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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C09C 審判 全部申し立て 2項進歩性 C09C 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C09C |
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管理番号 | 1378782 |
異議申立番号 | 異議2021-700681 |
総通号数 | 263 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-11-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-07-14 |
確定日 | 2021-10-22 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6822651号発明「シリカフィラーの表面処理方法、それにより得られたシリカフィラー、および、該シリカフィラーを含有する樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6822651号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6822651号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成28年9月16日に出願され、令和3年1月12日にその特許権の設定登録がされ、同年同月27日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年7月14日に特許異議申立人金田綾香(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 特許第6822651号の請求項1?5に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明5」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 常温で液体である塩基性物質とシリカフィラーを同一雰囲気中に存在させた状態で、該雰囲気を加熱し前記塩基性物質を気化させることにより、前記シリカフィラー表面に前記塩基性物質を気相で接触させ、前記雰囲気の加熱条件の調節により、前記シリカフィラー表面のpHを4.2?9.7とする1次表面処理を実施した後、該シリカフィラー表面をエポキシ系シランカップリング剤で2次表面処理することを特徴とするシリカフィラーの表面処理方法。 【請求項2】 前記シリカフィラーが、金属シリコンを酸素と反応させて得られる球状シリカ粉体、粉砕シリカを溶融して得られる球状シリカ粉体+-、および、シリカ粉砕物からなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1に記載のシリカフィラーの表面処理方法。 【請求項3】 前記シリカフィラーが、ゾルゲル法、沈降法、水溶液湿式法からなる群から選択される少なくとも一つの方法により得られる、請求項1に記載のシリカフィラーの表面処理方法。 【請求項4】 前記塩基性物質が、アンモニア、n-ブチルアミン、ヘキサメチルジシラザン、ジイソプロピルアミン、および、3-メトキシプロピルアミンからなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1?3のいずれかに記載のシリカフィラーの表面処理方法。 【請求項5】 前記カップリング剤が、3?グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシオクチルトリメトキシシラン、および、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランからなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1?4のいずれかに記載のシリカフィラーの表面処理方法。」 第3 申立理由の概要 理由1(進歩性)本件特許の請求項1?5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証?甲第7号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、上記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 理由2(明確性要件)本件特許の特許請求の範囲の記載は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない出願に対してなされたものであり、本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 理由3(実施可能要件)本件特許の請求項1?5に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 第4 理由1(進歩性)について 1 甲号証について 甲第1号証:特開2005-171208号公報 甲第2号証:特開2004-59380号公報 甲第3号証:特表2013-10940号公報 甲第4号証:特許昭63-159214号公報 甲第5号証:特許2015-117137号公報 甲第6号証:特開平5-19526号公報 甲第7号証:特開2011-173779号公報 甲第9号証:佐藤則夫、「ヘキサメチルジシラザン」、有機合成化学協会誌、1991年6月1日、49巻6号、p.594-595 2 甲号証の記載について (1)甲第1号証(以下、「甲1」という。) 1a「【請求項1】 フィラー表面が(A)塩基性物質(シラザン類を除く)又は塩基性混合物と、(B)シランカップリング剤で処理されたことを特徴とするフィラー。 【請求項2】 前記フィラーが金属酸化物粉体又は複合金属酸化物粉体であることを特徴とする請求項1に記載のフィラー。 【請求項3】 前記フィラーが、板状無機粉体、繊維状無機粉体、無定形無機粉体、木粉、熱硬化性樹脂の破砕粉体、重合で得られた樹脂粒子、無機難燃剤から選択される一種類以上であることを特徴とする請求項1に記載のフィラー。 【請求項4】 前記金属酸化物粉体又は複合金属酸化物粉体が、金属粉末を酸化させてうるシリカ、アルミナ、ジルコニア、ムライト、スピネル、酸化亜鉛から選択される一種以上であることを特徴とする請求項2に記載のフィラー。 【請求項5】 シリカ粉体が、金属シリコンを酸素と反応させて得られる球状シリカ粉体、破砕シリカを溶融して得られる球状シリカ粉体、シリカ破砕物から選ばれることを特徴とする請求項4に記載のフィラー。」 1b「【0014】 無機粒子含有樹脂複合材料において、無機粒子とマトリックスポリマーとの間を強固な結合で結ぶことは重要である。粒子の表面を改質してマトリックスと結合を強くする方法として、シランカップリング剤で処理するのは一般的である。しかし、金属を燃焼して得 られる金属酸化物粉体であるアドマファイン(商標名)のような微粒子の場合は処理によって凝集が起こりやすく、樹脂中に分散しにくくなり、粘度が高くなる問題点がある。例えば、エポキシシラン処理シリカをエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂に配合する場合は粘度が非常に高くなることがその典型である。 【0015】 つまり、シリカ粒子がエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂と反応する特性を有するため、高流動を実現できないことが問題であった。 ・・・ 【0030】 フィラーを樹脂に高充填させるために、粒径の異なるものを適当に配合することが有効である。具体的には大きいフィラーが最密充填した時の隙間に小さいフィラーを順次充填していく考え方が一般的で、例えばHorsieldモデルがその一例である。