ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード![]() |
審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A23L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A23L 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 A23L 審判 全部申し立て 2項進歩性 A23L |
---|---|
管理番号 | 1378772 |
異議申立番号 | 異議2021-700431 |
総通号数 | 263 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-11-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-05-06 |
確定日 | 2021-10-13 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6779272号発明「リコピン風味抑制方法、高リコピン含有ケチャップ及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6779272号の請求項1?4に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6779272号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成30年11月27日の出願であって、令和2年10月15日に特許権の設定登録がされ、令和2年11月4日にその特許公報が発行され、令和3年5月6日に、その請求項1?4に係る発明の特許に対し、加藤 純子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 特許第6779272号の請求項1?4に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明4」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 リコピン濃度25mg/100g以上50mg/100g以下であり、かつ、塩分0.5?2.5重量%のケチャップにおける、リコピン風味抑制方法であって、それを構成するのは、少なくとも以下である: 調整:ここで調整されるのは、ケチャップのオイゲノール含有量であり、前記ケチャップのオイゲノール含有量は、6.60ppm以上である。 【請求項2】 ケチャップであって、 当該ケチャップのリコピン含有量は、25mg/100g以上50mg/100g以下であり、 当該ケチャップの塩分は、0.5?2.5重量%であり、かつ、 当該ケチャップのオイゲノール含有量は、6.60ppm以上である。 【請求項3】 請求項2のケチャップであって、 前記ケチャップは、容器詰である。 【請求項4】 ケチャップの製造方法であって、それを構成するのは、少なくとも以下である: 調合:ここで調合されるのは、少なくとも、トマト加工原料、並びにオイゲノール又はそれを含有する食品であり、それによって得られるケチャップのリコピン含有量が25mg/100g以上50mg/100g以下であり、塩分が0.5?2.5重量%であり、かつ、オイゲノール含有量が6.60ppm以上である。」 第3 申立理由の概要及び証拠方法 申立人は、証拠方法として以下の甲第1号証?甲第18号証を提出して、以下の申立理由を主張している。 (証拠方法) 甲第1号証:特開2013-135639号公報(以下「甲1」という。) 甲第2号証:特開2015-146800号公報(以下「甲2」という。) 甲第3号証:食品と科学、第36巻、第4号、(1994)、p.125(以下「甲3」という。) 甲第4号証:特開2018-7643号公報(以下「甲4」という。) 甲第5号証:武政三男著、「スパイスのサイエンス」、(2005年6月25日第六刷発行)、株式会社文園社発行、p.102?103(以下「甲5」という。) 甲第6号証:宝酒造の公式ホームページ、「おいしさづくりの基礎知識 においに関する基礎知識」、[online]、公知日不明、[検索日令和3年5月6日]、インターネット<URL:https://www.takarashuzo.co.jp/products/seasoning/basicinfo/001.htm> (以下「甲6」という。) 甲第7号証:特開平10-276707号公報 (以下「甲7」という。) 甲第8号証:特許第6533001号公報(以下「甲8」という。) 甲第9号証:特開2006-81461号公報(以下「甲9」という。) 甲第10号証:西村 弘行、他2名著、「香辛料成分の食品機能」、(1989年5月10日初版第1刷発行)、株式会社光生館発行、p.88(以下「甲10」という。) 甲第11号証:日本香料協会編、「香りの百科」、(1989年6月25日初版第1刷)、株式会社朝倉書店発行、p.69(以下「甲11」という。) 甲第12号証:生活衛生、vol.38、(1994)、p.49-64(以下「甲12」という。) 甲第13号証:特表平11-501081号公報(以下「甲13」という。) 甲第14号証:特許第5124692号公報(以下「甲14」という。) 甲第15号証:米国特許第5,064,673号明細書(以下「甲15」という。) 甲第16号証:オレンジページnetのホームページ、「塩や砂糖の少々ってどのくらいの分量?」、[online]、公知日不明、[検索日令和3年4月30日]、インターネット<URL:https://www.orangepage.net/recipes/cooking_basics/2062> (以下「甲16」という。) 甲第17号証:オリーブオイルをひとまわしのホームページ、「「塩ひとつまみ」と「塩少々」。本当はどう違うの?」、[online]、2018年10月24日、[検索日令和3年4月30日]、インターネット<URL:https://www.olive-hitomawashi.com/column/2018/10/post-2059.html> (以下「甲17」という。) 甲第18号証:フライパン1つで秋のスパイスカレー「きのことツナ缶のミルクカレー」はクローブとクミンがめちゃめちゃいい仕事をしてくれる【バリ猫ゆっきー】のホームページ、「バリ猫ゆっきーの「きのことツナ缶のミルクカレー」」、[online]、2020年11月19日、[検索日令和3年4月30日]、インターネット<URL:https://www.hotpepper.jp/mesitsu/entry/balinekoyuki/2020-00226 > (以下「甲18」という。) (申立理由の概要) 申立理由1(サポート要件) 本件発明1?4は、特許請求の範囲の記載が以下の点で、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件発明1?4に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 (1)本件発明1?4においては、いずれも「オイゲノール含有量は6.60ppm以上」と下限値を規定するのみで、その上限値は規定されておらず、技術常識に鑑みれば、オイゲノールの配合量が一定量よりも多い場合(特にその配合量が8.58ppmよりも有意に多い場合)に、当業者が本件発明1?4の課題を解決し得ると認識できるとは認められないから、本件発明1?4は、課題を解決し得ない態様を含んでおり、課題を解決し得ると認識できる範囲のものとは認められず、技術常識からそのことが自明であるとも認められない。 (2)本件発明の「オイゲノール含有量は、6.60ppm以上」というパラメータは、試験例2の条件においてのみ成り立ち得るものであり、本件発明の「リコピン濃度25mg/100g以上50mg/100g以下」及び「塩分0.5?2.5重量%」というパラメータに関しても、それらの数値全般に亘ってその技術的課題を解決し得ると認識できず、試験例5、6の効果を前記範囲にまで一般化・抽象化し得ないから、本件発明1?4はサポート要件を満たしていない。 申立理由2(実施可能要件) 本件発明1?4に係る特許は、以下のとおり、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 前記申立理由1で述べたように、本件発明の「オイゲノール含有量は、6.60ppm以上」、「リコピン濃度25mg/100g以上50mg/100g以下」及び「塩分0.5?2.5重量%」の全範囲において、当業者がその技術的課題を解決し得ると認識できないから、これら全範囲において、過度な試行錯誤を要することなく、その風味改善効果が適切に発揮できるように本件発明1?4を実施することができるとは認められない。 申立理由3(新規性、進歩性) 本件発明1?4は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件発明1?4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 本件発明1?4は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲1に記載された発明及び甲1?18に記載された技術的事項に基いて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件発明に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 申立理由4(進歩性) 本件発明1?4は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲2に記載された発明及び甲1?18に記載された技術的事項に基いて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件発明に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 第4 当審の判断 1 申立理由1(サポート要件)について (1)特許法第36条第6項第1号の判断の前提について 特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものとされている。 以下、この観点に立って、判断する。 (2)特許請求の範囲の記載 前記第2に記載したとおりである。 (3)発明の詳細な説明の記載 ア 背景技術に関する記載 「【0002】 近年、健康志向の高まりの下、人々が注目するのは、食品の機能性である。中でも野菜は、様々な有用成分を豊富に含み、消費者の健康志向に応えるものである。野菜を効率的に摂取する形態の一つは加工食品である。加工食品を例示すると、飲料、調味料、サプリメントなどである。 【0003】 加工食品の一つとしてケチャップがある。ケチャップの主な原料は、トマト加工品である。トマト加工品には、機能性成分の一つであるリコピンが豊富に含まれている。リコピンが有するのは、強い抗酸化力であり、それによって、様々な疾病を予防することができるとされている。ケチャップは、リコピンの摂取源として有用である。そこで、市場に求められているのは、リコピン濃度が高いケチャップである。 【0004】 特許文献1が開示するのは、高リコピン含有ケチャップであり、その目的は、リコピンを高濃度に含有しながら、幅広い塩分濃度の範囲で、香味の良いケチャップを得ることである。当該ケチャップは、香気成分であるエステル類および/またはアルコール類を含有することである。・・・」 イ 発明が解決しようとする課題、及び、課題を解決するための手段に関する記載 「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 本発明が解決しようとする課題は、高リコピン含有ケチャップにおけるリコピンの風味を抑制することである。ケチャップが含有するのは、前述のとおり、リコピンである。リコピン濃度を高くすることで、リコピン由来のムレ臭、油脂臭が感じられ、不快な官能特性を有する。 【課題を解決するための手段】 【0007】 上記課題に対して、本願発明者が試行錯誤の上見出したのは、高リコピン含有ケチャップにおいて、オイゲノール(Eugenol)を含有させることである。好ましくは、特定のリコピン濃度のケチャップにおいて、オイゲノールを特定量含有させることである。この観点から本願発明者が完成させた発明は、次のとおりである。 【0008】 本発明に係るリコピン風味抑制方法を構成するのは、少なくとも、調整である。すなわち、高リコピン含有ケチャップにおいて、そのオイゲノール含有量は、調整されて、6.60ppm以上となる。より好ましくは、次のとおりである。当該オイゲノール含有量は、6.60ppm以上8.58ppm以下である。当該トマト含有飲料において、そのリコピン含有量は、25mg/100g以上である。 【0009】 本発明に係るケチャップが含有するのは、少なくとも、リコピン及びオイゲノールである。当該ケチャップにおけるリコピンの含有量は、25mg/100g以上50mg/100g以下である。当該オイゲノール含有量は、6.60ppm以上である。より好ましくは、次のとおりである。