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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G05F
管理番号 1378427
審判番号 不服2021-402  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-01-12 
確定日 2021-10-19 
事件の表示 特願2016-189813「電気機器および電気機器の信号に重畳するノイズを低減する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 4月 5日出願公開,特開2018- 55348,請求項の数(10)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成28年9月28日の出願であって,令和2年8月5日付けで拒絶理由通知がなされ,令和2年9月16日に手続補正がなされたが,令和2年11月19日付けで拒絶査定(原査定)がなされ,これに対し,令和3年1月12日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

第2 原査定の概要

原査定(令和2年11月19日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1-6,8-11に係る発明は,以下の引用文献1-3に記載された発明に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2010-124597号公報
2.特開2004-279288号公報
3.特表2001-518749号公報

第3 本願発明

本願請求項1-10に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明10」という。)は,令和3年1月12日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-10に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1,7,9は以下のとおりの発明である。

<本願発明1>
「第1電圧で電流を供給する電源部と、前記電源部からの流入電流の経時的な変動によって前記電源部のグランドの電位に変動を生じさせる第1負荷部と、前記第1電圧の供給を受けて動作する、周囲環境の状態を検知する検知手段と、を備えていて周囲環境が特定の状態にあることを検知する検知器であって、
前記第1負荷部は前記検知手段の検知状態に応じて前記流入電流が変動するように構成されており、
前記電源部から供給される電流を一定の電流値で流出させる定電流生成部と、
前記第1負荷部に流入する電流の変動に応じた大きさの電流が前記定電流生成部から流入するように構成され、前記第1負荷部に第2電圧を供給する定電圧生成部と、をさらに有し、
前記第1負荷部の前記流入電流の変動によって前記電源部の前記グランドに生じる電位の変動が、前記定電流生成部及び前記定電圧生成部によって低減される、検知器。」

<本願発明7>
「第1電圧で電流を供給する電源部と、前記電源部からの流入電流の経時的な変動によって前記電源部のグランドの電位に変動を生じさせる第1負荷部と、前記第1電圧の供給を受けて動作する、周囲環境の状態を検知する検知手段と、を備えていて周囲環境が特定の状態にあることを検知する検知器であって、
前記第1負荷部は前記検知手段の検知状態に応じて前記流入電流が変動するように構成されており、
前記電源部の前記グランドと同一の線路を共用するグランドを基準とする信号を外部機器との間で所定のプロトコルに従って送受信する通信手段と、
前記第1負荷部に流入する電流の変動に応じた電流を前記電源部からの電流から分流させることにより、前記第1負荷部の前記流入電流の変動によって前記電源部の前記グランドに生じる電位の変動を低減すると共に、第2電圧を前記第1負荷部に供給する電流制御手段と、をさらに有する検知器。」

<本願発明9>
「第1電圧で電流を供給する電源部と、前記電源部からの流入電流の経時的な変動によって前記電源部のグランドの電位に変動を生じさせる第1負荷部と、前記第1電圧の供給を受けて動作する、周囲環境の状態を検知する検知手段と、を有する検知器において前記検知手段の検知状態に応じた前記第1負荷部への前記流入電流の変動による前記電源部の前記グランドの電位の変動に伴って前記検知器の信号に重畳するノイズを低減する方法であって、
前記電源部から供給される電流から定電流を生成し、
前記第1負荷部に流入する電流の変動に応じた大きさの電流を前記定電流から分流させて分流経路に流すことにより定電圧を生成すると共に、前記定電流の一部を前記第1負荷部に供給し、
前記第1負荷部および前記分流経路を流れた電流を前記電源部に戻すことにより前記電源部のグランドに流れる電流の変動を前記第1負荷部に流入する電流の変動よりも小さくする、検知器の信号に重畳するノイズを低減する方法。」

なお,本願発明2-6,8,10の概要は以下のとおりである。

本願発明2-6は,本願発明1を減縮した発明である。

本願発明8は,本願発明1又は7を減縮した発明である。

請求項10は,本願発明9を減縮した発明である。

第4 引用文献,引用発明等

1.引用文献1について

ア 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2010-124597号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている(下線は,当審において付与した。)。

A「【0040】
「電源回路4」は、蓄電池に接続され、比較的低電圧駆動の負荷用電源となるよう構成される。
(中略)
【0041】
また、「比較的低電圧駆動の負荷」とは、前記蓄電池の電圧よりも駆動電圧が低く、蓄電池の電圧を直接加えることができないあらゆる負荷が該当し、例えば、図1に示すような、マルチプレクサ3をコントロールするコントロール回路5であってもよいし、マルチプレクサ3からの出力をAD変換するADコンバータ(ADC)6であってもよい。または、蓄電池2(二次電池モジュール2)の残量を演算するためのマイクロコンピュータ9であってもよい。」

B「【0042】
ここで、本実施形態の「電源回路4」の具体的構成を、図2を用いて説明する。図に示すように、本実施形態の「電源回路4」は、「定電流回路18」と、「定電圧回路20」から構成される。
【0043】
「定電流回路18」は、蓄電池(二次電池モジュール2)に直列接続され、この蓄電池(二次電池モジュール2)からの電流を定電流とする回路である。ここで、定電流回路18の具体例としては、図2に示すような、蓄電池(二次電池モジュール2)に対して直列接続され、蓄電池(二次電池モジュール2)のプラス極側接点にプラス極を接続される第一基準電圧源13と、第一基準電圧源13のマイナス極をプラス入力に接続する第一コンパレータ14Iと、第一コンパレータ14Iの出力をゲート電極に、蓄電池(二次電池モジュール2)プラス極側接点をドレイン電極に、それぞれ接続し、第一コンパレータ14Iのマイナス極に他端を接続する抵抗17のもう一方の端をソース電極に接続したPchFET16を有し、前記PchFET16のソース電極に接続した抵抗17の前記他端から定電流を出力する定電流回路であってもよい。
(中略)
【0045】
ここで、発生させる定電流値(Iconst)は、比較的低電圧駆動の負荷(ADC6、コントロール回路5、マイクロコンピュータ9、など:図1参照)に必要とされる消費電流値以上に設定しておかなければならない。」

