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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
管理番号 1378779
異議申立番号 異議2021-700570  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-11-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-06-16 
確定日 2021-10-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第6800313号発明「染毛料組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6800313号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由
第1 手続の経緯

特許第6800313号(以下「本件特許」という。)に係る出願(特願2019-509234号)は、平成30年3月15日(優先権主張 平成29年3月29日(以下「本件優先日」という。))を国際出願日とするものであって、令和2年11月26日にその特許権の設定登録(請求項の数:6)がなされ、同年12月16日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和3年6月16日に、特許異議申立人 柴田勇一(以下「申立人A」という。)、及び、特許異議申立人 栗原喜子(以下「申立人B」という。)により、本件特許の請求項1?6に係る発明の特許に対して、それぞれ特許異議の申立てがなされた。

第2 本件発明

本件特許の請求項1?6に係る発明は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?6(以下「本件請求項1」?「本件請求項6」という。)に記載された事項によって特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
下記成分A、下記成分B、下記成分C、及び下記成分Dを含有し、
前記成分Aの含有量が0.005?0.5質量%であり、
前記成分Bの含有量が0.005?1.5質量%であり、
前記成分Cの含有量が0.1?1.5質量%であり、
前記成分Dの含有量が0.01?0.5質量%である
染毛料組成物。
成分A:下記式(1)で表される染料
【化1】

成分B:塩基性橙31、塩基性赤51、塩基性赤76、塩基性黄87、及び塩基性黄57からなる群より選ばれる1以上の染料
成分C:HC青2
成分D:HC黄4及びHC黄2からなる群より選ばれる1以上の染料

【請求項2】
前記成分Aの含有量に対する、前記成分Bの含有量の質量割合[成分B/成分A]が、0.1?10.0であり、
前記成分Cの含有量に対する、前記成分Dの含有量の質量割合[成分D/成分C]が、0.005?1.0であり、
前記成分Aの含有量に対する、前記成分Cの含有量の質量割合[成分C/成分A]が、1.5?70.0である
請求項1に記載の染毛料組成物。

【請求項3】
前記成分D100質量%中の、前記HC黄2の含有量が50.0質量%以上である請求項1又は2に記載の染毛料組成物。

【請求項4】
カラーリンス又はカラートリートメントである請求項1?3のいずれか1項に記載の染毛料組成物。

【請求項5】
さらに、下記成分Eを含有する請求項4に記載の染毛料組成物。
成分E:カチオン性界面活性剤、カチオン性ポリマー、及びシリコーン油からなる群より選ばれる1以上の成分

【請求項6】
白髪染め用の染毛料組成物である請求項1?5のいずれか1項に記載の染毛料組成物。」

以下、本件特許の請求項1?6に係る発明を、それぞれ請求項の番号順に「本件発明1」?「本件発明6」といい、これらを総称して「本件発明」ということがある。

第3 申立ての理由の概要及び証拠

1 申立人Aによる申立ての理由の概要及び証拠

申立人Aは、その特許異議申立書(以下「申立人Aの申立書」という。)において、本件請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由として、以下の(1)に概要を示すア?ウの申立ての理由(以下「申立理由A1」?「申立理由A3」という。)を主張するとともに、証拠方法として、以下の(2)に示す甲第1?4号証(以下、それぞれ番号順に「甲A1」等ということがある。)を提出した。

(1)申立人Aによる申立ての理由の概要

ア 申立理由A1;甲A1を主引例とする進歩性違反
(特許法第29条第2項/請求項1?6)
本件発明1?6は、甲A1に記載された発明、甲A3に記載された事項、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?6に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

イ 申立理由A2;甲A2を主引例とする進歩性違反
(特許法第29条第2項/請求項1?6)
本件発明1?6は、甲A2に記載された発明、甲A3に記載された事項、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?6に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

ウ 申立理由A3;サポート要件違反
(特許法第36条第6項第1号/請求項1?6)
請求項1?6に係る発明についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)申立人Aが提出した証拠(証拠方法)

甲第1号証 特開2017-031085号公報
(甲A1) (平成29年2月9日発行)(下記「甲B3」と同じ文献)
甲第2号証 特開2015-140326号公報
(甲A2) (平成27年8月3日発行)
甲第3号証 週刊粧業オンライン,「BASFジャパン、鮮やかな青色の
(甲A3) カチオン系直接染料を提案」,C&T 2016年12月15日号
40ページ,2017年(平成29年)2月10日10時00分,
https://www.syogyo.jp/news/2017/02/post_017166
甲第4号証 特開2014-101292号公報
(甲A4) (平成26年6月5日発行)(下記「甲B2」と同じ文献)

2 申立人Bによる申立ての理由の概要及び証拠

申立人Bは、その特許異議申立書(以下「申立人Bの申立書」という。)において、本件請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由として、以下の(1)に概要を示す申立ての理由(以下「申立理由B」という。)を主張するとともに、証拠方法として、以下の(2)に示す甲第1?6号証(以下、それぞれ番号順に「甲B1」等ということがある。)を提出した。

(1)申立人Bによる申立ての理由の概要

申立理由B;甲B1を主引例とする進歩性欠如
(特許法第29条第2項/請求項1?6)
本件発明1?6は、甲B1?甲B6に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?6に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
なお、申立人Bの申立書には、甲B1?甲B6のいずれが主引例であるのか明示されていないが、同申立書(特に、34?36頁)の記載からみて、甲B1を主引例とする進歩性欠如が主張されているものと理解できるから、その前提で以下の検討を行う。

(2)申立人Bが提出した証拠(証拠方法)

甲第1号証 特開2015-017109号公報
(甲B1) (平成27年1月29日発行)
甲第2号証 特開2014-101292号公報
(甲B2) (平成26年6月5日発行)(上記「甲A4」と同じ文献)
甲第3号証 特開2017-031085号公報
(甲B3) (平成29年2月9日発行)(上記「甲A1」と同じ文献)
甲第4号証 特開2012-246284号公報
(甲B4) (平成24年12月13日発行)
甲第5号証 特開2017-048153号公報
(甲B5) (平成29年3月9日発行)
甲第6号証 特開2014-101290号公報
(甲B6) (平成26年6月5日発行)

第4 本件明細書の記載事項等

本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付したものである。

「【発明の詳細な説明】
・・・
【背景技術】
【0002】
従来、白髪染め、おしゃれ染めといった毛髪を染色する処理剤としては、アルカリ剤と酸化染毛料とを含む第1剤と、過酸化水素を含む第2剤とからなる酸化染毛剤等が汎用されている。しかしながら、これら酸化染毛剤は、優れた染色効果を発揮し、望む髪色へと染色することができる反面、毛髪や頭皮へのダメージが生じる場合があるといった欠点がある。また、施術時に薬剤を毛髪上に留め、長時間放置しなければならないことから、セルフで処理を施す場合には非常に手間がかかるだけでなく、アルカリ剤の刺激臭や皮膚刺激が生じるといった欠点がある。また、施術の仕方によっては、染め上がりにムラが生じて均一に染色し難いといった欠点もある。
【0003】
これに対して、毛髪や頭皮へのダメージが小さい処理剤として、塩基性染料やHC染料を用いた染毛料が知られている。上記染毛料の中でも、洗髪時のシャンプーと同時に毛髪を染色することができるカラーシャンプーや、洗髪後のリンス、トリートメントと同時に毛髪を染色することができるカラーリンス又はカラートリートメントは、簡便性に優れ、さらに、染色の均一性にも優れるという利点がある(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、従来の上記染毛料は、皮膚への染着性が高く、即ち、皮膚に付着した場合に皮膚に色がつきやすいという欠点があり、特に、カラーシャンプー、カラーリンスやカラートリートメントの場合には、洗髪時に手袋等を用いずに使用するため、指先や頭皮が着色してしまう問題があった。上記着色を抑制するために、染毛料中の染料濃度を低くする場合には、毛髪に対する染色性が低下する。このため、毛髪に対する染色性は高く、皮膚への染着性は抑えられた染毛料が求められているのが現状である。
【0005】
なお、近年、青色染料であるベーシックブルー(Basic Blue)124を配合した染毛料組成物が知られている(特許文献2、3)。しかしながら、上記染毛料組成物の染着性については、一切知られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-101292号公報
(当審注:甲A4及び甲B2と同じ文献である。)
【特許文献2】特開2015-17108号公報
【特許文献3】特開2015-17109号公報
(当審注:甲B1と同じ文献である。)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、毛髪に対する十分な染色性を有するにもかかわらず、皮膚への染着性は抑えられた染毛料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、成分A:ベーシックブルー124、成分B:塩基性橙31、塩基性赤51、塩基性赤76、塩基性黄87、及び塩基性黄57からなる群より選ばれる1以上の染料、成分C:HC青2、成分D:HC黄4及びHC黄2からなる群より選ばれる1以上の染料を含有する染毛料組成物によれば、毛髪に対する十分な染色性を有するにもかかわらず、皮膚への染着性は抑えられた染毛料組成物が得られることを見出した。・・・。
・・・
【発明の効果】
【0015】
本発明の染毛料組成物は、十分に優れた毛髪に対する染色性を有する。このため、カラーシャンプー、カラーリンスやカラートリートメントとして用いる場合には、少ない回数の使用によって、十分に毛髪の染色効果を発揮し得る。また、ヘアマニキュアとして用いる場合にも、比較的短時間の施術時間で十分な染色効果を得ることができる。さらに、本発明の染毛料組成物は、皮膚への染着性が低く、使用時の指や頭皮の着色が極めて少ない。
・・・
【0021】
[成分A:式(1)で表される染料]
・・・。成分Aは、毛髪に対する染色性が非常に優れるにもかかわらず、皮膚への染着性が極めて低い。このため、成分Aを用いることにより、毛髪への高い染色性と皮膚への染着の抑止性を両立した染毛料組成物を得ることができる。
・・・
【0022】
成分Aは、INCI名(・・・):BASIC BLUE 124(ベーシックブルー124)で表記される化合物であり、3-アミノ-7-(ジメチルアミノ)-2-メトキシフェノキサジン-5-イウム・クロリド:・・・である。
・・・
【0024】
本発明の染毛料組成物100質量%中の、成分Aの含有量は、特に限定されないが、0.005?0.5質量%が好ましく、より好ましくは0.01?0.2質量%であり、さらに好ましくは0.02?0.1質量%である。上記含有量が0.005質量%以上であると、毛髪に対する染色性、特に白髪を染色する効果が向上するため好ましい。上記含有量が0.5質量%以下であると、安全性がより一層向上するため好ましい。また、水洗後に水に溶けだした染料によるタオルや衣服等への色移りがより一層抑制されるため好ましい。
【0025】
[成分B:塩基性橙31、塩基性赤51、塩基性赤76、塩基性黄87、及び塩基性黄57からなる群より選ばれる1以上の染料]
・・・・
【0026】
成分Bは、中でもこれらの染料を組み合わせて橙色系の色味に整えることが好ましい。・・・。中でも、成分Bは、塩基性橙31、塩基性赤51と塩基性黄87との組み合わせであることが特に好ましい。橙色系に調製した成分Bと、青色の成分Aとを配合することにより、染毛料組成物中で、カチオン性の染料のみの組み合わせで灰色に呈色しうる。・・・。
・・・
【0033】
本発明の染毛料組成物100質量%中の、成分Bの含有量は、特に限定されないが、0.005?1.5質量%が好ましく、より好ましくは0.01?1.0質量%である。上記含有量が0.005質量%以上であると、毛髪に対する染色性、特に白髪を染色する効果がより向上するため好ましい。上記含有量が1.5質量%以下であると、安全性がより一層向上するため好ましい。また、水洗後に水に溶けだした染料によるタオルや衣服等への色移りがより一層抑制されるため好ましい。上記成分Bの含有量は、本発明の染毛料組成物中の全ての成分Bの含有量の合計量である。
・・・
【0036】
[成分C:HC青2]
・・・
【0038】
本発明の染毛料組成物100質量%中の、成分Cの含有量は、特に限定されないが、0.1?1.5質量%が好ましく、より好ましくは0.2?1.5質量%、さらに好ましくは0.5?1.0質量%である。上記含有量が0.1質量%以上であると、堅牢性がより向上するため好ましい。上記含有量が1.5質量%以下であると、安全性がより一層向上するため好ましい。また、水洗後に水に溶けだした染料によるタオルや衣服等への色移りがより一層抑制されるため好ましい。
【0039】
[成分D:HC黄4及びHC黄2からなる群より選ばれる1以上の染料]
・・・
【0041】
本発明の染毛料組成物100質量%中の、成分Dの含有量は、特に限定されないが、0.01?0.5質量%が好ましく、より好ましくは0.01?0.2質量%、さらに好ましくは0.02?0.1質量%である。上記含有量が0.01質量%以上であると、堅牢性がより向上するため好ましい。上記含有量が0.5質量%以下であると、安全性がより一層向上するため好ましい。また、水洗後に水に溶けだした染料によるタオルや衣服等への色移りがより一層抑制されるため好ましい。上記成分Dの含有量は、本発明の染毛料組成物中の全ての成分Dの含有量の合計量である。
【0042】
成分Dとしては、耐光性(光安定性)により一層優れる観点から、HC黄2がより好ましい。即ち、成分DはHC黄2を必須成分として含むことが好ましく、HC黄2であることがより好ましい。成分D100質量%中のHC黄2の含有量は、50.0質量%以上(即ち、50.0?100質量%)が好ましく、より好ましくは70.0質量%以上、さらに好ましくは90.0質量%以上である。・・・。特に、黄色の染料を用いて調製した灰色を呈色する染毛料の場合には、黄色成分の退色により、染毛料全体の呈する色調の変化が大きいため、上記範囲でのHC黄2の使用が有効である。
【0043】
本発明の染毛料組成物中、成分Aと成分Bは共にカチオン性の染料であり、カチオン性の染料のみの組み合わせで灰色に呈色する。また、成分Cと成分Dは共にノニオン性の染料であり、ノニオン性の染料のみの組み合わせで灰色に呈色する。従って、本発明の染毛料組成物においては、カチオン性の染料のみの組み合わせとノニオン性の染料のみの組み合わせのそれぞれが灰色に呈色する。カチオン性の染料は染着速度がはやく堅牢性にも優れるがダメージ毛や損傷部位に吸着しやすく染色ムラがでやすい特性を有する。一方、ノニオン性の染料は染着速度は比較的遅いものの、損傷の有無によらず均一に吸着しやすい特性を有する。このため、カチオン性の染料とノニオン性の染料の色調がそれぞれ異なる場合には、放置時間や部位による損傷度合の違い等により、色ムラが生じやすくなる。本発明においては、上述の通り、カチオン性の染料とノニオン性の染料を用い、それぞれが灰色に呈色するため、短時間での染色性、色持ち、放置時間延長時の変色抑制、ブリーチ処理された毛等のダメージ毛に対する色ムラをより改善することができるため好ましい。
【0044】
本発明の染毛料組成物中において、成分Aの含有量に対する、成分Bの含有量の質量割合[成分B/成分A]は、特に限定されないが、0.1?10.0であることが好ましく、より好ましくは0.5?8.0である。上記質量割合を上記範囲内とすることにより、特に白髪をより自然な色調に染めることができる。上記質量割合が0.1未満では、毛髪に染着した色調が青色になり、上記質量割合が10.0を超えると毛髪に染着した色調が赤色になり、特に白髪染めにおいて不自然な色調となる場合がある。
【0045】
本発明の染毛料組成物中において、成分Cの含有量に対する、成分Dの含有量の質量割合[成分D/成分C]は、特に限定されないが、0.005?1.0であることが好ましく、より好ましくは0.01?0.5である。上記質量割合を上記範囲内とすることにより、特に白髪をより自然な色調に染めることができる。上記質量割合が0.005未満では、毛髪に染着した色調が紫色になり、上記質量割合が1.0を超えると毛髪に染着した色調が黄色になり、特に白髪染めにおいて不自然な色調となる場合がある。
【0046】
本発明の染毛料組成物中において、成分Aの含有量に対する、成分Cの含有量の質量割合[成分C/成分A]は、特に限定されないが、1.5?70.0であることが好ましく、より好ましくは1.6?60.0である。上記質量割合が、1.5以上であると、染色速度を適切に調節でき、ブリーチ処理された毛等のダメージ毛に対する色ムラが生じにくくなる。一方、上記質量割合が、70.0以下であると、染色性と色持ちに優れるため好ましい。
・・・
【0048】
[成分E:カチオン性界面活性剤、カチオン性ポリマー、及びシリコーン油からなる群より選ばれる1以上の成分]
本発明の染毛料組成物がカラーリンス、カラートリートメント、及びヘアマニキュアのうちのいずれかである場合、本発明の染毛料組成物は、成分Eを含むことが好ましい。・・・。成分Eを含むと、染毛料組成物による水洗時のきしみ感の低減の効果が向上するため好ましい。・・・。
【0049】
上記カチオン性界面活性剤(カチオン界面活性剤)としては、例えば、モノアルキル型4級アンモニウム塩、ジアルキル型4級アンモニウム塩、トリアルキル型4級アンモニウム塩、モノアルキルエーテル型4級アンモニウム塩、アルキルアミン、脂肪酸アミドアミン等が挙げられる。
【0050】
上記モノアルキル型4級アンモニウム塩としては、例えば、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、・・・、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベへニルトリメチルアンモニウム、塩化アルキル(16,18)トリメチルアンモニウム、塩化アルキル(20?22)トリメチルアンモニウム、・・・、塩化ジ(ポリオキシエチレン)オレイルメチルアンモニウム等が挙げられる。
【0051】
上記脂肪酸アミドアミンとしては、例えば、ミリスチン酸ジメチルアミノエチルアミド、・・・、ステアリン酸ジメチルアミノプロピルアミド、・・・、ベヘニン酸ジエチルアミノプロピルアミド等が挙げられる。
・・・
【0076】
本発明の染毛料組成物は、毛髪を灰色、黒色、茶色、緑色、青紫色等に染色することができる。より好ましくは、灰色、黒色、茶色であり、さらに好ましくは、灰色である。このため、白髪染め、おしゃれ染め等の染毛料組成物として用いることができ、色調の観点から、好ましくは白髪染め用の染毛料組成物である。
・・・
【実施例】
【0081】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。なお、表に記載の配合量は、各成分の配合量(すなわち、各原料中の有効成分の配合量。所謂純分)であり、特記しない限り「質量%」で表す。・・・。
【0082】
実施例1-1?1-22、比較例1-1?1-9:カラーリンス(又はカラートリートメント)
表1及び表2に記した組成に従い、各染毛料組成物を調製し、下記試験1?6の評価試験に供した。・・・。評価結果は表に併記する。
・・・
【0085】
[試験1:染色性の評価]
試験用毛束として、未処理の白色人毛毛束(株式会社ビューラックス製、長さ10cm、重さ1g)を用いた。
【0086】
(評価用毛束の調製:カラーリンスの場合)
試験用毛束を市販のシャンプーを用いて洗浄した後、軽く水気を切り、以下の調製に用いた。上記試験用毛束に、製造直後の実施例及び比較例で得られた各染毛料組成物0.5gを塗布し、1分間ハケを用いて毛束(毛髪)全体に馴染ませた。次いで、5分間放置後、40℃のぬるま湯を用いて、毛束から染毛料組成物を十分に洗い流し、タオルドライを行った後、ドライヤーを用いて十分に乾燥させて、評価用毛束を調製した。
・・・
【0088】
上記で得られた評価用毛束を観察し、染色性を以下の基準で評価した。なお、染色性の評価は、4名の専門評価員が行った。
<染色性の評価基準>
◎(優れる):非常に濃く染色されている。
○(良好):十分に染色されている。
×(不良):染色が薄い。
【0089】
さらに、試験1で得られた評価用毛束の色調を表に示した。
【0090】
[試験2:皮膚汚れ(染着性)の評価]
製造直後の実施例及び比較例で得られた各染毛料組成物0.5gをそれぞれ、前腕内側部における直径1cmの円形のエリアに塗布した。5分間放置後、塗布部を、ぬるま湯で洗い流し、次いで、石鹸を使用して30秒間軽く擦り、ぬるま湯で洗い流した。
【0091】
上記塗布部を観察し以下の基準で評価した。なお、皮膚汚れの評価は、4名の専門評価員が行った。
<皮膚汚れの評価基準>
◎(優れる):皮膚汚れが全く残らない。
○(良好):皮膚汚れが僅かに残る。
×(不良):皮膚汚れが明らかに残る。
【0092】
[試験3:堅牢性の評価]
試験1(染色性の評価)の評価の後、各評価用毛束を、40℃のぬるま湯にて十分に洗った後、市販のシャンプーを用いて1分間しっかり洗浄した。さらに、40℃のぬるま湯にて十分に洗い流しを行い、タオルドライ後、ドライヤーを用いて十分に乾燥させた。
【0093】
上記で得られた評価用毛束を観察し、堅牢性を以下の基準で評価した。なお、堅牢性の評価は、4名の専門評価員が行った。
<堅牢性の評価基準>
○(良好):試験後に毛髪の色の落ち方が小さい。
×(不良):試験後に毛髪の色の落ち方が大きい。
【0094】
[試験4:放置時間延長時の変色抑制の評価
試験1(染色性の評価)の評価用毛束の調製において、「5分間放置」を「30分間放置」に変更した以外は、試験1と同様にして評価用毛束を調製した。
【0095】
各実施例、各比較例ごとに、試験4で調製した評価用毛束と、試験1で調製した評価用毛束の染色された色調を対比して、放置時間延長時の変色抑制の度合を以下の基準で評価した。なお、評価は、4名の専門評価員が行った。
<放置時間延長時の変色抑制の評価基準>
○(良好):試験4で調製した評価用毛束の色調は、試験1で調製した評価用毛束の色調から変化が全くない。
×(不良):試験4で調製した評価用毛束の色調は、試験1で調製した評価用毛束の色調から変化がある。
【0096】
【表1】

