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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01L 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 H01L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01L |
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管理番号 | 1378784 |
異議申立番号 | 異議2021-700639 |
総通号数 | 263 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-11-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-07-06 |
確定日 | 2021-10-25 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6810406号発明「窒化物半導体テンプレートの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6810406号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6810406号(以下「本件特許」という。)の請求項1?6に係る特許についての出願は,平成28年12月6日の出願であって,令和2年12月15日にその特許権の設定登録がされ,令和3年1月6日に特許掲載公報が発行された。 これに対し,令和3年7月6日に,特許異議申立人安藤宏により本件特許の請求項1?6に係る特許に対する特許異議の申立てがされた。 第2 本件発明 本件特許の請求項1?6に係る発明(以下,それぞれ「本件発明1」?「本件発明6」という。)は,その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された以下の事項により特定されるとおりのものである。 「 【請求項1】 基板上に窒化物半導体層が形成されてなる窒化物半導体テンプレートの製造方法であって, 前記基板上に,アルミニウムを含む窒化物半導体からなる第一層をエピタキシャル成長させて形成する第一層形成工程と, 前記第一層に対して不活性ガス雰囲気でアニール処理を行うアニール工程と, 前記アニール工程後の前記第一層上に,アルミニウムを含む窒化物半導体からなる第二層を気相成長によりエピタキシャル成長させて形成し,前記第一層と前記第二層とで前記窒化物半導体層を構成する第二層形成工程と, を備え, 前記アニール工程後の前記第一層の表面の表面粗さRMSを,前記第一層形成工程後で前記アニール工程前における前記第一層の表面の表面粗さRMSよりも大きくする 窒化物半導体テンプレートの製造方法。 【請求項2】 基板上に窒化物半導体層が形成されてなる窒化物半導体テンプレートの製造方法であって, 前記基板上に,アルミニウムを含む窒化物半導体からなる第一層をエピタキシャル成長させて形成する第一層形成工程と, 前記第一層に対して不活性ガス雰囲気でアニール処理を行うアニール工程と, 前記アニール工程後の前記第一層上に,アルミニウムを含む窒化物半導体からなる第二層を気相成長によりエピタキシャル成長させて形成し,前記第一層と前記第二層とで前記窒化物半導体層を構成する第二層形成工程と, を備え, 前記第一層形成工程,前記アニール工程および前記第二層形成工程を,同一の成長装置を用いて連続的に行う 窒化物半導体テンプレートの製造方法。 【請求項3】 前記第一層形成工程では,前記第一層が連続膜となる厚さで,かつ,前記第一層にクラックが発生しない厚さとなるように,前記第一層の形成を行う 請求項1または2に記載の窒化物半導体テンプレートの製造方法。 【請求項4】 前記アニール工程では,前記アニール工程後の前記第一層の表面における平均転位密度が1×10^(9)個/cm^(2)以下となる条件で,前記アニール処理を行う 請求項1から3のいずれか1項に記載の窒化物半導体テンプレートの製造方法。 【請求項5】 前記第二層形成工程では,前記第二層の表面粗さRMSが10nm以下となる条件で,前記第二層の形成を行う 請求項1から4のいずれか1項に記載の窒化物半導体テンプレートの製造方法。 【請求項6】 前記第一層および前記第二層が,In_(1-x-y)Al_(x)Ga_(y)N(0≦x+y≦1,0<x≦1,0≦y≦1)で表わされる窒化アルミニウム,窒化インジウムアルミニウム,窒化アルミニウムガリウム,または,窒化アルミニウムガリウムインジウムからなる 請求項1から5のいずれか1項に記載の窒化物半導体テンプレートの製造方法。」 第3 特許異議申立て理由の概要 1.申立理由 令和3年7月6日付け特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由の概要は,本件特許の請求項1?6に係る特許は,下記の申立理由1?5のとおり,特許法113条2号又は4号に該当する,というものである。 ・申立理由1(新規性) 本件特許の請求項1,3,5,6に係る発明は,甲1号証に記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1,3,5,6に係る特許は,同法113条2号に該当する。 ・申立理由2(進歩性) 本件特許の請求項1?6に係る発明は,甲1号証に記載された発明及び甲1?4号証に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1?6に係る特許は,同法113条2号に該当する。 ・申立理由3(新規性) 本件特許の請求項4に係る発明は,甲4号証に記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項4に係る特許は,同法113条2号に該当する。 ・申立理由4(実施可能要件) 本件発明1,3?6 についての本件特許明細書の記載は,特許法36条4項1号の規定に適合するものではないから,本件特許の請求項1,3?6に係る特許は,同法113条4号に該当する。 ・申立理由5(サポート要件) 本件特許の請求項1,3?6に係る発明は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号の規定に適合するものではないから,本件特許の請求項1,3?6に係る特許は,同法113条4号に該当する。 2.証拠方法 上記特許異議申立書とともに提出された証拠方法は,以下のとおりである。 甲1号証:特開2006-319107号公報 甲2号証:特開2016-64928号公報 甲3号証:国際公開第2008/010541号 甲4号証:特開2008-60519号 第4 甲号証の記載事項 1.