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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61H
審判 全部無効 2項進歩性  A61H
審判 全部無効 特174条1項  A61H
管理番号 1378481
審判番号 無効2018-800041  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-11-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-04-18 
確定日 2021-10-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第5009445号「マッサージ機」の特許無効審判事件についてされた平成31年 3月 5日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成31年(行ケ)第10042号、令和 2年 1月21日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 請求の趣旨
特許第5009445号発明の特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された発明についての特許を無効とする。

第2 手続の経緯
1 本件特許出願
特許第5009445号(以下、「本件特許」という。)に係る特許出願(特願2012-61490号)は、平成14年4月19日(以下、「原出願日」という。)に出願した特願2002-118191号の一部を平成19年6月21日に新たな出願とした特願2007-163906号の一部を平成20年3月12日に新たな出願とした特願2008-61992号の一部を平成21年12月4日に新たな出願とした特願2009-275966号(以下、「原出願」という。)の一部を平成24年3月19日に新たな出願としたものであって、平成24年3月21日に明細書及び特許請求の範囲についての補正(以下、「本件補正」という。)がされ、さらに、同年4月27日に明細書及び特許請求の範囲についての補正がされた後、同年5月22日付けで特許査定がされた。そして、同年6月8日に本件特許の特許権の設定の登録がされたものである。

2 本件無効審判の請求
請求人は、平成30年4月18日に、本件特許の請求項1ないし6に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、本件無効審判を請求した。

3 一次審決までの主な手続き
平成31年3月5日付け審決(以下、「一次審決」という。)までの主な手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 7月 9日 審判事件答弁書の提出(被請求人より)
同年 8月28日付け 審理事項通知
同年10月11日 口頭審理陳述要領書の提出(請求人より)
同年10月11日 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人より)
同年10月24日付け 審理事項通知
同年11月 1日 口頭審理の実施
同年11月 1日 口頭審理陳述要領書(2)の提出(被請求人より)
同年11月15日 上申書提出(請求人より)
同年11月29日 上申書提出(被請求人より)
平成31年 3月 5日付け 一次審決
同年 3月14日 審決謄本の送達

4 一次審決の結論及びこれに対する審決取消訴訟
(1)一次審決の結論
一次審決では、「本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」ことを結論とする審決がなされた。

(2)一次審決取消訴訟の経緯
請求人は、平成31年3月28日に、一次審決の取消訴訟を知的財産高等裁判所に提起した。
同裁判所において、この訴訟は平成31年(行ケ)第100042号として審理され、令和2年1月21日に、一次審決を取り消す旨の判決が言い渡され、その後同判決は確定した。

5 審理再開後の経緯
本件について、上記確定判決にしたがい、さらに審理したところ、審理再開後の手続の経緯は以下のとおりである。
令和2年 5月27日 上申書提出(請求人より)

第3 本件特許に係る発明
本件特許の請求項1ないし請求項6に係る発明(以下、「本件発明1」ないし及び「本件発明6」などという。また、これらをあわせて「本件発明」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項6に記載された事項によって特定される以下のとおりのものである(便宜上、請求人の分説に従って示す。以下付された符号に従って「構成要件A」のようにいう。)。

「【請求項1】
A 被施療者が着座可能な座部と、
B 被施療者の上半身を支持する背凭れ部と
C を備える椅子型のマッサージ機において、
D 前記座部の両側に夫々配設され、被施療者の腕部を部分的に覆って保持する一対の保持部と、
E 前記保持部の内面に設けられる膨張及び収縮可能な空気袋と、を有し、
F 前記保持部は、その幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口が形成されていると共に、その内面に互いに対向する部分を有し、
G 前記空気袋は、前記内面の互いに対向する部分のうち少なくとも一方の部分に設けられ、
H 前記一対の保持部は、各々の前記開口が横を向き、且つ前記開口同士が互いに対向するように配設されている
I ことを特徴とするマッサージ機。

【請求項2】
J 前記一対の保持部は、各々の前記開口が真横を向いていること
K を特徴とする請求項1に記載のマッサージ機。

【請求項3】
L 前記保持部は、被施療者の前腕と手首又は掌を保持可能であること
M を特徴とする請求項1又は2に記載のマッサージ機。

【請求項4】
N 前記空気袋は、前記開口側の部分の方が奥側の部分よりも立ち上るように構成されていること
O を特徴とする請求項1?3のいずれかに記載のマッサージ機。

【請求項5】
P 前記背凭れ部は、被施療者の胴体を支持するクッション部と、
Q 前記クッション部より前方へ延設され被施療者の上腕及び肩の側部を覆う部分を有するカバー部と、を有し、
R 前記カバー部には、膨張及び収縮することにより被施療者の肩に刺激を与えることができる空気袋が設けられている
S ことを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載のマッサージ機。

【請求項6】
T 左腕用の前記保持部に設けられた空気袋と、右腕用の前記保持部に設けられた空気袋と、は、夫々独立に駆動されるよう構成されている
U ことを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載のマッサージ機。」


第4 当事者が提出した証拠方法
1 請求人
甲第1号証:特許第5009445号公報(本件特許の特許公報)の写し(以下、「の写し」はその記載を省略。)
甲第2号証:本件特許の審査段階で平成24年3月21日に提出された手続補正書
甲第3号証:本件特許の審査段階で平成24年3月21日に提出された上申書
甲第4号証:本件特許の審査段階で平成24年3月19日に提出された明細書
甲第5号証:本件特許の審査段階で平成24年3月19日に提出された図面
甲第6号証:本件特許の審査段階で平成24年4月27日に提出された手続補正書
甲第7号証:本件特許の審査段階で平成24年3月21日に提出された早期審査に関する事情説明書
甲第8号証:特許権侵害差止等請求事件(平成29年(ワ)第7384号)における平成30年1月31日付け原告準備書面3
甲第9号証:特開2001-204776号公報
甲第10号証:特開平8-308903号公報
甲第11号証:米国特許第6251123号明細書及びその日本語訳文
甲第12号証:米国特許第5613252号明細書及びその日本語訳文
甲第13号証:国際公開第00/07665号及びその日本語訳文として特表2002-522125号公報
甲第14号証:特開平10-263029号公報
甲第15号証:特開平10-295750号公報
甲第16号証:特開平10-243981号公報
甲第17号証:特開平10-295753号公報
甲第18号証:特開2001-258971号公報
甲第19号証:特開2001-327565号公報
甲第20号証:特開平10-118141号公報
甲第21号証:特開2000-102577号公報
甲第22号証:特開2000-325416号公報
甲第23号証:特開2001-333949号公報
甲第24号証:特開2001-161766号公報
甲第25号証:特開平11-9633号公報
甲第26号証:特開平8-336565号公報
甲第27号証:厚生省告示第百十八号(平成10年3月30日付官報号外第61号掲載)
甲第28号証:特開2001-293055号公報
甲第29号証:特開2010-46556号公報
甲第30号証:伊藤正男、外2名、「医学書院 医学大辞典」、第2版第2刷、株式会社医学書院、2010年5月15日、p.220、1315
甲第31号証:ウェブページ(http://www.merriam-webster.com/dictionary/rest)の印刷物

以下、甲第1号証ないし甲第31号証を、「甲1号証」ないし「甲31号証」などという。

2 被請求人
乙第1号証:特開2005-177279号公報
乙第2号証:特開2005-287831号公報
乙第3号証:特開2003-153970号公報

以下、乙第1号証ないし乙第3号証を、「乙1号証」ないし「乙3号証」などという。


第5 請求人が主張する無効理由
1 無効理由1(新規事項の追加)
本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものではないので、本件発明に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、特許法第123条第1項第1号に該当し無効とすべきものである。

2 無効理由2(サポート要件違反)
本件発明は発明の詳細な説明に記載したものではないので、本件発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきものである。

3 無効理由3(明確性要件違反)
本件発明は明確でないので、本件発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきものである。

4 無効理由4(進歩性欠如)
本件発明は、甲9号証ないし甲26号証に記載された発明及び周知技術等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、本件発明に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである。
具体的には、概ね次のような主張をしている。なお、本件発明2ないし6の無効理由について、各発明は請求項1を引用する発明として整理しており、請求項2ないし5を引用する発明については整理の都合上記載を省略している。(第1回口頭審理調書「請求人」欄の「4」参照。)
(1)本件発明1
本件発明1は、(ア)甲9号証に記載された発明、及び、甲10号証ないし甲13号証に記載された周知技術(周知技術A)に基づいて、(イ)甲9号証に記載された発明及び甲13号証に記載された発明に基づいて、又は、(ウ)甲9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到したものであるので、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。

(2)本件発明2
本件発明2は、(ア)甲9号証に記載された発明、及び、甲10号証ないし甲13号証に記載された周知技術(周知技術A+周知技術B)に基づいて、(イ)甲9号証に記載された発明、甲13号証に記載された発明、及び、甲10号証及び甲13号証に記載された周知技術(周知技術B)に基づいて、(ウ)甲9号証に記載された発明、及び、甲10号証及び甲13号証に記載された周知技術(周知技術B)に基づいて、(エ)甲9号証に記載された発明、及び、甲10号証ないし甲13号証に記載された周知技術(周知技術A)に基づいて、(オ)甲9号証に記載された発明及び甲13号証に記載された発明に基づいて、又は、(カ)甲9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到したものであるので、本件発明2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。

(3)本件発明3
本件発明3は、(ア)甲9号証に記載された発明、及び、甲10号証ないし甲13号証に記載された周知技術(周知技術A)に基づいて、(イ)甲9号証に記載された発明及び甲13号証に記載された発明に基づいて、(ウ)甲9号証に記載された発明に基づいて、(エ)甲9号証に記載された発明、甲10号証ないし甲13号証に記載された周知技術(周知技術A)、及び、甲14号証ないし甲16号証に記載された周知技術(周知技術C)に基づいて、(オ)甲9号証に記載された発明、甲13号証に記載された発明、及び、甲14号証ないし甲16号証に記載された周知技術(周知技術C)に基づいて、又は、(カ)甲9号証に記載された発明、及び、甲14号証ないし甲16号証に記載された周知技術(周知技術C)に基づいて、当業者が容易に想到したものであるので、本件発明3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。

(4)本件発明4
本件発明4は、(ア)甲9号証に記載された発明、甲10号証ないし甲13号証に記載された周知技術(周知技術A)、及び、甲17号証ないし甲20号証に記載された周知技術(周知技術D)に基づいて、(イ)甲9号証に記載された発明、甲13号証に記載された発明、及び、甲17号証ないし甲20号証に記載された周知技術(周知技術D)に基づいて、(ウ)甲9号証に記載された発明、及び、甲17号証ないし甲20号証に記載された周知技術(周知技術D)に基づいて、(エ)甲9号証に記載された発明、甲10号証ないし甲13号証に記載された周知技術(周知技術A)、及び、甲17号証ないし甲20号証に記載された発明のいずれかに基づいて、(オ)甲9号証に記載された発明、甲13号証に記載された発明、及び、甲17号証ないし甲20号証に記載された発明のいずれかに基づいて、又は、(カ)甲9号証に記載された発明、及び、甲17号証ないし甲20号証に記載された発明のいずれかに基づいて当業者が容易に想到したものであるので、本件発明4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。

(5)本件発明5
本件発明5は、(ア)甲9号証に記載された発明、甲10号証ないし甲13号証に記載された周知技術(周知技術A)、及び、甲21号証又は甲22号証に記載された発明のいずれかに基づいて、(イ)甲9号証に記載された発明、甲13号証に記載された発明、及び、甲21号証又は甲22号証に記載された発明のいずれかに基づいて、又は、(ウ)甲9号証に記載された発明、及び、甲21号証又は甲22号証に記載された発明のいずれかに基づいて当業者が容易に想到したものであるので、本件発明5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。

(6)本件発明6
本件発明6は、(ア)甲9号証に記載された発明、甲10号証ないし甲13号証に記載された周知技術(周知技術A)、及び、甲23号証ないし甲26号証に記載された周知技術(周知技術E)に基づいて、(イ)甲9号証に記載された発明、甲13号証に記載された発明、及び、甲23号証ないし甲26号証に記載された周知技術(周知技術E)に基づいて、(ウ)甲9号証に記載された発明、及び、甲23号証ないし甲26号証に記載された周知技術(周知技術E)に基づいて、(エ)甲9号証に記載された発明、及び、甲10号証ないし甲13号証に記載された周知技術(周知技術A)に基づいて、(オ)甲9号証に記載された発明及び甲13号証に記載された発明に基づいて、(カ)甲9号証に記載された発明に基づいて、(キ)甲9号証に記載された発明、甲10号証ないし甲13号証に記載された周知技術(周知技術A)、及び、甲23号証又は甲25号証に記載の発明のいずれかに基づいて、(ク)甲9号証に記載された発明、甲13号証に記載された発明、及び、甲23号証又は甲25号証に記載の発明のいずれかに基づいて、又は、(ケ)甲9号証に記載された発明、及び、甲23号証又は甲25号証に記載の発明のいずれかに基づいて当業者が容易に想到したものであるので、本件発明6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。

5 無効理由5(分割要件違反に伴う新規性及び進歩性欠如)
本件発明は、本件特許の出願が特許法第44条第1項に規定する分割出願の要件を備えていない出願であるから、出願日の遡及の利益を受けることができず、その結果、本件発明1は、甲29号証に記載された発明、甲9号証ないし甲13号証に記載された発明および周知技術に基づいて、本件発明2ないし6は、甲29号証に記載された発明、甲9号証ないし甲26号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に想到したものであるので、本件発明に係る特許は、特許法第29条第1項3号及び第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。

第6 請求人の主張の概要
1 無効理由1(新規事項の追加)
(1)構成要件G及び【0010】
ア 構成要件G及び本件特許明細書の【0010】の「前記空気袋は、前記内面の互いに対向する部分のうち少なくとも一方の部分に設けられ」との事項は、「少なくとも一方の部分」と特定することにより、空気袋が、保持部の内面の互いに対向する部分の一方にのみ設けられている構成まで包含するものである。
被請求人は、甲3号証において、当該事項に係る本件補正は、本件当初明細書等の記載(【0042】、【0072】、【図1】、【図5】、【図7】及び【図8】など)に基づくとする。
しかしながら、本件当初明細書等には、第1の実施形態における略C字状の断面形状を有する略半円筒形状の外殻部11aの内面の略全体に空気袋11bが設けられている構成と、第3の実施形態における外殻部26aの内面の略全面に亘って空気袋26bが設けられている構成が開示されているものにとどまり、第1の実施形態において外殻部11aの内面の互いに対向する部分のうちの一方のみに空気袋11bが設けられている構成や、第3の実施形態において外殻部26aの互いに対向する部分のうちの一方のみに空気袋26bが設けられている構成については開示されていない。
したがって、構成要件G及び本件特許明細書の【0010】の「前記空気袋は、前記内面の互いに対向する部分のうち少なくとも一方の部分に設けられ」との事項に係る本件補正は、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるということはできない。
(審判請求書14ページないし15ページの「イ 構成要件G及び【0010】について」を参照。)

イ 被請求人は、構成要件Gについて、本件当初明細書等の【0042】、【0072】、【図5】及び【図8】の記載を用いて反論するが、外殻部の内面の略全面に亘って空気袋が設けられている構成が開示されていることを説明するにとどまり、外殻部の内面の互いに対向する部分のうちの一方のみに空気袋が設けられている構成については開示されていないことを実質的に認めており、当業者が明細書又は図面のすべての記載を総合することによって当然に理解される事項であるとする。
しかしながら、被請求人はその構成が当業者に理解されるとする論拠を明らかにしていない。そして、その構成は、技術常識を示す文献である甲9号証及び甲16号証などには開示されてないことから、本件特許の原出願日よりも前に技術常識であったともいえず、本件当初明細書等の記載から自明な事項であるとはいえないので、本件補正のときに、新たな技術的事項として導入されたものであることは明白である。
(請求人の口頭審理陳述要領書4ページないし6ページの「1 補正要件違反について」を参照。)

(2)構成要件H及び【0010】
構成要件H及び本件特許明細書の【0010】の「前記一対の保持部は、各々の前記開口が横を向き、且つ前記開口同士が互いに対向するように配設されている」との事項は、開口が横を向いてさえいれば、保持部の断面傾向としては、例えば所定角度を傾斜させない五角形や六角形等の多角形状や、所定角度傾斜させない略チャネル状などまで広く包含するものである。
被請求人は、甲3号証において、当該事項に係る本件補正は、本件当初明細書等の記載(【0042】、【0072】、【図1】、【図5】、【図7】及び【図8】など)に基づくとする。
しかしながら、本件当初明細書等には構成要件Hは記載されておらず、特に、【0042】の「第1保持部分11は、・・・略C字状の断面形状を有する略半円筒形状の外殻部11aを備えている」の記載は、保持部の形状について略C字状の断面形状を有するというにとどまる。
また、被請求人は、本件当初明細書等の記載(【0100】、【0101】及び【図13】)において、保持部の形状としては、【図13】の(a)?(e)の形状があり得るとしていたところ、甲6号証において、【図13】のうち(b)(d)(e)は参考例であるとして本件特許の実施例からは除外し、(a)と(c)のみをもって本件特許の実施例とする旨の限定を付した。
しかしながら、【0100】及び【0101】を俯瞰しても、参考例である(b)(d)(e)と実施例である(a)(c)における技術的意義の差にかかる説明は一切なく、せいぜい、【図13】の(a)は「幅方向に切断したときの断面視において略C字状の半円筒形状」(以下、「形状a」という。)であり(【0100】)、【図13】(c)は「幅方向の断面視において所定角度だけ傾斜させた略チャネル状」(以下、「形状c」という。)であるというように(【0101】)、保持部の形状が説明されているにとどまる。つまり、保持部の形状について、本件当初明細書等を総合して導かれる事項は、形状aと形状cという具体的な2つの形状しかなく、形状aや形状cのようなデザインがあり得ると認識するにとどまり、かかる意匠的な意味以上の技術的な意味は、本件当初明細書等からは何ら見いだされない。

【図13】



さらに、被請求人は、甲7号証において、本件発明1の作用効果として、「本願発明1は、以下のような作用効果a?cを奏する。即ち、a.肘を曲げ、前腕部を水平に動かすことで、腕を保持部に挿入することができる。従って、肩を上げなくても腕を保持部に入れることができるので、保持部に腕を挿入することが容易である。b.腕を保持部内に位置させた状態であっても内側に曲げることができる。従って、保持部内に腕を位置させた状態で両腕を曲げ、その両腕で雑誌等を持ったり種々の作業をしたりできる。これにより、両腕の自由度が断然高くなる。c.腕部のマッサージを行わない場合、保持部の上に腕を載せることができる。保持部の上に腕を載せることで、腕を自由に動かすことができるようになり、足、臀部、及び背中等の腕以外の部位にマッサージを受けながら種々の作業を行うことができる。」と説明する。
しかしながら、かかる作用効果は、本件当初明細書等の記載に基づいたものではなく、本件発明1の技術的意義を検討する上で配慮には値しない。
したがって、構成要件H及び本件特許明細書の【0010】の「前記一対の保持部は、各々の前記開口が横を向き、且つ前記開口同士が互いに対向するように配設されている」との事項に係る本件補正は、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるということはできない。
(審判請求書15ページないし18ページの「ウ 構成要件H及び明細書段落0010について」を参照。)

(3)構成要件J及び【0013】
構成要件J及び本件特許明細書の【0013】の「前記一対の保持部は、各々の前記開口が真横を向いていること」との事項に係る本件補正について、被請求人は、甲3号証において、本件当初明細書等の【図13】(a)の記載に基づくとする。
しかしながら、【図13】(a)において、保持部の開口方向は、矢印で示すように、斜め下方であり、真横ではない。なお、【図13】(a)に出願当初から図示されている左右方向の矢印は、本件当初明細書等の【0102】に「図13(a)?(e)で示すように、夫々の保持部をガイドレール等によって左右方向へ移動することが可能に構成してもよい」と記載されているように、保持部が移動する方向であって、保持部の開口が開いている方向を示すものではない。さらに、開口方向が真横となる形状は、【図13】(a)のような略C字状のものに限らず、他の形状も幅広く包含することとなる。

図13(a)



そして、保持部の開口を真横とすることによって解決される技術的課題は、本件当初明細書等に記載されていない。
したがって、構成要件J及び本件特許明細書の【0013】の「前記一対の保持部は、各々の前記開口が真横を向いていること」との事項に係る本件補正は、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるということはできない。
(審判請求書18ページないし19ページの「エ 構成要件J及び明細書段落0013について」を参照。)

