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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
管理番号 1378727
異議申立番号 異議2021-700032  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-11-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-01-14 
確定日 2021-08-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6722008号発明「粘着テープ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6722008号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2?10〕について訂正することを認める。 特許第6722008号の請求項1及び3ないし10に係る特許を維持する。 特許第6722008号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する 
理由 第1 手続の経緯
特許第6722008号の請求項1?10に係る特許についての出願は、平成28年3月16日(優先権主張 平成27年4月1日及び平成27年12月28日 いずれも(JP)日本国)の出願であって、令和2年6月23日にその特許権の設定登録がされ、同年7月15日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1?10に係る特許に対し、令和3年1月14日に特許異議申立人古川慎二(以下、「申立人」ともいう。)は特許異議の申立てを行い、当審は令和3年3月31日付けで取消理由を通知した。この取消理由通知に対して、特許権者は同年6月1日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)を行った。その訂正の請求に対して、申立人は同年7月8日に意見書を提出した。

第2 訂正の可否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、次の訂正事項1?8のとおりである。なお、訂正前の請求項2?10は、訂正前の請求項3?10が訂正前の請求項2の記載を引用しているから、本件訂正は、一群の請求項2?10について請求されている。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1または2に記載の粘着テープ。」と記載されているのを、「請求項1に記載の粘着テープ。」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1から3のいずれか一項に記載の粘着テープ。」と記載されているのを、「請求項1または3に記載の粘着テープ。」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1から4のいずれか一項に記載の粘着テープ。」と記載されているのを、「請求項1、3または4に記載の粘着テープ。」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1から5のいずれか一項に記載の粘着テープ。」と記載されているのを、「請求項1、3、4または5に記載の粘着テープ。」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1から6のいずれか一項に記載の粘着テープ。」と記載されているのを、「請求項1、3、4、5または6に記載の粘着テープ。」に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1から7のいずれか一項に記載の粘着テープ。」と記載されているのを、「請求項1、3、4、5、6または7に記載の粘着テープ。」に訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項10に「請求項1から9のいずれか一項に記載の粘着テープ。」と記載されているのを、「請求項1、3、4、5、6、7、8または9に記載の粘着テープ。」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項2を削除するものであるから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1に伴って、請求項3の引用請求項を「請求項1または2」から「請求項1」に減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正事項1に伴って、請求項4の引用請求項を「請求項1から3のいずれか一項」から「請求項1または3」に減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正事項1に伴って、請求項5の引用請求項を「請求項1から4のいずれか一項」から「請求項1、3または4」に減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
(5)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正事項1に伴って、請求項6の引用請求項を「請求項1から5のいずれか一項」から「請求項1、3、4または5」に減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
(6)訂正事項6について
訂正事項6は、訂正事項1に伴って、請求項7の引用請求項を「請求項1から6のいずれか一項」から「請求項1、3、4、5または6」に減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
(7)訂正事項7について
訂正事項7は、訂正事項1に伴って、請求項8の引用請求項を「請求項1から7のいずれか一項」から「請求項1、3、4、5、6または7」に減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
(8)訂正事項8について
訂正事項8は、訂正事項1に伴って、請求項10の引用請求項を「請求項1から9のいずれか一項」から「請求項1、3、4、5、6、7、8または9」に減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
(9)小括
以上のとおり、訂正事項1?8は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2?10〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件訂正請求により訂正された請求項1及び3?10に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1及び3?10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(以下、各請求項に係る発明を、項番号に応じて「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)。
「【請求項1】
ポリ塩化ビニルフィルムと、
該ポリ塩化ビニルフィルムの少なくとも一方の表面に配置された粘着剤層とを含み、
前記ポリ塩化ビニルフィルムは、可塑剤と、エラストマーと、脂肪酸金属塩とを含み、
前記ポリ塩化ビニルフィルムにおける前記脂肪酸金属塩の含有量が0.01重量%以上0.3重量%以下であり、
-20℃における引張破断伸びが80%以上である、粘着テープ。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記ポリ塩化ビニルフィルムの厚さが100μm以下である、請求項1に記載の粘着テープ。
【請求項4】
坪量が100g/m^(2)以下である、請求項1または3に記載の粘着テープ。
【請求項5】
総厚が70μm以上90μm未満である、請求項1、3または4に記載の粘着テープ。
【請求項6】
前記ポリ塩化ビニルフィルムにおける前記エラストマーの含有量が1重量%以上30重量%以下である、請求項1、3、4または5に記載の粘着テープ。
【請求項7】
前記ポリ塩化ビニルフィルムにおける前記可塑剤の含有量は10重量%以上60重量%以下である、請求項1、3、4、5または6に記載の粘着テープ。
【請求項8】
前記脂肪酸金属塩を構成する金属は鉛以外の金属であり、前記ポリ塩化ビニルフィルムは鉛を含む安定剤を含有しない、請求項1、3、4、5、6または7に記載の粘着テープ。
【請求項9】
前記ポリ塩化ビニルフィルムにおける前記脂肪酸金属塩の含有量が0.05重量%以上0.3重量%以下である、請求項8に記載の粘着テープ。
【請求項10】
電線と、該電線の周囲に巻き付けられている請求項1、3、4、5、6、7、8または9に記載の粘着テープと、を含むワイヤーハーネス。」