(当審注:表1は分割して摘記した。)
【0097】
【表2】

・・・
【0099】
[試験5:耐光性の評価]
試験1(染色性の評価)の評価の後、各評価用毛束に、耐堅牢性試験機強キセノンフェードメーター(スガ試験機株式会社製、商品名「キセノンウェザーメーターX-25」)を用い、6300kJ/m^(2)の条件で光を照射した。
【0100】
上記で得られた評価用毛束を観察し、耐光性を以下の基準で評価した。なお、耐光性の評価は、4名の専門評価員が行った。
<耐光性の評価基準>
○(良好):試験5で調製した評価用毛束の色調は、試験1で調製した評価用毛束の色調から変化が全くない又はほとんどない。
△(やや不良):試験5で調製した評価用毛束の色調は、試験1で調製した評価用毛束の色調から明らかに変化がある。
×(不良):試験5で調製した評価用毛束の色調は、試験1で調製した評価用毛束の色調から非常に大きな変化がある。
【0101】
試験5(耐光性の評価)の結果、実施例1-19は耐光性がやや不良(△)であり、実施例1-12及び比較例1-9は耐光性が不良(×)であった。他の実施例、比較例は耐光性が良好(○)であった。
【0102】
[試験6:ダメージ毛に対する色ムラの評価]
試験1(染色性の評価)の評価用毛束の調製において、「未処理の白色人毛毛束(株式会社ビューラックス製、長さ10cm、重さ1g)」を「ブリーチ処理した毛束(株式会社スタッフス製、レベル14、長さ10cm、重さ1g)」に変更した以外は、試験1と同様にして評価用毛束を調製した。
【0103】
上記で得られた評価用毛束を観察し、ダメージ毛に対する色ムラを以下の基準で評価した。なお、ダメージ毛に対する色ムラの評価は、4名の専門評価員が行った。
<ダメージ毛に対する色ムラの評価基準>
○(良好):毛束全体が均一に染まっている。
×(不良):毛束全体が均一に染まっておらず、色ムラがある。
【0104】
試験6(ダメージ毛に対する色ムラの評価)の結果、比較例1-1及び比較例1-2は、ダメージ毛に対する色ムラが不良(×)であった。他の実施例、比較例はダメージ毛に対する色ムラは良好(○)であった。」

第5 各甲号証及び周知例の記載事項

上記第3の1(2)に列記した申立人Aが提出した甲号証、及び、上記第3の2(2)に列記した申立人Bが提出した甲号証について、申立ての理由の判断に必要な記載事項を以下に摘記する。申立人Aが提出した甲号証と申立人Bが提出した甲号証が同じ文献であるものは、例えば、「甲A1=甲B3」のように表記し、同じ1つの項目で摘記する。
また、当審が提示する次の周知例1?3の記載事項についても、各甲号証の記載事項に続いて摘記する。
なお、下線は当審が付したものである。

周知例1 特開2016-041672号公報
(平成28年3月31日発行)
周知例2 特開2017-019779号公報
(平成29年1月26日発行)
周知例3 特開2013-067597号公報
(平成25年4月18日発行)

1 甲A1=甲B3の記載事項

本件優先日前(平成29年2月9日)に発行された甲A1=甲B3(特開2017-031085号公報)には、以下の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪明度向上剤及び該毛髪明度向上剤を使用する毛髪色彩調整剤・・・に関する。
【背景技術】
【0002】
毛髪の染色には、染毛効果が優れるという理由から、酸化染毛剤が広く利用されている。一般に、酸化染毛剤は、酸化染料及びアルカリ剤を含む第1剤と、過酸化水素を含む第2剤からなり、第1剤と第2剤を混合して使用される。第1剤中のアルカリ剤は、第2剤中の過酸化水素を分解して酸素を発生させる。発生した酸素により、毛髪中のメラニン色素が分解されて毛髪が脱色されると共に、第1剤中の酸化染料が毛髪内部で酸化重合されて毛髪が染色される。また、アルカリ剤は、毛髪表面のキューティクルを開いて毛髪を膨潤させる効果を有するため、酸化染料が毛髪内部に浸透しやすくなって、染毛効果が向上する。しかしながら、アルカリ剤は毛髪の主成分であるケラチン蛋白を分解する作用も有しており、染毛時における毛髪損傷の一因となっている。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、毛髪の脱色時や染色時における毛髪へのダメージ軽減を目的とした染毛剤が検討されているものの、未だその効果は十分とはいえず、更なる改良が求められている。
【0006】
そこで、本発明は、脱色時に毛髪に与える損傷を軽減することができる毛髪明度向上剤を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アルカノールアミン及び/又は低級アルコール、高級アルコール、並びにアミノ酸及び/又はアミノ酸塩を含有する毛髪処理用組成物と、酸化剤を含有する酸化剤組成物と、を混合して使用される毛髪明度向上剤を提供する。
また、本発明は、上記毛髪明度向上剤と、HC染料、塩基性染料、並びにアミノ酸及び/又はアミノ酸塩を含有する第1染着用組成物と、を混合して使用される毛髪色彩調整剤を提供する。
・・・
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、脱色時に毛髪に与える損傷を軽減することができる。
・・・
【発明を実施するための形態】
・・・
【0011】
<毛髪明度向上剤>
本発明の一実施形態に係る毛髪明度向上剤は、アルカノールアミン及び/又は低級アルコール、高級アルコール、並びにアミノ酸及び/又はアミノ酸塩を含有する毛髪処理用組成物と、酸化剤を含有する酸化剤組成物と、を混合して使用される。本実施形態に係る毛髪明度向上剤は、毛髪の明度を向上させる作用、即ち、毛髪の色の明るさの度合いを高める作用を有するものである。
【0012】
(毛髪処理用組成物)
毛髪処理用組成物は、アルカノールアミン及び低級アルコールのうち少なくとも一方と、高級アルコールと、アミノ酸及びアミノ酸塩の少なくとも一方と、を含有する。
・・・
【0027】
(酸化剤組成物)
本実施形態に係る毛髪明度向上剤のために使用される酸化剤組成物は、酸化剤を含有する。酸化剤は、特に限定されないが、例えば、過酸化水素、過炭酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、臭素酸ナトリウム等が挙げられる。
・・・。これらの酸化剤の中でも、メラニン色素を分解する効果が優れていることから、過酸化水素が好ましい。
・・・
【0032】
<毛髪色彩調整剤>
本発明の一実施形態に係る毛髪色彩調整剤は、毛髪明度向上剤として用いられる毛髪処理用組成物及び酸化剤組成物と、HC染料、塩基性染料、並びにアミノ酸及び/又はアミノ酸塩を含有する第1染着用組成物と、を混合して使用される。当該毛髪明度向上剤は、上記にて詳説した毛髪明度向上剤と同一である。本実施形態に係る毛髪色彩調整剤のために使用される第1染着用組成物は毛髪に色彩を付与する作用を有する。毛髪処理用組成物と酸化剤組成物と第1染着用組成物とを組み合わせて使用することで、毛髪を明るくかつ色彩豊かに染毛することが可能である。
【0033】
(第1染着用組成物)
第1染着用組成物に含有されるHC染料は、特に限定されず、公知のHC染料を1種又は2種以上組み合わせて使用することができる。HC染料としては、例えば、HC青2、HC青8、HC赤1、HC赤3、HC赤7、HC赤11、HC赤13、HC黄2、HC黄4、HC黄5、HC黄9、HC黄11、HC黄13、HC橙1、HC橙2、HC紫1、HC紫2等が挙げられる。
【0034】
第1染着用組成物に含有される塩基性染料は、特に限定されず、公知の塩基性染料を1種又は2種以上組み合わせて使用することができる。塩基性染料としては、例えば、塩基性青7、塩基性青9、塩基性青26、塩基性青75、塩基性青99、塩基性赤2、塩基性赤22、塩基性赤51、塩基性赤76、塩基性黄57、塩基性黄87、塩基性橙31、塩基性茶16、塩基性茶17、塩基性紫3、塩基性紫4、塩基性紫14等が挙げられる。
・・・
【0036】
従前より、HC染料及び塩基性染料は、カラートリートメントの染毛成分として使用されている。・・・。
・・・
【0042】
本実施形態に係る毛髪色彩調整剤は、毛髪処理用組成物と第1染着用組成物とを混合して得た混合物に、酸化剤組成物を混合することにより得られる。・・・。
・・・
【実施例】
【0068】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。・・・。また、配合量の単位は、特記しない限り質量%である。
【0069】
<試験例1>
以下に示す各成分を常法により混合して、毛髪処理用組成物A-1を調整した。(当審注:「調整」は「調製」の明らかな誤記と認める。)
[毛髪処理用組成物A-1]
モノエタノールアミン 8.0
セチルアルコール 9.0
ステアリルアルコール 2.0
プロピレングリコール 5.0
ミリスチン酸イソプロピル 2.0
10%アンモニア水 3.0
ステアリン酸 1.0
ラウリン酸ポリグリセリル-10 1.0
ステアリン酸グリセリル 1.0
アルギニン 0.1
水酸化ナトリウム 0.2
EDTA-2Na 0.1
香料 0.6
精製水 残量
【0070】
上記毛髪処理用組成物A-1と、6%過酸化水素水(・・・)とを、1:1の質量比で混合し、実施例1の毛髪明度向上剤を調製した。
・・・
【0073】
<試験例2>
以下に示す各成分を常法により混合して、第1染着用組成物B-1(茶色)を調整した。(当審注:「調整」は「調製」の明らかな誤記と認める。)
[第1染着用組成物B-1(茶色)]
エタノール 0.5
セチルアルコール 5.0
ステアリルアルコール 1.0
ベヘニルアルコール 0.5
ジプロピレングリコール 3.0
ベンジルアルコール 2.0
ミネラルオイル 3.0
ステアルトリモニウムクロリド 1.0
ベヘントリモニウムクロリド 0.5
ラノリン 0.5
ヒドロキシエチルセルロース 0.3
トリエタノールアミン 0.2
エチドロン酸 0.1
HC青2 0.11
HC黄2 0.041
HC赤3 0.053
塩基性茶17 0.277
塩基性茶16,塩基性青99,塩基性青76,塩基性赤76,塩基性黄57,紫401
各0.143
アルギニン 0.1
L-システイン塩酸塩 0.1
リシン 0.05
ヒスチジン 0.05
メチルパラベン 0.15
プロピルパラベン 0.05
香料 0.6
精製水 残量
【0074】
また、上記第1染着用組成物B-1(茶色)の成分のうち、色素(HC染料、塩基性染料、紫401)の種類を変更して、常法によりこれらを混合し、第1染着用組成物B-2(青色)と、第1染着用組成物B-3(赤色)を調整した。(当審注:「調整」は「調製」の明らかな誤記と認める。)
【0075】
上記毛髪処理用組成物A-1と上記第1染着用組成物B-1(茶色)とを、1:1の質量比で混合し、混合物を得た。得られた混合物と上記6%過酸化水素水とを、1:1の質量比で混合し、実施例2の毛髪色彩調整剤(茶色)を調製した。同様に、第1染着用組成物B-2(青色)、第1染着用組成物B-3(赤色)のそれぞれについても、毛髪処理用組成物A-1と混合した後上記6%過酸化水素水を混合した。これにより、実施例3の毛髪色彩調整剤(青色)及び実施例4の毛髪色彩調整剤(赤色)を調製した。
・・・
【0077】
実施例2?4の毛髪色彩調整剤と比較例2?4の染料をそれぞれ黒色の人毛毛束に均一に塗布し、30分間放置した後、シャンプー処理した。その後、ドライヤーで毛束を乾燥した。・・・。
【0078】
・・・、実施例2?4は、比較例2?4と比較して毛髪の乾燥が抑制されており、損傷が少なく、また、発色がより鮮やかであった。試験例2の結果から、本発明に係る毛髪色彩調整剤は、毛髪の損傷を軽減しつつ色鮮やかに染毛することが可能であることが確認された。」

2 甲A2の記載事項

本件優先日前(平成27年8月3日)に発行された甲A2(特開2015-140326号公報)には、以下の事項が記載されている。

「【請求項1】
下記の一般式(1)で表されるラクトン誘導体を含有する、染色した毛髪の褪色防止剤。
【化1】

(ただし式中、nは1又は2であり、Rは炭素数9?22の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和炭化水素基を表す)
・・・
【請求項8】
請求項1に記載の褪色防止剤を含有する染毛料。
・・・
【背景技術】
【0002】
近年、白髪染めに加え、毛髪を好みの色に染めるおしゃれ染めをする人が増加し、染毛に対する消費者意識の高まりに伴い、染毛の技術は日々進歩している。しかしながら、シャンプー等の洗髪や日常のダメージなどにより染色した毛髪が褪色してしまう問題は、従来から重要な課題のひとつとなっている。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
染色した毛髪に対して優れた褪色防止効果を有する褪色防止剤、及び、これを用いた褪色防止方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、下記一般式(1)で表されるラクトン誘導体が、染色した毛髪に対して優れた褪色防止効果を有することを見出し、本発明を完成させた。・・・。
【化1】
(当審注:式の摘記は省略する。)
・・・
【発明を実施するための形態】
・・・
【0011】
本発明において、染色した毛髪とは、一般に用いられる方法で染色した毛髪であればよく、特に制限はないが、例えば、酸性染料、塩基性染料、ニトロ染料などを用いた染毛料、又は、酸化染料を主体とした染毛剤などによって染色した毛髪が挙げられる。・・・。
・・・
【0017】
本発明において染毛料とは、酸性染料、塩基性染料、ニトロ染料などの直接染料を主剤としたものであり、具体的にはヘアマニキュア、ヘアカラーリンス、ヘアカラートリートメントなどが挙げられる。・・・。
・・・
【0019】
本発明の褪色防止剤を配合した染毛前処理剤、染毛後処理剤、又は、染毛料には、一般的に毛髪化粧料に配合される添加成分、例えば油性基剤、・・・、香料、色素、着色剤、染料、顔料、水等を配合することができる。
・・・
【0032】
香料としては、アセチルセドレン、・・・、ペパーミント油、ペパー油、ヘリオトロピン、赤色223号、・・・、黄色5号等の法定色素;Acid Red 14等のその他酸性染料;Arianor Sienna Brown、Arianor Madder Red、Arianor Steel Blue、Arianor Straw Yellow等の塩基染料;HC Yellow 2、HC Yellow 5、HC Red 3、・・・、HC Blue 2、Basic Blue 26等のニトロ染料;分散染料;二酸化チタン、酸化亜鉛等の無機白色顔料;・・・;表面処理無機及び金属粉末顔料;赤色201号、・・・;インドリン等の自動酸化型染料;ジヒドロキシアセトンが好ましいものとして挙げられる。
・・・
【0036】
合成例1 γ-エルカラクトン(4-ヒドロキシドコサン酸γ-ラクトン)の合成
・・・。本化合物について^(1)H-NMRスペクトルにて構造確認を行ったところ、下記一般式で表される化合物であることを確認した(・・・)。
【化3】

・・・
【0065】
実施例12 ヘアカラートリートメント
下記処方のヘアカラートリートメントを調製した。このトリートメントは、優れた染色性及び褪色防止効果を有し、毛髪にしっとり感、ハリコシ感を付与し、うねり、絡まりを抑制するものであった。また、その効果はトリートメント塗布後ドライヤーでブローすることで、シャンプー後も持続するものであった。

成 分 配合量(重量%)
----------------------------------
A部
合成例1の化合物 0.3
ステアリルアルコール 3.0
B部
ステアルトリモニウムクロリド(70%) 1.5
ステアリン酸グリセリル 1.0
コカミドメチルMEA 1.0
YOFCO CLE-S(日本精化) 0.5
ラウロイルグルタミン酸ジ(オクチルドデシル/フィトステリル/ベヘ
ニル)(Plandool-LG1:日本精化) 0.3
シア脂 0.5
ジメチコン(50cs) 2.0
フェノキシエタノール 0.5
コカミドメチルMEA 0.5
C部
ヒドロキシエチルセルロース 0.5
精製水 合計で100となる量
D部
BG 1.0
塩基性黄57 0.1
塩基性赤76 0.05
HC青2 0.15
HC黄4 0.03
炭酸アンモニウム 0.8
HC赤3 0.01
クチナシ青 0.05
4-ヒドロキシプロピルアミノ-3-ニトロフェノール 0.05
精製水 20.0
----------------------------------
(調製方法)
あらかじめ均一に混合しておいたA部をB部に添加し約80℃に加温して溶解させた(E部)。別の容器でC部を約80℃に加温し溶解させた。E部にC部を攪拌しながら徐々に加え均一に混合した後、急冷した(F部)。約40℃となったF部にD部を加え均一にした。」

