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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1378767
異議申立番号 異議2021-700179  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-11-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-18 
確定日 2021-10-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第6744880号発明「リチウムイオン電池用正極活物質、リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン電池用正極及びリチウムイオン電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6744880号の請求項1?16に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件の特許第6744880号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?16に係る特許についての出願は、平成30年 2月 6日の出願であって、令和 2年 8月 4日にその特許権の設定登録がされ、同年 8月19日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1?16(全請求項)に係る特許について、令和 3年 2月18日に特許異議申立人である金澤 毅(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年 5月10日付けで取消理由が通知され、同年 7月 9日付けで特許権者から意見書及び証拠説明書が提出されたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?16に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明16」といい、総称して「本件特許発明」ということがある。)は、本件特許についての出願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?16に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
組成が次式:
Li_(a)Ni_(b)Co_(c)Mn_(d)O_(2)
(式中、1.00≦a≦1.02、0.8≦b≦0.9、b+c+d=1、c>0、d>0である)
で表される正極活物質粒子と、
前記正極活物質粒子の表面を部分的に被覆するニオブ酸リチウムを含む被覆層と、
からなり、
Ni、Co及びMnの総量に対するNbの割合が0.4?1.2mol%であるリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項2】
前記正極活物質全体の組成が次式:
Li_(a)Ni_(b)Co_(c)Mn_(d)Nb_(α)O_(2+3α)
(式中、1.004≦a≦1.02、0.8≦b≦0.9、b+c+d=1、c>0、d>0、0.004≦α≦0.012である)
で表される請求項1に記載のリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項3】
走査型電子顕微鏡(SEM)で前記正極活物質の断面を観察したときに、SEM-EDX測定で、前記正極活物質粒子の表面部分に前記被覆層で被覆されていない部分が確認できる請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項4】
Nb_(2)O_(5)を純水に分散して添加物スラリーを作製する工程と、
前記正極活物質粒子を純水に投入した媒体中に前記添加物スラリーを加え撹拌分散することで表面処理したスラリーを作製する工程と、
前記表面処理したスラリーをマイクロミストドライヤーによって乾燥して表面処理粒子を得る工程と、
前記表面処理粒子を650?800℃で熱処理する工程と、
を含む請求項1?3のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記Nb_(2)O_(5)を粉体として見たときの体積基準の平均粒径D50が0.3?0.8μmである請求項4に記載のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項6】
Nb_(2)O_(5)を純水に分散して添加物スラリーを作製する工程と、
ニッケルコバルトマンガン水酸化物を純水に投入した媒体中に前記添加物スラリーを加え撹拌分散することで表面処理したスラリーを作製する工程と、
前記表面処理したスラリーをマイクロミストドライヤーによって乾燥して表面処理前駆体を得る工程と、
前記表面処理前駆体にリチウム源を加え、650℃?800℃で焼成する工程と、
を含む請求項1?3のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記Nb_(2)O_(5)を粉体として見たときの体積基準の平均粒径D50が0.3?0.8μmである請求項6に記載のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項8】
組成が次式:
Li_(a)Ni_(b)Co_(c)Mn_(d)O_(2)
(式中、1.00≦a≦1.02、0.8≦b≦0.9、b+c+d=1、c>0、d>0である)
で表される正極活物質粒子と、
前記正極活物質粒子の表面を部分的に被覆し、ニオブ酸リチウムと、ジルコン酸リチウム及びタングステン酸リチウムの内1種又は2種とを含む被覆層と、
からなり、
Ni、Co及びMnの総量に対するNb、Zr及びWの割合が0.4?1.2mol%であるリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項9】
前記正極活物質全体の組成が次式:
Li_(a)Ni_(b)Co_(c)Mn_(d)Nb_(α)Zr_(β)W_(γ)O_(2+3α+3β+4γ)
(式中、1.004≦a≦1.02、0.8≦b≦0.9、b+c+d=1、c>0、d>0、0.004≦α+β+γ≦0.012である)
で表される請求項8に記載のリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項10】
走査型電子顕微鏡(SEM)で前記正極活物質の断面を観察したときに、SEM-EDX測定で、前記正極活物質粒子の表面部分に前記被覆層で被覆されていない部分が確認できる請求項8又は9に記載のリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項11】
Nb_(2)O_(5)と、ZrO_(2)及びWO_(3)の1種又は2種とを純水に分散させて添加物スラリーを作製する工程と、
前記正極活物質粒子を純水に投入した媒体中に前記添加物スラリーを加え撹拌分散することで表面処理したスラリーを作製する工程と、
前記表面処理したスラリーをマイクロミストドライヤーによって乾燥して表面処理粒子を得る工程と、
前記表面処理粒子を650?800℃で熱処理する工程と、
を含む請求項8?10のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項12】
前記Nb_(2)O_(5)、ZrO_(2)及びWO_(3)を粉体として見たときの体積基準の平均粒径D50が、それぞれ0.3?0.8μmである請求項11に記載のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項13】
Nb_(2)O_(5)と、ZrO_(2)及びWO_(3)の1種又は2種とを純水に分散させて添加物スラリーを作製する工程と、
ニッケルコバルトマンガン水酸化物を純水に投入した媒体中に前記添加物スラリーを加え撹拌分散することで表面処理したスラリーを作製する工程と、
前記表面処理したスラリーをマイクロミストドライヤーによって乾燥して表面処理前駆体を得る工程と、
前記表面処理前駆体にリチウム源を加え、650℃?800℃で焼成する工程と、
を含む請求項8?10のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項14】
前記Nb_(2)O_(5)、ZrO_(2)及びWO_(3)を粉体として見たときの体積基準の平均粒径D50が、それぞれ0.3?0.8μmである請求項13に記載のリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。
【請求項15】
請求項1?3及び8?10のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用正極活物質を備えたリチウムイオン電池用正極。
【請求項16】
請求項15に記載のリチウムイオン電池用正極を備えたリチウムイオン電池。」

第3 異議申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、後記する甲第1号証乃至甲第3号証を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項1?16に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

1 申立理由1(新規性)
本件特許発明1?3、8?10、15、16は、甲第1号証に記載された発明であるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

2 申立理由2(進歩性)
本件特許発明1?3、8?10、15、16は、甲第1号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

3 申立理由3(サポート要件)
(1)申立理由3-1
本件特許についての願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)に開示された比較例A3は、本件特許発明1?3、8?10、15、16の規定を充足するものであり、上記比較例A3を包含する本件特許発明1?3、8?10、15、16は、明らかに本件特許発明の課題を解決できない範囲を包含するものである。
したがって、本件特許請求の範囲の請求項1?3、8?10、15、16の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえないものであるから、同請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

(2)申立理由3-2
本件特許発明1?16は、課題解決のための必須の構成要件である被覆層に設けた空隙のサイズや、正極活物質を覆う被覆層の面積割合についての規定を有しないものであり、本件特許明細書に開示された範囲を超えるものである。
したがって、本件特許請求の範囲の請求項1?16の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえないものであるから、同請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

