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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C12C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C12C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C12C
管理番号 1378717
異議申立番号 異議2020-700130  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-11-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-02-28 
確定日 2021-08-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6567396号発明「高アルコールならではの嗜好性と飲みやすさを両立した発酵麦芽飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6567396号の特許請求の範囲を、令和3年4月16日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕、8、9について訂正することを認める。 特許第6567396号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続きの経緯
特許第6567396号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成27年11月20日の出願であって、令和1年8月9日にその特許権の設定登録がされ、同年8月28日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1?9に係る特許について、令和2年2月28日に特許異議申立人 中川賢治(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
特許異議申立て後の手続きの経緯は、概略、以下のとおりである。
令和2年 5月18日付け 取消理由通知
同 年 7月21日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同 年 9月 2日 意見書(申立人)
同 年10月16日付け 訂正拒絶理由通知
同 年11月20日 意見書・手続補正書(特許権者)
令和3年 1月 7日 意見書(申立人)
令和3年 2月12日付け 取消理由通知(決定の予告)
令和3年 4月16日 意見書・訂正請求書(特許権者)
令和3年 5月31日 意見書(申立人)

第2 訂正の適否
1 令和2年7月21日になされた訂正請求について
令和2年7月21日になされた訂正請求は、その後の令和3年4月16日に訂正請求がなされたため、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

2 令和3年4月16日になされた訂正請求の趣旨、及び訂正の内容
令和3年4月16日になされた訂正請求は、その請求の趣旨を「特許第6567396号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?9について訂正を求める。」とするものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、令和3年4月16日提出の訂正請求書に記載されるとおりの以下のとおりのものである。

(1)訂正事項1-1
特許請求の範囲の請求項1において、「発酵麦芽飲料」を「原料として少なくとも水、ホップ、および麦芽を使用した発酵麦芽飲料」に訂正する。

(2)訂正事項1-2
特許請求の範囲の請求項1において、「乳酸、リン酸、酒石酸、またはリンゴ酸、またはこれらの任意の組合わせ」を「乳酸、リン酸、酒石酸、またはリンゴ酸」に訂正する。

(3)訂正事項2-3
特許請求の範囲の請求項2に「有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1900?2200mg/Lである、請求項1に記載の発酵麦芽飲料」と記載されているのを、「有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1900?2200mg/Lであり、アルコール濃度が7?10(v/v)%である、原料として少なくとも水、ホップ、および麦芽を使用した発酵麦芽飲料であって、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が、乳酸、リン酸、酒石酸、リンゴ酸、またはこれらの任意の組合わせの濃度調整によって調整されたものである、発酵麦芽飲料」に訂正する。

(4)訂正事項8-1
特許請求の範囲の請求項8において、「発酵麦芽飲料」を「原料として少なくとも水、ホップ、および麦芽を使用した発酵麦芽飲料」に訂正する。

(5)訂正事項8-2
特許請求の範囲の請求項8において、「乳酸、リン酸、酒石酸、またはリンゴ酸、またはこれらの任意の組合わせ」を「乳酸、リン酸、酒石酸、またはリンゴ酸」に訂正する。

(6)訂正事項9-1
特許請求の範囲の請求項9において、「発酵麦芽飲料」を「原料として少なくとも水、ホップ、および麦芽を使用した発酵麦芽飲料」に訂正する。

(7)訂正事項9-2
特許請求の範囲の請求項9において、「乳酸、リン酸、酒石酸、またはリンゴ酸、またはこれらの任意の組合わせ」を「乳酸、リン酸、酒石酸、またはリンゴ酸」に訂正する。

なお、訂正前の請求項2?7は、訂正前の請求項1を引用し、これら請求項は一群の請求項を構成するところ、上記訂正事項1-1及び訂正事項1-2に係る特許請求の範囲の訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、この一群の請求項1?7を訂正の単位として請求されたものである。

2 訂正要件についての判断
(1)訂正事項1-1、訂正事項8-1、及び訂正事項9-1
ア 訂正の目的
訂正事項1-1、訂正事項8-1、及び訂正事項9-1は、それぞれ、訂正前の請求項1、請求項8、請求項9における「発酵麦芽飲料」との記載を「原料として少なくとも水、ホップ、および麦芽を使用した発酵麦芽飲料」との記載に訂正することにより、使用した原料で限定することにより、「発酵麦芽飲料」の範囲を減縮するものであるから、いずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であること
願書に添付した明細書の段落0008には「本発明による発酵麦芽飲料は、好ましくは、原料として少なくとも水、ホップ、および麦芽を使用した発酵麦芽飲料とされる。」と記載されている。
したがって、訂正事項1-1、訂正事項8-1、及び訂正事項9-1は、いずれも、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでないこと
上記(1)に示したとおり、訂正事項1-1、訂正事項8-1、及び訂正事項9-1は、それぞれ、訂正前の請求項1、請求項8、請求項9に係る「発酵麦芽飲料」の範囲を減縮するものであり、カテゴリーを変更するものでもないから、いずれも、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項1-2、訂正事項8-2、及び訂正事項9-2
ア 訂正の目的
訂正事項1-2、訂正事項8-2、及び訂正事項9-2は、それぞれ、訂正前の請求項1、請求項8、請求項9における「乳酸、リン酸、酒石酸、またはリンゴ酸、またはこれらの任意の組合わせ」との記載を「乳酸、リン酸、酒石酸、またはリンゴ酸」との記載に訂正することにより、「乳酸、リン酸、酒石酸、またはリンゴ酸、またはこれらの任意の組合わせ」から選択肢である「これらの任意の組合わせ」の場合を削除することにより、その範囲を減縮するものであるから、いずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であること
願書に添付した特許請求の範囲の請求項1、請求項8、請求項9には「乳酸、リン酸、酒石酸、またはリンゴ酸、またはこれらの任意の組合わせ」との記載があり、選択肢として「乳酸、リン酸、酒石酸、またはリンゴ酸」の場合が記載されているといえるから、訂正事項1-2、訂正事項8-2、及び訂正事項9-2は、いずれも、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでないこと
上記アに示したとおり、訂正事項1-2、訂正事項8-2、及び訂正事項9-2は、それぞれ、訂正前の請求項1、請求項8、請求項9に係る「乳酸、リン酸、酒石酸、またはリンゴ酸、またはこれらの任意の組合わせ」の範囲を減縮するものであり、カテゴリーを変更するものでもないから、いずれも、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項2-3
ア 訂正の目的
訂正事項2-3は、訂正前の請求項2の記載が訂正前の請求項1の記載を引用するものであるところ、請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項へ改めるものである。
そして、訂正事項2-3は、訂正前の請求項2が引用する訂正前の請求項1に記載された「発酵麦芽飲料」について、「発酵麦芽飲料」を「原料として少なくとも水、ホップ、および麦芽を使用した発酵麦芽飲料」として限定することにより、特許請求の範囲を減縮し、
訂正前の請求項2が引用する訂正前の請求項1に記載されたアルコールの濃度範囲及び有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計の範囲についての
「(a)乳酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整される場合には、
(i)アルコール濃度が7(v/v)%以上13(v/v)%以下の場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2200mg/L以下に調整され、
(ii)アルコール濃度が13(v/v)%を超えて16(v/v)%以下の場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2600mg/L以下に調整され、
(b)酒石酸またはリンゴ酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整される場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1900mg/L以上2600mg/L以下に調整され、かつ、アルコール濃度が7?10(v/v)%に調整され、
(c)リン酸の濃度調整により有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が調整される場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1900mg/L以上2600mg/L以下に調整され、かつ、アルコール濃度が7?10(v/v)%に調整される」との事項を削除するとともに、
訂正前の請求項2が引用する訂正前の請求項1に記載された「アルコール濃度が7?16(v/v)%」との事項を「アルコール濃度が7?10(v/v)%」に減縮するものである。
上記、アルコールの濃度範囲及び有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計の範囲についての記載の削除は、訂正前には、
・(a)乳酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整される場合、(b)酒石酸またはリンゴ酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整される場合、(c)リン酸の濃度調整により有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が調整される場合に、アルコール濃度範囲及び有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計の範囲が異なっており、また、
・乳酸、リン酸、酒石酸、またはリンゴ酸の任意の組合せの濃度調整により有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が調整される場合(以下、「(d)の場合」ともいう。)が、上記(a)の場合、上記(b)の場合、又は上記(c)の場合のいずれかに該当するのか、あるいは、いずれにも該当しないのか、明確ではなかったものを、
(a)?(d)のすべての場合について、「アルコールの濃度が7?10(v/v)%」であり「有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1900?2200mg/L」であるものに限定して、アルコールの濃度範囲及び有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計の範囲を明確にするものである。
したがって、訂正事項2-3は、全体として、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当するとともに、同法同条同項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び同法同条同項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

イ 願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であること
本件特許明細書には「本発明の発酵麦芽飲料には、アルコールが7?20(v/v)%の濃度で含まれる。本発明の発酵麦芽飲料のアルコール濃度は、好ましくは7?16(v/v)%、より好ましくは7?13(v/v)%、さらに好ましくは7?10(v/v)%とされる。」(特許公報5頁42?44行)と記載され、「本発明による発酵麦芽飲料は、好ましくは、原料として少なくとも水、ホップ、および麦芽を使用した発酵麦芽飲料とされる。」(特許公報4頁32?34行)と記載されているから、訂正事項2-3は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでないこと
訂正事項2-3は、
・「発酵麦芽飲料」を「原料として少なくとも水、ホップ、および麦芽を使用した発酵麦芽飲料」として限定し、
上記(a)の場合におけるアルコールの濃度範囲及び有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計の範囲を限定し、
上記(b)の場合におけるアルコールの濃度範囲及び有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計の範囲を限定し、
上記(c)の場合におけるアルコールの濃度範囲及び有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計の範囲を限定し、
上記(d)の場合におけるアルコールの濃度範囲及び有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計の範囲を、
・乳酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整される場合における範囲、
・酒石酸またはリンゴ酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整される場合における、及び
・リン酸の濃度調整により有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が調整される場合における範囲
のいずれにも包含される、より狭い範囲に限定するものであり、カテゴリーを変更するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(4)申立人の令和3年5月31日提出の意見書における主張について
申立人は、上記訂正事項2-3について、訂正前の請求項2が引用する訂正前の請求項1に記載されたアルコールの濃度範囲及び有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計の範囲についての(a)?(c)の構成が削除されているので、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定される事項を目的とする訂正には該当せず、加えて、発明の技術的範囲が拡張されているので、特許法第120条の5第2項ただし書各号を目的とする訂正ではなく、当該訂正は認められるべきではない旨を主張している。
また、申立人は、上記(a)?(c)の構成は、本件特許に係る特許出願の審査段階の令和1年5月14日付け拒絶理由通知書で通知された進歩性欠如の拒絶理由を解消するために、令和1年6月18日付けの手続補正書により追加された構成であって、本件特許の進歩性を満たすために重要な構成であり、発酵麦芽飲料の有機酸濃度の調整を(a)?(c)に規定される方法以外で調整する態様は、特許請求の範囲から意識的に除外されたものというべきものであり、上記訂正事項2-3によって(a)?(c)の構成を除外した発明についても本件特許の技術的範囲内であるとの主張は、包袋禁反言の法理に照らし許されるものではない旨も主張している。
しかし、訂正事項2-3は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号のみを目的としたものではなく、上記第2 2(3)アに示したとおり、訂正事項2-3は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当するとともに、同法同条同項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び同法同条同項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当するものである。
また、訂正前の請求項2が引用する訂正前の請求項1に記載されたアルコールの濃度範囲及び有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計の範囲について、上記(d)の場合が、上記(a)の場合、上記(b)の場合、又は上記(c)の場合のいずれかに該当するのか、あるいは、いずれにも該当しないのか、明確ではなかったとはいえるものの、たとえ本件特許に係る特許出願の審査経過を検討しても、審査段階での令和1年5月14日付け拒絶理由通知に対応して、令和1年6月18日付けの手続補正書により、上記(a)の場合、上記(b)の場合、及び上記(c)の場合におけるアルコールの濃度範囲及び有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計の範囲を限定する補正をおこなったことが認められるにとどまり、当該補正が上記(d)の場合を除外したものとは認められない。
したがって、申立人の令和3年5月31日提出の意見書における主張は、採用することができない。