C「【0047】
「定電圧回路20」は、定電流回路18に直列に接続されると共に、比較的低電圧駆動の負荷(ADC6、コントロール回路5、マイクロコンピュータ9、など:図1参照)に対して並列に接続され、定電流を定電圧に変更し、比較的低電圧駆動の負荷に対して定電圧を供給するための回路である。ここで、定電圧回路20の具体例としては、図2に示すような、定電流回路18からの出力を第二コンパレータ14Eの正入力に接続すると共に、前記定電流回路18からの出力をドレイン電極に、第二コンパレータ14Eの出力をゲート電極に、正極を第二コンパレータ14Eの負入力に接続した第二基準電圧源15の負極ならびに接地電極にソース電極を接続したNchFET19を有し、前記NchFET19のドレイン電極から定電圧を出力する定電圧回路(シャントレギュレータ)であってもよい。
【0048】
この定電圧回路20は、第二基準電圧源15の基準電圧値(Vref2)の値によって定電圧値(Vconst)が調節可能な回路構成であり、比較的低電圧駆動の負荷(ADC6、コントロール回路5、マイクロコンピュータ9、など:図1参照)の電流値が変わっても定電圧を発生できるのが特徴的な回路である。」

D「【0050】
前記のとおり、本実施形態の電源回路4は、定電流回路18と定電圧回路20(シャントレギュレータ20)の簡単な構成により、効率よく定電圧(Vconst)を発生できる回路構成である。本回路の利点は、高い電源電圧から低い定電圧を発生させる場合でも、損失が小さく、ノイズの少ない高品質の電圧をADC6に供給できる点にある。また、損失は電源電圧によらないので、二次電池モジュール2の直列電池本数が増えた場合にも有効である。」

E「【0054】
図1に示す「エネルギー蓄積装置」は、「二次電池1」を複数直列に接続した「二次電池モジュール2(蓄電池)」と、「バッテリーマネジメントIC7」と、「マイクロコンピュータ9」を有する。そして、「バッテリーマネジメントIC7」は、「マルチプレクサ3」、「電源回路4」、「コントロール回路5」、「ADC6」を有する。
【0055】
図1に示すエネルギー蓄積装置は、二次電池1を複数直列に接続した二次電池モジュール2の電池電圧をモニターするために、バッテリーマネジメントIC7が二次電池モジュール2に接続されている。そして、バッテリーマネジメントIC7の電源は二次電池モジュール2の最上部から取られている。
【0056】
バッテリーマネジメントIC7は、マルチプレクサ3、電源回路4、ADC6と、これらを制御するためのコントロール回路5などで構成される。マルチプレクサ3は、二次電池モジュール2を構成する複数の二次電池1の電圧を順次、ADC6に入力できる機能をもつ。ADC6は、入力された各二次電池1のアナログ電圧をデジタル信号に変換してバッテリーマネジメントIC7の外部に出力する。これらの接続順序、タイミングなどを制御するのがコントロール回路5である。電源回路4は、二次電池モジュール2の最上部から供給された電圧を適切な電圧に降圧し、コントロール回路5、ADC6などに供給する役割をもつ(電源回路4の詳細については、以下で説明する)。以下、二次電池モジュール2とバッテリーマネジメントIC7のセットを電源モジュール8とする。」

F 「【図1】



G 「【図2】



イ 上記A?Gによれば,引用文献1には,エネルギー蓄積装置について次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されているといえる。


<引用発明1>

「二次電池1を複数直列に接続した二次電池モジュール2と,バッテリーマネジメントIC7と,マイクロコンピュータ9とを有し,バッテリーマネジメントIC7は,マルチプレクサ3,電源回路4,コントロール回路5,ADC6を有するエネルギー蓄積装置であって(【0054】),
バッテリーマネジメントIC7は,二次電池モジュール2の電池電圧をモニターするために二次電池モジュール2に接続され(【0055】),
マルチプレクサ3は,二次電池モジュール2を構成する複数の二次電池1の電圧を順次,ADC6に入力し(【0056】),
ADC6は,入力された各二次電池1のアナログ電圧をデジタル信号に変換してバッテリーマネジメントIC7の外部に出力し(【0056】),
コントロール回路5は,マルチプレクサ3,電源回路4,ADC6を制御する回路であり(【0056】),
電源回路4は,二次電池モジュール2の最上部から供給された電圧を適切な電圧に降圧して(【0056】),比較的低電圧駆動の負荷であるコントロール回路5,ADC6,マイクロコンピュータ9に電力を供給し(【0040】【0041】【0056】),
電源回路4は,定電流回路18と定電圧回路20とから構成され(【0042】),
定電流回路18は,二次電池モジュール2に直列接続され,この二次電池モジュール2からの電流を定電流とする回路であり(【0043】),ここで,発生させる定電流値は,比較的低電圧駆動の負荷に必要とされる消費電流値以上に設定し(【0045】),
定電圧回路20は,定電流回路18に直列に接続されると共に,比較的低電圧駆動の負荷に対して並列に接続され,定電流を定電圧に変更し,比較的低電圧駆動の負荷に対して定電圧を供給するための回路であって,定電流回路18からの出力を第二コンパレータ14Eの正入力に接続すると共に,前記定電流回路18からの出力をドレイン電極に,第二コンパレータ14Eの出力をゲート電極に,正極を第二コンパレータ14Eの負入力に接続した第二基準電圧源15の負極ならびに接地電極にソース電極を接続したNchFET19を有し,前記NchFET19のドレイン電極から定電圧を出力するシャントレギュレータであり(【0047】),比較的低電圧駆動の負荷の電流値が変わっても定電圧を発生し(【0048】),
電源回路4は,高い電源電圧から低い定電圧を発生させる場合でも,損失が小さく,ノイズの少ない高品質の電圧を供給する(【0050】),
エネルギー蓄積装置。」