又、実際のフィラーを最密充填なるように配合するための計算法も知られている。しかし、未処理のフィラー、或いは従来知られている方法で処理されたフィラーに対して、上記最密充填しても未だ十分な低粘度が達成できない。本発明の方法で処理したフィラーは、塩基性物質を併用することによって、従来のカップリング剤処理よりはるかに処理が均一で、樹脂に対する親和性も格段に高い。従って、本発明のフィラーを樹脂に配合すると、粘度が非常に低くなり、上記最密充填の方法で異なる粒径の粉体を最密充填になるように配合すると従来のフィラー技術では達成できない低粘度樹脂組成物が得られる。」 1c「【0054】 [実施例4] 平均粒径が0.5μ、比表面積が6.7m^(2)/gの球状シリカ((株)アドマテックス製、SO-C2)100重量部を混粉機に投入し、粉体を攪拌しながら、0.1重量部のアンモニアを噴霧した。噴霧終了後、1重量部のKBM-403(信越化学(株)製、エポキシシラン)を噴霧してシリカを処理して実施例サンプル4を調製した。」 (2)甲第2号証(以下、「甲2」という。) 2a「【請求項1】 金属酸化物粉体であって、該金属酸化物粉体の表面がシラザン類及びシランカップリング剤で処理されたことを特徴とする金属酸化物粉体。」 2b「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、樹脂に混合された際に、凝集を抑制し、均一に分散され、粘度上昇が防止される金属酸化物粉体及びその製造方法に関する。また、本発明は該金属酸化物粉体と有機樹脂からなり、耐吸湿性、耐ハンダクラック性に優れ、低膨張性の樹脂組成物に関する。 【0002】 【従来の技術】 半導体装置などの電子部品の封止方法として、セラミックスや、熱硬化性樹脂を用いる方法が、従来より行われている。なかでも、エポキシ樹脂系封止材による封止が、経済性及び性能のバランスより好ましく広く行われている。」 2c「【0008】 【発明が解決しようとする課題】 無機粒子含有樹脂複合材料において、無機粒子とマトリックスポリマーとの間を強固な結 合で結ぶことは重要である。粒子の表面を改質してマトリックスと結合を強くする方法として、シランカップリング剤で処理するのは一般的である。しかし、金属を燃焼して得られる金属酸化物粉体であるアドマファイン(商標名)のような微粒子の場合は処理によって凝集が起こりやすく、樹脂中に分散しにくくなり、コンパンドの成形時の粘度が高くなる問題点がある。例えば、エポキシシラン処理シリカをエポキシ樹脂に配合する場合は粘度が非常に高くなることがその典型である。 如何にコンパンドの粘度を下げ、流動性を上げることは無機フィラーを大量に配合しなければならない半導体EMC(Epoxi Molding compaund)射止剤等のアプリケーションにおいて非常に重要である。 【0009】 【課題を解決するための手段】 上記課題を解決するため、第1に本発明の金属酸化物粉体は、該金属酸化物粉体の表面がシラザン類及びシランカップリング剤で処理されたことを特徴とする。 ここで、金属酸化物粉体の製造方法は限定されない。例えば、金属を燃焼して得られる金属酸化物粉体、溶融金属酸化物粉体、金属酸化物破砕物等が例示される。」 2d「【0026】 実施例2 平均粒径約20μmの溶融球状シリカ100重量部をヘンシェル型混紛機に投入し、窒素置換した。ヘキサメチルジシラザン、0.03重量部を噴霧しながら紛体を10分間攪拌した。KBM-403(信越化学製エポキシシラン)1重量部を噴霧しながら紛体を10分間攪拌して処理紛体を得た。処理紛体の相対最低トルクと相対スパイラルフローを表1にまとめた。」 (3)甲第3号証(以下、「甲3」という。) 3a「【請求項1】 (A)脂環式エポキシ樹脂、(B)エポキシ樹脂用硬化剤、(C)無機充填材、及び(D)硬化促進剤を必須成分とする液状樹脂組成物であって、(C)無機充填材が全液状樹脂組成物中に、80重量%以上95重量%以下含まれ、25℃での粘度が50Pas以上で500Pas以下である事を特徴とする液状樹脂組成物。」 3b「【0010】 本発明は、成形温度において十分低い粘度及び反り抑制の為のフィラー高充填化を同時に満たした液状封止用樹脂組成物、およびこれを用いた高信頼性な半導体パッケージを提供するものである。」 3c「【0029】 本発明に用いる無機充填材(C)としては、一般に封止材料に使用されているものを使用することができる。例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、合成シリカ粉末、タルク、アルミナ、窒化珪素等が挙げられ、表面処理を施したものでも、施していないものでもよく、これらは単独でも2種類以上併用して用いても差し支えない。これらの中でも樹脂組成物の耐熱性、耐湿性、強度などを向上できることから溶融シリカ、結晶シリカ、合成シリカ粉末が好ましい。上記無機充填材の形状は、特に限定されないが、粘度特性や流動特性の観点から形状は球状であることが好ましい。 ・・・ 【0034】 シラザン類で表面処理され次いでシランカップリング剤で表面処理は、シラザン類を先に用いることにより、無機充填材に有機物親和性を与え、次のシランカップリング剤との処理を効果的にする。ここで、用いるシラザン類とシランカップリング剤の量比は、シラザン類の使用量が、シランカップリング剤使用量の1/100から1/5(重量比)であることが好ましい。上記範囲の場合、シラザン類が無期充填材表面に反応し、良好な有機物親和性を与えることができ、シランカップリング材と無機充填材表面、つまり金属酸化物との反応を過不足なく行うことが出来る。処理方法としては、無機充填材をミキサーに投入し、攪拌しながら窒素気流下で、シラザン類を噴霧添加して処理した後、シランカップリング剤を噴霧添加して処理する方法が挙げられる。」 3d「【0063】 以下、実施例を用いて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 [実施例1] ・・・ (4)無機充填材(C)として、SO-E2(溶融球状シリカ、平均粒径0.5μm(株)アドマテックス製)100重量部をミキサーに投入し、攪拌しながら窒素気流下で、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)0.1重量部を噴霧添加して処理した後、γ一グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤、KBM-403、信越化学工業(株)製)1重量部を噴霧添加して処理紛体を得た無機充填材2 700重量部」 (4)甲第4号証(以下、「甲4」という。) 4a「2.特許請求の範囲 (1)表面酸点の強度(pKa)が-3.0より高く3.3以下の範囲であるシリカ複合酸化物粉体を第一級又は第二級の脂肪族アミンで処理し、次いでシランカップリング剤と反応させることを特徴とするシリカ複合酸化物粉体の製造方法。」 4b「しかし、シランカップリング剤で表面処理された粉体を充填した材料は、水中での耐久性が問題となる。例えばE.P.プルーデマンはその著書”シランカップリングエージエント”の中でシランカップリング剤で表面処理したシリカと有機ポリマーとよりなる材料の強度が水中での煮沸により著しく低下する事を示している。 なかでも、歯科用材料の如く虫歯の治療のため歯牙の窩洞内に填入され、口腔内で長期間に亘って使用される材料については上記の問題は深刻である。・・・アミン触媒下で超微粒子シリカ(比表面積150m^(2)/g)をシランカップリング処理し、その粉体を用いて歯科用材料を調製している。そして、その初期強度は、アミン触媒により向上するものの、熱水と冷水によるザーマルザイクルにより経時的に低下する事を報告している。 従って、シランカップリング剤で処理された無機酸化物粉体と有機ポリマーとの界面の耐久性向上は解決が望まれる重要な技術課題となっている。」(第1ページ右欄第13行?