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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
管理番号 1378761
異議申立番号 異議2020-700922  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-11-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-11-30 
確定日 2021-10-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第6704327号発明「負極活物質、負極、リチウムイオン二次電池、負極活物質の製造方法及びリチウムイオン二次電池の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6704327号の請求項1?9に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6704327号の請求項1?11に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成28年10月21日の出願であって、令和2年5月14日にその特許権の設定登録がなされ、同年6月3日に特許掲載公報が発行され、その後、同年11月30日付けで特許異議申立人七滝一郎(以下、「申立人」という。)より請求項1?9に係る特許に対して特許異議の申立てがなされ、令和3年2月15日付けで取消理由及び特許権者への審尋が通知され、これに対して、同年3月29日付けで特許権者より意見書及び回答書が提出され、その後、同年5月10日付けで申立人に対して審尋がなされ、これに対して、同年6月1日付けで申立人より回答書が提出され、さらに、同年7月5日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、これに対して、同年8月12日付けで特許権者より意見書が提出されたものである。

2 本件発明
(1)本件発明1?9
本件特許の特許請求の範囲の請求項1?11に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明11」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、本件発明1?9は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
負極活物質粒子を含む負極活物質であって、
前記負極活物質粒子は、SiO_(x)(0.5≦x≦1.6)で表されるケイ素化合物を含有し、
前記負極活物質粒子のXANES測定から得られるXANESスペクトルにおいて539?541eVの範囲にピークを有することを特徴とする負極活物質。
【請求項2】
前記負極活物質粒子は、前記XANESスペクトルにおいて532eV近辺に最も強いピークを有することを特徴とする請求項1に記載の負極活物質。
【請求項3】
前記負極活物質粒子は、Liを吸蔵することで、前記532eV近辺のピークが低減することを特徴とする請求項2に記載の負極活物質。
【請求項4】
前記負極活物質粒子は、Liを吸蔵することで、前記XANESスペクトルにおいて534eV近辺のピークが発生することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の負極活物質。
【請求項5】
前記負極活物質粒子のメジアン径は0.5μm以上20μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の負極活物質。
【請求項6】
前記負極活物質粒子は、表層部に炭素材を含むことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の負極活物質。
【請求項7】
前記炭素材の平均厚さは5nm以上5000nm以下であることを特徴とする請求項6に記載の負極活物質。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の負極活物質を含むことを特徴とする負極。
【請求項9】
負極として、請求項8に記載の負極を用いたものであることを特徴とするリチウムイオン二次電池。」

3 これまで通知された取消理由の概要
令和3年7月5日付けで通知された取消理由(決定の予告)、及び、同年2月15日付けで通知された取消理由は同様の内容のものであり、その概要は以下のとおりである。

本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)には、請求項1の「負極活物質粒子のXANES測定から得られるXANESスペクトルにおいて539?541eVの範囲にピークを有する」「負極活物質」を製造する方法が記載されていないから、請求項1?9に係る本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。
なお、令和3年2月15日付けで通知された取消理由において、請求項10、11に対してもこの取消理由が通知されていたが、請求項10、11は特許異議申立てがなされていない請求項であるので、請求項10、11に対する取消理由は撤回する。

4 上記3以外の特許異議申立理由
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである

(刊行物1)
特開2016-100078号公報(申立人が提出した甲第1号証:以下、「甲1」という。)
(参考文献)
特開2005-100959号公報(申立人が提出した甲第2号証:以下、「甲2」という。)

5 当審の判断
(1)特許法第36条第4項第1号について(上記3の取消理由)
ア 本件発明1は、「負極活物質粒子のXANES測定から得られるXANESスペクトルにおいて539?541eVの範囲にピークを有する」「負極活物質」の発明である。