(5)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕、8、9について訂正することを認める。

第3 本件発明
本件訂正は、上記第2で検討したとおり適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?9に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明9」といい、これらをまとめて「本件発明」ということがある。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600?2600mg/Lであり、アルコール濃度が7?16(v/v)%である、原料として少なくとも水、ホップ、および麦芽を使用した発酵麦芽飲料であって、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が、乳酸、リン酸、酒石酸、またはリンゴ酸の濃度調整によって調整されたものであり、
(a)乳酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整される場合には、
(i)アルコール濃度が7(v/v)%以上13(v/v)%以下の場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2200mg/L以下に調整され、
(ii)アルコール濃度が13(v/v)%を超えて16(v/v)%以下の場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2600mg/L以下に調整され、
(b)酒石酸またはリンゴ酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整される場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1900mg/L以上2600mg/L以下に調整され、かつ、アルコール濃度が7?10(v/v)%に調整され、
(c)リン酸の濃度調整により有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が調整される場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1900mg/L以上2600mg/L以下に調整され、かつ、アルコール濃度が7?10(v/v)%に調整される、発酵麦芽飲料。
【請求項2】 有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1900?2200mg/Lであり、アルコール濃度が7?10(v/v)%である、原料として少なくとも水、ホップ、および麦芽を使用した発酵麦芽飲料であって、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が、乳酸、リン酸、酒石酸、リンゴ酸、またはこれらの任意の組み合わせの濃度調整によって調整されたものである、発酵麦芽飲料。
【請求項3】 乳酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整され、
(i)アルコール濃度が7(v/v)%以上13(v/v)%以下の場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2200mg/L以下に調整され、
(ii)アルコール濃度が13(v/v)%を超えて16(v/v)%以下の場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2600mg/L以下に調整される、請求項1に記載の発酵麦芽飲料。
【請求項4】 酒石酸またはリンゴ酸の濃度調整により、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1900mg/L以上2600mg/L以下に調整される、請求項1に記載の発酵麦芽飲料。
【請求項5】 リン酸の濃度調整により、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1900mg/L以上2600mg/L以下に調整される、請求項1に記載の発酵麦芽飲料。
【請求項6】 色度が100EBC以下である、請求項1?5のいずれか一項に記載の発酵麦芽飲料。
【請求項7】 全窒素の含有量が1300mg/L以下である、請求項1?6のいずれか一項に記載の発酵麦芽飲料。
【請求項8】 アルコール濃度が7?16(v/v)%である、原料として少なくとも水、ホップ、および麦芽を使用した発酵麦芽飲料を製造する方法であって、該発酵麦芽飲料中の有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600?2600mg/Lになるように、乳酸、リン酸、酒石酸、またはリンゴ酸の濃度を調整する工程を含んでなり、
(a)乳酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整される場合には、
(i)アルコール濃度が7(v/v)%以上13(v/v)%以下の場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2200mg/L以下に調整され、
(ii)アルコール濃度が13(v/v)%を超えて16(v/v)%以下の場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2600mg/L以下に調整され、
(b)酒石酸またはリンゴ酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整される場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1900mg/L以上2600mg/L以下に調整され、かつ、アルコール濃度が7?10(v/v)%に調整され、
(c)リン酸の濃度調整により有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が調整される場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1900mg/L以上2600mg/L以下に調整され、かつ、アルコール濃度が7?10(v/v)%に調整される、方法。
【請求項9】 アルコール濃度が7?16(v/v)%である、原料として少なくとも水、ホップ、および麦芽を使用した発酵麦芽飲料に高アルコールならではの嗜好性と飲みやすさを付与する方法であって、該発酵麦芽飲料中の有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600?2600mg/Lになるように、乳酸、リン酸、酒石酸、またはリンゴ酸の濃度を調整する工程を含んでなり、
(a)乳酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整される場合には、
(i)アルコール濃度が7(v/v)%以上13(v/v)%以下の場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2200mg/L以下に調整され、
(ii)アルコール濃度が13(v/v)%を超えて16(v/v)%以下の場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2600mg/L以下に調整され、
(b)酒石酸またはリンゴ酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整される場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1900mg/L以上2600mg/L以下に調整され、かつ、アルコール濃度が7?10(v/v)%に調整され、
(c)リン酸の濃度調整により有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が調整される場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1900mg/L以上2600mg/L以下に調整され、かつ、アルコール濃度が7?10(v/v)%に調整される、方法。」

第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
1 取消理由(取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由)の概要
本件訂正前の請求項1?9に係る特許に対して、当審が令和3年2月12日付け取消理由通知(決定の予告)により通知した取消理由の要旨は、以下の1.のとおりである。

1.(明確性要件違反)
請求項1?9に係る発明は、有機酸単独またはリン酸単独の濃度調整以外にも「これらの任意の組合せ」の濃度調整により有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が調整される場合を包含しているにもかかわらず、「これらの任意の組合せ」の濃度調整による場合の有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計及びアルコール濃度の規定が不明である結果、請求項1?9に係る発明は明確でないから、請求項1?9に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

2 当審の判断
(1)本件発明1、3?7
本件発明1、3?7は、いずれも、発酵麦芽飲料における有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が、乳酸、リン酸、酒石酸、またはリンゴ酸の濃度調整によって調整されたものであり、かつ、(a)乳酸の濃度調整によって有機酸の濃度が調整される場合、(b)酒石酸またはリンゴ酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整される場合、(c)リン酸の濃度調整により有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が調整される場合、のそれぞれについて、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計の範囲及びアルコール濃度の範囲が特定されている。
したがって、本件発明1、3?7における発酵麦芽飲料における有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計の範囲及びアルコール濃度の範囲は明確であり、他に本件発明1、3?7が明確でないとすべき理由も見出せない。
よって、本件発明1、3?7は明確であるといえる。

(2)本件発明2
本件発明2は、発酵麦芽飲料における有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が、乳酸、リン酸、酒石酸、リンゴ酸、またはこれらの任意の組合せの濃度調整によって調整されたものであり、かつ、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計の範囲及びアルコール濃度の範囲が特定されている。
したがって、本件発明2における発酵麦芽飲料における有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計の範囲及びアルコール濃度の範囲は明確であり、他に本件発明2が明確でないとすべき理由も見出せない。
よって、本件発明2は明確であるといえる。

(3)本件発明8?9
本件発明8?9は、いずれも、製造される発酵麦芽飲料中の有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が特定範囲になるように、乳酸、リン酸、酒石酸、またはリンゴ酸の濃度を調整する工程を含んでいるものであり、かつ、(a)乳酸の濃度調整によって有機酸の濃度が調整される場合、(b)酒石酸またはリンゴ酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整される場合、(c)リン酸の濃度調整により有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が調整される場合、のそれぞれについて、製造される発酵麦芽飲料中の有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計の範囲及びアルコール濃度の範囲が特定されている。
したがって、本件発明8?9により製造される発酵麦芽飲料中の有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計の範囲及びアルコール濃度の範囲は明確であり、他に本件発明8?9が明確でないとすべき理由も見出せない。
よって、本件発明8?9は明確であるといえる。

(4)取消理由(取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由)についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正によって、上記取消理由は解消したといえる。

第5 令和2年5月18日付け取消理由通知で通知した取消理由について
本件訂正によって、令和2年5月18日付け取消理由通知で通知した取消理由1.及び2.は、解消したといえる。

第6 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立人は、特許異議申立書とともに以下の甲第1号証?甲第6号証を提出し、令和2年9月2日提出の意見書とともに以下の甲第7号証を提出し、令和3年1月7日提出の意見書とともに以下の甲第8号証を提出して、次の申立理由1A?申立理由5を主張する。

甲第1号証:W.J.Klopper, et al,“CENTENARY REVIEW ORGANIC ACIDS AND GLYCEROL IN BEER”, Journal of the Institute of Brewing, Vol.92, pp.225-228(1986)(抄訳添付)
甲第2号証:「醸造物の成分」,187-190頁,財団法人日本醸造協会,平成11年12月10日発行
甲第3号証:特開2007-6749号公報
甲第4号証:特開2015-107099号公報
甲第5号証:佐藤信 他,“麦芽飲料について”,日本釀造協會雑誌,第75巻,第4号,pp.344-346(1980)
甲第6号証:「1 エタノール換算表」,独立行政法人医薬品医療機器総合機構,[on line][令和2年2月26日検索]<URL:https://www.pmda.go.jp/files/000163417.pdf>
甲第7号証:「醸造物の成分」,236-241頁,財団法人日本醸造協会,平成11年12月10日発行
甲第8号証:島津善美 他,“清酒に含まれる有機酸の酸味に及ぼす飲用温度の影響”,日本調理科学会誌,第42巻,第5号,pp.327-333(2009)
(以下、順に「甲1」、「甲2」、……、「甲8」ともいう。)

申立理由1A(新規性欠如):
本件特許の請求項1及び3に係る発明は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであって、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

申立理由2A(進歩性欠如):
本件特許の請求項1、3、6及び7に係る発明は、甲1に記載された発明及び本件特許出願時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

申立理由2B(進歩性欠如):
本件特許の請求項1、3、6、7、8、9に係る発明は、甲4に記載された発明並びに甲3の記載及び本件特許出願時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許の請求項2、4、5に係る発明は、甲4に記載された発明並びに甲3及び甲5の記載及び本件特許出願時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

申立理由3(明確性要件違反):
本件特許の請求項1、3、4、及び5は、いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームであり、不可能・非実際的事情が存在するとは言えず、明確ではない。
よって、本件特許の請求項1、3、4、5は明確でないから、請求項1、3、4、5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

申立理由4(サポート要件違反)及び申立理由5(実施可能要件違反):
本件明細書の記載からは、多種多様な発酵麦芽飲料を原料とした場合にも、本件明細書の実施例1と同様にして乳酸で飲料の有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計を1600mg/Lに調整した場合に、実施例1と同様に本件発明の効果が奏されるとは、当業者には理解できない。リン酸等の場合も同様である。したがって、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された内容を、本件特許の請求項1?9の技術的範囲にまで拡張ないし一般化することはできず、本件特許の請求項1?9に係る発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、また、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件特許の請求項1?9に係る発明の全範囲において当業者が実施できるように記載されているとはいえないから、請求項1?9に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

2 甲号証の記載
(1)甲1の記載
甲1には、以下の事項が記載されている。
記載事項(1-1)(当審による邦訳で示す。)
「タイプと産生国が様々であるビールのピルビン酸、クエン酸、L-リンゴ酸、酢酸、L-乳酸、及びグリセロールの濃度を測定した。有機酸とグリセロールの含有量に大きな違いがあり、特にタイプの異なるビール間での違いが大きかった。酢酸、乳酸、及びグリセロールの量は、プロセスパラメータとして使用できる。麦芽の製造中には、TCAサイクル経路によってリンゴ酸とクエン酸の比率が低下した。 酢酸含有量とグリセロール含有量は、発酵中に増加した。」(p.225 最上段)

記載事項(1-2)


」(p.225 最下段)

(2)甲2の記載
甲2には、以下の事項が記載されている。
記載事項(2-1)
「1 無機成分とその由来
(1)含有量
我が国の一般的なビール(原麦汁濃度10?11%)の無機成分の含有量は,灰分としておよそ0.1?0.2%である。これは同じ醸造酒である清酒の灰分含量0.04?0.06%のほぼ3倍であり,ワイン(0.17?0.30%)と比べるとその60?70%の量である。ビールはこの点で濃度(あるいは原料使用量)の割には,無機成分に富んでいるといえよう^(1))。灰分を構成する個々の無機成分(イオン)の量は,原料(麦芽,ホップ,水)や製造方法,設備,さらには製品の容器(ビン,缶)等の諸条件によって左右され一定ではないが,主なものは陽イオンとして,K^(+),Mg^(2+),Ca^(2+),Na^(+),陰イオンとして,PO_(4)^(3-),SiO_(2)^(2-),Cl^(-),SO_(4)^(2-)がある。微量含まれるものとして,Fe,Cu,Zn,Ni,Co,Pb,Al,F等が挙げられる。代表的なビールの無機質の含量を,第1表に示した^(2?5))。」(187頁左欄1?15行)

記載事項(2-2)


」(187頁最下段)

記載事項(2-3)
「ビールに金属イオンが官能閾値以上(例えば鉄の場合は,弁別閾値が1mg/lFeとして)含まれると,いわゆる金属味(Metallic Flavor)が生じる。それ以外にも,ビール醸造に使用する無機塩類の種類によって,ビールの味感に与える影響が異なることが知られている。」(189頁左欄11?15行)

(3)甲3の記載
甲3には、以下の事項が記載されている。
記載事項(3-1)
「【0002】
麦芽使用発酵飲料に含まれる有機酸は、製麦・仕込工程での原料、及び発酵工程での酵母代謝から由来することが知られている。一方で、醸造工程中で糖化時に麦芽の各酵素反応促進や麦汁濾過時に麦粕の渋味成分抑制・色調上昇抑制、煮沸時における蛋白質凝固適正化等のためにpH調整剤が使用されており、この時のpH調整剤として用いる酸も有機酸の濃度に影響を与えるとされている。一般的にはpH調整剤の酸(以下、pH調整酸と記す)は、乳酸、リン酸が使用されている。乳酸は穏やかでやわらかい酸味、リン酸はしまりのある酸味と言われている。」(段落0002)

