ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 一部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 C01G 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C01G 審判 一部申し立て 2項進歩性 C01G 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 C01G |
---|---|
管理番号 | 1378740 |
異議申立番号 | 異議2021-700075 |
総通号数 | 263 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-11-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-01-21 |
確定日 | 2021-09-03 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6728716号発明「被覆ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6728716号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項7について訂正することを認める。 特許第6728716号の請求項7に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6728716号に係る出願は、平成28年 1月28日を出願日とする出願であって、令和 2年 7月 6日にその請求項1?7に係る発明について特許権の設定登録がされ、同年同月22日に特許掲載公報が発行され、その後、請求項7に係る特許に対して、令和 3年 1月21日に特許異議申立人小島 早奈実(以下、「申立人」という。)により甲第1?13号証を証拠方法として特許異議の申立てがされ、同年 3月30日付で当審より取消理由が通知され、その指定期間内である同年 6月 3日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされたので、特許法第120条の5第5項の規定に従って、申立人に期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人からは応答がなかったものである。 第2 本件訂正請求による訂正の適否 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項1からなるものである(当審注:下線は訂正箇所であり、当審が付与した。)。 ・訂正事項1 本件訂正前の請求項7に 「ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子の表面に、炭化水素系の脂肪族化合物又は炭化水素系の脂環式化合物を含む重合体又は共重合体が被覆されているリチウムイオン電池正極活物質用の被覆ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子。」 と記載されているのを、 「ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子の表面に、炭素数が8以下の炭化水素系の脂肪族化合物又は炭素数が8以下の炭化水素系の脂環式化合物のラジカル重合体又はラジカル共重合体が気相下で被覆されているリチウムイオン電池正極活物質用の被覆ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子。」 に訂正する。 なお、訂正前の請求項7は独立請求項であり、また、これを引用する請求項もないので、本件訂正請求は、特許法第120条の5第3項の規定に従い、請求項ごとにされたものである。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1による訂正のうち、「炭化水素系の脂肪族化合物又は炭化水素系の脂環式化合物」を「炭素数が8以下の炭化水素系の脂肪族化合物又は炭素数が8以下の炭化水素系の脂環式化合物」とする訂正は、本件特許明細書の【0013】、【0025】、【0038】の記載に基づいて、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7の「炭化水素系の脂肪族化合物」及び「炭化水素系の脂環式化合物」を、「炭素数が8以下の炭化水素系の脂肪族化合物」及び「炭素数が8以下の炭化水素系の脂環式化合物」に限定するものである。 また、訂正事項1による訂正のうち、「重合体又は共重合体が被覆されている」を「ラジカル重合体又はラジカル共重合体が気相下で被覆されている」とする訂正は、本件特許明細書の【0013】、【0059】の記載に基づいて、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7の「ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子の表面」の「被覆」を、「ラジカル重合体又はラジカル共重合体が気相下で被覆」されたものに限定するものである。 したがって、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、この訂正は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 なお、本件訂正に係る請求項7は、特許異議の申立てがされた請求項であるので、訂正後の請求項7に係る発明については、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項所定の独立特許要件は課されない。 