第2ページ左上欄第16行) 4c「〔実施例1〕 ・・・ 次に、このシリカ複合酸化物粉体50gを乳鉢に移し、エタノール50mlを加え、攪拌しスラリー状態とした。ここへn-プロピルアミン0.7mlを加え、5分間攪拌した後、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1.0gを加え20分間攪拌した。この時、スラリー状態を保つように蒸発分のエタノールを随時補給した。次にこのスラリーからエバポレーターで溶媒を除去し、80℃で15時間減圧乾燥する事により、表面改質されたシリカ複合酸化物粉体(以下粉体Iと称する)を得た。」(第5ページ右上欄第16行?第6ページ左上欄第5行) (5)甲第5号証(以下、「甲5」という。) 5a「【請求項1】 ウラン及びトリウムの含有量がそれぞれ1.0ppb以下、 体積平均粒径が2nm?200nmであるシリカ粒子を製造する方法であって、 金属ケイ素及びケイ素化合物の何れかであるケイ素含有物をアンモニアを溶解したアルカリ溶液に溶解させてアルカリ性ケイ酸塩溶液を製造するアルカリ性ケイ酸塩溶液製造工程と、 得られたアルカリ性ケイ酸塩溶液から水性シリカゾルを形成する水性シリカゾル形成工程と、 を有し、 前記アルカリケイ酸塩溶液製造工程及び前記水性シリカゾル形成工程のうちの何れかの時点で前記アルカリ性ケイ酸溶液にアンモニウム塩を含有させるアンモニウム塩含有工程を有するシリカ粒子の製造方法。 ・・・ 【請求項6】 前記水性シリカゾルに対して、シランカップリング剤およびオルガノシラザンによって表面処理する表面処理工程を持ち、 該シランカップリング剤は、3つのアルコキシ基と、フェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基と、を持ち、 該シランカップリング剤と該オルガノシラザンとのモル比は、該シランカップリング剤:該オルガノシラザン=1:2?1:10である請求項1?5のうちの何れか1項に記載のシリカ粒子の製造方法。」 5b「【0004】 このように半導体素子の性能向上を安定して実現するためには半導体の熱的安定性などを確保する必要がある。そうすることにより半導体素子の耐久性を向上することができる。例えば、半導体素子を保護するために樹脂組成物にて封止することなどが行われるが、その樹脂組成物の熱的特性、機械的特性が半導体素子の耐久性に直接影響することになる。」 5c「【0017】 ケイ素含有物をアルカリ溶液に溶解させてアルカリケイ酸塩溶液を調製することにより水ガラスに相当する溶液を得るのであるが、アルカリ溶液にケイ素含有物をすべて溶解させるのではなく途中で中断することにより溶解していないケイ素含有物に不純物を濃縮させ、製造したナノシリカに含まれるウランやトリウムなどの不純物の含有量を低減することができる。 (4)前記ケイ素含有物は金属ケイ素である。金属ケイ素は高純度のものが入手しやすく純度が高いシリカ粒子を得ることが容易である。 (5)前記金属ケイ素は、Fe及びAlの含有量が2000ppm以下、金属不純物の含有量が500ppm以下である。 (6)前記水性シリカゾルに対して、シランカップリング剤およびオルガノシラザンによ って表面処理する表面処理工程を持ち、 該シランカップリング剤は、3つのアルコキシ基と、フェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基と、を持ち、 該シランカップリング剤と該オルガノシラザンとのモル比は、該シランカップリング剤:該オルガノシラザン=1:2?1:10である。 【0018】 このような表面処理を行うことにより得られたシリカ粒子は凝集性が少なくなる。 (7)前記表面処理工程は、 前記シリカ粒子を前記シランカップリング剤で処理する第1の処理工程と、 前記シリカ粒子を前記オルガノシラザンで処理する第2の処理工程と、を持ち、 該第2の処理工程は、該第1の処理工程後に行う。」 5d「【0056】 本発明の表面改質シリカ粒子は、凝集し難いため、水やアルコール等の液状媒体に分散されていない表面改質シリカ粒子として提供できる。この場合、液状媒体の持ち込みがないために、樹脂材料用のフィラーとして好ましく用いられる。 ・・・ 【0060】 表面処理工程においては、シリカ粒子をシランカップリング剤及びオルガノシラザンで同時に表面処理しても良い。または、先ずシリカ粒子をシランカップリング剤で表面処理し、次いでオルガノシラザンで表面処理しても良い。または、先ずシリカ粒子をオルガノシラザンで表面処理し、次いでシランカップリング剤で表面処理し、さらにその後にオルガノシラザンで表面処理しても良い。何れの場合にも、シリカ粒子の表面に存在する水酸基全てが第2の官能基で置換されないように、オルガノシラザンの量を調整すれば良い。なお、シリカ粒子の表面に存在する水酸基は、全てが第3の官能基で置換されても良いし、一部のみが第3の官能基で置換され、他の部分が第2の官能基で置換されても良い。第3の官能基に含まれるX4、X5は、全て第2の官能基で置換されるのが良い。」 5e「【0064】 シランカップリング剤として、具体的には、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシランが挙げられる。 【0065】 オルガノシラザンとしては、シリカ粒子の表面に存在する水酸基およびシランカップリング剤に由来するアルコキシ基を、上述した第2の官能基で置換できるものであれば良いが、分子量の小さなものを用いるのが好ましい。具体的には、テトラメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザン、ペンタメチルジシラザン等が挙げられる。」 (6)甲第6号証(以下、「甲6」という。) 6a「【請求項1】シラザン結合を有する有機ケイ素化合物で処理された正の帯電特性を有する金属酸化物粉末を含有することを特徴とする、乾式電子写真用現像剤。」 6b「【0014】本発明においては、特にシラザン結合含有有機ケイ素化合物で処理した後の金属酸化物粉末の平均一次粒子径が3?50nm、炭素含有量が2%以上及びpHが5?9となるようにすることが好ましい。尚、上記pHは金属酸化物粉末4gを20%のメタノール水溶液100mlで抽出したときの値である。」 6c「【0022】シラザン結合を有する有機ケイ素化合物で処理された金属酸化物粉末は表面が疎水化されているため、これを含有せしめることによって乾式電子写真用現像剤の耐湿性を向上させ、これによって湿気による凝集が起きず、流動性に優れたトナーを得ることができる。又、本発明の現像剤は、吸湿して帯電特性が変化するということがないので、安定した正の帯電特性を示すことができる。」 6d「【0025】製造例1.50℃に加熱したヘンシェルミキサーに、乾式法により合成した二酸化ケイ素粉末(デグッサ社製のアエロジル300(商品名);BET比表面積:300m2 /g、平均粒径7nm)を100部入れ、激しく攪拌させながらヘキサメチルジシラザン25部を滴下し、140℃で2時間加熱処理を行った。更に、系内にN2 ガスを通して150℃で2時間処理することにより揮発性の不要物を除去し、下記の特性を有する、ヘキサメチルジシラザン処理された二酸化ケイ素粉末を得た。」 (7)甲第7号証(以下、「甲7」という。) 7a「【請求項1】 50℃-湿度90%及び85℃-湿度85%条件下において500時間での吸水率が1.0%未満であり、D90/D10が3以下であり、真比重が2.1g/cm^(3)以上であり、平均粒子径が10μm以下であることを特徴とするシリカ粒子。 【請求項2】 シランカップリング剤及び/又はシラン化合物により表面処理された請求項1記載のシリカ粒子。」 7b「【0023】 本発明のシリカ粒子の製造方法は、テトラエトキシシラン及び/又はその誘導体を原料として使用し、加水分解により得られたシリカ粒子を焼成温度900?1050℃で焼成することを特徴とするものである。原因は不明であるが、テトラエトキシシラン及び/又はその誘導体を原料として使用した場合、その他のシラン化合物(例えば、テトラメトキシシラン等)を原料として使用した場合よりも粒度分布がシャープなシリカ粒子を得ることができる。 