3, PS4, PS5. . . . for supplying power to cathodes 1; a focal current limiter power supply -V. for supplying power to focal current limiters 2; an anode high voltage power supply +H.V. for supplying power to anode 3; and a control apparatus and so on.(後略)」([0064])
(当審訳:電源・制御システム7は、カソード制御マルチカソード分散型X線装置の各部材に必要な電源と作動制御を提供する。電源・制御システム7は、陰極1に電気を供給するための複数の陰極電源PS1、PS2、PS3、PS4、PS5・・・と、フォーカル電
流制限器2に電気を供給するためのフォーカル電流制限器電源-V.と、陽極3に電気を供給するための陽極高電圧電源+H.V.と、制御装置などを含む。(後略))

エ 「Besides, applying the distributed X-ray Source of the present invention to a CT device, there will be no need to move the light source to generate multiple angles of view, thus saving the slip ring movement, being conducive to simplifying structure, improving system stability, reliability and enhancing inspection effic1ency.」([0075])
(当審訳:また、本発明の分散型X線源をCT設備に応用する場合に、光源を移動しなくても多視角を生じられるので、スリップリング運動を省略でき、構造を簡単化させ、システムの安定性、信頼性を向上させ、検査効率を向上させることに有利である。)

(2)上記(1)によれば、引用文献8には、次の技術的事項(以下「引用文献8に記載された技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
「カソード制御マルチカソード分散型X線装置において、
複数の独立する陰極、複数のフォーカル電流制限器、陽極、真空ボックス、挿脱可能な高電圧接続装置、複数の挿脱可能な陰極電源接続装置、電源と制御システムを備えており、([0026])
制御システムは、所定の制御ロジックに従って、各陰極電源を順次各陰極に千ボルト級の負高電圧パルスを印加させ、負高電圧パルスを受けた負陰極の内部の電子がフォーカル電流制限器へ高速で飛び、小スポットビーム流に集束されて、限流孔を通過し、フォーカル電流制限器と陽極との間の高電圧加速電界エリアに入り、数十から数百千ボルトの電界加速を受け、エネルギーを得て、最終的に陽極に衝撃し、X線を発生し、([0026])
複数の独立陰極がアレイに配列されているため、電子ビーム流の発生位置及び陽極に衝撃して発生したX線もそれに対応してアレイに配列されて、焦点位置がある順で周期的に変更するX線を発生する、X線装置、([0026]、[0027])
又は、この分散型X線源をCT設備に応用し、光源を移動しなくても多視角を生じることで、スリップリング運動を省略した、CT設備([0075])」という技術的事項。

3 特表2012-527079号公報(令和2年11月24日付けの補正の却下の決定で引用された引用文献8であり、以下「引用文献9」という。)について
(1)引用文献9には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
ア 「a) 電子ビームと衝突した際にX線を放出するターゲットと、
b) 少なくとも2つの電子ビームソースを有し、前記ターゲットの方向に収束する電子ビームを選択的に放出する電子ビーム生成部と
を有するX線ソース。」(【請求項1】)

イ 「前記電子ビーム生成部が、
a) 電子エミッタの配列を有するエミッタ装置と、
b) 電極ユニットの配列を有し、前記エミッタ装置から放出された電子ビームの向きを
選択的に制御する電極装置と
を有する、請求項1記載のX線ソース又は請求項2に記載の方法に使用されるX線ソース。」(【請求項5】)

ウ 「いくつかの異なるエミッタから唯1つの焦点位置に至るように電子ビームの焦点を結ぶことも可能である。これは、アノード材料については強度的な制約はないが、エミッタからの最大電流に関して制約があるような場合に好ましい。」(【0040】)

