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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A01K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A01K
管理番号 1378732
異議申立番号 異議2020-700863  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-11-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-11-11 
確定日 2021-08-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6691842号発明「筒状リールシート及びリールシート本体並びに釣竿」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6691842号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3、5、6〕、〔4〕について訂正することを認める。 特許第6691842号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6691842号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成28年7月1日に出願され、令和2年4月15日にその特許権の設定登録がされ、令和2年5月13日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和2年11月11日に特許異議申立人塩川梨絵(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和3年2月5日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和3年4月1日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、申立人は、令和3年5月10日に意見書を提出した。


2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
令和3年4月1日付けの訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、以下のア、イのとおりである。(下線は訂正箇所を示す。)
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「ブリッジ部は、その軸線方向の中途部を軸線方向と直交する方向に切断した横断面視において、外面と内面が共に径方向外側に湾曲した外側凸の横断面形状を有している」と記載されているのを、
「ブリッジ部は、その軸線方向の中途部を軸線方向と直交する方向に切断した横断面視において、外面と内面が共に径方向外側に湾曲した外側凸の横断面形状を有し、
ブリッジ部の外面は、軸線方向に沿って反リール装着側に膨出した形状であり、膨出形状のピーク部は、リール脚の足首部の中心線よりも第二筒部側に位置している」に訂正する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4に、
「ブリッジ部は、その軸線方向の中途部を軸線方向と直交する方向に切断した横断面視において、外面と内面が共に径方向外側に湾曲した外側凸の横断面形状を有している」と記載されているのを、
「ブリッジ部は、その軸線方向の中途部を軸線方向と直交する方向に切断した横断面視において、外面と内面が共に径方向外側に湾曲した外側凸の横断面形状を有し、
ブリッジ部の外面は、軸線方向に沿って反リール装着側に膨出した形状であり、膨出形状のピーク部は、リール脚の足首部の中心線よりも第二筒部側に位置している」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「ブリッジ部」について、「ブリッジ部の外面は、軸線方向に沿って反リール装着側に膨出した形状であり、膨出形状のピーク部は、リール脚の足首部の中心線よりも第二筒部側に位置している」ものに限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項1は、上記(ア)のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことは明らかである。

(ウ)新規事項
本件特許明細書の段落【0018】には、「筒状リールシート1の外周面は、図1に示すような正面視において、反リール装着側に山型に膨出した形状となっており、反リール装着側の外周面の膨出形状のピーク部P(頂上部)は、リール脚3の足首部4aの中心線4bよりも若干固定ナット9側に位置している。反リール装着側の外周面は、ピーク部Pから固定ナット9側即ち軸線方向の他端部側に向けてなだらかにリール装着側に下降していき、リールシート本体7から可動フード8へと連続して下降していく。反リール装着側の外周面は、ピーク部Pから軸線方向の他端部側に向けても徐々にリール装着側に下降していく形状となっている。」と、また段落【0024】には、「このようにリールシート本体7のリール装着側に凹部15が形成されることにより、リールシート本体7は、軸線方向の一端部7a側に位置する第一筒部21と、軸線方向の他端部7b側に位置する第二筒部22と、第一筒部21と第二筒部22とを反リール装着側において軸線方向に連結するブリッジ部23とから構成される。」と記載され、図1及び図5をみると、ピーク部Pが、足首部4aの中心線4bよりも第二筒部22側に位置していることが看取できる。
よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。

イ 訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1と同様の訂正であるから、上記アで検討した理由と同様の理由により、特許請求の範囲の減縮を目的とし、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。

(3)一群の請求項について
訂正前の請求項1?3、5、6について、請求項2、3、5、6は、請求項1の記載を直接または間接的に引用し、請求項1の訂正に伴って訂正されるものであるから、請求項1?3、5、6は、一群の請求項である。

(4)訂正の適否のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3、5、6〕、〔4〕について訂正することを認める。