当該トマト含有飲料において、当該オイゲノール含有量は、6.60ppm以上8.58ppm以下である。」 ウ 発明の効果及びリコピン風味を抑制する作用機序に関する記載 「【発明の効果】 【0011】 本発明が可能にするのは、高リコピン含有ケチャップにおいて、リコピン風味を抑制することである。 【0012】 当該作用は明らかではないが、オイゲノールの特徴にその理由があるものと推測される。オイゲノールは別の嗅覚受容体の活性化を阻害するアンタゴニストとして働くことが知られている。また、オイゲノールを原料とした成分には皮脂の臭いに対する抑制効果が知られている。そのような観点から、高リコピンケチャップにおける、リコピンに由来するムレ臭、油脂臭といった感覚を、オイゲノールが抑制したものと推測される。」 エ 本実施の形態に係るケチャップの概要、塩分、リコピン及びオイゲノールに関する実施の態様の記載 「【0013】 <本実施の形態に係るケチャップの概要> 本実施の形態に係るケチャップ(以下、「本ケチャップ」という。)が実現するのは、高リコピン含有ケチャップにおけるリコピン風味の抑制である。その具体的な方法は、オイゲノールを特定量含有させることである。 ・・・・・ 【0016】 <塩分> 本ケチャップにおける塩分は、0.5?5.0重量%であることが好ましく、0.5?4.0重量%であることがより好ましく、0.5?2.5重量%であることがさらに好ましく、1.5?2.0重量%であることが一層好ましい。 【0017】 一般的なトマトケチャップの塩分は2.4?3.6重量%である。塩分摂取量の低下の観点から、塩分は低い方が好ましいが、塩分を低くすることで、リコピン由来のリコピン臭が感じやすくなる。本ケチャップにおいては、オイゲノールを特定量含有させることで、塩分が低くても、リコピン由来のリコピン臭を抑制することが可能となる。当該観点から、前記塩分であることが好ましい。塩分の測定方法は既知の方法で良い。例を挙げると、モール法である。 ・・・・・ 【0019】 <リコピン濃度> 本発明の実施の形態に係る、リコピンとは、英語表記ではLycopeneと表され、化学式C_(40)H_(50)で表されるカロテノイドの一種である。自然界には、トマトやスイカ、ニンジン等に多く含まれている。リコピンを工業的に濃縮や精製したリコピン製剤も市場において販売されている。一般的なトマトケチャップにおいては、リコピンは10mg/100gから20mg/100g程度含まれている。本実施の形態におけるケチャップにおいて、リコピン濃度は25mg/100g以上50mg/100mlであることが好ましい。より好ましくは30mg/100g以上40mg/100g以下である。さらに好ましくは、30mg/100g以上35mg/100g以下である。また好ましくは、30mg/100g以上33.1mg/100g以下である。食品添加物不使用の観点から、本実施の形態におけるケチャップは、食品添加物としてのリコピンを使用しないことが好ましい。 【0020】 <本ケチャップにおけるリコピン風味> 当該不快味が感じられるのは、前述のとおり、本ケチャップのリコピン含有量が25mg/100g以上の場合である。リコピンが呈するのは、ムレ臭、又は油脂様臭として表される風味である。そのようなリコピン風味は、喫食しにくさの要因の一つである。リコピンの風味に関する技術的知見として、本明細書が取り込むのは、特開2015-146800号公報である。 【0021】 <本ケチャップのオイゲノール含有量> 本ケチャップのオイゲノール含有量は、6.60ppm以上であり、好ましくは、6.60ppm以上8.58ppm以下である。本ケチャップにおいて、オイゲノール含有量が6.60ppm以上であれば、リコピン風味が抑制される。オイゲノールの測定手段は、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS法)である。 【0022】 <オイゲノール及びそれを含有する食品> オイゲノールは、広く知られた食品香料である。また、オイゲノールは、天然成分でもある。すなわち、オイゲノールが含まれるのは、様々な植物(野菜や果実等)であり、例示すると、クローブ、オールスパイス、タラゴン等である。オイゲノールが呈するのは、クローブ様のスパイシー香気である。オイゲノールを含む食品とは、食品であって、当該成分を添加した場合と同様の効果を有するものをいう。例示すると、前記クローブ、オールスパイス等の香辛料であり、これらを単一で用いても良いし、二以上組み合わせて用いてもよい。」 オ 実施例に関する記載 「【実施例】 【0039】 <試験例1、及び2> 試験例1、及び試験例2では、調合工程において、市販のトマトペースト(Brix26.8、リコピン54.1mg/100g)、食塩、砂糖、及び醸造酢を表1に示す分量で配合し、水で加水して、撹拌、混合した。その後95℃達温となるように加熱殺菌した。 【0040】 <試験例3?6> 試験例3?6では、試験例2のケチャップに、オイゲノール濃度がそれぞれ、0.66(試験例3)、4.36(試験例4)、6.60(試験例5)、及び8.58ppm(試験例6)となるように、オイゲノール標準品(和光純薬社製)を添加し、各オイゲノール濃度のケチャップを得た。 ・・・・・ 【0047】 ・・・・・ <官能評価> 試験例1と試験例2を比較した際、リコピン風味を強く感じる区分、すなわち、リコピン含有量が高い試験例2を選択できた者をリコピン風味識別能力のあるパネリストとして選定した。本評価は、選定した7名のパネリストによる3点識別法で行い、試験例2を比較対照として、試験例3?6、試験例7?10、並びに試験例11?14それぞれについて、リコピン風味の有意差の有無を検証した。リコピン風味抑制効果があるか否かの評価は、2項選択法により行った。リコピン風味抑制効果は、選定した7名のパネリストの評価結果をもって、有意差検定(危険率5%)により行うものとした。 【0048】 <官能評価結果> 表2乃至表4は、それぞれ評価区分1(試験例3乃至6、対照:試験例2)、評価区分2(試験例7乃至10、対照:試験例2)、評価区分3(試験例11乃至14、対照:試験例2)における官能評価試験により、ケチャップのオイゲノールによるリコピン風味の抑制効果を検証したものである。表2の結果より、リコピン含有量33.1mg/100gのトマト含有飲料において、オイゲノール含有量が6.60?8.58ppmであった場合に危険率5%で有意にリコピン風味を抑制できることを確認できた。・・・・・ 【0049】 【表1】 ![]() 【0050】 【表2】 ![]() ・・・・・ 【0053】 <考察> 試験例3乃至6の結果より、オイゲノールがリコピン風味抑制に効果があることが確認できた。特に、オイゲノール濃度6.60?8.80ppmにおいて効果があることがわかった。・・・・・」 (4)判断 ア 本件発明の課題について 発明の詳細な説明の、背景技術の記載(【0002】?【0005】)、発明が解決しようとする課題の記載(【0006】)、本ケチャップにおけるリコピン風味の記載(【0020】)及び実施例の記載(【0039】?【0053】)等からみて、本件発明1の課題は、高リコピン含有ケチャップにおけるリコピン由来のムレ臭又は油脂臭を抑制する方法を提供すること、本件発明2、3の課題は、リコピン由来のムレ臭又は油脂臭が抑制された高リコピン含有ケチャップを提供すること、及び、本件発明4の課題は、リコピン由来のムレ臭又は油脂臭が抑制された高リコピン含有ケチャップの製造方法を提供することであると認める。 イ 本件発明1?4の「オイゲノール含有量」は「6.60ppm以上」について (ア)発明の詳細な説明の、実施例(【0039】?【0053】)には、試験例2として、市販のトマトペースト(Brix26.8、リコピン54.1mg/100g)、食塩、砂糖及び醸造酢を表1の試験例2に示す分量で配合し調製したケチャップ(Brix33.1、塩分1.5重量%、リコピン濃度33.1mg/100g)に、オイゲノールを0.66ppm、4.36ppm、6.60ppm、8.58ppmそれぞれ添加し、リコピン風味が抑えられているか否かの官能試験をしたところ、オイゲノールを6.60ppmよりも少ない0.66ppm、4.36ppm添加したもの(試験例3、4)は、リコピン風味を抑制する効果はなしであったが、オイゲノールを6.60ppm、8.58ppm添加したもの(試験例5、6)は、リコピン風味を抑制する効果があったことを客観的に確認したことが記載されている。 (イ)発明の詳細な説明には、オイゲノール含有量について、一般的な実施の態様として、「【0021】・・ 本ケチャップのオイゲノール含有量は、6.60ppm以上であり、好ましくは、6.60ppm以上8.58ppm以下である。本ケチャップにおいて、オイゲノール含有量が6.60ppm以上であれば、リコピン風味が抑制される」(決定注:下線は当審が付与。以下同様。)と記載されている。 さらに、リコピン風味を抑制する作用機序について、「【発明の効果】【0011】 本発明が可能にするのは、高リコピン含有ケチャップにおいて、リコピン風味を抑制することである。【0012】 当該作用は明らかではないが、オイゲノールの特徴にその理由があるものと推測される。オイゲノールは別の嗅覚受容体の活性化を阻害するアンタゴニストとして働くことが知られている。また、オイゲノールを原料とした成分には皮脂の臭いに対する抑制効果が知られている。そのような観点から、高リコピンケチャップにおける、リコピンに由来するムレ臭、油脂臭といった感覚を、オイゲノールが抑制したものと推測される」と記載されており、オイゲノールが、嗅覚受容体の活性化を阻害するアンタゴニストとして作用することにより、リコピンに由来するムレ臭又は油脂臭を抑制したものと当業者には認識される。 (ウ)これらの記載より、高リコピン含有ケチャップにおいて、オイゲノール含有量が6.60ppm以上であれば、リコピン風味が抑制されるものであり、オイゲノールの含有量が試験例3、4で実施された含有量である6.60ppm、8.58ppmよりも有意に多い場合であっても、オイゲノールが存在することから、オイゲノールが嗅覚受容体の活性化を阻害するアンタゴニストとして作用し、リコピンに由来するムレ臭又は油脂臭を抑制し得ると当業者には認識される。 そうすると、オイゲノールの含有量の上限が特定されていないとしても、オイゲノールが一定量以上含有すれば、嗅覚受容体の活性化を阻害し、リコピンに由来するムレ臭又は油脂臭を抑制し得るといえ、高リコピン含有ケチャップにおけるリコピン由来のムレ臭又は油脂臭を抑制する方法、リコピン由来のムレ臭又は油脂臭が抑制された高リコピン含有ケチャップ、及び、そのような高リコピン含有ケチャップの製造方法を、それぞれ提供でき、当業者が本件発明1?4の課題を解決できると認識できる。 ウ 本件発明1の「リコピン濃度25mg/100g以上50mg/100g以下」及び本件発明2?4の「リコピン含有量」は「25mg/100g以上50mg/100g以下」、並びに、本件発明1?4の「塩分」は「0.5?2.5重量%」について (ア)本件発明1?4の「リコピン濃度」又は「リコピン含有量」について、発明の詳細な説明には、一般的な実施の態様の記載として、「【0019】<リコピン濃度>・・本実施の形態におけるケチャップにおいて、リコピン濃度は25mg/100g以上50mg/100mlであることが好ましい。・・【0020】<本ケチャップにおけるリコピン風味>当該不快味が感じられるのは、前述のとおり、本ケチャップのリコピン含有量が25mg/100g以上の場合である。リコピンが呈するのは、ムレ臭、又は油脂様臭として表される風味である」と記載されており、リコピン濃度が25mg/100g以上であれば、リコピン由来のムレ臭又は油脂臭が感じられると当業者には認識される。 そして、「リコピン濃度」又は「リコピン含有量」が25mg/100g以上50mg/100mlのケチャップにおいて、オイゲノール含有量が6.60ppm以上であれば、リコピン風味が抑制されること、すなわち、リコピン由来のムレ臭又は油脂臭が抑制されることは、前記イで述べた、実施例(試験例2?6)の評価結果、並びに、オイゲノール含有量についての一般的な実施の態様の記載、及び、リコピン風味を抑制する作用機序についての記載より、当業者には認識される。 (イ)本件発明1?4の「塩分」は「0.5?2.5重量%」について、発明の詳細な説明には、一般的な実施の態様の記載として、「【0016】<塩分>本ケチャップにおける塩分は・・0.5?2.5重量%であることがさらに好ましく・・。【0017】・・塩分摂取量の低下の観点から、塩分は低い方が好ましいが、塩分を低くすることで、リコピン由来のリコピン臭が感じやすくなる。本ケチャップにおいては、オイゲノールを特定量含有させることで、塩分が低くても、リコピン由来のリコピン臭を抑制することが可能となる」と記載されており、「塩分」が「0.5?2.5重量%」のケチャップでは、リコピン由来のリコピン臭が感じやすくなるといえる。 そのようなケチャップにおいて、オイゲノール含有量が6.60ppm以上であれば、リコピン由来のムレ臭又は油脂臭が抑制されることは、前記イで述べた、実施例(試験例2?6)の評価結果、並びに、オイゲノール含有量についての一般的な実施の態様の記載、及び、リコピン風味を抑制する作用機序についての記載より、当業者には認識される。 (ウ)そうすると、試験例5、6の記載のようにケチャップを製造すれば、高リコピン含有ケチャップにおけるリコピン由来のムレ臭又は油脂臭が抑制されることを考慮に入れると、高リコピン含有ケチャップの製造につき、実施の態様の記載に基づいて、本件発明1?4に特定されている、「リコピン濃度」又は「リコピン含有量」の範囲内、及び、「塩分」の範囲内になるよう実施すれば、高リコピン含有ケチャップにおけるリコピン由来のムレ臭又は油脂臭が抑制することができると、当業者は認識するといえ、当業者が本件発明1?4の課題を解決できると認識できる。 エ 申立人の主張(1)について 申立人は、特許異議申立書20頁下から5行?24頁13行において、「本件発明の直接的な課題は、高リコピン含有ケチャップにおけるリコピンの風味を抑制することであるが(段落【0006】)、言うまでもなくその終局的な目的は、当該ケチャップ自体の風味を改善させることである。従って、単にリコピンの風味を抑制するだけでなく、それ自体としの風味を悪化させないことも、そのマスキング剤であるオイゲノールの性能として当然に求められる性能であり、そうでなければその技術的課題を解決したことにはならない」、「グローブの主成分であるオイゲノールは、その抗酸化作用などにより、ごく少量用いる分には料理素材の不快な臭いのマスキングに効果的であるが、同時に、その刺激的な臭いや苦味、雑味などにより、その使い方を誤ると(配合量が一定値以上多くなると)、却って食材の風味に悪影響を与えマスキング剤としての機能を果たしえなくなることは、本件出願時の技術常識として知られていたことである」とし、本件発明1?4は、オイゲノール含有量は下限値を規定するのみで、その上限値は規定されておらず、その技術的課題を解決したことにはならないから、本件発明1?4はサポート要件を欠如している旨、主張している。 しかしながら、本件明細書の背景技術の記載(【0002】?【0005】)、発明が解決しようとする課題の記載(【0006】)及び実施例の記載(【0039】?【0053】)等からみて、本件発明の課題は、あくまでも、「高リコピン含有ケチャップにおけるリコピンの風味を抑制すること」と認められ、申立人の主張する「ケチャップ自体の風味を改善させること」という課題は、本件発明の課題とは、別の課題である。 そして、前記イで述べたように、オイゲノールの含有量が試験例3、4で実施された含有量よりも有意に多い場合であっても、オイゲノールが存在することから、オイゲノールが嗅覚受容体の活性化を阻害するアンタゴニストとして作用し、リコピンに由来するムレ臭又は油脂臭を抑制し得るといえるから、当業者が本件発明1?4の課題を解決できると認識できることに変わりはなく、本件発明がサポート要件を欠如していることの理由とはならない。 したがって、申立人の前記主張(1)は採用できない。 オ 申立人の主張(2)について 申立人は、特許異議申立書24頁14行?28頁末行において、本件発明の「オイゲノール含有量は、6.60ppm以上」というパラメータは、試験例2の条件においてのみ成り立ち得るものであり、本件発明の「リコピン濃度25mg/100g以上50mg/100g以下」及び「塩分0.5?2.5重量%」というパラメータに関しても、それらの数値全般に亘ってその技術的課題を解決し得ると認識できず、実施例5、6の効果を前記範囲にまで一般化・抽象化し得ないから、本件発明1?4はサポート要件を満たしていない旨主張しているが、この主張に対しては、前記ウで述べたとおりである。 したがって、申立人の上記主張(2)も採用できない。 (5)まとめ したがって、本件発明1?4は発明の詳細な説明に記載したものであるといえ、特許法第36条第6項第1号に適合するものである。 よって、本件発明1?4に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たすものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消すことができない。 2 申立理由2(実施可能要件)について 前記1で述べたように、試験例5、6の記載のようにケチャップを製造すれば、高リコピン含有ケチャップにおけるリコピン由来のムレ臭又は油脂臭が抑制されることを考慮に入れると、高リコピン含有ケチャップの製造につき、実施の態様の記載に基づいて、本件発明1?4に特定されている、「リコピン濃度」又は「リコピン含有量」の範囲内、及び、「塩分」の範囲内になるよう実施すれば、高リコピン含有ケチャップにおけるリコピン由来のムレ臭又は油脂臭が抑制することができると、当業者は理解できることを考慮すると、実施の態様の記載も併せて検討すれば、本件発明1?4を、当業者に通常期待し得る程度を超える過度の試行錯誤なく実施できるといえる。 申立人は、前記申立理由1で述べたように、本件発明の「オイゲノール含有量は、6.60ppm以上」、「リコピン濃度25mg/100g以上50mg/100g以下」及び「塩分0.5?2.5重量%」の全範囲において、当業者がその技術的課題を解決し得ると認識できないから、これら全範囲において、過度な試行錯誤を要することなく、その風味改善効果が適切に発揮できるように本件発明1?4を実施することができるとは認められないと、サポート要件と同様に主張しているが、前記1で検討したように、本件発明1?4の課題は解決され、同時に本件発明1?4の効果を奏していることは理解できるのであるから、申立人の主張を採用することはできない。 したがって、発明の詳細な説明の記載は、本件発明1?4を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。 よって、本件発明1?4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消すことができない。 3 申立理由3(新規性、進歩性:主引例を甲1とする場合)について (1)甲1?甲18の記載 ア 甲1の記載 1a「【請求項1】 アスパラギン酸又はその塩をアスパラギン酸換算で0.13?1.13質量%含有し、且つ可溶性固形分(Brix値)が5?40%であるトマト含有調味料。 【請求項2】 ナトリウムの含有量が0.05?3質量%である請求項1記載のトマト含有調味料。 【請求項3】 カリウムの含有量が0.3?1.9質量%である請求項1又は2記載のトマト含有調味料。 【請求項4】 トマトケチャップ、トマトソース、チリソースである請求項1?3のいずれか1項記載のトマト含有調味料。」 1b「【背景技術】 【0002】 トマトはそのまま生食される他、ケチャップ、ソース、飲料等に加工され、幅広く利用されている。トマトの特徴の一つとして、その酸味とフレッシュ感があるが、トマトは加熱による風味の変化が大きく、生のトマトのフレッシュな風味は損なわれやすい。 【0003】 これまでに、様々な食品素材の香気を引き立たせる技術やその香気を保持するための技術が検討され、例えば、スクラロースを添加してフルーツ感やフレッシュ感を向上させた果汁若しくは果肉含有食品(特許文献1);トマト果実を洗浄、粉砕、予備加熱、搾汁して得られるトマト搾汁液の製造方法であって、昇温速度30?50℃/分で60?70℃まで予備加熱する、生のトマト果実のフレッシュな香気が引き立ったトマト搾汁液の製造方法(特許文献2)等が報告されている。また、ベリー類の果実を混合して保存後の油脂の加熱香味を持続させ、油脂の酸化臭を抑えたトマト加熱加工品(特許文献3)が報告されている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0004】 【特許文献1】 特開2000-135062号公報 【特許文献2】 特開2003-179号公報 【特許文献3】 特開2000-32944号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 しかしながら、ある程度の可溶性固形分を含むトマト加工品においては、公知の技術では却ってトマト感を損ねてしまう場合があり、加熱処理による風味変化が出てしまうことが判明した。 したがって、本発明の課題は、加熱による風味変化を抑制し、トマト本来のフレッシュな香気が感じられるトマト含有調味料を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討したところ、アスパラギン酸又はその塩を一定範囲で含有させれば、加熱による風味変化を抑えることができ、トマト本来のフレッシュな香気を有するトマト含有調味料とすることができることを見出した。 【0007】 すなわち、本発明は、アスパラギン酸又はその塩をアスパラギン酸換算で0.13?1.13質量%含有し、且つ可溶性固形分(Brix値)が5?40%であるトマト含有調味料を提供するものである。 【発明の効果】 【0008】 本発明によれば、風味変化が抑制されるため、トマト本来のフレッシュな香気が加熱後も保持されたトマト含有調味料を提供することができる。」 1c「【0018】 本発明のトマト含有調味料には、さらに調味料の形態に応じて、野菜類、果実類、キノコ類、海藻類、魚介類、肉類、畜肉加工品、乳製品、穀類、卵類、食用油、食酢、塩、醤油、味噌、香辛料、糖類、甘味料、蛋白質素材、酸味料、有機酸、アミノ酸系調味料、核酸系調味料、動植物エキス、発酵調味料、酒類、澱粉、増粘剤、安定剤、糊料、乳化剤、保存料、防腐剤、酸化防止剤、着色料、香料、水等の各種添加剤を1種又は2種以上適宜配合してもよい。 ・・・・・ 【0020】 また、香辛料としては、特に制限されないが、例えば、パプリカ、シナモン、オールスパイス、クローブ、トウガラシ、ナツメグ、タイム、ローレル、ニッケイ、セイジ、コショウ又はこれらの抽出物が挙げられる。トマト含有調味料がトマトケチャップ、トマトソース又はチリソースの場合、香辛料の含有量は0.01?5質量%、更に0.05?3%であるのが好ましい。チリソースには、風味の点からトウガラシを用いることが好ましい。」 1d「【実施例】 ・・・・・ 【0031】 実施例1?35及び比較例1?15 〔トマトケチャップの調製〕 トマトペースト(カゴメ(株)製)、アスパラギン酸ナトリウム((株)キリン協和フーズ製)、塩化ナトリウム(NaCl、和光純薬工業(株)製)、塩化カリウム(KCl、和光純薬工業(株)製)、醸造酢((株)ミツカングループ本社製)、還元水飴(三菱商事フードテック(株)製)、たまねぎ、香辛料及び水を下記表1?5に記載の配合組成で配合し、ホモジナイザー(ULTRA DISPERSER LK-22、ヤマト科学(株)製)を用いて十分攪拌して均質化し、それぞれ表1?5に示した温度、すなわち、開放系で60℃、80℃、90℃のそれぞれの温度に達してから5分間加熱処理を実施する、あるいは密閉系で101℃又は120℃に達してから5分間加熱処理を実施することで、pH4.0のトマトケチャップ(可溶性固形分31%)を得た。 【0032】 〔官能評価〕 サンプルを20℃で保存した後、専門パネル5名により、以下の評価基準に従って「フレッシュ感」について評価を行い、協議により評点を決定した。結果を表1?5に示す。 【0033】 「フレッシュ感」の評価基準 5:フレッシュ感が非常に強い 4:フレッシュ感が強い 3:フレッシュ感が感じられる 2:フレッシュ感が弱い 1:フレッシュ感が非常に弱い 【0034】 【表1】 ![]() 【0035】 【表2】 ![]() 【0036】 【表3】 ![]() 【0037】 【表4】 ![]() 【0038】 【表5】 ![]() 」 イ 甲2の記載 2a「【請求項1】 リコピンと、エステル類および/またはアルコール類とを含有するケチャップであって、 該リコピンの含有量が、25mg/100g以上である、 高リコピン含有ケチャップ。 【請求項2】 前記リコピンの含有量が、25mg/100g以上50mg/100g以下である、請求項1に記載の高リコピン含有ケチャップ。 ・・・・・ 【請求項6】 食塩含有量が0.3重量%以上5.0重量%以下である、請求項1?5のいずれか1項に記載の高リコピン含有ケチャップ ・・・・・ 【請求項9】 請求項1?8のいずれか1項に記載の高リコピン含有ケチャップを収容した、容器詰め調味料。」 2b「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 しかし、トマトケチャップ中のリコピン濃度を高めると、リコピン由来の特有の臭いや濃縮トマト由来の特有の臭い、すなわち、油脂様臭、ムレ臭、焦げ臭等で表現されるような官能特性が認識されるようになるため食品としての香味や嗜好性が低下したり、また溶剤を用いて添加物として調製されたリコピン濃縮物のような製剤を配合すれば日本農林規格(JAS)から外れることから、高リコピン含有トマトケチャップは望まれているにもかかわらず実現できていなかった。 【0006】 また、トマトケチャップには食塩が約3%含有しているが、食塩含量が多いとトマト由来のグルタミン酸等のアミノ酸由来の呈味が増すが、逆にトマトらしさ(トマト感)やトマト本来のリコピン等の香味が薄れるという問題があった。食塩含量を減らした場合は、原料のトマトペーストやリコピン由来のムレ臭や焦げ臭が目立つようになったり、ケチャップ全体の香味が水っぽく感じられるようになるため、通常のトマトケチャップは約3%の食塩含量となっており、濃い味付けのトマトケチャップだけでなく、減塩志向を満たす低塩タイプのトマトケチャップに対する市場要望に応えられていないという問題点もあった。 