イ そして、上記アの「負極活物質粒子のXANES測定から得られるXANESスペクトルにおいて539?541eVの範囲にピークを有する」「負極活物質」の製造方法について、本件明細書には、次の記載がある。なお、下線は当審で付した。以下、同じ。
「【0066】
[負極の製造方法]
負極10は、例えば、以下の手順により製造できる。まず、負極に使用する負極活物質の製造方法を説明する。最初に、一般式SiO_(x)(0.5≦x≦1.6)で表されるケイ素化合物を含む負極活物質粒子を準備する。次に、負極活物質粒子のXANES測定から得られるXANESスペクトルにおいて539?541eVの範囲にピークを有する負極活物質粒子を選別する。
【0067】
ケイ素酸化物(SiO_(x):0.5≦x≦1.6)を含む負極活物質粒子は、例えば、以下のような手法により作製できる。まず、酸化珪素ガスを発生する原料を不活性ガスの存在下、減圧下で900℃?1600℃の温度範囲で加熱し、酸化珪素ガスを発生させる。このとき、原料は金属珪素粉末と二酸化珪素粉末の混合物を用いることができる。金属珪素粉末の表面酸素及び反応炉中の微量酸素の存在を考慮すると、混合モル比が、0.8<金属珪素粉末/二酸化珪素粉末<1.3の範囲であることが望ましい。
【0068】
次に、発生した酸化珪素ガスは吸着板(堆積板)上で固体化され堆積される。この時、酸化珪素ガスの温度、酸化珪素ガスと同時に流すガス(不活性ガス,還元ガス)、又は堆積板の温度を制御することで、XANESスペクトルにおいて532eV近辺に最も強いピークを有し、かつ、539?541eVの範囲にピークを有する負極活物質粒子を作製することができる。すなわち、イオン結合性が高いSi-O結合に起因するピークである低エネルギー側のピークと、共有結合性が高いSi-O結合に起因するピークである高エネルギー側のピークとを有する負極活物質粒子を作製することができる。次に、反応炉内温度を100℃以下に下げた状態で酸化珪素の堆積物を取出し、ボールミル、ジェットミルなどを用いて粉砕、粉末化を行う。以上のようにして、負極活物質粒子を作製することができる。なお、酸化珪素ガスを発生する原料の気化温度の変更、堆積板温度の変更、酸化珪素ガスの蒸着流に対するガス(不活性ガス,還元ガス)の噴射量若しくは種類の変更又は酸化珪素ガスを含む炉内の圧力の変更により、これらの負極活物質粒子を得やすくすることもできる。」

「【実施例】
【0101】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0102】
(実施例1-1)
以下の手順により、図3に示したラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池30を作製した。
・・・(略)・・・
【0104】
次に負極を作製した。負極活物質は金属ケイ素と二酸化ケイ素を混合した原料を反応炉に導入し、10Paの真空度の雰囲気中で気化させたものを吸着板上に堆積させ、十分に冷却した後、堆積物を取出しボールミルで粉砕した。粒径を調整した後、熱分解CVDを行うことで負極活物質粒子の表層部に炭素材を形成した。この時点で、負極活物質粒子の一部を取り出し、後述のようにXANES測定した。」

「【0115】
(比較例1-1)
539?541eVの範囲のピークの有無、532eV近辺の最も強いピークの有無を変化させたことを除き、実施例1-1と同様に、二次電池を作製し、サイクル特性を評価した。この場合、ケイ素酸化物を作製する際の条件の変更(酸化珪素ガスの温度の変更、酸化珪素と同時に流すガス(不活性ガス,還元ガス)の変更、又は堆積板の温度の変更)により、539?541eVの範囲のピークの有無などを調整した。」