記載事項(3-2)
「【0003】
原料由来の有機酸としては、麦芽中の主要有機酸であるクエン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸等であり、酵母代謝由来の有機酸としてはピルビン酸、コハク酸、リンゴ酸、酢酸が主に生成される。これらの有機酸は酒類の香味へ大きな影響を与えるものであって、重要な設計品質の一つとされている。麦芽使用発酵飲料に含まれる有機酸は、総量及び構成する酸の組成により香味特徴が異なってくる。そのため、麦芽使用発酵飲料の有機酸濃度や組成を調整することで、様々な香味特徴をもつ製法が検討されている。」(段落0003)

記載事項(3-3)
「【0015】
本発明の発酵麦芽飲料の製造方法は、麦芽使用発酵飲料の主原料である乾燥発芽大麦を各組織別に分画し、得られた各組織画分の特性をベースにして、分画された組織部分を適宜組み合わせて配合し、麦汁中の有機酸量を制御し、pH調整酸の特徴が香味に反映することが可能になった。また、pH調整酸・麦芽使用比率の選択を行うことで、さらに幅広く様々な香味を特徴とした麦芽発酵飲料を製造することができる。
特に、分画した乾燥発芽大麦の各組織画分を、種々組み合わせることにより香味を調整した麦芽使用発酵飲料の原料として使用できる点は、消費者の好みに応じた種々の香味を有する麦芽使用発酵を提供することができることになり、その産業上の効果は多大なものである。
このような香味としては、例えば、しまりのある酸味、穏やかな酸味、後に残る酸味などを例示することができる。」(段落0015)

記載事項(3-4)
「【0044】
実施例3:組織画分を使用した麦汁有機酸含量の評価
組織画分の有機酸含量が異なる可能性があることから、全粒麦芽、組織画分を原料として麦汁を試作して有機酸量を評価した。
【0045】
実施例1の方法で分画した組織画分と全粒麦芽を用いて、コングレス麦汁の製造を行った。組織画分及び全粒麦芽をディスクミルにて微粉砕し、マッシュ用ビーカーに粉砕物60gと仕込み水240mLを入れて、常法を参考として糖化液を製造した。この時、pH調整酸は加えない。これを濾紙濾過し、測定用麦汁サンプルを得た。麦汁サンプルは組織画分と全粒麦芽の配合比率を変えて麦汁を製造した。また、組織分画と全粒麦芽に糖類を配合した時の検討を実施した。
その麦汁の有機酸の分析結果を下記表2に示した。各原料ごとに有機酸の種類や量に特徴のある麦汁が得られることが判った。
【0046】
【表2】

」(段落0044?0046)

記載事項(3-5)
「【0047】
実施例4:組織画分を利用したビール有機酸含量の評価
胚乳画分を使用したビール有機酸含量評価を目的として、胚乳画分のみを原料としてビールを製造した。また、胚乳画分には穀皮が存在しないため、穀皮を濾過層として濾過する濾過槽では麦汁の濾過ができないために、マッシュフィルターで濾過した。
【0048】
実施例1の方法で分画した組織画分を用いて、100Lスケールにてビールの製造を行った。組織画分をハンマーミルにて微粉砕し、仕込み釜に粉砕物9kgと仕込み水36Lを、仕込み槽に粉砕物21kgと仕込み水84Lを入れて、常法に従って糖化液を製造した。これをマッシュフィルターにて濾過を行い、得られた麦汁にホップを添加して煮沸した。次いで、麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去したあと、約12℃に冷却した。この冷麦汁を、エキス濃度11.3%に加水によって調整した後、発酵槽に導入し、ビール酵母を接種・発酵して、ビールを製造した。また、対照として全粒麦芽のみを原料としたビールを製造し、そのビールについても同様の方法で製造した。
そのビールの有機酸の分析結果を下記表3に示した。
【0049】
【表3】

【0050】
上記で得られた、組織別画分を利用したビールの酸味官能評価をパネラーにより評価した。その結果を下記表4に示した。分画した原料を用いることで、有機酸に起因する香味に特徴のあるビールが得られた。
【0051】
【表4】

」(段落0047?0051)

記載事項(3-6)
「【0052】
実施例5:pH調整酸の違いによるビールの香味評価
実施例1の方法で分画した組織画分を用いて、100Lスケールにてビールの製造を行った。組織画分をハンマーミルにて微粉砕し、仕込み釜に粉砕物9kgと仕込み水36Lを、仕込み槽に粉砕物21kgと仕込み水84Lを入れて、常法に従って糖化液を製造した。これをマッシュフィルターにて濾過を行い、得られた麦汁にホップを添加して煮沸した。次いで、麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去したあと、約12℃に冷却した。この冷麦汁を、エキス濃度11.3%に加水によって調整した後、発酵槽に導入し、ビール酵母を接種・発酵して、ビールを製造した。醸造工程で使用したpH調整酸はリン酸、乳酸とした。また、対照として全粒麦芽のみを原料としたビールを製造し、そのビールについても同様の方法で製造した。
そのpH調整酸の違うビールの酸味官能結果の結果を下記表4に示した。
【0053】
【表5】

【0054】
以上の各実施例の記載から判明するように、麦芽使用発酵飲料の主原料である乾燥発芽大麦の各組織部分に分画し、得られた各組織画分の特性をベースにして、分画された組織画分を適宜組み合わせて配合し、麦汁中の有機酸を制御し、これにより簡便に麦芽使用発酵飲料の香味を調整し得ることが理解される。」(段落0052?0054)

記載事項(3-7)
「【0055】
実施例6:ビールの試作(胚乳画分を使用)
実施例1の方法で分画した分画物を用いて、原料比率に全粒麦芽50%、胚乳画分50%を原料としたビール(試作品6-1)、及び全粒麦芽37%、胚乳画分30%、糖化スターチ33%を原料としたビール(試作品6-2)を試作した。
麦芽分画物はロールミルにて粉砕し、仕込み釜に粉砕物9kgと仕込み水36Lを、仕込み槽に粉砕物21kgと仕込み水84Lを入れて、常法に従って糖化液を製造した。このときpHは乳酸を添加して5.5に調整した。これをマッシュフィルターにて濾過を行い、麦汁に糖化スターチを添加し、加水によってエキス分を調整してからホップを添加して煮沸した。次いで、麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去したあと、約12℃に冷却した。この冷麦汁を、エキス濃度11.3%に加水によって調整した後、発酵槽に導入し、ビール酵母を接種・発酵して、ビールを製造した。
得られたビールについて、香味評価を行った。その結果、発明品6-1では、まろやかな酸味が認められた。発明品6-2では、すっきりとした味わいであった。」(段落0055)

(4)甲4には、以下の事項が記載されている。
記載事項(4-1)
「【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の麦芽発酵飲料は麦芽の使用比率が高いため、必然的にプリン体の含有率が高くなってしまう。プリン体の含有量を低くするためには、麦芽の使用比率を低くすることが考えられる。しかし、そのようにすると、ビールテイスト飲料(麦芽発酵飲料)の味に厚みがなくなるため、飲用アルコール(特許文献1でいうところのB成分に係る蒸留液)を添加すると、飲用アルコールのピリピリとしたアルコール味が突出して感じられるようになるという問題が顕在化する。」(段落0005)

記載事項(4-2)
「【0021】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、麦を発酵させて得られたアルコールと、添加した飲用アルコールと、を合わせたアルコール度数を1?8%(「容量/容量%」や「v/v%」などとも表される。)とするのが好ましく、例えば、3?7%などとするとより好ましい。なお、アルコール度数はこの範囲に限定されるものではなく、8%超とすることもできる。」(段落0021)

記載事項(4-3)
「【0022】
(酸味料)
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、酸味料を含むことにより、麦の使用比率を低くした場合であっても、添加した飲用アルコールのアルコール味が突出して感じられ難くすることができる。このような酸味料としては、例えば、乳酸、リン酸、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸及び酒石酸などが挙げられる。酸味料は、これらのうちの少なくとも1つを用いることができる。なお、酸味料は、麦の使用比率を低くした場合であっても、添加した飲用アルコールのアルコール味が突出して感じられ難くすることができればこれらに限定されるものではなく、どのようなものも用いることができる。例えば、アジピン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、氷酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL-リンゴ酸ナトリウム、その他の飲料品に添加可能な酸味料であればどのようなものも用いることができる。」(段落0022)

記載事項(4-4)
「【0023】
酸味料の含有量は、例えば、クエン酸換算で250?1500ppm(本明細書における「ppm」は「mg/L」と表すこともできる。以下同じ。)とするのが好ましく、300?1500ppmとするのがより好ましく、400?1000ppmとするのがさらに好ましい。
酸味料の含有量がクエン酸換算で250ppm未満であると、酸味料の含有量が少なすぎるため、麦の使用比率を低くした場合に、添加した飲用アルコールのアルコール味が突出して感じられ難くすることができないおそれがある。
他方、酸味料の含有量が1500ppmを超えると、酸味料の含有量が多すぎるため、酸味が強くなりすぎてしまう。そのため、ビールテイスト飲料として適さないものとなってしまうおそれがある。
【0024】
酸味料の含有量は、最終製品中に含有されている含有量がクエン酸換算で250?1500ppmの範囲内に入っていればよく、その由来は問わない。つまり、麦に由来する原料やホップなどの原料、後記する麦以外の原料に由来して含有したものであると、任意添加材料として添加されたものであるとを問わず、最終製品における含有量が前記した範囲にあればよい。」(段落0023?段落0024)

記載事項(4-5)
「【0051】
〔参考例1〕
参考例1は、市販のビールを用いて麦の使用比率を低くした場合にどのような評価が得られるかを確認するために行った。
参考例1では、市販のビール(麦芽使用比率100%、アルコール度数5%、プリン体約11mg/100mL、エキス分4g/100cm^(3))と、炭酸ガス含有水と、を混合して、又は前記市販のビールをそのまま用いて表1のNo.1?6に示すように、麦芽使用比率が5?100%のサンプルを用意した。なお、サンプルのガス圧は約0.235MPaであった。
……
【0059】
〔参考例2〕
参考例2は、市販のビールを用いて麦芽使用比率を低くし、原料用アルコールを添加してアルコール度数を高くした場合にどのような評価が得られるかを確認するために行った。
参考例2では、参考例1と同じ市販のビールと、原料用アルコールと、炭酸ガス含有水と、を混合して、表2のNo.7?12に係るサンプルを用意した。なお、各サンプルの全容量中、前記市販のビールを1/10容量含むようにした(全容量中10%となるようにした)。また、参考例1同様、サンプルのガス圧は約0.235MPaであった。
【0060】
用意した各サンプルについて、よく訓練された専門のパネル5名が参考例1と同様の評価基準に則ってコク、アルコール感(質)、アルコール感(量)及び総合評価を評価した。アルコール感(質)の評価基準は以下に則って1?5点の5段階評価で独立点数付けした。
なお、表2における製品のアルコール度数とは、市販のビールに含まれていた分(サンプルの全容量に対して10%含ませているので0.5%)と、添加した原料用アルコール分(各サンプルによって異なる)と、を含んだ値をいう。また、No.7?12に係るサンプルはいずれも麦芽使用比率100%、プリン体約11mg/100mL、エキス分4g/100cm^(3)の市販のビールをサンプルの全容量に対して10%となるように含ませているので、麦芽使用比率は10%となり、プリン体の含有量は約1.1mg/100mLとなり、エキス分は0.4g/100cm^(3)となる。
【0061】
(アルコール感(質))
5点:添加した飲用アルコールのピリピリとしたアルコール味が全く感じられない。
4点:添加した飲用アルコールのピリピリとしたアルコール味が殆ど感じられない。
3点:添加した飲用アルコールのピリピリとしたアルコール味が2点と4点の中間程度に感じられる。
2点:添加した飲用アルコールのピリピリとしたアルコール味がやや感じられる。
1点:添加した飲用アルコールのピリピリとしたアルコール味が突出して感じられる。
【0062】
表2に、No.7?12に係るサンプルの原料用アルコールの添加分、製品のアルコール度数とともに、コク、アルコール感(質)、アルコール感(量)及び総合評価の評価を示す。なお、各評価項目においては、各パネルが評価付けした点数を平均し、その値が1以上2未満のものを×、2以上2.5未満のものを△、2.5以上3未満のものを○、3以上のものを◎とした。◎、○、△が合格であり、×が不合格である。
【0063】
【表2】

【0064】
麦芽使用比率を低くし、10%にすると、表2に示すように、原料用アルコールの添加量が増えるに連れて、アルコール感(質)が低下することが確認された。具体的には、No.11、12に係るサンプルのように、添加した原料用アルコール分が6.5%以上(製品のアルコール度数は7%以上)になると、添加した飲用アルコールのピリピリとしたアルコール味が突出して感じられ、アルコール感(質)が顕著に低下することが確認された。
他方、No.10に係るサンプルのように、添加した原料用アルコール分が4.5%以上(製品のアルコール度数が5%以上)になると、アルコール感(量)が顕著に向上することも確認された。」(段落0059?0064)

