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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
管理番号 1378736
異議申立番号 異議2020-700464  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-11-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-07-08 
確定日 2021-08-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6628918号発明「ポリウレタン樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6628918号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-13〕について訂正することを認める。 特許第6628918号の請求項1-7、9-13に係る特許を維持する。 特許第6628918号の請求項8に係る特許に対する申立を却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6628918号(請求項の数13。以下、「本件特許」という。)は、特願2018-70444号(出願日:平成30年3月30日。以下「原出願」という。)の一部について特許法第44条第1項の規定に基づいて平成31年3月13日に新たな特許出願(特願2019-45661号)としたものであって、令和1年12月13日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和2年1月15日である。)。
その後、令和2年7月8日に、本件特許の請求項1?13に係る特許に対して、特許異議申立人である高橋和秀(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。

(1)特許異議申立以降の経緯
特許異議申立以降の手続の経緯は、以下のとおりである。


令和2年 9月28日付け 取消理由通知書
同年12月 1日 意見書・訂正請求書(特許権者)
令和3年 1月 7日付け 通知書(申立人宛て)
同年 2月10日 意見書(申立人)
同年 4月19日付け 審尋(特許権者宛て)
同年 6月11日 回答書(特許権者)

(2)証拠方法
申立人が特許異議申立書に添付して提出した証拠方法は、以下のとおりである。

甲第1号証:特開2016-210939号公報
甲第2号証:特開昭58-93717号公報
甲第3号証:特開昭55-62918号公報


第2 訂正の適否について
令和2年12月1日にした訂正請求は、以下の訂正事項を含むものである。(訂正された箇所は、当審において、下線を付した。)
(以下、訂正事項をまとめて「本件訂正」という。また、特許査定時の本件願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を「本件特許明細書等」という。)

1 訂正の内容

(1)訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、
「【請求項1】(A)ポリイソシアネート化合物、(B)ポリオール化合物、(C)無機充填材及び(D)可塑剤を含有するポリウレタン樹脂組成物であって、
前記(A)ポリイソシアネート化合物が、脂肪族ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート体、脂肪族ポリイソシアネート化合物のアロファネート体、脂環式ポリイソシアネート、及び/又は、芳香族ポリイソシアネートであり、
前記(B)ポリオール化合物が、(b1)水酸基価60mgKOH/g以下のポリブタジエンポリオールを含み、
前記(D)可塑剤が、一般式(1):
【化1】


(式中、R^(1)及びR^(2)はそれぞれ独立に炭素原子数6?12のアルキル基を表し、Xは炭素原子数3?8のアルキレン基を表す。また、a及びbはそれぞれ独立に2?10の整数を表し、aとbの合計は4?20である。)で表されるエステル化合物を含まず、
前記ポリウレタン樹脂組成物100質量%に対して、前記(b1)水酸基価60mgKOH/g以下のポリブタジエンポリオールが5?15質量%、(C)無機充填材が50?85質量%、(D)可塑剤が1?30質量%含有し、
-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下である、ポリウレタン樹脂組成物。」と記載されているのを
「【請求項1】(A)ポリイソシアネート化合物、(B)ポリオール化合物、(C)無機充填材及び(D)可塑剤を含有するポリウレタン樹脂組成物であって、
前記(A)ポリイソシアネート化合物が、脂肪族ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート体、脂肪族ポリイソシアネート化合物のアロファネート体、及び/又は、脂環式ポリイソシアネートであり、
前記(B)ポリオール化合物が、(b1)水酸基価60mgKOH/g以下のポリブタジエンポリオールを含み、
前記(D)可塑剤が、一般式(1):
【化1】


(式中、R^(1)及びR^(2)はそれぞれ独立に炭素原子数6?12のアルキル基を表し、Xは炭素原子数3?8のアルキレン基を表す。また、a及びbはそれぞれ独立に2?10の整数を表し、aとbの合計は4?20である。)で表されるエステル化合物を含まず、
前記(D)可塑剤が、(d1)アジピン酸系可塑剤及び/又は(d2)フタル酸系可塑剤を含み、
前記ポリウレタン樹脂組成物100質量%に対して、前記(b1)水酸基価60mgKOH/g以下のポリブタジエンポリオールが5?15質量%、(C)無機充填材が50?69質量%、(D)可塑剤が17.7?30質量%含有し、
-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下である、ポリウレタン樹脂組成物。」に訂正する。

(2)訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項8を削除する。

(3)訂正事項3
訂正前の特許請求の範囲の請求項9に「前記(D)可塑剤が、(d1)アジピン酸系可塑剤である、請求項1?8の何れか一項に記載のポリウレタン樹脂組成物。」と記載されているのを、「前記(D)可塑剤が、(d1)アジピン酸系可塑剤である、請求項1?7の何れか一項に記載のポリウレタン樹脂組成物。」に訂正する。

(4)訂正事項4
訂正前の特許請求の範囲の請求項10に「前記(D)可塑剤が、ポリウレタン樹脂組成物100質量%に対して、10?29質量%含有する、請求項1?9の何れか一項に記載のポリウレタン樹脂組成物。」と記載されているのを、「前記(D)可塑剤が、ポリウレタン樹脂組成物100質量%に対して、17.7?29質量%含有する、請求項1?7及び9の何れか一項に記載のポリウレタン樹脂組成物。」に訂正する。

(5)訂正事項5
訂正前の特許請求の範囲の請求項11に「電気電子部品封止用であることを特徴とする請求項1?10の何れか一項に記載のポリウレタン樹脂組成物。」と記載されているのを、「電気電子部品封止用であることを特徴とする請求項1?7及び9?10の何れか一項に記載のポリウレタン樹脂組成物。」に訂正する。

(6)訂正事項6
訂正前の特許請求の範囲の請求項12に「請求項1?11の何れか一項に記載のポリウレタン樹脂組成物からなる封止材。」と記載されているのを、「請求項1?7及び9?11の何れか一項に記載のポリウレタン樹脂組成物からなる封止材。」に訂正する。

(2)一群の請求項
訂正事項1?6に係る訂正前の請求項1?13について、請求項2?13はそれぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、訂正事項1?6によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
よって、本件訂正は、一群の請求項に対してなされたものである。

2 判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1における(a)「(A)ポリイソシアネート化合物」について「前記(A)ポリイソシアネート化合物が、脂肪族ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート体、脂肪族ポリイソシアネート化合物のアロファネート体、脂環式ポリイソシアネート、及び/又は、芳香族ポリイソシアネートであり」と選択肢が記載されていたのを、そのうちの「芳香族ポリイソシアネート」を削除し、同じく(b)「(D)可塑剤」を「前記(D)可塑剤が、(d1)アジピン酸系可塑剤及び/又は(d2)フタル酸系可塑剤を含み」と減縮し、同じく(c)「(C)無機充填材」の含量について「50?85質量%」とされていたのを「50?69質量%」と減縮し、さらに、同じく(d)「(D)可塑剤」の含量について「1?30質量%」とされていたのを「17.7?30質量%」と減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。

新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項1による訂正のうち、(a)に関する訂正は、上記アに記載したとおり、「訂正前の請求項1における(a)「(A)ポリイソシアネート化合物」について「(A)ポリイソシアネート化合物」の選択肢の1つを削除する訂正であるから、新規事項の追加に該当せず、実質上の特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。
訂正事項1による訂正のうち、(b)「(D)可塑剤」について「前記(D)可塑剤が、(d1)アジピン酸系可塑剤及び/又は(d2)フタル酸系可塑剤を含み、」と限定する訂正は、訂正前の請求項8に「前記(D)可塑剤が、(d1)アジピン酸系可塑剤及び/又は(d2)フタル酸系可塑剤を含む」と記載されていたことから、新規事項の追加に該当せず、実質上の特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。
訂正事項1による訂正のうち、(c)「(C)無機充填材」の含量について「50?85質量%」とされていたのを「50?69質量%」と上限をより限定する訂正は、本件特許明細書等の段落【0083】に「(C)無機充填材の含有量としては、ポリウレタン樹脂組成物100質量%に対して、通常50?85質量%であり、・・・、特に好ましくは55?69質量%である」と記載されていることから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上の特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。
訂正事項1による訂正のうち、(d)「(D)可塑剤」の含量について「1?30質量%」とされていたのを「17.7?30質量%」と下限をより限定する訂正については、本件特許明細書等の段落【0128】及び【0148】の実施例3には、「d1:アジピン酸ジイソデシル(DIDA)」を「13.3」質量%、「d2:フタル酸ジウンデシル(DUP)」が「4.4」質量%であることが記載されており、これらの合計は「17.7」質量%となるから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上の特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。
以上のとおり、訂正事項1の(a)?(d)のいずれの内容も、新規事項の追加に該当せず、また、実質上の特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらない。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2による訂正は、請求項8を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項2は、請求項8を削除するものであるから、新規事項の追加、実質上の特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。

(3)訂正事項4について
ア 訂正の目的
訂正事項4による訂正は、訂正前の請求項10における(e)「(D)可塑剤」の含量について「1?29質量%」とされていたのを「17.7?29質量%」とより限定するとともに、(f)上記の訂正事項2による請求項8の削除に合わせて,引用していた請求項8を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。

新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項4のうち、(e)「(D)可塑剤」の含量について「1?29質量%」とされていたのを「17.7?29質量%」と下限をより限定する訂正は、訂正事項1による訂正のうち上記(d)の訂正と同様の理由により、新規事項の追加に該当せず、また、実質上の特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。
また、訂正事項4のうち、(f)上記の訂正事項2による請求項8の削除に合わせて,引用していた請求項8を削除する訂正も、新規事項の追加に該当せず、また、実質上の特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。

(4)訂正事項3、5?6について
ア 訂正の目的
訂正事項3、5?6は、上記の訂正事項2による請求項8の削除に合わせて,引用請求項の一部を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項3、5?6は、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

(5)まとめ
以上のとおりであるから、訂正事項1?6による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる目的に適合し、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。


第3 特許請求の範囲の記載
上記のとおり、本件訂正は認められたので、特許第6628918号の特許請求の範囲の記載は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1?13に記載された、以下のとおりのものである(以下、請求項1?13に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」?「本件発明13」といい、まとめて「本件発明」ともいう。また、本件の願書に添付した明細書については、訂正の対象ではなく、本件訂正により訂正されていないので、本件訂正の前後にかかわらず「本件明細書」という。)。

「【請求項1】(A)ポリイソシアネート化合物、(B)ポリオール化合物、(C)無機充填材及び(D)可塑剤を含有するポリウレタン樹脂組成物であって、
前記(A)ポリイソシアネート化合物が、脂肪族ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート体、脂肪族ポリイソシアネート化合物のアロファネート体、及び/又は、脂環式ポリイソシアネートであり、
前記(B)ポリオール化合物が、(b1)水酸基価60mgKOH/g以下のポリブタジエンポリオールを含み、
前記(D)可塑剤が、一般式(1):
【化1】


