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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C01B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C01B |
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管理番号 | 1378788 |
異議申立番号 | 異議2021-700474 |
総通号数 | 263 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-11-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-05-18 |
確定日 | 2021-10-22 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6811361号発明「クロロシラン類の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6811361号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第6811361号(以下、「本件特許」という。)の請求項1及び2に係る特許についての出願は、2020年(令和2年)2月26日(優先権主張 平成31年3月5日 (JP)日本国)を国際出願日として特許出願され、令和2年12月16日にその特許権の設定登録がされ、令和3年1月13日に特許掲載公報が発行された。 その後、請求項1及び2に係る特許に対して、令和3年5月18日に特許異議申立人須田正義(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。 2 本件発明 本件特許の請求項1及び2の特許に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 流動床方式反応装置内で金属シリコンの塩素化反応によりクロロシラン類を製造するに際し、上記金属シリコンとして、ナトリウムの含量が元素換算で1ppm以上90ppm以下、アルミニウムの含量が元素換算で1000ppm以上、4000ppm以下の金属シリコンを使用することを特徴とするクロロシラン類の製造方法。 【請求項2】 前記金属シリコンの平均粒径が150?400μmである請求項1に記載のクロロシラン類の製造方法。」 3 申立理由の概要 申立人は、甲第1号証(特表2007-513048号公報)を提出し、本件発明1及び2に係る特許は、以下の理由により、取り消すべきものである旨を主張する。 (1)申立理由1 本件発明1及び2は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するため取り消されるべきものである。 (2)申立理由2 本件特許は、特許請求の範囲の記載が後記6(1)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当するため取り消されるべきものである。 4 甲号証について (1)甲第1号証の記載事項 甲第1号証には、「太陽電池グレードのケイ素を生産するための、冶金グレードのケイ素から不純物を除去する方法」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。なお、下線は、当審が付した。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 太陽電池グレードのケイ素として適したケイ素を生産するために、冶金グレードのケイ素から金属不純物と非金属不純物を除去することによるケイ素の精製方法であって、(i)金属不純物と非金属不純物とを含む冶金グレードのケイ素を、約5ミリメートル未満の平均径を有するケイ素の粒子からなるケイ素パウダーに粉砕する工程;(ii)前記粉砕したケイ素パウダーを固体状態に維持しながら、前記粉砕したケイ素パウダーをケイ素の融点未満の温度に減圧下で加熱する工程;及び(iii)少なくとも一つの金属または非金属不純物を除去可能な十分な期間で、前記加熱した粉砕ケイ素パウダーを前記温度で維持する工程、を含む方法。 【請求項2】 前記温度が約1000℃から1410℃未満の温度の間である、請求項1に記載の方法。 【請求項3】 前記不純物がリンである、請求項1または2に記載の方法。 【請求項4】 前記ケイ素の粒子が約5ミリメートル未満の直径を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。 【請求項5】 前記処理雰囲気の圧力が約0.5Torr/66.66Pa未満である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。 【請求項6】 前記粉砕したケイ素パウダーがトレーに配置され、加熱の間で層に均一に分配される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。」 イ 「【0001】 本発明は、太陽電池グレード(SG)のケイ素を生産するための、冶金グレード(MG)のケイ素から不純物、特にリンを除去する方法に関する。特に本発明によれば、従来法によって一般的に実施されている溶融状態よりはむしろ固体状態で、冶金グレードのケイ素を処理する。冶金グレードのケイ素は、反応を通じて固体状態を維持する。」 ウ 「【0022】 実施例1 この実施例によれば、ケイ素からのリンの除去に関するいくつかの稼動工程が、本発明に係る方法を使用して実施され、以下に要約されて表1に示される。このデータは、異なる処理雰囲気を使用して得られた結果を示す。表1の第1欄は、第2-4欄に示された処理サンプルに対する開始材料として使用されたケイ素パウダーの分析を提供する。