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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01B
管理番号 1378748
異議申立番号 異議2021-700538  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-11-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-06-02 
確定日 2021-09-30 
異議申立件数
事件の表示 特許第6793282号発明「球状シリカ粉末」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6793282号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6793282号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?7に係る特許についての出願は、2020年(令和2年)1月30日(優先権主張平成31年3月26日、令和1年6月25日、いずれも日本国(JP))を国際出願日として出願され、令和2年11月11日にその特許権の設定登録がされ、同年12月2日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項に係る特許に対して、令和3年6月2日付けで、特許異議申立人 森山 涼子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明7」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
樹脂に配合してシート状に成形した後、共振器法にて周波数35?40GHzの条件で測定した該シートの誘電正接(tanδc)から、下記の式(I)を用いて算出される溶融球状シリカ粉末の誘電正接において、誘電正接低減処理前の比表面積が1?30m^(2)/gである溶融球状シリカ粉末の誘電正接(tanδfA)をA、誘電正接低減処理後の前記溶融球状シリカ粉末の誘電正接(tanδfB)をBとしたとき、B/Aが0.70以下であり、前記誘電正接低減処理が、原料の球状溶融シリカ粉末を500?1100℃の温度で、加熱温度(℃)×加熱時間(h)を1000?26400(℃・h)とする所定時間、加熱処理することを含み、前記誘電正接低減処理後の溶融球状シリカ粉末の比表面積が1?30m^(2)/gであることを特徴とする、誘電正接低減処理後の溶融球状シリカ粉末。
【数1】

ただし、式(I)において記号の意味は次の通り。
Vf;シート中の球状溶融シリカ粉末の体積分率
tanδr;樹脂シート(フィラー配合無し)の誘電正接
【請求項2】
平均円形度が0.85以上であることを特徴とする請求項1に記載の誘電正接低減処理後の溶融球状シリカ粉末。
【請求項3】
密度が1.8?2.4g/cm^(3)であることを特徴とする請求項1または2に記載の誘電正接低減処理後の溶融球状シリカ粉末。
【請求項4】
表面処理剤で表面処理されていることを特徴とする請求項1?3いずれか一項に記載の誘電正接低減処理後の溶融球状シリカ粉末。
【請求項5】
JIS Z 0208-1976の条件B(温度40℃-相対湿度90%)の透湿度が0.1(g/m^(2)・24h)以下の防湿袋で保存した請求項1?4のいずれか一項に記載の誘電正接低減処理後の溶融球状シリカ粉末。
【請求項6】
請求項1?5のいずれか一項に記載の誘電正接低減処理後の溶融球状シリカ粉末を含有してなることを特徴とする樹脂シート。
【請求項7】
請求項1?4のいずれか一項に記載の誘電正接低減処理後の溶融球状シリカ粉末をJIS Z 0208-1976の条件B(温度40℃-相対湿度90%)の透湿度が0.1(g/m^(2)・24h)以下の防湿袋で保存する保存方法。」

第3 特許異議申立理由の概要
申立人は、以下の甲第1?12号証を提出し、本件発明1?7に係る特許は、以下の理由により、取り消すべきものである旨を主張する。
1 特許法第29条第1項第3号(新規性欠如)及び同条第2項(進歩性欠如)について
本件発明1?7は、甲第1号、甲第2号証又は甲第7号証に記載された発明であるか、甲第11号証及び甲第12号証を組み合わせることにより、または、これらに周知技術・慣用技術を組み合わせることにより当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件違反)について
(1)本件発明1では、「前記誘電正接低減処理が、原料の球状溶融シリカ粉末を500?1100℃の温度で、加熱温度(℃)×加熱時間(h)を1000?26400(℃・h)とする所定時間、加熱処理することを含み」と特定しているのに対して、本件特許明細書の【0059】【表2】の実施例で効果が確認されているのは、加熱温度が600?1000℃の範囲で、加熱温度(℃)×加熱時間(h)が1000?12000(℃・h)の範囲である場合に過ぎず、かかる範囲を超えた場合において、誘電正接低減処理後のB/Aが0.70以下となるかは不明である。
さらに、加熱温度(℃)×加熱時間(h)とB/Aとの関係について、実施例とともに比較例のデータを勘案してみても、当該関係に明確な相関は認められず、本件発明1で加熱温度(℃)×加熱時間(h)が1000?26400(℃・h)の範囲に特定されていたとしても、B/Aが0.70以下とならない場合があるといえる。
したがって、発明の詳細な説明において具体的に効果が確認されている実施例から、本件発明1における加熱処理条件の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは認められない。
また、本件発明1を引用する本件発明2?7についても同様である。

(2)本件発明1では、誘電正接低減のための加熱処理後の工程について一切特定していないのに対して、本件特許明細書の【0022】には、「電気炉内にて自然放冷後、110℃?300℃の状態で球状シリカ粉末を回収し、さらに湿度40%RH以下の環境下にて25℃にまで冷却し、15?25℃にて保管し、防湿アルミ袋にて回収することにより製造する」ことが記載されており、実施例においても、誘電正接低減のための加熱処理後に同様の冷却、回収、保管工程を経た場合のみが記載されている。誘電正接低減のための加熱処理後に所定の冷却、回収、保管工程を経なければ、球状シリカの粒子の表面の吸着水及び極性官能基量が変化して、誘電正接の増加に影響し、それにより本件発明1で特定する「B/Aが0.70以下」を満たさない虞がある。
したがって、誘電正接低減のための加熱処理後の上記工程を経た場合に関する発明の詳細な説明の記載及び実施例から、誘電正接低減のための加熱処理後の上記工程を経ない場合を含む本件発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは認められない。
また、本件発明1を引用する本件発明2?7についても同様である。

(3)本件発明の課題は、本件特許明細書の【0010】に記載されたとおり、「誘電正接が低い球状シリカ粉末を提供すること」であると認められる。
そして、本件特許明細書の実施例及び比較例での誘電正接低減処理後の溶融球状シリカ粉末の誘電正接(tanδfB)を確認すると、実施例では6.9×10^(-4)?8.0×10^(-3)であるのに対して比較例では3.2×10^(-4)?2.7×10^(-3)であるところ、実施例は、比較例よりも、低い誘電正接が得られておらず、本件発明の上記課題を解決できるとはいえないので、本件発明1?7は本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できる範囲を超えているから、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。