3 小括 以上のとおりであるので、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、特許法120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 したがって、訂正後の請求項7について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 本件訂正が認められることは前記第2に記載のとおりであるので、本件特許の請求項1?7に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明7」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるものであるが、このうち本件発明7は、以下のとおりのものである。 「【請求項7】 ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子の表面に、炭素数が8以下の炭化水素系の脂肪族化合物又は炭素数が8以下の炭化水素系の脂環式化合物のラジカル重合体又はラジカル共重合体が気相下で被覆されているリチウムイオン電池正極活物質用の被覆ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子。」 第4 取消理由の概要 1 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について (1)「被覆ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子」の被覆方法について 本件訂正前の請求項7に係る「被覆ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子」の発明は、本件発明1(本件訂正前後において変更はない。)に係る「被覆ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子の製造方法」にのっとって被覆膜を形成することにより、被覆膜が非常に強固で安全性も高くなり、大気安定性に優れたものとなって、発明の課題を解決できるものと認められるが、本件訂正前の請求項7に係る発明においては、「被覆ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子」が、本件発明1に係る「被覆ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子の製造方法」にのっとって製造されたものである旨特定されていないから、本件訂正前の請求項7に係る発明は、発明の課題を解決できないものも包含するので、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。 (2)「炭化水素系の脂肪族化合物又は炭化水素系の脂環式化合物」について 本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件訂正前の請求項7に係る発明は、炭素数が8以下の有機化合物を被覆材料とすることで発明の課題を解決できるものであり、それ以外の有機化合物を被覆材料とした場合、当該課題を解決できることを認識できないというべきところ、本件訂正前の請求項7に係る発明は、被覆材料すなわち「炭化水素系の脂肪族化合物又は炭化水素系の脂環式化合物」につき炭素数が8以下の有機化合物であることを特定するものではないから、当該課題を解決できないものも包含するので、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。 2 特許法第29条第1項(新規性)、第2項(進歩性)について 本件訂正前の請求項7に係る発明は、以下に示す甲第1号証?甲第13号証に記載された発明であるか、甲第1号証?甲第13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、その特許は、特許法第29条第1項ないし第2項の規定に違反してされたものである。 ・甲各号証 甲第1号証:特開2002-237301号公報 甲第2号証:国際公開第2002/091514号 甲第3号証:特表2011-511402号公報 甲第4号証:国際公開第2010/090029号 甲第5号証:特開2013-012410号公報 甲第6号証:特開2002-373643号公報 甲第7号証:特開2003-223896号公報 甲第8号証:特開2012-134125号公報 甲第9号証:国際公開第2012/165422号 甲第10号証:特開2007-242356号公報 甲第11号証:特開2010-61864号公報 甲第12号証:特開2010-129494号公報 甲第13号証:特開2010-157512号公報 なお、前記取消理由は、本件特許異議の申立てに係る特許異議申立理由と同旨である。すなわち、特許法第36条第6項第1号についての特許異議申立理由は、前記1(1)及び(2)において採用され、特許法第29条第1項第3号及び第2項についての特許異議申立理由は、前記2において採用されているので、特許異議申立理由は全て、前記取消理由として採用されている。 第5 取消理由についての当審の判断 1 特許法第36条第6項第1号について 以下、前記第4の1(1)の「被覆ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子」の被覆方法について及び同(2)の「炭化水素系の脂肪族化合物又は炭化水素系の脂環式化合物」についての検討をまとめて行うこととする。 ア まず、本件特許明細書をみると、そこには以下(a)?(b)の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「…」は記載の省略を表す。)。 (a)「【0001】 本発明は、ニッケル含有量の高い被覆ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子に関し、大気雰囲気下の安定性を向上させた取り扱いしやすい被覆ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子及びその製造方法に関するものである。 