(4)構成要件L及び【0014】
構成要件L及び本件特許明細書の【0014】の「前記保持部は、被施療者の前腕と手首又は掌を保持可能であること」との事項に係る本件補正について、被請求人は、甲3号証において、本件当初明細書等の【0044】の記載に基づくとする。
しかしながら、【0044】には構成要件Lを明記した箇所は存在せず、「第2保持部分12の内面であって、被施療者の手首又は掌に相当する部分には、振動装置15が設けられている。この振動装置が振動することにより、被施療者の手首又は掌に刺激を与えることが可能となっている」と記載されているにとどまる。すなわち、振動装置によって手首や掌に刺激が与えられ得ることは記載されているが、手首又は掌の保持については何ら言及がない。そして、本件当初明細書等には、手首又は掌を保持することによって解決される技術的課題についても何ら言及がない。
したがって、構成要件L及び本件特許明細書の【0014】の「前記保持部は、被施療者の前腕と手首又は掌を保持可能であること」との事項に係る本件補正は、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるということはできない。
(審判請求書19ページないし20ページの「オ 構成要件L及び明細書段落0014について」を参照。)

(5)構成要件N及び【0015】
構成要件N及び本件特許明細書の【0015】の「前記空気袋は、前記開口側の部分の方が奥側の部分よりも立ち上るように構成されていること」との事項に係る本件補正について、被請求人は、甲3号証において、本件当初明細書等の【図5】及び【図8】の記載に基づくとする。
しかしながら、【図5】は本件当初明細書等の【0042】に、【図8】は本件当初明細書等の【0066】に、それぞれ説明されているが、そのいずれにも開口側と奥側における空気袋の位置関係を説明する記載は一切ない。したがって、【図5】及び【図8】は、単に空気袋が設けられた保持部を図示するものに過ぎず、同図面によって空気袋の具体的な配置まで特定するものではない。また、当然のことながら、空気袋につき開口側を奥側より立ち上るように構成することにより解決される技術的課題も一切記載されていない。このため、本件当初明細書等に触れた当業者において、開口側と奥側における空気袋の位置関係を認識することはない。
また、仮に、【図5】及び【図8】における空気袋11b、11c及び空気袋26b、26cは、開口側の端部にて最も高さが高くなるよう盛り上がる形状として示されているとしても、構成要件N及び本件特許明細書の【0015】の「前記空気袋は、前記開口側の部分の方が奥側の部分よりも立ち上るように構成されていること」との事項は、1つの空気袋の形状において開口側の端部において盛り上がる形状とする以外にも種々の構成も含み得る表現になっており、例えば、「前記開口側の部分の方が奥側の部分よりも」盛り上がっていればよいため、開口側の端部だけに限らず奥側の部分からその端部に至る途中の部分が奥側より相対的に盛り上がっている形状をも含み得る表現にもなっている。このため、仮に本件当初明細書等の【図5】及び【図8】をもって開口側と奥側における空気袋の位置関係を特定すると解するとしても、構成要件N及び本件特許明細書の【0015】の「前記空気袋は、前記開口側の部分の方が奥側の部分よりも立ち上るように構成されていること」との事項は、それ以上の構成を広範に包含する。
したがって、構成要件N及び本件特許明細書の【0015】の「前記空気袋は、前記開口側の部分の方が奥側の部分よりも立ち上るように構成されていること」との事項に係る本件補正は、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるということはできない。
(審判請求書20ページないし21ページの「カ 構成要件N及び明細書段落0015について」を参照。)

(6)構成要件F及び【0010】
本件発明1から6の出願人である被請求人は、請求人と被請求人との間の特許権侵害訴訟において、構成要件Fのうち「幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口」との特定事項に関して,掌部分や手首部分に内壁が存在する保持部も含むと述べた(甲8号証)。
そして、構成要件Fの「幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口」との事項に係る本件補正について、被請求人は、甲3号証において、本件当初明細書等の【0042】、【0072】、【図1】、【図5】、【図7】及び【図8】などの記載に基づくとする。しかしながら、本件当初明細書等の上記記載は、すべて保持部の幅方向のどの切断面においても被施療者が腕を挿入する口を有する構成(開口が長手方向の全長にわたって両端に至るまで連続して形成され両端が切りっぱなし状に開放されている構成)を前提にしており、一部に内壁を有することにより、保持部を幅方向に切断した場合に開口がなくなる部分を含む構成は一切開示されていない。
また、被請求人は甲7号証において、「a.肘を曲げ、前腕部を水平に動かすことで、腕を保持部に挿入することができる。従って、肩を上げなくても腕を保持部に入れることができるので、保持部に腕を挿入することが容易である。」とか「b.腕を保持部内に位置させた状態であっても内側に曲げることができる。従って、保持部内に腕を位置させた状態で両腕を曲げ、その両腕で雑誌等を持ったり種々の作業をしたりできる。これにより、両腕の自由度が断然高くなる。」などと述べていた。
しかしながら、人体は掌から肩まで連続しているから、保持部の一部の内側に壁がある構成では、被施療者は、肩を上げなければ腕を保持部に入れることができず、また、腕を保持部内に位置させた状態で内側に曲げることもできないのであるから、被請求人が甲7号証において主張した効果と、掌部分や手首部分に内壁が存在する保持部も構成要件Fに含まれるとの被請求人の解釈とは矛盾する。
よって、「幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口」には掌部分や手首部分に内壁が存在する構成をも含むと解するのであれば、同構成を含む構成要件F及び【0010】は、本件補正により、新たな技術的事項を含むこととなったと解するよりない。
したがって、構成要件F及び本件特許明細書の【0010】の「幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口」との事項に係る本件補正は、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるということはできない。
(審判請求書29ページないし32ページの「(4-4)侵害訴訟における被請求人の主張も踏まえた無効理由について」ないし「イ 補正要件違反について」を参照。)

2 無効理由2(サポート要件違反)
(1)構成要件G
ア 上記1(1)アのとおり、構成要件Gの「前記空気袋は、前記内面の互いに対向する部分のうち少なくとも一方の部分に設けられ」との事項は、本件補正により加えられた新規事項であり、この新規事項は、本件当初明細書等のみならず、本件特許明細書の発明の詳細な説明にも記載されていないし、示唆されてもいない。つまり、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、外殻部11aや26aの内面の互いに対向する部分の双方に空気袋が設けられている旨の記載しかなく、第1の実施形態における外殻部11aの内面の互いに対向する部分のうちの一方のみに空気袋11bが設けられていることや、第3の実施形態における外殻部26aの互いに対向する部分のうちの一方のみに空気袋26bが設けられていることは、サポートされていない。
したがって、構成要件Gは、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、この構成を含む本件発明1ないし本件発明6は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるということはできない。
(審判請求書22ページないし23ページの「イ 構成要件Gについて」を参照。)

イ 上記1(1)イのとおり、構成要件Gは、本件当初明細書等の記載から自明な事項ですらない。
したがって、構成要件Gは、明細書の発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を越えて、発明内容を特定するものであることは明白である。
(請求人の口頭審理陳述要領書6ページの「(1)構成要件G「前記空気袋は、前記内面の互いに対向する部分のうち少なくとも一方の部分に設けられ、」に関するサポート要件について」を参照。)

(2)構成要件H
ア 上記1(2)のとおり、構成要件Hの「前記一対の保持部は、各々の前記開口が横を向き、且つ前記開口同士が互いに対向するように配設されている」との事項は、本件補正により加えられた新規事項であり、この新規事項は、本件当初明細書等のみならず、本件特許明細書の発明の詳細な説明にも記載されていないし、示唆されてもいない。つまり、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、形状a及び形状cの構成しか記載されておらず、また、形状a及び形状cは、本件特許には含まれない単なる参考例との比較において、形状以外の技術的差異は一切説明されておらず、形状a及び形状cが有する技術的意義を認識することはできない。このように、明細書の記載から当業者が認識できる範囲は、他の参考例との比較で意匠的な意味合いを除いて何らの技術的差異も見いだせない形状a及び形状cのみであるから、保持部の形状として、形状a及び形状c以外の形状も広く包含することはサポートされていない。
したがって、構成要件Hは、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、この構成を含む本件発明1ないし本件発明6は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるということはできない。
(審判請求書23ページないし24ページの「ウ 構成要件Hについて」を参照。)

イ 被請求人が甲7号証で補正の根拠とする明細書の【0042】、【0072】には、保持部の開口の方向と一対の保持部の位置関係については何ら言及されておらず、形状a及び形状cで例示されている以外に保持部の開口が水平方向に対してどの程度の角度で傾斜しているものまで「各々の前記開口が横を向き」に含まれるかについては開示、示唆されておらず、出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に開示された内容を、構成要件Hで示されている範囲まで、拡張・一般化できるとはいえない。
したがって、構成要件Hは、明細書の発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えて、発明内容を特定するものである。
(請求人の口頭審理陳述要領書6ページないし7ページの「(2)構成要件H「前記一対の保持部は、各々の前記開口が横を向き、且つ前記開口同士が互いに対向するように配設されている」に関するサポート要件について」を参照。)

(3)構成要件J
ア 上記1(3)のとおり、構成要件Jの「前記一対の保持部は、各々の前記開口が真横を向いていること」との事項は、本件補正により加えられた新規事項であり、この新規事項は、本件当初明細書等のみならず、本件特許明細書の発明の詳細な説明にも記載されていないし、示唆されてもいない。つまり、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、保持部の開口の方向は斜め下方である旨の記載しかなく、保持部の各々の開口が真横を向いていることや、開口方向が真横となる形状として略C字状以外の形状をも包含することはサポートされていない。
したがって、構成要件Jは、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、この構成を含む本件発明2ないし本件発明6は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるということはできない。
(審判請求書24ページないし25ページの「エ 構成要件Jについて」を参照。)

イ 答弁書において、被請求人は、「開口方向」とは、上下の開口端部の接線方向ではなく、開口端部同士を結ぶ直線に垂直な方向が地面と水平であればよいと述べるが、そのような方向が妥当であるとする論拠は何ら説明されていない。
したがって、構成要件Jは、明細書の発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えて、発明内容を特定するものである。
(請求人の口頭審理陳述要領書7ページないし8ページの「(3)構成要件J「前記一対の保持部は、各々の前記開口が真横を向いていること」に関するサポート要件について」を参照。)

(4)構成要件L
ア 上記1(4)のとおり、構成要件Lの「前記保持部は、被施療者の前腕と手首又は掌を保持可能であること」との事項は、本件補正により加えられた新規事項であり、この新規事項は、本件当初明細書等のみならず、本件特許明細書の発明の詳細な説明にも記載されていないし、示唆されてもいない。つまり、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、振動装置によって手首や掌に刺激が与えられ得る旨の記載しかなく、保持部が手首又は掌を保持し得ることや、保持部が前腕を保持し得ることは、サポートされていない。
したがって、構成要件Lは、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、この構成を含む本件発明3ないし本件発明6は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるということはできない。
(審判請求書25ページないし26ページの「オ 構成要件Lについて」を参照。)

イ 被請求人は、答弁書において、明細書の【0044】の記載を根拠に構成要件Lは自明であると主張するが、【0044】では、振動装置によって手首や掌に刺激が与えられ得ることは記載されているが、保持部が手首又は掌を保持し得るか否かは何ら言及されていないし、また、保持部が前腕を保持し得るかに至っては「前腕」の文言すら記載されておらず、【図2】の図示された内容を踏まえても、発明の詳細な説明に開示された内容を、構成要件Lの範囲まで、拡張・一般化できるとはいえない。
したがって、構成要件Lは、明細書の発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えて、発明内容を特定するものである。
(請求人の口頭審理陳述要領書8ページの「(4)構成要件L」を参照。)

(5)構成要件N
ア 上記1(5)のとおり、構成要件Nの「前記空気袋は、前記開口側の部分の方が奥側の部分よりも立ち上るように構成されていること」との事項は、本件補正により加えられた新規事項であり、この新規事項は、本件当初明細書等のみならず、本件特許明細書の発明の詳細な説明にも記載されていないし、示唆されてもいない。つまり、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、略C字状の保持部に空気袋が設けられる旨の記載しかなく、空気袋の形状として、開口側の端部だけに限らず奥側の部分からその端部に至る途中の部分が奥側の部分より盛り上がったものも含み得るような、開口側の部分の方が奥側の部分よりも立ち上るものはサポートされていない。
したがって、構成要件Nは、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、この構成を含む本件発明4ないし本件発明6は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるということはできない。
(審判請求書26ページないし27ページの「カ 構成要件Nについて」を参照。)

イ 被請求人は、構成要件Nに関して「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えず、サポート要件違反はないと述べる。また、関連して、請求人は、構成要件Nは、「開口側の端部」とは規定されていないので、「開口側の端部だけに限らず奥側の部分からその端部に至る途中の部分が奥側の部分より盛り上がった構成」も含むものであり、図5、図8に開示されているとも述べる。
しかしながら、図5、図8には、空気袋が「開口側の端部」において盛り上がった構成が開示されているに過ぎず、また、本件特許明細書の【0042】には、開口側の端部に設けられた空気袋11cによる押圧調整の作用効果が記載されているに過ぎず、「開口側の端部だけに限らず奥側の部分からその端部に至る途中の部分が奥側の部分より盛り上がった構成」は形態上及び作用効果からも開示されていないことは明白であるから、発明の詳細な説明に開示された内容を、被請求人が解釈・主張するような構成要件Nの範囲まで、拡張・一般化できるとはいえない。
したがって、構成要件Nは、明細書の発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えて、発明内容を特定するものである。
(請求人の口頭審理陳述要領書8ページないし9ページの「(5)構成要件N「前記空気袋は、前記開口側の部分の方が奥側の部分よりも立ち上るように構成されていること」に関するサポート要件について」を参照。)

(6)構成要件F
ア 被請求人は、上記1(6)に記載したとおり、構成要件Fのうち「幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口」との特定事項に関して,掌部分や手首部分に内壁が存在する保持部も含むとする。
しかしながら、本件当初明細書等の【0042】、【0072】、【図1】、【図5】、【図7】及び【図8】などの記載を俯瞰すると、すべて保持部の幅方向のどの切断面においても被施療者が腕を挿入する口を有する構成(開口が長手方向の全長にわたって形成され両端が切りっぱなし状に開放されている構成)を前提にしている。このため、一部に内壁を有することにより、保持部を幅方向に切断した場合に開口がなくなる部分を含む構成は、明細書等の記載から当業者が認識できる範囲を超える。
したがって、構成要件Fは、明細書の発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えて、発明内容を特定するものである。
(審判請求書32ページの「ウ サポート要件違反について」を参照。)

イ 被請求人は、明細書【0038】の記載などから手首又は掌部をマッサージの対象とする構成に関しては何ら限定されているものではなくサポート要件違反ではないと述べる。
しかしながら、構成要件Fで特定されている「腕」とは、甲30号証に示されるように、一般的に上肢のことであり、その上肢とは、上肢帯、上腕、前腕、手を包含する概念であることから、本件特許公報の図2に示されているように、当業者は構成要件Fについて上腕、前腕だけでなく掌を含む手を宛がう箇所を含めて開口していると解されるのであり、被請求人が述べるような掌部分や手首部分に内壁が存在する保持部も含む態様とは解せない。
また、被請求人は、構成要件Fの「腕」が上腕、前腕のみと解釈しているが、上述したように、一般的に「腕」とは、上肢帯、上腕、前腕、手を包含する概念であるから、構成要件Fは、上腕、前腕だけでなく掌を含む手をも含めて開口が形成されていると理解されることから、被請求人が述べるような掌部分や手首部分に内壁が存在する保持部をも含む態様は当初明細書に開示、示唆されておらず、構成要件Fの範囲まで、拡張・一般化できるとはいえない。
(請求人の口頭審理陳述要領書11ページの「(8)構成要件F「前記保持部は、その幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口が形成されているとともに、その内面に互いに対向する部分を有し、」に関するサポート要件について(侵害訴訟における被請求人の主張も踏まえた無効理由について)」を参照。)

3 無効理由3(明確性要件違反)
(1)構成要件G
構成要件Gの「前記空気袋は、前記内面の互いに対向する部分のうち少なくとも一方の部分に設けられ」において、「前記内面の互いに対向する部分」の意味につき、左右どちらか一方の保持部における内面の一部分を特定しているのか、左右一対の保持部において対向する左右それぞれの保持部の内面同士の部分を特定しているのか、明らかでない。
したがって、構成要件Gは明確でないから、この構成を含む本件発明1ないし本件発明6は明確でない。
(審判請求書27ページないし29ページの「イ 構成要件Gについて」を参照。)

(2)構成要件L
ア 構成要件Lの「前記保持部は、被施療者の前腕と手首又は掌を保持可能であること」において、具体的にどのような事象を捉えて「保持可能」と特定されているのか、また、具体的に保持部をどのような構成にすれば「保持可能」と特定されているのか、理解できない。
したがって、構成要件Lは明確でないから、この構成を含む本件発明3ないし本件発明6は明確でない。
(審判請求書29ページの「ウ 構成要件Lについて」を参照。)

イ 被請求人は、答弁書において、明細書の【0044】の記載や図2、図5ないし図10から、手首又は掌の保持がどのような態様で出来るかは明確であると主張するが、被請求人が述べるように、明細書の【0044】の記載や図2、図5ないし図10から、「被施療者の前腕と手首又は掌を保持可能である」ことが解することができたとしても、保持部が「保持可能である」ことを例示しているに過ぎず、本件発明3を特徴付ける唯一の要件である構成要件Lが「保持可能」という作用的な表現で特定されていることから、本件特許の当初明細書に記載された例示を超え「保持可能」と解する余地があればいかなる構成をも含みうる特定事項となっており、第三者が不測の不利益を被るおそれがある。
したがって、構成要件Lは、どのような具体的な構成まで保持可能といえるのか発明を特定するための外縁が不明瞭であるから不明確である。
(請求人の口頭審理陳述要領書10ページの「(7)構成要件L「前記保持部は、被施療者の前腕と手首又は掌を保持可能であること」に関する不明確性について」を参照。)

(3)構成要件F
ア 被請求人は、上記1(6)に記載したとおり、構成要件Fのうち「幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口」との特定事項に関して,掌部分や手首部分に内壁が存在する保持部も含むとする。
そのため、「幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口」との特定事項は、保持部の幅方向のどの切断面においても被施療者が腕を挿入する口を有する構成(開口が長手方向の全長にわたって形成され両端が切りっぱなし状に開放されている構成)を指すのか、一部に内壁を備える構成まで含むのか、不明確となった。
また、被請求人が示すような解釈論を採用しても、幅方向のすべてに内壁が存在するような保持部は当該発明特定事項に含まれないから、内壁の長さや範囲によって、上記発明特定事項に含まれるか含まれないかが峻別されることになるが、本件特許公報には、係る峻別の基準は一切説明されていないから、一部に内壁を有する保持部が上記発明特定事項に含まれるか否かが不明確となる。
さらに、保持部の一部の内側に壁がある構成では、被請求人が甲7号証において主張した作用効果を奏しないこともあり得るから、当該発明特定事項の技術的意義が不明確となる。
(審判請求書32ページないし33ページの「エ 明確性要件違反について」を参照。)

イ 被請求人は、本件発明1が腕を対象とした保持部の構成を示しており、明細書【0038】からも構成要件Fは明確である旨述べる。
しかしながら、被請求人の構成要件Fの解釈により、本件特許公報の図2などで開示されている保持部の幅方向のどの切断面においても被施療者が腕を挿入する口を有する構成(開口が長手方向の全長にわたって形成され両端が切りっぱなし状に開放されている構成)だけでなく、掌部分や手首部分に内壁が存在する保持部も含む態様をも含みうることとなり、甲7号証の早期審査に関する事情説明書との齟齬も含め第三者が不測の不利益を被るおそれがある。
したがって、構成要件Fは、開口が上腕、前腕、手まで形成されているのか、上腕、前腕までに留まっているのか、発明を特定するための外延が不明瞭であるから不明確である。
(請求人の口頭審理陳述要領書12ページの「(9)構成要件F「前記保持部は、その幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口が形成されているとともに、その内面に互いに対向する部分を有し、」に関する不明確性について(侵害訴訟における被請求人の主張も踏まえた無効理由について)」を参照。)