記載事項(4-6)
「【0065】
〔実施例1〕
実施例1は、麦の使用比率を低くし、原料用アルコールを添加してアルコール度数を高くし、酸味料の含有量を種々変更した場合にどのような評価が得られるかを確認するために行った。
実施例1では、炭酸ガス含有水と、表3のNo.13?26に示す含有量の乳酸及び原料用アルコールと、参考例1と同じ市販のビールと、を用いて、表3のNo.13?26に係るサンプルを用意した。なお、各サンプルの全容量中、前記市販のビールを1/20容量又は1/10容量含むようにした(サンプルの全容量の5%又は10%が市販のビールとなるようにした)。また、参考例1同様、サンプルのガス圧は約0.235MPaであった。
【0066】
No.13?19に係るサンプルはいずれも、アルコール度数が5%の市販のビールをサンプルの全容量の5%となるようにしているので、市販のビールに由来するアルコールを0.25%含んでいる。そして、表3に示すように原料用アルコールを4.75%分添加しているので、製品のアルコール度数は合計5%となる。また、No.13?19に係るサンプルはいずれも麦芽使用比率100%、プリン体約11mg/100mL、エキス分4g/100cm^(3)の市販のビールをサンプルの全容量の5%となるように含ませているので、麦芽使用比率は5%となり、プリン体の含有量は0.55mg/100mLとなり、エキス分は0.2g/100cm^(3)となる。
【0067】
また、No.20?26に係るサンプルはいずれも、アルコール度数が5%の市販のビールをサンプルの全容量の10%となるようにしているので、市販のビールに由来するアルコールを0.5%含んでいる。そして、表3に示すように原料用アルコールを4.5%分添加しているので、製品のアルコール度数は合計5%となる。また、No.20?26に係るサンプルはいずれも麦芽使用比率100%、プリン体約11mg/100mL、エキス分4g/100cm^(3)の市販のビールをサンプルの全容量の10%となるように含ませているので、麦芽使用比率は10%となり、プリン体の含有量は1.1mg/100mLとなり、エキス分は0.4g/100cm^(3)となる。
【0068】
用意した各サンプルについて、よく訓練された専門のパネル5名が参考例1、2で説明した評価基準に則ってコク、アルコール感(質)、アルコール感(量)及び総合評価について1?5点の5段階評価で独立点数付けした。表3に、No.13?26に係るサンプルの乳酸及び原料用アルコールの含有量を示すとともに、コク、アルコール感(質)、アルコール感(量)及び総合評価の評価を示す。なお、乳酸の含有量はクエン酸換算にて表している。また、各評価項目においては、各パネルが評価付けした点数を平均し、その値が1以上2未満のものを×、2以上2.5未満のものを△、2.5以上3未満のものを○、3以上のものを◎とした。◎、○、△が合格であり、×が不合格である。表3中の「-」は、添加していないことを示す。
【0069】
【表3】

【0070】
表3に示すように、No.14?19、21?26に係るサンプルは、酸味料を含んでいたので、麦の使用比率を低くした場合であっても、添加した原料用アルコールのアルコール味が突出して感じられ難いことが確認された(いずれも実施例)。特に、No.16?18、23?25に係るに係るサンプルはアルコール感(質)及び総合評価がともに優れており、好ましい態様であることが確認された。
他方、No.13、20に係るサンプルは、酸味料を含んでいなかったので、ビールテイスト飲料としてのバランスが悪く、総合評価が低い結果となった(いずれも比較例)。」(段落0065?0070)

記載事項(4-7)
「【0071】
〔実施例2〕
実施例2は、麦の使用比率を低くし、原料用アルコールを添加してアルコール度数を高くし、種々の酸味料を用いた場合にどのような評価が得られるかを確認するために行った。
実施例2では、炭酸ガス含有水と、アルコール度数4.75%分の原料用アルコールと、表4のNo.27?32に示す種類の酸味料と、参考例1と同じ市販のビールと、を混合して、表4のNo.27?32に係るサンプルを用意した。なお、各サンプルの全容量中、前記市販のビールを1/20容量含むようにした(サンプルの全容量の5%が市販のビールとなるようにした)。また、参考例1同様、サンプルのガス圧は約0.235MPaであった。
【0072】
No.27?32に係るサンプルはいずれも、アルコール度数が5%の市販のビールをサンプルの全容量の5%となるようにしているので、市販のビールに由来するアルコールを0.25%含んでいる。そして、前記したように原料用アルコールを4.75%分添加しているので、製品のアルコール度数は合計5%となる。また、No.27?32に係るサンプルはいずれも麦芽使用比率100%、プリン体約11mg/100mL、エキス分4g/100cm^(3)の市販のビールをサンプルの全容量の5%となるようにしているので、麦芽使用比率は5%となり、プリン体の含有量は0.55mg/100mLとなり、エキス分は0.2g/100cm^(3)となる。
【0073】
用意した各サンプルについて、よく訓練された専門のパネル5名が参考例1、2で説明した評価基準に則ってコク、アルコール感(質)、アルコール感(量)及び総合評価について1?5点の5段階評価で独立点数付けした。表4に、No.27?32に係るサンプルの酸味料の種類と含有量を示すとともに、コク、アルコール感(質)、アルコール感(量)及び総合評価の評価を示す。なお、酸味料の含有量はクエン酸換算にて表している。また、各評価項目においては、各パネルが評価付けした点数を平均し、その値が1以上2未満のものを×、2以上2.5未満のものを△、2.5以上3未満のものを○、3以上のものを◎とした。◎、○、△が合格であり、×が不合格である。表4中の「-」は、添加していないことを示す。
【0074】
【表4】

【0075】
表4に示すように、No.28?32に係るサンプルは、酸味料を含んでいたので、麦の使用比率を低くした場合であっても、添加した原料用アルコールのアルコール味が突出して感じられ難いことが確認された(いずれも実施例)。
他方、No.27に係るサンプルは、酸味料を含んでいなかったので、ビールテイスト飲料としてのバランスが悪く、総合評価が低い結果となった(比較例)。」(段落0071?0075)

(5)甲5には、以下の事項が記載されている。
記載事項(5-1)


」(345頁最上段)

記載事項(5-2)











」(345頁右欄)

記載事項(5-3)
「4. 官能検査
麦芽飲料にエチルアルコールを添加してみると,甘味の増加,酸味の減少,濃さの増加が感じられたので,3段階のアルコール濃度の麦芽飲料を調整し,酸味,甘味および味の濃さについて,順位づけを行った結果を第5表(A,B,C)に示す。
1) 甘味について
各麦芽飲料とも,5人のパネリストの間にアルコール分が高い程,甘味が強いという一致性が認められた。このことは,エチルアルコールが甘味に強く関係していることを示している。
2) 酸味について
Ex.BIERWではアルコール分が低いほど酸味が強く感じられるという高度の一致性がみられた。他の2点の麦芽飲料では,一致性の係数Wは有意に至らなかったが,アルコール分と酸味の間に同様の傾向がみられた。この酸味の変化は,エチルアルコールの甘味によるマスキング効果であると考えられる。」(345頁左欄下から3行?346頁左欄2行)

(6)甲6には、以下の事項が記載されている。
記載事項(6-1)


」(171?180行)

記載事項(6-2)


」(最終頁から抜粋)

(7)甲7には、以下の事項が記載されている。
記載事項(7-1)
「(1)含有量
ビールの有機酸組成は原料の使用比率,酵母菌株,発酵条件によって変動し,その数はおよそ110種^(1))に及ぶとされ,国武の報告^(2))に詳しい。分析値の例を第1表^(3))に示した。また,量的にはクエン酸,酢酸,乳酸,ピルビン酸,リンゴ酸,コハク酸が多く,ビールの種類別にこれら主要な有機酸の分析例を第2表に示した。」(236頁左欄10?16行)

記載事項(7-2)


」(第237頁中段)

(8)甲8には、以下の事項が記載されている。
記載事項(8-1)




3 判断
(1)申立理由1A(本件発明1、3に対する新規性欠如)
ア 甲1に記載された発明
記載事項(1-2)のTABLE I.には、アルコール濃度8.7g/100g、ピルビン酸濃度12mg/L、クエン酸濃度322mg/L、リンゴ酸濃度135mg/L、酢酸濃度771mg/L、かつ乳酸濃度130mg/Lであるドイツ連邦共和国を産地とするビール「X」が示されている。
記載事項(6-2)においては、アルコール濃度8.5g/100gの水溶液の、15℃における比重は0.986であるとされており、アルコール濃度8.7g/100gの水溶液も同程度の比重を有すると認められるから、記載事項(6-1)により、アルコール濃度8.7g/100gの水溶液はアルコール濃度10.8(v/v)%の水溶液であると算出される。
ビールのアルコール濃度の重量%表記とv/v%表記との関係についても、同様のことがいえると認められる。
したがって、甲1には以下の発明が記載されている。
「ピルビン酸濃度12mg/L、クエン酸濃度322mg/L、リンゴ酸濃度135mg/L、酢酸濃度771mg/L、かつ乳酸濃度130mg/Lであり、アルコール濃度10.8(v/v)%であるビール」(以下、「甲1発明」という。)

イ 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ビールは「原料として少なくとも水、ホップ、および麦芽を使用した発酵麦芽飲料」であるから、両者は、アルコール濃度が7?16(v/v)%である、原料として少なくとも水、ホップ、および麦芽を使用した発酵麦芽飲料である点で一致し、少なくとも以下の点で相違する。

相違点(1-1-1)
本件発明1では、(a)乳酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整される場合には、
(i)アルコール濃度が7(v/v)%以上13(v/v)%以下の場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2200mg/L以下に調整され、
(ii)アルコール濃度が13(v/v)%を超えて16(v/v)%以下の場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2600mg/L以下に調整され、
(b)酒石酸またはリンゴ酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整される場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1900mg/L以上2600mg/L以下に調整され、かつ、アルコール濃度が7?10(v/v)%に調整され、
(c)リン酸の濃度調整により有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が調整される場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1900mg/L以上2600mg/L以下に調整され、かつ、アルコール濃度が7?10(v/v)%に調整される一方、
甲1発明では、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が不明である点

相違点(1-1-2)
本件発明1は、「有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が、乳酸、リン酸、酒石酸、またはリンゴ酸の濃度調整によって調整されたもの」とされる一方、
甲1発明では、「有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が、乳酸、リン酸、酒石酸、またはリンゴ酸の濃度調整によって調整されたもの」ではない点

ウ 判断
(ア)相違点(1-1-1)について
甲1発明では、ピルビン酸濃度12mg/L、クエン酸濃度322mg/L、リンゴ酸濃度135mg/L、酢酸濃度771mg/L、かつ乳酸濃度130mg/Lであることから、ピルビン酸濃度、クエン酸濃度、リンゴ酸濃度、酢酸濃度、及び乳酸濃度の合計が1370mg/Lであると算出されることから、甲1発明に含まれるその他の有機酸とリン酸の濃度の合計が230mg/L以上830mg/L以下の範囲にあれば、甲1発明における有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2200mg/L以下といえる。
しかし、甲1発明に含まれるその他の有機酸とリン酸の濃度の合計は甲1に記載されておらず、甲1発明に含まれるその他の有機酸とリン酸の濃度の合計が230mg/L以上830mg/L以下の範囲にあるといえる技術常識もないことから、甲1発明に含まれるその他の有機酸とリン酸の濃度の合計が230mg/L以上830mg/L以下の範囲にあるとすることはできないし、さらに、甲1発明における有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2200mg/L以下ということはできない。
以上より、相違点(1-1-2)について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明ではない。
本件発明3は、本件発明1を(a)乳酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整される場合に限定したものであって、甲1発明とは、本件発明1との相違点(1-1-1)及び相違点(1-1-2)に対応した相違点において相違するので、本件発明1と同様に、甲1発明ではない。

(イ)申立人の主張について
申立人は、異議申立書(特に、32頁2?17行)において、概略、以下の主張をしている。
(申立人の主張1A)
記載事項(2-2)には、ドイツビールに含まれている無機成分のうち、総P量は、325mg/Lであることが示されており、記載事項(2-1)には、ビールに含まれている無機成分(灰分)のうち、Pは、リン酸(PO_(4)^(3-))として含まれていることが示されているので、ドイツビールに含まれているリン酸量は、一般的に325mg/Lであるといえ、甲1発明に係るビールはドイツ産のビールであるから、そのリン酸含有量は325mg/Lである蓋然性が高い。また、ビール中に含まれている有機酸は、主に、ピルビン酸、クエン酸、リンゴ酸、酢酸、乳酸、及びコハク酸であり、それ以外の有機酸の濃度は、これらの合計濃度よりも少ないことを考慮すると、甲1発明に係るビールの有機酸濃度とリン酸濃度の合計は、1600?2600mg/Lの範囲内にある蓋然性が極めて高い。