また,引用文献1には,引用発明1に対応する方法の発明として,次の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されているといえる。

<引用発明2>
「二次電池1を複数直列に接続した二次電池モジュール2と,バッテリーマネジメントIC7と,マイクロコンピュータ9とを有し,バッテリーマネジメントIC7は,マルチプレクサ3,電源回路4,コントロール回路5,ADC6を有するエネルギー蓄積装置において(【0054】),電源回路4が,高い電源電圧から低い定電圧を発生させる場合でも,損失が小さく,ノイズの少ない高品質の電圧を供給する方法であって(【0050】),
バッテリーマネジメントIC7を,二次電池モジュール2の電池電圧をモニターするために二次電池モジュール2に接続し(【0055】),
マルチプレクサ3は,二次電池モジュール2を構成する複数の二次電池1の電圧を順次,ADC6に入力し(【0056】),
ADC6は,入力された各二次電池1のアナログ電圧をデジタル信号に変換してバッテリーマネジメントIC7の外部に出力し(【0056】),
コントロール回路5は,マルチプレクサ3,電源回路4,ADC6を制御し(【0056】),
電源回路4は,定電流回路18と定電圧回路20とから構成して(【0042】),二次電池モジュール2の最上部から供給された電圧を適切な電圧に降圧して(【0056】),比較的低電圧駆動の負荷であるコントロール回路5,ADC6,マイクロコンピュータ9に電力を供給し(【0040】【0041】【0056】),
定電流回路18は,二次電池モジュール2に直列接続して,この二次電池モジュール2からの電流を定電流とし(【0043】),ここで,発生させる定電流値を,比較的低電圧駆動の負荷に必要とされる消費電流値以上に設定し(【0045】),
定電圧回路20は,定電流回路18に直列に接続すると共に,比較的低電圧駆動の負荷に対して並列に接続して,定電流を定電圧に変更し,比較的低電圧駆動の負荷に対して定電圧を供給し,その定電圧回路として,定電流回路18からの出力を第二コンパレータ14Eの正入力に接続すると共に,前記定電流回路18からの出力をドレイン電極に,第二コンパレータ14Eの出力をゲート電極に,正極を第二コンパレータ14Eの負入力に接続した第二基準電圧源15の負極ならびに接地電極にソース電極を接続したNchFET19を有し,前記NchFET19のドレイン電極から定電圧を出力するシャントレギュレータを用い(【0047】),比較的低電圧駆動の負荷の電流値が変わっても定電圧を発生する(【0048】),
エネルギー蓄積装置の電源回路4が,高い電源電圧から低い定電圧を発生させる場合でも,損失が小さく,ノイズの少ない高品質の電圧を供給する方法(【0050】)。」

2.引用文献2について

ア 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2004-279288号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている(下線は,当審において付与した。)。

A 「【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、低電圧駆動と消費電力の低減が可能となるガス検知装置、及び、このガス検知装置に適したガス濃度測定方法を提供することにある。

B 「【0019】
【発明の実施の形態】
本発明に係るガス検知装置及びガス濃度測定方法の実施の形態を、基本となる第1実施形態から順次、図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
図1に示すように、本発明のガス検知装置では、ガスセンサ素子1と温度補償素子2が抵抗R1,R2を介して電源部300の電流供給端子300aに並列接続され、前記電流供給端子300aからガスセンサ素子1及び温度補償素子2への電流供給路7に配置され且つ非導通状態と導通状態とに切り替え可能なスイッチ3と、前記スイッチ3を間欠的に導通状態に切り替え駆動する駆動部100と、前記スイッチ3を導通状態に切り替えたときの前記ガスセンサ素子1の検出電圧V1及び前記温度補償素子2の補償電圧V2に基づいてガス検知を行う検知部200が備えられている。
【0020】
前記電源部300には、電池6と電池出力をバッファーするオペアンプ5が設けられ、オペアンプ5の出力端子が電流供給端子300aに対応する。具体的には、電池6として1セル又は2セルが使用され、電源部300からは0.8V?1.3V程度の電源電圧が検知回路側に供給される。」

イ 上記A,Bによれば,引用文献2には,次の技術的事項が記載されている。

<引用文献2記載の技術的事項>

「電池6と電池出力をバッファーするオペアンプ5が設けられ,オペアンプ5の出力端子が電流供給端子300aに対応し,0.8V?1.3V程度の電源電圧を検知回路側に供給する電源部300と(【0020】),
抵抗R1,R2を介して電源部300の電流供給端子300aに並列接続されたガスセンサ素子1と温度補償素子2と(【0019】),
電流供給端子300aからガスセンサ素子1及び温度補償素子2への電流供給路7に配置され且つ非導通状態と導通状態とに切り替え可能なスイッチ3と(【0019】),
スイッチ3を間欠的に導通状態に切り替え駆動する駆動部100と(【0019】),
スイッチ3を導通状態に切り替えたときの前記ガスセンサ素子1の検出電圧V1及び前記温度補償素子2の補償電圧V2に基づいてガス検知を行う検知部200と(【0019】),
を備え,
低電圧駆動と消費電力の低減が可能なガス検知装置(【0008】)。」