「【0120】
【表3】





ウ また、特許権者は、令和3年3月29日付けの意見書において、次の主張をしている。
「「負極活物質粒子」の作製方法は、本願明細書の段落[0067] - [0068]に記載されているとおりです。すなわち、酸化珪素ガスを発生させ、発生させ酸化珪素ガスを吸着板(堆積板)上で固体化させ堆積させれば、「負極活物質粒子」が得られます。
原料を気化させ、減圧下(例えば1 0 P a程度)で気化させた酸化珪素ガスを吸着板(堆積板)上に固体化して堆積させる方法では、酸化珪素ガスの平均自由行程の変化により、 吸着板(堆積板)の温度が堆積物の物性(特性)に大きな影響を及ぼすことは技術常識です。また、「酸化珪素ガスの温度」を変化させれば、堆積温度が変化することは自明のことです。「堆積板の温度」は、堆積温度そのものを意味します。「酸化珪素ガスと同時に流すガス(不活性ガス,還元ガス)」の流量や種類等を変更すれば、ガスの熱容量等による熱の移動が変化するため、堆積温度が変化します。このように、ケイ素化合物の堆積温度が負極活物質粒子の特性に係る重要なパラメータであることは、当業者にとって自明の事項であるか、当業者であれば容易に把握できる事項です。
そして、本件明細書に記載されるように「酸化珪素ガスの温度、酸化珪素ガスと同時に流すガス(不活性ガス,還元ガス)、又は堆積板の温度」から適宜パラメータを選択し調整して吸着板(堆積板)の温度を変化させて堆積を行い、様々な特性を有する負極活物質粒子を作製することは、当業者であれば何ら試行錯誤を要することではありません。換言すれば、堆積物の物性(特性)に大きな影響を及ぼすパラメータが、実質的に「吸着板(堆積板)の温度」であることが当業者にとって明らかである以上、「吸着板(堆積板)の温度」に係る条件を振って様々な特性を有する負極活物質粒子を作製することは、当業者にとって容易なことです。」(第4頁第1?23行)

エ さらに、特許権者は、令和3年8月12日付けの意見書において、次の主張をしている。
「令和 3年 3月29日付意見書でも説明したとおり、本件請求項1に係る「負極活物質粒子」が含まれた負極活物質の製造方法は、本願明細書の段落[0066]-[0067]の記載から、当業者にとって容易に理解可能です。本願明細書に記載のとおり「酸化珪素ガスの温度、酸化珪素ガスと同時に流すガス(不活性ガス,還元ガス)、又は堆積板の温度」から適宜パラメータを選択して堆積を行えば、本件請求項1に係る「負極活物質粒子」が得られます。要するに、「温度」が重要なパラメータであり、わずか1種類の条件(温度)を適宜調整することは、当業者にとって何ら困難なことではなく、むしろ極めて容易なことといえます。
取消理由通知の中で審判官殿は、『ク ここで、 上記キの方法は、 負極活物質 を作製し、 当該負極活物質から、本件粒子を選別するものであるが、作製した負極活物質に本件粒子が含まれていなければ、本件粒子を選別することができない。』と指摘しています。しかしながら、選別した結果、作製した負極活物質に本件粒子が含まれていなかった場合には、さらに上記のような条件を変更して作製すればよいにすぎません。」(第3頁第13?最終行)

オ 上記イの記載によれば、XANESスペクトルにおいて、539?541eVの範囲にピークを有する負極活物質粒子(以下、「本件粒子」という。)を作製する方法について、次の(ア)?(ウ)のとおりのことがいえる。
(ア)酸化珪素ガスを発生する原料を不活性ガスの存在下、減圧下で900℃?1600℃の温度範囲で加熱し、酸化珪素ガスを発生させ、吸着板(堆積板)上で固体化し堆積させる。
(イ)上記(ア)の加熱時に、酸化珪素ガスの温度、酸化珪素ガスと同時に流すガス(不活性ガス,還元ガス)、又は堆積板の温度を制御することで、XANESスペクトルにおいて532eV近辺に最も強いピークを有し、かつ、539?541eVの範囲にピークを有する負極活物質粒子を作製することができる。また、酸化珪素ガスを発生する原料の気化温度の変更、堆積板温度の変更、酸化珪素ガスの蒸着流に対するガス(不活性ガス,還元ガス)の噴射量若しくは種類の変更又は酸化珪素ガスを含む炉内の圧力の変更により、これらの負極活物質粒子を得やすくすることもできる。
(ウ)(イ)で得られた負極活物質粒子から、本件粒子を選別する。

カ ここで、上記オの方法は、負極活物質を作製し、当該負極活物質から、本件粒子を選別するものであるが、作製した負極活物質に本件粒子が含まれていなければ、本件粒子を選別することができない。

キ そこで、本件粒子が含まれた負極活物質の製造方法について、以下検討する。

ク 上記オの(ア)より、本件粒子を得るために、「酸化珪素ガスを発生する原料を不活性ガスの存在下、減圧下で900℃?1600℃の温度範囲で加熱し、酸化珪素ガスを発生させ、吸着板(堆積板)上で固体化し堆積させる」ことは理解できる。

