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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05B 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B |
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管理番号 | 1379069 |
審判番号 | 不服2021-1422 |
総通号数 | 264 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-12-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2021-02-02 |
確定日 | 2021-10-14 |
事件の表示 | 特願2016- 94777「通電加熱パネル、及び乗物」拒絶査定不服審判事件〔平成29年11月16日出願公開、特開2017-204362〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成28年5月10日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 令和2年 1月10日付け:拒絶理由通知書 令和2年 5月21日 :意見書の提出 令和2年10月23日付け:拒絶査定 令和3年 2月 2日 :審判請求書、同時に手続補正書の提出 第2 令和3年2月2日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和3年2月2日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について(補正の内容) (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。) 「透明な第一のパネルと、 前記第一のパネルに対して間隔を有して配置された透明な第二のパネルと、前記第一のパネルと前記第二のパネルとの前記間隔に配置された加熱電極装置と、 前記第二のパネルと前記加熱電極装置との間に配置された接着剤層であるパネル用接着剤層と、を備え、 前記加熱電極装置は、 基材層と、 前記基材層のうち前記パネル用接着剤層側に積層された接着剤層である発熱導体用接着剤 層と、 前記基材層に前記発熱導体用接着剤層を介して接着された金属からなる発熱導体と、を備 え、 前記パネル用接着剤層と前記発熱導体用接着剤層とは少なくとも一部で直接接触して積 層されており、前記パネル用接着剤層の屈折率と前記発熱導体用接着剤層との屈折率差が 0以上0.1未満であり、 複数の前記発熱導体のピッチをP(mm)とし、前記発熱導体の厚さ方向の一方の面の平面視における長さ0.01mあたりの表面積をS_(B)(μm^(2))、当該一方の面の反対側となる他方の面の平面視における長さ0.01mあたりの表面積をS_(T)(μm^(2))としたとき、 0.1mm≦P≦5.00mm 0μm^(2)<S_(B)-S_(T)≦30000μm^(2) であり、 前記発熱導体は、その延びる方向に直交する断面において、前記S_(B)(μm^(2))側の辺の大きさをW_(B)(μm)とし、前記S_(T)(μm^(2))側の辺の大きさをW_(T)(μm)としたとき、 W_(B)>W_(T)、 3μm≦W_(B)≦15μm、及び 1μm≦W_(T)≦12μm である、 通電加熱パネル。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の、願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 「透明な第一のパネルと、 前記第一のパネルに対して間隔を有して配置された透明な第二のパネルと、 前記第一のパネルと前記第二のパネルとの前記間隔に配置された加熱電極装置と、 前記第二のパネルと前記加熱電極装置との間に配置された接着剤層であるパネル用接着剤層と、を備え、 前記加熱電極装置は、 基材層と、 前記基材層のうち前記パネル用接着剤層側に積層された接着剤層である発熱導体用接着剤層と、 前記基材層に前記発熱導体用接着剤層を介して接着された発熱導体と、を備え、 前記パネル用接着剤層と前記発熱導体用接着剤層とは少なくとも一部で直接接触して積層されており、前記パネル用接着剤層の屈折率と前記発熱導体用接着剤層との屈折率差が0以上0.1未満である、 通電加熱パネル。」 2 補正の適否 本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「発熱導体」の材料、ピッチ、平面視における長さ0.01mあたりの表面積、その延びる方向に直交する断面における辺の大きさについて、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。 (2)引用文献の記載事項 ア 引用文献1 (ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2016-44096号公報(平成28年4月4日出願公開。以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は当審が付した。以下、同様。) 「【0018】 図1に示されているように、乗り物の一例としての自動車1は、フロントウィンドウ、リアウィンドウ、サイドウィンドウ等の窓ガラスを有している。ここでは、フロントウィンドウ5が合わせガラス10で構成されているものを例示する。また、自動車1はバッテリー等の電源7を有している。 【0019】 この合わせガラス10をその板面の法線方向から見たものを図2に示す。また、図2の合わせガラス10のIII-III線に対応する横断面図を図3に示す。図3に示された例では、合わせガラス10は、第1ガラス板11、第1接合層21、メッシュシート40、第2接合層22、第2ガラス板12がこの順に積層されている。また、メッシュシート40は、基材41、基材41上に積層された保持層42、および、保持層42上に積層された導電性メッシュ30を有している。なお、図1および図2に示した例では、合わせガラス10は湾曲しているが、図3、図13および図14では、図示の簡略化および理解の容易化のために、合わせガラス10,100,110を平板状に図示している。 【0020】 また、図2および図4によく示されているように、合わせガラス10は、導電性メッシュ30に通電するための配線部15と、導電性メッシュ30と配線部15とを接続する接続部16とを有している。図示された例では、バッテリー等の電源7から、配線部15及び接続部16を介して導電性メッシュ30に通電し、導電性メッシュ30を抵抗加熱により発熱させる。導電性メッシュ30で発生した熱はガラス板11,12に伝わり、ガラス板11,12が温められる。これにより、ガラス板11,12に付着した結露による曇りを取り除くことができる。また、ガラス板11,12に雪や氷が付着している場合には、この雪や氷を溶かすことができる。したがって、乗員の視界が良好に確保される。」 「【0024】 次に、接合層21,22について説明する。第1接合層21は、第1ガラス板11とメッシュシート40との間に配置され、第1ガラス板11とメッシュシート40とを互いに接合する。第2接合層22は、第2ガラス板12とメッシュシート40との間に配置され、第2ガラス板12とメッシュシート40とを互いに接合する。 【0025】 このような接合層21,22としては、種々の接着性または粘着性を有した材料からなる層を用いることができる。また、接合層21,22は、可視光透過率が高いものを用いることが好ましい。典型的な接合層としては、ポリビニルブチラール(PVB)からなる層を例示することができる。接合層21,22の厚みは、それぞれ0.15mm以上1mm以下であることが好ましい。」 「【0027】 次に、メッシュシート40について説明する。メッシュシート40は、保持層42と、保持層42の第1接合層21に対面する側の面42a上に設けられた導電性メッシュ30と、を有している。とりわけ図3に示した例では、メッシュシート40は、保持層42および導電性メッシュ30を支持する基材41をさらに有している。さらに、メッシュシート40は、導電性メッシュ30に通電するための配線部15と、導電性メッシュ30と配線部15とを接続する接続部16とを有している。メッシュシート40は、ガラス板11,12と略同一の平面寸法を有して、合わせガラス10の全体にわたって配置されてもよいし、運転席の正面部分等、合わせガラス10の一部にのみ配置されてもよい。」 「【0029】 保持層42は、メッシュシート40と第1ガラス板11との接合性を向上する機能を有する。保持層42は、例えば、透明な電気絶縁性の樹脂シートを基材41上に積層したり、基材41上に樹脂材料を塗布することにより形成することができる。また、保持層42の第1ガラス板11に対向する面(上面)42aのうち、少なくとも第1接合層21に対面する被接合面42a1の表面粗さは、算術平均粗さRaで0.5μm以上2.5μm以下となっている。さらに好ましくは、被接合面42a1の表面粗さは、算術平均粗さRaで1μmを超えて2μm未満とすることができる。ここで、算術平均粗さRaは、JIS B 0601(1994)で規定される算術平均粗さRaである。このような表面粗さを有する保持層42は、保持層42の上面42aのうち、少なくとも被接合面42a1に、微細な凹凸を有する。そして、この微細な凹凸の内部に第1接合層21が入り込み、その状態で第1接合層21が硬化することで、いわゆるアンカー効果により保持層42の被接合面42a1と第1接合層21とが強固に接合される。すなわち、算術平均粗さRaで0.5μm以上2.5μm以下の表面粗さを有する被接合面42a1を含んだ保持層42によれば、保持層42の被接合面42a1と第1接合層21との接合性を効果的に向上させることができる。結果として、メッシュシート40と第1ガラス板11とが第1接合層21を介して強固に接合される。