【0024】 上記テトラエトキシシランの誘導体としては特に限定されず、例えば、テトラエトキシシランを部分的に加水分解して得られる低縮合物等を挙げることができる。上記粒度分布に影響を与えない範囲でその他のシラン化合物を併用することもできる。 【0025】 上記加水分解は、通常のゾル-ゲル法で使用される加水分解反応の条件によって行うことができる。すなわち、原料であるテトラエトキシシラン及び/又はその誘導体を水を含む 有機溶媒中で加水分解、縮合して得ることができる。」 (8)甲第9号証(以下、「甲9」という。) 9a「2.性質 ヘキサメチルジシラザンは無色透明で特有の臭気をもつ液体である。その物理的性質は次のとおりである。 ・・・ 沸点 126?127℃」第594ページ左欄第12?16行」 3 甲号証に記載された発明 (1)甲1に記載された発明 甲1の実施例4には、「球状シリカ((株)アドマテックス製、SO-C2)にアンモニアを噴霧し、噴霧終了後、KBM-403(信越化学(株)製、エポキシシラン)を噴霧してシリカを処理する方法」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる(摘記1c参照)。 (2)甲2に記載された発明 甲2の実施例2の「無機充填材2」の「処理粉体」を得る方法として、「溶融球状シリカにヘキサメチルジシラザンを噴霧し、KBM-403(信越化学製エポキシシラン)を噴霧して処理粉体を得る方法」(当審注:甲2に記載された「処理紛体」は「処理粉体」の誤記と認める。)の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる(摘記2d参照)。 (3)甲3に記載された発明 甲3の実施例1には「SO-E2(溶融球状シリカ、平均粒径0.5μm(株)アドマテックス製)にヘキサメチルジシラザン(HMDS)を噴霧添加して処理した後、γ一グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤、KBM-403、信越化学工業(株)製)を噴霧添加して処理粉体を得る方法」(当審注:甲3に記載された「処理紛体」は「処理粉体」の誤記と認める。)の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる(摘記3d参照)。 (4)甲4に記載された発明 甲4の実施例1には「シリカ複合酸化物粉体にn-プロピルアミンを加え、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを加え、表面改質されたシリカ複合酸化物粉体を得る方法」の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されているといえる(摘記4d参照)。 (5)甲5に記載された発明 甲5の請求項6には「水性シリカゾルに対して、シランカップリング剤およびオルガノシラザンによって表面処理する方法」の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されているといえる(摘記5a参照)。 4 対比・判断 (1)甲1発明を主たる引用発明とする場合 ア 本件特許発明1 (ア)甲1発明との対比 本件特許発明1と甲1発明を対比する。 甲1発明の「球状シリカ((株)アドマテックス製、SO-C2)」は、フィラーであるから(摘記1a参照)、本件特許発明1の「シリカフィラー」に相当する。 甲1発明の「球状シリカ((株)アドマテックス製、SO-C2)にアンモニアを噴霧し」は、「アンモニア」は本件特許発明4によれば常温で液体である塩基性物質であるから、本件特許発明1の「常温で液体である塩基性物質とシリカフィラーを同一雰囲気中に存在させた状態で・・・シリカフィラー表面に・・・塩基性物質を気相で接触させ・・・1次表面処理を実施し」に相当する。 甲1発明の「KBM-403(信越化学(株)製、エポキシシラン)を噴霧して」及び「シリカを処理する方法」は、それぞれ、本件特許発明1の「シリカフィラー表面をエポキシ系シランカップリング剤で2次表面処理する」及び「シリカフィラーの表面処理方法」に相当する。 そうすると、本件特許発明1と甲1発明は、「常温で液体である塩基性物質とシリカフィラーを同一雰囲気中に存在させた状態で、シリカフィラー表面に塩基性物質を気相で接触させ、1次表面処理を実施した後、該シリカフィラー表面をエポキシ系シランカップリング剤で2次表面処理するシリカフィラーの表面処理方法」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> 1次表面処理が、本件特許発明1では、雰囲気を加熱し塩基性物質を気化させることにより、シリカフィラー表面に塩基性物質を気相で接触させ、前記雰囲気の加熱条件の調節により、前記シリカフィラー表面のpHを4.2?9.7とするのに対し、甲1発明の「球状シリカ((株)アドマテックス製、SO-C2)にアンモニアを噴霧」について、そのような特定がない点。 (イ)相違点についての検討 特許異議申立人は、上記相違点1について甲6を引用しているので、甲6について検討する。なお、甲7は、塩基性物質又はエポキシ系シランカップリング剤により表面処理を行うためのシリカフィラーとして、ゾルゲル法により得られたシリカ粒子を用いることは周知技術であることを立証するために引用されているものであり、上記相違点1に関する記載は認められない。 甲6には、二酸化ケイ素粉末をヘンシェルミキサーに入れ、ヘキサメチルジシラザンを滴下して140℃で2時間加熱処理を行い、さらに、系内にN_(2)ガスを通して150℃で2時間処理することが記載されており(摘記6d参照)、ここで、ヘキサメチルジシラザンの沸点は126?127℃であることから、甲6では、「140℃」または「150℃」の加熱処理が行われ、その加熱処理中に、ヘキサメチルジシラザンは気化し、気相で二酸化ケイ素粉末と接触しているといえる。 そうすると、甲6には、二酸化ケイ素粉末にヘキサメチルジシラザンを気相で接触させる際に、雰囲気を加熱し塩基性物質を気化させることが記載されているといえる。 また、甲6には、シラザン結合含有有機ケイ素化合物で処理した後の金属酸化物粉末のpHが5?9となるようにすることが好ましいことが記載されており(摘記6b参照)、シラザン結合含有有機ケイ素化合物での処理は、上述のとおり、加熱処理であり、加熱処理後には二酸化ケイ素粉末表面のpHが5?9となっているものが含まれるといえる。 しかしながら、甲6には二酸化ケイ素粉末表面のpHをどのような方法によって調整するかについては記載されておらず、本件特許発明1の上記相違点1に係る発明特定事項のような、加熱処理条件(例えば処理時間)を調整することによって、処理後のpHを調整すること(調整できること)については記載も示唆もない。なお、加熱処理後のpHの調節は、主に、金属酸化物粉末に反応させるヘキサメチルジシラザン(塩基)の量の多寡によって調整していると解することが合理的である。 また、甲1には甲1発明はシリカを含む粒子が分散する樹脂等の流動性の向上を課題とするものであることが記載されており(摘記1b参照)、甲6には、金属酸化物粒子の疎水化により流動性の優れたトナー(乾式電子写真用現像剤)が得られることが記載されている(摘記6c参照)。 しかしながら、甲1発明は、シリカ等の無機粒子に対して塩基性物質を併用する処理をすることによって、従来のカップリング剤処理よりはるかに処理が均一なものとなり、無機粒子の樹脂に対する親和性が高いものとなって、無機粒子が配合された樹脂について、低い粘度のものが得られ、樹脂の流動性が向上するというものである(摘記1b参照)。 これに対し、甲6は、光導電性感光体上に静電電荷により静電潜像を形成し、その静電潜像を可視化するために用いられる潜像と反対の電荷を有する金属酸化物粉末を含有する乾式電子写真用現像剤に関するものであり、有機ケイ素化合物で処理した金属酸化物をトナーに添加することで、トナーを含有する乾式電子写真用現像剤が、湿気による凝集が起きず、流動性に優れたものとなるというものである(摘記6c参照)。 