(式中、R^(1)及びR^(2)はそれぞれ独立に炭素原子数6?12のアルキル基を表し、Xは炭素原子数3?8のアルキレン基を表す。また、a及びbはそれぞれ独立に2?10の整数を表し、aとbの合計は4?20である。)で表されるエステル化合物を含まず、
前記(D)可塑剤が、(d1)アジピン酸系可塑剤及び/又は(d2)フタル酸系可塑剤を含み、
前記ポリウレタン樹脂組成物100質量%に対して、前記(b1)水酸基価60mgKOH/g以下のポリブタジエンポリオールが5?15質量%、(C)無機充填材が50?69質量%、(D)可塑剤が17.7?30質量%含有し、
-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下である、ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項2】前記(b1)ポリブタジエンポリオールの数平均分子量(Mn)が、100?5000の範囲である、請求項1に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項3】前記(b1)ポリブタジエンポリオールの粘度(30℃)が、0.01?100Pa・sの範囲である、請求項1又は2に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項4】さらに、(E)架橋剤を含有する、請求項1?3の何れか一項に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項5】前記(E)架橋剤が、(E1)芳香族アルコール系架橋剤及び/又は(E2)脂肪族アルコール系架橋剤である、請求項4に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項6】前記(E)架橋剤が、(E1)芳香族アルコール系架橋剤である、請求項4又は5に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項7】前記(E)架橋剤が、数平均分子量400以下の架橋剤である、請求項4?6の何れか一項に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項8】(削除)
【請求項9】前記(D)可塑剤が、(d1)アジピン酸系可塑剤である、請求項1?7の何れか一項に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項10】前記(D)可塑剤が、ポリウレタン樹脂組成物100質量%に対して、17.7?29質量%含有する、請求項1?7及び9の何れか一項に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項11】電気電子部品封止用であることを特徴とする請求項1?7及び9?10の何れか一項に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項12】請求項1?7及び9?11の何れか一項に記載のポリウレタン樹脂組成物からなる封止材。
【請求項13】請求項12に記載の封止材を用いて樹脂封止された電気電子部品。」


第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要
1 取消理由通知の概要
当審が取消理由通知で通知した取消理由の概要は、以下に示すとおりである。

(1)取消理由A(実施可能要件)
本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、下記「第6 当審の判断」「2 取消理由について」「(1)取消理由Aについて」「(ア)取消理由Aの概要」に記載した点で、当業者が本件訂正前の請求項1?13に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。
よって、本件訂正前の請求項1?13に係る発明の特許は、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

(2)取消理由B(新規性)
本件訂正前の請求項1?3、8、10?13に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、本件訂正前の請求項1?3、8、10?13に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものに対してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

(3)取消理由C(進歩性)
本件訂正前の請求項1?13に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明及び甲第1?3号証に記載された技術的事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件訂正前の請求項1?13に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに対してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

2 特許異議申立理由の概要
申立人が特許異議申立書でした申立理由の概要は、以下に示すとおりである。

(1)申立理由1(新規性)
本件訂正前の請求項1?5、7?13に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、本件訂正前の請求項1?5,7?13に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものに対してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

(2)申立理由2(進歩性)
本件訂正前の請求項1?13に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明及び甲第1?3号証に記載された技術的事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件訂正前の請求項1?13に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに対してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。


第5 本件明細書及び各甲号証に記載された事項
1 本件明細書に記載された事項
本件明細書には、以下の事項が記載されている。

(本a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子回路基板及び電子部品の進歩により、冷熱サイクルによる部材へのストレスが大きくなっており、高い耐熱性と長期的に放熱性を保持できる部材が求められている。
【0003】
これらの封止に使用されるポリウレタン樹脂は、長期的な冷熱サイクルにより柔軟性を失い、クラックが発生することが問題となっており、弾性率の温度依存性がさらに低減で
き、長期保持できる部材の開発が急務となっている。
・・・
【0006】
本発明は、水酸基価60mgKOH/g以下のポリブタジエンポリオールを用いて、相溶性、作業性に優れ、かつ冷熱サイクル特性に優れたポリウレタン樹脂を提供することを課題とする。
・・・
【発明の効果】
【0010】
本発明は、相溶性、作業性に優れ、かつ冷熱サイクル特性に優れたポリウレタン樹脂組成物及び封止材を提供できる。
【0011】
具体的に、本発明のポリウレタン樹脂組成物及び封止材は、冷熱サイクル特性として、弾性率の温度依存性が低減でき(120℃?-40℃)、優れた伸び率(柔軟性)を示し、かつ熱劣化(耐熱後)による硬度、伸び率(柔軟性)及び弾性率の変化を抑制することができる(100℃)。
【0012】
したがって、本発明のポリウレタン樹脂組成物及び封止材は、例えば、各種の電気電子部品の絶縁処理に好適に用いることができる。
【0013】
さらに、本発明の電気電子部品は、上記封止材を用いて樹脂封止されているので、高い信頼性を示す。
・・・
【0014】
本発明のポリウレタン樹脂組成物、封止材及び電気電子部品について、以下詳細に説明する。本明細書中において、「含有」又は「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。」

(本b)「【0016】
1-1.(A)ポリイソシアネート化合物
「(A)ポリイソシアネート化合物」は、2つ以上のイソシアネート基を有するであれば特に限定されず、ポリウレタン樹脂組成物(特に、電気電子部品封止用ポリウレタン樹脂組成物)において用いられている成分又は用いられ得る成分を各種使用することが可能である。
【0017】
(A)ポリイソシアネート化合物としては、特に限定はなく、例えば、
(A1)脂肪族ポリイソシアネート化合物、
(A2)脂環族ポリイソシアネート化合物、
(A3)芳香族ポリイソシアネート化合物
等のポリイソシアネート化合物;
上記ポリイソシアネート化合物の変性体(a)(例えば、
(a-1)イソシアヌレート体、
(a-2)カルボジイミド体、
(a-3)アダクト体、
(a-4)ビウレット体、
(a-5)アロファネート体等);
上記ポリイソシアネート化合物の多核体(b)等が挙げられる。
・・・
【0030】
(A)ポリイソシアネート化合物の含有量は、ポリウレタン樹脂組成物(特に、電気電子部品封止用ポリウレタン樹脂組成物)において採用され得る量である限り特に限定されない。該含有量としては、例えば、ポリウレタン樹脂組成物100質量%対して、通常、0.01?25質量%であり、好ましくは0.1?20質量%であり、より好ましくは1?10質量%、特に好ましくは1.5?6質量%である。
また、(A)ポリイソシアネート化合物の含有量は、(B)ポリオール化合物100質量部に対して、例えば、5?75質量部、好ましくは8?65質量部、より好ましくは10?60質量部である。
・・・
【0035】
(A)ポリイソシアネート化合物が、(Aa-1)ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート体(より好ましくは(A1a-1)脂肪族ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート体)に加えて、さらに(Ab)ポリイソシアネート化合物の多核体(好ましくは、(A3b)芳香族ポリイソシアネート化合物の多核体)を含有する場合、或いはさらに(Ab)ポリイソシアネート化合物の多核体(好ましくは、(A3b)芳香族ポリイソシアネート化合物の多核体)及び(Aa-2)ポリイソシアネート化合物のカルボジイミド体(好ましくは、(A3a-2)芳香族ポリイソシアネート化合物のカルボジイミド体)を含有する場合、(Ab)及び/又は(Aa-2)の含有量は、電気特性をより向上させることができるという観点から、(Aa-1)ポリイソシアネート化合物100質量部に対して、例えば1?1000質量部、好ましくは5?800質量部、より好ましくは8?700質量部、さらに好ましくは65?500質量部である。」

(本c)「【0036】
1-2.(B)ポリオール化合物
本発明に用いる(B)ポリオール化合物は、(b1)水酸基価60mgKOH/g以下のポリブタジエンポリオール(以下、「(b1)ポリブタジエンポリオール」ということもある。)を含んでいる。
【0037】
(b1)水酸基価60mgKOH/g以下のポリブタジエンポリオールの市販品としては、例えば、ポリブタジエンポリオール[日本曹達株式会社製「NISSO-PBGシリーズ」(G-1000、G-2000、G-3000等)、米国ARCO社製「Poly Bd(登録商標)シリーズ」(R-45M、R-45HT、CS-15、CN-15等)]等が挙げられる。
【0038】
(b1)ポリブタジエンポリオールの水酸基価としては、好ましくは1?58mgKOH/gであり、より好ましくは5?55mgKOH/gであり、特に好ましくは10?50mgKOH/gである。
・・・
【0040】
(b1)ポリブタジエンポリオールの数平均分子量(Mn)は、通常100?5000の範囲であり、好ましくは1000?4000の範囲であり、より好ましくは1500?3500の範囲である。
・・・
【0070】
本発明のポリウレタン樹脂組成物は、水酸基含有化合物として、ポリブタジエンポリオール(B-1)を含有することによって、ポリウレタン樹脂組成物の耐湿性及びヒートサイクル性を向上することができる。
【0071】
本発明で用いられる(b1)ポリブタジエンポリオールの含有量は、特に限定はなく、ポリウレタン樹脂組成物100質量%に対して、通常、0.01?25質量%であり、好ましくは1?20質量%であり、より好ましくは5?15質量%である。」

(本d)「【0072】
1-3.(C)無機充填剤
本発明のポリウレタン樹脂組成物は、(C)無機充填材を含んでいる。
【0073】
本発明に用いる(C)無機充填材としては、特に限定はなく、例えば、金属水酸化物、金属酸化物、金属窒化物、ゼオライト等が挙げられる。
【0074】
金属水酸化物としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
・・・
【0081】
好ましい無機充填剤は、金属水酸化物及び金属酸化物であり、より好ましくは、水酸化アルミニウム及びアルミナであり、特に好ましくは水酸化アルミニウムである。
【0082】
上記(C)無機充填材は、一種単独で用いることができ、又は2種以上を混合して用いることもできる。
【0083】
(C)無機充填材の含有量としては、ポリウレタン樹脂組成物100質量%に対して、通常50?85質量%であり、好ましくは52?75質量%であり、より好ましくは54?70質量%であり、特に好ましくは55?69質量%である。」

(本e)「1-4.(D)可塑剤
本発明のポリウレタン樹脂組成物は、(D)可塑剤を含んでいる。
【0085】
本発明に用いる(D)可塑剤としては、特に限定はなく、例えば、ジオクチルフタレート、ジイソノニルフタレート(フタル酸ジイソノニル)、ジウンデシルフタレート等のフタル酸エステル系可塑剤;ジオクチルアジペート、ジイソノニルアジペート、ジイソデシルアジペート等のアジピン酸エステル系可塑剤;メチルアセチルリシノレート、ブチルアセチルリシノレート、アセチル化リシノール酸トリグリセリド、アセチル化ポリリシノール酸トリグリセリド等のヒマシ油エステル系可塑剤;トリオクチルトリメリテート、トリイソノニルトリメリテート等のトリメリット酸エステル;テトラオクチルピロメリテート、テトライソノニルピロメリテート等のピロメリット酸エステル系可塑剤などが挙げられる。これらの中でも、好ましくはフタル酸エステル系可塑剤及びアジピン酸エステル系可塑剤であり、より好ましくはアジピン酸エステル系可塑剤である。
【0086】
(D)可塑剤の含有量としては、ポリウレタン樹脂組成物100質量%に対して、通常1?30質量%であり、好ましくは10?29質量%であり、より好ましくは12?28質量%であり、特に好ましくは15?26質量%である。
【0087】
上記(D)可塑剤は、一種単独で用いることができ、又は2種以上を混合して用いることもできる。」

