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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C22C
管理番号 1378780
異議申立番号 異議2021-700636  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-11-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-07-06 
確定日 2021-10-14 
異議申立件数
事件の表示 特許第6807038号発明「メタルマスク用素材およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6807038号の請求項1?10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6807038(請求項の数10。以下,「本件特許」という。)は,2017年(平成29年)8月31日(優先権主張:平成28年8月31日)を国際出願日とする特許出願(特願2018-537394号)に係るものであって,令和2年12月9日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は,令和3年1月6日である。)。
その後,令和3年7月6日に,本件特許の請求項1?10に係る特許に対して,特許異議申立人である上原洋子(以下,「申立人」という。)により,特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?10に係る発明は,本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,順に「本件発明1」?「本件発明10」といい,これらを総合して「本件発明」という。また,本件特許の願書に添付した明細書を以下,「本件明細書」という。)。

【請求項1】
質量%で、C:0.01%以下、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下、Ni:30?50%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなるメタルマスク用素材であって、
前記メタルマスク用素材は、圧延方向における表面粗さと圧延方向と直交する方向における表面粗さとがともに、0.05μm≦Ra≦0.25μm、0.3μm≦Rz≦1.5μm、スキューネスRskが0未満であり、
前記メタルマスク用素材から長さ150mm、幅30mmの試料を切り出し、前記試料を片側からエッチングし、前記試料の板厚の60%を除去したときの反り量が15mm以下であり、板厚が0.01mm以上0.10mm未満であるメタルマスク用素材。
【請求項2】
前記スキューネスRskが-3.0以上である、請求項1に記載のメタルマスク用素材。
【請求項3】
前記メタルマスク用素材の圧延方向におけるスキューネスRskと圧延方向と直交する方向におけるスキューネスRskとの差が0.7以下である、請求項1または2に記載のメタルマスク用素材。
【請求項4】
前記メタルマスク用素材の圧延方向における表面粗さRaと圧延方向と直交する方向における表面粗さRaとの差が0.02μm未満である、請求項1?3のいずれかに記載のメタルマスク用素材。
【請求項5】
前記メタルマスク用素材から長さ150mm、幅30mmの試料を切り出し、前記試料を片側からエッチングし、前記試料の板厚の20%、30%、50%のいずれかを除去したときの反り量が15mm以下であることを特徴とする、請求項1?4のいずれかに記載のメタルマスク用素材。
【請求項6】
質量%で、C:0.01%以下、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下、Ni:30?50%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる冷間圧延用素材を冷間圧延してメタルマスク用素材を得るメタルマスク用素材の製造方法であって、
前記冷間圧延用素材に対する仕上冷間圧延工程における最終パスの条件が、圧下率:35%以下、圧延ロールの噛み込み角:1.0°未満であり、
前記メタルマスク用素材は、圧延方向における表面粗さと圧延方向と直交する方向における表面粗さとがともに、0.05μm≦Ra≦0.25μm、0.3μm≦Rz≦1.5μm、スキューネスRskが0未満であるとともに、
前記メタルマスク用素材から長さ150mm、幅30mmの試料を切り出し、前記試料を片側からエッチングし、前記試料の板厚の60%を除去したときの反り量が15mm以下であり、
仕上冷間圧延後の素材の板厚が0.01mm以上0.10mm未満であることを特徴とするメタルマスク用素材の製造方法。
【請求項7】
前記圧延ロールの噛み込み角が0.4°未満である、請求項6に記載のメタルマスク用素材の製造方法。
【請求項8】
前記仕上冷間圧延工程における最終パスの圧下率が15%以下である、請求項6または7に記載のメタルマスク用素材の製造方法。
【請求項9】
前記仕上冷間圧延工程の最終パスに用いるロールの円周方向と直交する方向の表面粗さRaが0.05?0.25μmである、請求項6?8のいずれかに記載のメタルマスク用素材の製造方法。
【請求項10】
前記仕上冷間圧延工程の圧延速度が60m/min以上である、請求項6?9のいずれかに記載のメタルマスク用素材の製造方法。

第3 特許異議の申立ての理由の概要
本件特許の請求項1?10に係る特許は,下記1?2のとおり,特許法第113条第2号及び第4号に該当する。証拠方法は甲第1号証?甲第4号証(以下,単に「甲1」等という。下記3を参照。)である。

1 申立理由1(サポート要件)
本件発明1?10については,特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから,本件特許の請求項1?10に係る特許は,同法第113条第4号に該当する。