3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし6に係る発明(以下「本件発明1」等といい、全体を「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
竿本体が挿通する竿挿通孔が形成され、軸線方向の一端部側にはリール脚の一方の脚先部を固定するための固定フード部が形成され、軸線方向の他端部側の外周面には雄ネジ部が形成された、一部材からなるリールシート本体を備えた筒状リールシートであって、
リールシート本体は、軸線方向の一端部側に位置し、固定フード部を有する第一筒部と、軸線方向の他端部側に位置し、雄ネジ部を有する第二筒部と、第一筒部と第二筒部を反リール装着側において連結するブリッジ部とを備え、
リールシート本体には、リール装着側から反リール装着側に向けて凹んだ凹部が竿挿通孔を反リール装着側に越えて深く形成されていて、該凹部により竿挿通孔は分断されて第一筒部と第二筒部にそれぞれ形成されていると共にブリッジ部の内面は竿挿通孔よりも径方向外側に位置し、
ブリッジ部は、その軸線方向の中途部を軸線方向と直交する方向に切断した横断面視において、外面と内面が共に径方向外側に湾曲した外側凸の横断面形状を有し、
ブリッジ部の外面は、軸線方向に沿って反リール装着側に膨出した形状であり、膨出形状のピーク部は、リール脚の足首部の中心線よりも第二筒部側に位置していることを特徴とする筒状リールシート。
【請求項2】
ブリッジ部の第一筒部側の端部における両側縁部は、反リール装着側の半周分を越えてリール装着側に延びていると共に、第一筒部における竿挿通孔の凹部側の開口部から径方向外側に離間している請求項1記載の筒状リールシート。
【請求項3】
ブリッジ部の第一筒部側の端部における両側縁部は、固定フード部の開口縁部の左右両端部と連続している請求項2記載の筒状リールシート。
【請求項4】
竿本体が挿通する竿挿通孔が形成され、軸線方向の一端部側にはリール脚の一方の脚先部を固定するための固定フード部が形成され、軸線方向の他端部側の外周面には雄ネジ部が形成された、一部材からなるリールシート本体であって、
軸線方向の一端部側に位置し、固定フード部を有する第一筒部と、軸線方向の他端部側に位置し、雄ネジ部を有する第二筒部と、第一筒部と第二筒部を反リール装着側において連結するブリッジ部とを備え、
リール装着側から反リール装着側に向けて凹んだ凹部が竿挿通孔を反リール装着側に越えて深く形成されていて、該凹部により竿挿通孔は分断されて第一筒部と第二筒部にそれぞれ形成されていると共にブリッジ部の内面は竿挿通孔よりも径方向外側に位置し、
ブリッジ部は、その軸線方向の中途部を軸線方向と直交する方向に切断した横断面視において、外面と内面が共に径方向外側に湾曲した外側凸の横断面形状を有し、
ブリッジ部の外面は、軸線方向に沿って反リール装着側に膨出した形状であり、膨出形状のピーク部は、リール脚の足首部の中心線よりも第二筒部側に位置していることを特徴とする筒状リールシートのリールシート本体。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れかに記載の筒状リールシートを備えた釣竿。
【請求項6】
ブリッジ部が竿本体から離間していて、第一筒部と第二筒部との間において竿本体が全周に亘って露出している請求項5記載の釣竿。」


4 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし6に係る特許に対して、当審が令和2年2月5日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
ア 本件発明1、2、4?6は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するか、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に想到することができたものであるから、本件発明1、2、4?6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるか、同法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
イ 本件発明1?6は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された発明又は周知技術に基いて、当業者が容易に想到することができたものであるから、本件発明1?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

甲第1号証:登録意匠第925991号公報
甲第2号証:実用新案登録第2540104号公報

(2)甲号証の記載
ア 甲第1号証
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。
(ア)「(54)意匠に係る物品 釣竿用リールシートの本体」

(イ)図面




(ウ)上記(イ)の図に申立人が説明を加えた特許異議申立書8?9頁の図は、以下のとおり。







(エ)上記(ウ)のうち、特にE-E断面図をみると、リールシート本体は、
・竿本体が挿通するように前後(図では上下)の竿挿通孔が同軸上に形成され、軸線方向の一端部側にはリール脚の一方の脚先部を固定するための固定フード部が形成され、軸線方向の他端部側の外周面には雄ネジ部が形成されている点、
・軸線方向の一端部側に位置し、固定フード部を有する第一筒部と、軸線方向の他端部側に位置し、雄ネジ部を有する第二筒部と、第一筒部と第二筒部を反リール装着側において連結するブリッジ部とを備えており、これらが一部材から構成されている点、が看取できる。