ウ 本件無効審判事件に係る審決取消訴訟において、本件発明の作用効果は、「一対の保持部について、開口を横向きとし、互いに対向するように配設したものであるから、腕部を横方向に移動させることで、保持部内に腕部を挿入し、引き出すことが可能であり、保持部内に腕部を位置させた状態で内側に曲げることができ、肘掛け部の上面に一対の保持壁を備える引用発明とは異なり、保持壁に拘束されずに、腕部(肘など)を載せることができる、といった作用効果を奏すると認められる。」と認定されたところ、保持部に内壁が存在する構成では奏し得ないものであって、上記審決取消訴訟の本件発明の作用効果に係る判旨部分は、構成要件Fについて、保持部に内壁が存在する構成は含まないことを前提としたものといえる。
また、特許請求の範囲の記載によっては発明の作用効果を奏し得ない構成を含むこととなる場合当該発明は外延が不明確となり明確性要件を欠くところ、構成要件Fの記載では「幅方向に切断して見た断面」が保持部のどの部分を幅方向に切断したものを指すのか判然としないため、腕部を横方向に移動させることで、保持部内に腕部を挿入し、引き出すこと等ができない構成のものまで構成要件Fに含まれるかのように解釈する余地を生むことになるから、外延が不明確であり明確性要件を欠くことになる。
(請求人の令和2年5月27日付け上申書を参照。)

4 無効理由4(進歩性欠如)
(1)本件発明1について
(審判請求書50ページないし54ページの「(ア)本件発明1と甲9発明との対比」参照。)
ア 一致点及び相違点
(ア)一致点
本件発明1は、甲9号証に記載された発明(以下、「甲9発明」という。同様に、甲10号証などに記載された発明を「甲10発明」などという。)と、本件発明1の構成要件AないしG、及びIで一致する。
(イ)相違点1
甲9発明は、構成要件Hを備えない点で本件発明1と相違する。

イ 相違点1の容易想到性
(ア)構成要件Hは甲10号証ないし甲13号証に開示されているように周知技術(周知技術A)であるから、本件発明1は、甲9発明に周知技術Aを適用して、当業者が容易に想到したものである。
(イ)構成要件Hは甲13号証に記載されており、本件発明1は、甲9発明に甲13発明を適用して、当業者が容易に想到したものである。
(ウ)構成要件Hは設計事項に過ぎないので、本件発明1は、甲9発明に基づいて、当業者が容易に想到したものである。

ウ 甲7号証に記載された作用効果について
そもそも発明は先願主義のもと出願時における開示の代償として与えられるものであり、出願後の早期審査における事情説明書等の内容は原則として考慮されるべきではない。
本件明細書には、開口を横向きに対向するようにしたことの技術的意義について何らの説明もないのみならず、かえって当初明細書等には、実施例として上向き、斜め上向き、横向き等のものが同等に並べて図示されており(図13、段落0100)、被請求人自身も、上向きのものも横向きのものも出願当初から技術的意味において全く差がないものと認識していたことが明らかであ」り、単に略C字状の断面形状を有するというデザインとしての意義しかないのであるから、被請求人は当初明細書等に対する拒絶理由通知を機として分割出願時において拒絶理由通知にて指摘されている引用例との間に出願当初は想定しておらず明細書を全体としてみれば開示されているとはいえない効果を事後的に早期審査に関する事情説明書(甲7)にて説明しているに過ぎない。
仮に、被請求人が述べるように、「たとえ、当初明細書等に記載がなくても、薬や化学等の分野ではなく、本件発明1のような構造に関する発明の場合、当業者は明細書、図面等に基づいて構造を想起することができ、その効果も想起することができる。」(審判事件答弁書53頁)として、早期審査に関する事情説明書(甲7)を見たとしても、早期審査に関する事情説明書(甲7)において述べている作用効果aないしcは、審判請求書51頁ないし52頁で述べたとおり、従来技術と技術上差がないものにすぎず、本件発明1が容易に想到し得るものであることは明らかである。
(請求人の口頭審理陳述要領書12ページないし14ページの「まる1(○(まる)の中に数字、以下同様。)早期審査に関する事情説明書に記載された作用効果を参酌すべきないこと」を参照。)

エ 引用文献としての適格性について
(ア)甲13号証
被請求人は、答弁書において、パッド31は肘掛け23に配設されていないと主張するが、甲13号証の図1Cからみて、パッド31は肘掛け23に固定されており、配設されていることは明らかである。また、パッド31はストラップ又は固定手段を有することなく上肢を合致させて施療することができるものであることからも肘掛け23に固定されていることは明らか。
また、被請求人は、答弁書において、甲13発明はマッサージ機に関する発明でないと主張するが、甲13発明はパルス電磁場で施療する装置であり、甲9発明と甲13発明とは医療用具である点で技術分野を共通にするだけでなく、磁気治療器には血行促進等のマッサージ効果があることから、甲9発明と甲13発明とは効能でも共通性を有する。
(請求人の口頭審理陳述要領書15ページないし17ページの「まる3甲13の引用文献としての適格性について」を参照。)

(イ)甲10号証
「開口同士が互いに対向している」という部分のみを技術として抽出しているのではなく、甲10号証において、腕を施療し得る図2のような施療箇所を覆う箇所が互いに対向して真横に開口しているという技術思想により構成要件Hが開示されているので、甲10は引用文献として適格である。
(請求人の口頭審理陳述要領書17ページないし18ページの「まる4甲10の引用文献としての適格性について」を参照。)

(ウ)甲11号証
甲11号証には、着座する人体13に向かって互いに対向するように開口している腕置き16が開示されており、甲9発明に適用しても使用者の腕を挟み込んで圧迫して施療することは可能であるので、甲11は引用文献として適格がある。
(請求人の口頭審理陳述要領書18ページないし19ページの「まる5甲11の引用文献としての適格性について」を参照。)

(エ)甲12号証
甲12号証は、マッサージ機構(しかも椅子型のマッサージ機とほぼ同様のものと見られるもの)であり、甲12号証は周知技術の引用文献として適格性がある。
(請求人の口頭審理陳述要領書19ページないし20ページの「まる6甲12の引用文献としての適格性について」を参照。)

オ 本件発明1の作用効果について
被請求人が甲7号証において述べているようなaからcにおける3つの作用効果は、当業者が当然推論し得る程度の効果に過ぎず、進歩性が肯定される方向に働く要素でないことを自認するものである。
(請求人の上申書3ページないし4ページの「(1)本件発明1の作用効果について」を参照。)

カ 課題の事後創出について
出願当初の明細書等に記載されていない甲7号証において述べた作用効果から課題を事後的に創出可能であるとする被請求人の主張は、発明の保護に極めて偏重し、第三者との公平性に欠け、第三者に不測の不利益を及ぼすおそれがある。
(請求人の上申書4ページないし5ページの「まる1課題の事後的創出について」を参照。)

キ 本件発明の解決の課題の設定・着眼がユニークであるか否かについて
当該事件において、解決の課題の設定・着眼がユニークであるか否かはあくまで出願当初の明細書に記載された内容に基づいていることが理解できるのであって、被請求人が述べる審査経過において初めて言及した作用効果から事後的に創出した課題までも含みうることまでは何ら示されておらず、被請求人の主張は当該事件の判例の射程を曲解したものに過ぎない。
被請求人の主張は妥当性に欠けるものであり、また、本件特許における出願当初の明細書に記載された課題は当業者にはありふれた課題に過ぎず、解決の課題の設定・着眼がユニークであったとは言えない。
(請求人の上申書5ページないし8ページの「まる2平成22年(行ケ)第10075号審決取消請求事件について」を参照。)

(2)本件発明2について
(審判請求書54ページないし55ページの「(イ)本件発明2と甲9発明との対比」を参照。)
ア 一致点及び相違点
(ア)一致点
本件発明2は、甲9発明と、構成要件Kで一致する。
(イ)相違点2
甲9発明は、構成要件Jを備えない点で本件発明2と相違する。

イ 相違点2の容易想到性
(ア)構成要件Jは甲10号証及び甲13号証に開示されているように周知技術(周知技術B)であるから、上記相違点2に係る本件発明2の構成は、甲9発明に周知技術Bを適用して容易に想到したものである。
(イ)構成要件Jは設計事項に過ぎないので、上記相違点2に係る本件発明2の構成は、甲9発明に基づいて当業者が容易に想到したものである。

ウ 本件発明2が甲9発明の設計事項であることの補足
本件発明1及び2は、肘掛けを有する椅子を基本とした椅子型のマッサージ機において、その肘掛けに設けた腕保持部に腕を置く際の腕の通常の動き(上方からの移動だけでなく、側方(横)からの移動。)に合わせて開口を設けただけのものにすぎず、当業者が当然に想起するものにすぎない。また、開口を横向きにしたとしても格別の技術的意義を生ずるものでもない。また、開口の向きを縦から横ないし真横に変更するにあたって何らこれを阻害する事情もない。
したがって、甲9発明のU字状の凹部25を上向きから内側横向きに変えて「前記開口が横を向き、且つ前記開口同士が互いに対向するように配設されている」ように変更すること、さらには「開口が真横に向いている」ように変更することは、単なる設計事項であり、本件発明1及び2は甲9発明に基づいて当業者が容易に想到し得ることにすぎない。
(請求人の口頭審理陳述要領書20ページないし21ページの「(2)本件発明2について」を参照。)

(3)本件発明3について
(審判請求書55ページないし57ページの「(ウ)本件発明3と甲9発明との対比」を参照。)
ア 一致点及び相違点
(ア)一致点
本件発明3は、甲9発明と、構成要件Mで一致する。
(イ)相違点3
甲9発明は、構成要件Lを備えない点で本件発明3と相違する。

イ 相違点3の容易想到性
(ア)構成要件Lは甲9号証に開示されている又は設計事項に過ぎないので、上記相違点3に係る本件発明3の構成は、甲9発明に基づいて、当業者が容易に想到したものである。
(イ)構成要件Lは甲14号証ないし甲16号証に開示されているように周知技術(周知技術C)であるので、上記相違点3に係る本件発明3の構成は、甲9発明に周知技術Cを適用して、当業者が容易に想到したものである。

ウ 甲14号証ないし甲16号証の引用適格性
甲14号証ないし甲16号証には保持部が「被施療者の前腕と手首又は掌を保持可能であること」について開示されているので、甲14号証ないし甲16号証は引用文献として適格である。
(請求人の口頭審理陳述要領書21ページないし22ページの「(3)本件発明3について まる1」を参照。)

エ 構成要件Lが甲9発明の設計事項であることの補足
施療対象を広げることによってマッサージ効果を高めることは椅子型マッサージ機において自明かつ周知の課題であり、前腕を保持する保持部を延ばして手首又は掌をマッサージできるようにすることは当業者が当然に想起することにすぎない。また、前腕と手首又は掌とは、人体として連続しているところ、上記したとおり、保持部がこれらを覆う程度の長ささえあれば「被施療者の前腕と手首又は掌を保持可能」となるのであるから、構成要件Lは、保持部をどの程度の長さにするかといった単なる設計事項であり、さらに、仮に甲9発明の保持部が手首等を含まない前腕のみを保持することを想定したものであっても、使用者が若干腕を後にずらせば、「前腕と手首又は掌を保持可能」となり得るのであるから、本件発明3の発明特定事項は甲14ないし甲16を持ち出すまでもなく、進歩性がない技術事項である。
(請求人の口頭審理陳述要領書22ページないし23ページの「(3)本件発明3について まる2」を参照。)

(4)本件発明4について
(審判請求書57ページないし59ページの「(エ)本件発明4と甲9発明との対比」を参照。)
ア 一致点及び相違点
(ア)一致点
本件発明4は、甲9発明と、構成要件Oで一致する。
(イ)相違点4
甲9発明は、構成要件Nを備えない点で本件発明4と相違する。

イ 相違点4の容易想到性
(ア)構成要件Nは甲17号証ないし甲20号証に開示されているように周知技術(周知技術D)であるので、上記相違点4に係る本件発明4の構成は、甲9発明に周知技術Dを適用して、当業者が容易に想到したものである。
(イ)構成要件Nは甲17号証ないし甲20号証それぞれに開示されているので、上記相違点4に係る本件発明4の構成は、甲9発明に甲17発明ないし甲20発明を適用して、当業者が容易に想到したものである。

ウ 甲17号証及び甲20号証が「脚用」ないし「下肢用」であり腕用マッサージ機ではないから周知技術である根拠とするに乏しいとの旨の見解に対して
脚も腕も身体から突出した棒状の身体構成要素である点で性状を同じくしており脚用の空気袋の技術は腕用の空気袋に適用され得るものであり、脚用の空気袋の技術を腕用の空気袋に適用することは当業者が当然に考える常套手段である。このような技術状況において甲17号証等を見た場合に、当業者は甲17号証等に示された脚用の技術が腕用に適用できること(甲17号証等に示された個別の技術について腕用に適用できない事情もないこと)を当然に理解するのであり、甲17号証等は、構成要件Nが腕用マッサージ機の技術分野において、周知技術である十分な根拠と成り得る。
(請求人の口頭審理陳述要領書24ページの「まる2」を参照。)

エ 甲9発明に甲17発明ないし甲20発明をそれぞれ個別に適用することとの因果関係について
甲18発明及び甲19発明は、(椅子型マッサージ機にも装着される)腕用の空気式マッサージ器であり(甲18号証の【0013】、【0014】等、甲19号証の【0015】、【0016】等)、同じく(椅子型マッサージ機の)腕用の空気袋を備える甲9発明に適用する動機づけがあることは明らかである。
甲17発明及び甲20発明は、脚用又は下肢用のマッサージ機であるが、前記のとおり、脚用の空気袋の技術を腕用の空気袋に適用することは常套手段であるから甲9発明に適用する動機づけがある。また、甲9発明には脚用の空気袋と同様の空気袋が腕用に設けられているから、脚用の空気袋の技術を腕用に適用すべき示唆があり、より強い動機づけがある。
マッサージの対象が外側へ追い出されることを防ぐという課題は対向する部分に空気袋を設けて棒状の対象を挟み込んでマッサージする脚用及び腕用の空気袋一般に妥当するものであることは自明であるから甲17発明を甲9発明に適用する動機づけがある。甲18発明及び甲19発明についても同様である。
(請求人の口頭審理陳述要領書24ページないし26ページの「まる3」を参照。)

オ 本件発明4が甲9発明の設計事項であることの補足
本件発明4が特定する構成については、(そもそも本件当初明細書等に記載されていないことを措くとしても、)本件当初明細書等には技術的意義について一切の記載がなく、図示された空気袋の形状はせいぜい当業者が適宜選択し得る範囲のものと理解するほかなく、設計事項といえる。
(請求人の口頭審理陳述要領書26ページの「まる4」を参照。)

(5)本件発明5について
(審判請求書59ページないし62ページの「(オ)本件発明5と甲9発明との対比」を参照。)
ア 一致点及び相違点
(ア)一致点
本件発明5は、甲9発明と、構成要件Sで一致する。
(イ)相違点5
甲9発明は、構成要件PないしRを備えない点で本件発明5と相違する。

イ 相違点5の容易想到性
構成要件PないしRは甲21号証又は甲22号証に記載されているので、上記相違点5に係る本件発明5の構成は、甲9発明に甲21発明又は甲22発明を適用して、当業者が容易に想到したものである。

(6)本件発明6について
(審判請求書62ページないし65ページの「(カ)本件発明6と甲9発明との対比」参照。)

ア 一致点及び相違点
(ア)一致点
本件発明6は、甲9発明と、構成要件Uで一致する。
(イ)相違点6
甲9発明は、構成要件Tを備えない点で本件発明6と相違する。

イ 相違点6の容易想到性
(ア)構成要件Tは甲23号証ないし甲26号証に開示されているように周知技術(周知技術E)であるので、上記相違点6に係る本件発明6の構成は、甲9発明に周知技術Eを適用して、当業者が容易に想到したものである。
(イ)構成要件Tは設計事項に過ぎないので、上記相違点6に係る本件発明6の構成は、甲9発明に基づいて、当業者が容易に想到したものである。
(ウ)構成要件Tは甲23号証又は甲25号証に開示されているので、上記相違点6に係る本件発明6の構成は、甲9発明に甲23発明又は甲25発明を適用して、当業者が容易に想到したものである。

ウ 甲23号証ないし甲26号証で示される周知技術について
被請求人は、甲24号証には左右の同一箇所を独立して駆動させることは開示しておらず、また、甲25号証は椅子型のマッサージ機とは異なる旨主張するが、空気袋の独立駆動を特定している構成要件Tには左右の同一箇所であることについては特定されていないため必ずしも左右の同一箇所である必要性はなく、また、少なくとも甲24号証の「一の施療部と他の施療部とが交互に動作することもできる。」(【0013】参照)の記載から当業者は左右の同一箇所を独立して駆動させることを想起するはずである。また、甲25号証が椅子型のマッサージ機に装着したものを記載していないとしても、前記周知技術の根拠となることは明らかである上に、左右独立に駆動させる技術自体が椅子型のマッサージ機である甲9発明に適用できることは当然であるから、甲25を甲9発明に適用すべき動機づけがあることは明らかである。
(請求人の口頭審理陳述要領書28ページの「まる2」を参照。)

エ 本件発明6が甲9発明の設計事項であることの補足
複数部位を同時に施療するよりも別々に施療する方がその施療効果が高まることはマッサージ業界で常識として従来から行なわれてきたことで、本件発明は単に周知の方法を甲9発明の腕用空気袋に適用しただけであり、当業者が当然に考えることにすぎない。
また、甲9号証には、空気袋を膨張および収縮させることで被施療者の両腕を押圧して施療することが開示されているが、被施療者の両腕を空気袋により施療しているとき、左右両側の空気袋における膨張と収縮の態様については、(i)左右両側の空気袋がともに膨張している、(ii)左側の空気袋が膨張しており、右側の空気袋が収縮している、(iii)左側の空気袋が収縮しており、右側の空気袋が膨張している、(iv)左右両側の空気袋がともに収縮しているという4つの態様しか存在しないのであるから、施療者の腕を片腕毎に施療することは、当業者であれば格段の試行錯誤を経ずともたどり着く程度の技術思想である。
(請求人の口頭審理陳述要領書26ページないし28ページの「まる1」を参照。)

(7)まとめ
以上のように、本件発明は、進歩性の欠如によって無効とすべきである。

5 無効理由5(分割要件違反に伴う新規性及び進歩性欠如)
(審判請求書66ページないし67ページの「(4-6)分割要件違反を踏まえた新規性ないし進歩性の欠如」を参照。)
本件発明のうち、構成要件F、G、H、J、L及びNは、原出願に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内のものではないので、本件特許の出願は、特許法第44条第1項に規定する分割出願の要件を備えていない出願であるため、本件発明は、出願日の遡及の利益を受けることができない。その結果、本件発明は甲29発明と同一である、又は、本件発明1は、甲29発明、甲9発明ないし甲13発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到したものである、そして、本件発明2ないし6は、甲29発明、甲9発明ないし甲26発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到したものであるので、無効とすべきである。

第7 被請求人の主張の概要
1 無効理由1(新規事項の追加)に対する反論
(1)構成要件G及び【0010】
空気袋は、内面の互いに対向する部分を含め外殻部の内面の全体に設けられている。したがって内面の互いに対向する部分に空気袋が夫々設けられているものも、内面の互いに対向する部分のうち少なくとも一方の部分に空気袋が設けられているものも明細書等に形式的には記載されていない事項であったとしても、少なくとも一方の部分に設けられた空気袋によって被施療者の腕部を施療することを可能にすることは明らかである。当業者が明細書又は図面のすべての記載を総合することによって、当然に理解される事項である。
本件発明は、被施療者の腕部を施療することができないという課題(段落【0003】)から、空気袋によって被施療者の腕部を施療することを可能とした発明である(段落【0028】)。このような本件発明の課題と効果を踏えれば上記の補正によって付加された文言が新たな技術的事項を導入したなどとは到底言えない。
(答弁書8ページないし11ページの「イ 「イ 構成要件G及び明細書段落0010について」に関して」を参照。)

(2)構成要件H及び【0010】
補正の関係で事情説明書(甲7号証)に記載した説明が、当初明細書にそのままの文章で記載されていないことは、ままあることであり、形式的に当初明細書等の記載に基いたものではない等とは言えない。
マッサージ機の機械装置の分野の当業者が、図面を含め本件当初明細書等の全ての記載を総合して理解すれば、事情説明書(甲7号証)に記載した説明が、本件当初明細書等に記載した事項との関係において新たな技術的事項を導入するものでないことは明らかである。事情説明書(甲7号証)の内容は、本件当初明細書等に記載した事項を敷衍して説明された事項に過ぎない。それ故に補正が認められたのである。
保持部の形状として、形状aや形状cは意匠的な意味以上の技術的な意味は当初明細書等から何ら見出されないとする請求人主張は全く的を射ない一方的な主張に過ぎない。
構成要件Hは、形式的には当初明細書等には明記はされていないが、段落【0042】、【0072】、図1、5、7、8等から自明である。
また、請求人は、構成要件Hは、保持部の形状を規定するものと主張しているが、構成要件Hは開口の方向と一対の保持部の位置関係を規定するものであり、保持部の断面形状そのものを直接的に規定するものではない。そして、形状aと形状cの開口の方向と一対の保持部の位置関係は本件当初明細書等の図1、7から自明である。
よって、保持部の断面形状が形状aと形状c以外を包含してもそれは新規事項の追加ではない。
(答弁書11ページないし13ページの「ウ 「ウ 構成要件H及び明細書段落0010について」に関して」を参照。)