3.引用文献3について

ア 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特表2001-518749号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている(下線は,当審において付与した。)。

A 「【0007】
好ましい実施形態の詳細な説明
図1は、送信機間の種々の装置あるいは送信機と結合される種々の装置間で通信するために本発明のシリアル通信技術を使用する送信機10の簡略化されたブロック図である。図示されているように、送信機10は筐体11、測定回路16およびセンサー回路18を含む。測定回路16は筐体11の隔室17の中に配置されている。センサー回路18は、筐体11の隔室19の中に配置されている。センサー回路18の部分は、また、筐体11の外部に置かれてもよい。
【0008】
測定回路16は、接続端子14を経て2線ループ12に結合し、ループ12に情報を送ったり受けたりするのに使用される。ループ12は、電力源15と抵抗13としてモデル化されている制御室に結合している。測定回路16および/またはセンサー回路18は、二つのタイプの並列ノード、すなわち典型的にはマイクロプロセッサであるマスタノード、または典型的にはメモリのような周辺装置であるスレーブノードを含むことができる。測定回路16またはセンサー回路18内に含ませることのできる周辺装置の他の例としては、ループ12を通って流れる電流から送信機用の電力を抜き出す装置、モデム、通信機関、I/O装置、信号処理装置、表示装置、アナログ-ディジタル変換器、ディジタル-アナログ変換器、温度センサー、流量センサー、pHセンサー、レベルセンサー、圧力センサー、微分圧力センサー等がある。」

B 「【0013】
送信機10は、電圧源15と抵抗13で電気的にモデル化して表され、全電力を送信機10に提供するコントローラに接続されている。好ましい実施形態では、センサー回路18は、また、電力を該センサー回路18に提供するために、アイソレータ20を経て伝送される信号を整流する整流回路を含む。しかし、センサー回路18と測定回路16は、マグメータ(magmeter)のような、外部電源から電力を印加される電力線であってもよい。
【0014】
(送信機10、電源15および抵抗13で形成されている)プロセス制御ループ中の電流は、典型的には、送信機10中のセンサー26により感知されるプロセス変数、または送信機10からの制御信号を表している。電流は、ISA 4-20mA標準に従い、4mAから20mAの間の範囲にある。したがって、送信機10は、4mAより小さい所で動作しなければならない。送信機10は、また、HARTプロトコルにおけるように、4-20mAでディジタル的に通信するように構成されることができる。または、フィールドバス(Fieldbus)において、十分にディジタル通信するように構成されることができる。」

イ 上記A,Bによれば,引用文献3には,次の技術的事項が記載されている。

<引用文献3記載の技術的事項>

「測定回路16およびセンサー回路18を含む送信機10であって(【0007】),
測定回路16は2線ループ12に結合し,2線ループ12に情報を送ったり受けたりするのに使用され,2線ループ12は,電力源15と抵抗13としてモデル化される制御室に結合し(【0008】),
送信機は,電力源15と抵抗13でモデル化して表される制御室から全電力が提供され(【0013】),測定回路は,2線ループ12を通って流れる電流から送信機用の電力を抜き出す装置を含み(【0008】),
2線ループ中の電流は,センサー26により感知されるプロセス変数,または送信機10からの制御信号を表し,その電流は,ISA 4-20mA標準に従い,4mAから20mAの間の範囲にあり(【0014】),
送信機10は,HARTプロトコルにおけるように,4-20mAの電流でディジタル的に通信するように構成される(【0014】),
送信機。」

第5 対比・判断

次に,本願発明1-5,7-9について,対比・判断する。なお,本願発明6は,原査定時の請求項7に対応し,拒絶の対象となっていない。

1.本願発明1について

(1)対比

本願発明1と引用発明1とを対比すると,次のことがいえる。

ア 引用発明1の「二次電池モジュール2」は,その最上部の電圧を電源回路4に供給する。この電圧は,本願発明1の「第1の電圧」に相当する。また,「二次電池モジュール2」は,電源回路4と「比較的低電圧駆動の負荷」に電流を供給する。したがって,引用発明1の「二次電池モジュール2」は,本願発明1の「第1電圧で電流を供給する電源部」に相当する。
また,「比較的低電圧駆動の負荷であるコントロール回路5,ADC6,マイクロコンピュータ9」は,その電源部からの電流が流入する負荷といえる。
したがって,引用発明1の「比較的低電圧駆動の負荷」と,本願発明1の「前記電源部からの流入電流の経時的な変動によって前記電源部のグランドの電位に変動を生じさせる第1負荷部」は,後記の点で相違するものの,“前記電源部からの電流が流入する第1負荷部”の点で共通する。

イ 引用発明1の「エネルギー蓄積装置」と,本願発明1の「周囲環境が特定の状態にあることを検知する検知器」は,後記の点で相違するものの,“電気機器”の点で共通する。

ウ 引用発明1の「定電流回路18」は,「二次電池モジュール2に直列接続され,この二次電池モジュール2からの電流を定電流とする回路」であるから,本願発明1の「前記電源部から供給される電流を一定の電流値で流出させる定電流生成部」に相当する。

