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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H03H
管理番号 1378437
審判番号 不服2020-16050  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-11-20 
確定日 2021-10-19 
事件の表示 特願2018-558837「マルチプレクサ、高周波フロントエンド回路及び通信装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 7月 5日国際公開、WO2018/123208、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2017年10月13日(優先権主張 2016年12月27日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

2020年 4月23日付け:拒絶理由通知書
2020年 6月23日 :意見書、手続補正書の提出
2020年 8月28日付け:拒絶査定
2020年11月20日 :審判請求書の提出

第2 原査定の概要
原査定(2020年 8月28日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

(進歩性)この出願の請求項1?12に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1?3に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.国際公開第2016/111262号
2.特開2015-115870号公報
3.特開2013- 46107号公報

なお、各請求項に係る発明と各引用文献の対応関係は、以下のとおりである。
・請求項1?10に係る発明ついては、引用文献1、2に記載された発明を引用
・請求項11、12に係る発明については、引用文献1?3に記載された発明を引用

第3 本願発明
本願請求項1?12に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明12」という。)は、2020年 6月23日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
共通端子と、
前記共通端子に接続されており、第1の通過帯域を有する、第1の帯域通過型フィルタと、
前記共通端子に接続されており、前記第1の通過帯域よりも周波数が高い、第2の通過帯域を有する、第2の帯域通過型フィルタと、
を備え、
前記第1の帯域通過型フィルタが、
支持基板と、
前記支持基板上に積層された圧電体と、
前記圧電体上に設けられたIDT電極と、
を備える弾性波装置を有し、
前記圧電体は、ニオブ酸リチウムであり、
前記圧電体のオイラー角(φ,θ,ψ)が、(0°±5°,θ,0°±10°)の範囲内であり、
前記オイラー角におけるθが、30°以上、34°以下であり、
前記弾性波装置がレイリー波を利用している、マルチプレクサ。
【請求項2】
前記圧電体の膜厚は、前記IDT電極の電極指ピッチで定まる波長をλとしたときに、0.1λ以上、1.0λ以下である、請求項1に記載のマルチプレクサ。
【請求項3】
前記支持基板と前記圧電体との間に設けられており、伝搬するバルク波の音速が、前記圧電体を伝搬する弾性波の音速よりも低い低音速材料からなる低音速材料層をさらに備える、請求項1又は2に記載のマルチプレクサ。
【請求項4】
前記支持基板を伝搬するバルク波の音速が、前記圧電体を伝搬する弾性波の音速よりも高い、請求項1?3のいずれか1項に記載のマルチプレクサ。
【請求項5】
前記支持基板と前記低音速材料層との間に設けられており、伝搬するバルク波の音速が、前記圧電体を伝搬する弾性波の音速よりも高い高音速材料からなる高音速材料層をさらに備える、請求項3に記載のマルチプレクサ。
【請求項6】
前記IDT電極が、Pt、Al、Cu、Mo、Au及びこれらの金属を含む合金からなる群から選択された少なくとも1種である、請求項1?5のいずれか1項に記載のマルチプレクサ。
【請求項7】
前記支持基板が、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、シリコン、サファイア、リチウムタンタレート、リチウムニオベイト、水晶、アルミナ、ジルコニア、コージライト、ムライト、ステアタイト、フォルステライト、マグネシア、ダイヤモンド、又はこれらの材料を主成分とする材料により構成されている、請求項1?6のいずれか1項に記載のマルチプレクサ。
【請求項8】
前記IDT電極の厚みが、前記IDT電極の電極指ピッチで定まる波長をλとしたときに、0.02λ以上である、請求項1?7のいずれか1項に記載のマルチプレクサ。
【請求項9】
前記IDT電極の厚みが、前記IDT電極の電極指ピッチで定まる波長をλとしたときに、0.1λ以下である、請求項8に記載のマルチプレクサ。
【請求項10】
キャリアアグリゲーションに用いられる、請求項1?9のいずれか1項に記載のマルチプレクサ。
【請求項11】
請求項1?10のいずれか1項に記載のマルチプレクサと、
パワーアンプと、
を備える、高周波フロントエンド回路。
【請求項12】
請求項11に記載の高周波フロントエンド回路と、
RF信号処理回路と、
を備える、通信装置。」