3 甲A3の記載事項

本件優先日前(平成29年2月10日)に掲載された甲A3(週刊粧業オンライン,「BASFジャパン、鮮やかな青色のカチオン系直接染料を提案」,C&T 2016年12月15日号 40ページ,2017年(平成29年)2月10日10時00分,https://www.syogyo.jp/news/2017/02/post_017166)には、以下の事項が記載されている。



BASFジャパンでは2017年より毛髪着色剤「Vibracolor Moonlight Blue」の本格的な提案を開始する。
青色カチオン性直接染料であり、非常に鮮やかなブルーの発色をもたらす。INCI名は「Basic Blue 124」、化粧品成分表示名称は「塩基性青124」である。」

4 甲A4=甲B2の記載事項

本件優先日前(平成26年6月5日)に発行された甲A4=甲B2(特開2014-101292号公報)には、以下の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は染毛料組成物に関する。更に詳しくは本発明は、カラートリートメントにおける直接染料として特定の塩基性染料及びHC染料を組合わせて用いることにより、オーバータイム時の変色や、染毛料の継続使用あるいは染毛料と酸化染毛剤との継続使用における変色を有効に抑制できる染毛料組成物に関する。
【0002】
染毛用の組成物は、通常、酸化染料を用いる酸化染毛剤等の永久染毛剤、直接染料を用いる半永久染毛料、毛髪を一時的に着色する一時染毛料に大別される。これらの内、半永久染毛料は永久染毛剤と比較して染毛力、染着力が劣るものの、酸化染毛剤のように酸化剤等を用いないので、毛髪に与えるダメージが少ない。半永久染毛料の一種として染毛効果とヘアコンディショニング効果を同時に示すカラートリートメントがある。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記したように、直接染料は酸化染料に比較して染毛力や染着力が劣る。これに対して、染着力が比較的優れた塩基性染料の配合量を多くして染毛力を高めようとすると、塩基性染料の皮膚への染着(地肌汚れ)が懸念される。
【0007】
次に、直接染料はシャンプー堅牢性等が不十分である(色落ちし易い)ため、特に多種の色彩の染料を併用する黒色系の染毛料では色落ちにより変色し易い。従って、染毛料の継続使用(繰返しの使用)の際や、染毛料の使用後数日から数週間経過した後に酸化染毛剤で染毛するという継続使用の際に、染毛色調が変化し易い。更に酸性染料以外の直接染料は染料自体が変色や褪色を起こし易く(・・・)、オーバータイム時の変色も多い。「オーバータイム」とは、染毛料の処理時間が正規に規定された時間を超過してしまうことを言う。
【0008】
そこで本発明は、酸性染料以外の直接染料を用いたカラートリートメントにおける地肌汚れを抑制すると共に、カラートリートメントの継続使用における変色を抑制し、かつオーバータイム時の変色も抑制し、カラートリートメント使用後に酸化染毛剤で染毛するという継続使用の際に染毛色調の変色を抑制することを、解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(第1発明の構成)
上記課題を解決するための第1発明の構成は、下記(A)?(D)の染料を含有し、pHが4?6の範囲内である、染毛料組成物である。
【0010】
(A)塩基性青75(Basic Blue 75)
(B)塩基性茶16(Basic Brown 16)及び塩基性茶17(Basic Brown 17)から選ばれる1種以上
(C)HC青2(HC Blue No.2)
(D)HC黄4(HC Yellow No.4)
【0011】
(第2発明の構成)
上記課題を解決するための第2発明の構成は、前記第1発明に係る染毛料組成物における各染料の含有量が(A)≦0.5質量%、(B)≦0.5質量%、(C)≦1.0質量%、(D)≦0.5質量%であり、かつ、塩基性染料(A)、(B)の合計含有量T BasicとHC染料(C)、(D)の合計含有量T HCとの質量比T Basic/T HCが1.5以下である、染毛料組成物である。
【発明の効果】
【0012】
(第1発明の効果)
第1発明の染毛料組成物のように、直接染料として塩基性染料とHC染料を併用すると、コンディショニング用成分としてカチオン性界面活性剤を含有する場合でも、直接染料と界面活性剤がコンプレックスを形成すると言う不具合を起こさない。
【0013】
塩基性染料はカチオン性であるため、相対的に染着性と水溶性に優れるという特性を持つ。HC染料は非イオン性であり水溶性は低いが、毛髪のキューティクルの内部まで入って蓄積しやすく、特に繰り返しの使用において染毛力を向上させると言う特性を持つ。そして、相対的に染着性やシャンプー堅牢性に優れた塩基性染料に対して更にHC染料を併用すると、強い染着力と十分なシャンプー堅牢性が得られることが分かった。又、塩基性染料に対してHC染料を組合わせると、カラーバリエーションが拡張されるだけでなく、結果的に塩基性染料の過剰配合が回避され、塩基性染料の過剰配合に起因する地肌汚れを抑制できる。
【0014】
更に、特に黒色系や茶色系に必須の重要な配合色である青色系の塩基性染料として、通常は塩基性青99(Basic Blue 99)が標準的に使用されるが、塩基性青99は染毛料や酸化染毛剤の継続使用における変色、及びオーバータイム時の変色等の傾向が大きいことが判明した。第1発明の染毛料組成物では、青色系の塩基性染料として塩基性青99に代えて塩基性青75を含有する。塩基性青75は、塩基性染料としては、色落ちし難いだけでなく、変色も起こし難い。
【0015】
なお、塩基性染料としての塩基性茶16及び塩基性茶17は染料自体の安定性が良いと言う利点があり、HC染料としてのHC青2も染料自体の安定性が良いと言う利点があり、更にHC黄4も染料自体の安定性が良いと言う利点がある。
・・・
【0018】
(第2発明の効果)
第2発明の染毛料組成物においては、「塩基性青75の配合量を0.5質量%以下」、「塩基性茶16/塩基性茶17の配合量を0.5質量%以下」、「HC青2の配合量を1.0質量%以下」、「HC黄4の配合量が0.5質量%以下」としたもとで、これら塩基性染料の合計含有量とHC染料の合計含有量との質量比T Basic/T HCを1.5以下とするため、(1)これらの塩基性染料やHC染料の皮膚への染着(地肌汚れ)が更に良好に抑制されるだけでなく、(2)塩基性染料とHC染料との染毛効果が良好にバランスされる結果として、カラートリートメントを継続使用した場合やオーバータイム時の染毛色調が一層安定化し、変色し難くなる。
・・・
【0023】
〔染毛料組成物の必須成分〕
本発明の染毛料組成物は、必須成分として、(A)塩基性青75(Basic Blue 75)、(B)塩基性茶16(Basic Brown 16)及び塩基性茶17(Basic Brown 17)から選ばれる1種以上、(C)HC青2(HC Blue No.2)及び(D)HC黄4(HC Yellow No.4)を含有する。
・・・
【0037】
(カチオン性界面活性剤)
本発明の染毛料組成物は、コンディショニング成分としてカチオン性界面活性剤の1種以上を含有することが好ましい。
・・・
【0043】
(カチオン性ポリマー)
染毛料組成物は、カチオン性界面活性剤以外のコンディショニング成分としてカチオン性ポリマーを好ましく含有することができる。
・・・
【0050】
(その他の染料)
染毛料組成物は、上記した(A)?(D)成分以外の塩基性染料、HC染料その他の各種の直接染料を含有することができる。・・・。
【0051】
(A)、(B)成分以外の塩基性染料としては、Basic Blue 3、Basic Blue 6、Basic Blue 7、Basic Blue 9、Basic Blue 26、Basic Blue 41、Basic Blue 47、Basic Brown 4、Basic Green 1、Basic Green 4、Basic Orange 1、Basic Orange 2、Basic Orange 31、Basic Red 1、Basic Red 2、Basic Red 22、Basic Red 46、Basic Red 51、Basic Red 76、Basic Red 118、Basic Violet 1、Basic Violet 3、Basic Violet 4、Basic Violet 10、Basic Violet11:1、Basic Violet 14、Basic Violet 16、Basic Yellow 11、Basic Yellow 28、Basic Yellow 57、Basic Yellow 87等を選択して用いることができる。
・・・
【0053】
(C)、(D)成分以外のHC染料としては、HC Blue No.5、HC Blue No.6、HC Blue No.9、HC Blue No.10、HC Blue No.11、HC Blue No.12、HC Blue No.13、HC Orange No.1、HC Orange No.2、HC Orange No.3、HC Red No.1、HC Red No.3、HC Red No.7、HC Red No.10、HC Red No.11、HC Red No.13、HC Red No.14、HC Violet No.1、HC Violet No.2、HC Yellow No.2、HC Yellow No.5、HC Yellow No.6、HC Yellow No.9、HC Yellow No.10、HC Yellow No.11、HC Yellow No.12、HC Yellow No.13、HC Yellow No.14、HC Yellow No.15、・・・、2-ニトロ-5-グリセリルメチルアニリン等を例示できる。
・・・
【0078】
〔染毛料組成物の調製〕
後述の表1、表2に示す実施例1?16及び表3に示す比較例1?12に係る組成の1剤式の染毛料組成物を、それぞれ常法に従いクリーム状の乳化剤として調製した。
・・・
【0082】
(染毛力)
各実施例、各比較例に係る染毛料組成物1gをそれぞれ、白髪混じりの人毛毛束に塗布し、10分間放置後に水洗することにより、人毛毛束に対する染毛処理を完了した。
【0083】
上記染毛処理の完了後に10名のパネラーが人毛毛束の染色の程度を目視にて観察し、染毛力が、非常に優れる(5点)、優れる(4点)、やや優れる(3点)、やや悪い(2点)、悪い(1点)、の5段階で評価した。・・・。
・・・
【0085】
(染毛料の連用や酸化染毛剤使用による変色抑制)
・・・
【0088】
この評価は10名のパネラーが行い、変色抑制効果が、非常に優れる(4点)、優れる(3点)、やや劣る(2点)、劣る(1点)、の4段階で評価した。各パネラーの採点結果の平均値を算出し、平均値が3.6点以上であれば「◎」、平均値が2.6点以上で3.5点以下であれば「○」、平均値が1.6点以上で2.5点以下であれば「△」、平均値が1.5点以下であれば「×」と評価した。・・・。
【0089】
(オーバータイム時の変色抑制)
・・・
【0090】
この評価は10名のパネラーが行い、変色抑制効果が、非常に優れる(4点)、優れる(3点)、やや劣る(2点)、劣る(1点)、の4段階で評価した。各パネラーの採点結果の平均値を算出し、平均値が3.6点以上であれば「◎」、平均値が2.6点以上で3.5点以下であれば「○」、平均値が1.6点以上で2.5点以下であれば「△」、平均値が1.5点以下であれば「×」と評価した。・・・。
【0091】
(地肌汚れ)
各実施例、各比較例に係る染毛料組成物1gをそれぞれ、腕の内側部における直径1cmの円形のエリアに塗布し、10分間放置した後、温水で洗い流した。次に、石鹸を使用して指で1分間軽く擦り、温水で洗い流した。
【0092】
以上の処理の後、10名のパネラーが地肌汚れ(皮膚への染着の度合い)を目視にて観察し、地肌汚れが、非常に少ない(4点)、少ない(3点)、やや多い(2点)、多い(1点)、の4段階で評価した。各パネラーの採点結果の平均値を算出し、平均値が3.6点以上であれば「◎」、平均値が2.6点以上で3.5点以下であれば「○」、平均値が1.6点以上で2.5点以下であれば「△」、平均値が1.5点以下であれば「×」と評価した。・・・。
【0093】
【表1】

【0094】
【表2】

【0095】
【表3】

〔その他の実施例〕
上記の表1?表3に示した実施例とは別の、本発明の染毛料組成物(1剤式)の実施例を以下に示す。・・・。
【0096】
(実施例17)
質量%
Basic Blue 75 0.1
Basic Brown 16 0.3
HC Blue No.2 0.5
HC Yellow No.4 0.1
ミリスチン酸オクチルドデシル 1.5
ステアリン酸ジメチルアミノプロピルアミド 3
ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウム 0.2
セタノール 5
ミツロウ 0.5
流動パラフィン 3
グリセリン 2
乳酸 pH5に調整
フェノキシエタノール 0.3
ジメチルポリシロキサン 0.5
海泥〔マリンシルトFP;株式会社アンコール・アン製〕 1
黒米エキス〔黒米エキス-PC;オリザ油化株式会社製〕 0.1
海藻エキス
〔ファルコレックスケルプ;一丸ファルコス株式会社製〕 0.1
香料 0.5
精製水 残量

(実施例18)
質量%
Basic Blue 75 0.1
Basic Brown 17 0.1
HC Blue No.2 0.5
HC Yellow No.4 0.1
ミリスチン酸オクチルドデシル 1.5
ベヘニン酸ジメチルアミノプロピルアミド 3
セトステアリルアルコール 8
流動パラフィン 0.5
グリセリン 1
乳酸 pH5に調整
フェノキシエタノール 0.3
アモジメチコン 0.5
加水分解コラーゲン 0.1
ローヤルゼリーエキス 0.1
アボカド油 0.1
タウリン 0.1
テアニン 0.1
アセチルグルコサミン 0.1
香料 0.5
精製水 残量

(実施例19)
質量%
Basic Blue 75 0.02
Basic Brown 16 0.1
Basic Brown 17 0.1
HC Blue No.2 0.5
HC Yellow No.4 0.1
ミリスチン酸オクチルドデシル 1.5
ステアリン酸ジメチルアミノプロピルアミド 2
ベヘニン酸ジメチルアミノプロピルアミド 1
ステアリルアルコール 8
グリセリン 2
乳酸 pH5に調整
フェノキシエタノール 0.3
サクラエキス〔サクラエキスB;一丸ファルコス株式会社製〕0.1
桜の花エキス〔桜の花エキス-PC;オリザ油化株式会社製〕0.1
酵母エキス(3)〔赤ワイン酵母エキス;永遠幸メディカル
コスメティック株式会社〕 0.1
香料 0.5
精製水 残量 」

5 甲B1の記載事項

本件優先日前(平成27年1月29日)に発行された甲B1(特開2015-017109号公報)には、以下の事項が記載されている。

「【請求項1】
以下
(a)式
【化1】

で表される染料;
(b)式
【化2】

、及び
【化3】

で表される化合物群から選択される少なくとも1種の染料;
[式中、
Dは、次の式
【化4】

で表されるジアゾ成分の基であり;
・・・である];
及び
(c)以下
(c1)次の式
【化5】

[式中、
・・・である]
で表される四級アンモニウム塩、
(c2)次の式
【化6】

[式中、
・・・である]
で表されるイミダゾリウム塩、
(c3)次の式
【化7】

[式中、
・・・である]
で表される四級ジアンモニウム塩、
から選択される四級アンモニウム塩;
を含んでいる毛髪染色用組成物。
・・・
【請求項3】
成分(a)が、式
【化8】

に対応している、請求項1又は2に記載の組成物。
・・・
【背景技術】
【0002】
カチオン染料が有機材料(例えばケラチン、絹、セルロース又はセルロース誘導体)・・を染色するのに用いられ得ることは、例えば、・・・から公知である。カチオン染料は非常に鮮やかな色調を呈する。欠点は、加水分解及び光に対してその堅牢性が不十分であること、還元性又は酸化性条件下ではその安定性が多くの場合不十分であること、及びその貯蔵安定性が多くの場合不十分であることである(・・・)。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の実際の技術的な課題は、洗浄、光、シャンプー及び擦りに関して良好な堅牢特性を有している濃染によって特徴付けられ、また好ましくは還元性又は酸化性染色条件下で十分な安定性を呈する、有機材料を染色するための鮮やかな染料を提供することであった。
・・・
【0071】
適する化粧品ヘアケア製剤は、ヘアトリートメント調製物(例えばシャンプー+コンディショナーの形態にあるヘアウォッシング調製物)、ヘアケア調製物(例えばプレトリートメント調製物や、スプレー、クリーム、ジェル、ローション、ムース及びオイルのようなリーブオンプロダクト)、・・・、テンポラリー、セミパーマネントもしくはパーマネントヘア着色剤、自己酸化性染料含有調製物、又はヘア天然着色剤(例えばヘナやカモミール)である。
・・・
【実施例】
【0105】
・・・。特に断らない限り、部及びパーセントは重量に関する。・・・。
【0106】
適用例:
ヘア(毛髪)を染色するためのベイシックブルー124とベイシックレッド51、ベイシックイエロー87及びベイシックオレンジ31並びに四級アンモニウム塩との組み合わせ。
・・・
【0124】
実施例6:
pH=6.4の染料エマルション(以下
0.05%の染料ベイシックブルー124
0.15%のベイシックブルー99
0.07%のベイシックブラウン17
0.04%のベイシックイエロー57
0.15%のベイシックブラウン16
0.01%のベイシックレッド76
0.01%のベイシックレッド51
0.01%のHCレッドBN
0.01%のHCレッド3
0.01%の3-ニトロ-p-ヒドロキシエチルアミノフェノール
0.05%のHCブルー2
3.5%のセテアリールアルコール
1.5%のヘナ
10.5%のウォルナット
1.0%のセテアレス30
0.5%のグリコールジステアラート
3.0%のステアロアミドDEA
1.0%のナトリウムオレオアンホヒドロキシプロピルスルホナート
0.5%のポリクォターニウム-10
0.1%のTinovis CD(ジメチルアクリルアミド/エチルトリモニウムクロリドメタクリラートコポリマー、プロピレングリコールジカプリラート/ジカプラート、PPG-1トリデセス-6、C10-11イソパラフィン)
0.5%のアミノプロピルジメチコン
水 加えて100%
を含有)を、室温にて脱色ヒト毛髪に30分間適用し、その後濯ぎ洗いする。結果は、良好な堅牢性を有する赤みを帯びたブラウン染色である。
【0125】
実施例7:
pH=6.4の染料エマルション(以下
0.05%の染料ベイシックブルー124
0.15%のベイシックブルー99
0.07%のベイシックブラウン17
0.04%のベイシックイエロー57
0.15%のベイシックブラウン16
0.01%のベイシックレッド76
0.01%のベイシックレッド51
0.01%のHCレッドBN
0.01%のHCレッド3
0.01%の3-ニトロ-p-ヒドロキシエチルアミノフェノール
0.05%のHCブルー2
0.01%のベイシックブルー26
0.01%のベイシックブルー75
3.5%のセテアリールアルコール
1.5%のヘナ
10.5%のウォルナット
1.0%のセテアレス30
0.5%のグリコールジステアラート
3.0%のステアロアミドDEA
1.0%のナトリウムオレオアンホヒドロキシプロピルスルホナート
0.5%のポリクォターニウム-10
0.1%のTinovis CD(ジメチルアクリルアミド/エチルトリモニウムクロリドメタクリラートコポリマー、プロピレングリコールジカプリラート/ジカプラート、PPG-1トリデセス-6、C10-11イソパラフィン)
0.5%のアミノプロピルジメチコン
水 加えて100%
を含有)を、室温にて脱色ヒト毛髪に30分間適用し、その後濯ぎ洗いする。結果は、良好な堅牢性を有する赤みを帯びたブラウン染色である。」