(3)構成要件J及び【0013】
図13(a)が、請求人は、真横ではない旨を主張するが、下図のとおり図13(a)の開口は真横を向いている。

図13(a)



開口方向が真横となる形状は、図13(a)のような略C字状のものに限らず、他の形状も幅広く包含することについては、構成要件Jは開口の方向と一対の保持部の位置関係を規定するものであり、保持部の断面形状は規定されていない。そして、形状aの開口の方向と一対の保持部の位置関係は当初図面の図1、7から自明である。
よって、保持部の断面形状が形状a以外を包含してもそれは新規事項の追加ではないことは前記のとおりである。
保持部の開口を真横とすることによって解決される技術的課題についても、事情説明書(甲7号証)に記載のとおりであり、当初明細書等に記載されていない新たな技術的事項を導入するものでないことも、「第7の1(2)」で説示したとおりである。
(答弁書13ページないし14ページの「エ 「エ 構成要件J及び明細書段落0013について」に関して」を参照。)

(4)構成要件L及び【0014】
請求人が引用する前記段落【0044】の文中には、「第2保持部分12の内面であって、被施療者の手首又は掌に相当する部分には、振動装置15が設けられている。この振動装置が振動することにより、被施療者の手首又は掌に刺激を与えることが可能となっている。なお、第2保持部分12のその他の構成は、第1保持部分の構成と略同様である」とあり(アンダーラインは被請求人が付記)、第2保持部分12は前腕から手首又は掌に至るまで延在している実施態様が記載されている。
したがって、明示的に記載されている事項であり、請求人の新規事項追加の主張は当たらない。
(答弁書14ページないし15ページの「オ 「オ 構成要件L及び明細書段落0014について」に関して」を参照。)

(5)構成要件N及び【0015】
請求人は、「図5、図8は、単に空気袋が設けられた保持部を図示するものに過ぎず、同図面によって空気袋の具体的な配置まで特定するものではない」として、「当初明細書等に触れた当業者において、開口側と奥側における空気袋の位置関係を認識することはない」と主張している。請求人の当該主張が、「保持部の長手方向における空気袋の位置が不明」のことを意味しているのであれば、図5に関しては図2を参照することにより、保持部の長手方向における空気袋の位置を理解することができる。また請求人の当該主張が、空気袋の「開口側の部分」と「奥側の部分」が、空気袋のどの部分を指すのかが不明である、という意味であれば、図5、図8より、保持部分における「開口側」とは図の左側で「奥側」とは右側であることが当然に理解される。空気袋は保持部分の外殻部に沿って内側に備えられているので、空気袋の「開口側の部分」とは図の左端に位置する部分であり、「奥側の部分」とは図の左端よりも右側に位置する部分である。いずれにせよ、構成要件Nは当初明細書等の記載から自明である。
また、構成要件Nの技術的課題が明示的に記載されていないことは、新規事項の追加の理由とはならない。
さらに、請求人が仮定的に主張するように、図5及び図8は空気袋11b、11c及び空気袋26b、26cが、開口側の端部にて高さが高くなるよう盛り上がる形状として示されていると読み取れ、それを本件発明4の構成要件Nに概念化した補正をしただけであり、新たな技術的事項を導入しているわけではない。
そして、請求人は、他の構成の態様が広く包含されるとして、「開口側の端部だけに限らず奥側の部分からその端部に至る途中の部分が奥側より相対的に盛り上がっている形状」を例示するが、構成要件Nの「空気袋は、開口側の部分の方が奥側の部分よりも立ち上がるように構成されていること」という表現からは、「開口側の部分の方」、即ち開口側の方が「奥側の部分」よりも立ち上がっていればよく、「立ち上がるように」を「盛り上がる」と表現し、「開口側の部分」を「開口側の端部」と限定される必要はなく、上記図5及び図8に示すとおり、空気袋(空気袋11b、11c、26b、26c)の開口側が、奥側より立ち上がるように構成されていれば足りる。このとき開口側と奥側の空気袋の形状や大きさによって、開口側の部分の方が奥側の部分よりも立ち上がるようになっていればよいのであり、どのように開口側の部分の方が奥側の部分よりも立ち上がった形状になるかまでは限定されるものではない。
換言すれば、構成要件Nは「開口側の端部」とは規定されていないので、請求人が例示する「開口側の端部だけに限らず奥側の部分からその端部に至る途中の部分が奥側より相対的に盛り上がっている形状をも含み得る表現にもなっている」構成は当然構成要件Nに含まれる。そしてこの形状は図5(空気袋11b、11c)、図8(空気袋26b、26c)にも開示されており、空気袋の奥側から開口側に向かうにつれ、奥側より相対的に盛り上がっている。
よって構成要件Nと段落【0015】は新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項の追加に当たらない。
(答弁書15ページないし18ページの「カ 「カ 構成要件N及び明細書段落0015について」に関して」を参照。)

(6)構成要件F
本件当初明細書(甲4号証、甲5号証)によれば、構成要件Fにおける「保持部」は、腕を対象(甲4号証の【0018】)にしており、構成要件Fが、掌部分や手首部分に内壁が存在するものを含んでいることは明らかで、新たな技術的事項を追加するものでないことは明らかである。
また、請求人は、掌部分及び手首部分に内壁が存在すれば、甲7号証に記載の作用効果を奏さないなどと主張するが、掌部分及び手首部分に内壁が存在したところで、肩を上げて後方から挿入しなければならないとはいえず、肩を上げなくとも、肘を後ろに動かし、腕を水平方向の移動によって保持部に挿入することができることは、明らかである。すなわち、掌部分及び手首部分に内壁が存在したとしても、甲7号証に記載された効果を奏する。
(答弁書26ページないし27ページの「ア 「イ 補正要件違反について」に関して」を参照。)

したがって、本件発明は、請求人の主張するような補正要件違反(特許法17条の2第3項)はなく、補正要件の不備により無効とされるべきものではない(特許法123条1項1号)。

2 無効理由2(サポート要件違反)に対する反論
(1)構成要件G
上記1(1)の主張を援用する。
(答弁書19ページの「イ 「イ 構成要件Gについて」に関して」を参照。)

(2)構成要件H
上記1(2)の主張を援用することに加えて、明細書【0007】、【0028】、【0032】から【0048】、【0071】から【0074】の記載から、マッサージ機を扱う当業者であれば、「本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、被施療者の腕部を施療することが可能なマッサージ機を提供することを目的とする。」(【0007】)という課題を解決するために、実施の形態1(【0037】、【0038】)及び実施の形態3(【0071】ないし【0074】)の解決手段を備え、「以上詳述した如く、本発明に係るマッサージ機によれば、空気袋によって被施療者の腕部を施療することが可能となる。」(【0028】)という効果を奏する発明を認識できるから、そのための構成として、構成要件Hの「各々の前記開口が横を向き」の構成を含む本件発明1の特許請求の範囲の構成を想定できる。そうであるから、その記載により当業者が本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、本件発明1の記載についてサポート要件の違反はない。本件発明は、マッサージ機の機械分野に関する発明であり、構成から作用効果の予想、困難性は低く、あえて換言すれば、構成要件Hは開口の方向と一対の保持部の位置関係を規定するものであり、保持部の断面形状は規定されておらず、構成要件Hは、被施療者が着座したときに被施療者の両方の腕部を一対の保持部の夫々に挿入しやすくするという技術的意義を有し、形状aと形状cから当業者は構成要件Hの技術的意義を認識するといえる。
(答弁書19ページないし21ページの「ウ 「ウ 構成要件Hについて」に関して」を参照。)

(3)構成要件J
上記1(3)の主張と同じく、構成要件Jの「前記開口が真横を向いている」の構成を含む本件発明2の特許請求の範囲の構成を当業者であれば十分に想定認識できるからその記載により当業者が本件発明2の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、本件発明2の記載についてサポート要件の違反はない。
(答弁書21ページないし22ページの「エ 「エ 構成要件Jについて」に関して」を参照。)

(4)構成要件L
上記1(4)の主張と同じく、構成要件Lの「被施療者の前腕と手首又は掌を保持可能であること」の構成を含む本件発明3の特許請求の範囲の構成は、前述したとおり請求項と共に明細書の説明から自明であり、当業者が本件発明3の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、本件発明3の記載についてサポート要件の違反はない。
(答弁書22ページないし23ページの「オ 「オ 構成要件Lについて」に関して」を参照。)

(5)構成要件N
上記1(5)の主張と同じく、構成要件Nの「空気袋は、開口側の部分の方が奥側の部分よりも立ち上がるように構成されていること」の構成を含む本件発明4の特許請求の範囲の構成は、新規事項を追加するものではないし、構成要件Nは「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えず、発明の詳細な説明記載により当業者が本件発明4の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、本件発明4の記載についてサポート要件の違反はない。
(答弁書23ページの「カ 「カ 構成要件Nについて」に関して」を参照。)

(6)構成要件F
本件発明1は、保持部に設けられた開口を介して腕の挿入及び引き出しを可能とするものであって、本件発明1の保持部の対象は腕であり、掌及び手首部を対象とする形状は問題となっていないことは明らかである。
発明の詳細な説明の【0038】には、「被施療者の上腕及び前腕を第1保持部分11及び第2保持部分12への夫々の開口部から挿入することが可能である。」旨記載されており、当業者は、保持部の開口は、前腕の挿入及び引き出しをするために設けられていることを容易に理解することができる。そうすると、本件発明1は、手首又は掌部をマッサージの対象とする構成に関しては何ら限定されておらず、本件発明1で対象とされている腕のマッサージ以外の箇所を理由としてサポート要件違反となることはない。
そもそも、腕をマッサージする保持部に腕より先の部分である手首又は掌部分を対象とするものを付加する形状として覆う形状を選択することはありふれた形状である。
したがって、保持部のうち、前腕より先である手首及び掌部の形状が、内壁を有している構成が構成要件Fに含まれることが、当業者の理解を超えることはない。
(答弁書27ページないし29ページの「イ 「ウ サポート要件違反について」に関して」を参照。)

したがって、本件発明は、請求人の主張するような発明の詳細な説明に記載されたものでないとのサポート要件不適合(特許法36条6項1号)はなく、記載要件の不備により無効とされるべきものではない(特許法123条1項4号)。

3 無効理由3(明確性要件違反)に対する反論
(1)構成要件G
構成要件Gにおける「前記内面」は、構成要件E及びFにおける「内面」を指していることは明らかであり。構成要件E及びFの「内面」は、保持部の内面であるところ、開口部分が存在する以上は、各保持部の開口部分以外の対向する面であることは明らかであり、不明確な点はない。
(答弁書24ページの「イ 「イ 構成要件Gについて」に関して」を参照。)

(2)構成要件L
【0044】の記載とともに、図2、図5乃至図10からも、手首又は掌の保持がどのような態様で出来るかは明確である。
いずれも各構成要件との関係を示しつつ被施療者の腕部を部分的に覆って保持し、幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口が形成され、その内面に互いに対向する部分を有しているなど明確に特定されており、これらの記載によれば、当業者は、保持可能の意味を理解することができる。さらに明細書の記載を考慮すれば、より明白である。
請求人は、どのような事象が保持可能か特定できないとか、保持可能の保持部の具体的な構成が何ら規定されていないので、「発明の範囲」が明確であるとはいえないというようである。しかし、そのような請求人主張には理由がない。
(答弁書24ページないし26ページの「ウ 「ウ 構成要件Lについて」に関して」を参照。)

(3)構成要件F
本件発明1は、腕を対象とした保持部の構成を示しており、被施療者の腕の挿入及び引き出しを容易にするように開口が横を向いているというものであることは、明細書から明らかである。
そして、腕の挿入及び引き出しを容易にする開口が横向きに形成されていればよいことは、明確であり、明細書【0038】の記載からも容易に理解でき、第三者が不測の不利益を受けるほど不明確な点はない。
(答弁書29ページの「ウ 「エ 明確性要件違反について」に関して」を参照。)

したがって、本件発明は、請求人の主張するような明確性要件不適合(特許法36条6項2号)はなく、記載要件の不備により無効とされるべきものではない(特許法123条1項4号)。

4 無効理由4(進歩性の欠如)に対する反論
(答弁書30ページないし64ページの「(6)「(4-5」進歩性の欠如について」を参照。)
(1)被請求人が主張する本件発明と甲9発明の一致点及び相違点について
本件発明1ないし本件発明6と甲9発明の一致点及び相違点については、請求人の主張のとおり認める。

(2)請求人が主張する上記「第6の4(2)本件発明1について」の「イ相違点1の容易想到性(ア)ないし(ウ)」について
ア 甲10号証ないし甲13号証に開示された発明は本件発明1とは技術分野の異なる発明であり周知技術であるとはいえず、仮に周知技術だったとして、これを甲9発明に適用しても、当業者が相違点1にかかる構成要件Hを有する本件発明1に想到できるものではない。
また、請求人の甲13号証の認定は誤りであるので、甲9発明に甲13発明を適用しても、当業者が相違点1にかかる構成要件Hを有する本件発明1に想到できるものではない。
さらに、構成要件Hは設計事項でないため、甲9発明に基づいて、当業者が相違点1にかかる構成要件Hを有する本件発明1に想到できるものではない。
(答弁書30ページないし55ページの「(6)-2-1「(ア)本件発明1と甲9発明との対比」について」を参照。)

イ 腕を対向する二面の間に保持して保持部の内面に設けられた空気袋でマッサージする椅子型のマッサージ機の場合、甲9発明のような「腕を両側から挟むようにU字状の凹部を形成する保持壁部」を備えているとすると、当業者は「U字状の凹部を形成する保持壁部に収まった前腕はその位置にしか安定的に保持できず、腕のマッサージをしていないときに腕の位置が拘束されてしまう」という課題は、本件特許の原出願日前には認識されておらず、また、当業者が容易に着想し得る課題ではなかった。
また、請求人は、本件発明1の構成要件Hの構成は甲9発明に基づいて容易想到であると主張しているが、たとえ、課題解決のために構成要件Hを採用することが容易であったとしても、構成要件Hに想到するような課題は、本件特許の原出願日前には認識されておらず、また、当業者が容易に着想し得る課題ではなかったので、解決課題の設定・着眼がユニークであったと言える。
(被請求人の口頭審理陳述要領書6ページないし8ページの「(2)進歩性について」を参照。)

ウ 上記イの主張の補強
乙1号証ないし乙3号証からみてわかるとおり、構成要件Hについての課題が示され、解決手段を発明とした出願がされているのは、本件発明の原出願(特願2002-118191号)が公開された日以降である。そして、本件発明の原出願より前に、施療機構が凹型の保持部であって、その開口が上方を向いている施療機構に対する課題を当業者が認識していた証拠もない。
また、甲10?13発明は、「一対の保持部の開口部の方向が、各々横を向き、且つ開口同士が互いに対向する」という文字面にあった号証を列挙しているだけなので、課題を無視して甲9発明に対して適用する周知技術を認定することもできず、周知技術の適用の論理付けもできない。
(被請求人の口頭審理陳述要領書(2)4ページないし9ページの「第1.審理事項通知書「第2.(2)」に対する回答」を参照。)

エ 請求人上申書「6.(2)進歩性について」に関する主張に対して
知財高判平成24年1月31日 平成23年(行ケ)第10121号審決取消請求事件及び知財高判平成22年5月27日 平成21年(行ケ)第10361号審決取消請求事件を踏まえると、明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されているところが、出願時の従来技術に照らして客観的に見て不十分な場合には、明細書に記載されていない従来技術も参酌して、当該特許発明の従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が認定されるべきである。そして、この特徴的部分から、従来技術に対する当該特許発明の課題を考えることになる。
したがって、本件発明1の課題は、上記イ及びウのとおり、従来技術である甲9発明に対する本件発明1の課題が認定されるべきである。そして、上記イ及びウのとおり、このような課題は、本件特許の原出願日よりも前に当業者に認識されていなかった。
請求人は、上記第6の4(2)ウのとおり主張するが、請求人の当該主張は、甲9発明の具体的な記載から離れて、抽象化、一般化ないし上位概念化した肘掛けを有する椅子という「基本となる椅子」を持ち出した上で、「保持部の開口の向き」を甲9発明の上向きから本件発明1の内側横向きに変更することが設計事項であるとするものであり、甲9発明の具体的な記載に基づいたものではなく認められるべきではない。
(被請求人の上申書4ページないし11ページの「請求人上申書「6.(2)進歩性について」に関する主張に対し」を参照。)

オ 請求人口頭陳述要領書「6.第2 3(1)まる3甲13の引用文献としての適格性について」に関する主張に対して
「resting on」の解釈について、パッド35が床に「置かれている」以上、同じ一文の中にあるパッド31も肘掛け23(椅子21)に「置かれている」ことになる。請求人の「パッド31は肘掛け23に固定されている」とする主張は、パッド35との関係を無視した矛盾を含む主張である。
(被請求人の上申書11ページないし12ページの「請求人要領書「6.第2 3(1)まる3甲13の引用文献としての適格性について」に関する主張に対し」を参照。)

(3)請求人が主張する上記「第6の4(3)本件発明2について」の「イ相違点2の容易想到性(ア)及び(イ)」について
上記(2)のとおり、本件発明1が、甲9発明及び甲10発明ないし甲13発明の組み合わせに対して進歩性を有しているのと同様に、本件発明2は進歩性を有している。
(答弁書55ページないし56ページの「(6)-2-2「(イ)本件発明2と甲9発明との対比」について」を参照。)

(4)請求人が主張する上記「第6の4(4)本件発明3について」の「イ相違点3の容易想到性(ア)及び(イ)」について
甲14発明ないし甲16発明は、甲9発明とは構成が全く異なるため、そもそも、当業者は、甲9発明に甲14発明ないし甲16発明の適用を試みない。よって、本件発明3は、甲9発明、甲14発明ないし甲16発明により当業者が容易に想到することができる発明ではない。
さらに、本件発明1が、甲9発明及び甲10発明ないし甲13発明の組み合わせに対して進歩性を有しているのと同様に、本件発明3は進歩性を有している。
(答弁書56ページないし58ページの「(6)-2-3「(ウ)本件発明3と甲9発明との対比」について」を参照。)

(5)請求人が主張する上記「第6の4(5)本件発明4について」の「イ相違点4の容易想到性(ア)及び(イ)」について
甲20発明と本件発明4とは、空気袋の立ち上がり方向が開口側と奥側とで逆である。
また、構成要件Nは甲20発明に対する最適材料の選択、数値範囲の最適化又は好適化、均等物による置換、技術の具体的適用に伴う設計変更や設計的事項の採用のいずれにも該当しないので、設計事項ではない。
さらに、本件発明1が、甲9発明及び甲10発明ないし甲13発明の組み合わせに対して進歩性を有しているのと同様に、本件発明4は進歩性を有している。
(答弁書58ページないし59ページの「(6)-2-4「(エ)本件発明4と甲9発明との対比」について」を参照。)

(6)請求人が主張する上記「第6の4(6)本件発明5について」の「イ相違点5の容易想到性」について
甲21発明には、構成要件Qの「カバー部」についての教示も示唆もない。そして、突出部35、36が構成要件Qの「カバー部」でない以上、それを前提にした構成要件Rの「空気袋」も甲21には開示されていない。
さらに、本件発明1が、甲9発明及び甲10発明ないし甲13発明の組み合わせに対して進歩性を有しているのと同様に、本件発明5は進歩性を有している。
(答弁書59ページないし61ページの「(6)-2-5「(オ)本件発明5と甲9発明との対比」について」を参照。)

(7)請求人が主張する上記「第6の4(7)本件発明6について」の「イ相違点6の容易想到性(ア)ないし(ウ)」について
甲24号証には左右の同一箇所を独立して駆動させることについては開示も示唆もなく、甲25号証には椅子型マッサージ機とは異なる上着状の装着部材が開示されているに過ぎない。甲6発明は、甲9発明に、甲10号証ないし甲13号証、甲24号証、甲25号証に記載の技術を適用することにより当業者容易に想到することができる発明ではない。
さらに、本件発明1が、甲9発明及び甲10発明ないし甲13発明の組み合わせに対して進歩性を有しているのと同様に、本件発明6は進歩性を有している。
(答弁書61ページないし64ページの「(6)-2-6「(カ)本件発明6と甲9発明との対比」について」参照。)