【0007】 そこで本発明は、リコピンを高濃度に含有しながら、幅広い塩分濃度の範囲で、香味の良いケチャップを得ることを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ケチャップに香気成分であるエステル類および/またはアルコール類を含有することで、リコピンを高濃度に含有しながら、香味の良いケチャップが得られること、また、食塩含量が従来よりも幅広い範囲で含有していても、香味の良いケチャップが得られるとの知見を得た。 【0009】 本発明はかかる知見に基づいてなされたものであり、リコピンと、エステル類および/またはアルコール類を含有する高リコピン含有ケチャップを提供するものである。 【発明の効果】 【0010】 本発明によれば、リコピンを高濃度に含有していても、通常よりも幅広い塩分濃度の範囲で、香味の良いケチャップを得ることができる。」 2c「【0014】 しかし、リコピンは、例えば従来のトマトケチャップでは10mg/100gから24mg/100g程度が含まれているが、24mg/100gの濃度を超えるとムレ臭やリコピン特有の好ましくない香りが生じるようになる。リコピンを豊富に含む飲食品例としてトマトジュースがあるが、一般的なリコピン含量は10mg/100g程度であり、リコピン高含有を訴求したトマトジュースでも20mg/100g程度となっており、嗜好性の限界が存在する。 【0015】 本実施形態において、エステル類および/またはアルコール類を本実施形態の高リコピン含有ケチャップに含有させることにより、リコピンに由来する特有の臭い、油脂様臭、ムレ臭、焦げ臭を抑制し、リコピンを高濃度で含有するケチャップの香味を向上させることが可能となる。 【0016】 エステル類としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、酢酸ヘキシル、酢酸ヘプチル、酢酸フェニルエチルエステル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸イソプロピル、酪酸ブチル、酪酸イソブチル、酪酸アミル、酪酸イソアミル、酪酸ヘキシル、酪酸ヘプチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸イソアミル等を挙げることができる。 【0017】 アルコール類としては、例えば、イソアミルアルコール、アミルアルコール、イソブタノール、ブタノール、イソプロパノール、プロパノール、フェネチルアルコール等を挙げることができる。 【0018】 香気成分の含有量は、リコピン由来の臭いを抑制できる程度(ppbレベルの濃度)に含まれていればよく、リコピンの含有量に応じて適宜設定することができるが、例えば、リコピンを25mg/100g?50mg/100g含有する高リコピン含有ケチャップの場合、相対含量が0.03以上であることが好ましく、0.06以上であることがより好ましく、0.06?1.0であることがさらに好ましい。ここで、「相対含量」とは、内部標準物質であるフェナントレン-d10(1ppbまたは0.1μg/100g)のGC-MS分析(スキャン分析)での検出面積を100とした場合の香気成分の検出面積をいう。 【0019】 本実施形態の高リコピン含有ケチャップが含有する香気成分は、果実香、花様香、醸造香、吟醸香、発酵臭、酵母臭等に代表されるような官能特性を有する。これらの香気成分は、天然には主に果実、酒類、発酵食品等に含まれ、これらをケチャップに添加混合することにより、エステル類および/またはアルコール類を添加した場合と同様の効果を得ることができる。 【0020】 エステル類および/またはアルコール類を添加した場合と同様の効果が得られる食品としては、具体的には、バナナ、リンゴ、パイナップル、イチゴ、メロン、かんきつ類の果実搾汁液(果汁)またはこれらの破砕物;コメ、玄米、黒米、粟、ムギ、ダイズ、黒豆、アズキ、緑豆、発芽ダイズ、小麦、大麦、麦芽等の穀類またはこれらの微細化物;前記果実搾汁液またはこれらの破砕物、前記穀類またはこれらの微細化物等の酵母発酵物、酢酸発酵物またはこれらの蒸留物を挙げることができ、これらを一種または二種以上混合してもよい。なお、本実施形態における香気成分は、上記食品に含まれる香気成分を濃縮や精製したものである香料を用いてもよく、さらに上記食品と香料を適宜組み合わせてもよい。醸造酢を除きこれらの食品をケチャップに配合することは、JAS規格から外れること等の理由により通常行われていないが、上記食品を高リコピン含有ケチャップに添加すれば、リコピン由来の風味を改善することができる。 【0021】 上記食品の添加量は、リコピン由来の臭いを抑制できる程度に含まれていればよく、リコピンの含有量に応じて適宜設定することができるが、上述した香気成分の含有量に相当する量の食品を添加することが好ましい。例えば、リコピンを25mg/100g含有する高リコピン含有ケチャップに先述の香気成分を含む醸造酢を添加する場合、例えば酸度8%の醸造酢であれば、その含有量を1?150mg/gとすることが好ましい。 【0022】 本実施形態における高リコピン含有ケチャップは、食塩濃度が0.5?5.0重量%であることが好ましく、0.5?4.0重量%であることがより好ましく、0.5?2.5重量%であることがさらに好ましく、0.5?2.0重量%であることが一層好ましい。従来のケチャップ中の食塩濃度は、3重量%前後であり、3重量%よりも低濃度、例えば2重量%になると水っぽく感じられるようになり、3重量%よりも高濃度、例えば重量5%になると塩味が強くなりトマト感が薄れる。しかし、本実施形態の高リコピン含有ケチャップは、リコピンを高含有することで、前記の水っぽさやトマト感の低減を抑制することができ、とくに食塩が従来よりも低濃度領域でより明確にトマト感の維持増強が実現する。 【0023】 本実施形態の高リコピン含有ケチャップを得るには、従来のケチャップにリコピン製剤を必要量添加するか、生トマトやトマトピューレ、トマトペーストなどのトマトの加工品を目的のリコピン濃度になるように原料として配合し、常法に従ってケチャップを調製する。その際に、香気成分であるエステル類および/またはイソアミルアルコールを必要量添加するか、香気成分のエステル類および/またはイソアミルアルコールを含有する食品を原材として配合する。これらの香気成分を一定量含む高リコピン含有ケチャップは、リコピンが25mg/100g以上と豊富に含まれていながら、リコピン由来の油っぽい特有のムレ臭や焦げ臭が軽減または解消し、従来よりも濃厚で、コクがあり、トマト本来の自然なトマト感が強調された、嗜好性が高く、商品としての適性の高い高リコピン含有ケチャップが提供される。また、食塩濃度も従来の3%前後よりも低い濃度(0.5?2.5%)に低下させても嗜好性を失わず商品としての適性が維持された高リコピン含有ケチャップが提供される。」 2d「【実施例】 ・・・・・ 【0028】 (2)分析方法 リコピンの分析は、ヘキサンとアセトンからなる有機溶剤を用いて試料からリコピンを抽出し、吸光度法により測定した(トマト加工品・ソース類・食酢関係PART1、分析便覧、8-10頁、昭和56年、財団法人全国トマト加工品・調味料検査協会発行、新・食品分析法、643-647頁、平成8年、日本食品科学工学会発行)。 ・・・・・ 【0034】 (2)分析方法 リコピンの分析は、上記1(2)の分析方法に従って行った。 香気成分の分析は、スターバー抽出加熱脱着ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)により、実施した。 ・・・・・ 香気成分量は、使用した内部標準物質フェナントレン-d10(1ppb)に対する、各成分の主要な質量フラグメントピークの面積の相対面積から相対含量として求めた。 ・・・・・ 【0039】 3.食塩含有量の異なるリコピン高含有ケチャップの調製 (1)調製方法 濃縮トマト(トマトペースト、LosGatos社製)280g、ぶどう糖・果糖液糖240g、ホワイトビネガー適量、玉ねぎエキス適量、香辛料適量に、飲料用水適量を加えて、ケチャップベース液を調製した。次にこのケチャップベース液に、リコピン含有量が30mg/100g前後となるように濃縮トマトの配合量を調節し又はリコピン製剤(LycoRed社製LycoMate、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製リコピンベース)を適宜配合し、香気成分量が0.08前後となるように香料(小川香料株式会社製パイナップルエッセンス)または醸造酢(横井醸造工業株式会社製純りんご酢、日本デルモンテ株式会社製パイナップルビネガー)、または果汁(キッコーマン飲料株式会社販売パイナップルジュース)を適宜添加し、食塩含有量が0.3?4.7重量%となるように食塩配合量を調節して、飲料用水にて全量を1.0kgとし、定法により殺菌し、容器に充填し、各成分の含有量の異なる容器詰め高リコピン含有ケチャップを調製した(製造例10?16)。 【0040】 (2)分析方法 リコピン、香気成分の測定は、上記2(2)と同様に実施した。 食塩含量(食塩濃度)の測定は、既知の方法である、分析便覧[トマト加工品・ソース類・食酢関係]PART1、(財)全国トマト加工品・調味料検査協会、昭和56年刊に記載のモール法により実施した。 【0041】 (3)官能評価 試料の官能評価試験は、各項目を以下に示す基準で評価した。 【0042】 <リコピンに由来する油っぽいムレ臭> ◎:感じられない ○:わずかに感じる △:感じる ×:強く感じる 【0043】 <コクまたは濃厚感> ◎:十分に感じる ○:感じる △:わずかに感じる ×:あまり感じられない 【0044】 <トマト感> ◎:好ましく感じる ○:やや好ましく感じる △:やや不自然に感じる ×:不自然に感じる 【0045】 <総合評価> 各評価項目を総合的に勘案して、商品としての適性を評価した。 ◎:商品としての適性に優れている ○:商品としての適性は良い △:商品としての適性は標準的である ×:商品としての適性に劣っている 【0046】 【表3】 ![]() 【0047】 表3の結果より、一般的なトマトケチャップの食塩濃度3%よりも少ない食塩濃度であって、かつ、リコピン含量が25mg/100g以上であっても、リコピンを含有していない一般的なトマトケチャップ(対照例1)と同様、リコピンに由来する油っぽいムレ臭は感じられないことが判明した。食塩濃度が0.3%(製造例15)であっても、リコピン由来のムレ臭は感じられず、特に食塩濃度1.6%(製造例12)では、適度な香気成分が含まれることにより、優れた評価が得られた。」 ウ 甲3の記載 3a「クローブ」(125頁 標題) 3b「○3成分 香り成分としての精油含量は16?20%で、うち主成分のオイゲノールが70?90%を占め、他にアセチルオイゲノール、カリオフィレン、アルコール類を含む。・・オイゲノール(・・)・・の化学構造式を図に示す。 ![]() 」(125頁左欄下から6行?右欄5行、オイゲノールの化学構造式)(決定注:○数字は、○付き数字を表す。以下同様。) 3c「○4料理特性 ・・クローブの持つ強い刺激的な香味は、多量に用いると嫌味になるが、ごく少量を用いると、料理素材の気になるにおい消しに最適である。・・ケチャップ・・等によく配合されている。」(125頁右欄6?20行) エ 甲4の記載 4a「【技術分野】 【0001】 ・・・本発明は、特定量のオイゲノールを含有する蒸留酒類、該蒸留酒類を含有する清酒又はみりん、該蒸留酒類、清酒又はみりんを含有する発酵調味料、該蒸留酒類、清酒、みりん又は発酵調味料を食材に接触させる食材の処理方法、該処理方法を利用する不快臭の消臭方法、並びに、該蒸留酒類、清酒、みりん又は発酵調味料で食材を処理する加工食品の製造方法に関する。本発明の蒸留酒類、清酒、みりん又は発酵調味料は、特定量のオイゲノールを含有し、食材の不快臭の消臭に有用なものである。」 4b「【背景技術】 【0002】 クローブ(Clove)は、フトモモ科の植物であるチョウジノキの開花前の花蕾を乾燥させた香辛料であり、非常に強い香気を有している。クローブは丁子(ちょうじ)とも呼ばれている。クローブは古くから着香料として食品に使用されたり、肉の臭み消しなどの矯臭に使用されたりしている。クローブには刺激的な臭いや苦味、雑味があり、使いすぎには注意が必要とされている。またクローブ精油にはオイゲノールが含まれていることが知られている。 【0003】 オイゲノールは、グアイアコールにアリル基が置換したフェニルプロパノイドの一種であり、分子式C_(10)H_(12)O_(2)で示されるCAS登録番号97-53-0の物質である。オイゲノールは、天然には、クローブの他に、オールスパイス、バジル、シナモン、ナツメグ等に含まれる。オイゲノールの性質については広く研究されており、例えば、その抗酸化能が挙げられる(非特許文献1)。」 オ 甲5の記載 5a「 クローブの最大の特徴は、やはりその強い芳香にあります。・・この香味の主成分はオイゲノールで、この成分が多く含まれるものほど香味が強く感じられます。・・・ クローブは香りが強烈なだけに、使い方を誤ると「薬臭い」といって嫌われがちですが、ごく弱めて使えばトンカツソースで認められるように日本人の嗜好によく合うスパイスなのです。香りをつけるだけではなく、料理素材の気になる臭いを消す作用ももっています。