2 申立理由2(進歩性)
本件発明1?10は,甲1に記載された発明,甲2に記載された事項及び周知技術(例えば,甲3?4)に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1?10に係る特許は,同法第113条第2号に該当する。

3 証拠方法

・甲1 特開2010-214447号公報
・甲2 特開平2-25201号公報
・甲3 特開2015-167953号公報
・甲4 特開平5-301号公報

第4 当審の判断
次に述べるように,特許異議申立書(以下,「申立書」という。)に記載した特許異議の申立ての理由によっては本件特許の請求項1?10に係る特許を取り消すことはできない。

1 申立理由1(サポート要件)
(1)検討
本件明細書の記載(【0004】)によれば,本件発明の課題は,多様な深さのハーフエッチングでもエッチング後の形状変化を抑制するとともに,さらに良好なエッチング性を有するメタルマスク素材とその製造方法を提供することであると認められる。
そして,本件明細書の記載(【0005】?【0006】,【0008】?【0012】,【0019】?【0026】,特に,【0010】?【0011】にRa,Rz及びRskの各数値範囲について,エッチング等に関する作用機序が開示されている。),本件明細書の【0003】?【0004】に記載された先行技術文献の開示内容を考慮すれば,上記課題は,メタルマスク用素材において,「質量%で、C:0.01%以下、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下、Ni:30?50%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる」ものとし,圧延方向における表面粗さと圧延方向と直交する方向における表面粗さを「ともに、0.05μm≦Ra≦0.25μm、0.3μm≦Rz≦1.5μm、スキューネスRskが0未満」とし,「前記メタルマスク用素材から長さ150mm、幅30mmの試料を切り出し、前記試料を片側からエッチングし、前記試料の板厚の60%を除去したときの反り量が15mm以下」とし,板厚を「0.01mm以上0.10mm未満」とすることによって,解決できることが理解できる。
そうすると,本件明細書の記載を総合すれば,上記の各要件を備える本件発明1?10は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであり,当業者が,出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により上記課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。
したがって,本件発明1?10については,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものである。

(2)サポート要件に関する申立人の主張(その1)の要旨
申立人は,本件発明1?10について,申立理由1(サポート要件)の(その1)として,
「発明の詳細な説明において,ハーフエッチング後の形状変化が抑制されていると確認されている具体的なメタルマスク用素材が、
・包括的な請求項1の範囲に含まれる素材のうち僅か2つしか示されておらず,
・またそれら素材の成分も表面粗度も近接類似したものであり,
・さらに比較例の開示がないことから,
表面粗度とハーフエッチング後の変形抑制との因果関係がまったく不明であり,当業者にとって,本件特許出願時の技術常識に照らしても,本件発明1?10の範囲内であれば課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例または説明が記載されていない。そのため,本件発明1?10の範囲まで,発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとは言えない。」との旨を主張する(なお,下線は当審が付与。)。
(申立書の第8頁の「理由の要点」の欄の(1)(その1),並びに,第13?30頁の(4-2)ア(a)?(d)及びイ?キを参照。)

(3)サポート要件に関する申立人の主張(その2)の要旨
申立人は,本件発明1?10について,申立理由1(サポート要件)の(その2)として,
「発明の詳細な説明において,ハーフエッチングにより板厚の50%除去したときが最も大きな反りが発生し易いと説明しながら,板厚の60%除去した場合での反り量が15mm以下のものを発明範囲として規定している。よって,メタルマスク用素材に課せられたハーフエッチング後の変形抑制という課題を解決しているかどうかは疑問が残ることから,当業者にとって,本件特許出願時の技術常識に照らしても,本件発明1?10の範囲内であれば課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例または説明が記載されていない。そのため,本件発明1?10の範囲まで,発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとは言えない。」との旨を主張する。
(申立書の第8?9頁の「理由の要点」の欄の(1)(その2),並びに,第13?30頁の(4-2)ア(a)?(c),(e)及びイ?キを参照。)

(4)申立人の上記主張(その1)について
上記(2)の申立人の主張について,以下に検討する。

ア 本件明細書の【0019】?【0023】に,実施例1として,試料No.1及び試料No.2のメタルマスク用素材及びその製造方法が,それぞれ,記載されている。

イ 本件明細書の【0021】?【0022】の記載等から,上記試料No.1,2のメタルマスク用素材(以下,単に「試料No.1」等という。)は,「前記メタルマスク用素材から長さ150mm、幅30mmの試料を切り出し、前記試料を片側からエッチングし、前記試料の板厚の60%を除去したときの反り量」がそれぞれ「3mm」,「10mm」であるといえる。