したがって、本件発明は、請求人が主張するような甲9号証ないし甲26号証に記載された発明ないし周知技術等に基づいて進歩性を欠く(特許法29条2項)というような発明ではなく、進歩性を欠くものとして無効とされるべきものではない(特許法123条1項2号)。

5 無効理由5(分割要件違反に伴う新規性及び進歩性欠如)に対する反論
上記1のとおり、本件発明及び本件特許明細書において、新規事項追加の禁止に触れる補正の要件違反はない。よって、本件発明が、原出願の公開公報に記載された発明に基づいて新規性ないし進歩性が欠如しているとの請求人の主張は妥当ではない。
(答弁書64ページの「(7)「(4-6)分割要件違反を踏まえた新規性ないし進歩性の欠如」に関して」参照。)

したがって、本件発明は、分割要件に適合しているし、請求人が主張するような甲29号証に記載の発明と同一であるか、少なくとも甲29号証に記載の発明、甲9号証ないし甲13号証に記載された発明ないし周知技術に基づいて新規性ないし進歩性を欠く(特許法29条1項3号又は2項)ものとして無効とされるべきものでもない(同法123条1項2号)。

第8 当合議体の判断
1 本件発明の技術的課題と効果について
本件特許明細書の【0003】の「しかしながら、上述した如き従来のマッサージ機にあっては、肘掛け部104に例えばバイブレータ等の施療装置が設けられていないことが多く、被施療者の腕部を施療することができないという問題があった。」、【0007】の「本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、被施療者の腕部を施療することが可能なマッサージ機を提供することを目的とする。」との記載及び本件発明の構成からみて、本件発明の技術的課題は、椅子型マッサージ機において、被施療者が座部に座った状態で、被施療者の腕部を空気袋によって施療することにあるといえる。 また、【0028】の「本発明に係るマッサージ機によれば、空気袋によって被施療者の腕部を施療することが可能となる。」との記載からみて、本件発明の効果は、椅子型マッサージ機において、空気袋によって被施療者の腕部を施療することを可能とすることにあるといえる。
そして、本件当初明細書等の【0003】及び【0007】にも同様の記載があることから、本件発明の上記の技術的課題及び効果は、本件特許の出願当初から存在したものであるといえる。

2 無効理由1(新規事項の追加)について
(1)構成要件G及び【0010】
構成要件G及び【0010】の「前記空気袋は、前記内面の互いに対向する部分のうち少なくとも一方の部分に設けられ」との事項(以下、「事項G」という。)について検討する。
事項Gは、平成24年3月21日に甲2号証による手続補正により、請求項1及び【0010】に追加されたものである。
上記1のとおり、本件当初明細書等では、椅子型マッサージ機において、被施療者が座部に座った状態で、被施療者の腕部を空気袋によって施療することを本件発明の技術的課題としている。ここで、「施療」とは、本件当初明細書等の【0042】、【0044】、【0072】等に記載されるように、空気袋が膨張・収縮することによって被施療者の腕部に圧迫刺激を与え、それを解放するとともに、当該空気袋とは異なる空気袋が膨張・収縮することによって刺激の強さを調整するものであるといえる。
そうすると、本件発明の「被施療者の腕部を部分的に覆って保持する一対の保持部」(構成要件D)及び「保持部の内面に設けられる膨張及び収縮可能な空気袋」(構成要件E)、又は、本件当初明細書等の【0010】の「被施療者の腕部を保持する保持部と、該保持部に設けられ、被施療者の腕部を施療する施療部とを備える」について、その構成を如何に限定したとしても、上記技術的課題を解決するものであれば、つまり、空気袋が膨張・収縮することで被施療者の腕部を施療するものであれば、本件発明の技術的意義を変更又は追加するものであるということはできず、新たな技術的事項を導入するものであるとはいえない。
そこで、本件発明の事項Gについてみると、「少なくとも一方」との記載から、事項Gは、「前記空気袋は、前記内面の互いに対向する部分のうち両方の部分に設けられ」(以下、「事項G1」という。)及び「前記空気袋は、前記内面の互いに対向する部分のうち一方の部分にのみ設けられ」(以下、「事項G2」という。)のいずれをも含むものであるといえる。
事項G1で特定される本件発明は、空気袋が保持部の内面の互いに対向する部分のうち両方の部分に設けられていることから、被施療者の腕部は当該空気袋に当該両方の部分で接することとなり、当該空気袋が膨張・収縮することで被施療者の腕部を施療するものであるといえる。
また、事項G2で特定される本件発明は、空気袋が保持部の内面の互いに対向する部分の一方にのみ設けられてはいるが、被施療者の腕部は空気袋と保持部(外殻部)の内面に接することとなり、作用反作用の物理法則を踏まえれば、腕部は空気袋から受けた力とともに保持部(外殻部)の内面からも同じ大きさの力を受けることになることから、空気袋が膨張・収縮することで被施療者の腕部を施療するものであるといえる。
以上のとおり、事項G1も事項G2も新たな技術的事項を導入するものではない、つまり、事項G1及び事項G2のいずれをも含む事項Gは、新たな技術的事項を導入するものではなく、本件当初明細書等の発明の詳細な説明及び図面に記載されていたといえる。
してみれば、事項Gに係る本件補正は、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。

請求人は、上記第6の1(1)のとおり、事項G2は、出願時の技術常識を示す文献である甲9号証及び甲16号証などには開示されておらず、技術常識であったとはいえないと主張する。
しかしながら、事項G2は、本件当初明細書等の記載から自明な事項であるといえるので、甲9号証及び甲16号証などに技術常識として開示されている必要はない。
よって、被請求人の主張は採用できない。

(2)構成要件H及び【0010】
構成要件H及び【0010】の「前記一対の保持部は、各々の前記開口が横を向き、且つ前記開口同士が互いに対向するように配設されている」との事項(以下、「事項H」という。)について検討する。
事項Hは、平成24年3月21日に甲2号証による手続補正により、請求項1及び【0010】に追加されたものである。
本件当初明細書等の発明の詳細な説明の【0036】には、「座部5の両側方には、略前後方向へ延びたガイドレール9が設けられている。このガイドレール9には、夫々被施療者の腕部を保持するための保持部10が係合している。」と、【0037】には、「保持部10は、被施療者の上腕を保持するための第1保持部分11と、被施療者の前腕を保持するための第2保持部分12とから主として構成されている。」と、【0038】には、「被施療者の上腕及び前腕を第1保持部分11及び第2保持部分12へ夫々の開口部から挿入することが可能である。」と、そして、【0042】には、「図5に示すように、第1保持部分11は、比較的硬度が高い材料からなり、略C字状の断面形状を有する略半円筒形状の外殻部11aを備えている。」と記載されている。
上記2(1)における本件当初明細書等の記載及び上記【0036】、【0037】、【0038】及び【0042】の記載を総合すると、一対の保持部は、その内面に互いに対向する部分を有しており、座部の両側に配設されており、腕を挿入するための開口部を有していることが記載されているといえる。
また、【0101】には、「図13(b)は、保持部の形状を、幅方向の断面視において略L字状とした場合について説明する断面図である。図13(c)は、保持部の形状を、幅方向の断面視において所定角度だけ傾斜させた略チャネル状とした場合について説明する断面図である。図13(d)は、保持部の形状が幅方向の断面視において略L字状となっており、しかも保持部がその角部において屈曲されることが可能な構成について説明する断面図である。また、図13(e)は、保持部の形状を、幅方向の断面視において上方が開口する略チャネル状とした場合について説明する断面図である。」と記載されている。
これらの記載を総合すると、【図13】(a)のものは、保持部の開口が真横を向いており、また、【図13】(c)のものは、保持部の開口が所定角度だけ傾斜した横を向いているということができる。これらの開口の向きは、いずれも横向きとして総合して表現できると解するのが妥当である。なお、本件発明を示す図は、【図13】(a)及び(c)であり、【図13】(b)、(d)及び(e)は参考例である(甲6号証を参照)。

ここで、上記1のとおり、被施療者が座部に座った状態で腕部を空気袋によって施療するという本件発明の技術的課題を踏まえれば、被施療者が座った状態で腕部を保持部に挿入できるように、「略C字状」または「所定角度だけ傾斜させた略チャネル状」である保持部の開口部はいずれも被施療者の方向を向いていることは技術常識からみて当然であるといえる。
してみると、被施療者の左右それぞれに配設された保持部の開口部同士は、被施療者を介して互いに向き合うよう配設されていることは、技術常識からみて明らかである。
そして、本件当初明細書等の【図1】、【図5】、【図7】及び【図8】には、保持部は、略C形状の断面形状を有し各々の開口が横を向いている点が、さらに、本件当初明細書等の【図1】及び【図7】には、保持部は、開口同士が互いに対向するよう配設されている点が、それぞれ開示されている。

以上のとおり、事項Hは、本件当初明細書等の発明の詳細な説明及び図面に記載されていたといえる。
してみれば、事項Hに係る本件補正は、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。

請求人は、上記第6の1(2)のとおり、開口が横を向いてさえいれば、例えば所定角度を傾斜させない五角形や六角形等の多角形状や、所定角度傾斜させない略チャネル状などまで広く包含するものであるが、当初明細書等の【0042】、【0100】、【0101】及び【図13】の記載を踏まえても、当初明細書等に記載された保持部の形状は、略C字状の断面形状(形状a)又は略チャネル上(形状c)を有するにとどまると主張する。
しかしながら、【0100】には、「被施療者の腕部を保持する保持部を、【図13】(a)で示すような、幅方向に切断したときの断面視において略C字状の半円筒形状をなしているものとしたが、これに限定されるものではなく、【図13】(b)?(e)に夫々示すような形状としてもよい。」と記載されており、保持部の断面形状は【図13】(a)及び(c)に限定されるものではなく、また、そもそも、発明の詳細な説明において、腕保持部の断面形状として想定し得る形状をすべて記載しなければならないわけではない。
よって、請求人の主張は採用できない。

さらに、請求人は、上記第6の1(2)のとおり、被請求人が甲7号証で説明した作用効果は、本件当初明細書等の記載に基づいたものではなく、本件発明1の技術的意義を検討するうえで配慮には値しないと主張する。
これに対して、被請求人は、「甲7号証の内容は、「本件当初明細書等に記載した事項」を敷衍して説明された事項に過ぎない。それ故に補正が認められたのである。」と主張する。
しかしながら、上述のとおり、事項Hは、本件当初明細書等の発明の詳細な説明に記載されたものであり、甲7号証に記載された作用効果から導き出されたものではない。
よって、請求人の主張は採用できない。

(3)構成要件J及び【0013】
構成要件J及び【0013】の「前記一対の保持部は、各々の前記開口が真横を向いていること」(以下、「事項J」という。)との事項について検討する。
事項Jは、平成24年3月21日に甲2号証による手続補正により、請求項2及び【0013】に追加されたものである。
上記(2)のとおり、保持部の形状が略C字状(【図13】(a))である場合に開口の向きは真横方向であるということができるので、事項Jは、本件当初明細書等に記載されたものであるものであるといえる。
してみると、事項Jに係る本件補正は、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。

請求人は、上記第6の1(3)のとおり、本件当初明細書等の【図13】(a)の保持部の開口の方向は、真横ではなく、斜め下方であると主張する。
しかしながら、上述したように、事項Jの「真横」とは、【図13】(c)のような開口の向きを斜め上方向ではなく、【図13】(a)のような真横方向に特定することを企図したものであると解することができることから、概念図であるところの【図13】(a)を分析し、自らの定めた定義に従ってその方向が斜め下方向を向いていることをもって、形状aが「真横」ではないとする請求人の主張は採用できない。
また、本件当初明細書等の発明の詳細な説明の【0076】には「保持部分26が被施療者の腕部を中心として回動可能であるので、腕部の施療部位を被施療者の嗜好に合わせて調節することもできる。」と記載されていることから、仮に請求人の主張するとおり、保持部の形状が略C字状(【図13】(a))である場合に開口の向きが真横ではなく斜め下方であるとしたとしても、開口の向きを回動させて真横とすることができるような構成を備えていることは明らかである。
よって、請求人の主張は採用できない。

(4)構成要件L及び【0014】
構成要件L及び【0014】の「前記保持部は、被施療者の前腕と手首又は掌を保持可能であること」(以下、「事項L」という。)との事項について検討する。
事項Lは、平成24年3月21日に甲2号証による手続補正により、請求項3及び【0014】に追加されたものである。
本件当初明細書等の発明の詳細な説明の【0044】には、「第2保持部分12の内面であって、被施療者の手首又は掌に相当する部分には、振動装置15が設けられている。」、「第2保持部分12のその他の構成は、第1保持部分の構成と略同様である」と、【0037】には、「図2に示すように、保持部10は、被施療者の上腕を保持するための第1の保持部分11と、被施療者の前腕を保持するための第2保持部分12とから主として構成されている。」と、【0046】には、「前腕部を第2保持部分に挿入する」と記載されていることから、第2保持部分12は前腕から手首又は掌に至るまで延在している点が記載されている。
してみれば、事項Lは、本件当初明細書等に記載されたものであるといえるので、事項Lに係る本件補正は、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。

請求人は、上記第6の1(4)のとおり、振動装置によって手首や掌に刺激が与えられ得ることは記載されているが、手首又は掌の保持については何ら言及がないと主張する。
本件当初明細書等における「保持」について検討するに、上記の【0037】の記載に加えて、本件当初明細書等の【0038】の「施療者の上腕及び前腕を第1保持部分11及び第2保持部分12へ夫々の開口部から挿入することが可能である。」、及び、【0048】の「第1保持部分11に設けられた空気袋11b、11c及び第2保持部分12に設けられた空気袋が膨張・収縮する。これにより、被施療者の腕部を略全体に亘って施療することができる。」という記載を踏まえると、空気袋が膨張していない、つまり、施療していないときであっても、保持部分は腕部を保持するものであるといえる。すなわち、本件当初明細書等における「保持」とは、保持部分が被施療者の腕部に対して、ある程度の空間を隔てて挿入された状態であれば十分であるといえ、保持部分が腕部に対して常に直接的に接触し又は当該腕部を挟持していなくともよいと解することができる。そして、上述したとおり、第2保持部分12は前腕から手首又は掌に至るまで延在していることは明らかであるから、保持部分12は前腕から手首又は掌に至るまで保持していることは明らかである。
よって、請求人の主張は採用できない。

(5)構成要件N及び【0015】
構成要件N及び【0015】の「前記空気袋は、前記開口側の部分の方が奥側の部分よりも立ち上るように構成されていること」との事項(以下、「事項N」という。)について検討する。
事項Nは、平成24年3月21日に甲2号証による手続補正により、請求項4及び【0015】に追加されたものである。
事項Nにおいては、「開口」及び「奥」という所定の場所を指すのではなく、「開口側」及び「奥側」との文言が記載されている。これは、空気袋における相対的な位置関係として「開口側」と「奥側」を特定する記載であると理解できる。
そして、本件当初明細書等の発明の詳細な説明の【0042】の「図5は、第1保持部分11を幅方向へ切断したときの断面図である。図5に示すように、図5に示すように、第1保持部分11は、比較的硬度が高い材料からなり、略C字状の断面形状を有する略半円筒形状の外殻部11aを備えている。この外殻部11aの内面の略全体には、空気袋11bが設けられている。また、この空気袋11bの表面には、図2で示すような、複数の空気袋11cが設けられている。」との記載を踏まえると、本件当初明細書等の【図5】には、第1保持部分を幅方向へ切断したときの断面図において、保持部分11の内面の略全体において略一定の厚み幅を有する空気袋11bと、当該空気袋11bの上に積層する形で空気袋11cが設けられ、当該空気袋11cは奥側から開口側に行くにしたがってその厚み幅が漸増すること、つまり、空気袋11bと空気袋11cをあわせてみたときに、空気袋は開口側の部分の方が奥側の部分よりも立ち上がるように(空気袋のどの場所をとってみても、開口側の方が奥側よりもその厚み幅が大きくなるように)構成されていることが記載されているといえる。
してみれば、事項Nは、本件当初明細書等に記載されたものであるものであるといえるので、事項Nに係る本件補正は、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。

請求人は、上記第6の1(5)のとおり、空気袋11b、11cは、開口側の端部にて最も高さが高くなるよう盛り上がる形状として示されているとしても、1つの空気袋の形状において開口側の端部において盛り上がる形状とする以外にも種々の構成も含み得る表現になっており、開口側の端部だけに限らず奥側の部分からその端部に至る途中の部分が奥側より相対的に盛り上がっている形状も含み得るが、これは本件当初明細書等に記載した事項の範囲内ではないと主張する。
しかしながら、上述のとおり、空気袋は、開口側の部分の方が奥側の部分のよりも立ち上がるように構成されていればよく、その盛り上がる形状が種々の構成を含み得るものであったとしても、本件発明の技術的課題である腕部を空気袋によってマッサージすることが実現できる程度に構成されていれば十分であるといえることから、請求人の主張を採用することはできない。

(6)構成要件F及び【0010】
構成要件F及び【0010】の「幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口」との事項(以下、「事項F」という。)について検討する。
事項Fは、平成24年3月21日に甲2号証による手続補正により、請求項1及び【0010】に追加されたものである。
本件当初明細書の発明の詳細な説明等の【0037】、【0038】、【図2】には、断面視において略C字状の略半円筒形状をなす「保持部」が記載され、事項Fの「開口」すなわち開口部とは、「保持部」における「長手方向へ延びた欠落部分」を指し、一般的な体格の成人の上腕又は前腕の太さよりも若干大きい幅とされ、そこから保持部内に腕を挿入可能であることが記載されているから、構成要件Fで規定する「幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口」が、本件当初明細書に記載されていた事項であることは明らかである。
請求人は、事項Fの「幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口」には掌部分や手首部分に内壁が存在する構成を含むと解するのであれば、同構成を含む事項Fは、本件補正により新たな技術的事項を含むことになると主張する。
しかしながら、上述のとおり、事項Fの「開口」は、「保持部」における「長手方向へ延びた欠落部分」であって、そこから保持部内に腕を挿入可能であるように構成されていればよく、掌部分及び手首部分に内壁を備えるか否かは何ら特定されていないのであって、たとえ掌部分及び手首部分に内壁を備える構成であったとしても、上記1の本件発明の技術的課題である、椅子型マッサージ機において、被施療者が座部に座った状態で、被施療者の腕を空気袋によって施療することが実現できるように構成されていれば足りるといえるのであるから、新たな技術的事項を含むようにしたものではなく、請求人の主張を採用することはできない。
してみれば、事項Fは、本件当初明細書等に記載されたものであるといえるので、事項Fに係る本件補正は、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(7)小括
以上のとおり、事項G、H、J、L、N及びFに係る本件補正は、本件当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入したものであるということはできないことから、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
したがって、本件発明に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法第123条第1項第1号に該当しない。
よって、請求人が主張する無効理由1により、本件発明に係る特許を無効とすることはできない。

3 無効理由2(サポート要件違反)について
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆる「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁特別部平成17年(行ケ)第10042号参照)。
これを踏まえ、本件特許の特許請求の範囲の記載が、上記要件に適合するか否かについて検討する。
(1)構成要件G
甲1号証によれば、本件特許明細書の【0010】には、「前記空気袋は、前記内面の互いに対向する部分のうち少なくとも一方の部分に設けられ、」と記載されており、椅子型マッサージ機において、被施療者が座部に座った状態で、被施療者の腕部を空気袋によって施療することに関係するものであることから、上記1の本件発明の技術的課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえる。
してみると、構成要件Gは、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるといえる。

(2)構成要件H
甲1号証によれば、本件特許明細書の【0010】には、「前記一対の保持部は、各々の前記開口が横を向き、且つ前記開口同士が互いに対向するように配設されている」と記載されており、椅子型マッサージ機において、被施療者が座部に座った状態で、被施療者の腕部を空気袋によって施療することに関係するものであることから、上記1の本件発明の技術的課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえる。
してみると、構成要件Hは、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるいえる。

(3)構成要件J
甲1号証によれば、本件特許明細書の【0013】には、「前記一対の保持部は、各々の前記開口が真横を向いている」と記載されており、椅子型マッサージ機において、被施療者が座部に座った状態で、被施療者の腕部を空気袋によって施療することに関係するものであることから、上記1の本件発明の技術的課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえる。
してみると、構成要件Jは、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるいえる。

(4)構成要件L
甲1号証によれば、本件特許明細書の【0014】には、「前記保持部は、被施療者の前腕と手首又は掌を保持可能である」と記載されており、椅子型マッサージ機において、被施療者が座部に座った状態で、被施療者の腕部を空気袋によって施療することに関係するものであることから、上記1の本件発明の技術的課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえる。
してみると、構成要件Lは、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるいえる。