エ 引用発明の「定電圧回路」は,「定電流回路18に直列に接続されると共に,比較的低電圧駆動の負荷に対して並列に接続され,定電流を定電圧に変更し,比較的低電圧駆動の負荷に対して定電圧を供給する」ものである。
また,「定電圧回路」は,「定電流回路18からの出力を第二コンパレータ14Eの正入力に接続すると共に,前記定電流回路18からの出力をドレイン電極に,第二コンパレータ14Eの出力をゲート電極に,正極を第二コンパレータ14Eの負入力に接続した第二基準電圧源15の負極ならびに接地電極にソース電極を接続したNchFET19を有し,前記NchFET19のドレイン電極から定電圧を出力するシャントレギュレータ」で構成される。
これらの構成によれば,定電流回路18から出力される電流は,並列に接続された定電圧回路と負荷とに分流し,定電圧回路は,負荷の電圧が定電圧となるように,定電圧回路に流入する電流を制御するものである。
また,「定電圧回路」は,「比較的低電圧駆動の負荷の電流値が変わっても定電圧を発生」することから,負荷に流入する電流が変動すると,その電流に応じて定電圧回路に流入する電流を制御して,定電圧を発生するよう構成されているといえる。
また,その定電圧は「二次電池モジュール2の最上部から供給された電圧を適切な電圧に降圧」したものであるから,二次電池モジュール2の最上部から供給される電圧よりも低い第2の電圧を負荷に供給するといえる。
したがって,引用発明1の「定電圧回路」は,本願発明1の「前記第1負荷部に流入する電流の変動に応じた大きさの電流が前記定電流生成部から流入するように構成され、前記第1負荷部に第2電圧を供給する定電圧生成部」に相当する。

したがって,本願発明1と引用発明1との一致点・相違点は,次のとおりである。

<一致点>
「第1電圧で電流を供給する電源部と,前記電源部からの電流が流入する第1負荷部と,を備えた電気機器であって,
前記電源部から供給される電流を一定の電流値で流出させる定電流生成部と,
前記第1負荷部に流入する電流の変動に応じた大きさの電流が前記定電流生成部から流入するように構成され,前記第1負荷部に第2電圧を供給する定電圧生成部と,をさらに有する,
電気機器。」

<相違点1>
電気機器が,本願発明1では,「前記第1電圧の供給を受けて動作する、周囲環境の状態を検知する検知手段と、を備えていて周囲環境が特定の状態にあることを検知する検知器」であるのに対し,引用発明1では,上記検知手段を備えていない「エネルギー蓄積装置」である点。

<相違点2>
第1負荷部が,本願発明1では「前記検知手段の検知状態に応じて前記流入電流が変動するように構成されており」,また,「前記電源部からの流入電流の経時的な変動によって前記電源部のグランドの電位に変動を生じさせる」のに対し,引用発明1では,電池電圧をモニターするためのコントロール回路5,ADC6,マイクロコンピュータ9であり,これらの負荷は,周囲環境の状態を検知する検知手段の検知状態に応じて流入電流が変動するものではなく,また,その流入電流の経時的な変動によって電源部のグランドの電位に変動を生じさせるものでもない点。

<相違点3>
本願発明1は,「前記第1負荷部の前記流入電流の変動によって前記電源部の前記グランドに生じる電位の変動が、前記定電流生成部及び前記定電圧生成部によって低減される」のに対し,引用発明1では,「損失が小さく,ノイズの少ない高品質の電圧」が,電源回路4すなわち定電流回路18と定電圧回路20によって供給される点。

(2)判断

事案に鑑みて,まず,上記相違点1,2について検討する。

<相違点1>について
引用文献1には,引用発明1の技術分野として「【0001】本発明は、二次電池を使った電源装置、たとえばHEV(Hybrid Electric Vehicle)やUPS(Uninterruptible Power Systems)のエネルギー蓄積装置に関する。」が記載されている。
また,引用文献1には,背景技術として,次の事項が記載されている。
「【0002】二次電池を使った電源装置、たとえばHEV(Hybrid Electric Vehicle)のエネルギー蓄積装置には、200V以上の高電圧が要求される。」
「【0009】ここで、前記バッテリーマネジメントIC7やマイクロコンピュータ9を動作させるための電圧は、二次電池1を複数直列に接続した二次電池モジュール2からとるのが一般的であるが、一般的なマイクロコンピュータ9やバッテリーマネジメントIC7のADC6の動作電圧は3.3Vあるいは5.0Vが一般的である。
【0010】しかしながら前記の通り、二次電池1を複数直列に接続した二次電池モジュール2の総電圧は数10Vまたは数100Vになってしまい、当該電圧をマイクロコンピュータ9やADC6へ直接には与えられない。
【0011】そこで、図6、7に示すようなバッテリーマネジメント回路7においては、二次電池モジュール2の総電圧をマイクロコンピュータ9やADC6に供給することが可能な値に降圧するための電源回路4が必要となる。」
これらの記載によれば,二次電池モジュールは,HEVやUPSへの利用を想定したものであり,その電圧は数10Vまたは数100Vのような大きさである。
一方,引用文献2記載のガス検知装置は,0.8V?1.3V程度の電源電圧で動作し,駆動に必要な電力もオペアンプから出力できる程度の電力である。
HEVやUPSとガス検知装置とでは,電源として必要となる電圧や電力が大きく異なり,HEVやUPSへの使用を想定しているエネルギー蓄積装置をガス検知装置の電源として用いることには阻害要因があるといえる。
よって,引用発明1において,二次電池モジュールの第1電圧の供給を受けて,引用文献2記載のガス検知装置を動作させ,相違点1に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たとはいえない。