3 申立理由4(明確性要件)
本件特許発明1?16の「前記正極活物質粒子の表面を部分的に被覆」する点について、本件特許明細書の記載を参照しても、どのような観察条件でどのような状態が確認できれば「部分的に被覆」に該当するといえるのかが明らかでない。
したがって、本件特許請求の範囲の請求項1?6の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえないものであるから、同請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

<証拠方法>
甲第1号証:特開2016-42417号公報
甲第2号証:特開2009-76279号公報
甲第3号証:特開2010-225309号公報
(以下、上記甲第1号証?甲第3号証を「甲1」?「甲3」という。)

第4 令和 3年 5月10日付け取消理由通知で通知した取消理由の概要
1 取消理由1(進歩性:申立理由2を一部採用)
本件特許発明1?3、15、16は、甲1に記載された発明、及び甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

2 取消理由2(サポート要件:申立理由3-1を一部採用)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1?3、15、16の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえないものであるから、同請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

3 取消理由3(明確性要件:申立理由4を採用)
本件特許明細書の記載や本件特許についての出願時の技術常識を考慮しても、被覆層が正極活物質粒子表面を「部分的に被覆」しているか否かを確認するためのSEM-EDXによる観察条件は不明であると言わざるを得ず、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?16の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえないものであるから、同請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

第5 当審の判断
1 本件特許明細書の記載
本件特許明細書には、次の記載がある(なお、下線は当審が付したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)。
(1)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術で知られている方法によってリチウム含有遷移金属酸化物の表面にニオブ酸リチウムの被膜を設けると、リチウムイオン電池の充放電サイクルでの反応抵抗が増加するおそれがあり、更なる改善の余地がある。
【0006】
本発明は、良好な電池特性を有するリチウムイオン電池用正極活物質を提供することを課題とする。」

(2)「【0023】
〔実施形態1〕
(リチウムイオン電池用正極活物質の構成)
本発明の実施形態1に係るリチウムイオン電池用正極活物質は、Li_(a)Ni_(b)Co_(c)Mn_(d)O_(2)
(式中、1.00≦a≦1.02、0.8≦b≦0.9、b+c+d=1である)
で表される正極活物質粒子と、正極活物質粒子の表面を部分的に被覆するニオブ酸リチウムを含む被覆層とを有する。本発明の正極活物質粒子とは、被覆層を含まないコア部分のみの構成部分であり、また、正極活物質とは、正極活物質粒子に被覆層を含めた全体の構成部分をいう。
【0024】
従来、全固体電池では、正極活物質と硫化物系固体電解質中の硫黄との反応を防ぐため、ニオブ酸リチウムで正極活物質全体を被覆している。また、液系電池においても、電解液との反応を抑制するためにニオブ酸リチウムで正極活物質全体を被覆している。しかしながら、ニオブ酸リチウムは抵抗が大きいため、正極活物質全体を被覆すると充放電時の反応抵抗が大きくなり、電池特性が低下するおそれがある。これに対し、本発明の実施形態1に係るリチウムイオン電池用正極活物質は、上述のように組成式Li_(a)Ni_(b)Co_(c)Mn_(d)O_(2)で表される正極活物質粒子の表面に、ニオブ酸リチウムを含む被覆層が部分的に設けられている。このような構成により、当該正極活物質を用いたリチウムイオン電池の充放電サイクルでの反応抵抗増加を抑制し、放電容量及びサイクル特性が改善される。
【0025】
また、本発明の実施形態1に係るリチウムイオン電池用正極活物質は、正極活物質粒子を構成するリチウム含有遷移金属酸化物のNi、Co及びMnの総量に対するNiの組成比が0.8以上0.9以下という高い比率である。通常、このように正極活物質のNi比率が高いとリチウムイオン電池に用いたときに電解液と反応しやすくなるが、本発明の実施形態1に係るリチウムイオン電池用正極活物質では正極活物質粒子の表面に、ニオブ酸リチウムを含む被覆層が部分的に設けられているため、電解液との反応が良好に抑制される。このため、放電容量やサイクル特性等の電池性能低下を防止することができる。
【0026】
本発明の実施形態1に係るリチウムイオン電池用正極活物質は、Ni、Co及びMnの総量に対するNbの割合が0.4?1.2mol%に制御されている。このような構成により、放電容量がほとんど低下することなく、充放電サイクルでの反応抵抗増加を抑制し、及びサイクル特性を向上させることができる。Ni、Co及びMnの総量に対するNbの割合は、好ましくは0.5?1.1mol%であり、より好ましくは0.6?1.0mol%である。
・・・
【0028】
本発明の実施形態1に係るリチウムイオン電池用正極活物質は、走査型電子顕微鏡(SEM)で正極活物質の断面を観察したときに、SEM-EDX測定で、正極活物質粒子の表面部分に被覆層で被覆されていない部分を確認することができる。」

(3)「【0047】
(実施例A1、A2、A4、A5)
平均粒径D50が0.5μmのNb_(2)O_(5)を純水に撹拌分散し、超音波分散させて添加物スラリーを作製した。次に、別途準備しておいたニッケルコバルトマンガン水酸化物を純水に投入した媒体中に、上記の添加物スラリーを加え撹拌分散することで表面処理したスラリーを作製した。次に、表面処理したスラリーをマイクロミストドライヤーによって120℃で乾燥して微粉を除去し、表面処理前駆体を得た。次に、表面処理前駆体に水酸化リチウムを加え、酸素雰囲気下、740℃で12時間の焼成を行った。これにより、表1に示す組成を有する正極活物質粒子と、当該正極活物質粒子の表面を部分的に被覆するニオブ酸リチウムを含む被覆層とを有する正極活物質を得た。」

(4)「【0055】
(比較例A3)
表面処理したスラリーをステンレス製のバットに入れ、120℃の恒温槽に12時間投入し乾燥した以外は、実施例A1と同様な条件で正極活物質を作製した。」

(5)「【0061】
・被覆層の被覆状態
正極活物質をSEM-EDX測定することで、断面SEM観察写真を撮影し、目視にて被覆層の被覆状態を確認した。実施例A1?A9、実施例B1?B3については、被覆層が正極活物質粒子の表面に部分的に形成されていたのに対し、比較例A1は被覆層が正極活物質粒子の表面全体に形成されており、また、比較例A2は被覆層が形成されていなかった。なお、被覆層が部分的に形成されるとは、被覆層が正極活物質粒子表面全体に存在せず、かつ、被覆層が正極活物質粒子表面に一部でも存在していることがSEM-EDXにて確認できることをいう。」