甲1号証の記載 甲1号証(特開2006-319107号公報 )には,次の記載がある。(下線は当審により付加。以下同じ。) 「【請求項1】 エピタキシャル基板であって, 主面に所定のオフ角が与えられてなる基材と, 前記主面上にエピタキシャル形成された第1のIII族窒化物結晶からなる上部層と, を備え, 前記上部層の形成温度よりも高い加熱温度で加熱処理されてなる, ことを特徴とするエピタキシャル基板。 【請求項2】 請求項1に記載のエピタキシャル基板であって, 前記第1のIII族窒化物結晶の主面の結晶方位が実質的に(0001)面である, ことを特徴とするエピタキシャル基板。 【請求項3】 請求項1または請求項2に記載のエピタキシャル基板であって, 前記第1のIII族窒化物結晶において全III族元素におけるAlの割合が80モル%以上である, ことを特徴とするエピタキシャル基板。 【請求項4】 請求項3に記載のエピタキシャル基板であって, 前記第1のIII族窒化物結晶がAlNである, ことを特徴とするエピタキシャル基板。 【請求項5】 請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のエピタキシャル基板であって, 前記加熱温度が1500℃以上である, ことを特徴とするエピタキシャル基板。 【請求項6】 半導体素子であって, 請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のエピタキシャル基板の上に第2のIII族窒化物からなる機能層がエピタキシャル形成されてなる, ことを特徴とする半導体素子。 【請求項7】 エピタキシャル基板の製造方法であって, 主面に所定のオフ角が与えられてなる基材の該主面上に,所定の形成温度で第1のIII族窒化物結晶からなる上部層をエピタキシャル形成する形成工程と, 前記形成温度よりも高い加熱温度で加熱する加熱工程と, を備えることを特徴とするエピタキシャル基板の製造方法。 【請求項8】 請求項7に記載の製造方法であって, 前記加熱温度が1500℃以上である, ことを特徴とするエピタキシャル基板の製造方法。 【請求項9】 III族窒化物結晶において転位を偏在化させる方法であって, 主面に所定のオフ角が与えられてなる基材の該主面上に,第1のIII族窒化物結晶からなる上部層を所定の形成温度でエピタキシャル形成してなるエピタキシャル基板を,前記形成温度よりも高い加熱温度で加熱したうえで,前記エピタキシャル基板の上に第2のIII族窒化物によって前記III族窒化物結晶をエピタキシャル形成させる, ことを特徴とするIII族窒化物結晶における転位偏在化方法。」 「【0008】 機能デバイスとして作用させるべくIII族窒化物結晶を基材上に形成する際,該機能デバイスの性能を向上させるためには,結晶品質をできるだけ改善する必要がある。例えば,転位密度をできるだけ小さくすることが必要である。転位密度を小さくすることにより,例えば,発光デバイスであれば発光効率の向上が,受光デバイスであれば暗電流の低減が,さらには,電子デバイスであれば移動度の向上を見込むことができる。」 「【0011】 本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり,結晶品質の良好なIII族窒化物結晶の生成に好適なエピタキシャル基板を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0012】 上記課題を解決するため,請求項1の発明は,エピタキシャル基板であって,主面に所定のオフ角が与えられてなる基材と,前記主面上にエピタキシャル形成された第1のIII族窒化物結晶からなる上部層と,を備え,前記上部層の形成温度よりも高い加熱温度で加熱処理されてなる,ことを特徴とする。」 「【0021】 請求項1ないし請求項5,請求項7,および請求項8の発明によれば,加熱処理を行うことにより,上部層の結晶品質が向上されてなるとともに,該上部層の表面に数原子層高さ以上の大きな繰り返し段差を有するエピタキシャル基板が得られる。該エピタキシャル基板を,III族窒化物結晶層の成長用下地基板として用いると,良好な表面平坦性を有し,かつ,表面近傍の大部分が低転位領域となるIII族窒化物結晶層が得られる。すなわち,該エピタキシャル基板は結晶品質のよいIII族窒化物結晶の形成に好適な基板といえる。」 「【0025】 図1は,本発明の実施の形態に係るエピタキシャル基板10の断面模式図である。また,図2は,図1において点線にて囲んだ部分Pに係るエピタキシャル基板10の拡大模式図である。なお,図示の都合上,図1および図2における各層の厚みの比率および縦横の比率は,実際の比率を反映したものではない。エピタキシャル基板10は,主として基材1と上部層2とから構成される。エピタキシャル基板10は,主として,III族窒化物半導体による種々の電子デバイス作製の際の下地基板として用いられるものである。 【0026】 基材1は,その上に形成する上部層2の組成や構造,あるいはさらにその上に形成される層を含む各層の形成手法に応じて適宜に選択される。例えば,SiC(炭化ケイ素)やサファイアなどの基板を用いる。あるいは,ZnO,LiAlO_(2),LiGaO_(2),MgAl_(2)O_(4),(LaSr)(AlTa)O_(3),NdGaO_(3),MgOといった各種酸化物材料,Si,Geといった各種IV族単結晶,SiGeといった各種IV-IV族化合物,GaAs,AlN,GaN,AlGaNといった各種III-V族化合物およびZrB_(2)といった各種ホウ化物の単結晶から適宜選択して用いてもよい。このうち,(0001)面を主面とするIII族窒化物結晶を上部層2として得る場合には,例えば(0001)面SiCあるいは(11-20)面及び(0001)面サファイアを基材1として用いることができる。また,(11-20)面を主面とするIII族窒化物結晶を上部層2として得る場合には,例えば(11-20)面SiCあるいは(10-12)面サファイアを基材1として用いることができる。基材1の厚みには特段の材質上の制限はないが,取り扱いの便宜上,数百μm?数mmの厚みのものが好適である。 【0027】 上部層2は,該III族窒化物結晶とは異なる組成の単結晶材料からなる基材1の上に形成されてなる。上部層2は,例えばMOCVD法,MBE法,HVPE法(ハイドライドを用いた気相エピタキシャル成長法),スパッタ法などの公知の成膜手法によって形成された,III族窒化物結晶からなるエピタキシャル膜である。MOCVD法には,PALE法(パルス原子層エピタキシ法;Pulsed Atomic Layer Epitaxy),プラズマアシスト法やレーザーアシスト法などが併用できる。MBE法に関しても,同様の技術を併用可能である。MOCVD法あるいはMBE法といった成長方法は,製造条件を高精度に制御することができるので,高品質な結晶を成長させることに適している。一方,HVPE法は,原料を一時に多量に供給できるため,短時間で厚膜を成長させることに適している。