第4 引用文献、引用発明等
1.国際公開第2016/111262号(以下、「引用文献1」という。)
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審が付与。)

「[0006] 本発明の目的は、挿入損失が小さく、かつ低コストな複合フィルタ装置を提供することにある。」

「[0007] 本発明に係る複合フィルタ装置は、第1のフィルタと、通過帯域が異なる複数の第2のフィルタと、を備え、前記第1のフィルタ及び前記複数の第2のフィルタの一端が共通接続されており、前記第1のフィルタが、LiNbO_(3)からなる圧電基板と、前記圧電基板上に設けられているIDT電極と、前記圧電基板上に前記IDT電極を覆うように設けられている誘電体層と、を有し、前記第1のフィルタがレイリー波の基本波を利用しており、前記第1のフィルタの通過帯域が、前記複数の第2のフィルタのいずれの通過帯域よりも低い周波数帯域に配置されている。」

「[0030] 図1は、本発明の第1の実施形態に係る複合フィルタ装置のブロック図である。
[0031] 複合フィルタ装置1は、第1のフィルタ2と通過帯域の異なる複数の第2のフィルタ12A,12Bとを有する。複数の第2のフィルタ12A,12Bの個数は、特に限定されない。
[0032] 複合フィルタ装置1は、アンテナ端子17を有する。第1のフィルタ2及び複数の第2のフィルタ12A,12Bの一端は、アンテナ端子17に共通接続されている。
[0033] 図2は、第1の実施形態における第1のフィルタの回路図である。
[0034] 第1のフィルタ2は、ラダー型フィルタである。第1のフィルタ2は、入力端子2a及び出力端子2bを有する。入力端子2aと出力端子2bとの間には第1?第4の直列腕共振子S1?S4が接続されている。第1の直列腕共振子S1と第2の直列腕共振子S2との間の接続点とグラウンド電位との間には、第1の並列腕共振子P1が接続されている。第2の直列腕共振子S2と第3の直列腕共振子S3との間の接続点とグラウンド電位との間には、第2の並列腕共振子P2が接続されている。第3の直列腕共振子S3と第4の直列腕共振子S4との間の接続点とグラウンド電位との間には、第3の並列腕共振子P3が接続されている。第4の直列腕共振子S4と出力端子2bとの間の接続点とグラウンド電位との間には、第4の並列腕共振子P4が接続されている。なお、第1のフィルタ2の回路構成は、上記には限定されない。第1?第4の直列腕共振子S1?S4及び第1?第4の並列腕共振子P1?P4は、弾性表面波共振子からなる。
[0035] 図3(a)は、第1の実施形態における第1のフィルタで用いられている第1の直列腕共振子の平面図であり、図3(b)は、図3(a)中のI-I線に沿う部分の断面図である。
[0036] 第1の直列腕共振子S1は、圧電基板3を有する。圧電基板3は、回転YカットのLiNbO_(3)からなる。第1のフィルタ2は、レイリー波の基本波を利用している。圧電基板3のLiNbO_(3)のカット角は、レイリー波の基本波を利用できればよく、例えば、110°以上であり、かつ150°以下であることが望ましい。好ましくは、圧電基板3のLiNbO_(3)のカット角は、126°以上であり、かつ130°以下であることがより一層望ましい。
[0037] 圧電基板3上には、IDT電極4が設けられている。IDT電極4の弾性表面波伝搬方向における両側には、反射器5が設けられている。IDT電極4は、Ptからなる金属層により構成されている。IDT電極4は、密度が大きい金属からなることが好ましい。それによって、レイリー波の基本波をより一層良好に励振させることができる。なお、IDT電極4は、密度ρが7.87×103kg/m3よりも大きい金属からなる金属層を有していればよい。例えば、Cu、Fe、Mo、Pt、W、Pd、Ta、Au及びAgのうち少なくとも1種の金属からなる金属層を有していることが好ましい。
[0038] 図4に示す変形例のように、第1のフィルタのIDT電極24は、複数の金属層24a?24dを有していてもよい。なお、金属層の層数は特に限定されない。
[0039] 図3(b)に戻り、圧電基板3上には、IDT電極4を覆うように、誘電体層6が設けられている。誘電体層6は、第1の直列腕共振子S1において、レイリー波を利用できるようにするために設けられている。誘電体層6は、SiO_(2)からなる。なお、誘電体層6は、SiO_(2)以外の適宜の誘電体からなっていてもよい。
[0040] なお、第2?第4の直列腕共振子S2?S4及び第1?第4の並列腕共振子P1?P4は、第1の直列腕共振子S1と同様の構成を有し、同じ圧電基板3上に構成されている。第1?第4の直列腕共振子S1?S4及び第1?第4の並列腕共振子P1?P4は、それぞれ適宜のIDT電極の厚み及びIDT電極の電極指間距離などを有し、図1に示した第1のフィルタ2を構成している。
[0041] 本実施形態の複数の第2のフィルタ12A,12Bも、複数の弾性表面波共振子を用いて構成されたラダー型フィルタである。
[0042] 図5は、本発明の第1の実施形態における複数の第2のフィルタのうちの1つの第2のフィルタで用いられている弾性表面波共振子の拡大正面断面図である。
[0043] 第2のフィルタ12Aで用いられている弾性表面波共振子は、LiTaO_(3)からなる圧電基板13を有し、リーキー波を利用している。なお、上記弾性表面波共振子は、LiTaO_(3)以外の圧電単結晶や圧電セラミックスなどからなる圧電基板を有していてもよい。
[0044] 第2のフィルタ12Bで用いられている弾性表面波共振子も、第2のフィルタ12Aで用いられている弾性表面波共振子と同様の構造を有する。
[0045] 第1のフィルタ2の通過帯域は、複数の第2のフィルタ12A,12Bのいずれの通過帯域よりも低い周波数帯域に配置されている。」