<相違点2>について
引用発明1のコントロール回路5は,電源回路4,ADC6を制御する回路である。
また,ADC6は,二次電池1のアナログ電圧をデジタル信号に変換するコンバータである。
また,マイクロコンピュータ9は,引用文献1記載の「【0058】そして、バッテリーマネジメントIC7のADC6から出力されたデジタル信号は、マイクロコンピュータ9に入力され、電池残量の計算がなされる。」によれば,ADC6から出力された二次電池1の電圧信号に基づいて電池残量を計算するコンピュータである。
このように,コントロール回路5,ADC6,マイクロコンピュータ9は,電池電圧をモニターし,その残量を算出するために設けられたものであり,引用文献2記載のようなガス検知装置の検知状態に応じて流入電流が変動するような負荷ではない。
また,引用文献2,3にも,コントロール回路5,ADC6,マイクロコンピュータ9が,ガス検知装置の検知状態に応じて流入電流が変動するような負荷であることは記載されていない。
よって,引用発明1において,「比較的低電圧駆動の負荷(コントロール回路5,ADC6,マイクロコンピュータ9)」を,相違点2に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たとはいえない。

したがって,本願発明1は,相違点3を検討するまでもなく,引用発明1,引用文献2,3に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたとはいえない。

2.本願発明2-5について

本願発明2-5は,本願発明1の「前記電源部からの流入電流の経時的な変動によって前記電源部のグランドの電位に変動を生じさせる第1負荷部と、前記第1電圧の供給を受けて動作する、周囲環境の状態を検知する検知手段と、を備えていて周囲環境が特定の状態にあることを検知する検知器」,「前記第1負荷部は前記検知手段の検知状態に応じて前記流入電流が変動するように構成されており」と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,引用発明1,引用文献2,3に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたとはいえない。

3.本願発明7について

(1)対比

上記「1.(1)対比」の点も踏まえ,本願発明7と引用発明1とを対比すると,次のことがいえる。

ア 引用発明1の「二次電池モジュール2」は,本願発明7の「第1電圧で電流を供給する電源部」に相当する。
また,引用発明1の「比較的低電圧駆動の負荷」と,本願発明7の「前記電源部からの流入電流の経時的な変動によって前記電源部のグランドの電位に変動を生じさせる第1負荷部」は,後記の点で相違するものの,“前記電源部からの電流が流入する第1負荷部”の点で共通する。

イ 引用発明1の「エネルギー蓄積装置」と,本願発明1の「周囲環境が特定の状態にあることを検知する検知器」は,後記の点で相違するものの,“電気機器”の点で共通する。

ウ 引用発明1の「定電流回路18」は二次電池モジュール2からの電流を定電流とする回路である。また,定電流回路18から出力される電流は,上記「1.(1) エ」において検討した通り,並列に接続された定電圧回路20と比較的低電圧駆動の負荷とに分流する。また,定電圧回路20は,負荷に流入する電流の変動に応じた大きさの電流が流入するように構成され,第2の電圧を負荷に供給する。
よって,引用発明の「電源回路4(定電流回路18及び定電圧回路20)」と,本願発明7の「前記第1負荷部に流入する電流の変動に応じた電流を前記電源部からの電流から分流させることにより、前記第1負荷部の前記流入電流の変動によって前記電源部の前記グランドに生じる電位の変動を低減すると共に、第2電圧を前記第1負荷部に供給する電流制御手段」は,後記の点で相違するものの,“前記第1負荷部に流入する電流の変動に応じた電流を前記電源部からの電流から分流させることにより,第2電圧を前記第1負荷部に供給する電流制御手段”の点で共通する。

したがって,本願発明7と引用発明1との一致点・相違点は,次のとおりである。

<一致点>
「第1電圧で電流を供給する電源部と,前記電源部からの電流が流入する第1負荷部と,を備えた電気機器であって,
前記第1負荷部に流入する電流の変動に応じた電流を前記電源部からの電流から分流させることにより,第2電圧を前記第1負荷部に供給する電流制御手段と,をさらに有する電気機器。」

<相違点1>
電気機器が,本願発明7では,「前記第1電圧の供給を受けて動作する、周囲環境の状態を検知する検知手段と、を備えていて周囲環境が特定の状態にあることを検知する検知器」であるのに対し,引用発明1では,上記検知手段を備えていない「エネルギー蓄積装置」である点。

<相違点2>
第1負荷部が,本願発明7では「前記検知手段の検知状態に応じて前記流入電流が変動するように構成されており」,また,「前記電源部からの流入電流の経時的な変動によって前記電源部のグランドの電位に変動を生じさせる」のに対し,引用発明1では,電池電圧をモニターするためのコントロール回路5,ADC6,マイクロコンピュータ9であり,これらは,周囲環境の状態を検知する検知手段の検知状態に応じて流入電流が変動するものではなく,また,その流入電流の経時的な変動によって電源部のグランドの電位に変動を生じさせるものでもない点。

<相違点3>
本願発明7は,「前記電源部の前記グランドと同一の線路を共用するグランドを基準とする信号を外部機器との間で所定のプロトコルに従って送受信する通信手段」を有するのに対し,引用発明1は,上記通信手段を有しない点。

<相違点4>
電流制御手段が,本願発明7では,「前記第1負荷部の前記流入電流の変動によって前記電源部の前記グランドに生じる電位の変動を低減する」のに対し,引用発明1では,「高い電源電圧から低い定電圧を発生させる場合でも,損失が小さく,ノイズの少ない高品質の電圧を供給する」点。