(オ)上記(ウ)のうち、特にE-E断面図及び使用状態参考図をみると、
・リールシート本体には、リール装着側から反リール装着側に向けて凹んだ凹部が竿挿通孔を反リール装着側に越えて深く形成されていて、該凹部により竿挿通孔は分断されて第一筒部と第二筒部にそれぞれ形成されている点、
・ブリッジ部の外面は、軸線方向に沿って反リール側に膨出した形状である点、
・ブリッジ部が竿本体から離間していて、第一筒部と第二筒部との間において竿本体が全周に亘って露出している点、が看取できる。

(カ)上記(ウ)のうち、特に右側面図、E-E断面図、A-A断面図、B-B断面図、C-C断面図をみると、
・ブリッジ部の内面は竿挿通孔よりも径方向外側に位置している点、
・ブリッジ部はその軸線方向の中途部を軸線方向と直交する方向に切断した横断面視において、外面と内面が共に径方向外側に湾曲した外側凸の横断面形状を有している点、
・ブリッジ部の第一筒部側の端部における両側縁部は、反リール装着側の半周分を越えてリール装着側に延びていると共に、第一筒部における竿挿通孔の凹部側の開口部から径方向外側に離間している点、が看取できる。

(キ)上記(ア)ないし(カ)からみて、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「竿本体が挿通する竿挿通孔が形成され、軸線方向の一端部側にはリール脚の一方の脚先部を固定するための固定フード部が形成され、軸線方向の他端部側の外周面には雄ネジ部が形成された、一部材からなるリールシート本体を備えた釣竿用リールシートであって、
リールシート本体は、軸線方向の一端部側に位置し、固定フード部を有する第一筒部と、軸線方向の他端部側に位置し、雄ネジ部を有する第二筒部と、第一筒部と第二筒部を反リール装着側において連結するブリッジ部とを備え、
リールシート本体には、リール装着側から反リール装着側に向けて凹んだ凹部が竿挿通孔を反リール装着側に越えて深く形成されていて、該凹部により竿挿通孔は分断されて第一筒部と第二筒部にそれぞれ形成されていると共にブリッジ部の内面は竿挿通孔よりも径方向外側に位置し、
ブリッジ部は、その軸線方向の中途部を軸線方向と直交する方向に切断した横断面視において、外面と内面が共に径方向外側に湾曲した外側凸の横断面形状を有し、
ブリッジ部の外面は、軸線方向に沿って反リール側に膨出した形状であり、
ブリッジ部の第一筒部側の端部における両側縁部は、反リール装着側の半周分を越えてリール装着側に延びていると共に、第一筒部における竿挿通孔の凹部側の開口部から径方向外側に離間しており、
ブリッジ部が竿本体から離間していて、第一筒部と第二筒部との間において竿本体が全周に亘って露出している、
釣竿用リールシート。」

イ 甲第2号証
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【考案の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本考案はリール固定部を有する釣竿に関する。特に、小物釣り等の把持する力よりも繊細な釣竿操作が要求される軽量タイプの釣竿に好適である。」

(イ)「【0008】
【実施例】以下、本考案を添付図面に示す実施例に基づいて更に詳細に説明する。図1は本考案に係る釣竿の平面図であり、図2?図4はその要部の拡大図である。これらの図を参照すれば、竿管10の後端部には釣竿を把持する専用の竿尻グリップ12が形成されており、その前方位置にはリール(図示せず)を固定保持するためのリール固定部14が形成されている。釣人はこのリール固定部14を把持して釣竿操作することがある。
【0009】このリール固定部14は竿管10に挿入接着された中央のリール固定部本体16と、その後部の後部グリップ18と、その前部の回動ナット20とから構成されている。リール固定部本体16の前部分の延長部の外周には雄捻子16Aが形成されており、その雄捻子16Aに螺合する雌捻子20Aが回動ナット20の内周に形成されている。また後部グリップ18は竿管10に接着固定されており、本実施例ではこの後部グリップ16の上部を上記リール固定部本体16の後部延長部16Bが覆っている。
【0010】一方、リール固定部本体16の下面側の後方寄りの位置にはリール脚24の足先部24Bを受け入れるリール足受入部28Bが形成されており、その前方の回動ナット20の口部にはリール脚24の他方の足先部24Aを受け入れるリール足受入部28Aが形成されている。この構成により回動ナット20を回動して前後に移動させ、図3に示すように2つのリール足受入部28A,28Bの間のリール載置部25にリールの脚24を保持固定することができる。
【0011】上記リール固定部本体16は、図3に示す側面視形状において上方に膨出した膨出部を形成しており、上下方向の幅が大きくなり、リール固定部本体16を把持した際に把持の安定度が向上する。また、その平面視の形状は、図2に示すように前後のリール足受入部28A,28Bの位置におけるリール固定部本体16の平面視幅よりも狭い幅狭部22を、リール脚24の足先部24A寄りの位置に形成している。一般にこの幅狭部22の幅寸法は、竿管10の直径寸法程度に設定している。」