6 甲B4の記載事項

本件優先日前(平成24年12月13日)に発行された甲B4(特開2012-246284号公報)には、以下の事項が記載されている。

「【請求項1】
HC染料、塩基性染料の中から選ばれる1種又は2種以上の染料とスルホコハク酸ジエチルヘキシルNaが含有された染毛料。
・・・
【技術分野】
【0001】
本発明は主にヒトの頭髪に使用される染毛料であり、安全で毛髪損傷がなく、皮膚への汚着が少なく、しかも髪に良く染まる染毛料を提供するものである。・・・。
【背景技術】
【0002】
現在、日本で使用されている染毛剤、染毛料は染毛技術的には大きく分けると以下の3タイプに分類される。
A:酸化染毛剤(医薬部外品)
2剤式であり、第1剤はアンモニアなどのアルカリ剤と、染料(パラフェニレンジアミンなどの染料中間体、メタフェニレンジアミン、アミノフェノール、レゾルシンなどのカップラー、及びこれらにニトロ基を導入した直接染料など)が含まれる。第2剤は過酸化水素水からなり、使用時に第1、2剤を混合し頭髪に塗布する。
製品の特徴として、染色力が強く永久染毛剤とも呼ばれる。また第1剤に染料を配合しなければブリーチ機能をもたせることもできるなど機能性が高く「明るく良く染まるヘアカラー」として利用頻度は高い。しかし、染料による皮膚感作性、頭皮一次刺激性の問題、アンモニア、過酸化水素による毛髪損傷の問題に課題を残している。
B:酸性染毛料(化粧品)
1剤式であり、酸性染料、ベンジルアルコール、有機酸などが含まれる。
製品の特徴として、染色力が中程度で2週間程度の色持ちがあり半永久染毛料とも呼ばれる。毛髪損傷はなく皮膚安全性も高く、鮮やかな色調に染めることができ「ヘアマニキュア」とよばれ利用されている。しかし、ベンジルアルコールの溶剤的作用により皮膚に染料が深く浸透しやすく、一旦皮膚に汚着してしまうと石鹸で落とすことができず、特殊なクレンジング剤が必要である。
C:HC染料、塩基性染料による染毛料(化粧品)
1剤式であり、HC染料や塩基性染料が含まれる。
製品の特徴として、染色力が弱く1週間程度の色持ちしかない。しかし、HC染料、塩基性染料は皮膚汚着性が少なく、毛髪損傷もない。また、カチオン性界面活性剤、カチオン性高分子による染色性阻害がなく「トリートメントヘアカラー」として徐々に利用されてきている。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる現状において本発明者は、HC染料、塩基性染料による染毛料の課題である「弱い染色力」を解決し、実用に耐える程度に「高い染色向上効果」を達成するべく鋭意研究を行った。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明とする染毛料はHC染料、塩基性染料の中から選ばれる1種又は2種以上の染料とスルホコハク酸ジエチルヘキシルNaが含有された染毛料である。
HC染料、塩基性染料は、平成22年11月、日本ヘアカラー工業会発行による自主基準「化粧品の染毛料に配合できる色素リストについて」の中から選定した以下の色素とする。
[自主基準によるHC染料、塩基性染料(表示名称)リスト]
HC青2、HC赤1、HC赤3、HC赤7、HC橙1、HC橙2、HC黄2、HC黄4、HC黄9、HC紫1、HC紫2、・・・、塩基性青99、塩基性茶16、塩基性茶17、塩基性赤76、塩基性黄57、分散黒9、塩基性黄87、塩基性橙31、塩基性赤51、塩基性青75の群から選ばれる1種又は2種以上の色素とする。
スルホコハク酸ジエチルヘキシルNaは、この別名がジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム、ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウムなどとよばれることもあるが、本質はいずれも同一である。本原料はアニオン性界面活性剤であり、取り扱いやすさから一般にはエタノール、BG、水などの溶剤との混合物が多い。
主な機能としては、洗浄剤、湿潤・浸透剤として知られている。本原料は、HC染料、塩基性染料に染色向上効果が認められるが、酸性染料においてはこの効果が弱いものであった。
・・・
【実施例5】
【0016】

いずれの染毛料も白髪ストランドに15分処理でよく染まり(染毛評価5点)、染料の組み合わせにより、いろいろな色調が得られる。ジェル状にすることで髪によく伸びてたれ落ちすることはない。」

7 甲B5の記載事項

本件優先日前(平成29年3月9日)に発行された甲B5(特開2017-048153号公報)には、以下の事項が記載されている。

「【請求項1】
第3級アミン0.1?6.0重量%、油剤1.0?6.0重量%、高級アルコール1.0?5.0重量%およびポリグリセリンオイル0.3?2.0重量%を混合して得られた油系素材と、一般に染色料の素材として公知の塩基性染料であるBASIC RED76 0.05?0.2重量%、BASIC BROWN16 0.01?0.2重量%およびBASIC BLUE99 0.05?0.2重量%、並びに一般に染色料の素材として公知の直接染料であるHC BLUE No.2 0.01?0.6重量%およびHC YELLOW No.4 0.04?0.24重量%を水40.0重量%に溶融して得られた染色素材と、ヒドロキシ酸0.017?0.2重量%、ブチレングリコール0.3?3.0重量%および防腐剤0.3?1.5重量%を水36.8?54.483重量%に溶融して得られた水系素材とを、それぞれ78.0?82.0℃で加温する一方、前記加温した油系素材に前記加温した水系素材を添加して乳化撹拌した後、前記乳化撹拌した油系素材と水系素材に前記染色素材を添加して撹拌冷却して製造することを特徴とする染毛料の製造方法。
・・・
【発明の効果】
【0009】
前記本発明方法により製造された染毛料を使用すると、染料を髪に吸着しやすい油系に吸着させ、該染料を髪の表面および内部に運び、髪と染料を強固に固定させた後、前記油系で染料の周りを保護し膜を作ることができるので、染料を髪に強固に固定することができ、これにより染毛力もアップし、染着も長時間維持できるという優れた効果を奏染することができる。
【0010】
【図1】本発明製造方法により製造された染毛料と、従来方法によって製造された染毛料の各素材の配合割合(重量%)を示す図である。
【図1】



8 甲B6の記載事項

本件優先日前(平成26年6月5日)に発行された甲B6(特開2014-101290号公報)には、以下の事項が記載されている。

「【請求項1】
下記(A)成分?(D)成分を含有する染毛料組成物。
(A)脂肪酸と1価アルコールとのモノエステルから選ばれる少なくとも一種である液状のエステル油 0.5?2質量%
(B)下記「化1」の一般式で示されるアルキルアミドアミン及びその塩から選ばれる少なくとも一種 1?3質量%
【化1】

(式中、R_(1)は炭素数11?21の脂肪族炭化水素基を示し、R_(2)は炭素数1?4の脂肪族炭化水素基を示し、R_(3)は炭素数1?4の脂肪族炭化水素基を示し、nは2?4の数を示す。)
(C)HC染料
(D)水 70質量%以上
・・・
【背景技術】
【0002】
毛髪を染めるための組成物として、一般的に、一時染毛料(付着タイプ)、直接染毛料(半永久染毛料)、及び酸化染毛剤組成物(永久染毛剤)が知られている。前記直接染毛料は直接染料を含有する。当該直接染料として、例えば、酸性染料、塩基性染料、天然染料、ニトロ染料、HC染料、分散染料等が知られている。
【0003】
直接染毛料は、過酸化水素等の酸化剤を使用せずに、毛髪に直接染料を染着できる。即ち、一つの利点として、直接染毛料はマイルドな条件下で染毛可能である。一方、毛髪の表面に顔料を固着する一時染毛料と比較すると、直接染毛料は堅牢性に優れる。
【0004】
酸性染料は毛髪への染着力に優れるが、当該酸性染料の有する電荷の関係からカチオン性界面活性剤との併用が困難である。よって、酸性染料の有する優れた染着力と、カチオン性界面活性剤の有する毛髪の感触効果との両立は難しい。
【0005】
一方、塩基性染料は、上記酸性染料と比べると毛髪への染着力が劣る傾向にあるが、カチオン性界面活性剤との併用が可能である。よって、ある程度の範囲で、染毛力と毛髪の感触効果は並立できる。例えば、・・・、塩基性染料とカチオン性界面活性剤を併用するカラートリートメントやカラーリンスが知られている。当該カラートリートメントやカラーリンスは繰り返し使用され、徐々に染毛が進む。
【0006】
HC染料はノニオン性の直接染料であり、日本ヘアカラー工業会自主基準リストにも収載されている。塩基性染料と同様、当該HC染料はカチオン性界面活性剤と併用できる。上記HC染料は電荷をもたず、分子量が小さい。よって、上記HC染料は毛髪内部に浸透しやすく更に毛髪内部に蓄積可能であり、一方で地肌を汚染しにくく、また、かぶれにくい。他方、上記HC染料は水に溶けにくいという特徴も有している。
【0007】
例えば水を比較的多量に含むカラートリートメントやカラーリンスにおいて、HC染料の含有量を増やしていくとHC染料の析出が起こり、染毛力が向上しないという問題がある。また、毛髪の感触効果については、カラートリートメントやカラーリンスへのカチオン性界面活性剤の配合だけでは十分でない。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1及び特許文献2には、比較的多量の水、塩基性染料及びHC染料を含有する実施例が開示されている。しかし、より優れたレベルにおいて染毛力と毛髪の感触効果を両立した染毛料組成物を得たいという要望があった。
【0011】
・・・。HC染料を増量する利点の一例として、HC染料を増量した染毛料組成物の繰り返しの使用、及び/又は、オーバータイム使用による染毛力の向上が挙げられる。「オーバータイム」とは、染毛料の処理時間が正規に規定された時間を超過することをいう。しかし、比較的多量の水とHC染料とを含む染毛料組成物において、より優れたレベルにおいて染毛力とコンディショニング効果を両立するために、HC染料の析出抑制は重要な課題となる。
【0012】
一般にカラートリートメント等では、カチオン性界面活性剤は毛髪の感触向上効果を得るために配合する。HC染料を使用する場合、併用する含窒素分子の構造が重要であることを本願発明者は見出した。・・・。
【0013】
以上を考慮した上で、「HC染料の溶解性の改善」、並びに、「染毛力及び毛髪の感触効果の向上」を並立するため本願発明者は鋭意検討を重ねた。その結果、意外にも、(A)液状のエステル油と(B)アルキルアミドアミン及びその塩から選ばれる少なくとも一種との組み合わせ使用が有効であることを本願発明者は見出した。
【0014】
よって、染毛力及び毛髪の感触効果に優れ、HC染料の溶解性が改善された染毛料組成物を提供することを解決すべき課題とする。
・・・
【0033】
〔(B)成分〕
(B)成分は上記「化1」の一般式で示されるアルキルアミドアミン及びその塩から選ばれる少なくとも一種である。・・・。
・・・
【0037】
上記(B)成分の具体例として、例えば、ステアリン酸ジエチルアミノエチルアミド、・・・、ミリスチン酸ジエチルアミノエチルアミド等のアルキロイルアミドエチルジエチルアミンや、ステアリン酸ジメチルアミノプロピルアミド、・・・、ベヘニン酸ジメチルアミノエチルアミド、・・・、ミリスチン酸ジメチルアミノエチルアミド等のアルキロイルアミドエチルジメチルアミン等がある。
・・・
【0039】
〔(C)成分〕
上記(C)成分はHC染料である。・・・。
【0040】
上記(C)成分の含有量は本願が開示する染毛料組成物の効果が奏される限り特に限定されないが、好ましい含有量は0.1質量%以上であり、より好ましい含有量は0.2?1.2質量%であり、更に好ましい含有量は0.5?1.0質量%である。
【0041】
HC染料として、例えば、HC Blue No.2、HC Blue No.5、HC Blue No.6、HC Blue No.9、HC Blue No.10、HC Blue No.11、HC Blue No.12、HC Blue No.13、HC Orange No.1、HC Orange No.2、HC Orange No.3、HC Red No.1、HC Red No.3、HC Red No.7、HC Red No.10、HC Red No.11、HC Red No.13、HC Red No.14、HC Violet No.1、HC Violet No.2、HC Yellow No.2、HC Yellow No.4、HC Yellow No.5、HC Yellow No.6、HC Yellow No.9、HC Yellow No.10、HC Yellow No.11、HC Yellow No.12、HC Yellow No.13、HC Yellow No.14、HC Yellow No.15、・・・がある。
【0042】
好ましくは、HC Blue No.2、HC Orange No.1、HC Red No.1、HC Red No.3、HC Red No.7、HC Violet No.2、HC Yellow No.2、HC Yellow No.4、HC Yellow No.9である。より好ましくは、HC Blue No.2、HC Yellow No.4である。
・・・
【0051】
〔その他の成分〕
本願が開示する染毛料組成物は、上記(A)成分?(E)成分の他、任意の成分を含有して良い。当該任意の成分として、例えば、・・・、塩基性染料、・・・等がある。
・・・
【0058】
本願が開示する染毛料組成物は、ヘアコンディショニング効果を持ちながら、同時に半永久染毛料としての染毛効果も示す染毛料組成物である。好ましくはカラートリートメント、カラーリンスである。
・・・
【0064】
下記表1?表3に示す実施例1?18及び比較例1?12に係る、乳化物である1剤式の染毛料組成物(カラートリートメント)を常法により調製した。・・・。各表における各成分の数値の単位は質量%であり、精製水の含有量をバランスして合計が100となるようにした。・・・。
・・・
【0067】
〔染毛力〕
各実施例、各比較例に係る染毛料組成物1gをそれぞれ、白髪混じりの人毛毛束1gに塗布し、10分間放置後に水洗することにより、人毛毛束に対する染毛処理を完了した。
上記染毛処理の完了の直後に10名のパネラーが人毛毛束の染色の程度を目視にて観察し、非常に優れる(5点)、優れる(4点)、良好である(3点)、やや悪い(2点)、悪い(1点)、の5段階で評価した。各パネラーの採点結果の平均値を少数点第1位で四捨五入して、各例の評価点を算出した。その評価結果を各表の「染毛力」の欄に示す。
・・・
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】



9 周知例1の記載事項

本件優先日前(平成28年3月31日)に発行された周知例1(特開2016-041672号公報)には、以下の事項が記載されている。

「【背景技術】
【0002】
従来、染毛剤と比べて毛髪へのダメージが少なく、HC染料又は塩基性染料を併用した染毛料が利用されている(・・・)。
HC染料は、分子径が小さくキューティクルの隙間から毛髪の内部に浸透して分子間力(ファンデルワールス力)により着色する染料である。
【0003】
一方、塩基性染料(イオン性染料)は分子量が大きく、HC染料のように、キューティクルの隙間から毛髪の内部に浸透することができない。塩基性染料は、毛髪を中性からアルカリ性の状態にしてマイナスイオンになった状態の毛髪に対して、プラスイオンで毛髪の表面にイオン結合で着色する染料である。
・・・
【0018】
・・・。
浸透性染料となるHC染料は、一般に、キューティクルの隙間から毛髪の内部に浸透して分子間力によって着色する染料である。浸透性染料は、毛髪の内部に浸透し、髪色の明るい箇所となる白髪部分に色合いを与えるため、特に白髪への着色効果が高い。本発明の染毛料は、HC染料に一例として、HC青2、HC黄4、HC赤3、・・・を用いている。
【0019】
塩基性染料となるイオン性色素は、毛髪の表面にあるうろこ状のキューティクルに作用し、特にケラチンタンパクのマイナス箇所とイオン結合する。具体的には、毛髪を中性からアルカリ性の状態にしてマイナスイオンになった状態の毛髪に対して、プラスイオンで毛髪の表面にイオン結合で着色する染料である。本発明の染毛料は、塩基性染料に一例として、塩基性赤76、塩基性茶16、塩基性青99、塩基性黄57を用いている。
・・・
【0026】
[作用]
図1は本発明の染毛料を用いて着色した毛髪を拡大した一部断面の模式図である。図示のように毛髪10は、太毛の場合、中心にメデュラ12(毛髄質)が存在し、その周りにコルテックス14(毛皮質)が形成されている。そしてコルテックス14を保護するように毛髪の表面にキューティクル16(毛表皮)がうろこ状に形成されている。
【0027】
本発明の染毛料を毛髪に塗布すると、分子径の小さいHC染料20は、毛髪のキューティクル16の隙間から毛髪の内部に浸透して分子間力によって付着して染着する。
また、塩基性染料30は、毛髪を中性からアルカリ性の状態にしてマイナスイオンになった状態の毛髪に対して、プラスイオンで毛髪の表面にイオン結合で着色する。・・・。
・・・
【図1】



10 周知例2の記載事項

本件優先日前(平成29年1月26日)に発行された周知例3(特開2017-019779号公報)には、以下の事項が記載されている。

「【0002】
・・・。従来、染毛料組成物に含まれる染料としては、酸性染料が使用されていたが、2001年に化粧品規制緩和があり、新たに塩基性染料やHC(ヘアカラー)染料の使用が可能となった。・・・。
・・・
【0024】
塩基性染料(C1)は、分子内にアミノ基又は置換アミノ基等を有し、水溶液中でカチオンとなる染料である。塩基性染料(C1)は、塩基性染料(C1)が有するカチオンと、毛髪表面のケラチンタンパク質が有するアニオンとがイオン結合することにより毛髪を染色する。また、塩基性染料(C1)は分子サイズが大きいため、毛髪内に浸透することはなく毛髪表面に付着して染色する。そのため、塩基性染料(C1)は、染色力は強くないが毛髪へのダメージが少ない。
【0025】
塩基性染料(C1)としては、例えば、ベーシックブルー7、ベーシックブルー16、ベーシックブルー22、ベーシックブルー26、ベーシックブルー75、ベーシックブルー99、ベーシックブルー117、ベーシックバイオレット10、ベーシックバイオレット14、ベーシックブラウン16、ベーシックブラウン17、ベーシックレッド2、ベーシックレッド12、ベーシックレッド22、ベーシックレッド51、ベーシックレッド76、ベーシックレッド118、ベーシックオレンジ31、ベーシックイエロー28、ベーシックイエロー57、ベーシックイエロー87、ベーシックブラック2等が挙げられる。・・・。
・・・
【0027】
HC染料(C2)は、ニトロ基を発色団とするニトロベンゼン系色素である。HC染料(C2)は分子サイズが小さいため、アルカリ剤で毛髪のキューティクルを開かなくても毛髪内に浸透することが可能であり、水素結合や分子間力によって毛髪と結合し染色する。HC染料(C2)は、毛髪内を染色するため、より深みのある発色を呈することが可能である。
【0028】
HC染料(C2)としては、例えば、HCブルー2、HCブルー8、HCオレンジ1、HCオレンジ2、HCレッド1、HCレッド3、HCレッド7、HCレッド8、HCレッド10、HCレッド11、HCレッド13、HCレッド16、HCバイオレット2、HCイエロー2、HCイエロー4、HCイエロー5、HCイエロー6、HCイエロー7、HCイエロー9、HCイエロー12等が挙げられる。・・・。」