上部層2を形成する際に,これらの方法を組み合わせて形成することも可能である。」 「【0030】 また,上部層2に対して,III族窒化物結晶を成長させる際,上部層に対して,III族窒化物結晶の主面内の格子定数が大きい場合,III族窒化物結晶を成長させる際のクラックの発生を抑制できるという利点がある。特に,上部層2をAlNにて構成すると,エピタキシャル基板10上に全組成のIII族窒化物結晶を成長させる際のクラックの発生を抑制することができる。また,発光デバイスを形成する場合に短波長領域までの透明性を確保することができる。上部層2を構成するIII族窒化物結晶の全III族元素のうち80モル%以上がAlである場合にも,同様の効果を実効的に得ることができる。」 「【0034】 また,(0001)面を主面とするAlNエピタキシャル膜を上部層2として用いる場合,熱処理前の上部層2内の刃状転位密度は,AlNエピタキシャル膜としては低い数値である,5×10^(10)/cm^(2)以下であることが望ましい。なお,本実施の形態において,転位密度は,平面TEMを用いて評価している。基材1の表面に窒化層を形成しておくことで,熱処理前のAlNの転位密度を上記のように低く抑えることができる。熱処理前の転位密度を低減しておくことにより,熱処理による結晶品質の改善をより短時間でかつより効果的に実現することができるからである。なお,条件設定によっては,熱処理前の上部層2の転位密度を1×10^(9)/cm^(2)の程度にまで低減しておくことが可能である。」 「【0037】 また,本実施の形態においては,このようにエピタキシャル基板10を構成するにあたり,図2に示すように主面1Sにいわゆるオフ角θを与えた状態の基材1を用いる。例えば,主面1Sにおいて基材1の(0001)面がオフ角θだけ傾斜した状態がこれにあたる。より詳細にいえば,係る状態の基材1は,主面1Sに平均間隔が約0.1μm,高さがおおよそ2?10Å程度(図2においては2?5Å程度の場合を例示)の,理想的には概ね3原子層高さ程度までの微小な段差BP1が繰り返し形成されてなるものである。このオフ角により,上部層2の主面2Sにおいても,図2に示すように基材1の主面1Sにおける段差BP1とほぼ同程度の微小な段差BP2が略周期的に繰り返し形成されてなる。ただし,オフ角θが小さい場合は,オフ角θがない場合に主面を構成する結晶面を,実質的には上部層2の主面2Sであるとみなすことができる。例えば,基材1の主面1Sが,(0001)面がオフ角θだけ傾斜した状態であれば,上部層2の主面2Sも実質的には(0001)面であるということができる。」 「【0039】 さらに,本実施の形態においては,該エピタキシャル基板10をそのままIII族窒化物結晶による種々のデバイス層の形成に供するのではなく,これに先だって,該エピタキシャル基板10に対していったん所定の熱処理を行う。具体的には,所定の熱処理装置によって,少なくとも1500℃以上に,好ましくは1600℃以上で加熱する。熱処理装置による加熱温度の上限については,特に定めるものではないが,加熱温度を高くした場合,基材1と上部層2の組み合わせによっては,基材1と上部層2が反応して結晶品質を大幅に劣化させることがある。よって,基材1と上部層2の過度な反応が起こらない範囲で上限温度を設定することが望ましい。なお,加熱時間は,用いる熱処理装置その他の要因に基づいて適宜に定められるが,例えば,数十時間程度である。 【0040】 図3は,このような加熱処理を施した後のエピタキシャル基板10を下地基板として用いて,III族窒化物結晶を成長させた場合の成長過程を示す断面模式図である。III族窒化物結晶は,上部層2と同様に,例えばMOCVD法,MBE法,HVPE法,スパッタ法などの公知の成膜手法によって形成される。 【0041】 まず,図3(a)は,結晶成長前の状態,つまりは,加熱処理を施した後のエピタキシャル基板10を示す図である。加熱処理を行うことで,上部層2の主面2Sにおいては,図3(a)に示すように,平均間隔が約5μm,高さが3原子層高さ以上の,好ましくは20Å以上(図3においては約50Åの場合を例示)の,処理前に比して著しく大きな段差BP3が形成される。特に,加熱処理前に上部層2の主面2Sにおいて原子ステップが明瞭に観察されるような場合,段差BP3は略周期的に繰り返し形成される。このことは,いわば,加熱処理によって段差が成長したとみることもできる。なお,この加熱処理は一種のアニール処理であるので,上部層2における結晶性の向上や転位d1の低減といった結晶品質の改善も併せて実現される。」 「【0045】 すなわち,本実施の形態においては,このように加熱処理によって結晶品質を改善されつつも上部層2の表面に著しく大きな段差を有するエピタキシャル基板10を,III族窒化物結晶層3の成長用下地基板として用いることになる。」 「【0051】 また,III族窒化物結晶層3を少なくとも3μm以上の厚みに成長させた場合,その主面3Sは連続膜となる。また,III族窒化物結晶層3がAlを含む場合であっても,主面3Sにおいてピットが発生することもなく,AFMで測定される5μm□のra値が,5Å以下になる程度な平坦性が実現される。これにより,該III族窒化物結晶層3を機能層とする各種半導体デバイスのデバイス特性が向上することになる。」 「【0054】 (実施例1) 本実施例においては,(0001)面に対し0.1°のオフ角θを与えたサファイアを基材1とし,MOCVD法によって,減圧雰囲気下1200℃で,上部層2としてAlN層を膜厚1μmで形成することにより,エピタキシャル基板10を得た。本AlN層と基材の間には,基材窒化層が挿入されている。AlN層の結晶性を評価したところ,X線ロッキングカーブの(0002)面の半値幅が60秒,(10-12)面の半値幅が1200秒であった。転位密度は,2×10^(10)/cm^(2)であった。なお,X線ロッキングカーブ測定は,オープンスリットを用い,ωスキャン法により行い,(0002)面を用いた場合は,AlNのc軸方向からの結晶ゆらぎの傾き成分を,(10-12)面を用いた場合は,AlNのc軸を中心とした結晶揺らぎの主に回転成分を測定するものである。AFMにより計測された5μm□の表面粗さ(ra)は3Å以下であり,AFM像においては,原子レベルの段差が観察された。 【0055】 次に,エピタキシャル基板10を熱処理炉の反応室内の所定位置に配置して,1気圧に保持しつつ窒素ガスを供給し,加熱処理を行った。加熱処理は,基材1の温度を1650℃として20時間行った。 【0056】 上記の熱処理の後,AlN層の結晶品質を評価したところ,X線ロッキングカーブの(0002)面の半値幅が110秒,(10-12)面の半値幅が600秒であった。転位密度は,2×10^(9)/cm^(2)であった。AFM像においては,平均高さ40Åで平均周期が5μmの段差が明瞭に観察された。 