このような保持層42としては、例えば、凝集破壊しやすいフィラーリッチな層(中空シリカ等)を用いることができる。また、保持層42の厚さは、光透過性や、メッシュシート40と第1ガラス板11との接合性等を考慮して、1μm以上100μm以下とすることができる。好ましくは、保持層42の厚さを1μm以上15μm以下とすることができる。」 「【0033】 このような導電性メッシュ30を構成するための材料としては、例えば、金、銀、銅、白金、アルミニウム、クロム、モリブデン、ニッケル、チタン、パラジウム、インジウム、タングステン、及び、これらの合金の一以上を例示することができる。 【0034】 導電性メッシュ30は、上述したように不透明な金属材料を用いて形成され得る。その一方で、導電性メッシュ30は、70%以上90%以下程度の高い開口率で形成される。また、導電細線31の線幅は、2μm以上20μm以下程度となっている。このため、導電性メッシュ30は、全体として透明に把握され、視認性を害さないようになっている。 【0035】 図3に示された例では、導電細線31は、ガラス板11に対向する面31a、保持層42に対向する面31b、及び、側面31c,31dを有し、全体として矩形状の断面を有している。導電細線31の幅W、すなわち、合わせガラス10の板面に沿った幅Wは2μm以上20μm以下とし、高さ(厚さ)H、すなわち、合わせガラス10の板面への法線方向に沿った高さ(厚さ)Hは1μm以上60μm以下とすることが好ましい。このような寸法の導電細線31によれば、その導電細線31が十分に細線化されているので、導電性メッシュ40を効果的に不可視化することができる。」 「【0042】 次に、図7に示すように、基材41上に保持層42を形成し、この保持層42の基材41と対向する面と反対側の面42aと、金属箔350の暗色膜360が形成された粗面350bとが対向するように、保持層42上に金属箔350を積層する。基材41としては、例えば、0.03mm以上0.15mm以下の厚さを有する、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、環状ポリオレフィン等を用いることができる。保持層42は、例えば、基材41上に接着性または粘着性(タック性)を有する樹脂シートを基材41上に積層したり、基材41上に樹脂材料を塗布した後にこの樹脂材料を半硬化状態として、接着性または粘着性(タック性)を有するようにして、形成することができる。 【0043】 保持層42の基材41と対向する面と反対側の面(上面)42aと、金属箔350の暗色膜360が形成された粗面350bとが対向するように、保持層42上に金属箔350を積層し、金属箔350を保持層42に向かって押圧すると、すなわち、金属箔350を保持層42に圧着すると、金属箔350の粗面350bと接する保持層42の上面42aをなす樹脂材は、金属箔350の粗面350bの微細な凹凸の内部に入り込む。これにより、保持層42の上面42aに粗面が形成される。そして、この状態で加熱や電離放射線の照射等により保持層42を硬化させると、いわゆるアンカー効果により、図8に示されているように、金属箔350と保持層42とが強固に接合される。この保持層42の上面42aの表面粗さは、算術平均粗さRaで0.5μm以上2.5μm以下、さらに好ましくは、1μmを超えて2μm未満となっている。」 「【0055】 図14に、合わせガラスの他の変形例を示す。図示された例では、保持層42の第1接合層21側の領域の屈折率が、保持層42の第2接合層22側の領域の屈折率と第1接合層21の屈折率との間となっている。このような合わせガラス110によれば、保持層42中の屈折率が一定である合わせガラスと比較して、保持層42と第1接合層21との界面での光の反射率を低減することができる。 【0056】 一般に、屈折率n_(1)を有する媒質Aと、屈折率n_(2)を有する媒質Bとの界面に垂直に入射する光の当該界面における反射率Rは、 R=(n_(1)-n_(2))^(2) /(n_(1)+ n_(2))^(2) である。すなわち、媒質Aと媒質Bと間の屈折率差が小さいほど指数関数的に反射率Rが小さくなる。したがって、保持層42の第1接合層21側の領域の屈折率を、保持層42の第2接合層22側の領域の屈折率と第1接合層21の屈折率との間とすることにより、保持層42と第1接合層21との間、および、保持層42の第1接合層21側の領域と第2接合層22側の領域との間、の合計の光の反射率を、保持層42中の屈折率が一定である場合の、保持層42と第1接合層21との間の光の反射率よりも小さくすることができる 。 【0057】 保持層42の第1接合層21側の領域の屈折率を、保持層42の第2接合層22側の領域の屈折率と第1接合層21の屈折率との間とするには、例えば、保持層42の第1接合層21側の領域に、保持層42を構成する材料の屈折率とは異なる屈折率を有する粒子43を含ませるようにすることができる。