ケ しかしながら、上記オの(イ)の「酸化珪素ガスの温度」、「酸化珪素ガスと同時に流すガス(不活性ガス,還元ガス)」の「噴射量若しくは種類」、「堆積板の温度」について、具体的な条件が、本件明細書には何ら記載されていないし、本件粒子を得るための方法が、本件特許の出願日当時に技術常識だったともいえない。

コ ここで、上記ウにおいて、特許権者は、上記ケの「酸化珪素ガスの温度」、「酸化珪素ガスと同時に流すガス(不活性ガス,還元ガス)」の流量や種類等を変化させれば、堆積温度が変化することは自明であるから、結局、ケイ素化合物の堆積温度が負極活物質粒子の特性に係る重要なパラメータであることは、当業者にとって自明の事項であるか、当業者であれば容易に把握できる事項である旨主張している。

サ また、上記エにおいて、特許権者は、本件発明1の「負極活物質粒子を得るためには、「温度」が重要なパラメータであり、わずか1種類の条件(温度)を適宜調整することは、当業者にとって何ら困難なことではなく、むしろ極めて容易なことといえる旨主張している。

シ そして、ケイ素化合物の堆積温度が負極活物質粒子の特性に係る重要なパラメータであることは、当業者にとって自明の事項であるか、当業者であれば容易に把握できる事項であるとの上記コの主張は理解できるし、わずか1種類の条件(温度)を適宜調整することは、当業者にとって何ら困難なことではないとの上記サの主張も理解できる。

ス そうすると、本件発明1は、本件明細書の記載または技術常識に基づき、当業者が過度の負担なく、実施することができたものといえる。

セ よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、請求項1及びそれらを引用する請求項2?9に係る発明について、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。

ソ なお、申立人は、令和3年6月1日付けの回答書において、次の主張をしている。
「堆積板の温度を制御するために条件を振ろうという発想自体は当業者にとって容易かもしれませんが、どの条件をどの方向に振れば堆積板の温度がどの程度どのように変化しているかということを把握するのは難しいということを特許権者も認めています。そのような条件を意のままに制御して、請求項1の負極活物質を製造することは当業者にとってもやはり困難であると言わざるを得ません。なぜなら堆積板の温度がXANESスペクトルという技術常識ではないパラメータにどのように影響するかについては自明でなく、現状より温度を上げればよいのか下げればよいのかさえ分からない為です。実際、特許権者も本件特許明細書においても、また意見書においても、堆積板の温度がどのように作用して目的のXANESスペクトルが現れるかについて言及していません。言及しているのはそのような活物質がどのように優れた電池特性を示すかについての説明のみです。これはつまりXANESスペクトルの特徴からどのような製造条件(堆積板の温度)が必要かを逆算することが困難であるということを意味します。」(第3頁第11?23行)

タ 確かに、申立人が主張するとおり、堆積板の温度がXANESスペクトルという技術常識ではないパラメータにどのように影響するかについては自明でなく、現状より温度を上げればよいのか下げればよいのかさえ分からない。

チ しかしながら、上記コ?シで検討したとおり、「ケイ素化合物の堆積温度」というわずか1種類の条件を変化させれば、本件発明1の「負極活物質粒子」が得られることが理解できる以上、たとえ現状より温度を上げればよいのか下げればよいのかさえ分からなくても、選別した結果、作製した負極活物質に本件発明1の「負極活物質粒子」が含まれていなかった場合、さらに温度を変化させればよく、また、「SiO_(x)(0.5≦x≦1.6)で表されるケイ素化合物」を堆積させ得る常識的な温度範囲が存在すると考えられるから、当業者が過度の負担なく、本件発明1の「負極活物質粒子」を作製することができるといえる。