【背景技術】 … 【0005】 しかしながら、ニッケル系は、水や二酸化炭素等に対する反応性の高さからコバルト系や三元系と比べ環境により敏感であり、空気中の水分や二酸化炭素(CO_(2))をより吸収しやすい特徴がある。… … 【0007】 したがって、ニッケル系を正極活物質として用いる場合、上述した水酸化リチウム(LiOH)等の不純物の発生を防ぐため、その正極製造工程を脱炭酸雰囲気下におけるドライ(低湿度)環境下で行う必要がある。… 【0008】 このような問題を解決するために、リチウム-ニッケル複合酸化物粒子表面上にコーティング剤を用いることにより被覆する方法が提案されている。… … 【0010】 しかしながら、これらのコーティング方法に用いられる上記のフッ素系材料を含有するコーティング層は、静電引力のみによってリチウム-ニッケル複合酸化物粒子に付着しているに過ぎない。そのため、スラリー製造工程で溶剤として用いるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に再溶解してしまい、コーティング層がリチウム-ニッケル複合酸化物粒子から脱離しやすい。その結果、脱炭酸雰囲気下におけるドライ(低湿度)環境下で正極を保管しなければならず、ニッケル系において問題とされている不良や欠陥、歩留まりの低下を十分に抑制することができないばかりか、実質的に不純物の発生による電池の安定性の問題を十分に解決することができるものとはなっていなかった。 … 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0012】 本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、大気雰囲気下で取り扱うことができ、且つ電池特性に悪影響がないリチウムイオン伝導体の被膜を得ることのできる、被覆ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子及びその製造方法の提供を目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0013】 本発明は、上述した従来技術における問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、炭素数が8以下の有機化合物をラジカル化することでラジカル化有機化合物を得る工程と、重合体又は共重合体の有機化合物をニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子の表面上に被覆する被覆工程と、を含む製造方法により製造された被覆ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子であれば、大気安定性が向上し、且つ正極活物質としての電池特性に悪影響は与えることはないことを見出し、本発明を完成するに至った。」 (b)「【0025】 <被覆膜> 本発明に関する被覆膜は、炭素数が8以下の有機化合物を被覆材料として、所定条件の大気圧プラズマ重合処理によって、リチウム-ニッケル複合酸化物粒子の表面上に形成される被覆膜である。本発明に関する被覆膜は、良好なリチウムイオン伝導性を有する。…又、本発明に関する被覆膜は、後述するように所定条件の大気圧プラズマ重合処理によって共重合体を形成することにより被覆されるため、薄膜であるにもかかわらず、非常に強固で安全性も高い。そして、当該重合体又は共重合体からなる被覆膜がニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子のコーティング層として働くことにより、被覆ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子は大気安定性に優れる。…」 イ 前記ア(a)、(b)によれば、本件発明は、ニッケル含有量の高い「被覆ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子」に関し、大気雰囲気下の安定性を向上させた取り扱いしやすい「被覆ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子」及びその製造方法に関するものであって(【0001】)、ニッケル系は、水や二酸化炭素等に対する反応性の高さから環境により敏感であり、空気中の水分や二酸化炭素(CO_(2))をより吸収しやすい特徴があることから(【0005】)、従来、リチウム-ニッケル複合酸化物粒子表面上にコーティング剤を用いることにより被覆する方法が提案されているが(【0008】)、そのようなコーティング方法に用いられるフッ素系材料を含有するコーティング層は、スラリー製造工程で溶剤として用いるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に再溶解してしまい、コーティング層がリチウム-ニッケル複合酸化物粒子から脱離しやすく、その結果、脱炭酸雰囲気下におけるドライ(低湿度)環境下で正極を保管しなければならず、ニッケル系において問題とされている不良や欠陥、歩留まりの低下を十分に抑制することができないばかりか、実質的に不純物の発生による電池の安定性の問題を十分に解決することができるものとはなっていなかった(【0010】)、という課題(以下、「本件課題」という。)を解決するものである。 そして、本件発明は、本件課題を解決するために、炭素数が8以下の有機化合物をラジカル化することでラジカル化有機化合物を得る工程と、重合体又は共重合体の有機化合物をニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子の表面上に被覆する被覆工程と、を含む製造方法により製造された「被覆ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子」であれば、大気安定性が向上し、且つ正極活物質としての電池特性に悪影響は与えることはないことを見出して、完成するに至ったものである(【0013】、【0025】)。 