(2)上記(1)によれば、引用文献9には、次の技術的事項(以下「引用文献9に記載された技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
「電子ビームと衝突した際にX線を放出するターゲットと、
少なくとも2つの電子ビームソースを有し、前記ターゲットの方向に収束する電子ビームを選択的に放出する電子ビーム生成部とを有するX線ソースであって、(【請求項1】)
前記電子ビーム生成部が、電子エミッタの配列を有するエミッタ装置と、電極ユニットの配列を有するとともに、前記エミッタ装置から放出された電子ビームの向きを選択的に制御する電極装置を有し、(【請求項5】)
いくつかの異なるエミッタから唯1つの焦点位置に至るように電子ビームの焦点を結ぶことも可能であり、これは、アノード材料については強度的な制約はないが、エミッタからの最大電流に関して制約があるような場合に好ましい(【0040】)」という技術的事項。

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
ア 本願発明1の「ナノ構造のコーティングを有する導電性基体を備える複数の電子エミッタと、」との特定事項について
(ア)引用発明1の「金属基板1502上に堆積されたナノチューブ及びナノワイヤのような1次元(1D)ナノオブジェクトの層」及び「金属基板1502」(「基板1502」)は、それぞれ、本願発明1の「ナノ構造のコーティング」及び「導電性基体」に相当する。
そして、引用発明1の上記「1次元(1D)ナノオブジェクトの層」は、「金属基板1502」「上に堆積され」ているから、引用発明1は、本願発明1でいう「ナノ構造のコーティングを有する導電性基体」を備えているといえる。

(イ)引用発明1の「電界放出カソード」(「カソード」)は、「基板1502と電界放出材料1504とを含」んでいるところ、この「電界放出材料1504」から「電子」が「放出され」るから、当該「電界放出カソード」は、本願発明1の「電子エミッタ」に相当する。
そして、引用発明1の「電界放出カソード」は、上記のとおり、「基板1502」(本願発明1の「導電性基体」に相当。)を含んでいるから、上記(ア)も踏まえると、引用発明1は、本願発明1でいう「ナノ構造のコーティングを有する導電性基体を備える」「電子エミッタ」を備えているといえる。

(ウ)このように、引用発明1は、本願発明1でいう「ナノ構造のコーティングを有する導電性基体を備える」「電子エミッタ」を備えるが、そのような「電子エミッタ」を「複数」備えるものではない。

イ 本願発明1の「前記複数の電子エミッタの各導電性基体に取り付けられている加熱素子と、」との特定事項について
(ア)引用発明1の「ヒータ1516」は、本願発明1の「加熱素子」に相当する。

(イ)引用発明1では、「ヒータ1516」が「基板1502の下に」「設けられて」いるものであるから、上記アを踏まえると、引用発明1は、本願発明1でいう「前記」「電子エミッタの」「導電性基体に取り付けられている加熱素子」との構成を備えているといえる。

(ウ)このように、引用発明1は、本願発明1でいう「前記」「電子エミッタの」「導電性基体に取り付けられている加熱素子」との構成を備えるが、そのような「電子エミッタ」を「複数」備えるものではなく、「加熱素子」が「取り付けられている」のが「前記複数の電子エミッタの各導電性基体」であるものでもない。

ウ 本願発明1の「前記複数の電子エミッタから放出された電子を受け取るように構成されている電子受け取り素子と、」との特定事項について
(ア)引用発明1の「アノード1508」は、「電界放出材料1504から放出された電子」が「フォーカスリング1506」によって「収束させ」られるものであるから、上記アも踏まえると、本願発明1の「電子エミッタから放出された電子を受け取るように構成されている電子受け取り素子」に相当する。

(イ)このように、引用発明1は、本願発明1でいう「電子エミッタから放出された電子を受け取るように構成されている電子受け取り素子」を備えるが、「電子エミッタ」を「複数」備えるものではない。

エ 本願発明1の「前記複数の電子エミッタと、前記加熱素子と、前記電子受け取り素子とを収容するように構成されている真空筐体と、を備え、」との特定事項について
(ア)引用発明1は「X線管」に係るものであるところ、「X線管」が電子発生部材及び電子受け取り部材その他の各部材を収容するチャンバを備えることは技術常識であり、これに、引用発明1が「真空電気フィードスルー」によって「電気ヒータ1516」と「コントローラ1514’」との「接続」がなされているものであることを併せ考慮すれば、引用発明1が、本願発明1でいう「真空筐体」を備えていること、及び、当該「真空筐体」によって、「コントローラ1514’」以外の引用発明1を構成する部材が収容されていることは、明らかである。
よって、引用発明1は、本願発明1でいう「電子エミッタと、前記加熱素子と、前記電子受け取り素子とを収容するように構成されている真空筐体」を備えているといえる。