第4 取消理由の概要
訂正前の請求項1?10に係る特許に対して、令和3年3月31日付けで特許権者に通知した取消理由は、本件請求項2に係る発明における「動的粘度」について、「動的粘度」の値は、どのようなものか明らかではなく、その求め方によっては、値が異なるものとなり、「動的粘度が3000Pa・s以下である」かどうかを一義的に決められないことになるから、本件は、特許請求の範囲の請求項2及び請求項2を直接的又は間接的に引用する請求項3?10の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない、というものである。

第5 取消理由に対する当審の判断
本件訂正によって、訂正前の請求項2は削除され、訂正後の請求項3?10は訂正前の請求項2を引用しないものとなり、訂正後の請求項1及び3?10には「動的粘度」についての記載はないことから、上記取消理由は解消された。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 上記第4で述べた取消理由は、特許異議申立理由の「申立ての理由3(明確性要件違反)」のうち「(3-2)動的粘度について」に相当するものであるから、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について、申立人は、次の理由1?5のように主張している。なお、申立ての理由における「本件発明」とは、本件訂正前のものを指す。
(1)申立ての理由1(サポート要件違反)
本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないため、本件特許は特許法第36条第6項第1号の要件を満たさない。具体的には、次のとおりである。
(1-1)厚さ
本件発明1においては、厚さについて何ら規定されていないが、本件発明は、「PVCフィルムを薄くすると、該PVCフィルムを用いたPVC粘着テープが巻き付けられたワイヤーハーネスにおいて、低温下で上記PVC粘着テープにクラックが生じやすくなる」という「事情に鑑みてなされたものであって、PVCフィルムを薄くしても低温下においてクラックが発生しにくいPVC粘着テープを提供することを目的とする」ものである(本件明細書段落【0004】-【0005】,2020年4月8日付け意見書も参照)。
したがって、本件発明における課題は、薄いポリ塩化ビニルフィルム(以下、「PVCフィルム」ともいう。)において、低温下において生じるクラックの発生を抑制することにあるものと認められる。
一方で、本件明細書の上記記載は、厚いPVCフィルムにおいてはクラックが生じにくいということを意味するものであり、本件発明が解決しようとする課題自体が存在しないということを意味する。
そうすると、厚さについて何ら規定していない本件発明1は、課題が解決されない範囲を明らかに包含するものであり、当該部分は発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲を超える部分ものであるから、サポート要件を満たさない。
(1-2)引張破断伸び
本件発明は、-20℃における引張破断伸び(以下、「低温引張破断伸び」という)が80%以上であることを規定し、実施例においては一20℃の巻き付け試験において、クラックが認められるか否かを評価している(本件明細書段落【0094】)。
巻き付け試験は、14本の電線に粘着テープを巻き付けて作製した電線束を、-20℃環境下で直径80mmの鋼棒に巻き付けて行った旨が記載されており(同【0094】)、この試験条件からすれば、巻き付けられた粘着テープは-20℃の低温状態で少なくとも部分的に引っ張られている状態と理解できる。
そうすると、本件発明が規定する低温引張破断伸びに関する構成要件は、この巻き付け試験における引張状態と実質的に相違せず、単に、巻き付け試験における引張状態を低温引張破断伸びに言い換えて規定したものに過ぎない。有り体に言えば、低温で張力がかかったときにクラックが生じるか否かと、低温引張破断伸びで伸び率が低い、すなわち破断しやすいこととは、技術的な意味において相違せず、本件発明はこの点において願望クレームであるといえる。
この点について、本件発明1に記載の構成が全体として、低温クラックを抑制するという課題を解決する手段を提示すると言えるか否かについてさらに検討する。
まず、本件発明の低温引張破断伸びに関する構成要件は、所定の物性を数値で表現した機能的表現であり、上記のとおり、本件発明の課題を単に提示しているものに過ぎない。そうすると、低温引張破断伸びに関する構成要件は、本件発明の課題を解決するための具体的手段を提示しているものとは言えない(東京地裁昭和51年3月17日判決,ボールベアリング自動組立装置事件)。
そこで、本件発明1に記載された、ポリ塩化ビニルフィルムが可塑剤と、エラストマーと、所定量の脂肪酸金属塩を含むことや粘着剤層を含むことなどの他の構成要件が、低温クラックを抑制するという課題解決手段になるか否かについて検討するが、本件明細書の比較例1及び2においては、低温引張破断伸びに関する構成要件以外の本件発明1に記載された他の構成要件すべてを満たした場合であっても、低温クラックを抑制するという課題が解決し得ないことが示されている(本件明細書段落【0096】、表1)。特に、比較例1及び2は特定のエラストマーを含むことで、かえって低温引張破断伸びが低下するような例である。
そうすると、本件発明1は、低温引張破断伸びに関する構成要件以外の構成要件を満たしても課題を解決できない範囲を明らかに包含するものであり、当該部分は発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲を超える部分ものであるから、サポート要件を満たさない。
また、このことは本件発明2?10においても同様に言うことができる。
さらに、例えば可塑剤を多量に添加する場合には、可塑剤のブリードが生じ、粘着テープとしての特性にも劣る結果となることが想定される。そのため、このような観点からも、本件発明が粘着テープとしての課題を解決できるというためには、低湿引張破断伸びに関する構成要件以外の構成要件について、さらに特定されることが必要といえる。
(1-3)小括
以上によれば、冒頭に述べたとおり、本件特許の特許請求の範囲に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないため、本件特許は特許法第36条第6項第1号の要件を満たさず、本件特許の請求項1及びその従属項は特許法第113条第4号により取り消されるべきである。