「[図1]



「[図2]



「[図3]



したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

「挿入損失が小さく、かつ低コストな複合フィルタ装置であって([0006])、
第1のフィルタ2と通過帯域の異なる複数の第2のフィルタ12A,12Bと、アンテナ端子17を有し([0031、0032]、[図1])、
第1のフィルタ2及び複数の第2のフィルタ12A,12Bの一端は、アンテナ端子17に共通接続されており([0032]、[図1])、
第1のフィルタ2の通過帯域は、複数の第2のフィルタ12A,12Bのいずれの通過帯域よりも低い周波数帯域に配置されており([0045])、
第1のフィルタ2は、第1?第4の直列腕共振子S1?S4及び第1?第4の並列腕共振子P1?P4を回路構成として備えるラダー型フィルタであって、前記第1?第4の直列腕共振子S1?S4及び第1?第4の並列腕共振子P1?P4は、弾性表面波共振子からなり([0034]、[図2])、
第1のフィルタ2は、レイリー波の基本波を利用しており([0036])、
第1の直列腕共振子S1は、圧電基板3を有し、圧電基板3は、回転YカットのLiNbO_(3)からなり、圧電基板3のLiNbO_(3)のカット角は、レイリー波の基本波を利用できればよく、110°以上であり、かつ150°以下であることが望ましく([0036]、[図3])、
圧電基板3上には、IDT電極4が設けられ、該IDT電極4を覆うように、誘電体層6が設けられている([0037]、[0039]、[図3])、
複合フィルタ装置。」

2.特開2015-115870号公報(以下、「引用文献2」という。)
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0023】
本発明に係る弾性波デバイスでは、支持基板と圧電膜との間に、高音速膜及び低音速膜が配置されており、さらに高音速膜を含み、高音速膜より上方の構造部分において、メインモード及び高次モードのエネルギー集中度が上記特定の範囲とされているため、利用する弾性波のエネルギーを圧電膜及び低音速膜が積層されている部分に効果的に閉じ込めることができる。加えて、スプリアスとなる高次モードを高音速膜の支持基板側に漏洩させることができる。さらに、支持基板の上面が粗面であるため、支持基板の上面に達した高次モードが支持基板側に散乱するため、高次モードスプリアスをより一層抑制することが可能となる。よって、利用する弾性波による良好な共振特性やフィルタ特性などを得ることができ、しかも高次モードによる所望でない応答を抑制することが可能となる。」