・・・」(102頁14行?103頁4行) 5b「Point クローブは料理の応用範囲も広い・・」(103頁Pointの項 上段1行) カ 甲6の記載 6a「畜肉臭について ・・・・・ 対策方法 醸造成分(クエン酸、アルコール)やクローブ由来の抗酸化成分などにより酸化臭や一部の畜肉原料由来のにおいを抑制することができます。また、その他にも、醸造過程で生成される香りやしょうがやクローブ由来の香気成分などにより、不快なにおいを包み隠す方法(マスキング)があります。」(畜肉臭についての項目) キ 甲7の記載 7a「【0021】実施例3 糖度(Brix)30%でリコピン濃度60mg%の市販のトマトペースト・・」 ク 甲8の記載 8a「【0053】 <比較例1> 比較例1では、調合工程において、市販のホットブレイク処理されたトマトペースト(Brix28.6、リコピン濃度61.2mg/100g、Brix1.0あたりのリコピン濃度2.14mg/100g)、食塩、砂糖、醸造酢、ニンニク、香辛料を、表1に示す分量で調合した。その後、ホモジナイザーを用いて、80kgf/uにて均質化処理を行った。 【0054】 <実施例1> 実施例1では、市販のコールドブレイク処理されたトマトペースト(Brix29.0、リコピン濃度62.0mg/100g、Brix1.0あたりのリコピン濃度2.14mg/100g)、及び比較例1で用いた原材料と同様のものを用いて、表1に示す分量で調合した。その後、ホモジナイザー(三丸機械工業株式会社製、ECONIZER LABO-01)を用いて、80kgf/uにて均質化処理を行った。」 ケ 甲9の記載 9a「【0029】 ・・・・・オイゲノール含量が12.0%のクローブ粉末・・」 コ 甲10の記載 10a「・・クローブは15?20%の精油を含み,その70?90%のオイゲノール(34)と・・」(88頁下から9?下から8行) サ 甲11の記載 11a「 オールスパイスの一般成分は,水分9?10%,精油2?5%,粗脂肪3?7%,灰分4?5%,粗繊維3?21%,蛋白質5?6%,でんぷん2?4%となっており,この他にタンニンを含有する. ・・・・・ オールスパイスオイルは果実を水蒸気蒸留することによって得る.精油の主成分はEugenolで精油の65?80%を占め、その他の成分は主としてセスキテルペン類である」(69頁左欄24?35行) シ 甲12の記載 12a「 ![]() 」(57頁) ス 甲13の記載 13a「【特許請求の範囲】 1.酸化防止剤としての4-第三ブチル-1-シクロヘキサノールの使用」 セ 甲14の記載 14a「【請求項1】 下記(A)?(C)成分を含有するトマトケチャップ: (A)糖質 12?31質量%、 (B)カリウム 0.6?1.9質量%、及び (C)ナトリウム 0.1?1.55質量%。」 14b「【0022】 ・・・また、トマトペーストをトマト原料として用いる場合には、トマト原料は11?60質量%の濃度で配合することがより好ましく、15?55質量%の濃度で配合することがさらに好ましい。」 14c「【0026】 本発明のトマトケチャップには香辛料が配合されていてもよい。当該香辛料に特に制限はなく、例えば、パプリカ、シナモン、オールスパイス、クローブ、トウガラシ、ナツメグ、タイム、ローレル、ニッケイ、セイジ、コショウ等又はこれらの抽出物が挙げられる。本発明のトマトケチャップには、香辛料が0.01?5質量%の濃度で配合されることが好ましく、0.05?3質量%の濃度で配合されることがより好ましい。」 ソ 甲15の記載 15a「好ましい実施形態では、組成物は、以下の追加の化合物のうちの1つまたは複数を含む:1-ニトロ-2-フェニルエタン、オイゲノール、及びメチオナール。この発見によれば、本発明の目的は、調理されたトマトの風味および匂いを食品において改善または付与するために使用することができる風味組成物を提供することである。」(1欄末行?2欄10行) タ 甲16の記載 16a「塩や砂糖の少々ってどのくらいの分量? (写真省略) 計算するほどではない、ごく少量を使うときに用いる表現。塩や砂糖の少々は、指2?3本でつまんだ量が目安。指3本でつまんだ量を「ひとつまみ」ということもあるが、わずかな差なので味見などをしながら調整するとよい。」(「塩や砂糖の少々ってどのくらいの分量?」の項目) チ 甲17の記載 17a「「塩ひとつまみ」と「塩少々」。本当はどう違うの? ・・・・・ 1.「少々」というのはどれくらい? 塩、こしょう、スパイスなど少々と書いてある・・・少々とは、計量スプーンでは計りにくい極少量を表していて、親指と人指し指の2本でつまんだくらいが目安で、約0.3?0.6g程度のことを指す。・・」(「1.「少々」というのはどれくらい?」の項目) ツ 甲18の記載 18a「バリ猫ゆっきーの「きのことツナ缶のミルクカレー」 ・・・・・ パウダータイプのクローブを使う場合は、ごく少量(小さじ1/6くらい)を(A)を入れるタイミングで加えてください。・・」(作り方2の項目) (2)甲1に記載された発明 甲1は、「アスパラギン酸又はその塩をアスパラギン酸換算で0.13?1.13質量%含有し、且つ可溶性固形分(Brix値)が5?40%であるトマト含有調味料」(甲1a 請求項1)に関し記載するものであって、その具体例として、実施例1?35(甲1d【0031】?【0038】、特に【表1】?【表5】)には、「トマトペースト(カゴメ(株)製)」「35質量%」、「アスパラギン酸ナトリウム((株)キリン協和フーズ製)」「0.18?1.5質量%」、「塩化ナトリウム(NaCl、和光純薬工業(株)製)」「1.5質量%」、「塩化カリウム(KCl、和光純薬工業(株)製)」「0.5質量%」、「醸造酢((株)ミツカングループ本社製)」「5質量%」、「還元水飴(三菱商事フードテック(株)製)」「19.3質量%」、「たまねぎ」「2.3質量%」、「香辛料」「0.7質量%」及び「水」「34.2?35.52質量%」「で」「合計100.00質量%」となるように「配合し、ホモジナイザー(ULTRA DISPERSER LK-22、ヤマト科学(株)製)を用いて十分攪拌して均質化し、開放系で60℃、80℃、90℃のそれぞれの温度に達してから5分間加熱処理を実施する、あるいは密閉系で101℃又は120℃に達してから5分間加熱処理を実施することで、pH4.0のトマトケチャップ(可溶性固形分31%)を得た」ことが記載されている。 そうすると、甲1には、実施例1?35で実施した「トマトケチャップ(可溶性固形分31%)」として、 「トマトペースト(カゴメ(株)製)35質量%、アスパラギン酸ナトリウム((株)キリン協和フーズ製)0.18?1.5質量%、塩化ナトリウム(NaCl、和光純薬工業(株)製)1.5質量%、塩化カリウム(KCl、和光純薬工業(株)製)0.5質量%、醸造酢((株)ミツカングループ本社製)5質量%、還元水飴(三菱商事フードテック(株)製)19.3質量%、たまねぎ2.3質量%、香辛料0.7質量%及び水34.2?35.52質量%で合計100.00質量%となるように配合し、ホモジナイザー(ULTRA DISPERSER LK-22、ヤマト科学(株)製)を用いて十分攪拌して均質化し、開放系で60℃、80℃、90℃のそれぞれの温度に達してから5分間加熱処理を実施する、あるいは密閉系で101℃又は120℃に達してから5分間加熱処理を実施することで得た、pH4.0のトマトケチャップ(可溶性固形分31%)」 の発明(以下、「甲1発明1」という。)が記載されているといえる。 さらに、甲1には、この「トマトケチャップ(可溶性固形分31%)」の製造方法として、 「トマトペースト(カゴメ(株)製)35質量%、アスパラギン酸ナトリウム((株)キリン協和フーズ製)0.18?1.5質量%、塩化ナトリウム(NaCl、和光純薬工業(株)製)1.5質量%、塩化カリウム(KCl、和光純薬工業(株)製)0.5質量%、醸造酢((株)ミツカングループ本社製)5質量%、還元水飴(三菱商事フードテック(株)製)19.3質量%、たまねぎ2.3質量%、香辛料0.7質量%及び水34.2?35.52質量%で合計100.00質量%となるように配合し、ホモジナイザー(ULTRA DISPERSER LK-22、ヤマト科学(株)製)を用いて十分攪拌して均質化し、開放系で60℃、80℃、90℃のそれぞれの温度に達してから5分間加熱処理を実施する、あるいは密閉系で101℃又は120℃に達してから5分間加熱処理を実施する、pH4.0のトマトケチャップ(可溶性固形分31%)の製造方法」 の発明(以下、「甲1発明2」という。)も記載されているといえる。 (3)本件発明2について ア 甲1発明1との対比 (ア)甲1発明1の「トマトケチャップ(可溶性固形分31%)」は、本件発明2の「ケチャップ」に相当する。 (イ)甲1発明1の「塩化ナトリウム(NaCl、和光純薬工業(株)製)1.5質量%」について、塩化ナトリウム(NaCl)は塩分であり、質量%は重量%と同じであるから、本件発明2の「塩分は、0.5?2.5重量%」に相当する。 そうすると、本件発明2と甲1発明1とは、 「ケチャップであって、当該ケチャップの塩分は、0.5?2.5重量%である」点で一致し、以下の点で相違する。 相違点2-1(甲1発明1):ケチャップのリコピン含有量について、本件発明2は、25mg/100g以上50mg/100g以下であるのに対し、甲1発明1は、明らかでない点 相違点2-2(甲1発明1):ケチャップについて、本件発明2は、オイゲノールを含有し、その含有量は6.60ppm以上であるのに対し、甲1発明1は、オイゲノールを含有しているか、含有するとしてもその含有量はどのくらいか、明らかでない点 イ 判断 (ア)新規性について 事案に鑑み、相違点2-2(甲1発明1)から検討する。 a 相違点2-2(甲1発明1)について 甲1には、甲1発明1が、オイゲノールを含有しているか、オイゲノールを含有しているとしても、その含有量はどのくらいか、についての記載や示唆はなされていない。 甲1発明1は、「香辛料0.7質量%」含有している。この「香辛料」について、甲1には、「【0020】・・香辛料としては、特に制限されないが、例えば・・オールスパイス、クローブ・・が挙げられる」と記載されているものの、この記載は、実施の態様の記載における例示にすぎず、甲1発明1の香辛料として、実際に何を用いたのか明らかでないから、甲1発明1がオイゲノールを含有しているか、含有するとしても、その含有量はどのくらいかは、不明である。 したがって、相違点2-2(甲1発明1)は、実質的な相違点といえる。 b 申立人の主張について 申立人は、特許異議申立書38頁3行?39頁2行において、甲9には「オイゲノール含量が12.0%のクローブ粉末」(9a)が記載され、甲10の「・・クローブは15?20%の精油を含み,その70?90%のオイゲノール(34)と・・」(甲10a)という記載と整合することから、甲9に記載のオイゲノールの濃度12%を基に、甲1発明1の香辛料としてクローブを濃度0.01?5質量%用いた場合のオイゲノール濃度を計算すると、0.0012?0.6%(=12?6000ppm)となり、本件発明2の「6.60ppm以上」の範囲内であること、なお、オールスパイスを用いた場合であっても、甲11の「オールスパイスの一般成分は・・精油2?5%・・.・・精油の主成分はEugenolで精油の65?80%を占め・・」(11a)との記載から、オールスパイス中のオイゲノール濃度を算出すると、1.3?4.0%となり、上記クローブを用いた場合と同様の手順で計算すると、0.0013?0.2%(=1.3?2000ppm)となり、本件発明2の「6.60ppm以上」と相当程度重複すること、その他甲1の段落【0020】に例示されているシナモン、ナツメグも、主な精油成分としてオイゲノールを含有するものであり(12a、4b【0003】)、これらを0.01?5質量%用いた場合にも、同様に、本件発明2の「6.60ppm以上」と相当程度重複すると考えられること、したがって、相違点2-2(甲1発明1)は、実質的な相違点ではない旨主張している。 しかしながら、前記aで述べたように、甲1発明1で用いた「香辛料」が具体的に何であるのか、甲1には何ら記載されていないのである。甲1の段落【0020】の記載は、香辛料としての実施の態様の記載における例示にすぎず、甲1発明1の香辛料として、クローブを用いているかどうかは分からない。 ましてや、甲1発明1とは何ら関係のない甲9に記載の「オイゲノール含量が12.0%のクローブ粉末」(9a)を基に、甲1発明1の香辛料としてクローブを濃度0.01?5質量%用いた場合のオイゲノール濃度を算出する必要性があるとは認められないし、甲1発明1の香辛料として、甲11の記載を基にオールスパイスを用いた場合のオイゲノール濃度を算出することについても、同様である。 その他、甲1の段落【0020】に例示されているシナモンやナツメグについて、甲12や甲4には、それらにオイゲノールが含まれていることは記載されているものの(12a、4b【0003】)、それらにおけるオイゲノールの含有量は不明又はごく僅かであり、甲1発明1の香辛料としてシナモンやナツメグを用いた場合のオイゲノールの含有量を適切に算出することはできず、本件発明2の「6.60ppm以上」と相当程度重複するといえる根拠は見出せない。 したがって、申立人の前記主張を採用することはできない。 