(2)判断

事案に鑑みて,まず,上記相違点1,2について検討する。

<相違点1>について
上記「1.(2)「<相違点1>について」において検討したように,HEVやUPSとガス検知装置とでは,電源として必要となる電圧や電力が大きく異なり,HEVやUPSへの使用を想定しているエネルギー蓄積装置をガス検知装置の電源として用いることには阻害要因があるといえる。
引用発明1において,二次電池モジュールの第1電圧の供給を受けて,引用文献2記載のガス検知装置を動作させ,相違点1に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たとはいえない。

<相違点2>について
上記「1.(2「<相違点2>について」において検討したように,引用発明1のコントロール回路5,ADC6,マイクロコンピュータ9」が,周囲環境の状態を検知する検知手段の検知状態に応じて流入電流が変動するように構成されることは,引用文献1-3に記載されていない。
したがって,引用発明1において,コントロール回路5,ADC6,マイクロコンピュータ9を,周囲環境の状態を検知する検知手段の検知状態に応じて流入電流が変動するように構成して,相違点2に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たとはいえない。

したがって,本願発明7は,引用発明1,引用文献2,3に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたとはいえない。

4.本願発明8について

請求項8が請求項1を引用する場合,本願発明8は,本願発明1の「前記電源部からの流入電流の経時的な変動によって前記電源部のグランドの電位に変動を生じさせる第1負荷部と、前記第1電圧の供給を受けて動作する、周囲環境の状態を検知する検知手段と、を備えていて周囲環境が特定の状態にあることを検知する検知器」,「前記第1負荷部は前記検知手段の検知状態に応じて前記流入電流が変動するように構成されており」と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,引用発明1,引用文献2,3に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたとはいえない。
また,請求項8が請求項7を引用する場合,本願発明8は,本願発明7の「前記第1電圧の供給を受けて動作する、周囲環境の状態を検知する検知手段と,を備えていて周囲環境が特定の状態にあることを検知する検知器」,「前記第1負荷部は前記検知手段の検知状態に応じて前記流入電流が変動するように構成されており」と同一の構成を備えるものであるから,本願発明7と同じ理由により,引用発明1,引用文献2,3に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたとはいえない。

5.本願発明9について

(1)対比

上記「1.(1)対比」の点も踏まえ,本願発明9と引用発明2とを対比すると,次のことがいえる。

ア 引用発明2の「二次電池モジュール2」は,本願発明9の「第1電圧で電流を供給する電源部」に相当する。
また,引用発明2の「比較的低電圧駆動の負荷」と,本願発明9の「前記電源部からの流入電流の経時的な変動によって前記電源部のグランドの電位に変動を生じさせる第1負荷部」は,後記の点で相違するものの,“前記電源部からの電流が流入する第1負荷部”の点で共通する。

イ 引用発明2の「エネルギー蓄積装置」と本願発明1の「検知器」は,後記の点で相違するものの,“電気機器”の点で共通する。

ウ 引用発明2の「電源回路4が,高い電源電圧から低い定電圧を発生させる場合でも,損失が小さく,ノイズの少ない高品質の電圧を供給する方法」と,本願発明9の「検知器において前記検知手段の検知状態に応じた前記第1負荷部への前記流入電流の変動による前記電源部の前記グランドの電位の変動に伴って前記検知器の信号に重畳するノイズを低減する方法」は,後記の点で相違するものの,“ノイズを低減する方法”の点で共通する。

エ 引用発明2の「定電流回路18は,二次電池モジュール2に直列接続して,この二次電池モジュール2からの電流を定電流とし」は,本願発明9の「前記電源部から供給される電流から定電流を生成し」に相当する。

オ 引用発明2の「定電圧回路20は,定電流回路18に直列に接続すると共に,比較的低電圧駆動の負荷に対して並列に接続して,定電流を定電圧に変更し,比較的低電圧駆動の負荷に対して定電圧を供給し,その定電圧回路として,定電流回路18からの出力を第二コンパレータ14Eの正入力に接続すると共に,前記定電流回路18からの出力をドレイン電極に,第二コンパレータ14Eの出力をゲート電極に,正極を第二コンパレータ14Eの負入力に接続した第二基準電圧源15の負極ならびに接地電極にソース電極を接続したNchFET19を有し,前記NchFET19のドレイン電極から定電圧を出力するシャントレギュレータを用い,比較的低電圧駆動の負荷の電流値が変わっても定電圧を発生する」は,上記「1.(1)対比」において検討したように,定電流回路18から出力される電流が,並列に接続された定電圧回路と比較的低電圧駆動の負荷とに分流し,定電圧回路に分流される電流は,その負荷に流入する電流の変動に応じて制御され,負荷の電圧が定電圧となるよう構成されているといえる。
したがって,引用発明2の上記構成は,本願発明9の「前記第1負荷部に流入する電流の変動に応じた大きさの電流を前記定電流から分流させて分流経路に流すことにより定電圧を生成すると共に,前記定電流の一部を前記第1負荷部に供給し」に相当する。

カ 引用発明2の「エネルギー蓄積装置の電源回路4が,高い電源電圧から低い定電圧を発生させる場合でも,損失が小さく,ノイズの少ない高品質の電圧を供給する方法」と,本願発明9の「前記第1負荷部および前記分流経路を流れた電流を前記電源部に戻すことにより前記電源部のグランドに流れる電流の変動を前記第1負荷部に流入する電流の変動よりも小さくする、検知器の信号に重畳するノイズを低減する方法」は,「ノイズを低減する方法」の点で共通する。