(本f)「【0088】
1-5.(E)架橋剤(鎖伸長剤)
本発明のポリウレタン樹脂組成物は、さらに(E)架橋剤(別名:鎖伸長剤)を含んでいてもよい。
(E)架橋剤としては、特に限定はなく、例えば、N,N-ビス(2-ヒドロキシプロピル)アニリン、ヒドロキノン-ビス(β-ヒドロキシエチル)エーテル、レゾルシノール-ビス(β-ヒドロキシエチル)エーテル等の(E1)芳香族アルコール系架橋剤、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、オクタンジオール、トリメチロールプロパン、トリイソプロパノールアミン等の(E2)脂肪族アルコール系架橋剤;フェニレンジアミン、トリレンジアミン、ジフェニルジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、1,2-ビス(2-アミノフェニルチオ)エタン、トリメチレングリコール-p-アミノベンゾエート等の(E3)芳香族アミン系架橋剤;、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、等の(E4)脂肪族アミン系架橋剤等が挙げられる。
【0089】
これらの中でも、好ましくは(E1)芳香族アルコール系架橋剤及び(E2)脂肪族アルコール系架橋剤であり、より好ましくは(E1)芳香族アルコール系架橋剤である。
【0090】
なお、上記(E)架橋剤の数平均分子量としては、通常、1000以下の架橋剤、好ましくは数平均分子量として500以下の架橋剤、より好ましくは数平均分子量として400以下の架橋剤である。
【0091】
本発明のポリウレタン樹脂組成物は(E)架橋剤を含有する場合、(E)架橋剤の含有量としては、特に限定はなく、例えば、ポリウレタン樹脂組成物100質量%対して、通常0.01?30質量%であり、好ましくは0.1?20質量%であり、より好ましくは0.3?10質量%であり、特に好ましくは0.5?5質量%である。
【0092】
上記(E)架橋剤は、一種単独で用いることができ、又は2種以上を混合して用いることもできる。」

(本g)「【0093】
1-6.消泡剤(F)
本発明のポリウレタン樹脂組成物には、さらに必要に応じて消泡剤(F)を含むことができる。
・・・
【0098】
1-7.(G)重合触媒
本発明のポリウレタン樹脂組成物には、さらに必要に応じて(G)重合触媒を含むことができる。
・・・
【0106】
1-8.その他の成分
本発明のポリウレタン樹脂組成物は、さらに必要に応じて、酸化防止剤、粘着付与剤、硬化促進剤、着色剤、鎖延長剤、架橋剤、フィラー、顔料、充填剤、難燃剤、ウレタン化触媒、紫外線吸収剤、水分吸湿剤、防黴剤、シランカップリング剤等の各種添加剤を含むことができる。
【0107】
これらの成分の含有量は、その使用目的に応じて、ポリウレタン樹脂組成物の所望の特性を阻害することのないように、通常の添加量と同定の範囲から適宜決定すればよい。」

(本h)「【0109】
2.ポリウレタン樹脂組成物の製造方法
本発明のポリウレタン樹脂組成物を製造する方法としては、特に限定はなく、ポリウレタン樹脂組成物を製造する方法として用いられる公知の方法に従って製造することができる。
【0110】
このような製造方法としては、例えば、(A)ポリイソシアネート化合物を含む組成物(第1成分)を調製する工程(工程1)、(B)ポリオール化合物を含む組成物(第2成分)を調製する工程(工程2)、及びこれら第2成分と第1成分とを混合し、ポリウレタン樹脂組成物を得る工程(工程3)を含む方法が挙げられる。
・・・
【0121】
3.用途
本発明は、上記ポリウレタン樹脂組成物からなる封止材でもある。上記ポリウレタン樹脂組成物からなる封止材は、放熱性、耐加水分解性及び難燃性に優れ、かつ、高温環境下で用いられた場合であっても難燃性の低下が抑制されていることから、発熱を伴う電気電子部品等に好適に使用することができる。
【0122】
このような電気電子部品としては、例えば、トランスコイル、チョークコイル、リアクトルコイル等の変圧器、機器制御基盤、各種センサー等が挙げられる。このような電気電子部品も、本発明の一つである。本発明の電気電子部品は、例えば、電気洗濯機、便座、湯沸し器、浄水器、風呂、食器洗浄機、電動工具、自動車、バイク等に用いることができる。」

(本i)「【実施例】
【0123】
以下、実施例及び比較例を示して、本発明のポリウレタン樹脂組成物について具体的に説明する。ただし、実施例はあくまで一例であって、本発明は、実施例に限定されない。
【0124】
実施例及び比較例において使用する原料を以下に示す。
【0125】
<(A)ポリイソシアネート化合物>
а1:TPA-100
商品名:デュラネート(登録商標)TPA-100(HDIイソシアヌレート変性体)、旭化成ケミカルズ社製
а2:HMDI
商品名:WANNATE(登録商標) HMDI(水添MDI)、万華化学ジャパン株式会社製
а3:MTL
商品名:ミリオネート(登録商標)MTL(カルボジイミド変性MDI)、東ソー社製
【0126】
<(B)ポリオール化合物>
b1:R-45HT
商品名:Poly bd(登録商標) R-45 HT、出光石油化学社製、数平均分子量 2800、水酸基価46.6mg KOH/g (JIS K 1557)、水酸基含有量0.83mol/kg (JIS K 1557)、ヨウ素価398g/100g (JIS K 0070)、粘度5Pa・S/30℃(JIS K 2283)
b2(比較ポリオール化合物):R-15HT
商品名:Poly bd(登録商標) R-15 HT、出光石油化学社製、数平均分子量 1200、水酸基価102.7mg KOH/g (JIS K 1557)、水酸基含有量1.83mol/kg (JIS K 1557) 、ヨウ素価420g/100g (JIS K 0070) 、粘度1.5Pa・S/30℃(JIS K 2283)
【0127】
<(C)無機充填剤>
c1:H-32
商品名:ハイジライト(登録商標)H-32(水酸化アルミニウム)、昭和電工株式会社製
【0128】
<(D)可塑剤>
d1:アジピン酸ジイソデシル(DIDA)
商品名:DIDANB、田岡化学工業株式会社製
d2:フタル酸ジウンデシル(DUP)
商品名:DUP、株式会社ジェイプラス製
【0129】
<(E)架橋剤>
e1:OKオール100:商品名、岡畑産業株式会社製、分子量 212
e1:オクタンジオール:商品名、KHネオケム株式会社製、分子量 145
【0130】
<(F)消泡剤>
f1:SC-5570
商品名:SC-5570(シリコーン消泡剤)、東レ・ダウコーニング社製
【0131】
<(G)重合触媒>
g1:U-810
ネオスタンU-810(ジオクチル錫ジラウレート):商品名、日東化成社製。
【0132】
ポリウレタン樹脂組成物の調製
<実施例1?11及び比較例1?4>
表1に示す組成で各成分及び消泡剤としてSC-5570(シリコーン消泡剤)0.01重量%を配合し、下記の手順で各種のポリウレタン樹脂組成物を調製した。
【0133】
表1に示す(B)ポリオール化合物、(C)無機充填剤、(D)可塑剤、(E)架橋剤、(F)消泡剤及び(G)重合触媒を自転・公転ミキサー(あわとり練太郎、シンキー社製)を用いて2000rpmで1分間混合した。
上記混合成分に、表1に示す(A)ポリイソシアネート化合物を添加し、自転・公転ミキサー(あわとり練太郎、シンキー社製)を用いて2000rpmで1分間混合した。得られた混合物を脱泡し、実施例1?11及び比較例1?4の各ポリウレタン樹脂組成物を得た。
【0134】
<試験片(テストピース)の作製>
100×100×3mmの成型用型、又は内径30mm及び高さ10mm、10×80×3mmの成形用型に調製したポリウレタン樹脂組成物を注入した。次いで、該ポリウレタン樹脂組成物を、60℃で16時間加熱した後、室温で1日放置して硬化させて、試験片A(130×130×3mm)、試験片B(直径30mm及び高さ10mm)及び試験片C(10×80×3mm)を得た。
【0135】
上記試験片AをJIS K 6251に記載されている3号形ダンベル試験片Dを調製し、この試験片を用いてJISK6251第3項に規定される方法に従い、測定温度25℃、引張速度500mm/分の条件で引張り試験を行ない、伸び率(柔軟性)を測定した。その結果を表1に示す。
【0136】
また、得られた上記試験片A(130×130×3mm)、試験片B(直径30mm及び高さ10mm)及び試験片C(10×80×3mm)に対して、硬度、相容性、耐熱性、弾性率(DMS法:10Hz)、及び体積抵抗値を以下に示す試験方法で行った。その結果を表1に示す。
【0137】
<硬度>
試験片B(上記硬化物B、内径30mm、高さ10mm)の温度が23℃の場合の硬度(タイプA)を、JIS K 6253に従い、硬度計(高分子計器社製、アスカーゴム硬度計A型)を用いて測定した。
【0138】
<相容性(概観性)>
「ポリオール化合物、架橋剤、可塑剤、消泡剤、無機充填剤、重合触媒」の混合液物を60℃の乾燥機で1週間加熱し、室温(23℃)まで冷却してから概観性を確認した。
【0139】
A:混合液物の上層(上澄み)に透明な層(相分離)がないこと。
C:混合液物の上層(上澄み)に透明な層(相分離)があり。
【0140】
<耐熱性>
初期硬度測定後、試験片Bを100℃の乾燥機で500時間加熱し、室温(23℃)まで冷却してから試験片の硬度(最終硬度)を初期硬度と同様にして測定した。初期硬度と最終硬度から、下記式に基づいて硬度変化率を算出した。
【0141】
式:硬度変化率(%)=[(最終硬度-初期硬度)/初期硬度]×100
算出された硬度変化率に基づいて、下記評価基準に従って耐熱性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0142】
A:硬度変化率が30%未満。
C:硬度変化率が30%以上。
【0143】
<伸び率(柔軟性)>
試験片Dの伸び率(柔軟性)をJISK 6251に従い、下記式に基づいて評価した。
【0144】
式:伸び率={[(破断時の標線間距離)-(標線間距離)]÷(標線間距離)}×100
A:伸び率が100%以上
C:伸び率が100%未満
【0145】
<弾性率(10Hz)>
試験片Cの弾性率(10Hz)を、動的粘弾性測定機:DMS(SIINano Technology社製:DMS6100)を用いて測定した。下記評価基準に従って弾性率を評価した。
-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下を合格値とする。
【0146】
試験片Cの弾性率変化(MPa)を下記式に基づいて評価した。
式:弾性率変化(MPa)=[-40℃の弾性率(MPa)]-[120℃の弾性率(MPa)]
-40℃?120℃の弾性率変化が、30MPa以下を合格値とする。
【0147】
<体積抵抗値>
試験片Aの体積抵抗率を、抵抗測定器(HIOKI社製、DSM-8104)を用いて測定した。測定結果に基づいて、下記評価基準に従って絶縁性を評価した。体積抵抗率の測定値(Ω・cm)及び評価結果を表1に示す。
体積抵抗率が1×10^(12) Ω・cm以上。
【0148】
【表1】


【0149】
<判定結果>
実施例1?11の結果から、本発明のポリウレタン樹脂組成物は、弾性率の温度依存性が低減でき(120℃?-40℃)、優れた伸び率(柔軟性)を示し、熱劣化による硬度の変化を抑制することができた。
【0150】
さらに、本発明のポリウレタン樹脂組成物は、優れた相溶性、硬度、及び体積抵抗値の全ての項目を満足することがわかった。
【0151】
一方、比較例1?4に関しては、弾性率の温度依存性、伸び率(柔軟性)、熱劣化による硬度の変化、相溶性、硬度、及び体積抵抗値の全ての項目を満足できる組成物でないことがわかった。
【0152】
上記実施例1?11のうち、実施例1、実施例4及び実施例11について、伸び率及び弾性率を、耐熱100℃/700時間放置後の測定データを、比較例4と比較し、表2に示した。
【0153】
【表2】