申立人の主張1Aについて検討する。
記載事項(1-2)に示されたビール「K」、ビール「O」及びビール「W」も、甲1発明に係るビール「X」と同様にドイツ連邦共和国を産地とするビールであるにもかかわらず、それらのピルビン酸濃度は66?127mg/Lの範囲にあってビール「X」のピルビン酸濃度12mg/Lとは大きく異なり、それらのクエン酸濃度は146?173mg/Lの範囲にあってビール「X」のクエン酸濃度322mg/Lとは大きく異なり、それらのリンゴ酸濃度は67?126mg/Lの範囲にあってビール「X」のリンゴ酸濃度135mg/Lとは異なり、それらの酢酸濃度は78?185mg/Lの範囲にあってビール「X」の酢酸濃度771mg/Lとは大きく異なり、それらの乳酸濃度は15?62mg/Lの範囲にあってビール「X」の乳酸濃度130mg/Lとは大きく異なることから、甲1発明に係るビール「X」の組成は一般的なドイツビールの組成とは大きく異なると推認されるので、記載事項(1-1)?記載事項(1-2)、記載事項(2-1)?記載事項(2-3)及び記載事項(6-1)?記載事項(6-2)並びに技術常識を検討しても、甲1発明に係るビール「X」に含まれる有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2200mg/L以下であるとすることはできない。
したがって、申立人の主張1Aは、採用することができない。

(ウ)小括
以上のとおり、申立理由1Aは理由がない。

(2)申立理由2A(本件発明1、3、6、7に対する進歩性欠如)
ア 甲1発明及び対比
甲1発明は、上記(1)アに示したとおりのものである。
本件発明3は、本件発明1を(a)乳酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整される場合に限定したものであり、また、本件発明6は、本件発明1の色度を特定したものであり、本件発明7は、本件発明1の全窒素の含有量を特定したものであるので、本件発明1、3、6、及び7と甲1発明とは、少なくとも上記(1)イに示した相違点(1-1-1)及び相違点(1-1-2)またはそれらに対応した相違点において相違する。

イ 判断
甲1発明に対して、相違点(1-1-1)またはそれに対応した相違点に係る、(a)乳酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整されることで、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2200mg/L以下に調整されるものとするものとする動機づけは、記載事項(1-1)?記載事項(1-2)及び技術常識から見出すことはできない。
また、甲1発明に対して、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計の調整に用いられる酸の種類又はアルコール濃度を変更して、
「有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が、乳酸、リン酸、酒石酸、またはリンゴ酸の濃度調整によって調整されたものであり、
(a)乳酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整される場合には、
(i)アルコール濃度が7(v/v)%以上13(v/v)%以下の場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2200mg/L以下に調整され、
(ii)アルコール濃度が13(v/v)%を超えて16(v/v)%以下の場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2600mg/L以下に調整され、
(b)酒石酸またはリンゴ酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整される場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1900mg/L以上2600mg/L以下に調整され、かつ、アルコール濃度が7?10(v/v)%に調整され、
(c)リン酸の濃度調整により有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が調整される場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1900mg/L以上2600mg/L以下に調整され、かつ、アルコール濃度が7?10(v/v)%に調整される」ものとする動機づけも、記載事項(1-1)?記載事項(1-2)及び技術常識から見出すことはできない。
したがって、相違点(1-1-2)について検討するまでもなく、本件発明1、3、6及び7は、甲1発明及び技術常識に基いて当業者が容易に想到することができたものではない。
また、本件発明1、3、6及び7は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されるとおり、発酵麦芽飲料において高アルコールならではの嗜好性と飲みやすさを両立するという格別顕著な効果を奏するものと認められる。
以上より、本件発明1、3、6及び7は、甲1発明及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、申立理由2Aは理由がない。

(3)申立理由2B(本件発明1?9に対する進歩性欠如)
ア 甲4に記載された発明
記載事項(4-6)には、炭酸ガス含有水と、乳酸及び原料用アルコールと、市販のビールと、を用いて、アルコール度数が合計5%となるように用意されたサンプルが記載されている。ここにいう「市販のビール」は記載事項(4-5)に記載される「市販のビール(麦芽使用比率100%、アルコール度数5%、プリン体約11mg/100mL、エキス分4g/100cm^(3))」である。そして、表3のNo.19及びNo.26に示されたサンプルは乳酸のクエン酸換算含有量が1500ppmであり、よく訓練された専門のパネル5名によるアルコール感(質)及びアルコール感(量)の評価は最高評価である。

したがって、甲4には以下の発明が記載されている。
「アルコール濃度が5(v/v)%であり、ビールと原料用アルコールとを原料とするビールテイスト飲料であって、
乳酸が、飲料中の乳酸濃度(クエン酸換算)が1500ppmとなるように添加された、
ビールテイスト飲料。」(以下、「甲4飲料発明」という。)、
「アルコール濃度が5(v/v)%であり、ビールと原料用アルコールとを原料とするビールテイスト飲料を製造する方法であって、
乳酸が、飲料中の乳酸濃度(クエン酸換算)が1500ppmとなるように添加される、方法。」(以下、「甲4製法発明」という。)、
「アルコール濃度が5(v/v)%であり、ビールと原料用アルコールとを原料とするビールテイスト飲料のアルコール感を改善する方法であって、
乳酸が、飲料中の乳酸濃度(クエン酸換算)が1500ppmとなるように添加される、方法。」(以下、「甲4改善発明」という。)

イ 本件発明1、3、6、7について
(ア)対比
本件発明1、3、6、7と甲4飲料発明とを対比する。
ビールは「原料として少なくとも水、ホップ、および麦芽を使用した発酵麦芽飲料」であり、また甲4飲料発明においては乳酸が添加されており、これは本件発明1、3、6、7における「乳酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整され」る場合に相当するから、本件発明1、3、6、7と甲4飲料発明とは、アルコールを含む、原料として少なくとも水、ホップ、および麦芽を使用した発酵麦芽飲料である点で一致し、少なくとも以下の点で相違する。

相違点(1-4-1)
本件発明1では、(a)乳酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整される場合には、
(i)アルコール濃度が7(v/v)%以上13(v/v)%以下の場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2200mg/L以下に調整され、
(ii)アルコール濃度が13(v/v)%を超えて16(v/v)%以下の場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2600mg/L以下に調整される一方、
甲4飲料発明では、アルコール濃度が5(v/v)%であり、乳酸濃度(クエン酸換算)は1500mg/Lであるが有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計は不明である点

(イ)判断
記載事項(4-1)には、発酵麦芽飲料に飲用アルコールを添加すると、飲用アルコールのピリピリとしたアルコール味が突出して感じられるようになることが記載されており、記載事項(4-3)には、ビールテイスト飲料に含有させて、添加した飲用アルコールのアルコール味が突出して感じられ難くすることのできる酸味料の例として、乳酸、リン酸、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸及び酒石酸などが挙げられており、これらは本件発明1における「有機酸」又は「リン酸」に該当するが、記載事項(4-4)には「酸味料の含有量が1500ppmを超えると、酸味料の含有量が多すぎるため、酸味が強くなりすぎてしまう。そのため、ビールテイスト飲料として適さないものとなってしまうおそれがある。」との記載及び「酸味料の含有量は、最終製品中に含有されている含有量がクエン酸換算で250?1500ppmの範囲内に入っていればよく、その由来は問わない。」との記載がある。
当業者が、アルコール感(質)及びアルコール感(量)の評価が最高評価である甲4飲料発明に対して、これらの記載による教示にもかかわらず、あえて、アルコール濃度を増加させると同時に、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計を1500ppmを超える値にして、本件発明1、3、6、7における相違点(1-4-1)に係る構成をとることを容易に想到するとは、記載事項(3-1)?記載事項(3-7)の内容を参酌しても、認められない。
また、本件発明1、3、6、7は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されるとおり、発酵麦芽飲料において高アルコールならではの嗜好性と飲みやすさを両立するという格別顕著な効果を奏するものと認められる。
以上より、本件発明1、3、6、7は甲4飲料発明並びに甲3に記載された事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)申立人の主張について
申立人は、異議申立書(特に、39頁16行?40頁3行、40頁17行?42頁1行、43頁19行?44頁15行)において、概略、以下の主張をしている。
(申立人の主張2B1)
記載事項(4-3)には、麦の使用比率を低くした場合に、酸味料を添加することによって、添加した飲用アルコールのアルコール味が突出して感じられ難くしてアルコール感を改善する方法及び当該方法により製造された、発酵麦芽飲料と飲用アルコールを含有するビールテイスト飲料に係る発明が開示されており、記載事項(4-2)には、さらに、酸味料を添加してアルコール感を改善するビールテイスト飲料のアルコール濃度は、1?8(v/v)%が好ましいが、8(v/v)%超とすることもできることが記載されている。
甲4には、アルコール濃度を8%超としてもよいことが記載されているのであるから、甲4飲料発明のアルコール濃度を、8(v/v)%超にすることは、当業者にとって容易になし得ることである。

(申立人の主張2B2)
甲4飲料発明は、ビールを1/10量含有しており、この原料としたビールに由来する有機酸とリン酸を含有している。すなわち、有機酸とリン酸の合計濃度は、乳酸濃度1500ppmに、原料ビールの乳酸以外の有機酸とリン酸の合計濃度の1/10量を足した濃度になる。
ここで、例えば、記載事項(3-5)の「全粒麦芽のみを原料としたビール」のリン酸を含む有機酸の合計濃度は1478ppm(1478mg/L)と算出され、リン酸を含む有機酸の合計濃度から乳酸濃度を除いた濃度は1331ppm(1331mg/L)である。
記載事項(3-5)の「全粒麦芽のみを原料としたビール」は、一般的な製造方法で製造されたビールであることから、甲4飲料発明に係るビールテイスト飲料の製造に使用された原料ビールの乳酸以外の有機酸とリン酸の合計濃度は、記載事項(3-5)の「全粒麦芽のみを原料としたビール」と同程度である可能性が高い。
仮に、甲4飲料発明に係るビールテイスト飲料の製造に使用された原料ビールの有機酸とリン酸の合計濃度が、甲3に記載のビールとは全く異なっていた場合でも、甲4飲料発明に係るビールテイスト飲料において、原料とするビールを、甲3に記載のビールとすることは、当業者にとって容易になし得ることである。
このように、原料ビールとして、一般的な製造方法で製造されたビールや、甲第3号証に記載のビールを使用することにより、甲4飲料発明の有機酸とリン酸の合計濃度を1600?2200ppm程度とすることは当業者にとって容易になし得ることである。

(申立人の主張2B3)
甲4には、飲用アルコールを添加した場合に突出して感じられるピリピリとしたアルコール味を、乳酸、リン酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、コハク酸等を添加することによって感じにくくしてアルコール感(質)を改善できることが記載されている(記載事項(4-3))。ここで、甲4において改善されている「飲用アルコールを添加した場合に突出して感じられるピリピリとしたアルコール味」は、本件明細書に記載されている「アルコールに由来する後に残る嫌な辛味」と必ずしも同じ味とはいえないものの、本件明細書の実施例では、常法により製造されたビールに醸造アルコールを添加することで高アルコールとした飲料の「アルコールに由来する後に残る嫌な辛味」であり、両者は、「飲用アルコールを添加した場合に感じられる嫌なアルコール味」である点で一致する。このため、本件発明の「アルコールに由来する後に残る嫌な辛味の低減効果」は、甲4の乳酸等によるアルコール感改善効果の記載から、当業者が予測できる程度の効果にすぎない。
また、本件発明のその他の効果、具体的には、ボディと麦由来の後渋味の改善効果は、有機酸とリン酸の合計濃度が1600?2600mg/Lにするだけでえられる効果であり、甲4飲料発明のビールテイスト飲料においても奏されているか、又は甲4飲料発明のビールテイスト飲料のアルコール濃度を高くした場合に当然に奏される効果に過ぎない。

申立人の主張2B1について検討する。
記載事項(4-1)には、発酵麦芽飲料に飲用アルコールを添加すると、飲用アルコールのピリピリとしたアルコール味が突出して感じられるようになることが記載されているから、当業者が、アルコール感(質)及びアルコール感(量)の評価が最高評価である甲4飲料発明に対して、記載事項(4-1)による教示にもかかわらず、あえて、アルコール濃度を増加させることを容易に想到するとは、記載事項(3-1)?記載事項(3-7)の内容を参酌しても、認められない。
次に、申立人の主張2B2について検討する。
記載事項(4-4)には「酸味料の含有量が1500ppmを超えると、酸味料の含有量が多すぎるため、酸味が強くなりすぎてしまう。そのため、ビールテイスト飲料として適さないものとなってしまうおそれがある。」との記載及び「酸味料の含有量は、最終製品中に含有されている含有量がクエン酸換算で250?1500ppmの範囲内に入っていればよく、その由来は問わない。」との記載があるから、当業者が、アルコール感(質)及びアルコール感(量)の評価が最高評価である甲4飲料発明に対して、これらの記載による教示にもかかわらず、あえて、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計を1500ppmを超える値にすることを容易に想到するとは、記載事項(3-1)?記載事項(3-7)の内容を参酌しても、認められない。
次に、申立人の主張2B3について検討する。
本件発明の効果は、「ボディと麦由来の後渋味、アルコール由来の後辛味、有機酸自体が有する後酸味の全てのバランスをとり、飲みやすい発酵麦芽飲料を提供できること」(本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0005】)及び「高アルコールの発酵麦芽飲料において、高アルコールならではの嗜好性と飲みやすさを両立すること」(同段落【0007】)であると認められる。甲4(特に、記載事項(4-3))には、飲用アルコールを添加した場合に突出して感じられるピリピリとしたアルコール味を感じにくくしてアルコール感(質)を改善できることは記載されているとしても、本件発明の「ボディと麦由来の後渋味、アルコール由来の後辛味、有機酸自体が有する後酸味の全てのバランスをとり、飲みやすい発酵麦芽飲料を提供できること」及び「高アルコールの発酵麦芽飲料において、高アルコールならではの嗜好性と飲みやすさを両立すること」との効果とは異質なものであって、当業者が予想し得る効果であって、格別顕著なものであるとすることはできない。