(2)申立ての理由2(実施可能要件違反)
本件特許の発明の詳細な説明は、請求項に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではないため、本件特許は特許法第36条第4項第1号の要件を満たさない。具体的には、以下のとおりである。
(2-1)引張破断伸び
云うまでもなく、一般的に材料の物性には上下限があり、改質剤を用いて材料本来の上下限を超える物性を達成することができるとしても、やはりその値にも限界がある。
本件発明は、低温引張破断伸びが80%以上であることを規定し、その上限については限定していないため、低温引張破断伸びの上限については無制限に権利範囲に含めるものといえるが、この点について、本件明細書が際限なく高い引張破断伸びを実施可能な程度に記載しているのか、あるいは、本件発明が明らかに実施不能な範囲を含むのかについて検討する。
当該検討にあたり、初めに引張破断伸びに関する出願時の技術水準について確認する。Journal of Vinyl Technology,June 1993,Vol.15,No.2,pp82-99(甲第2号証)には、PVC用衝撃改質剤に関する物性データが掲載されており、Fig.10aには、ポリ塩化ビニル樹脂80部とメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS)20部の混合物の引張破断伸びのデータが示されている。なお、このMBSは、本件明細書の実施例で用いられているエラストマーE1に相当する。
このFig.10aによると、常温程度から低温(-20℃)に向けて、上記混合物の引張破断伸びが略線形に減少していることが示されており、上記混合物の低温(-20℃)の引張破断伸びは120%程度になることが示されている。また、0℃付近であっても上記混合物の引張破断伸びは160%よりも低いことも示されている。
このことからすると、本件特許出願の出願時において、ポリ塩化ビニル樹脂80部とMBS20部の混合物の低温引張破断伸びが120%程度であることは公知であり、0℃付近であっても引張破断伸びは劇的に増加することもなく、160%程度であるというのが技術水準であると言える。
上記技術水準を踏まえて、本件明細書の実施例を確認すると、MBSを用いる実施例1の低温引張破断伸びは114%であり、およそ上記技術水準と類似する値が記載されている。
また、用いているエラストマーの量が約4倍(6部から28部)異なる実施例5及び6の対比からすると、エラストマー量を約4倍としても、低温引張破断伸びの増加率は1.3倍を下回る程度(≒138%/108%)であり、エラストマー量を増やすとしても低温引張破断伸びの増加には明らかに限界がある。
そのほか、本件明細書において低温引張破断伸びに関する記載としては、エラストマーが低温引張破断伸びに関与しているという記載は認められるものの(本件明細書段落【0031】、【0033】)、このような記載は、甲第2号証に記載の技術水準を超えるようなものではなく、本件明細書には、低温引張破断伸びが例えば200%を超えるような具体的な手段についての記載は一切認められない。
そうすると、200%を超えるような低温引張破断伸びを満たす粘着テープを実現することについては、本件明細書及び出願時の技術水準を鑑みても実施できるものではなく、本件発明1は、低温引張破断伸びについて実施できない範囲を明らかに包含するものであるから、実施可能要件を満たさない。
(2-2)動的粘度
本件発明2は、ポリ塩化ビニルフィルムを構成する樹脂材料の動的粘度が3000Pa・s以下であることを規定し、その下限については限定していないため、動的粘度の下限については無制限に権利範囲に含めるものといえる。
この点について、本件明細書の段落【0049】には、「動的粘度は、PVC組成物に含まれる成分(PVCおよび必要に応じて用いられる可塑剤、エラストマーその他の添加剤)の選択およびそれらの配合比により調節することができる」等の記載が認められる。
しかしながら、上記(2-1)と同様に、上記記載をもってしても、動的粘度が例えば1Pa・sであるようなポリ塩化ビニルフィルムを有する粘着テープを実現することについては、本件明細書及び出願時の技術水準を鑑みても実施できるものではなく、本件発明2は、動的粘度について実施できない範囲を明らかに包含するものであるから、実施可能要件を満たさない。
さらに、下記(3-2)で述べるように、技術常識に鑑みても、本件明細書の段落【0092】において定義される動的粘度の意味は全く持って不明であり、当業者が測定できるものではない。
当業者が測定できないものが実施できる理由はないから、この観点からも、動的粘度に関する構成は実施可能要件を満たさないものである。
(2-3)小括
以上によれば、冒頭に述べたとおり、本件特許の発明の詳細な説明は、請求項に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではないため、本件特許は特許法第36条第4項第1号の要件を満たさず、本件特許の請求項1及びその従属項は特許法第113条第4号により取り消されるべきである。

(3)申立ての理由3(明確性要件違反)
本件特許の特許請求の範囲に記載された発明は、特許を受けようとする発明が明確ではないため、本件特許は特許法第36条第6項第2号の要件を満たさない。具体的には、次のとおりである。

(3-1)可塑剤とエラストマーについて
本件発明においては、可塑剤とエラストマーが別の化合物を示す用語として使用されているが、可塑剤とエラストマーのそれぞれの用語の意味する範囲は明確に定義されてはいない。
この点、本件特許と同一の出願人によりなされたPVC系粘着テープに関する甲第1号証の実施例においては、本件明細書の実施例で使用されている可塑剤:ジオクチルフタレートに加えて、本件明細書の実施例で使用されているエラストマー:塩素化ポリエチレン及びMBSまでも、可塑剤のカテゴリーとして記載がされている。
そうすると、当該技術分野において、ある特定の化合物を可塑剤と呼称するかエラストマーと呼称するかについての明確な定義は存在せず、本件発明においては、ある化合物を可塑剤とエラストマーのいずれに区分けるべきか不明確であるため、特許発明の技術的範囲を明確に定めることが困難であり、発明を明確に把握することができない。