【0057】 さらに,このように得られたエピタキシャル基板10に対して,MOCVD法によって,大気圧雰囲気下1050℃で,GaN層を膜厚5μmで形成した。係るGaN層については,転位の偏在領域と低転位領域が確認された。後者における転位密度は,1×10^(7)/cm^(2)であった。また,AFM像においては,GaN層の表面には段差は観察されなかった。 【0058】 (実施例2) 実施例1と同様に得られたエピタキシャル基板10に対して,MOCVD法によって,大気圧雰囲気下1100℃で,Al_(0.2)Ga_(0.8)N層を膜厚5μmで形成した。係るAl_(0.2)Ga_(0.8)N層については,転位の偏在領域と低転位領域が確認された。後者における転位密度は,2×10^(8)/cm^(2)であった。また,AFM像においては,GaN層の表面には段差は観察されなかった。」 2.甲2号証 の記載 甲2号証(特開2016-64928号公報 )には,次の記載がある。 「【0001】 本発明は,AlNテンプレート基板およびその製造方法に関し,特に,従来よりも高い結晶性および表面平坦性を兼ね備えるAlNテンプレート基板およびその製造方法に関するものである。」 「【0029】 すなわち,後述の実施例に示されるように,第1工程後のAlN層20の(0002)面のX線ロッキングカーブの半値幅は,100秒?140秒程度であり,かつ,(10-12)面のX線ロッキングカーブの半値幅が1100秒?1500秒程度であり,従来技術により得られるAlN層の結晶性に比べて,第1工程後のAlN層20の結晶性が従来例に比べて顕著に優れるということはない。ところが,かかるAlN層20に対して,第2工程による熱処理を施すことにより,従来技術では実現することのできなかった,AlN層20の(0002)面のX線ロッキングカーブの半値幅が70秒以下であり,かつ,(10-12)面のX線ロッキングカーブの半値幅が250秒以下のAlNテンプレート基板1を実現することができたのである。このように,従来技術に比べて極めて優れた結晶性が実現できる理由が理論的に明らかになったわけではないが,本発明条件に従う角度のオフ角がサファイア基板に設けられている場合,サファイア基板と,適切な厚みのAlN層との界面から発生する転位が,熱処理によって動きやすい状態になるため,熱処理後に結晶性が向上するのだと推測される。なお,実施例において後述するが,AlN層の厚みを0.7μm超,例えば0.96μmとした場合,第2工程による熱処理後にAlN層にクラックが生じてしまうことが本発明者により実験的に明らかとなった。」 「【0038】 (AlNテンプレート基板) 次に,本発明により得られるAlNテンプレート基板について説明する。図1(C)に示すように,本発明に従うAlNテンプレート基板1は,サファイア基板10と,該サファイア基板10の主面上に形成されたAlN層20とを有し,サファイア基板10の主面10Aは,C面が0.35度以上0.55度以下のオフ角で傾斜した面であり,AlN層20の厚みは,0.3μm以上0.7μm以下であり,AlN層20の(0002)面のX線ロッキングカーブの半値幅が70秒以下であり,かつ,(10-12)面のX線ロッキングカーブの半値幅が250秒以下であり,AlN層20表面の表面粗さRaが1.1nm以下であることを特徴とする。このように,本発明に従うAlNテンプレート基板1は,高い結晶性および表面平坦性を兼ね備えることができる。」 3.甲3号証の記載 甲3号証(国際公開第2008/010541号)には,次の記載がある。 「[0001] 本発明は,III族窒化物結晶の転位を低減する技術,特に,III族窒化物結晶成長用の基板の表面層を構成する,III族窒化物結晶の転位を低減する技術に関する。」 「[0053] (実施例) 本実施例においては,(0001)面サファイアを基材1とし,MOCVD法によって,1200℃で,上部層2として(0001)面AlN層を膜厚1μmで形成することにより,2つのエピタキシャル基板10を得た。 ・・・ [0054] 次に,エピタキシャル基板10を熱処理炉の反応室内の所定位置に配置して, 1気圧に保持しつつ窒素ガスを供給し,熱処理を行った。熱処理は,それぞれの基板ごとに,(a) 1900℃で 10分,および(b) 1800℃で 60分という異なる加熱温度と時間の 組合せにて行った。これらの加熱温度は,平衡状態図の上では,サファイアとAlNとの反応によってγ-ALON層が生成しうる温度である。 [0055] 熱処理後のそれぞれのエピタキシャル基板 10に対し ΤΕΜによる断面観察を行ったところ,いずれのエピタキシャル基板 10においても,AlN層と基材 1との界面にのみγ-ALON層が形成されていることが確認された。また,それぞれのエピタキシャ ル基板 10のAlN層について熱処理後の結晶品質を評価したところ,いずれも,X線ロッキングカーブの(0002)面の半値幅が 70秒,(10-12)面の半値幅が 350秒以下であった。転位密度は,いずれも1×10^(9)/cm^(2)以下であった。」 4.甲4号証の記載 甲4号証(特開2008-60519号公報)には,次の記載がある。 「【0001】 本発明は,III族窒化物結晶の結晶品質を改善する技術,特に,転位を低減させる技術に関する。」 「【0011】 本発明は係る知見に基づくものであり,基材上にエピタキシャル形成されたAlN系III族窒化物結晶の転位の低減を容易に実現する方法を提供することを目的とする。なお,係る方法を提供することは,その上に,より転位の少ないIII族窒化物結晶を結晶成長させることが出来るエピタキシャル基板を提供することでもある。」 「【0031】 図1は,本発明の実施の形態に係る転位低減方法の適用対象であるIII族窒化物結晶を上部層2として含む,エピタキシャル基板10の断面模式図である。なお,図示の都合上,図1の図面における各層の厚みの比率および縦横の比率は,実際の比率を反映したものではない。 【0032】 上部層2は,所定の酸化物単結晶材料からなる基材1の上に形成されてなる。上部層2は,例えばMOCVD法,MBE法,HVPE法(ハイドライドを用いた気相エピタキシャル成長法),スパッタ法などの公知の成膜手法によって形成された,III族窒化物結晶からなるエピタキシャル膜である。MOCVD法には,PALE法(パルス原子層エピタキシ法;Pulsed Atomic Layer Epitaxy),プラズマアシスト法やレーザーアシスト法などが併用できる。MBE法に関しても,同様の技術を併用可能である。MOCVD法あるいはMBE法といった成長方法は,製造条件を高精度に制御することができるので,高品質な結晶を成長させることに適している。一方,HVPE法は,原料を一時に多量に供給できるため,短時間で厚膜を成長させることに適している。上部層2を形成する際に,これらの方法を組み合わせて形成することも可能である。」 「【0041】 本実施の形態においては,このような処理前基板に対して,転位の低減を目的として加熱処理を施す。