3 各甲号証
甲第1号証:特開2011-219429号公報
甲第2号証:特開2018-145037号公報
甲第3号証:電材向け放熱フィラー製品カタログ、昭和電工株式会社セラミックス事業部、2013年7月18日(改訂日)
甲第4号証:特開2019-19222号公報
甲第5号証:特開2005-54129号公報
甲第6号証:卜部吉庸、二酸化ケイ素の結晶構造について、サイエンスネット、第25号、 P.10?13、2005年11月発行
甲第7号証:特開2008-162849号公報
甲第8号証:特開2004-189577号公報
甲第9号証:特開2016-121044号公報
甲第10号証:特願2020-512631号の審査段階で令和2年8月27日に出願人(本件特許権者)により提出された意見書
甲第11号証:今井祐介、高周波用誘電体コンポジット開発におけるセラミックス粉体フィラー、粉砕、ホソカワミクロン株式会社、No.58、P.22-27、2014年12月15日(発行日)
甲第12号証:宮田謙一、熱処理微粉末シリカの水蒸気吸着特性、日本化学雑誌、第86巻、第12号、P.1241?1244、1965年12月10(発行日)

第4 各甲号証の記載事項等について
1 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
(1)甲第1号証の記載事項
甲第1号証には以下(1a)?(1d)の記載がある。
(1a)「【0001】
本発明は硬化性組成物、及びこの硬化性組成物から形成される歯科用硬化物に関する。
・・・
【0010】
本発明は上記事由に鑑みてなされたものであり、高い審美性、強度、及び耐久性を有すると共に高い表面滑沢性を有する硬化物を形成することができる硬化性組成物、及びこの硬化性組成物を硬化して得られる歯科用硬化物を提供することを目的とする。」

(1b)「【0034】
球状結晶制御粉体は、天然物又は合成物を原料として得られる。天然物としては、二酸化ケイ素を主成分とする無機鉱物が挙げられる。合成物は、例えば珪石などの天然石を湿式または乾式粉砕するなどして得られる出発原料を、火炎溶融法により球状化することで得られる。また、ゾルゲル法などによって合成物を得ることもできる。下記において、合成物である球状結晶制御粉体について、更に詳しく説明する。
【0035】
球状結晶制御粉体は、例えば出発原料に対して火炎溶融法による処理が施されることで得られる。火炎溶融法は、無機成分の粉砕物等の出発原料を火炎中で溶融して球状化する方法である。出発原料は破砕物でも球状粉体であってもよく、また破砕物と球状粉体との混合物であってもよい。この火炎溶融法によって、溶融した出発原料が表面張力により球状化する。この火炎溶融法によれば、適度の粒径を有する球状結晶制御粉体が容易に得られる。
【0036】
出発原料としては、珪石、珪砂、石英、クリストバライト、非晶質シリカ、ヒュームドシリカ、ケイ酸エチル、シリカゾル等の、シリカ源となる材料が挙げられる。好適な態様においては、出発原料が酸素等のキャリアガスに分散した状態で、火炎中に投入される。火炎は、例えばプロパン、ブタン、メタン、液化天然ガス、LPG、重油、灯油、軽油、微粉炭等の燃料が酸素と燃焼することによって発生する。高温の火炎を発生させる観点から、火炎の発生のために酸素ガスバーナーを用いることが好ましい。・・・このような火炎溶融法により、真球度が高い球状結晶制御粉体が得られる。キャリアガス中の出発原料の濃度は、出発原料の充分な分散性を確保する観点から、0.1?20kg/Nm^(3)が好ましく、0.2?10kg/Nm^(3)がより好ましい。
・・・
【0038】
火炎溶融法やゾルゲル法により得られる球状結晶制御粉体は、一般には非晶質である。この非晶質の球状結晶制御粉体に、部分的な結晶化が生じる条件で熱処理が施されることで、球状結晶制御粉体中の各粒子中に非晶質の部分と結晶質の部分とが混在するようになる。更に、この熱処理によって、粒子中の非晶質の部分と結晶質の部分との割合が容易に制御される。その結果、球状結晶制御粉体の屈折率も容易に調整される。
【0039】
特に火炎溶融法による処理と、それに続く熱処理とが採用されると、球状結晶制御粉体が適度の粒径に容易に調整されるようになる。更に熱処理の条件が適宜調整されることで、所望の相対バックグラウンド高さ(すなわち所望の非晶質部分と結晶質部分の割合)を有し、且つ所望の屈折率を有する球状結晶制御粉体が容易に得られるようになる。
【0040】
熱処理時の処理温度は、球状結晶制御粉体を溶融させない観点から1700℃以下が好ましく、1400℃以下がより好ましく、1100℃以下が更に好ましい。またこの処理温度は、球状結晶制御粉体の部分的な結晶化を促進させて生産性を向上させる観点からは、600℃以上が好ましく、800℃以上がより好ましく、1000℃以上が更に好ましい。これらの観点を総合すると、処理温度は、600?1700℃が好ましく、800?1400℃がより好ましく、1000?1100℃が更に好ましい。
【0041】
処理時間は、処理温度との関係で適宜決定される。処理温度が高ければ、短い処理時間で結晶化が促進されて球状結晶制御粉体の屈折率が上がる。処理時間は、結晶化を促進させ、屈折率を向上させる観点から、0.01時間以上が好ましく、0.5時間以上がより好ましい。また、生産性を向上させる観点から、処理時間は100時間以下が好ましく、24時間以下がより好ましい。これらの観点を総合すると、処理時間は、0.01?100時間が好ましく、0.5?24時間がより好ましい。
・・・
【0045】
球状結晶制御粉体の平均粒径は、0.01?50μmの範囲であることが好ましい。球状結晶制御粉体の平均粒径が0.01μm以上であれば、この球状結晶制御粉体を含有する硬化性組成物の粘度上昇が抑制され、また硬化性組成物の粘度上昇が起きることなく硬化性組成物中に球状結晶制御粉体が多量に配合されることも可能となる。更に、硬化性組成物の硬化物の強度が更に向上する。また、球状結晶制御粉体の平均粒径が50μm以下であれば、硬化物の表面滑沢性が更に向上する。球状結晶制御粉体の平均粒子径は、0.1?20μmがより好ましく、1?10μmが更に好ましい。平均粒子径を上記範囲内に制御するには、後述する製造方法において、火炎中に投入する原料粒子の粒子径を調整すればよい。
【0046】
球状結晶制御粉体には、カップリング剤による表面処理が施されていることが好ましい。カップリング剤は硬化性組成物に混合することにより配合してもよい。歯科用材料を得るための硬化性組成物に含有される球状結晶制御粉体の場合には、一般に歯科用として用いられているカップリング剤が使用されることが好ましい。カップリング剤としては、例えばγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどの公知のカップリング剤が挙げられる。」

(1c)「【0065】
尚、硬化性組成物は歯科用硬化物を形成するために好適であるが、封止材料、接着剤、積層板形成材料等の電子材料用途にも適用可能である。」

(1d)「【0066】
[粉体の製造]
(粉体A)
酸素をキャリアガスとして用い、LPGを対酸素比(容量比)1.1で燃焼させて、約2000℃の火炎を発生させた。この火炎中に、平均粒子径2.0μmの天然珪石粉砕物(純度99.9%)を投入し、平均粒子径2.2μmの非晶質シリカ粒子を得た。この非晶質シリカ粒子100質量部に、硝酸カルシウム四水和物を4.2質量部(酸化物換算で1.00質量部)添加し、更にエタノールを加えて、ボールミルで30分間混合した。この混合物からエタノールを除去した後、1100℃で24時間熱処理を施すことで、粉体Aを得た。
・・・
【0078】
【表1】