(4)申立ての理由4(新規性の喪失)
本件特許の請求項1?10に係る発明は、その出願前に公開された甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない(特許法第113条第2号)。

(5)申立ての理由5(進歩性の欠如)
本件特許の請求項1?10に係る発明は、その出願前に公開された甲第1号証に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(特許法第113条第2号)。

2 特許異議申し立て理由についての当審の判断
(1)申立ての理由1(サポート要件違反)について
本件発明の課題は、本件明細書の段落【0005】の記載からみて、「PVCフィルムを薄くしても低温下においてクラックが発生しにくいPVC粘着テープを提供すること」であると認められる。

そして、粘着テープの引張破断伸びについて、本件明細書には次の記載がある。
「【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によると、ポリ塩化ビニルフィルム(PVCフィルム)と、該PVCフィルムの少なくとも一方の表面に配置された粘着剤層とを含む粘着テープが提供される。上記粘着テープ(PVC粘着テープ)は、-20℃における引張破断伸び(以下「低温引張破断伸び」ともいう。)が80%以上である。このように低温でも高い伸張性を示すPVC粘着テープは、低温においても柔軟性に優れることから、良好な低温性能(例えば、低温下におけるクラック発生を防止する性能)を示すものとなり得る。」

また、本件発明の具体例である実施例、及び、本件発明に含まれない比較例について、本件明細書には、次の記載がある。
「【実施例】
【0086】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明中の「部」および「%」は、特に断りがない限り重量基準である。
【0087】
<使用材料>
以下の実施例において使用した材料の略号は次のとおりである。
(脂肪酸金属塩)
A1:ステアリン酸カルシウム(キシダ化学株式会社製品)
A2:ラウリン酸カルシウム(キシダ化学株式会社製品)
(可塑剤)
B1:フタル酸ジイソノニル(株式会社ジェイ・プラス製品、商品名「DINP」)
B2:テレフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(株式会社ジェイ・プラス製品、商品名「DOTP」)
(エラストマー)
E1:カネカ株式会社製品、(メタ)アクリル酸エステル-ブタジエン-スチレン共重合体、商品名「カネエースB22」
E2:日本ゼオン株式会社製品、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル含有量31?36%、商品名「Nipol 1052J」
E3:JSR株式会社製品、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル含有量41.5%、グレード名「PN20HA」
E4:日本合成化学工業株式会社製品、エチレン-酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル含有率55%、商品名「ソアブレンBH」
E5:昭和電工株式会社製品、塩素化ポリエチレン、塩素含有量38.0?41.0%、商品名「エラスレン401A」
E6:カネカ株式会社製品、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル含有量5%、商品名「カネビニールM1008」
E7:JSR株式会社製品、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、リニア構造、スチレン含有量40%、グレード名「TR2000」
【0088】
<粘着テープの作製>
(実施例1)
固形分基準で、SBRラテックス(日本ゼオン株式会社製品、商品名「Nipol LX426」)60部、天然ゴムラテックス(GOLDEN HOPE社製品、商品名「HYTEX HA」)40部および石油樹脂エマルション120部を混合して、水分散型ゴム系粘着剤組成物を調製した。上記石油樹脂エマルションとしては、石油樹脂(エクソン社製品、脂肪族系炭化水素樹脂、商品名「エスコレッツ1202」、軟化点100℃)75部をトルエン25部に溶解し、これに界面活性剤(花王株式会社製品、商品名「エマルゲン920」)3.5部および水46.5部を加えてホモミキサーにて攪拌乳化したものを使用した。以下、上記粘着剤組成物を「粘着剤組成物A」と表記する。
【0089】
表1に示す各原料を同表に示す組成(すなわち、脂肪酸金属塩A1を0.10%、可塑剤B1を25%、エラストマーE1を6%の割合で含み、残部がPVCである組成)となるように計量して混合し、混練した後、カレンダー成形機により成形温度150℃で厚さ70μmの長尺なフィルム形状に成形した。このようにして例1に係るPVCフィルム(支持基材)を得た。ここで、表1に示すPVCとしては、平均重合度1000のポリ塩化ビニル(信越化学株式会社製品、商品名「TK-1000」)を使用した。
【0090】
上記PVCフィルムの一方の表面に、コンマダイレクトコーターを用いて上記粘着剤組成物Aを塗布し、乾燥させ、後述する低温巻付け試験を行うために十分な長さで巻き取った。粘着剤組成物Aの塗布量は、乾燥後において表1に示す厚さの粘着剤層が形成されるように調整した。これを19mmの幅に切断(スリット)して実施例1に係る粘着テープを得た。
【0091】
(実施例2?8および比較例1?3)
PVCフィルム(支持基材)の組成と粘着剤層の厚さを表1に示すとおりとした他は実施例1と同様にして、実施例2?8および比較例1?3に係る粘着テープを作製した。
なお、各例に係るPVCフィルムを流れ方向(MD)に約2倍の長さに延伸して外観を目視で観察したところ、実施例1?5および比較例3のPVCフィルムはいずれも透明であった。実施例6および比較例1,2のPVCフィルムでは若干の白濁が観察された。
【0092】
<測定および評価>
(動的粘度測定)
JIS K 7210(2009)に記載された流れ試験方法に準じて測定した。具体的には、株式会社島津製作所製のフローテスタ(キャピラリレオメータ)CFT-500D/100Dを使用し、160℃に設定した容量1cm^(3)のピストン内に測定試料としてのPVCフィルムを充填して溶融させ、40MPaの荷重(P)をかけて孔径(D)1mm、長さ(L)1mmのダイから押し出したときのフローレート(Q)から動的粘度(単位:Pa・s)を求めた。
【0093】
(低温引張破断伸びの測定)
各例に係る粘着テープを幅10mm、長さ100mmのサイズにカットして測定サンプルを作製し、JIS K 7161に記載の「プラスチック-引張特性」の試験方法に準じて-20℃における引張破断伸びを測定した。使用した測定装置および測定条件は以下の通りである。
装置:引張試験機(株式会社島津製作所製、オートグラフAG-20kNG)
測定条件:チャック間距離50mm、引張速度300mm/min
上記の条件で各測定サンプルを長さ方向に引っ張り、サンプルが破断した時点でのチャック間距離X(mm)から次式:引張破断伸び(%)=(X-50)/50×100;により低温引張破断伸びを求めた。
【0094】
(低温巻付け試験)
住友電装株式会社製の自動車用薄肉低圧電線「AVSS0.5」を600mmの長さにカットしたもの10本および同「AVSS0.85」を600mmの長さにカットしたもの4本を用意した。これら14本の電線を寄せ集め、巻付け作業を行いやすいように長手方向の両端を粘着テープでまとめて固定した後、上記電線の外周に各例に係る粘着テープ(幅19mm)をハーフラップにて巻き付けて、評価用のサンプルを作製した。ここでハーフラップとは、粘着テープを巻き付ける際に、該粘着テープの幅の半分が既に巻き付けられた粘着テープの幅の半分に重なり合うようにする巻付け態様をいう。上記評価用サンプルを-20℃に設定したグローブボックス(エスペック株式会社製「WU-200」)に投入して1時間保持した後、同グローブボックス内において直径80mmの鋼棒の外周に沿うように巻き付けた。この状態を維持し、鋼棒外周への巻付け時または巻付けから30分以内に各例に係る粘着テープ(集束した電線の外周にハーフラップにて巻き付けられた粘着テープ)にクラックが生じたか否かを目視により観察した。
観察結果を以下の3水準で表1の「-20℃巻付け試験」の欄に示した。
E:クラックの発生は認められない(低温クラック防止性:優)。
G:軽微なクラックが認められるが、集束した電線の外表面が見えることはない(低温クラック防止性:良)。
P:集束した電線の外表面が見えるレベルのクラックが認められる(低温クラック防止性に乏しい)。
【0095】
得られた結果を、各例に係る粘着テープの概略構成とともに表1に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
表1に示されるように、低温引張破断伸びが80%以上である実施例1?8の粘着テープは、比較例1?3の粘着テープに比べて、低温(ここでは-20℃)巻付け試験におけるクラック防止性が明らかに良好であった。実施例1,2,4,6?8の粘着テープは特に高い低温クラック防止性を示した。
なお、実施例8の粘着テープにおいて、PVCフィルムにおける可塑剤B1の含有量を22重量%に変更し、かつエラストマーE2の含有量を18重量%に変更したところ、この粘着テープの低温引張破断伸びは125%であり、上記低温巻付け試験において優れたクラック防止性を示すことが確認された。」