ウ 本件明細書の【0019】?【0022】の上記試料No.1?2についての記載を本件発明1の各発明特定事項に照らすと,上記試料No.1?2はいずれも本件発明1の全発明特定事項の要件を充足するので,本件発明1の範囲内のメタルマスク用素材の例であるといえる。

エ 申立人が上記(2)で指摘するように,確かに本件明細書には比較例が開示されておらず,すなわち,「表面粗度とハーフエッチング後の変形抑制との因果関係」について実験的な観点から理解の一助となり得る,上記試料No.1?2(本件発明1の範囲内の例)に対する比較対象(本件発明1の範囲外の例)が本件明細書には明示されていない。

オ しかしながら,以下(ア)?(オ)のとおり,本件明細書に「特許文献1」として記載された特開2010-214447号公報の【0017】?【0025】の「本発明」のメタルマスク用素材を上記試料No.1及び2と比較することで「表面粗度とハーフエッチング後の変形抑制との因果関係」の理解の一助となり,さらに,実施例の記載を含めて,本件明細書の記載等を総合すれば,本件発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって,当業者が,出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により,本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものということができることは,上記(1)のとおりである。
本件発明2?10について検討しても同様である。
よって,申立人の上記(2)の主張を採用することができない。

(ア)本件明細書には,次の記載がある。

「【0003】
【特許文献1】特開2010-214447号公報
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、圧延方向と直角方向に測定した表面粗さRaと、圧延方向に測定した表面粗さRaとをそれぞれ調整することでエッチング特性を向上させ・・・た発明である。しかし、より高精彩な有機ELディスプレイを作製するために、使用するマスクにもより高精度なパターン形成が必要であり、それに伴いメタルマスク用素材もさらなるエッチング性の向上が求められている。一方で素材内の残留応力に関しても、多様な深さのハーフエッチングでも反り等の変形が出ないように調整することが望ましい。本発明の目的は、エッチング後の形状変化を抑制するとともに、さらに良好なエッチング性を有するメタルマスク用素材とその製造方法を提供することである。」

(イ)上記特許文献1,すなわち,特開2010-214447号公報の【0017】?【0026】には,実施例として,条件B(【0017】?【0020】を参照。)と同じロールを用いて,圧延速度を1.3m/s(=78m/min)にした「本発明」が記載されており,上記特許文献1の【0025】に上記「本発明」の反り量が「12mm」である旨が記載されている。

(ウ)本件明細書の【0019】?【0022】に記載されている上記試料No.1?2の製造方法,製造物及び反り量の評価方法と,上記特許文献1の【0017】?【0025】に記載されている上記「本発明」のメタルマスク用素材の製造方法,製造物及び反り量の評価方法を比較すると,上記特許文献1には,上記「本発明」のメタルマスク用素材のRz,Rskが記載されていないものの,全体として両者は類似しているといえる。

(エ)そして,以下(オ)のとおり,Rz及びRskがそれぞれ特定の数値である上記試料No.1,2の上記反り量と,Rz及びRskの観点が記載されていない上記特許文献1の上記「本発明」のメタルマスク用素材の反り量とを比較することによって,「表面粗度とハーフエッチング後の変形抑制との因果関係」を推認することができる。

(オ)すなわち,Rz及びRskがそれぞれ特定の数値である上記試料No.1,2の上記反り量は,それぞれ「3mm」,「10mm」であるのに対し,Rz及びRskの観点が記載されていない上記「本発明」のメタルマスク用素材の反り量「12mm」であることから,Rz,Rskを,それぞれ上記試料No.1?2の特定の数値又はその周辺の数値範囲にすることによって,Rz,Rskに着目せず,数値範囲を限定しない場合に比べ,メタルマスク用素材のハーフエッチング後の変形がさらに抑制されることが推認できる。

(5)申立人の上記主張(その2)について
上記(3)の申立人の主張について,以下に検討する。

ア 上記(4)イのとおり,上記試料No.1,2は,各試料の板厚の60%を除去したときの上記反り量が,それぞれ「3mm」,「10mm」である。

イ 本件明細書の【0024】?【0025】には,実施例2として,エッチングの除去量を20%,30%,50%にそれぞれ変更した以外は試料No.1と同様である試料No.3?5のメタルマスク用素材(以下,単に「試料No.3」等という。)の反り量がいずれの除去量の場合も「3mm」である旨が記載されている。