(ウ)図3、図4は以下のとおり。

【図3】


【図4】


(エ)上記(ウ)の図3及び図4をみると、
・リール固定部本体16には、竿管10を挿通する竿管挿通孔が形成されている点、
・リール固定部本体16は、後方側に位置し、リール足受入部28Bを有する第一筒部と、前部分の延長部の外周に雄捻子16Aが形成された第二筒部と、第一筒部と第二筒部をリール足受入部28Bの反対側において連結するブリッジ部とを備える点、
・リール固定部本体16には、リール足受入部28B側からリール足受入部28Bの反対側に向けて凹んだ凹部が竿管挿通孔をリール足受入部28Bの反対側に超えて形成されていて、該凹部により竿管挿通孔は分断されて第一筒部と第二筒部にそれぞれ形成されていると共にブリッジ部の内面は竿管挿通孔よりも径方向外側に位置している点、
・ブリッジ部の外面は、軸線方向に沿って反リール側に膨出した形状である点、
・ブリッジ部の第一筒部側の端部における両側縁部は、リール足受入部28Bの反対側の半周分を越えてリール足受入部28Bの側に延びている点、
・ブリッジ部の第一筒部側の端部における両側縁部は、リール足受入部28Bの開口縁部の左右両端部と連続している点、
・ブリッジ部が竿管10から離間していて、第一筒部と第二筒部との間において竿管10が全周に亘って露出している点、
が看取できる。

(オ)上記(ア)ないし(エ)からみて、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認める。
「竿管10の後端部には釣竿を把持する専用の竿尻グリップ12が形成されており、その前方位置にはリールを固定保持するためのリール固定部14が形成されている釣竿であって、
リール固定部14は、釣竿の竿管10を挿通して接着する竿管挿通孔が形成された中央のリール固定部本体16と、その後部の後部グリップ18と、その前部の回動ナット20とから構成されており、
リール固定部本体16の前部分の延長部の外周には雄捻子16Aが形成されており、その雄捻子16Aに螺合する雌捻子20Aが回動ナット20の内周に形成され、
後部グリップ18は竿管10に接着固定されており、この後部グリップ16の上部を上記リール固定部本体16の後部延長部16Bが覆っており、
リール固定部本体16の下面側の後方寄りの位置にはリール脚24の足先部24Bを受け入れるリール足受入部28Bが形成され、
リール固定部本体16は、後方寄りの位置にリール足受入部28Bを有する第一筒部と、前部分の延長部の外周に雄捻子16Aが形成された第二筒部と、側面視形状において上方に膨出するように形成された膨出部であって、第一筒部と第二筒部をリール足受入部28Bの反対側において連結するブリッジ部とを備え、
リール固定部本体16には、リール足受入部28B側からリール足受入部28Bの反対側に向けて凹んだ凹部が竿管挿通孔をリール足受入部28Bの反対側に超えて形成されていて、該凹部により竿管挿通孔は分断されて第一筒部と第二筒部にそれぞれ形成されていると共にブリッジ部の内面は竿管挿通孔よりも径方向外側に位置しており、
ブリッジ部の外面は、軸線方向に沿って反リール側に膨出した形状であり、
ブリッジ部の第一筒部側の端部における両側縁部は、リール足受入部28Bの反対側の半周分を越えてリール足受入部28Bの側に延びており、
ブリッジ部の第一筒部側の端部における両側縁部は、リール足受入部28Bの開口縁部の左右両端部と連続しており、
ブリッジ部が竿管10から離間していて、第一筒部と第二筒部との間において竿管10が全周に亘って露出している、
釣竿。」