「【0026】
(第1の実施形態)
図1(a)は、本発明の第1の実施形態としての弾性表面波デバイスの模式正面断面図である。
【0027】
弾性表面波デバイス1は、支持基板2を有する。支持基板2の上面2aに、音速が相対的に高い高音速膜3が積層されている。高音速膜3上に、音速が相対的に低い低音速膜4が積層されている。また、低音速膜4上に圧電膜5が積層されている。この圧電膜5の上面にIDT電極6が積層されている。なお、IDT電極6は圧電膜5の下面に積層されていてもよい。
【0028】
上記支持基板2は、高音速膜3、低音速膜4、圧電膜5及びIDT電極6を有する積層構造を支持し得る限り、適宜の材料により構成することができる。このような材料としては、圧電体、誘電体または半導体等を用いることができる。本実施形態では、支持基板2は、ガラスからなる。
【0029】
上記支持基板2の上面2aは、粗面である。上面2aが粗面であることによる作用等の詳細については、図21を参照して後述する。
【0030】
上記高音速膜3は、弾性表面波を圧電膜5及び低音速膜4が積層されている部分に閉じ込めるように機能する。本実施形態では、高音速膜3は、窒化アルミニウムからなる。もっとも、上記弾性波を閉じ込め得る限り、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素またはダイヤモンド等のさまざまな高音速材料を用いることができる。
【0031】
上記IDT電極の電極指の周期で定まる弾性波の波長をλとする。本実施形態では、高音速膜を含み、高音速膜より上方の構造部分において、利用する弾性波であるメインモードのエネルギー集中度は99.9%以上であり、かつ、スプリアスとなる高次モードのエネルギー集中度は99.5%以下とされている。すなわち、利用する弾性波であるメインモードが高音速膜よりも上方の構造部分に確実に閉じ込められる。他方、スプリアスとなる高次モードは支持基板側に漏洩する。それによって、後述するように、利用する弾性波すなわちメインモードのエネルギーを、圧電膜5及び低音速膜4が積層されている部分に閉じ込めることができ、かつスプリアスとなる高次モードを高音速膜3の支持基板2側に漏洩させることが可能とされている。
【0032】
なお、本明細書において、高音速膜とは、圧電膜5を伝搬する弾性波よりも、該高音速膜中のバルク波の音速が高速となる膜を言うものとする。また、低音速膜とは、圧電膜5を伝搬するバルク波よりも、該低音速膜中のバルク波の音速が低速となる膜を言うものとする。上記バルク波の音速を決定するバルク波のモードは、圧電膜5を伝搬する弾性波の使用モードに応じて定義される。高音速膜3及び低音速膜4がバルク波の伝搬方向に関し等方性の場合には、下記の表1に示すようになる。すなわち、下記の表1の左軸の弾性波の主モードに対し下記の表1の右軸のバルク波のモードにより、上記高音速及び低音速を決定する。P波は縦波であり、S波は横波である。
【0033】
なお、下記の表1において、U1はP波を主成分とし、U2はSH波を主成分とし、U3はSV波を主成分とする弾性波を意味する。
【0034】
【表1】

【0035】
上記低音速膜4及び高音速膜3がバルク波の伝搬性において異方性である場合には下記の表2に示すように高音速及び低音速を決定するバルク波のモードが決まる。なお、バルク波のモードのうち、SH波とSV波のより遅い方が遅い横波と呼ばれ、速い方が速い横波と呼ばれる。どちらが遅い横波になるかは、材料の異方性により異なる。回転Yカット付近のLiTaO_(3)やLiNbO_(3)では、バルク波のうちSV波が遅い横波、SH波が速い横波となる。
【0036】
【表2】