ツ よって、申立人の上記ソの主張は理由がない。

(2)特許法第29条第1項第3号について(上記4の特許異議申立理由)
(2)-1 甲1の記載
甲1には、次の記載がある。なお、下線は当審で付した。
「【0099】
(実施例1-1)
以下の手順により、ラミネートフィルム型の二次電池を作製した。
・・・(略)・・・
【0101】
次に負極を作製した。負極活物質は以下のように作製した。まず、金属ケイ素と二酸化ケイ素を混合した原料を反応炉へ設置し、10Paの真空度の雰囲気中で気化させたものを吸着板上に堆積させ、十分に冷却した後、堆積物を取出しボールミルで粉砕し、ケイ素化合物(SiO_(x):0.5≦x<1.6)からなる粒子を作製した。この粒子の粒径を調整した後、図1に示すような、本発明の回転式筒状炉で熱分解CVDを行うことで炭素被膜を形成し、負極活物質を作製した。また、本発明の回転式筒状炉で熱分解CVDを行う際に、SiO_(x)の不均化も進行させた。なお、ここで使用した回転式筒状炉は、炉芯管の全炉長Aと加熱部の長さBの比B/Aが0.64であり、炉心管の出口端から加熱部までの距離Cと全炉長Aの比C/Aが0.18であり、炉芯管の直径Dと加熱部の長さBの比D/Bが0.11であるロータリーキルンとした。また、処理温度は1000℃、原料ガス種はメタン(50体積%、窒素希釈)、原料ガス供給量は150NL/min、最高温度域での粒子の滞留時間は3時間の条件でCVDを行った。なお、この時の、芯管内部における、ケイ素化合物(SiO_(x):0.5≦x<1.6)から成る粒子の充填率を10%とした。ここでいう充填率とは、(炉芯管内の粒子の容積)/(炉芯管の容積)として定義したものである。
・・・(略)・・・
【0103】
次に、作製した負極活物質、炭素系導電助剤、ポリアクリル酸を85:5:10の乾燥質量比で混合した後、純水で希釈し負極合剤スラリーとした。
【0104】
また、負極集電体としては、電解銅箔(厚さ15μm)を用いた。最後に、負極合剤のスラリーを負極集電体に塗布し真空雰囲気中で100℃×1時間の乾燥を行った。乾燥後の、負極の片面における単位面積あたりの負極活物質層の堆積量(面積密度とも称する)は3mg/cm^(2)であった。
・・・(略)・・・
【0106】
次に、以下のようにして二次電池を組み立てた。最初に、正極集電体の一端にアルミリードを超音波溶接し、負極集電体にはニッケルリードを溶接した。続いて、正極、セパレータ、負極、セパレータをこの順に積層し、長手方向に巻回させ巻回電極体を得た。その捲き終わり部分をPET保護テープで固定した。セパレータは多孔性ポリプロピレンを主成分とするフィルムにより多孔性ポリエチレンを主成分とするフィルムに挟まれた積層フィルム12μmを用いた。続いて、外装部材間に電極体を挟んだのち、一辺を除く外周縁部同士を熱融着し、内部に電極体を収納した。外装部材はナイロンフィルム、アルミ箔及び、ポリプロピレンフィルムが積層されたアルミラミネートフィルムを用いた。続いて、開口部から調整した電解液を注入し、真空雰囲気下で含浸した後、熱融着し封止した。
【0107】
続いて、このように作製した二次電池のサイクル特性及び初回効率を評価した。
・・・(略)・・・
【0111】
以下の表1に実施例1-1?1-7及び比較例1-1、1-2における実施結果をまとめたもの示す。
【0112】
【表1】




(2)-2 甲1に記載された発明
上記(2)-1によれば、甲1の実施例1-1の負極活物質に注目すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「金属ケイ素と二酸化ケイ素を混合した原料を反応炉へ設置し、10Paの真空度の雰囲気中で気化させたものを吸着板上に堆積させ、十分に冷却した後、堆積物を取出しボールミルで粉砕し、ケイ素化合物(SiO_(x):0.5≦x<1.6)からなる粒子を作製し、この粒子の粒径を調整した後、回転式筒状炉で熱分解CVDを行うことで炭素被膜を形成して作製した、負極活物質。」

(2)-3 対比・判断
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「負極活物質」は、「ケイ素化合物(SiO_(x):0.5≦x<1.6)からなる粒子を作製し、この粒子の粒径を調整した後、回転式筒状炉で熱分解CVDを行うことで炭素被膜を形成して作製した」ものであって、粒子状であると考えられるから、本件発明1の「負極活物質粒子を含む負極活物質」に相当する。