(2)甲第1号証に記載された発明
前記(1b)の記載及び前記(1d)の粉体Aに注目すると、甲第1号証には、
「火炎溶融法により得られた平均粒子径が2.2μmである非晶質シリカ粒子に対して、1100℃で24時間熱処理を施すことで得られた球状結晶制御粉体。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

なお、甲第1号証の実施例である粉体B、Cのいずれかに注目して、甲第1号証に記載された発明を認定した場合にも、上記粉体Aに注目して認定した甲1発明に対する判断と同じ判断が成立するので、後記第5では、粉体Aに注目して認定した甲1発明について検討する。

2 甲第2号証の記載事項及び甲第2号証に記載された発明
(1)甲第2号証の記載事項
甲第2号証には以下(2a)、(2b)の記載がある。
(2a)「【0001】
本発明は、樹脂組成物に添加することに好適な結晶質シリカ粉体である樹脂組成物添加用球状結晶質シリカ粉体に関する。
・・・
【0006】
本発明では上記実情に鑑み粒度分布を制御することにより樹脂組成物に添加したときに高い性能を発揮することが可能な樹脂組成物添加用球状結晶質シリカ粉体及びその粉体を添加した樹脂組成物を提供することを解決すべき課題とする。」

(2b)「【0017】
(樹脂組成物添加用球状結晶質シリカ粉体:以下、「球状結晶質シリカ粉体」と称する)
本実施形態の球状結晶質シリカ粉体は結晶質シリカからなる。結晶質シリカとはX線回折評価による結晶化度が50%以上のものである。結晶化度としては80%以上であることが望ましく、85%以上、90%以上であることがより好ましい。結晶化度を向上する方法としては特に限定しないが加熱による方法が例示できる。結晶質シリカはシリカを80%以上含有する。
【0018】
「球状」であるためには円形度が0.8以上である。特に、0.88以上であることが望ましく、0.90以上、0.92以上であることがより好ましい。円形度の測定は、画像解析装置(シスメックス社製:フロー式粒子像解析装置:FPIA3000)により測定した値である。(円形度)=(面積が等しい真円の周囲長)÷(粒子の周囲長)で算出される値として算出し、任意の粒子5千個について測定した平均値を採用した。1に近づくほど真球に近い。円形度を向上する方法としては特に限定しないが、先述した結晶化度を向上する前のシリカ粉体を爆燃法(VMC法)や溶融法により製造して円形度が高いシリカ粉体を製造することにより結晶化度を向上した後も高い円形度を保つことができる。また、BET法(窒素)により測定した比表面積が、3.0m^(2)/g以下であることが望ましく、2.0m^(2)/g以下、1.0m^(2)/g以下であることがより好ましい。比表面積を小さくするためには表面を滑らかにしたり、円形度を高くしたりすることで実現できる。
・・・
【0022】
・製造方法の例
球状結晶質シリカ粉体を製造する方法としては、球状の非晶質シリカからなる粒子材料を加熱し(加熱工程)、結晶化する方法が例示できる。また、加熱工程の前に、結晶化を促進することができる金属元素を含む化合物を粒子表面に付着させても良い(付着工程)。結晶化を促進できる金属元素とは、例えばアルカリ金属、Al、Mg、Ti、Znなどから選択することができる。
【0023】
非晶質シリカからなる粒子材料は、その形態が製造される球状結晶質シリカ粉体の形態に反映されるため、製造したい球状結晶質シリカ粉体に求められる粒度分布、平均粒径、円形度をもつものが採用される。例えば金属ケイ素の粉末を酸素と共に火炎中に投入することでシリカを得るいわゆる爆燃法(VMC法)と称される方法の採用、シリカ粒子を火炎中に投入しシリカを溶融させた後に冷却することでシリカ粒子を得る溶融法と称される方法の採用が好ましい。VMC法・溶融法によれば円形度が高い非晶質シリカからなる粒子材料を得ることが可能である。更に原料となる金属ケイ素やシリカに結晶化を促進できる金属元素を含ませたり、結晶化を促進できる金属元素を含む化合物を混合したりしてVMC法や溶融法に供することで得られる非晶質シリカからなる粒子材料中に結晶化を促進できる金属を含有させることも可能であり、その場合には付着工程を採用しなくてもそのまま加熱工程に供することで効率的に球状結晶質シリカ粉体を得ることも可能である。
【0024】
加熱工程は非晶質シリカからなる粒子材料を1000℃から1500℃の温度範囲で加熱する工程である。加熱温度の設定は非晶質シリカからなる粒子材料の結晶化が進行する温度である。加熱時間としては非晶質シリカからなる粒子材料が必要な結晶化度になるまで行うが上限として10時間、5時間、3時間程度になるようにすると生産性の観点から好ましい。加熱を行う具体的な方法としては特に限定しないが、ガス炉(バッチ式、連続式)、電気炉、ロータリーキルンなどの公知の装置・方法が採用できる。
【0025】
(樹脂組成物)
本実施形態の樹脂組成物は、上述の球状結晶質シリカ粉体とその球状結晶質シリカ粉体を分散する樹脂材料とを有する。樹脂材料としては特に限定しないが、ポリオレフィン・ポリエステル・ポリアミドなどの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂(硬化前のもの、硬化後のものを含む)が例示できる。採用する樹脂に応じて球状結晶質シリカ粉体に対して表面処理を行うことができる。表面処理はシランカップリング剤などが採用でき、樹脂材料との親和性を向上するなどの目的で行われる。」

(2)甲第2号証に記載された発明
前記(2b)によると、甲第2号証には、
「溶融法で得られた球状の非晶質シリカからなる粒材料に対して、1000℃から1500℃の温度範囲で、上限として10時間、5時間、または3時間程度加熱することで得られた、比表面積が3.0m^(2)/g以下である球状結晶質シリカ粉体。」(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。

3 甲第7号証の記載事項及び甲第7号証に記載された発明
(1)甲第7号証の記載事項
甲第7号証には以下(7a)?(7c)の記載がある。
(7a)「【0001】
本発明は、メモリーなどの半導体素子用封止材の充填剤に適した、表面に微量の金属あるいは金属酸化物を有する高純度のクリストバライト粒子、及びその製造方法に関するものである。
・・・
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、ウラン及びトリウムの含有量が少なく、かつアルカリ金属及びアルカリ土類金属の含有量が少ない高純度のクリストバライト粒子、及びこのクリストバライト粒子を短時間で効率よく、しかも経済的に製造する方法を提供することを目的とする。」