c したがって、相違点2-1(甲1発明1)を検討するまでもなく、本件発明2は、甲2に記載された発明とはいえない。 (イ)進歩性について a 相違点について 前記(ア)で検討したように、相違点2-2(甲1発明1)について、以下検討する。 (a)甲1には、甲1発明1が、オイゲノールを含有しているか、オイゲノールを含有している場合は、その含有量はどのくらいか、についての記載や示唆はない。 本件発明2は、リコピン由来のムレ臭又は油脂臭が抑制された高リコピン含有ケチャップを提供しようという課題の下、リコピン含有量は25mg/100g以上50mg/100g以下、塩分は0.5?2.5重量%であるケチャップにおいて、オイゲノール含有量を6.60ppm以上とすることにより、当該課題を解決したものである。 他方、甲1発明1は、「加熱による風味変化を抑制し、トマト本来のフレッシュな香気が感じられるトマト含有調味料を提供する」(甲1b)という課題を解決するために発明されたもので、本件発明2の課題と異なるものである。そのような課題の下、甲1発明1において、加熱による風味変化を抑制し、トマト本来のフレッシュな香気が感じられるトマトケチャップを提供しようとして、オイゲノールを6.60ppm以上含有させる動機付けがあるとは認められない。 (b)また、甲2?甲18には、以下に示すように、甲1発明1のような、加熱による風味変化を抑制し、トマト本来のフレッシュな香気が感じられるトマトケチャップを提供することを課題として発明されたトマトケチャップにおいて、オイゲノールを6.60ppm以上含有させることを動機付ける記載や示唆を認めることができない。 甲2は、以下「4 申立理由4(進歩性:主引例を甲2とする場合)について」で詳述するように、リコピンを高濃度に含有しながら、幅広い塩分濃度の範囲で、香味の良いケチャップを得ることを課題とするもので(2b【0005】?【0007】)、この香味の良いとは、リコピン由来の油脂様臭、ムレ臭、焦げ臭等が抑制されることも含まれることから、本件発明2の課題と同様、リコピン由来のムレ臭又は油脂臭が抑制された高リコピン含有ケチャップを提供しようという課題を含むものであると理解される。 しかしながら、甲1発明1は、「加熱による風味変化を抑制し、トマト本来のフレッシュな香気が感じられるトマト含有調味料を提供する」(甲1b)という課題を解決するために発明されたものであって、本件発明2の課題とも、甲2に記載の課題とも異なるものであり、そのような課題が、甲1発明1にあるものとは認められない。 しかも、甲2に記載の発明は、リコピン由来のムレ臭又は油脂臭が抑制された高リコピン含有ケチャップを提供しようという課題の下、ケチャップに香気成分であるエステル類および/またはアルコール類を含有させることにより、当該課題を解決している。 したがって、甲1発明1には、リコピン由来のムレ臭又は油脂臭が抑制された高リコピン含有ケチャップを提供しようという課題があるとは認められず、さらに、そのような課題を解決する目的で、オイゲノールを6.60ppm以上含有させようという動機付けがあるとも認められない。 甲3には、クローブには、香り成分としての精油含量は16?20%で、うち主成分のオイゲノールが70?90%を占めること、クローブの持つ強い刺激的な香味は、ごく少量を用いると料理素材の気になるにおい消しに最適であり、ケチャップ等によく配合されていることは記載されている(3b、3c)。 しかしながら、オイゲノールがリコピン由来のムレ臭又は油脂臭を抑制することや、オイゲノールを6.60ppm以上含有させれば、高リコピン含有ケチャップであっても、リコピン由来のムレ臭又は油脂臭が抑制されたものを提供し得ることについては、記載も示唆もされていない。 甲4には、背景技術として、クローブは古くから着香料として食品に使用されたり、肉の臭み消しなどの矯臭に使用されていること、クローブ精油にはオイゲノールが含まれていることが知られていること、オイゲノールは、クローブの他に、オールスパイス、バジル、シナモン、ナツメグ等に含まれることは記載されている(4b)。 しかしながら、甲4は、特定量のオイゲノールを含有する蒸留酒類、該蒸留酒類を含有する清酒又はみりん、それらを含有する発酵調味料、それらを食材に接触させる処理方法を利用する不快臭の消臭方法に関し記載する文献であって、オイゲノールが、不快臭としてリコピン由来のムレ臭又は油脂臭を抑制することや、オイゲノールを6.60ppm以上含有させれば、高リコピン含有ケチャップであっても、リコピン由来のムレ臭又は油脂臭が抑制されたものを提供し得ることについては、記載も示唆もない。 甲5には、クローブの香味の主成分はオイゲノールであること、クローブは料理素材の気になる臭いを消す作用ももっていること、クローブは料理の応用範囲も広いことが記載されている(5a、5b)が、オイゲノールがリコピン由来のムレ臭又は油脂臭を抑制することや、オイゲノールを6.60ppm以上含有させれば、高リコピン含有ケチャップであっても、リコピン由来のムレ臭又は油脂臭が抑制されたものを提供し得ることについては、記載も示唆もされていない。 甲6(公知日不明)には、畜肉臭の対策方法として、クローブ由来の抗酸化成分などにより酸化臭や一部の畜肉原料由来のにおいを抑制することができること、クローブ由来の香気成分などにより、不快なにおいをマスキングできることが示されている(6a)が、オイゲノールがリコピン由来のムレ臭又は油脂臭を抑制することや、オイゲノールを6.60ppm以上含有させれば、高リコピン含有ケチャップであっても、リコピン由来のムレ臭又は油脂臭が抑制されたものを提供し得ることについては、記載も示唆もされていない。 甲7には、糖度(Brix)30%でリコピン濃度60mg%の市販のトマトペーストが記載されている(7a)。 甲8には、市販のトマトペーストとして、「Brix28.6、リコピン濃度61.2mg/100g、Brix1.0あたりのリコピン濃度2.14mg/100g」のもの、及び、「Brix29.0、リコピン濃度62.0mg/100g、Brix1.0あたりのリコピン濃度2.14mg/100g」のものが記載されている(8a)。 甲9には、オイゲノール含量が12.0%のグローブ粉末が記載されている(9a)。 甲10には、クローブは15?20%の精油を含み、その70?90%がオイゲノールであることが記載されている(10a)、 甲11には、オールスパイスの一般成分は、精油2?5%であり、精油の主成分はEugenolで精油の65?80%を占めることが記載されている(11a)。 甲12には、オールスパイスの主な精油成分として、オイゲノール(65?80%)があること、シナモンの主な精油成分として、オイゲノール(4?10%)があること、クローブの主な精油成分として、オイゲノール(75?90%)があること、及び、ナツメグの主な精油成分として、オイゲノールがあることが記載されている(12a)。 甲13には、酸化防止剤としての4-第三ブチル-1-シクロヘキサノールの使用が記載されている(13a)。 甲14には、トマトケチャップに配合されるトマト原料について、トマトペーストをトマト原料として用いる場合には、トマト原料は11?60質量%の濃度で配合すること、及び、トマトケチャップにはクローブ等の香辛料が配合されていてもよく、香辛料は0.01?5質量%の濃度で配合されることが記載されている(14b、14c)。 甲15には、オイゲノールを含む組成物は、調理されたトマトの風味および匂いを食品において改善または付与するために使用することができることが記載されている(15a)。 甲16(公知日不明)には、塩や砂糖の少々は、指2?3本でつまんだ量が目安であることが示されている(16a)。 甲17(公知日不明)には、塩、こしょう、スパイスなどの少々とは、親指と人指し指の2本でつまんだくらいが目安で、約0.3?0.6g程度のことを指すことが示されている(17a)。 甲18には、カレーに、パウダータイプのクローブを使う場合は、ごく少量(小さじ1/6くらい)用いることが示されている(18a)。 そうすると、甲1発明1に甲1?18の記載を組み合わせたとしても、甲1発明1において、オイゲノールを含有させようとすること、その際のオイゲノールの含有量を6.60ppm以上とすることについては、甲1?18のいずれにも記載も示唆もなく、本件出願当時の技術常識であったとも認められず、動機付けがあるとする根拠が見出せない以上、本件発明2の相違点2-2(甲1発明1)に係る構成を採用することは、当業者といえども、甲1?18の記載から容易に想到し得る技術的事項であるとはいえない。 b 本件発明2の効果について 本件発明2の効果は、本件明細書の段落【0011】の記載及び実施例(【0039】?【0053】)の記載より理解されるように、リコピン由来のムレ臭又は油脂臭が抑制された高リコピン含有ケチャップを提供できることであり、そのような効果は、甲1?18の記載から当業者が予測し得たものとはいえない。 c 申立人の主張について 申立人は、特許異議申立書39頁5行?42頁3行において、甲2には、トマトケチャップ中のリコピン濃度を高めると、リコピン由来の油脂様臭、ムレ臭、焦げ臭等が認識されるという問題が生ずることが記載されている(2b)から、リコピン由来の不快臭をマスキングし、香味の良いケチャップとすることが当然に求められること、その上で、甲1、3?6、13の記載を示し、それらから理解される、オイゲノールの消臭効果に関する周知技術、並びに、酸化防止剤の酸化防止作用と消臭効果に関する技術常識に鑑みれば、甲1発明1において、リコピン由来の不快臭を除去するために、甲1に香辛料として例示されたクローブ等の香辛料を用いることは、当業者が容易に想到し得るところであり、その場合のオイゲノール濃度が6.60ppm以上を満たすことは明らかであること、また、本件発明2で特定されている「リコピン含有量は、25mg/100g以上50mg/100g以下」、「塩分は、0.5?2.5重量%」及び「オイゲノール含有量は、6.60ppm以上」という構成には、臨界的異議ないし技術的意味を見出せないから、本件発明2の顕著な効果は存在せず、相違点は当業者が通常の創作能力の発揮として行う設計事項に過ぎない旨、主張している。 しかしながら、甲2に記載の課題が、課題の異なる甲1発明1においても、課題とされる根拠は見出せず、前記aで述べたように、甲2?甲18には、甲1発明1のような、加熱による風味変化を抑制し、トマト本来のフレッシュな香気が感じられるトマトケチャップを提供することを課題として発明されたトマトケチャップにおいて、オイゲノールを6.60ppm以上含有させることを動機付ける記載や示唆を認めることができないから、甲1発明1において、オイゲノールを6.60ppm以上含有させることは、当業者といえども容易に想到し得たとはいえず、効果についても、甲1?18の記載から当業者が予測し得たものとはいえない。 したがって、申立人の前記主張を採用することはできない。 d したがって、相違点2-1(甲1発明1)を検討するまでもなく、本件発明2は、甲1に記載された発明及び甲1?18に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 ウ 小括 よって、本件発明2は、本件出願前に頒布された甲1に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、ということはできない。 また、本件発明2は、甲1に記載された発明及び甲1?18に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。 (4)本件発明3について 本件発明3は、本件発明2を、技術的にさらに限定した発明である。 したがって、本件発明3は、本件発明2と同様の理由により、本件出願前に頒布された甲1に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、ということはできない。 また、本件発明3は、本件発明2と同様の理由により、甲1に記載された発明及び甲1?18に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。 (5)本件発明1について ア 甲1発明1との対比 (ア)甲1発明1の「トマトケチャップ(可溶性固形分31%)」と、本件発明1の「ケチャップにおける、リコピン風味抑制方法」とは、ケチャップに関する発明である点で共通する。 (イ)甲1発明1の「塩化ナトリウム(NaCl、和光純薬工業(株)製)1.5質量%」について、塩化ナトリウム(NaCl)は塩分であり、質量%は重量%と同じであるから、本件発明1の「塩分は、0.5?2.5重量%」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1発明1とは、 「塩分0.5?2.5重量%のケチャップに関する発明」点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1-1(甲1発明1):ケチャップのリコピン含有量について、本件発明1は、25mg/100g以上50mg/100g以下であるのに対し、甲1発明1は、明らかでない点 相違点1-2(甲1発明1):ケチャップについて、本件発明1は、オイゲノールを含有し、その含有量は6.60ppm以上であるのに対し、甲1発明1は、オイゲノールを含有しているか、含有するとしてもその含有量はどのくらいか、明らかでない点 相違点1-3(甲1発明1):ケチャップに関する発明について、本件発明1は、ケチャップにおける、リコピン風味抑制方法であるのに対し、甲1発明1は、ケチャップである点 イ 判断 相違点1-1(甲1発明1)及び相違点1-2(甲1発明1)は、前記(3)アに記載の相違点2-1(甲1発明1)及び相違点2-2(甲1発明1)と同じであるから、前記(3)イで述べたことと同様である。 