【0037】
上記低音速膜4を構成する材料としては圧電膜5を伝搬するバルク波よりも低音速のバルク波音速を有する適宜の材料を用いることができる。このような材料としては、酸化ケイ素、ガラス、酸窒化ケイ素、酸化タンタル、また、酸化ケイ素にフッ素や炭素やホウ素を加えた化合物などを用いることができる。
【0038】
上記低音速膜及び高音速膜は、上記のように決定される高音速及び低音速を実現し得る適宜の誘電体材料からなる。
【0039】
圧電膜5は、適宜の圧電材料により形成することができるが、好ましくは、圧電単結晶からなる。圧電単結晶を用いた場合、オイラー角を選択することにより様々な特性の弾性波デバイスを容易に提供し得る。より好ましくは、タンタル酸リチウム単結晶またはニオブ酸リチウム単結晶が用いられ、その場合には、オイラー角を選択することにより弾性表面波デバイス1の共振特性やフィルタ特性をより一層高めることができる。
【0040】
IDT電極6は、本実施形態では、Alからなる。もっとも、IDT電極6は、Al、Cu、Pt、Au、Ag、Ti、Ni、Cr、Mo、Wまたはこれらの金属のいずれかを主体とする合金などの適宜の金属材料により形成することができる。また、IDT電極6は、これらの金属もしくは合金からなる複数の金属膜を積層した構造を有していてもよい。」

「【0046】
図2?図5は、利用する弾性波であるメインモードのエネルギー分布を示す図であり、図6?8は、高次モードのエネルギー分布を示す図である。なお、図2?図8の結果は、以下の弾性表面波デバイス1を前提とした有限要素法により得られた結果である。上から順に、IDT電極6:Al電極、厚み0.08λ/圧電膜5:YカットLiTaO_(3)のLiTaO_(3)単結晶膜、厚み0.25λ/低音速膜4:酸化ケイ素膜、厚み0.34λ/高音速膜3:窒化アルミニウム膜、厚み0.1λ?3.0λの間で変化させた/支持基板2:ガラス基板。」

「【0092】
上記第1の実施形態では、支持基板2としてガラス基板を用いたが、ガラスに代えてアルミナを用いてもよい。
【0093】
また、支持基板として、高抵抗なシリコンを用いてもよい。この場合、基板との容量結合を小さくすることができ、弾性表面波デバイスの挿入損失が改善されるため、シリコン支持基板の抵抗率は100Ωcm以上であることが好ましい。さらには、シリコン支持基板の抵抗率が1000Ωcm以上であれば、デバイスとしてアルミナやガラスと同等の挿入損失を得ながら、加工性が向上するので、製造プロセスの自由度が増して、より好ましい。さらには、抵抗率が4000Ωcmであれば、弾性表面波デバイスのフィルタ特性をより改善できるため、より好ましい。」

3.特開2013- 46107号公報(以下、引用文献3という。)
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0059】
実施例3は、実施例1または2の弾性波デバイスをモジュールに用いる例である。図11は、実施例3に係るモジュールのブロック図である。図11に示すように、モジュール100は、RF(Radio Frequency)スイッチ72、RFIC(Integrated Circuit)74、デュープレクサ76、パワーアンプ78および92、ローノイズアンプ80、バンドパスフィルタ82、84および86、およびローパスフィルタ90を備えている。モジュール100は、WCDMA(Wideband Code Division Multiple Access)のバンドI、バンドII、バンドVおよびバンドVIII並びにGSM(Global System for Mobile Communication)の850MHz帯、900MHz帯、1800MHz帯および1900MHz帯の送受信可能な携帯電話端末用の通信モジュールである。」

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると、次のことがいえる。

(ア)『共通端子と、前記共通端子に接続されており、第1の通過帯域を有する、第1の帯域通過型フィルタと、前記共通端子に接続されており、前記第1の通過帯域よりも周波数が高い、第2の通過帯域を有する、第2の帯域通過型フィルタと、を備え、』について