そこで、本件のサポート要件について検討すると、上述したように、本件発明の課題は「PVCフィルムを薄くしても低温下においてクラックが発生しにくいPVC粘着テープを提供すること」であると認められるところ、粘着テープの低温下において発生するクラックは、粘着テープは低温で固くなり、温度変化による収縮や拡張に対して、粘着テープにその変化に追随できなくなる部分があり、粘着テープの一部が破断することによって生じること、すなわち、粘着テープが低温時に柔軟性が低下して破断することによって生じることは当業者にとって明らかである。
そうすると、低温時に高い伸張性を有し、破断しにくいものは、クラックが生じにくいものであることは当業者にとって明らかであるといえる。そして、本件明細書の上記【0006】にも、低温でも高い伸張性を示すPVC粘着テープは、低温下におけるクラックの発生が防止されるものであることが記載されている。
これに対し、本件発明1では、ポリ塩化ビニル(PVC)フィルムを用いた粘着テープにおいて、-20℃における引張破断伸びが80%以上である点が特定されているのであるから、-20℃において、80%までの引張であれば破断しないものであるから、そのような本件発明1に係る粘着テープは、高い低温クラック防止性を有するものであることが理解できる。
そして、上記した本件明細書の記載における実施例及び比較例を参照すると、低温における伸張性を示す低温引張破断伸びの値について、本件発明1に含まれる-20℃における低温破断伸びが80%以上であるもの(実施例1?8)は、そうでないもの(比較例1?3)に比べて、-20℃巻付け試験の結果について、実施例1?8は、「E(クラックの発生は認められない)」又は「G(軽微なクラックが認められるが、集束した電線の外表面が見えることはない)」であり、比較例1?3は、その結果が「P(集束した電線の外表面が見えるレベルのクラックが認められる)」であるから、本件発明1に含まれるPVC粘着テープは、高い低温クラック防止性を有するものであることは、実施例において確認されているといえる。
また、高い低温クラック防止性は、ポリ塩化ビニル(PVC)フィルムの厚さに依存するものではないことから、高い低温クラック防止性を有するポリ塩化ビニル(PVC)フィルムは、その厚さが厚いものであっても、薄いものであっても、高い低温クラック防止性を有するものであるということができる。
そうすると、本件発明1は、本件発明の上記課題である「PVCフィルムを薄くしても低温下においてクラックが発生しにくいPVC粘着テープを提供すること」を解決するものであるといえる。