工程が約1370℃で36時間維持された際に、760Torr(10,1325Pa)のアルゴン雰囲気下で約23%の除去効率(表1第2欄)、及び0.5Torr(66.66Pa)の圧力で約76%の除去効率(表1第3欄)で、リンがケイ素から除去できる。より低い全圧力条件は、ずっと良好なリンの除去効率を生じた。表1はまた、カルシウム、銅、マグネシウム、マンガン、ナトリウム、スズ、及び亜鉛のような不純物についても有意な除去が得られたことを示す。これらの処理の間でのアルミニウム濃度の増大は、アルミナ坩堝からの混在のためであり、これは実施例2に示される。他方で、処理雰囲気がアルゴン中に3モル%を含む場合、リンは除去されず(表1第4欄)、これは不活性酸化物層が形成すると解される条件を構成する。 【0023】 【表1】 【0024】 リンの除去効率は、約0.2インチ/0.5cmの深さを有するトレーの層において、真空下で1370℃で処理されたパウダーサンプルについて約23-76%であったことが表1で観察できる。最も高い除去効率、即ち76%は、パウダーサンプル中により高い初期リン濃度が存在する場合に達成された。リンの場合、粒子表面とその嵩の間で形成される濃度勾配により、冶金グレードのケイ素粒子から前記元素が拡散すると解される。拡散理論によれば、除去速度は濃度勾配が上昇すると増大する。」 エ 「【0034】 冶金グレードのケイ素のアップグレードは、太陽電池の組み立てのために使用される太陽電池グレードのケイ素の低コストの供給を生み出す任意の手段を与える。上述のように、実行可能な道を提供するために、当業者は、重量ミリオン当たり数千部(数千ppmw)から1ppmw未満に、冶金グレードのケイ素中のほとんどの不純物を低下する必要がある。クロム、銅、鉄、マンガン、モリブデン、ニッケル、チタン、バナジウム、タングステン、及びジルコニウムのような遷移金属における不純物は、その比較的低い凝離係数のため、凝離方法によって除去するのが容易である。」 (2)甲第1号証に記載された発明(甲1発明)について 前記(1)ア、ウ及びエの記載を、実施例1の表1第3欄に記載された「ケイ素の精製方法」に注目して整理すると、甲第1号証には、 「太陽電池グレードのケイ素として適したケイ素を生産するために、冶金グレードのケイ素から金属不純物と非金属不純物を除去することによるケイ素の精製方法であって、(i)金属不純物と非金属不純物とを含む冶金グレードのケイ素を、90?300μmの平均径を有するケイ素の粒子からなるケイ素パウダーに粉砕する工程;(ii)前記粉砕したケイ素パウダーをアルミナ坩堝に配置し、固体状態に維持しながら、前記粉砕したケイ素パウダーを1370℃の温度に0.2?0.5Torrの減圧下で加熱する工程;及び(iii)前記加熱した粉砕ケイ素パウダーを前記温度で36時間維持する工程を含み、前記粉砕したケイ素パウダーが、Alを1663ppmw、Caを465ppmw、Cuを73ppmw、Mgを11.3ppmw、Mnを152ppmw、Naを12ppmw、Pを47ppmw、Snを2.8ppmw、Znを10ppmwで含有しているケイ素パウダーである、方法。」 の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 5 申立理由1に対する判断 (1)本件発明1について ア 本件発明1と甲1発明との対比 甲1発明の「冶金グレードのケイ素」を「粉砕したケイ素パウダー」は、本件発明1の「金属シリコン」に相当する。 また、本件発明1の「ナトリウムの含量」及び「アルミニウムの含量」は、本件特許明細書の段落【0027】の記載からして、質量基準の数値といえるから、甲1発明の「Naを12ppmw」、「Alを1663ppmw」で含有していることは、本件発明1の「ナトリウムの含量が元素換算で1ppm以上90ppm以下、アルミニウムの含量が元素換算で1000ppm以上、4000ppm以下」との特定事項を満足する。 したがって、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、それぞれ、次のように認定することができる。 <一致点> 「ナトリウムの含量が元素換算で1ppm以上90ppm以下、アルミニウムの含量が元素換算で1000ppm以上、4000ppm以下の金属シリコンを使用する、方法。」の点。 <相違点> 本件発明では、流動床方式反応装置内で金属シリコンの塩素化反応によりクロロシラン類を製造しているのに対して、甲1発明では、ケイ素パウダーを加熱して、太陽電池グレードのケイ素として適したケイ素に精製している点。 イ 相違点の検討 甲第1号証には、上記4(1)イによれば、太陽電池グレードのケイ素を生産するための、冶金グレードのケイ素から不純物、特にリンを除去する精製方法に関する事項が記載されているといえるものの、当該冶金グレードのケイ素を原料にしてクロロシラン類を製造することは記載も示唆もされていないし、また、太陽電池グレードのケイ素を生産するためのケイ素原料を、クロロシラン類の製造のケイ素原料に使用できるとの技術常識を示す証拠もないから、甲第1号証において、甲1発明のケイ素パウダーを、クロロシラン類を製造する方法に使用する動機付けは存在しないというほかない。 したがって、流動床方式反応装置内で金属シリコンの塩素化反応によりクロロシラン類を製造することが周知技術であるか否かに関わらず、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明(甲1発明)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)本件発明2について 本件発明2は、本件発明1の特定事項の全てを含むものであるから、上記(1)に示した理由と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)小括 以上で検討したとおりであるから、申立理由1に理由はない。 