引用発明1においては、「第1のフィルタ2と通過帯域の異なる複数の第2のフィルタ12A,12Bと、アンテナ端子17を有し([0031、0032]、[図1])、第1のフィルタ2及び複数の第2のフィルタ12A,12Bの一端は、アンテナ端子17に共通接続されており([0032]、[図1])、第1のフィルタ2の通過帯域は、複数の第2のフィルタ12A,12Bのいずれの通過帯域よりも低い周波数帯域に配置されており([0045])、」であるから、前記「アンテナ端子17」は、本願発明1でいう『共通端子』に対応することは明らかである。
してみると、引用発明1の「第1のフィルタ2」、「第2のフィルタ12A,12B」は、それぞれ、本願発明1でいう『前記共通端子に接続されており、第1の通過帯域を有する、第1の帯域通過型フィルタ』と『前記共通端子に接続されており、前記第1の通過帯域よりも周波数が高い、第2の通過帯域を有する、第2の帯域通過型フィルタ』に対応する。

(イ)『前記第1の帯域通過型フィルタが、支持基板と、前記支持基板上に積層された圧電体と、
前記圧電体上に設けられたIDT電極と、を備える弾性波装置を有し、』について

引用発明1の「第1のフィルタ2」は、第1?第4の直列腕共振子S1?S4及び第1?第4の並列腕共振子P1?P4を回路構成として備えるラダー型フィルタであって、そして、回路構成の一つである「第1の直列腕共振子S1」は、「圧電基板3」を有し、該圧電基板3上には、「IDT電極4が設けられ、該IDT電極4を覆うように、誘電体層6が設けられて」いる。
ここで、「第1の直列腕共振子S1」は、「第1のフィルタ2」の一部であるから、引用発明1における「圧電基板3」と「IDT電極4」は、それぞれ、本願発明1でいう『圧電体』及び『圧電体上に設けられたIDT電極』に対応する。
また、引用発明1の「第1のフィルタ2」を構成している「第1?第4の直列腕共振子S1?S4及び第1?第4の並列腕共振子P1?P4」は、「弾性表面波共振子」からなっていることを鑑みると、「弾性表面波共振子からなる直列腕共振子S1」を回路構成として備える「第1のフィルタ2」は、本願発明1でいう『弾性波装置』といえるものである。
してみると、本願発明1と引用発明1とは、「第1の帯域通過型フィルタが、圧電体と、前記圧電体上に設けられたIDT電極と、を備える弾性波装置を有する」という点で共通している。
なお、引用発明1には、「第1のフィルタ2」を構成している「第1の直列腕共振子S1」が「支持基板」を備えているか否かについては明らかでない。

(ウ)『前記圧電体は、ニオブ酸リチウムであり、前記圧電体のオイラー角(φ,θ,ψ)が、(0°±5°,θ,0°±10°)の範囲内であり、前記オイラー角におけるθが、30°以上、34°以下であり、』について

引用発明1の「第1の直列腕共振子S1」を構成している「圧電基板3」は、「回転YカットのLiNbO_(3)からなり、圧電基板3のLiNbO_(3)のカット角は、レイリー波の基本波を利用できればよく、110°以上であり、かつ150°以下であることが望ましい」ものである。
ここで、本願発明1でいう『オイラー角』と引用発明1の「(回転Yカットの)カット角」は、いずれも、単結晶であるニオブ酸リチウムからウエハとして切り出し加工を行う際に,その切り出し角度、即ち、物体であるニオブ酸リチウムの三次元空間における姿勢、を表すものである。
してみると、本願発明1と引用発明1とは、「圧電体は、ニオブ酸リチウムであり、前記圧電体を切り出す際の三次元空間における姿勢が所定の範囲内である」という点で共通している。

(エ)『前記弾性波装置がレイリー波を利用している、』について

引用発明1において、「第1のフィルタ2」は、レイリー波の基本波を利用しており、上記(イ)で言及したように、「第1のフィルタ2」は、本願発明1でいう『弾性波装置』といえるものであるから、引用発明1は、本願発明1でいう『弾性波装置がレイリー波を利用している』との構成を備えているといえる。

(オ)『マルチプレクサ』について

本願発明1でいう『マルチプレクサ』とは、本願明細書の段落【0024】から【0039】及び【図1】、【図2】に記載されているようなものであることを踏まえると、引用発明1の「複合フィルタ装置」は、本願発明1でいう『マルチプレクサ』に対応するものといえる。