したがって、申立人の主張2B1、2B2及び2B3は、採用することができない。

(エ)小括
以上より、本件発明1、3、6、7は、甲4飲料発明並びに甲3に記載された事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明2について
(ア)対比
本件発明2と甲4飲料発明とを対比する。
ビールは「原料として少なくとも水、ホップ、および麦芽を使用した発酵麦芽飲料」であり、また甲4飲料発明においては乳酸が添加されており、これは本件発明2における「有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が、乳酸、リン酸、酒石酸、リンゴ酸、またはこれらの任意の組合せの濃度調整によって調整された」ものに相当するから、本件発明2と甲4飲料発明とは、アルコールを含む、原料として少なくとも水、ホップ、および麦芽を使用した発酵麦芽飲料である点で一致し、少なくとも以下の点で相違する。

相違点(2-4-1)
本件発明2では、
有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1900?2200mg/Lであり、アルコール濃度が7?10(v/v)%であるとされる一方、
甲4飲料発明では、乳酸濃度(クエン酸換算)は1500mg/Lであるが有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計は不明であり、アルコール濃度が5(v/v)%である点

(イ)判断
記載事項(4-1)には、発酵麦芽飲料に飲用アルコールを添加すると、飲用アルコールのピリピリとしたアルコール味が突出して感じられるようになることが記載されており、記載事項(4-3)には、ビールテイスト飲料に含有させて、添加した飲用アルコールのアルコール味が突出して感じられ難くすることのできる酸味料の例として、乳酸、リン酸、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸及び酒石酸などが挙げられており、これらは本件発明1における「有機酸」又は「リン酸」に該当するが、記載事項(4-4)には「酸味料の含有量が1500ppmを超えると、酸味料の含有量が多すぎるため、酸味が強くなりすぎてしまう。そのため、ビールテイスト飲料として適さないものとなってしまうおそれがある。」との記載及び「酸味料の含有量は、最終製品中に含有されている含有量がクエン酸換算で250?1500ppmの範囲内に入っていればよく、その由来は問わない。」との記載がある。
当業者が、アルコール感(質)及びアルコール感(量)の評価が最高評価である甲4飲料発明に対して、これらの記載による教示にもかかわらず、あえて、アルコール濃度を増加させると同時に、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計を1500ppmを超える値にして、本件発明2における相違点(2-4-1)に係る構成をとることを容易に想到するとは、記載事項(3-1)?記載事項(3-7)の内容を参酌しても、認められない。
また、本件発明2は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されるとおり、発酵麦芽飲料において高アルコールならではの嗜好性と飲みやすさを両立するという格別顕著な効果を奏するものと認められる。
以上より、本件発明2は甲4飲料発明並びに甲3に記載された事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)申立人の主張について
申立人は、異議申立書(特に、39頁16行?40頁3行、40頁17行?72頁1行、43頁19行?44頁15行)における主張2B1、2B2及び2B3は、上記イ(ウ)に示したとおり、採用することができない。
また、申立人は、異議申立書(特に、42頁2?23行)において、概略、以下の主張をしている。
(申立人の主張2B4)
甲4の実施例1では、乳酸含有量が多くなるほど、アルコール感(質)が改善されている(記載事項(4-6)、表3)。乳酸含有量が1500ppmと高いサンプルでも、アルコール感(質)の評価は◎であり、総合評価が低下傾向にあるのは、酸味が強くなり、ビールテイスト飲料としてのバランスが低下したためである(記載事項(4-4)、記載事項(4-6))。つまり、甲4には、アルコール感(質)の改善効果は乳酸添加量依存的に高くなることが示されている。
一方で、酸味は、アルコール分が低いほど強く感じられる(記載事項(5-3))。つまり、乳酸濃度が同じ場合には、アルコール分が低い溶液よりも、アルコール分が高い溶液のほうが、酸味は感じられ難くなる。
この酸味とアルコール濃度の知見から、甲4飲料発明に係るビールテイスト飲料において、アルコール濃度を7?8%又は8%超にまで高くした場合には、乳酸濃度を1500ppmよりも高濃度に、例えば1900ppm以上にすることによって、ビールテイスト飲料としてもバランスを損なわずに高いアルコール感改善効果が得られるだろうことが、甲4の記載から当業者は理解できる。すなわち、甲4飲料発明に係るビールテイスト飲料において、原料として添加する原料用アルコールの量を増大させてアルコール濃度を7%以上とし、かつ添加する乳酸の量を増大させて飲料の乳酸濃度を1500ppmよりも高く、例えば、1900ppm程度にすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

申立人の主張2B4について検討する。
記載事項(4-6)の表3に示されるサンプルNo.13?No.19及びNo.20?No.26はいずれも、アルコール度数5%に調整されているが(【0066】【0067】)、そのうち、乳酸添加量が同じであるNo.14とNo.21、No.15とNo.22では、アルコール感(質)の評価が異なっており、アルコール感(質)の改善効果は乳酸添加量依存的に高くなるということが示されていると解することはできない。
したがって、申立人の主張2B4は、採用することができない。

(エ)小括
以上より、本件発明2は、甲4飲料発明並びに甲3に記載された事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件発明4について
(ア)対比
本件発明4と甲4飲料発明とを対比する。
ビールは「原料として少なくとも水、ホップ、および麦芽を使用した発酵麦芽飲料」であるから、本件発明4と甲4飲料発明とは、アルコールを含む、原料として少なくとも水、ホップ、および麦芽を使用した発酵麦芽飲料である点で一致し、少なくとも以下の点で相違する。

相違点(4-4-1)
本件発明4では、
有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1900以上2600mg/L以下に調整され、かつ、アルコール濃度が7?10(v/v)%であるとされる一方、
甲4飲料発明では、乳酸濃度(クエン酸換算)は1500mg/Lであるが有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計は不明であり、アルコール濃度が5(v/v)%である点

相違点(4-4-2)
本件発明4では、酒石酸またはリンゴ酸の濃度調整により、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が調整される一方、
甲4飲料発明では、酒石酸またはリンゴ酸の濃度調整は行われない点

(イ)判断
記載事項(4-1)には、発酵麦芽飲料に飲用アルコールを添加すると、飲用アルコールのピリピリとしたアルコール味が突出して感じられるようになることが記載されており、記載事項(4-3)には、ビールテイスト飲料に含有させて、添加した飲用アルコールのアルコール味が突出して感じられ難くすることのできる酸味料の例として、乳酸、リン酸、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸及び酒石酸などが挙げられており、これらは本件発明1における「有機酸」又は「リン酸」に該当するが、記載事項(4-4)には「酸味料の含有量が1500ppmを超えると、酸味料の含有量が多すぎるため、酸味が強くなりすぎてしまう。そのため、ビールテイスト飲料として適さないものとなってしまうおそれがある。」との記載及び「酸味料の含有量は、最終製品中に含有されている含有量がクエン酸換算で250?1500ppmの範囲内に入っていればよく、その由来は問わない。」との記載がある。
当業者が、アルコール感(質)及びアルコール感(量)の評価が最高評価である甲4飲料発明に対して、これらの記載による教示にもかかわらず、あえて、アルコール濃度を増加させると同時に、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計を1500ppmを超える値にして、本件発明4における相違点(4-4-1)に係る構成をとることを容易に想到するとは、記載事項(3-1)?記載事項(3-7)の内容を参酌しても、認められない。
また、本件発明4は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されるとおり、発酵麦芽飲料において高アルコールならではの嗜好性と飲みやすさを両立するという格別顕著な効果を奏するものと認められる。
以上より、本件発明4は甲4飲料発明並びに甲3に記載された事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)申立人の主張について
申立人は、異議申立書(特に、39頁16行?40頁3行、40頁17行?42頁1行、43頁19行?44頁15行)における主張2B1、2B2及び2B3は、上記イ(ウ)に示したとおり、採用することができない。
また、申立人は、異議申立書(特に、42頁24行?43頁12行)において、概略、以下の主張をしている。
(申立人の主張2B5)
甲4には、酸味料としてリン酸、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸、又は酒石酸のいずれを使用した場合でも、有機酸の種類によって効果の強弱はあるものの、乳酸と同様にアルコール感改善効果が得られることが記載されている(記載事項(4-7)、表4)。
これらの記載から、甲4飲料発明に係るビールテイスト飲料において、原料として添加する原料用アルコールの量を増大させてアルコール濃度を7%以上とし、さらに、乳酸に代えてリン酸、リンゴ酸、又は酒石酸を使用することは、甲4の記載から当業者が容易になし得ることであり、その際に、添加する酸味料の量を、ビールテイスト飲料としてのバランスを過度に損なわない限度においてできるだけ多く添加して、より高いアルコール感改善効果を得ようとすることも、当業者にとって容易になし得ることである。

申立人の主張2B5について検討する。
記載事項(4-1)には、発酵麦芽飲料に飲用アルコールを添加すると、飲用アルコールのピリピリとしたアルコール味が突出して感じられるようになることが記載されており、記載事項(4-3)には、ビールテイスト飲料に含有させて、添加した飲用アルコールのアルコール味が突出して感じられ難くすることのできる酸味料の例として、乳酸、リン酸、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸及び酒石酸などが挙げられており、これらは本件発明1における「有機酸」又は「リン酸」に該当するが、記載事項(4-4)には「酸味料の含有量が1500ppmを超えると、酸味料の含有量が多すぎるため、酸味が強くなりすぎてしまう。そのため、ビールテイスト飲料として適さないものとなってしまうおそれがある。」との記載及び「酸味料の含有量は、最終製品中に含有されている含有量がクエン酸換算で250?1500ppmの範囲内に入っていればよく、その由来は問わない。」との記載がある。
当業者が、アルコール感(質)及びアルコール感(量)の評価が最高評価である甲4飲料発明に対して、これらの記載による教示にもかかわらず、あえて、アルコール濃度を増加させると同時に、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計を1500ppmを超える値にして、本件発明4における相違点(4-4-1)に係る構成をとることを容易に想到するとは、認められない。
したがって、申立人の主張2B5は、採用することができない。

(エ)小括
以上より、本件発明4は、甲4飲料発明並びに甲3に記載された事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 本件発明5について
(ア)対比
本件発明5と甲4飲料発明とを対比する。
ビールは「原料として少なくとも水、ホップ、および麦芽を使用した発酵麦芽飲料」であるから、本件発明5と甲4飲料発明とは、アルコールを含む、原料として少なくとも水、ホップ、および麦芽を使用した発酵麦芽飲料である点で一致し、少なくとも以下の点で相違する。

相違点(5-4-1)
本件発明5では、
有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1900以上2600mg/L以下に調整され、かつ、アルコール濃度が7?10(v/v)%であるとされる一方、
甲4飲料発明では、乳酸濃度(クエン酸換算)は1500mg/Lであるが有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計は不明であり、アルコール濃度が5(v/v)%である点

相違点(5-4-2)
本件発明5では、リン酸の濃度調整により、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が調整される一方、
甲4飲料発明では、リン酸の濃度調整は行われない点

(イ)判断
記載事項(4-1)には、発酵麦芽飲料に飲用アルコールを添加すると、飲用アルコールのピリピリとしたアルコール味が突出して感じられるようになることが記載されており、記載事項(4-3)には、ビールテイスト飲料に含有させて、添加した飲用アルコールのアルコール味が突出して感じられ難くすることのできる酸味料の例として、乳酸、リン酸、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸及び酒石酸などが挙げられており、これらは本件発明1における「有機酸」又は「リン酸」に該当するが、記載事項(4-4)には「酸味料の含有量が1500ppmを超えると、酸味料の含有量が多すぎるため、酸味が強くなりすぎてしまう。そのため、ビールテイスト飲料として適さないものとなってしまうおそれがある。」との記載及び「酸味料の含有量は、最終製品中に含有されている含有量がクエン酸換算で250?1500ppmの範囲内に入っていればよく、その由来は問わない。」との記載がある。
当業者が、アルコール感(質)及びアルコール感(量)の評価が最高評価である甲4飲料発明に対して、これらの記載による教示にもかかわらず、あえて、アルコール濃度を増加させると同時に、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計を1500ppmを超える値にして、本件発明2における相違点(5-4-1)に係る構成をとることを容易に想到するとは、記載事項(3-1)?記載事項(3-7)の内容を参酌しても、認められない。
また、本件発明5は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されるとおり、発酵麦芽飲料において高アルコールならではの嗜好性と飲みやすさを両立するという格別顕著な効果を奏するものと認められる。
以上より、本件発明5は甲4飲料発明並びに甲3に記載された事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)申立人の主張について
異議申立書(特に、39頁16行?40頁3行、40頁17行?42頁1行、43頁19行?44頁15行)における主張2B1、2B2及び2B3は、上記イ(ウ)に示したとおり、採用することができない。
また、異議申立書(特に、42頁24行?43頁12行)における主張2B5は、上記エ(ウ)に示したとおり、採用することができない。