図6は,係る加熱処理に用いる処理装置の一例としての熱処理炉100を示す図である。熱処理炉100は,カーボン製の炉体101の中に,図示しない治具によって1または複数のエピタキシャル基板10を保持可能とされてなる(図6では4つのエピタキシャル基板10が保持されている場合を例示)。また,窒素ガス供給源102から供給される窒素ガスを,供給管105を通じて炉体101の内部へと供給するようになっている。また,炉体101には排気口106が設けられてなる。なお,炉体101の内部は,図示しない加熱手段によって加熱されるようになっている。例えば,抵抗加熱法,RF加熱法,ランプ加熱法などを用いることができる。窒素ガスを供給しつつ炉体101の内部を加熱することで,エピタキシャル基板10が加熱処理されることになる。 【0042】 一方,図4は,処理前基板と同じ条件で作製したエピタキシャル基板10に対し,1650℃で2時間の加熱処理を施した後の断面TEM像(明視野像)を例示する図である。以降,係るエピタキシャル基板を特に,処理後基板と称することがある。 【0043】 図4においては,上部層2であるAlN中に,曲線状の転位が存在する様子が観察される。処理前基板と比べると,全体的にその分布は疎であり,界面近傍に偏在しているわけでもない。ゆえに,上部層2のどの部分においても,処理後基板の方が処理前基板よりも転位が少ないといえる。なお,平面TEMにおいて評価した,この処理後基板の上部層2の表面における転位密度は,9×10^(8)/cm^(2)であるので,界面近傍においても,おおよそ同程度の転位密度であると考えられる。」 第5 当審の判断 1.申立理由1(新規性)について (1)本件発明1について (1.1)引用発明1 上記第4の1.の摘記によれば,甲1号証には次の事項が記載されていると理解できる。 ア エピタキシャル基板の製造方法であって,主面に所定のオフ角が与えられてなる基材の該主面上に,所定の形成温度で第1のIII族窒化物結晶からなる上部層をエピタキシャル形成する形成工程と,前記形成温度よりも高い加熱温度で加熱する加熱工程と,を備えることを特徴とするエピタキシャル基板の製造方法。(請求項7) イ 結晶品質の良好なIII族窒化物結晶の生成に好適なエピタキシャル基板を提供することを目的とする発明であること。(段落0011) ウ エピタキシャル基板10は,主として基材1と上部層2とから構成され,III族窒化物結晶層の成長用下地基板として用いられること。(段落0021,0025) エ 上部層2は,基材1の上に形成されてなる,III族窒化物結晶からなるエピタキシャル膜であること。(段落0027) オ エピタキシャル基板10を下地基板としてIII族窒化物結晶による種々のデバイス層の形成に供するのに先だって,該エピタキシャル基板10に対して所定の加熱処理を行うこと。(段落0039) カ 加熱処理を行うことで,上部層2の主面2Sにおいては,図3(a)に示すように,平均間隔が約5μm,高さが3原子層高さ以上の,好ましくは20Å以上(図3においては約50Åの場合を例示)の,処理前に比して著しく大きな段差BP3が形成されること。(段落0041) キ 加熱処理によって結晶品質を改善されつつも上部層2の表面に著しく大きな段差を有するエピタキシャル基板10を,III族窒化物結晶層3の成長用下地基板として用いること。(段落0045) ク (0001)面に対し0.1°のオフ角θを与えたサファイアを基材1とし,MOCVD法によって,減圧雰囲気下1200℃で,上部層2としてAlN層を膜厚1μmで形成することにより,エピタキシャル基板10を得た後,当該エピタキシャル基板10を熱処理炉の反応室内の所定位置に配置して,1気圧に保持しつつ窒素ガスを供給し,基材1の温度を1650℃として20時間の加熱処理を行ったこと。(段落0054,0055) ケ 上記クの加熱処理の後,AlN層の結晶品質を評価したところ,AFM像においては,平均高さ40Åで平均周期が5μmの段差が明瞭に観察されたこと。(段落0056) 上記ア?ケによれば,甲1号証には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 「基材1の主面上にIII族窒化物結晶からなるエピタキシャル膜である上部層2が形成された,成長用下地基板として用いられるエピタキシャル基板10の製造方法であって, 基材1の主面上に,第1のIII族窒化物結晶からなる上部層2をエピタキシャル形成する形成工程と, 前記基材1及び前記上部層2に対し窒素ガスを供給しつつ加熱処理を行う,加熱工程と, を備え, 前記上部層2がAlN層であり, 前記加熱処理によって,上部層2の表面に平均間隔が約5μm,高さが好ましくは20Å以上の,加熱処理前に比して大きな段差が形成される, エピタキシャル基板10の製造方法。」 (1.2)対比 本件発明1と引用発明1を対比する。 ア 本件特許明細書の段落0010には「紫外波長帯で発光するLED(以下,単に「紫外LED」という。)は,その下地基板として,単結晶AlN基板や,アルミニウム(Al)を含む窒化物半導体膜を有した窒化物半導体テンプレート等が用いられる。」との記載,同段落には「窒化物半導体テンプレートは,サファイア基板やSiC基板等の異種基板上に,例えばAlN膜のようなAlを含む窒化物半導体膜が数100nm?数10μm厚で形成されてなるものであり」との記載があり,段落0017には「本実施形態で例に挙げる窒化物半導体テンプレート10は,LED等の半導体装置(半導体デバイス)を製造する際に下地基板として用いられるもので,基板状の構造体として構成されているものである。具体的には,窒化物半導体テンプレート10は,基板11と,窒化物半導体層12と,を備えて構成されている。」との記載がある。これらの記載によれば,本件発明1の「窒化物半導体テンプレート」とは,「基板」上に「窒化物半導体膜」が形成されたものであって,半導体装置を製造する際に下地基板として用いられるものであると理解できる。 一方,引用発明1の「エピタキシャル基板10」は,「基材1の主面上にIII族窒化物結晶からなるエピタキシャル膜である上部層2が形成された,成長用下地基板として用いられる」ものである。 そうすると,引用発明1の「基材1」及び「エピタキシャル基板10」は,それぞれ本件発明1の「基板」及び「窒化物半導体テンプレート」に相当し,引用発明1における「基材1の主面上にIII族窒化物結晶からなるエピタキシャル膜である上部層2が形成された,成長用下地基板として用いられるエピタキシャル基板10の製造方法」は,本件発明1における「基板上に窒化物半導体層が形成されてなる窒化物半導体テンプレートの製造方法」に相当する。 イ 引用発明1における「III族窒化物結晶からなる上部層2」は「AlN層」であるから,本件発明1における「アルミニウムを含む窒化物半導体からなる第一層」に相当する。