とりわけ、保持層42の屈折率よりも第1接合層21の屈折率の方が低い場合、保持層42の第1接合層21側の領域に、保持層42を構成する材料の屈折率よりも相対的に低い屈折率を有する粒子43を含ませるようにすることが好ましい。このような粒子43としては、平均粒子径が20nm以上150nm以下の中空シリカ粒子や多孔質シリカ粒子等の中空または多孔質粒子を用いることができる。ここで、平均粒子径は、JIS Z 8901:2006(試験用紛体及び試験用粒子)の附属書に規定される方法により測定した算術平均粒子径である。」 「【0060】 例えば、図4に示された例では、導電性メッシュ30は、同一形状のハニカム状の開口33が規則的に配置されたメッシュパターンを有しているが、このようなメッシュパターンに限られず、三角形、矩形等の同一形状の開口33が規則的に配置されたメッシュパターン、異形状の開口33が規則的に配置されたメッシュパターン、ボロノイメッシュのような、異形状の開口33が不規則的に配置されたメッシュパターン等、種々のメッシュパターンを用いてもよい。」 「図2 」 「図3 」 「図14 」 (イ)上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。 a 【0019】及び図14の合わせガラスの積層に関する記載、【0024】、【0025】の第1接合層21に関する記載から、合わせガラス110は、「第2ガラス板12と、前記第2ガラス板12に対して間隔を有して配置された第1ガラス板11と、前記第2ガラス板12と前記第1ガラス板11との前記間隔に配置されたメッシュシート40と、前記第1ガラス板11と前記メッシュシート40との間に配置された接着剤層である第1接合層21と、を備え」ていることがわかる。 b 【0019】及び図14のメッシュシート40の積層に関する記載、【0042】【0043】の保持層42に関する記載、【0033】【0034】の導電性メッシュ30に関する記載から、「前記メッシュシート40は、基材41と、前記基材41のうち前記第1接合層21側に積層された接着剤層である保持層42と、前記基材41に前記保持層42を介して接着された金属からなる導電性メッシュ30と、を備え」ていることがわかる。 c 【0029】及び図14の第1接合層21と保持層42の積層関係に関する記載から、「前記第1接合層21と前記保持層42とは少なくとも一部で直接接触して積層されている」ことがわかる。 d 【0055】、【0057】及び図14の保持層42と第1接合層21の屈折率に関する記載から、「前記保持層42の前記第1接合層21側の領域の屈折率が、前記保持層42そのものの屈折率と前記第1接合層21の屈折率との間となっている」ことがわかる。 (ウ)上記(ア)、(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「第2ガラス板12と、 前記第2ガラス板12に対して間隔を有して配置された第1ガラス板11と、 前記第2ガラス板12と前記第1ガラス板11との前記間隔に配置されたメッシュシート40と、 前記第1ガラス板11と前記メッシュシート40との間に配置された接着剤層である第1接合層21と、を備え、 前記メッシュシート40は、 基材41と、 前記基材41のうち前記第1接合層21側に積層された接着剤層である保持層42と、 前記基材41に前記保持層42を介して接着された金属からなる導電性メッシュ30と、を備え、 前記第1接合層21と前記保持層42とは少なくとも一部で直接接触して積層されており、前記保持層42の前記第1接合層21側の領域の屈折率が、前記保持層42そのものの屈折率と前記第1接合層21の屈折率との間となっている、 合わせガラス110。」 イ 引用文献2 (ア)同じく原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2012-108844号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。 「【0001】 本発明は、可視光透過率や視認性等の光学特性が良好な導電性フイルムを用いたタッチパネルの製造方法及びタッチパネル用導電性フイルムに関する。」 「【0006】 以上説明したように、本発明に係るタッチパネルの製造方法及び導電性フイルムによれば、タッチパネルにおいて、金属細線パターンで電極を構成した場合においても、特定の透明被覆層で被覆したため、良好な視認性を維持できる。通常、接着層上の導電性材料が除去された部分は、導電性材料の貼り合わせ面の粗面形状が転写されることから、粗面形状において光が散乱され、透明性が損なわれることとなるが、本発明では、接着層と屈折率が近い透明被覆層が平滑に塗布されると乱反射が最小限に抑えられ、透明性が発現するようになる。また、透明基体をポリエチレンテレフタレートフィルムとすることにより、透明性、耐熱性が良好なうえ、安価で取扱性に優れた透明性を有するタッチパネル用導電性フイルムを提供することができる。透明基体上の導電パターンを金属箔に対するケミカルエッチングプロセスにより形成することにより、加工性に優れた透明性を有するタッチパネル用導電性フイルムを提供することができる。」 