(エ)小括
以上より、本件発明5は、甲4飲料発明並びに甲3に記載された事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

カ 本件発明8について
(ア)本件発明8と甲4製法発明との対比
本件発明8と甲4製法発明とを対比する。
ビールは「原料として少なくとも水、ホップ、および麦芽を使用した発酵麦芽飲料」であり、また甲4製法発明においては乳酸が添加されており、これは本件発明8における「乳酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整される場合」に相当するから、本件発明8と甲4製法発明とは、アルコールを含む、原料として少なくとも水、ホップ、および麦芽を使用した発酵麦芽飲料の製造方法である点で一致し、少なくとも以下の点で相違する。

相違点(8-4-1)
本件発明8では、(a)乳酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整される場合には、
(i)アルコール濃度が7(v/v)%以上13(v/v)%以下の場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2200mg/L以下に調整され、
(ii)アルコール濃度が13(v/v)%を超えて16(v/v)%以下の場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2600mg/L以下に調整される一方、
甲8製法発明では、アルコール濃度が5(v/v)%であり、乳酸濃度(クエン酸換算)は1500mg/Lであるが有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計は不明である点

(イ)判断
記載事項(4-1)には、発酵麦芽飲料に飲用アルコールを添加すると、飲用アルコールのピリピリとしたアルコール味が突出して感じられるようになることが記載されており、記載事項(4-3)には、ビールテイスト飲料に含有させて、添加した飲用アルコールのアルコール味が突出して感じられ難くすることのできる酸味料の例として、乳酸、リン酸、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸及び酒石酸などが挙げられており、これらは本件発明1における「有機酸」又は「リン酸」に該当するが、記載事項(4-4)には「酸味料の含有量が1500ppmを超えると、酸味料の含有量が多すぎるため、酸味が強くなりすぎてしまう。そのため、ビールテイスト飲料として適さないものとなってしまうおそれがある。」との記載及び「酸味料の含有量は、最終製品中に含有されている含有量がクエン酸換算で250?1500ppmの範囲内に入っていればよく、その由来は問わない。」との記載がある。
当業者が、アルコール感(質)及びアルコール感(量)の評価が最高評価であるものを製造することができる甲4製法発明に対して、これらの記載による教示にもかかわらず、あえて、アルコール濃度を増加させると同時に、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計を1500ppmを超える値にして、本件発明8における相違点(8-4-1)に係る構成をとることを容易に想到するとは、記載事項(3-1)?記載事項(3-7)の内容を参酌しても、認められない。
また、本件発明8は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されるとおり、高アルコールならではの嗜好性と飲みやすさを両立する発酵麦芽飲料を製造できるという格別顕著な効果を奏するものと認められる。
以上より、本件発明8は甲4製法発明並びに甲3に記載された事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)申立人の主張について
異議申立書(特に、39頁16行?40頁3行、40頁17行?42頁1行、43頁19行?44頁15行)における主張は2B1、2B2及び2B3は、上記イ(ウ)に示したとおり、採用することができない。

(エ)小括
以上より、本件発明8は、甲4製法発明並びに甲3に記載された事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

キ 本件発明9について
(ア)本件発明9と甲4改善発明との対比
本件発明9と甲4改善発明とを対比する。
ビールは「原料として少なくとも水、ホップ、および麦芽を使用した発酵麦芽飲料」であり、また甲4改善発明においては乳酸が添加されており、これは本件発明9における「乳酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整される場合」に相当するから、本件発明9と甲4改善発明とは、アルコールを含む、原料として少なくとも水、ホップ、および麦芽を使用した発酵麦芽飲料の製造方法である点で一致し、少なくとも以下の点で相違する。

相違点(9-4-1)
本件発明9では、(a)乳酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整される場合には、
(i)アルコール濃度が7(v/v)%以上13(v/v)%以下の場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2200mg/L以下に調整され、
(ii)アルコール濃度が13(v/v)%を超えて16(v/v)%以下の場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2600mg/L以下に調整される一方、
甲8改善発明では、アルコール濃度が5(v/v)%であり、乳酸濃度(クエン酸換算)は1500mg/Lであるが有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計は不明である点

(イ)判断
記載事項(4-1)には、発酵麦芽飲料に飲用アルコールを添加すると、飲用アルコールのピリピリとしたアルコール味が突出して感じられるようになることが記載されており、記載事項(4-3)には、ビールテイスト飲料に含有させて、添加した飲用アルコールのアルコール味が突出して感じられ難くすることのできる酸味料の例として、乳酸、リン酸、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸及び酒石酸などが挙げられており、これらは本件発明1における「有機酸」又は「リン酸」に該当するが、記載事項(4-4)には「酸味料の含有量が1500ppmを超えると、酸味料の含有量が多すぎるため、酸味が強くなりすぎてしまう。そのため、ビールテイスト飲料として適さないものとなってしまうおそれがある。」との記載及び「酸味料の含有量は、最終製品中に含有されている含有量がクエン酸換算で250?1500ppmの範囲内に入っていればよく、その由来は問わない。」との記載がある。
当業者が、アルコール感(質)及びアルコール感(量)の評価が最高評価であるものを得ることができる甲4改善発明に対して、これらの記載による教示にもかかわらず、あえて、アルコール濃度を増加させると同時に、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計を1500ppmを超える値にして、本件発明9における相違点(9-4-1)に係る構成をとることを容易に想到するとは、記載事項(3-1)?記載事項(3-7)の内容を参酌しても、認められない。
また、本件発明9は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されるとおり、麦芽飲料に高アルコールならではの嗜好性と飲みやすさを付与できるという格別顕著な効果を奏するものと認められる。
以上より、本件発明9は甲4改善発明並びに甲3に記載された事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)申立人の主張について
異議申立書(特に、39頁16行?40頁3行、40頁17行?42頁1行、43頁19行?44頁15行)における主張2B1、2B2及び2B3は、上記イ(ウ)に示したとおり、採用することができない。
また、申立人は、異議申立書(特に、40頁4?16行)において、概略、以下の主張をしている。
(申立人の主張2B6)
甲4改善発明において、アルコール感を改善するビールテイスト飲料を、アルコール濃度が8(v/v)%超の高アルコール飲料とすることは、当業者にとって容易になし得ることである。
また、「ピリピリとしたアルコール味が突出して感じられ難くして、アルコール感を改善する」ことによって、飲みやすくなり、嗜好性も高くなる。つまり、甲4改善発明において、改善対象であるビールテイスト飲料をアルコール濃度が8(v/v)%超の高アルコール飲料とした場合に得られるアルコール感改善効果は、本件発明9に係る方法で得られる「高アルコールならではの嗜好性と飲みやすさを付与する」効果に等しい。

申立人の主張2B6について検討する。
当業者が、アルコール感(質)及びアルコール感(量)の評価が最高評価であるものを得ることができる甲4改善発明に対して、記載事項(4-1)、記載事項(4-3)及び記載事項(4-4)の記載による教示にもかかわらず、あえて、アルコール濃度を増加させると同時に、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計を1500ppmを超える値にして、本件発明9における相違点(9-4-1)に係る構成をとることを容易に想到するとは、記載事項(3-1)?記載事項(3-7)の内容を参酌しても、認められない。
また、本件発明9は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されるとおり、麦芽飲料に高アルコールならではの嗜好性と飲みやすさを付与できるという格別顕著な効果を奏するものと認められる。
したがって、申立人の主張2B6は、採用することができない。

(エ)小括
以上より、本件発明9は、甲4改善発明並びに甲3に記載された事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)申立理由3(明確性要件違反)
ア 判断
本件発明1、3、4、及び5についての請求項1、3、4、及び5に記載された「調整」とは、本件特許明細書の発明の詳細な説明に「本発明における有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計の調整は、有機酸またはリン酸を添加することにより行ってもよいし、あるいは、有機酸またはリン酸を含有する原料を配合すること、またはその配合量を増減させることによって行ってもよい。」(段落0012)と記載されるように、単に、有機酸またはリン酸の添加、あるいは有機酸またはリン酸を含有する原料の配合・その配合量の増減による状態を意味する用語であって、製造方法を意味するものとは認められない。
したがって、「調整」との特定事項があるからといって、物の発明である本件発明1、3、4、及び5についての請求項1、3、4、及び5に、その物の製造方法が記載されているとは認められず、請求項1、3、4、及び5が、いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームであるとすることはできない。

イ 申立人の主張について
申立人は、異議申立書(特に、45頁1?14行)において、概略、以下の主張をしている。
(申立人の主張3)
本件発明1の構成「有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が、乳酸、リン酸、酒石酸、またはリンゴ酸の濃度調整によって調整されたものであり、」は、飲料自体の構成ではなく、当該飲料の製造工程を特定する構成である。つまり、本件発明1は、物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されているいわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームである。同様の記載のある本件発明3、本件発明4、本件発明5も同様に、プロダクト・バイ・プロセス・クレームである。
そして、本件明細書の実施例では、常法に従って試験醸造したビールの有機酸とリン酸の濃度を測定したとの記載があることから、飲料中の各種の有機酸の濃度の測定は不可能ではないことは明らかであり、プロダクト・バイ・プロセス・クレームとするだけの不可能・非実際的事情が存在するとは言えない。

しかし、上記アに示したとおり、本件発明1、3、4、及び5についての請求項1、3、4、及び5に記載された「調整」は状態を示しているだけで、製造方法を意味するものとは認められないことから、申立人の主張する「プロダクト・バイ・プロセス・クレームとするだけの不可能・非実際的事項」の存否を検討するまでもなく、請求項1、3、4、及び5が、いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームであるとすることはできない。
したがって、申立人の主張3は、採用することができない。

ウ 小括
以上より、本件発明1、3、4、及び5は明確である。

(5)申立理由4(サポート要件違反)及び申立理由5(実施可能要件違反)
ア 判断
(ア)申立理由4(サポート要件違反)について
本件発明の解決しようとする課題は、本件明細書の発明の詳細な説明(特に、段落0004及び段落0007)及び請求項1?9の記載より、「高アルコールならではの嗜好性と飲みやすさを両立した発酵麦芽飲料、その製造方法、又は、発酵麦芽飲料に高アルコールならではの嗜好性と飲みやすさを付与する方法を提供すること」であると認められる。
本件明細書の発明の詳細な説明の段落0033?段落0045には、嗜好性及び飲みやすさを総合評価としたと認められる呈味評価(実施例1)において、
(a)乳酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整された発酵麦芽飲料では、
(i)アルコール濃度が7(v/v)%以上13(v/v)%以下の場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2200mg/L以下に調整されたものの総合評価が良好であり、
(ii)アルコール濃度が13(v/v)%を超えて16(v/v)%以下の場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2600mg/L以下に調整されたものの総合評価が良好であり
(b)酒石酸またはリンゴ酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整された発酵麦芽飲料では、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1900mg/L以上2600mg/L以下に調整され、かつ、アルコール濃度が7?10(v/v)%に調整されたものの総合評価が良好であり、
(c)リン酸の濃度調整により有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が調整された発酵麦芽飲料では、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1900mg/L以上2600mg/L以下に調整され、かつ、アルコール濃度が7?10(v/v)%に調整されたものの総合評価が良好である
ことが示されている。
本件明細書の発明の詳細な説明には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が、乳酸、リン酸、酒石酸、リンゴ酸の任意の組合せの濃度調整によって調整された発酵麦芽飲料についての呈味評価が具体的には記載されていないものの、上記の呈味評価(実施例1)の結果に接した当業者は、乳酸、リン酸、酒石酸、リンゴ酸の任意の組合せの濃度調整によって、アルコール濃度の範囲及び有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計の範囲が、上記(a)、(b)及び(c)のすべてに共通する範囲に入るように調整された発酵麦芽飲料であれば、上記(a)、(b)及び(c)のいずれの場合にも該当するといえることから、上記(a)、(b)及び(c)と同様に、総合評価が良好であることを認識することができる。
したがって、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が、乳酸、リン酸、酒石酸、またはリンゴ酸の濃度調整によって調整された本件発明1、3?9、及び、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が、乳酸、リン酸、酒石酸、リンゴ酸、またはこれらの任意の組合せの濃度調整によって調整された本件発明2は、いずれも、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題「「高アルコールならではの嗜好性と飲みやすさを両立した発酵麦芽飲料、その製造方法、又は、発酵麦芽飲料に高アルコールならではの嗜好性と飲みやすさを付与する方法を提供すること」を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。