ここで、申立人の主張について検討すると、上述したように、高い低温クラック防止性は、ポリ塩化ビニル(PVC)フィルムの厚さに依存するものではないことから、本件発明1において、ポリ塩化ビニル(PVC)フィルムの厚さについて規定されていないからといって、本件発明1がサポート要件を満たしていない、ということはできない。
また、低温引張破断伸びに関する規定以外の本件発明1に記載された他の規定の全てを満たす本件明細書の比較例1及び2は、-20℃における低温破断伸びの値が本件発明1において規定される範囲のものではなく、本件発明1に含まれるものではないのであるから、当該比較例1及び2が本件発明の課題を解決するものではないとしても、それらは本件発明1がサポート要件を満たしていないものである、という根拠とはならない。

また、申立人は、可塑剤を多量に添加する場合を示して、本件発明が粘着テープとしての課題を解決できるというためには、低温引張破断伸びに関する構成要件以外の構成要件について、さらに特定されることが必要といえる旨主張している。
しかしながら、粘着テープにおいて、可塑剤を多量に添加した場合であっても、低温におけるクラックの発生が生じやすくなるとはいえず、本件発明1において、さらに、他の発明特定事項について特定されることが必要であるとは認めることができない。

以上のことから、本件発明1について、上記申立ての理由1(サポート要件違反)に関する申立人の主張は採用することができない。また、本件発明1を引用する本件発明3?10についても同様である。

(2)申立ての理由2(実施可能要件違反)について
上記(1)において検討したように、本件発明の課題を解決するために、本件発明においては、-20℃における引張破断伸びの値について、その好ましい値として、下限値が80%である点において技術的な意味を有するものであって、当該値は80%以上のものであれば、その上限値はどのような値であってもよく、上限値に技術的な意味はない。
そして、当該上限値について特定することができないからといって、本件発明を実施することができない、というものではなく、申立人の主張は採用することができない。

また、本件訂正によって「動的粘度」について規定された請求項2は削除され、「動的粘度」についての申立人の主張は理由がないものとなった。

以上のことから、申立ての理由2についての申立人の主張は採用することができない。

(3)申立ての理由3(明確性要件違反)について
申立人は、本件発明においては、ある化合物を可塑剤とエラストマーのいずれに区分けるべきか不明確である旨主張しているが、可塑剤は、化合物を機能により規定したものであり、エラストマーは、化合物を材質によって規定したものであり、それぞれ、それ自体の定義は明確であるといえる。また、可塑剤とエラストマーの両方に属する化合物が存在するとしても、そのことで、可塑剤とエラストマーのそれぞれに含まれるものであるかどうかが不明確になるわけではない。

したがって、申立ての理由3についての申立人の主張は採用することができない。

(4)申立ての理由4(新規性の喪失)、申立ての理由5(進歩性の欠如)について
ア 甲1の記載
甲1には、「粘着テープ用支持体および粘着テープ」(発明の名称)について次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、塩化ビニル系粘着テープ用支持体に関する。さらには、当該粘着テープ用支持体に粘着層が設けられている塩化ビニル系粘着テープに関する。塩化ビニル系粘着テープは、たとえば、電気機器、自動車、エアコン配管等の電線、配管等の結束に用いられる。」
「【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、可塑剤および安定剤を含有する塩化ビニル系フィルムからなる粘着テープ用支持体であって、塩化ビニル系フィルムの圧延時の加工性がよく、しかも低温での柔軟性がよく、粘着層を形成して場合には粘着剤の軟化劣化がなく、かつ人体に安全な粘着テープとなる粘着テープ用支持体を提供することを目的とする。さらには、当該粘着テープ用支持体を用いた塩化ビニル系粘着テープを提供することを目的とする。」
「【0030】
【実施例】以下に本発明を実施例および比較例をあげて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0031】実施例1
(塩化ビニル系フィルムの作製)ポリ塩化ビニル樹脂100重量部に、可塑剤としてアジピン酸系ポリエステル(大日本インキ化学工業株式会社製,商品名ポリサイザーW2300,数平均分子量2300)を60重量部、塩素化ポリエチレン(昭和電工株式会社,商品名エラスレン401A)、メタクリル酸メチル/スチレン/ブタジエン共重合体(三菱レイヨン株式会社製,商品名B-22)、安定剤にハイドロタルサイト(協和化学工業株式会社製,商品名アルカマイザー)2重量部、さらにステアリン酸亜鉛0.2重量部、ステアリン酸バリウム0.3重量部、その他顔料、充填剤を配合した。この塩化ビニル系樹脂混和物をバンバリーミキサーで混練りしたのち、カレンダー加工にて約170μmの厚さに形成して塩化ビニル系フィルムを作製した。
【0032】(粘着テープの作製)天然ゴム(SMR CV60)50重量部およびSBR(1502)50重量部からなるベースポリマー100重量部と、C5系石油樹脂(日本ゼオン製,商品名クイントンU185)60重量部をトルエン溶剤で20重量%になるように溶液状で混合して粘着剤溶液を調製した。当該粘着剤溶液を、上記塩化ビニル系フィルム(粘着テープ用支持体)上に、乾燥後の厚み30μmになるように塗工、乾燥して粘着テープを作製した。
【0033】実施例2?9、参考例1
実施例1において、塩化ビニル系フィルムの作製に用いた可塑剤の種類もしくは使用量またはハイドロタルサイトの使用量を表1に示すように変えた以外は実施例1と同様にして塩化ビニル系フィルムを作製した。また、実施例1と同様にして粘着テープを作製した。」
「【0040】
【表1】