「【0009】 先ず、本実施の形態に係る導電性フイルム10は、図1に示すように、透明基体12と、該透明基体12上に形成された接着層14と、接着層14上に形成された金属細線16による導電部18と、導電部18と接着層14が露出した部分とを被覆するように形成された透明被覆層20とを有する。特に、接着層14と透明被覆層20との屈折率の差は0.1以下であり、0.08以下がより好ましく、0.05以下がさらに好ましい。金属細線16は、線幅が9μm以下、厚みが3μm以下である。」 「【0016】 [透明被覆層20] 本実施の形態に係る製造方法によって作製した導電性フイルム10は、導電パターン24を被覆するための透明被覆層20は接着層14との屈折率の差が0.1以下とされる。これは、接着層14と透明被覆層20の屈折率が異なると可視光透過率が低下するためであり、屈折率の差が0.1以下であると可視光透過率の低下が少なく良好となる。」 「図1 」 (イ)上記記載から、引用文献2には、次の技術が記載されていると認められる。 「導電性フイルム10において、乱反射を抑えることや透明性の発現を課題として、導電部18を接着する接着層14と、導電部18と接着層14を覆う透明被覆層20の屈折率の差は0.1以下とした技術。」 (3)引用発明との対比 ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。 (ア)本件補正発明の「透明な第一のパネル」、「透明な第二のパネル」について、本願明細書に「第一パネル11、及び第二パネル15は、透光性を有する、即ち透明な板状の部材であり、・・・第一パネル11及び第二パネル15は板ガラスにより構成することができる。」(本願明細書【0015】参照)と記載されており、また、引用発明の「第2ガラス板12」、「第1ガラス板11」は、車のフロントガラスと用いられる合わせガラスを構成するものである(引用文献1の【0018】)ことから、透明であることは明らかであるので、引用発明の「第2ガラス板12」、「第1ガラス板11」は、それぞれ、本件補正発明の「透明な第一のパネル」、「透明な第二のパネル」に相当する。 (イ)引用発明の「第1接合層21」、「基材41」、「保持層42」、「導電性メッシュ30」は、本件補正発明の「パネル用接着剤層」、「基材層」、「発熱導体用接着剤層」、「発熱導体」にそれぞれ相当する。 (ウ)本件補正発明の「加熱電極装置」について、本願明細書には「加熱電極装置20は、基材層21、発熱導体用接着剤層22、バスバー電極23、発熱導体24、及び電源接続配線25を有している。」(本願明細書【0017】参照)と記載されており、また、引用発明の「メッシュシート40」について、引用文献1の【0019】、【0027】及び図2,3の記載から、「メッシュシート40」は、「基材41」、「保持層42」、「接続部16」、「導電性メッシュ30」、「配線部15」を有しているので、引用発明の「メッシュシート40」は、本件補正発明の「加熱電極装置」に相当する。 (エ)上記(ア)ないし(ウ)から、引用発明の「合わせガラス110」は、本件補正発明の「通電加熱パネル」に相当する。 イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 【一致点】 「透明な第一のパネルと、 前記第一のパネルに対して間隔を有して配置された透明な第二のパネルと、 前記第一のパネルと前記第二のパネルとの前記間隔に配置された加熱電極装置と、 前記第二のパネルと前記加熱電極装置との間に配置された接着剤層であるパネル用接着剤層と、を備え、 前記加熱電極装置は、 基材層と、 前記基材層のうち前記パネル用接着剤層側に積層された接着剤層である発熱導体用接着剤 層と、 前記基材層に前記発熱導体用接着剤層を介して接着された金属からなる発熱導体と、を備 え、 前記パネル用接着剤層と前記発熱導体用接着剤層とは少なくとも一部で直接接触して積 層されている、 通電加熱パネル。」 【相違点1】 本件補正発明は、「前記パネル用接着剤層の屈折率と前記発熱導体用接着剤層との屈折率差が 0以上0.1未満であ」るのに対し、引用発明は、前記発熱導体用接着剤層(保持層42)の前記パネル用接着剤層(第1接合層21)側の領域の屈折率が、前記発熱導体用接着剤層(保持層42)そのものの屈折率と前記パネル用接着剤層(第1接合層21)の屈折率との間となっている点。 【相違点2】 「発熱導体」に関して、本件補正発明は、「複数の前記発熱導体のピッチをP(mm)とし、前記発熱導体の厚さ方向の一方の面の平面視における長さ0.01mあたりの表面積をS_(B)(μm^(2))、当該一方の面の反対側となる他方の面の平面視における長さ0.01mあたりの表面積をS_(T)(μm^(2))としたとき、 0.1mm≦P≦5.00mm 0μm^(2)<S_(B)-S_(T)≦30000μm^(2) であり、 前記発熱導体は、その延びる方向に直交する断面において、前記S_(B)(μm^(2))側の辺の大きさをW_(B)(μm)とし、前記S_(T)(μm^(2))側の辺の大きさをW_(T)(μm)としたとき、 W_(B)>W_(T)、 3μm≦W_(B)≦15μm、及び 1μm≦W_(T)≦12μm である」のに対し、引用発明は、そのような数値限定は特定されていない点。 (4)判断 以下、相違点について検討する。 ア 相違点1について 引用文献2には、上記(2)イのとおり、乱反射を抑えることや透明性の発現を課題として、導電部18を接着する接着層14と、導電部18と接着層14を覆う透明被覆層20の屈折率の差は0.1以下とした技術が記載されている。 また、引用発明においても、引用文献1の【0055】【0056】の記載から、引用文献2記載の技術と同様の課題を解決するために、導電性メッシュ30を接着する保持層42と、導電性メッシュ30と保持層42を覆う第1接合層21の屈折率の差を小さくしているといえる。さらに、引用文献1の【0056】に記載されているように「媒質Aと媒質Bと間の屈折率差が小さいほど指数関数的に反射率Rが小さくなる」ことは技術常識でもある。 引用発明と、引用文献2に記載された技術とは、いずれも、「乱反射を抑えることや透明性の発現を課題として、導電部を接着する接着層と、導電部と接着層を覆う透明被覆層の屈折率の差を小さくする技術」である点で共通するものであるから、引用文献2記載の技術を参酌して、引用発明における第1接合層21と保持層42そのものの屈折率の差を0.1以下とすることは当業者が容易に想到し得たことである。その際に、屈折率の差を0以上0.1未満とすることは、当業者が適宜設定しうる事項である イ 相違点2について 相違点2の0μm^(2)<S_(B)-S_(T)≦30000μm^(2 )なる数値限定の意味は、本願明細書の【0026】に、「これによれば、発熱導体24を視認されない幅で作製した際に、断面積を大きくとることができ、さらに高い出力(発熱量)を得ることが可能である。矩形(長方形)を作製することができれば理想ではあるが、エッチングにより作製することはいわゆるサイドエッジの性質上、困難がある。」と記載され、また、上記数値限定は、0μm<W_(B)-W_(T)≦3μmと置き換えることができるので、発熱導体の断面が矩形状の台形(底辺(W_(B))と上辺(W_(T))の差が3μm以内)を意味するものと理解できる。そして、W_(B)、W_(T)について具体的な数値限定である、W_(B)>W_(T)、3μm≦W_(B)≦15μm、及び1μm≦W_(T)≦12μmを加えたものが、相違点2に係る数値限定である。 一方、引用発明については、引用文献1の【0035】及び図3の記載によると、導電性メッシュ30を構成する導電細線31の断面は、全体として矩形状で、幅Wは2μm以上20μm以下とされていることから、断面形状を矩形状とする点で本件補正発明と一致し、また、断面の幅の数値についても相違点2に係る数値限定を含むものとなっている(引用発明の導電細線の断面は、矩形状であるので、上辺と下辺の長さに多少の差があるものを含み、その幅が20μm以下なので、その長さの差が3μm程度のものを含む。)。なお、エッチングにより導電細線を形成するにあたり、その断面を矩形に近づけるための技術は周知である(例えば、特開2001-94234の【0015】-【0016】等参照。)ことを付言しておく。 さらに、引用文献1の【0060】に「導電性メッシュ30は、矩形等の同一形状の開口33が規則的に配置されたメッシュパターンを用いてもよい。」旨の記載があることから、複数の導電細線31は、一定のピッチで矩形に配置されていることは明らかであり、引用文献1の【0034】に「導電性メッシュ30は、70%以上90%以下程度の高い開口率で形成される。また、導電細線31の線幅は、2μm以上20μm以下程度となっている。」と記載されていることから、線幅を10μmと仮定した場合、この開口率を達成するには0.1mm以上のピッチとなることは明らかである(例えば、線幅10μmの場合、矩形メッシュのピッチが0.1mmで開口率が約80%、0.2mmで約90%となる。)。 以上から、相違点2に係る数値限定は、引用発明を含む範囲において、数値を適宜具体化したものに過ぎず、数値限定の臨界的な意義も認められないであるから、当業者が容易に想到し得たことである。 ウ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献2に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 エ したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 オ 請求人は審判請求書において、「第一に、本発明は明細書の記載からわかるように、通電することでジュール熱により発熱する発熱導体を備える通電加熱パネルに関するものです。これに対して、引用文献1に組み合わせて用いられた引用文献2の発明はタッチパネル用導電性フィルムに関する発明です。タッチパネルはセンサとして金属細線を用いる ものであり、本発明や引用文献1のように金属細線を発熱導体とするものとは全く異なります。