(イ)しかしながら、引用発明1は、「電子エミッタ」を「複数」備えるものではなく、「加熱素子」が「取り付けられている」のが「前記複数の電子エミッタの各導電性基体」であるものでもない。

オ 本願発明1の「前記複数の電子エミッタが、前記加熱素子がオン状態であり且つ前記複数の電子エミッタに負のバイアスがかけられる際のショットキー放出用に構成されていて、」との特定事項について
(ア)引用発明1の「電界放出カソード」(本願発明1の「電子エミッタ」に相当。)は、「ヒータ1516を制御することによって、カソード1515からの電子放出電流を電圧Vaとは独立して制御することができる」ものとされているものの、そのことが、本願発明1でいう「前記加熱素子がオン状態であり且つ前記」「電子エミッタに負のバイアスがかけられる際のショットキー放出用に構成されて」いるといえるのかは不明である。

(イ)さらに、引用発明1は、そのような「電子エミッタ」を「複数」備えるものではない。

カ 本願発明1の「前記複数の電子エミッタの各々と前記電子受け取り素子との間の電圧差がX線ビームのエネルギーを決定し、」との特定事項について
(ア)引用発明1の「X線ビーム」は、本願発明1の「X線ビーム」に相当する。

(イ)引用発明1は、「カソードとアノード1508との間に電圧Vaが確立されており、電圧Vaは所望のX線放射を生成するように選択され」るものであるところ、「電圧Va」はいわゆる「管電圧」に該当するものであり、発生したX線のエネルギーが管電圧に依存することは技術常識であるから、上記(ア)並びに上記ア及びウをも踏まえると、引用発明1は、本願発明1でいう「前記」「電子エミッタ」「と前記電子受け取り素子との間の電圧差がX線ビームのエネルギーを決定」するものであるといえる。

(ウ)しかしながら、引用発明1は、「X線ビームのエネルギーを決定」する「電子受け取り素子との間の電圧差」を定める「電子エミッタ」が、「前記複数の電子エミッタの各々」ではない。

キ 本願発明1の「前記複数の電子エミッタが、前記電子受け取り素子上の一つの集束スポットに向けて電子を放出するように配置され、逐次的にバイアスがかけられて経時的に一定の電流での時間一様性を有する電子放出を与える、」との特定事項について
(ア)引用発明1は、「電界放出カソード」(本願発明1の「電子エミッタ」に相当。)に含まれる「電界放出材料1504」に「フォーカスリング1506」が「取り付けられて」いるところ、当該「フォーカスリング1506」は、「電界放出材料1504から放出された電子をアノード1508上に収束させる」ものである。つまり、「フォーカスリング1506」は、電子を「収束させる」ものであって、部材の形状が「リング」状であると解されるから、対称性を考慮すれば、電子の収束はスポット状になるものと解される。
そうすると、引用発明1は、上記ウも踏まえれば、本願発明1のように、電子が「電子受け取り素子上の」「集束スポットに向け」られているものといえる。

(イ)上記(ア)及び上記アを踏まえれば、引用発明1は、本願発明1でいう「前記」「電子エミッタが、前記電子受け取り素子上の」「集束スポットに向けて電子を放出するように配置」されているものといえる。

(ウ)しかしながら、引用発明1は、「電子エミッタ」を「複数」備えるものではなく、「電子エミッタ」の「配置」が、「前記複数の電子エミッタが、前記電子受け取り素子上の一つの集束スポットに向けて電子を放出するように」されているものではない。
さらに、引用発明は、「前記複数の電子エミッタ」が「逐次的にバイアスがかけられて経時的に一定の電流での時間一様性を有する電子放出を与える」ものでもない。