ウ そして、炭素数が8以下の有機化合物をラジカル化することでラジカル化有機化合物を得る工程と、重合体又は共重合体の有機化合物をニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子の表面上に被覆する被覆工程と、を含む製造方法により製造された「被覆ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子」は、本件発明7の「炭素数が8以下の炭化水素系の脂肪族化合物又は炭素数が8以下の炭化水素系の脂環式化合物のラジカル重合体又はラジカル共重合体が気相下で被覆され」た「被覆ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子」にほかならないから、本件発明7の発明特定事項により、「被覆ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子」の被覆膜が非常に強固で安全性も高くなり、大気安定性に優れたものとなって、本件課題を解決できるものと認められる。 したがって、本件発明7は本件課題を解決できるものであり、発明の詳細な説明に記載された発明というべきであるので、前記第4の1(1)及び(2)の取消理由はいずれも理由がない。 2 特許法第29条第1項第3号及び第2項について (1)甲各号証に記載された発明 ア 甲第1号証の特許請求の範囲の請求項1?2、【0023】?【0034】によれば、甲第1号証には、 「非水電解質二次電池の正極活物質であって、 正極活物質が導電性高分子により被覆されており、 前記正極活物質としては、層状構造のリチウムニッケルコバルトアルミ含有複合酸化物、リチウムマンガンアルミ含有複合酸化物またはリチウムマンガンクロム含有複合酸化物を含むことが好ましいものであり、 導電性高分子としては、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリパラフェニレン、ポリアセン、ポリアズレン、ポリフェニレンビニレン等が例示できる、非水電解質二次電池の正極活物質。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 イ 甲第2号証の15頁15行?16頁27行によれば、甲第2号証には、 「10gのP(VdF/HFP)を990gのNMPに溶解した溶液 (P(VdF/HFP)溶液)を製作し、ここで、このP(VdF/HFP)のVdFとHFPとのモル比はVdF:HFP=95:5であり、 つぎに、正極活物質である800gのニッケル酸リチウム(LiNi_(0.85)Co_(0.15)O_(2))と 400gのP(VdF/HFP)溶液とを混合し、その後、それらを0.0001MPaの減圧下で混合することによって、活物質粒子の間にポリマー溶液を保持させ、 つぎに、吸引濾過によって、余分なポリマー溶液をその混合物から除去し、その後、P(VdF/HFP)溶液を備えたニッケル酸リチウムをエチルアルコールに浸漬してから、100℃で乾燥をおこなって製作した、有孔性ポリマー電解質を備えたニッケル酸リチウム。」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。 ウ 甲第3号証の【0019】?【0021】によれば、甲第3号証には、 「正極材料LiNiO_(2)(ニッケル酸リチウム)100gを、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)1g(すなわち1重量%)と180℃の温度で1時間混合し、この混合は、試験用の回転混合機を用いて行われ、この回転混合機は、高温で動作させることにより、正極材料の表面において、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)のより均一に分布したコーティングを得られる、コーティングされた正極材料。」の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。 エ 甲第4号証の[0071]、[0083]、[0085]の、特に実施例1に注目すると、甲第4号証には、 「LiNi_(0.82)Co_(0.15)Al_(0.03)O_(2)の粒子表面に対するポリフッ化ビニリデン(PVDF)の被覆率が42%の、正極活物質。」の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されているといえる。 オ 甲第5号証の特許請求の範囲の請求項1、5、7、【0008】?【0013】によれば、甲第5号証には、 「非水溶媒に溶解するポリマーによって、正極活物質の表面が全面被覆されている非水電解質二次電池用正極材料であって、 前記正極活物質が、ニッケルコバルトマンガン複合リチウム化合物、ニッケルマンガン複合リチウム化合物、ニッケルコバルト複合リチウム化合物及びニッケルコバルトアルミニウム複合リチウム化合物からなる群から選択された少なくとも1種のリチウム化合物であり、前記ニッケルが、リチウム以外の金属成分のうち30mol%以上含有し、 前記非水溶媒に溶解するポリマーが、ポリイミド、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアクリロニトリル、炭化ポリアクリロニトリル、ポリ-p-フェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリキノリン、ポリキノキサリン、ポリフタロシアニンシロキサン、ポリビニリデンフルオライド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチルメタアクリレート、ポリメチルメタアクリレート、ポリアミド、ビニルエーテルコポリマー、ポリビニルピリジン、ポリフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、セルロース、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキサイド及びポリエチレングリコールからなる群から選択された少なくとも1種である、非水電解質二次電池用正極材料。」