そうすると、甲6に記載された金属酸化物粉末の有機ケイ素化合物による処理は、樹脂に対する金属酸化物の親和性を考慮したものではなく、低い粘度の樹脂を得ることを目的としたものでもなく、樹脂の流動性を向上させるためのではないことから、甲1発明で無機粒子に求められる流動性と甲6の金属酸化物粉末に求められる流動性とは異なるものであり、甲6に記載された技術を、甲1発明の「球状シリカ((株)アドマテックス製、SO-C2)にアンモニアを噴霧」に替えて採用する動機付けがない。 したがって、仮に、甲6に、上記相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項が記載されているとしても、これを、甲1発明に適用する動機付けがあるとはいえない。 また、仮に、そのような動機付けがあるとしても、本件特許明細書の【0065】の【表1】に示されるように、本件特許発明1は、上記相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えることで、PCT(120℃/湿度100%/2atmの槽、20Hrに放置)後の樹脂組成物の接着強度が優れているという効果を奏するものであり、そのような樹脂組成物のPCT後の接着強度については考慮されていない甲1からは、予測し得ない効果を奏するといえる。 そうすると、甲1発明において、上記相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。 (ウ) 小括 したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明及び甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法29条第2項の規定により、特許を受けることができないものとはいえない。 イ 本件特許発明2?5 本件特許発明2?5は、本件特許発明1を引用するものであり、上記相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えているところ、本件特許発明2?5についても、甲1発明及び甲6の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 (2)甲2発明を主たる引用発明とする場合 ア 本件特許発明1 (ア)甲2発明との対比 本件特許発明1と甲2発明を対比する。 甲2発明の「溶融球状シリカ」は、電子部品の封止材に使用されるものであるから(摘記2b参照)、フィラーであり、本件特許発明1の「シリカフィラー」に相当する。 甲2発明の「溶融球状シリカにヘキサメチルジシラザンを噴霧し」は、「ヘキサメチルジシラザン」は本件特許発明4によれば常温で液体である塩基性物質であるから、本件特許発明1の「常温で液体である塩基性物質とシリカフィラーを同一雰囲気中に存在させた状態で・・・シリカフィラー表面に・・・塩基性物質を気相で接触させ・・・1次表面処理を実施し」に相当する。 甲2発明の「KBM-403(信越化学製エポキシシラン)を噴霧して」及び「処理粉体を得る方法」は、それぞれ、本件特許発明1の「シリカフィラー表面をエポキシ系シランカップリング剤で2次表面処理する」及び「シリカフィラーの表面処理方法」に相当する。 そうすると、本件特許発明1と甲2発明は、「常温で液体である塩基性物質とシリカフィラーを同一雰囲気中に存在させた状態で、シリカフィラー表面に塩基性物質を気相で接触させ、1次表面処理を実施した後、該シリカフィラー表面をエポキシ系シランカップリング剤で2次表面処理するシリカフィラーの表面処理方法」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点2> 1次表面処理が、本件特許発明1では、雰囲気を加熱し塩基性物質を気化させることにより、シリカフィラー表面に前記塩基性物質を気相で接触させ、前記雰囲気の加熱条件の調節により、前記シリカフィラー表面のpHを4.2?9.7とするのに対し、甲2発明の「溶融球状シリカにヘキサメチルジシラザンを噴霧」には、そのような特定がない点。 (イ)相違点についての検討 特許異議申立人は、上記相違点2について甲6を引用しているので、甲6について検討する。 甲6には、上記相違点1についての検討で述べたような事項が記載されているところ、甲2発明は、樹脂に混合された際に、凝集を抑制し、均一に分散され、粘度上昇が防止される処理粉体(金属酸化物粉体)を得る方法というものであり(摘記2b参照)、これに対し、甲6に記載された金属酸化物の有機ケイ素化合物による処理は、樹脂に対する金属酸化物の親和性を考慮したものではなく、低い粘度の樹脂を得ることを目的としたものでもなく、樹脂の流動性を向上させるためのではないことから、甲2発明の処理粉体に流動性が求められるとしても、甲6の金属酸化物粉末に求められる流動性とは異なるものであり、甲6に記載された技術を、甲2発明の「溶融球状シリカにヘキサメチルジシラザンを噴霧し」に替えて採用する動機付けがない。 したがって、仮に、甲6に、上記相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項が記載されているとしても、これを、甲2発明に適用する動機付けがあるとはいえない。 また、仮に、そのような動機付けがあるとしても、本件特許明細書の【0065】の【表1】に示されるように、本件特許発明1は、上記相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えることで、PCT(120℃/湿度100%/2atmの槽、20Hrに放置)後の樹脂組成物の接着強度が優れているという効果を奏するものであり、そのような樹脂組成物のPCT後の接着強度については考慮されていない甲2からは、予測し得ない効果を奏するといえる。 そうすると、甲2発明において、上記相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。 (ウ) 小括 したがって、本件特許発明1は、甲2に記載された発明及び甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法29条第2項の規定により、特許を受けることができないものとはいえない。 イ 本件特許発明2?5 本件特許発明2?5は、本件特許発明1を引用するものであり、上記相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えているところ、本件特許発明1と同様な理由から、本件特許発明2?5についても、甲2発明及び甲6の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 (3)甲3発明を主たる引用発明とする場合 ア 本件特許発明1 (ア)甲3発明との対比 本件特許発明1と甲3発明を対比する。 甲3発明の「SO-E2(溶融球状シリカ、平均粒径0.5μm(株)アドマテックス製)」は、無機充填剤となるものであるから、フィラーであり、本件特許発明1の「シリカフィラー」に相当する。 甲3発明の「SO-E2(溶融球状シリカ、平均粒径0.5μm(株)アドマテックス製)にヘキサメチルジシラザン(HMDS)を噴霧添加して処理した後」は、「常温で液体である塩基性物質とシリカフィラーを同一雰囲気中に存在させた状態で・・・ヘキサメチルジシラザン」は本件特許発明4によれば常温で液体である塩基性物質であるから、本件特許発明1の「シリカフィラー表面に・・・塩基性物質を気相で接触させ・・・1次表面処理を実施した後」に相当する。 甲3発明の「γ一グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤、KBM-403、信越化学工業(株)製)を噴霧添加して」及び「処理粉体を得る方法」は、それぞれ、本件特許発明1の「シリカフィラー表面をエポキシ系シランカップリング剤で2次表面処理する」及び「シリカフィラーの表面処理方法」に相当する。 