(6)「【0063】
・放電容量、充放電サイクル、充放電サイクル後の抵抗の増加率
正極活物質と、導電材のアセチレンブラックと、バインダーのポリフッ化ビニリデンとを90:5:5の割合で秤量し、バインダーであるポリフッ化ビニリデンを有機溶媒(N-メチルピロリドン)に溶解し、正極活物質と導電材と共に混合してスラリー化し、アルミ箔上に塗布して乾燥させ、プレス成型して正極を形成した。
次に電池構造体として、対極となる陰極をLiとして評価用の2032型コインセルを作製し、電解液に1M-LiPF_(6)をEC-DMC(3:7)に溶解したものを用いて、下記条件で、放電容量(0.05C)、充放電サイクル(容量維持率)、充放電サイクル後抵抗(増加率)を測定した。
・放電容量(0.05C)
温度25℃、充電:4.30V、0.05C、20h、放電:3.0V、0.05C
・充放電サイクル(容量維持率)
温度55℃、充電:4.30V、1C、2.5h、放電:3.0V、1C
1サイクル目の放電容量に対する20サイクル目の放電容量の割合。
・充放電サイクル後抵抗(増加率)
温度55℃、充電:4.30V、1C、2.5h、放電:3.0V、1C
1サイクル目の直流抵抗値に対する20サイクル目の直流抵抗値の割合。
上記実施例A1?A9、実施例B1?B3、比較例A1?A3、及び、比較例B1、B2に係る試験条件及び評価結果を表1、2に示す。・・・」

(7)「【表1】




2 甲各号証の記載事項、及び引用発明
(1)甲1の記載事項、及び甲1に記載された発明
ア 甲1の記載事項
本件特許についての出願前に日本国内で公知となった甲1には、「リチウムイオン(lithiumion)二次電池」(発明の名称)に関し、次の記載がある。

(ア)「【請求項1】
複数の正極活物質一次粒子が凝集した正極活物質二次粒子、及び前記正極活物質二次粒子の表面の少なくとも一部を覆う被覆層を備える被覆粒子と、
前記被覆粒子に接触する固体電解質粒子と、を備え、
前記正極活物質二次粒子の平均粒径は、3.0?10.0μmであり、
前記被覆層は、ニッケルとは異なる元素Xを含有し、かつ、非晶質であり、
前記被覆層に含まれる元素Xと前記正極活物質二次粒子内のリチウム以外の全金属元素とのモル比が0.1?10.0mol%であることを特徴とする、リチウムイオン二次電池。」

(イ)「【0003】
全固体型リチウムイオン二次電池の固体電解質としては硫化物や酸化物等を使用できるが、リチウムイオン伝導性の観点から硫化物系の固体電解質が最も期待できる材料である。ところが、硫化物系の固体電解質を使用した場合には、充電の際に正極活物質粒子と固体電解質粒子との界面で反応が起こり、この界面に抵抗成分が生成することにより、正極活物質粒子と固体電解質粒子との界面をリチウムイオンが移動する際の抵抗(以下、「界面抵抗」とも称する。)が増大しやすくなる。この界面抵抗の増大により、リチウムイオン伝導性が低下するため、全固体型リチウムイオン二次電池の出力が低下する、という問題があった。
【0004】
このような問題に対して、LiCoO_(2)(以下、「LCO」とも称する。)等の正極活物質粒子の表面をリチウムイオン導電層で被覆することが検討されている。例えば、特許文献1や特許文献2では、正極活物質粒子の表面をLiNbO_(3)、Li_(4)Ti_(5)O_(12)やAl化合物などで被覆することが報告されている。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記の技術では、全固体型リチウムイオン二次電池の出力、特に放電容量及びサイクル特性について満足な値を得ることができなかった。そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、全固体型リチウムイオン二次電池の放電容量及びサイクル特性を改善することが可能な、新規かつ改良されたリチウムイオン二次電池を提供することにある。」

(ウ)「【0031】
<3.リチウムイオン二次電池の構成>
続いて、図1を参照しながら、本発明の好適な実施形態に係るリチウムイオン二次電池の構成について詳細に説明する。図1は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池1の構成を模式的に示す説明図である。
【0032】
図1に示すように、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池1は、全固体型リチウムイオン二次電池であり、正極層10と、負極層20と、正極層10及び負極層20の間に設けられる固体電解質層30とが積層された構造を有する。
【0033】
(2.1.正極層10)
正極層10は、被覆粒子10aと固体電解質粒子31とを混合した混合粒子を含む。被覆粒子10aは、正極活物質粒子11と、正極活物質粒子11の表面を覆う被覆層12とを有する。したがって、被覆層12が固体電解質粒子31に接触する。上述したように、固体電解質粒子131を使用したリチウムイオン二次電池100は、正極活物質粒子111と固体電解質粒子131との界面での反応により界面抵抗が上昇し、電池の出力が低下するという問題がある。しかし、本実施形態に係る全固体型のリチウムイオン二次電池1によれば、正極活物質粒子11の表面が特定の組成及び層厚を有する被覆層12で被覆されている。さらに、正極活物質粒子11の粒径(二次粒径)は特定の範囲内の値となっている。このため、固体電解質粒子31中の硫黄元素と正極活物質粒子11中の遷移金属元素との反応(副反応)が抑制され、かつ、リチウムイオン二次電池1の出力が向上する。
【0034】
なお、正極活物質粒子11は、その表面の少なくとも一部が被覆層12で被覆されていればよい。すなわち、正極活物質粒子11の表面全体が被覆層12で被覆されていてもよく、正極活物質粒子11の表面が部分的に被覆層12で被覆されていてもよい。
【0035】
また、正極活物質粒子11の粒子表面に被覆層12が形成されていることは、例えば、正極活物質粒子11と被覆層12との構造上の差異に起因するコントラストの違いを利用した、顕微鏡画像(電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)の画像)解析等の方法により確認することができる。以下、正極層10に含まれる正極活物質粒子11及び被覆層12について詳述する。」

(エ)「【0036】
(正極活物質粒子11)
正極活物質粒子11は、図2に示すように、複数の正極活物質一次粒子11aが凝集した正極活物質二次粒子として存在する。
・・・
【0038】
正極活物質粒子11を構成する正極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出することが可能な物質であれば特に限定されず、例えば、コバルト酸リチウム(LCO)、ニッケル酸リチウム、ニッケルコバルト酸リチウム、ニッケルマンガン酸リチウム、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム(以下、「NCA」と称する場合もある。)、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(以下、「NCM」と称する場合もある。)、マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウム、硫化ニッケル、硫化銅、硫黄、酸化鉄、酸化バナジウム等が挙げられる。これらの正極活物質は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
・・・
【0040】
化学式1で示される正極活物質の例としては、LiNi_(0.8)Co_(0.15)Al_(0.05)O_(2)、LiNi_(1/3)Co_(1/3)Mn_(1/3)O_(2、)LiNi_(0.5)Co_(0.2)Mn_(0.3)O_(2)、LiNi_(0.8)Co_(0.1)Mn_(0.1)O_(2)等が挙げられる。なお、化学式1の組成を有しないが、本実施形態に適用可能な正極活物質として、Li_(1.15)(Ni_(0.2)Co_(0.2)Mn_(0.6))_(0.85)O_(2)も挙げられる。化学式2で示される正極活物質の例としては、LiNi_(0.5)Mn_(1.5)O_(4)等が挙げられる。
【0041】
このように、本実施形態では、正極活物質粒子11は、ニッケルを多く含む(y>0.3)ことが好ましい。ニッケルを多く含む正極活物質粒子11は、リチウムイオン二次電池1の放電容量を大きくすることができる。その反面、ニッケルを多く含む正極活物質粒子11は、正極活物質粒子11内のリチウムイオンの拡散速度が遅い(例えば、コバルト酸リチウムよりも拡散速度が2桁程度遅い)ので、サイクル特性が低くなりやすい。しかし、本実施形態のように正極活物質粒子11の平均粒径を適切な範囲に調整することで、放電容量及びサイクル特性が向上する。」