ウ 上記試料No.1?2は,上記(4)ウのとおり,本件発明1の範囲内のメタルマスク用素材の例であるといえる。

エ 試料No.3?5は,エッチングの除去量を,20%,30%,50%にそれぞれ変更した以外は試料No.1と同様の試料であるから,エッチングの除去量を60%にして上記反り量を測定した場合には,当然に「3mm」になるといえ,そして,上記試料No.3?5は,本件発明1の各発明特定事項の記載に照らすと,本件発明1の全発明特定事項の要件を充足しているので本件発明1の範囲内のメタルマスク用素材の例であるといえる。

オ 上記ア?エから,本件発明1の範囲内の例を対象として,エッチングの除去量を,それぞれ60%,20%,30%,50%と変化させて,多様な深さのハーフエッチングで,エッチング後の形状変化を抑制することが確認されているといえ,さらに,実施例の記載を含めて,本件明細書の記載等を総合すれば,本件発明1は本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって,当業者が,出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものということができることは,上記(1)のとおりである。

カ 上記オのとおり,本件明細書には,本件発明1において,多様な深さのハーフエッチングでもエッチング後の形状変化を抑制することを十分に推認できる程度の実施例等が記載されており,申立人が説示するように,ハーフエッチングにより板厚の50%除去したときが最も大きな反りが発生し易いとしても,それによって,上記実施例1?2の結果に合理的な疑義が生じるとまではいえず,申立人の主張には,その他の上記結果に合理的な疑義が生じるといえるに足る具体的な理由もない。

キ 本件発明2?10について検討しても同様である。

ク よって,申立人の上記(3)の主張を採用することができない。

(6)まとめ
以上(4)?(5)のとおり,申立人の申立理由1(サポート要件)に関する(その1)及び(その2)の主張は,いずれも採用することができず,上記(1)のとおり,本件発明1?10については,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものである。

2 申立理由2(進歩性)
(1)甲1に記載された発明
甲1の記載(請求項2,【0002】,【0017】?【0020】,【0023】?【0026】)によれば,特に実施例の条件Bに着目すると,甲1には以下の発明が記載されていると認められる。

「質量%で,C:0.004%,Si:0.023%,Mn:0.24%,Ni:35.95%を含有し,残部がFe及び不可避的不純物からなるメタルマスク用素材であって,
前記メタルマスク用素材は,圧延方向と直角方向に測定した表面粗さが,表面,裏面ともにRa:0.13μmであり,圧延方向に測定した表面粗さが,表面でRa:0.08μm,裏面でRa=0.10又は0.09μmであり,
前記メタルマスク用素材から長さ150mm,幅30mmのカットサンプルを作成し,前記カットサンプル片面のみを板厚が1/3程度となるようにエッチングにより除去したときの反り量が12mmであり,板厚が0.050mmであるメタルマスク用素材。」(以下,「甲1発明」という。)

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の板厚及びC,Si,Mn,Niの質量%の各数値は,いずれも本件発明1の板厚及び上記各元素の質量%の各数値範囲内であるから,甲1発明の「板厚が0.050mmである」「質量%で,C:0.004%,Si:0.023%,Mn:0.24%,Ni:35.95%を含有し,残部がFe及び不可避的不純物からなるメタルマスク用素材」は,本件発明1の「板厚が0.01mm以上0.10mm未満である」「質量%で、C:0.01%以下、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下、Ni:30?50%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなるメタルマスク用素材」に相当する。

(イ)甲1発明において,「圧延方向と直角方向に測定した表面粗さが,表面,裏面ともにRa:0.13μm」であり,「圧延方向に測定した表面粗さが,表面でRa:0.08μm,裏面でRa=0.10又は0.09μm」であるから,本件発明1における「圧延方向における表面粗さと圧延方向と直交する方向における表面粗さとがともに、0.05μm≦Ra≦0.25μm」という発明特定事項の数値範囲内である。

(ウ)甲1発明における「カットサンプル」は,本件発明1における切り出した「試料」に相当する。

(エ)本件発明1において,「前記メタルマスク用素材から長さ150mm、幅30mmの試料を切り出し、前記試料を片側からエッチングし、前記試料の板厚の60%を除去したときの反り量が15mm以下」であることと,甲1発明において,「前記メタルマスク用素材から長さ150mm,幅30mmのカットサンプルを作成し,前記カットサンプル片面のみを板厚が1/3程度となるようにエッチングにより除去したときの反り量が12mm」であることとは,いずれも,「前記メタルマスク用素材から長さ150mm、幅30mmの試料を切り出し、前記試料を片側からエッチングし、前記試料の板厚の所定量を除去したときの反り量が15mm以下」である限りにおいて共通する。