したがって、相違点1-1(甲1発明1)及び相違点1-3(甲1発明1)を検討するまでもなく、本件発明1は、本件発明2と同様の理由により、本件出願前に頒布された甲1に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、ということはできない。 また、本件発明1は、本件発明2と同様の理由により、甲1に記載された発明及び甲1?18に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。 (6)本件発明4について ア 甲1発明2との対比 (ア)甲1発明2の「トマトケチャップ(可溶性固形分31%)」は、本件発明4の「ケチャップ」に相当する。 (イ)甲1発明2の「塩化ナトリウム(NaCl、和光純薬工業(株)製)1.5質量%」は、「トマトケチャップ(可溶性固形分31%)」を製造するための原料であり、製造して得られる「トマトケチャップ(可溶性固形分31%)」の塩化ナトリウム(NaCl)は1.5質量%となるといえ、塩化ナトリウム(NaCl)は塩分であり、質量%は重量%と同じであるから、本件発明4の「それによって得られるケチャップの」「塩分が0.5?2.5重量%」に相当する。 (ウ)甲1発明2の「トマトペースト(カゴメ(株)製)」は、「トマトケチャップ(可溶性固形分31%)」を製造するための原料であり、トマトをペーストに加工したものといえるから、本件発明4の「トマト加工原料」に相当する。 (エ)甲1発明2の「トマトペースト(カゴメ(株)製)35質量%、アスパラギン酸ナトリウム((株)キリン協和フーズ製)0.18?1.5質量%、塩化ナトリウム(NaCl、和光純薬工業(株)製)1.5質量%、塩化カリウム(KCl、和光純薬工業(株)製)0.5質量%、醸造酢((株)ミツカングループ本社製)5質量%、還元水飴(三菱商事フードテック(株)製)19.3質量%、たまねぎ2.3質量%、香辛料0.7質量%及び水34.2?35.52質量%で合計100.00質量%となるように配合し、ホモジナイザー(ULTRA DISPERSER LK-22、ヤマト科学(株)製)を用いて十分攪拌して均質化し、開放系で60℃、80℃、90℃のそれぞれの温度に達してから5分間加熱処理を実施する、あるいは密閉系で101℃又は120℃に達してから5分間加熱処理を実施する」ことについて、「トマトペースト(カゴメ(株)製)・・、アスパラギン酸ナトリウム・・、塩化ナトリウム(NaCl・・)・・、塩化カリウム・・、醸造酢・・、還元水飴・・、たまねぎ・・、香辛料・・及び水・・」という製造原料を配合し、攪拌して均質化し、加熱処理しており、トマト加工原料である「トマトペースト(カゴメ(株)製)」等を調合しているといえるから、本件発明4の「調合:ここで調合されるのは、少なくとも、トマト加工原料」「であり」に相当する。 そうすると、本件発明4と甲1発明2とは、 「ケチャップの製造方法であって、それを構成するのは、少なくとも以下である: 調合:ここで調合されるのは、少なくとも、トマト加工原料であり、それによって得られるケチャップの塩分が0.5?2.5重量%である。」点で一致し、以下の点で相違する。 相違点4-1(甲1発明2):製造して得られるケチャップのリコピン含有量について、本件発明4は、25mg/100g以上50mg/100g以下であるのに対し、甲1発明2は、明らかでない点 相違点4-2(甲1発明2):製造して得られるケチャップについて、本件発明4は、オイゲノールを含有し、その含有量は6.60ppm以上であるのに対し、甲1発明2は、オイゲノールを含有しているか、含有するとしてもその含有量はどのくらいか、明らかでない点 相違点4-3(甲1発明2):調合されるものについて、本件発明4は、オイゲノール又はそれを含有する食品であるのに対し、甲1発明2は、オイゲノール又はそれを含有する食品もあるか明らかでない点 イ 判断 相違点4-1(甲1発明2)及び相違点4-2(甲1発明2)は、前記(3)アに記載の相違点2-1(甲1発明1)及び相違点2-2(甲1発明1)と同じであるから、前記(3)イで述べたことと同様である。 したがって、相違点4-1(甲1発明2)及び相違点4-3(甲1発明2)を検討するまでもなく、本件発明4は、本件発明2と同様の理由により、本件出願前に頒布された甲1に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、ということはできない。 また、本件発明4は、本件発明2と同様の理由により、甲1に記載された発明及び甲1?18に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。 (7)まとめ 本件発明1?4は、甲1に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、ということはできないから、本件発明1?4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。 また、本件発明1?4は、甲1に記載された発明及び甲1?18に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできないから、本件発明1?4に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してなされたものではなく、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。 4 申立理由4(進歩性:主引例を甲2とする場合)について (1)甲2に記載された発明 甲2は、「リコピンと、エステル類および/またはアルコール類とを含有するケチャップであって、該リコピンの含有量が、25mg/100g以上である、高リコピン含有ケチャップ」(甲2a)に関し記載するものであって、その具体例として、甲2の表3(2d【0046】)の製造例12及び13(2d)には、リコピンの含有量が30mg/100g、食塩の含有量が0.5?1.6重量%及び醸造酢(パイナップルビネガー)由来の香気成分量が0.06を含有する容器詰め高リコピン含有ケチャップ、並びに、その調製方法(2d【0039】)が記載されている。 さらに、甲2には、その容器詰め高リコピン含有ケチャップは、「一般的なトマトケチャップの食塩濃度3%よりも少ない食塩濃度であって、かつ、リコピン含量が25mg/100g以上であっても、リコピンを含有していない一般的なトマトケチャップ(対照例1)と同様、リコピンに由来する油っぽいムレ臭は感じられないことが判明した」(2d【0047】)と記載されていることから、この容器詰め高リコピン含有ケチャップによる、リコピンに由来する油っぽいムレ臭を抑制する方法も記載されていると認められる。 そうすると、甲2には、実施例12及び13で実施した高リコピン含有ケチャップとして、 「リコピンの含有量が30mg/100g、食塩の含有量が0.5?1.6重量%及び醸造酢(パイナップルビネガー)由来の香気成分量が0.06を含有する容器詰め高リコピン含有ケチャップ」 の発明(以下、「甲2発明1」という。)が記載されているといえる。 そして、甲2には、この高リコピン含有ケチャップの調製方法として、段落【0039】の記載に基づくと、 「濃縮トマト(トマトペースト、LosGatos社製)280g、ぶどう糖・果糖液糖240g、ホワイトビネガー適量、玉ねぎエキス適量、香辛料適量に、飲料用水適量を加えて、ケチャップベース液を調製し、次にこのケチャップベース液に、リコピン含有量が30mg/100gとなるように濃縮トマトの配合量を調節し、香気成分量が0.06となるように醸造酢(横井醸造工業株式会社製純りんご酢、日本デルモンテ株式会社製パイナップルビネガー)を適宜添加し、食塩含有量が0.5?1.6重量%となるように食塩配合量を調節して、飲料用水にて全量を1.0kgとし、定法により殺菌し、容器に充填する、リコピンの含有量が30mg/100g、食塩の含有量が0.5?1.6重量%及び醸造酢(パイナップルビネガー)由来の香気成分量が0.06を含有する容器詰め高リコピン含有ケチャップの調製方法」 の発明(以下、「甲2発明2」という。)も記載されているといえる。 さらに、甲2には、この容器詰め高リコピン含有ケチャップによる、リコピンに由来する油っぽいムレ臭の抑制方法として、 「リコピンの含有量が30mg/100g、食塩の含有量が0.5?1.6重量%及び醸造酢(パイナップルビネガー)由来の香気成分量が0.06を含有する容器詰め高リコピン含有ケチャップによる、リコピンに由来する油っぽいムレ臭の抑制方法」 の発明(以下、「甲2発明3」という。)も記載されているといえる。 (2)本件発明2について ア 甲2発明1との対比 (ア)甲2発明1の「高リコピン含有ケチャップ」は、本件発明2の「ケチャップ」に相当する。 (イ)甲2発明1の「リコピンの含有量が30mg/100g」は、本件発明2の「リコピン含有量は、25mg/100g以上50mg/100g以下」に相当する。 (ウ)甲2発明1の「食塩の含有量が0.5?1.6重量%」は、本件発明2の「塩分は、0.5?2.5重量%」に相当する。 そうすると、本件発明2と甲2発明1とは、 「ケチャップであって、 当該ケチャップのリコピン含有量は、25mg/100g以上50mg/100g以下であり、 当該ケチャップの塩分は、0.5?2.5重量%であり、かつ、 当該ケチャップのオイゲノール含有量は、6.60ppm以上である。」点で一致し、以下の点で相違する。 相違点2-1(甲2発明1):ケチャップについて、本件発明2は、オイゲノールを含有し、その含有量は6.60ppm以上であるのに対し、甲2発明1は、オイゲノールを含有しているか、含有するとしてもその含有量はどのくらいか、明らかでない点 イ 判断 (進歩性) (ア)相違点について 甲2には、甲2発明1が、オイゲノールを含有しているか、オイゲノールを含有している場合は、その含有量はどのくらいか、についての記載や示唆はない。 本件発明2は、リコピン由来のムレ臭又は油脂臭が抑制された高リコピン含有ケチャップを提供しようという課題の下、リコピン含有量は25mg/100g以上50mg/100g以下、塩分は0.5?2.5重量%であるケチャップにおいて、オイゲノール含有量を6.60ppm以上とすることにより、当該課題を解決したものである。 甲2発明1は、トマトケチャップ中のリコピン濃度を高めると、リコピン由来の特有の臭い等である、油脂様臭、ムレ臭、焦げ臭等が認識されるようになり、食品としての香味が低下する問題点や、トマトケチャップ中の食塩含量を減らした場合、リコピン由来のムレ臭や焦げ臭が目立つようになったり、ケチャップ全体の香味が水っぽく感じられるようになるという問題点があったことから、これらの問題点を解決するよう、リコピンを高濃度に含有しながら、幅広い塩分濃度の範囲で、香味の良いケチャップを得ることを課題とするものである(2b【0005】?【0007】)。 この香味の良いとは、リコピン由来の油脂様臭、ムレ臭、焦げ臭等が抑制されることも含まれることから、本件発明2の課題と同様といえる。 しかしながら、甲2発明1は、ケチャップに香気成分であるエステル類および/またはアルコール類を含有させることにより、当該課題を解決したものであって(2b【0008】)、具体的には、醸造酢(パイナップルビネガー)由来の香気成分を含有させることにより、当該課題を解決したものである。 また、オイゲノールは、化学構造が ![]() (甲3b)であり、エステル類でもアルコール類でもない。 そうすると、甲2発明1は、醸造酢(パイナップルビネガー)由来の香気成分を含有させることによって、当該課題を既に解決したものであり、そのような甲2発明1において、さらに当該課題を解決しようとして、オイゲノールを含有させるとともに、その際のオイゲノールの含有量を6.60ppm以上とする動機付けがあるとは認められない。 (イ)また、甲2?18には、甲2発明1において、オイゲノールを含有させようとすること、その際のオイゲノールの含有量を6.60ppm以上とすることを導き出す記載や示唆を認めることができない。 そうすると、甲2発明1に甲1?18の記載を組み合わせたとしても、甲2発明1において、オイゲノールを含有させようとすること、その際のオイゲノールの含有量を6.60ppm以上とすることについては、甲1?18のいずれにも記載も示唆もなく、本件出願当時の技術常識であったとも認められず、動機付けがあるとする根拠が見出せない以上、本件発明2の相違点2-1(甲2発明1)に係る構成を採用することは、当業者といえども、甲1?18の記載から容易に想到し得る技術的事項であるとはいえない。 (ウ)本件発明2の効果について 本件発明2の効果は、本件明細書の段落【0011】の記載及び実施例(【0039】?【0053】)の記載より理解されるように、リコピン由来のムレ臭又は油脂臭が抑制された高リコピン含有ケチャップを提供できることであり、そのような効果は、甲1?18の記載から当業者が予測し得たものとはいえない。 (エ)申立人の主張について 申立人は、特許異議申立書50頁9行?58頁10行において、以下のa、bを主張している。これらの主張は、特許異議申立書では、「(4-5-2)本件発明1の進歩性について」で主張していることであるが、以下(4)で述べるように、本件発明1と甲2発明3との相違点が、本件発明2と甲2発明1との相違点と実質的に同じであるから、ここで検討する。 a 「甲第2号証の段落【0020】において「エステル類および/またはアルコール類を添加した場合と同様の効果が得られる食品としては・・・。なお、本実施形態における香気成分は、上記食品に含まれる香気成分を濃縮や精製したものである香料を用いてもよく、さらに上記食品と香料を適宜組み合わせてもよい」(・・)と記載されているように、ここで規定されているエステル類および/またはアルコール類に限らず、様々な香気成分ないしそれを含む食品を、リコピンによる風味の悪化抑制方法として適宜用いることを当然に許容するものである」と主張し、様々な香気成分を含有する食品として、甲4の「蒸留酒類、清酒、みりん又は発酵調味料」を挙げ、これらは特定量のオイゲノールを含有し、食材の不快臭の消臭に有用なものであること、甲3の「クローブ」、甲6、甲13、甲15を挙げ、ケチャップを含む種々の食品にオイゲノールを配合し、その品質を高めることができる旨記載されていること、また、甲2発明1では、香辛料を含んでいるところ、甲1、3、5、14の記載より、トマトケチャップの原料としてオイゲノールを含むクローブ(ないしオールスパイス)を配合させることは、周知慣用技術であり、甲5より、クローブの主成分はオイゲノールで、香りをつけるだけではなく、料理素材の気になる臭いを消す作用も持っていることから、当業者であれば、オイゲノールを主要成分として含む香辛料を、甲2発明1の高リコピン含有ケチャップに配合することにより、リコピンの不快臭のマスキングによる風味の改善に用いることができると認識し得ること、以上に鑑みれば、甲2発明1のリコピンによる風味の悪化抑制方法の手段として、エステル類および/またはアルコール類に代えて、またはそれらと共に、風味の更なる改善や品質の向上を目的として、オイゲノールを主成分として含むクローブ等の香辛料を配合する明確な動機付けがあること、そして、本件発明2と甲1発明1との対比・判断で述べように、その場合のオイゲノール濃度が6.60ppm以上を満たすことは明らかであること、また、本件発明2で特定されている「リコピン含有量は、25mg/100g以上50mg/100g以下」、「塩分は、0.5?2.5重量%」及び「オイゲノール含有量は、6.60ppm以上」という構成には、臨界的異議ないし技術的意味を見出せないから、本件発明2の顕著な効果は存在せず、相違点は当業者が通常の創作能力の発揮として行う設計事項に過ぎない旨、主張している。 b 甲2は審査段階でも引用文献として用いられており、これに対し被申立人が審判請求書において主張し特許査定となった経緯があるので、その被申立人の主張について検討すると、被申立人は、甲3の「ごく少量を用いると、料理素材の気になるにおい消しに最適である」(3c)との記載は、本件発明2の「オイゲノール含有量は、6.60ppm以上」を下回る量しか開示されていないかのような主張をしているが、甲1、4、9、14、16?18の記載より、料理において「ごく少量」とは、辞書的な意味で用いられているものではなく、少なくとも6.60ppmを下回るような非常に少ない量を意味するものではないこと、さらに、被申立人は、甲3の記載に関し、オイゲノールに着目し、その濃度を調整することによって、においを消すことが記載も示唆もされていないし、料理ではなくケチャップ自体のにおい消しに用いることも記載されていないと主張するが、甲4?6の記載より、オイゲノールの消臭効果は様々な食品のにおい消しに有効であること、抗酸化作用により油脂臭のマスキングに有効であることも技術常識であるから、オイゲノールはリコピン由来の油脂臭に対しても有効であることは合理的に理解できること、さらに、被申立人は、甲15の記載に関し、オイゲノールに着目しその量を6.60ppm以上に調整することは、当業者であっても想到し得ないと主張するが、甲15の記載を縷々述べ、甲15に関する被申立人の主張に理由がない旨、主張している。 以下、検討する。 申立人の主張aについては、甲2の段落【0020】の前記記載は、甲2の課題を解決する手段である、香気成分であるエステル類および/またはアルコール類を含有させることとして、当該エステル類および/またはアルコール類を添加した場合と同様の効果が得られる食品に含まれる香気成分を濃縮や精製した香料を用いてもよいことを述べているものであり、ここでいう香気成分はエステル類および/またはアルコール類を意味するものであって、「エステル類および/またはアルコール類に限らず、様々な香気成分ないしそれを含む食品を、リコピンによる風味の悪化抑制方法として適宜用いることを当然に許容するものである」とはいえない。 それ故、甲2発明1において、甲2の課題を解決しようとして、エステル類でもアルコール類でもないオイゲノールを6.60ppm以上含有させようという動機付けがあるとは認められない。 そして、当該動機付けがあるとは認められない以上、甲2発明1において、本件発明2の相違点2-1(甲2発明1)に係る構成を採用することは、当業者といえども容易に想到し得るとはいえない。 申立人の主張bについては、前記申立人の主張aで述べたように、甲2発明1において、甲2の課題を解決しようとして、エステル類でもアルコール類でもないオイゲノールを6.60ppm以上含有させようという動機付けがあるとは認められない以上、甲1?18の記載事項を考慮しても、甲2発明1において、本件発明2の相違点2-1(甲2発明1)に係る構成を採用することは、当業者といえども容易に想到し得るとはいえない。 したがって、申立人の前記主張a,bを採用することはできない。 ウ 小括 したがって、本件発明2は、甲2に記載された発明及び甲1?18に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。 (3)本件発明3について 本件発明3は、本件発明2を、技術的にさらに限定した発明である。 したがって、本件発明3は、本件発明2と同様の理由により、甲2に記載された発明及び甲1?18に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。 (4)本件発明1について ア 甲2発明3との対比 (ア)甲2発明3の「高リコピン含有ケチャップ」は、本件発明1の「ケチャップ」に相当する。 (イ)甲2発明3の「リコピンの含有量が30mg/100g」は、本件発明1の「リコピン濃度25mg/100g以上50mg/100g以下」に相当する。 (ウ)甲2発明3の「食塩の含有量が0.5?1.6重量%」は、本件発明1の「塩分0.5?2.5重量%」に相当する。 (エ)甲2発明3の「リコピンに由来する油っぽいムレ臭の抑制方法」は、本件発明1の「リコピン風味抑制方法」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲2発明3とは、 「コピン濃度25mg/100g以上50mg/100g以下であり、かつ、塩分0.5?2.5重量%のケチャップにおける、リコピン風味抑制方法」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1-1(甲2発明3):リコピン風味抑制方法を構成するのが、本件発明1は、「調整:ここで調整されるのは、ケチャップのオイゲノール含有量であり、前記ケチャップのオイゲノール含有量は、6.60ppm以上である」のに対し、甲2発明3は、醸造酢(パイナップルビネガー)由来の香気成分量が0.06を含有することである点 イ 判断 (進歩性) 相違点1-1(甲2発明3)は、前記(2)アに記載の相違点2-1(甲2発明1)と実質的に同様であるから、前記(2)イで述べたことと同様である。 したがって、本件発明1は、本件発明2と同様の理由により、甲2に記載された発明及び甲1?18に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。 (5)本件発明4について ケチャップの製造方法であって、それを構成するのは、少なくとも以下である: 調合:ここで調合されるのは、少なくとも、トマト加工原料、並びにオイゲノール又はそれを含有する食品であり、それによって得られるケチャップのリコピン含有量が25mg/100g以上50mg/100g以下であり、塩分が0.5?2.5重量%であり、かつ、オイゲノール含有量が6.60ppm以上である。」 ア 甲2発明2との対比 (ア)甲2発明2の「容器詰め高リコピン含有ケチャップの調製方法」は、本件発明4の「ケチャップの製造方法」に相当する。 (イ)甲2発明2の調製方法によって得られる「容器詰め高リコピン含有ケチャップ」の「リコピンの含有量が30mg/100g、食塩の含有量が0.5?1.6重量%」は、本件発明4の「それによって得られるケチャップのリコピン含有量が25mg/100g以上50mg/100g以下であり、塩分が0.5?2.5重量%である」に相当する。 (ウ)甲2発明2の「濃縮トマト(トマトペースト、LosGatos社製)」は、「容器詰め高リコピン含有ケチャップ」を製造するための原料であり、トマトをペーストに加工したものといえるから、本件発明4の「トマト加工原料」に相当する。 (エ)甲2発明2の「濃縮トマト(トマトペースト、LosGatos社製)280g、ぶどう糖・果糖液糖240g、ホワイトビネガー適量、玉ねぎエキス適量、香辛料適量に、飲料用水適量を加えて、ケチャップベース液を調製し、次にこのケチャップベース液に、リコピン含有量が30mg/100gとなるように濃縮トマトの配合量を調節し、香気成分量が0.06となるように醸造酢(横井醸造工業株式会社製純りんご酢、日本デルモンテ株式会社製パイナップルビネガー)を適宜添加し、食塩含有量が0.5?1.6重量%となるように食塩配合量を調節して、飲料用水にて全量を1.0kgとし、定法により殺菌し、容器に充填する」ことについて、「濃縮トマト(トマトペースト、LosGatos社製)」等を基にケチャップベース液を調製し、ここにリコピン含有量が30mg/100gとなるように濃縮トマトの配合量を調節し、醸造酢、食塩を添加しており、トマト加工原料である「濃縮トマト(トマトペースト、LosGatos社製)」等を調合しているといえるから、本件発明4の「調合:ここで調合されるのは、少なくとも、トマト加工原料」「であり」に相当する。 そうすると、本件発明4と甲2発明2とは、 「ケチャップの製造方法であって、それを構成するのは、少なくとも以下である: 調合:ここで調合されるのは、少なくとも、トマト加工原料であり、それによって得られるケチャップのリコピン含有量が25mg/100g以上50mg/100g以下であり、塩分が0.5?2.5重量%である。」点で一致し、以下の点で相違する。 相違点4-1(甲2発明2):製造して得られるケチャップについて、本件発明4は、オイゲノールを含有し、その含有量は6.60ppm以上であるのに対し、甲1発明2は、オイゲノールを含有しているか、含有するとしてもその含有量はどのくらいか、明らかでない点 相違点4-2(甲2発明2):調合されるものについて、本件発明4は、オイゲノール又はそれを含有する食品であるのに対し、甲1発明2は、オイゲノール又はそれを含有する食品もあるか明らかでない点 イ 判断 相違点4-1(甲2発明2)は、前記(2)アに記載の相違点2-1(甲2発明1)と同じであるから、前記(2)イで述べたことと同様である。 したがって、相違点4-2(甲2発明2)を検討するまでもなく、本件発明4は、本件発明2と同様の理由により、甲2に記載された発明及び甲1?18に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。 (6)まとめ 本件発明1?4は、甲2に記載された発明及び甲1?18に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできないから、本件発明1?4に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してなされたものではなく、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-09-30 |
出願番号 | 特願2018-220993(P2018-220993) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(A23L)
P 1 651・ 113- Y (A23L) P 1 651・ 536- Y (A23L) P 1 651・ 121- Y (A23L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 高山 敏充 |
特許庁審判長 |
村上 騎見高 |
特許庁審判官 |
冨永 保 齊藤 真由美 |
登録日 | 2020-10-15 |
登録番号 | 特許第6779272号(P6779272) |
権利者 | カゴメ株式会社 |
発明の名称 | リコピン風味抑制方法、高リコピン含有ケチャップ及びその製造方法 |
代理人 | 塚副 成 |