6 申立理由2に対する判断 (1)申立人の主張について 申立人の主張する記載不備は、要するに、発明の詳細な説明の実施例に記載された、粗金属シリコンのナトリウム含量、アルミニウム含量、及び、平均粒子径の各数値範囲からは、本件発明1の「ナトリウムの含量が元素換算で1ppm以上90ppm以下」、「アルミニウムの含量が元素換算で1000ppm以上、4000ppm以下」、及び、本件発明2の「金属シリコンの平均粒径が150?400μm」との数値範囲にまで拡張ないし一般化できないというものである(第8頁の「(4-4-1)」の項目)。 (2)申立人の主張の検討 ア 発明の詳細な説明の段落【0002】?【0014】の記載からみて、本件発明の課題は、金属シリコンと塩化水素との反応により、クロロシラン類を製造するに際し、一般に冶金級と呼ばれる低純度シリコンを原料とする際に、流動床方式反応装置内において金属シリコンの凝集や反応壁への付着を防止し、安定してクロロシラン類を製造し得る方法を提供することにあるといえるところ、同段落【0045】?【0047】に記載された実施例1?4には、流動床方式反応装置にて、ナトリウム含量が5?79ppm、アルミニウム含量が1600?2100ppm、平均粒径が200?280μmである粗金属シリコンと塩化水素とを反応させて、クロロシラン類を生成する製造方法が具体的に記載され、同段落【0047】の【表1】によれば、当該実施例1?4の製造方法は、ナトリウム含量が110ppm、アルミニウム含量が1700ppm、平均粒径が190μmである粗金属シリコンを使用した比較例1の製造方法に比べて、二量体生成量が小さく、シリコン塊の生成も少なくなっていることが分かるから、前記実施例1?4の製造方法であれば、当業者において、本件発明の課題を解決できると認識できるということができる。 イ そして、発明の詳細な説明には、「原料である粗金属シリコン中には比較的多量のアルミニウム成分が含まれていることは知られていた。・・・しかし、アルミニウムが前記問題を引き起こすことは報告された例はない。ところが、上記粗金属シリコンの製造過程において、ナトリウムが多量に混入した場合に前記現象が起こることが本発明者らによって確認された。この現象を鋭意探索したところ、ナトリウムの混入による低融点の複塩の生成、およびこれによる金属シリコン粉末の融着により、シリコン塊の生成、反応装置内壁へのシリコンの付着が起こると推測した。」(段落【0015】)こと、「上記粗金属シリコンに含まれるナトリウム成分が特定量を超えた場合に、元来粗金属シリコンに含まれるアルミニウム成分と流動床内で反応して低融点の複塩を形成し、前記粗金属シリコン粉の凝集や流動床方式反応装置内壁への金属シリコンの付着を引き起こすという知見を得た。上記知見に基づき、粗金属シリコンのナトリウムの含量を特定値以下となるように管理することにより、前記問題を全て解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。」(段落【0017】)こと、及び、「原料として使用する粗金属シリコンのナトリウムの含量を、元素換算の質量で1ppm以上90ppm以下・・・とする。粗金属シリコンにおけるアルミニウムの含量は、通常の2Nグレードの金属シリコンと同様であり、元素換算の質量で1000ppm以上、4000ppm以下・・・である。」(段落【0027】)ことが記載されており、これらの記載を併せ考えると、当業者において、クロロシラン類の製造に使用する粗金属シリコンは、通常、アルミニウム含量が元素換算で1000?4000ppmであって、このような粗金属シリコンにおいて、ナトリウム含量を特定値以下に管理することで、複塩の生成を抑制でき、金属シリコン粉の凝集や付着を抑制できることを認識することができる。 加えて、上記実施例及び比較例によれば、ナトリウム含量が順に、110ppm(比較例1)、79ppm(実施例4)、30ppm(実施例3)と小さくなるほど、二量体生成量が小さく、シリコン塊の生成も少なくなる傾向が見て取れるから、前記粗金属シリコンのナトリウム含量が、段落【0027】に記載された「元素換算の質量で1ppm以上90ppm以下」の範囲においても、上記実施例1?4と同様に、本件発明の課題を解決できることを当業者であれば認識することができる。 したがって、当業者であれば、発明の詳細な説明の実施例の粗金属シリコンのナトリウム含量及びアルミニウム含量の数値に基づいて、本件発明1の「ナトリウムの含量が元素換算で1ppm以上90ppm以下」、「アルミニウムの含量が元素換算で1000ppm以上、4000ppm以下」との数値範囲にまで拡張ないし一般化できると認識できる。 ウ また、発明の詳細な説明には、「本発明において、前記金属シリコンは、流動床において流動化し得る大きさのものであればよく、平均粒径が150?400μm・・・のものが好適である。」(段落【0037】)ことが記載されているから、金属シリコンの平均粒径は、本件発明の課題に直接影響するものでなく、単に流動床での金属シリコンの流動化のために好適化したものであると理解できるので、当業者において、発明の詳細な説明の実施例の記載を、本件発明2の「金属シリコンの平均粒径が150?400μm」との数値範囲にまで拡張ないし一般化できると認識できる。 (3)小括 以上のとおり、申立人が主張する記載不備は存在しないから、申立理由2に理由はない。 7 むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-10-12 |
出願番号 | 特願2020-532067(P2020-532067) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(C01B)
P 1 651・ 121- Y (C01B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 廣野 知子 |
特許庁審判長 |
日比野 隆治 |
特許庁審判官 |
金 公彦 宮澤 尚之 |
登録日 | 2020-12-16 |
登録番号 | 特許第6811361号(P6811361) |
権利者 | 株式会社トクヤマ |
発明の名称 | クロロシラン類の製造方法 |
代理人 | 前田・鈴木国際特許業務法人 |