よって,引用発明1における「基材1の主面上に,第1のIII族窒化物結晶からなる上部層2をエピタキシャル形成する形成工程」は,本件発明1における「前記基板上に,アルミニウムを含む窒化物半導体からなる第一層をエピタキシャル成長させて形成する第一層形成工程」に相当する。 ウ 引用発明1における「前記基材1及び前記上部層2に対し窒素ガスを供給しつつ加熱処理を行う,加熱工程」は,本件発明1における「前記第一層に対して不活性ガス雰囲気でアニール処理を行うアニール工程」に相当する。 エ 引用発明1では,「加熱処理によって,上部層2の表面に平均間隔が約5μm,高さが好ましくは20Å以上の,加熱処理前に比して大きな段差が形成される」から,本件発明1と引用発明1は,ともに「前記アニール工程後の前記第一層の表面の表面粗さRMSを,前記第一層形成工程後で前記アニール工程前における前記第一層の表面の表面粗さRMSよりも大きくする」ものであるといえる。 上記ア?エによれば,本件発明1と引用発明1の一致点及び相違点は以下のとおりである。 <一致点> 「基板上に窒化物半導体層が形成されてなる窒化物半導体テンプレートの製造方法であって, 前記基板上に,アルミニウムを含む窒化物半導体からなる第一層をエピタキシャル成長させて形成する第一層形成工程と, 前記第一層に対して不活性ガス雰囲気でアニール処理を行うアニール工程と, を備え, 前記アニール工程後の前記第一層の表面の表面粗さRMSを,前記第一層形成工程後で前記アニール工程前における前記第一層の表面の表面粗さRMSよりも大きくする 窒化物半導体テンプレートの製造方法。」 <相違点1> 本件発明1は,「前記アニール工程後の前記第一層上に,アルミニウムを含む窒化物半導体からなる第二層を気相成長によりエピタキシャル成長させて形成し,前記第一層と前記第二層とで前記窒化物半導体層を構成する第二層形成工程」を備えるのに対して,引用発明1は当該工程を備えることが特定されていない点。 (1.3)小括 以上のとおり,本件発明1と引用発明1は上記相違点1について相違するから,本件発明1は引用発明1と同一ではない。 したがって,本件発明1は甲1号証に記載された発明ではない。 (2)本件発明3,5,6について 本件発明3,5,6は,いずれも本件発明1の全ての構成を有する発明であるから,本件発明1と同様に,甲1号証に記載された発明ではない。 (3)申立理由1についてのまとめ 上記(1)(2)のとおり,本件発明1,3,5,6は甲1号証に記載された発明ではないから,特許法29条1項3号に該当する発明ではない。 2.申立理由2(進歩性)について (1)本件発明1について (1.1)対比 本件発明1と引用発明1の一致点及び相違点は,上記1.(1)(1.2)に一致点及び相違点1として記載したとおりである。 (1.2)相違点についての判断 甲1号証の段落0057,0058には,加熱処理を行った後,MOCVD法によりGaN層又はAl_(0.2)Ga_(0.8)N層を膜厚5μm形成することが記載されている。 しかしながら,これらはいずれも基材1及びAlN層からなる「エピタキシャル基板10」に対して形成されたIII族窒化物結晶であって,上記GaN層又はAl_(0.2)Ga_(0.8)N層は,「成長用下地基板として用いられるエピタキシャル基板10」を構成するものではない。すなわち,上記GaN層又はAl_(0.2)Ga_(0.8)N層は,上記AlN層とで「エピタキシャル基板10」の上部層2を構成するものではなく,本件発明1における「第二層」に相当するものとはいえないから,甲1号証には,上記相違点1の「第二層形成工程」は記載も示唆もされていない。 また,甲2号証には,サファイア基板10と,該サファイア基板10の主面上に形成されたAlN層20とを有するAlNテンプレート基板が記載され,当該AlN層20に対して熱処理を行うことが記載されている。甲3号証には,(0001)面サファイアを基材1に上部層2として(0001)面AlN層を膜厚1μmで形成したエピタキシャル基板10を熱処理炉の反応室内の所定位置に配置して,1気圧に保持しつつ窒素ガスを供給し,熱処理を行うことが記載されている。甲4号証には,III族窒化物結晶を上部層2として含むエピタキシャル基板10に対して,転移の低減を目的として,窒素ガスを供給しつつ加熱処理を施すことが記載されている。 しかしながら,甲2?4号証のいずれにも,加熱処理後のエピタキシャル基板のAlN層上に「第二層」をエピタキシャル成長させて,AlN層と「第二層」とでエピタキシャル基板の上部層を構成する工程は,記載も示唆もされていない。 そうすると,引用発明1に基づいて上記相違点1に係る本件発明1を想到することは,甲1号証ないし甲4号証に記載された技術的事項から当業者が容易になし得たことではない。 (2)本件発明2について (2.1)対比 本件発明2と引用発明1を対比すると,本件発明2と引用発明1の一致点及び相違点は,以下のとおりとなる。 <一致点> 「基板上に窒化物半導体層が形成されてなる窒化物半導体テンプレートの製造方法であって, 前記基板上に,アルミニウムを含む窒化物半導体からなる第一層をエピタキシャル成長させて形成する第一層形成工程と, 前記第一層に対して不活性ガス雰囲気でアニール処理を行うアニール工程と, を備えた, 窒化物半導体テンプレートの製造方法。」 <相違点1a> 本件発明2は「前記アニール工程後の前記第一層上に,アルミニウムを含む窒化物半導体からなる第二層を気相成長によりエピタキシャル成長させて形成し,前記第一層と前記第二層とで前記窒化物半導体層を構成する第二層形成工程」を備えるのに対し,引用発明1は当該工程を備えることが特定されていない点。 <相違点2> 本件発明2は「前記第一層形成工程,前記アニール工程および前記第二層形成工程を,同一の成長装置を用いて連続的に行う」のに対し,引用発明1は当該事項が特定されていない点。 (2.2)相違点についての判断 上記相違点1aは,上記1.(1)の(1.2)で認定した相違点1と同一であるから,上記2.(1)の(1.2)で示した理由と同様に,甲1号証ないし甲4号証に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得たものではない。 したがって,他の相違点について検討するまでもなく,本件発明2は,引用発明1及び甲1号証ないし甲4号証に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得たものではない。 (3)本件発明3?6について 本件発明3?6は,いずれも本件発明1又は本件発明2の全ての構成を有する発明であるから,本件発明1又は本件発明2について示した理由と同様に,引用発明1及び甲1号証ないし甲4号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。 (4)申立理由2についてのまとめ 以上のとおり,本件発明1?6は,引用発明1及び甲1号証ないし甲4号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。 3.