(5)構成要件N
甲1号証によれば、本件特許明細書の【0015】には、「前記空気袋は、前記開口側の部分の方が奥側の部分よりも立ち上るように構成されている」と記載されており、椅子型マッサージ機において、被施療者が座部に座った状態で、被施療者の腕部を空気袋によって施療することに関係するものであることから、上記1の本件発明の技術的課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえる。
してみると、構成要件Nは、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるいえる。

(6)構成要件F
本件発明1は、本件特許明細書の【0010】に記載された構成をすべて備えており、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであり、本件特許明細書にも【0037】、【0038】、【図2】と同様の記載があることからすれば、構成要件Fで規定する「開口」が本件明細書の当該記載によってサポートされていることも明らかである。
してみると、構成要件Fは、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるいえる。

(7)小括
以上のとおり、構成要件G、H、J、L、N及びFはすべて、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるといえ、当業者が本件発明の技術的課題を解決できると認識できる範囲内のものである。
したがって、本件発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえないから、特許法第123条第1項第4号に該当しない。
よって、請求人が主張する無効理由2により、本件発明に係る特許を無効とすることはできない。

4 無効理由3(明確性要件違反)について
(1)構成要件G
構成要件Gの「前記空気袋は、前記内面の互いに対向する部分のうち少なくとも一方の部分に設けられ」において「前記内面の互いに対向する部分」とは、構成要件Eで「内面」は「保持部の内面」であり、構成要件Dで「保持部」は「座部の両側に夫々配設され」と、構成要件Fで「前記保持部は、その幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口が形成されていると共に、その内面に互いに対向する部分を有し」と規定していることから、座部の両側のどちらか一方ではなく、その両側に夫々配設された保持部における内面のうち、互いに対向する部分を指すことは明らかである。

(2)構成要件L
構成要件Dの「被施療者の腕部を部分的に覆って保持する一対の保持部」との記載からみて、保持部が腕部を「保持する」とは、保持部によって腕部を部分的に覆われた状態とすることを意味することは明らかである。
してみると、構成要件Lの「前記保持部は、被施療者の前腕と手首又は掌を保持可能であること」とは、保持部によって被施療者の前腕と手首又は掌を部分的に覆われた状態とすることができることを意味することは明らかである。
よって、構成要件Lの「保持可能」という記載は明確である。

(3)構成要件F
上記1の本件特許発明の技術的課題は、椅子型マッサージ機において、被施療者が座部に座った状態で、被施療者の腕部を、空気袋によって施療することであること、また、当該空気袋は保持部内面に設けられること(構成要件E)からして、構成要件Fの「開口」とは、被施療者が座部に座った状態で、腕を保持部に挿入できる開口を意味するものと明確に理解することができる。
請求人は、事項Fの「幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口」に掌部分や手首部分に内壁が存在する構成を含むと解するのであれば、同構成を含む事項Fは、保持部の幅方向のどの切断面においても被施療者が腕を挿入する口を有する構成(開口が長手方向の全長にわたって形成され両端が切りっぱなし状に解放されている構成)を指すのか、一部に内壁を備える構成まで含むのか、不明確となったと主張する。
しかしながら、上記2 (6)で検討したとおり、事項Fの「開口」は、「保持部」における「長手方向へ延びた欠落部分」であって、そこから保持部内に腕を挿入可能であるように構成されていればよく、掌部分及び手首部分に内壁を備えるか否かは何ら特定されていないのであって、たとえ掌部分及び手首部分に内壁を備える構成であったとしても、上記1の本件発明の技術的課題である、椅子型マッサージ機において、被施療者が座部に座った状態で、被施療者の腕を空気袋によって施療することが実現できるように構成されていれば足りるといえる。
さらに、請求人は、掌部分や手首部分に内壁が存在する構成では、本件発明の技術的課題を解決できないとか、作用効果を奏し得ないなどと主張する。
しかしながら、人間の腕に関連する各関節(すなわち肩、肘、手首、掌、指の関節)の可動性に鑑みれば、たとえ保持部の掌部分及び手首部分に内壁を備える構成であったとしても、被施療者が座部に座った状態で、被施療者の腕を保持部に出し入れすることが可能であることは明らかであるから、請求人の主張を採用することはできない。
よって、構成要件Fの記載は明確である。

(4)小括
以上のとおり、構成要件G、構成要件L及び構成要件Fの記載は明確である。そして、これらの構成要件を含む本件発明はいずれも明確である。
したがって、本件発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえないから、特許法第123条第1項第4号に該当しない。
よって、請求人が主張する無効理由3により、本件発明に係る特許を無効とすることはできない。

5 無効理由4(進歩性欠如)について
(1)甲各号証に記載された発明等
ア 甲9号証
(ア)甲9号証の記載
本件特許の原出願日よりも前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲9号証には、図面とともに、次の記載がある。(下線部は、合議体が付与した。以下同様。)
「【0013】
【発明の実施の形態】以下、本発明のマッサージ機を図に示される実施形態について更に詳細に説明する。図1には本発明の一実施形態に係るマッサージ機10がで示されている。この実施形態のマッサージ機10は、大別して椅子20と、脚保持部30と、足乗せ台40とから構成されている。
【0014】この椅子20の基本的な構成としては、座部21と、この座部21の両側に設けられた肘掛け部22と、座部21の後端に設けられた傾斜可能な背凭れ部23とを備えている。座部21と背凭れ部23のそれぞれ内部適所には、複数の空気袋(図示せず)が配置されている。」
「【0017】このような空気式マッサージ機構部の構造は、前述した特開平10-118141号公報に開示されていて公知であると共に基本的な点では実質的に同じであるので詳細な説明は省略する。本実施形態のマッサージ機10では、更に肘掛け部22の上部に設けられた腕保持部24を備えている。腕保持部24は、使用者の腕を両側から挟むようにU字状の凹部25を形成する保持壁部24a、24bを備え、各保持壁部内にも前述したと同様な空気袋(図示せず)が配置されている。
【0018】この腕保持部24でも、これを構成している各保持壁部24a、24b内の空気袋に圧縮空気を供給排気することにより膨張と収縮を起こさせて保持壁部間の凹部25に入れられた使用者の腕を保持壁部24a、24bの外装布を介して挟み込むようにして圧迫し、またこの圧迫を解放することによりマッサージを行うようにされている。」
また、【図1】には、使用者が椅子20の座部21に着座する点、使用者の上半身が背凭れ部に凭れる点、椅子20の両側に設けられた一対の肘掛け部22の上部に一対の腕保持部24が設けられる点、及び、U字状に凹部25が形成された上記腕保持部24は使用者の腕の両側を部分的に覆って保持する点が、それぞれ開示されている。
また、上記(1)の【0017】の「使用者の腕を両側から挟むようにU字状の凹部25を形成する保持壁部24a、24bを備え、各保持壁部内にも前述したと同様な空気袋(図示せず)が配置されている。」という記載事項を踏まえると、【図1】には、腕保持部は、内面が互いに対向する二つの保持壁部からなる点、その幅方向に切断して見た断面において使用者の腕を挿入する開口が形成されているとともに、及び、上記開口は上を向くように配設されている点が、それぞれ開示されているといえる。
さらに、上記(1)の【0018】の「各保持壁部24a、24b内の空気袋に圧縮空気を供給排気することにより膨張と収縮を起こさせて保持壁部間の凹部25に入れられた使用者の腕を保持壁部24a、24bの外装布を介して挟み込むようにして圧迫し、またこの圧迫を解放することによりマッサージを行う」との記載から、使用者の腕を挟み込むことができるよう、保持壁部24a、24bの内面の互いに対向する部分のそれぞれに空気袋が配置されていることは明らかである。

(イ)甲9号証発明
上記(ア)の記載事項及び図示事項を踏まえると、甲9号証には、次の発明(以下、「甲9号証発明」という。)が記載されていると認める。
「使用者が着座可能な座部と、使用者の上半身が凭れる背凭れ部とを備える椅子型のマッサージ機において、
前記座部の両側にそれぞれ設けられ、使用者の腕を部分的に覆って保持する一対の腕保持部と、
前記腕保持部の内面に配置される膨張及び収縮可能な空気袋と、を有し、
前記腕保持部は、その幅方向に切断して見た断面において使用者の腕を挿入する開口が形成されており、その内面に互いに対向する部分を有し、
前記空気袋は、前記内面の互いに対向する部分のそれぞれに配置され、
前記一対の腕保持部は、各々の前記開口が上を向くように配設されているマッサージ機。」

イ 甲10号証
(ア)甲10号証の記載
本件特許の原出願日よりも前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲10号証には、図面とともに、次の記載がある。
「【0013】
【作用】本発明の第一態様に係る指圧具によれば、その弾性部材の作用によって保持部と挟圧部とで身体の一部を挟圧することができ、本発明の第二態様に係る指圧具によれば、そのラチェット機構によって身体の一部を挟圧するように保持部と挟圧部とを接近させることができ、いずれの態様の指圧具も、そのときに押圧部を身体のいわゆるつぼとよばれる部分に位置させて、適当な時間放置しておけば良好な指圧効果が得られる。しかも、この指圧具が少なくとも小型(首、腕、足等に使用するものは小型となる)である場合には、身体挟圧によって指圧具自体が身体に保持されることになるので、使用者が少々動いても脱落したり移動したりするおそれが少ない。もちろん、背中や腰に使用する大型の指圧具であっても、使用者が横たわったり、座って使用すれば脱落、移動の心配はない。」
「【0022】上述の指圧具1では挟圧腕3が一本しか備わっていないが、一本に限定されることはない。たとえば、図2に示す指圧具8のように、対向するように二本の挟圧腕9を装備してもよい。本指圧具8によれば、各々の挟圧腕9の先端に装着された押圧部材10が、使用者の腰や背中の背骨の両側をそれぞれ押圧することになる。また、本指圧具8では、その押圧部材10を使用者の身体に向けて付勢する手段として圧縮コイルバネ11を用いている。圧縮コイルバネ11は挟圧腕9におけるその枢支点12を挟んで押圧部側と反対の側に設置されている。」

(イ)甲10号証に記載の技術的事項
上記(ア)の記載事項を踏まえると、甲10号証には、次の技術的事項(以下、「甲10技術事項」という。)が記載されているといえる。
「指圧具であって、対向するように二本の挟圧腕9を装備しており、各々の挟圧腕9の先端に装着された押圧部材10が、使用者の腰や背中の背骨の両側をそれぞれ押圧する指圧具。」

(ウ)甲10号証についての請求人の主張
請求人は、甲10号証の引用文献としての適格性について、上記第6の4(1)ウ(イ)のとおり主張する。さらに具体的には、「第二態様において腕を施療することも記載されて」おり、「明細書段落0016ないし0020には図2の「対向する挟圧腕同士」のうち一方について開示されていることから、図2に示されている「対向する挟圧腕同士」を隔離して腕の施療に用いることも開示されているに等しい」と主張する。
しかしながら、上記(ア)のとおり、【0022】には、図2に示された指圧具8の用途としては、「使用者の腰や背中の背骨の両側をそれぞれ押圧する」と記載されているだけである。つまり、当該指圧具8で使用者の腕を押圧するとまでは記載されていない。
確かに、【0013】には、「この指圧具が少なくとも小型(首、腕、足等に使用するものは小型となる)である場合」とも記載されているが、これは、甲10号証で示す他の実施例(例えば、図3に示された指圧具13など)において、指圧具が小型である場合には腕を指圧するものも含み得ることを示唆するものであると解することができる。
そして、図2に示された指圧具8は、上記(ア)のとおり、【0022】に「上述の指圧具1では挟圧腕3が一本しか備わっていないが、一本に限定されることはない。たとえば、図2に示す指圧具8のように、対向するように二本の挟圧腕9を装備してもよい。」との記載から、図1に示された指圧具1を改良したものであることは明らかであるが、甲10号証の【0017】の「図1に示されている指圧具1は、主に使用者の背中や腰等、身体の大きい部位または広い部位に用いるものである。」との記載からもわかるように、図1に示された指圧具1は大型のものであって、腕を治療する小型のものを含まないことは明らかである。そして、図1に示された指圧具1について説明する【0017】ないし【0021】の記載をみても、指圧具1で使用者の腕を指圧することについては何らの記載も示唆もされていない。
してみると、図2に示された指圧具8は、主に使用者の背中や腰等、身体の大きい部位または広い部位に用いるものであって、腕の押圧に用いられるものでないことは明らかである。

ウ 甲11号証
(ア)甲11号証の記載
本件特許の原出願日よりも前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲11号証には、図面とともに、次の記載がある。
a 1欄4行ないし8行
「This invention relates generally to therapeutic devices and methods and, more particularly to a device and a method for enhancing self-participatory structural realignment of the spinal column and promoting the restoration of normal curvature.」
(本発明は一般的に治療装置とその方法に関し、特に自ら脊柱の矯正を行いやすくするようにしたり正常な弯曲に戻すことを促進したりする装置とその方法に関する。)
b 4欄23行ないし29行
「The chair 10 has a pair of arm rests or supports 16 which are respectively disposed on the right and left sides of the seat 12. Each arm rest 16 has a support portion 18 for supporting the weight of one of the arms 19 of the body 13 sitting on the chair10. The support portion 18 is coupled to an outer portion 20 which is disposed outwardly thereto relative to the body 13. 」
(椅子10は、座部12の左右両側それぞれに配設されている一対の腕置き16を備えている。それぞれの腕置き16は、椅子10に着座している身体13の腕19の重量を支える支持部18を備えている。支持部18は、身体13の外側に配設された外側部20に繋がっている。)

(イ)甲11号証に記載の技術的事項
上記(ア)の記載事項を踏まえると、甲11号証には、次の技術的事項(以下、「甲11技術事項」という。)が記載されているといえる。
「背骨などの身体の治療に用いられる装置であって、座部12の左右両側に配設され、身体13の腕19の重量を支える支持部18と、その支持部18に繋がり身体13の外側に配設された外側部20とを備えた一対の腕置き16を備えた装置。」

(ウ)甲11号証についての被請求人及び請求人の主張
被請求人は、審判事件答弁書45ページないし47ページにおいて、「甲11の腕保持部16は、着座する人体13に向かって横に開口しているのみならず、上に向かっても開口しており、腕保持部16は、底面と外側面のみで、対向する面が全く存在しない。」(46ページ)と主張する。
これに対して、請求人は、甲11号証の引用文献としての適格性について、上記第6の4(1)ウ(イ)のとおり主張する。さらに具体的には、「構成要件H「前記一対の保持部は、各々の前記開口が横を向き、且つ前記開口同士が互いに対向するように配設されている」について開示されている引用文献として、甲11を挙げているのであり、使用者の腕を保持する一対の腕置き16が斜め上方に開口していたとしても、着座する人体13に向かって開口しており、その開口同士が互いに対向している態様は開示されている。」と主張する。
してみると、甲11号証に記載された装置の腕置き16は、着座する人体に向かって横に開口しているのみならず、上に向かっても開口しているものであるといえる。

エ 甲12号証
(ア)甲12号証の記載
本件特許の原出願日よりも前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲12号証には、図面とともに、次の記載がある。
a 第1欄5行ないし9行
「The present invention relates to sickbeds, and relates more particularly to a multipurpose sickbed which can be conveniently operated to turn over the body of the sick person leftward or rightward, to help the sick person sit up, and to massage the back of the sick person.
Taking care a sick person who lies on the bed and cannot move the body by himself, is not an easy job.」
(本発明は、病床に関し、特に病人の体を左側又は右側に返したり病人が座る手助けをしたり病人の背中をマッサージするために簡便に操作し得る多目的病床に関する。
ベッドに平臥し、自身で身体を移動させることができない病人の世話をすることは、容易ではない。)
b 第1欄21行ないし24行
「However, when the folding bed plate is driven to help the sick person sit up, the sick person tends to slip downwards along the lifted longitudinal plate of the folding bed plate.」
(しかしながら、病人を起床させるのを助けるために折畳み式のベッドプレートが駆動されると、病人は、折畳み式のベッドプレートの持ち上げられた縦プレートにそって下方に摺動しがちである。)
c 第4欄30行ないし33行
「Hand guard cushions 88 are mounted on the sheet-like bearing element 12, each defining a longitudinal groove 881 for supporting the hands of the sick person. 」
(手の保護クッション88は、シート状の支持部12に備え付けらえており、病人の手を保持する縦長溝881が両方に設けられている。)
d 図6
図6には、病人の手を保持する縦長溝881が病人に向かって横に開口しており、そしてその開口同士が互いに対向している点が開示されている。

(イ)甲12号証に記載の技術的事項
上記(ア)の記載事項を踏まえると、甲12号証には、次の技術的事項(以下、「甲12技術事項」という。)が記載されているといえる。
「自身で身体を移動させることができない病人の世話をするための多目的な病床であって、手の保護クッション88に病人の手を保持する縦長溝881が設けられ、その縦長溝881が病人に向かって横に開口しており、そしてその開口同士が互いに対向している保護クッション88を備えた病床。」

オ 甲13号証
(ア)甲13号証の記載
本件特許の原出願日よりも前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲13号証には、図面とともに、次の記載がある。
a 1ページ2行ないし5行
「The present invention relates generally to a PEMF stimulator for treating osteoporosis and other medical conditions by promoting an increased bone mineral content and density.」
(本発明は一般に、骨無機質含量および骨密度の増大を促すことによって骨粗鬆症およびその他の医学的状態を治療するPEMF刺激装置に関する。)
b 13ページ29行ないし14ページ5行
「In this embodiment, bone mineral density stimulator 30 includes pads 31 and 35, in addition to the elements as shown and discussed in conjunction with FIGURE 1A. Bone mineral density stimulator 30 is preferably designed to treat the upper and lower extremities of a patient, in addition to the proximal femur, hip joint, lumbar and thoracic spine areas. In this embodiment, pad 31 is shown resting on chair20, and pad 35 is shown resting on the floor. Pad 31 is preferably designed to treat upper extremities of a patient, such as wrists or arms.」
(この実施の形態では、骨密度刺激装置30が、図1Aにおいて示されて論じられた部品群の他にパッド31および35を含む。骨密度刺激装置30は、大腿骨近位部分、股関節、腰椎および胸椎領域に加えて患者の上肢および下肢を治療するように設計されることが好ましい。この実施形態ではパッド31が椅子20の上に載せられて示されており、パッド35が床に置かれて示されている。パッド31は、手首、腕などの患者の上肢を治療するように設計されることが好ましい。)
c 15ページ28行ないし30行
「Pads 31 and 35 in this embodiment are generally c-shaped, in order to generally conform to a patient's upper or lower extremity, respectively. 」
(この実施の形態のパッド31および35は、それぞれ患者の上肢または下肢に概ね合致するよう全体にc字形である。)
d 図1Cには、パッド31の開口が真横を向いている態様及び当該開口同士が互いに対向している態様が図示されている。

(イ)甲13号証に記載の技術的事項
上記(ア)の記載事項を踏まえると、甲13号証には、次の技術的事項(以下、「甲13技術事項」という。)が記載されているといえる。
「骨粗鬆症治療などに用いられるパルス電磁場刺激装置であって、椅子20の両側に載置され、手首や腕などの上肢をあてがうパッド31が、c字形をしており、座る人に向かって真横に開口しており、そして、その開口同士が互いに対向している装置。」

カ 甲14号証
(ア)甲14号証の記載
本件特許の原出願日よりも前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲14号証には、図面とともに、次の記載がある。
「【発明の効果】よって本発明の手用空気圧マッサージ機は、椅子本体の肘掛部の上面適所に人体手部を載脱自在で該手部に膨縮マッサージを付与し得る圧縮空気吸排気手段を配設して構成しているため、使用者は着座状態で人体手部を肘掛部に載設して電源を入力するだけで、従来のマッサージ機では行い得ない人体手部及び下腕部のマッサージを適度且つ快適に行うことができる。
【0026】また、本発明の手用空気圧マッサージ機は、前記圧縮空気吸排気手段を、固定板の上部左右に膨縮袋を一定間隔を存して対設してこれを圧縮空気吸排気装置で互いに膨縮するよう吸排気させる構成にしているため、使用者の手部及び下腕部を両側から挟持してマッサージすることができ、指圧効果を付与させることができる。」

(イ)甲14号証に記載の技術的事項
上記(ア)の記載事項を踏まえると、甲14号証には、次の技術的事項(以下、「甲14技術事項」という。)が記載されているといえる。
「手用空気マッサージ機において、固定板の上部左右に膨張袋を一定間隔を存して対設して、使用者の手部及び下腕部を両側から挟持してマッサージするマッサージ機」