【0154】
<判定結果>
実施例1、実施例4及び実施例11の結果から、本発明のポリウレタン樹脂組成物は、100℃/700時間放置後であっても、弾性率、伸び率(柔軟性)が、比較例4と比べて優れており、熱劣化による硬度の変化を抑制することができた。」

2 各甲号証に記載された事項
(1)甲第1号証に記載された事項
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。

(甲1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアネート基含有化合物と水酸基含有化合物とが反応してなるポリウレタン樹脂、及び無機充填剤を含有するポリウレタン樹脂組成物であって、
前記無機充填剤は、ギブサイト型水酸化アルミニウムを含む、
ことを特徴とするポリウレタン樹脂組成物。
【請求項2】
前記ギブサイト型水酸化アルミニウムの含有量は、前記ポリウレタン樹脂組成物を100質量%として、50?80質量%である、請求項1に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項3】
前記水酸基含有化合物は、重量平均分子量が1000?3000である直鎖状のポリオールである、請求項1又は2に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項4】
更に、可塑剤を含有し、前記可塑剤の含有量は、前記ポリウレタン樹脂組成物を100質量%として、10?30質量%である、請求項1?3のいずれかに記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項5】
硬化した際に、JIS K6911に準拠した引張試験により、ダンベル状3号形試験片を用い、25℃の条件下で測定した伸びが20%以上である、請求項4に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1?5のいずれかに記載のポリウレタン樹脂組成物からなる封止材。
【請求項7】
請求項6に記載の封止材を用いて樹脂封止された電気電子部品。」

(甲1b)「【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン樹脂組成物、封止材及び電気電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気電子部品の高密度化および高集積化が進み、各部品に対して、信頼性の向上が要求されている。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、封止性、絶縁性、難燃性に優れ、且つ、封止作業性優れたポリウレタン樹脂組成物を提供することを目的とする。
・・・
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリウレタン樹脂組成物は、封止性、絶縁性、難燃性に優れ、且つ、封止作業性に優れている。また、本発明の封止材も、上記ポリウレタン樹脂組成物からなるので、封止性、絶縁性、及び難燃性に優れている。更に、本発明の電気電子部品は、上記封止材を用いて樹脂封止されているので、高い信頼性を示す。」

(甲1c)「【0017】
イソシアネート基含有化合物の例としては、脂肪族ポリイソシアネート化合物、脂環族ポリイソシアネート化合物、芳香族ポリイソシアネート化合物、芳香脂肪族ポリイソシアネート化合物等が挙げられ、また、これらのアロファネート変性体や、イソシアヌレート変性体を用いることができる。
・・・
【0020】
芳香族ポリイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、4,4’-ジベンジルジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート等が挙げられる。
・・・
【0022】
上記ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体としては、脂肪族ポリイソシアネート化合物、脂環族ポリイソシアネート化合物、又は芳香族ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体が好ましく、中でも、ヘキサメチレンジイソシアネート、又はジフェニルメタンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体がより好ましい。
【0023】
上記ポリイソシアネート化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0024】
ポリイソシアネート化合物の市販品としては、コロネートHX(商品名 HDI系イソシアヌレート 日本ポリウレタン工業社製)、デュラネート TLA-100(商品名 HDI系イソシアヌレート 旭化成ケミカルズ社製)、ミリオネート MTL(商品名 MDI系イソシアネート 東ソー社製)等が挙げられる。」

(甲1d)「【0025】
本発明のポリウレタン樹脂組成物において、用いられる水酸基含有化合物としては、特に限定されず、ポリウレタン樹脂組成物において従来ポリオール成分として用いられているものを各種使用することが可能である。上記水酸基含有化合物としては、例えば、ポリブタジエンポリオール、・・・等が挙げられる。
【0026】
上記水酸基含有化合物の中でも、ポリブタジエンポリオールを用いることが好ましい。上記ポリブタジエンポリオールとしては、例えば、1,4結合を60?90モル%、及び1,2結合を10?40モル%有するポリブタジエンからなる繰り返し単位を有し、繰り返し数は10?14であり、両末端に水酸基を有するポリオールが挙げられる。
・・・
【0030】
上記水酸基含有化合物は、ポリブタジエンポリオール、及びひまし油系ポリオールを含んでいてもよい。この場合、ポリブタジエンポリオールと、ひまし油系ポリオールとの配合比は、質量比で(ポリブタジエンポリオール):(ひまし油系ポリオール)=90:10?50:50であることが好ましく、90:10?70:30であることがより好ましい。上記配合比のポリオール成分を用いると、ポリイソシアネート成分との相溶性に優れ、また、ポリウレタン樹脂組成物の粘度が低くなり、より作業性に優れた特性を示すことができる。
【0031】
上記水酸基含有化合物の重量平均分子量は、500?10000であることが好ましく、1000?3000であることがより好ましい。上記分子量が小さすぎるとポリウレタン樹脂組成物が硬化後の柔軟性に劣るおそれがあり、大きすぎるとポリウレタン樹脂組成物の硬化性が劣るおそれがある。
【0032】
上記水酸基含有化合物は、直鎖状のポリオールであることがより好ましい。上記水酸基含有化合物として直鎖状のポリオールを用いることにより、ギブサイト型水酸化アルミニウムの含有量が多い場合であっても、本発明のポリウレタン樹脂組成物が硬化した際に、JIS K6911に準拠した引張試験により、ダンベル状3号形試験片を用い、25℃の条件下で測定した伸びを20%以上に維持することができる。
【0033】
上記水酸基含有化合物の市販品としては、出光興産化学株式会社製水酸基含有液状ポリブタジエン Poly bd(登録商標)R-15HT(商品名)、R-45HT(商品名)、三井化学ウレタン社製ポリプロピレングリコール アクトコールDiol1000(商品名)等が挙げられる。」

(甲1e)「【0034】
本発明のポリウレタン樹脂組成物において、上記イソシアネート基含有化合物と、上記水酸基含有化合物との合計量(以下、ウレタン樹脂成分量という)は以下のように決定できる。本発明のポリウレタン樹脂組成物全体を100重量%とし、そこからギブサイト型水酸化アルミニウム(例として60%)を減ずる。さらに、可塑剤をはじめとする各種添加剤を減ずる(例として15%)。この残り、例としては25%がウレタン樹脂成分量である。また、ウレタン樹脂成分中のイソシアネート基含有化合物と水酸基含有化合物の重量比率については反応基であるイソシアネート基/水酸基のモル比が0.7?1.4の範囲であることから、算出することができる。
【0035】
本発明のポリウレタン樹脂組成物は、上記イソシアネート基含有化合物と、上記水酸基含有化合物とのNCO/OH比が0.7?1.4であることが好ましく、0.8?1.2であることがより好ましい。本発明のポリウレタン系樹脂組成物において、上記NCO/OH比を上述の範囲とし、更に、ギブサイト型水酸化アルミニウムを含有する構成とすることにより、本発明のポリウレタン樹脂組成物が耐加水分解性及び難燃性に優れ、且つ、高温環境下で用いられた場合であっても難燃性の低下が抑制される。」

(甲1f)「【0036】
本発明のポリウレタン樹脂組成物は、無機充填剤を含有する。本発明において、無機充填剤は、ギブサイト型水酸化アルミニウムを含む。
【0037】
上記ギブサイト型水酸化アルミニウムとしては、市販の粒径を一定範囲に調整した粉末状のものが使用できる。たとえば、日本軽金属株式会社製の平均粒径8μmのB-103、平均粒径30μmのB-303、平均粒径15μmのB-153などである。
・・・
【0040】
上記ギブサイト型水酸化アルミニウムの含有量は、本発明のポリウレタン樹脂組成物を100質量%として、50?85質量%が好ましく、55?80質量%がより好ましく、55?70質量%が更に好ましい。ギブサイト型水酸化アルミニウムの含有量が少な過ぎると難燃性を発揮できないおそれがあり、多過ぎるとゾル状態を維持できず、封止作業性を損なうおそれがある。」

(甲1g)「【0044】
本発明のポリウレタン樹脂組成物は、水酸化アルミニウム以外の他の無機充填剤を含有していてもよい。このような無機充填剤としては、例えば、ゼオライト、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、二酸化ケイ素等が挙げられる。
【0045】
上記他の無機充填剤の含有量は、ポリウレタン樹脂組成物100質量%に対して、10.0質量%以下が好ましい。無機充填剤の含有量が上記範囲より多いと相対的に水酸化アルミニウムの含有量が低下し、難燃性が低下するおそれがある。上記他の無機充填剤の含有量の下限は特に限定されないが、少ない方がよく、上記他の無機充填剤を含まなくてもよい。」

(甲1h)「【0046】
本発明のポリウレタン樹脂組成物は、上記イソシアネート基含有化合物と水酸基含有化合物とが反応してなるポリウレタン樹脂、及び無機充填剤の他に、可塑剤を含有していてもよい。
【0047】
可塑剤としては、例えば、ジオクチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジウンデシルフタレート等のフタル酸エステル、ジオクチルアジペート、ジイソノニルアジペート等のアジピン酸エステル、・・・等が挙げられる。これらのうち、トリメリット酸エステルがより好ましい。
【0048】
上記可塑剤の含有量は、上記イソシアネート基含有化合物と、上記水酸基含有化合物との合計100質量部に対して、200質量部以下が好ましく、150質量部以下がより好ましい。可塑剤の含有量を上記範囲内とすることにより、ポリウレタン樹脂組成物の耐熱性を大きく低下させることなく、ポリウレタン樹脂組成物の製造時の混合粘度をより低くできる。特に、ポリウレタン樹脂組成物100質量%に対する可塑剤の含有量を10?30質量%とすることにより、本発明のポリウレタン樹脂組成物が硬化した際に、JIS K6911に準拠した引張試験により、ダンベル状3号形試験片を用い、25℃の条件下で測定した伸びを20%以上とすることができる。このため、本発明のポリウレタン樹脂組成物を用いてプリント基板全体に樹脂封止を行った場合に、プリント基板の変形に追従することができ、高い封止性を維持することができる。」

(甲1i)「【0049】
本発明のポリウレタン樹脂組成物には、触媒、酸化防止剤、吸湿剤、防黴剤、シランカップリング剤及び分子量500未満の水酸基含有化合物等、必要に応じて各種の添加剤を添加することができる。
【0050】
触媒としては特に限定されないが、ウレタン樹脂組成物に用いられる従来公知の触媒を用いることができる。このような触媒としては、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジアセテート等の錫触媒;オクチル酸鉛、オクテン酸鉛、ナフテン酸鉛等の鉛触媒;オクチル酸ビスマス、ネオデカン酸ビスマス等のビスマス触媒、ジエチレントリアミン等のアミン系触媒等が挙げられる。また、上記触媒としては、有機金属化合物、金属錯体化合物等を用いてもよい。
【0051】
これらの添加剤の使用量は、その使用目的に応じて、ポリウレタン樹脂組成物の所望の特性を阻害することのないように、通常の添加量と同等の範囲から適宜決定すればよい。」

(甲1j)「【0058】
本発明は、また、上記ポリウレタン樹脂組成物からなる封止材でもある。上記ポリウレタン樹脂組成物からなる封止材は、封止性、絶縁性、及び難燃性に優れているので、発熱を伴う電気電子部品等に好適に使用することができる。このような電気電子部品としては、トランスコイル、チョークコイル及びリアクトルコイル等の変圧器や機器制御基盤等が挙げられる。このような電気電子部品も、本発明の一つである。本発明の電気電子部品は、電気洗濯機、便座、湯沸し器、浄水器、風呂、食器洗浄機、電動工具、自動車、バイク等に用いることができる。」