ク 本願発明1の「X線発生デバイス」との特定事項について
引用発明1の「X線管」は、本願発明1の「X線発生デバイス」に相当する。

(2)一致点及び相違点の認定
上記(1)によれば、本願発明1と引用発明1との間には、次の一致点、相違点があると認められる。

(一致点)
「ナノ構造のコーティングを有する導電性基体を備える電子エミッタと、
前記電子エミッタの導電性基体に取り付けられている加熱素子と、
前記電子エミッタから放出された電子を受け取るように構成されている電子受け取り素子と、
前記電子エミッタと、前記加熱素子と、前記電子受け取り素子とを収容するように構成されている真空筐体と、を備え、
前記電子エミッタと前記電子受け取り素子との間の電圧差がX線ビームのエネルギーを決定し、
前記電子エミッタが、前記電子受け取り素子上の集束スポットに向けて電子を放出するように配置された、X線発生デバイス。」

(相違点1)
本願発明1は、「電子エミッタ」が「複数の」ものであり、
「加熱素子」が「取り付けられている」のが「前記複数の電子エミッタの各導電性基体」であり、
「X線ビームのエネルギーを決定」する「電子受け取り素子との間の電圧差」を定める「電子エミッタ」が「前記複数の電子エミッタの各々」であり、
「電子エミッタ」の「配置」が「前記複数の電子エミッタが、前記電子受け取り素子上の一つの集束スポットに向けて電子を放出するように」されており、
「複数の電子エミッタが」「逐次的にバイアスがかけられて経時的に一定の電流での時間一様性を有する電子放出を与える」のに対し、
引用発明1は、「電界放出カソード」(本願発明1の「電子エミッタ」に相当。)が複数ではなく、
「ヒータ1516」(本願発明1の「加熱素子」に相当。)が「取り付けられている」のが、「電界放出カソード」の「基板1502」(本願発明1の「導電性基体」に相当。)であり、
「X線ビームのエネルギーを決定」する「アノード1508」(本願発明1の「電子受け取り素子」に相当。)「との間の電圧差」を定める「電界放出カソード」が、「前記複数」のものの「各々」ではなく、
「電界放出カソード」の「配置」が、「電界放出カソード」が「アノード1508」「上の」「集束スポットに向けて電子を放出するように」されているにとどまり、
「複数の電子エミッタが」「逐次的にバイアスがかけられて経時的に一定の電流での時間一様性を有する電子放出を与える」ものではない点。

(相違点2)
本願発明1は、「前記複数の電子エミッタが、前記加熱素子がオン状態であり且つ前記複数の電子エミッタに負のバイアスがかけられる際のショットキー放出用に構成されて」いるのに対し、引用発明1は、「電界放出カソード」及び「ヒータ1516」を備えるものの、ショットキー放出を行うものであるか否かが明らかでない点。

(3)相違点についての判断
ア 相違点1について
(ア)引用文献8に記載された技術的事項(上記第4の2)は、「複数の独立する陰極」を備えており、「負高電圧パルスを受けた負陰極の内部の電子」が「最終的に陽極に衝撃し、X線を発生」するものであるから、相違点1に係る構成のうち、「電子エミッタ」が「複数」との構成を備えているところ、このことに、発生したX線のエネルギーが管電圧に依存するとの技術常識を併せ考慮すれば、引用文献8に記載された技術的事項は、相違点1に係る構成のうち、「X線ビームのエネルギーを決定」する「電子受け取り素子との間の電圧差」を定める「電子エミッタ」が、「前記複数の電子エミッタの各々」となるものといえる。
さらに、引用文献8に記載された技術的事項は、「所定の制御ロジックに従って、各陰極電源を順次各陰極に千ボルト級の負高電圧パルスを印加させ」るものであるとともに、「焦点位置をある順で周期的に変更するX線を発生」させ、「光源を移動しなくても多視角を生じる」ようにされたものであるから、各陰極が順次放出する電子ビーム流は、一定とすることが望ましいとも考えられる。そうすると、引用文献8に記載された技術的事項は、相違点1にかかる構成のうち、「複数の電子エミッタが」「逐次的にバイアスがかけられて経時的に一定の電流での時間一様性を有する電子放出を与える」ものといえる余地がある。
しかしながら、相違点1に係る構成は、「複数の電子エミッタが」「逐次的にバイアスがかけられて経時的に一定の電流での時間一様性を有する電子放出を与える」ことの前提として、「電子エミッタ」の「配置」が「前記複数の電子エミッタが、前記電子受け取り素子上の一つの集束スポットに向けて電子を放出するように」されている。しかるに、引用文献8に記載された技術的事項は、「複数の独立陰極がアレイに配列されているため、電子ビーム流の発生位置及び陽極に衝撃して発生したX線もそれに対応してアレイに配列されて」いるものであるから、上記の前提である「前記複数の電子エミッタが、前記電子受け取り素子上の一つの集束スポットに向けて電子を放出するように」電子エミッタを配置することを満たすものではない。そして、引用文献8のその余の記載をみても、そのことは何ら記載も示唆もされるものではない。