すなわち、金属線を信号伝達の手段として用いる分野と金属線を発熱導体の手段として用いる分野とは、そのために必要な構成や要件が全く異なり、同じ分野として考えることはできません。 従って、引用文献2を本発明の進歩性を判断するための文献に用いたり、引用文献1に組み合わせて用いたりして考えることはできず、この引用文献2から本発明の技術分野に属する当業者が本発明に容易に想到することはできません。 以上より、本発明には挙げられた拒絶理由はないと思料いたします。」と主張しているが、上記アで述べたように、引用発明と、引用文献2に記載された技術とは、いずれも、「乱反射を抑えることや透明性の発現を課題として、導電部を接着する接着層と、導電部と接着層を覆う透明被覆層の屈折率の差を小さくする技術」である点で共通するものであるから、請求人の上記主張を採用することができない。 また、請求人は審判請求書において、「第二に、引用文献1に記載の発明は層間の密着性を高めることを目的としており、保持層に粗面を設けることを必須としています。粗面を設ければ当然に視認性(光透過性)は低下することになります。これに対して引用文献1には光透過性の問題の手段として、明細書段落[0029]には保持層の厚さを調整することが記載されており、また明細書段落[0055]には保持層の屈折率が層内で一定でないことがよいことが記載されています。 すなわち、光透過性のための手段について引用文献1には既に記載があり、光透過性について既に解決されている課題に対して、さらに引用文献2に記載された屈折率の関係を適用することは、当業者が引用文献1に引用文献2の手段を組み合わせて用いるであろう動機付けがありません。 従いまして、この観点からも本発明は、挙げられた引用文献に基づいて当業者が容易に想到することができた発明でなく、本発明は挙げられた拒絶理由にかかる理由はないと思料いたします。」と主張しているが、引用発明の接する2つの層の屈折率の差を近づける技術は煩雑であるので、引用文献2記載の技術のように、接する2つの層のそのものの屈折率の差が小さいものを採用して解決する技術を引用発明に採用する動機付けは十分あるといえるので、請求人の上記主張を採用することができない。 さらに、請求人は審判請求書において、「第三に、引用文献1(例えば段落[0045])、引用文献2(例えば請求項1)はいずれも金属線をエッチングで形成することとされており、このようにエッチングにより金属線を形成すると、上記したようにサイドエッジの影響により断面が台形となるとともに、この台形では上底と下底との差が大きくなります。 引用文献1、2の図では金属線の断面は長方形で描かれていますがこれは便宜上であり、実際にはこのような形状ではありません。 これに対して本発明では金属導線において台形断面としつつも上底と下底との差を小さく形成しています。これにより上記のような効果を奏するものとなります。 従って、本発明は、引用文献1、2とは異なる構成を備えており、これにより有利な効果を奏しますので、本発明は当業者が容易に想到することができた発明ではなく拒絶理由は解消されました。」と主張しているが、上記イで述べたように、引用文献1の【0035】及び図3の記載によると、導電性メッシュ30を構成する導電細線31の断面は、全体として矩形状で、幅Wは2μm以上20μm以下とされていることから、断面形状を矩形状とする点で本件補正発明と一致していることは明らかであるので、請求人の上記主張を採用することができない。 3 本件補正についてのむすび よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 令和3年2月2日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献1:特開2016-44096号公報 引用文献2:特開2012-108844号公報 3 引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし2及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「発熱導体」の材料、ピッチ、平面視における長さ0.01mあたりの表面積、その延びる方向に直交する断面における辺の大きさについて限定事項を削除したものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2021-08-06 |
結審通知日 | 2021-08-10 |
審決日 | 2021-08-27 |
出願番号 | 特願2016-94777(P2016-94777) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(H05B)
P 1 8・ 121- Z (H05B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 河内 誠 |
特許庁審判長 |
松下 聡 |
特許庁審判官 |
槙原 進 林 茂樹 |
発明の名称 | 通電加熱パネル、及び乗物 |
代理人 | 山本 典輝 |