そうすると、本件特許発明1と甲3発明は、「常温で液体である塩基性物質とシリカフィラーを同一雰囲気中に存在させた状態で、シリカフィラー表面に塩基性物質を気相で接触させ、1次表面処理を実施した後、該シリカフィラー表面をエポキシ系シランカップリング剤で2次表面処理するシリカフィラーの表面処理方法」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点3> 1次表面処理が、本件特許発明1では、該雰囲気を加熱し前記塩基性物質を気化させることにより、前記シリカフィラー表面に前記塩基性物質を気相で接触させ、前記雰囲気の加熱条件の調節により、前記シリカフィラー表面のpHを4.2?9.7とするのに対し、甲3発明の「ヘキサメチルジシラザン(HMDS)を噴霧添加」には、そのような特定がない点。 (イ)相違点についての検討 特許異議申立人は、上記相違点3について甲6を引用しているので、甲6について検討する。 甲6には、上記相違点1についての検討で述べたような事項が記載されているところ、甲3発明における「ヘキサメチルジシラザン(HMDS)を噴霧添加」は、シランカップリング剤との処理を効果的にするためであり(摘記3c参照)、一方、甲6にはシランカップリンク剤の処理を行うことは記載されておらず、シランカップリング剤との処理を考慮することがない甲6に記載されたものを、シランカップリング剤との処理を考慮した甲3発明に適用する動機付けがない。 また、仮に、そのような動機付けがあるとしても、本件特許明細書の【0065】の【表1】に示されるように、本件特許発明1は、上記相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えることで、PCT(120℃/湿度100%/2atmの槽、20Hrに放置)後の樹脂組成物の接着強度が優れているという効果を奏するものであり、そのような樹脂組成物のPCT後の接着強度については考慮されていない甲3発明からは、予測し得ない効果を奏するといえる。 そうすると、甲3発明において、上記相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得ることではない。 (ウ) 小括 したがって、本件特許発明1は、甲3に記載された発明及び甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法29条第2項の規定により、特許を受けることができないものとはいえない。 イ 本件特許発明2?5 本件特許発明2?5は、本件特許発明1を引用するものであり、上記相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えているところ、本件特許発明1と同様な理由から、本件特許発明2?5についても、甲3発明及び甲6の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 (4)甲4発明を主たる引用発明とする場合 ア 本件特許発明1 (ア)甲4発明との対比 本件特許発明1と甲4発明を対比する。 甲4発明の「シリカ複合酸化物粉体」は、充填材に使用されるものであるから(摘記4b参照)、フィラーであり、本件特許発明1の「シリカフィラー」に相当する。 甲4発明の「シリカ複合酸化物粉体n-プロピルアミンを加え」は、「n-プロピルアミン」は常温で液体である塩基性物質であることは明らかであるから、本件特許発明1の「シリカフィラー表面に・・・塩基性物質を・・・接触させ・・・1次表面処理を実施した後」に相当する。 甲4発明の「γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを加え」及び「面改質されたシリカ複合酸化物粉体を得る方法」は、それぞれ、本件特許発明1の「シリカフィラー表面をシランカップリング剤で2次表面処理する」及び「シリカフィラーの表面処理方法」に相当する。 そうすると、本件特許発明1と甲4発明は、「シリカフィラー表面に塩基性物質を接触させ、1次表面処理を実施した後、該シリカフィラー表面をシランカップリング剤で2次表面処理するシリカフィラーの表面処理方法」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点4-1> 1次表面処理が、本件特許発明1では、雰囲気を加熱し塩基性物質を気化させることにより、シリカフィラー表面に前記塩基性物質を気相で接触させ、前記雰囲気の加熱条件の調節により、前記シリカフィラー表面のpHを4.2?9.7とするのに対し、甲4発明の「n-プロピルアミンを加え」ることについて、そのような特定がない点。 <相違点4-2> シランカップリング剤について、本件特許発明1では「エポキシ系」であるのに対し、甲4発明では、「γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン」である点。 (イ)相違点についての検討 事案に鑑み、相違点4-1について検討する。 特許異議申立人は、上記相違点4-1について甲6を引用しているので、甲6について検討する。 甲6には、上記相違点1についての検討で述べたような事項が記載されているところ、甲4発明における「n-プロピルアミンを加え」ることは、甲4には、シランカップリング剤で処理された無機酸化物粉体と有機ポリマーとの界面の耐久性向上が目的であると理解される(摘記4b参照)。 そうすると、シランカップリング剤で処理された無機酸化物粉体と有機ポリマーとの界面の耐久性向上を目的とする甲4発明に対して、シランカップリング剤で処理された無機酸化物粉体と有機ポリマーとの界面の耐久性向上については考慮されていない甲6に記載された技術を、甲4発明の「n-プロピルアミンを加え」ることに替えて採用する動機付けはない。 また、仮に、そのような動機付けがあるとしても、本件特許明細書の【0065】の【表1】に示されるように、本件特許発明1は、上記相違点4-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えることで、PCT(120℃/湿度100%/2atmの槽、20Hrに放置)後の樹脂組成物の接着強度が優れているという効果を奏するものであり、そのような樹脂組成物のPCT後の接着強度については考慮されていない甲4からは、予測し得ない効果を奏するといえる。 そうすると、甲4発明において、上記相違点4-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。 (ウ) 小括 したがって、上記相違点4-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲4に記載された発明及び甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法29条第2項の規定により、特許を受けることができないものとはいえない。 イ 本件特許発明2?5 本件特許発明2?5は、本件特許発明1を引用するものであり、上記相違点4-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えているところ、本件特許発明1と同様な理由から、本件特許発明2?5についても、甲4発明及び甲6の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 (5)甲5発明を主たる引用発明とする場合 ア 本件特許発明1 (ア)甲5発明との対比 本件特許発明1と甲5発明を対比する。 甲5発明の「水性シリカゾル」は、封止材に使用されるものであるから(摘記5b参照)、フィラーであり、本件特許発明1の「シリカフィラー」に相当する。 甲5発明の「水性シリカゾルに対して、シランカップリング剤およびオルガノシラザンによって表面処理する方法」は、オルガノシラザンはヘキサメチルシラザン等であり(摘記5d参照)、ヘキサメチルシラザンは本件特許発明4によれば常温で液体である塩基性物質であるから、本件特許発明1の「シリカフィラー表面に前記塩基性物質を・・・接触させ・・・該シリカフィラー表面をシランカップリング剤で表面処理することを特徴とするシリカフィラーの表面処理方法」に相当する。 