(オ)以上によれば,本件発明1と甲1発明とは,
「質量%で、C:0.01%以下、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下、Ni:30?50%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなるメタルマスク用素材であって、
前記メタルマスク用素材は、圧延方向における表面粗さと圧延方向と直交する方向における表面粗さとがともに、0.05μm≦Ra≦0.25μmであり、
前記メタルマスク用素材から長さ150mm、幅30mmの試料を切り出し、前記試料を片側からエッチングし、前記試料の板厚の所定量を除去したときの反り量が15mm以下であり、板厚が0.01mm以上0.10mm未満であるメタルマスク用素材」
の点で一致し,以下の点で相違する。
(なお,仮に,申立人が甲1から認定した「メタルマスク用素材の発明」を本件発明1(申立書の第32?33頁を参照。)と対比したとしても,その際の本件発明1との各相違点は,次の相違点1?3と同旨の内容である。)

・相違点1
本件発明1では,圧延方向における表面粗さと圧延方向と直交する方向における表面粗さがともに「0.3μm≦Rz≦1.5μm」であるのに対し,甲1発明では,Rzが不明である点。

・相違点2
本件発明1では,圧延方向における表面粗さと圧延方向と直交する方向における表面粗さがともに「スキューネスRskが0未満」であるのに対し,甲1発明では,スキューネスRskが不明である点。

・相違点3
前記メタルマスク用素材から長さ150mm,幅30mmの試料を切り出し,前記試料を片側からエッチングする際に,本件発明1では,「前記試料の板厚の60%を除去」しているのに対し,甲1発明では,「板厚が1/3程度となるように除去」している点。

イ 相違点1の検討
事案に鑑み,まず,相違点1について検討する。

(ア)甲1発明は,本件発明と同様に「高精細パターンのエッチング加工が高精度で形成可能とするため、化学組成、表面粗さ、残留応力等のエッチング加工に影響を及ぼす種々の要因について鋭意検討」したものである(甲1の【0005】を参照。)。

(イ)そして,甲1発明は,「最も高精細エッチング加工に影響を及ぼす要因が表面粗さであることを知見」し,「過度に表面粗さを低くすると、オイルピットの影響が強くなり、エッチング時に寸法不良が発生し易く、また、過度に表面粗さを粗くすると、高精細なエッチング加工自体が困難となること」をつきとめている(甲1の【0005】を参照。)。

(ウ)しかしながら,その結果,甲1発明において到達したメタルマスク用素材の表面粗さは,「圧延方向と直角方向に測定した表面粗さが、Ra:0.08?0.20μmであり、圧延方向に測定した表面粗さが、Ra:0.01?0.10μmであり、且つ、圧延方向と直角方向に測定した表面粗さが、圧延方向に測定した表面粗さより、Raで0.02μmを超えて粗い表面粗さを有する」ことであって(甲1の【請求項2】,【0007】,【0012】?【0013】を参照。),本件発明1のように,「0.3μm≦Rz≦1.5μm」とするものではない。

(エ)また,甲1には,上記表面粗さとしてRzが記載されておらず,Rzを制御することについて記載も示唆もない。

(オ)そうすると,甲1発明において,圧延方向における表面粗さRz及び圧延方向と直交する方向における表面粗さRzを制御する動機がない。

(カ)甲2?4にも,甲1発明の圧延方向における表面粗さと圧延方向と直交する方向における表面粗さとをともに,「0.3μm≦Rz≦1.5μm」ようにすることを動機付けるに足る記載は見当たらず,甲2に記載された事項及び周知技術(例えば,甲3?4)を考慮しても,動機付けることができるとはいえない。
以上によれば,甲1発明において,相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは,当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

(キ)したがって,他の相違点について検討するまでもなく,本件発明1は甲1発明,甲2に記載された事項及び周知技術(例えば,甲3?4)に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 相違点1に関する申立人の主張について
(ア)申立人の主張の要旨
申立人は,「相違点1は、Rzに関する事項である。Rzは,本件特許が準拠するJIS B-0601-2001では最大高さを示し、基準長さ毎の最低谷底から最大山頂までの高さで定義されるものである。即ち、突出した疵の有無などを評価する指標であり、極めて局所的な疵などで大きく変化する指標である。よって、対象とするマスク素材全体のエッチング後の変形に影響するものではなく、局所的な疵などの品質上の問題から規定されるものであるのだから、当業者が適宜設定する事項に過ぎない。」と主張する。
(申立書の第34頁の(b)を参照。)