(甲1k)「【実施例】
【0059】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0060】
実施例、及び比較例に使用する原料を下記に示す。
・MDI系イソシアネート 商品名:ミリオネートMTL(東ソー社製)
・直鎖状ポリオール 商品名:R-45HT(出光興産社製)
・直鎖状ポリオール 商品名:Diol1000(三井化学ウレタン社製)
・ポリエーテル系ポリオール 商品名:T-400(ADEKA社製)
・ひまし油系ポリオール 商品名:H-30(伊藤製油社製)
・フタル酸エステル系可塑剤 商品名:DINP(ジェイ・プラス社製)
・ギブサイト型水酸化アルミニウム 商品名:B-103(日本軽金属社製)
・ベーマイト型水酸化アルミニウム 商品名:AOH30(ナバルテック社製)」

(甲1l)「【0061】
(ポリウレタン樹脂組成物の調製)
表1及び2に示す配合により、下記の手順で各種のポリウレタン樹脂組成物を調製した。
【0062】
先ず、表1及び2のB成分の配合で原料を混合し、空気中の水分が混入しないように密閉状態で加熱、冷却、及び減圧装置を備えた反応釜に投入し、60℃の温度で、10mmHg以下の圧力下で2時間かけて脱水してB成分を調製した。
【0063】
B成分に、NCO/OH比が表1及び2に示す値となるよう調整してA成分を加え、混合、脱泡してポリウレタン樹脂組成物を調製した。硬化前のポリウレタン樹脂組成物を用いて、以下に示す方法で封止作業性の試験を行った。
【0064】
(試験片の作製)
得られたポリウレタン樹脂組成物がゾル状態を示している間に、直径120mmのポリプロピレン製のプラスチックコップに3mmの深さで充填し、60℃の温度で16時間加熱して硬化させた。硬化後のポリウレタン樹脂組成物をプラスチックコップから取り出し、カッターで適当な大きさに切断して、試験片を調製した。調製した試験片を用い、以下に示す方法で封止性、絶縁性、及び難燃性の試験を行った。
【0065】
封止作業性
硬化前のポリウレタン樹脂組成物について、下記評価基準に従って封止作業性を評価した。
○:ポリウレタン樹脂組成物を調製後、ゾル状態を維持できる時間が常温で30分以上であり、且つ、60℃に加熱したときに16時間以内で硬化する
×:ポリウレタン樹脂組成物を調製後、ゾル状態を維持できる時間が常温で30分未満であるか、又は、60℃に加熱したときに硬化時間が16時間を超える
【0066】
なお、上記封止作業性の試験において、ゾル状態を維持できる時間の判定については、マッチ棒の軸をポリウレタン樹脂組成物の表面に1mm沈み込む深さまで押し当て、その後引き上げたときに、ポリウレタン樹脂組成物の表面が変形するものの、マッチ棒の軸にポリウレタン樹脂組成物が付着しない程度まで硬化した状態を、ゾル状態を維持できなくなった状態と定義して、その状態に変化する時間が30分以上であるか否かを確認した。また、硬化しているか否かの判定については、硬化後のポリウレタン樹脂組成物の表面の硬さをJIS K6253におけるA型硬度計を用いて測定し、1以上の数値が得られたものを硬化していると判定した。
【0067】
難燃性
得られた実施例及び比較例のポリウレタン樹脂組成物の硬化物である試験片を用いて難燃性試験を行った。試験は、米国のUnderwriters Laboratories,Inc.により制定された燃焼試験規格(UL94法)に基づいて行った。下記評価基準に従って難燃性を評価した。なお、難燃性の評価については、V-2以上の評価であれば実使用で問題がないと判断している。
○:V-0を満たす
△:V-1又はV-2を満たす
×:V-2を満たさない
【0068】
封止性
上述のようにして調製した試験片を用いて、以下の評価基準に従って封止性を評価した。
○:23℃におけるA型硬度計で測定した硬度が、10以上を示す
×:23℃におけるA型硬度計で測定した硬度が、10未満を示す
【0069】
絶縁性
上述のようにして調製した試験片の23℃での体積抵抗率を測定し、以下の評価基準に従って絶縁性を評価した。
○:体積抵抗率が1×10^(9)Ω・m以上である
×:体積抵抗率が1×10^(9)Ω・m未満である
【0070】
伸び
得られたポリウレタン樹脂組成物を用いてJIS K6911に準拠した引張試験により、ダンベル状3号形試験片を調製して、25℃の条件下で伸びを測定した。以下の評価基準に従って評価した。
○:伸びが50%以上である
△:伸びが20%以上50%未満である
×:伸びが20%未満である
結果を表1及び2に示す。
【0071】
【表1】


【0072】
【表2】




(2)甲第2号証に記載された事項
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。

(甲2a)「1,4-ポリブタジエン系ポリオール65?95重量%とヒマシ油5?35重量%から成るポリオール成分(a)及び難燃剤(b)を必須成分とし短鎖ポリオール(c)及び可塑剤(d)を任意成分として含有するA液と、ポリイソシアネート化合物及びそのダイマーから選択される低揮発性イソシアナート成分(e)及び可塑剤(f)を必須成分として含有するB液とからなる電気絶縁用二液型ポッティング剤」(特許請求の範囲)

(甲2b)「本発明はポリウレタン系二液型電気絶縁用ポッティング剤に関し、さらに詳しくは、電気絶縁性、耐冷熱サイクル性、難燃性、注型性などに優れた二液型電気絶縁用ポッティング剤に関する。
・・・
そこで本発明者らは従来技術のかかる欠点を克服すべく鋭意検討を進めた結果、1,4-ポリブタジエン系ポリオールとヒマシ油が一定の範囲内であれば相溶するという現象に着目し、この現象を有効に活用することによって本発明を完成するに到った。
而して本発明の主な目的は、低粘度で注型性に優れ、かつ耐冷熱サイクル性、電気絶縁性、難燃性に優れた電気絶縁用二液型ポッティング剤を提供することにあり、他の目的は安定性、安全性に優れた電気絶縁用二液型ポッティング剤を提供することにある。
かかる本発明の目的は、1,4-ポリブタジエン系ポリオール65?95重量%とヒマシ油5?35重量%から成るポリオール成分(a)及び難燃剤(b)を必須成分とし短鎖ポリオール(c)及び可塑剤(d)を任意成分として含有するA液と、ポリイソシアネート化合物(e)及びそのダイマーから選択される低揮発性イソシアネート成分(e)及び可塑剤(f)を必須成分として含有するB液を組み合せて電気絶縁用二液型ポッティング剤とすることによって達成される。」(第1頁左欄第15行?第2頁右上欄第7行)

(甲2c)「本発明のA液として用いるポリオール成分(a)は、数平均分子量が500?8000、好ましくは1000?5000で両末端に水酸基を有する1,4-ポリブタジエン系ポリオール65?95重量%、好ましくは70?90重量%とヒマシ油5?35重量%、好ましくは10?30重量%の混合物である。この際、ヒマシ油の量が5重量%未満であると高粘度で注型作業性に劣るほか硬化物の表面にべたつきが残り、逆にヒマシ油が35重量%を越えると粘度は低下するが、両者の相溶性が不充分なため貯蔵安定性に劣り、機械的強度の低下をきたす。
用いられる1,4-ポリブタジエン系ポリオールはブタジエンを主成分とするものであればホモポリマーであっても、・・・よく、その具体例としてポリブタジエン系液状ゴムR-45HT、R-45M、CS-15、CN-15(いずれもARCO・ケミカル社製)などが挙げられる。また他方の成分であるヒマシ油も従来からポリウレタン用に使用されているものであれば格別制限されず、その具体例として・・・などが例示される。」(第2頁右上欄第8行?左下欄第11行)

(甲2d)「A液には他の必須成分として難燃剤(b)を配合することが必要である。この難燃剤としては硬化物に所望の難燃性を付与しうるものであればいずれでもよく、その具体例として、改質赤リン系、・・・、金属水酸化物系などの難燃剤が例示される。かかる難燃剤の配合量は難燃剤の種類や要求性能に応じて必ずしも一定ではなく、そのためA液の注型作業性を損わない範囲内で適宜選択されるが、難燃剤として赤リン粉末と水酸化アルミニウムを併用する場合にはポリオール成分(a)100重量部当り赤リン粉末1?20重量部、好ましくは3?15重量部、水酸化アルミニウム10?100重量部、好ましくは20?70重量部とするのが適切であり、このような配合を採用することによって経済的に且つ注型作業性を損わずに高度の難燃性を付与することができる。」(第2頁左下欄第12行?右下欄第9行)

(甲2e)「・・・所望により短鎖ポリオール(c)及び可塑剤(d)が配合される。短鎖ポリオールの具体例としては・・・、N,N-ビス(2-ヒドロキシプロピル)アニリン、・・・などのごとき短鎖ジオール及び短鎖トリオールが例示され、これらの短鎖ポリオールを配合することによって硬化物の硬度を増し機械的強度や耐冷熱サイクル性を向上させることができる。しかし、その配合量を過度に多くすると硬くなりすぎ耐冷熱サイクル性を損なう傾向があるので、その配合量はポリオール成分(a)100重量部当り30重量部以下、好ましくは5?20重量部とするのが適切である。
また可塑剤(d)の具体例としてはリン酸エステル系、有機カルボン酸エステル系、プロセス油系などの可塑剤が例示され、これらを適宜選択して配合することによりA液を低粘度化し、かつA液の安定性、注型性の向上を図ることができる。とくに硬化物に高度の難燃性が要求される場合には難燃性を備えた可塑剤、例えばリン酸エステル系の可塑剤を用いることが望ましく、なかでもポリオール成分との相溶性の面でトリクレジルホスフェートがもっとも賞用される。可塑剤(d)の配合量は適宜選択されるが、通常はポリオール成分(a)100重量部当り30重量部以下であり、なかでも5?20重量部が好適である。」(第2頁右下欄第10行?第3頁左上欄第16行)

(甲2c)「実施例1.
1,4-ポリブタジエンジオール(商品名R-45HT、ARCOケミカル社製、分子量2800)、ヒマシ油(商品名URIC H-30水酸基価160mgKOH/g、伊藤製油社製)、N,N-ビス(2-ヒドロキシプロピル)アニリン(商品名Isonol C-100、化成アップジョン社製)、トリクレジルホスフェート(商品名TCP、ストーファケミカル社製)、水酸化アルミニウム(商品名ハイジライトH-32I、昭和金属工業社製)及び改質赤リン(商品名ノーバレッド#120、燐化学工業社製)を第1表に示す配合処方に従って窒素雰囲気下の密閉容器中で30分間よく攪拌することによりA液を調製した。このA液を直径18mmの試験管に入れ25℃で1週間放置したのち、相分離の有無、難燃剤の沈降の有無を観察した。結果を第1表に示す。


・・・
実施例2
・・・
実施例3.
実施例1で調製した各種A液と実施例2で調製したB液(B-3)を水酸基/イソシアネート基=1.05(当量比)となるように混合し、脱泡したのち50℃で8時間加熱して試験片を作成した。混合物の注型性、硬化物の物性につき所定の方法で評価し、その結果を第3表に示した。
*1 市販電気部品をケースに入れA液、B液の混合物30gを注型し、その所用時間を測定。
○:5秒以内 △:5?10秒 ×:10秒以上
・・・
*5 100℃で1時間、-30℃で1時間の冷熱サイクルテスト。
○:10回以上 △:5?10回 ×:5回未満
*6 UL-94Vテスト。○:94V2合格
実施例4.
実施例1で得たA液(A-3)76部と実施例2で得たB液(B-2)24部を使用すること以外は実施例3と同様にして試験を行った。その結果、混合物の粘度は2000センチポイズ、注型性は○、硬度45A、体積固有抵抗2.5×10^(14)Ωcm、表面状態、冷熱サイクル性、難燃性はいずれも○であった。」(第3頁左下欄第18行?第5頁右上欄第20行)