11 周知例3の記載事項

本件優先日前(平成25年4月18日)に発行された周知例3(特開2013-067597号公報)には、以下の事項が記載されている。

「【0013】
HC染料は公知の「HC」を接頭辞として有する染料であり、分子径が小さい染料であるために毛髪の内部に浸透して水素結合や分子間引力によって染着し、より深みのある発色を付与する。その具体例としては、例えば、HCブルーNo.2、HCブルーNo.8、HCオレンジNo.1、HCオレンジNo.2、HCレッドNo.1、HCレッドNo.3、HCレッドNo.7、HCレッドNo.8、HCレッドNo.10、HCレッドNo.11、HCレッドNo.13、HCレッドNo.16、HCバイオレットNo.2、HCイエローNo.2、HCイエローNo.5、HCイエローNo.6、HCイエローNo.7、HCイエローNo.9、HCイエローNo.12、等が挙げられる。・・・。
【0014】
・・・。塩基性染料は、水溶液中で陽イオンになるために、毛髪表面のケラチンタンパクのマイナス部分とイオン結合することにより染着する。その具体例としては、例えば、ベーシックブルー7(・・・)、ベーシックブルー16(・・・)、ベーシックブルー22(・・・)、ベーシックブルー26(・・・)、ベーシックブルー99(・・・)、ベーシックブルー117、ベーシックバイオレット10(・・・)、ベーシックバイオレット14(・・・)、ベーシックブラウン16(・・・)、ベーシックブラウン17(・・・)、ベーシックレッド2(・・・)、ベーシックレッド12(・・・)、ベーシックレッド22(・・・)、ベーシックレッド51、ベーシックレッド76(・・・)、ベーシックレッド118(・・・)、ベーシックオレンジ31、ベーシックイエロー28(・・・)、ベーシックイエロー57(・・・)、ベーシックイエロー87、ベーシックブラック2(・・・)等が挙げられる。・・・。」

第6 申立ての理由についての当審の判断

当審は、上記第3の1(1)及び2(1)に概要を示した、申立人A及び申立人Bが申し立てている本件特許を取り消すべき理由は、いずれも理由がないものと判断した。その判断の理由は以下のとおりである。
なお、事案に鑑み、各申立理由についての検討に先立ち、本件優先日前の染毛料組成物の技術常識について確認する。
また、申立理由A3(サポート要件違反)の判断は、最後に説示する。

1 本件優先日前の染毛料組成物の技術常識について

上記第5に摘記した甲号証及び周知例の記載事項によれば、本件優先日前における染毛料組成物の技術常識として、以下のことが認められる。

(1)
従来から用いられてきた染毛料組成物である、酸化染料と酸化剤(過酸化水素等)を含む酸化染毛剤は、毛髪の脱色・染色の際に毛髪に損傷を与えるという問題があった(甲A1=甲B3の【0002】、【0005】、甲A4=甲B2の【0002】、甲B4の【0002】)。
直接染料である塩基性染料やHC染料は、酸化染毛剤と比べると、毛髪の損傷は小さいが、染毛力や染着力が劣り、染着力が比較的優れた塩基性染料の配合量を多くして染毛力を高めようとすると、皮膚への染着(地肌汚れ)が懸念されること、シャンプー堅牢性等が不十分である(色落ちし易い)こと、染毛料の処理時間が正規時間を超過する「オーバータイム」時の変色も多いこと、などの課題があった(甲A4=甲B2の【0002】、【0006】?【0007】、甲B4の【0002】)。

(2)
従前より、カラートリートメントなどの染毛料組成物の染毛成分として、塩基性染料とHC染料が併用されている(甲A1=甲B3の【0036】、甲B4の【0002】、周知例1の【0002】)。
塩基性染料は、カチオン性であり、分子量が大きいため、毛髪表面にあるキューティクルの隙間から毛髪の内部に浸透できず、キューティクルに作用して、毛髪を中性からアルカリ性の状態にしてマイナスイオンになった状態の毛髪に対しプラスイオンで毛髪の表面にイオン結合で着色し、相対的に染着性や堅牢性に優れているが、染色力は強くない(甲A4=甲B2の【0013】、周知例1の【0003】、【0019】、【0026】?【0027】、【図1】、周知例2の【0024】、周知例3の【0014】)。
HC染料は、ノニオン性であり、分子量が小さいため、キューティクルの隙間から毛髪内部まで入って水素結合や分子間力(ファンデルワールス力)で着色し、より深みのある発色を付与し、繰返し使用において染毛力を向上させる(甲A4=甲B2の【0013】、甲B6の【0006】、周知例1の【0002】、【0018】、【0026】?【0027】、【図1】、周知例2の【0027】、周知例3の【0013】)。

2 申立理由A1(甲A1を主引例とする進歩性違反)について

(1)甲A1=甲B3に記載された発明

上記第5の1に摘記した甲A1=甲B3の記載事項によれば、甲A1=甲B3には、次のア?エの事項が記載されていると認められる。


毛髪の脱色時や染色時における毛髪へのダメージ軽減を目的とした染毛剤の更なる改良が求められているところ、脱色時に毛髪に与える損傷を軽減することができる毛髪明度向上剤を提供すること、を解決しようとする課題とするものであること(【0002】、【0005】?【0006】)。


上記アの課題を解決するための手段として、
(ア)「アルカノールアミン及び/又は低級アルコール、高級アルコール、並びにアミノ酸及び/又はアミノ酸塩を含有する毛髪処理用組成物と、酸化剤を含有する酸化剤組成物と、を混合して使用される毛髪明度向上剤」
を提供し、また、
(イ)「上記毛髪明度向上剤と、HC染料、塩基性染料、並びにアミノ酸及び/又はアミノ酸塩を含有する第1染着用組成物と、を混合して使用される毛髪色彩調整剤」
を提供すること(【0007】)。
上記「酸化剤組成物」が含有する酸化剤としては、「過酸化水素」が好ましいこと(【0027】)。


上記イ(ア)の課題解決の手段の具体例として、各成分を常法により混合して調製した[毛髪処理用組成物A-1]と、「6%過酸化水素水」とを、1:1の質量比で混合して、実施例1の「毛髪明度向上剤」を調製したこと(【0069】?【0070】:<試験例1>)。


上記イ(イ)の課題解決の手段の具体例として、上記ウの[毛髪処理用組成物A-1]と、以下にその一部を示した各成分を常法により混合して調製した[第1染着用組成物B-1(茶色)]を、1:1の質量比で混合して混合物を得た後、当該混合物と「6%過酸化水素水」を、1:1の質量比で混合して、実施例2の「毛髪色彩調整剤(茶色)」を調製し、当該実施例2の「毛髪色彩調整剤(茶色)」を、黒色の人毛毛束に均一に塗布し、30分間放置した後、シャンプー処理し、ドライヤーで毛束を乾燥したところ、毛髪の乾燥が抑制され、損傷が少なく、発色がより鮮やかであったこと(【0073】?【0075】、【0077】?【0078】:<試験例2>)。
[第1染着用組成物B-1(茶色)]
・・・
HC青2 0.11
HC黄2 0.041
HC赤3 0.053
塩基性茶17 0.277
塩基性茶16,塩基性青99,塩基性青76,塩基性赤76,塩基性黄57,紫401
各0.143
・・・
(含有量の単位は質量%である(【0068】)。)

上記事項エによれば、上記実施例2の「毛髪色彩調整剤(茶色)」には、その調製工程からみて、上記[第1染着用組成物B-1(茶色)]の各成分が、それぞれの含有量の4分の1の量で含まれていると認められる。

そうすると、甲A1=甲B3には、上記実施例2の「毛髪色彩調整剤(茶色)」について、染料成分に着目すると、次の発明(以下「甲A1発明」という。)が記載されているものと認められる。

≪甲A1発明≫
「塩基性赤76を0.03575質量%、
塩基性黄57を0.03575質量%、
HC青2を0.0275質量%、
HC黄2を0.01025質量%、
塩基性青99を0.03575質量%、
塩基性青76を0.03575質量%、
塩基性茶17を0.06925質量%、
塩基性茶16を0.03575質量%、
HC赤3を0.01325質量%、
紫401を0.03575質量%、
含有する、毛髪色彩調整剤(茶色)。」

(2)本件発明1について

本件発明1は、上記第2で認定したとおりのものであり、再掲すると次のとおりである。

「下記成分A、下記成分B、下記成分C、及び下記成分Dを含有し、
前記成分Aの含有量が0.005?0.5質量%であり、
前記成分Bの含有量が0.005?1.5質量%であり、
前記成分Cの含有量が0.1?1.5質量%であり、
前記成分Dの含有量が0.01?0.5質量%である
染毛料組成物。
成分A:下記式(1)で表される染料
【化1】

成分B:塩基性橙31、塩基性赤51、塩基性赤76、塩基性黄87、及び塩基性黄57からなる群より選ばれる1以上の染料
成分C:HC青2
成分D:HC黄4及びHC黄2からなる群より選ばれる1以上の染料」

ア 本件発明1と甲A1発明との対比

本件発明1と甲A1発明とを対比する。

甲A1発明の「毛髪色彩調整剤(茶色)」は、毛髪を染毛するために毛髪に直接適用される組成物であるから(甲A1=甲B3の【0032】、【0077】?【0078】を参照。)、本件発明1の「染毛料組成物」に相当する。
甲A1発明における「塩基性赤76」及び「塩基性黄57」は、それぞれ本件発明1における「成分B」の染料の選択肢に含まれている「塩基性赤76」及び「塩基性黄57」に該当し、甲A1発明における当該両染料の合計量「0.0715質量%」は、本件発明1における「成分Bの含有量が0.005?1.5質量%」の条件を満たしている。
甲A1発明における「HC青2」は、本件発明1における「成分C」である「HC青2」に該当するものである。
甲A1発明における「HC黄2」は、本件発明1における「成分D」の染料の選択肢の1つである「HC黄2」に該当し、甲A1発明における同染料の含有量「0.01025質量%」は、本件発明1における「成分Dの含有量が0.01?0.5質量%」の条件を満たしている。
なお、本件発明1は、成分A?D以外の染料及び他の成分を含有することを排除していないから、甲A1発明に「塩基性茶17」等の他の染料が含まれることは、本件発明1との相違点にならない。

そうすると、本件発明1と甲A1発明の間には、以下の一致点及び相違点があるものと認められる。

<一致点>
「下記成分B、下記成分C、及び下記成分Dを含有し、
前記成分Bの含有量が0.005?1.5質量%であり、
前記成分Dの含有量が0.01?0.5質量%である
染毛料組成物。
成分B:塩基性橙31、塩基性赤51、塩基性赤76、塩基性黄87、及び塩基性黄57からなる群より選ばれる1以上の染料
成分C:HC青2
成分D:HC黄4及びHC黄2からなる群より選ばれる1以上の染料」

<相違点1>
本件発明1は「式(1)で表される染料(式は省略)」である「成分A」を含有し「成分Aの含有量が0.005?0.5質量%」であるのに対し、甲A1発明は当該「成分A」を含有していない点。

<相違点2>
「成分C」の含有量が、本件発明1では「0.1?1.5質量%」であるのに対し、甲A1発明では当該範囲の下限値よりも少ない「0.0275質量%」である点。

イ 本件発明1と甲A1発明との相違点についての判断

(ア)相違点1(成分Aの有無及びその含有量)について

上記第5の3に摘記した甲A3の記載事項によれば、甲A3には、毛髪着色剤「Vibracolor Moonlight Blue」が、青色カチオン性直接染料であり、当該染料が非常に鮮やかなブルーの発色をもたらすものであること、及び、当該染料のINCI名が「Basic Blue 124」であり、その化粧品成分表示名称が「塩基性青124」であることが記載されている。
ここで、本件明細書の【0022】には、「成分Aは、INCI名(・・・):BASIC BLUE 124(ベーシックブルー124)で表記される化合物であり、・・・」と記載されていることから、甲A3に記載された上記「塩基性青124(Basic Blue 124)」は、本件発明1における「成分A」の「式(1)で表される染料」に該当するものと認められる。

しかしながら、甲A1=甲B3には、「毛髪処理用組成物」及び「酸化剤組成物」と混合して「毛髪色彩調整剤」を調製する「第1染着用組成物」に含有される「塩基性染料」の例として列記されている染料に、青色の「塩基性青7」、「塩基性青9」、「塩基性青26」、「塩基性青75」及び「塩基性青99」が挙げられているものの(【0034】を参照。)、上記「成分A」に該当する「塩基性青124」については、何ら記載されていない。
そして、甲A1発明の「毛髪色彩調整剤(茶色)」は、青色の塩基性染料として「塩基性青99」及び「塩基性青76」を含有するものであり(当審注:「塩基性青76」は上記【0034】の例示に含まれていないことからみて、【0073】の「塩基性青76」との記載は「塩基性青75」の誤記である可能性もある。)、甲A1=甲B3には、甲A1発明の認定の根拠とした実施例2の「毛髪色彩調整剤(茶色)」は、発色がより鮮やかであった旨が記載されている(上記(1)エを参照。)。

そうすると、甲A3に「塩基性青124」が非常に鮮やかなブルーの発色をもたらすことが記載されているとしても、既に発色がより鮮やかであったとされている甲A1発明の「毛髪色彩調整剤(茶色)」において、含有する青色の塩基性染料である「塩基性青99」及び「塩基性青76」(当審注:「塩基性青76」は誤記であり、「塩基性青75」の可能性もある。)に加えて、あるいは、これらの青色の塩基性染料(の一部)に代えて、甲A1=甲B3に例示すらもされてない「塩基性青124」を、あえて含有するものとすることは、当業者において動機付けられるとはいえない。

したがって、甲A1発明において、「成分A」である「式(1)で表される染料」を含有するものとし、「成分Aの含有量」を「0.005?0.5質量%」に特定することは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(イ)相違点2(成分Cの含有量)について

甲A1発明の「毛髪色彩調整剤(茶色)」は、本件発明1における「成分C」に該当する「HC青2」の含有量が、本件発明1で特定する「成分C」の含有量である「0.1?1.5質量%」の範囲の下限値「0.1質量%」の4分の1強である「0.0275質量%」に過ぎない。
そして、甲A1=甲B3においては、第1染着用組成物に含有されるHC染料として例示列記された多くのHC染料の1つに「HC青2」が含まれているが(【0033】)、これらのHC染料の含有量に関する一般的な説明は記載されておらず、毛髪色彩調整剤における「HC青2」の含有量を「0.1?1.5質量%」の範囲内とすることを示唆するような事項も何ら記載されていない。
また、染毛料組成物における「HC青2」の含有量を「0.1?1.5質量%」の範囲内とすべきことを強く支持するような技術常識が本件優先日前に存在したとも認められない。
そうすると、甲A1発明の「毛髪色彩調整剤(茶色)」において、含まれている複数の染料成分のうち、あえて「HC青2」の含有量のみについて、「0.0275質量%」から、その約4倍以上の量とし、「0.1?1.5質量%」の範囲内のものに変更することを、当業者に動機付ける根拠は見いだせない。
したがって、甲A1発明において、「成分Cの含有量」を「0.1?1.5質量%」とすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

ウ 本件発明1の効果について

(ア)
上記イで説示したとおり、甲A1発明において、本件発明1との間の相違点1及び相違点2の特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たとはいえないが、仮に、上記各相違点の特定事項を採用する動機付けがあるといえたとしても、以下に説示するとおり、本件発明1は当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するものである。

(イ)
仮に、甲A1=甲B3及び甲A3に記載された事項、並びに周知技術に基づいて、甲A1発明において、上記各相違点の特定事項を採用した、すわなち、本件発明1の特定事項を全て備えた染毛料組成物とした、と仮定した場合には、上記イ(ア)で説示したように、甲A3に「塩基性青124」が非常に鮮やかなブルーの発色をもたらすことが記載されていることから、鮮やかな発色を示す効果を奏する可能性があることは、当業者が予測し得るといえる。

(ウ)
これに対して、本件明細書の【0015】には、本件発明の染毛料組成物による効果として、(a)「十分に優れた毛髪に対する染色性を有する」とともに、(b)「皮膚への染着性が低く、使用時の指や頭皮の着色が極めて少ない」こと、が記載されている。
そして、上記の(a)及び(b)の効果は、本件明細書の【0081】?【0105】に記載されている本件発明の実施例及び比較例の染毛料組成物についての6つの評価試験のうち、[試験1:染色性の評価]及び[試験2:皮膚汚れ(染着性)]の結果によって、具体的に裏付けられている。

(エ)
すなわち、【0096】【表1】に記載された「実施例1-1」?「実施例1-22」の染毛料組成物は、それぞれ「成分A」?「成分D」に該当する染料成分が様々な量で配合されているが、いずれも本件発明1の特定事項を全て備えるものであり、各染料成分の含有量の範囲の条件も全て満たしているところ、「染色性」の評価結果をみると、「成分A」の含有量が0.01質量%であり比較的少ない「実施例1-5」及び「実施例1-10」の組成では、「○(良好):十分に染色されている」であるが、それら以外の実施例の組成物では、全て「◎(優れる):非常に濃く染色されている」であり、「皮膚汚れ」の評価結果は、「成分A」の含有量が0.2質量%又は0.15質量%であり比較的多い「実施例1-4」、「実施例1-9」、「実施例1-21」及び「実施例1-22」の組成物では、「○(良好):皮膚汚れが僅かに残る」であるが、それら以外の実施例の組成物では、全て「◎(優れる):皮膚汚れが全く残らない」とされている。
上記実施例の染毛料組成物のうち、例えば「実施例1-1」の組成物については、染料成分の含有量が、「成分A」の「ベーシックブルー124」を0.05質量%、「成分B」の「塩基性橙31」を0.05質量%、「成分C」の「HC青2」を0.5質量%、「成分D」の「HC黄2」を0.05質量%とするものであるところ、「染色性」と「皮膚汚れ」の評価結果は、いずれも「◎(優れる)」である。
同様に、「実施例1-2」、「実施例1-3」、「実施例1-6」?「実施例1-8」、「実施例1-11」?「実施例1-20」の組成物も、「染色性」と「皮膚汚れ」の評価結果は、いずれも「◎(優れる)」である。

(オ)
一方、本件明細書の【0097】【表2】に記載された「比較例1-1」?「比較例1-9」の染毛料組成物のうち、「比較例1-9」の組成物は、上記「実施例1-1」の組成物と比較すると、「成分A」(「ベーシックブルー124」)が、同じく青色の塩基性染料ではあるが、同量(0.05質量%)の「塩基性青75」に置き換わっただけで、他の成分及びそれらの含有量は全て同じであるにもかかわらず、「染色性」の評価結果は「◎(優れる)」であるものの、「皮膚汚れ」の評価結果は「×(不良):皮膚汚れが明らかに残る」であり、上記(ウ)の(a)及び(b)の効果の両立ができないことが示されている。なお、この「比較例1-9」の組成物が含有する「塩基性青75」は、仮に、甲A1=甲B3の【0073】に記載の「塩基性青76」が「塩基性青75」の誤記であれば、引用発明において含有されている染料成分ということになる。
また、「比較例1-3」?「比較例1-6」の組成物では、「成分A」と「成分B」の両方又はいずれか一方が含まれていないところ、「皮膚汚れ」の評価結果は「◎(優れる)」であるが、「染色性」の評価結果は、全てが「×(不良):染色が薄い」であり、やはり上記の(a)及び(b)の効果が両立できていない。
そして、「比較例1-7」及び「比較例1-8」の組成物は、「成分C」又は「成分D」のいずれか一方を含有していない点を除き、他の成分及びそれらの含有量は全て上記「実施例1-1」の組成物と同じであるにもかかわらず、「皮膚汚れ」の評価結果は「◎(優れる)」であるが、「染色性」の評価結果は「×(不良):染色が薄い」とされており、同様に上記の(a)及び(b)の効果を両立できないことが示されている。
なお、「比較例1-1」及び「比較例1-2」の組成物は、「成分C」と「成分D」を両方とも含有していないにもかかわらず、「染色性」の評価結果は、「◎(優れる)」であり、「皮膚汚れ」の評価結果は、「比較例1-1」では「◎(優れる)」、「比較例1-2」では「○(良好)」とされているが、下記(ケ)で後述するように、「ダメージ毛に対する色ムラ」の評価結果は、「不良(×)」であった。