そうすると、本件特許発明1と甲5発明は、「シリカフィラー表面に塩基性物質を接触させ、該シリカフィラー表面をシランカップリング剤で表面処理するシリカフィラーの表面処理方法」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点5-1> 本件特許発明1では、シリカフィラー表面に塩基性物質を気相で接触させる1次表面処理を実施した後、該シリカフィラー表面をエポキシ系シランカップリング剤で2次表面処理するのに対し、甲5発明の「水性シリカゾルに対して、シランカップリング剤およびオルガノシラザンによって表面処理する方法」には、そのような特定がない点。 <相違点5-2> 1次表面処理が、本件特許発明1では、雰囲気を加熱し塩基性物質を気化させることにより、シリカフィラー表面に塩基性物質を気相で接触させ、前記雰囲気の加熱条件の調節により、前記シリカフィラー表面のpHを4.2?9.7とするのに対し、甲5発明の「オルガノシラザンによって表面処理」ではそのような特定がない点。 (イ)相違点についての検討 事案に鑑み、まず、相違点5-2について検討する。 特許異議申立人は、上記相違点5-2について甲6を引用しているので、甲6について検討する。 甲6には、上記相違点1についての検討で述べたような事項が記載されているところ、甲5発明の「オルガノシラザンによって表面処理」は、甲5には、凝集し難い表面改質シリカ粒子を得ることで、水やアルコール等の液状媒体に分散されていない表面改質シリカ粒子を提供することが目的であることが理解される(摘記5c参照)。 そうすると、甲5発明の、水やアルコール等の液状媒体に分散されていない表面改質シリカ粒子が得られる程度に凝集しにくくするための「オルガノシラザンによって表面処理」と、甲6に記載された、有機ケイ素化合物で処理した金属酸化物をトナーに添加することで、トナーを含有する乾式電子写真用現像剤が、湿気による凝集が起きず、流動性に優れたものとなるものとは、「凝集」の技術的意味が異なり、甲5発明の「オルガノシラザンによって表面処理」に替えて、甲6に記載された技術を適用する動機付けがあるとはいえない。 また、仮に、そのような動機付けがあるとしても、本件特許明細書の【0065】の【表1】に示されるように、本件特許発明1は、上記相違点5-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えることで、PCT(120℃/湿度100%/2atmの槽、20Hrに放置)後の樹脂組成物の接着強度が優れているという効果を奏するものであり、そのような樹脂組成物のPCT後の接着強度については考慮されていない甲5からは、予測し得ない効果を奏するといえる。 そうすると、甲5発明において、上記相違点5-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。 (ウ) 小括 したがって、本件特許発明1は、相違点5-1について検討するまでもなく、甲5に記載された発明及び甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法29条第2項の規定により、特許を受けることができないものとはいえない。 イ 本件特許発明2?5 本件特許発明2?5は、本件特許発明1を引用するものであり、上記相違点5-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えているところ、本件特許発明1と同様な理由から、本件特許発明2?5についても、甲5発明及び甲6の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 第5 理由2(明確性要件)について 1.異議申立の理由 (1)本件特許発明1における「塩基性物質」の具体例として、本件特許発明4では「アンモニア」が下位概念として挙げられている。ここで、物質としての「アンモニア」の沸点は約-33℃である。これは、本件特許発明1における塩基性物質の定義である「常温で液体である」に反する。 一方、「アンモニア水」は常温で液体であるが、これはアンモニアの「水溶液」であって「塩基性物質」とはいえない。 したがって、本件特許発明1における「常温で液体である塩基性物質」の用語は不明確と言わざるを得ない。 その結果、本件特許発明1は不明確である。 本件特許発明1を引用する本件特許発明2?5も不明確である。 (2)本件明細書の段落【0022】には、本件特許発明1における「塩基性物質」は「アレニウス塩基である限り特に限定され」ないことが記載されているが、本件特許発明4において「塩基性物質」の下位概念として記載されているヘキサメチルジシラザンは、アレニウス塩基として定義される塩基性物質とは言えない。 以上より、アレニウス塩基ではないヘキサメチルジシラザンが本件特許発明1における「塩基性物質」の下位概念となるのであれば、具体的にどのような物質が本件特許発明1の「塩基性物質」に該当するのか、その範囲が不明である。したがって、本件特許発明1は不明確と言わざるを得ない。 (3)本件発明4は、本件特許発明1の「塩基性物質」について、アンモニアとヘキサメチルジシラザンとを択一的に含む、マーカッシュ形式により記載されているが、アンモニアとヘキサメチルジシラザンとは、「常温で液体である」という性質について共通していないし、また、シラノール基に対して「塩基性物質」として作用する作用機序が全く異なり、また、化学構造は全く異なり、化学構造要素を共有しない。 以上より、これら2つの化合物を択一的に含む本件特許発明4は、明確性要件を満たさない。 また、本件特許発明1は、上述の通り構成要件に含まれる「塩基性物質」が不明確であるため、本件特許発明4と同様に明確性要件を満たさない。 (4) 本件特許発明1において、塩基性物質とシリカフィラーを「同一雰囲気中に存在させた状態」とはどのような状態であるのか、本件明細書には何ら具体的な記載が認められない。 「同一雰囲気中に存在させた」を字義通りに解釈すれば、塩基性物質とシリカフィラーとを、両者が同一の「雰囲気」に接触するように存在させた状態であるといえる。そのため、例えばシリカフィラーが「常温で液体である」塩基性物質の液中に分散した状態は、シリカフィラーが「雰囲気」と接触しておらず、「同一雰囲気中に存在させた」とは言えないと考えられる。 本件特許明細書の実施例1には、「フタ付き容器内にシリカフィラーとアンモニア水を入れる」と記載されているが、フタ付き容器内でシリカフィラーとアンモニアとがどのような状態で存在しているかは、何ら説明されていない。 このように、本件特許発明1の「同一雰囲気中に存在させた状態」とはどのような状態であるのか、本件特許明細書の記載を参酌しても理解できない。 したがって、本件特許発明1は不明確と言わざるを得ない。 2.判断 (1)請求項1には、本件特許発明1における塩基性物質は常温で液体であることが記載されており、請求項1を引用する請求項4には塩基性物質がアンモニアであることが記載されている。 また、本件特許明細書【0022】には塩基性物質を含む液体を使用することが記載されている。 さらに、実施例では塩基性物質としてアンモニア水が使用されている。 アンモニアが常温で気体であって「常温で液体である塩基性物質」に該当しないことは明らかであることからすれば、本件特許発明4の「アンモニア」が、常温で液体である、アンモニアを含む溶液であるアンモニア水を意味していることは明らかである。 したがって、本件特許発明1における「常温で液体である塩基性物質」の用語は明確であるから、本件特許発明1及び本件特許発明1を引用する本件特許発明2?5は明確である。 (2)本件特許明細書【0022】には、本件特許発明1における塩基性物質としてアレニウス塩基が記載されているが、本件特許発明1の「塩基性物質」は、アレニウス塩基に限定されているわけではない。また、「塩基性物質」にどのような物質が含まれるのかは、当業者にとって明らかである。 