(3)参考文献1?4の記載
令和3年5月10日付け意見書に添付された参考文献1?4には、以下の記載がある。
ア 参考文献1(特開2009-240281号公報)
【図1】


【図3】


イ 参考文献2(実用新案登録第2548017号公報)
【図2】


【図3】


ウ 参考文献3(特許第3654566号公報)
【図1】


【図2】


エ 参考文献4(登録意匠第878125号の類似2公報)



(4)当審の判断
ア 本件発明1について
(ア)甲第1号証を主引用例として検討
本件発明1と甲1発明を対比すると、少なくとも、ブリッジ部の外面において軸線方向に沿って反リール装着側に膨出させた膨出形状のピーク部について、本件発明1は、リール脚の足首部の中心線よりも第二筒部側に位置しているのに対し、甲1発明は、そのように位置していない点で相違している(以下「相違点1」という。)。
ここで、甲第2号証をみても、上記相違点1に係る構成は記載されていない。
また、当該相違点1について、申立人は、今般の訂正請求によって限定した上記の「ブリッジ部の外面は、軸線方向に沿って反リール装着側に膨出した形状であり、膨出形状のピーク部は、リール脚の足首部の中心線よりも第二筒部側に位置している」は、単なる周知技術(設計事項)に過ぎず、甲第1号証、甲第2号証に基づく取消理由については何等、解消されるものではない旨(令和3年5月10日付け意見書3頁5?9行)主張している。
しかしながら、申立人が周知例として提示した参考文献1?8についてみると、膨出部が設けられた部材は、「リール本体には、リール装着側から反リール装着側に向けて凹んだ凹部が竿挿通孔を反リール装着側に超えて深く形成されている」ことにより、「内面は竿挿通孔よりも径方向外側に位置し」た「ブリッジ部」ではない。しかも、参考文献1?4には、その図面から膨出部のピーク部の位置が竿前方側に位置している(本件発明1における第二筒部側に位置している)ことが看取できるものの、ピーク部の位置についての作用効果の記載は見当たらないし、参考文献5?8については、その図面に膨出部が看取できるものの、リール脚は記載されていないから、膨出部のピーク部とリール脚の脚首部との位置関係は不明である。
そして、本件発明1は、特許権者が令和3年4月1日付け意見書で主張するように、本件特許明細書の段落【0047】?【0051】に記載の作用効果を奏するものであって、具体的には、「本件特許発明のリールシートは、前寄り膨出形状という特有の形状を有するブリッジ部を備えることにより、ロッドを上から把持するという独特の把持の仕方において、把持した際のフィット感に優れ、軽くリールシートを把持しても安定させることができ、ロッドを上下に細かく振動させてルアーを演出させることができ、長時間楽に釣りを行うことができるという作用効果を奏する。そして、ブリッジ部の内外内の横断面形状が共に外側凸に湾曲した形状であるので、魚の小さなアタリも、ピーク部に当接している人差し指の付け根あたりで高感度にキャッチできて瞬時にフッキングできる、という作用効果を奏する。」(4頁末行?5頁8行)ものであると認められる。
そうすると、仮に膨出部のピーク部の位置が竿前方側に位置している(本件発明1における第二筒部側に位置している)こと自体が周知技術であったとしても、ブリッジ部の形状が異なる甲1発明に上記周知技術を採用する動機付けがあるとはいえないし、単なる設計的事項であるということはできず、甲1発明、甲2発明及び周知技術に基いて、上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
よって、本件発明1は、甲1と同一ではなく、また、甲1発明、甲2発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)甲第2号証を主引用例として検討
甲第2号証にも上記相違点1に係る構成は記載されておらず、本件発明1と甲2発明との間にも相違点1が存在するところ、上記(ア)で検討したとおり、本件発明1は、甲1発明、甲2発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、甲第2号証を主引用例として検討しても、同様に、本件発明1は、甲2発明、甲1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2、3、5、6について
本件発明2、3、5、6は、本件発明1の構成を全て含み、さらに限定を加えた発明であるから、上記アで示した理由と同じ理由により、甲1発明、甲2発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明4について
(ア)甲第1号証を主引用例として検討
本件発明4と甲1発明を対比すると、少なくとも、膨出形状のピーク部について、本件発明4は、リール脚の足首部の中心線よりも第二筒部側に位置しているのに対し、甲1発明は、そのように位置していない点で相違している(以下「相違点2」という。)。
相違点2は、上記ア(ア)で示した相違点1と実質的に同じであるから、上記ア(ア)で示した理由と同じ理由により、甲1発明、甲2発明及び周知技術に基いて、上記相違点2に係る本件発明4の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
よって、本件発明4は、甲1と同一ではなく、また、甲1発明、甲2発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)甲第2号証を主引用例として検討
上記(ア)で検討したとおり、本件発明4は、甲1発明、甲2発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、甲第2号証を主引用例として検討しても、同様に、本件発明4は、甲2発明、甲1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。