(オ)「【0043】
(被覆層12)
被覆層12は、正極活物質粒子11の表面の少なくとも一部を覆う。また、被覆層12は、ニッケルとは異なる元素Xを少なくとも含有する。被覆層12は、リチウムをさらに含有することが好ましい。
【0044】
被覆層12は、非晶質である。さらに、元素Xと正極活物質粒子11内のリチウム以外の全金属元素とのモル比(原子数比)は、0.1?10.0mol%である。このモル比は、元素Xのモル数(原子数)を正極活物質粒子11内のリチウム以外の全金属元素のモル数(原子数)で除算することで得られる。以下、このモル比を、単に「被覆層12の被覆量」とも称する。
【0045】
ここで、元素Xは、ニッケルとは異なる元素であり、金属元素及び半金属元素のうち少なくとも1種であることが好ましい。元素Xは、Y,La,Ce,Nd,Sm,Eu,Ti,Zr,V,Nb,Cr,Mn,Fe,Co,Cu,Zn,Al,Si,Ga、Ge,及びInからなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。元素Xは、これらの元素のうち、Zr以外の元素であってもよい。被覆層12は、上記組成を有することで、正極活物質粒子11の表面に存在する遷移金属元素と固体電解質粒子31の表面に存在する硫黄元素との副反応を抑制することができ、ひいては、リチウムイオン二次電池1の出力を向上することができる。」

(カ)「【0077】
(1.実施例1)
(1.1正極活物質粒子11の作製)
実施例1では、以下の工程により被覆粒子10aを作製した。硫酸ニッケル6水和物(NiSO_(4)・6H_(2)O)、硫酸コバルト5水和物(CoSO_(4)・5H_(2)O)、および硝酸アルミニウム(Al(NO_(3))_(3))をイオン交換水に溶解させ、混合水溶液を製造した。ここで、硫酸ニッケル6水和物、硫酸コバルト5水和物、および硝酸アルミニウムの総質量は、混合水溶液の総質量に対して、20質量%とした。また、硫酸ニッケル6水和物、硫酸コバルト5水和物、および硝酸アルミニウムの混合比は、Ni、Co、およびAlの各元素のモル比が、Ni:Co:Al=80:15:5となるように設定した。
【0078】
また、反応層に所定量(例えば500ml)のイオン交換水を投入し、このイオン交換水の温度を50℃に維持した。次に、窒素ガスによってイオン交換水をバブリングすることによって溶存酸素を除去した。
【0079】
ついで、反応層内のイオン交換水を撹拌し、イオン交換水の温度を50℃に維持しながら、上述した混合水溶液をイオン交換水に滴下した。さらに、イオン交換水に、飽和NaOH水溶液を混合水溶液のNi、Co、Alに対して過剰量滴下した。滴下中は、反応層水溶液のpHを11.5に、温度を50℃に維持した。混合水溶液及び飽和NaOH水溶液の滴下速度は3ml/min程度とした。また、撹拌速度は周速で4?5m/sとした。混合水溶液及び飽和NaOH水溶液の滴下は、10時間程度で行った。これにより、各金属元素の水酸化物塩が共沈した。
【0080】
続いて、吸引ろ過を行い、共沈水酸化物塩を反応層水溶液から取り出し、取り出した共沈水酸化物塩をイオン交換水で洗浄した。さらに、共沈水酸化物塩を真空乾燥させた。この時の温度は、100℃とし、乾燥時間は、10時間とした。
【0081】
次に、乾燥後の共沈水酸化物塩を乳鉢で数分間粉砕し、乾燥粉末を得た。そして、乾燥粉末と、水酸化リチウム(LiOH)とを混合することで、混合粉体を生成した。ここで、LiとNi+Mn+Al(=Me)とのモル比Li:Meは1.0:1.0とした。【0082】
さらに、この混合粉体を酸化雰囲気下で焼成した。焼成温度は、700?800℃とし、焼成時間は、10時間とした。以上の工程により、実施例1に係る正極活物質粒子11(以下、「正極活物質粒子11-1」とも称する)を作製した。正極活物質粒子11-1の組成は、LiNi_(0.8)Co_(0.15)Al_(0.05)O_(2)で示される。
【0083】
ついで、正極活物質粒子11-1の平均粒径(D50)をレーザ回折・散乱式粒度分布計(日機装株式会社製マイクロトラックMT-3000II)で測定したところ、7.0μmであった。
【0084】
(1.2.被覆粒子10aの作製)
実施例1では、以下の工程により被覆粒子10aを作製した。リチウムメトキシドメタノール10%溶液0.2質量gと、ランタン(III)プロポキシドとを、テトラヒドロフランとアセト酢酸エチルとの混合溶液中で30分混合した。この混合溶液中に、正極活物質粒子11-1を添加した。ここで、ランタン(III)プロポキシドに含まれるランタンのモル数n_(1)、及び正極活物質粒子11-1内のリチウム以外の全金属元素のモル数n_(2)は、被覆層12の被覆量が1.0mol%となるように(すなわち、n_(1)とn_(2)との比が1.0mol%となるように)調製した。
【0085】
ついで、得られた混合溶液を40℃に加熱して撹拌しながら溶媒を全て蒸発させた。溶媒の蒸発は、混合溶液には超音波を照射しながら行った。これにより正極活物質粒子11-1の表面にリチウム-ランタン酸化物の反応前駆体が担持された。さらに、正極活物質粒子11-1表面へ担持されたリチウム-ランタン酸化物の前駆体を、酸素を吹き込みながら350℃で1時間焼成した。これにより、実施例1に係る被覆粒子10a(以下、「被覆粒子10a-1」とも称する)を得た。実施例1の被覆層12は、リチウム-ランタン酸化物で構成され、かつ被覆量は1.0mol%となる。また、被覆粒子10aの粉末X線回折測定を行ったところ、正極活物質に由来するピークだけが確認された。この結果、被覆層12が非晶質であることが確認された。」