したがって,本願発明9と引用発明2との一致点・相違点は,次のとおりである。

<一致点>
「第1電圧で電流を供給する電源部と,前記電源部からの電流が流入する第1負荷部と,を有する電気機器において,ノイズを低減する方法であって,
前記電源部から供給される電流から定電流を生成し,
前記第1負荷部に流入する電流の変動に応じた大きさの電流を前記定電流から分流させて分流経路に流すことにより定電圧を生成すると共に,前記定電流の一部を前記第1負荷部に供給する,
ノイズを低減する方法。」

<相違点1>
電気機器が,本願発明9では「前記第1電圧の供給を受けて動作する、周囲環境の状態を検知する検知手段と、を有する検知器」であるのに対し,引用発明2では,上記検知手段を備えていない「エネルギー蓄積装置」である点。

<相違点2>
第1負荷部が,本願発明9では「前記電源部からの流入電流の経時的な変動によって前記電源部のグランドの電位に変動を生じさせる」のに対し,引用発明2では,電源部からのその流入電流の経時的な変動によって電源部のグランドの電位に変動を生じさせるものではない点。

<相違点3>
「ノイズを低減する方法」が,本願発明9では「前記検知手段の検知状態に応じた前記第1負荷部への前記流入電流の変動による前記電源部の前記グランドの電位の変動に伴って前記検知器の信号に重畳するノイズを低減する方法」,及び,「前記第1負荷部および前記分流経路を流れた電流を前記電源部に戻すことにより前記電源部のグランドに流れる電流の変動を前記第1負荷部に流入する電流の変動よりも小さくする、検知器の信号に重畳するノイズを低減する方法」であるのに対し,引用発明2では「電源回路4が,高い電源電圧から低い定電圧を発生させる場合でも,損失が小さく,ノイズの少ない高品質の電圧を供給する方法」である点。

(2)判断

上記相違点1?3について検討する。

<相違点1>について
上記「1.(2)<相違点1>について」において検討したように,HEVやUPSとガス検知装置とでは,電源として必要となる電圧や電力が大きく異なり,HEVやUPSへの使用を想定しているエネルギー蓄積装置をガス検知装置の電源として用いることには阻害要因があるといえる。
したがって,引用発明2において,二次電池モジュールの第1電圧の供給を受けて,引用文献2記載のガス検知装置を動作させて,相違点1に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たとはいえない。

<相違点2,3>について
本願発明9は「前記検知手段の検知状態に応じた前記第1負荷部への前記流入電流の変動による前記電源部の前記グランドの電位の変動に伴って前記検知器の信号に重畳するノイズを低減する方法」であることから,第1負荷部は,周囲環境の状態を検知する検知手段の検知状態に応じて流入電流が変動するものである。
一方,引用発明2の「比較的低電圧駆動の負荷」すなわち「コントロール回路5,ADC6,マイクロコンピュータ9」は,上記「1.(2)「<相違点2>について」において検討したように,電源回路4,ADC6を制御したり,二次電池1のアナログ電圧をデジタル信号に変換したり,ADC6から出力されたデジタル信号に基づいて電池残量を計算したりするものである。これらの負荷が,周囲環境の状態を検知する検知手段の検知状態に応じて流入電流が変動することは,引用文献1-3に記載されていない。
したがって,引用発明2において,コントロール回路5,ADC6,マイクロコンピュータ9を,周囲環境の状態を検知する検知手段の検知状態に応じて流入電流が変動するようにして,相違点2,3に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たとはいえない。

したがって,本願発明9は,引用発明2,引用文献2,3に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたとはいえない。

6.本願発明10について

本願発明10は,本願発明9の「前記第1電圧の供給を受けて動作する、周囲環境の状態を検知する検知手段と、を有する検知器において前記検知手段の検知状態に応じた前記第1負荷部への前記流入電流の変動による前記電源部の前記グランドの電位の変動に伴って前記検知器の信号に重畳するノイズを低減する方法」と同一の構成を備えるものであるから,本願発明9と同じ理由により,引用発明2,引用文献2,3に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたとはいえない。

第6 原査定について

審判請求時の補正により,本願発明1-5,8(請求項8が請求項1を引用する場合)は「前記第1電圧の供給を受けて動作する、周囲環境の状態を検知する検知手段と、を備えていて周囲環境が特定の状態にあることを検知する検知器」,「前記第1負荷部は前記検知手段の検知状態に応じて前記流入電流が変動するように構成されており」という事項を有するものとなっており,拒絶査定において引用された引用文献1-3に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また,審判請求時の補正により,本願発明7,8(請求項8が請求項7を引用する場合)は,「前記第1電圧の供給を受けて動作する、周囲環境の状態を検知する検知手段と、を備えていて周囲環境が特定の状態にあることを検知する検知器」,「前記第1負荷部は前記検知手段の検知状態に応じて前記流入電流が変動するように構成されており」という事項を有するものとなっており,拒絶査定において引用された引用文献1-3に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また,審判請求時の補正により,本願発明9,10は,「前記第1電圧の供給を受けて動作する、周囲環境の状態を検知する検知手段と、を有する検知器において前記検知手段の検知状態に応じた前記第1負荷部への前記流入電流の変動による前記電源部の前記グランドの電位の変動に伴って前記検知器の信号に重畳するノイズを低減する方法」という事項を有するものとなっており,拒絶査定において引用された引用文献1-3に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

したがって,原査定の理由を維持することはできない。

第7 むすび

以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-09-30 
出願番号 特願2016-189813(P2016-189813)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G05F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 土井 悠生  
特許庁審判長 篠原 功一
特許庁審判官 山崎 慎一
山澤 宏
発明の名称 電気機器および電気機器の信号に重畳するノイズを低減する方法  
代理人 特許業務法人朝日奈特許事務所  

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