そうすると、本件特許発明1の「塩基性物質」は、その範囲は明確である。 (3)アンモニアとヘキサメチルジシラザンは塩基性物質という共通の性質を有しているから、これら2つの化合物を択一的に含む本件特許発明4は不明確とはいえない。 また、本件特許発明1は、上述のとおり、「塩基性物質」は明確であって、本件特許発明4と同様に明確である。 (4)請求項1には、塩基性物質とシリカフィラーを「同一雰囲気中に存在させた状態」が規定されており、塩基性物質とシリカフィラーと雰囲気とが、どのように「接触」するかについては特定されていない。 そして、請求項1に規定された、塩基性物質とシリカフィラーを「同一雰囲気中に存在させた状態」は当業者にとって明らかであることから、本件特許発明1は明確である。 これに対し、特許異議申立人の主張は、上記「同一雰囲気中に存在させた状態」は、「シリカフィラー」と「雰囲気」とが接触することであるとするものであり、請求項1の記載に基づくものではないことから、採用することができない。 第6 理由3(実施可能要件)について 異議申立の理由 (1)本件特許発明1の「同一雰囲気中に存在させた状態」とはどのような状態であるのか、本件明細書の記載を参酌しても理解できない。それゆえ、たとえ当業者といえども、本件特許明細書の記載にしたがって、「同一雰囲気中に存在させた状態」である本件特許発明1を実施することはできない。したがって、本件特許明細書は、当業者が本件特許発明1及び本件特許発明1を引用する本件特許発明2?5の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは言えない。 (2)本件特許発明1は、「シリカフィラー表面のpHを4.2?9.7とする」構成を備えることから、本件特許発明1の実施にはpHを0.1単位で制御する必要がある。なお、本件明細書の段落【0019】の図1の説明および段落【0049】の記載から、「シリカフィラー表面のpH」とは、シリカフィラーを水に懸濁させた場合の、水(懸濁液)のpHであると解する。 pH測定におけるシリカフィラーの濃度も、測定時の温度も特定していない本件明細書には、本件発明1に記載の範囲となるようpHを制御するために、どのような条件でpHを測定すればよいのか記載されているとはいえない。したがって、本件明細書は、当業者が本件特許発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは言えない。 (3)本件特許発明1には、「雰囲気の加熱条件の調節」により、「シリカフィラー表面のpHを4.2?9.7とする」ことが必須要件として含まれている。一方、本件明細書には、上記の「加熱条件」について、加熱温度についても、加熱時間についても、何ら具体的な記載が認められない。 ここで、本件明細書の段落【0022】の第4段落には、塩基性物質の一部がシリカフィラー表面から解離するように加熱条件を調節することで、pHを調節できることが記載されている。しかしながら、シリカフィラー表面に塩基性物質を気相で接触させるのに好適な温度および時間と、そこから塩基性物質を解離させるのに好適な温度および時間と、について、本件明細書には何ら記載も示唆も認められない。そして、このような温度条件は、塩基性物質の種類およびシリカフィラーの種類によって全く異なると考えられる。 そのため、本件特許発明1を実施するために当業者は、どのような加熱温度および加熱時間とすれば所望の範囲にpHを制御できるかについて過度の試行錯誤を要する。したがって、本件明細書は、当業者が本件特許発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは言えない。 2.判断 (1)上記第6 2.(4)のとおり、「同一雰囲気中に存在させた状態」とはどのような状態であるのか明確であり、当業者にとって明らかな状態であり、そのような状態は本件明細書の記載と矛盾するものではない。 したがって、本件特許明細書は、当業者が本件特許発明1及び本件特許発明1を引用する本件特許発明2?5の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。 (2)確かに、本件特許明細書に、pH測定におけるシリカフィラーの濃度も、測定時の温度も特定されていないが、本件特許明細書の【0049】に、シリカフィラー表面のpHは、堀場製作所 LAQUA TwinコンパクトpHメータを用いて、測定したことが、記載されている。 そうすると、pH測定におけるシリカフィラーの濃度も、測定時の温度も特定されていないとしても、本件特許明細書の記載にしたがって、シリカフィラーの表面のpHは、一応、測定できるといえる。 そして、本件特許明細書に記載された方法によって測定されたpHの値が、シリカフィラーの濃度や、測定時の温度によって大きく変わるものとなる、という具体的な根拠を特許異議申立人は示しておらず(甲13は溶液のpHに関するものであり、シリカフィラー表面のpHを本件特許明細書に記載された方法によって測定するものではない。)、本件特許明細書には、pH測定におけるシリカフィラーの濃度も、測定時の温度も特定されていないのであるから、常温で、かつ、本件特許明細書の記載にしたがって測定できる範囲で測定すればよいのであって、それにもかかわらず、pHが測定できないという根拠を特許異議申立人は示しておらず、pHが測定できないという技術常識もあるとはいえないことから、本件特許明細書は、当業者が本件特許発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されている。 したがって、本件明細書は、当業者が本件特許発明1が明確であるか否かはともかくとして、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。 (3)確かに、シリカフィラー表面に塩基性物質を気相で接触させるのに好適な温度及び時間と、そこから塩基性物質を解離させるのに好適な温度及び時間とについては、本件明細書には何ら記載されていない。 しかしながら、シリカフィラー表面に塩基性物質を気相で接触させ、加熱すれば、シリカフィラー表面の塩基性物質の付着量が変化して、シリカフィラー表面のpHを4.2?9.7の範囲の所望のpHに制御できることは明らかである。そして、加熱時間や加熱温度は、シリカフィラーや塩基性物質の種類によって、試行錯誤をすることで決められるものであり、加熱時間を変えたり、加熱温度を変えて、pHを測定することが、過度の試行錯誤であるとまではいえない。 そうすると、シリカフィラー表面に塩基性物質を気相で接触させるのに好適な温度および時間と、そこから塩基性物質を解離させるのに好適な温度および時間とについて本件明細書には何ら記載されていないからといって、加熱温度及び加熱時間について過度の試行錯誤を要するとはいえない。 したがって、本件明細書は、当業者が本件特許発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。 第7 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-10-13 |
出願番号 | 特願2016-181595(P2016-181595) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C09C)
P 1 651・ 537- Y (C09C) P 1 651・ 536- Y (C09C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 仁科 努 |
特許庁審判長 |
川端 修 |
特許庁審判官 |
瀬下 浩一 蔵野 雅昭 |
登録日 | 2021-01-12 |
登録番号 | 特許第6822651号(P6822651) |
権利者 | ナミックス株式会社 |
発明の名称 | シリカフィラーの表面処理方法、それにより得られたシリカフィラー、および、該シリカフィラーを含有する樹脂組成物 |
代理人 | 三和 晴子 |
代理人 | 伊東 秀明 |