(3)甲第3号証に記載された事項
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。

(甲3a)「イソシアネート化合物からなるA液と、1,4-ポリブタジエン系ポリオール100重量部にイソシアネート基に不活性な可塑剤20?100重量部、赤リン粉末および水和アルミナからなるB液とを、混合したことを特徴とするポリブタジエン系ウレタン樹脂組成物」(特許請求の範囲)

(甲3b)「本発明は、ポリブタジエン系ウレタン樹指組成物に関し、更に詳しくはコイル部品等に使用する難燃性の絶縁用注型含浸ポリブタジエン系樹脂組成物に関する。
高圧コイル部品等の絶縁注型用に使用される樹脂組成物としては、従来エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、シリコン樹脂等が用いられているが、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂の両者は硬度が硬くて冷熱サイクルがかかるような条件下では歪を吸収できなくてクラックが生ずる欠陥があり、またシリコン樹脂は硬度が軟くて柔軟性はある反面透湿性があるため絶縁物としての目的に使用するには満足な結果が得られぬうえ高価であり、いずれも実用上満足のいくものではなかった。・・・。
高圧コイル用の注型樹脂組成物としては、・・・。更に、環境温度および動作時の発熱等により高温あるいは低温になった場合樹脂自体が応力に耐え、クラック等の発生あるいはコイルケース類との接着不良を防止して本来のコイルとしての性能を低下させないものである必要がある。
本発明者等は、各種樹脂組成物につき鋭意研究した結果、上記諸条件を満足する絶縁用注型樹脂組成物を開発したものである。」(第1頁右欄第2行?第2頁右上欄第7行)

(甲3c)「B液に配合するイソシアネート基に不活性な可塑剤としては、プロセスオイル(・・・)、脂肪酸エステル(エポキシ化脂肪酸エステル、ジオクチルフタレート等)が用いられる。これらの化合物は常圧における沸点は300℃以上の高い沸点を有するが、これら自体は可燃性であるので難燃化には悪い影響を与えるものと考えられていたが、本発明においてはポリブタジエン系ポリオールとの相溶性が良く、難燃剤として用いる赤リン及び水和アルミナと均一に相溶分散するため難燃効果を低下させることなく、樹脂の含浸注型性を向上せしめ得るという顕著な効果を奏するのである。また、エポキシ樹脂に於ては主剤と硬化剤を混合させた後の可使時間が長いが、本発明の如きポリブタジエン系ウレタン樹脂においてはイソシアネートとポリオールとの反応が早く可使時間が短いため含浸注型は困難であり、特に難燃剤を配合する場合には一層粘度を増すため細いコイル等への難燃性樹脂の含浸は出来なかった。しかるに本発明によりこれらの可塑剤を用いることにより樹脂の粘度が低下し上記の如く含浸注型が可能となった。さらにまた、これらの可塑剤を用いることにより電気特性、特に耐湿電気特性、長期耐湿熱電気特性を向上せしめかつ高特性を維持することができ、工業的に利用可能な難燃性含浸注型樹脂が得られたのである。可塑剤の配合量は前記の通りポリオール100重量部に対し20?100重量部が最適であり、20重量部より少ないと充分な難燃剤分散および粘度低下の効果が得られず、100重量部を超えると粘度低下が過度となるので好ましくない。」(第3頁左上欄第7行?左下欄第7行)

(甲3d)「なお本発明の樹脂組成物の注型物(硬化物)の硬度を適度に調整するため、必要に応じB液にさらに短鎖ジオールおよび短鎖トリオールの少なくとも1種をポリオール100重量部に対し5?20重量部加えることができる。短鎖ジオールとしては、・・・、N,N-ビス(2-ヒドロキシプロピル)アニリン、ブタンジオール等が例示され、短鎖トリオールとしては・・・等が例示される。これらの短鎖ジオールおよび短鎖トリオールの1種または数種を添加することにより樹脂の架橋密度を高めることができ、ブタジエン系ポリオールのみの場合に比して樹脂の硬度を増し特に高温時の物理特性を向上させることができる。」(第3頁右下欄第4行?第4頁左上欄第4行)

(甲3e)「実施例 1
変性液状4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(NCO当量145)(以下「液状MDI」と略記する)をA液とする。
1,4-ポリブタジエンポリオール(ARCO社製R-45HT、分子量2800)100重量部に対して、赤リン粉末10重量部、水和アルミナ(昭和電工社製ハイジライトH-32)70重量部、N,N-ビス(2-ヒドロキシプロピル)-アニリン(アップジョン社製アイソノールC-100)15重量部およびプロセスオイル(出光興産社製ダイアナプロセスオイル)20重量部を混合して3本ロールで混練したのちプラネタリーミキサーで減圧下加熱して得た混合物をB液とする。
A液15重量部に対してB液100重量部の割合で混合する。この混合物を60℃、16時間加熱して各種試験片を作成した。
・・・
上記各実施例および比較例において得られた混合物の注型性および沈降性、硬化物の難燃性および電気特性を下記の試験および評価方法に従って測定し、それらの結果を第2表に示す。
(注型性)
・・・
(沈降性)
・・・
(難燃性)
・・・
(電気特性)
・・・

・・・


」(第4頁右上欄第6行?第6頁右下欄)


第6 当審の判断
当審は、本件発明8に係る特許については特許異議申立を却下することとし、また、当審が通知した取消理由A?C及び申立人がした申立理由1?2によっては、いずれも、本件発明1?7、9?13に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 申立ての却下
上記「第2 訂正の適否についての判断」及び「第3 特許請求の範囲の記載」で示したとおり、請求項8は、本件訂正により削除されているので、請求項8についての申立てを却下する。

2 取消理由について
(1)取消理由A(実施可能要件)について
(ア)取消理由Aの概要
取消理由Aは、概略以下のとおりである。

「本件発明1は、「ポリウレタン樹脂組成物」について、「-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下」であることを発明特定事項としている。本件発明1を引用する本件発明2?13も同様である。
しかしながら、本件明細書には、具体的にどのような調製を行えば、「ポリウレタン樹脂組成物」の「-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下」とすることができるのか、調製方法の指針が示されていない。
また、本件発明1の「ポリウレタン樹脂組成物」の「-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下」とする調製方法は技術常識であるともいえず、調製した「ポリウレタン樹脂組成物」すべてについて「-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下」のものを選定することは当業者に過度の試行錯誤を課すものであるから、本件明細書記載から、当業者が実施できるように明確かつ十分に記載されているとは認められない。」

(イ)判断
a 特許法第36条第4項第1号について
特許法第36条第4項第1号は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」と定めている。
これは、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が、明細書に記載した事項と出願時の技術常識とに基づき、その発明を実施することができる程度に、発明の詳細な説明を記載しなければならないことを意味するものである。そこで、この点について以下に検討する。

b 判断
上記取消理由Aについて、特許権者は、令和2年12月1日付け意見書において、「本件発明1の他の発明特定事項を満たす「ポリウレタン樹脂組成物」が「-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下である」であることが示されています。また、訂正発明1の他の発明特定事項を満たす「ポリウレタン樹脂組成物」が「-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下である」であることも示されています。これより、本件発明1及び訂正発明1 の他の発明特定事項を満たす「ポリウレタン樹脂組成物」であれば、「-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下である」になることは明らかです」と述べている。さらに、甲第1号証の実施例3に基づく甲1発明Aのうち「ギブサイト型水酸化アルミニウム「B-103」」を「商品名:ハイジライト(登録商標)H-32(水酸化アルミニウム)、昭和電工株式会社製」に代えたポリウレタン樹脂組成物の「-40℃の弾性率(10Hz)」が「56MPa」、甲第1号証の比較例2に基づく甲1発明Bのうち「ベーマイト型水酸化アルミニウム「AOH30」」を「商品名:ハイジライト(登録商標)H-32(水酸化アルミニウム)、昭和電工株式会社製」に代えたポリウレタン樹脂組成物の「-40℃の弾性率(10Hz)」が「46MPa」と、本件訂正前の請求項1の「-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下である」こと以外の他の発明特定事項を満たすにもかかわらず、「-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下」となっていないことも述べている。
令和3年4月19日付け審尋において、甲1発明A及び甲1発明Bにおいて「水酸化アルミニウム」を代えたポリウレタン樹脂組成物が、本件訂正前の請求項1の「-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下である」こと以外の他の発明特定事項を満たすにもかかわらず、「-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下」となっていないことを指摘したところ、当該審尋に対する同年6月11日付け回答書において、「次に、訂正発明1と甲1発明A'とを比較します。・・・これらより、「甲1発明Aに記載の組成のうち、「ギブサイト型水酸化アルミニウム「B-103」」を本実施例で使用している「商品名:ハイジライト(登録商標) H-32 (水酸化アルミニウム)、昭和電工株式会社製」」に代えた「ポリウレタン樹脂組成物」(甲1発明A' ) が、訂正前の本件発明1の「他の発明特定事項」を満たす「ポリウレタン樹脂組成物」になると認められるにもかかわらず、当該組成物から作製した試験片の「-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下」の範囲とならない理由は、「(C)無機充填材」の含有量が、訂正請求によって訂正前の本件発明1の数値範囲 (50?85質量%)から除かれた範囲 (69質量%を超えて85質量%まで)に入ることにあると考えます」、「次に、訂正発明1と甲1発明B'とを比較します。・・・これらより、「甲1発明Bに記載の組成のうち、「ベーマイト型水酸化アルミニウム「AOH30」」を本実施例で使用している「商品名:ハイジライト(登録商標) H-32 (水酸化アルミニウム)、昭和電工株式会社製」」に代えた「ポリウレタン樹脂組成物」(甲1発明B' ) が、訂正前の本件発明1の「他の発明特定事項」を満たす「ポリウレタン樹脂組成物」になると認められるにもかかわらず、当該組成物から作製した試験片の「-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下」の範囲とならない理由は、「(C)無機充填材」の含有量が、訂正請求によって訂正前の本件発明1の数値範囲 (50?85質量%)から除かれた範囲(69質量%を超えて85質量%まで)に入ることにあると考えます。」、「試験Cが「-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下」を満たすかどうかは、訂正後の本件発明1の「-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下」以外の発明特定事項を満たすか否か(「( C )無機充填材」についていえば、その含有量が「50?69質量%」の範囲内であるか否か)で判断すればよいことから、試行錯誤は必要としません」、「「水酸化アルミニウム」の違いは「-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下」の範囲を満たすかどうかに影響しないといえます。」と説明している。
すなわち、特許権者は、同意見書及び同回答書において、(本件訂正後の)本件発明1の「-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下」以外の発明特定事項を満たすポリウレタン樹脂組成物であれば「-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下」となること、また、「(C)無機充填材」である「水酸化アルミニウム」についてその種類の違いは問題とならず「含有量が「50?69質量%」の範囲内であるか否か」で判断すればよいことを述べている。