申立理由3(新規性)について 申立理由3の要旨は,本件発明4は甲4号証に記載された発明と同一であるというものであるから,この点について以下検討する。 (1)引用発明4 上記第4の4.の摘記によれば,甲4号証には次の事項が記載されていると理解できる。 ア 基材上にエピタキシャル形成されたAlN系III族窒化物結晶の転位の低減を容易に実現する方法を提供することで,その上に,より転位の少ないIII族窒化物結晶を結晶成長させることが出来るエピタキシャル基板を提供すること。(段落0011) イ III族窒化物結晶を上部層2として含む,エピタキシャル基板10であること。(段落0031) ウ 基材1の上にIII族窒化物結晶からなるエピタキシャル膜である上部層2を形成すること。(段落0032) エ 処理前のエピタキシャル基板10に対して,転移の低減を目的として,窒素ガスを供給しつつ加熱処理を施すこと。(段落0041) オ 加熱処理後のエピタキシャル基板10の上部層2の表面における転位密度は,9×10^(8)/cm^(2)であること。(段落0043) 上記ア?オによれば,甲4号証には次の発明(以下「引用発明4」という。)が記載されているものと認められる。 「より転移の少ないIII族窒化物結晶を結晶成長させることが出来る,III族窒化物結晶を上部層2として含む,エピタキシャル基板10を提供する方法であって, 基材1の上にIII族窒化物結晶からなるエピタキシャル膜である上部層2を形成して処理前のエピタキシャル基板10を得ることと, 処理前のエピタキシャル基板10に対して,転移の低減を目的として,窒素ガスを供給しつつ加熱処理を施すことを含み, 加熱処理後のエピタキシャル基板の上部層2の表面における転位密度は,9×10^(8)/cm^(2)である, エピタキシャル基板10を提供する方法。」 (2)対比 本件発明4は,少なくとも本件発明1又は本件発明2のいずれかの構成を全て含む発明である。そこで,はじめに本件発明1と引用発明4を対比すると,以下のようになる。 ア 引用発明4における「基材1」及び「上部層2」が,本件発明1における「基板」及び「第一層」に相当する。 イ 引用発明4における「より転移の少ないIII族窒化物結晶を結晶成長させることが出来る,III族窒化物結晶を上部層2として含む,エピタキシャル基板10」は,本件発明1における「基板上に窒化物半導体層が形成されてなる窒化物半導体テンプレート」に相当する。 ウ 上記イから,引用発明4における「より転移の少ないIII族窒化物結晶を結晶成長させることが出来る,III族窒化物結晶を上部層2として含む,エピタキシャル基板10を提供する方法」は,本件発明1における「基板上に窒化物半導体層が形成されてなる窒化物半導体テンプレートの製造方法」に相当する。 エ 引用発明4における「基材1の上にIII族窒化物結晶からなるエピタキシャル膜である上部層2を形成して処理前のエピタキシャル基板10を得ること」は,本件発明1における「前記基板上に,アルミニウムを含む窒化物半導体からなる第一層をエピタキシャル成長させて形成する第一層形成工程」に相当する。 オ 引用発明4における「処理前のエピタキシャル基板10に対して,転移の低減を目的として,窒素ガスを供給しつつ加熱処理を施すこと」は,本件発明4における「前記第一層に対して不活性ガス雰囲気でアニール処理を行うアニール工程」に相当する。 以上によれば,本件発明1と引用発明4の一致点及び相違点は以下のとおりとなる。 <一致点> 「基板上に窒化物半導体層が形成されてなる窒化物半導体テンプレートの製造方法であって, 前記基板上に,アルミニウムを含む窒化物半導体からなる第一層をエピタキシャル成長させて形成する第一層形成工程と, 前記第一層に対して不活性ガス雰囲気でアニール処理を行うアニール工程と, を備えた, 窒化物半導体テンプレートの製造方法。」 <相違点4a> 本件発明1では,「前記アニール工程後の前記第一層上に,アルミニウムを含む窒化物半導体からなる第二層を気相成長によりエピタキシャル成長させて形成し,前記第一層と前記第二層とで前記窒化物半導体層を構成する第二層形成工程」を備えるのに対し,引用発明4では,当該工程を備えることが特定されていない点。 <相違点4b> 本件発明1では「前記アニール工程後の前記第一層の表面の表面粗さRMSを,前記第一層形成工程後で前記アニール工程前における前記第一層の表面の表面粗さRMSよりも大きくする」のに対し,引用発明4では,加熱処理前と加熱処理後の表面粗さRMSについて特定されていない点。 次に,上記ア?オをふまえ,本件発明2と引用発明4を対比すると,両者の一致点及び相違点は以下のとおりとなる。 <一致点> 「基板上に窒化物半導体層が形成されてなる窒化物半導体テンプレートの製造方法であって, 前記基板上に,アルミニウムを含む窒化物半導体からなる第一層をエピタキシャル成長させて形成する第一層形成工程と, 前記第一層に対して不活性ガス雰囲気でアニール処理を行うアニール工程と, を備えた, 窒化物半導体テンプレートの製造方法。」 <相違点4a’> 本件発明2では,「前記アニール工程後の前記第一層上に,アルミニウムを含む窒化物半導体からなる第二層を気相成長によりエピタキシャル成長させて形成し,前記第一層と前記第二層とで前記窒化物半導体層を構成する第二層形成工程」を備えるのに対し,引用発明4では,当該工程を備えることが特定されていない点。 <相違点4c> 本件発明2では,「前記第一層形成工程,前記アニール工程および前記第二層形成工程を,同一の成長装置を用いて連続的に行う」のに対し,引用発明4では,各工程を「同一の成長装置を用いて連続的に行う」ことが特定されていない点。 上記相違点のうち,相違点4a及び4a’は,上記1.(1)の(1.2)で指摘した相違点1と同一である。そして,上記2.(2)の(1.2)で検討したとおり,相違点1に係る事項は,甲4号証には記載も示唆もされていない事項である。 そうすると,本件発明1又は本件発明2のうちいずれかの構成を全て含む発明である本件発明4と引用発明4とは,相違点4a又は4a’について相違するから,本件発明4は引用発明4と同一ではない。 (3)申立理由3についてのまとめ 以上のとおり,本件発明4は甲4号証に記載された発明ではないから,特許法29条1項3号に該当する発明ではない。 4.申立理由4(実施可能要件)について (1)本件発明1について 本件特許明細書の発明の詳細な説明(以下「本件明細書」という。)には,本件発明1に特定される各工程に対応する記載として,以下のような記載が見られる。 ア 「前記基板上に,アルミニウムを含む窒化物半導体からなる第一層をエピタキシャル成長させて形成する第一層形成工程」については,本件明細書の段落0046?0052に,HVPE装置を用いて成膜を行うことが記載され,導入するガスの種類や流量,成長温度や成膜する厚さについて説明されている。 