(7b)「【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のクリストバライト粒子は、表面の一部あるいは全面にアルミニウム、マグネシウム及びチタンから選ばれる金属あるいはこれらの金属酸化物層が存在する高純度のクリストバライト粒子であり、該クリストバライト粒子は、ウラン及びトリウムのそれぞれの含有量が1ppb以下、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のそれぞれの含有量が10ppm以下、最大粒径が200μm以下の高純度非晶質シリカを、アルミニウム、マグネシウム及びチタンから選ばれる金属を含有する有機金属化合物又は該化合物のゾルもしくはスラリーで表面処理した後、1,000?1,600℃で加熱処理することにより製造することができる。
【0012】
本発明で使用する原料となる高純度非晶質シリカは、合成又は天然に存在する高純度水晶や結晶シリカを粉砕し所定の粒度に調整したものや、この粒度調整した粉砕粒子を火炎中に通し溶融球状化させることで得られる球状非晶質シリカである。必要とする粒度に調整するために異なる粒度の球状シリカをブレンドしても良い。
・・・
【0019】
上記表面処理した高純度非晶質シリカを、1,000?1,600℃、好ましくは1,200?1,500℃で加熱処理することで、クリストバライト粒子が得られる。加熱温度が低すぎるとクリストバライト化率が低く、高すぎると粒子同士が融着してしまう。
・・・
【0021】
加熱処理は、表面を処理した原料シリカを石英製の容器に入れ、所定の温度に設定された管状炉、箱形炉、トンネル炉などを使用し、空気中、窒素などの不活性ガス中などで行うことができる。また、加熱方法は1,000?1,600℃に設定できるものであれば電気、燃焼ガスなどいずれでも良い。加熱処理時間は1時間以上であることが好ましく、より好ましくは2時間?30時間である。
加熱処理後は、処理温度から200℃まで5℃/分以下で冷却することが好ましい。これより早く冷却するとクリストバライト化率が低下するおそれがある。より望ましくは3℃/分以下である。200℃まで冷却させたら、その後室温まで自然放冷することが好ましい。
・・・
【0025】
本発明の方法により得られたクリストバライト粒子は、粒子表面に微量のアルミニウム、マグネシウム及びチタンから選ばれる金属やアルミナなどのこれらの金属酸化物を有することから高活性表面を有しており、触媒としての利用が考えられる。また、表面処理せずに又は表面をカップリング剤などで被覆することで半導体素子封止用樹脂組成物の充填剤として用いられる他、高品質セラミックスや透明石英ガラス原料として好適に用いることができる。
ここで、得られた表面の一部あるいは全面にアルミニウム、マグネシウム及びチタンから選ばれる金属あるいはこれらの金属酸化物層を有する高純度クリストバライト粒子を半導体素子封止用樹脂組成物の充填剤として使用する場合は、単独で、あるいは従来から公知の非晶質シリカや結晶シリカとブレンドして使用することができる。」

(7c)「【0027】
表1に本発明の実施例、比較例で使用した原料である高純度シリカ(シリカA?C)、及び通常のシリカ(シリカD)中の不純物含有量、並びに粒度について示した。
【0028】
【表1】

・・・
【0031】
[実施例1?7、比較例1]
1kgの表1で示されるシリカを高速混合装置に入れ、高速で混合しながら表2で示されるアルミニウム、チタン又はマグネシウム化合物溶液をスプレーで塗布し、シリカの表面処理を10分間行った。表面処理量を下記表3に示す。表面処理したシリカを100℃で5時間乾燥させた後、1次粒子に解砕した。
解砕した1次粒子を常温から1,400℃まで6時間かけて昇温し、1,400℃で6時間維持、その後1,400℃から600℃まで6時間、600℃から200℃まで4時間かけて下げた。200℃から室温までは自然放冷した。
得られたクリストバライト粒子について、金属含有量、最大粒径及びクリストバライト化率を測定した。なお、クリストバライト化率の算出方法は、下記に示す。これらの結果を表3に示す。
【0032】
【表3】



(2)甲第7号証に記載された発明
前記(7b)の記載及び前記(7c)の表1におけるシリカBに注目すると、甲第7号証には、
「粉砕粒子を火炎中に通して溶融球状化することで得られた、比表面積が1.8m^(2)/gである球状非晶質シリカに対して、1000℃から1600℃の温度範囲で、1時間以上加熱することで得られたクリストバライト粒子。」(以下、「甲7発明」という。)が記載されているといえる。

なお、甲第7号証の表1におけるシリカCに注目して、甲第7号証に記載された発明を認定した場合にも、上記シリカBに注目して認定した甲7発明に対する判断と同じ判断が成立するので、後記第5では、シリカBに注目して認定した甲7発明について検討する。

4 甲第3号証?甲第6号証、甲第8号証?甲第12号証の記載事項
摘記は省略するが、甲第3号証?甲第6号証、甲第8号証?甲第12号証には、次の事項について記載されているといえる。

(1)甲第3号証の記載事項
結晶性及び溶融シリカの基礎物性に関して、溶融シリカの密度ρが2.21g/cm^(3)であること(最終頁「(ご参考)各種フィラーの物性値」の項)。

(2)甲第4号証の記載事項
球状シリカフィラー用粉末の円形度が0.90以上であること(【0014】)。

(3)甲第5号証の記載事項
吸着性シリカ充填材の保管方法に関して、冷却後は直ちにガスバリア性に優れた梱包袋もしくは容器に保管することが望ましいこと(【0057】)。

(4)甲第6号証の記載事項
二酸化ケイ素の結晶構造に関して、クリストバライトの密度が2.3g/cm^(3)であること(11頁右欄「3.クリストバライト」の項)。

(5)甲第8号証の記載事項
シリカ粉末の平均粒子径が4.7μm、比表面積が1.9m^(2)/gであること(【0047】表1)。

(6)甲第9号証の記載事項
無孔質シリカ微粒子の平均粒径が0.5μm、比表面積が5.5m^(2)/gであること(【0082】)。

(7)甲第10号証の記載事項
本件特許の審査段階において、本件特許権者が、バルクのシリカの誘電正接が十分に低い値を示していても、粉末にしたとき、粒子径が小さくなるにつれて比表面積が増大し、それに伴い、誘電正接を低減させる要因となり得る吸着水やシラノール基といった極性官能基等が増えることは当該技術分野における技術常識であると主張したこと(「(2)拒絶理由3(明確性要件)」の項)。

(8)甲第11号証の記載事項
一般に、セラミックス粉体の表面には水酸基等の極性官能基が存在し、この極性基の存在は誘電損失の増大に繋がると考えられること、さらに、MgO自体はアイソタクティックポリプロピレン(iPP)よりも低いtanδ値を有するため、大粒径化等の手段により表面極性基の影響を抑えれば、コンポジット化によるtanδ値の低減の可能性が有ることを示唆していると考えられること(24頁「3.1 酸化マグネシウム系フィラー(粒径の影響)」の項)。