の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されているといえる。 カ 甲第6号証の特許請求の範囲の請求項1、【0018】、【0024】によれば、甲第6号証には、 「正極活物質の粒子の表面が、リチウムイオン伝導性ポリマーにより部分的に被覆されたリチウム二次電池の正極活物質であって、 リチウムイオン伝導性ポリマーとしては、ポリエチレンオキサイドなどのポリエーテル系樹脂、ポリエステルテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、アクリロニトリルと酢酸ビニル共重合体などのアクリロニトリル系樹脂、およびポリフッ化ビニリデン樹脂よりなる群から選ばれた少なくとも一つの樹脂に、LiBF_(4)、LiPF_(6)、Li(CF_(3)SO_(2))_(2)N、およびLiClO_(4)などのリチウム塩を含ませた固体状のポリマーを用いることができ、 正極活物質としては、LiCoO_(2)、LiNiO_(2)、LiMn_(2)O_(4)、LiCo_(X)Ni_(1-X)O_(2)(0<x<1)、LiAl_(X)Ni_(1-X)O_(2)(0<x<1)、LiMn_(X)Ni_(1-X)O_(2)(0<x<1)、LiNi_(X)Mn_(2-X)O_(4)(0<x<1)、LiCo_(X)Mn_(2-X)O_(4)(0<x<1)、Li_(1+X)Mn_(2-X)O_(4)(0<x<1)、V_(2)O_(5)、P_(2)O_(5)、NiOOHなどの金属酸化物などを用いることができる、リチウム二次電池の正極活物質。」の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されているといえる。 キ 甲第7号証の特許請求の範囲の請求項1、【0013】?【0018】、【0025】?【0026】によれば、甲第7号証には、 「非水電解液二次電池の正極における、樹脂からなる保護膜で被覆された活物質であって、 保護膜を構成する材料としては、アクリル酸メチル等のビニル重合可能な単量体の1種以上から付加重合により合成される樹脂が使用でき、また、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等のアルキレンオキシド重合体も使用でき、 正極活物質であるリチウム含有複合酸化物としては、LiCoO_(2)、LiNiO_(2)、LiNiyCo_((1-y))O_(2)(ここで、0<y<1)を挙げることができる、樹脂からなる保護膜で被覆された活物質。」の発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されているといえる。 ク 甲第8号証の特許請求の範囲の請求項1、3、8、9、11、【0011】?【0021】によれば、甲第8号証には、 「粒径が0.1?50μmの材料本体と、前記材料本体の表面に塗布され、多孔構造および導電性を有する複合膜と、を含む正極材料構造であって、 前記複合膜が、少なくとも1つのハイパーブランチオリゴマー/ポリマーと、前記少なくとも1つのハイパーブランチオリゴマー/ポリマーに混合された少なくとも1つのナノメートル導電材料と、を含み、前記ハイパーブランチオリゴマー/ポリマーが、その骨格内に窒素原子を含み、ジケトン化合物をアミン化合物、アミド化合物、イミド化合物およびマレイミド化合物から成る群から選ばれた少なくとも1つの化合物と重合させるプロセスで得られるものであり、 前記材料本体が、Li-M-O系の材料およびLi-N-X-O系の材料から成る群から選ばれた少なくとも1つの材料を含み、Mが、Ni、Co、Mn、Mg、Ti、Al、Sn、Cr、VおよびMoから成る群から選ばれ、Nが、Fe、Ni、Co、Mn、VおよびMoから成る群から選ばれ、Xが、PおよびSiから成る群から選ばれたものである、正極材料構造。」の発明(以下、「甲8発明」という。)が記載されているといえる。 ケ 甲第9号証の特許請求の範囲の請求項1、[0021]?[0023]、[0040]によれば、甲第9号証には、 「リチウム二次電池用正極の被覆活物質粒子であって、 前記被覆活物質粒子が、ニッケルを含有する正極活物質の粒子と、前記正極活物質の粒子の表面を被覆するSP値が8(cal/cm^(3))^(1/2)?13(cal/cm^(3))^(1/2)のポリマーの層とを有し、 正極活物質として好適な複合酸化物は、 LiNi_(1-x)Mn_(x)O_(2) ただし、前記式において、xは0≦x≦1を満たす数を表す。 が挙げられ、 好適な被覆ポリマーは、水系のアクリル重合体が挙げられるものであり、ここで水系とは、水に分散可能であることを意味し、また、前記のアクリル重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を有する重合体を意味する、リチウム二次電池用正極の被覆活物質粒子。」の発明(以下、「甲9発明」という。)が記載されているといえる。 コ 甲第10号証の【0032】、【0045】?