(カ)
さらに、本件明細書の【0043】には、
一般に、
a.「カチオン性の染料は染着速度がはやく堅牢性にも優れるがダメージ毛や損傷部位に吸着しやすく染色ムラがでやすい特性を有する」
のに対し、
b.「ノニオン性の染料は染着速度は比較的遅いものの、損傷の有無によらず均一に吸着しやすい特性を有する」
ため、
c.「カチオン性の染料とノニオン性の染料の色調がそれぞれ異なる場合には、放置時間や部位による損傷度合の違い等により、色ムラが生じやすくなる」
ところ、本件発明の染毛料組成物については、
d.「成分Aと成分Bは共にカチオン性の染料であり、カチオン性の染料のみの組み合わせで灰色に呈色する」こと、
e.「成分Cと成分Dは共にノニオン性の染料であり、ノニオン性の染料のみの組み合わせで灰色に呈色する」こと、
したがって、
f.「カチオン性の染料のみの組み合わせ」と「ノニオン性の染料のみの組み合わせ」の「それぞれが灰色に呈色する」こと、
が記載されており、そのため、
(c)「短時間での染色性」、
(d)「色持ち」(当審注:「堅牢性」に対応するものと認める。)、
(e)「放置時間延長時の変色抑制」、
及び、
(f)ブリーチ処理された毛等の「ダメージ毛に対する色ムラ」を、
より改善できる、という本件発明が奏する効果が記載されている。

(キ)
上記(カ)に示した本件明細書の【0043】におけるa.?f.の記述の内容は、上記1(2)で確認した本件優先日前の染毛料組成物の技術常識を踏まえると、次のように理解することができる。
すなわち、カチオン性である塩基性染料の「成分A」及び「成分B」は、毛髪のキューティクル表面にイオン結合で着色するため、染着速度がはやく堅牢性にも優れるが、ダメージ毛や損傷部位に吸着しやすいため染色ムラが生じやすく、青色の「成分A」と、赤色?橙色?黄色の「成分B」との組み合わせにより、毛髪のキューティクル表面を灰色に染色する。
また、ノニオン性であるHC染料の「成分C」及び「成分D」は、キューティクルの隙間から毛髪内部まで入り水素結合や分子間力で着色するため、染着速度は比較的遅いが、損傷の有無によらず均一に吸着しやすく、青色の「成分C」と、黄色の「成分D」との組み合わせにより、毛髪の内部を灰色に染色する。
そして、上記(カ)の(c)?(f)の効果も、本件明細書に記載された実施例及び比較例の染毛料組成物についての評価試験([試験1:染色性の評価]、[試験3:堅牢性の評価]、[試験4:放置時間延長時の変色抑制の評価]及び[試験6:ダメージ毛に対する色ムラの評価])の結果により具体的に裏付けられている。

(ク)
すなわち、上記(カ)の(c)「短時間での染色性」の効果については、[試験1:染色性の評価]において、試験用毛束に実施例及び比較例の各染毛料組成物を塗布し、「1分間」毛束(毛髪)全体に馴染ませ、「5分間」放置後、毛束から染毛料組成物を洗い流し、乾燥させ、評価用毛束を調製したことが記載されており(【0085】?【0086】)、この評価用毛束の染色性を評価したところ、上記(エ)にて説示したように、「実施例1-1」?「実施例1-22」の組成物の「染色性」の評価結果は、「◎(優れる)」又は「○(良好)」であったことが示されている。
上記(カ)の(d)「色持ち」(「堅牢性」)の効果については、[試験3:堅牢性の評価]において、シャンプー洗浄による色の落ち方を評価した旨が記載されており(【0092】?【0093】)、「実施例1-4」、「実施例1-9」、「実施例1-21」及び「実施例1-22」以外の実施例の染毛料組成物の評価結果は、いずれも「○(良好):試験後に毛髪の色の落ち方が小さい」であったことが示されている(【0096】【表1】)。なお、上記4つの実施例については、<堅牢性の評価基準>にはない「◎(優れる)」という評価結果が記載されているが、「成分A」の含有量が0.2質量%又は0.15質量%であり比較的多いことなどからみて、より優れた堅牢性が得られたことを示しているものと推定される。
上記(カ)の(e)「放置時間延長時の変色抑制」の効果については、[試験4:放置時間延長時の変色抑制の評価]において、「試験1」での評価用毛束の調製における「5分間放置」を「30分間放置」に変更して評価用毛束を調製した旨が記載されており(【0094】?【0095】)、実施例の染毛料組成物の評価結果は、全て「○(良好):試験1で調製した評価用毛束の色調から変化が全くない」であったことが示されている(【0096】【表1】)。
上記(カ)の(f)「ダメージ毛に対する色ムラ」の効果については、[試験6:ダメージ毛に対する色ムラの評価]において、「ブリーチ処理した毛束」を用いて上記試験1と同様の試験を行ったところ(【0102】?【0103】)、実施例の染毛料組成物の評価結果は、いずれも「○(良好):試験1で調製した評価用毛束の色調から変化が全くない」であったことが示されている(【0104】)。

(ケ)
一方、比較例については、「比較例1-3」及び「比較例1-4」の組成物は、「成分A」及び「成分B」の両方を含有せず、「比較例1-7」の組成物は、「成分C」を含有していない点を除いて、他の成分及びそれらの含有量が全て「実施例1-1」の組成物と同じであるが、「堅牢性」の評価結果は「×(不良):試験後に毛髪の色の落ち方が大きい」である(【0097】【表2】)。
また、「比較例1-7」及び「比較例1-8」の組成物は、「成分C」又は「成分D」のいずれか一方を含有していない点を除いて、他の成分及びそれらの含有量は全て「実施例1-1」の組成物と同じであるが、「放置時間延長時の変色抑制」の評価結果は、「×(不良):試験1で調製した評価用毛束の色調から変化がある」とされている(【0097】【表2】)。
そして、「比較例1-1」及び「比較例1-2」の組成物は、「成分C」及び「成分D」を両方とも含有していないところ、「ダメージ毛に対する色ムラ」の評価結果が「不良(×)」であった(【0104】)。

(コ)
上記(エ)?(オ)及び(ク)?(ケ)で確認した、実施例及び比較例の染毛料組成物の各評価試験の結果のうち、「実施例1-1」、「比較例1-1」、「比較例1-7」、「比較例1-8」及び「比較例1-9」の組成物についての、「染色性」、「皮膚汚れ」、「堅牢性」、「放置時間延長時の変色抑制」及び「ダメージ毛に対する色ムラ」の評価の結果を、各組成物における染料成分の構成と併せて比較すると、次のことが認められる。
a.「実施例1-1」の組成物は、本件発明1の「成分A」?「成分D」の条件を含有量も含めて全て満たすところ、「染色性」及び「皮膚汚れ」の評価結果は、いずれも「◎(優れる)」であり、「堅牢性」、「放置時間延長時の変色抑制」及び「ダメージ毛に対する色ムラ」の評価結果も「○(良好)」であるのに対して、「比較例1-9」の組成物は、「実施例1-1」の組成物と比較すると、「成分A」(「ベーシックブルー124」)が、同じ青色の塩基性染料だが「塩基性青75」に置き換わっただけで、他の成分及びそれらの含有量は全て同じであるにもかかわらず、「皮膚汚れ」の評価結果は「×(不良)」であった。
b.「比較例1-1」の組成物は、「実施例1-1」の組成物と比較すると、「成分C」及び「成分D」を両方とも含まないが、他の成分及びそれらの含有量は全て同じであるところ、「染色性」及び「皮膚汚れ」の評価結果は「◎(優れる)」であり、「堅牢性」及び「放置時間延長時の変色抑制」の評価結果は「○(良好)」であり、いずれも「実施例1-1」の組成物と同等の効果が得られているが、「ダメージ毛に対する色ムラ」の評価結果は「不良(×)」であった。
c.「比較例1-7」及び「比較例1-8」の組成物は、「実施例1-1」の組成物と比較すると、「成分C」又は「成分D」のいずれか一方が含まれていないだけで、他の成分及びそれらの含有量は全て同じであるにもかかわらず、「皮膚汚れ」の評価結果は「◎(優れる)」であるが、「染色性」及び「放置時間延長時の変色抑制」の評価結果は「不良(×)」であり、「成分C」を含んでいない「比較例1-7」の組成物は、「堅牢性」の評価結果も「不良(×)」であった。
上記a.?c.について、上記(キ)で説示した事項も併せ考察すると、「染色性」、「皮膚汚れ」、「堅牢性」、「放置時間延長時の変色抑制」、及び「ダメージ毛に対する色ムラ」は、染毛料組成物が含有する個々の染料成分の性質のみで決まるのではなく、各染料成分の組み合わせによって相互作用が異なり、各染料成分の彩度や染色速度等の違いによって、染毛料組成物全体として、染色後の毛束の色調のみならず、染色性や堅牢性等にも影響が生じ、色彩のバランスも経時変化が生じることがある、ということが理解できる。

(サ)
甲A1=甲B3及び甲A3のいずれにも、「成分A」である「式(1)で表される染料」を含有するものとし、「成分Aの含有量」を「0.005?0.5質量%」とすることを含め、本件発明1の特定事項を全て備えた染毛料組成物とした場合に、上記(ウ)に記載した、(a)「十分に優れた毛髪に対する染色性を有する」とともに、(b)「皮膚への染着性が低く、使用時の指や頭皮の着色が極めて少ない」という効果が奏されること、それに加えて、上記(カ)に記載した、(c)「短時間での染色性」、(d)「色持ち」(「堅牢性」)、(e)「放置時間延長時の変色抑制」、及び、(f)「ダメージ毛に対する色ムラ」を、より改善することができるという効果が奏されることを、当業者が予測し得る根拠となるような記載は見出せない。
そして、本件発明1の特定事項を全て備えた染毛料組成物とした場合に、上記(ウ)の(a)及び(b)の効果、及び上記(カ)の(c)?(f)の効果が奏されることを、当業者が予測し得るといえる根拠となるような技術常識が、本件優先日前に存在したとも認められない。

(シ)
したがって、染毛料組成物において、「成分A」である「式(1)で表される染料」を「0.005?0.5質量%」の範囲の含有量とし、成分B、成分C、及び成分Dについても、それぞれ本件発明1で特定する範囲の量で併用することによって奏される、(a)「十分に優れた毛髪に対する染色性を有する」とともに、(b)「皮膚への染着性が低く、使用時の指や頭皮の着色が極めて少ない」、それに加え、(c)「短時間での染色性」、(d)「色持ち」(「堅牢性」)、(e)「放置時間延長時の変色抑制」、及び、(f)「ダメージ毛に対する色ムラ」を、より改善する、という本件発明1の効果は、当業者が予測し得ない顕著なものである。

エ 申立人Aの主張について

申立人Aは、甲A4=甲B2の【0006】の「染着力が比較的優れた塩基性染料の配合量を多くして染毛力を高めようとすると、塩基性染料の皮膚への染着(地肌汚れ)が懸念される。」との記載を根拠として、直接染料を含有する染毛剤組成物において、皮膚への染着(地肌汚れ)を改善することは、本件出願前の周知の課題であるから、「ベーシックブルー124」を使用する際に、皮膚への染着がどの程度であるかを確認することは、当業者が通常行うことであり、本件発明1の効果は当業者が予測できない効果であるとは認められない旨を主張している(申立人Aの申立書の18頁16?26行)。
しかし、申立人Aが主張するように、染毛料組成物において、塩基性染料等の直接染料の含有量の増加による染毛力の向上と、皮膚への染着(地肌汚れ)の改善という、二律背反の課題があること自体は、上記1(1)で確認したように、本件優先日前の技術常識であり、これらの染料の皮膚への染着の程度を確認することも、当業者が通常行うことであるといえたとしても、「成分A」である「式(1)で表される染料」を「0.005?0.5質量%」の範囲の含有量とし、成分B、成分C、及び成分Dについても、それぞれ本件発明1で特定する範囲の量で併用する、という手段を採用することにより、上記ウで説示したように、(a)「十分に優れた毛髪に対する染色性を有する」とともに、(b)「皮膚への染着性が低く、使用時の指や頭皮の着色が極めて少ない」という効果を発揮し、上記の二律背反の課題をともに解決できるということは、申立人Aが提出した証拠に加え、申立人Bが提出した証拠をみても、これらの文献等には記載も示唆もされていないし、そのような技術常識が本件優先日前に存在したとも認められない。
したがって、申立人Aの上記主張は採用できない。

オ 本件発明1の甲A1を主引例とする進歩性の判断のまとめ

以上のとおり、本件発明1は、甲A1に記載された発明、甲A3に記載された事項、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明2?6について

本件発明2?6は、いずれも、本件発明1の特定事項を全て備えており、さらに特定事項が限定された発明である。
そうすると、上記(2)で説示したとおり、本件発明1が、甲A1に記載された発明、甲A3に記載された事項、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのであるから、これと同様の理由により、本件発明1がさらに限定された本件発明2?6についても、甲A1に記載された発明、甲A3に記載された事項、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)申立理由A1についての小括

以上のとおり、本件発明1?6は、甲A1に記載された発明、甲A3に記載された事項、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、本件請求項1?6に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当しないから、申立理由A1によって取り消されるべきものではない。

3 申立理由A2(甲A2を主引例とする進歩性違反)について

(1)甲A2に記載された発明

上記第5の2に摘記した甲A2の記載事項によれば、甲A2には、次のア?ウの事項が記載されていると認められる。


白髪染め等の染毛において、洗髪や日常のダメージによって染色した毛髪が褪色してしまうという問題があったところ、染色した毛髪に対して優れた褪色防止効果を有する褪色防止剤を提供すること、を解決しようとする課題とするものであること(【0002】、【0005】)。


上記アの課題を解決するための手段として、一般式(1)で表されるラクトン誘導体(当審注:式の記載は省略する。)が、染色した毛髪に対して優れた褪色防止効果を有することを見出したこと(【0006】)。
上記一般式(1)で表されるラクトン誘導体を含有する、染色した毛髪の褪色防止剤(【請求項1】)、及び当該褪色防止剤を含有する染毛料(【請求項8】)。
上記一般式(1)で表されるラクトン誘導体の具体例として、「γ-エルカラクトン」を合成したこと(【0036】:合成例1)。


実施例として、上記イの「合成例1」の化合物、及び以下の染料等の成分を含有するヘアカラートリートメントを調製したところ、優れた染色性及び褪色防止効果を有するものであったこと(【0065】:実施例12)。
成 分 配合量(重量%)
・・・
合成例1の化合物 0.3
・・・
塩基性黄57 0.1
塩基性赤76 0.05
HC青2 0.15
HC黄4 0.03
・・・
HC赤3 0.01
クチナシ青 0.05
・・・

上記事項ウから、上記実施例12の「ヘアカラートリートメント」について、染料成分に着目すると、甲A2には、次の発明(以下「甲A2発明」という。)が記載されているものと認められる。

≪甲A2発明≫
「塩基性赤76を0.05重量%、
塩基性黄57を0.1重量%、
HC青2を0.15重量%、
HC黄4を0.03重量%、
HC赤3を0.01重量%
クチナシ青を0.05重量%、
含有する、ヘアカラートリートメント。」

(2)本件発明1について

ア 本件発明1と甲A2発明との対比

本件発明1と甲A2発明とを対比する。

甲A2発明の「ヘアカラートリートメント」は、本件発明1の「染毛料組成物」に相当する。
甲A2発明における「塩基性赤76」及び「塩基性黄57」は、それぞれ本件発明1における「成分B」の染料の選択肢に含まれている「塩基性赤76」及び「塩基性黄57」に該当し、「重量%」と「質量%」は割合を示す数値としては同じ値になるから(以下、同様。)、甲A2発明における当該両染料の合計量「0.15重量%」は、本件発明1における「成分Bの含有量が0.005?1.5質量%」の条件を満たしている。
甲A2発明における「HC青2」は、本件発明1における「成分C」である「HC青2」に該当するものであり、甲A2発明における「HC青2」の含有量「0.15重量%」は、本件発明1における「成分Cの含有量が0.1?1.5質量%」の条件を満たしている。
甲A2発明における「HC黄4」は、本件発明1における「成分D」の染料の選択肢の1つである「HC黄4」に該当し、甲A2発明における同染料の含有量「0.03重量%」は、本件発明1における「成分Dの含有量が0.01?0.5質量%」の条件を満たしている。
なお、本件発明1は、成分A?D以外の染料及び他の成分を含有することを排除していないから、甲A2発明に「HC赤3」等の他の染料が含まれることは、本件発明1との相違点にならない。

そうすると、本件発明1と甲A2発明の間には、以下の一致点及び相違点があるものと認められる。

<一致点>
「下記成分B、下記成分C、及び下記成分Dを含有し、
前記成分Bの含有量が0.005?1.5質量%であり、
前記成分Cの含有量が0.1?1.5質量%であり、
前記成分Dの含有量が0.01?0.5質量%である
染毛料組成物。
成分B:塩基性橙31、塩基性赤51、塩基性赤76、塩基性黄87、及び塩基性黄57からなる群より選ばれる1以上の染料
成分C:HC青2
成分D:HC黄4及びHC黄2からなる群より選ばれる1以上の染料」

<相違点1’>
本件発明1は「式(1)で表される染料(式は省略)」である「成分A」を含有し「成分Aの含有量が0.005?0.5質量%」であるのに対し、甲A2発明は当該「成分A」を含有していない点。

イ 本件発明1と甲A2発明との相違点1’(成分Aの有無及びその含有 量)についての判断

上記2(2)イ(ア)でも説示したように、甲A3には、毛髪着色剤「Vibracolor Moonlight Blue」が、青色カチオン性直接染料であり、当該染料が非常に鮮やかなブルーの発色をもたらすものであること、及び、当該染料のINCI名が「Basic Blue 124」であり、その化粧品成分表示名称が「塩基性青124」であることが記載されており、当該「塩基性青124(Basic Blue 124)」は、本件発明1における「成分A」の「式(1)で表される染料」に該当するものと認められる。

しかしながら、甲A2発明の「ヘアカラートリートメント」には、青色の塩基性染料は含まれておらず、甲A2において、染毛料に配合できる成分の例として列記されている染料には、「HC Blue 2」及び「Basic Blue 26」等の青色の染料も含まれているが(【0032】を参照。)、上記「成分A」に該当する「塩基性青124」については、何ら記載されていない。
また、上記(1)アで説示したように、甲A2に記載された解決しようとする課題は、染色した毛髪に対し優れた褪色防止効果を有する褪色防止剤を提供することであり、甲A2発明の認定の根拠とした上記(1)ウの実施例12の「ヘアカラートリートメント」は、上記(1)イの褪色防止剤である「合成例1」の化合物による褪色防止効果の確認を主な目的として調製された処方例の1つにすぎないものと認められるところ、甲A2には、染料成分の追加や置換により染毛料組成物の発色等の性質をさらに向上させる契機となるような記載や示唆は見出せない。

そうすると、甲A3に「塩基性青124」が非常に鮮やかなブルーの発色をもたらすことが記載されているとしても、甲A2発明の「ヘアカラートリートメント」において、甲A2に例示すらもされてない「塩基性青124」を、あえて含有するものとすることは、当業者において動機付けられるものとはいえない。