(9)甲第12号証の記載事項
シリカ粒子の処理温度を調整することにより、シリカ粒子の表面から、吸着水やシラノール基といった極性官能基等を低減でき、処理温度を500℃以上にすることで、シリカ表面に存在するシラノール基のモル数(α_(OH))が常温時(0℃)に比べて低下すること(図7等)。

第5 特許異議申立理由についての当審の判断
1 特許法第29条第1項第3号(新規性欠如)及び同条第2項(進歩性欠如)について
(1)甲第1号証を主たる証拠とした新規性欠如及び進歩性欠如について
(1-1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「火炎溶融法により得られた」「非晶質シリカ粒子」は、本件発明1における「原料の球状溶融シリカ粉末」に相当する。
そして、甲1発明における上記「非晶質シリカ粒子」の「平均粒子径が2.2μmである」ことは、粒子直径d(m)及び粒子の密度ρ(kg/m^(3))から粒子の比表面積A(m^(2)/g)を概算する式であるA=6/(ρ×d)と、一般的な溶融・非晶質シリカの密度ρが2.21g/cm^(3)程度であること(必要であれば、前記第4の4(1)参照のこと)を用いて、その比表面積は1.23m^(2)/g程度と概算されるから、本件発明1における加熱処理前の溶融球状シリカ粉末の「比表面積が1?30m^(2)/gである」ことに相当する。
さらに、甲1発明における「1100℃で24時間熱処理を施すこと」は、加熱温度(℃)×加熱時間(h)が26400(℃・h)であることから、本件発明1における「誘電正接低減処理」と、「500?1100℃の温度で、加熱温度(℃)×加熱時間(h)を1000?26400(℃・h)とする所定時間、加熱処理することを含む」点で共通する。
また、甲1発明における「球状結晶制御粉体」は、火炎溶融法により溶融・球状となった非晶質シリカ粒子に上記熱処理を施すことで得られたものであるから、本件発明1における「溶融球状シリカ粉末」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明は、
「加熱処理前の球状溶融シリカ粉末の比表面積が1?30m^(2)/gであり、前記加熱処理が、原料の球状溶融シリカ粉末を500?1100℃の温度で、加熱温度(℃)×加熱時間(h)を1000?26400(℃・h)とする所定時間、加熱処理することを含む、加熱処理後の溶融球状シリカ粉末。」である点で一致するが、以下の点で相違する。
<相違点1A>
加熱処理に関して、本件発明1では、「誘電正接低減処理」であるのに対して、甲1発明では、誘電正接を低減するための処理であることが明らかでない点。
<相違点1B>
本件発明1は、「樹脂に配合してシート状に成形した後、共振器法にて周波数35?40GHzの条件で測定した該シートの誘電正接(tanδc)から、下記の式(I)を用いて算出される溶融球状シリカ粉末の誘電正接において、誘電正接低減処理前の比表面積が1?30m^(2)/gである溶融球状シリカ粉末の誘電正接(tanδfA)をA、誘電正接低減処理後の前記溶融球状シリカ粉末の誘電正接(tanδfB)をBとしたとき、B/Aが0.70以下」であるのに対し、甲1発明は、そのことが明らかでない点。
<相違点1C>
本件発明1は、「誘電正接低減処理後の溶融球状シリカ粉末の比表面積が1?30m^(2)/g」であるのに対し、甲1発明は、そのことが明らかでない点。

イ 判断
(ア)まず、前記アの相違点1A及び1Bについてまとめて検討すると、本件発明1は、B/Aが0.70以下となるようにすべく、所定の誘電正接低減処理を行っており、当該誘電正接低減処理とは、前記第2のとおり、「原料の球状溶融シリカ粉末を500?1100℃の温度で、加熱温度(℃)×加熱時間(h)を1000?26400(℃・h)とする所定時間、加熱処理することを含」むものであるが、本件特許明細書には、当該誘電正接低減処理に関して、
「【0022】 本発明の誘電正接低減処理した球状シリカ粉末は、原料の球状シリカ粉末を高温加熱処理することによって製造することができる。原料の球状シリカ粉末を500?1100℃の温度で、かつ、加熱温度(℃)×加熱時間(h)を1000?26400(℃・h)とする所定時間(例えば、約1?52時間)、好ましくは、1800?17600(℃・h)とする所定時間(例えば、約2?35時間)、熱風あるいは電気炉にて処理し、電気炉内にて自然放冷後、110℃?300℃の状態で球状シリカ粉末を回収し、さらに湿度40%RH以下の環境下にて25℃にまで冷却し、15?25℃にて保管し、防湿アルミ袋にて回収することにより製造する。
【0023】
上記の製造方法により、比表面積といった粉体特性を変化させずに、球状シリカ粒子の表面の吸着水および極性官能基を低減させることができる。」
と記載されており、B/Aが0.70以下となるように誘電正接を低減させるべく、球状シリカ粒子の表面の吸着水および極性官能基を低減させるためには、上記加熱処理を行うとともに、「電気炉内にて自然放冷後、110℃?300℃の状態で球状シリカ粉末を回収し、さらに湿度40%RH以下の環境下にて25℃にまで冷却し、15?25℃にて保管し、防湿アルミ袋にて回収すること」を要するものと認められる。この点、実施例においても、高温加熱処理後に同様の冷却、回収、保管工程を経ることが具体的に示されている。
一方、甲1発明では、前記アに示す通り、原料の球状溶融シリカ粉末に対して本件発明1と同様の加熱処理を行っているものの、当該加熱処理後の冷却、回収、保管工程については何ら特定がなく、甲第1号証には、「電気炉内にて自然放冷後、110℃?300℃の状態で球状シリカ粉末を回収し、さらに湿度40%RH以下の環境下にて25℃にまで冷却し、15?25℃にて保管し、防湿アルミ袋にて回収する」ことについては記載も示唆もないから、甲1発明における上記加熱処理が誘電正接を低減するための処理であるといえないし、当該加熱処理後の溶融球状シリカ粉末が「B/Aが0.70以下」を満たすとはいえない。
したがって、前記相違点1A及び1Bは実質的な相違点であるから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲1発明であるとはいえない。