表1中のDOP:ジオクチルフタレート、MBS:メタクリル酸メチル/スチレン/ブタジエン共重合体(三菱レイヨン株式会社製,商品名B-22)である。」

イ 甲2の記載
甲2には、「Impact Modifiers for PVC」(標題。当審仮訳:PVCに対する衝撃改質剤)について次の記載がある。
「EFFECTS OF TEST TEMPERATURE ON PHYSICAL PROPERTIES
The effects on impact strength have been illustrated in Fig. 1. Testing at temperatures to which the final articles will be exposed in service is an obvious requirement. It may not be quite as obvious to design the impact for the lowest temperature that will be encountered in shipping and handling. Many more failures occur during shipping and installation than in service. Testing at lower temperatures may also be valuable in determining which material is inherently tougher although room temperature tests may show them to be equal. There will be more on this topic under the discussion on choosing the proper modifier for the job.
Tensile stress and elongation (Fig. 10) responses for both modified and unmodified PVC are essentially parallel--although usually with somewhat different absolute values--except for elongation at break data. Here, the departure is greater elongation for the modified compound in the 20 to 40℃ range, indicating greater ductility. This same compound had its maximum impact in the 20 to 30℃ range, confirming that the function of an impact modifier is to lower the yield stress of PVC at a given temperature.
(申立人による訳:試験温度が物性に及ぼす影響
衝撃強度への影響を図1に示す。最終製品が使用中に曝される温度で試験を行うことは、明白な要件である。輸送および搬送の際に生じる最低温度に対して衝撃を設計することは、それほど明白ではないことがある。輸送時および設置時は、使用時よりずっと多くの破損が発生する。より低い温度で試験を行うことも、どの材料が本質的により高い靱性を有するかを判断する上で有益であり得るが、室温試験は、どの材料も同じであることを示す場合がある。この論題について、当該の作業に対して適切な改質剤を選択することに関する議論のもとで、さらに説明する。
改質したPVCおよび改質してないPVCの双方についての引張応力および伸び(図10)の応答は、破断データでの伸びを除いて、実質的に平行であるものの、通常いくらか異なる絶対値を有する。ここで、出発点となるのは20?40℃の範囲で変性化合物の伸びの方が高いことであり、より高い延性を示している。この化合物は、20?30℃の範囲で最大の衝撃を有しており、衝撃改質剤の機能は、所与の温度でPVCの降伏応力を低下させることであることを確認した。」


(図10A 温度がPVC化合物の引張伸びに及ぼす影響
ELONGATION AT BREAK:破断伸び
Legend:記号
△ UNMODIFIED PVC:未変性PVC)」

ウ 甲1に記載された発明(甲1発明)
甲1の【0031】?【0033】と【0040】の表1の記載から、実施例8として、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「甲1発明」という。)。
「ポリ塩化ビニル樹脂100重量部に、可塑剤としてのアジピン酸系ポリエステル(大日本インキ化学工業株式会社製,商品名ポリサイザーW2300,数平均分子量2300)を60重量部、メタクリル酸メチル/スチレン/ブタジエン共重合体(三菱レイヨン株式会社製,商品名B-22)を40重量部、安定剤にハイドロタルサイト(協和化学工業株式会社製,商品名アルカマイザー)2重量部、さらにステアリン酸亜鉛0.2重量部、ステアリン酸バリウム0.3重量部、その他顔料、充填剤を配合し、この塩化ビニル系樹脂混和物をバンバリーミキサーで混練りしたのち、カレンダー加工にて約170μmの厚さに形成して塩化ビニル系フィルムを作製し、
天然ゴム(SMR CV60)50重量部およびSBR(1502)50重量部からなるベースポリマー100重量部と、C5系石油樹脂(日本ゼオン製,商品名クイントンU185)60重量部をトルエン溶剤で20重量%になるように溶液状で混合して粘着剤溶液を調製し、当該粘着剤溶液を、上記塩化ビニル系フィルム(粘着テープ用支持体)上に、乾燥後の厚み30μmになるように塗工、乾燥して作製された粘着テープ。」

エ 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「塩化ビニル系フィルム」、「粘着テープ」、「可塑剤としてのアジピン酸系ポリエステル(大日本インキ化学工業株式会社製,商品名ポリサイザーW2300,数平均分子量2300)」及び「メタクリル酸メチル/スチレン/ブタジエン共重合体(三菱レイヨン株式会社製,商品名B-22)」は、本件発明1の「ポリ塩化ビニルフィルム」、「粘着テープ」、「可塑剤」及び「エラストマー」にそれぞれ相当する。
そして、甲1発明の「ステアリン酸亜鉛」及び「ステアリン酸バリウム」は、本件発明1における「脂肪酸金属塩」に相当する。
また、甲1発明において、「粘着テープ」の、粘着剤溶液が塗工、乾燥して作製されたものは、本件発明1の「ポリ塩化ビニルフィルムの少なくとも一方の表面に配置された粘着剤層」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、「ポリ塩化ビニルフィルムと、
該ポリ塩化ビニルフィルムの少なくとも一方の表面に配置された粘着剤層と
を含み、
前記ポリ塩化ビニルフィルムは、可塑剤と、エラストマーと、脂肪酸金属塩とを含む粘着テープ。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。