したがって、甲A2発明において、「成分A」である「式(1)で表される染料」を含有するものとし、「成分Aの含有量」を「0.005?0.5質量%」に特定することは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

ウ 本件発明1の効果について

上記イで説示したとおり、甲A2発明において、本件発明1との間の相違点1’の特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たとはいえないが、仮に、上記相違点1’の特定事項を採用する動機付けがあるといえたとしても、以下に説示するとおり、本件発明1は当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するものである。

仮に、甲A2及び甲A3に記載された事項、並びに周知技術に基づいて、甲A2発明において、上記相違点1’の特定事項を採用した、すなわち、本件発明1の特定事項を全て備えた染毛料組成物とした、と仮定した場合には、上記イで説示したように、甲A3には「塩基性青124」が非常に鮮やかなブルーの発色をもたらすことが記載されていることから、鮮やかな発色を示すという効果を奏する可能性があるということは、当業者が予測し得るといえる。

しかしながら、上記2(2)ウで詳述したように、本件発明1は、(a)「十分に優れた毛髪に対する染色性を有する」とともに、(b)「皮膚への染着性が低く、使用時の指や頭皮の着色が極めて少ない」、それに加えて、(c)「短時間での染色性」、(d)「色持ち」(「堅牢性」)、(e)「放置時間延長時の変色抑制」、及び、(f)「ダメージ毛に対する色ムラ」を、より改善する、という効果を奏するものである。

甲A2及び甲A3のいずれにも、染毛料組成物において、「成分A」である「式(1)で表される染料」を含有するものとし、「成分Aの含有量」を「0.005?0.5質量%」とすることを含め、本件発明1の特定事項を全て備えたものとした場合に、上記(a)?(f)の効果が奏されることを当業者が予測し得る根拠となるような記載は見出せない。
そして、本件発明1の特定事項を全て備えた染毛料組成物とした場合に、上記(a)?(f)の効果が奏されることを、当業者が予測し得るといえる根拠となるような技術常識が、本件優先日前に存在したとも認められない。

したがって、本件発明1が奏する上記(a)?(f)の効果は、当業者が予測し得ない顕著なものである。

エ 申立人Aの主張について

申立人Aは、本件発明1の効果は当業者が予測できないものとは認められない旨を主張しているが(申立人Aの申立書の21頁12?22行)、その内容は上記2(2)エで説示したものと略同じであり、採用することができないものであることも、上記2(2)エで説示したとおりである。

オ 本件発明1の甲A2を主引例とする進歩性の判断のまとめ

以上のとおり、本件発明1は、甲A2に記載された発明、甲A3に記載された事項、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明2?6について

本件発明2?6は、いずれも、本件発明1の特定事項を全て備えており、さらに限定された発明である。
そうすると、上記(2)で説示したとおり、本件発明1が、甲A2に記載された発明、甲A3に記載された事項、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのであるから、これと同様の理由により、本件発明1がさらに限定された本件発明2?6についても、甲A2に記載された発明、甲A3に記載された事項、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)申立理由A2についての小括

以上のとおり、本件発明1?6は、甲A2に記載された発明、甲A3に記載された事項、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、本件請求項1?6に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当しないから、申立理由A2によって取り消されるべきものではない。

4 申立理由B(甲B1を主引例とする進歩性違反)について

(1)甲B1に記載された発明

上記第5の5に摘記した甲B1の記載事項によれば、甲B1には、次のア?ウの事項が記載されていると認められる。


カチオン染料は、非常に鮮やかな色調を呈するが、加水分解や光に対して堅牢性が不十分、還元性又は酸化性条件下では安定性が不十分、貯蔵安定性が不十分、といった問題があったところ、洗浄、光、シャンプー及び擦りに関して良好な堅牢特性を有する濃染により特徴付けられ、還元性又は酸化性染色条件下で十分な安定性を呈する、有機材料を染色するための、鮮やかな染料を提供すること、を解決しようとする課題とするものであること(【0002】、【0005】)。


(a)式
【化1】

で表される染料;
(b)式
【化2】
(式は省略。)
及び
【化3】
(式は省略。)
で表される化合物群から選択される少なくとも1種の染料;
及び
(c)以下
(c1)次の式
【化5】
(式は省略。)
で表される四級アンモニウム塩、
(c2)次の式
【化6】
(式は省略。)
で表されるイミダゾリウム塩、
(c3)次の式
【化7】
(式は省略。)
で表される四級ジアンモニウム塩、
から選択される四級アンモニウム塩;
を含んでいる毛髪染色用組成物(【請求項1】)。
上記成分(a)が、式
【化8】

に対応している、上記毛髪染色用組成物(【請求項3】)。


上記イの毛髪染色用組成物の具体例として、以下の染料等の成分を含有する「染料エマルション」を調製し、脱色ヒト毛髪に適用したところ、良好な堅牢性を有する赤みを帯びたブラウン染色であったこと(【0124】:実施例6)。
0.05%の染料ベイシックブルー124
0.15%のベイシックブルー99
0.07%のベイシックブラウン17
0.04%のベイシックイエロー57
0.15%のベイシックブラウン16
0.01%のベイシックレッド76
0.01%のベイシックレッド51
0.01%のHCレッドBN
0.01%のHCレッド3
0.01%の3-ニトロ-p-ヒドロキシエチルアミノフェノール
0.05%のHCブルー2
・・・
(含有量の単位は重量%である(【0105】)。)

上記事項ウから、上記実施例6の「染料エマルション」について、染料成分に着目すると、甲B1には、次の発明(以下「甲B1発明」という。)が記載されているものと認められる。

≪甲B1発明≫
「染料ベイシックブルー124を0.05重量%、
ベイシックレッド51を0.01重量%、
ベイシックレッド76を0.01重量%、
ベイシックイエロー57を0.04重量%、
HCブルー2を0.05重量%、
ベイシックブルー99を0.15重量%、
ベイシックブラウン16を0.15重量%、
HCレッドBNを0.01重量%、
HCレッド3を0.01重量%、
3-ニトロ-p-ヒドロキシエチルアミノフェノールを0.01重量%
含有する、染料エマルション。」

(2)本件発明1について

ア 本件発明1と甲B1発明との対比

本件発明1と甲B1発明とを対比する。

甲B1発明の「染料エマルション」は、毛髪の染毛のために毛髪に直接適用される組成物であるから(甲B1の【0124】を参照。)、本件発明1の「染毛料組成物」に相当する。
本件明細書には、本件発明1における「成分A:下記式(1)で表される染料」が、「BASIC BLUE 124(ベーシックブルー124)で表記される化合物」であることが記載され(【0022】)、「近年、青色染料であるベーシックブルー(Basic Blue)124を配合した染毛料組成物が知られている(特許文献2、3)。」と記載されており(【0005】)、ここで引用された「特許文献3」は、甲B1であるから(【0006】)、甲B1発明における「染料ベイシックブルー124」は、本件発明1における「成分A:下記式(1)で表される染料(当審注:式は省略する。)」に該当し、甲B1発明における「染料ベイシックブルー124」の含有量「0.05重量%」は、本件発明1における「成分Aの含有量が0.005?0.5質量%」の条件を満たしている。
甲B1発明における「ベイシックレッド51」、「ベイシックレッド76」及び「ベイシックイエロー57」は、それぞれ本件発明1における「成分B」の染料の選択肢に含まれている「塩基性赤51」、「塩基性赤76」及び「塩基性黄57」に該当し、甲B1発明における上記3種の染料の合計量「0.06重量%」は、本件発明1における「成分Bの含有量が0.005?1.5質量%」の条件を満たしている。
甲B1発明における「HCブルー2」は、本件発明1における「成分C」である「HC青2」に該当する。
なお、本件発明1は、成分A?D以外の染料及び他の成分を含有することを排除していないから、甲B1発明に「ベイシックブルー99」等の他の染料が含まれることは、本件発明1との相違点にならない。

そうすると、本件発明1と甲B1発明の間には、以下の一致点及び相違点があるものと認められる。

<一致点>
「下記成分A、下記成分B、及び下記成分Cを含有し、
前記成分Aの含有量が0.005?0.5質量%であり、
前記成分Bの含有量が0.005?1.5質量%である
染毛料組成物。
成分A:下記式(1)で表される染料
【化1】

成分B:塩基性橙31、塩基性赤51、塩基性赤76、塩基性黄87、及び塩基性黄57からなる群より選ばれる1以上の染料
成分C:HC青2」

<相違点3>
本件発明1は、「HC黄4及びHC黄2からなる群より選ばれる1以上の染料」である「成分D」を含有し、「成分Dの含有量が0.01?0.5質量%」であるのに対し、甲B1発明は当該「成分D」を含有していない点。

<相違点4>
「成分C」の含有量が、本件発明1では「0.1?1.5質量%」であるのに対し、甲B1発明では当該範囲の下限値より少ない「0.05重量%」である点。

イ 本件発明1と甲B1発明との相違点についての判断

(ア)相違点3(成分Dの有無及びその含有量)について

甲B2=甲A4、甲B3=甲A1、甲B4、甲B5及び甲B6には、本件発明1における「成分B」に該当する塩基性染料、及び/又は、本件発明1における「成分C」に該当する「HC青2」とともに、本件発明1における「成分D」に該当する「HC黄4」及び/又は「HC黄2」を、本件発明1で特定する範囲内の量で含有する染毛料組成物が、実施例として記載されている(甲B2=甲A4の【0093】【表1】?【0094】【表2】に記載された実施例1?6、9?16、甲B3=甲A1の【0073】?【0075】に記載された実施例2の「毛髪色彩調整剤(茶色)」(上記2(1)も参照)、甲B4の【0016】に記載された実施例-22及び実施例-25、甲B5の【図1】に記載された処方1?5、甲B6の【0064】、【0069】【表1】?【0070】【表2】に記載された実施例1?18)。
しかしながら、甲B1には、毛髪染色用組成物に配合し得る成分として、HC染料については、一般的な説明さえも記載されておらず、「HC黄4」及び「HC黄2」の例示すら全く記載されていない。
また、染毛料組成物について、「HC黄4」及び/又は「HC黄2」を含むものとし、それらの含有量を「0.01?0.5質量%」の範囲内のものとすべきことを強く支持するような技術常識が本件優先日前に存在したとも認められない。
そうすると、本件発明1における「成分D」に該当する「HC黄4」及び/又は「HC黄2」を、本件発明1で特定する範囲内の量で含有する染毛料組成物の例が、単に複数の文献に記載されているからといって、特定の染料成分の組成を有する甲B1発明の「染料エマルション」において、甲B1に例示さえも何ら記載されていない「HC黄4」又は「HC黄2」を、あえて含有するものとすることは、当業者において動機付けられるとはいえない。
したがって、甲B1発明において、「HC黄4及びHC黄2からなる群より選ばれる1以上の染料」である「成分D」を含有するものとし、当該「成分D」の含有量を「0.01?0.5質量%」に特定することは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(イ)相違点4(成分Cの含有量)について

甲B1発明の「染料エマルション」は、本件発明1における「成分C」に該当する「HCブルー2」の含有量が、本件発明1で特定する「成分C」の含有量である「0.1?1.5質量%」の範囲の下限値「0.1質量%」の2分の1である「0.05重量%」に過ぎない。
そして、甲B1には、上記(ア)で説示したように、HC染料についての一般的な説明さえも記載されていないし、毛髪染色用組成物における「HCブルー2」の含有量を「0.1?1.5質量%」の範囲内とすることを示唆するような記載はない。
また、染毛料組成物における「HC青2」の含有量を「0.1?1.5質量%」の範囲内とすべきことを強く支持するような技術常識が本件優先日前に存在したとも認められない。
そうすると、甲B1発明の「染料エマルション」において、含まれる複数の染料のうち、あえて「HCブルー2」の含有量のみについて、「0.05重量%」から、その2倍以上の量とし、「0.1?1.5質量%」の範囲内のものに変更することを、当業者に動機付ける根拠は見いだせない。
したがって、甲B1発明において、「成分Cの含有量」を「0.1?1.5質量%」とすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

ウ 本件発明1の効果について

上記イで説示したとおり、甲B1発明において、本件発明1との間の相違点3及び相違点4の特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たとはいえないが、仮に、上記各相違点の特定事項を採用する動機付けがあるといえたとしても、以下に説示するとおり、本件発明1は当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するものである。

上記2(2)ウで詳述したように、本件発明1は、(a)「十分に優れた毛髪に対する染色性を有する」とともに、(b)「皮膚への染着性が低く、使用時の指や頭皮の着色が極めて少ない」、それに加えて、(c)「短時間での染色性」、(d)「色持ち」(「堅牢性」)、(e)「放置時間延長時の変色抑制」、及び、(f)「ダメージ毛に対する色ムラ」を、より改善する、という効果を奏するものである。
なお、本件明細書に記載された「比較例1-8」の組成物は、「成分D」を含有していない点を除いて、他の成分及びそれらの含有量は全て「実施例1-1」の組成物と同じであるにもかかわらず、「皮膚汚れ」の評価結果は「◎(優れる)」であるが、「染色性」の評価結果は「×(不良):染色が薄い」とされ、上記(a)及び(b)の効果を両立できないことが示されており、「放置時間延長時の変色抑制」の評価結果も「×(不良):試験1で調製した評価用毛束の色調から変化がある」であって、上記(e)の効果も奏さないことが示されている。

甲B1、甲B2=甲A4、甲B3=甲A1、甲B4、甲B5及び甲B6のいずれにも、染毛料組成物において、「HC黄4及びHC黄2からなる群より選ばれる1以上の染料」である「成分D」を「0.01?0.5質量%」の量で含有するものとし、「HC青2」である「成分C」の含有量を「0.1?1.5質量%」とすることを含めて、本件発明1の特定事項を全て備えたものとした場合に、上記(a)?(f)の効果が奏されることを当業者が予測し得る根拠となるような記載は見出せない。
そして、本件発明1の特定事項を全て備えた染毛料組成物とした場合に、上記(a)?(f)の効果が奏されることを、当業者が予測し得るといえる根拠となるような技術常識が、本件優先日前に存在したとも認められない。

したがって、本件発明1が奏する上記(a)?(f)の効果は、当業者が予測し得ない顕著なものである。

エ 申立人Bの主張について

(ア)
申立人Bは、甲B5の請求項1に記載された染毛料が「HC BLUE 2」(「HC青2」)を「0.01?0.6重量%」含有すること、甲B6の【0069】【表1】に記載された実施例の染毛料組成物が「HC Blue No.2」(「HC青2」)を「0.5重量%」含有すること、さらに、甲B6の【0011】には、「HC染料を増量する利点の一例として、・・・、オーバータイム使用による染毛力の向上が挙げられる。『オーバータイム』とは、染毛料の処理時間が正規に規定された時間を超過することをいう。」と記載されており、甲B6の【0006】には、「上記HC染料は毛髪内部に浸透しやすく更に毛髪内部に蓄積可能であり、一方で地肌を汚染しにくく、・・・」と記載されていること、を根拠として、「HC青2」の含有量を「0.1?1.5質量%」程度とすることは、むしろ当然である旨を主張している(申立人Bの申立書の35頁3?11行)。
しかしながら、上記イ(イ)で説示したように、甲B1には、HC染料についての一般的な説明さえも記載されておらず、毛髪染色用組成物における「HCブルー2」の含有量を「0.1?1.5質量%」の範囲内とすることを示唆するような事項は記載されていないし、染毛料組成物における「HC青2」の含有量を「0.1?1.5質量%」の範囲内のものとすべきことを強く支持するような技術常識が本件優先日前に存在したとも認められないから、若干の文献に、「HC青2」の含有量が「0.1?1.5質量%」の範囲内である染毛料組成物が記載され、HC染料を増量する利点が記載されているからといって、特定の染料成分の組成を有する甲B1発明の「染料エマルション」において、含有する複数の染料のうち、あえて「HCブルー2」の含有量のみを、「0.05重量%」から、その2倍以上の量とし、「0.1?1.5質量%」の範囲内のものに変更することが、当業者において動機付けられるとはいえない。

(イ)
申立人Bは、甲B2=甲A4の【0008】における、「本発明は、酸性染料以外の直接染料を用いたカラートリートメントにおける地肌汚れを抑制すると共に、・・・を、解決すべき課題とする。」との記載、及び、甲B4の【0002】における、「HC染料、塩基性染料は皮膚汚着性が少なく、毛髪損傷もない。」との記載を根拠として、皮膚染着性の課題及び効果は、常識的なものであることを主張している(申立人Bの申立書の34頁16?20行)。
しかし、染毛料組成物において、塩基性染料等の直接染料の含有量の増加による染毛力の向上と、皮膚への染着(地肌汚れ)の改善という、二律背反の課題があること自体は、上記1(1)で確認したように、本件優先日前の技術常識であって、これらの染料の皮膚への染着の程度を確認することも、当業者が通常行うことであるといえたとしても、「HC黄4及びHC黄2からなる群より選ばれる1以上の染料」である「成分D」を「0.01?0.5質量%」の量で含有するものとし、「HC青2」である「成分C」の含有量を「0.1?1.5質量%」とし、「成分A」及び「成分B」も、それぞれ本件発明1で特定する範囲の量で併用する、という手段を採用することにより、上記ウで説示したように、(a)「十分に優れた毛髪に対する染色性を有する」とともに、(b)「皮膚への染着性が低く、使用時の指や頭皮の着色が極めて少ない」という効果を発揮し、上記の二律背反の課題をともに解決できるということは、申立人Bが提出した証拠に加え、申立人Aが提出した証拠をみても、これらの文献等には記載も示唆もされていないし、そのような技術常識が本件優先日前に存在したとも認められない。

(ウ)
したがって、申立人Bの上記主張は、いずれも採用できない。

オ 本件発明1の甲B1を主引例とする進歩性の判断のまとめ

以上のとおり、本件発明1は、甲B1?甲B6に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明2?6について

本件発明2?6は、いずれも、本件発明1の特定事項を全て備えており、さらに限定された発明である。
そうすると、上記(2)で説示したとおり、本件発明1が、甲B1?甲B6に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのであるから、これと同様の理由により、本件発明1がさらに限定された本件発明2?6についても、甲B1?甲B6に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)申立理由Bについての小括

以上のとおり、本件発明1?6は、甲B1?甲B6に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、本件請求項1?6に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当しないから、申立理由Bによって取り消されるべきものではない。

5 申立理由A3(サポート要件違反)について

(1)検討の前提

特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以上のことを前提として、本件発明1?6に係る本件請求項1?6の記載が、サポート要件を満たすか否か、以下、検討する。

(2)本件発明の解決すべき課題の認定

本件明細書の【0003】?【0004】には、背景技術として、塩基性染料やHC染料を用いた染毛料が知られており、その中でも、カラーリンスやカラートリートメントは、簡便性に優れ、染色の均一性にも優れるという利点がある一方で、これらの染毛料には、皮膚に付着した場合に皮膚に色がつきやすい欠点があるところ、指先や頭皮の着色を抑制するために、染毛料中の染料濃度を低くすると、毛髪に対する染色性が低下することから、毛髪に対する染色性は高く、皮膚への染着性は抑えられた染毛料が求められていることが記載されている。

これを踏まえて、本件明細書(特に【0007】)の記載及び本件請求項1?6の記載を併せみると、本件発明1?6の解決すべき課題は、いずれも共通して、
「(a)毛髪に対する十分な染色性を有するにもかかわらず、(b)皮膚への染着性は抑えられた染毛料組成物を提供すること」
であると認められる。