キ 甲15号証
(ア)甲15号証の記載
本件特許の原出願日よりも前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲15号証には、図面とともに、次の記載がある。
「【0013】(略)図3及び図4に示すように、人体手部Aを載脱自在で各膨縮袋12・13・14・15で該手部Aを両側から同時或いは、交互または順次に圧迫感のある膨縮マッサージを行い得るように構成している。」
図4には、掌、手首、前腕を含む手部を膨縮袋12・13によって挟持する点が開示されている。

(イ)甲15号証に記載の技術的事項
上記(ア)の記載事項及び開示事項を踏まえると、甲15号証には、次の技術的事項(以下、「甲15技術事項」という。)が記載されているといえる。
「膨縮袋により掌、手首、前腕を含む手部をマッサージするマッサージ構造」

ク 甲16号証
(ア)甲16号証の記載
本件特許の原出願日よりも前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲16号証には、図面とともに、次の記載がある。
「【0008】本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、手部及び下腕部を容易に収納して、手部や下腕部に対する効果的な空気圧マッサージを行える手用空気圧マッサージ機を提供することを目的としてなされたものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】すなわち、本発明の手用空気圧マッサージ機は、椅子本体の肘掛部の上面適所に人体の手部を出入自在に収納し得るよう袋状形成された収納体を設け、該収納体にホースを介して圧縮空気給排装置に連通する膨縮機構を設けて構成することを特徴とするものである。」
「【0011】更に本発明の手用空気圧マッサージ機は、前記収納体を、人体の指先から肘までの手部を被覆収納し得るよう帯状形成すると共に、該帯状部材端に係止部材を止着して構成することを特徴とする請求項1乃至請求項2記載の手用空気圧マッサージ機。」

(イ)甲16号証に記載の技術的事項
上記(ア)の記載事項を踏まえると、甲16号証には、次の技術的事項(以下、「甲16技術事項」という。)が記載されているといえる。
「手用空気圧マッサージ機において、椅子本体の肘掛部の上面適所に収納体を設け、当該収納体を人体の指先から肘までの手部を被覆収納し得るよう帯状形成したマッサージ機。」

ケ 甲17号証
(ア)甲17号証の記載
本件特許の原出願日よりも前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲17号証には、図面とともに、次の記載がある。
「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明では、上記目的を達成するために、次の技術的手段を講じた。即ち、本発明に係る椅子型マッサージ機は、座面部の前部に起伏自在にフットレストを備えたものであって、フットレストは、脚載せ部を有する本体部と、この本体部にマッサージ動作可能として設けられたマッサージ駆動部とを備えている。」
「【0018】このフットレスト1に設けられるマッサージ駆動部13として、本実施形態では、足首あたりを左右両側から指圧する第1指圧部26と、ふくらはぎあたりを左右両側から指圧する第2指圧部27とを有したものとしてある。第1指圧部26は、図3に示すように脚載せ部12における一方の内側面16と分離丘17の側面とに対して対向状に設けられた一対のエアセル29を有している。」
「【0020】各エアセル29は、その外周まわりにおいて、上向きとなる約半周領域に形成されている蛇腹の形成数が、下向きとなる約半周領域に形成されている蛇腹の形成数よりも多くなっており、中心軸まわりの回転対称形とはなっていない。すなわち、上向き配置の蛇腹のなかには、その凹側及び凸側の周方向稜線においてセル外周を1周しないものが含まれていることになる。
【0021】従って、上記のように各エアセル29に空気を供給して伸長動作させた場合、エアセル29はその伸長度合が進むにつれて次第に凹部内底面15側を指向するようなカーブ伸長を行うことになる。従って、脚11は、指圧と同時に凹部内底面15側へ押え込まれるような作用を受けることになる。そのため、指圧中、脚11は安定した状態とされ、脚載せ部12から脚11が追い出されるといったことも、当然に生じない。」

(イ)甲17号証に記載の技術的事項
上記(ア)の記載事項を踏まえると、甲17号証には、次の技術的事項(以下、「甲17技術事項」という。)が記載されているといえる。
「椅子型マッサージ機において、フットレスト1にマッサージ駆動部として、脚載せ部12における一方の内画面16と分離丘17の側面とに対して対向状に設けられた一対のエアセル29を有しているマッサージ機。」

コ 甲18号証
(ア)甲18号証の記載
本件特許の原出願日よりも前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲18号証には、図面とともに、次の記載がある。
「【0013】(前略)なお、本発明のマッサージ機は、腕(特に、前腕)を対の揺動体の間において脚を左右両側からマッサージする腕用マッサージ機とすることもできる。この場合、以上及び以下の説明で「脚」として説明した点は「腕」又は「前腕」と、「足首」として説明した点は「手首」と、「ふくらはぎ」として説明した点は「前腕の肘近傍部分」と読み替えることができ、脚の場合と同様の作用を奏する。なお、前腕用の場合は、揺動体は、肘の下から手首の間を押圧できる幅に形成しておくのが好適である。」
「【0023】(前略)図5は、ふくらはぎL1を押圧する部分の脚収納体8断面図を示しており、左右の第1エアセル21が膨張すると、対の揺動体12が互いに近接するように揺動し、さらに揺動体12は、脚の形状に沿って湾曲して揺動体12が脚を包み込むように押圧が行われる。(後略)」
「【0024】(前略)図6は、足首L2を押圧する部分の脚収納体8断面図を示している。足首L2に対しては、第1エアセル21の他、第2エアセル22も膨張して、膨張度が大きくなり、揺動体12がより大きく揺動・湾曲させられている。このため、ふくらはぎL1より細い足首L2に対しても十分な押圧力が加わる。なお、このとき、揺動体12は、ふくらはぎ付近より足首付近の方が湾曲度が大きい。」
図5及び図6には、第1エアセル21及び第2エアセル22が、収納体8の両側壁10の奥側の部分よりも開口側の部分の方において立ち上がる点が開示されている。

(イ)甲18号証に記載の技術的事項
上記(ア)の記載事項を踏まえると、甲18号証には、次の技術的事項(以下、「甲18技術事項」という。)が記載されているといえる。
「肘の下から手首の間を押圧できるマッサージ機において、収納体の両側壁に設けられた一対のエアセルが、当該収納体の両側壁の奥側の部分よりも開口側の部分の方において立ち上がるマッサージ機。」

サ 甲19号証
(ア)甲19号証の記載
本件特許の原出願日よりも前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲19号証には、図面とともに、次の記載がある。
「【0015】(前略)なお、本発明のマッサージ機は、腕(特に、前腕)を対の揺動体の間において脚を左右両側からマッサージする腕用マッサージ機とすることもできる。この場合、以上及び以下の説明で「脚」として説明した点は「腕」又は「前腕」と、「足首」として説明した点は「手首」と、「ふくらはぎ」として説明した点は「前腕の肘近傍部分」と読み替えることができ、脚の場合と同様の作用を奏する。なお、前腕用の場合は、揺動体は、肘の下から手首の間を押圧できる幅に形成しておくのが好適である。」
「【0025】(前略)図5は、ふくらはぎL1を押圧する部分の脚収納体8断面図を示しており、左右の第1エアセル21が膨張すると、対の揺動体12が互いに近接するように揺動し、さらに揺動体12は、脚の形状に沿って湾曲して揺動体12が脚を包み込むように押圧が行われる。(後略)」
「【0026】(前略)図6は、足首L2を押圧する部分の脚収納体8断面図を示している。足首L2に対しては、第1エアセル21の他、第2エアセル22も膨張して、膨張度が大きくなり、揺動体12がより大きく揺動・湾曲させられている。このため、ふくらはぎL1より細い足首L2に対しても十分な押圧力が加わる。なお、このとき、揺動体12は、ふくらはぎ付近より足首付近の方が湾曲度が大きい。」
図5及び図6には、第1エアセル21及び第2エアセル22が、収納体8の両側壁10の奥側の部分よりも開口側の部分の方において立ち上がる点が開示されている。

(イ)甲19号証に記載の技術的事項
上記(ア)の記載事項を踏まえると、甲19号証には、次の技術的事項(以下、「甲19技術事項」という。)が記載されているといえる。
「肘の下から手首の間を押圧できるマッサージ機において、収納体の両側壁に設けられた一対のエアセルが、当該収納体の両側壁の奥側の部分よりも開口側の部分の方において立ち上がるマッサージ機。」

シ 甲20号証
(ア)甲20号証の記載
本件特許の原出願日よりも前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲20号証には、図面とともに、次の記載がある。
「【0049】この下腿部のマッサージに際しては、下腿マッサージ用の空気袋32の左右の凹部35に左右の下腿を入れ、左の空気袋33および中央空気袋34aと、右の空気袋33および中央空気袋34aに同時に、または交互に圧縮空気を給排気して左右のふくらはぎに圧迫、圧迫解放を加える。」
図7には、左右の空気袋33が、開口側の部分よりも奥側の部分の方が被施療者側に盛り上がっている点が開示されている。

(イ)甲20号証に記載の技術的事項
上記(ア)の記載事項を踏まえると、甲20号証には、次の技術的事項(以下、「甲20技術事項」という。)が記載されているといえる。
「下腿部のマッサージにおいて、下腿を挿入する凹部に設けられた左右の空気袋が、当該凹部の開口側の部分よりも奥側の部分の方が被施療者側に盛り上がっているマッサージ機。」

ス 甲21号証
(ア)甲21号証の記載
本件特許の原出願日よりも前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲21号証には、図面とともに、次の記載がある。
「【0013】図1および図2に示すマッサージ機10は、座部11と背部12とからなるマット本体20と、マット本体20に設けられたエアバック(マッサージ部材)40?48と、座部11の前端側に設けられたエア給排気装置(マッサージ部材駆動手段)70とを備えている。
【0014】マット本体20は、フレーム21と、このフレーム21に取り付けた例えばウレタンホームからなるマット体22と、このマット体22を覆ったクッション材23と、このクッション材23を覆った表皮24とから構成されている。」
「【0018】背部マット体31には、脇部を挟み込む位置に突出部35、36が形成され、この突出部35、36の内側側面35A、36Aにはエアバック44、44が取り付けられている。また、背部マット体31には、突出部35、36の間にエアバック45と、このエアバック45の右側には首を挟む一対のエアバック46、46と、頭部を固定するための一対のエアバック47とが取り付けられている。」

(イ)甲21号証に記載の技術的事項
上記(ア)の記載事項を踏まえると、甲21号証には、次の発明(以下、「甲21技術事項」という。)が記載されているといえる。
「マッサージ機において、座部と背部とからなるマット本体からなり、背部マット体の脇部を挟み込む位置に一対の突出部が形成され、これら突出部の内側側面にエアバックがそれぞれ取り付けられたマッサージ機。」

セ 甲22号証
(ア)甲22号証の記載
本件特許の原出願日よりも前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲22号証には、図面とともに、次の記載がある。
「【0026】図11は他の実施の形態を示し、背凭れ部4の両側部に、前方突出した左右一対の突起体91を設け、この突起体91間に使用者の人体Mをはめ込めるようにしている。また、前記実施の形態の場合と同様に、マッサージ器8が、マッサージ機の背凭れ部4の左右中央部に昇降自在に設けられ、前記空気式のマッサージ具41が、マッサージ器8の両側方に位置するように、左右一対の突起体91の内側面側に対向するように設けられている。この空気式のマッサージ具41は、前記実施の形態の場合と同様に人体の背中の両側部を広範囲にマッサージできるように、上下に長く配置されている。
【0027】その他の点は前記図1?図6の実施の形態の場合と同様の構成であり、前記実施の形態の場合と同様に、マッサージ器8を昇降させながら、施療子9による叩き動作や揉み動作によって人体の背中の中央部を比較的強くマッサージできる。また、マッサージ具41を左右方向内方に膨張させて、マッサージ具41によって、人体Mの背中の両側部(両脇乃至両腕)を左右に挟むように押圧しながらソフトにマッサージすることができ、この場合、左右一対のマッサージ具41によって人体が左右に動かないように固定することができ、これによって、マッサージ器8によるマッサージ効果を高めることもできる。」

(イ)甲22号証に記載の技術的事項
上記(ア)の記載事項を踏まえると、甲22号証には、次の発明(以下、「甲22技術事項」という。)が記載されているといえる。
「マッサージ機において、背凭れ部の両側部に前方突出した左右一対の突起体が設けられ、これら突起体の内側両面に空気式のマッサージ具が取り付けられたマッサージ機。」

ソ 甲23号証
(ア)甲23号証の記載
本件特許の原出願日よりも前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲23号証には、図面とともに、次の記載がある。
「【0006】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するために、本発明のもみマッサージ器は、四肢のうち少なくとも2つ以上の肢体に個別にもみマッサージを施す複数の施療手段と、この施療手段を駆動する駆動手段とを備えるものにおいて、前記施療手段で各肢体を順次施療するように構成したことを特徴とする。
【0007】このもみマッサージ器では、各肢体が施療手段により順次施療されるので、即ち例えば下肢を施療する場合、片脚ずつ施療が行われるので、前記従来のマッサージ機に比べて、刺激感の強弱差を無くすこと、血液の心臓への還流量の変動を少なくすること、マッサージ師による刺激と同等のマッサージ感を得ること、機構部への負荷を軽くすることを実現できる。
【0008】このマッサージ器は、四肢のうち少なくとも2つ以上の肢体を対象とするものであるが、通常は上肢及び下肢のうち、上肢と下肢は別々にマッサージするのが一般的であり、それに対応する構成として、左右の下肢又は上肢に個別にもみマッサージを施す二対の施療手段と、この施療手段を駆動する駆動手段とを備えるものにおいて、前記施療手段で左右の下肢又は上肢を交互に施療するように構成したもみマッサージ器であってもよい。
【0009】施療手段の具体例としては、膨張・収縮可能なエアバッグが示され、それに伴ってエアバッグにエアを送るポンプと、エアバッグへのエアの出入を制御するバルブと、エアバッグとポンプを連結する配管とで駆動手段を構成し、エアバッグの膨張・収縮によりもみマッサージを行うようにしても構わない。ここで、バルブとしては好適な手段に電磁弁がある。」

(イ)甲23号証に記載の技術的事項
上記(ア)の記載事項を踏まえると、甲23号証には、次の発明(以下、「甲23技術事項」という。)が記載されているといえる。
「エアバックにより上肢をマッサージするマッサージ機において、左肢体用と右肢体用のエアバックをそれぞれ独立して駆動させるマッサージ機。」

タ 甲24号証
(ア)甲24号証の記載
本件特許の原出願日よりも前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲24号証には、図面とともに、次の記載がある。
「【0008】また、一つの施療部を構成する底面エアセルと側壁エアセルとがそれぞれ独立して動作可能であるのが好適であり、さらに、一の施療部が他の施療部と独立して動作可能であるのが好適である。この場合、マッサージしたい部位を個別に押圧でき、マッサージのバリエーションが多様になり、従来のマッサージ機では実現できない多様なマッサージ手法を行うことが可能となる。そして、一の施療部を構成するエアセルと他の施療部を構成するエアセルとが異なるタイミングで動作するのが好ましく、具体的には、次のような動作が挙げられる。」
「【0013】また、他の動作の例としては、一の施療部と他の施療部とが交互に動作することもできる。また、他の動作の例としては、AC1、AC4、AC3、AC2の順で膨張を開始することもできる。この場合、例えば、一の施療部側が足先側となるように、溝に脚を入れた場合、まず、足首の左右両側を押圧した後、ふくらはぎの裏側を押圧し、次にふくらはぎの左右両側を押圧し、最後に足首の裏側を押圧するというような複雑な動作が行える。」

(イ)甲24号証に記載の技術的事項
上記(ア)の記載事項を踏まえると、甲24号証には、次の技術的事項(以下、「甲24技術事項」という。)が記載されているといえる。
「エアセルにより脚をマッサージするマッサージ機において、複数のエアセルを独立して動作するマッサージ機。」

チ 甲25号証
(ア)甲25号証の記載
本件特許の原出願日よりも前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲25号証には、図面とともに、次の記載がある。
「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、腕に装着されるエアバックと、このエアバックに対して空気を給排気する給排気装置とを備えた流体マッサージ装置に関する。」
「【0018】エアバック13に圧縮空気が供給されることによりエアバック13が膨張して一方の腕を圧迫していく。この圧迫により一方の腕は曲がらず、自由がきかなくなってしまうが、エアバック14は電磁切換弁21により大気に開放されているので、エアバック14は膨張していかない。このため、他方の腕は自由に動かすことができ、例えば電話が鳴っても受話器をとることができ、とっさの対応ができる。」
「【0020】他方、エアバック14がコンプレッサ22に連通されて圧縮空気がエアバック14に供給され、エアバック14が膨張して他方の腕を圧迫していく。この圧迫により他方の腕は曲がらず、自由がきかなくなってしまうが、エアバック13は大気に開放されて収縮しているので、一方の腕は自由に動かすことができる。」

(イ)甲25号証に記載の技術的事項
上記(ア)の記載事項を踏まえると、甲25号証には、次の発明(以下、「甲25技術事項」という。)が記載されているといえる。
「腕に装着できるエアバックにより腕をマッサージするマッサージ装置において、左右の腕に対応する二つのエアバックがそれぞれ独立して膨張及び収縮するマッサージ装置。」

ツ 甲26号証
(ア)甲26号証の記載
本件特許の原出願日よりも前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲26号証には、図面とともに、次の記載がある。
「【0039】この下腿部のマッサージに際しては、下腿マッサージ用の空気袋32の左右の凹部35に左右の下腿を入れ、左の空気袋33および中央空気袋34aと、右の空気袋33および中央空気袋34aに同時に、または交互に圧縮空気を給排気して左右のふくらはぎに圧迫、圧迫解放を加える。」

(イ)甲26号証に記載の技術的事項
上記(ア)の記載事項を踏まえると、甲26号証には、次の技術的事項(以下、「甲26技術事項」という。)が記載されているといえる。
「下腿部のマッサージ機において、左右の空気袋に対して交互に圧縮空気を給排気することにより、左右のふくらはぎに圧迫、圧迫開放を加えるマッサージ機。」

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲9号証発明を対比するに、甲9号証発明の「使用者」は、その作用・機能からみて、本件発明1の「被施療者」に相当し、以下同様に、「上半身が凭れる」は「上半身を支持する」に、「座部の両側にそれぞれ設けられ」は「座部の両側に夫々配設され」に、「腕」は「腕部」に、「腕保持部」は「保持部」に、「配置される」は「設けられる」に、それぞれ相当する。
そして、本件発明1の「空気袋は、前記内面の互いに対向する部分のうち少なくとも一方の部分に設けられ」と甲9号証発明の「前記空気袋は、前記内面の互いに対向する部分のそれぞれに配置され」とは、「空気袋は、前記内面の互いに対向する部分に設けられている」点で共通する。

イ 一致点及び相違点
してみれば、本件発明1と甲9号証発明との一致点及び相違点は、次のとおりとなる。
<一致点>
「被施療者が着座可能な座部と、被施療者の上半身を支持する背凭れ部とを備える椅子型のマッサージ機において、
前記座部の両側に夫々配設され、被施療者の腕部を部分的に覆って保持する一対の保持部と、
前記保持部の内面に設けられる膨張及び収縮可能な空気袋と、を有し、
前記保持部は、その幅方向に切断して見た断面において被施療者の腕を挿入する開口が形成されていると共に、その内面に互いに対向する部分を有し、
前記空気袋は、前記内面の互いに対向する部分に設けられているマッサージ機。」

<相違点1>
空気袋について、本件発明1においては、前記内面の互いに対向する部分のうち少なくとも一方の部分に設けられている(構成要件G)のに対して、甲9号証発明においては、前記内面の互いに対向する部分のそれぞれに設けられている点。

<相違点2>
一対の保持部について、本件発明1においては、各々の前記開口が横を向き、且つ前記開口同士が互いに対向するように配設されている(構成要件H)のに対して、甲9号証発明においては、各々の開口が上を向くように配置されている点。

ウ 相違点1についての判断
本件発明1の「前記内面の互いに対向する部分のうち少なくとも一方の部分に設けられている」という構成は、前記内面の互いに対向する部分のそれぞれに設けられている構成を含むことは明らかである。
そうすると、上記相違点1は、実質的には相違点ではない。