上記特許権者の説明について、本件明細書の実施例等から確認する。
本件明細書の(本i)(特に段落【0148】の【表1】を参照)の実施例・比較例を確認すると、本件発明1の発明特定事項を満たす実施例1?6の「-40℃の弾性率(10Hz)」は14?38であり、「-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下」の範囲を満たすものとなっていることを確認することができる。
一方、比較例1?2、4は、「(B)ポリオール化合物」であって「(b1)水酸基価60mgKOH/g以下のポリブタジエンポリオール」の発明特定事項を満たさない「R-15H」を用いたものであり、「-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下」の範囲を満たすためには、本件発明1の発明特定事項のうち、「(B)ポリオール化合物」として「(b1)水酸基価60mgKOH/g以下のポリブタジエンポリオール」を用いることが重要であることを理解できる。
また、実施例7?11は、「(A)ポリイソシアネート化合物」であって「前記(A)ポリイソシアネート化合物が、脂肪族ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート体、脂肪族ポリイソシアネート化合物のアロファネート体、及び/又は、脂環式ポリイソシアネート」であることを満たさない「芳香族ポリイソシアネート」である「MTL(カルボジイミド変性MDI)」を用いるものであるが、いずれも「-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下」の範囲を満たすものとなっていることから、「(A)ポリイソシアネート化合物」の種類が「-40℃の弾性率(10Hz)」の値に与える影響は低いことを理解できる。
同じく、実施例1?11、比較例1?4では、可塑剤の種類、含量で各種のものが使用されるところ、可塑剤の種類、含量と「-40℃の弾性率(10Hz)」との間に関連性があることは十分に読み取れないので、「(D)可塑剤」の種類や含量が「-40℃の弾性率(10Hz)」に与える影響は低いと解される。
次に、上記審尋で指摘した、甲第1号証の実施例3に基づく甲1発明Aのうち「ギブサイト型水産課アルミニウム「B-103」」を「商品名:ハイジライト(登録商標)H-32(水酸化アルミニウム)、昭和電工株式会社製」に代えたポリウレタン樹脂組成物の「-40℃の弾性率(10Hz)」が「56MPa」となり「40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下」の範囲を満たさないことについては、下記「(2)取消理由B、Cについて」「イ 本件発明1について 」「(ア)対比」において検討するとおり、「(A)ポリイソシアネート化合物」の種類、「(C)無機充填材」の含量、「(D)可塑剤」の含量の点で異なるが、上述したとおり、本件明細書の記載によると、40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下」の範囲を満たすためには、(A)ポリイソシアネート化合物」の種類及び「(D)可塑剤」の種類及び含量よりも、「(b1)水酸基価60mgKOH/g以下のポリブタジエンポリオール」を使用すること、「(C)無機充填材」の含有量が「50?69質量%」の範囲であることの方が重要であることを理解できる。

以上の検討を踏まえると、本件明細書の記載、特に、実施例・比較例の開示から、(本件訂正後の)本件発明1の「-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下」以外の発明特定事項を満たす「ポリウレタン樹脂組成物」であれば「-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下」となる「ポリウレタン樹脂組成物」を、過度の試行錯誤なく得ることができるといえるから、本件明細書は、本件発明1を、当業者が実施できるように明確かつ十分に記載されているといえる。
本件発明1を引用する本件発明2?7、9?11も同様である。

(ウ)小括
したがって、取消理由Aは、理由がない。

(2)取消理由B、Cについて
ア 甲第1号証に記載された発明について
甲第1号証の(甲1l)には、実施例3の「ポリウレタン樹脂組成物」として、
「イソシアネートである「ミリオネートMTL」 0.76質量%
可塑剤である「DINP」 13質量%
直鎖状ポリオールである「R-45HT」 6.24質量%
ギブサイト型水酸化アルミである「B-103」 80質量%
を含む、ポリウレタン樹脂組成物」
の発明が記載されている。
これらの成分について、(甲1k)をみると、
「イソシアネートであるミリオネートMTL」は「MDI系イソシアネート」であり、
「可塑剤であるDINP」は「フタル酸エステル系可塑剤」であり、
「ギブサイト型水酸化アルミであるB-103」は「ギブサイト型水酸化アルミニウム」であるといえる。
そうすると、甲第1号証には、
「MDI系イソシアネート「ミリオネートMTL」 0.76質量%
フタル酸エステル系可塑剤「DINP」 13質量%
直鎖状ポリオール「R-45HT」 6.24質量%
ギブサイト型水酸化アルミニウム「Bー103」 80質量%
を含む、ポリウレタン樹脂組成物」
の発明(以下「甲1発明A」という。)が記載されているといえる。

イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明Aとを対比する。

甲1発明Aの「MDI系イソシアネート「ミリオネートMTL」」は、(甲1c)及び本願明細書の段落【0022】及び【0026】からみて、本件発明1の「(A)ポリイソシアネート化合物」であって「脂肪族ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート体、脂肪族ポリイソシアネート化合物のアロファネート体、及び/又は、脂環式ポリイソシアネート」であるものと、「ポリイソシアネート」である限りにおいて一致する。

甲1発明Aの「直鎖状ポリオール「R-45HT」」は、(甲1d)の段落【0033】の「上記水酸基含有化合物の市販品としては、出光興産化学株式会社製水酸基含有液状ポリブタジエンPoly bd(登録商標)・・・、R-45HT(商品名)、・・・等が挙げられる」との記載、及び、本件明細書の(本i)の段落【0126】の「b1:R-45HT 商品名:Poly bd(登録商標) R-45 HT、出光石油化学社製、数平均分子量 2800、水酸基価46.6mg KOH/g (JIS K 1557)、水酸基含有量0.83mol/kg (JIS K 1557)、ヨウ素価398g/100g (JIS K 0070)、粘度5Pa・S/30℃(JIS K 2283)」の記載からみて、「水酸基価」が「46.6mg KOH/g」であるから、本件発明1の「(B)ポリオール化合物」であって「水酸基価60mgKOH/g以下のポリブタジエンポリオール」に相当するといえる。
また、甲1発明Aの「直鎖状ポリオール「R-45HT」」は、「ポリウレタン樹脂組成物」全体の100部中に「6.24質量%」含有しているから、本件発明1の「(b1)水酸基価60mgKOH/g以下のポリブタジエンポリオール」の含有範囲である「5?15質量%」の範囲で含有しているといえる。

甲1発明Aの「ギブサイト型水酸化アルミニウム「B-103」」は、本件明細書の(本d)の段落【0072】?【0074】の記載からみて、本件発明1の「(C)無機充填材」に相当する。

甲1発明Aの「フタル酸エステル系可塑剤「DINP」」は、「(D)可塑剤」であって「一般式(1)・・・で表されるエステル化合物を含ま」ないものであり、「(d1)アジピン酸系可塑剤及び/又は(d2)フタル酸系可塑剤を含」むものに相当する。
(「DINP」は、「フタル酸ジイソノニル」である。(甲1h)の段落【0047】及び本件明細書の(本e)の段落【0085】を参照。)

そうすると、本件発明1と甲1発明Aとは、
「(A)ポリイソシアネート化合物、(B)ポリオール化合物、(C)無機充填材及び(D)可塑剤を含有するポリウレタン樹脂組成物であって、
前記(B)ポリオール化合物が、(b1)水酸基価60mgKOH/g以下のポリブタジエンポリオールを含み、
前記(D)可塑剤が、一般式(1):
【化1】


(式中、R^(1)及びR^(2)はそれぞれ独立に炭素原子数6?12のアルキル基を表し、Xは炭素原子数3?8のアルキレン基を表す。また、a及びbはそれぞれ独立に2?10の整数を表し、aとbの合計は4?20である。)で表されるエステル化合物を含まず、
前記(D)可塑剤が、(d1)アジピン酸系可塑剤及び/又は(d2)フタル酸系可塑剤を含み、
前記ポリウレタン樹脂組成物100質量%に対して、前記(b1)水酸基価60mgKOH/g以下のポリブタジエンポリオールが5?15質量%含有する
ポリウレタン樹脂組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:「(A)ポリイソシアネート化合物」について、本件発明1では「脂肪族ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート体、脂肪族ポリイソシアネート化合物のアロファネート体、及び/又は、脂環式ポリイソシアネート」であるのに対し、甲1発明Aでは、「芳香族ポリイソシアネート」である「MDI系イソシアネート「ミリオネートMTL」」である点。

相違点2:「ポリウレタン樹脂組成物100質量%」に対する「(C)無機充填材」の含量について、本件発明1では、「50?69質量%」であるのに対し、甲1発明Aでは「80質量%」である点。

相違点3:「ポリウレタン樹脂組成物100質量%」に対する「(D)可塑剤」の含量について、本件発明1では、「17.7?30質量%」であるのに対し、甲1発明Aでは「13質量%」である点。

相違点4:「ポリウレタン樹脂組成物」について、本件発明1では、「-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下である」のに対し、甲1発明Aでは、「-40℃の弾性率(10Hz)」が不明である点。

(イ)判断
事案に鑑みて、上記相違点2、4について併せて検討する。

本件発明は、本件明細書の(本a)の段落【0006】の記載からみて、「相溶性、作業性に優れ、かつ冷熱サイクル特性に優れたポリウレタン樹脂を提供すること」を課題とするものであり、段落【0010】?【0011】の記載からみて、「本発明は、相溶性、作業性に優れ、かつ冷熱サイクル特性に優れたポリウレタン樹脂組成物及び封止材を提供できる」、「具体的に、本発明のポリウレタン樹脂組成物及び封止材は、冷熱サイクル特性として、弾性率の温度依存性が低減でき(120℃?-40℃)、優れた伸び率(柔軟性)を示し、かつ熱劣化(耐熱後)による硬度、伸び率(柔軟性)及び弾性率の変化を抑制することができる」との効果を奏するものである。
本件発明の効果について、(本i)の実施例では、本件発明1の具体的な態様である実施例1?6について、段落【0134】?【0147】に記載された試験を行い、本件発明の上記効果を奏することを確認するとともに、本件発明の上記課題を解決することを確認している。そして、段落【0145】?【0146】の記載、【0148】の【表1】をみると、「120℃の弾性率(MPa)」は実施例1?11,比較例1?6のいずれも低い値であるから、「-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下である」ことは「弾性率変化(MPa)」を小さくするものであり、「弾性率変化(MPa)=[-40℃の弾性率(MPa)]-[120℃の弾性率(MPa)]」の式において「-40℃?120℃の弾性率変化が、30MPa以下」を合格値とする「ヒートサイクル性(冷熱サイクル特性)」に優れるものとすることであるといえる。
また、上記「(1)取消理由Aについて」で検討したとおり、本件明細書の記載によると、「-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下」の範囲を満たすためには、「(C)無機充填材」の含有量が「50?69質量%」の範囲であることが重要であることを理解できる。
そうすると、甲1発明Aの「ポリウレタン樹脂組成物」は、「(C)無機充填材」の含量が「80質量%」であることから、「-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下」であるとはいえず、令和2年12月1日付け意見書(特許権者)に記載された実験結果も、このことを裏付けたものといえる。
したがって、甲1発明Aの「ポリウレタン樹脂組成物」は、「(C)無機充填材」である「ギブサイト型水酸化アルミニウム「Bー103」」の含量が「80質量%」であり、「-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下」であるとはいえないから、本件発明1と甲1発明Aとは相違点2及び相違点4で異なり、相違点2及び相違点4は実質的な相違点である。