そこで、上記の課題を解決できると当業者が認識できるか否かという観点から、本件請求項1?6の記載と、本件明細書の発明の詳細な説明の記載との対応関係について、以下、検討する。

(3)課題解決の認識について

上記2(2)ウ(ウ)で述べたとおり、本件明細書の【0015】には、本件発明の染毛料組成物による効果として、(a)「十分に優れた毛髪に対する染色性を有する」とともに、(b)「皮膚への染着性が低く、使用時の指や頭皮の着色が極めて少ない」ことが記載されており、当該効果は、上記(2)で認定した本件発明1?6の課題に対応するものである。

そして、上記2(2)ウ(ウ)?(エ)で述べたとおり、上記(a)及び(b)の効果については、本件明細書の【0081】?【0105】に記載されている本件発明の実施例の染毛料組成物に対して行った評価試験の結果により具体的に裏付けられている。

すなわち、【0096】【表1】に記載された「実施例1-1」?「実施例1-22」の染毛料組成物は、それぞれ「成分A」?「成分D」に該当する染料成分が様々な量で配合されているが、いずれも本件発明1の特定事項を全て備えるものであり、各染料成分の含有量の範囲の条件も全て満たしているところ、「染色性」の評価結果をみると、「成分A」の含有量が0.01質量%であり比較的少ない「実施例1-5」及び「実施例1-10」の組成では、「○(良好):十分に染色されている」であるが、それら以外の実施例の組成物では、全て「◎(優れる):非常に濃く染色されている」であり、「皮膚汚れ」の評価結果は、「成分A」の含有量が0.2質量%又は0.15質量%であり比較的多い「実施例1-4」、「実施例1-9」、「実施例1-21」及び「実施例1-22」の組成物では、「○(良好):皮膚汚れが僅かに残る」であるが、それら以外の実施例の組成物では、全て「◎(優れる):皮膚汚れが全く残らない」とされている。

また、上記の「実施例1-1」?「実施例1-22」の染毛料組成物は、その成分組成及び色調からみて、いずれも本件発明2、4?6の特定事項を全て備えており、「実施例1-12」及び「実施例1-19」以外の染毛料組成物は、いずれも本件発明3の特定事項も全て備えている。

したがって、本件発明1?6は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、当業者が上記(2)で認定した本件発明1?6の課題を解決できると認識できるものである。

(4)申立人Aの主張について

ア 申立人Aの主張

申立人Aは、申立理由A3(サポート要件違反)について、以下の(ア)?(エ)の主張をしている。

(ア)「成分A」?「成分D」以外の染料の含有について

本件明細書に記載された「比較例1-9」の染毛料組成物は、「成分A:ベーシックブルー124」に代えて、「塩基性青75」を使用しているが、その「皮膚汚れ」の評価結果は「×(不良)」となっている。
塩基性染料を増量すると、皮膚汚れが増えることは、本件出願日前の技術常識であるから(例えば、甲A4=甲B2の【0006】を参照。)、「比較例1-9」の染毛料組成物に対して、「ベーシックブルー124」を「0.05?0.5質量%」添加しても、皮膚汚れが改善しないことは明らかであり、本件発明の効果を奏するものではない。
一方で、本件特許請求の範囲には、例えば、「塩基性青75」のように、「成分A」?「成分D」以外の染料を含有するものが除外されていないことから、本件発明の効果を奏しない染毛料組成物を含んでいる。
(申立人Aの申立書の23頁6?17行)。

(イ)「成分A」、「成分B」及び「成分D」の上限値・下限値について

本件請求項1に記載の「成分A」の含有量は、「0.005?0.5質量%」であるのに対し、実施例における「成分A」の下限値は「0.01質量%」(「実施例1-5」)であり、上限値は「0.2質量%」(「実施例1-4」)である。(当審注:「実施例1-10」も、「成分A」の含有量は下限値の「0.01質量%」である。)
本件請求項1に記載の「成分B」の含有量は、「0.005?1.5質量%」であるのに対し、実施例における「成分B」の下限値は「0.01質量%」(「実施例1-5」)であり、上限値は「0.7質量%」(「実施例1-22」)である。
本件請求項1に記載の「成分D」の含有量は、「0.01?0.5質量%」であるのに対し、実施例における「成分D」の下限値は「0.01質量%」(「実施例1-14」)であり、上限値は「0.2質量%」(「実施例1-21」及び「実施例1-22」)である。(当審注:「実施例1-16」及び「実施例1-20」も、「成分D」の含有量は下限値の「0.01質量%」である。)
「塩基性染料」や「HC染料」の含有量を少なくすれば染毛性が低下し、これらを多くすれば皮膚汚れが生じることは、本件出願日前の技術常識である(例えば、甲A4=甲B2の【0006】を参照。)。
そうすると、「成分A」、「成分B」及び「成分D」の含有量について、実施例で確認された下限値及び上限値の範囲を、本件請求項1に記載の範囲まで拡張ないし一般化できるとは認められない。
(申立人Aの申立書の23頁18行?24頁8行)。

(ウ)染料の含有量の総量について

本件請求項1に記載の「成分A」?「成分D」の含有量の総量は、それぞれが下限値となる場合には、「0.12質量%」である(「成分A」が「0.005質量%」、「成分B」が「0.005質量%」、「成分C」が「0.1質量%」、「成分D」が「0.01質量%」)。
上記含有量の総量が、それぞれ上限値となる場合には、「4.0質量%」である(「成分A」が「0.5質量%」、「成分B」が「1.5質量%」、「成分C」が「1.5質量%」、「成分D」が「0.5質量%」)。
また、本件請求項1に記載の染毛料組成物は、「成分A」?「成分D」以外の染料成分を含まない、という特定もされていない。
一方、実施例では、「成分A」?「成分D」の含有量の総量の下限値は、「0.21質量%」(「実施例1-18」)であり、同含有量の総量の上限値は、「2.55質量%」(「実施例1-22」)である。(当審注:「実施例1-18」は「実施例1-16」の誤記と解される。)
「塩基性染料」や「HC染料」の含有量を少なくすれば染毛性が低下し、これらを多くすれば皮膚汚れが生じることは、本件出願日前の技術常識であるから、染料の含有量の総量がどの程度であっても、「染色性」や「皮膚汚れ」が優れる染毛料組成物が得られるということはあり得ない。
本件請求項1?6に記載された発明は、染料の含有量の総量が特定されていないから、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていない。
(申立人Aの申立書の24頁9?25頁2行)。

(エ)[成分B/成分A]、[成分D/成分C]及び[成分C/成分A]
の質量割合について

本件請求項2に記載の質量割合[成分B/成分A]は、「0.1?10.0」であるのに対し、実施例における同割合の下限値は「0.4」(「実施例1-8」)であり、上限値は「6.4」(「実施例1-7」)である。(当審注:「実施例1-3」も、同割合は下限値の「0.4」である。)
本件請求項2に記載の質量割合[成分D/成分C]は、「0.005?1.0」であるのに対し、実施例における同割合の下限値は「0.02」(「実施例1-14」)であり、上限値は「0.3」(「実施例1-13」)である。
本件請求項2に記載の質量割合[成分C/成分A]は、「1.5?70.0」であるのに対し、実施例における同割合の下限値は「1.7」(「実施例1-20」)であり、上限値は「50.0」(「実施例1-5」)である。(当審注:「実施例1-10」も、同割合は上限値の「50.0」である。)
「塩基性染料」や「HC染料」の種類によって染毛性や皮膚汚れが異なることは、本件出願日前の周知技術であり、染毛料組成物の「染毛性」や「皮膚汚れ」の評価は、各種染料成分の質量比のバランスによって決定されることは自明である。
してみると、上記各質量割合について、実施例で確認された下限値及び上限値の範囲を、本件請求項2に記載の範囲まで拡張ないし一般化できるとは認められない。
(申立人Aの申立書の25頁3?18行)。

イ 申立人Aの主張に対する当審の判断

(ア)申立人Aの主張(ア)について

本件発明1?6は、「成分A」?「成分D」以外の染料成分をも含有する染毛料組成物を除外するものではないが、本件明細書には、例えば、「塩基性青75」を含有する「比較例1-9」の染毛料組成物に、さらに「成分A:ベーシックブルー124」を追加したような染毛料組成物が、本件発明の態様として記載されているわけではない。
そして、「皮膚汚れ」の評価結果が「×(不良)」であることが既に確認された染毛料組成物に対して、さらに「成分A」を追加しても、本件発明の課題を解決できないことは明らかであるから、そのような本件発明の課題の解決を明らかに妨げるような恣意的な染料の選択や組成とした態様の染毛料組成物は、本件発明には該当しないものと解するのが自然である。
また、当業者ならば、本件明細書において実際に本件発明の課題の解決の当否を認識できるように記載されている実施例及び比較例を参照することによって、当該課題を解決し得る種々の態様の本件発明の染毛料組成物を構成できることを理解し得るといえる。
したがって、申立人Aの上記主張(ア)は採用できない。

(イ)申立人Aの主張(イ)について

本件明細書の【0024】、【0033】、【0038】、【0041】には、本件発明における「成分A」?「成分D」の各上限値及び各下限値の技術的な意義が記載されており、例えば、【0024】には、「成分A」の含有量について、
「上記含有量が0.005質量%以上であると、毛髪に対する染色性、特に白髪を染色する効果が向上するため好ましい。」
及び
「上記含有量が0.5質量%以下であると、安全性がより一層向上するため好ましい。また、水洗後に水に溶けだした染料によるタオルや衣服等への色移りがより一層抑制されるため好ましい。」
と記載されている。

これらの記載に接した当業者は、本件請求項1で規定された「成分A」?「成分D」の各含有量の範囲内において、本件発明の染毛料組成物は、上記(2)で認定した、
「(a)毛髪に対する十分な染色性を有するにもかかわらず、(b)皮膚への染着性は抑えられた染毛料組成物を提供すること」
という本件発明の課題を解決できる蓋然性があるものと認識するといえる。

次に、本件明細書に記載された22の実施例の染毛料組成物のうち、申立人Aが指摘する「成分A」、「成分B」及び「成分D」のいずれかの含有量が実施例の中で下限値又は上限値であるものについて、「染色性」又は「皮膚汚れ」の評価結果をみると、いずれも少なくとも「○(良好)」とされている。

本件請求項1に記載された「成分A」?「成分D」の含有量の下限値及び上限値は、実施例における「成分A」?「成分D」の含有量の下限値及び上限値とそれぞれ比較すると、その差異は最大でも2.5倍に留まる。
具体的には、
・実施例の「成分A」の下限値「0.01質量%」(「実施例1-5」及び「実施例1-10」)は、本件請求項1に記載の「成分A」の下限値「0.005質量%」の2倍である。
・本件請求項1に記載の「成分A」の上限値「0.5質量%」は、実施例の「成分A」の上限値「0.2質量%」(「実施例1-4」)の2.5倍である。
・実施例の「成分B」の下限値「0.01質量%」(「実施例1-5」)は、本件請求項1に記載の「成分B」の下限値「0.005質量%」の2倍である。
・本件請求項1に記載の「成分B」の上限値「1.5質量%」は、実施例の「成分B」の上限値「0.7質量%」(「実施例1-22」)の約2.14倍である。
・実施例の「成分C」の下限値「0.1質量%」(「実施例1-16」及び「実施例1-20」)は、本件請求項1に記載の「成分B」の下限値「0.1質量%」と同じである。
・本件請求項1に記載の「成分C」の上限値「1.5質量%」は、実施例の「成分C」の上限値「1.5質量%」(「実施例1-15」、「実施例1-21」及び「実施例1-22」)と同じである。
・実施例の「成分D」の下限値「0.01質量%」(「実施例1-14」、「実施例1-16」及び「実施例1-20」)は、本件請求項1に記載の「成分D」の下限値「0.01質量%」と同じである。
・本件請求項1に記載の「成分D」の上限値「0.5質量%」は、実施例の「成分D」の上限値「0.2質量%」(「実施例1-21」及び「実施例1-22」)の2.5倍である。

ここで、染毛料組成物において、「塩基性染料」や「HC染料」等の直接染料の含有量を少なくすれば「染毛性」が低下する一方で、これらの含有量を多くすれば「皮膚汚れ」の懸念が生じることは、上記1(2)で確認したように、本件出願前の技術常識であるといえる。

しかしながら、例えば、上記の実施例のうち、「成分A」が下限値「0.01質量%」である「実施例1-5」及び「実施例1-10」の組成物は、「染色性」の評価結果が「○(良好)」であるところ、この「成分A」の含有量を、本件請求項1に記載の下限値「0.005質量%」まで減じても、その差異は1/2倍にすぎず、直ちに毛髪に対する十分な染色性を有しないものになると推定し得る根拠は見出せない。
また、上記の実施例のうち、「成分A」が上限値「0.2質量%」である「実施例1-4」の組成物は、「皮膚汚れ」の評価結果が「○(良好)」であるところ、この「成分A」の含有量を、本件請求項1に記載の上限値「0.5質量%」まで増やしても、その差異は2.5倍にすぎず、直ちに皮膚への染着性が抑えられないものになると推定し得る根拠は見出せない。
これらの点は、「成分B」及び「成分D」の下限値及び上限値についても同様である。

なお、本件発明の課題の解決を明らかに妨げるような恣意的な染料の選択や組成とした態様の染毛料組成物は、本件発明には該当しないものと解するのが自然であることは、上記(ア)で説示したとおりである。

そうすると、当業者は、「成分A」、「成分B」及び「成分D」のいずれかの含有量が本件請求項1に記載の下限値又は上限値である本件発明の染毛料組成物についても、上記(2)で認定した本件発明の課題を解決することができると認識するものといえる。

したがって、申立人Aの上記主張(イ)は採用できない。

(ウ)申立人Aの主張(ウ)について

上記(イ)の説示のとおり、本件明細書の【0024】、【0033】、【0038】、【0041】に記載された、本件発明における「成分A」?「成分D」の各上限値及び各下限値の技術的な意義に接した当業者ならば、本件請求項1で規定された「成分A」?「成分D」の各含有量の範囲内において、本件発明の染毛料組成物は、上記(2)で認定した本件発明の課題を解決できる蓋然性があるものと認識するといえる。

また、本件明細書に記載された実施例の染毛料組成物のうち、申立人Aが指摘する「成分A」?「成分D」の含有量の総量が、実施例中で最低値又は最高値であるものは、「染色性」又は「皮膚汚れ」の評価結果が、いずれも少なくとも「○(良好)」である。

本件請求項1?6には、染毛料組成物における「成分A」?「成分D」を含む染料成分の含有量の総量についての特定はないものの、当業者ならば、本件明細書において実際に本件発明の課題の解決の当否を認識できるように記載されている実施例及び比較例を参照することにより、「成分A」?「成分D」の各含有量について、それぞれ規定された上限値と下限値の間の範囲内において、同様に当該課題を解決できるように、適宜、設定し得るというべきである。

なお、本件発明の課題の解決を明らかに妨げるような恣意的な染料の選択や組成とした態様の染毛料組成物は、本件発明には該当しないものと解するのが自然であることは、上記(ア)で説示したとおりである。

したがって、申立人Aの上記主張(ウ)は採用できない。

(エ)申立人Aの主張(エ)について

本件明細書の【0044】?【0046】には、本件発明における染料の質量割合[成分B/成分A]、[成分D/成分C]及び[成分C/成分A]について、それぞれの技術的な意義が記載されている。

同【0044】には、質量割合[成分B/成分A]について、
「0.1?10.0であることが好ましく、・・・。上記質量割合を上記範囲内とすることにより、特に白髪をより自然な色調に染めることができる。上記質量割合が0.1未満では、毛髪に染着した色調が青色になり、上記質量割合が10.0を超えると毛髪に染着した色調が赤色になり、特に白髪染めにおいて不自然な色調となる場合がある。」
と記載されており、同【0045】には、質量割合[成分D/成分C]について、
「0.005?1.0であることが好ましく、・・・。上記質量割合を上記範囲内とすることにより、特に白髪をより自然な色調に染めることができる。上記質量割合が0.005未満では、毛髪に染着した色調が紫色になり、上記質量割合が1.0を超えると毛髪に染着した色調が黄色になり、特に白髪染めにおいて不自然な色調となる場合がある。」
と記載されていることから、上記質量割合[成分B/成分A]及び[成分D/成分C]は、特に白髪をより自然な色調に染めるための条件を示したものであることが理解できる。

また、同【0046】には、質量割合[成分C/成分A]について、
「1.5?70.0であることが好ましく、・・・。上記質量割合が、1.5以上であると、染色速度を適切に調節でき、ブリーチ処理された毛等のダメージ毛に対する色ムラが生じにくくなる。一方、上記質量割合が、70.0以下であると、染色性と色持ちに優れるため好ましい。」
と記載されていることから、上記質量割合[成分C/成分A]は、染色速度を適切に調節してダメージ毛に対する色ムラが生じにくくし、染色性と色持ちを向上させるための条件を示したものであることが理解できる。

そうすると、上記【0044】?【0046】の記載に接した当業者は、本件請求項2で規定された染料の質量割合[成分B/成分A]、[成分D/成分C]及び[成分C/成分A]の範囲内で、本件発明の染毛料組成物は、上記(2)で認定した本件発明の課題を、特に白髪染めやダメージ毛の染毛の態様等においても、解決できる蓋然性があるものと認識するといえる。

本件明細書に記載された実施例の染毛料組成物のうち、申立人Aが指摘する染料の質量割合[成分B/成分A]、[成分D/成分C]又は[成分C/成分A]が、実施例の中で下限値又は上限値であるものは、「染色性」又は「皮膚汚れ」の評価結果が、いずれも少なくとも「○(良好)」である。

そして、上述したとおり、本件請求項2で規定された染料の質量割合[成分B/成分A]、[成分D/成分C]及び[成分C/成分A]は、本件発明のうち、特に白髪染めやダメージ毛の染毛の態様等における、より適切な条件を示したものにすぎないし、本件発明の課題の解決を明らかに妨げるような恣意的な染料の選択や組成とした態様の染毛料組成物は、本件発明には該当しないものと解するのが自然であることは、上記(ア)で説示したとおりである。

そうすると、当業者は、染料の質量割合[成分B/成分A]、[成分D/成分C]及び[成分C/成分A]が、本件請求項2で規定する条件を満たす本件発明の染毛料組成物について、上記(2)で認定した本件発明の課題を解決することができると認識するものといえる。

したがって、申立人Aの上記主張(エ)は採用できない。

(5)申立理由A3についての小括

以上のとおり、本件発明1?6は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるから、本件請求項1?6の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。
よって、本件請求項1?6に係る発明についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず、同法第113条第4号に該当しないから、申立理由A3によって取り消されるべきものではない。

第7 むすび

以上のとおりであるから、申立人A及び申立人Bによる特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、その他に本件請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、特許法第114条第4項の規定により、本件請求項1?6に係る特許について、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-10-04 
出願番号 特願2019-509234(P2019-509234)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61K)
P 1 651・ 537- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松井 一泰  
特許庁審判長 森井 隆信
特許庁審判官 進士 千尋
井上 典之
登録日 2020-11-26 
登録番号 特許第6800313号(P6800313)
権利者 株式会社マンダム
発明の名称 染毛料組成物  
代理人 特許業務法人後藤特許事務所  

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