(イ)次に、前記相違点1A及び1Bに係る本件発明1の発明特定事項の容易想到性について検討すると、甲第1号証には、溶融球状シリカ粉末の誘電正接を低減させることについて記載も示唆もされておらず、甲1発明において、「B/Aが0.70以下」となるようにする動機付けは存在しないものであり、このことは、甲第2?12号証の記載事項に左右されるものでもない。
そうすると、甲1発明において、溶融球状シリカ粉末を、誘電正接低減についての前記相違点1A及び1Bに係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第2?12号証のいずれかの記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。
したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1を、甲1発明及び甲第2?12号証のいずれかの記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(1-2)本件発明2?7について
ア 本件発明1を引用する本件発明2?7と甲1発明とを対比した場合、いずれの場合であっても、少なくとも前記(1-1)アの相違点1A及び1Bの点で相違する。
そして、前記相違点1A及び1Bは実質的な相違点であることは前記(1-1)イ(ア)に記載のとおりであるから、本件発明2?7が甲1発明であるとはいえない。
イ 更に、前記(1-1)イ(イ)に記載した理由と同様の理由により、本件発明1を引用する本件発明2?7も、そのほかの相違点について検討するまでもなく、甲1発明及び甲第2?12号証のいずれかの記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)甲第2号証を主たる証拠とした新規性欠如及び進歩性欠如について
(2-1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明における「溶融法で得られた球状の非晶質シリカからなる粒材料」は、本件発明1における「原料の球状溶融シリカ粉末」に相当する。
そして、甲2発明における「球状結晶質シリカ粉体」の「比表面積が3.0m^(2)/g以下である」ことは、本件発明1における加熱処理後の溶融球状シリカ粉末の「比表面積が1?30m^(2)/gである」ことに相当する。
さらに、甲2発明における「1000℃から1500℃の温度範囲で、上限として10時間、5時間、または3時間程度加熱すること」は、加熱温度(℃)×加熱時間(h)が3000?15000(℃・h)であることから、本件発明1における「誘電正接低減処理」と、「500?1100℃の温度で、加熱温度(℃)×加熱時間(h)を1000?26400(℃・h)とする所定時間、加熱処理することを含む」点で共通する。
また、甲2発明における「球状結晶質シリカ粉体」は、溶融法で得られた球状の非晶質シリカからなる粒材料に上記熱処理を施すことで得られたものであるから、本件発明1における「溶融球状シリカ粉末」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲2発明は、
「加熱処理が、原料の球状溶融シリカ粉末を500?1100℃の温度で、加熱温度(℃)×加熱時間(h)を1000?26400(℃・h)とする所定時間、加熱処理することを含み、加熱処理後の溶融球状シリカ粉末の比表面積が1?30m^(2)/gである、加熱処理後の溶融球状シリカ粉末。」である点で一致するが、以下の点で相違する。
<相違点2A>
加熱処理に関して、本件発明1では、「誘電正接低減処理」であるのに対して、甲2発明では、誘電正接を低減するための処理であることが明らかでない点。
<相違点2B>
本件発明1は、「樹脂に配合してシート状に成形した後、共振器法にて周波数35?40GHzの条件で測定した該シートの誘電正接(tanδc)から、下記の式(I)を用いて算出される溶融球状シリカ粉末の誘電正接において、誘電正接低減処理前の比表面積が1?30m^(2)/gである溶融球状シリカ粉末の誘電正接(tanδfA)をA、誘電正接低減処理後の前記溶融球状シリカ粉末の誘電正接(tanδfB)をBとしたとき、B/Aが0.70以下」であるのに対し、甲1発明は、そのことが明らかでない点。
<相違点2C>
本件発明1は、「誘電正接低減処理前の溶融球状シリカ粉末の比表面積が1?30m^(2)/g」であるのに対し、甲2発明は、そのことが明らかでない点。

イ 判断
(ア)まず、前記アの相違点2A及び2Bについてまとめて検討すると、前記(1)(1-1)イ(ア)で検討した通り、本件発明1では、B/Aが0.70以下となるように誘電正接を低減させるべく、球状シリカ粒子の表面の吸着水および極性官能基を低減させるためには、上記加熱処理を行うとともに、「電気炉内にて自然放冷後、110℃?300℃の状態で球状シリカ粉末を回収し、さらに湿度40%RH以下の環境下にて25℃にまで冷却し、15?25℃にて保管し、防湿アルミ袋にて回収すること」を要するものと認められる。
一方、甲2発明では、前記アに示す通り、原料の球状溶融シリカ粉末に対して本件発明1と同様の加熱処理を行っているものの、当該加熱処理後の冷却、回収、保管工程については何ら特定がなく、甲第2号証には、「電気炉内にて自然放冷後、110℃?300℃の状態で球状シリカ粉末を回収し、さらに湿度40%RH以下の環境下にて25℃にまで冷却し、15?25℃にて保管し、防湿アルミ袋にて回収する」ことについては記載も示唆もないから、甲2発明における上記加熱処理が誘電正接を低減するための処理であるといえないし、当該加熱処理後の溶融球状シリカ粉末が「B/Aが0.70以下」を満たすとはいえない。
したがって、前記相違点2A及び2Bは実質的な相違点であるから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲2発明であるとはいえない。

(イ)次に、前記相違点2A及び2Bに係る本件発明1の発明特定事項の容易想到性について検討すると、甲第2号証には、溶融球状シリカ粉末の誘電正接を低減させることについて記載も示唆もされておらず、甲2発明において、「B/Aが0.70以下」となるようにする動機付けは存在しないものであり、このことは、甲第1、3?12号証の記載事項に左右されるものでもない。
そうすると、甲2発明において、溶融球状シリカ粉末を、誘電正接低減についての前記相違点2A及び2Bに係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第1、3?12号証のいずれかの記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。
したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1を、甲2発明及び甲第1、3?12号証のいずれかの記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2-2)本件発明2?7について
ア 本件発明1を引用する本件発明2?7と甲2発明とを対比した場合、いずれの場合であっても、少なくとも前記(2-1)アの相違点2A及び2Bの点で相違する。
そして、前記相違点2A及び2Bは実質的な相違点であることは前記(2-1)イ(ア)に記載のとおりであるから、本件発明2?7が甲2発明であるとはいえない。
イ 更に、前記(2-1)イ(イ)に記載した理由と同様の理由により、本件発明1を引用する本件発明2?7も、そのほかの相違点について検討するまでもなく、甲2発明及び甲第1、3?12号証のいずれかの記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)甲第7号証を主たる証拠とした新規性欠如及び進歩性欠如について
(3-1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲7発明とを対比すると、甲7発明における「粉砕粒子を火炎中に通して溶融球状化することで得られた」「球状非晶質シリカ」は、本件発明1における「原料の球状溶融シリカ粉末」に相当する。
そして、甲7発明における「球状非晶質シリカ」の「比表面積が1.8m^(2)/gである」ことは、本件発明1における加熱処理前の球状溶融シリカ粉末の「比表面積が1?30m^(2)/gである」ことに相当する。
さらに、甲7発明における「1000℃から1600℃の温度範囲で、1時間以上加熱すること」は、加熱温度(℃)×加熱時間(h)が1000(℃・h)以上であることから、本件発明1における「誘電正接低減処理」と、「500?1100℃の温度で、加熱温度(℃)×加熱時間(h)を1000?26400(℃・h)とする所定時間、加熱処理することを含む」点で共通する。
また、甲7発明における「クリストバライト粒子」は、粉砕粒子を火炎中に通して溶融球状化することで得られた球状非晶質シリカに上記熱処理を施すことで得られたものであるから、本件発明1における「溶融球状シリカ粉末」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲7発明は、
「加熱処理前の球状溶融シリカ粉末の比表面積が1?30m^(2)/gであり、前記加熱処理が、原料の球状溶融シリカ粉末を500?1100℃の温度で、加熱温度(℃)×加熱時間(h)を1000?26400(℃・h)とする所定時間、加熱処理することを含む、加熱処理後の溶融球状シリカ粉末。」である点で一致するが、以下の点で相違する。
<相違点7A>
加熱処理に関して、本件発明1では、「誘電正接低減処理」であるのに対して、甲7発明では、誘電正接を低減するための処理であることが明らかでない点。
<相違点7B>
本件発明1は、「樹脂に配合してシート状に成形した後、共振器法にて周波数35?40GHzの条件で測定した該シートの誘電正接(tanδc)から、下記の式(I)を用いて算出される溶融球状シリカ粉末の誘電正接において、誘電正接低減処理前の比表面積が1?30m^(2)/gである溶融球状シリカ粉末の誘電正接(tanδfA)をA、誘電正接低減処理後の前記溶融球状シリカ粉末の誘電正接(tanδfB)をBとしたとき、B/Aが0.70以下」であるのに対し、甲7発明は、そのことが明らかでない点。
<相違点7C>
本件発明1は、「誘電正接低減処理前の溶融球状シリカ粉末の比表面積が1?30m^(2)/g」であるのに対し、甲7発明は、そのことが明らかでない点。