(キ)「【0087】
(1.4.リチウムイオン二次電池の作製)
以下の工程により、リチウムイオン二次電池1を作製した。なお、以下の工程は全て不活性ガス雰囲気下で行われた。被覆粒子10a-1と、固体電解質粒子31と、導電助剤としてのカーボンブラック粉末とを、60/35/5の質量比で乳鉢を用いて均質になるまで混合した。これにより、正極合剤を得た。この正極合剤30mgを、成形冶具中に挿入して、2ton/cm^(2)でプレス成形することで、正極合剤をペレット化した。そして、ペレット化された正極合剤を、ステンレス製集電体上に積層させることで、正極層10を作製した。
【0088】
ついで、100mgの固体電解質粒子31を、成形冶具中に挿入して、2ton/cm^(2)でプレス成形することで、固体電解質層30を作製した。この成形冶具中に上記正極層を挿入し2ton/cm^(2)でプレス成形することで、固体電解質層30と正極層10とを一体化させた。
【0089】
ついで、固体電解質層30が正極層10と負極層20とで挟持されるように、成形冶具中に負極合剤として、黒鉛粉末(80℃で24時間真空乾燥したもの)30.0mgを挿入し、4ton/cm^(2)でプレス成形した。これにより、固体電解質層30と負極層20とを一体化させた。以上の工程により、試験用セルを得た。」

(ク)「【0102】
(13.実施例13)
リチウムメトキシドメタノール10%溶液0.2質量gと、ニオブ(V)プロポキシドとを、イソプロパノールの溶液中で30分混合したことを除き、実施例1と同様の工程で正極活物質粒子11を作製した。それ以外は実施例1と同様とした。
【0103】
(14.実施例14)
硝酸アルミニウムを硫酸マンガン7水和物に変更し、かつ、硫酸ニッケル6水和物、硫酸コバルト5水和物、および硫酸マンガン7水和物の混合比を、Ni、Co、およびMnの各元素のモル比が、Ni:Co:Mn=80:10:10となるように設定した他は、実施例1と同様の処理を行うことで、正極活物質粒子11を作製した。また、正極活物質粒子11を分級することで、平均粒径を9.0μmとした。それ以外は実施例1と同様の処理を行った。」

(ケ)「【表1】




(コ)「【0117】
表1、2によれば、本実施形態の被覆粒子10aを有する実施例1?18は、被覆粒子10aを有しない比較例1?6よりも放電容量及びサイクル特性が顕著に向上していることが確認された。」

イ 甲1に記載された発明
上記ア(ア)?(コ)の記載事項を総合勘案し、特に、実施例14の「被覆粒子10a」、「正極層10」、及び「リチウムイオン二次電池1」に着目すると、甲1には、次の各発明が記載されていると認められる。

「LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2の組成を有し、平均粒径9.0μmの正極活物質粒子11と、その表面を覆う被覆層12とを有する被覆粒子10aであって、上記被覆層12は、非晶質のリチウム-ランタン酸化物で構成され、上記ランタンのモル数と、上記正極活物質粒子11内のリチウム以外の全金属元素のモル数との比が1.0mol%である、リチウムイオン二次電池の正極層10の作製に用いられる被覆粒子10a。」(以下、「甲1被覆粒子発明」という。)

(2)甲3の記載事項
また、本件特許についての出願前に日本国内で公知となった甲3には、「正極活物質材料の製造方法」(発明の名称)に関し、次の記載がある。

ア 「【請求項1】
酸化物正極活物質と、前記酸化物正極活物質の表面上に形成されたニオブ酸リチウム系化合物からなるコート部とを有する正極活物質材料の製造方法であって、
前記ニオブ酸リチウム系化合物の前駆体を含有するコート溶液を、前記酸化物正極活物質の表面上に塗布し、前駆体コート部を形成する塗布工程と、
前記前駆体コート部を有する酸化物正極活物質を、酸素濃度が25体積%以下である雰囲気で熱処理する熱処理工程と、
を有することを特徴とする正極活物質材料の製造方法。
【請求項2】
前記ニオブ酸リチウム系化合物が、ニオブ酸リチウム(LiNbO_(3))であることを特徴とする請求項1に記載の正極活物質材料の製造方法。」

イ 「【0007】
非特許文献1に記載されたように、LiCoO_(2)の表面をLiNbO_(3)で被覆すると、LiCoO_(2)および固体電解質材料の界面抵抗を低減させることができる。これは、LiNbO_(3)を用いることで、LiCoO_(2)および固体電解質材料が反応し、高抵抗層が生成することを抑制できるからであると考えられる。また、非特許文献1には、LiCoO_(2)の表面上に、LiNbO_(3)の前駆体を含有するコート溶液を塗布し、その後、純酸素雰囲気で熱処理することによって、LiCoO_(2)の表面をLiNbO_(3)で被覆する方法が開示されている。しかしながら、この方法で得られた材料(正極活物質材料)は、高抵抗層の生成を効果的に抑制できないという問題がある。本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、高抵抗層の生成を効果的に抑制することができる正極活物質材料の製造方法を提供することを主目的とする。」

ウ 「【0021】
図1は、本発明の正極活物質材料の製造方法の一例を示す概略断面図である。図1に示される製造方法おいては、まず、酸化物正極活物質1を用意し(図1(a))、次に、ニオブ酸リチウム系化合物の前駆体を含有するコート溶液を用いて、酸化物正極活物質1の表面上に、前駆体コート部2を形成する(図1(b))。その後、前駆体コート部2を有する酸化物正極活物質1を、上述した酸素濃度雰囲気で熱処理し、コート部3を形成する(図1(c))。これにより、酸化物正極活物質1と、酸化物正極活物質1の表面上に形成されたニオブ酸リチウム系化合物からなるコート部3と、を有する正極活物質材料10を得ることができる。
【0022】
図2は、従来の製造方法により得られた正極活物質材料と、本発明の製造方法により得られた正極活物質材料との違いを説明する概略断面図である。図2(a)に示すように、従来の製造方法により得られた正極活物質材料10は、コート部3の成分が、酸化物正極活物質1の内部に浸透するため、酸化物正極活物質1の表面上に形成されたコート部3の厚さが小さくなる。これに対して、図2(b)に示すように、本発明の製造方法により得られた正極活物質材料10は、酸化物正極活物質1の内部に浸透しないため、酸化物正極活物質1の表面上に、充分な厚さを有するコート部3を形成することができる。これによって、高抵抗層の生成を効果的に抑制することができるのである。・・・」

エ 「【0034】
3.正極活物質材料
次に、本発明により得られる正極活物質材料について説明する。本発明により得られる正極活物質材料は、酸化物正極活物質と、酸化物正極活物質の表面上に形成されたニオブ酸リチウム系化合物からなるコート部とを有する。コート部の平均厚さは、例えば0.1nm?30nmの範囲内であることが好ましく、1nm?15nmの範囲内であることがより好ましい。平均厚さが小さすぎると、高抵抗層の生成を効果的に抑制できない可能性があり、平均厚さが大きすぎると、イオン伝導性が低下する可能性があるからである。また、酸化物正極活物質の表面におけるコート部の被覆率は、例えば、50%以上であり、75%?95%の範囲内であることが好ましい。上記範囲内であれば、高抵抗層の生成をさらに効果的に抑制できるからである。」