イ 「前記第一層に対して不活性ガス雰囲気でアニール処理を行うアニール工程」については,本件明細書の段落0054にN_(2)ガス雰囲気でアニールを行うことが記載されており,段落0056?0058及び図4には,「第一層13の厚さが100nm,200nm,320nm,460nm,570nm,800nm,840nm,1020nmのいずれかであり,アニール無しの場合またはアニール温度が1500?1850℃であり,アニール処理の時間が1時間」の場合のXRC測定の(10-12)半値幅の測定結果等から,「第一層13の厚さが100?800nmの範囲で,アニール処理を1600?1800℃の温度範囲で,かつ,30?180分の時間で行う。」(段落0058)との具体的条件が導出されることが記載されている。 ウ 「前記アニール工程後の前記第一層上に,アルミニウムを含む窒化物半導体からなる第二層を気相成長によりエピタキシャル成長させて形成し,前記第一層と前記第二層とで前記窒化物半導体層を構成する第二層形成工程」については,本件明細書の段落0063?0068に,HVPE装置を用いた具体的な成膜条件が記載されている。 エ 「前記アニール工程後の前記第一層の表面の表面粗さRMSを,前記第一層形成工程後で前記アニール工程前における前記第一層の表面の表面粗さRMSよりも大きくする」ことについて,本件明細書の段落0060には「具体的には,第一層形成工程(S2)後でアニール工程(S3)前の第一層13の表面の表面粗さRMSが0.3?10nmであるのに対して,アニール工程(S3)後の第一層13の表面の表面粗さRMSが1?50nmであるといったように,それぞれの表面粗さRMSに変化が生じる。」との記載がある。 また,本件明細書の段落0061には「すなわち,表面が荒れている場合には,転位が存在していなくても,表面での原子位置あるいは格子面の向きに付加的な自由度が生じるため,(0002)回折あるいは(0004)回折の半値幅が大きく観測される場合がある。このことから考えて,少なくともアニール温度が1800℃以下の範囲では,図4でみられる(0002)回折の半値幅の増大は,第一層13の転位密度の増大を反映したものではなく,表面荒れによるものと考えられる。」との記載があり,表面粗さが大きくなるとXRC測定の(0002)回折の半値幅が大きくなることが説明されている。 そして,同じ段落0061には,第一層の厚さとアニール温度の関係についての段落0056?0058に記載された実験について,「例えば,第一層13の表面に対するXRC測定の(0002)回折あるいは(0004)回折の半値幅については,アニール工程(S3)後の値が,第一層形成工程(S2)後でアニール工程(S3)前における値よりも大きくなる。具体的には,図4に示したように,第一層形成工程(S2)後でアニール工程(S3)前の第一層13の表面に対するXRC測定の(0002)回折あるいは(0004)回折の半値幅は,第一層13の厚さが少なくとも800nm以下の場合には,50?200秒である。これに対して,アニール工程(S3)後の第一層13の表面に対するXRC測定の(0002)回折あるいは(0004)回折の半値幅は,1600?1800℃のアニール処理に対して,100?600秒であるといったように,アニール処理前後でそれぞれの値に変化が生じる。」と記載され,第一層の厚さが800nm以下,1600?1800℃のアニール処理において,アニール工程後の表面粗さがアニール工程前の表面粗さより大きくなることが示されていると理解できる。 上記ア?エのとおり,本件明細書は,本件発明1に係る各工程について具体的な記載がされているから,当業者が本件発明1を実施できる程度に明確かつ十分に説明されたものといえる。 (2)本件発明3?6について 本件発明3に係る事項については,本件明細書の段落0050に具体的な厚さが例示されている。 本件発明4に係る事項については,本件明細書の段落0055に,「平均転位密度が1×10^(9)個/cm^(2)以下となる場合には,XRC測定の(10-12)回折の半値幅が概ね400秒以下となることに対応している。」と記載され,段落0057には,XRC測定の(10-12)回折の半値幅が400秒以下となるアニール温度が,第一層の厚さが320nm以下の場合には1600?1800℃,第一層の厚さが460nmの場合には1720?1800℃の範囲であり,この条件において,転位密度に換算して1×10^(9)個/cm^(2)以下となっていることが記載されている。 本件発明5に係る事項については,本件明細書の段落0063?0067において,具体的な成膜条件が記載されている。 本件発明6に係る事項については,本件明細書の段落0022に記載されている。 したがって,本件明細書には,本件発明3?6に係る事項について具体的な記載がされているから,当業者が本件発明3?6を実施可能な程度に明確かつ十分に説明されたものといえる。 (3)申立理由4についてのまとめ 以上のとおり,本件特許明細書の発明の詳細な説明は,本件発明1,3?6を当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に記載されたものである。 5.申立理由5(サポート要件)について 上記4.で示したとおり,本件発明1,3?6に特定される事項は,いずれも本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された事項である。 したがって,本件発明1,3?6は,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であり,サポート要件を満たすものである。 第6 結言 したがって,本件特許の請求項1?6に係る特許は,特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては,取り消すことはできない。また,他に本件特許の請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-10-13 |
出願番号 | 特願2016-236873(P2016-236873) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(H01L)
P 1 651・ 121- Y (H01L) P 1 651・ 536- Y (H01L) P 1 651・ 537- Y (H01L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 佐藤 靖史 |
特許庁審判長 |
恩田 春香 |
特許庁審判官 |
小川 将之 小田 浩 |
登録日 | 2020-12-15 |
登録番号 | 特許第6810406号(P6810406) |
権利者 | 住友化学株式会社 国立大学法人三重大学 株式会社サイオクス |
発明の名称 | 窒化物半導体テンプレートの製造方法 |
代理人 | 福岡 昌浩 |
代理人 | 福岡 昌浩 |
代理人 | 橘高 英郎 |
代理人 | 福岡 昌浩 |
代理人 | 橘高 英郎 |
代理人 | 橘高 英郎 |