次に、相違点2、4について、当業者が容易に想到し得たか否かについて検討する。
甲第1号証の(甲1b)の段落【0009】には「本発明は、封止性、絶縁性、難燃性に優れ、且つ、封止作業性優れたポリウレタン樹脂組成物を提供することを目的とする」ことが記載され、(甲1f)の段落【0040】には「ギブサイト型水酸化アルミニウムの」の含量について「ポリウレタン樹脂組成物を100質量%として、50?85質量%が好ましく、55?80質量%がより好ましく、55?70質量%が更に好ましい。ギブサイト型水酸化アルミニウムの含有量が少な過ぎると難燃性を発揮できないおそれがあり、多過ぎるとゾル状態を維持できず、封止作業性を損なうおそれがある」こと、すなわち、難燃性と封止作業性のために、「ギブサイト型水酸化アルミニウム」の含量を変更可能なことが記載されている。
しかしながら、甲第1号証には、「-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下」や「ヒートサイクル性(冷熱サイクル特性)」に関する文言は、全く記載されていないから、甲1発明Aの含量を「50?69質量%」に処方変更した場合に、偶々「-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下」に至ることがあったとしても、相違点2及び相違点4で挙げた、本件発明1の発明特定事項を、当業者が容易に想到し得たことにはならないし、本件発明が奏する、ヒートサイクル性(冷熱サイクル特性)に優れるポリウレタン樹脂組成物が得られるという効果も、甲第1号証の記載から、当業者が容易に予測できたものとは認められない。

甲第2号証の(甲2b)には、「本発明の主な目的は、低粘度で注型性に優れ、かつ耐冷熱サイクル性、電気絶縁性、難燃性に優れた電気絶縁用二液型ポッティング剤を提供すること」と「耐冷熱サイクル性」に優れた「電気絶縁用二液型ポッティング剤」を提供することが記載され、(甲2c)には、実施例1として「1,4-ポリブタジエンジオール(商品名R-45HT、ARCOケミカル社製、分子量2800)」、「水酸化アルミニウム(商品名ハイジライトH-32I、昭和金属工業社製)」を「A液」中に「1,4-ポリブタジエンジオール」100部に対して25部含む組成物が記載され、「冷熱サイクルテスト」の結果が示されているものの、(甲2d)によると「水酸化アルミニウム」は「難燃剤」として「10?100重量部、好ましくは20?70重量部」配合されるものである。また、「冷熱サイクルテスト」の内容も「100℃で1時間、-30℃で1時間の冷熱サイクルテスト」となっており、本件明細書の実施例に記載されたテストとは、実験条件や評価基準が異なっている。
そうすると、甲第2号証には、甲1発明Aにおいて、「(C)無機充填材」の含量を「50?69質量%」とすること、さらに、「-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下」とすることを動機づける記載があるとはいえないし、また、これらの発明特定事項を採用することで本件発明の上記「ヒートサイクル性(冷熱サイクル特性)」に優れるものとするという効果を奏することを、当業者に認識させるような記載が甲第2号証にあるともいえない。

甲第3号証の(甲3b)には「高圧コイル用の注型樹脂組成物としては、・・・。更に、環境温度および動作時の発熱等により高温あるいは低温になった場合樹脂自体が応力に耐え、クラック等の発生あるいはコイルケース類との接着不良を防止して本来のコイルとしての性能を低下させないものである必要がある」ことが記載され、(甲3e)の実施例1には、「1,4-ポリブタジエンポリオール(ARCO社製R-45HT、分子量2800)」と「水和アルミナ(昭和電工社製ハイジライトH-32)」を70重量部含む組成物が記載されているものの、(甲3c)によれば「水和アルミナ」は「難燃剤」として配合されるものであり、また、(甲3e)の実施例において「環境温度および動作時の発熱等により高温あるいは低温になった場合樹脂自体が応力に耐え、クラック等の発生あるいはコイルケース類との接着不良を防止」することを確認する試験は示されていない。
そうすると、甲第3号証にも、甲1発明Aにおいて、「(C)無機充填材」の含量を「50?69質量%」とすること、さらに、「-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下」とすることを動機づける記載があるとはいえないし、また、本件発明の上記「ヒートサイクル性(冷熱サイクル特性)」に優れるものとするという効果を当業者が予測可能なものとする記載があるともいえない。

以上のとおり、甲1発明Aにおいて、甲第1?3号証に記載された技術的事項を参酌しても、「-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下」とすること、「(C)無機充填材」の含量を「50?69質量%」とすることは容易に想到し得たということはできない。また、甲第1号証及び甲第2?3号証の記載から、本件発明の上記「ヒートサイクル性(冷熱サイクル特性)」に優れたものになるという効果を予測できたということはできない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証及び甲第1?3号証に記載された技術的事項から、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(ウ)申立人の主張について
令和3年2月10日付け意見書において、申立人は、本件発明1と甲1発明Aとを対比し、上記「(ア)対比」で検討したものと同じ相違点1?4を認定するとともに、「甲1発明Aにおいて、相違点1に係るポリイソシアネート化合物を訂正発明1に記載のものに置換し、相違点2及び3に係る無機充填材及び可塑剤の含有量を訂正発明1の範囲内に調整することは、当業者が容易に想到し、また適宜になし得たことであり、また、そのようにして置換及び調整した甲1発明Aは、取消理由A(実施可能要件)に対する特許権者の主張より相違点4に係る「-40℃の弾性率(10Hz)」を満たすので、結局のところ、訂正発明1は甲1発明Aに基づいて当業者が容易に発明することができたものであります」、「なお、冷熱サイクル特性との効果については、特許異議申立書で述べたとおり、従来知られていた効果にすぎず、当業者が予測し得ない格別な効果とはいえません。すなわち、甲1発明A は、電気電子部品の信頼性を高めるための封止材等として用いられるポリウレタン樹脂組成物に関するものであるところ (【0002】、【0003】参照)、様々な外部環境で使用され得る電気電子部品において冷熱サイクル性を向上することは周知の課題です(例えば、甲第2号証の1頁左欄19行?右欄11行、第2頁左上欄12?15行。甲第3号証の1頁右欄6?11行、2頁左上欄7行?右上欄4行参照)。ここで、甲第1号証には、電気電子部品の信頼性を向上させるために外部環境影響を抑制することが記載されているため(【0003】参照)、甲1発明Aにおいて、外部環境影響の一つである冷熱サイクル性を向上することは自明な課題であります。・・・また、水酸基価60mgKOH/g以下のポリブタジェンポリオールを用いることで冷熱サイクル性が改善されることは、甲第2号証、甲第3号証に記載されているように従来知られていた以上、訂正発明1による効果は、甲1発明A、甲第2号証または甲第3号証の記載事項から予測し得る範囲のものであり、格別顕著な効果であるとはいえません」と主張している。

しかしながら、上記(イ)で検討したとおり、甲第1?3号証に記載された技術的事項を参酌しても、「-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下」とすること、「(C)無機充填材」の含量を「50?69質量%」とすることは当業者が容易に想到し得たということはできない。
また、本件発明の効果の1つである「ヒートサイクル性(冷熱サイクル特性)」は「弾性率変化(MPa)=[-40℃の弾性率(MPa)]-[120℃の弾性率(MPa)]」の式において「-40℃?120℃の弾性率変化が、30MPa以下」を合格値とするものであるところ、甲第1号証には「ヒートサイクル性(冷熱サイクル特性)」について記載されておらず、甲第2号証の「ヒートサイクル性(冷熱サイクル特性)」は「100℃で1時間、-30℃で1時間の冷熱サイクルテスト」によるもので、本件明細書の実施例に記載されたテストとは実験条件や評価基準が異なり、甲第3号証には「ヒートサイクル性(冷熱サイクル特性)」の具体的な評価は行われていないから、甲第1?3号証の記載から、本件発明の上記「ヒートサイクル性(冷熱サイクル特性)」に優れたものになるという効果を当業者が予測できたということはできない。

(エ)小括
以上のとおり、上記相違点1、3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1号証に記載された発明ではなく、また、甲1号証に記載された発明及び甲第1?3号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

ウ 本件発明2?7、9?13について
本件発明2?7、9?13は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明2?7、9?13は、上記イ(イ)で示した理由と同じ理由により、甲1号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第3号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ まとめ
以上のとおり、取消理由B及び取消理由Cによっては、本件発明1?7、9?13に係る特許を取り消すことはできない。

3 異議申立理由について
上記「第4 2」で示した申立人がした申立理由1?2は、上記2(2)で示した取消理由B?Cと同旨であるので、上記2(2)で示した理由と同様の理由により、本件発明1?7、9?13に係る特許を取り消すことはできない。


第7 むすび
特許第6628918号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-13〕について訂正することを認める。
請求項8に係る特許に対する申立は、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により却下する。
当審が通知した取消理由および申立人がした申立理由によっては、本件訂正後の請求項1?7、9?13に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件訂正後の請求項1?7、9?13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリイソシアネート化合物、(B)ポリオール化合物、(C)無機充填材及び(D)可塑剤を含有するポリウレタン樹脂組成物であって、
前記(A)ポリイソシアネート化合物が、脂肪族ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート体、脂肪族ポリイソシアネート化合物のアロファネート体、及び/又は、脂環式ポリイソシアネートであり、
前記(B)ポリオール化合物が、(b1)水酸基価60mgKOH/g以下のポリブタジエンポリオールを含み、
前記(D)可塑剤が、一般式(1):
【化1】

(式中、R^(1)及びR^(2)はそれぞれ独立に炭素原子数6?12のアルキル基を表し、Xは炭素原子数3?8のアルキレン基を表す。また、a及びbはそれぞれ独立に2?10の整数を表し、aとbの合計は4?20である。)で表されるエステル化合物を含まず、
前記(D)可塑剤が、(d1)アジピン酸系可塑剤及び/又は(d2)フタル酸系可塑剤を含み、
前記ポリウレタン樹脂組成物100質量%に対して、前記(b1)水酸基価60mgKOH/g以下のポリブタジエンポリオールが5?15質量%、(C)無機充填材が50?69質量%、(D)可塑剤が17.7?30質量%含有し、
-40℃の弾性率(10Hz)が40MPa以下である、ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項2】
前記(b1)ポリブタジエンポリオールの数平均分子量(Mn)が、100?5000の範囲である、請求項1に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項3】
前記(b1)ポリブタジエンポリオールの粘度(30℃)が、0.01?100Pa・sの範囲である、請求項1又は2に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、(E)架橋剤を含有する、請求項1?3の何れか一項に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項5】
前記(E)架橋剤が、(E1)芳香族アルコール系架橋剤及び/又は(E2)脂肪族アルコール系架橋剤である、請求項4に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項6】
前記(E)架橋剤が、(E1)芳香族アルコール系架橋剤である、請求項4又は5に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項7】
前記(E)架橋剤が、数平均分子量400以下の架橋剤である、請求項4?6の何れか一項に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
前記(D)可塑剤が、(d1)アジピン酸系可塑剤である、請求項1?7の何れか一項に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項10】
前記(D)可塑剤が、ポリウレタン樹脂組成物100質量%に対して、17.7?29質量%含有する、請求項1?7及び9の何れか一項に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項11】
電気電子部品封止用であることを特徴とする請求項1?7及び9?10の何れか一項に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1?7及び9?11の何れか一項に記載のポリウレタン樹脂組成物からなる封止材。
【請求項13】
請求項12に記載の封止材を用いて樹脂封止された電気電子部品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-08-12 
出願番号 特願2019-45661(P2019-45661)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 113- YAA (C08L)
P 1 651・ 536- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 今井 督  
特許庁審判長 近野 光知
特許庁審判官 杉江 渉
福井 悟
登録日 2019-12-13 
登録番号 特許第6628918号(P6628918)
権利者 サンユレック株式会社
発明の名称 ポリウレタン樹脂組成物  
代理人 福島 芳隆  
代理人 福島 芳隆  
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