5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
竿本体が挿通する竿挿通孔が形成され、軸線方向の一端部側にはリール脚の一方の脚先部を固定するための固定フード部が形成され、軸線方向の他端部側の外周面には雄ネジ部が形成された、一部材からなるリールシート本体を備えた筒状リールシートであって、
リールシート本体は、軸線方向の一端部側に位置し、固定フード部を有する第一筒部と、軸線方向の他端部側に位置し、雄ネジ部を有する第二筒部と、第一筒部と第二筒部を反リール装着側において連結するブリッジ部とを備え、
リールシート本体には、リール装着側から反リール装着側に向けて凹んだ凹部が竿挿通孔を反リール装着側に越えて深く形成されていて、該凹部により竿挿通孔は分断されて第一筒部と第二筒部にそれぞれ形成されていると共にブリッジ部の内面は竿挿通孔よりも径方向外側に位置し、
ブリッジ部は、その軸線方向の中途部を軸線方向と直交する方向に切断した横断面視において、外面と内面が共に径方向外側に湾曲した外側凸の横断面形状を有し、
ブリッジ部の外面は、軸線方向に沿って反リール装着側に膨出した形状であり、膨出形状のピーク部は、リール脚の足首部の中心線よりも第二筒部側に位置していることを特徴とする筒状リールシート。
【請求項2】
ブリッジ部の第一筒部側の端部における両側縁部は、反リール装着側の半周分を越えてリール装着側に延びていると共に、第一筒部における竿挿通孔の凹部側の開口部から径方向外側に離間している請求項1記載の筒状リールシート。
【請求項3】
ブリッジ部の第一筒部側の端部における両側縁部は、固定フード部の開口縁部の左右両端部と連続している請求項2記載の筒状リールシート。
【請求項4】
竿本体が挿通する竿挿通孔が形成され、軸線方向の一端部側にはリール脚の一方の脚先部を固定するための固定フード部が形成され、軸線方向の他端部側の外周面には雄ネジ部が形成された、一部材からなるリールシート本体であって、
軸線方向の一端部側に位置し、固定フード部を有する第一筒部と、軸線方向の他端部側に位置し、雄ネジ部を有する第二筒部と、第一筒部と第二筒部を反リール装着側において連結するブリッジ部とを備え、
リール装着側から反リール装着側に向けて凹んだ凹部が竿挿通孔を反リール装着側に越えて深く形成されていて、該凹部により竿挿通孔は分断されて第一筒部と第二筒部にそれぞれ形成されていると共にブリッジ部の内面は竿挿通孔よりも径方向外側に位置し、
ブリッジ部は、その軸線方向の中途部を軸線方向と直交する方向に切断した横断面視において、外面と内面が共に径方向外側に湾曲した外側凸の横断面形状を有し、
ブリッジ部の外面は、軸線方向に沿って反リール装着側に膨出した形状であり、膨出形状のピーク部は、リール脚の足首部の中心線よりも第二筒部側に位置していることを特徴とする筒状リールシートのリールシート本体。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れかに記載の筒状リールシートを備えた釣竿。
【請求項6】
ブリッジ部が竿本体から離間していて、第一筒部と第二筒部との間において竿本体が全周に亘って露出している請求項5記載の釣竿。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-08-06 
出願番号 特願2016-131544(P2016-131544)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (A01K)
P 1 651・ 121- YAA (A01K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 坂田 誠  
特許庁審判長 長井 真一
特許庁審判官 住田 秀弘
浦口 幸宏
登録日 2020-04-15 
登録番号 特許第6691842号(P6691842)
権利者 株式会社シマノ
発明の名称 筒状リールシート及びリールシート本体並びに釣竿  
代理人 岩田 徳哉  
代理人 岩田 徳哉  

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