(相違点1)
本件発明1では、「ポリ塩化ビニルフィルムにおける脂肪酸金属塩の含有量」について、本件発明1では「0.01重量%以上0.3重量%以下であ」るのに対し、甲1発明の「ステアリン酸亜鉛」及び「ステアリン酸バリウム」の「塩化ビニル系フィルム」における含有量は不明な点。
(相違点2)
本件発明1の「粘着テープ」は、「-20℃における引張破断伸びが80%以上である」のに対し、甲1発明の「粘着テープ」は、そのようなものかどうか不明な点。

エ 判断
事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。
甲1発明において、「-20℃における引張破断伸び」について甲1には何も記載されておらず、甲1発明の「-20℃における引張破断伸び」は不明としかいうほかない。
また、甲2の図10aには、「-20℃における引張破断伸び」が120%のPVC化合物が記載されているといえるとしても、甲2に記載された「PVC化合物」の塩化ビニルの重合度等、「-20℃における引張破断伸び」の値に影響を与える成分については明らかではなく、甲2に記載された「PVC化合物」が粘着テープに用いられるものであるかどうかも不明である。
そうすると、本件発明1の「塩化ビニル系フィルム」の「ポリ塩化ビニル樹脂」と甲2に記載された「PVC化合物」の「PVC」とに、直接的な関連はなく、甲2の記載から、甲1発明の「-20℃における引張破断伸び」が80%以上であるということはできない。
したがって、上記相違点2は、実質的な相違点であり、本件発明1と甲1発明とは同一とはいえない。

そして、甲1の【0007】には、「本発明は、・・・低温での柔軟性がよく・・・粘着テープ・・・を提供することを目的とする」という記載があり、甲1発明は、低温での柔軟性を備えるものであることは理解できるものの、低温下におけるクラックの発生についての記載はなく、甲1発明の「-20℃における引張破断伸び」を80%以上とする動機付けは見当たらない。
これに対し、本件発明1では、上記相違点2に係る発明特定事項を備えることで、高い低温クラック防止性を備えるものであることは、上記サポート要件の検討(第6 2(1))において述べたとおりであり、そのような作用効果は、甲1の記載からは当業者が予測し得るものではない。

したがって、本件発明1は、甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。

オ 本件発明3?10について
本件発明3?10は、本件発明1を引用し、さらに限定したものであるから、甲1発明ではなく、しかも、甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。

カ まとめ
よって、申立ての理由4及び5についての申立人の主張は採用することができない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1及び3?10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1及び3?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件請求項2に係る特許は、訂正により削除されたため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、この特許についての特許異議の申立ては却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビニルフィルムと、
該ポリ塩化ビニルフィルムの少なくとも一方の表面に配置された粘着剤層と
を含み、
前記ポリ塩化ビニルフィルムは、可塑剤と、エラストマーと、脂肪酸金属塩とを含み、
前記ポリ塩化ビニルフィルムにおける前記脂肪酸金属塩の含有量が0.01重量%以上0.3重量%以下であり、
-20℃における引張破断伸びが80%以上である、粘着テープ。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記ポリ塩化ビニルフィルムの厚さが100μm以下である、請求項1に記載の粘着テープ。
【請求項4】
坪量が100g/m^(2)以下である、請求項1または3に記載の粘着テープ。
【請求項5】
総厚が70μm以上90μm未満である、請求項1、3または4に記載の粘着テープ。
【請求項6】
前記ポリ塩化ビニルフィルムにおける前記エラストマーの含有量が1重量%以上30重量%以下である、請求項1、3、4または5に記載の粘着テープ。
【請求項7】
前記ポリ塩化ビニルフィルムにおける前記可塑剤の含有量は10重量%以上60重量%以下である、請求項1、3、4、5または6に記載の粘着テープ。
【請求項8】
前記脂肪酸金属塩を構成する金属は鉛以外の金属であり、前記ポリ塩化ビニルフィルムは鉛を含む安定剤を含有しない、請求項1、3、4、5、6または7に記載の粘着テープ。
【請求項9】
前記ポリ塩化ビニルフィルムにおける前記脂肪酸金属塩の含有量が0.05重量%以上0.3重量%以下である、請求項8に記載の粘着テープ。
【請求項10】
電線と、該電線の周囲に巻き付けられている請求項1、3、4、5、6、7、8または9に記載の粘着テープと、を含むワイヤーハーネス。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-08-11 
出願番号 特願2016-52090(P2016-52090)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C09J)
P 1 651・ 113- YAA (C09J)
P 1 651・ 121- YAA (C09J)
P 1 651・ 537- YAA (C09J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山本 悦司  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 川端 修
瀬下 浩一
登録日 2020-06-23 
登録番号 特許第6722008号(P6722008)
権利者 日東電工株式会社 台灣日東電工股▲ふん▼有限公司
発明の名称 粘着テープ  
代理人 大井 道子  
代理人 大井 道子  
代理人 谷 征史  
代理人 谷 征史  
代理人 大井 道子  
代理人 谷 征史  
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