(イ)検討
確かに,RzはJIS B-0601-2001で定義されている。
しかしながら,仮に申立人の主張するように,Rzが,「対象とするマスク素材全体のエッチング後の変形に影響するものではなく、局所的な疵などの品質上の問題から規定されるもの」であったとしても,甲1発明の課題は,「高精細パターンを形成するリードフレームやマスク用途であっても、優れたエッチング加工が可能なエッチング加工用素材の製造方法及びエッチング加工用素材を提供すること」であり(甲1の【0004】を参照。),また,その他の箇所の記載も含め,甲1全体を見てもメタルマスク用素材において局所的な疵などの品質上の問題がある旨は何も記載されていないので,甲1発明においては,局所的な疵などの品質上の問題からRzを規定する動機がない。
そうすると,申立人の主張する観点から検討しても,甲1発明において,相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは,当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
よって,申立人の上記(ア)の主張は採用することができない。

(ウ)予備的見解
なお,仮に,甲1発明において,局所的な疵などの品質上の問題からRzを規定する何らかの動機があるものとして検討しても,以下a?dのとおり「0.3μm≦Rz≦1.5μm」との数値範囲に至るとはいえないので,甲1発明において,相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは,当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
したがって,いずれにせよ,申立人の上記(ア)の主張は採用することができない。

a 本件発明1の「0.3μm≦Rz≦1.5μm」に関して,本件明細書の【0010】には,次の記載がある。

「また上記Raの範囲を満たしていても、Rzが1.5μmを超える場合、素材表面の一部に、粗さ曲線における大きな山部分が形成され、その山部からエッチングが進行してエッチングムラの要因となるため、好ましくない。より好ましいRaの上限は0.13μmであり、より好ましいRzの上限は1.0μmである。Rzの下限は特に限定しないが、Rzが低すぎるとシート状レジストの密着性低下の可能性があるため、Rzの下限を0.3μmに設定すると好ましい。」

b 上記【0010】の当該記載から,本件発明1において,「0.3μm≦Rz≦1.5μm」という数値範囲は,Raが特定の数値範囲であることを前提として,さらに素材表面の一部に,粗さ曲線における大きな山部分が形成され,その山部からエッチングが進行してエッチングムラの要因とならないようにする観点で下限値を規定し,シート状レジストの密着性低下を防止する観点で上限値を規定することによって,見出された数値範囲であって,申立人の主張するような「局所的な疵などの品質上の問題」から規定された数値範囲ではない。

c そして,上記の「局所的な疵などの品質上の問題」を解決する観点から到達する最適なRzが,「0.3μm≦Rz≦1.5μm」という数値範囲である又は当該数値範囲内であると考える根拠となる記載も,甲1?4には,見当たらない。

d よって,甲1発明において,仮に,局所的な疵などの品質上の問題からRzを規定する動機が何らかあるものとして検討してみても,本件発明1の「0.3μm≦Rz≦1.5μm」との数値範囲に到達するとはいえない。

エ 小括
したがって,本件発明1は,甲1に記載された発明,甲2に記載された事項及び周知技術(例えば,甲3?4)に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明2?10について
本件発明2?10は,いずれも本件発明1の発明特定事項を全て含むものであり,少なくとも,甲1発明と,相違点1と同じ相違点で相違しているといえる。
上記(2)で述べたとおり,甲1発明において,相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは当業者が容易になし得たことであるといえず,本件発明1が,甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項及び周知技術(例えば,甲3?4)に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2?10についても,同様に,甲1に記載された発明,甲2に記載された事項及び周知技術(例えば,甲3?4)に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)まとめ
以上から,本件発明1?10は,甲1に記載された発明,甲2に記載された事項及び周知技術(例えば,甲3?4)に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない
したがって,申立理由2(進歩性)によっては本件特許の請求項1?10に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおり,申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては本件特許の請求項1?10に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に,本件特許の請求項1?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-10-06 
出願番号 特願2018-537394(P2018-537394)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C22C)
P 1 651・ 537- Y (C22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 川口 由紀子  
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 井上 猛
祢屋 健太郎
登録日 2020-12-09 
登録番号 特許第6807038号(P6807038)
権利者 日立金属株式会社
発明の名称 メタルマスク用素材およびその製造方法  
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