エ 相違点2についての判断
(ア)技術分野及び技術的課題
本件発明1と甲9号証発明とは、椅子型マッサージ機において、被施療者の腕部を空気袋によりマッサージする点で技術分野が一致するとともに、被施療者が座部に座った状態で被施療者の腕部を空気袋によりマッサージすることである点で技術的課題が一致する。
ここで、甲9号証発明は、腕保持部の開口が上を向くように配設され、この開口から腕を腕保持部に挿入するものであるが、甲9号証には、この開口の向きを上向き以外の方向に変更することについては記載も示唆もない。さらに、本件発明の属する技術分野において、原出願日よりも前に、そのような変更がよく知られた技術的課題であったする証拠もない。
これについて、被請求人は、上記第7の4(2)イ及びウのとおり、乙1号証ないし乙3号証を提示しつつ、この開口を横向きとすることがユニークな設定及び着眼点であり、そのようなものは原出願日よりも前には存在しなかったと主張する。これに対して、請求人からは、何らかの技術的課題等が存在した又は当業者に認識されていたことを示す証拠は提示されていない。

(イ)周知技術の適用
甲10技術事項は、上記5(1)イ(ア)ないし(ウ)のとおり、図2に示された指圧具8は、人体を二つの挟圧部材9と保持板2で形成される空間に形成された開口が互いに対向しているようにみえるが、この指圧具8は、主に使用者の背中や腰等、身体の大きい部位または広い部位に用いるものであり、腕に用いることは想定されていない(なお、腕に用いるのは、他の実施例である)。つまり、甲10技術事項は、使用者の腰や背中の背骨の両側をそれぞれ押圧するものであり、被施療者の腕部を空気袋によりマッサージするものでない。
甲11技術事項は、上記5(1)ウ(ア)ないし(ウ)のとおり、腕置き16は、着座する人体の重量を支えるためのものであり、被施療者の腕部を施療するための構成を何ら有しておらず、人体に向かって横に開口するのみならず、上に向かっても開口していることから、本件発明1の構成要件Fである「内面に互いに対向する部分」を有していない(本件特許明細書の図13(b)で参考例として示されるものと同じであり、本件発明1とは異なる構成であるといえる)。つまり、甲11技術事項は、背骨などの身体の治療に用いられる装置において、身体の腕の重量を支える支持部を備えた腕置きであり、被施療者の腕部を空気袋によりマッサージするものでない。
甲12技術事項は、上記5(1)エ(ア)及び(イ)のとおり、縦長溝881は、自らでは身体を移動することができない病人を、ベッドプレートの縦プレートが持ち上げられたときに病人が摺動して身体がずれないようにするため、身体全体をしっかり保持するものであり、被施療者の腕部を施療するための構成を何ら有していない。つまり、甲12技術事項は、病人の世話をするための多目的な病床における手の保護クッションであり、被施療者の腕部を空気袋によりマッサージするものでない。
甲13技術事項は、上記5(1)オ(ア)及び(イ)のとおり、骨粗鬆症治療などに用いられるパルス電磁場刺激装置における手首や腕などの上肢をあてがうパッドであり、被施療者の腕部を空気袋によりマッサージするものでない。
してみれば、甲10技術事項ないし甲13技術事項に共通な技術事項が、たとえ、使用者の腕を保持するための手段の開口が人体の方向に向かっており、当該開口が互いに対向するということであったとしても、そもそも、甲10技術事項ないし甲13技術事項の技術事項は、それぞれの属する技術分野が互いに異なるばかりか本件発明の属する技術分野とも異なり、それぞれの技術的課題も作用効果も互いに異なるばかりか本件発明とも共通性を有しないものとなっている。
そうすると、上記(ア)のとおり、甲9号証に腕保持部の開口の方向を上向きから横向きに変更することについて何ら記載も示唆もなく、そのような変更が原出願日よりも前によく知られた技術的課題であったとする証拠もなかったことをあわせて踏まえると、甲9号証発明に甲10号証ないし甲13号証で示す技術を適用する動機付けがあったとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲9号証発明に甲10号証ないし甲13号証で示す周知技術(周知技術A)を適用して当業者が容易に想到したものであるということはできない。

(ウ)甲13技術事項の適用
上記5(1)オ(ア)及び(イ)のとおり、甲13技術事項は、「骨粗鬆症治療などに用いられるパルス電磁場刺激装置であって、椅子20の両側に載置され、手首や腕などの上肢をあてがうパッド31が、c字形をしており、座る人に向かって真横に開口しており、そして、その開口同士が互いに対向している装置。」である。
ところで、上記(ア)のとおり、甲9号証発明には、腕保持部の開口が上向きに配設されたものについて、その向きを横向き等の上向き以外の向きに変更することについては何ら記載も示唆もないし、そのような変更が原出願日よりも前によく知られた技術的課題であったとする証拠もない。
また、甲9号証発明と甲13技術事項とは、これらの属する技術分野も異なれば、腕を施療する点では共通するものの、空気袋によるマッサージと骨粗鬆症治療のためのパルス電磁波供給ということで腕保持部の果たす機能や作用効果が異なる。
そうすると、甲9号証発明に甲13技術事項を適用するための動機付けがあったということはできない。
してみれば、たとえ甲13技術事項において腕保持部の開口が横向きであったとしても、甲9号証発明に対して甲13技術事項を適用することはできない。
したがって、本件発明1は、甲9号証発明に甲13技術事項を適用して、当業者が容易に想到したものであるということはできない。

請求人は、審判請求書53ページの「iv.甲13号証の適用」において、甲9号証発明と甲13技術事項とは、椅子型の医療用具であり腕を保持して刺激を与えて施療する点で共通することから、そしてさらに、甲27号証の記載内容、つまり、家庭用磁気治療器の効能又は効果として「こり及び血行の改善」というマッサージ効果が謳われていることを踏まえると、甲9号証発明に甲13技術事項を組み合わせるべき動機付けがあると主張する(審判請求書53ページ)。
しかしながら、甲9号証発明と甲13技術事項とは腕に対する施療という点では一応共通しているようにみえるが、甲9号証発明は、空気袋を腕に直接接触させて圧力刺激を加えるものであるのに対して、甲13技術事項は、変換コイルで発生するパルス電磁波を腕に対して供給するものであり、この施療方法の違いによって腕保持部自体の構造は異なるものとなっている。
そうすると、甲9号証発明と甲13技術事項とは、技術分野が異なるだけでなく、さらに、施療方法の違いによる作用効果や腕保持部の構造そのものが異なることを踏まえると、甲9号証発明に甲13技術事項を適用するための動機付けが存在するとはいい難く、請求人の主張は採用できない。

(エ)設計事項
上記(ア)のとおり、甲9号証には、腕保持部の開口が上向きから横向きに変更することについて何らの記載も示唆もなく、そのような変更が甲9号証発明の属する技術分野において原出願日よりも前によく知られた周知技術又はよく用いられる常とう手段であったとする証拠も無いことから、甲9号証発明において腕保持部の開口の向きを横向きにすることが設計事項であったということはできない。
したがって、本件発明1は、甲9号証発明に基づいて、当業者が容易に想到したものであるということはできない。

請求人は、審判請求書53ページないし54ページの「v.設計事項」において、「椅子の肘掛けに腕を置くにあたっては腕を上方から移動させることや側方(横)から移動させることはごく一般的なやり方であるから、肘掛け部22にU字状の腕保持部24を設ける甲9号証発明において腕の移動の方法や方向に合わせてU字の開口部を上向きから内側横向きに変えることは当業者が当然に考える設計事項にすぎない。また、開口の向きを縦から横に変更するにあたって何らこれを阻害する事情もない。」と主張する。
確かに、人体の腕が、上方からの移動、側方からの移動のいずれもできるという技術的特徴を有することは、原出願日よりも前に技術常識であったといえる。
しかしながら、本件発明の属する技術分野において、腕保持部の開口は甲9号証発明のように上向きであるものしか知られておらず、このように上向きにすることについて何らの技術的課題も知られておらず、そして、上記(イ)のとおり、横向きの開口が周知技術であったとする証拠は無く、また、よく用いられる常とう手段であったとする証拠も無いことから、甲9号証発明において、腕保持部の開口を上向きから横向きにすることが単なる設計事項に過ぎない又は当業者による通常の創作能力の発揮に過ぎないということはできない。
むしろ、甲9号証発明の腕保持部の上向きの開口に接した当業者が、それについて何らの技術的課題が見いだせないような状況において、請求人が主張するような、人体の構造的特徴に関する技術常識に着目すること自体、斬新な着眼点であるといわざるを得ない。
よって、請求人の主張は採用しない。

オ 本件発明1についてのまとめ
以上のとおりであるので、本件発明1は、(ア)甲9号証発明及び甲10号証ないし甲13号証に記載された周知技術(周知技術A)に基づいて、(イ)甲9号証発明及び甲13に記載された発明に基づいて、又は、(ウ)甲9号証発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本件発明1に係る特許は、特許法第29条2項の規定に違反してなされたものではない。

(3)本件発明2について
ア 対比
本件発明2は、本件発明1の構成要件Aないし構成要件Iに加えて、構成要件J及び構成要件Kを含むものであることから、本件発明2と甲9号証発明とは、上記一致点で一致し、上記相違点1及び相違点2に加えて、次の点で相違する。

<相違点3>
本件発明2においては、前記一対の保持部は、各々の前記開口が真横を向いている(構成要件J)のに対して、甲9号証発明においては、そのような構成を有するか明らかでない点。

イ 判断
甲10技術事項及び甲13技術事項から、腕の保持部の開口が真横を向いている点は、原出願日よりも前に公知であったことがうかがえる。
しかしながら、上記(2)エ(ア)のとおり、甲9号証には、甲9号証発明の腕保持部の開口が上向きから横向きに変更することについて記載も示唆もないし、そのような変更が原出願日よりも前によく知られた技術的課題であったとする証拠もない。
してみれば、たとえ、腕の保持部の開口が真横を向いている点が、原出願日よりも前に、甲10技術事項及び甲13技術事項により周知技術であったとしても、又は、甲13技術事項が公知であったとしても、上記(2)エ(ア)ないし(ウ)のとおり、甲9号証発明にこの点を適用する動機付けが存在したとはいえないことから、上記相違点3に係る本件発明2の構成は、甲9号証発明、及び、甲10技術事項及び甲13技術事項に記載された周知技術(周知技術B)に基づいて、又は、甲9号証発明及び甲13技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。さらに、甲9号証発明の単なる設計事項であるともいえない。

ここで、上記相違点1及び2については、上記(2)のとおりであり、また、上記相違点3については、上記のとおりであるから、本件発明2は、(ア)甲9号証発明、及び、甲10号証ないし甲13号証に記載された周知技術(周知技術A+周知技術B)に基づいて、(イ)甲9号証発明、甲13号証に記載された発明、及び、甲10号証及び甲13号証に記載された周知技術(周知技術B)に基づいて、(ウ)甲9号証発明、及び、甲10号証及び甲13号証に記載された周知技術(周知技術B)に基づいて、(エ)甲9号証発明、及び、甲10号証ないし甲13号証に記載された周知技術(周知技術A)に基づいて、(オ)甲9号証発明及び甲13号証に記載された発明に基づいて、又は、(カ)甲9号証発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本件発明2に係る特許は、特許法第29条の第2項の規定に違反してなされたものではない。

(4)本件発明3について
ア 対比
本件発明3は、本件発明1及び本件発明2の構成要件Aないし構成要件Kに加えて、構成要件L及び構成要件Mを含むものであることから、本件発明3と甲9号証発明とは、上記一致点で一致し、上記相違点1ないし相違点3に加えて、次の点で相違する。

<相違点4>
本件発明3においては、前記保持部は、被施療者の前腕と手首又は掌を保持可能である(構成要件L)のに対して、甲9号証発明においては、そのような構成を有するか明らかでない点。

イ 判断
甲14技術事項ないし甲16技術事項から、被施療者の腕部をマッサージするにあたって、掌、手首、前腕を含む手部をマッサージすることは、周知技術(周知技術C)であるといえることから、甲9号証発明及び上記周知技術(周知技術C)に基づいて、上記相違点4に係る本件発明3の構成を想到することは、当業者にとって何ら困難性はない。

しかしながら、上記相違点1ないし3については、上記(2)及び(3)のとおりであるので、上記相違点4についての判断にかかわらず、本件発明3は、(ア)甲9号証発明、及び、甲10号証ないし甲13号証に記載された周知技術(周知技術A)に基づいて、(イ)甲9号証発明及び甲13号証に記載された発明に基づいて、又は、(ウ)甲9号証発明に基づいて、(エ)甲9号証発明、甲10号証ないし甲13号証に記載された周知技術(周知技術A)、及び、甲14号証ないし甲16号証に記載された周知技術(周知技術C)に基づいて、(オ)甲9号証発明、甲13号証に記載された発明、及び、甲14号証ないし甲16号証に記載された周知技術(周知技術C)に基づいて、又は、(カ)甲9号証発明、及び、甲14号証ないし甲16号証に記載された周知技術(周知技術C)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本件発明3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

(5)本件発明4について
ア 対比
本件発明4は、本件発明1ないし本件発明3の構成要件Aないし構成要件Mに加えて、構成要件N及び構成要件Oを含むものであることから、本件発明4と甲9号証発明とは、上記一致点で一致し、上記相違点1ないし相違点4に加えて、次の点で相違する。

<相違点5>
本件発明4においては、前記空気袋は、前記開口側の部分の方が奥側の部分よりも立ち上るように構成されている(構成要件N)のに対して、甲9号証発明においては、そのような構成を有するか明らかでない点。

イ 判断
甲17技術事項ないし甲20技術事項には、肢体を空気袋により施療する技術において、肢体保持部の両側壁の奥側の部分よりも開口側の部分の方において立ち上がる点が記載されているといえることから、甲9号証発明及び甲17号証ないし甲20号証に記載された周知技術(周知技術D)に基づいて、上記相違点5に係る本件発明4の構成を想到することは、当業者にとって何ら困難性はない。

しかしながら、上記相違点1ないし4については、上記(2)ないし(4)のとおりであるので、相違点5についての判断にかかわらず、本件発明4は、(ア)甲9号証発明、甲10号証ないし甲13号証に記載された周知技術(周知技術A)、及び、甲17号証ないし甲20号証に記載された周知技術(周知技術D)に基づいて、(イ)甲9号証発明、甲13号証に記載された発明、及び、甲17号証ないし甲20号証に記載された周知技術(周知技術D)に基づいて、(ウ)甲9号証発明及び甲17号証ないし甲20号証に記載された周知技術(周知技術D)に基づいて、(エ)甲9号証発明、甲10号証ないし甲13号証に記載された周知技術(周知技術A)、及び、甲17号証ないし甲20号証に記載された発明のいずれかに基づいて、(オ)甲9号証発明、甲13号証に記載された発明、及び、甲17号証ないし甲20号証に記載された発明のいずれかに基づいて、又は、(カ)甲9号証発明、及び、甲17号証ないし甲20号証に記載された発明のいずれかに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本件発明4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

(6)本件発明5について
ア 対比
本件発明5は、本件発明1ないし本件発明4の構成要件Aないし構成要件Oに加えて、構成要件Pないし構成要件Sを含むものであることから、本件発明5と甲9号証発明とは、上記一致点で一致し、上記相違点1ないし相違点5に加えて、次の点で相違する。

<相違点6>
本件発明5においては、前記背凭れ部は、被施療者の胴体を支持するクッション部と、前記クッション部より前方へ延設され被施療者の上腕及び肩の側部を覆う部分を有するカバー部と、を有し、前記カバー部には、膨張及び収縮することにより被施療者の肩に刺激を与えることができる空気袋が設けられている(構成要件Pないし構成要件R)のに対して、甲9号証発明においては、そのような構成を有するか明らかでない点。

イ 判断
甲22技術事項は、椅子式のマッサージ機において、背凭れ部の両側部に前方突出した左右一対の突起体が設けられ、これら突起体の内側両面に空気式のマッサージ具が取付けられており、当該マッサージ具によって人体の背中の両側部(両脇ないし両腕)を左右に挟むように押圧しながらマッサージするものであり、甲9号証発明及び甲22技術事項に基づいて、上記相違点6に係る本件発明5の構成を想到することは、当業者にとって何ら困難性はない。

しかしながら、上記相違点1ないし5については、上記(2)ないし(5)のとおりであるので、相違点6についての判断にかかわらず、本件発明5は、(ア)甲9号証発明、甲10号証ないし甲13号証に記載された周知技術(周知技術A)、及び、甲21号証又は甲22号証に記載された発明のいずれかに基づいて、(イ)甲9号証発明、甲13号証に記載された発明、及び、甲21号証又は甲22号証に記載された発明のいずれかに基づいて、又は、(ウ)甲9号証発明、及び、甲21号証又は甲22号証に記載された発明のいずれかに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本件発明5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

(7)本件発明6について
ア 対比
本件発明6は、本件発明1ないし本件発明5の構成要件Aないし構成要件Sに加えて、構成要件T及び構成要件Uを含むものであることから、本件発明6と甲9号証発明とは、上記一致点で一致し、上記相違点1ないし相違点6に加えて、次の点で相違する。

<相違点7>
本件発明6においては、左腕用の前記保持部に設けられた空気袋と、右腕用の前記保持部に設けられた空気袋と、は、夫々独立に駆動されるよう構成されている(構成要件T)のに対して、甲9号証発明においては、そのような構成を有するか明らかでない点。

イ 判断
甲23技術事項は、エアバックにより上肢をマッサージするマッサージ機において、左肢体用と右肢体用のエアバックをそれぞれ独立して駆動させるものであり、甲9号証発明及び甲23技術事項に基づいて、上記相違点7に係る本件発明6の構成を想到することは、当業者にとって何ら困難性はない。

しかしながら、上記相違点1ないし6については、上記(2)ないし(6)のとおりであるので、相違点7についての判断にかかわらず、本件発明6は、(ア)甲9号証発明、甲10号証ないし甲13号証に記載された周知技術(周知技術A)、及び、甲23号証ないし甲26号証に記載された周知技術(周知技術E)に基づいて、(イ)甲9号証発明、甲13号証に記載された発明、及び、甲23号証ないし甲26号証に記載された周知技術(周知技術E)に基づいて、(ウ)甲9号証発明及び甲23号証ないし甲26号証に記載された周知技術(周知技術E)に基づいて、(エ)甲9号証発明及び甲10号証ないし甲13号証に記載された周知技術(周知技術A)に基づいて
、(オ)甲9号証発明及び甲13号証に記載された発明に基づいて、(カ)甲9号証発明に基づいて、(キ)甲9号証発明、甲10号証ないし甲13号証に記載された周知技術(周知技術A)、及び、甲23号証又は甲25号証に記載された発明のいずれかに基づいて、(ク)甲9号証発明、甲13号証に記載された発明、及び、甲23号証又は甲25号証に記載された発明のいずれかに基づいて、又は、(ケ)甲9号証発明、及び、甲23号証又は甲25号証に記載された発明のいずれかに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本件発明6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

(8)小括
以上のとおり、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、特許法第123条第1項第2号に該当しない。
よって、請求人が主張する無効理由4により、本件発明に係る特許を無効とすることはできない。

7 無効理由5(分割要件違反に伴う新規性及び進歩性欠如)について
上記2のとおり、事項G、H、J、L、N及びFに係る本件補正は、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
そして、原出願の出願当初の願書に添付した明細書又は図面(以下、「原出願当初明細書等」という。甲29号証(原出願の公開特許公報)を参照。)と本件特許明細書の記載事項及びその図面の図示内容は同じである。
してみると、事項G、H、J、L、N及びFに係る本件補正は、原出願当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。また、他に本件発明に係る特許出願を不適法な分割出願であるとする理由も見当たらない。
よって、本件発明に係る特許出願は、特許法第44条に規定する分割出願の要件を満たすので、同条第2項に規定する出願日の遡及効の利益を得ることができ、その遡及日は「平成21年12月4日」に遡及する。
したがって、甲29号証は、本件発明に係る特許出願の遡及日よりも前に頒布された刊行物であるとはいえない。

以上のとおり、本件発明に係る特許は、甲29号証に基づいた特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定に違反してされたものではないから、特許法第123条第1項第2号に該当しない。
よって、請求人が主張する無効理由5により、本件発明に係る特許を無効とすることはできない。

8 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担するべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2020-07-01 
結審通知日 2020-07-06 
審決日 2020-07-31 
出願番号 特願2012-61490(P2012-61490)
審決分類 P 1 113・ 55- Y (A61H)
P 1 113・ 121- Y (A61H)
P 1 113・ 537- Y (A61H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 土田 嘉一  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 倉橋 紀夫
内藤 真徳
登録日 2012-06-08 
登録番号 特許第5009445号(P5009445)
発明の名称 マッサージ機  
代理人 辻本 良知  
代理人 手代木 啓  
代理人 古庄 俊哉  
代理人 杉野 文香  
代理人 矢倉 雄太  
代理人 石津 真二  
代理人 重冨 貴光  
代理人 特許業務法人R&C  
代理人 富田 詩織  
代理人 辻本 希世士  
代理人 三山 峻司  
代理人 丸山 英之  
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