したがって、本願発明1と引用発明1との間には、次の一致点、相違点がある。

(一致点)
「共通端子と、
前記共通端子に接続されており、第1の通過帯域を有する、第1の帯域通過型フィルタと、
前記共通端子に接続されており、前記第1の通過帯域よりも周波数が高い、第2の通過帯域を有する、第2の帯域通過型フィルタと、
を備え、
前記第1の帯域通過型フィルタが、
圧電体と、
前記圧電体上に設けられたIDT電極と、
を備える弾性波装置を有し、
前記圧電体は、ニオブ酸リチウムであり、
前記圧電体を切り出す際の三次元空間における姿勢が所定の範囲内であり、
前記弾性波装置がレイリー波を利用している、マルチプレクサ。」

(相違点)
(相違点1)本願発明1においては、『弾性波装置』が『支持基板』を有するのに対し、引用発明1の「第1のフィルタ2」を構成している「第1の直列腕共振子S1」が支持基板を有するか否かは、引用文献1には明示されていない点。

(相違点2)本願発明1の『圧電体』は、『オイラー角(φ,θ,ψ)が、(0°±5°,θ,0°±10°)の範囲内であり、前記オイラー角におけるθが、30°以上、34°以下』であるのに対し、引用発明1の「圧電基板の回転YカットのLiNbO_(3)」は、「カット角」が「110°以上であり、かつ150°以下」である点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて、上記相違点2について検討すると、本願発明1は、『圧電体のオイラー角(φ,θ,ψ)が、(0°±5°,θ,0°±10°)の範囲内であり、前記オイラー角におけるθが、30°以上、34°以下』とする構成により、本願明細書の段落【0031】、【0099】に記載されるように、メインモードの共振周波数より低周波数側におけるスプリアスを抑制するという効果を奏する。この点について、引用文献1及び引用文献2には記載も示唆もされておらず、引用文献1及び引用文献2の記載からは予測し得ない効果を有するものといえる。
なお、引用発明1において、「圧電基板のLiNbO_(3)のカット角は、110°以上であり、かつ150°以下であることが望ましい」とする数値限定は、『オイラー角におけるθ』に換算すると、20°以上60°以下となり、本願発明1おける『オイラー角におけるθ』の数値限定と一部範囲が重複する。しかしながら、引用発明1の数値限定は、レイリー波の基本波を利用することにより、挿入損失を小さくするという技術的課題を解決するためのものである一方、本願発明1の数値限定は、本願明細書の段落【0006】に記載されるように、スプリアスを抑制することにより、周波数帯域が低い帯域通過型フィルタの影響により、周波数帯域が高い帯域通過型フィルタのフィルタ特性が劣化し難くするという技術的課題を解決するためのものであって、両者の有する効果は異質なものといえる。

以上を踏まえると、本願発明1は、当業者といえども、引用発明1及び引用文献2に記載の発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

したがって、上記相違点1について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2に記載の発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

本願発明2?10も、本願発明1の『圧電体のオイラー角(φ,θ,ψ)が、(0°±5°,θ,0°±10°)の範囲内であり、前記オイラー角におけるθが、30°以上、34°以下』とする構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2に記載の発明に基いて容易に発明できたものとはいえない。

本願発明11、12も、本願発明1の『圧電体のオイラー角(φ,θ,ψ)が、(0°±5°,θ,0°±10°)の範囲内であり、前記オイラー角におけるθが、30°以上、34°以下』とする構成と同一の構成を備えるものであり、引用文献3にも、『圧電体のオイラー角(φ,θ,ψ)が、(0°±5°,θ,0°±10°)の範囲内であり、前記オイラー角におけるθが、30°以上、34°以下』とする構成は記載も示唆もされていないから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2、3に記載の発明に基いて容易に発明できたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-09-30 
出願番号 特願2018-558837(P2018-558837)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H03H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 橋本 和志  
特許庁審判長 佐藤 智康
特許庁審判官 伊藤 隆夫
吉田 隆之
発明の名称 マルチプレクサ、高周波フロントエンド回路及び通信装置  
代理人 特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所  

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