(イ)申立理由5(実施可能要件違反)について
本件発明1?7は、発酵麦芽飲料の発明であり、いずれも、本件明細書の発明の詳細な説明(特に、段落0026?段落0029)の記載により、当業者が生産することができると認められるものであり、また、本件明細書の発明の詳細な説明(特に、段落0033?段落0045(実施例1))の記載及び出願当時の技術常識に基づき、発酵麦芽飲料として使用できるものであると認められるものであるので、実施可能要件を満たすといえる。
本件発明8は、発酵麦芽飲料の製造方法の発明であり、本件明細書の発明の詳細な説明(特に、段落0026?段落0029)の記載により、当業者が製造することができると認められるものであり、また、本件明細書の発明の詳細な説明(特に、段落0033?段落0045(実施例1))の記載及び出願当時の技術常識に基づき、発酵麦芽飲料として使用できるものが製造できると認められるものであるので、実施可能要件を満たすといえる。
本件発明9は、アルコール濃度が7?16(v/v)%である発酵麦芽飲料に高アルコールならではの嗜好性と飲みやすさを付与する方法の発明であり、本件明細書の発明の詳細な説明(特に、段落0033?段落0045(実施例1))の記載により、アルコール濃度が7?16(v/v)%である高アルコールの発酵麦芽飲料に嗜好性と飲みやすさを付与することができると認められるものであるので、実施可能要件を満たすと言える。

イ 申立人の主張について
申立人は、異議申立書(特に、45頁15行?47頁最終行)において、概略、以下の主張をしている。
(申立人の主張4)
本件明細書の実施例1には、試験醸造されたビールに、乳酸、リン酸、酒石酸、又はリンゴ酸を添加して官能評価をしているが、有機酸とリン酸の合計濃度が1600mg/Lとなるように乳酸を添加したサンプルと、リン酸、酒石酸、又はリンゴ酸を添加して有機酸とリン酸の合計濃度が1600mg/Lとなるように調整したサンプルでは、総合評価を始めとする各種の官能評価が異なっており(表1?4)、添加する有機酸の種類によって得られる発酵麦芽飲料の香味が異なることが記載されている。
飲料中の有機酸組成や無機塩類の種類が飲料の呈味に影響を与えるという技術常識と、本件明細書の実施例の結果から、本件発明の効果である高アルコールならではの嗜好性と飲みやすさの両立、より具体的には、ボディ感、麦由来の後渋味、アルコール由来の後辛味の改善効果は、飲料中の有機酸とリン酸の合計量のみで得られるものではなく、飲料中の乳酸、リン酸、酒石酸、又はリンゴ酸の含有量の影響を受けることが理解できる。
特に、本件明細書の実施例1において、リン酸、酒石酸、及びリンゴ酸で調整した場合には、飲料の有機酸とリン酸の合計濃度が1600mg/Lの飲料は、総合評価が2であり本件発明の効果が奏されていないのに対して、飲料の有機酸とリン酸の合計濃度を1900mg/Lになるまで添加量を増大させると、総合評価が4になり本件発明の効果が奏されたとの結果(本件明細書の表2?4)が開示されている。これらの結果から、本件発明の効果を奏するためには、飲料中の有機酸とリン酸の合計濃度が特定の範囲内にあることだけでは足らず、乳酸、リン酸、酒石酸、又はリンゴ酸が、本件発明の効果を奏するために必要充分なほど高くなければならないことが理解できる。
ここで、発酵麦芽飲料の有機酸組成や各有機酸やリン酸の含有量は、原料の種類や使用量、pH調整剤や酸味料として使用された有機酸の種類や使用量、発酵条件等によって影響を受ける。このため、本件明細書の実施例で原料とされているビールとは、乳酸、リン酸、酒石酸、及びリンゴ酸の含有量が大きく異なるようなビールを原料とした場合に、乳酸を添加して有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計を1600?2600mg/Lに調整した場合に、表1に記載の発酵麦芽飲料と同様の呈味が得られるとは、当業者には理解できない。
このように、本件明細書の実施例の記載からは、本件発明の効果を奏するためには、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計を特定の範囲内に調整することに加えて、乳酸、リン酸、酒石酸、又はリンゴ酸の最終的な濃度が重要であることが理解できる。にもかかわらず、本件明細書の実施例では、原料に使用したビールの有機酸組成や各有機酸やリン酸の含有量について開示されておらず、本件明細書の実施例からは、例えば、飲料の乳酸濃度がどの程度であれば、本件発明の効果が奏されるのか不明である。

申立人の主張するように、本件明細書の発明の詳細な説明の段落0033?段落0045には、嗜好性及び飲みやすさを総合評価としたと認められる呈味評価(実施例1)において、有機酸とリン酸の合計濃度が1600mg/Lとなるように乳酸を添加した発酵麦芽飲料と、リン酸、酒石酸、又はリンゴ酸を添加して有機酸とリン酸の合計濃度が1600mg/Lとなるように調整した発酵麦芽飲料では、総合評価を始めとする各種の官能評価が異なっており(表1?4)、添加する有機酸の種類によって得られる発酵麦芽飲料の香味が異なることが記載されている。
しかし、この呈味評価(実施例1)においては、常法に従って試験醸造されたビールを発酵麦芽飲料として用いることにより、
(a)乳酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整された発酵麦芽飲料では、
(i)アルコール濃度が7(v/v)%以上13(v/v)%以下の場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2200mg/L以下に調整されたものの総合評価が良好であり、
(ii)アルコール濃度が13(v/v)%を超えて16(v/v)%以下の場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2600mg/L以下に調整されたものの総合評価が良好であり
(b)酒石酸またはリンゴ酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整された発酵麦芽飲料では、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1900mg/L以上2600mg/L以下に調整され、かつ、アルコール濃度が7?10(v/v)%に調整されたものの総合評価が良好であり、
(c)リン酸の濃度調整により有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が調整された発酵麦芽飲料では、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1900mg/L以上2600mg/L以下に調整され、かつ、アルコール濃度が7?10(v/v)%に調整されたものの総合評価が良好であることが示されており、本件発明1、3?9では、これらの呈味評価の結果に対応させて、アルコール濃度の範囲及び有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計の範囲を、(a)乳酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整される場合、(b)酒石酸またはリンゴ酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整される場合、(c)リン酸の濃度調整により有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が調整される場合のそれぞれにおいて、異なるものとし、本件発明2では、上記(a)、(b)及び(c)のすべてに共通する範囲に入るものとしている。
また、本件明細書の発明の詳細な説明の段落0013及び段落0014にも記載されるとおり、乳酸、リン酸、酒石酸、リンゴ酸は、いずれも食品に添加する酸味料として広く用いられているものであるから、たとえ、乳酸、リン酸、酒石酸、リンゴ酸のいずれを発酵麦芽飲料における有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計の調整に用いるかによって、発酵麦芽飲料の呈味に対する影響が異なるとしても、本件発明1?9に係る発酵麦芽飲料の嗜好性と飲みやすさの両立を否定する根拠にはならない。
また、発酵麦芽飲料の有機酸組成や各有機酸やリン酸の含有量は、原料の種類や使用量、pH調整剤や酸味料として使用された有機酸の種類や使用量、発酵条件等によって影響を受けるとしても、本件発明1?9において有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計を調整する対象とされる発酵麦芽飲料は、通常の方法で製造される発酵麦芽飲料と認められ、たとえ、その呈味は、多少の違いがあるとしても、技術常識に照らして、当業者が通常の発酵麦芽飲料として認識するものの範囲にとどまり、本件明細書の発明の詳細な説明の段落0033?段落0045に記載された呈味評価(実施例1)で用いられたものと同様のものと認められるので、本件発明1?9の範囲全体において発酵麦芽飲料の嗜好性と飲みやすさの両立ができることが、当業者に認識できないとすることはできない。
したがって、申立人の主張4は、採用することができない。

ウ 小括
以上より、本件発明1?9は発明の詳細な説明に記載されたものであり、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1?9を当業者が実施できるように記載されている。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?9に係る特許を取消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600?2600mg/Lであり、アルコール濃度が7?16(v/v)%である、原料として少なくとも水、ホップ、および麦芽を使用した発酵麦芽飲料であって、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が、乳酸、リン酸、酒石酸、またはリンゴ酸の濃度調整によって調整されたものであり、
(a)乳酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整される場合には、
(i)アルコール濃度が7(v/v)%以上13(v/v)%以下の場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2200mg/L以下に調整され、
(ii)アルコール濃度が13(v/v)%を超えて16(v/v)%以下の場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2600mg/L以下に調整され、
(b)酒石酸またはリンゴ酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整される場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1900mg/L以上2600mg/L以下に調整され、かつ、アルコール濃度が7?10(v/v)%に調整され、
(c)リン酸の濃度調整により有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が調整される場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1900mg/L以上2600mg/L以下に調整され、かつ、アルコール濃度が7?10(v/v)%に調整される、発酵麦芽飲料。
【請求項2】
有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1900?2200mg/Lであり、アルコール濃度が7?10(v/v)%である、原料として少なくとも水、ホップ、および麦芽を使用した発酵麦芽飲料であって、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が、乳酸、リン酸、酒石酸、リンゴ酸、またはこれらの任意の組合せの濃度調整によって調整されたものである、発酵麦芽飲料。
【請求項3】
乳酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整され、
(i)アルコール濃度が7(v/v)%以上13(v/v)%以下の場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2200mg/L以下に調整され、
(ii)アルコール濃度が13(v/v)%を超えて16(v/v)%以下の場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2600mg/L以下に調整される、請求項1に記載の発酵麦芽飲料。
【請求項4】
酒石酸またはリンゴ酸の濃度調整により、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1900mg/L以上2600mg/L以下に調整される、請求項1に記載の発酵麦芽飲料。
【請求項5】
リン酸の濃度調整により、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1900mg/L以上2600mg/L以下に調整される、請求項1に記載の発酵麦芽飲料。
【請求項6】
色度が100EBC以下である、請求項1?5のいずれか一項に記載の発酵麦芽飲料。
【請求項7】
全窒素の含有量が1300mg/L以下である、請求項1?6のいずれか一項に記載の発酵麦芽飲料。
【請求項8】
アルコール濃度が7?16(v/v)%である、原料として少なくとも水、ホップ、および麦芽を使用した発酵麦芽飲料を製造する方法であって、該発酵麦芽飲料中の有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600?2600mg/Lになるように、乳酸、リン酸、酒石酸、またはリンゴ酸の濃度を調整する工程を含んでなり、
(a)乳酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整される場合には、
(i)アルコール濃度が7(v/v)%以上13(v/v)%以下の場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2200mg/L以下に調整され、
(ii)アルコール濃度が13(v/v)%を超えて16(v/v)%以下の場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2600mg/L以下に調整され、
(b)酒石酸またはリンゴ酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整される場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1900mg/L以上2600mg/L以下に調整され、かつ、アルコール濃度が7?10(v/v)%に調整され、
(c)リン酸の濃度調整により有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が調整される場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1900mg/L以上2600mg/L以下に調整され、かつ、アルコール濃度が7?10(v/v)%に調整される、方法。
【請求項9】
アルコール濃度が7?16(v/v)%である、原料として少なくとも水、ホップ、および麦芽を使用した発酵麦芽飲料に高アルコールならではの嗜好性と飲みやすさを付与する方法であって、該発酵麦芽飲料中の有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600?2600mg/Lになるように、乳酸、リン酸、酒石酸、またはリンゴ酸の濃度を調整する工程を含んでなり、
(a)乳酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整される場合には、
(i)アルコール濃度が7(v/v)%以上13(v/v)%以下の場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2200mg/L以下に調整され、
(ii)アルコール濃度が13(v/v)%を超えて16(v/v)%以下の場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600mg/L以上2600mg/L以下に調整され、
(b)酒石酸またはリンゴ酸の濃度調整により有機酸の濃度が調整される場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1900mg/L以上2600mg/L以下に調整され、かつ、アルコール濃度が7?10(v/v)%に調整され、
(c)リン酸の濃度調整により有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が調整される場合には、有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1900mg/L以上2600mg/L以下に調整され、かつ、アルコール濃度が7?10(v/v)%に調整される、方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-08-06 
出願番号 特願2015-227532(P2015-227532)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C12C)
P 1 651・ 121- YAA (C12C)
P 1 651・ 536- YAA (C12C)
P 1 651・ 113- YAA (C12C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松田 芳子  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 村上 騎見高
齊藤 真由美
登録日 2019-08-09 
登録番号 特許第6567396号(P6567396)
権利者 麒麟麦酒株式会社
発明の名称 高アルコールならではの嗜好性と飲みやすさを両立した発酵麦芽飲料  
代理人 永井 浩之  
代理人 中村 行孝  
代理人 朝倉 悟  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 朝倉 悟  
代理人 中村 行孝  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 永井 浩之  

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