(イ)引用文献9に記載された技術的事項(上記第4の3)は、いくつかの異なるエミッタから唯1つの焦点位置に至るように電子ビームの焦点を結ぶものであるから、引用文献9には、相違点1に係る構成のうち、「電子エミッタ」が「複数の」ものである点、「電子エミッタ」の「配置」が「前記複数の電子エミッタが、前記電子受け取り素子上の一つの集束スポットに向けて電子を放出するように」されている点が記載されているといえるものである。
しかしながら、相違点1に係る構成は、「電子エミッタ」の「配置」が「前記複数の電子エミッタが、前記電子受け取り素子上の一つの集束スポットに向けて電子を放出するように」されるとの前提のもと、「複数の電子エミッタが」「逐次的にバイアスがかけられて経時的に一定の電流での時間一様性を有する電子放出を与える」ものである。しかるに、引用文献9に記載された技術的事項は、「アノード材料については強度的な制約はないが、エミッタからの最大電流に関して制約がある場合に好ましい」ものであるから、当該場合においては、いくつかの異なるエミッタからのアノード材料に向けた電子ビームの放出は同時になされていると解するのが自然であり、よって、相違点1に係る構成のうち、「逐次的にバイアスがかけられて経時的に一定の電流で時間一様性を有する電子放出を与える」ようにするものではなく、また、そのようにすることに合理性を見出すことはできない。そして、引用文献9には、当該場合以外の場合については記載も示唆もないから、引用文献9の記載から、上記の「逐次的にバイアスがかけられて経時的に一定の電流で時間一様性を有する電子放出を与える」との構成を把握することができるとはいえない。

(ウ)そして、本願発明1は、相違点1の構成のうち、「電子エミッタ」の「配置」が「前記複数の電子エミッタが、前記電子受け取り素子上の一つの集束スポットに向けて電子を放出するように」されているとともに、「複数の電子エミッタが」「逐次的にバイアスがかけられて経時的に一定の電流での時間一様性を有する電子放出を与える」との構成を有することにより、エミッタが経時的に一定の電流での時間一様性を有する電子放出を与えることができる(本願の明細書の【0049】)という効果を奏するものである。

(エ)したがって、相違点1に係る構成は、当業者であっても、引用発明1並びに引用文献8に記載された技術的事項及び引用文献9に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 原査定の判断について
審判請求時の補正により、複数の電子エミッタが、「電子受け取り素子上の一つの集束スポットに向けて電子を放出するように配置され、逐次的にバイアスがかけられて経時的に一定の電流での時間一様性を有する電子放出を与える」という事項を有するものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1に記載された発明及び引用文献8に記載された技術的事項に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

ウ 小括
そして、引用文献2?引用文献7を考慮しても、以上の判断が左右されることはない。
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2?引用文献9に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2?15について
本願発明2?15は、本願発明1の構成をすべて備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2?引用文献9に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-10-04 
出願番号 特願2019-203282(P2019-203282)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鳥居 祐樹  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 山村 浩
吉野 三寛
発明の名称 X線デバイス  
代理人 村山 靖彦  
代理人 阿部 達彦  
代理人 実広 信哉  
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