オ 「【0046】
[実施例1]
まず、エタノール1000gに、リチウムエトキシド30gと、ニオブペンタエトキシド182gとを溶解させ、コート溶液を得た。なお、リチウムエトキシドおよびニオブペンタエトキシドは、モル比1:1の関係にある。次に、得られたコート溶液を、転動流動層を用いたコート装置にて、酸化物正極活物質(LiNiO_(2)、平均粒径D_(50)=2.5μm)の表面上に塗布した。この際、コート部の平均厚さが3nmとなるように、コート溶液を塗布した。なお、コート溶液の塗布量は、酸化物正極活物質の表面積とコート部の平均厚さとの積を考慮して決定した。その後、コーティングされた酸化物正極活物質を温風で乾燥させた。次に、得られた粉末を、大気雰囲気(酸素濃度:約20体積%)、400℃、30分間の条件で熱処理し、LiNiO_(2)の表面上にLiNbO_(3)からなるコート部を有する正極活物質材料を得た。」

カ 「【0055】
表2に示されるように、実施例1は、比較例1に比べて、界面抵抗値が約47%減少した。これは、比較例1では、コート部の成分が酸化物正極活物質の内部に浸透し、酸化物正極活物質の内部抵抗が増加したためであると考えられる。また、実施例1は、実施例2よりも界面抵抗値が顕著に小さくなることが確認された。これは、実施例1では、平均粒径が小さいため、酸素の脱離が生じにくくなっているためであると考えられる。」

キ 「【図1】




3 取消理由1(進歩性)、申立理由1(新規性)、及び申立理由2(進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1被覆粒子発明とを対比する。
(ア)甲1被覆粒子発明の「LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2の組成を有」する「正極活物質粒子11」は、本件特許発明1の「組成が次式:Li_(a)Ni_(b)Co_(c)Mn_(d)O_(2)(式中、1.00≦a≦1.02、0.8≦b≦0.9、b+c+d=1、c>0、d>0である)で表される正極活物質粒子」に相当する。

(イ)甲1被覆粒子発明の「正極活物質粒子11」「の表面を覆」い、「非晶質のリチウム-ランタン酸化物で構成され」る「被覆層12」と、本件特許発明1の「前記正極活物質粒子の表面を部分的に被覆するニオブ酸リチウムを含む被覆層」とは、正極活物質粒子の表面を被覆するリチウム含有金属酸化物を含む被覆層である点で共通する。

(ウ)甲1被覆粒子発明の「被覆層12」における「ランタンのモル数」と、「正極活物質粒子11内のリチウム以外の全金属元素のモル数」との比が「1.0mol%」である点と、本件特許発明1の「Ni、Co及びMnの総量に対するNbの割合が0.4?1.2mol%である」点とは、Ni、Co及びMnの総量に対する、被覆層に含まれるリチウム以外の金属元素の割合が0.4?1.2mol%である点で共通する。

(エ)甲1被覆粒子発明の「リチウムイオン二次電池の正極層10の作製に用いられる被覆粒子10a」は、本件特許発明1の「リチウムイオン電池用正極活物質」に相当する。

(オ)そうすると、本件特許発明1と甲1被覆粒子発明とは、次の点で一致する。
<一致点>
「組成が次式:Li_(a)Ni_(b)Co_(c)Mn_(d)O_(2)(式中、1.00≦a≦1.02、0.8≦b≦0.9、b+c+d=1、c>0、d>0である)で表される正極活物質粒子と、
前記正極活物質粒子の表面を被覆するリチウム含有金属酸化物を含む被覆層と、
からなり、
Ni、Co及びMnの総量に対する、被覆層に含まれるリチウム以外の金属元素の割合が0.4?1.2mol%であるリチウムイオン電池用正極活物質。」

(カ)一方で、本件特許発明1と甲1被覆粒子発明とは、次の点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明1の「被覆層」は、正極活物質粒子の表面を部分的に被覆するものであるのに対して、甲1被覆粒子発明の「被覆層12」は、正極活物質粒子の表面を部分的に被覆するものであるのか否か不明な点。

<相違点2>
被覆層に含まれる「リチウム含有金属酸化物」が、本件特許発明1では「ニオブ酸リチウム」であるのに対して、甲1被覆粒子発明では、「リチウム-ランタン酸化物」である点。

イ 相違点についての判断
そこで、上記相違点1、2についてまとめて検討する。
(ア)本件特許についての出願時の技術常識を考慮しても、甲1被覆粒子発明が上記相違点1、2に係る特定事項を備えたものであるといえる事情は見当たらないから、上記相違点1、2は、実質的な相違点である。

(イ)したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。

(ウ)次に、上記相違点1、2の容易想到性について検討するに、上記2(2)に摘記したとおり、甲3には、酸化物正極活物質の表面を部分的に被覆するニオブ酸リチウム(LiNbO_(3))からなるコート部を有する粉末状の正極活物質材料を採用することにより、酸化物正極活物質と固体電解質材料とが反応して高抵抗層が生成されるのを効果的に抑制することができる技術が記載されている。

(エ)そして、上記2(1)ア(イ)に摘記したとおり、甲1の【0003】、【0004】には、正極活物質粒子と固体電解質粒子との界面をリチウムイオンが移動する際の抵抗(界面抵抗)の増大への対策として、正極活物質粒子の表面をLiNbO_(3)などで被覆することが記載されている。

(オ)また、上記2(1)ア(ウ)に摘記したとおり、甲1の【0034】には、正極活物質粒子の表面が部分的に被覆層で被覆されていてもよい旨の示唆がある。

(カ)しかしながら、上記2(2)に摘記した事項を含む甲3の全記載を参照しても、上記(ウ)のとおり、酸化物正極活物質の表面をニオブ酸リチウムで部分的に被覆することは記載されているとしても、上記ニオブ酸リチウムを構成するNbを上記酸化物正極活物質内のリチウム以外の全金属元素の総量に対して「0.4?1.2mol%」の割合とすることまでは記載も示唆もされておらず、「被覆層12」における「ランタンのモル数」と、「正極活物質粒子11内のリチウム以外の全金属元素のモル数」との比が「1.0mol%」である甲1被覆粒子発明に対して、甲3に記載された上記(ウ)の技術を適用する動機付けを見いだすことはできない。
その他、申立人が提示する甲2の記載を勘案してもなお、上記相違点1、2に係る事項について容易に想到できたものとはいえない。

(キ)したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明に基いて、若しくは甲1に記載された発明、及び甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件特許発明8について
ア 対比
本件特許発明8と甲1被覆粒子発明とを対比する。
(ア)甲1被覆粒子発明の「LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2の組成を有」する「正極活物質粒子11」は、本件特許発明8の「組成が次式:Li_(a)Ni_(b)Co_(c)Mn_(d)O_(2)(式中、1.00≦a≦1.02、0.8≦b≦0.9、b+c+d=1、c>0、d>0である)で表される正極活物質粒子」に相当する。