イ 判断
(ア)まず、前記アの相違点7A及び7Bについてまとめて検討すると、前記(1)(1-1)イ(ア)で検討した通り、本件発明1では、B/Aが0.70以下となるように誘電正接を低減させるべく、球状シリカ粒子の表面の吸着水および極性官能基を低減させるためには、上記加熱処理を行うとともに、「電気炉内にて自然放冷後、110℃?300℃の状態で球状シリカ粉末を回収し、さらに湿度40%RH以下の環境下にて25℃にまで冷却し、15?25℃にて保管し、防湿アルミ袋にて回収すること」を要するものと認められる。
一方、甲7発明では、前記アに示す通り、原料の球状溶融シリカ粉末に対して本件発明1と同様の加熱処理を行っているものの、当該加熱処理後の冷却、回収、保管工程については何ら特定がなく、甲第7号証には、「電気炉内にて自然放冷後、110℃?300℃の状態で球状シリカ粉末を回収し、さらに湿度40%RH以下の環境下にて25℃にまで冷却し、15?25℃にて保管し、防湿アルミ袋にて回収する」ことについては記載も示唆もないから、甲7発明における上記加熱処理が誘電正接を低減するための処理であるといえないし、当該加熱処理後の溶融球状シリカ粉末が「B/Aが0.70以下」を満たすとはいえない。
したがって、前記相違点7A及び7Bは実質的な相違点であるから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲7発明であるとはいえない。

(イ)次に、前記相違点7A及び7Bに係る本件発明1の発明特定事項の容易想到性について検討すると、甲第7号証には、溶融球状シリカ粉末の誘電正接を低減させることについて記載も示唆もされておらず、甲7発明において、「B/Aが0.70以下」となるようにする動機付けは存在しないものであり、このことは、甲第1?6、8?12号証の記載事項に左右されるものでもない。
そうすると、甲7発明において、溶融球状シリカ粉末を、誘電正接低減についての前記相違点7A及び7Bに係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第1?6、8?12号証のいずれかの記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。
したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1を、甲7発明及び甲第1?6、8?12号証のいずれかの記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3-2)本件発明2?7について
ア 本件発明1を引用する本件発明2?7と甲7発明とを対比した場合、いずれの場合であっても、少なくとも前記(3-1)アの相違点7A及び7Bの点で相違する。
そして、前記相違点7A及び7Bは実質的な相違点であることは前記(3-1)イ(ア)に記載のとおりであるから、本件発明2?7が甲7発明であるとはいえない。
イ 更に、前記(3-1)イ(イ)に記載した理由と同様の理由により、本件発明1を引用する本件発明2?7も、そのほかの相違点について検討するまでもなく、甲7発明及び甲第1?6、8?12号証のいずれかの記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)申立人の主張の検討
ア 申立人は、本件特許明細書の【0006】において、本件発明の背景技術として、「球状シリカの粒子の表面には、吸着水やシラノール基といった極性官能基等が多く存在し、特に、誘電正接が焼結された基板としての特性よりも悪化するという問題点がある。」と記載されていること、甲第10号証に記載のとおり、本件特許権者は審査段階において、「バルクのシリカの誘電正接が十分に低い値を示していても、粉末にしたとき、粒子径が小さくなるにつれて比表面積が増大し、それに伴い、誘電正接を低減させる要因となり得る吸着水やシラノール基といった極性官能基等が増えることは当該技術分野における技術常識です。」と主張していたこと、及び、甲第11号証の24頁左欄には、「一般に、セラミックス粉体の表面には水酸基等の極性官能基が存在し、この極性基の存在は誘電損失の増大に繋がると考えられる。」と記載されており、さらに、同頁右欄には、「MgO自体はiPPよりも低いtanδ値を有するため、大粒径化等の手段により表面極性基の影響を抑えれば、コンポジット化によるtanδ値の低減の可能性が有ることを示唆していると考えられる。」と記載されていることから、球状シリカの粒子の表面から、吸着水やシラノール基といった極性官能基等を低減することにより、当該シリカの粒子を含む樹脂組成物の誘電正接が改善することは、本件発明の出願日前に周知であったことは明らかである旨、並びに、甲第12号証の図7には、シリカ粒子の処理温度を調整することにより、シリカ粒子の表面から、吸着水やシラノール基といった極性官能基等を低減できることが開示されており、具体的には、処理温度を500℃以上にすることで、シリカ表面に存在するシラノール基のモル数(α_(OH))が常温時(0℃)に比べて大幅に低下することが読み取れるから、当業者であれば、甲第11号証と甲第12号証の記載事項に基いて、誘電正接が低い球状シリカ粉末を提供するという課題を解決するために、シリカの粒子の処理温度を調整することにより、シリカの粒子の表面から、吸着水やシラノール基といった極性官能基等を低減することを容易に想到できる旨を主張する(特許異議申立書37頁5行目?39頁下から2行目)。
イ しかしながら、確かに甲第11号証の24頁左欄及び右欄には、申立人がいうとおり上記記載が認められるものの、いずれの記載も「3.1 酸化マグネシウム系フィラー(粒径の影響)」という項目下の記載であり、セラミックス粉体がシリカ粒子であることについては何ら記載されていない。
また、甲第12号証についても、図7において、処理温度を500℃以上にすることで、シリカ表面に存在するシラノール基のモル数(α_(OH))が常温時(0℃)に比べて低下することが示されているものの、かかる加熱処理後の冷却、回収、保管工程については何ら記載がなく、加熱処理により離脱したシラノール基がシリカ表面に再吸着して誘電正接が再び増加しないように配慮することについては記載も示唆もないから、「B/Aが0.70以下」となるように誘電正接が低減されているとまではいえないし、このことが当業者にとって容易になし得る設計事項であるともいえない。
したがって、甲第11号証及び甲第12号証に記載された技術分野に一定の関連性があり、双方の物質、作用機序の一部に共通性があったとしても、甲第11号証及び甲第12号証の記載事項を組み合わせることには動機付けがないし、仮に甲第11号証及び甲第12号証の記載事項を組み合わせることができたとしても、本件発明1の「樹脂に配合してシート状に成形した後、共振器法にて周波数35?40GHzの条件で測定した該シートの誘電正接(tanδc)から、下記の式(I)を用いて算出される溶融球状シリカ粉末の誘電正接において、誘電正接低減処理前の比表面積が1?30m^(2)/gである溶融球状シリカ粉末の誘電正接(tanδfA)をA、誘電正接低減処理後の前記溶融球状シリカ粉末の誘電正接(tanδfB)をBとしたとき、B/Aが0.70以下」であるとの発明特定事項に至るものでもない。
よって、申立人の前記アの主張は採用できない。