【0046】、【0056】によれば、甲第10号証には、 「複合酸化物粒子の少なくとも一部に、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)およびマンガン(Mn)のうちの少なくとも一方の被覆元素とを含む酸化物よりなる被覆層が設けられ、被覆層は、複合酸化物粒子の少なくとも一部にニッケル(Ni)および/またはマンガン(Mn)を含む水酸化物よりなる層を形成し、水酸化物よりなる層の形成された複合酸化物粒子の少なくとも一部に有機高分子化合物を被着した後、加熱処理することにより形成された、正極活物質であって、 複合酸化物粒子は、化1で表された平均組成を有し、 (化1)Li_((1+x))Co_((1-y))M_(y)O_((2-z)) (化1中、Mはマグネシウム(Mg),アルミニウム(Al),ホウ素(B),チタン(Ti),バナジウム(V),クロム(Cr),マンガン(Mn),鉄(Fe),ニッケル(Ni),銅(Cu),亜鉛(Zn),モリブデン(Mo),スズ(Sn),カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr),タングステン(W),イットリウム(Y),ジルコニウム(Zr)よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上の元素からなる。x、y、zは、-0.10≦x≦0.10、0≦y<0.50、-0.10≦z≦0.20である。) 有機高分子化合物は、ポリアクリルアミドなどのビニル系重合体のホモポリマー、並びに、これらを構成する重合単位の任意複数、並びに、他の重合性不飽和基を有する単量体の共重合体を挙げることができる、正極活物質。」の発明(以下、「甲10発明」という。)が記載されているといえる。 サ 甲第11号証の特許請求の範囲の請求項1?2、【0019】?【0022】、【0033】?【0036】によれば、甲第11号証には、 「電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な正極材料を含む粒子と、 前記粒子の少なくとも一部に設けられ、飛行時間型二次イオン質量分析による正イオン分析で得られるC_(2)H_(5)S^(+)、C_(3)H_(7)S^(+)、またはC_(4)H_(9)S^(+)のピークを有する被膜と、を備える正極活物質であって、 前記被膜は、下式(1)で表わされる高分子化合物を用いて形成したものであり、 【化1】 [式(1)において、R1およびR2は水素基あるいは炭化水素基である。ただし、R1およびR2は結合して環状構造を形成してもよい。a1およびb1は1以上の整数である。] 正極材料は、下式(I)で表された平均組成を有するリチウム複合酸化物である、 Li_(p)Ni_((1-q-r))Mn_(q)M1_(r)O_((2-y))X_(z)・・・(式I) (式中、M1は、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)を除く2族?15族から選ばれる元素のうち少なくとも一種を示す。Xは、酸素(O)以外の16族元素および17族元素のうち少なくとも1種を示す。p、q、r、y、zは、0≦p≦1.5、0≦q≦1.0、0≦r≦1.0、-0.10≦y≦0.20、0≦z≦0.2の範囲内の値である。なお、リチウムの組成は充放電の状態によって異なり、pの値は完全放電状態における値を表している。) 正極活物質。」の発明(以下、「甲11発明」という。)が記載されているといえる。 シ 甲第12号証の【0020】?【0021】によれば、甲第12号証には、 「正極活物質の粒子がポリアミド樹脂によって被覆されている複合粒子であって、 正極活物質は、Liを含有するTi、Mo、W、Nb、V、Mn、Fe、Cr、Ni、Co等の遷移金属の複合酸化物や複合硫化物、バナジウム酸化物、共役系ポリマー等の有機導電性材料、シェブレル相化合物等が挙げられる、複合粒子。」の発明(以下、「甲12発明」という。)が記載されているといえる。 ス 甲第13号証の特許請求の範囲の請求項1?3、5?7、【0019】、【0050】?【0055】によれば、甲第13号証には、 「熱作動機能を有する窒素含有ポリマーで改質された正極材料粉末であって、 正極材料粉末は、LiMnO_(2)、LiMn_(2)O_(4)、LiCoO_(2)、Li_(2)Cr_(2)O_(7)、Li_(2)CrO_(4)、LiNiO_(2)、LiFeO_(2)、LiNi_(x)Co_(1-x)O_(2)(0<x<1)、LiMPO_(4)(Mは遷移金属)、LiMn_(0.5)Ni_(0.5)O_(2)、LiNi_(x)Co_(y)Mn_(z)O_(2)(x+y+z=1)、LiNi_(x)Co_(y)Al_(z)O_(2)(x+y+z=1)、LiMc_(0.5)Mn_(1.5)O_(4)(Mcは二価金属)、またはこれらの組合せであり、 熱作動機構を備える窒素含有ポリマーは、(A)アミン、アミド、イミド、マレイミドまたはイミンと(B)ジオン化合物とを反応させて得られるハイパーブランチポリマーである、熱作動機能を有する窒素含有ポリマーで改質された正極材料粉末。」の発明(以下、「甲13発明」という。)が記載されているといえる。 (2)対比・判断 ア 本件発明7と甲1発明?甲13発明とを対比すると、甲1発明?甲13発明のいずれの場合であっても、少なくとも以下の点で相違する。 ・相違点:本件発明1は、「ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子の表面に、炭素数が8以下の炭化水素系の脂肪族化合物又は炭素数が8以下の炭化水素系の脂環式化合物のラジカル重合体又はラジカル共重合体が気相下で被覆されている」、との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明?甲13発明は、いずれも前記発明特定事項を有しない点。 してみれば、本件発明7と甲1発明?甲13発明とは、いずれの場合であっても少なくとも前記相違点を有するから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明7が甲1発明?甲13発明のいずれかであるとはいえない。 イ また、甲第1号証?