(イ)甲1被覆粒子発明の「正極活物質粒子11」「の表面を覆」い、「非晶質のリチウム-ランタン酸化物で構成され」る「被覆層12」と、本件特許発明1の「前記正極活物質粒子の表面を部分的に被覆し、ニオブ酸リチウムと、ジルコン酸リチウム及びタングステン酸リチウムの内1種又は2種とを含む被覆層」とは、正極活物質粒子の表面を被覆するリチウム含有金属酸化物を含む被覆層である点で共通する。

(ウ)甲1被覆粒子発明の「被覆層12」における「ランタンのモル数」と、「正極活物質粒子11内のリチウム以外の全金属元素のモル数」との比が「1.0mol%」である点と、本件特許発明8の「Ni、Co及びMnの総量に対するNb、Zr及びWの割合が0.4?1.2mol%である」点とは、Ni、Co及びMnの総量に対する、被覆層に含まれるリチウム以外の金属元素の割合が0.4?1.2mol%である点で共通する。

(エ)甲1被覆粒子発明の「リチウムイオン二次電池の正極層10の作製に用いられる被覆粒子10a」は、本件特許発明8の「リチウムイオン電池用正極活物質」に相当する。

(オ)そうすると、本件特許発明8と甲1被覆粒子発明とは、次の点で一致する。
<一致点>
「組成が次式:Li_(a)Ni_(b)Co_(c)Mn_(d)O_(2)(式中、1.00≦a≦1.02、0.8≦b≦0.9、b+c+d=1、c>0、d>0である)で表される正極活物質粒子と、
前記正極活物質粒子の表面を被覆するリチウム含有金属酸化物を含む被覆層と、
からなり、
Ni、Co及びMnの総量に対する、被覆層に含まれるリチウム以外の金属元素の割合が0.4?1.2mol%であるリチウムイオン電池用正極活物質。」

(カ)一方で、本件特許発明8と甲1被覆粒子発明とは、次の点で相違する。
<相違点3>
本件特許発明8の「被覆層」は、正極活物質粒子の表面を部分的に被覆するものであるのに対して、甲1被覆粒子発明の「被覆層12」は、正極活物質粒子の表面を部分的に被覆するものであるのか否か不明な点。

<相違点4>
被覆層に含まれる「リチウム含有金属酸化物」が、本件特許発明8では「ニオブ酸リチウムと、ジルコン酸リチウム及びタングステン酸リチウムの内1種又は2種」であるのに対して、甲1被覆粒子発明では、「リチウム-ランタン酸化物」である点。

イ 相違点についての判断
事案に鑑み、上記相違点4について検討する。
(ア)本件特許についての出願時の技術常識を考慮しても、甲1被覆粒子発明が上記相違点4に係る特定事項を備えたものであるといえる事情は見当たらないから、上記相違点4は、実質的な相違点である。

(イ)したがって、上記相違点3について検討するまでもなく、本件特許発明8は、甲1に記載された発明であるとはいえない。

(ウ)次に、上記相違点4の容易想到性について検討するに、上記2(2)に摘記したとおり、甲3には、酸化物正極活物質の表面を部分的に被覆するニオブ酸リチウム(LiNbO_(3))からなるコート部を有する粉末状の正極活物質材料を採用することにより、酸化物正極活物質と固体電解質材料とが反応して高抵抗層が生成されるのを効果的に抑制することができる技術は記載されているものの、上記酸化物正極活物質の表面を部分的に被覆するコート部を「ニオブ酸リチウムと、ジルコン酸リチウム及びタングステン酸リチウムの内1種又は2種」から構成することまで記載や示唆がされているわけではなく、本件特許についての出願時の技術常識を考慮しても、甲1被覆粒子発明に対して、上記相違点4に係る特定事項を備えようとする動機付けを見いだすことはできない。
その他、申立人が提示する甲2の記載を勘案してもなお、上記相違点4に係る事項について容易に想到できたものとはいえない。

(エ)したがって、上記相違点3について検討するまでもなく、本件特許発明8は、甲1に記載された発明に基いて、若しくは甲1に記載された発明、及び甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件特許発明2、3、9、10、15、16について
本件特許発明2、3、9、10、15、16は、本件特許発明1又は本件特許発明8の発明特定事項を全て備えたものであり、上記(1)イ(イ)、(キ)、及び上記(2)イ(イ)、(エ)のとおり、本件特許発明1、8が甲1に記載された発明とはいえず、また、甲1に記載された発明に基いて、若しくは甲1に記載された発明、及び甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、本件特許発明1、8と同様の理由により、甲1に記載された発明とはいえず、また、甲1に記載された発明に基いて、若しくは甲1に記載された発明、及び甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1?3、8?10、15、16は、甲1に記載された発明とはいえないから、同発明に係る特許が、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものとはいえない。
また、本件特許発明1?3、8?10、15、16は、甲1に記載された発明に基いて、若しくは甲1に記載された発明、及び甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、同発明に係る特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。

4 取消理由2(サポート要件)、及び申立理由3-1(サポート要件)について
(1)上記1(1)に摘記した本件特許明細書の【0005】、【0006】の記載事項からすると、「良好な電池特性」とは、「リチウムイオン電池の充放電サイクルでの反応抵抗が増加」するのを抑制できることを意味すると解されることから、本件特許発明が解決しようとする課題は、リチウムイオン電池の充放電サイクルでの反応抵抗が増加することを抑制できる良好な電池特性を有するリチウムイオン電池用正極活物質を提供することにあるといえる。

(2)その観点から、「比較例A3」について検討すると、「比較例A3」の正極活物質は、上記1(7)に摘記した【表1】において、「充放電サイクル後の抵抗の増加率」が「120%」と記載されており、同【表1】に記載されている「実施例A1」?「実施例A9」の増加率よりも大きいものと認められるから、上記「比較例A3」の正極活物質は、上記アの「リチウムイオン電池の充放電サイクルでの反応抵抗が増加することを抑制できる良好な電池特性を有するリチウムイオン電池用正極活物質を提供する」という本件特許発明が解決しようとする課題を解決できているものとはいえないのではないかとの疑義が生じる。

(3)一方、上記「比較例A3」の正極活物質は、上記【表1】によれば、Li_(1.02)Ni_(0.82)Co_(0.15)Mn_(0.03)O_(2)の組成を有する正極活物質粒子と、当該正極活物質粒子の表面を部分的に被覆するとともに、正極活物質中のNi、Co及びMnの総量に対するNbの割合が0.8mol%であるLiNbO_(3)を含む被覆層からなるものであるから、本件特許発明1?3の発明特定事項をすべて備えたものといえる。