イ 甲1発明の「ケイ素化合物(SiO_(x):0.5≦x<1.6)からなる粒子」は、本件発明1の「SiO_(x)(0.5≦x≦1.6)で表されるケイ素化合物」に相当する。

ウ 上記ア、イより、本件発明1と甲1発明とは、
「負極活物質粒子を含む負極活物質であって、
前記負極活物質粒子は、SiO_(x)(0.5≦x≦1.6)で表されるケイ素化合物を含有する、負極活物質」一致し、次の点で相違する。

(相違点)
本件発明1は、「負極活物質粒子のXANES測定から得られるXANESスペクトルにおいて539?541eVの範囲にピークを有する」のに対し、甲1発明は、そのような特性を有するか否かが不明である点。

(2)-4 判断
ア 本件明細書【0104】(上記(1)のイ参照。)には、実施例1-1として、本件発明1の「負極活物質」を製造したことが記載されており、かかる製造方法と甲1発明で特定されている製造方法とは、金属珪素粉末と二酸化珪素粉末の混合物を原料として用いる点、10Paの真空度の雰囲気中で気化させたものを吸着板上に堆積させ、十分に冷却した後、堆積物を取出しボールミルで粉砕した点、及び、この粒子の粒径を調整した後、回転式筒状炉で熱分解CVDを行うことで炭素被膜を形成した点において共通している。

イ しかしながら、本件明細書【0068】(上記(1)のイ参照。)には、「発生した酸化珪素ガスは吸着板(堆積板)上で固体化され堆積される。この時、酸化珪素ガスの温度、酸化珪素ガスと同時に流すガス(不活性ガス,還元ガス)、又は堆積板の温度を制御することで、XANESスペクトルにおいて532eV近辺に最も強いピークを有し、かつ、539?541eVの範囲にピークを有する負極活物質粒子を作製することができる」と記載されており、実施例1-1の「負極活物質」の製造方法も甲1発明の製造方法も、ともに「酸化珪素ガスの温度、酸化珪素ガスと同時に流すガス(不活性ガス,還元ガス)、又は堆積板の温度」が不明であるから、両者において同じ「負極活物質」が製造されているとまではいえない。

ウ よって、本件発明1は甲1発明とはいえない。

エ なお、申立人は、特許異議申立書(第9頁第18?33行)において、本件明細書【0068】に記載された作製方法は、XANESスペクトルにおいて532eV近辺に最も強いピークを有することが特定されている、本件発明2の負極活物質を製造するための方法であり、本件発明1の負極活物質を製造するための方法ではないし、もし、本件発明1の製造方法であれば、本件発明1にも、XANESスペクトルにおいて532eV近辺に最も強いピークを有する特徴を追加すべきである旨主張している。

オ しかしながら、本件発明2は本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件明細書【0068】に記載された作製方法は、本件発明2の負極活物質を製造するための方法であると同時に、本件発明1の負極活物質を製造するための方法でもある。

カ そして、特許法第36条第5項に、「特許請求の範囲には、」「特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない」と定められているとおり、特許請求の範囲の記載事項は特許出願人が選択し得るものであって、本件発明1にも、XANESスペクトルにおいて532eV近辺に最も強いピークを有する特徴を追加すべきであると主張する根拠が不明である。

キ よって、申立人の上記エの主張には理由がない。

5 むすび
以上のとおり、本件の請求項1?9に係る特許は、令和3年2月15日付けで通知された取消理由に記載した取消理由、令和3年7月5日付けで通知された取消理由(決定の予告)に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできず、また、他に本件の請求項1?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-09-27 
出願番号 特願2016-207212(P2016-207212)
審決分類 P 1 652・ 536- Y (H01M)
P 1 652・ 113- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 前田 寛之  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 土屋 知久
磯部 香
登録日 2020-05-14 
登録番号 特許第6704327号(P6704327)
権利者 信越化学工業株式会社
発明の名称 負極活物質、負極、リチウムイオン二次電池、負極活物質の製造方法及びリチウムイオン二次電池の製造方法  
代理人 好宮 幹夫  
代理人 小林 俊弘  
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