甲第13号証には、「リチウムイオン電池正極活物質用の被覆ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子」において、「ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子の表面に、炭素数が8以下の炭化水素系の脂肪族化合物又は炭素数が8以下の炭化水素系の脂環式化合物のラジカル重合体又はラジカル共重合体」を「気相下で被覆」することについては、何ら記載も示唆もされていないのであるから、甲1発明?甲13発明のいずれを主たる引用発明としても、その引用発明において前記アの相違点に係る本件発明7の発明特定事項を有するものとすることは、当業者が容易に想到し得る事項ではないというほかないので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明7は、甲1発明?甲13発明のいずれかに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (3)小括 したがって、本件発明7は、甲第1号証?甲第13号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1号証?甲第13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないので、前記第4の2の取消理由には理由がない。 第6 むすび 以上のとおり、請求項7に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。 また、他に請求項7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 大気圧下でプラズマ化された反応ガス中に、炭素数が8以下の有機化合物をキャリアガスとともに導入し、該有機化合物をラジカル化することでラジカル化有機化合物を得る有機化合物ラジカル化工程と、 前記ラジカル化有機化合物とニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子の表面とを接触させることにより、該ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子の表面に重合体又は共重合体の有機化合物を含む被覆膜を被覆する被覆工程と、を備える被覆ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子の製造方法。 【請求項2】 前記炭素数が8以下の有機化合物は、炭素数が4以下の脂肪族化合物及び脂環式化合物からなる群より選択される少なくとも1種以上からなる有機化合物である請求項1に記載の被覆ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子の製造方法。 【請求項3】 前記炭素数が8以下の有機化合物は、炭素数が5以上8以下の脂肪族化合物、脂環式化合物及び芳香族化合物からなる群より選択される少なくとも1種以上からなる有機化合物である請求項1に記載の被覆ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子の製造方法。 【請求項4】 前記反応ガスが、アルゴン、ヘリウム、窒素、酸素及び空気からなる群より選択される少なくとも1種類以上のガスを含む請求項1から3のいずれかに記載の被覆ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子の製造方法。 【請求項5】 前記キャリアガスが、アルゴン、ヘリウム、及び窒素からなる群より選択される少なくとも1種類以上のガスを含む請求項1から4のいずれかに記載の被覆ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子の製造方法。 【請求項6】 前記ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子が下記一般式(1)で表される請求項1から5のいずれかに記載の被覆ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子の製造方法。 Li_(x)Ni_((1-y-z))M_(y)N_(z)O_(2) ・・・(1) (式中、xは0.80?1.10、yは0.01?0.20、zは0.01?0.15、1-y-zは0.65を超える値であって、Mは、Co又はMnより選ばれた少なくとも一種の元素を示し、NはAl、In又はSnより選ばれた少なくとも一種の元素を示す。) 【請求項7】 ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子の表面に、炭素数が8以下の炭化水素系の脂肪族化合物又は炭素数が8以下の炭化水素系の脂環式化合物のラジカル重合体又はラジカル共重合体が気相下で被覆されているリチウムイオン電池正極活物質用の被覆ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2021-08-24 |
出願番号 | 特願2016-14551(P2016-14551) |
審決分類 |
P
1
652・
851-
YAA
(C01G)
P 1 652・ 113- YAA (C01G) P 1 652・ 121- YAA (C01G) P 1 652・ 537- YAA (C01G) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 廣野 知子 |
特許庁審判長 |
日比野 隆治 |
特許庁審判官 |
金 公彦 末松 佳記 |
登録日 | 2020-07-06 |
登録番号 | 特許第6728716号(P6728716) |
権利者 | 住友金属鉱山株式会社 |
発明の名称 | 被覆ニッケル系リチウム-ニッケル複合酸化物粒子の製造方法 |
代理人 | 正林 真之 |
代理人 | 林 一好 |
代理人 | 正林 真之 |
代理人 | 林 一好 |