(5)小括
以上のとおりであるから、前記第3の1の特許異議申立理由は理由がない。

2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件違反)について
(1)サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるので、以下、この観点に基づいて検討する。

(2)本件発明の課題
本件発明の課題は、本件特許明細書の【0010】に記載されたとおり、「誘電正接が低い球状シリカ粉末を提供すること」である。

(3)前記第3の2(3)の特許異議申立理由についての検討
(3-1)本件発明1では、誘電正接低減処理前の原料球状シリカ粉末の誘電正接(tanδfA)をA、誘電正接低減処理後の球状シリカ粉末の誘電正接(tanδfB)をBとしたときのB/Aが0.70以下であることが特定されているものの、前記B(tanδfB)の値自体は特定されていない。
一方、本件特許明細書の【0059】【表2】の実施例1?9では、B(tanδfB)が6.9×10^(-4)?8.0×10^(-3)の範囲で、上記B/Aが0.16?0.52となっており、同【0060】【表3】の比較例1?5では、B(tanδfB)が3.2×10^(-4)?2.7×10^(-3)の範囲で、上記B/Aが0.76?0.90となっているところ、実施例と比較例で同一の球状シリカ粉末を用いた場合に着目すると、例えば、原料シリカ粉末1を用いた実施例1?5と比較例1?3、5を比較すると、比較例よりも実施例の方がB(tanδfB)及びB/Aがともに低くなっているし、また、原料シリカ粉末4を用いた実施例9と比較例4を比較しても同様の傾向が見て取れる。すなわち、比較例よりも実施例の方が、誘電正接が低いことが読み取れるから、実施例の範囲において、上記課題を解決できるものと認識することができる。

(3-2)「当業者において課題解決できると認識できる範囲」の認定
上記(3-1)のとおり、発明の詳細な説明の実施例の記載から、実施例1?9に係る溶融球状シリカ粉末について、当業者は、本件発明の課題を解決することができるものと認識できるといえる。
そして、上記(3-1)に照らすと、実施例における溶融球状シリカ粉末以外に、誘電正接低減処理前の誘電正接Aよりも誘電正接低減処理後の誘電正接Bの方が溶融球状シリカ粉末の誘電正接が低い誘電正接低減処理後の溶融球状シリカ粉末、より具体的にはB/Aが0.70以下であるような誘電正接低減処理後の溶融球状シリカ粉末であれば、実施例と同様に、本件発明の課題を解決することができると解するのが相当であり、B/Aが0.70以下である誘電正接低減処理後の溶融球状シリカ粉末が上記各実施例から遠くかけ離れたものであるとは言い難い。

そうすると、上記実施例の記載や技術常識などに照らすと、上記実施例に記載された、溶融球状シリカ粉末と同等の特性を発現し、もって、当業者が本件発明の課題が解決できると認識できる範囲として、本件発明1が規定するような、「B/Aが0.70以下」である誘電正接低減処理後の溶融球状シリカ粉末を認めることができるから、結局、「当業者において課題解決できると認識できる範囲」は、本件発明1の範囲を包含するものと解するのが合理的である。

(3-3)サポート要件適合性について
上記(1)の判断手法に照らして、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、上記(3-2)の「当業者において課題解決できると認識できる範囲」のものであるか否かを検討すると、上記(3-2)のとおり、本件発明1は、「当業者において課題解決できると認識できる範囲」のものであるし、本件発明2?7についても同様であるから、本件発明1?7は、特許法第36条第6項第1号のサポート要件の規定に適合するというべきである。
したがって、前記第3の2(3)の特許異議申立理由は理由がない。

(4)前記第3の2(1)及び(2)の特許異議申立理由についての検討
前記(3)で検討したとおり、本件発明1?7はサポート要件を満たしているところ、申立人は誘電正接低減処理の処理条件が実施例より広すぎるので拡張ないし一般化できない旨の主張をしているのでこの点について検討する。
本件発明1には、「誘電正接低減処理前の比表面積が1?30m^(2)/gである溶融球状シリカ粉末の誘電正接(tanδfA)をA、誘電正接低減処理後の前記溶融球状シリカ粉末の誘電正接(tanδfB)をBとしたとき、B/Aが0.70以下」と記載されていることからして、本件発明1の「溶融球状シリカ粉末」は、「B/Aが0.7以下」を実現できる処理条件の「誘電正接低減処理」で得られたものであることが明らかであるから、前記(3)(3-2)のとおり、発明の詳細な説明において具体的に効果が確認されている実施例から、「B/Aが0.7以下」を実現できる処理条件の「誘電正接低減処理」で得られた溶融球状シリカ粉末まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるといえる。
そして、本件発明1には、「B/Aが0.7以下」を実現できる処理条件であることが特定されているから、誘電正接低減のための加熱処理の条件が
「500?1100℃の温度で、加熱温度(℃)×加熱時間(h)を1000?26400(℃・h)とする所定時間」の範囲であって、さらに前記加熱処理後の工程の特定がなくとも、発明の詳細な説明の上記実施例から、本件発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるといえる。
したがって、前記第3の2(1)及び(2)の特許異議申立理由は理由がない。

第5 むすび
以上のとおりであるので、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-09-14 
出願番号 特願2020-512631(P2020-512631)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C01B)
P 1 651・ 537- Y (C01B)
P 1 651・ 121- Y (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 宮崎 大輔  
特許庁審判長 宮澤 尚之
特許庁審判官 後藤 政博
末松 佳記
登録日 2020-11-11 
登録番号 特許第6793282号(P6793282)
権利者 デンカ株式会社
発明の名称 球状シリカ粉末  
代理人 佐藤 剛  
代理人 川本 真由美  
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