(4)また、同じく上記「比較例A3」の正極活物質を用いて作製された正極や、リチウムイオン電池は、本件特許発明15、16の発明特定事項をすべて備えたものといえる。

(5)上記(2)?(4)の検討結果によれば、本件特許発明1?3、15、16には、比較例A3の正極活物質、及びそれを用いて作製された正極やリチウムイオン電池のように、本件特許発明が解決しようとする課題を解決できることについて疑義が生じるような態様までも含まれているといえる。

(6)しかしながら、上記【表1】に記載された「比較例A3」の正極活物質の「充放電サイクル後の抵抗の増加率」である「120%」は、同【表1】に記載された「実施例A1」?「実施例A9」の増加率よりも大きいものの、「被覆層が正極活物質粒子の表面全体に形成され」た「比較例A1」の「185%」や、「被覆層が形成されていな」い「比較例A2」の「150%」(上記1(5)、(7)参照)よりは小さい値であり、その意味では、上記「比較例A3」の正極活物質も、リチウムイオン電池の充放電サイクルでの反応抵抗の増加を抑制できたものであって、本件特許発明が解決しようとする課題を解決できている態様といえる。

(7)したがって、本件特許発明1?3、15、16は、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものとはいえない。

(8)なお、上記「比較例A3」の正極活物質は、被覆層が「ジルコン酸リチウム及びタングステン酸リチウムの内1種又は2種」を含むものではない点で、本件特許発明8?10の発明特定事項をすべて備えたものとはいえないから、上記「比較例A3」の存在によっても、本件特許発明8?10が、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものとはいえない。

(9)よって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?3、8?10、15、16の記載は、この点で、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるから、同請求項に係る特許が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

5 取消理由3(明確性要件)、及び申立理由4(明確性要件)について
(1)「正極活物質粒子の表面を部分的に被覆」について
ア 本件特許請求の範囲の請求項1、8には、「前記正極活物質粒子の表面を部分的に被覆・・・被覆層」との記載がある。

イ そして、請求項1、8に記載された「部分的に被覆」するとの特定事項について、本件特許明細書の【0028】には、「本発明の実施形態1に係るリチウムイオン電池用正極活物質は、走査型電子顕微鏡(SEM)で正極活物質の断面を観察したときに、SEM-EDX測定で、正極活物質粒子の表面部分に被覆層で被覆されていない部分を確認することができる。」と記載され(上記1(2)参照)、同じく【0061】には、「正極活物質をSEM-EDX測定することで、断面SEM観察写真を撮影し、目視にて被覆層の被覆状態を確認した。・・・なお、被覆層が部分的に形成されるとは、被覆層が正極活物質粒子表面全体に存在せず、かつ、被覆層が正極活物質粒子表面に一部でも存在していることがSEM-EDXにて確認できることをいう。」と記載されているものの(上記1(5)参照)、本件特許明細書のすべての記載を参照しても、上記SEM-EDXによる観察をどのような条件で行ったのかについての明記はない。

ウ ここで、SEM-EDXにより観察を行う際、どのように観察する粒子を選択し、どのような倍率に設定するか等の観察条件によっては、同じ正極活物質の断面を観察しても、被覆層が正極活物質粒子表面を「部分的に被覆」していると評価できたり、できなかったりする可能性は否定できないものの、正極活物質粒子の表面をSEM-EDXにより観察すること自体は、一般的な手法であって、当業者が「目視にて被覆層の被覆状態を確認」する際に、わざわざ被覆層を見つけられないような特殊な条件設定をするとは考えにくく、通常の範囲で条件を設定した上で、正極活物質粒子表面の被覆層を確認していると考えられる。

エ したがって、本件特許明細書の記載や本件特許についての出願時の技術常識を考慮すれば、被覆層が正極活物質粒子表面を「部分的に被覆」しているか否かを確認するためのSEM-EDXによる観察条件が通常の範囲のものであることは、明らかといえるから、本件特許発明1、8及び請求項1、8を直接又は間接的に引用する本件特許発明2?7、9?16を明確に把握することはできる。

オ よって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?16の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるから、同請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

6 申立理由3-2(サポート要件)について
(1)上記4(1)で検討したとおり、本件特許発明が解決しようとする課題は、リチウムイオン電池の充放電サイクルでの反応抵抗が増加することを抑制できる良好な電池特性を有するリチウムイオン電池用正極活物質を提供することにあるといえる。

(2)ここで、本件特許の請求項1、8には、「前記正極活物質粒子の表面を部分的に被覆する・・・を含む被覆層」とは記載されているものの、この記載からは、上記「被覆層」により「部分的に被覆」された領域が「正極活物質粒子の表面」のどの程度の割合の領域を占め、逆に、上記「被覆層」により「被覆」されない領域が「正極活物質粒子の表面」のどの程度の割合の領域を占めているかまでは、明らかではない。

(3)そうすると、本件特許発明1、8及びこれらを直接又は間接的に引用する本件特許発明2?7、9?16には、正極活物質粒子の表面のほとんどの部分が被覆層により被覆される態様や、正極活物質粒子の表面のごく一部の部分のみが被覆層により被覆される態様も含まれると解され、これらの態様では、正極活物質と電解質との直接接触が妨げられて電池性能が十分発揮できない場合や、逆に、正極活物質と電解質との反応による高抵抗層の形成が十分抑制できない場合も想定される。

(4)しかしながら、本件特許明細書の【表1】の記載からすると、「正極活物質粒子の表面を部分的に被覆する」「被覆層」を備えた「実施例A1」?「実施例A9」の「放電容量(0.05C負荷)」、「充放電サイクル」の「容量維持率」、及び「充放電サイクル後抵抗」の「増加率」は、いずれも、「被覆層が正極活物質粒子の表面全体に形成され」た「比較例A1」や、「被覆層が形成されていな」い「比較例A2」の値に比べて、同等ないし改善したことが実証されており(上記1(7)参照)、また、本件特許発明1?16に、正極活物質粒子の表面のほとんどの部分が被覆層により被覆される態様や、正極活物質粒子の表面のごく一部の部分のみが被覆層により被覆される態様が含まれ得るからといって、これらの態様のものが、少なくとも「充放電サイクル後抵抗」の「増加率」において、上記「比較例A1」、「比較例A2」より劣るものとなるとの合理的疑いを生じるような事情を何ら見いだせない。

(5)したがって、本件特許発明1?16は、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものとはいえない。

(6)よって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?16の記載は、この点で、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるから、同請求項に係る特許が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、令和 3年 5月10日付け取消理由通知で通知した取消理由、及び申立人による特許異議の申立ての理由によっては、請求項1?16に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-09-27 
出願番号 特願2018-19623(P2018-19623)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (H01M)
P 1 651・ 121- Y (H01M)
P 1 651・ 537- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 磯部 香  
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 村川 雄一
粟野 正明
登録日 2020-08-04 
登録番号 特許第6744880号(P6744880)
権利者 JX金属株式会社
発明の名称 リチウムイオン電池用正極活物質、リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン電池用正極及びリチウムイオン電池  
代理人 アクシス国際特許業務法人  
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